説明

防汚表示体

【課題】煩雑な工程を必要とせずに、耐候性に優れた防汚表示体を提供すること。
【解決手段】光拡散性材料と該光拡散性材料の直下に複数のLEDが配設される照明体と、前記光拡散材料に積層される光触媒層と、を有し、前記複数のLEDは、少なくとも、ピーク波長350〜390nmの波長を発するLEDと、可視光を発するLED及び/又は白色光を発するLEDとからなるLED光源と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間にわたり光触媒活性及び/又は高度に親水性である光触媒表層部を有し、LED光源からの光により光励起する光触媒層を有する光拡散性材料を用いた防汚表示体に関するものである。具体的には、抗菌、防黴、防汚、脱臭、空気浄化などの作用を長期間に亘って発揮できる光触媒層を有する防汚表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒としては以下のことが知られている。
【0003】
ある種の物質に、その物質の伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップ(バンドギャップ)よりも大きなエネルギーを持つ光、即ちその物質のバンドギャップに対応する光よりも波長の短い光(励起光)を照射すると、光エネルギーによって価電子帯中の電子の励起(光励起)が起こり、伝導帯に電子が、価電子帯に正孔が生成する。このとき、伝導帯に生成した電子の還元力及び/又は価電子帯に生成した正孔の酸化力を利用して、種々の化学反応を行うことができる。
【0004】
即ち、上記のような物質は、励起光照射下において触媒のように用いることができる。そのため、上記のような物質は光触媒と呼ばれており、その最も代表的な例として酸化チタンが知られている。
【0005】
この光触媒によって促進される化学反応の例としては、種々の有機物の酸化分解反応を挙げることができる。従って、この光触媒を種々の基材の表面に固定化させれば、基材の表面に付着した種々の有機物を、光エネルギーを利用して酸化分解することができることになる。
【0006】
また、光触媒の中には、酸化チタンのように、光照射により、その光触媒の表面の親水性が非常に高まるものも多く知られている。
【0007】
従って、これらの光触媒を種々の基材の表面に固定化させれば、光照射による有機物分解作用及び/又は親水化作用によりその基材の表面の親水性を高めることができるようになる。
【0008】
近年、上記のような光触媒の特性を、環境浄化、種々の基材の表面への汚れの付着防止や曇りの防止を始めとする、種々の分野に応用するための研究が盛んになってきている。
【0009】
この際、光触媒を無機基材の上に光触媒膜や光触媒粒子を支持して用いる場合は問題ないが、一部の有機材料を除き、一般に有機基材の上に光触媒膜や光触媒粒子を支持して用いる場合は、上記光触媒作用により有機基材表面部が分解するため、様々な問題が発生する。具体的には、有機基材表面部が分解すると、その上に存在している光触媒層が足場を失うため、脱落する。またそれにより、光触媒作用を利用した目的の機能(防汚性や、抗菌性、脱臭性など)が失われるだけでなく、表面光沢が低下したり、粉吹き状態になるなど、本来の外観特性や意匠性も失われてしまう。
【0010】
これらの問題に対し、特許文献1や特許文献2では、有機基材と光触媒層との間に、光触媒作用によって分解されにくい難分解性の中間層を介在させる方法が提案されている。 光触媒を光励起させるには、特許文献3では蛍光灯、白熱電球、メタルハライドランプ、水銀ランプ、太陽光中の紫外線が紹介されている。
【0011】
【特許文献1】特開平11−188271号公報
【特許文献2】特開2000−6303号公報
【特許文献3】特許第2756474号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1又は2の方法では中間層と光触媒層の界面での長期接着性が不十分であると共に、塗装工程が煩雑で作業性が悪く、生産ロス増加やコスト高になってしまう。その上、均質な皮膜を得るのが非常に困難であり、有機基材の劣化を完全に防止するのが難しい。また、この方法では光触媒層と難分解物質からなる層との間に明確な膜界面が存在するため、光触媒層の剥離等のおそれもある。
【0013】
また、特許文献3では蛍光灯、白熱電球、メタルハライドランプ、水銀ランプ、太陽光中の紫外線が紹介されている。しかし、これらはいずれも外部光源からの光であり、自ずと制限がある。
【0014】
本発明の目的は、煩雑な工程を必要とせずに、光拡散性材料と光触媒を含む表層部との間の界面劣化や表層部自体の光触媒による劣化を生じることが無く、光照射により長期にわたり、その表面が光触媒活性及び/又は親水性を発現する耐候性に優れた光触媒表層部を有する光拡散性材料を提供することと共に、表示体自体の光源により光触媒の光励起性に優れ、屋内使用にも適した省エネ、省スペースのLED光源を有する発光システムによる防汚表示体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、
[1]光拡散性材料と該光拡散性材料の直下に複数のLEDが配設される照明体と、前記光拡散材料に積層される光触媒層と、を有し、前記複数のLEDは、少なくとも、ピーク波長350〜390nmの波長を発するLEDと、可視光を発するLED及び/又は白色光を発するLEDとからなるLED光源と、を有することを特徴とする防汚表示体。
【0016】
[2]前記ピーク波長350〜390nmの波長を発するLEDの発光時間が、前記可視光を発するLED及び/又は前記白色光を発するLEDの単位発光時間当たりにおける、1/100〜99/100となるように発光するように制御されたことを特徴とする上記[1]に記載の防汚表示体。
【0017】
[3]前記光触媒層は、光触媒及びバインダー成分を含む、光触媒組成物からなることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の防汚表示体。
【0018】
[4]前記光拡散性材料は、熱可塑性樹脂と光拡散剤とから形成されることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の防汚表示体。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、特殊なLED光源を使用することにより、光拡散性材料自体を劣化すること無しに強い光触媒活性及び/又は親水性(水の接触角が20゜以下、好ましくは10゜以下)を発現する表層部を有し、降雨や簡単な水洗浄で長期にわたり光透過性材料の美観を保つことや、有害物質を分解することにより環境浄化ができる光触媒表層部を有する光透過性材料および該光透過性材料を用いた表示体を、提供することができる。特に、表示体内部の光源により光触媒が活性化されるため、屋内使用において効果的である。
