説明

防振ブッシュ

【課題】組み付け作業性を向上しつつ、脱落を防止できる防振ブッシュを提供する。
【解決手段】防振ブッシュ10は、トーションビーム100内のスタビライザ200の振動を抑制する。防振ブッシュ10をスタビライザ200に組み付け後、スタビライザ200周りに回転させることにより、スタビライザ200の組み付け時とは異なる部位に脱落防止力Fが発生するようになした。また、スタビライザ200に組み付ける際の挿入荷重を調整する部位と、スタビライザ200の振動抑制力を調整する部位とを異なる部位となした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーションビーム式サスペンションのトーションビーム内に設けられるスタビライザの振動を抑制するための防振ブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用サスペンションとして、トーションビーム式サスペンションが知られている(たとえば、特許文献1、2参照)。トーションビーム式サスペンションは、トレーリングアームと、トーションビームと、スタビライザとを備えている。トレーリングアームは、左右輪それぞれに対応して設けられている。トレーリングアームの車両前方側の端部は車体に回動可能に支持され、その他端部には車輪が装着されている。
【0003】
トーションビームは、U字型やV字型の断面形状を有する部材であり、車体幅方向に延びてトレーリングアームを互いに連結している。トーションビームがU字型やV字型の断面形状を有することで、トーションビームには捩り変形が生じ易くされている。これにより、トレーリングアームは互いに逆向きに回動することができ、従って、左右の車輪は互いに逆相にストロークすることができる。
【0004】
スタビライザは棒状或いは管状の部材であり、トーションビームの内側を直線的に延びるように配設されている。スタビライザの両端部はトーションビーム或いはトレーリングアームに溶接等により固定されている。スタビライザが設けられることで、トーションビームの捩り剛性が補強され、車両に生ずるローリングが抑制される構成となっている。
【特許文献1】特開2000−313218号公報
【特許文献2】特開2001−80332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トーションビーム式サスペンションにおいては、トーションビーム内におけるスタビライザの振動を抑制するために、トーションビームとスタビライザとに弾接するように防振ブッシュが設けられる。この防振ブッシュは、従来、開口部を有するC字状若しくはU字状断面のゴム弾性体であり、開口部から挿入孔にスタビライザを挿入して固定することでトーションビーム内に組み付ける構造のものであった。
【0006】
しかしながら、このような従来の防振ブッシュは、合成ゴム等の剛性の高い材料によって形成されるため、作業者が開口部から挿入孔にスタビライザを挿入する際に大きな挿入荷重を必要とし、組み付け作業性が悪かった。また、挿入荷重を落とすために開口部近傍の部位の剛性を低下させた場合、防振ブッシュがトーションビーム内から脱落する可能性が高まってしまう。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、組み付け作業性を向上しつつ、脱落を防止できる防振ブッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の防振ブッシュは、トーションビーム内のスタビライザの振動を抑制する防振ブッシュであって、当該防振ブッシュをスタビライザに組み付け後、スタビライザ周りに回転させることにより、スタビライザ組み付け時とは異なる部位に脱落防止力が発生するようになした。
【0009】
この態様によると、防振ブッシュをスタビライザに組み付け後、スタビライザ周りに回転させることにより、スタビライザ組み付け時とは異なる部位に脱落防止力が発生するようになしたので、挿入荷重に影響を与える部位と、脱落の防止に作用する部位とを異なる部位とすることができる。これにより、挿入荷重に影響を与える部位と、脱落の防止に作用する部位とをそれぞれの役割に適した構造とできるので、組み付け作業性を向上しつつ、脱落を防止できる。
【0010】
スタビライザに組み付ける際の挿入荷重を調整する部位と、スタビライザの振動抑制力を調整する部位とを異なる部位となしてもよい。
【0011】
この場合、スタビライザに組み付ける際の挿入荷重を調整する部位と、スタビライザの振動抑制力を調整する部位とをそれぞれの役割に適した構造とできるので、組み付け性を向上しつつ、好適にスタビライザの振動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、組み付け作業性を向上しつつ、脱落を防止できる防振ブッシュを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る防振ブッシュ10の側面図である。図1(b)は、本発明の実施の形態に係る防振ブッシュ10の正面図である。防振ブッシュ10は、トーションビーム式サスペンションのトーションビーム内に設けられ、トーションビーム内のスタビライザの振動を抑制する機能を有する。
