関節リウマチ及び他の自己免疫疾患の治療のためのカテプシンZ阻害剤の使用
関節リウマチを含む自己免疫疾患を治療するための化合物を同定する方法。関節リウマチを含む自己免疫疾患を治療するための化合物。関節リウマチを含む自己免疫疾患を治療するための方法。これらの方法及び化合物は、カテプシンZの活性を阻害するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患を治療する分野、及び特にカテプシンZの活性を阻害して炎症性疾患を治療する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
カテプシンX、カテプシンP及びカテプシンYとしても知られているカテプシンZは、パパインファミリーのヒトシステインプロテイナーゼである。パパインファミリーに属するいくつかのシステインプロテイナーゼ類が知られており、カテプシンB、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンL2、カテプシンS、カテプシンK、カテプシンC、カテプシン0及びカテプシンWが含まれる。パパインファミリーのシステインプロテイナーゼ類はタンパク分解及び代謝回転において重要な役割をしていることが知られている。パパインファミリーのいくつかのシステインプロテイナーゼ類は、リソソームタンパク分解、アポトーシス、および抗原提示において重要な役割をしていることが知られている。さらに、パパインファミリーのシステインプロテイナーゼ類は、骨吸収、プロホルモン活性化、関節リウマチ、アルツハイマー病、肺気腫、及び癌を含む細胞外活動に関わっていると考えられている。
【0003】
パパインファミリーのシステインプロテイナーゼは、一般にプレプロエンザイムとして翻訳されることが知られ、これらはプロエンザイムにプロセシングされ、これが次に一般にそれに結合しているマンノース−6−ホスフェートシグナルを介してリソソームを標的にして取り込まれる。これらのプロエンザイムのあるものは、リソソーム内に達しないで分泌される。これらのプロエンザイムのあるものは、N−末端プロ領域を含み、これが開裂されるまで成熟領域のタンパク分解活性を阻害する。パパインファミリーのシステインプロテイナーゼのあるものは、正しいフォールディング及びpH変化における安定化のためにN−末端プロペプチドを必要とする。パパインファミリーのシステインプロテイナーゼの成熟形は、一本鎖のポリペプチドであるか又はジスルフィド結合で結合した重鎖及び軽鎖からなるヘテロダイマーである。
【0004】
カテプシンZは、303のアミノ酸残基を含むプレプロエンザイムと翻訳される。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273.16816-16823 (1998)。カテプシンZプレプロエンザイムの20残基のN−末端ポリペプチドは、公知のシグナルペプチドと一致している。この推定上のシグナルペプチドは、Ala-Gly-Ala部位で開裂され283のアミノ酸残基を有するプロエンザイムとなることが示されている。Santamaria, I等、J. Biol. Chem.. 273, 16816-16823 (1998)。カテプシンZのプロ領域は41アミノ酸残基の長さであり、その成熟タンパクはプロエンザイムを主として61位のアスパラギン酸と62位のロイシンの間で開裂することによって作られるが、精製した成熟形の少量は61位のアスパラギン酸よりも前で開裂されている。カテプシンZのプロ領域はパパインファミリーのシステインプロテイナーゼの他の公知のプロ領域よりも短い点で特異的である。Nagler, DK、及びMenard, R, FEBS Lett., 434,135-139(1998)。カテプシンZの成熟領域の予想される分子量は27,280である。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273. 16816-16823 (1998)。カテプシンZの成熟形は、SDS/PAGE上を単一バンドとして移動し、その見かけ分子量は33kDaである。予想される分子量と見かけの分子量との違いから、カテプシンZの成熟形はグリコシル化されていると考えられる。カテプシンZの成熟形は、184位と224位に配列Asn-Tyr-Thrからなる2つの想定N−グリコシル化部位を有する一本鎖ポリペプチドである。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273, 16816-16823 (1998)。ヒトカテプシンZ遺伝子は染色体20にql3領域でマッピングされている。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273, 16816-16823 (1998)。どのファミリーの他のシステインプロテイナーゼもこの領域にこれまでマッピングされていない。
【0005】
カテプシンZの遺伝子は、白血球、大腸、小腸、卵巣、睾丸、前立腺、胸腺、脾臓、膵臓、腎臓、骨格筋、肝臓、肺、胎盤、脳及び心臓を含む広範囲の細胞組織で転写されることが示されている。この発現の広範囲であることは、カテプシンB、カテプシンL、カテプシンH、及びカテプシン0の想定機能と同様に、カテプシンZが通常の細胞内タンパク分解に関わるハウスキーピング遺伝子であること、およびカテプシンZは全ての細胞タイプでハウスキーピングをしていることを示している。カテプシンZが、ヒト癌セルラインに偏在的に発現されることも実証されている。
【0006】
カテプシンZは、ポリペプチドのカルボキシ末端で1又は2個のアミノ酸残基を除去するエキソペプチダーゼとして働く。Klemencic, I等、Eur. J. Biochem. 267 ,5404-5412 (2000)。他のパパインファミリーのシステインプロテイナーゼには、カルボキシモノペプチダーゼ及びカルボキシジペプチダーゼの両方として働くものは知られていない。現状において、カルボキシペプチダーゼであることが知られている、他の唯一のパパインファミリーのシステインプロテイナーゼは、カテプシンBである。カテプシンZは、エンドペプチダーゼ作用を殆ど示さないか又は持っていない。カテプシンZのカルボキシペプチダーゼ作用の最適pHは5.0である。ステフィンA(stefin A)、シスタチンC(cystatin C)及びチキンシスタチンによって阻害されることは、エキソペプチダーゼの特徴である。カテプシンZ活性が、シスタチンC,チキンシスタチン、ステフィンA、ステフィンB、GFG-Sc及びCA-074によって阻害されることは示されている。