説明

防水パンの製造方法

【課題】RTM成形法で防水パンを成形するに際して、防水パン固定用金具を後加工で取り付ける手間を不要として、防水パン製造作業の効率化が図れるようにした防水パンの製造方法を提供する。
【解決手段】レジン・トランスファー・モールディング(RTM)成形法で、防水パン(FRP成形品)1を成形するに際して、プリフォーム部材19の角材(補強材)22に予め取り付けたナット(防水パン固定用金具)30を、第2の樹脂層25にインサートモールドする。これにより、成形が完了した防水パン1の角材22に、ナット30を後加工で取り付ける手間が不要になり、防水パン製造作業の効率化が図れるようになる。また、ナット30を後加工で角材22に取り付ける場合と比較して、第2の樹脂層25によりナット30の取り付けがより強固に補強されるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室、洗面所、洗濯機置き場等に用いられる防水パンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチック(FRP)の成形技術としては、ハンドレイアップ(HLU)成形法やレジン・トランスファー・モールディング(RTM)成形法がある(特許文献1)。また、浴室等の防水パンの製造方法は既に提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
ところで、浴室等の防水パンをFRPで製造するに際しては、HLU成形法により、作業者による手作業で繊維に樹脂等を含浸させながら積み重ね成形していた。
【0004】
このような防水パンには大きな荷重が作用することから、金属(鉄)製のフレームがインサートされていて、防水パンを浴室床材の上に配置して固定するためのナットやボルト等の取り付け部材は、金属製のフレームに溶接固定していたが、溶接作業に手間とコストがかかるという問題があった。
【0005】
一方、RTM成形法により、防水パンを成形する技術を本出願人が開発している。このRTM成形法によれば、HLU成形法と比べて、作業者による品質のばらつきが無く、製造作業も大幅に効率化するという利点がある。また、プリフォーム部材内に木製等の補強材を設けるだけで良く、HLU成形法のような金属製のフレームが不要になるという利点もある。
【特許文献1】特開2006−70684号公報
【特許文献2】特開平8−312170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、RTM成形法で防水パンを成形する場合には、成形が完了した防水パンの補強材に、防水パン固定用金具を後加工で取り付ける必要があったことから、取り付けに手間がかかって、防水パン製造作業の効率化が阻害されるという問題があった。
【0007】
本発明は、前記問題を解消するためになされたもので、RTM成形法で防水パンを成形するに際して、防水パン固定用金具を後加工で取り付ける手間を不要として、防水パン製造作業の効率化が図れるようにした防水パンの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、成形用下型に第1の樹脂を塗布し、予め補強材に防水パン固定用金具を取り付けたプリフォーム部材を第1の樹脂の上に載置し、プリフォーム部材の上に上型を配置して、上下型をクランプした後に、プリフォーム部材と上型との間に第2の樹脂を圧入することで、第2の樹脂層に防水パン固定用金具をインサートモールドすることを特徴とする防水パンの製造方法を提供するものである。
【0009】
請求項2のように、プリフォーム用下型に第1のFRP層を形成し、第1のFRP層の上に補強材を載置し、補強材に防水パン固定用金具を取り付けて、補強材の上に第2のFRP層を形成することで、第2のFRP層に防水パン固定用金具をインサートモールドするプリフォーム部材の製造工程を含むことが好ましい。
【0010】
請求項3のように、前記補強材に形成した凹部に、前記防水パン固定用金具を嵌め込むことで、補強材に防水パン固定用金具を予め取り付けることが好ましい。
【0011】
請求項4のように、前記補強材に、前記防水パン固定用金具をネジ、釘、接着剤で固着することで、補強材に防水パン固定用金具を予め取り付けることもできる。
【0012】
請求項5のように、前記補強材は、木製であることが好ましい。
【0013】
