説明

閾値設定方法、物標探知方法、閾値設定プログラム、物標探知プログラム、および物標探知装置

【課題】不要成分と物標とを識別する閾値を、物標の有無に影響されずに自動で設定する。
【解決手段】注目の距離位置[n]のエコーレベルEcho[n]と、近接位置[n−1]のエコーレベルEcho[n−1]との差分値diff[n]を算出する(S101)。差分値diff[n]が閾値γよりも高ければ(S102:Yes)、注目の距離位置[n]のエコーレベルEcho[n]と閾値レベルTh[n]とから新たな閾値レベルTh[n]を設定する(S105)。一方、差分値diff[n]が閾値γ以下であれば(S102:No)、注目の距離位置[n]のエコーレベルEcho[n]と閾値レベルTh[n]、および近接位置[n−1]の閾値レベルTh[n−1]とから新たな閾値レベルTh[n]を設定する(S106)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を用いて海上の物標や陸地を検出するための閾値を自動で設定する自動閾値設定方法および当該自動閾値設定方法を用いた物標探知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、探知用の電波を送信し、当該送信電波のエコー信号に基づいて物標を探知する物標探知装置が各種考案されている。このような物標探知装置の一つとして、船舶に備えられた物標探知装置では、シークラッタおよびレインクラッタ等のクラッタやノイズ等の不要成分と、他船や陸地等の目的とする物標とを識別する必要が生じる場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の目標検出システムでは、レーダマップメモリに記憶された観測データからクラッタ要因を調査し、クラッタレベルを判定する。そして、判定したクラッタレベルに応じて、観測データの信頼性情報をユーザに提供している。
【0004】
そして、このようなクラッタレベルの検出方法として、特許文献2に記載の探知装置では、送信パルスに対する受信信号から、シークラッタを主とするクラッタレベルを検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−172777号公報
【特許文献2】特開2002−243842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術に示すのように、クラッタはシークラッタのみでなく、レインクラッタが存在する。上述の特許文献の技術では、これらの複数のクラッタのそれぞれに対して、適する条件が設定されておらず、各クラッタに対する正確な閾値を設定できない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、シークラッタおよびレインクラッタを正確に判別できる閾値を、自動で設定する閾値設定方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、アンテナを回転しながら電波を送信し、アンテナで受信したエコー信号に対して、不要成分に該当するエコー信号のレベルに応じた閾値を設定する閾値設定方法に関する。この閾値設定方法では、差分値算出工程と、設定処理選択工程と、閾値更新設定工程とを有する。差分値算出工程は、注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に対してアンテナ側に隣接する位置のエコー信号レベルとの差分値を算出する。設定処理選択工程は、該差分値に応じて、それぞれに異なる第1閾値設定処理と第2閾値設定処理とのいずれかを選択する。閾値更新設定工程は、選択された閾値設定方法を用いて、注目位置の閾値レベルを更新設定する。
【0009】
この方法では、注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に対してアンテナ側に隣接する位置のエコー信号レベルとの差分値に基づいて、閾値の設定処理を異ならせている。これにより、クラッタやノイズ、さらには物標の有無に応じて、閾値が適応的に設定される。
【0010】
また、この発明の閾値設定方法では、設定処理選択工程は、差分値が閾値設定処理の選択用閾値よりも大きな場合には第1閾値設定処理を選択する。閾値更新設定工程は、第1閾値設定処理が選択された場合には、注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に設定された閾値レベルと、アンテナ側に隣接する位置の閾値レベルとに基づいて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定する。設定処理選択工程は、差分値が選択用閾値以下場合には第2閾値設定処理を選択する。閾値更新設定工程は、第2閾値設定処理が選択された場合には、注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に設定された閾値レベルとに基づいて、注目位置の閾値レベルを更新設定する。
【0011】
この方法では、差分値により選択される第1閾値設定処理と第2閾値設定処理の具体的内容を示している。
【0012】
また、この発明の閾値設定方法の第1閾値設定処理では、注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも低ければ、注目位置に設定された閾値レベルを低下させる。第1閾値設定処理では、注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも高く、且つアンテナ側に隣接する位置の閾値レベルが注目位置に設定された閾値レベルよりも高ければ、注目位置に設定された閾値レベルを上昇させる。第1閾値設定処理では、注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも高く、且つ前記アンテナ側に隣接する位置の閾値レベルが注目位置に設定された閾値レベルよりも低ければ、注目位置に設定された閾値レベルを低下させる。
【0013】
この方法では、第1閾値設定処理の具体的処理内容を示している。まず、注目位置のエコー信号レベルが閾値レベル以下であれば、閾値レベルを低下させる。一方、注目位置のエコー信号レベルが閾値レベルより高ければ、注目位置の閾値レベルと、同じスイープの一つアンテナ側の隣接位置の閾値レベルとの比較結果に基づいて、閾値レベルを高低させる。具体的には、注目位置の閾値レベルが隣接位置の閾値レベルよりも低ければ閾値を上昇させる。一方、注目位置の閾値レベルが隣接位置の閾値レベル以上であれば閾値を低下させる。
【0014】
また、この発明の閾値設定方法の第2閾値設定処理は、注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも低ければ、注目位置に設定された閾値レベルを低下させる。第2閾値設定処理は、注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも高ければ、注目位置に設定された閾値レベルを上昇させる。
