説明

防汚性繊維構造物および繊維製品

【課題】血液に対する耐久性のある防汚性および肌に優しい特性が付与された繊維構造物およびそれを用いた繊維製品を提供すること。
【解決手段】分子内に少なくともカルボキシル基およびホスホリルコリン基を有する重合性モノマーから得られる共重合体(A)、および、分子内に少なくともオキサゾリン基を有する重合性モノマーから得られる多価オキサゾリン共重合体(B)が付与されてなる繊維構造物。また、前記のような繊維構造物が、少なくとも一部に含まれている繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液汚れに対する優れた防汚性および汚れ除去性を示し、加えて肌にやさしい性質を有する繊維構造物とそれを含んだ繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防汚性を有するセルロース繊維含有繊維構造物は数多く提案されている。一般には、例えば水溶性セルロース誘導体などの親水性樹脂が架橋剤と共に付与されたもの(例えば、特許文献1参照)、親水基を含有したフッ素系撥水剤が付与されたもの(例えば、特許文献2参照)、シリコーン化合物またこれら樹脂の両方が付与されたもの(例えば、特許文献3参照)などが知られている。しかし、これらはいずれも十分な防汚性を有するとは言い難いものであった。
【特許文献1】特開平6−31327号公報
【特許文献2】特開2003−96673号公報
【特許文献3】特開2004−44056号公報
【0003】
親水性樹脂が付与されたものは、洗濯中に他の汚れを吸着しにくいという再汚染防止効果はあるものの、皮脂汚れなどはいったん汚れが付着し、乾いてしまうと洗濯しても除去することが非常に困難になってくるものである。
【0004】
また、親水基を含有したフッ素系撥水剤が付与されたものは、水性でも油性でも液状の汚れは付きにくいが、粘度の高いものなどは、フッ素系撥水剤が付与されていないものと同様に付着し、また洗濯での汚れは、逆に落ちにくいのが現状である。
【0005】
また、これら樹脂の両方が付与されたものは、親水性、撥水・撥油性各々の効果が十分に発揮されず、十分な防汚性が得られないものである。
【0006】
一方、ホスホリルコリン基を含有した樹脂は、肌にやさしく、また、血液が凝固しない特徴を持つものであるが、これを用いた防汚性セルロース繊維含有繊維構造物は実用化されていない。
【0007】
衣料素材、特にセルロース繊維含有繊維構造物の改善策としてウォッシュアンドウェア性、防汚性をはじめとした各種機能性付与、さらにはそれの耐久性向上、物理特性の改良や風合い、触感、外観の改良などが主として行われていた。例えば、防汚性に加えて消臭性、抗菌性を兼ね備えることを目的として、光触媒を用いたセルロース繊維含有繊維構造物などが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献4】特開2001−316973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術に鑑み、特に血液に対する防汚性および肌に優しい特性が付与された繊維構造物およびそれを含む繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用するものである。
1. 分子内に少なくともカルボキシル基を有する重合性モノマーと分子内に少なくともホスホリルコリン基を有する重合性モノマーから得られる共重合体(A)、および、分子内に少なくともオキサゾリン基を有する重合性モノマーから得られる多価オキサゾリン共重合体(B)が付与されてなることを特徴とする繊維構造物。
2. 共重合体(A)が、分子内に少なくとも水酸基を有する重合性モノマーをも原料として得られる共重合体であることを特徴とする上記第1に記載の繊維構造物。
3. 共重合体(A)および(B)が、繊維構造物の全重量に対して、それぞれ0.1重量%以上15重量%以下の割合で繊維表面に付与されてなることを特徴とする上記第1または第2に記載の繊維構造物。
4. 共重合体(A)、(B)、およびフッ素系樹脂が、繊維構造物の全重量に対して、それぞれ0.1重量%以上15重量%以下の割合で付与されてなることを特徴とする上記第1〜第3のいずれかに記載の繊維構造物。
5. 繊維構造物がセルロース系繊維を含むものである上記第1〜第4のいずれかに記載の繊維構造物。
6. 繊維構造物がセルロース系繊維を含むものであり、セルロース系繊維が架橋剤により処理されていることを特徴とする上記第1〜第5のいずれかに記載の繊維構造物。
7. 繊維構造物がセルロース系繊維を含むものであり、該セルロース系繊維含有繊維構造物がホルムアルデヒド気相加工されていることを特徴とする上記第1〜第6のいずれかに記載の繊維構造物。
8. 繊維構造物がセルロース系繊維を含むものであり、該セルロース系繊維含有繊維構造物がN−メチロール系樹脂で処理されていることを特徴とする上記第1〜第6のいずれかに記載の繊維構造物。
9. 繊維構造物がセルロース系繊維を含むものであり、該セルロース系繊維含有繊維構造物が予め液体アンモニア処理されていることを特徴とする上記第1〜第8のいずれかに記載の繊維構造物。
10. 上記第1〜第9のいずれかに記載の繊維構造物が、少なくとも一部に含まれていることを特徴とする繊維製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少なくとも分子内にカルボキシル基、およびホスホリルコリン基を有する重合性モノマーから得られる共重合体(A)[以降、共重合体(A)と略記する場合がある]、少なくとも分子内にオキサゾリン基を有する重合性モノマーから得られる多価オキサゾリン共重合体(B)[以降、共重合体(B)と略記する場合がある]を用いることにより、耐久性ある優れた防汚性およびSR性を示し、特に血液汚れに対する防汚性およびSR性に優れ、しかも風合いがソフトで肌にやさしい繊維構造物を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ホスホリルコリン基含有モノマーにカルボキシル基含有モノマーを導入した前記共重合体(A)および多価オキサゾリン共重合体(B)を併用することで、カルボキシル基とオキサゾリン基を持つポリマー同士を3次元架橋させることができ、繊維表面に架橋皮膜を形成させ、耐久性ある防汚性およびSR性を付与することができるものである。具体的には、本発明の繊維構造物は、その繊維表面に前記共重合体(A)および(B)、又は必要に応じフッ素系樹脂、樹脂加工剤、潜在性酸性触媒を付与した後、熱処理あるいはホルムアルデヒドによる気相加工などをすることを特徴とするものである。