カテプシンZは、L−キニノーゲンにより阻害されないことは示されている。この阻害パターンは、カルボキシペプチダーゼとして知られている他の一つのパパインファミリーのシステインプロテイナーゼであるカテプシンBのそれと同様である。GFG-Sc及びCA-704は、公知の人工的なカテプシンBの阻害剤である。Klemencic, I等、Eur. J. Biochem. 267, 5404-5412 (2000)。関節リウマチ、アルツハイマー病、及び癌に関連する状況において、CA-074がカテプシンB活性を阻害することは示されている。カテプシンBは、抗原プロセシングにおいて役割を果たすことが実証されている。Riese, R,及びChapman, H, Curr. Op. Immun., 12, 107-113 (2000)。カテプシンZは、樹状細胞における抗原プロセシングにおける役割を有すると仮定されている。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273, 16816-16823 (1998)。
【0007】
例えば、Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273, 16816-16823 (1998)、Nagler, DK,
及びMenard, R, FEBS Lett., 434,135-139 (1998)、Nagler, DK等、Biochemistry, 38,12648-12654 (1999)、Klemencic, I等、Eur. J. Biochem. 267, 5404-5412 (2000)、及びRiese, R及びChapman, H, Curr. Op. Immun., 12,107-113 (2000)などを含む先行文献は、カテプシンZが関節リウマチにおいて役割を持つということを実証していないし示唆もしていない。しかし、以下において論述される結果は、カテプシンZが関節リウマチにおいて役割を果たすことを示している。したがって、関節リウマチ及び他の自己免疫疾患の治療のためにカテプシンZの機能を阻害することが望まれる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面において、本発明はカテプシンZの活性を調節することができる化合物を同定する方法に関し、その方法は、候補化合物の不存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定する工程、候補化合物を導入する工程、及び候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定する工程を含む。さらなる側面において、カテプシンZ活性の細胞のレベルは、抗原提示のレベルを測定することによって決定される。さらなる側面において、細胞は免疫細胞である。もっとさらなる側面において、細胞は樹状細胞前駆体、未成熟な樹状細胞又は成熟した樹状細胞である。
【0009】
他の側面において、本発明は、候補化合物の不存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定し、候補化合物を導入し、及び候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定することにより同定されるカテプシンZ活性を調節することができる化合物に関する。
【0010】
他の側面において、本発明は、カテプシンZの活性を調節することができる化合物と薬学的に許容可能な賦形剤を含有する免疫疾患の治療のための薬剤に関する。
【0011】
他の側面において、本発明は、上記の薬剤を投与する過程を有する自己免疫疾患の治療方法に関する。さらなる側面において、自己免疫疾患は関節リウマチ又は多発性硬化症である。
【0012】
以下のいくつかの例に示されているように、実験結果はカテプシンZが抗原提示において役割を果たしており、このことは言い換えれば関節リウマチのような自己免疫疾患の病態において役割を果たしていることを示している。以下の他の例は、関節リウマチのような自己免疫疾患に関連する病態を治療するため、カテプシンZの発現を調節する方法を示している。
【0013】
樹状細胞中のカテプシンZの増加した発現、又は樹状細胞中のカテプシンZの増加した活性は、増加した樹状細胞抗原提示と関連している。抗原提示におけるカテプシンZの役割は、図11に示されている。樹状細胞中の増加した抗原提示は、増加したTh1細胞活性化及び分化を招く。関節リウマチ及び多発性硬化症のような自己免疫疾患においては、増加したTh1細胞活性化及び分化は、進行した病態と相関関係がある。したがって、カテプシンZの発現又は活性を阻害することは、関節リウマチ又は多発性硬化症のような自己免疫疾患の病態を改善する。
【実施例】
【0014】
実施例1
カテプシンZ発現のプロファイル
いくつかの別々の組織タイプにおけるカテプシンZのmRNA発現のレベルを測定することによって、カテプシンZの発現のプロファイルを作成した。遺伝子発現レベルは、限定するものではないが、ノーザンブロット、RNase保護アッセー、核酸プローブアレー、TaqManアッセーを含む定量的PCR、ドットブロットアッセー及び切片上ハイブリッド形成法を含む確立された多数の技術を利用して定量的に測定することができる。図1に示されるように、カテプシンZは、広範囲の組織タイプにおいて発現され、腎臓、小腸及び睾丸において特に高いレベルで発現される。図2に示されるように、カテプシンZは、CD4+ T細胞及び顆粒球を除く、広範囲の免疫関連細胞中で発現されている。さらに図3に示されるよう、カテプシンZ発現は、単球が未成熟の樹状細胞に分化するように上方制御される。
【0015】
実施例2
CIAマウスモデルにおけるカテプシンZ
カテプシンZは、いくつかの病気のマウスモデルにおいてより高い発現レベルを示す。コラーゲン誘導関節炎(CIA)マウスモデルは、炎症性滑膜病のモデルである。CIAモデルにおいて、冒された関節は、次のクライテリアにしたがい組織学的に分類される。グレード0の関節は、正常な滑膜及び滑らかな軟骨表面である。グレード1の関節は、滑膜肥大及び細胞浸潤を示す。グレード2の関節は、滑膜肥大及び細胞浸潤に加えて表面的な軟骨侵蝕を伴うパンヌス形成をしめす。グレード3の関節は、滑膜肥大及び細胞浸潤及び表面的な軟骨侵蝕を伴うパンヌス形成に加えて軟骨肋軟骨下骨の大きな侵蝕を示す。そして最も重症のグレード4の関節は、侵蝕による関節の一体性の喪失、大規模な細胞浸潤又は硬直の存在を示す。 図4は、CIAマウスモデルにおける異なる症度のいくつかの関節中のカテプシンZのmRNA発現のレベルを描いたグラフである。図4に示されるように、カテプシンZのmRNA転写のレベルは、滑膜関節の症度にほぼ比例して増加する。最も重症なグレードの関節は、正常な関節のカテプシンZ発現レベルの約3倍であることが示される。