【0020】
本発明の活用例として、サイン等のディスプレイ装置、非常口やトイレ等の表示灯、意匠性を有した照明器具、意匠性を施したパネル、パーテーション、ウォール等の建材、看板等に広く適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の光触媒表層部を有する光拡散性材料は、光触媒(A)及びバインダー成分(B)を含む表層部を備えた光拡散性材料であって、該表層部中における光触媒(A)の濃度が、光拡散性材料の内部側から他方の露出面に向かって高くなることを特徴とする。
【0023】
この際、全表層部中の光触媒含有量(濃度)100に対し、露出面と接する表面側近傍の相対濃度が120以上であることが好ましい。このように構成すると、光触媒能力や親水化能力の向上効果を発現し、防汚効果が大きくなる。該表面側近傍の相対濃度はより好ましくは150以上、さらに好ましくは200以上であることがよい。
【0024】
また、光拡散性材料に接する面近傍の相対濃度が50以下であると、界面劣化防止効果の点で好ましい。該光拡散性材料に接する面近傍の相対濃度はより好ましくは10以下、さらに好ましくは0であると良い。
【0025】
また、本発明における表層部中における光触媒(A)の濃度は、該光拡散性材料に接する面から他方の露出面に向かって徐々に高くなっても良い。また、単に該光拡散性材料に接する面での光触媒濃度が低く、他方の露出面における光触媒濃度が高く、その間の変化が不連続であっても良い。
【0026】
さらに、本発明の表層部中において、保護層の上に光触媒層を塗布する場合に生じる様な明確な膜界面が存在しない方が好ましい。すなわち、保護層の上に光触媒層を塗布する場合に生じる様な明確な膜界面が存在しない場合、光触媒は強固に表層部中に固定化され、光触媒の剥離等の問題が発生しなくなる。
【0027】
本発明において光触媒活性とは、光照射によって酸化、還元反応を起こすことを言う。材料表面の、光照射時における色素等の有機物の分解性を測定することにより表面が光触媒活性であるか否かを判定できる。光触媒活性を有する表面は、優れた汚染有機物質の分解活性や耐汚染性を発現する。
【0028】
また、本発明において親水性とは、好ましくは20℃での水の接触角が60゜以下である場合を言う。ここで、特に水の接触角が20゜以下の親水性を有する表面は、降雨等の水による自己浄化能(セルフクリーニング)による耐汚染性を発現するので好ましい。さらに優れた耐汚染性発現の点からは表面の水の接触角は10゜以下であることが好ましく、更に好ましくは5゜以下である。
【0029】
本発明の光拡散性材料としては、無機材料、例えばすりガラス等や、有機材料、例えば種々の熱可塑性樹脂に光拡散剤を配合した材料が適用可能である。熱可塑性樹脂としては光学用途に使用されている光透過性樹脂が好ましく、例えばメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、非晶性ポリエステル樹脂等の光学材料であり、更に好ましくはメタクリル樹脂である。
【0030】
また、光透過性材料と光拡散性材料を組み合わせて使用しても良い。
【0031】
以下、本発明の光透過性樹脂として適用可能な樹脂について、より詳細に記す。
【0032】
メタクリル樹脂とは、メタクリル酸メチル或いはメタクリル酸エチルを70重量%以上と、これ等と共重合性を有する単量体とを共重合することにより得ることが出来る。これ等と共重合性を有する単量体としてはメタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル。メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和酸類等が適用可能である。
【0033】
また、耐熱性メタクリル樹脂、低吸湿性メタクリル樹脂、耐衝撃性メタクリル樹脂等も適用可能である。耐衝撃性メタクリル樹脂とは、例えばメタクリル樹脂にゴム弾性体をブレンドしたものである。そのゴム弾性体の一例としては、アクリル系重合体芯材料の周りに弾性層及び非弾性層を交互に生成させる多段階逐次重合法により製造される多段重合体が挙げられる。このゴム弾性体をメタクリル樹脂にブレンドすることで、上記の耐衝撃性メタクリル樹脂が得られる。
【0034】
また、ポリカーボネート樹脂を用いる場合には、ポリカーボネート樹脂としてビスフェノールAに代表される二価フェノール系化合物から誘導される重合体が用いられる。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法、エステル交換法或いは固相重合法等の周知の慣用の方法で製造されたものを適用することが出来る。
【0035】
環状オレフィン系樹脂とは、ノルボルネンやシクロヘキサジエン等のポリマー鎖中に環状オレフィン骨格を含む重合体若しくはこれ等を含む共重合体であり、非晶性熱可塑性樹脂に属する。その製造方法については特に限定されるものではない。例えば、ノルボルネンを主とした環状オレフィン樹脂の一例としては、エチレン・ノルボルネン共重合体であるTicona株式会社製の「Topas」(商品名)が適用可能であり、シクロペンタジエン開環重合体の一例としては日本ゼオン株式会社製の「Zeonex」(商品名)等が適用可能である。
【0036】
スチレン系樹脂とは、スチレンを必須成分とするホモポリマー、コポリマーまたはこれ等のポリマーと他の樹脂とから得られるポリマーブレンド等である。特にポリスチレン、アクリロニトリルとスチレンの共重合体樹脂であるAS樹脂、メタクリル酸エステルとスチレンの共重合体樹脂であるMS樹脂を用いることが好ましい。
【0037】
更にスチレン系樹脂相中にゴムが分布した透明強化ポリスチレンも好ましく使用できる。スチレン系樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、周知慣用の方法で製造されたものを使用することが出来る。
【0038】
非晶性ポリエステルとは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサエチレングリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族ジヒドロキシ化合物、或いはこれ等の2種類以上から選ばれたジヒドロキシ化合物単位と、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、ウンデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂肪族ジカルボン酸、或いはこれ等の2種類以上から選ばれたジカルボン酸単位とから形成されるポリエステルの中で非晶性の樹脂が適用可能である。
【0039】