【0012】
かかるホスホリルコリン基とは、生体膜の構成成分であるリン脂質分子が主として持つ基であり、一般に生体適合性の高い物質として知られている。すなわち、セルロース繊維含有繊維構造物を皮膚に触れる用途に用いた場合、皮膚が該繊維構造物を異物として認めることがなく、アレルギー反応などが起こらないため、該繊維構造物の皮膚表面への刺激をなくすることができ、より高いレベルでのスキンケア性を得ることができる。さらには、血液が凝固しない特徴も持っており、前記共重合体(A)および共重合体(B)を用いることにより、該繊維構造物により洗濯耐久性のある血液防汚効果付与を可能にするものである。
【0013】
前記共重合体(A)を構成するモノマー群の詳細について以下に記述する。
本発明の前記共重合体(A)の構成モノマーの1つであるホスホリルコリン基含有モノマー群としては、例えば、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、5−((メタ)アクリロイルオキシ)ペンチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、6−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキシル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリエチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリプロピルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリブチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリシクロヘキシルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリフェニルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリメタノールアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)ペンチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキシル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(ビニルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(アリルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(p−ビニルベンジルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(p−ビニルベンゾイルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(スチリルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(p−ビニルベンジル)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(ビニルオキシカルボニル)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(アリルオキシカルボニル)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(アクリロイルアミノ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(ビニルカルボニルアミノ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、エチル−(2'−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)フマレート、ブチル−(2'−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)フマレート、ヒドロキシエチル−(2'−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)フマレート、エチル−(2'−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)マレート、ブチル−(2'−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)マレート、ヒドロキシエチル−(2'−トリメチルアンモニオエチルホスホリルエチル)マレート等を挙げることができる。
【0014】
この中でも入手性及び吸湿性、感触の良さの効果の点で、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートが好ましく、より好ましくは2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート(以下、MPCと略記する)である。
【0015】
本発明の前記共重合体(A)の構成モノマーの1つであるカルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシ−エチルフタル酸、2−メタクリロイロキシ−エチルヘキサヒドロキシフタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート類などがある。
【0016】
次いで、本発明の前記共重合体(A)には水酸基を持つモノマーも使用することができる。これは繊維構造物がセルロース繊維を含む場合、セルロース繊維の持つ水酸基と架橋剤を介して架橋反応させることができるため、この場合は特に有効である。水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらC1〜C4のヒドロキシ低級アルキル(メタ)アクリレート中のアルキル基は分枝していてもかまわない。また、これらの1種または2種以上が上記水酸基含有モノマーとして併用されてもかまわない。上記水酸基を有する親水性モノマー群は、親水性繊維との親和性改善にも有用であることはいうまでもない。