【0016】
実施例3
EARマウスモデルにおけるカテプシンZ
実験的アレルギー性脳脊髄膜炎(EAE)は、CD4+ T細胞、マクロファージ、及び炎症誘発性サイトカインの働きによって介在される中枢神経系自己免疫疾患である。図12は、EAEモデル脳におけるいくつかの時点におけるカテプシンZのmRNA発現のレベルを描いた時間経過ヒストグラムである。図12に示されるように、実験的アレルギー性脳脊髄膜炎(EAE)マウスモデルは、正常なマウスと比較したとき脳組織中のカテプシンZのmRNA転写において3倍の増加を示す。
【0017】
実施例4
オボアルブミン−負荷マウスモデルにおけるカテプシンZ
オボアルブミン−負荷マウスモデルは、アレルギー性喘息のためのモデルである。オボアルブミン−負荷マウスモデルは、オボアルブミン負荷の4日および7日において、未処理マウスの2倍のレベルでカテプシンZのmRNAを発現することが示された。
【0018】
実施例5
滑膜におけるカテプシンZ
滑膜ライブラリーは、関節リウマチ患者及び非関節リウマチ個体から調製した。詳細には、7つの滑膜ライブラリーが関節リウマチ患者から調製され、4つの滑膜ライブラリーが非関節リウマチ個体から調製された。それぞれの滑膜ライブラリーについて、カテプシンZのcDNAを含むクローンの存在を調べた。カテプシンZクローンは、関節リウマチ患者から調製された7つのライブラリーのうち4つから回収され、の非関節リウマチ個体から調製されたライブラリーからは回収されなかった。
【0019】
CD68マーカーは、単球及びマクロファージ上に見出された。滑膜中のCD68レベルは、その滑膜中に存在する単球及び/又はマクロファージの数、つまりその滑膜におけるリウマチの症度に比例的である。図5は、いくつかの滑膜サンプルにおけるCD68及びカテプシンZのそれぞれのレベルを描いた散布図(scatter plot)である。図5に示されるように、CD68レベルとカテプシンZの発現の間には有意な相関関係がある。この結果は、滑膜中のカテプシンZの発現レベルはほぼその滑膜のリウマチの症度に比例的であることを示している。
【0020】
ピリン−8(Pyrin-8)は、炎症に関連することが知られている。滑膜中のピリン−8のレベルは、炎症のレベルと比例的である。図6は、いくつかの滑膜サンプル中のピリン−8及びカテプシンZのそれぞれのレベルを描いた散布図である。図6に示されたように、カテプシンZの発現レベルとピリン−8のレベルの間には強い相関関係がある。この結果は、滑膜中のカテプシンZの発現レベルは、その滑膜における炎症の強さにほぼ比例的であることを示している。
【0021】
最近の研究では、カテプシンZの比較的高い切片上ハイブリダイゼーション(ISH)シグナルは、罹病した滑膜組織の標本中の過形成滑膜細胞集団と散漫に又は断片的に関連していることが示されている。対照的に、カテプシンZに対するISHシグナルは、一般に穏やかであり、正常な滑膜組織標本の比較的静止状態の滑膜細胞内面に点在する高いISH陽性を伴っていた。カテプシンZ発現の高いレベルのこれらの不連続な細胞は浸潤物内に存在し、たぶんマクロファージか又はリンパ球の小さなサブセットであった。図7−10は、カテプシンZのISHの結果を描いたものであり、カテプシンZプロテイナーゼは正常な滑液よりも関節リウマチの滑液中に高いレベルで発現されていることを示している。
【0022】
実施例6
抗原プロセシングにおけるカテプシンZの役割の立証
抗原プロセシングにおけるカテプシンZの役割を立証するためいくつかの実験を行った。これらの実験において、カテプシンZの発現はアンチセンスRNA又はRNA干渉(RNAi)の使用により減少されたか又は沈静化された。
RNAiは二本鎖RNAの細胞中への導入に言及し、これは低分子干渉RNA (siRNA)としても知られており、沈静化されるか又は発現低下させられる遺伝子に対してアンチセンスである配列を含んでいる。一旦細胞に導入されると、そのsiRNAは21から33のヌクレオチドの長さのいくつかの小さな一本鎖RNAにプロセシングされる。これらの小さなRNA鎖は、ガイドRNAと呼ばれる。これらのガイドRNAは、次いでRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)
として知られているタンパク複合体と会合する。このガイドRNAは、RISCが沈静化される標的遺伝子のmRNAを認識し、それに結合することを可能にする。一旦RISCが沈静化されるmRNAを認識してそれに結合すると、そのRISCは次いでそのmRNAを分解する。
【0023】
一例において、カテプシンZに対するアンチセンスRNA又はsiRNAは細胞内に導入される。その細胞は次いで分化することができるようになる。最後にその細胞の抗原プロセシング活性を測定する。その細胞は、例えば抗原提示細胞であることができる。さらに具体的には、その細胞は、例えばヒト樹状細胞、ヒト樹状前駆細胞、又はマウス樹状前駆細胞であることができる。
他の例においては、カテプシンZに対するアンチセンスRNA又はsiRNAは、例えばレンチウイルス、ヌクレオフェクション(nucleofection)又はマウス幹細胞ウイルスを介して細胞内に導入される。
【0024】
さらにその他の例では、抗原をプロセスする細胞の能力は、一般的なリコール抗原テタヌストキシン(TT)を提示する細胞の能力を測定することによって決めることができる。その細胞の能力は5から7日間のインキュベーション後のテタヌストキシンに対する自己T細胞応答を測定することによって決められる。他の例では、抗原をプロセスする細胞の能力は、クエンチされたFITC-オボアルブミン(DQ-OVA)を提示する細胞の能力を測定することによって決定される。このアッセーにおいては、細胞はDQ-OVA抗原を取り込む。DQ-OVA抗原が抗原プロセシング中に開裂される時、FITCコンジュゲートは高度に蛍光性となる。したがって、その蛍光のレベルは抗原プロセシングのレベルに比例する。蛍光は、フローサイトメトリー又は顕微鏡により容易に測定される。
【0025】
実施例7
カテプシンZ活性を調節することによる自己免疫疾患の治療
