説明

防振継手およびその製造方法

【課題】剛性を高く保ちつつも振動伝播を抑制することができる構造を備えた防振継手を提供すること。
【解決手段】積層された6つの部材11(11a〜11f)と、積層されて隣り合う部材11同士を連結するボルト12と、を備える取付ブラケット1(防振継手)である。隣り合う部材11同士がボルト12により相互にポイントで連結されている。隣り合う部材11同士の間には、粘弾性部材14およびスペーサ部材13が挟み込まれている。ここに、「ポイント」とは、箇所のことをいう。換言すれば、点、および点を含むその点近傍の所定範囲のことを本発明においてポイントという。隣り合う部材11同士がその対向面全体(全面)にわたって接合されているのではなく、その対向面の一部で連結されているため、高い剛性を保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振継手に関し、例えば、自動車用試験装置に用いられる継手として好適な防振継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用試験装置とは、EV(Electric Vehicle)用モータ、トランスミッションなどの自動車部品を被試験体としてその試験を行うための装置のことをいう。自動車部品の例えば耐久性、特性を把握するための試験を自動車用試験装置により行う。自動車用試験装置としては、例えば特許文献1に記載されたような装置がある。
【0003】
ここで、上記被試験体は、継手を介してモータなどと接続される。被試験体に作用するモータなどからの振動はノイズとなるので、極力低減させる必要がある。一方、自動車用試験装置においては、モータなどと被試験体との間を接続する継手の剛性は、高く保つ必要がある。よって、従来、継手はムク材(一体もの)からなるものが多かった。ムク材からなる継手の固有振動数をコントロールするなどしてモータ側から被試験体側への振動伝播を防いでいた。
【0004】
一方、振動を発生する機械類の制振構造に関する技術としては、例えば特許文献2に記載されたようなものがある。特許文献2には、被制振部材と拘束板とをウレタン系接着剤で張り合わせた制振構造が記載されている。この構造によると、硬化したウレタン系接着剤からなる接着層が弾性を有し、振動を吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−74611号公報
【特許文献2】特開2005−315281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された上記制振構造を継手に応用した場合、その接着層の存在により、継手の剛性を高く保つことはできない。なお、特許文献2には、シリカなどの硬質な粉末を接着剤に混合させておくことで接着層の硬度を調整することができる、と記載されている。しかしながら、接着剤への硬質粉末の混合割合が低いと、継手の剛性は低下する。一方、接着剤への硬質粉末の混合割合が高いと、継手の剛性を高く保てるが、継手全体として一体ものに近づいていき、制振性は低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、剛性を高く保ちつつも振動伝播を抑制することができる構造を備えた防振継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、剛性を高く保てる材料からなる少なくとも3つの部材を積層させ、積層されて隣り合う部材同士を相互にポイントで連結することにより、前記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明が完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、積層された少なくとも3つの部材と、積層されて隣り合う前記部材同士を連結する前記部材と同一の材料からなる連結手段と、を備え、少なくとも3つの隣り合う前記部材同士が前記連結手段により相互にポイントで連結されている防振継手である。
【0010】
本発明において、ポイントとは、箇所のことをいう。換言すれば、点、および点を含むその点近傍の所定範囲のことを本発明においてポイントという。隣り合う部材同士がその対向面全体(全面)にわたって接合されているのではなく、その対向面の一部で連結されているのである。
【0011】