【0017】
その他親水性モノマーとして、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等のイオン性基含モノマー類、(メタ)アクリルアミド、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の含窒素モノマー類、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を使用してもかまわない。また、これらの1種または2種以上が上記水酸基含有モノマーと併用してもかまわない。上記カルボキシル基含有モノマー成分は、下記する共重合体(B)中のオキサゾリン基との反応性に優れるため、結果的に前記共重合体(A)および(B)と繊維構造物との固着性の改善が期待できる。
【0018】
また、合成繊維などの疎水性繊維との親和性を改善するために前記共重合体(A)の構成モノマー成分として疎水性モノマーを用いることができる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル(メタ)アクロレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクロレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の疎水性ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系モノマー類、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー類等が挙られる。これらの1種または2種以上が用いられる。
【0019】
前記共重合体(A)は、前記ホスホリルコリン基含有モノマー成分と親水性基含有モノマー成分および疎水性基含有モノマー成分からなるモノマー組成物が重合されていてもよく、通常のラジカル共重合により製造することができる。
【0020】
本発明の前記共重合体(A)の分子量は、重量平均で、5,000〜5,000,000の範囲がよく、さらに望ましくは100,000〜2,000,000の範囲である。分子量が5,000未満では十分に前記共重合体(A)の持つ感触の良さや吸湿性を発揮させるのが困難になりやすくあまり好ましくない。また、5,000,000を超えると、前記共重合体(A)の水性溶液の粘性が高くなりすぎ繊維に均一に処理剤が浸透するのが困難となり、得られる繊維の感触を損ねる恐れがあるため、あまり好ましくない。
【0021】
前記共重合体(A)は、ホスホリルコリン基含有モノマー成分として20〜80mol%と、全親水性基含有モノマー成分として15〜60mol%(ただし、カルボキシル基を含む親水性基含有モノマーは、その内少なくとも10mol%を占めることが好ましい)および疎水性基含有モノマー成分として2〜40mol%からなるモノマー組成物を重合してなる重合体を好ましく挙げることができる。より好ましくは、ホスホリルコリン基含有モノマー成分として40〜70mol%と、上記カルボキシル基を含む親水性基含有モノマー成分20〜40mol%と、疎水性基含有モノマー成分5〜20mol%のモノマー組成物である。
【0022】
前記共重合体(A)の具体例としては、特開平8−333421号公報や特開2001−200480号公報に記載されている樹脂を使用することができる。
【0023】
本発明の特徴である防汚性と肌に優しい特性を発揮させるために、前記共重合体(A)の該繊維構造物に対する付着量は、該繊維構造物の全重量に対して、0.1重量%から15重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%から10重量%の範囲で付着させるのがよい。すなわち、かかる付着量が0.1重量%未満であると、防汚性および肌に優しい特性が十分に得られづらくなりあまり好ましくなく、また、15重量%を超えると、該繊維構造物の風合いが硬化し、着用時に肌への刺激が強くなる傾向があるのであまり好ましくない。
【0024】
一方の前記共重合体(B)について、詳細に記述する。
本発明で前記共重合体(B)を構成するモノマー成分として使用できるオキサゾリン基を有する付加重合性モノマーとしては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの群から選ばれる一種または二種以上の混合物を使用することができる。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的に入手しやすく好適である。
【0025】
付加重合性オキサゾリンの使用量は、特に限定されるものではないが、モノマー成分中の5〜80重量%が好ましく、30〜60重量%がより好ましい。5重量%未満では硬化の程度が不十分となり易くあまり好ましくない。但し、耐水性への好ましくない影響を考慮すると60重量%を超えないことが好ましい。
【0026】
本発明では前記共重合体(B)にセルロース繊維の水酸基と同様に樹脂加工剤あるいはホルムアルデヒドなどの架橋剤を介して架橋反応が可能な親水性モノマー、中でも水酸基を有するモノマーを使用することもできる。本発明に使用できる水酸基を有するモノマー群には、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらC1〜C4のヒドロキシ低級アルキル(メタ)アクリレート中のアルキル基は分枝していてもかまわない。また、これらの1種または2種以上が上記水酸基含有モノマーとして併用されてもかまわない。上記水酸基を有する親水性モノマー群は、親水性繊維との親和性改善にも有用であることはいうまでもない。
【0027】
このほか、付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル及びその塩等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β−不飽和単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等のα,β−不飽和芳香族単量体類等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