自己免疫疾患に罹っている生物を、カテプシンZ活性を調節することによって治療する効果を立証するためにいくつかのアッセーが行われる。
一例においては、カテプシンZ活性は、カテプシンZのmRNA発現のレベルを減少させることによって調節される。さらに詳細には、カテプシンZ発現は例えば、カテプシンZに対するアンチセンスRNA又はsiRNAの使用により下方制御される。
さらに他の例では、自己免疫疾患に罹っている生物は、EAEマウス、オバアルブミン負荷マウス、又はCIAマウスのような病気のマウスモデルである。他の例では、生物はヒトである。
さらなる他の例では、自己免疫疾患は関節リウマチ又は多発性硬化症である。
【0026】
実施例8
カテプシンZを調節する能力を有する化合物の同定
この例では、候補化合物が細胞中でカテプシンZ活性を調節することができるか否かを決定するためアッセーが行われる。その細胞は、例えば抗原提示細胞であることができる。さらに特定的には、その細胞は例えばヒト樹状細胞、ヒト樹状前駆細胞、又はマウス樹状前駆細胞であることができる。
この例では、カテプシンZ活性のベースラインレベルが候補化合物の不存在下で測定される。 カテプシンZ活性は、例えば細胞の抗原提示のレベルを測定することによって測定される。次いで候補化合物を細胞に導入し、候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性が測定される。
【0027】
次いで、候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性のレベルをベースラインレベルと比較する。2つのレベルが異なる場合、候補化合物はカテプシンZ活性を調節することができるものと同定される。さらに特定的には、候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性のレベルがベースラインレベルよりも低い場合は、候補化合物はカテプシンZ活性の阻害剤として同定される。
【0028】
ここに引用された全ての引用例は、それらの全体が引用により組み込まれる。
本発明は、その精神又は主要な性質から逸脱しない範囲で他の特定の形態に具現化され得る。したがって、前述の態様はあらゆる点でここに記載した発明の例示的なものであり、それを制限するものではないと解釈されるべきである。 したがって、本発明の範囲は、前記の記載によるのではなく、添付された特許請求の範囲により規定され、また特許請求の範囲と均等な意味及び範囲に入る全ての変形はここに含まれることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】広範な組織タイプにおけるカテプシンZの発現を描くヒストグラムである。
【図2】広範な免疫関連細胞におけるカテプシンZの発現を描くヒストグラムである。
【図3】単球及び未成熟な樹状細胞におけるカテプシンZの発現を描くヒストグラムである。
【図4】CIAマウスモデルにおける異なった症度のいくつかの滑膜関節中のカテプシンZのmRNA発現のレベルを描くヒストグラムである。
【図5】いくつかの滑膜サンプルにおけるCD68及びカテプシンZのそれぞれのレベルを描いた散布図(scatter plot)である。
【図6】いくつかの滑膜サンプルにおけるピリン−8(pyrin-8)及びカテプシンZのそれぞれのレベルを描いた散布図である。
【図7】関節リウマチ滑膜におけるカテプシンZの発現の位置を決める切片上ハイブリッド形成法実験の結果を描く一連の写真である。
【図8】関節リウマチ滑膜におけるカテプシンZの発現の位置を決める切片上ハイブリッド形成法実験の結果を描く一連の写真である。
【図9】関節リウマチ滑膜におけるカテプシンZの発現の位置を決める切片上ハイブリッド形成法実験の結果を描く一連の写真である。
【図10】正常な滑膜におけるカテプシンZの発現の位置を決める切片上ハイブリッド形成法実験の結果を描く一連の写真である。
【図11】カテプシンZの抗原プロセシングの役割を描いた概略図である。
【図12】EAEモデル脳におけるいくつかの時におけるカテプシンZのmRNA発現レベルを描いた時間経過ヒストグラムである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患を治療する分野、及び特にカテプシンZの活性を阻害して炎症性疾患を治療する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
カテプシンX、カテプシンP及びカテプシンYとしても知られているカテプシンZは、パパインファミリーのヒトシステインプロテイナーゼである。パパインファミリーに属するいくつかのシステインプロテイナーゼ類が知られており、カテプシンB、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンL2、カテプシンS、カテプシンK、カテプシンC、カテプシン0及びカテプシンWが含まれる。パパインファミリーのシステインプロテイナーゼ類はタンパク分解及び代謝回転において重要な役割をしていることが知られている。パパインファミリーのいくつかのシステインプロテイナーゼ類は、リソソームタンパク分解、アポトーシス、および抗原提示において重要な役割をしていることが知られている。さらに、パパインファミリーのシステインプロテイナーゼ類は、骨吸収、プロホルモン活性化、関節リウマチ、アルツハイマー病、肺気腫、及び癌を含む細胞外活動に関わっていると考えられている。
【0003】
パパインファミリーのシステインプロテイナーゼは、一般にプレプロエンザイムとして翻訳されることが知られ、これらはプロエンザイムにプロセシングされ、これが次に一般にそれに結合しているマンノース−6−ホスフェートシグナルを介してリソソームを標的にして取り込まれる。これらのプロエンザイムのあるものは、リソソーム内に達しないで分泌される。これらのプロエンザイムのあるものは、N−末端プロ領域を含み、これが開裂されるまで成熟領域のタンパク分解活性を阻害する。パパインファミリーのシステインプロテイナーゼのあるものは、正しいフォールディング及びpH変化における安定化のためにN−末端プロペプチドを必要とする。パパインファミリーのシステインプロテイナーゼの成熟形は、一本鎖のポリペプチドであるか又はジスルフィド結合で結合した重鎖及び軽鎖からなるヘテロダイマーである。
【0004】