【0015】
この方法では、第2閾値設定処理の具体的処理内容を示している。まず、注目位置のエコー信号レベルが閾値レベル以下であれば、閾値レベルを低下させる。一方、注目位置のエコー信号レベルが閾値レベルより高ければ、閾値を上昇させる。すなわち、上述の第1閾値設定処理における、注目位置の閾値レベルと隣接位置の閾値レベルとの比較結果を参照せず、単に注目位置のエコー信号レベルと閾値レベルとの比較結果で、閾値レベル高低させる。
【0016】
また、この発明の閾値設定方法の差分値算出工程は、注目位置のエコー信号レベルに応じて、差分値を補正する。設定処理選択工程は、補正された差分値に基づいて閾値設定方法を選択する。
【0017】
この方法では、差分値がエコー信号レベルに応じて適宜補正される。
【0018】
また、この発明の閾値設定方法では、差分値は、注目位置のエコー信号レベルが高いほど、補正後の差分値が大きくなるように補正される。
【0019】
この方法では、差分値の補正の具体的方法を示している。
【0020】
また、この発明の閾値設定方法では、差分値の補正は、エコー信号レベルの最大値とエコー信号レベルの最小値とを、注目位置のエコー信号レベルに応じた重み付け係数で、重み付け加算することで、行う。
【0021】
この方法では、差分値の補正のより具体的方法を示している。
【0022】
また、この発明の閾値設定方法は、さらに特定方位閾値設定工程および個別方位閾値設定工程を有する。特定方位閾値設定工程は、アンテナを基準位置として放射方向に延びる距離方向に沿った閾値レベルの更新設定を、アンテナの回転方向に沿う所定角度毎に設けた複数の特定方位に対して行う。個別方位閾値設定工程は、特定方位と異なる個別方位に対して、該個別方位を挟む二つの特定方位に設定された閾値レベルに基づいて、距離方向に沿った閾値レベルを補間設定する。
【0023】
この方法では、単に一方位の距離方向に沿った閾値の設定ではなく、アンテナの回転する全周に亘る閾値の設定方法を示している。すなわち、上述の一方位に対する距離方向に沿った各位置での適応的な閾値の設定を、全ての方位で行うこともできるが、他の方法でも可能であることを示している。この方法では、全周における所定の方位角度間隔からなる特定方位のみで、上述の閾値設定を行う。そして、特定方位以外の個別方位では、特定方位の閾値を用いて、閾値設定を行う。
【0024】
また、この発明の閾値設定方法では、個別方位閾値設定工程は、個別方位を挟む二つの特定方位に設定された閾値レベルにおける同じ距離位置の閾値レベルを、個別方位と二つの特定方位とのそれぞれの方位角差で重み付けして設定する。
【0025】
この方法では、全周に亘る閾値の設定方法における補間設定の具体的内容を示している。
【0026】
また、この発明は、上述の閾値設定方法を有する物標探知方法に関し、当該物標探知方法は、設定された閾値レベルよりもレベルが高いエコー信号を物標のエコー信号と判断する工程、を有する。
【0027】
この方法では、閾値が状況に適応して設定されるので、物標エコーがより正確に識別される。
【0028】
また、この発明は、上述の閾値設定方法を有する物標探知方法に関し、当該物標探知方法は、設定された閾値レベルよりもレベルが低いエコー信号を抑圧して探知画像データを生成する工程、を有する。
【0029】
この方法では、閾値が状況に適応して設定されるので、不要成分のエコー信号がより正確に抑圧される。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、シークラッタおよびレインクラッタのいずれに対しても正確な閾値設定ができる。この際、陸地や他船等の物標の有無に影響されることなく、これらの物標を確実に識別可能な閾値を自動で設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の物標探知装置の全体構成図である。
【図2】閾値設定アルゴリズムのメインフローチャートである。
【図3】第1閾値設定処理のフローチャートである。
【図4】第1閾値設定処理により行われる各種の閾値設定処理の内容を説明するための図である。
【図5】第2閾値設定処理のフローチャートである。
【図6】第2閾値設定処理により行われる各種の閾値設定処理の内容を説明するための図である。
【図7】物標が無くシークラッタやノイズのみが存在する場合の各距離位置の閾値カーブ、物標があり物標の存在区間以外にノイズが存在する場合の閾値の適応カーブ、および、レインクラッタと当該レインクラッタ内に物標が存在する場合の適応カーブを示す図である。
【図8】差分値diff[n]の補正処理を示すフローチャートである。
【図9】シークラッタと岸壁(陸地)が存在する場合の従来および本実施形態の方法を用いた探知画像、および本実施形態の方法でのエコーレベルと適応した閾値とを示す図である。
【図10】レインラッタと複数のブイがある場合の従来および本実施形態の方法を用いた探知画像、および本実施形態の方法でのエコーレベルと適応した閾値とを示す図である。
【図11】代表方位の設定概念を示す図である。
【図12】個別方位の閾値の補間算出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態に係る閾値設定方法を含む物標探知方法および閾値設定装置を備える物標探知装置について、図を参照して説明する。図1は本実施形態を含む本発明の物標探知装置1の全体構成図である。
【0033】
物標探知装置1は、送信制御部11、送受切替器12、アンテナ13、受信機14、本願の閾値設定装置に相当する閾値設定部15、および物標探知部16を備える。
【0034】
送信制御部11は、所定の送信タイミング間隔でパルス状の送信信号を生成し、送受切替器12へ出力する。送受切替器12は、送信制御部11からの送信信号をアンテナ13へ出力する。
【0035】
アンテナ13は、所定の回転速度で回転しながら、送信信号を電波に変換して外部へ放射し、外部からの電波を受信して電気信号に変換し、受信信号として、送受切替器12へ出力する。送受切替器12は、アンテナ13からの受信信号を受信機14へ出力する。
【0036】
受信機14は、受信信号を所定のサンプリング間隔で離散化化することで、エコー信号を生成する。この際、受信機14は、方位情報に基づいて、方位スイープ毎に、距離方向に沿って並ぶエコー信号を生成する。受信機14は、スイープ単位で、エコー信号を閾値設定部15および物標探知部16へ出力する。ここで、方位情報は、例えば、アンテナ13からの方位角情報(特定方向(例えば船首方位)を基準方位とする)と、当該物標探知装置が装備される船舶の船首方位と、により設定される絶対方位である。なお、方位情報は、閾値設定部15および物標探知部16にも与えられる。
【0037】
閾値設定部15は、例えば後述の閾値設定アルゴリズムで書き込まれた閾値設定プログラムや、設定した閾値およびエコー信号を記憶するメモリと、閾値設定アルゴリズムを実行する処理演算部とを備える。