【0028】
本発明の前記共重合体(B)は、環境の側面から水性であることが望ましい。すなわち、水溶性、水希釈性または水分散性の前記共重合体(B)を用いることが好ましく、水溶性がより好ましい。重合に供する単量体成分中の親水性単量体の割合を好ましくは50重量%以上とすることで、水溶性のオキサゾリン基含有重合体を得ることができ、水溶性と硬化性の面から60〜90重量%が特に好ましい。親水性単量体としては、付加重合性オキサゾリン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールのモノエステル化物、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル及びその塩、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中で、水への溶解性の高い、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物等のポリエチレングリコール鎖を有する単量体が好ましい。
【0029】
前記共重合体(B)は、上記単量体成分を、従来公知の重合法によって水性媒体中で溶液重合を行うことで製造することができる。水性媒体とは、水と容易に混合可能な溶媒であれば特に制限はなく、水単独;水と有機溶媒との混合物;有機溶媒単独が挙げられ、特に水単独;水と有機溶媒との混合物が好ましい。使用可能な有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ターシャリーブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられ、これらの中の1種以上が使用される。
【0030】
本発明では、前記共重合体(B)として、ポリマーの後変性でオキサゾリン基を導入したものも使用可能であり、具体的にはニトリル基とアミノエタノール基の反応、ヒドロキシルアルキルアミド基の脱水反応等が利用可能である。前記共重合体(B)の使用量としては、前記共重合体(A)に対して0.1〜100重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。使用量が0.1重量%より少ない場合には硬化の程度が不充分になり易くあまり好ましくない。使用量が100重量%よりも多い場合には、反応に寄与しない前記共重合体(B)が多く残存し、好ましくない耐水性への影響を及ぼす恐れからあまり好ましくない。
【0031】
上記前記共重合体(B)としては、特開2000−160038号公報、特開2003−238638号公報に記載の方法に準じて調製することができる。
【0032】
またさらに、分子内にカルボキシル基、水酸基およびホスホリルコリン基を有する重合性モノマーから得られる前記共重合体(A)の0.1〜15重量%の水溶液には、例えば、エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコールを0.001〜10重量%の範囲で添加すると、繊維と前記共重合体(A)のなじみを良くすることができるためより好ましい。
【0033】
本発明で使用できるフッ素系樹脂は、ポリフルオロアルキル基および親水性基を含有するもので、ポリフルオロアルキル基を有するモノマーと親水性基を有するモノマーからなる共重合体が好ましく用いられる。
【0034】
この時、該共重合体を製造する際のポリフルオロアルキル基を有するモノマーとしては、炭素数3〜20個、好ましくは6〜14個の末端パーフルオロアルキル基を含有するアクリル酸エステルが好ましく用いられる。
【0035】
本発明で用いるフッ素系樹脂の付着量は、繊維構造物に対して、0.1重量%以上、15重量%以下の割合で、繊維構造物上に固着することが好ましい。0.1重量%未満であると十分な防汚性が得づらくなりあまり好ましくなく、また、15重量%を超えると、繊維構造物の風合いが硬く感じられやすくあまり好ましくない。より好ましくは0.5重量%以上10重量%以下である。
【0036】
ここで繊維表面とは、繊維構造物を構成する単繊維1本の表面、または糸の表面、または繊維構造物の一面の表面が含まれ、いずれかに限定されるものではない。
【0037】
本発明でいう繊維構造物は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド類、ポリアクリロニトリルなどの合成繊維と、綿、麻などの天然セルロース類、レーヨンなどの再生セルロース類、テンセル(リヨセル)などの精製セルロース類、羊毛、カシミア等の獣毛繊維の織物、編物または不織布などの布帛はもちろん、帯状物、紐状物、糸状物などの繊維を含むものであれば、その構造、形状を問わない。各種繊維が2種以上複合された複合された織物、編物または不織布などの布帛はもちろん、帯状物、紐状物、糸状物などの繊維を含むものであれば、その構造、形状を問わない。
【0038】
本発明でいう繊維構造物のその表面は、前記共重合体(A)、前記共重合体(B)および必要に応じてフッ素系樹脂、架橋剤、触媒などが同時に存在するものである。
【0039】
本発明で用いられる繊維構造物がセルロース繊維を含むものである場合は、架橋剤を利用してセルロース繊維の持つ水酸基と共重合体(A)および(B)と架橋させる方法が利用できる。
【0040】
本発明で使用できる架橋剤としては、アルデヒド化合物、N−メチロール化合物、ケトン樹脂、アセタール樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、ポリカルボン酸化合物などが利用できる。
【0041】
アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、グルタルアルデヒドなどが使用できる。
【0042】