カテプシンZは、303のアミノ酸残基を含むプレプロエンザイムと翻訳される。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273.16816-16823 (1998)。カテプシンZプレプロエンザイムの20残基のN−末端ポリペプチドは、公知のシグナルペプチドと一致している。この推定上のシグナルペプチドは、Ala-Gly-Ala部位で開裂され283のアミノ酸残基を有するプロエンザイムとなることが示されている。Santamaria, I等、J. Biol. Chem.. 273, 16816-16823 (1998)。カテプシンZのプロ領域は41アミノ酸残基の長さであり、その成熟タンパクはプロエンザイムを主として61位のアスパラギン酸と62位のロイシンの間で開裂することによって作られるが、精製した成熟形の少量は61位のアスパラギン酸よりも前で開裂されている。カテプシンZのプロ領域はパパインファミリーのシステインプロテイナーゼの他の公知のプロ領域よりも短い点で特異的である。Nagler, DK、及びMenard, R, FEBS Lett., 434,135-139(1998)。カテプシンZの成熟領域の予想される分子量は27,280である。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273. 16816-16823 (1998)。カテプシンZの成熟形は、SDS/PAGE上を単一バンドとして移動し、その見かけ分子量は33kDaである。予想される分子量と見かけの分子量との違いから、カテプシンZの成熟形はグリコシル化されていると考えられる。カテプシンZの成熟形は、184位と224位に配列Asn-Tyr-Thrからなる2つの想定N−グリコシル化部位を有する一本鎖ポリペプチドである。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273, 16816-16823 (1998)。ヒトカテプシンZ遺伝子は染色体20にql3領域でマッピングされている。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273, 16816-16823 (1998)。どのファミリーの他のシステインプロテイナーゼもこの領域にこれまでマッピングされていない。
【0005】
カテプシンZの遺伝子は、白血球、大腸、小腸、卵巣、睾丸、前立腺、胸腺、脾臓、膵臓、腎臓、骨格筋、肝臓、肺、胎盤、脳及び心臓を含む広範囲の細胞組織で転写されることが示されている。この発現の広範囲であることは、カテプシンB、カテプシンL、カテプシンH、及びカテプシン0の想定機能と同様に、カテプシンZが通常の細胞内タンパク分解に関わるハウスキーピング遺伝子であること、およびカテプシンZは全ての細胞タイプでハウスキーピングをしていることを示している。カテプシンZが、ヒト癌セルラインに偏在的に発現されることも実証されている。
【0006】
カテプシンZは、ポリペプチドのカルボキシ末端で1又は2個のアミノ酸残基を除去するエキソペプチダーゼとして働く。Klemencic, I等、Eur. J. Biochem. 267 ,5404-5412 (2000)。他のパパインファミリーのシステインプロテイナーゼには、カルボキシモノペプチダーゼ及びカルボキシジペプチダーゼの両方として働くものは知られていない。現状において、カルボキシペプチダーゼであることが知られている、他の唯一のパパインファミリーのシステインプロテイナーゼは、カテプシンBである。カテプシンZは、エンドペプチダーゼ作用を殆ど示さないか又は持っていない。カテプシンZのカルボキシペプチダーゼ作用の最適pHは5.0である。ステフィンA(stefin A)、シスタチンC(cystatin C)及びチキンシスタチンによって阻害されることは、エキソペプチダーゼの特徴である。カテプシンZ活性が、シスタチンC,チキンシスタチン、ステフィンA、ステフィンB、GFG-Sc及びCA-074によって阻害されることは示されている。カテプシンZは、L−キニノーゲンにより阻害されないことは示されている。この阻害パターンは、カルボキシペプチダーゼとして知られている他の一つのパパインファミリーのシステインプロテイナーゼであるカテプシンBのそれと同様である。GFG-Sc及びCA-704は、公知の人工的なカテプシンBの阻害剤である。Klemencic, I等、Eur. J. Biochem. 267, 5404-5412 (2000)。関節リウマチ、アルツハイマー病、及び癌に関連する状況において、CA-074がカテプシンB活性を阻害することは示されている。カテプシンBは、抗原プロセシングにおいて役割を果たすことが実証されている。Riese, R,及びChapman, H, Curr. Op. Immun., 12, 107-113 (2000)。カテプシンZは、樹状細胞における抗原プロセシングにおける役割を有すると仮定されている。Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273, 16816-16823 (1998)。
【0007】
例えば、Santamaria, I等、J. Biol. Chem., 273, 16816-16823 (1998)、Nagler, DK,
及びMenard, R, FEBS Lett., 434,135-139 (1998)、Nagler, DK等、Biochemistry, 38,12648-12654 (1999)、Klemencic, I等、Eur. J. Biochem. 267, 5404-5412 (2000)、及びRiese, R及びChapman, H, Curr. Op. Immun., 12,107-113 (2000)などを含む先行文献は、カテプシンZが関節リウマチにおいて役割を持つということを実証していないし示唆もしていない。しかし、以下において論述される結果は、カテプシンZが関節リウマチにおいて役割を果たすことを示している。したがって、関節リウマチ及び他の自己免疫疾患の治療のためにカテプシンZの機能を阻害することが望まれる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面において、本発明はカテプシンZの活性を調節することができる化合物を同定する方法に関し、その方法は、候補化合物の不存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定する工程、候補化合物を導入する工程、及び候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定する工程を含む。さらなる側面において、カテプシンZ活性の細胞のレベルは、抗原提示のレベルを測定することによって決定される。さらなる側面において、細胞は免疫細胞である。もっとさらなる側面において、細胞は樹状細胞前駆体、未成熟な樹状細胞又は成熟した樹状細胞である。