また、本発明において、「積層された」とは、所定の厚みを有する前記した少なくとも3つの部材同士が、直接または間接的に重ね合わせられた状態(すきまなく重ね合わせられた状態)のことをいう。当該3つの部材同士が間接的に重ね合わせられた状態とは、例えば挟み込まれるなどして当該3つの部材同士の間に他の部材が配置されている状態のことをいう。
【0012】
さらに、本発明において用いられる材料としては、金属材料およびセラミックといった剛性を高く保てる材料が挙げられる。なお、本願において、剛性を高く保てる材料とは、ヤング率が200GPa以上の材料のことをいう。また、金属材料としては、炭素鋼、ステンレス鋼などが挙げられる。
【0013】
この構成によると、少なくとも3つの積層された隣り合う部材同士が相互にポイントで連結されているため、これら部材のうち中央側の部材は、微少量だけ変形可能となる。振動源からの振動エネルギーは、この中央側の部材の微少変形により熱エネルギーに変換されて減衰し、その結果、振動伝播は抑制される。しかも、本発明の防振継手は、剛性を高く保てる材料からなる部材同士が連結され、さらに部材と同じ材料による連結手段を備えているという構造のため、その剛性を高く保つことが可能である。
【0014】
また本発明において、少なくとも3つの前記部材のうち、中央側部材がずれせん断変形することによる摩擦で防振されることが好ましい。
【0015】
この構成によると、振動が本発明の防振継手に伝わると、中央側部材がずれせん断変形し、その結果、中央側部材とその両側に位置する部材との間で摩擦が生じる。これにより、振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて減衰し、振動伝播は抑制される。
【0016】
さらに本発明において、軸方向において隣り合う前記ポイントが、周方向において相互にずらされていることが好ましい。
【0017】
この構成によると、少なくとも3つの積層された隣り合う部材のうち中央側の部材は、より微少変形しやすくなる。その結果、振動伝播をより抑制することができる。
【0018】
さらに本発明において、隣り合う前記部材同士の間に挟持された粘弾性部材を備えていることが好ましい。
【0019】
この構成によると、粘弾性部材に振動エネルギーが吸収されて振動は減衰する。これにより、振動伝播をより抑制することができる。なお、剛性を高く保てる材料からなる部材同士が相互に連結され、さらに部材と同じ材料による連結手段を備えているという構造のため、剛性は高く保たれる。
【0020】
さらに本発明において、隣り合う前記部材同士の間であって且つ前記ポイントに、前記部材と同じ材料からなる環状のスペーサ部材が配置されていることが好ましい。
【0021】
この構成によると、粘弾性部材の変形(つぶれてしまうことなど)を防止することができる。その結果、防振継手の剛性を維持することができるとともに、粘弾性部材による振動抑制効果を維持することができる。
【0022】
さらに本発明において、前記連結手段はボルトであり、前記スペーサ部材の孔に対して前記ボルトが挿入された状態で、隣り合う前記部材同士の間に当該スペーサ部材が挟持されていることが好ましい。
【0023】
この構成によると、連結手段が溶接などの場合に比して、防振継手の分解が容易となる。そのため、例えば、防振継手の長さの変更に対応しやすい。
【0024】
さらに本発明において、隣り合う前記部材の材質が相互に異なることが好ましい。
【0025】
この構成によると、伝播してきた振動(入射振動)の一部は部材の境界面で反射する(向きが180°変わる)。その結果、振動伝播をより抑制することができる。
【0026】
また本発明は、その第2の態様によれば、少なくとも3つの部材を積層させて隣り合わせ、隣り合う当該部材同士を前記部材と同じ材料からなる連結手段によりポイントで連結する連結工程と、前記連結工程により組み立てられた防振継手の端面を加工する加工工程と、を備える防振継手の製造方法である。
【0027】
この構成によると、少なくとも3つの積層された隣り合う部材同士を相互にポイントで連結させることにより、これら部材のうち中央側の部材は、微少量だけ変形可能となる。振動源からの振動エネルギーは、この中央側の部材の微少変形により熱エネルギーに変換されて減衰し、その結果、振動伝播は抑制される。しかも、製造された防振継手は、剛性を高く保てる材料からなる部材同士が相互に連結され、さらに部材と同じ材料による連結手段を備えているという構造のため、その剛性を高く保つことができている。
【0028】