N−メチロール化合物としては、ジメチロール尿素、尿素ホルマリン縮合物などのホルムアルデヒド樹脂、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどのメラミンホルムアルデヒド樹脂、ジメチロールエチレン尿素、ジメチロールプロピレン尿素、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素、ジメチロールウロン、ジメチロールアルキルトリアジン、テトラメチロールアセチレンジ尿素、4−メトキシー5−ジメチルプロピレン尿素などの環状尿素化合物、ジメチロールヒドロキシエチルカーバメート系樹脂、N−メチロールアクリルアミドの重合体及び他のアクリル及びメタクリル化合物との共重合体などが利用できる。又、以上のメチロール化合物のメチルエーテル化合物も利用できる。更には、ジメチルジヒドロキシエチレン尿素などのいわゆるノンホルマリン系樹脂も使用できる。
【0043】
ケトン樹脂としては、アセトンホルムアルデヒド樹脂などが使用できる。
【0044】
アセタール樹脂としては、グリコールアセタール、ペンタエリスリトールビスアセタールなどが使用できる。
【0045】
イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネータ、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの分子内にイソシアネート基を2個以上持つ化合物が利用できる。又、ポリオール化合物にイソシアネート基を複数付加し、更に亜硫酸ソーダやメチルエチルケトオキシムでイソシアネート基をブロックした化合物も使用できる。
【0046】
エポキシ樹脂としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル化合物が利用できる。
【0047】
ポリカルボン酸化合物としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバチン酸などの直鎖脂肪族ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸、トリカルバリル酸、アコチニン酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸などのトリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸などのテトラカルボン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などのヒドロキシジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸、アクリル酸、メタクリル酸などを含むアクリル重合物などのカルボキシル基を複数個持つ化合物が利用できる。
【0048】
これらの架橋剤には必要に応じて反応を促進させる目的でそれぞれの架橋剤に適切な触媒を用いても良い。例えば、架橋剤がアルデヒド化合物、N−メチロール化合物の場合は、酸性又は潜在性酸性触媒が挙げられる。酸性触媒としては、塩化水素ガス、S02ガス等の酸性ガス及び塩酸、硝酸、硫酸、りん酸など無機酸、グリコール酸、マレイン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸及び蓚酸等の有機酸が利用できる。潜在性酸性触媒としてはAlCl3、Al2(SO43、MgCl2、Mg(H2PO42、Zn(BF42、Zn(NO32、ZnCl2、Mg(BF42、Mg(ClO42、Al2(OH)4Cl2 などの各種金属塩(結晶水含有物も含む)類、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの塩酸塩など各種アルカノールアミンの酸性塩、硝酸、塩酸、硫酸、りん酸などの強酸のアンモニウム塩類及びこれらの混合物等が利用できる。架橋剤がケトン樹脂、アセタール樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、ポリカルボン酸化合物である場合もそれぞれの架橋剤に適した触媒を利用できる。
【0049】
これら架橋剤の中でも、特にホルムアルデヒド、N−メチロール化合物はセルロース系繊維構造物に高度な形態安定効果を同時に付与することができ、好ましく用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いても良いが、より架橋効果を上げる目的で2種以上を併用することもできる。
【0050】
本発明で用いられる繊維構造物がセルロース繊維を主として含むものであり、ホルムアルデヒドやN−メチロール樹脂による形態安定加工を同時に行う場合は、これらの反応によりセルロース繊維が大きく強度低下し、風合いが粗硬になる場合がある。このためセルロース繊維を主として含む場合は、風合いの向上や力学特性の低下を抑制するため前処理としていずれかの工程で液体アンモニア処理されることが好ましい態様である。本発明で用いられるセルロース含有繊維構造物は、架橋剤によりセルロース繊維内部も架橋されるためセルロース繊維の強度が低下する場合がある。このためセルロース繊維単独の場合は特に、風合いの向上や力学特性の低下を抑制するため前処理としていずれかの工程で液体アンモニア処理されることが好ましい態様である。
【0051】
また、本発明の処理液には、必要に応じて、界面活性剤、柔軟剤、溶剤、染料、保湿剤、抗菌剤、香料等の他の成分を添加しても良い。
【0052】
本発明を繊維に処理する方法は、(1)水溶液としてそれに繊維を浸漬し乾燥させた後キュアリングさせる方法か、もしくは、(2)水溶液として繊維に直接塗布し乾燥させた後キュアリングさせる方法か挙げられる。
【0053】
繊維に処理した後、完全に乾燥することを望む場合には、乾燥する温度は40〜180℃の範囲が好ましく、40℃より低い温度では該共重合体が本来有する吸湿性のために十分に乾燥することができず、180℃より高い温度ではホスホリルコリン基が分解する恐れがあるため好ましくない。ただし、家庭用の洗濯や柔軟仕上げ等に使用する場合や業務用に使用する場合でも、処理後に吸湿している状態が問題のない場合には、室温で乾燥することも可能である。キュアリングは架橋剤に適した条件で行うが、100〜180℃の温度で30秒〜10分間熱処理する方法が好ましく用いることができる。
【0054】
本発明で使用するホルムアルデヒドには、その発生薬剤としてパラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドメタノール混合水溶液、ジヒドロキシメチレンと蟻酸とのエステル化合物等が利用できる。
【0055】
本発明の繊維構造物を製造する方法は特に限定されないが、例を挙げて説明する。
