説明

防水透湿加工布帛の製造方法

【課題】水系樹脂を繊維布帛に直接コーティングする防水透湿加工布帛の製造方法において、優れた透湿性と防水性を有し、かつ、加工シワ、塗工ムラなどの加工欠点がない膜面品位の優れた防水透湿加工布帛を提供すること。
【解決手段】繊維布帛に水系樹脂を直接コーティングし樹脂層を積層した防水透湿加工布帛を製造するに際し、コーティング前あるいはコーティング後の少なくともどちらか一方に、該繊維布帛の緯方向に拡幅処理を施す加工シワのない防水透湿加工布帛の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング樹脂として水系樹脂を利用することにより、従来の溶剤系樹脂を利用してえられるものに比べて、有機溶剤を製造工程で極力使用しないことから環境により配慮した製造方法で得られるとともに、優れた防水性能と透湿性能を具備し、かつ、加工シワ、塗工ムラのない膜面品位に優れた防水透湿加工布帛を製造することを可能にする防水透湿加工布帛の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の防水透湿加工布帛は、透湿性能及び防水性能を向上させるために、コーティングする樹脂のポリマー鎖中に親水基を導入する、あるいは、低透湿性の樹脂に高透湿性の親水性樹脂をブレンドするといった方法がとられており、これらの樹脂を有機溶剤に溶解させた塗工液を布帛にコーティングすることによって製造されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、主としてポリウレタン樹脂を有機溶剤に溶解して塗工液を得、該ポリウレタン塗工液を布帛にコーティングした後、湿式凝固工程で水と有機溶剤とを置換することによって微多孔膜を形成させて防水透湿加工布帛を製造している(例えば、特許文献2)。
【0004】
しかし、従来からの溶剤系樹脂の場合、樹脂の溶解にエチルメチルケトン、ジメチルホルムアミド、トルエンといった有機溶剤を多量に使用し、乾式法によりコーティングするため、これら有機溶剤が製造工程中に空気中へ排出され、労働環境の悪化を招くだけでなく、大気汚染、地球温暖化等の環境諸問題に対し影響を与えていると考えられる。したがって、有機溶剤の空気中への排出を抑制するために、有機溶剤の回収装置を設けるなどの対応策がとられるが、その場合、回収装置の導入に多大な労力とコストが必要となっている。
【0005】
また、世界的なVOC(Volatile Organic Compounds)規制の強化にも伴って、有機溶剤の使用量を低減化する技術開発が、各分野において種々検討がされている。 例えば、防水透湿加工布帛の分野においても有機溶剤を低減するための一つの手法として、水系樹脂を利用した防水透湿加工布帛の開発が進められ、種々提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7)。
【0006】
しかしながら、これらの提案では、溶剤系の樹脂を用いた場合のように、安定した透湿性能と防水性能を両立して有し、かつ膜面品位が良好な水系防水透湿性に優れた加工素材はいまだ得られていないのが実状であった。
【0007】
例えば、ナイロン布帛は、スキーウェアや登山向けアウトドアウェアに現在広く展開されているが、ナイロン布帛はナイロン繊維自体が水膨潤性を有しているために、ナイロン布帛に水系樹脂を直接コーティングするとナイロン布帛が水膨潤し、特に、コーティング工程後の乾燥工程でナイロン布帛が縦方向に沿って波打ち現象を発生し、巻取工程において波打った状態で巻き取りローラーに巻き取られることとなってしまい、加工シワが発生し、量産化には至っていなかった。また、生地の波打ち現象により、樹脂の塗工ムラが発生しやすく、膜面品位が低下するばかりか、耐水性能にバラツキが大きく安定した耐水性能が得られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平7−9631号公報
【特許文献2】特開昭60−47954号公報
【特許文献3】特開平1−97272号公報
【特許文献4】特開平11−207879号公報
【特許文献5】特開2004−162056号公報
【特許文献6】特開2004−256800号公報
【特許文献7】特開2005−154947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような点に鑑み、水系樹脂を繊維布帛に直接コーティングする防水透湿加工布帛の製造方法において、優れた透湿性と防水性を有し、かつ、加工シワ、塗工ムラなどの加工欠点がなく、膜面品位の優れた防水透湿加工布帛を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述した課題を解決するために、次の通りの構成を有するものである。
すなわち、繊維布帛に水系樹脂を直接コーティングして樹脂層を積層した防水透湿加工布帛を製造するに際し、前記水系樹脂のコーティング前あるいはコーティング後の少なくともいずれかで、該繊維布帛の緯方向に拡幅処理を施すことを特徴とする防水透湿加工布帛の製造方法である。
【0011】
本発明は、特に、水膨潤性を有した繊維布帛に水系樹脂を直接コーティングする場合、コーティング直後の乾燥工程で発生する加工シワ・塗工ムラを抑制することにより、膜面品位に優れた防水透湿加工布帛を製造することができることを見出し得られたものである。
【0012】
上述した本発明の防水透湿加工布帛の製造方法において、水系樹脂を直接コーティングして得られる樹脂層は、使用する該水系樹脂の種類などにより、その構造を、無孔膜層として形成させること、あるいは、微多孔膜層として形成させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水系樹脂を利用することにより、従来からの溶剤系樹脂を利用する場合に比べ、有機溶剤の使用量を大幅に低減させることができるため、製造工程においては有機溶剤の排出がほとんどなく、環境に配慮した製造プロセスとなり、また、優れた透湿性能と防水性能を有し、かつ、加工シワ、塗工ムラなどの加工欠点の発生がない膜面品位に優れた防水透湿加工布帛の製造方法が提供されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、繊維布帛に水系樹脂を直接コーティングし樹脂層を積層した防水透湿加工布帛を製造するに際し、コーティング前あるいはコーティング後の少なくともいずれか一方で、該繊維布帛の緯方向に拡幅処理を施すことを特徴とするものである。
【0015】
ここで、樹脂層としては、水系樹脂による樹脂膜層であればよく、特に限定されないが、具体的には、(1)繊維布帛に水系樹脂を直接コーティングして得られる無孔膜層、あるいは、(2)少なくとも2種以上からなる水系樹脂を繊維布帛に直接コーティングし、該水系樹脂の一部を溶出し得られる微多孔膜層、が挙げられる。
【0016】
以下、本発明に使用される繊維布帛について説明をする。
<繊維布帛>
本発明で使用する繊維布帛は、特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、アセテート系繊維、セルロース系繊維、綿・絹等の天然繊維等の織物、あるいは、それらの混用織物、交織織物が挙げられる。織物組織は特に限定されず、さまざまな織物組織のものが用いられる。
【0017】
また、本発明においては繊維布帛が撥水処理を施されていてもよい。この場合、撥水剤としてパラフィン系撥水剤、ポリシロキサン系撥水剤、フッ素系撥水剤等を使用すればよく、処理方法としてはパディング法、スプレー法等の手法を用いればよい。
【0018】
特に、フッ素系の撥水剤を用いると、高度な撥水効果が得られるので好適である。また、繊維布帛に撥水加工を施すことにより、水系樹脂が過度に繊維布帛に含浸しないため、風合いがソフト化し良好となるため、撥水加工を施した繊維布帛にコーティングすることが好ましい。
【0019】
中でも、繊維布帛は、水系樹脂のコーティング前の状態で水膨潤性を有するものであることが好ましく、具体的には、繊維布帛の緯方向の水浸漬膨潤率が0.5%以上10%以下であるものを用いることが好適であり、さらに好ましくは、水浸漬膨潤率が1%以上8%未満であることである。