【0038】
閾値設定部15は、具体的な方法は後述するが、注目の距離位置のエコー信号のレベル(以下、単に「エコーレベル」と称する。)と、同一スイープ上の注目の距離位置よりも一つアンテナ側のエコーレベルとを比較する。閾値設定部15は、比較結果に基づいて、第1閾値設定方法もしくは第2閾値設定方法のいずれかを選択し、注目の距離位置の閾値と適応的に更新設定する。第1閾値設定方法と第2閾値設定方法は、異なるフローで閾値を設定する。これらの閾値設定方法は、シークラッタの挙動やレインクラッタの挙動を加味しており、これらのクラッタの挙動およびレベルに応じた閾値を設定できる。閾値設定部15は、設定した閾値を物標探知部16へ出力する。
【0039】
物標探知部16は、例えば物標探知アルゴリズムが書き込まれた物標探知プログラムや閾値設定部15からの閾値およびエコー信号を記憶するメモリと、物標探知アルゴリズムを実行する処理演算部とを備える。なお、物標探知部16は、上述の閾値設定部15と同じリソースを用いてもよく、個別のリソースであってもよい。
【0040】
物標探知部16は、受信機14からのエコー信号と、閾値設定部15で設定されたそれぞれのエコー信号に対応する閾値とに基づいて、物標探知処理を実行する。物標探知処理とは、例えば、物標検出処理や探知画像データ形成処理である。物標検出処理とは、エコー信号レベルが閾値よりも高ければ、当該距離位置のエコー信号が物標によるエコー信号であると判断し、当該判断結果を出力する処理である。探知画像データ形成処理とは、閾値のレベルよりも低いエコー信号を抑圧することで、閾値のレベル以上のエコー信号のみが、より際だって現れるような画像データを形成する処理である。
【0041】
そして、上述の適応的な閾値の更新設定を行うことで、シークラッタやレインクラッタ等のクラッタおよびノイズ等の不要成分を含む受信信号から、より正確に物標検出を行うことができる。また、上述の適応的な閾値の更新設定を行うことで、シークラッタやレインクラッタ等のクラッタおよびノイズ等の不要成分を抑圧し、より正確で明確に物標の画像が現れる探知画像を生成することができる。
【0042】
次に、閾値設定アルゴリズムについて、より具体的に説明する。図2は閾値設定アルゴリズムのメインフローチャートである。図3は第1閾値設定処理のフローチャートである。図4は第1閾値設定処理により行われる各種の閾値設定処理の内容を説明するための図である。図4(A)は図3のステップS505の処理を説明する図であり、図4(B)は図3のステップS106の処理を説明するための図であり、図4(C)は図3のステップS107の処理を説明するための図である。図5は第2閾値設定処理のフローチャートである。図6は第2閾値設定処理により行われる各種の閾値設定処理の内容を説明するための図である。図6(A)は図5のステップS603の処理を説明する図であり、図6(B)は図5のステップS604を説明するための図である。
【0043】
なお、以下の説明では、或るスイープにおける或る位置[n](注目の距離位置)の閾値の更新設定についてのみ示すが、このような閾値の更新設定は、スイープを構成する各エコー信号に対応する距離位置毎に行われる。さらに、このような設定は各スキャンで継続的に行われる。ここで、スキャンとは、アンテナ一回転分のエコー信号を取り扱う期間を示す。すなわち、アンテナが一回転する間に送信される各送信信号に対するエコー信号の集まりが、1スキャン分のエコー信号となる。
【0044】
まず、各位置の閾値には初期値が設定されている。このため、スイープにおける最もアンテナ側の距離位置の閾値は初期値のままとなるが、最もアンテナ側の距離位置以外の距離位置では、以下のフローで示される処理により、閾値が状況に適応していく。
【0045】
閾値設定部15は、受信機14より入力されたスイープのエコー信号から、注目の距離位置[n]におけるエコーレベルEcho[n]を取得する。この処理とともに、閾値設定部15は、同じスイープ上の注目の距離位置[n]よりも一つアンテナ側に近接する位置[n−1](以下、単に「近接位置」と称する。)のエコーレベルEcho[n−1]を読み出す。
【0046】
閾値設定部15は、エコーレベルEcho[n]とエコーレベルEcho[n−1]との差分値diff[n]を次式から算出する(S101)。
【0047】
diff[n]=Echo[n]−Echo[n−1]
閾値設定部15は、差分値diff[n]が閾値γよりも大きいかどうかを判定する。閾値γは予め設定された定数であり、実験的もしくは経験的に、物標を検出した距離位置のエコーレベルと、そのアンテナ側に近接する距離位置の物標を検出していないエコーレベルとの差に基づいて、物標の検出が判別できる程度の値に設定されている。
【0048】
閾値設定部15は、差分値diff[n]が閾値γよりも大きいことを検出すると(S102:Yes)、カウント値を、「0」でない初期値に設定する(S103)。この初期値は、送信信号のパルス幅、すなわち距離方向の分解能に応じて設定されている。
【0049】
閾値設定部15は、差分値diff[n]が閾値γ以下であることを検出すると(S102:No)、カウント値に基づく次の処理を実行する。
【0050】
閾値設定部15は、カウント値が初期値に設定されるか(S103)、カウント値が「0」でなければ(S104:No)、第1閾値設定処理により、注目の距離位置[n]の閾値更新設定を行う(S105)。第1閾値設定処理は、具体的には後述するが、注目の距離位置[n]のエコーレベルEcho[n]と、当該距離位置[n]の閾値Th[n]と、近接位置[n−1]の閾値Th[n−1]とに基づいて、注目の距離位置[n]の閾値Th[n]を更新設定する。
【0051】
閾値設定部15は、第1閾値設定処理による更新設定を行うと、カウント値を一つ減らすようにカウント値の更新処理を行う(S107)。
【0052】
閾値設定部15は、カウント値が「0」であれば(S104:Yes)、第2閾値設定処理により、注目の距離位置[n]の閾値更新設定を行う(S106)。第2閾値設定処理は、具体的には後述するが、注目の距離位置[n]のエコーレベルEcho[n]と、当該距離位置[n]の閾値Th[n]とに基づいて、注目の距離位置[n]の閾値Th[n]を更新設定する(S106)。
【0053】
次に、第1閾値設定処理について説明する。図3は第1閾値設定処理のフローチャートである。図4は第1閾値設定処理により行われる各種の閾値設定処理の内容を説明するための図である。
【0054】
閾値設定部15は、注目の距離位置[n]のエコーレベルEcho[n]を取得する。また、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]を読み出す。閾値設定部15は、エコーレベルEcho[n]と閾値レベルTh[n]を比較する(S501)。
【0055】