非晶性ポリエステルの製造方法は、特に限定されるものではなく、周知慣用の方法で製造することが出来る、非晶性ポリエステルとして容易入手し得る市販銘柄としては、イーストマン・コダック社の製品であるKODAR PETG或いはPCTA等が適用可能である。
【0040】
また、上記本発明の光透過性樹脂には、必要に応じて軟質重合体を添加しても良い。例えば、α―オレフィンからなるオレフィン系軟質重合体、イソブチレンからなるイソブチレン系軟質重合体、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンからなるジエン系軟質重合体、ノルボルネン、シクロペンテン等の環状オレフィンからなる環状オレフィン系軟質重合体、有機ポリシロキサン系軟質重合体、α、β−不飽和酸とその誘導体からなる軟質重合体、不飽和アルコール及びアミンまたはそのアシル誘導体またはアセタールからなる軟質重合体、エポキシ化合物の重合体、フッ素系ゴム等が適用出来る。
【0041】
光散乱剤として適用可能な材料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、二酸化チタン、二酸化珪素、ガラスビーズ等の無機微粒子、スチレン架橋ビーズ、MS架橋ビーズ、シロキサン系架橋ビーズ等の有機微粒子等を挙げられる。また、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、MS樹脂、環状オレフィン樹脂等の透明性の高い樹脂材料からなる中空架橋微粒子及びガラスからなる中空微粒子等も光散乱剤として適用可能である。
【0042】
また、光散乱剤の形状は特に限定されるものではなく、例えば、真球状、球状、平面扇形状、キュービック状、平面菱形状、六方晶状、不定形状等の光散乱剤が適用可能である。
【0043】
光拡散剤の粒子径は限定されるものではないが、平均粒子径で1μm以上、50μm以下の範囲であることが好ましい。これは、光拡散剤の平均粒子径が1μm以上、50μm以下の範囲にあることにより、光拡散剤としての効果が効率よく発現し、また全光線透過率の微調整が容易であるためである。
【0044】
本発明の光拡散性材料の光拡散率は60%以上、好ましくは70%以上であることが必要である。光拡散率が60%以上であると光源のイメージが表示体表面上に現れず、表示の視認性に優れる。
【0045】
本発明の拡散性材料からなる成形体の製造方法は特に制限されるものではなく、公知の成形方法で成形することが可能である。例えばポリシングロールを有する押出機によるシートあるいはフィルムの押出成形方法、賦形金型を有する射出成形機による射出成形方法、賦形金型を有するプレス成形機によるプレス成形方法、キャスト重合法によるシート成形方法等いずれも可能であるが、ポリシングロールを有する押出機によるシートの押出成形方法が低コストで大量に生産できるので好ましい。また、積層シートを得るにもフィードブロック形式の押出ダイ、マルチマニフォールド形式の押出ダイを用いた共押出成形方法が利用できる。共押出法とは、基材樹脂層となる樹脂組成物と皮膜樹脂層となる樹脂組成物をそれぞれ別の押出機で加熱溶融押出し、シート状に拡幅する金型内で合流、積層させ、ポリッシング・ロールなどを介してシート状に成形する方法である。
【0046】
皮膜樹脂層の厚さは限定されるものではないが、300μm以下であることが好ましい。皮膜樹脂層の厚さが300μm以下で積層自体が容易となり、外観良好な積層シートを得ることができる。
【0047】
押出成形方法でシートを成形する時の樹脂温度は180〜280℃の範囲で行うことが良好な外観を有するシートを得る上で好ましい。
【0048】
本発明において、光透過性材料の表面を光触媒活性及び/又は親水性にするのに有用に使用できる光触媒(A)としては、例えばTiO、ZnO、SrTiO、CdS、GaP、InP、GaAs、BaTiO、BaTiO、BaTi、KNbO、Nb、Fe、Ta、KTaSi、WO、SnO、Bi、BiVO、NiO、CuO、SiC、MoS、InPb、RuO、CeO、Ta等、さらにはTi、Nb、Ta、Vから選ばれた少なくとも1種の元素を有する層状酸化物(特開昭62−74452号公報、特開平2−172535号公報、特開平7−24329号公報、特開平8−89799号公報、特開平8−89800号公報、特開平8−89804号公報、特開平8−198061号公報、特開平9−248465号公報、特開平10−99694号公報、特開平10−244165号公報等参照)や、窒素ドープ酸化チタン(特開平13−278625号公報、特開平13−278627号公報、特開平13−335321号公報、特開平14−029750号公報、特開平13−207082号公報等参照)や、酸素欠陥型の酸化チタン(特開平13−212457号公報参照)の如き、可視光応答型酸化チタン光触媒も好適に使用することができる。また、TaON、LaTiON、CaNbON、LaTaON、CaTaON等のオキシナイトライド化合物やSmTi等のオキシサルファイド化合物は可視光による光触媒活性が大きく、好適に使用することができる。
【0049】
更に、これらの光触媒に、Pt、Rh、Ru、Nb、Cu、Sn、Ni、Feなどの金属及び/又はこれらの酸化物を添加あるいは固定化したものや、多孔質リン酸カルシウム等で被覆された光触媒(特開平10−244166号公報参照)等を使用することもできる。
【0050】
上記光触媒(A)の結晶粒子径(1次粒子径)は1〜400nmであることが好ましく、より好ましくは1〜50nmの光触媒が好適に選択される。
【0051】
これらの光触媒のうち、酸化チタンは無毒であり、化学的安定性にも優れると共に、光照射により、酸化チタン自体の親水性が非常に高まるため好ましい。
【0052】
該酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型のうち、いずれの結晶形を使用してもよい。また、可視光応答性である上記窒素ドープ酸化チタンや酸素欠陥型の酸化チタンも、該酸化チタンとして好適に使用できる。
【0053】
本発明の光触媒(A)として、該光触媒(A)を、後述する少なくとも1種の変性剤化合物(b)を用いて変性処理した変性光触媒(A1)を用いることが好ましい。
【0054】
本発明において光触媒(A)の変性とは、後述する少なくとも1種の変性剤化合物(b)を、光触媒(A)粒子の表面に固定化することを意味する。上記の変性剤化合物の光触媒粒子の表面への固定化は、ファン・デル・ワールス力(物理吸着)やクーロン力または化学結合によるものと考えられる。特に、化学結合を利用した変性は、変性剤化合物と光触媒との相互作用が強く、変性剤化合物が光触媒粒子の表面に強固に固定化されるので好ましい。
【0055】