【0020】
なお、水浸漬膨潤率の測定は、次の方法によるものである。すなわち、精練・染色加工後の繊維布帛をタテ40cm、ヨコ40cmにカットし、緯方向に30cmの幅をマーキングし、水温30℃の蒸留水に無張力状態で布帛の全面が水中に存在する状態で60分間浸漬処理した後、マーキングした幅を定規で測定し(単位:mm)、浸漬前と浸漬後の緯方向の幅変化率(水浸漬膨潤率)を有効数字3桁まで下記式で求めた。
水浸漬膨潤率(%)={(水浸漬後の緯方向の長さ−水浸漬前の緯方向の長さ)/(水浸漬前の緯方向の長さ)}×100(%)
なお、緯方向とは織物の緯糸方向のことである。
【0021】
緯方向の水浸漬膨潤率が0.5%以下である繊維布帛に緯方向へ拡幅処理を施すと、繊維が実質的に緯方向に弾性伸長範囲以上に延伸される場合もあり、生地のカーリング、目ズレ等の生地欠点が発生するおそれがあり不適である。一方、繊維布帛の緯方向の水浸漬膨潤率が10%以上であると、緯方向に拡幅処理を施しても、生地にたわみ量が非常に多いため均一な皮膜形成ができず、塗工ムラの原因となり不適当である。
【0022】
以下、直接コーティングについて説明をする。
<直接コーティング>
本発明における直接コーティングは、繊維布帛に直接、水系樹脂を塗布させる方式であればいずれでもよく、その装置としては、ナイフオーバーロールコーター、フローティングナイフコーター、ロールドクターコーター、キスロールコーター、ニップロールコーター、リバースロールコーター、あるいはグラビアロールコーターなどを用いることができる。繊維布帛に直接コーティングする水系樹脂については後に説明する。
【0023】
本発明の製造方法においては、繊維布帛に拡幅処理を行うが、繊維布帛の弾性伸長範囲内で、水系樹脂のコーティング前あるいはコーティング後の少なくともいずれか一方で繊維布帛の緯方向に拡幅処理をするものである。より好ましくは繊維布帛の緯方向の水浸漬膨潤率の0.2〜1.5倍の範囲の拡幅率で拡幅処理を施すことが好ましい。これらの範囲内で繊維布帛に拡幅処理を施すことで、水系樹脂を繊維布帛に直接コーティングした後の乾燥工程では、繊維布帛の水膨潤による幅変化を最小限に抑えることができるため、繊維布帛の水膨潤に起因する加工シワ・塗工ムラを防止でき、安定した加工が可能であり、また、膜面品位も良好である。加工シワが発生しない理由は明らかではないが、コーティング前に予め繊維布帛を拡幅処理しておくことにより、水膨潤性を有する繊維布帛の外側方向に向かって作用する水膨潤力と繊維布帛の中心に向かって作用する水系樹脂による収縮力が釣り合いを保つことで、生地の幅方向の移動量が最小化し、加工シワが発生しないものと考えられる。
【0024】
なお、より好ましくは、繊維布帛の水浸漬膨潤率の0.6〜1.1倍の範囲の拡幅率で繊維布帛を拡幅処理させることがさらに好適であり、さらに好ましくは0.8〜1.0倍の範囲である。また、これらの範囲で拡幅処理を施しても、繊維布帛に過度の負荷を与えることがないため、生地のカーリング、目ズレ、引裂強力低下等の問題の発生もなく、膜面品位に優れた防水透湿加工布帛が得られるのである。
【0025】
なお、加工シワとは、例えば、水系樹脂を直接コーティングした直後に発生する水膨潤に起因するもの、コーティング時の塗工ムラに起因するもの、コーティング直後の乾燥工程での樹脂あるいは繊維布帛の熱収縮に起因するもの、コーティング後のロールを起点とするもの、巻取ロールで発生するもの等のコーティング後の製造工程において発生する加工シワのことをいう。
【0026】
また、本発明の繊維布帛に拡幅処理を施すタイミングとして、コーティング前あるいはコーティング後のいずれでもよく、また、コーティング前後に複数回、拡幅処理を施してもよい。具体的にはコーティング前に拡幅処理を施す場合、精練後、染色後、撥水加工後、カレンダー加工後等のいずれでもよいが、撥水加工後、すなわち、カレンダー加工直前に拡幅処理を施すことが、生地の拡布状態を安定して保持しながら、かつ、生地の平滑性を向上させることができ、均一な樹脂層を安定して形成できる点から好適である。なお、拡幅処理は、湿潤状態である繊維布帛に施してもよく、あるいは、乾燥状態である繊維布帛に施してもよく、特に限定されるものではない。また、コーティング後に拡幅処理を施す場合、コーティング直後の乾燥工程で拡幅処理してもよく、あるいは乾燥工程出口と巻き取りローラとの間で拡幅処理を施してもよく、いずれにしても、加工シワ、塗工ムラを抑制することができ、膜面品位の良好な防水透湿加工布帛を得ることができる。
【0027】
また、コーティング前に拡幅処理する場合は、拡幅処理をすると同時に、繊維布帛に用いている繊維の溶融温度以下の温度で加熱処理あるいは湿熱処理等を施してもよく、その場合、繊維布帛に過度の負荷を与える必要がなく、かつ、良好な風合いを保ち、全幅にわたり均一に拡幅処理できる点から、より好ましく、また繊維布帛の幅セット性が向上するために、加工シワの抑制及び塗工ムラの発生を抑える効果があり好適である。熱処理温度としては繊維布帛に用いられている繊維の溶融温度以下であればよく、特に限定されるものではないが、60℃以上180℃以下であることが、セット性及び風合いの点から好ましい。
【0028】
本発明の拡幅処理を施す方法としては、繊維布帛を生地の緯方向に均一に拡幅処理できる方法であればいずれでもよく、例えば、ピンテンター、ベルト搬送式テンター、多段エクスパンダ−、拡布機、ピンレール付き乾燥機、エクスパンダーロール、スチームセッター等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0029】
また、該繊維布帛にコーティング前にカレンダー加工を施すことが生地の平滑性を高め、均一な樹脂層が得られる点で好適である。カレンダー加工は110℃〜180℃で30kg/cm2 程度の押圧のもとで1〜2回通すことにより、生地の毛羽立ちを抑えることができ、また、生地の凹凸を解消し織物の表面を平にするため、水系樹脂を繊維布帛に直接コーティングする際に、均一な膜厚である樹脂層を安定して形成させることができ、また、毛羽立ちを抑えることで安定した耐水圧が得られるのである。
【0030】
<樹脂層>
以下、水系樹脂を直接コーティングして得られる樹脂層に関して説明をするが、その製造処方によって、該樹脂層は、(1)無孔層として製造する場合と、(2)微多孔層として製造する場合の2つの場合に分けられ、いずれの場合も有効なものである。以下、それぞれの場合について分けて説明をする。
【0031】
(1)繊維布帛に水系樹脂を直接コーティングして得られる無孔膜層
本発明における防水透湿加工布帛は、優れた防水性を付与し、また、身体からの皮脂汚れ等のオイルコンタミネーションの問題を抑制させる点からは、樹脂層は水系樹脂を直接コーティングして得られた膜が無孔膜であることが好ましい。
【0032】
本発明において無孔膜の形成に用いる水系樹脂は、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエーテル系、アクリル系等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、ここでいう水系樹脂とは、乳化性、水溶性を有しないポリマーを、界面活性剤などを用いて強制乳化させた強制乳化樹脂、自己乳化性を有するポリマーを乳化・分散させた自己乳化性樹脂、水溶性を有するポリマーを溶解させた水溶性樹脂などをいう。また、これら樹脂の中から少なくとも2種類の樹脂がブレンドした樹脂を用いることが好ましい。なお、ブレンド方法としては特に限定されるものではないが、例えば、ミキサー、スターラー、ホモジナイザー等を用いて行うことができる。本発明では、透湿性、耐水性、膜強度といった観点から、少なくとも1種の樹脂が界面活性剤等の含有が少ない自己乳化性樹脂もしくは水溶性樹脂であることが好ましく、さらに好ましくは、自己乳化性樹脂同士、水溶性樹脂同士、自己乳化性樹脂と水溶性樹脂がブレンドされた樹脂が好適に利用できる。ここでいう自己乳化性とは、樹脂液の段階で樹脂が粒子径を有した分散状態であることをいう。また、水溶性とは、樹脂液の段階で樹脂が粒子径を有さず溶解状態であることをいう。ここでいう粒子径の有無は、具体的には、ヘリウム−ネオン光源を用いた光散乱法で平均粒子径として測定することができる。自己乳化性樹脂の場合、粒子径は10nm以上、200nm以下をいう。好ましくは粒子径40nm以上、100nm以下である。水溶性樹脂の場合も同様に、粒子径は10nm以上、200nm以下の粒子径を意味し、水溶性樹脂とはかかる粒子径を有する粒子は検出されないものをいう。粒子径は、以下に示す親水性基の導入量によって調整可能であり、一般的に量が多いほど粒径は小さくなる。樹脂液の保存状態、樹脂液同士の混合凝集などにより粒子径が大きな粒子が存在する場合もあるが、塗工、製膜上問題がない範囲でなければ含んでいてもよい。