【0056】
まず、ホスホリルコリン基とカルボキシル基を含有する共重合体(A)、オキサゾリン基を有する重合性モノマーから得られる多価オキサゾリン共重合体(B)、および必要に応じてに応じてフッ素系樹脂性及び界面活性剤を併用して分散水溶液とし、さらに架橋剤、必要に応じ架橋触媒を混合した処理液を調製する。繊維構造物を該処理液中に浸漬し、余分な液をマングルまたは遠心脱水機などの手段で除去した後、50〜120℃で乾燥する。次いで、140〜160℃で2〜10分間加熱処理し架橋反応を完結させる。
【0057】
一方、気相ホルムアルデヒド加工では、上記処理液から必要の無い架橋剤や架橋触媒を除いた薬剤の付与された繊維構造物(縫製されていてもかまわない)を反応室へ投入した後、ホルムアルデヒドメタノール混合水溶液を蒸気と共に霧状で注入する。ホルムアルデヒド注入後に酸性ガス触媒を注入ししばらく放置した後、昇温し架橋反応させた後、アンモニアガスを注入し中和する方法が利用できる。この際酸性ガス触媒を使用しない場合は、潜在性酸触媒を予め生地に付与する方法が利用できる。又、ホルムアルデヒド以外の架橋剤やその架橋触媒を予め生地に付与しておく方法も利用できる。
【0058】
本発明の上記処理液調製時、さらに保湿剤および柔軟剤を添加することは、特に、気相ホルムアルデヒド加工で好ましい態様である。
【0059】
本発明で使用できる保湿剤としては、水を吸収して保持できるものであれば特に限定されないが、ポリオール類、スクワラン等が利用できる。
【0060】
本発明で利用できるポリオール類としては、エチレングリコール系、プロピレングリコール系化合物や、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、グリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、及びこれらのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドの付加物が利用できる。
【0061】
本発明で利用できる柔軟剤とは、繊維構造物の風合いを好ましいものにするためや、繊維構造物が織物の場合引裂き強力を向上させる目的で使用するものであり、ジメチルポリシロキサン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、水溶性シリコーン等のシリコーン系柔軟剤、ワックス系柔軟剤、ポリエチレン系柔軟剤、脂肪酸アミド系柔軟剤、ポリウレタン系柔軟剤、ポリエステル系柔軟剤、アクリルエステル系柔軟剤、ノニオン、アニオン、カチオン、両性の界面活性剤等が利用できる。
【0062】
さらに本発明では、撥水剤、抗菌剤、防臭剤、静電気防止剤等の機能性加工剤を同時に使用することも可能である。
【0063】
以下に本発明合成例を挙げて詳しく説明する。次に用いた共重合体(A)の重量平均分子量の分析方法および共重合体(B)の水溶解性評価法をそれぞれ示す。
【0064】
1.重量平均分子量の測定
リン酸バッファー(pH7.4、20mM)を溶離液としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、ポリエチレングリコール標準、UV(210nm)及び屈折率にて検出した。
【0065】
2.水溶解性
共重合体(B)10gをイオン交換水90g中に投入し10分攪拌後の溶解性を目視判定した。
○:透明な水溶液、△:濁った水分散体、×:溶解せず
【0066】
本発明共重合体(A)の合成例1:共重合体(A1)
MPC45.7g、(メタ)アクリル酸(MAc)4.4g、n−ブチルメタクリレート(BMA)7.3gをエタノール;230gに溶解し4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹込んだ後、60℃でアゾビスイソブチロニトリル;1.4gを加えて8時間重合反応させたものを共重合体溶液(A)とした。共重合体溶液(A)の不揮発分は20重量%であった。GPCにより評価した分子量は重量平均分子量137,000であった。得られた共重合体(A1)のモノマー組成および重量平均分子量を表1に示す。
【0067】
本発明共重合体(A)の合成例2:共重合体(A2)
上記本発明共重合体(A)の合成例1に準じてモノマーの種類、組成比を変え、合成例1に準じた操作により、共重合体(A2)を得た。得られた共重合体のモノマー組成および重量平均分子量を表1に示す。
【0068】
比較共重合体(A)の合成例1および2:共重合体(A3)および(A4)
前記の本発明合成例1に準じてモノマーの種類、組成比を変え、合成例1に準じた操作により、比較共重合体(A3)および(A4)を得た。得られた比較共重合体の組成および重量平均分子量を表1に示す。
【0069】
本発明共重合体(B)の合成例1:本発明共重合体(B1)
温度計、攪拌機、窒素導入管、還流冷却器を備えたガラス製反応器に、平均分子量500のポリエチレングリコールモノメチルエーテル100gを仕込み、窒素気流下で140℃に昇温した。次に、ガラス製反応器内の温度を140〜142℃に保持しながら、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)25g、(メタ)アクリル酸ブチル(BMA)25g、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン(IPO)50gおよびジ−tert−ブチルパーオキサイド10gそれぞれを別々に2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、140〜142℃で2時間保持しながら攪拌して、ジ−tert−ブチルパーオキサイド0.5gを添加し、その後さらに140〜142℃で1.5時間保持しながら攪拌することにより、共重合体(B1)を得た。また、得られた共重合体10gをイオン交換水90gに溶解させたところ、透明溶液が得られた。
【0070】
比較合成例1:比較共重合体(B2)
前記の本発明共重合体(B)の合成例1に準じてモノマーの種類、組成比を変え、本発明共重合体(B)の合成例1に準じた操作により、共重合体(B2)を得た。得られた共重合体(B1)のモノマー組成および水溶解性を表1に示す。
【実施例】