本発明の光触媒(A)を変性光触媒(A1)とすることにより、本発明の、面発光体に、上記光触媒(A)を含む表層部を形成する場合に、該表層部中における光触媒(A)の濃度が、該表層部の面発光体の内部側から他方の露出面に向かって高くなる構造の形成が、特に後述するバインダー成分(B)と組み合わせた場合に容易になるため、非常に好ましい。
【0056】
本発明においては、変性に用いる光触媒(A)の性状が、変性光触媒(A1)の分散安定性、成膜性、及び種々の機能の発現にとって重要な因子となる。すなわち、本発明の変性に使用される光触媒(A)としては、1次粒子と2次粒子との混合物の数平均分散粒子径が400nm以下の光触媒が変性後の光触媒の表面特性を有効に利用できるために好ましい。特に数平均分散粒子径が100nm以下の光触媒を使用した場合、生成する変性光触媒(A1)と後述するバインダー成分(B)を含む光触媒組成物(C)から形成された本発明の表層部では、変性光触媒(A1)を効率的に該表層部の表面(露出面)に存在させることができるため非常に好ましい。より好ましくは80nm以下3nm以上、さらに好ましくは50nm以下3nm以上の光触媒(A)が好適に選択される。
【0057】
これらの光触媒(A)としては、以下の理由から、光触媒粉体ではなく光触媒ゾルを使用することが好ましい。一般に微細な粒子からなる粉体は、単結晶粒子(一次粒子)が強力に凝集した二次粒子を形成するため、無駄にする表面特性が多いが、一次粒子にまで分散させるのは非常に困難である。これに対して、光触媒ゾルの場合、光触媒粒子は溶解せずに一次粒子に近い形で存在しているため表面特性を有効に利用でき、それから生成する変性光触媒は分散安定性、成膜性等に優れるばかりか、種々の機能を有効に発現するので好ましく使用することができる。ここで、本発明に用いる光触媒ゾルとは、光触媒粒子が水及び/又は有機溶媒中に0.01〜70質量%、好ましくは0.1〜50質量%で一次粒子及び/又は二次粒子として分散されたものである。
【0058】
ここで、上記光触媒ゾルに使用される上記有機溶媒としては、例えばエチレングリコール、ブチルセロソルブ、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エタノール、メタノール等のアルコール類、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化合物類、ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン等、さらにはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0059】
該光触媒ゾルとして酸化チタンのゾルを例にとると、例えば実質的に水を分散媒とし、その中に酸化チタン粒子が解膠された酸化チタンヒドロゾル等を挙げることができる。(ここで、実質的に水を分散媒とするとは、分散媒中に水が80質量%程度以上含有されていることを意味する。)かかるゾルの調整は公知であり、容易に製造できる(特開昭63−17221号公報、特開平7−819号公報、特開平9−165218号公報、特開平11−43327号公報等参照)。例えば、硫酸チタンや四塩化チタンの水溶液を加熱加水分解して生成したメタチタン酸をアンモニア水で中和し、析出した含水酸化チタンを濾別、洗浄、脱水させると酸化チタン粒子の凝集物が得られる。この凝集物を、硝酸、塩酸、又はアンモニア等の作用の下に解膠させ水熱処理等を行うことにより酸化チタンヒドロゾルが得られる。また、酸化チタンヒドロゾルとしては、酸化チタン粒子を酸やアルカリの作用の下で解膠させたものや、酸やアルカリを使用せず、必要に応じてポリアクリル酸ソーダなどの分散安定剤を使用し、強力なせん断力の下で水中に分散させたゾルも用いることができる。さらに、pHが中性付近の水溶液中においても分散安定性に優れる、粒子表面がペルオキソ基で修飾されたアナターゼ型酸化チタンゾルも特開平10−67516号公報で提案された方法によって容易に得ることができる。
【0060】
上述した酸化チタンヒドロゾルはチタニアゾルとして市販されている(例えば、石原産業株式会社製「STS−02」、田中転写株式会社製「TO−240」等)。
【0061】
上記酸化チタンヒドロゾル中の酸化チタンは好ましくは50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。さらに好ましくは30質量%以下0.1質量%以上である。
【0062】
このようなヒドロゾルの粘度(20℃)は比較的低い。本発明においては、ヒドロゾルの粘度は、0.5mPa・s〜2000mPa・s程度の範囲にあるのが好ましい。より好ましくは1mPa・s〜1000mPa・s、さらに好ましくは1mPa・s〜500mPa・sである。
【0063】
また、例えば酸化セリウムゾル(特開平8−59235号公報参照)やTi、Nb、Ta、Vよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を有する層状酸化物のゾル(特開平9−25123号公報、特開平9−67124号公報、特開平9−227122号公報、特開平9−227123号公報、特開平10−259023号公報等参照)等、様々な光触媒ゾルの製造方法についても酸化チタンゾルと同様に知られている。
【0064】
また、実質的に有機溶媒を分散媒とし、その中に光触媒粒子が分散された光触媒オルガノゾルは、例えば上記光触媒ヒドロゾルをポリエチレングリコール類の如き相間移動活性を有する化合物(異なる第1の相と第2相との界面に第3の相を形成し、第1の相、第2の相、第3の相を相互に溶解及び/又は可溶化する化合物)で処理し有機溶媒で希釈したり(特開平10−167727号公報)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤で水に不溶性の有機溶剤中に分散移行させてゾルを調整する方法(特開昭58−29863号公報)やブチルセロソルブ等の水より高沸点のアルコール類を上記光触媒ヒドロゾルに添加した後、水を(減圧)蒸留等によって除去する方法等により得ることができる。また、実質的に有機溶媒を分散媒とし、その中に酸化チタン粒子が分散された酸化チタンオルガノゾルは市販されている(例えば、テイカ株式会社製「TKS−251」)。ここで、実質的に有機溶媒を分散媒とするとは、分散媒中に有機溶媒が80質量%程度以上含有されていることを意味する。
【0065】
本発明において、変性光触媒(A1)を得るのに用いられる少なくとも1種の変性剤化合物(b)は、式(1)で表されるトリオルガノシラン単位、式(2)で表されるモノオキシジオルガノシラン単位、式(3)で表されるジオキシオルガノシラン単位、及びフッ化メチレン(―CF−)単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を有する化合物類よりなる群から選ばれる。
【0066】
【化1】