また、防振継手を組み立てた後、その端面を加工することで、組み立て前の部品段階で端面を加工する場合に比して、防振継手の軸心を出し易く、かつ、その精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、少なくとも3つの積層された隣り合う部材同士が相互にポイントで連結されているため、これら部材のうち中央側の部材は、微少量だけ変形可能となる。これにより、振動源からの振動伝播を抑制することができる。しかも、剛性を高く保てる材料からなる部材同士が連結され、さらに部材と同じ材料による連結手段を備える構造のため、剛性を高く保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動車用試験装置を示す概略の側面図である。
【図2】図1に示す取付ブラケットの概略図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る取付ブラケットの概略図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る取付ブラケットおよびその他変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、本発明に係る防振継手を自動車用試験装置に適用した例を示すが、本発明に係る防振継手を自動車用試験装置以外の各種試験装置、ならびにその他用途の継手にも適用してもよい。本発明に係る防振継手は、剛性を高く保ちつつ軸方向の振動伝播を防止する必要のある場合に好適な継手である。
【0032】
(自動車用試験装置)
図1は、本発明の一実施形態に係る自動車用試験装置100を示す概略の側面図である。図1に示すように、自動車用試験装置100は、モータM(例えば、ダイナモ)、トルクメータ3、および中間軸受4を備える。モータMとトルクメータ3とは回転フランジ2で連結されている。中間軸受4の一端には取付ブラケット1が取り付けられている。モータMと回転フランジ2、回転フランジ2とトルクメータ3、および中間軸受4と取付ブラケット1は、それぞれ、例えばボルト・ナットにより連結される。
【0033】
このような構成の自動車用試験装置100の取付ブラケット1の一端に被試験体Dが取り付けられる。被試験体Dとしては、EV(Electric Vehicle)用モータ、トランスミッションなどの自動車部品が挙げられる。
【0034】
本実施形態では、取付ブラケット1に対して本発明に係る防振継手(構造)を適用した例を示すが、本発明に係る防振継手(構造)を例えば自動車用試験装置100の回転フランジ2に適用してもよい。すなわち、取付ブラケット1が本発明に係る防振継手の一実施形態であり、回転フランジとして本発明に係る防振継手を利用することもできる。取付ブラケットと回転フランジとは、2つのものを連結する継手であることで共通する。取付ブラケットは動かない(回転などしない)継手であるのに対し、回転フランジは軸回りに回転する継手である。
【0035】
(防振継手の構成)
(第1実施形態)
ここで、図2(a)は、図1に示す取付ブラケット1の正面図であり、図2(b)は、取付ブラケット1の側断面図である。
【0036】
(積層された部材)
図2に示すように、第1実施形態に係る取付ブラケット1は、中空の継手であり、その一端側から他端側へ向かって、順に第1部材11a、第2部材11b、第3部材11c、第4部材11d、第5部材11e、および第6部材11fを有する。これら6つの部材11が、本発明の積層された少なくとも3つの部材に相当する。部材11の材質は、炭素鋼、ステンレス鋼などの剛性を高く保てる金属材料である。部材11の材質は、金属材料同様に剛性を高く保てる材料であるセラミックであってもよい。なお、剛性を高く保てる材料とは、ヤング率が200GPa以上の材料のことをいう。6つの部材11の材質は統一されてもよいし、異なる材質としてもよい。異なる材質とする場合は、例えば、第1部材11a、第3部材11c、および第5部材11eの材質を同じ材質とする。これに対して、第2部材11b、第4部材11d、および第6部材11fの材質を同じ材質とする。しかしながら、第1部材11a、第3部材11c、および第5部材11eの材質と、第2部材11b、第4部材11d、および第6部材11fの材質とは相違させる。
【0037】
第1部材11aは、中心に孔16が設けられた円板状の部材であり、軸方向Zに所定の厚みを有する。第1部材11aの軸方向Zに対して直交する端面は平坦である。第1部材11aの孔16の周囲には等間隔(等位相差、120°の位相差)で3つの孔18が設けられている。孔18には後述するボルト12が入れられる。孔18の内側面には、雌ねじが形成されていてもよいし形成されていなくてもよい。また、3つの孔18のさらに外側には等間隔(等位相差、45°の位相差)で8つの孔15が設けられている。取付ブラケット1と中間軸受4とは孔15にボルトが挿入されて連結される。なお、孔18および孔15の数は、本実施形態の個数に限られるものではない。第6部材11fの形状、寸法は、第1部材11aと同様である。