【0033】
樹脂の混合割合は、利用する樹脂の種類、目的とする性能によって異なるが、自己乳化性樹脂と水溶性樹脂とのブレンド樹脂の場合、自己乳化性樹脂:水溶性樹脂のwt%で30:70〜70:30の範囲であるが、これに限られるものではない。樹脂自身が自己乳化性または水溶性を有するためには、例えば、分子構造中に、親水性基であるイオン性解離基(例えば、カルボキシル基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、スルホネート基、カーバモイルスルホネート基、4級アミノ基又は4級アンモニウム塩等)、ノニオン性基[例えば、ポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン基など)、エポキシ基等]、などを導入すれば良いがこれに限られるものではない。親水性基としては、上記のとおりイオン性解離基であるアニオン性基が好ましいが、中でもカルボキシル基またはその塩が好ましく、製膜性の観点からカルボキシル基が有機アミン系化合物、例えばトリエチルアミンなどで中和された塩であることが好ましい。アニオン性基により親水化された樹脂の場合、水酸化カリウムで滴定した場合の酸価(mgKOH/g)は膜強度の観点から5以上30以下であることが好ましい。酸価を有する樹脂同士のブレンド性向上の観点からは2つの酸価が10〜20の範囲であることが好ましく、酸価の差が5以下であることが好ましい。このように、酸価および中和塩のかたちを制御することにより、水系樹脂同士のブレンド性が向上し、より高い耐久性が発現できるようになる。
【0034】
また、本発明において、樹脂被膜のTg低下によるソフト化、ポリマーの運動性向上による透湿性向上といった観点から、水系樹脂を構成するポリマーの少なくとも1種に、数平均分子量500以上3000以下のポリアルキレングリコールが該水系樹脂中に40wt%以上、80wt%以下含まれることが好ましい。ポリマーの少なくとも1種に含まれるとは、ポリマー構造中の主鎖、側鎖を問わないが、効果発現の観点から主鎖中に含まれることが好ましい。ポリアルキレングリコールの種類としてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなど、またこれら2種類以上のポリマーからなる共重合物などが挙げられるが、これに限られるものではない。また、2種以上のポリアルキレングリコールを含んでいてもよい。性能発現と膜強度両立といった観点から、さらに好ましくはポリアルキレングリコールはポリマー中に主鎖に60〜70wt%含まれることが好ましい。
【0035】
本発明において、少なくともひとつの水系樹脂に、該水系樹脂を構成するポリマーのポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール、あるいは繰り返し単位における炭素数が3以上12以下のポリアルキレングリコールであることが好ましい。また、ポリアルキレングリコールを含有する水系樹脂は無孔膜を形成する樹脂中に20wt%以上、60wt%以下含まれることが好ましい。ポリアルキレングリコールの少なくともひとつがポリエチレングリコールである場合、被膜の透湿性が飛躍的向上できる。ポリエチレングリコールの含有量は多ければ多いほど透湿性は向上するが、膜強度、耐久性の観点から、さらに好ましくは含有量は30〜50wt%であり、数平均分子量は800以上2500以下であることが好ましい。また、膜強度の観点から、ポリエチレングリコールが含まれるポリマーは水溶性樹脂であることが好ましい。ポリマー構造中にポリエチレングリコール部分を有することにより水溶性樹脂の親水性を高めることができ、被膜の透湿性をより高めることができる。水溶性樹脂をより高親水化することで、ブレンドされる他の水系樹脂をより疎水化、すなわち高強度化することが可能となり、被膜全体の性能バランスとして透湿性と膜強度の両立が容易となる。
【0036】
一方、水系樹脂を構成する水系ポリマーのポリアルキレングリコールの少なくともひとつが繰り返し単位における炭素数が3以上12以下のポリアルキレングリコールである場合、膜強度と透湿性の両立といった観点からポリアルキレングリコールの数平均分子量は800以上2500以下、炭素数は4〜6、中でもポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールであることが好ましい。
【0037】
また、さらには、該水系樹脂がポリエチレングリコールからなる水系樹脂と繰り返し単位における炭素数が3以上12以下のポリアルキレングリコールからなる水系樹脂との併用であることも好ましい。水系樹脂を構成するポリマー中のアルキレングリコールの構成がこれらの範囲であることにより、親水性の高いポリエチレングリコールを含むポリマーとのブレンド性をさらに向上することができる。
【0038】
また、本発明において無孔膜層を構成する水系樹脂は、少なくとも1種類以上の架橋構造を有していることが好ましい。ここでいう架橋とは、無孔膜層を構成している水系樹脂のポリマーが架橋性を有する末端官能基を持ち、ポリマー同士が架橋する場合や、架橋性を有する末端官能基を有する架橋剤が介在することによりポリマー同士が架橋する場合を意味する。架橋性を有する末端官能基としては、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、メチロール基、オキサゾリン基などが挙げられるがこれに限るものではない。架橋性を有する末端官基に対応する被架橋末端としては、同一末端のほかに、水酸基、アミノ基、カルボキシル基などが挙げられるがこれに限るものではない。膜強度の観点から、架橋性を有する末端官能基は他のポリマーと架橋し得る構造を有することが好ましい。例えば、ポリマーの末端が水酸基、アミノ基、カルボキシル基などの構造であれば、ポリイソシアネート系化合物が好適に利用でき、特に膜強度向上には4, 4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)を主成分とするポリイソシアネート化合物が好適に利用できる。中でも架橋性を有する末端官能基と反応しうる官能基が封鎖されているブロックタイプの水系ポリイソシアネート化合物が特に好ましい。製膜性の観点からブロックの解離温度は80〜180℃である。繊維布帛との接着性向上の観点から、架橋性を有する末端官能基はポリマーおよび繊維布帛と架橋できる構造が好ましく利用できるが、中でもメチロール基を有する化合物、例えばメチロールメラミン系架橋剤が好適に利用できる。架橋剤の添加量は複合材として求める総合性能(透湿性、耐水性、耐久性など)をもとに決定すればよいが、一般的には樹脂固形分に対し1〜10wt%の添加量が好適である。また、ポリマーが有する架橋性を有する末端官能基としては耐熱性、耐候性、柔軟性向上といった観点からシラノール基が好ましい。
【0039】