【0067】
【化2】

【0068】
【化3】

【0069】
上述した構造単位を有する変性剤化合物(b)で光触媒粒子表面が変性処理された変性光触媒(A1)は、その粒子表面の表面エネルギーが非常に小さくなる。
【0070】
本発明において、光触媒(A)の変性剤化合物(b)による変性処理は、水及び/又は有機溶媒の存在、あるいは非存在下において、前述した光触媒(A)と、同じく前述した変性剤化合物(b)を好ましくは質量比(A)/(b)=1/99〜99.9/0.1、より好ましくは(A)/(b)=10/90〜99/1の割合で混合し、好ましくは0〜200℃、より好ましくは10〜80℃にて加熱したり、(減圧)蒸留等により該混合物の溶媒組成を変化させる等の操作をすることにより得ることができる。
【0071】
ここで上記変性処理を行う場合、使用できる有機溶媒としては、例えばトルエンやキシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、イソプロパノール、n−ブタノール、エタノール、メタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化合物類、ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン等やこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0072】
本発明の変性光触媒(A1)を得るのに使用される上記変性剤化合物(b)としては、例えばSi−H基、加水分解性シリル基(アルコキシシリル基、ヒドロキシシリル基、ハロゲン化シリル基、アセトキシシリル基、アミノキシシリル基等)、エポキシ基、アセトアセチル基、チオール基、酸無水物基等の光触媒粒子(a)と反応性を有するケイ素化合物やフルオロアルキル化合物、フルオロオレフィン重合体等を挙げることができる。
【0073】
また、上記変性剤化合物(b)の他の例としては、例えばポリオキシアルキレン基等の光触媒粒子(a)とファン・デル・ワールス力、クーロン力等により相互作用する構造を有するケイ素化合物等やフルオロアルキル化合物、フルオロオレフィン重合体等を挙げることができる。
【0074】
本発明において、上記変性剤化合物(b)として、組成式(4)で表されるSi−H基含有ケイ素化合物(b1)を用いると、非常に効率よく光触媒粒子表面を変性することができるため好ましい。
【0075】
【化4】

【0076】
本発明において、光触媒(A)の上記組成式(4)で表されるSi−H基含有ケイ素化合物(b1)による変性処理は、水及び/又は有機溶媒の存在、あるいは非存在下において、光触媒(a)と該Si−H基含有ケイ素化合物(b1)を好ましくは質量比(A)/(b1)=1/99〜99.9/0.1、より好ましくは(A)/(b1)=10/90〜99/1の割合で好ましくは0〜200℃にて混合することにより実施できる。この変性の操作により混合液からは水素ガスが発生すると共に、光触媒(A)として光触媒ゾルを用いた場合、その平均分散粒子径の増加が観察される。また、例えば光触媒(A)として酸化チタンを用いた場合、上記変性の操作により、Ti−OH基の減少がIRスペクトルにおける3630〜3640cm−1の吸収の減少として観測される。
【0077】
これらのことより、変性剤化合物(b)として上記式(4)で表されるSi−H基含有ケイ素化合物(b1)を選択した場合は、本発明の変性光触媒(A1)は、Si−H基含有ケイ素化合物(b1)と光触媒(A)との単なる混合物ではなく、両者の間には化学反応に伴う何らかの相互作用を生じていることが予測できるため非常に好ましい。実際、この様にして得られた変性光触媒(A1)は、有機溶媒に対する分散安定性や化学的安定性、耐久性等等において非常に優れたものとなっている。
【0078】
本発明において、光触媒(A)の上記式(4)で表されるSi−H基含有ケイ素化合物(b1)による変性処理は、Si−H基に対する脱水素縮合触媒を使用して好ましくは0〜150℃で実施することもできる。
【0079】
この場合、あらかじめ光還元法等の方法で脱水素縮合触媒を光触媒(A)に固定し、上記Si−H基含有ケイ素化合物(b1)で変性処理しても良いし、脱水素縮合触媒の存在下に上記Si−H基含有化合物ケイ素(b1)で光触媒(A)を変性処理しても良い。
【0080】
ここでSi−H基に対する脱水素縮合触媒とは、Si−H基と光触媒表面に存在する水酸基(酸化チタンの場合はTi−OH基)やチオール基、アミノ基、カルボキシル基等の活性水素基、さらには水等との脱水素縮合反応を加速する物質を意味し、該脱水素縮合触媒を使用することにより温和な条件で光触媒表面を変性することが可能となる。
【0081】
該脱水素縮合触媒としては、例えば白金族触媒、すなわちルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金の単体及びその化合物や、銀、鉄、銅、コバルト、ニッケル、錫等の単体及びその化合物が挙げられる。これらの中で白金族触媒が好ましく、白金の単体及びその化合物が特に好ましい。
【0082】
ここで、上記白金の化合物としては、例えば塩化白金(II)、テトラクロロ白金酸(II)、塩化白金(IV)、ヘキサクロロ白金酸(IV)、ヘキサクロロ白金(IV)アンモニウム、ヘキサクロロ白金(IV)カリウム、水酸化白金(II)、二酸化白金(IV)、ジクロロ−ジシクロペンタジエニル−白金(II)、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、白金−オレフィン錯体等を使用することができる。
【0083】
本発明の上記式(4)で表されるSi−H基含有ケイ素化合物において、Si−H基は光触媒を穏和な条件で選択性良く変性するために好ましい官能基である。これに対し、加水分解性基は、同様に光触媒の変性に利用することもできるが、副反応を抑制し、得られる変性光触媒の安定性を向上するためには、その含有量は少ない方が好ましい。
【0084】
本発明に好適に使用できる上記式(4)で表されるSi−H基含有ケイ素化合物(b1)としては、例えば式(5)で表されるモノSi−H基含有化合物、式(6)で表される両末端Si−H基含有化合物、式(7)で表されるHシリコーンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の、加水分解性シリル基を有さないS−H基含有化合物を挙げることができる。
【0085】
【化5】