請求項6のように、前記防水パン固定用金具はナットであり、ナットのネジ穴は、着脱可能なキャップで閉じられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レジン・トランスファー・モールディング(RTM)成形法で、防水パン(FRP成形品)を成形するに際して、プリフォーム部材の補強材に予め取り付けた防水パン固定用金具を、第2の樹脂層にインサートモールドするようにしたから、成形が完了した防水パンの補強材に、防水パン固定用金具を後加工で取り付ける手間が不要になり、防水パン製造作業の効率化が図れるようになる。
【0015】
また、補強材に予め取り付けた防水パン固定用金具を第2の樹脂層にインサートモールドするから、防水パン固定用金具を後加工で補強材に取り付ける場合と比較して、第2の樹脂層により防水パン固定用金具の取り付けがより強固に補強されるようになる。
【0016】
請求項2によれば、プリフォーム部材の製造工程で、補強材に取り付けた防水パン固定用金具を第2のFRP層にインサートモールドするようにしたから、プリフォーム部材の取り扱い作業中に、補強材から防水パン固定用金具が脱落するおそれが無くなる。
【0017】
請求項3によれば、補強材の凹部に防水パン固定用金具を嵌め込むだけで、防水パン固定用金具を補強材に予め取り付けることができるので、取り付け作業が簡単かつ迅速に行えるとともに、第2の樹脂の圧入力で防水パン固定用金具が移動しないので、位置ズレを未然に防止できるようになる。
【0018】
請求項4によれば、補強材に凹部等の加工をすることなく、汎用のネジ、釘、接着剤を用いて防水パン固定用金具を補強材に簡単に予め取り付けることができる。
【0019】
請求項5によれば、木製の補強材は、金属製のフレームと比べて軽量でコスト安であり、凹部等の加工が簡単であるとともに、防水パン固定用金具を木ネジ、釘、接着剤のいずれでも直に固着することができる。
【0020】
請求項6によれば、第2の樹脂層やFRP層の材料がナットのネジ穴に入ることを未然に防止できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図7に示すように、例えば浴室の防水パン1は、浴室内の床材5の上に配置するものであり、洗い場2と浴槽4の置き場3とに区画されている。この防水パン1の下面には、後述するように、プリフォーム部材(強化材)19の角材(補強材)22にナット(防水パン固定用金具)30が取り付けられていて、このナット30に床材5の下方からボルト31をねじ込むことにより、防水パン1を床材5に固定するようになっている。
【0023】
図1(a)(b)(c)および図2(a)は、防水パン1内にインサートモールドするプリフォーム部材19を製造する工程図である。
【0024】
図1(a)の工程のように、基台9の上のプリフォーム用下型11の上面(表面)に、スプレー10によって、ガラス繊維束とバインダーとの混合物を所定厚み(例えば約3〜4mm)で層状に吹き付けて、第1のFRP層20〔図6(b)参照〕を形成する。この場合、第1のFRP層20をプリフォーム用下型11の上面に倣わせるために、図1(c)の工程が終了するまで吸引する(矢印a参照)。
【0025】
ついで、図1(b)の工程のように、第1のFRP層20の上に、所定厚み(例えば8.5mm)の補強用合板(補強材)21を洗い場2側(図の左側)と浴槽置き場3側(図の右側)にそれぞれ載置するとともに、この各合板21の上に、所定寸法(例えば40×40mm角)の補強用角材(補強材)22を所定位置に載置して、角材22の適所に、複数個〔本例では4個…図2(c)参照〕のナット(防水パン固定用金具)30を取り付ける。なお、合板21と角材22は木製である。
【0026】
具体的には、図6(a)に示すように、角材22に、上面と両側面とに跨る凹部22aを形成するとともに、この凹部22aにナット30の凹部30aを上方から嵌め込むことで、角材22にナット30を予め取り付けることができる。
【0027】
このナット30の上面にキャップ32を取り付けることで、ナット30のネジ穴30bをキャップ32で閉じておく。
【0028】
そして、図1(c)の工程のように、載置した合板21と角材22の上から、スプレー10によって、ガラス繊維束とバインダーとの混合物を所定厚み(例えば約1〜3mm)で層状に吹き付けて、第2のFRP層23〔図6(b)参照〕を形成する。
【0029】
その後、図2(a)の工程のように、第2のFRP層23の上にプリフォーム用上型12を配置して、上下型をクランプした後に、上下型を所定温度(例えば約60℃)の乾燥炉に所定時間(例えば約45分)入れる。