閾値設定部15は、エコーレベルEcho[n]が閾値レベルTh[n]よりも大きいことを検出すると(S502:Yes)、近接位置[n−1]の閾値レベルTh[n−1]を読み出し、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]と近接位置[n−1]の閾値レベルTh[n−1]とを比較する(S503)。
【0056】
閾値設定部15は、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]よりも、近接位置[n−1]の閾値レベルTh[n−1]の方が大きいことを検出すると(S504:Yes)、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]に補正値δを加算する補正を行う(S505)。すなわち、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]として、
Th[n]=Th[n]+δ −(式A)
の演算処理を実行する。なお、補正値δは、例えば、物標エコーのレベルとノイズレベルとの相対差に基づいて、当該相対差よりも所定レベル以上小さくなるように設定するとよい。
【0057】
この処理を図に示すと、図4(A)に示すようになる。すなわち、注目の距離位置[n]におけるエコーレベルEcho[n]が閾値レベルTh[n]よりも大きく、且つ、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]が、近接位置[n−1]の閾値レベルTh[n−1]よりも小さい場合には、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]をδ分だけ向上させる。この処理を「A処理」と称する。
【0058】
閾値設定部15は、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]よりも、近接位置[n−1]の閾値レベルTh[n−1]の方が小さいと判断すると(S504:No)、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]に補正値βδを減算する補正を行う(S506)。すなわち、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]として、
Th[n]=Th[n]−βδ −(式B)
の演算処理を実行する。なお、βは、0<β<1からなる実数に設定されており、このようなβの設定を用いることで、後述の物標エコーの期間に上述のδだけ閾値を上げる処理により閾値が一時的に上昇しても、緩やかに閾値を低下させることができる。
【0059】
この処理を図に示すと、図4(B)に示すようになる。すなわち、注目の距離位置[n]におけるエコーレベルEcho[n]が閾値レベルTh[n]よりも大きく、且つ、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]が、近接位置[n−1]の閾値レベルTh[n−1]よりも大きい場合には、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]を、βδ分だけ低下させる。この処理を「B処理」と称する。
【0060】
上述のステップS102においてNoの場合、すなわち、閾値設定部15は、エコーレベルEcho[n]が閾値レベルTh[n]よりも小さいと判断すると(S502:No)、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]に補正値δを減算する補正を行う(S507)。すなわち、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]として、
Th[n]=Th[n]−δ −(式C)
の演算処理を実行する。
【0061】
この処理を図に示すと、図4(C)に示すようになる。すなわち、注目の距離位置[n]におけるエコーレベルEcho[n]が閾値レベルTh[n]よりも小さい場合には、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]をδ分だけ低下させる。この処理を「C処理」と称する。
【0062】
次に、第2閾値設定処理について説明する。図5は第2閾値設定処理のフローチャートである。図6は第2閾値設定処理により行われる各種の閾値設定処理の内容を説明するための図である。
【0063】
閾値設定部15は、注目の距離位置[n]のエコーレベルEcho[n]を取得する。また、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]を読み出す。閾値設定部15は、エコーレベルEcho[n]と閾値レベルTh[n]を比較する(S601)。ここまでは、第1閾値設定処理と同じである。
【0064】
閾値設定部15は、エコーレベルEcho[n]が閾値レベルTh[n]よりも大きいことを検出すると(S602:Yes)、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]に補正値δ’を加算する補正を行う(S603)。すなわち、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]として、
Th[n]=Th[n]+δ’ −(式A’)
の演算処理を実行する。なお、補正値δ’も、例えば、物標エコーのレベルとノイズレベルとの相対差に基づいて、当該相対差よりも所定レベル以上小さくなるように設定するとよい。さらには、第1閾値設定処理の補正値δよりも大きくするとよい。
【0065】
この処理を図に示すと、図6(A)に示すようになる。すなわち、注目の距離位置[n]におけるエコーレベルEcho[n]が閾値レベルTh[n]よりも大きく、且つ、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]が、近接位置[n−1]の閾値レベルTh[n−1]よりも小さい場合には、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]をδ’分だけ向上させる。この処理を「A’処理」と称する。
【0066】
閾値設定部15は、エコーレベルEcho[n]が閾値レベルTh[n]よりも小さいと判断すると(S602:No)、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]に補正値δ’を減算する補正を行う(S604)。すなわち、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]として、
Th[n]=Th[n]−δ’ −(式C’)
の演算処理を実行する。
【0067】
この処理を図に示すと、図6(B)に示すようになる。すなわち、注目の距離位置[n]におけるエコーレベルEcho[n]が閾値レベルTh[n]よりも小さい場合には、注目の距離位置[n]の閾値レベルTh[n]をδ’分だけ低下させる。この処理を「C’処理」と称する。
【0068】