【0086】
【化6】

【0087】
【化7】

【0088】
【化8】

【0089】
本発明において、上記式(5)で表されるモノSi−H基含有化合物の具体例としては、例えばビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)エチルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)n−プロピルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)i−プロピルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)n−ブチルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)n−ヘキシルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)シクロヘキシルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)フェニルシラン、ビス(トリエチルシロキシ)メチルシラン、ビス(トリエチルシロキシ)エチルシラン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン、トリス(トリエチルシロキシ)シラン、ペンタメチルジシロキサン、1,1,1,3,3,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,1,3,3,5,5,6,6−ノナメチルテトラシロキサン、トリメチルシラン、エチルジメチルシラン、メチルジエチルシラン、トリエチルシラン、フェニルジメチルシラン、ジフェニルメチルシラン、シクロヘキシルジメチルシラン、t−ブチルジメチルシラン、ジ−t−ブチルメチルシラン、n−オクタデシルジメチルシラン、トリ−n−プロピルシラン、トリ−i−プロピルシラン、トリ−i−ブチルシラン、トリ−n−ヘキシルシラン、トリフェニルシラン、アリルジメチルシラン、1−アリル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、クロロメチルジメチルシラン、7−オクテニルジメチルシラン等を挙げることができる。
【0090】
これらのモノSi−H基含有化合物の中で、光触媒の変性処理時におけるSi−H基の反応性(脱水素縮合反応)の良さや表面エネルギーの低さから、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン、ペンタメチルジシロキサン等の分子中にシロキシ基を有し、フェニル基を有さない式(9)で表されるものが好ましい。
【0091】
【化9】

【0092】
本発明において、式(6)で表される両末端Si−H基含有化合物の具体例としては、例えば1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン等の数平均分子量50000以下のH末端ポリジメチルシロキサン類や、1,1,3,3−テトラエチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサエチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタエチルテトラシロキサン等の数平均分子量50000以下のH末端ポリジエチルシロキサン類や、1,1,3,3−テトラフェニルジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサフェニルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタフェニルテトラシロキサン等の数平均分子量50000以下のH末端ポリジフェニルシロキサン類や、1,3−ジフェニル−1,3−ジメチル−ジシロキサン、1,3,5−トリメチル−1,3,5−トリフェニル−トリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラフェニル−テトラシロキサン等の数平均分子量50000以下のH末端ポリフェニルメチルシロキサン類や、ジメチルシラン、エチルメチルシラン、ジエチルシラン、フェニルメチルシラン、ジフェニルシラン、シクロヘキシルメチルシラン、t−ブチルメチルシラン、ジ−t−ブチルシラン、n−オクタデシルメチルシラン、アリルメチルシラン等を例示することができる。
【0093】
これらの中で、光触媒の変性処理時におけるSi−H基の反応性(脱水素縮合反応)の良さや表面エネルギーの低さから、数平均分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは2000以下、さらに好ましくは1000以下のH末端ポリジアルキルシロキサン(式(10))が両末端Si−H基含有化合物として好適に使用できる。
【0094】
【化10】

【0095】
本発明に用いる式(7)で表されるHシリコーンとしては、光触媒の変性処理時における分散安定性(光触媒粒子の凝集の防止)の点より、数平均分子量が好ましくは5000以下、より好ましくは2000以下、さらに好ましくは1000以下のHシリコーンが好適に使用できる。
【0096】
また、本発明の変性光触媒(A1)の好ましい形態は、変性光触媒の一次粒子と二次粒子との混合物の数平均分散粒子径が400nm以下、さらに好ましくは1nm以上100nm以下、特に好ましくは5nm以上80nm以下である。ゾルの状態であることが好ましい。
【0097】
また、特に数平均分散粒子径が100nm以下の変性光触媒ゾルを本発明の光触媒組成物(C)に用いると、変性光触媒粒子の濃度が面発光体と接する界面近傍では小さく、表層部の表面近傍では大きく分布するような表面方向に異方分布した表層部を形成するのに有利となり、光触媒作用による面発光体との界面劣化が無く、光触媒活性が大きい表層部を形成するため非常に好ましい。この様な変性光触媒ゾルは、上記変性剤化合物(b)で変性処理をする光触媒として前述した光触媒ゾルを用いることにより得ることができる。
【0098】
なお、従来、二酸化チタンなどで単に粒径として表示されている数値は、多くの場合一次粒子径(結晶子径)であり、凝集による二次粒子径を考慮した数値ではない。
【0099】
本発明の表層部を形成する光触媒組成物(C)は、光触媒(A)(好ましくは変性光触媒(A1))とバインダー成分(B)を含むことを特徴とし、その質量比(A1)/(B)は0.1/99.9〜90/10であることが好ましく、(A1)/(B)が1/99〜50/50で含むことがより好ましい。
【0100】
本発明の変性光触媒(A1)は、表面エネルギーの非常に小さい構造(式(1)〜(3))を有する変性剤化合物(b)で変性処理されているため、表層部を形成する際、空気と接する側の表層部表面に移動しやすい性質を持っている。
【0101】
ここで、本発明のバインダー成分(B)として、光触媒(A)、特に該変性光触媒(A1)より表面エネルギーが高いバインダー樹脂(B’)を用いることにより、変性光触媒(A1)の上記性質を助長するため、本発明の光触媒組成物(C)は、光触媒(A)、特に変性光触媒(A1)の分布について大きな自己傾斜性を有することが可能となる。ここで自己傾斜性とは、光触媒組成物(C)から表層部を形成する際、その形成過程において光触媒(A)、特に変性光触媒(A1)が、表層部が接する界面の性状(特に親水/疎水性)に対応して、光触媒(A)、特に変性光触媒(A1)の濃度勾配を有する構造を自律的に形成することを意味する。
【0102】
本発明のバインダー成分(B)としては、光触媒(A)(好ましくは変性光触媒(A1))より、表面エネルギーが2mN/m以上、好ましくは5mN/m以上大きい樹脂を選択すると、上記自己傾斜性が大きくなり非常に好ましい。
【0103】
ここで、上記表面エネルギーや表面エネルギーの相対差は、例えばPolymer Handbook(米国 A Wiley-interscience publication 出版)等を参照したり、以下の方法で測定したりすることにより求めることができる。
【0104】
すなわち、上記光触媒組成物(C)を構成する光触媒(A)、特に変性光触媒(A1)及びバインダー成分(B)から各々それらの表層部を有する基材を調整し、脱イオン水を滴下して20℃における接触角(θ)を測定し、下記のSellとNeumannの実験式により、各々の表面エネルギーを求めることができる。
【0105】
【数1】