【0038】
第2部材11bは、軸方向Zに所定の厚みを有する筒状の部材であり、その内径は、第1部材11aの孔16の径と同じである。一方、第2部材11bの外径は第1部材11aの外径よりも小さい。第2部材11bの軸方向Zに対して直交する端面は平坦である。第2部材11bには、軸方向Zからみた端面に等間隔(等位相差、120°の位相差)で3つの孔19が設けられている。孔19には後述するボルト12が入れられる。孔19の内側面には、雌ねじが形成されていてもよいし形成されていなくてもよい。また、軸方向Zからみた端面に等間隔(等位相差、120°の位相差)で3つの穴20(有底の穴)が設けられている。孔20には後述するボルト12が捻じ込まれる。孔20の内側面には、雌ねじが形成されている。孔19と穴20との位相差は60°である。なお、孔19および穴20の数は、本実施形態の個数に限られるものではない。第3部材11c、第4部材11d、および第5部材11eの形状、寸法は、第2部材11bと同様である。
【0039】
第1部材11aと第2部材11bとは直接、重ね合わせられている(積層されている)。第5部材11eおよび第6部材11fも同様に相互に直接、重ね合わせられている(積層されている)。
【0040】
第2部材11bと第3部材11cとの間、第3部材11cと第4部材11dとの間、第4部材11dと第5部材11eとの間には、それぞれ、粘弾性部材14が挟み込まれている。すなわち、部材(11b〜11e)同士は、粘弾性部材14を介して(間接的に)重ね合わせられている(積層されている)。
【0041】
このように、本発明において「積層された」とは、所定の厚みを有する少なくとも3つの部材同士(部材11同士)が、直接または間接的に重ね合わせられた状態(すきまなく重ね合わせられた状態)のことをいう。部材同士が間接的に重ね合わせられた状態とは、例えば挟み込まれるなどして部材(部材11b〜11e)同士の間に他の部材(例えば粘弾性部材14)が配置されている状態のことをいう。
【0042】
部材11(11b〜11e)は、いずれも、軸方向Zにおいて対向するその両端面が、軸方向Zに対して直交する円板状とされている。しかしながら、軸方向Zにおいて対向するその両端面のうちの少なくともいずれかの端面を、軸方向Zに対して90未満の角度で傾けた円板状の部材としてもよい。
【0043】
(粘弾性部材)
粘弾性部材14の形態は、リング状の例えば所定の厚みを有するシート状部材であり、その内径は部材11の内径とほぼ等しい。また、その外径は部材(11b〜11e)の外径とほぼ等しい。粘弾性部材14の厚みは、部材11の厚みよりも小さい。シート状かつリング状の粘弾性部材14には、等間隔(等位相差、120°の位相差)で3つの孔14aが設けられている。
【0044】
粘弾性部材14の材料としては、ウレタン樹脂、アスファルト、プラスチックなどを挙げることができる。
【0045】
(連結手段)
積層されて隣り合う部材11(11a〜11f)同士は、ボルト12で相互に連結されている。部材11の端面に形成された穴20にボルト12が捻じ込まれることで相互に連結されている。ここで、部材11(11a〜11f)同士は、相互に3つのポイント(ボルト12部分)でそれぞれ連結されている。本発明において、「ポイント」とは、箇所のことをいう。換言すれば、点、および点を含むその点近傍の所定範囲のことを本発明においてポイントという。隣り合う部材11同士がその対向面全体(全面)にわたって接合されているのではなく、その対向面の一部でボルト12により連結されているのである。ボルト12の材質は、炭素鋼、ステンレス鋼などの金属材料である。なお、ボルト12の材質はセラミックであってもよい。すなわち、ボルト12は剛性を高く保つことのできる材料からなる連結手段である。なお、ボルト12以外の連結手段としては、溶接を挙げることができる。すなわち、部材11同士が、溶接により相互にポイントで連結されていてもよい。また、本実施形態では、隣り合う部材11同士がそれぞれ3箇所で連結されているが、必ずしも3箇所で連結されている必要はなく、2箇所で連結されていてもよいし、4箇所以上で連結されていてもよい。さらには、1箇所のみで相互に連結されていてもよい。
【0046】