本発明においては、さらに、水系樹脂のうちの少なくとも1種がポリウレタン系樹脂であることが好ましい。水系樹脂を繊維布帛に直接コーティングした場合の風合い、ストレッチ性に優れていること、また、膜厚の異なる被膜を積層した場合においても、膜同士の追随性が非常に優れたものとなり、膜同士の接着性も優れているためである。ポリウレタン系樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールを反応せしめて得られる共重合体を主成分として含むものである。水系樹脂ではジアミンによる鎖伸長の際、ウレア結合などの結合が導入され、ポリウレタンウレアとなる場合があるがウレア部分が含まれていてもよい。イソシアネート成分としては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートの単独またはこれらの混合物を用いることができる。 例えば、トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどを用いることができる。また、ポリオール成分としては、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオールなどを用いることができる。ポリエーテルポリオールとしてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなど、ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのジオールとアジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの2塩基酸との反応生成物やカプロラクトンなどの開環重合物など、ポリカーボネート系ポリオールとしてホスゲン法、エステル交換法等で合成される芳香族ポリカーボナート、脂肪族ポリカーボナートなどを用いることができる。その他、エーテル/エステル系、アミド系、シリコーン系、フッ素系、種々の共重合系などが適宜利用できるが、これに限られるものではない。ポリイソシアネートは、樹脂膜の強度、耐溶剤性、耐光性などの観点から、4,4′− ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ポリオールは樹脂膜の強度、耐加水分解性の観点から、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリヘキサメチレンカーボネート、透湿性の観点から、ポリエチレングリコールを主成分としたポリウレタン樹脂が好適である。
【0040】
また、無孔膜層を着色する場合は水系樹脂液に無機系顔料あるいは有機系顔料等を適宜添加しても用いることができる。無孔膜層表面の滑り性を改善する場合は、シリカ、酸化チタン、アルミナ等の無機粒子、ポリウレタン、アクリル等有機粒子等を適宜添加すればよい。
【0041】
本発明の防水透湿加工布帛において、樹脂層が無孔膜層の場合は、JIS L 1092(1998)耐水度試験 B法(高水圧法)による耐水圧が5,000mmH2O以上40,000mmH2O以下、かつ、JISL−1099(1993)酢酸カリウム法による透湿度が8,000g/m2・24h以上30,000g/m2・24h以下である防水透湿加工布帛であることが好ましい。より好ましくは、過酷な環境下での使用に対応し得る観点から、耐水圧が10,000mmH2O以上40,000mmH2O以下であることが好ましい。また、より快適な素材とする観点から、透湿度が10,000g/m2・24h以上30,000g/m2・24h以下であることが好ましい。なお、このような、高度な透湿性、高度な耐水圧の保持性は、ポリマーの高度な親水化による透湿性向上と膜強度の高い疎水化されたポリマーの機能補完、最適な架橋方法との組み合わせにより達成される。
【0042】
(2)少なくとも2種以上からなる水系樹脂を繊維布帛に直接コーティングし、該水系樹脂の一部を溶出し得られる微多孔膜
【0043】
本発明の防水透湿加工布帛は、着用快適性の観点からは、発汗時の衣服内の蒸れ感を解消させるため優れた透湿性を持ち、また、高い防水性を具備させるため、樹脂層が微多孔膜であることが好ましい。ここでいう微多孔膜とは平均孔径が0.1〜10μmの範囲である孔を有し、空隙率が5%以上60%未満である膜のことである。微多孔膜における孔がこれらの範囲にあることで優れた透湿性を持ち、また、高い防水性を具備することができるのである。平均孔径が0.1μm未満であると、発汗等による水蒸気が微多孔膜を通過せず、着用快適性が悪化する。一方、平均孔径が10μmを超える、あるいは、空隙率が60%以上であると、被膜強度の低下を引き起こし、また、優れた防水性を得ることができない。
【0044】
微多孔膜は、水系樹脂が少なくとも2種以上の水系樹脂をブレンドした樹脂であり、該水系樹脂が自己乳化型エマルジョンならびに水に可溶な水溶性樹脂を含有していることが好ましい。これらのブレンド樹脂を繊維布帛に直接コーティングして皮膜形成させた後、水溶性樹脂の一部あるいは全てを溶出することで、所望する微多孔膜が得られるのである。
【0045】
本発明における微多孔膜を形成する水系樹脂は、少なくとも2種以上の水系樹脂をブレンドした樹脂であればよく、特に限定はされないが、分子構造内に内部乳化剤を有することにより乳化剤(外部乳化剤)なしでエマルジョンとなる自己乳化型エマルジョン樹脂ならびに水に溶解する水溶性樹脂を含有することが好ましい。さらには、自己乳化型エマルジョンは自己乳化型ポリウレタンエマルジョン、水溶性樹脂は水溶性ポリウレタンからなる組成物であることが皮膜形成性、皮膜強靱性等から好ましく、繊維布帛上に直接コーティングし皮膜形成した後、水溶性ポリウレタンを溶出し、微多孔膜を得ることができるのである。
【0046】
自己乳化型のポリウレタンエマルジョンは、アニオン性およびカチオン性を示す物質をウレタン骨格中に導入(いわゆる内部乳化剤を導入)する公知の方法により製造できる。アニオン性を付与するものとしては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸などを挙げることができる。またこれらは単独もしくは、2種以上の併用使用して用いられる。これらは、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミンなどのアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどで中和して使用される。カチオン性を付与するものとしては、例えば、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを挙げることができる。またこれらは単独でもしくは、2種以上の併用使用をして用いられる。これらは塩酸、硝酸、酢酸、などの有機酸や無機酸などで中和されたり、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、エピクロルヒドリンなどで4級化して使用される。
【0047】
ポリウレタンを形成するイソシアネート成分は、従来からよく用いられている芳香族、脂肪族 および、脂環族のポリイソシアネートを使用する。例えば、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボランジイソシアネートなどのポリイソシアネートがあげられる。特に好ましいポリイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。
【0048】
ポリウレタンを形成するポリオール成分としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフランなどの環状エーテルを、単独または、2種以上を重合して得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルポリオール、n−ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル、バーサティック酸グリシジルエステルなどのモノカルボン酸グリシジルエステルもしくはダイマー酸などを還元させて得られるアルコール成分 または、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、オクタンジオール、ジプロピレングリコールなどの低分子量グリコールと前記多塩基酸とを脱水縮重合させて得られる脱水縮合系ポリエステルポリオール、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどのラクトンを開環重合させて得られる開環重合系ポリエステルポリオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールからなるポリカーボネートジオールなどがあげられる。これらの各種イソシアネート成分ならびに、ポリオール成分は単独もしくは、2種以上の併用使用をして用いられる。