【0009】
他の側面において、本発明は、候補化合物の不存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定し、候補化合物を導入し、及び候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定することにより同定されるカテプシンZ活性を調節することができる化合物に関する。
【0010】
他の側面において、本発明は、カテプシンZの活性を調節することができる化合物と薬学的に許容可能な賦形剤を含有する免疫疾患の治療のための薬剤に関する。
【0011】
他の側面において、本発明は、上記の薬剤を投与する過程を有する自己免疫疾患の治療方法に関する。さらなる側面において、自己免疫疾患は関節リウマチ又は多発性硬化症である。
【0012】
以下のいくつかの例に示されているように、実験結果はカテプシンZが抗原提示において役割を果たしており、このことは言い換えれば関節リウマチのような自己免疫疾患の病態において役割を果たしていることを示している。以下の他の例は、関節リウマチのような自己免疫疾患に関連する病態を治療するため、カテプシンZの発現を調節する方法を示している。
【0013】
樹状細胞中のカテプシンZの増加した発現、又は樹状細胞中のカテプシンZの増加した活性は、増加した樹状細胞抗原提示と関連している。抗原提示におけるカテプシンZの役割は、図11に示されている。樹状細胞中の増加した抗原提示は、増加したTh1細胞活性化及び分化を招く。関節リウマチ及び多発性硬化症のような自己免疫疾患においては、増加したTh1細胞活性化及び分化は、進行した病態と相関関係がある。したがって、カテプシンZの発現又は活性を阻害することは、関節リウマチ又は多発性硬化症のような自己免疫疾患の病態を改善する。
【実施例】
【0014】
実施例1
カテプシンZ発現のプロファイル
いくつかの別々の組織タイプにおけるカテプシンZのmRNA発現のレベルを測定することによって、カテプシンZの発現のプロファイルを作成した。遺伝子発現レベルは、限定するものではないが、ノーザンブロット、RNase保護アッセー、核酸プローブアレー、TaqManアッセーを含む定量的PCR、ドットブロットアッセー及び切片上ハイブリッド形成法を含む確立された多数の技術を利用して定量的に測定することができる。図1に示されるように、カテプシンZは、広範囲の組織タイプにおいて発現され、腎臓、小腸及び睾丸において特に高いレベルで発現される。図2に示されるように、カテプシンZは、CD4+ T細胞及び顆粒球を除く、広範囲の免疫関連細胞中で発現されている。さらに図3に示されるよう、カテプシンZ発現は、単球が未成熟の樹状細胞に分化するように上方制御される。
【0015】
実施例2
CIAマウスモデルにおけるカテプシンZ
カテプシンZは、いくつかの病気のマウスモデルにおいてより高い発現レベルを示す。コラーゲン誘導関節炎(CIA)マウスモデルは、炎症性滑膜病のモデルである。CIAモデルにおいて、冒された関節は、次のクライテリアにしたがい組織学的に分類される。グレード0の関節は、正常な滑膜及び滑らかな軟骨表面である。グレード1の関節は、滑膜肥大及び細胞浸潤を示す。グレード2の関節は、滑膜肥大及び細胞浸潤に加えて表面的な軟骨侵蝕を伴うパンヌス形成をしめす。グレード3の関節は、滑膜肥大及び細胞浸潤及び表面的な軟骨侵蝕を伴うパンヌス形成に加えて軟骨肋軟骨下骨の大きな侵蝕を示す。そして最も重症のグレード4の関節は、侵蝕による関節の一体性の喪失、大規模な細胞浸潤又は硬直の存在を示す。 図4は、CIAマウスモデルにおける異なる症度のいくつかの関節中のカテプシンZのmRNA発現のレベルを描いたグラフである。図4に示されるように、カテプシンZのmRNA転写のレベルは、滑膜関節の症度にほぼ比例して増加する。最も重症なグレードの関節は、正常な関節のカテプシンZ発現レベルの約3倍であることが示される。
【0016】
実施例3
EARマウスモデルにおけるカテプシンZ
実験的アレルギー性脳脊髄膜炎(EAE)は、CD4+ T細胞、マクロファージ、及び炎症誘発性サイトカインの働きによって介在される中枢神経系自己免疫疾患である。図12は、EAEモデル脳におけるいくつかの時点におけるカテプシンZのmRNA発現のレベルを描いた時間経過ヒストグラムである。図12に示されるように、実験的アレルギー性脳脊髄膜炎(EAE)マウスモデルは、正常なマウスと比較したとき脳組織中のカテプシンZのmRNA転写において3倍の増加を示す。
【0017】
実施例4
オボアルブミン−負荷マウスモデルにおけるカテプシンZ
オボアルブミン−負荷マウスモデルは、アレルギー性喘息のためのモデルである。オボアルブミン−負荷マウスモデルは、オボアルブミン負荷の4日および7日において、未処理マウスの2倍のレベルでカテプシンZのmRNAを発現することが示された。
【0018】
実施例5
滑膜におけるカテプシンZ
滑膜ライブラリーは、関節リウマチ患者及び非関節リウマチ個体から調製した。詳細には、7つの滑膜ライブラリーが関節リウマチ患者から調製され、4つの滑膜ライブラリーが非関節リウマチ個体から調製された。それぞれの滑膜ライブラリーについて、カテプシンZのcDNAを含むクローンの存在を調べた。カテプシンZクローンは、関節リウマチ患者から調製された7つのライブラリーのうち4つから回収され、の非関節リウマチ個体から調製されたライブラリーからは回収されなかった。
【0019】
CD68マーカーは、単球及びマクロファージ上に見出された。滑膜中のCD68レベルは、その滑膜中に存在する単球及び/又はマクロファージの数、つまりその滑膜におけるリウマチの症度に比例的である。図5は、いくつかの滑膜サンプルにおけるCD68及びカテプシンZのそれぞれのレベルを描いた散布図(scatter plot)である。図5に示されるように、CD68レベルとカテプシンZの発現の間には有意な相関関係がある。この結果は、滑膜中のカテプシンZの発現レベルはほぼその滑膜のリウマチの症度に比例的であることを示している。
【0020】
ピリン−8(Pyrin-8)は、炎症に関連することが知られている。滑膜中のピリン−8のレベルは、炎症のレベルと比例的である。図6は、いくつかの滑膜サンプル中のピリン−8及びカテプシンZのそれぞれのレベルを描いた散布図である。図6に示されたように、カテプシンZの発現レベルとピリン−8のレベルの間には強い相関関係がある。この結果は、滑膜中のカテプシンZの発現レベルは、その滑膜における炎症の強さにほぼ比例的であることを示している。