軸方向Zにおいて隣り合う連結箇所(ポイント)は、取付ブラケット1の周方向において相互にずらされている(ちどり配置されている)。具体的には、例えば軸方向Zにおいて隣り合うボルト12aとボルト12bとが、取付ブラケット1の周方向において60°の位相差で相互にずらされている。なお、本実施形態では、隣り合う連結箇所(ポイント)が60°の位相差でずらされている例を示したが、60°以外の位相差で相互にずらされていてもよい。
【0047】
さらには、軸方向Zにおいて隣り合う連結箇所(ポイント)が、軸方向Zに沿って一直線上に位置していてもよい。すなわち、隣り合う部材11同士が連結手段(例えばボルト)により相互にポイントで連結されていることが重要なのである。具体的には、例えばボルト12aとボルト12bとが、軸方向Zに沿って一直線上に位置していてもよい。ボルト12bを、例えばボルト頭のない総ネジボルトにし、且つ2本のボルト(12aおよび12b)が少し間隔を開けて一直線上に配置できるように第2部材11bの厚みを決定することで、ボルト12aとボルト12bとを軸方向Zに沿って一直線上に位置させることができる。
【0048】
(スペーサ部材)
隣り合う部材11同士の間であって且つその連結部には、環状のスペーサ部材13が配置されている。スペーサ部材13の材質は、炭素鋼、ステンレス鋼、真鍮などの剛性を高く保つことのできる金属材料である。なお、スペーサ部材13の材質は、金属材料同様に剛性を高く保てる材料であるセラミックであってもよい。本実施形態では、スペーサ部材13の孔に対してボルト12が挿入された状態で、隣り合う部材11同士の間にスペーサ部材13が挟持されている。この形態によると、連結手段が溶接などの場合に比して取付ブラケット1の分解が容易となる。これにより、取付ブラケット1の長さの変更などに対応しやすい。
【0049】
スペーサ部材13としては、例えば、平座金、バネ座金を挙げることができる。スペーサ部材13としてバネ座金を用いると、部材11同士の連結力が高まり、その結果、複数の部材11からなる取付ブラケット1の剛性をより高く保つことができる。
【0050】
部材11同士の間に、必ずしもスペーサ部材13を挟みこむ必要はない。例えば孔18の内側面および穴20の内側面のいずれにも雌ねじを形成しておけば、スペーサ部材13がなくても、ボルト12のねじ部分のみで隣り合う部材11同士を圧縮方向にも引張方向にも固定することができるからである。しかしながら、取付ブラケット1全体として剛性を高く保つ観点からも、スペーサ部材13を挟みこんでおくことが好ましい。
【0051】
本実施形態の取付ブラケット1によると、高剛性材料からなり積層されて隣り合う6つの部材11同士が相互にポイントで連結されているため、これら部材11のうち中央側の部材(11b〜11e)は、それぞれ微少量だけ変形可能となる。より具体的には、6つの部材11同士が相互にポイントで連結されていることにより、中央側部材(11b〜11e)は、図2(c)に示したようにずれせん断変形可能となる。なお、図2(c)は、第3部材11cのずれせん断変形を模式的に示した図である。ずれせん断変形とは、軸方向Zに対して直交する方向に、部材が波打つように変形することである。なお、変形量は微少である。
【0052】
振動源である中間軸受4からの振動エネルギーは、中央側部材(11b〜11e)の微少変形(ずれせん断変形)により熱エネルギーに変換されて減衰し、その結果、振動伝播は抑制される。振動エネルギーが取付ブラケット1に伝わると、中央側部材(11b〜11e)がずれせん断変形し、その結果、中央側部材(11b〜11e)とその両側に位置する部材(本実施形態では粘弾性部材14や部材(11a、11f))との間で摩擦が生じる。これにより、振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて減衰する。すなわち、中央側部材(11b〜11e)のずれせん断変形により取付ブラケット1に生じる曲げ波を減衰させることができ、中間軸受4から被試験体Dへの振動伝播を抑制することができる。なお、取付ブラケット1は、高剛性材料からなるボルト12で、高剛性材料からなる部材11同士が連結されているという構造のため、その剛性を高く保つことができている。
【0053】
また、軸方向Zにおいて隣り合う連結箇所(ポイント)が、取付ブラケット1の周方向において相互にずらされていることにより、中央側部材(11b〜11e)は、より微少変形しやすくなる。その結果、振動伝播をより抑制することができる。
【0054】