以上のように、距離方向のエコーレベルの差分値から検出し、検出結果に基づいて、上述した第1閾値設定処理と第2閾値設定処理とのいずれかを選択して閾値設定を行うことで、図7に示すような各距離位置の閾値を設定することができる。
【0069】
図7(A)は物標が無く、シークラッタおよびノイズのみが存在する場合の各距離位置の閾値の適応の仕方を示している。図7(B)は物標があり、物標の存在区間以外にノイズが存在する場合の閾値の適応の仕方を示している。図7(C)はレインクラッタとノイズが存在し、レインクラッタ内に小物標がある場合の閾値の適応の仕方を示している。なお、図7において、細実線がエコーデータを示し、太実線が適応後の閾値カーブを示し、太破線が初期閾値カーブを示す。
【0070】
(シークラッタの発生区間)
シークラッタの発生区間では、差分値diff[n]が閾値γよりも小さい場合と大きい場合とがある。差分値diff[n]が閾値γよりも小さくなるのは、海面反射が距離方向に連続的に生じている場合である。一方、差分値diff[n]が閾値γよりも大きくなるのは、海面反射が距離方向に不連続である場合、すなわち、海面反射の大きな位置と海面反射の小さな位置とが距離方向に交互に生じるような場合である。
【0071】
ここでは、海面反射が距離方向に連続的に生じている場合について、説明する。この場合、常に差分値diff[n]<閾値γとなり、第2閾値設定処理が選択される。
【0072】
まず、閾値の更新処理が開始されると、閾値レベルがシークラッタのレベル程度になるまでは、上述のC’処理が連続するスキャンで継続的に実行され、閾値レベルは徐々に低下していく。
【0073】
次に、閾値レベルがシークラッタの平均レベル程度まで低下すると、シークラッタのエコーレベルが閾値レベルよりも高くなることがある。この場合にはA’処理が実行される。ここで、シークラッタのエコーは、アンテナからの距離に応じて順次レベルが低下する距離依存性を有する。したがって、同じ距離位置であればスキャンの相違によるレベル差は大きくない。このため、上述のようにA処理が行われ、複数スキャンに亘って閾値の更新処理が続けられることで、シークラッタの発生区間では、シークラッタの平均レベルに略等しいレベルの閾値が設定される。これにより、図7(A)に示すように、シークラッタの平均レベルに応じた閾値を適応的に自動で設定することができる。
【0074】
このようにシークラッタの発生区間では、第2閾値設定処理のC’処理とA’処理とが行われ、差分値diff[n]>閾値γの場合には第1閾値設定処理のA処理、B処理、C処理が選択される。これにより、閾値カーブは、物標エコー領域で閾値レベルが上がることなく、シークラッタの平均レベルに収束する。
【0075】
(ノイズの発生区間)
ノイズの発生区間では、差分値diff[n]が閾値γよりも大きくなることはないので、常に第2閾値設定処理が選択される。
【0076】
ノイズの発生区間でも、まず、シークラッタの場合と同様に、閾値の更新処理が開始されると、閾値レベルがノイズのレベル程度になるまでは、上述のC’処理が連続するスキャンで継続的に実行され、閾値レベルは徐々に低下していく。
【0077】
次に、閾値レベルがノイズのレベル程度まで低下すると、ノイズのエコーレベルと閾値レベルとの大小関係が頻繁に入れ替わる。また、距離方向に隣り合う位置間で、大小関係が殆ど継続的に同じにならない。この場合には、A’処理とC’処理とがランダムに、ノイズの発生区間中のほぼ全体で実行される。そして、ノイズのエコーレベルもランダムであり、レベルが極大の時にのみA’処理が実行され、それ以外ではC’処理が実行される。これにより、図7(A)、図7(B)、図7(C)に示すように、ノイズの発生期間では、ノイズのレベルの平均に近い閾値を適応的に自動で設定することができる。
【0078】
(物標エコーの存在区間)
物標のエコーレベルは、図7(B)に示すように、ノイズのエコーレベルと比較して高く、且つ距離方向に沿って連続的に高い状態が維持される。このため、次に示すように、閾値が適応していく。
【0079】
ノイズから物標に切り替わる位置では、差分値diff[n]>閾値γとなる。これにより、当該位置よりもアンテナ側が第2閾値設定処理で閾値の更新設定をしていたが、当該位置から第1閾値設定処理に切り替わる。なお、図7(B)に示す状況では、この後に、同じスイープ上で差分値diff[n]>閾値γとなることなないので、当該位置からカウント値分だけの区間に第1閾値設定処理に切り替わる。一方、カウント値が「0」になる前に、再度差分値diff[n]>閾値γとなれば、第1閾値設定処理の適応区間が延長される。
【0080】
このように、閾値設定処理が選択されるような状態で、物標のエコーの存在区間では、まず、シークラッタやノイズの区間と同様に、閾値の更新処理が開始されると、閾値レベルが物標のエコーレベル程度になるまでは、上述のC処理が連続するスキャンで継続的に実行され、閾値レベルは徐々に低下していく。
【0081】
次に、ノイズのエコーの距離位置に対する閾値がさらに低下していくことに伴って、ノイズのエコーに近接する物標のアンテナ側の境界部では、B処理が適用され、当該物標の境界部の距離位置の閾値も徐々に低下していく。これに伴い、物標エコーの範囲におけるさらに遠方側の各距離位置においても閾値が低下していく。これは、B処理が、各注目する距離位置において、アンテナ側に近接する距離位置の閾値との比較により、近接する距離位置の閾値が低ければ、これに応じて注目する距離位置の閾値を低下させるからである。これにより、物標エコーの範囲であっても、閾値は、ノイズの発生区間と略同じレベルとなる。
【0082】
この際、物標エコーのアンテナ側のノイズレベルにより、近接する距離位置の閾値が、注目する距離位置の閾値よりも大きくなることがある。この場合には、A処理が実行され、閾値レベルが高くなる。しかしながら、上述のように、ノイズレベルは一定でないので、A処理が継続的に実行されることはなく、A処理とB処理とが適宜実行される。したがって、結果的に、物標エコーの範囲であっても、閾値は、ノイズの発生区間と略同じレベルとなる。
【0083】
(レインクラッタの発生区間)
上述の例では、レインクラッタが発生していない状況を説明している。次に、レインクラッタの発生区間について説明する。
【0084】
レインクラッタのエコーは、短い距離区間で着目すると、上述のノイズと略同じ挙動を示す。一方、レインクラッタの発生している区間では、発生していない区間よりも、全体のエコーレベルが高くなる。また、レインクラッタの発生している区間と、発生していない区間との境界領域では、レベルの変化が緩慢である。
【0085】
したがって、物標エコーが無い場合、レインクラッタの発生領域や、レインクラッタの発生区間とレインクラッタが発生していない区間との境界領域では、差分値diff[n]>閾値γとはならず、常に第2閾値設定処理が実行される。
【0086】