【0030】
所定時間の経過後、上下型を乾燥炉から出し、上下型をアンクランプして、図2(b)(c)のように、完成したプリフォーム部材19を取り外す。
【0031】
図3(a)(b)(c)および図4(a)(b)(c)は、プリフォーム部材19をインサートモールドした防水パン1を製造する工程図である。
【0032】
図3(a)の工程のように、スプレー13によって、成形用下型14の上面(表面)に、ゲルコート〔第1の樹脂(イソ系樹脂)〕を所定厚み(例えば約0.3〜0.5mm)で層状に吹き付けて、第1の外装用樹脂層24を形成する〔図6(b)参照〕。
【0033】
図3(b)の工程のように、成形用下型14を所定温度(例えば約70℃)の乾燥炉に所定時間(例えば約10分)入れて、第1の樹脂層24を硬化させる。
【0034】
図3(c)の工程のように、成形用下型14を乾燥炉から出し、硬化した第1の樹脂層24の上にプリフォーム部材19を載置する。
【0035】
図4(a)の工程のように、プリフォーム部材19の上に成形用上型15を配置して、上下型をクランプした後に、樹脂漏れを防止するために、上下型の外周フランジ部を所定圧力(例えば約−0.08MPa)で吸引する(矢印b参照)。さらに、樹脂の流動をアシストするために、上下型の内部を所定圧力(例えば約−0.04MPa)で吸引する(矢印c参照)。
【0036】
図4(b)の工程のように、不飽和ポリエステル樹脂〔第2の樹脂(イソ系樹脂)〕と充填材(例えば炭酸カルシウム 0〜100phr)との配合物を、硬化剤とともにタンク16から所定圧力(例えば0.3〜0.5MPa)でプリフォーム部材19と成形用上型15との間の隙間に圧入して、所定厚み(例えば約0.3〜0.5mm)の第2の外装用樹脂層25を形成する〔図6(b)参照〕。
【0037】
図4(c)の工程のように、常温で所定時間(例えば約60〜90分)放置して各樹脂を硬化させた後に、図5のように、完成した防水パン1を上下型から取り外して、ナット30の上面のキャップ32を取り外す。
【0038】
これにより、プリフォーム部材19は、第1の外装用樹脂層24と第2の外装用樹脂層25とで被覆(コーティング)されるようになる。
【0039】
前記のような防水パン1の製造工程(方法)であれば、レジン・トランスファー・モールディング(RTM)成形法で、FRP成形品である防水パン1を成形するに際して、プリフォーム部材19の角材22に予め取り付けたナット30を、第2のFRP層23とともに第2の樹脂層25にインサートモールドするようにしたから、成形が完了した防水パン1のプリフォーム部材19の角材22に、ナット30を後加工で取り付ける手間が不要になり、防水パン製造作業の効率化が図れるようになる。
【0040】
また、プリフォーム部材19の製造工程で、角材22に取り付けたナット30を第2のFRP層23にインサートモールドするようにしたから、プリフォーム部材19の取り扱い作業中に、角材22からナット30が脱落するおそれが無くなる。なお、第2のFRP層23によるナット30のインサートモールドは、ナット30の脱落を防止できる程度で良くて、完全である必要は無い。なお、プリフォーム部材19の製造工程では、角材22のナット取り付け箇所に粘着テープ等を貼って第2のFRP層23が付着しないようにし、図3(c)の工程で、第1の樹脂層24の上にプリフォーム部材19を載置した時に、粘着テープ等を剥がして角材22にナット30を取り付け、その後の図4(b)の工程で、第2の樹脂層25を形成する時に、ナット30を第2の樹脂層25に直接インサートモールドすることもできる。
【0041】
さらに、角材22に予め取り付けたナット30を第2のFRP層23とともに第2の樹脂層25にインサートモールドするから、ナット30を後加工で角材22に取り付ける場合と比較して、第2の樹脂層25によりナット30の取り付けがより強固に補強されるようになる。
【0042】
また、角材22の凹部22aにナット30を嵌め込むだけで、ナット30を角材22に予め取り付けることができるので、取り付け作業が簡単かつ迅速に行えるとともに、第2のFRP層23によるナット30のインサートモールドが不完全であっても第2の樹脂の圧入力でナット30が移動しないので〔図6(a)の矢印d,e参照〕、位置ズレを未然に防止できるようになる。
【0043】
さらに、木製の角材22と合板21は、金属製のフレームと比べて軽量でコスト安であり、凹部22a等の加工が簡単であるとともに、ナット30を木ネジ、釘、接着剤のいずれでも直に固着することができる。