【0106】
本発明の光触媒組成物(C)において、バインダー成分(B)に使用できる化合物としては、上記条件を満たす表面エネルギーを有すればよく特に制限されないが、各種単量体、合成樹脂及び天然樹脂等が挙げられ、また被膜の形成後に、乾燥、加熱、吸湿、光照射等により硬化するものも挙げることができる。また、その形態については、無溶媒の状態(ペレット、粉体、液体等)であっても溶媒に溶解あるいは分散した形態であっても良く、特に制限はない。
【0107】
上記合成樹脂としては、熱可塑性樹脂と硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂等)の使用が可能であり、例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン−アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0108】
また、上記天然高分子としては、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、天然ゴム等のイソプレン系樹脂、カゼイン等のタンパク質系樹脂やでんぷん等を挙げることができる。
【0109】
本発明において、光触媒組成物(C)に使用するバインダー成分(B)としては、式(11)で表されるフェニル基含有シリコーン(BP)が、本発明の変性光触媒(A1)より表面エネルギーが高く、その骨格を成すシロキサン結合(−O−Si−)は光触媒作用による酸化分解がおこらないため、最も好適に使用できる。
【0110】
【化11】

【0111】
上記式(11)で示されるフェニル基含有シリコーン(BP)としては、例えば一般式(12)、(13)、(14)及び(15)で表されるシロキサン結合の少なくとも1種の構造を含むシリコーンを挙げることができる。
【0112】
【化12】

【0113】
【化13】

【0114】
【化14】

【0115】
【化15】

【0116】
上述した構造を含むシリコーンは、例えば一般式RSiX3(式中、Rは、フェニル基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基を表す。各Xは、各々独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアシロキシ基、アミノキシ基、炭素数1〜20のオキシム基、ハロゲン原子からなる群より選ばれる一つの反応性基を表す。以下同様。)で表される3官能シラン誘導体及び/又は一般式R2SiX2で表される2官能シラン誘導体及び/又は一般式SiX4で表される4官能シラン誘導体を部分的に加水分解・縮重合させ、必要により一般式RSiXで表される1官能シラン誘導体及び/又はアルコール類によって末端停止させることにより調製できる。この様にして得られるシラン誘導体モノマーの部分縮合物のポリスチレン換算重量平均分子量は、好ましくは100〜100,000、より好ましくは400〜50,000である。
【0117】
これらの中で、上記式(11)で示されるフェニル基含有シリコーンとして、上記式(12)で表されるラダー構造を10モル%以上、好ましくは40モル%以上含むものを選択すると、本発明の光触媒組成物(C)から形成される光触媒含有表層部は、硬度、耐熱性、耐候性、耐汚染性、耐薬品性等の点で非常に優れたものとなるため好ましい。特に、上記ラダー構造としてフェニルラダー構造〔式(12)におけるRが全てフェニル基のもの〕を有するものは上述した光触媒含有表層部の物性が非常に向上するため好ましい。この様なラダー構造は、例えば赤外線吸収スペクトルにおける1040cm−1と1160cm−1付近の2本のシロキサン結合に由来する吸収の存在により同定する事ができる。
【0118】
(J.F.Brown.Jr.,etal.:J.Am.Chem.Soc.,82,6194(1960)参照。)
本発明に用いる上記式(11)で表されるフェニル基含有シリコーン(BP)は、Ph−Si結合(Ph:フェニル基)を有することが好ましい。
【0119】
すなわち、本発明の光触媒組成物(C)において、表面エネルギーの非常に小さい構造(式(1)〜(3))を有する変性剤化合物(b)で変性処理されている変性光触媒(A1)のバインダーとして、該変性光触媒(A1)より表面エネルギーが高いフェニル基含有シリコーン(BP)を含むバインダー成分(B)を用いることにより、本発明の光触媒組成物(C)は、変性光触媒(A1)の分布について高い自己傾斜性を有することが可能となる。
【0120】
この様な表面エネルギーの高いフェニル基含有シリコーン(BP)による自己傾斜性の発現効果は、フェニル基(R)を、フェニル基(R)とR(Rは直鎖状または分岐状の炭素数1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基を表す。)の合計{以下(R+R)と表す。}に対し5モル%以上有する上記式(11)で示されるフェニル基含有シリコーン(BP)を用いることによってより顕著に発揮することができるので、このようなフェニル基含有シリコーン(BP)を用いることは好ましい。
【0121】
また、上述した自己傾斜性の発現効果は、フェニル基(R)の(R+R)に対する割合が増えるに従い増大する。よって、本発明の光触媒組成物に使用するバインダー成分(B)のフェニル基含有シリコーンとしてより好ましいものは、(R+R)に対するフェニル基(R)の割合が10モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上のものである。
【0122】
また、該フェニル基含有シリコーン(BP)は有機樹脂等の有機基材に対する密着性が良好であり、その骨格を成すシロキサン結合(−O−Si−)は光触媒作用による酸化分解がおこらないため、本発明の光触媒組成物(C)を面発光体にコーティングして得られる光触媒含有表層部は、非常に耐候性に優れたものになる。
【0123】
本発明の光触媒組成物(C)において、バインダー成分(B)に使用するフェニル基含有シリコーン(BP)として、上述した効果を発揮するより好ましいものは、下記式(16)で表されるアルキル基を含有しないフェニル基含有シリコーン(BP1)である。
【0124】
【化16】

【0125】
また、バインダー成分(B)が、下記式(17)で表されるアルキル基含有シリコーン(BA)を更に含有すると、本発明の光触媒組成物から形成される表層部は、成膜性、硬度、耐熱性、耐汚染性、耐薬品性等の点で優れたものとなるため好ましい。
【0126】
【化17】