このように第2閾値設定処理を実行することで、上述のノイズの発生区間と同様の処理が行われる。この際、差分値diff[n]による選択を行わず、第1閾値設定方法が適用されると、レインクラッタの発生区間ではB処理が実行されてしまう。B処理が実行されると、レインクラッタの発生領域でも閾値はノイズレベルに適応してしまう。したがって、レインクラッタのエコーが残ってしまう。
【0087】
しかしながら、第2閾値設定処理を選択し、B処理を行わないようにすることで、レインクラッタのエコーレベルに応じて、ノイズの発生区間よりも閾値レベルが上昇し、レインクラッタのレベルに閾値が適応する。これにより、図7(C)に示すように、レインクラッタのレベルに応じた閾値が設定される。
【0088】
ここで、レインクラッタの発生領域に物標が存在すると、上述のノイズ発生領域から物標のエコーの区間切り替わる場合と同様に、第1閾値設定処理に切り替わる。この場合、図7(C)に示すように、物標のエコーの直前のレインクラッタのレベルに閾値が適応する。したがって、このようなレインクラッタが存在する区間でも、物標のエコーレベルに影響されることなく、レインクラッタのレベルに応じた閾値が設定される。
【0089】
以上のように、本実施形態の閾値設定処理を用いることで、シークラッタおよびレインクラッタのような複数のクラッタのレベルや、ノイズのレベル等からなる不要成分のレベルに応じ、且つ物標の有無に影響されることなく、適応的に自動で閾値を設定することができる。そして、このように、最適化された閾値を用いることで、上述のように、より正確な物標探知処理を行うことができる。
【0090】
なお、上述の説明では、差分値diff[n]をそのまま、閾値γと比較する例を示したが、差分値diff[n]をエコーレベルに応じて補正した後に、閾値γと比較してもよい。図8は、差分値diff[n]の補正処理を示すフローチャートである。
【0091】
閾値設定部15は、注目の距離位置[n]のエコーレベルEcho[n]を取得すると、予め設定した差分値補正用閾値Ethと比較する(S201)。閾値設定部15は、エコーレベルEcho[n]が差分値補正用閾値Eth以下であれば(S202:No)、補正係数Cmを「1.0」に設定する(S205)。すなわち、差分値diff[n]をそのまま用いる。
【0092】
閾値設定部15は、エコーレベルEcho[n]が差分値補正用閾値Ethよりも大きければ(S202:Yes)、次の(式1)を用いて補正係数Cm用の重み付け値wを算出する(S203)。
【0093】
w=(Echo[n]−Eth)/(EchoMAX−Eth) −(式1)
本式において、EchoMAXは、本装置が観測し得るエコーレベルの最大値である。
【0094】
閾値設定部15は、次の(式2)に重み付け値wを代入することで、補正係数Cmを算出する(S204)。
【0095】
Cm=w*Cmmin+(1.0−w)Cmmax (式2)
本式において、Cmmaxは閾値設定部15で設定する最大の補正係数であり、Cmmin(<Cmmax)は閾値設定部15で設定する最小の補正係数であり、これらは予め仕様に応じて適宜設定されている。
【0096】
閾値設定部15は、このように算出された補正係数Cmを差分値diff[n]に乗算した後に、閾値γと比較する。
【0097】
このような差分値diff[n]の補正処理を行うことで、エコーレベルが大きくなるほど差分値が大きくなるように補正される。これにより、物標のエコーを検出し易くすることができる。なお、差分値diff[n]の補正処理は、これに限るものではなく、エコーレベルが大きくなるほど差分値が大きくなるように補正されれば、他の方法を用いてもよい。
【0098】
また、上述の説明では、閾値の更新設定に利用する補正値δを一定にする場合を示したが、例えば、閾値の初期設定から所定の複数スキャンの間は、補正値δをより大きく設定してもよい。このような設定を行うことで、より速くシークラッタやノイズのレベルに閾値が近づくので、適応速度を向上させることができる。
【0099】
また、上述の説明では、補正値δの加算や減算により、閾値の補正(更新設定)を行う例を示したが、補正係数化して、乗算や除算して閾値の補正(更新設定)を行うこともできる。
【0100】
そして、上述のような構成および処理を行うことで、図9、図10に示すような効果が得られる。図9、図10は、本発明の適応型の閾値設定処理を行った場合の効果を表す図である。それぞれ(A)がエコーデータをそのまま表示した探知画像を示し、(B)が本発明の適応型の閾値設定処理を行い、閾値以下のエコーを抑圧した探知画像を示し、(C)は(A)に示す実線の方位でのエコーデータと閾値カーブとを示す。また、図9はシークラッタと岸壁(陸地)が存在する場合を示し、図10はレインラッタと複数のブイがある場合を示す。
【0101】
本発明の適応型の閾値設定処理を行うことで、図9に示すように、シークラッタのレベルに応じるとともに、陸地や大型船舶の存在する区間でも、当該陸地や大型船舶のエコーに影響されることなくノイズのレベルに応じて、閾値が自動で設定される。
【0102】
また、本発明の適応型の閾値設定処理を行うことで、図10に示すように、レインクラッタのレベルに応じた閾値が自動で設定される。さらに、レインクラッタの範囲内にブイのような小さな物標が存在していても、レインクラッタに埋もれさせることなく、確実に当該物標のエコーを識別できる。
【0103】
これにより、各図の(A)に示すような従来の陸地やブイとともにシークラッタやレインクラッタの映り込みが有った探知画像でなく、各図の(B)に示すように、陸地(大きな物標)やブイ(小さな物標)を残しながら、シークラッタやレインクラッタのみを抑圧した探知画像を確実に生成することができる。
【0104】
次に、第2の実施形態に係る閾値設定方法を含む物標探知方法および閾値設定装置を備える物標探知装置について、図を参照して説明する。本実施形態の閾値設定方法では、方位方向に対する閾値の設定方法を示す。
【0105】
上述の第1の実施形態に示した閾値の設定方法は、一方位に対する各距離位置での閾値の適応方法を示している。ここで、アンテナは、上述のように回転しており、物標探知装置は、通常、全周囲に対する物標探知を行う。したがって、各方位、すなわち各スイープデータ毎に、上述の閾値の適応処理を行うことで、全周囲に亘る閾値の適応処理が可能となる。しかしながら、本実施形態では、第1の実施形態に示した特定方位に対する閾値の適応処理を利用しながら、他の方法で、全周囲の閾値を設定する。
【0106】
まず、アンテナ13の回転方向に沿う方位角方向に対して、図11に示すように、所定の角度間隔で、複数の特定方位を設定する。図11は、特定方位の設定概念を示す図である。
【0107】
特定方位は、絶対方位で北方向を0°方向(基準方向)として全周(360°)を所定方位角(Δθ)間隔で分割して得られる。閾値設定部15は、このような特定方位θ1,θ2,・・・を予め記憶している。
【0108】
閾値設定部15は、特定方位のスイープのエコー信号を取得すると、上述の第1の実施形態に示した方法を用いて、各距離位置の閾値を更新設定する。例えば、閾値設定部15は、特定方位θのスイープのエコー信号を取得すると、各距離位置の閾値Thを更新設定し、特定方位θのスイープのエコー信号を取得すると、各距離位置の閾値Thを更新設定する。