【0071】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。実施例で用いた評価法を以下に示す。
【0072】
1.血液防汚性評価法
(1)HL=0およびHL=20試験布の調製法
自動反転渦巻式電気洗濯機(三菱電機(株)製:MAW−N6UP)に、40cm×40cmの加工済み試験布およびダミー布をあわせ1000gと、30gの合成洗剤(花王(株):コンパクトビッグ)を投入し、標準コースの洗い5分、すすぎ2回、脱水1分、水量30リットルの設定で自動洗濯を行うことを家庭洗濯の1回分とした。この洗濯を20回繰り返した後自然乾燥したものを家庭洗濯20回(HL=20)の試料とした。なお、洗濯しない加工上がりのものを(HL=0)として表示した。
【0073】
(2)血液汚染試料の調製
40cm×40cmの上記試験布の表を上にしてガラス板状に固定し、中央部に0.1mlの血液を滴下し1分放置後、汚染部にその都度新しいろ紙やティッシュペーパーを重ね、ゴムローラー掛けし、ろ紙やティッシュペーパーに血液汚れが付か無くなるまで繰り返した後、上記試験布を室温で16時間放置し、血液防汚性評価用試料とした。
【0074】
(3)防汚性評価法
上記洗濯有無の血液汚染試料を、さらに上記の洗濯方法による、洗濯一回(HL−1)後の血液汚染の程度を、以下のように目視判定による5段階評価で実施した。
5級:汚れが付いていない
1級:著しく汚れている
【0075】
2.着用時の肌の状態観察
1週間着用後の肌の状態を観察した。
○:着用時違和感なし、△:着用時違和感若干有り、×:着用時違和感有り
ここでいう違和感とは、肌に何らかの刺激のある状態を言う。
【0076】
3.引き裂き強力
加工生地又は繊維製品のヨコ方向の引き裂き強力をJIS L1096 8.15.5 D法(ペンジュラム法)により測定した。測定に際しては5枚のサンプルの平均値をcNで表した。
【0077】
(実施例1)
55デシテックス、36フィラメントのナイロンフィラメント糸よりなる肌着用天竺編地を精錬処理した後、下記組成の加工液(イ)に浸漬し絞り率70%になるようにマングルで絞り、120℃で1分間乾燥し、次いで150℃で2分間キュアリングした。この編地を使用して通常の方法によりTシャツを縫製し、本発明の実施例1のTシャツを得た。得られたTシャツの評価結果を表2に示した。HL=0および20共に血液汚染に対する除去性に優れ、着用時の違和感も認められなかった。
【0078】
加工液組成(イ):
本発明共重合体(A1)5重量部、本発明共重合体(B1)3重量部、 水 89重量部
【0079】
(実施例2、3)
常法による精錬漂白を行い、次いでシルケット加工を行ったポリエステル/綿混織物(混率 E/C=65/35% 50/1×50/1/144×81本/インチ)を下記組成の加工液(ロ)、(ハ)に浸漬し絞り率70%になるようにマングルで絞り、120℃で1分間乾燥し、次いで150℃で3分間キュアリングし、サンフォライズ加工した。この綿織物を使用して通常の方法により白衣を縫製し、本発明の実施例1〜3の白衣を得た。得られた白衣の評価結果を表2に示した。HL=0および20共に血液汚染に対する除去性に優れ、着用時の違和感も認められなかった。
【0080】
加工液組成(ロ):
本発明共重合体(A2)5重量部、本発明共重合体(B1)3重量部、PEN(大日本インキ化学工業社製、ポリエチレン系ソフナー) 3重量部、 水 89重量部
【0081】
加工液組成(ハ):
本発明共重合体(A2)5重量部、本発明共重合体(B1)3重量部、アサヒガード(登録商標)AG−780(明成化学工業製、フッソ系樹脂)3重量部、 PEN(大日本インキ化学工業社製、ポリエチレン系ソフナー) 3重量部、 水 86重量部
【0082】
(実施例4)
常法による精錬漂白を行い、次いでシルケット加工を行った綿織物(50/1×50/1/144×81本/インチ)を下記組成の加工液(ニ)に浸漬し絞り率70%になるように絞り、120℃で1分間乾燥し、次いで150℃で3分間キュアリングし、サンフォライズ加工した。この綿織物を使用して通常の方法により白衣を縫製し、本発明の実施例4の白衣を得た。得られた白衣の評価結果を表2に示した。HL=0および20共に血液汚染に対する除去性に優れ、着用時の違和感も認められなかった。
【0083】
加工液組成(ニ):
本発明共重合体(A2)5重量部、本発明共重合体(B1)3重量部、PEN(大日本インキ化学工業社製、ポリエチレン系ソフナー) 3重量部、メイカネートMF(明成化学工業製、イソシアネート架橋剤)1重量部、 水 88重量部
【0084】
(実施例5)
実施例4と同じシルケット加工後の綿織物を用い、下記組成の加工液(ホ)に浸漬し絞り率70%になるようにマングルで絞り、120℃で1分間乾燥し、次いでサンフォライズ加工した。この綿織物を使用して通常の方法により白衣を縫製した。次いで、この白衣を密閉容器内に設置し、37%ホルムアルデヒド水溶液と亜硫酸ガス触媒を用いる常法のホルムアルデヒドによる気相(VP)加工を施し、本発明の実施例5の白衣を得た。得られた白衣の評価結果を表2に示した。HL=0および20共に血液汚染に対する除去性に優れ、特に着用感に優れたものであった。
【0085】
加工浴組成(ホ):
本発明共重合体(A2)5重量部、本発明共重合体(B1)3重量部、ポリエチレングリコール(平均分子量200) 6重量部 、PEN(大日本インキ化学工業社製、ポリエチレン系ソフナー) 3重量部、 水 83重量
【0086】
(実施例6)
実施例4と同じシルケット加工後の綿織物を用い、下記組成の加工液(ヘ)に浸漬し絞り率70%になるようにマングルで絞り、120℃で1分間乾燥し、次いで150℃で3分間キュアリングし、サンフォライズ加工した。この綿織物を使用して通常の方法により白衣を縫製し、本発明の実施例4の白衣を得た。得られた白衣の評価結果を表2に示した。HL=0および20共に血液汚染に対する除去性に優れ、着用時の違和感も認められなかった
【0087】
加工液組成(ヘ):
本発明共重合体(A2)5重量部、本発明共重合体(B1)3重量部、スミテックスレジン(登録商標)NS−19 (住友化学製、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素)10重量部、 塩化マグネシウム・6H2O(43%水溶液) 4重量部 、ポリエチレングリコール(平均分子量200) 6重量部 、PEN(大日本インキ化学工業社製、ポリエチレン系ソフナー) 3重量部、 水 69重量部