さらに、中間軸受4からの振動エネルギーは、粘弾性部材14に吸収されることによっても減衰する。これにより、振動伝播をより抑制することができる。なお、高剛性材料からなるボルト12で、高剛性材料からなる部材11同士が相互に連結されているという構造のため、取付ブラケット1の剛性は高く保たれる。
【0055】
また、隣り合う部材11同士の間の連結部には、高剛性材料からなる環状のスペーサ部材13が配置されているため、粘弾性部材14の変形(つぶれてしまうことなど)を防止することができる。その結果、取付ブラケット1の剛性を維持することができるとともに、粘弾性部材14による振動抑制効果を維持することができる。
【0056】
(防振継手の製造方法)
次に、取付ブラケット1の製造方法について説明する。
【0057】
(連結工程)
前記した剛性を高く保てる材料からなる6つの部材11(11a〜11f)を相互の中心を合わせて軸方向Zに積層させる。このとき、部材11(11b〜11e)同士の間に、それぞれ、粘弾性部材14およびスペーサ部材13を挟みこむ。また、隣り合う部材11(11a〜11f)同士をそれぞれボルト12によりポイントで連結する。
【0058】
より具体的には、例えば、第5部材11eと第6部材11fとを重ね合わせた後、3本のボルト12で相互に連結する。次に、粘弾性部材14およびスペーサ部材13を挟みこみながら、第4部材11dを第5部材11eに重ね合わせて3本のボルト12で相互に連結する。これを繰り返して取付ブラケット1を組み立てる。
【0059】
(加工工程)
次に、組み立てた取付ブラケット1の端面17を旋盤などで加工する。本実施形態の取付ブラケット1では、第1部材11aの端面17aおよび第6部材11fの端面17bが、軸方向Zに対して直交するように平坦に加工する。なお、端面17aおよび端面17bのうちのいずれか一方は、取付ブラケット1の組み立て前の部品段階で加工しておいてもよい。
【0060】
取付ブラケット1を組み立てた後、その端面17を加工することで、組み立て前の部品段階で端面を加工する場合に比して、取付ブラケット1の軸心を出し易く、かつ、その精度を向上させることができる。
【0061】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る取付ブラケット201の概略図である。図3(a)は取付ブラケット201の側断面図であり、図3(b)は図3(a)の一部拡大図である。本実施形態の説明においては、第1実施形態の取付ブラケット1との相違について主に説明する。なお、第1実施形態の取付ブラケット1と同一の部材については、同一の符号を付している。
【0062】
本実施形態の取付ブラケット201では、第1実施形態の取付ブラケット1を構成する粘弾性部材14を用いていない。粘弾性部材14を用いないことにより、スペーサ部材13も用いていない。
【0063】
一方、本実施形態の取付ブラケット201では、隣り合う部材21の材質が相互に異なる。換言すれば、隣り合う部材21の固有インピーダンスZ([kg/sm])が相互に異なる。第1部材21a、第3部材21c、および第5部材21eの材質は同じである。これに対して、第2部材21b、第4部材21d、および第6部材21fの材質は同じである。しかしながら、第1部材21a、第3部材21c、および第5部材21eの材質と、第2部材21b、第4部材21d、および第6部材21fの材質とは相違する。
【0064】
図3(b)に示したように、第2部材21b内から第3部材21c内へ入る振動を入射振動Uiとする。第2部材21b内から第3部材21c内へ入った振動を透過振動Utとする。また、第2部材21bと第3部材21cとの境界で反射した振動を反射振動Urとする。ここで、第2部材21b内および第3部材21c内の振動速度[m/s]を、それぞれ、U、Uとすると、縦波の伝播特性は次式で表される。
【0065】
τu = U/U = 2Z/(Z+Z
τ = Ut・Z/(Ui・Z) = 4Z/(Z+Z
τu:振動速度の透過率
τ:振動の強さの透過率(エネルギー的)
:第2部材21bの固有インピーダンス(=ρ
:第3部材21cの固有インピーダンス(=ρ
ρ、ρ:第2部材21bおよび第3部材21cのそれぞれの密度[kg/m]
、c:第2部材21bおよび第3部材21cのそれぞれの縦波伝播速度[m/s]
【0066】
上記した式より、Z(=ρ)とZ(=ρ)との差の絶対値が大きいほど振動エネルギーが減衰することがわかる。すなわち、透過振動Utが小さくなり、反射振動Urが大きくなる。
【0067】