【0049】
ポリウレタンの鎖伸長剤としては、各種の低分子ポリオールや低分子ポリアミンを用いることができ、例えば、低分子ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。低分子ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミンなどが挙げられる。これらは、単独もしくは、2種以上の併用使用をして用いられる。
【0050】
ポリウレタンエマルジョンの合成は、必要に応じて溶剤中で、ポリイソシアネート成分、ポリオール成分、鎖伸長成分を同時に仕込み、反応させ、ポリマー化するワンショット法、ポリオールとポリイソシアネートを反応させ、鎖伸長成分を仕込みポリマー化するプレポリマー法、ポリイソシアネート成分の一部とポリオールを反応後、残りのポリイソシアネート成分と鎖伸長成分を仕込みポリマー化するプレポリマー法等が挙げられる。また、鎖伸長成分の一部もしくは全部を前記アニオン成分もしくはカチオン成分に置換することによりウレタンエマルジョンが得られる。用いられた溶剤は、乳化分散後、減圧昇温することにより除去できる。
【0051】
一方、本発明における水溶性ポリウレタンとは、2個の活性水素基を有する化合物にエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドを付加した水溶性ポリオキシアルキレン化合物とポリイソシネートから誘導され、重量平均分子量が1万〜50万で、オキシエチレン単位の含有重量%が70%以上のものをいう。
【0052】
2個の活性水素を有する化合物とは、通常のものが利用でき、例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリキール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、N−メチルジエタノールアミン、モノアルキルアミン、ハイドロキノン、ビスフェノールA、などが挙げられる。これらのうち、水、エチレングリコール,プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。
【0053】
上記化合物に、エチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドを付加することにより水溶性ポリアルキレンオキサイドが得られるが、アルキレンオキサイドはエチレンオキサイドの他にプロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイド、テトラヒドロフラン、スチレンオキサイド等が使用できる。
【0054】
この付加様式は単独、ブロック、ランダムのいずれでも可能である。
この水溶性ポリアルキレンオキサイドのオキシエチレン基の含有重量%は好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。また末端は反応性が良好な一級ヒドロキシル基が残るように調製した方が好ましい。また、重量平均分子量が、好ましくは1000〜30000、より好ましくは2000〜25000のものが使用できる。
【0055】
また、必要に応じて水溶性ポリウレタンの水溶性を阻害しない程度であれば、非水溶性ジオールを水溶性ポリアルキレンオキサイドに混合してウレタン化反応を行ってもよい。その非水溶性ジオールとしてはポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコールなどが使用でき、その使用量は通常の場合15重量%以下である。
【0056】
水溶性ポリウレタンに使用するポリイソシアネートは前記ポリウレタン系エマルジョンの製造に用いるポリイソシアネートと同一のものが使用できる。つまり、例としてキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボランジイソシアネートなどのポリイソシアネートがあげられる。特に好ましいポリイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートである。
【0057】
水溶性ポリアルキレンオキサイドとポリイソシアネートの反応は通常のウレタン化反応で行い得る。例えば、塊状重合、溶剤中の重合などで、水溶性ポリアルキレンオキサイド中のヒドロキシル基とポリイソシアネート中のイソシアネート基の当量比が0.8〜1.2:1の範囲で行う。反応後の重量平均分子量は、通常、好ましくは1万〜50万、より好ましくは2万〜30万である。
【0058】
本発明に使用する水溶性ポリウレタンは、通常水溶液として用いる。水溶液において、その固形分は10〜70重量%で水溶液粘度は好ましくは1000〜300000mPa・sであり、より好ましくは15〜60重量%、2000〜200000mPa・sである。
【0059】
微多孔膜の形成にあたっては、まず、上述の自己乳化型ポリウレタン系エマルジョンと上述の水溶性ポリウレタンからなる組成物を作成する。本発明の微多孔膜を形成する際に使用される自己乳化型ポリウレタン系エマルジョンならびに水溶性ポリウレタンからなる組成物中に含まれる上述の自己乳化型ポリウレタン系エマルジョンと水溶性ポリウレタンの配合割合は、固形分重量比率として自己乳化型ポリウレタン系エマルジョン:水溶性ポリウレタン=100:1〜1:4の範囲が好ましく、より好ましいのは、4:1〜2:3の割合からなる組成物であり、水溶性ポリウレタンがこれ以下である場合は良好な透湿度が得られなくなり、これ以上である場合は連続的なウレタン皮膜が形成されず、脆くなる傾向にある。
【0060】
また、本発明において微多孔膜を形成する際に使用される自己乳化型ポリウレタン系エマルジョンならびに水溶性ポリウレタンからなる組成物中には、無機系もしくは有機系の微粒子を添加してもよい。無機系微粒子としては、シリカ、シリカゾル、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、酸化亜鉛、硼素、酸化硼素、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウムなどが挙げられ、これらの1種あるいは、2種以上を配合して使用する。有機系微粒子としては、ポリエチレン、アクリル系ポリマー、ポリエチレン、シリコーンポリマーなどが挙げられ、1種あるいは2種以上の配合で使用する。また、無機系もしくは有機系の微粒子の粒径は、40μm以下が好ましく、特に好ましいのは0.1〜20μmの範囲であり、40μm以上の場合には連続的なウレタン皮膜が形成されず脆くなる傾向にある。
【0061】
本発明の微多孔膜を形成する際に使用される自己乳化型ポリウレタン系エマルジョンならびに水溶性ポリウレタンからなる組成物中に適宜、架橋剤を添加してもよい。例えば、ポリイソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、エチレンイミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、または、カルシウムやマグネシウムなどの多価金属塩を意味し、これらの1種もしくは2種以上の組み合わせで用いる。
【0062】
また、本発明の微多孔膜を形成する際に使用される自己乳化型ポリウレタン系エマルジョンならびに水溶性ポリウレタンからなる組成物中に、撥水剤を添加してもよい。撥水剤はフッ素系撥水剤で、通常、パーフルオロアルキル基を主成分とするものであればよい。本発明におけるフッ素系撥水剤として適したものには、例えば、パーフルオロアルキル基を含有するアクリル酸または、メタアクリル酸の如きポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物の単独あるいは、これとエチレン、酢酸ビニル、弗化ビニル、スチレン、アクリル酸とそのアルキルエステル、メタアクリル酸とそのアルキルエステル、無水マレイン酸、クロロプレン、ブタジエン、ビニルアルキルケトン、ビニルアルキルエーテル、アクリルアミド、メタアクリルアミド、グリシジルアクリレート等の1種もしくは2種以上との共重合体などが挙げられる。