【0088】
(実施例7)
実施例4と同じシルケット加工後の綿織物を更に液体アンモニア加工を行った後は実施例5と同じ加工液による処理を行い、同じホルムアルデヒドによる気相(VP)加工を施し、本発明の実施例7の白衣を得た。得られた白衣の評価結果を表2に示した。HL=0および20共に血液汚染に対する除去性に優れ、特に着用感に優れたものであった。
【0089】
(比較例1〜3)
実施例1と同じポリエステル/綿混織物を下記組成の加工液(ト)〜(リ)に浸漬し絞り率70%になるようにマングルで絞り、120℃で1分間乾燥し、次いで150℃で3分間キュアリングし、サンフォライズ加工した。この綿織物を使用して通常の方法により白衣を縫製し、本発明の比較例1〜3の白衣を得た。得られた白衣の評価結果を表2に示した。実施例に比べHL=0での血液汚染に対する除去性と着用感は比較的良好であったが、HL=20での血液汚染に対する除去性に劣り、着用時の違和感が認めた。
【0090】
加工液組成(ト):
本発明共重合体(A1)5重量部、PEN(大日本インキ化学工業社製、ポリエチレン系ソフナー) 3重量部、 水 92重量部
【0091】
加工液組成(チ):
本発明共重合体(A2)5重量部、本発明共重合体(B2)3重量部、PEN(大日本インキ化学工業社製、ポリエチレン系ソフナー) 3重量部、 水 92重量部
【0092】
加工液組成(リ):
本発明共重合体(A3)5重量部、本発明共重合体(B1)3重量部、スミテックスレジン(登録商標)NS−19 (住友化学製、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素)10重量部、 塩化マグネシウム・6H2O(43%水溶液) 4重量部 、ポリエチレングリコール(平均分子量200) 6重量部 、PEN(大日本インキ化学工業社製、ポリエチレン系ソフナー) 3重量部、 水 69重量部
【0093】
(比較例4)
実施例1と同じポリエステル/綿混織物を下記組成の加工液(ヌ)に浸漬し絞り率70%になるようにマングルで絞り、120℃で1分間乾燥し、次いで150℃で3分間キュアリングし、サンフォライズ加工した。この綿織物を使用して通常の方法により白衣を縫製し、本発明の比較例1〜3の白衣を得た。得られた白衣の評価結果を表2に示した。実施例に比べHL=0、HL=20共に血液汚染に対する除去性が悪く、着用時の違和感が認められた。
【0094】
加工液組成(ト):
本発明共重合体(A4)5重量部、本発明共重合体(B1)3重量部、スミテックスレジン(登録商標)NS−19 (住友化学製、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素)10重量部、 塩化マグネシウム・6H2O(43%水溶液) 4重量部 、ポリエチレングリコール(平均分子量200) 6重量部 、PEN(大日本インキ化学工業社製、ポリエチレン系ソフナー) 3重量部、 水 69重量部
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0097】
シーツ、エプロン、白衣、手術衣、手術用手袋、帽子、マスク、ハンカチ、タオル、カーテン、枕カバー、オムツ、シャツ、ブラウス、レース製品などの医療・介護用、日用雑貨および衣料などの繊維製品において、耐久性ある優れた防汚性およびSR性を示し、特に血液汚れに対する防汚性およびSR性に優れ、しかも風合いがソフトで肌にやさしい繊維製品を得ることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に少なくともカルボキシル基を有する重合性モノマーと分子内に少なくともホスホリルコリン基を有する重合性モノマーから得られる共重合体(A)、および、分子内に少なくともオキサゾリン基を有する重合性モノマーから得られる多価オキサゾリン共重合体(B)が付与されてなることを特徴とする繊維構造物。
【請求項2】
共重合体(A)が、分子内に少なくとも水酸基を有する重合性モノマーをも原料として得られる共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項3】
共重合体(A)および(B)が、繊維構造物の全重量に対して、それぞれ0.1重量%以上15重量%以下の割合で繊維表面に付与されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造物。
【請求項4】
共重合体(A)、(B)、およびフッ素系樹脂が、繊維構造物の全重量に対して、それぞれ0.1重量%以上15重量%以下の割合で付与されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項5】
繊維構造物がセルロース系繊維を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項6】
繊維構造物がセルロース系繊維を含むものであり、セルロース系繊維が架橋剤により処理されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項7】
繊維構造物がセルロース系繊維を含むものであり、該セルロース系繊維含有繊維構造物がホルムアルデヒド気相加工されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項8】
繊維構造物がセルロース系繊維を含むものであり、該セルロース系繊維含有繊維構造物がN−メチロール系樹脂で処理されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項9】
繊維構造物がセルロース系繊維を含むものであり、該セルロース系繊維含有繊維構造物が予め液体アンモニア処理されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の繊維構造物が、少なくとも一部に含まれていることを特徴とする繊維製品。

【公開番号】特開2007−191826(P2007−191826A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12177(P2006−12177)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】