【0021】
最近の研究では、カテプシンZの比較的高い切片上ハイブリダイゼーション(ISH)シグナルは、罹病した滑膜組織の標本中の過形成滑膜細胞集団と散漫に又は断片的に関連していることが示されている。対照的に、カテプシンZに対するISHシグナルは、一般に穏やかであり、正常な滑膜組織標本の比較的静止状態の滑膜細胞内面に点在する高いISH陽性を伴っていた。カテプシンZ発現の高いレベルのこれらの不連続な細胞は浸潤物内に存在し、たぶんマクロファージか又はリンパ球の小さなサブセットであった。図7−10は、カテプシンZのISHの結果を描いたものであり、カテプシンZプロテイナーゼは正常な滑液よりも関節リウマチの滑液中に高いレベルで発現されていることを示している。
【0022】
実施例6
抗原プロセシングにおけるカテプシンZの役割の立証
抗原プロセシングにおけるカテプシンZの役割を立証するためいくつかの実験を行った。これらの実験において、カテプシンZの発現はアンチセンスRNA又はRNA干渉(RNAi)の使用により減少されたか又は沈静化された。
RNAiは二本鎖RNAの細胞中への導入に言及し、これは低分子干渉RNA (siRNA)としても知られており、沈静化されるか又は発現低下させられる遺伝子に対してアンチセンスである配列を含んでいる。一旦細胞に導入されると、そのsiRNAは21から33のヌクレオチドの長さのいくつかの小さな一本鎖RNAにプロセシングされる。これらの小さなRNA鎖は、ガイドRNAと呼ばれる。これらのガイドRNAは、次いでRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)
として知られているタンパク複合体と会合する。このガイドRNAは、RISCが沈静化される標的遺伝子のmRNAを認識し、それに結合することを可能にする。一旦RISCが沈静化されるmRNAを認識してそれに結合すると、そのRISCは次いでそのmRNAを分解する。
【0023】
一例において、カテプシンZに対するアンチセンスRNA又はsiRNAは細胞内に導入される。その細胞は次いで分化することができるようになる。最後にその細胞の抗原プロセシング活性を測定する。その細胞は、例えば抗原提示細胞であることができる。さらに具体的には、その細胞は、例えばヒト樹状細胞、ヒト樹状前駆細胞、又はマウス樹状前駆細胞であることができる。
他の例においては、カテプシンZに対するアンチセンスRNA又はsiRNAは、例えばレンチウイルス、ヌクレオフェクション(nucleofection)又はマウス幹細胞ウイルスを介して細胞内に導入される。
【0024】
さらにその他の例では、抗原をプロセスする細胞の能力は、一般的なリコール抗原テタヌストキシン(TT)を提示する細胞の能力を測定することによって決めることができる。その細胞の能力は5から7日間のインキュベーション後のテタヌストキシンに対する自己T細胞応答を測定することによって決められる。他の例では、抗原をプロセスする細胞の能力は、クエンチされたFITC-オボアルブミン(DQ-OVA)を提示する細胞の能力を測定することによって決定される。このアッセーにおいては、細胞はDQ-OVA抗原を取り込む。DQ-OVA抗原が抗原プロセシング中に開裂される時、FITCコンジュゲートは高度に蛍光性となる。したがって、その蛍光のレベルは抗原プロセシングのレベルに比例する。蛍光は、フローサイトメトリー又は顕微鏡により容易に測定される。
【0025】
実施例7
カテプシンZ活性を調節することによる自己免疫疾患の治療
自己免疫疾患に罹っている生物を、カテプシンZ活性を調節することによって治療する効果を立証するためにいくつかのアッセーが行われる。
一例においては、カテプシンZ活性は、カテプシンZのmRNA発現のレベルを減少させることによって調節される。さらに詳細には、カテプシンZ発現は例えば、カテプシンZに対するアンチセンスRNA又はsiRNAの使用により下方制御される。
さらに他の例では、自己免疫疾患に罹っている生物は、EAEマウス、オバアルブミン負荷マウス、又はCIAマウスのような病気のマウスモデルである。他の例では、生物はヒトである。
さらなる他の例では、自己免疫疾患は関節リウマチ又は多発性硬化症である。
【0026】
実施例8
カテプシンZを調節する能力を有する化合物の同定
この例では、候補化合物が細胞中でカテプシンZ活性を調節することができるか否かを決定するためアッセーが行われる。その細胞は、例えば抗原提示細胞であることができる。さらに特定的には、その細胞は例えばヒト樹状細胞、ヒト樹状前駆細胞、又はマウス樹状前駆細胞であることができる。
この例では、カテプシンZ活性のベースラインレベルが候補化合物の不存在下で測定される。 カテプシンZ活性は、例えば細胞の抗原提示のレベルを測定することによって測定される。次いで候補化合物を細胞に導入し、候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性が測定される。
【0027】
次いで、候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性のレベルをベースラインレベルと比較する。2つのレベルが異なる場合、候補化合物はカテプシンZ活性を調節することができるものと同定される。さらに特定的には、候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性のレベルがベースラインレベルよりも低い場合は、候補化合物はカテプシンZ活性の阻害剤として同定される。
【0028】
ここに引用された全ての引用例は、それらの全体が引用により組み込まれる。
本発明は、その精神又は主要な性質から逸脱しない範囲で他の特定の形態に具現化され得る。したがって、前述の態様はあらゆる点でここに記載した発明の例示的なものであり、それを制限するものではないと解釈されるべきである。 したがって、本発明の範囲は、前記の記載によるのではなく、添付された特許請求の範囲により規定され、また特許請求の範囲と均等な意味及び範囲に入る全ての変形はここに含まれることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】広範な組織タイプにおけるカテプシンZの発現を描くヒストグラムである。
【図2】広範な免疫関連細胞におけるカテプシンZの発現を描くヒストグラムである。