【0063】
また、本発明の微多孔膜を形成する際に使用される組成物(加工液)中には、他に種々の薬剤を併用することができる。該薬剤としては、一般にコーティング加工に用いられている顔料、濡れ性向上剤、消泡剤などの添加剤や酸化防止剤、紫外線防止剤などの劣化防止剤などが挙げられる。
【0064】
微多孔膜を形成させる前記組成物を基布に塗工した後、これを水に浸漬し、水溶性ポリウレタン樹脂を溶出することにより、ポリウレタン樹脂の微多孔膜を形成させる。その後、乾燥を行うが、水溶性ポリウレタンを溶出させてから乾燥を行った後、フッ素系の撥水剤単独もしくはフッ素系の撥水剤と架橋剤併用を含浸させ、乾燥・熱処理をすることにより、得られる繊維布帛の耐水性及び撥水性の向上を図ることができる。
【0065】
本発明の防水透湿加工布帛において、樹脂層が上述した如き微多孔膜の場合は、JIS L 1092(1998)耐水度試験A法(高水圧法)による耐水圧が3,000mmH2O以上20,000mmH2O以下、かつ、JISL−1099(1993)塩化カルシウム法による透湿度が5,000g/m2・24h以上15,000g/m2・24h以下であることが好ましい。
【0066】
なお、このような高度な透湿性及び高度な耐水圧保持性を実現する防水透湿加工布帛は、前述した微多孔膜の平均孔径が0.1μm以上10μm以下であり、空隙率が5%以上60%未満の状態とすることにより形成でき、架橋剤を選定することにより達成される。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を用いて、本発明の詳細を説明する。
[水浸漬膨潤率]
水浸漬膨潤率の測定法は次の通りである。すなわち、精練・染色加工後の繊維布帛をタテ40cm、ヨコ40cmにカットし、緯方向に30cmの幅をマーキングし、水温30℃の蒸留水に無張力状態で、布帛の全面が水中に存在する状態で60分間浸漬処理した後、マーキングした幅を定規で測定し(単位:mm)、浸漬前と浸漬後の緯方向の幅変化率(水浸漬膨潤率)を有効数字3桁まで下記式で求めた。
水浸漬膨潤率(%)={(水浸漬後の緯方向の長さ−水浸漬前の緯方向の長さ)/(水浸漬前の緯方向の長さ)}×100(%)
n数は、n=3としてその平均値を求めた。
【0068】
[透湿度]
無孔膜を積層した防水透湿加工布帛の場合は、JIS L 1099(1993) 酢酸カリウム法(B−1法)に準じて、微多孔膜を積層した防水透湿加工布帛の場合はJIS L 1099(1993)塩化カルシウム法(A−1法)に準じて測定した。
n数は、n=3としてその平均値を求めた。
【0069】
[耐水圧]
JIS L 1092(1998)耐水度試験B法(高水圧法)に準じて測定した。
n数は、n=5としてその平均値を求めた。
【0070】
[微多孔膜の断面構造及び孔径、空隙率の測定]
微多孔膜を積層した繊維布帛の断面を、(株)日立製作所製S−2600N型走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、拡大倍率を2000倍、加速電圧を7kVに設定し、微多孔膜の断面を撮影する。微多孔膜の断面写真上の任意の高さで水平方向に3本直線(幅:50μm)を引き、直線上にある孔の孔径を0.1μmオーダーまで測定し平均孔径を求めた。また、50μm中に占める孔の割合を空隙率とし、3本の平均値で求めた。
【0071】
<無孔膜を積層した防水透湿加工布帛>実施例1〜6及び比較例1、2
実施例1
経方向・緯方向の双方に75デニール72フィラメントのナイロン6フィラメント糸を用いて経密度120本/インチ、緯密度90本/インチで製織し、ナイロンタフタ織物を得た。なお、このときの生機幅は165cmであった。次に通常の精練・染色加工を施した後の緯幅は153cmであった。該染色後のナイロンタフタ織物の水浸漬膨潤率を測定した結果、緯方向の水浸漬膨潤率は4.0%であった。次に該ナイロンタフタ織物にフッ素系撥水剤にて撥水処理を行った。すなわち、撥水剤“アサヒガード”AG710(明成化学工業(株)製)を3重量%に含有した水分散液に上記タフタを浸漬し、絞り率40%にピックアップし、ヒートセッターにて130℃×30秒の乾燥熱処理を施した。このときの緯幅は152cmであった。次いで、ピンテンターにて熱処理温度を130℃に設定し、撥水加工布帛の緯方向に4.0%拡幅するように、すなわち、水浸漬膨潤率の1.0倍、拡幅処理を行った。このときの繊維布帛の緯幅は158cmであった。該拡幅処理後の繊維布帛をナイフオーバーロール加工により処方1の塗工液を膜厚25μm、塗布量100g/m2の条件で直接コーティングし、乾燥温度130℃×3分、キュアー165℃×2分することで膜面が無孔膜である防水透湿加工布帛を得た。該防水透湿加工布帛の性能は表1の通りで、コーティング後の乾燥工程で加工シワ・塗工ムラの発生もなく膜面品位に優れ、かつ、耐水圧が21,000mmH2O、透湿度B−1法が12,000g/m2・24hと高い透湿性能と防水性能を併せ持つものであった。
【0072】
[処方1]
ポリイソシアネート成分として水添メチレンジイソシアネート、グリコール成分として数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール、内部乳化剤として2,2-ビスヒドロキシメチルブタン酸を用いて合成された平均粒子径65nmである自己乳化型ポリウレタンが主成分である自己乳化性樹脂“レザミンD2060”(大日精化工業(株)製商品名)と、ポリイソシアネート成分として水添メチレンジイソシアネート、グリコール成分として数平均分子量1000のポリエチレングリコール、内部乳化剤として2,2-ビスヒドロキシメチルプロピオン酸を用いて合成した、架橋性を有する末端官能基がシラノール基である粒子径が存在しない水溶性ポリウレタンを主成分とする水溶性樹脂とを、それぞれの固形分が等重量となるように混合し固形分29wt%のブレンド樹脂を調整した。次に、樹脂層の表面の滑剤として、平均粒径2.7μmの多孔性シリカをブレンド樹脂の固形分に対し、10wt%添加し撹拌・混合した。さらに、ブレンド樹脂の固形分に対し、架橋剤として架橋性を有する末端官能基にメチロール基を有するメラミン系架橋剤である“ベッカミンM−3”(大日本インキ化学工業(株)製商品名)を2wt%、反応性末端にイソシアネート基を有するブロックイソシアネート系架橋剤である“BN−69”(第一工業製薬(株)製商品名)を5.6wt%を添加し、ミキサーで撹拌、脱泡後、塗工液とした。
【0073】
実施例2
実施例1と同様の処方により得た撥水加工後の繊維布帛に、拡幅処理を加えずにナイフオーバーロール方式により処方1の塗工液を膜厚25μm、塗布量100g/m2の条件で直接コーティング加工を施した。コーティング直後の乾燥工程では、布帛の耳部分を把持可能なピンレール付き乾燥機を使用し、撥水加工布帛のヨコ幅に対し4.0%拡幅するように、すなわち、水浸漬膨潤率の1.0倍、拡幅処理しながら、乾燥温度130℃×3分、キュアー165℃×2分とすることで膜面が無孔膜である防水透湿加工布帛を得た。該防水透湿加工布帛の性能は表1の通りで、加工工程において加工シワ・塗工ムラの発生もなく膜面品位に優れ、かつ、耐水圧が20,000mmH2O、透湿度B−1法が12,600g/m2・24hと高い透湿性能と防水性能を併せ持つものであった。
【0074】
実施例3
実施例1と同様の処方により拡幅処理を施したナイロンタフタ織物に、押圧が30kg/cm2、温度110℃にて、1回、カレンダー加工を施した以外は、実施例1と同様に防水透湿加工布帛を得た。加工工程において加工シワ・塗工ムラの発生もなく膜面品位に優れ、かつ、耐水圧が23,000mmH2O、透湿度B−1法が12,500g/m2・24hと高い透湿性能と防水性能を併せ持つものであった。