【0015】
防振ブッシュ10は、一方側に開口部14を有する断面略C字状のゴム弾性体12により構成される。ゴム弾性体12の略中央部には、軸方向に沿ってスタビライザが挿入される挿入孔16が設けられており、開口部14から挿入孔16にスタビライザを挿入できるようになっている。
【0016】
挿入孔16は、挿入されたスタビライザの周りを防振ブッシュ10が回動可能となるように形成される。ゴム弾性体12を形成するゴム材料は、特に限定されず、一般的な天然ゴムや、合成ゴムであってよい。また、挿入孔16の壁面部を、自己潤滑ゴムにより形成してもよい。この場合、耐摩耗性を向上させるとともに異音の発生も抑制することができる。
【0017】
防振ブッシュ10の開口部14近傍の部位は、スタビライザを挿入孔16に挿入する際に圧縮されて潰れるスタビライザ挿入時潰れ部18、20とされる。スタビライザ挿入時潰れ部18、20のゴムの量を調整することにより、スタビライザを挿入する際の挿入荷重を調整することができる。
【0018】
防振ブッシュ10の開口部14下方の部位は、後述するように、挿入孔16にスタビライザを挿入した後、防振ブッシュ10を回転させたときにトーションビーム内壁面により圧縮されて潰れる回転時潰れ部22とされる。回転時潰れ部22には、剛性を低下させて回転時潰れ部22が潰れ易くするための剛性低下孔28が設けられている。
【0019】
防振ブッシュ10の底面部26には、図1(a)(b)に示すように、四隅に突起部が設けられている。この突起部は、防振ブッシュ10をトーションビームに固定したときにスタビライザの振動抑制力を調整する振動抑制部24として機能する。
【0020】
次に、本実施の形態に係る防振ブッシュ10の組み付け手順について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る防振ブッシュ10をスタビライザ200に装着する様子を示す図である。
【0021】
本実施の形態において、トーションビーム100は、下方へ開口するV字断面を有している。防振ブッシュ10内の略中央には、スタビライザ200が配設されている。なお、本実施の形態では、断面V字状のトーションビーム100を示すが、トーションビームの断面形状は特に限定されず、たとえば断面U字状のトーションビームであってもよい。
【0022】
防振ブッシュ10をスタビライザ200に装着する際には、トーションビーム100の開口側から防振ブッシュ10をトーションビーム100内に入れ、防振ブッシュ10の開口部14をスタビライザ200下方に位置させ、防振ブッシュ10を所定の挿入荷重で上方に押し込む。これにより、スタビライザ挿入時潰れ部18、20がスタビライザ200により圧縮されて潰れ、スタビライザ200が開口部14を通過して、挿入孔16にスタビライザ200が挿入される。
【0023】
スタビライザ200が通過後、スタビライザ挿入時潰れ部18、20は再び原形に復して拡大し、スタビライザ200を挿入孔16内に保持するための係止部として機能する。スタビライザ挿入時潰れ部18、20により、防振ブッシュ10はスタビライザ200から脱落することなく仮固定される。この状態においては、防振ブッシュ10のスタビライザ挿入時潰れ部18に、防振ブッシュ10が重力により脱落するのを防止する脱落防止力Fが発生している。
【0024】
図3は、本発明の実施の形態に係る防振ブッシュ10をトーションビーム100に固定する様子を示す図である。本実施の形態に係る防振ブッシュ10においては、挿入孔16にスタビライザ200を挿入した後、防振ブッシュ10をトーションビーム100に固定するために、スタビライザ200周りに回転するよう防振ブッシュ10を押圧する。防振ブッシュ10を押圧回転することにより、回転時潰れ部22がトーションビーム100の内壁面によって圧縮されて潰れ、防振ブッシュ10は、図3に示すように、防振ブッシュ10の底面部26がトーションビーム100の内壁面と当接する位置まで回転する。
【0025】
上述したように、回転時潰れ部22に剛性低下孔28を設けたことにより、回転時潰れ部22の剛性は防振ブッシュ10の他の部位よりも低下しており、潰れ易くなっている。従って、防振ブッシュ10を回転させる際には、それ程大きな力が必要とされないようになっている。本実施の形態では、1つの剛性低下孔28を示したが、剛性低下孔28の数は1つに限られず、必要に応じて複数の剛性低下孔28を形成してもよい。
【0026】
図3のように防振ブッシュ10の底面部26がトーションビーム100の内壁面と当接した状態において、底面部26の四隅に形成された突起状の振動抑制部24は、トーションビーム100の内壁面により圧縮変形されている。この振動抑制部24の弾性力により、防振ブッシュ10はスタビライザ200とトーションビーム100との間にしっかりと固定される。振動抑制部24の形状を変えて作用する弾性力を変えることにより、スタビライザ200の振動抑制力を調整することができる。