【0109】
次に、閾値設定部15は、特定方位間の個別方位の閾値を、当該個別方位を挟む二つの特定方位の閾値から補間算出する。図12は、個別方位の閾値の補間算出方法を説明するための図であり、図12(A)は特定方位と個別方位との位置関係例を示し、図12(B)は個別方位の閾値の設定概念を示す図である。
【0110】
閾値設定部15は、個別方位θの距離位置[n]の閾値Th[n]を算出する場合、上述のようにスイープのエコー信号とともに得られる絶対方位から個別方位θを取得する。そして、閾値設定部15は、当該個別方位θに対して反時計回り側で最も近い特定方位θと、個別方位θaとの方位角差Δθmaを算出する。
【0111】
閾値設定部15は、個別方位θを二つの特定方位θ,θm+1の注目の距離位置[n]の閾値Th[n],Thm+1[n]を取得する。閾値設定部15は、個別方位θの距離位置[n]の閾値Th[n]を、図12(B)に示すような補間算出の概念を用いて、次式から算出する。
【0112】
Th[n]=(Δθma/Δθ)*Th[n]+(1−Δθma/Δθ)*Thm+1[n]
閾値設定部15は、このような補間算出処理を個別方位θの各距離位置で実行する。これにより、全周囲方向の各距離位置での閾値を更新設定することができる。そして、この方法を用いることで、全周囲方向の各距離位置のすべてで、第1の実施形態に示したような処理を行う必要が無い。これにより、全体の処理負荷を軽減し、高速化することができる。この際、このような処理を行ったとして、実用上、十分に正確な閾値設定が可能である。これは、例えばシークラッタは波の反射であり、レインクラッタは雨の降る範囲での雨の反射である。したがって、これら波や雨のエコーは、ある程度の幅をもって現れる。したがって、代表方位の間隔Δθを適宜設定することで、すべての方位に対して適応閾値設定処理を行わずとも、十分に波や雨の状態を反映した閾値を設定できるからである。同様に、物標エコーも所定の幅を有するので、シークラッタやレインクラッタの場合と同様の作用効果が得られる。
【0113】
なお、上述のように、閾値設定部15と物標探知部16とを単一のリソースで実現すれば、閾値設定のためのエコーデータのレベルと閾値レベルとの比較結果を、そのまま物標探知処理に利用することができる。これにより、閾値設定処理と物標探知処理とが部分的に統合され、物標探知装置として、より簡素で高速な処理を実現できる。
【0114】
また、上述の説明では、同じスキャンの閾値同士を比較する例を示している。しかしながら、注目の距離位置の閾値レベルとアンテナ側に隣接する距離位置の閾値レベルとを比較する際に、すでに次回スキャン用に更新設定されたアンテナ側に隣接する距離位置の閾値レベルを利用することも可能である。
【0115】
また、上述の説明では、船舶用のレーダ装置に利用する場合の例を示したが、所定の探知信号を送信して、そのエコー信号を取得する装置であれば、上述の処理を適用することができる。
【符号の説明】
【0116】
1−物標探知装置、11−送信制御部、12−送受切替器、13−アンテナ、14−エコーデータ生成部、15−閾値設定部、16−物標探知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを回転しながら電波を送信し、前記アンテナで受信したエコー信号に対して、不要成分に該当するエコー信号のレベルに応じた閾値を設定する閾値設定方法であって、
注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に対して前記アンテナ側に隣接する位置のエコー信号レベルとの差分値を算出する差分値算出工程と、
該差分値に応じて、それぞれに異なる第1閾値設定処理と第2閾値設定処理とのいずれかを選択する設定処理選択工程と、
選択された閾値設定処理を用いて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定する閾値更新設定工程と、を有する閾値設定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の閾値設定方法であって、
前記設定処理選択工程は、
前記差分値が閾値設定処理の選択用閾値よりも大きな場合には、前記第1閾値設定処理を選択し、前記差分値が前記選択用閾値以下場合には、前記第2閾値設定処理を選択し、
前記閾値更新設定工程は、
前記第1閾値設定処理が選択された場合には、前記注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に設定された閾値レベルと、前記アンテナ側に隣接する位置の閾値レベルとに基づいて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定し、
前記第2閾値設定処理が選択された場合には、前記注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に設定された閾値レベルとに基づいて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定する、閾値設定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の閾値設定方法であって、
前記第1閾値設定処理は、
前記注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも低ければ、注目位置に設定された閾値レベルを低下させ、
前記注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも高く、且つ前記アンテナ側に隣接する位置の閾値レベルが前記注目位置に設定された閾値レベルよりも高ければ、注目位置に設定された閾値レベルを上昇させ、
前記注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも高く、且つ前記アンテナ側に隣接する位置の閾値レベルが前記注目位置に設定された閾値レベルよりも低ければ、注目位置に設定された閾値レベルを低下させる、閾値設定方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の閾値設定方法であって、
前記第2閾値設定法処理は、
前記注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも低ければ、注目位置に設定された閾値レベルを低下させ、
前記注目位置のエコー信号レベルが、該注目位置に設定された閾値レベルよりも高ければ、注目位置に設定された閾値レベルを上昇させる、閾値設定方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の閾値設定方法であって、
前記差分値算出工程は、前記注目位置のエコー信号レベルに応じて、前記差分値を補正し、