【0075】
実施例4
経方向・緯方向の双方に40デニール34フィラメントのナイロン66フィラメント糸を用いて、経密度165本/インチ、緯密度117本/インチで製織し、ナイロンタフタ織物を得た。なお、このときの生機幅は155cmであった。次に通常の精練・染色加工を施した後の緯幅は148cmで、緯方向の水浸漬膨潤率を測定した結果、水浸漬膨潤率は3.2%であった。次に、実施例1と同様の処方・方法で撥水加工を実施した。尚、撥水加工後の緯幅は148cmであった。次いで、ピンテンターにて熱処理温度を130℃に設定し、撥水加工布帛の緯方向に2.5%拡幅するように、すなわち、水浸漬膨潤率の0.8倍、拡幅処理を行った。このときの繊維布帛の緯幅は152cmであった。次いで、実施例3と同様の処方・方法にて防水透湿加工布帛を得た。加工工程において加工シワ・塗工ムラの発生もなく膜面品位に優れ、かつ、耐水圧が22,000mmH2O、透湿度B−1法が11,500g/m2・24hと高い透湿性能と防水性能を併せ持つものであった。
【0076】
実施例5
処方1に用いた水溶性樹脂の代わりに、粒子径が存在しない水溶性樹脂である水溶性ナイロン“A−70”(東レ(株)製商品名)を用いた以外は実施例1と同様に作製し本発明の防水透湿加工布帛を得た。該防水透湿加工布帛の性能は表1の通りで、加工工程において加工シワ・塗工ムラの発生もなく膜面品位に優れ、かつ、耐水圧が14,000mmH2O、透湿度B−1法が14,000g/m2・24hと高い透湿性能と防水性能を併せ持つものであった。
【0077】
実施例6
処方1に用いた自己乳化性樹脂に、粒子径400nm以上であるアクリル系樹脂“ボンコート350”(大日本インキ化学工業(株)製商品名)とする以外は、実施例1と同様に作製し、本発明の防水透湿加工布帛を得た。該防水透湿加工布帛の性能は表1の通りで、加工工程において加工シワ・塗工ムラの発生もなく膜面品位に優れ、かつ、耐水圧が12,000mmH2O、透湿度B−1法が8,200g/m2・24hと高い透湿性能と防水性能を併せ持つものであった。
【0078】
比較例1
コーティング前及びコーティング後のどちらにも拡幅処理しなった以外は、実施例1と同様の方法・処方により防水透湿加工布帛を得た。しかし、コーティング後の乾燥工程では繊維布帛が水膨潤し、波打ち現象が見られ、経方向に塗工ムラが見られ、また、乾燥機出口の巻取りローラーで加工シワが発生した。なお、耐水圧は8,000mmH2O、透湿度B−1法は14,000g/m2・24hであった。
【0079】
比較例2
実施例1における拡幅処理が、撥水加工布帛を緯方向に12.0%拡幅するように、すなわち、水浸漬膨潤率の3.0倍拡幅処理した以外は、実施例1と同様の処方・方法により防水透湿加工布帛を得た。コーティング後の乾燥工程では加工シワは見られなかったものの、生地のカーリングが強く品位の低下が見られた。なお、耐水圧は17,000mmH2O、透湿度B−1法は12,300g/m2・24hであった。
【0080】
実施例1〜6と比較例1、2について評価した結果をまとめて、表1に記載する。
【0081】
【表1】

【0082】
<微多孔膜を積層した防水透湿加工布帛>実施例7〜10及び比較例3、4
〔合成例1〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコにポリテトラメチレングリコール(重量平均分子量1000)152部、ポリオキシエチレングリコール(重量平均分子量1000)8部、ジメチロールブタン酸4.8部、トリメチロールプロパン3.2部、を仕込み、均一に混合後、イソホロンジイソシアネート37.4部を加え、85℃にて120分反応後、遊離イソシアネート基含有量1.8%のウレタンプレポリマーを得た、このプレポリマーを35℃以下に冷却後、トリエチルアミン3.2部を添加し、均一に混合後、水522.7部を徐々に加えて乳化、分散させ、これにイソホロンジアミン8.3部を25部の水で希釈溶解した水溶液を添加後、120分攪拌した。不揮発分30%、粘度400mPa・s、100%モジュラス0.8MPa、破断伸度1000%以上の安定なウレタンエマルジョンが得られた。
【0083】
〔合成例2〕
攪拌機、還流冷却管および温度計を備えた3つ口フラスコに、ポリエチレングリコール#6000(重量平均分子量8770)87.7部とトルエン200部および粉末苛性カリウム0.1部を採り、脱水してトルエン還流下で30分撹拌した後、イソホロンジイソシアネート2.0部を滴下し、110℃で1時間撹拌した。その後トルエンを除去しながら水と置換して、固形分50%で溶液粘度100000mPa・sの粘稠な水溶液を得た。この水溶性ポリウレタンの重量平均分子量は75000であった。
【0084】
〔処方2〕
合成例1で得られた自己乳化型ポリウレタン:70部
合成例2で得られた水溶性ポリウレタン:30部
炭酸カルシウム(三共精粉(株)製“エスカロン#2300”):2部
消泡剤(明成化学工業(株)製“フォームレスAG−PS”):0.5部
架橋剤(明成化学工業(株)製“NBP−211”):5部
水:10部
【0085】
実施例7
経方向・緯方向の双方に75デニール72フィラメントのナイロン6フィラメント糸を用いて経密度120本/インチ、緯密度90本/インチで製織し、ナイロンタフタ織物を得た。なお、このときの生機幅は165cmであった。次に通常の精練・染色加工を施した後の緯幅は153cmであった。該染色後のナイロンタフタ織物の水浸漬膨潤率を測定した結果、緯方向の水浸漬膨潤率は4.0%であった。次に該ナイロンタフタ織物にフッ素系撥水剤にて撥水処理を行った。すなわち、撥水剤“アサヒガード”AG710(明成化学工業(株)製)を3重量%に含有した水分散液に上記タフタを浸漬し、絞り率40%にピックアップし、ヒートセッターにて130℃×30秒の乾燥熱処理を施した。このときの緯幅は152cmであった。次いで、ピンテンターにて熱処理温度を130℃に設定し、撥水加工布帛の緯方向に4.0%拡幅するように、すなわち、水浸漬膨潤率の1.0倍、拡幅処理を行った。このときの繊維布帛の緯幅は158cmであった。処方1で得られた塗工液をナイフオーバーロールコーターにて、クリアランス0.3mm、塗布量120g/m2の条件にて塗工し、温度120℃×3分間乾燥した後、温度165℃×3分間の熱処理を加えた。次いで液流染色機を用いて水洗いを8分間、温度60℃の温洗いを10分間、すすぎを水で10分間実施して水溶性ポリウレタン成分を溶出させた。その後、温度110℃、3分間乾燥させることで微多孔膜を得た。さらに、フッ系撥水剤「パラガードEC−400」(大原パラヂウム化学(株)製)の5%水溶液に含浸させ、160℃×3分の熱処理を実施した。該微多孔膜の平均孔径は1.2μmであり、空隙率は40%であった。また、加工工程で加工シワの発生は見られず、膜面品位も良好であり、耐水圧が5,100(mmH2O)、透湿度A−1法が10,500(g/m2・24h)と優れた防水透湿性能を有していた。
【0086】
実施例8
コーティング加工前に拡幅処理をしなかった以外は、実施例7と同様の処方・方法により繊維布帛に直接コーティングを実施した。コーティング直後の乾燥工程では、布帛の耳部分を把持可能なピンレール付き乾燥機を使用し、撥水加工後の緯幅に対し4.0%、すなわち、緯方向の水浸漬膨潤率の1.0倍、拡幅するように拡幅処理しながら、温度120℃×3分間乾燥し、さらに、温度165℃×3分間の熱処理を加えた。次いで、実施例7と同様の処方・方法にて水溶性ポリウレタン成分を溶出させ、乾燥・撥水加工を施し、防水透湿加工布帛を得た。該防水透湿加工布帛の平均孔径は1.5μmで、空隙率は37%であった。該防水透湿加工布帛は、加工工程において加工シワ・塗工ムラの発生もなく膜面品位に優れ、かつ、耐水圧が5,200mmH2O、透湿度A−1法が11,600g/m2・24hと高い透湿性能と防水性能を併せ持つものであった。
【0087】
実施例9