【0027】
図3のように防振ブッシュ10がスタビライザ200とトーションビーム100との間に固定された状態においては、防振ブッシュ10の回転時潰れ部22に防振ブッシュ10が重力により脱落するのを防止する脱落防止力Fが発生している。
【0028】
このように、本実施の形態に係る防振ブッシュ10によれば、防振ブッシュ10をスタビライザ200に組み付け後、スタビライザ200周りに回転させることにより、スタビライザ200組み付け時に脱落防止力Fが発生していたスタビライザ挿入時潰れ部18とは異なる部位である回転時潰れ部22に脱落防止力Fが発生させることができる。スタビライザ200を挿入する際の挿入荷重に影響を与える部位であるスタビライザ挿入時潰れ部18、20と、脱落の防止に作用する部位である回転時潰れ部22とを異なる部位とすることができるので、スタビライザ挿入時潰れ部18、20と、回転時潰れ部22とをそれぞれの役割に適した構造とするが可能となり、組み付け作業性を向上しつつ、脱落を確実に防止することができる。
【0029】
たとえば、スタビライザ挿入時潰れ部18、20は、スタビライザ200を挿入しやすくするために、ゴムの量を減らして剛性を低下させる構造とすることができる。このようにスタビライザ挿入時潰れ部18、20の剛性を低下させても、スタビライザ挿入時潰れ部18、20は防振ブッシュ10の脱落を防止する役割を担っていないので、脱落防止性能には影響しない。
【0030】
また、本実施の形態に係る防振ブッシュ10によれば、スタビライザ200に組み付ける際の挿入荷重を調整するスタビライザ挿入時潰れ部18、20と、スタビライザ200の振動抑制力を調整する振動抑制部24とを異なる部位となしているので、それぞれの役割に適した構造とできる。これにより、組み付け性を向上しつつ、好適にスタビライザの振動を抑制することができる。
【0031】
図4は、本発明の別の実施の形態に係る防振ブッシュ300を示す図である。図4に示す防振ブッシュ300では、トーションビーム100の両内壁面に防振ブッシュ10が当接している点が、図3に示す防振ブッシュ10と異なる。すなわち、防振ブッシュ300は、トーションビーム100の一方の内壁面100aに底面部26が当接し、もう一方の内壁面100bにスタビライザ挿入時潰れ部18が当接している。
【0032】
この図4に示す防振ブッシュ300においても、図3の防振ブッシュ10と同様に、スタビライザ200に組み付けた後に、回転させて、トーションビーム100に固定させるので、組み付け性を向上しつつ、脱落を防止できる。また、このように、スタビライザ挿入時潰れ部18と底面部26の2つの部位をトーションビーム100に当接させているので、スタビライザ200の振動抑制効果を高めることができるとともに、防振ブッシュ300の脱落をより好適に防止できる。
【0033】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1(a)は、本発明の実施の形態に係る防振ブッシュの側面図である。図1(b)は、本発明の実施の形態に係る防振ブッシュの正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る防振ブッシュをスタビライザに装着する様子を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る防振ブッシュをトーションビームに固定する様子を示す図である。
【図4】本発明の別の実施の形態に係る防振ブッシュを示す図である。
【符号の説明】
【0035】
10、300 防振ブッシュ、 12 ゴム弾性体、 14 開口部、 16 挿入孔、 18、20 スタビライザ挿入時潰れ部、 22 回転時潰れ部、 24 振動抑制部、 26 底面部、 28 剛性低下孔、 100 トーションビーム、 200 スタビライザ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーションビーム内のスタビライザの振動を抑制する防振ブッシュであって、
当該防振ブッシュを前記スタビライザに組み付け後、前記スタビライザ周りに回転させることにより、前記スタビライザ組み付け時とは異なる部位に脱落防止力が発生するようになしたことを特徴とする防振ブッシュ。
【請求項2】
前記スタビライザに組み付ける際の挿入荷重を調整する部位と、前記スタビライザの振動抑制力を調整する部位とを異なる部位となしたことを特徴とする請求項1に記載の防振ブッシュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−120069(P2009−120069A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297128(P2007−297128)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】