前記設定処理選択工程は、補正された差分値に基づいて閾値設定方法を選択する、閾値設定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の閾値設定方法であって、
前記差分値は、前記注目位置のエコー信号レベルが高いほど、補正後の差分値が大きくなるように補正されている、閾値設定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の閾値設定方法であって、
前記差分値の補正は、エコー信号レベルの最大値とエコー信号レベルの最小値とを、前記注目位置のエコー信号レベルに応じた重み付け係数で、重み付け加算することで、行う、閾値設定方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の閾値設定方法であって、
前記アンテナを基準位置として放射方向に延びる距離方向に沿った閾値レベルの更新設定を、前記アンテナの回転方向に沿う所定角度毎に設けた複数の特定方位に対して行う特定方位閾値設定工程と、
前記特定方位と異なる個別方位に対して、該個別方位を挟む二つの特定方位に設定された閾値レベルに基づいて、前記距離方向に沿った閾値レベルを補間設定する個別方位閾値設定工程と、を有する閾値設定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の閾値設定方法であって、
前記個別方位閾値設定工程は、
前記個別方位を挟む二つの特定方位に設定された閾値レベルにおける同じ距離位置の閾値レベルを、前記個別方位と前記二つの特定方位とのそれぞれの方位角差で重み付けして設定する、閾値設定方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の閾値設定方法を有し、
設定された閾値レベルよりもレベルが高いエコー信号を物標のエコー信号と判断する工程、を有する物標探知方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の閾値設定方法を有し、
設定された閾値レベルよりもレベルが低いエコー信号を抑圧して探知画像データを生成する工程、を有する物標探知方法。
【請求項12】
アンテナを回転しながら電波を送信し、前記アンテナで受信したエコー信号に対して、不要成分に該当するエコー信号のレベルに応じた閾値を設定する処理を実行する閾値設定プログラムであって、
注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に対して前記アンテナ側に隣接する位置のエコー信号レベルとの差分値を算出する差分値算出処理と、
該差分値に応じて、それぞれに異なる第1閾値設定処理と第2閾値設定処理とのいずれかを選択する設定方法選択処理と、
選択された閾値設定方法を用いて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定する閾値更新設定処理と、を有する閾値設定プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載の閾値設定プログラムであって、
前記設定方法選択処理は、
前記差分値が閾値設定処理の選択用閾値よりも大きな場合には、前記第1閾値設定処理を選択し、前記差分値が前記選択用閾値以下場合には、前記第2閾値設定処理を選択し、
前記閾値更新設定処理は、
前記第1閾値設定処理が選択された場合には、前記注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に設定された閾値レベルと、前記アンテナ側に隣接する位置の閾値レベルとに基づいて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定し、
前記第2閾値設定処理が選択された場合には、前記注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に設定された閾値レベルとに基づいて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定する、閾値設定プログラム。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の閾値設定プログラムの処理を含み、
設定された閾値レベルよりもレベルが高いエコー信号を物標のエコー信号と判断する処理をさらに有する物標探知プログラム。
【請求項15】
請求項12または請求項13に記載の閾値設定プログラムの処理を含み、
設定された閾値レベルよりもレベルが低いエコー信号を抑圧して探知画像データを生成する処理をさらに有する物標探知プログラム。
【請求項16】
回転しながら電波を送信するとともに、エコー信号を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信したエコー信号に対して、不要成分に該当するエコー信号のレベルに応じた閾値を設定する閾値設定部と、該閾値と前記エコー信号とを用いて物標探知を行う物標探知部と、を備える物標探知装置であって、
前記閾値設定部は、
注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に対して前記アンテナ側に隣接する位置のエコー信号レベルとの差分値を算出する差分値算出部と、
該差分値に応じて、それぞれに異なる第1閾値設定処理と第2閾値設定処理とのいずれかを選択する設定方法選択部と、
選択された閾値設定方法を用いて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定する閾値更新設定部と、を備える物標探知装置。
【請求項17】
請求項16に記載の物標探知装置であって、
前記設定方法選択部は、
前記差分値が閾値設定処理の選択用閾値よりも大きな場合には、前記第1閾値設定処理を選択し、前記差分値が前記選択用閾値以下場合には、前記第2閾値設定処理を選択し、
前記閾値更新設定部は、
前記第1閾値設定処理が選択された場合には、前記注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に設定された閾値レベルと、前記アンテナ側に隣接する位置の閾値レベルとに基づいて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定し、
前記第2閾値設定処理が選択された場合には、前記注目位置のエコー信号レベルと、該注目位置に設定された閾値レベルとに基づいて、前記注目位置の閾値レベルを更新設定する、物標探知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−17996(P2012−17996A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153798(P2010−153798)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】