【図3】単球及び未成熟な樹状細胞におけるカテプシンZの発現を描くヒストグラムである。
【図4】CIAマウスモデルにおける異なった症度のいくつかの滑膜関節中のカテプシンZのmRNA発現のレベルを描くヒストグラムである。
【図5】いくつかの滑膜サンプルにおけるCD68及びカテプシンZのそれぞれのレベルを描いた散布図(scatter plot)である。
【図6】いくつかの滑膜サンプルにおけるピリン−8(pyrin-8)及びカテプシンZのそれぞれのレベルを描いた散布図である。
【図7】関節リウマチ滑膜におけるカテプシンZの発現の位置を決める切片上ハイブリッド形成法実験の結果を描く一連の写真である。
【図8】関節リウマチ滑膜におけるカテプシンZの発現の位置を決める切片上ハイブリッド形成法実験の結果を描く一連の写真である。
【図9】関節リウマチ滑膜におけるカテプシンZの発現の位置を決める切片上ハイブリッド形成法実験の結果を描く一連の写真である。
【図10】正常な滑膜におけるカテプシンZの発現の位置を決める切片上ハイブリッド形成法実験の結果を描く一連の写真である。
【図11】カテプシンZの抗原プロセシングの役割を描いた概略図である。
【図12】EAEモデル脳におけるいくつかの時におけるカテプシンZのmRNA発現レベルを描いた時間経過ヒストグラムである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
(a) 候補化合物の不存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のベースレベルを測定すること;
(b) 候補化合物を導入すること;及び
(c) 候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定すること
からなる、細胞中におけるカテプシンZの活性を調節することができる化合物を同定する方法。
【請求項2】
カテプシンZ活性の細胞のレベルが抗原提示を測定することにより測定される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗原提示の細胞のレベルが、テタヌストキシンに対する自己T−細胞応答を測定することにより測定される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抗原提示の細胞のレベルが、クエンチされたFITC-オボアルブミンを提示する細胞の能力を測定することにより測定される請求項2に記載の方法。
【請求項5】
細胞が抗原提示細胞である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抗原提示細胞が樹状細胞前駆体、未成熟な樹状細胞及び成熟した樹状細胞よりなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1の方法により同定されたカテプシンZの活性を調節することができる化合物。
【請求項8】
請求項7の化合物及び薬学的に許容し得る添加剤を含有する炎症性疾患の治療用薬剤。
【請求項9】
請求項8に記載の薬剤を投与することを含む自己免疫疾患の治療法。
【請求項10】
自己免疫疾患が関節リウマチ及び多発性硬化症からなる群より選択される請求項9に記載の方法。
【請求項1】
次の工程:
(a) 候補化合物の不存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のベースレベルを測定すること;
(b) 候補化合物を導入すること;及び
(c) 候補化合物の存在下におけるカテプシンZ活性の細胞のレベルを測定すること
からなる、細胞中におけるカテプシンZの活性を調節することができる化合物を同定する方法。
【請求項2】
カテプシンZ活性の細胞のレベルが抗原提示を測定することにより測定される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗原提示の細胞のレベルが、テタヌストキシンに対する自己T−細胞応答を測定することにより測定される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抗原提示の細胞のレベルが、クエンチされたFITC-オボアルブミンを提示する細胞の能力を測定することにより測定される請求項2に記載の方法。
【請求項5】
細胞が抗原提示細胞である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抗原提示細胞が樹状細胞前駆体、未成熟な樹状細胞及び成熟した樹状細胞よりなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1の方法により同定されたカテプシンZの活性を調節することができる化合物。
【請求項8】
請求項7の化合物及び薬学的に許容し得る添加剤を含有する炎症性疾患の治療用薬剤。
【請求項9】
請求項8に記載の薬剤を投与することを含む自己免疫疾患の治療法。
【請求項10】
自己免疫疾患が関節リウマチ及び多発性硬化症からなる群より選択される請求項9に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−516725(P2007−516725A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547110(P2006−547110)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/041815
【国際公開番号】WO2005/065693
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(500137976)アベンティス・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテツド (76)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/041815
【国際公開番号】WO2005/065693
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(500137976)アベンティス・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテツド (76)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]