タテ糸に40デニール34フィラメントのナイロン66フィラメント糸を用いて経密度165本/インチ、緯密度120本/インチで製織し、ナイロンツイル織物を得た。このときの生機幅は168cmであった。次に通常の精練・染色加工を施し、乾燥後の緯幅は154cmであった。該染色加工後のナイロン66ツイル織物の水浸漬膨潤率は5.2%であった。次いで、ピンテンターにて熱処理温度を130℃に設定し、撥水加工布帛の緯方向に4.0%拡幅するように、すなわち、水浸漬膨潤率の0.77倍、拡幅処理を行った。このときの繊維布帛の緯幅は160cmであった。以後、実施例7と同様の処方・方法にて防水透湿加工布帛を得た。該微多孔膜の平均孔径は1.1μmであり、空隙率は41%であった。また、加工工程で加工シワの発生は見られず、膜面品位も良好であり、耐水圧が5,000(mmH2O)、透湿度A−1法が10,500(g/m2・24h)と優れた防水透湿性能を有していた。
【0088】
実施例10
実施例7の該拡幅処理後の繊維布帛を、押圧が30kg/cm2、温度110℃にて、1回、カレンダー加工を施した以外は、実施例7と同様の処方・方法により微多孔膜である防水透湿加工布帛を得た。コーティング後の乾燥工程で加工シワ・塗工ムラの発生もなく膜面品位に優れ、かつ、耐水圧が5,600mmH2O、透湿度A−1法が10,200g/m2・24hと高い透湿性能と防水性能を併せ持つものであった。
【0089】
比較例3
コーティング前に拡幅処理をしなかった以外は、実施例7と同様の方法・処方により防水透湿加工布帛を得た。しかし、コーティング後の乾燥工程では繊維布帛が水膨潤し、波打ち現象が見られ、経方向に塗工ムラが見られ、また、乾燥機出口の巻取りローラーで加工シワが発生した。なお、耐水圧は1,000mmH2O、透湿度A−1法は12,100g/m2・24hであった。
【0090】
比較例4
実施例7の撥水加工布帛を横方向緯方向に12.0%拡幅する、すなわち緯方向の水浸漬膨潤率が3.0倍で拡幅した以外は、実施例7と同様の処方・方法で防水透湿加工布帛を得た。このときの繊維布帛の緯幅は169cmであった。加工工程において加工シワは見られなかったものの、防水透湿加工布帛はカーリングが強く、一部、目ズレも発生し、膜面品位が悪いものであった。
【0091】
実施例7〜10と比較例3、4について評価した結果をまとめて、表2に記載する。
【0092】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛に水系樹脂を直接コーティングして樹脂層を積層した防水透湿加工布帛を製造するに際し、前記水系樹脂のコーティング前あるいはコーティング後の少なくともいずれか一方で、該繊維布帛の緯方向に拡幅処理を施すことを特徴とする防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂層が、無孔膜層であることを特徴とする請求項1に記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項3】
前記水系樹脂のコーティング前の繊維布帛として、水膨潤性を有しかつ水浸漬膨潤率が0.5%以上10%以下であるものを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項4】
前記水系樹脂のコーティング前の繊維布帛として、水膨潤性を有するものを使用し、前記繊維布帛の緯方向への拡幅処理を、該繊維布帛の水浸漬膨潤率の0.2〜1.5倍の範囲の拡幅率で拡幅して行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項5】
前記繊維布帛に水系樹脂を直接コーティングする前に、該繊維布帛にカレンダー加工を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項6】
前記水系樹脂として、少なくとも2種の水系樹脂を主成分とするブレンド樹脂で、該水系樹脂を構成するポリマーの少なくとも1種に数平均分子量500以上3000以下のポリアルキレングリコールが該水系樹脂中に40wt%以上、80wt%以下含まれ、少なくとも1種類以上の架橋構造を有するものを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂層が無孔膜層であり、前記水系樹脂として、前記ポリアルキレングリコールの少なくともひとつが、ポリエチレングリコール、あるいは、繰り返し単位における炭素数が3以上12以下であるポリアルキレングリコールであり、前記無孔膜層を形成する樹脂の重量に対し該ポリアルキレングリコールが20wt%以上、60wt%以下含まれるものを用いることを特徴とする請求項6に記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項8】
前記水系樹脂として、前記少なくとも2種類の水系樹脂のうちの少なくとも1種がポリウレンタン系樹脂であるものを用いることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項9】
得られる防水透湿加工布帛が、JIS L 1092(1998)耐水度試験B法(高水圧法)による耐水圧が5,000mmH2O以上40,000mmH2O以下、かつ、JISL−1099(1993)酢酸カリウム法による透湿度が8,000g/m2・24h以上30,000g/m2・24h以下を満足するものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂層が、少なくとも2種以上の水系樹脂からなるブレンド樹脂を繊維布帛に直接コーティングした後、該水系樹脂の一部を溶出して得られる微多孔膜層であることを特徴とする請求項1に記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項11】
前記水系樹脂のコーティング前の繊維布帛として、水膨潤性を有し、かつ水浸漬膨潤率が0.5%以上10%以下であるものを用いることを特徴とする請求項10に記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項12】
前記水系樹脂のコーティング前の繊維布帛として、水膨潤性を有するものを使用し、前記繊維布帛の緯方向への拡幅処理を、該繊維布帛の水浸漬膨潤率の0.2〜1.5倍の範囲の拡幅率で拡幅することを特徴とする請求項10または11に記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項13】
前記繊維布帛に水系樹脂を直接コーティングする前に、該繊維布帛にカレンダー加工を施すことを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項14】
前記水系樹脂として、ポリウレタン系エマルジョンならびに水溶性ポリウレタンを含有する樹脂組成物を用い、該樹脂組成物を繊維布帛に直接コーティングした後、前記水溶性ポリウレタンの一部もしくは全てを溶出させることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項15】
前記微多孔膜における孔の平均孔径が0.5〜10μmであることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の防水透湿加工布帛の製造方法。
【請求項16】
得られる防水透湿加工布帛が、JIS L 1092(1998)耐水度試験B法(高水圧法)による耐水圧が3,000mmH2O以上20,000mmH2O以下、かつ、JISL−1099(1993)塩化カルシウム法による透湿度が5,000g/m2・24h以上15,000g/m2・24h以下を満足するものであることを特徴とする請求項10〜15のいずれかに記載の防水透湿加工布帛の製造方法。

【公開番号】特開2007−332493(P2007−332493A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165826(P2006−165826)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(392017624)平松産業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】