したがって、本実施形態の取付ブラケット201によると、伝播してきた振動(入射振動Ui)の一部は部材の境界面で反射する(向きが180°変わる)。その結果、振動伝播をより抑制することができる。
【0068】
なお、第1実施形態の取付ブラケット1において、第1部材11aおよび第2部材11bの材質の材質を相互に相違させ、且つ、第5部材11eおよび第6部材11fの材質も相互に相違させることがより好ましい。第1部材11aと第2部材11b、第5部材11eと第6部材11fとは、いずれも面で直接接触する部材同士であるので、前記した原理により、その面(境界面)でも振動伝播を抑制することができる。
【0069】
相互に異なる材質の組み合わせとしては、コンクリート、岩石、石膏、木材などがといった材料がある。
【0070】
(第3実施形態)
図4(a)は、本発明の第3実施形態に係る取付ブラケット301の概略の側断面図である。本実施形態の説明においては、第2実施形態の取付ブラケット201との相違について主に説明する。なお、第2実施形態の取付ブラケット201と同一の部材については、同一の符号を付している。
【0071】
第2実施形態の取付ブラケット201との主な相違は、本実施形態の取付ブラケット301においては、高剛性からなり積層させる部材31の厚みを統一していないことである。このように、積層させる部材31の厚みが相互に異なるようにしてもよい。
【0072】
また、本実施形態の部材31は、いずれも中実の部材である。このように、取付ブラケット201の内側に軸・ケーブルなどを通す必要がない場合は、中実の取付ブラケット301としてもよい。
【0073】
(その他の変形例)
図4(b)および図4(c)は、それぞれ、取付ブラケット301の変形例を示す概略の側面図である。前記した、取付ブラケット1、201、301は、いずれも被試験体Dなどとボルトで連結できる鍔(例えば、図2に示した第1部材11a、第6部材11fなど)を有する継手であるが、このような鍔は必ずしも必要でない。図4(b)および図4(c)に示した取付ブラケット401、501のように鍔を設けなくてもよい。この場合、取付ブラケット401のように中空円筒状の継手としてもよいし、取付ブラケット501のように中実円筒状の継手としてもよい。取付ブラケット401は、円筒状の複数の部材41が積層されてなる継手であり、取付ブラケット501は、中実の複数の部材51が積層されてなる継手である。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【0075】
例えば、図2に示した取付ブラケット1の部材11(11a〜11f)は、いずれも円形であるが、これらの部材を四角形などとしてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1:取付ブラケット(防振継手)
11:部材
12:ボルト(連結手段)
13:スペーサ部材
14:粘弾性部材
100:自動車用試験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された少なくとも3つの部材と、
積層されて隣り合う前記部材同士を連結する前記部材と同一の材料からなる連結手段と、
を備え、
少なくとも3つの隣り合う前記部材同士が前記連結手段により相互にポイントで連結されている、防振継手。
【請求項2】
請求項1に記載の防振継手において、
少なくとも3つの前記部材のうち、中央側部材がずれせん断変形することによる摩擦で防振されることを特徴とする、防振継手。
【請求項3】
請求項1または2に記載の防振継手において、
隣り合う前記部材同士の間に挟持された粘弾性部材を備えていることを特徴とする、防振継手。
【請求項4】
請求項3に記載の防振継手において、
隣り合う前記部材同士の間であって且つ前記ポイントに、前記部材と同一の材料からなる環状のスペーサ部材が配置されていることを特徴とする、防振継手。
【請求項5】
少なくとも3つの部材を積層させて隣り合わせ、隣り合う当該部材同士を前記部材と同一の材料からなる連結手段によりポイントで連結する連結工程と、
前記連結工程により組み立てられた防振継手の端面を加工する加工工程と、
を備える、防振継手の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−214670(P2011−214670A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83636(P2010−83636)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】