【0044】
また、ナット30のネジ穴30bは、着脱可能なキャップ32で閉じられているから、第2のFRP層23や第2の樹脂層25の吹き付け材料がナット30のネジ穴30bに入ることを未然に防止できるようになる。
【0045】
前記実施形態では、角材22の凹部22aにナット30の凹部30aを上方から嵌め込むことで、角材22にナット30を予め取り付けるようにしたものであったが、角材22のナット30をネジ、釘、接着剤で固着することで、角材22にナット30を予め取り付けることもできる。この場合には、角材22に凹部22a等の加工をすることなく、汎用のネジ、釘、接着剤を用いてナット30を角材22に簡単に予め取り付けることができる。
【0046】
前記実施形態では、防水パン固定用金具としてナット30を例示したが、ナット30に代えて、ボルト等を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の実施形態に係る防水パン内にインサートモールドするプリフォーム部材を製造する工程図である。
【図2】(a)は、本発明の実施形態に係る防水パン内にインサートモールドするプリフォーム部材を製造する工程図、(b)は、完成したプリフォーム部材の断面図、(c)は、完成したプリフォーム部材の斜視図である。
【図3】(a)〜(c)は、プリフォーム部材をインサートモールドした防水パンを製造する工程図である。
【図4】(a)〜(c)は、プリフォーム部材をインサートモールドした防水パンを製造する工程図である。
【図5】完成した防水パンの斜視図である。
【図6】(a)は、角材とナットの斜視図、(b)は、防水パンの要部断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る防水パンの断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 防水パン
11 プリフォーム用下型
12 プリフォーム用上型
14 成形用下型
15 成形用上型
19 プリフォーム部材
20 第1のFRP層
21 合板(補強材)
22 角材(補強材)
22a 凹部
23 第2のFRP層
24 第1の樹脂層
25 第2の樹脂層
30 ナット(防水パン固定用金具)
30a 凹部
30b ネジ穴
32 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形用下型に第1の樹脂を塗布し、予め補強材に防水パン固定用金具を取り付けたプリフォーム部材を第1の樹脂の上に載置し、プリフォーム部材の上に上型を配置して、上下型をクランプした後に、プリフォーム部材と上型との間に第2の樹脂を圧入することで、第2の樹脂層に防水パン固定用金具をインサートモールドすることを特徴とする防水パンの製造方法。
【請求項2】
プリフォーム用下型に第1のFRP層を形成し、第1のFRP層の上に補強材を載置し、補強材に防水パン固定用金具を取り付けて、補強材の上に第2のFRP層を形成することで、第2のFRP層に防水パン固定用金具をインサートモールドするプリフォーム部材の製造工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の防水パンの製造方法。
【請求項3】
前記補強材に形成した凹部に、前記防水パン固定用金具を嵌め込むことで、補強材に防水パン固定用金具を予め取り付けることを特徴とする請求項1または2に記載の防水パンの製造方法。
【請求項4】
前記補強材に、前記防水パン固定用金具をネジ、釘、接着剤で固着することで、補強材に防水パン固定用金具を予め取り付けることを特徴とする請求項1または2に記載の防水パンの製造方法。
【請求項5】
前記補強材は、木製である請求項1〜4のいずれか一項に記載の防水パンの製造方法。
【請求項6】
前記防水パン固定用金具はナットであり、ナットのネジ穴は、着脱可能なキャップで閉じられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の防水パンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−313699(P2007−313699A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143658(P2006−143658)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】