【0127】
さらに、上記フェニル基含有シリコーン(BP1)と混合する上記アルキル基含有シリコーン(BA)として、式(18)で表されるモノオキシジオルガノシラン単位(D)と式(19)で表されるジオキシオルガノシラン単位(T)を、モル比が好ましくは(D)/(T)=100/0〜5/95、より好ましくは90/10〜10/90の割合で有する構造のものを用いると、アルキル基含有シリコーン(BA)の応力緩和作用が増加し、本発明の光触媒組成物(C)から生成する光触媒含有表層部の耐クラック性が向上する結果、耐候性が非常に優れたものとなる。
【0128】
【化18】

【0129】
【化19】

【0130】
本発明において、長期の耐候性向上には、バインダー成分(B)が相分離構造を形成することが好ましく、特にミクロ相分離した構造を形成することが好ましい。
【0131】
たとえば、バインダー成分(B)として、上述した光触媒(A)、特に該変性光触媒(A1)より表面エネルギーが高いバインダー樹脂(B’)と上記式(6)で表されるアルキル基含有シリコーン(BA)とを、好ましくは質量比(B’)/(BA)=5/95〜95/5、より好ましくは(B’)/(BA)=30/70〜90/10で混合したものを用いると、本発明の光触媒組成物(C)から形成される光触媒含有表層部は、表面エネルギーが高いバインダー樹脂(B’)とアルキル基含有シリコーン(BA)が相分離したバインダー中に光触媒(A)が分散した構造となり、長期の耐候性に優れたものとなるため好ましい。
【0132】
ここで、表面エネルギーが高いバインダー成分(B’)とアルキル基含有シリコーン(BA)の相分離は、連続層でない相が好ましくは1nm〜1μm、より好ましくは10nm〜0.1μm、さらに好ましくは10nm〜0.001μmの大きさのドメインを形成してミクロ相分離した場合に、より効果を奏する。
【0133】
また、光触媒(A)が、表面エネルギーの高いバインダー樹脂(B’)と相分離状態にあるアルキル基含有シリコーン(BA)相中に存在した状態は、表層部の表面により多く光触媒(A)が存在することができるため好ましい。
【0134】
本発明におけるアルキル基含有シリコーン(BA)と相分離する表面エネルギーの高いバインダー樹脂(B’)としては、上述したフェニル基含有シリコーン(BP)が、その骨格を成すシロキサン結合(−O−Si−)は光触媒作用による酸化分解がおこらないため好ましく、アルキル基を含有しないフェニル基含有シリコーン(BP1)が特に好ましい。
【0135】
この際、上記フェニル基含有シリコーン(BP1)及び上記アルキル基含有シリコーン(BA)の各々の、GPCで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が、好ましくは100〜10,000、より好ましくは500〜6,000、さらに好ましくは700〜4,000であるものを使用すると、上述したバインダー成分(B)はミクロ相分離構造を容易に形成するため好ましい。
【0136】
本発明の光触媒組成物(C)に使用する前述したバインダー成分(B)は、溶剤に溶けたタイプ、溶媒に分散したタイプ、溶媒と混合されていないタイプ(液体、固体)のいずれであっても良い。
【0137】
本発明の光触媒組成物(C)において上記式(11)で示されるフェニル基含有シリコーン(BP)は、反応性を有する基(式(11)中のX)を有しても、有さなくても良いが、反応性を有する基(式(11)中のX)を有する(即ち、式(4)において0<r)と、本発明の光触媒組成物(C)から得られる光触媒含有表層部は、硬度や耐熱性、耐薬品性、耐久性等に優れたものとなるため好ましい。また、同様の理由から、式(16)において0<t、式(17)において0<vが好ましい。
【0138】
本発明の光触媒組成物(C)において上記式(11)で示されるフェニル基含有シリコーン(BP)が反応性を有する基(式(11)中のX)として、水酸基及び/又は加水分解性基を有する場合、従来公知の加水分解触媒や硬化触媒を、フェニル基含有シリコーン(BP)に対し、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜5質量%の割合で添加することができる。
【0139】
該加水分解触媒としては、酸性のハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸、酸性あるいは弱酸性の無機塩、イオン交換樹脂などの固体酸などが好ましい。また、加水分解触媒の量は、ケイ素原子上の加水分解性基1モルに対して好ましくは0.001〜5モルの範囲内であることが好ましい。
【0140】
また上記硬化触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、酢酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのごとき塩基性化合物類;トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン類、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシランのごときアミン化合物;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートのようなチタン化合物;アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、過塩素酸アルミニウム、塩化アルミニウムのようなアルミニウム化合物;錫アセチルアセトナート、ジブチル錫オクチレート、ジブチル錫ジラウレートのような錫化合物;コバルトオクチレート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナートのごとき含金属化合物類;リン酸、硝酸、フタル酸、p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸のごとき酸性化合物類などが挙げられる。
【0141】
本発明の光触媒組成物(C)において上記式(11)で示されるフェニル基含有シリコーン(BP)がSi−H基を有する場合、多官能アルケニル化合物のごとき架橋剤を、Si−H基に対しアルケニル基が好ましくは0.01〜2当量、より好ましくは0.1〜1当量となるように添加することが好ましい。該多官能アルケニル合物としては、アルケニル基を有しSi−H基と反応して硬化を促進するものであれば何でもよいが、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基などの炭素数2〜30の1価不飽和炭化水素基を有するアルケニル基含有シリコーンが一般に用いられている。
【0142】
また、Si−H基と該多官能アルケニル化合物の反応を促進する目的で、触媒をフェニル基含有シリコーン(BP)と多官能アルケニル化合物の総量に対し、好ましくは1〜10000ppm、より好ましくは1〜1000ppmの割合で添加しても良い。該触媒としては白金族触媒、すなわちルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金の化合物が適しているが、特に白金の化合物とパラジウムの化合物が好適である。白金の化合物としては、例えば塩化白金(II)、テトラクロロ白金酸(II)、塩化白金(IV)、ヘキサクロロ白金酸(IV)、ヘキサクロロ白金(IV)アンモニウム、ヘキサクロロ白金(IV)カリウム、水酸化白金(II)、二酸化白金(IV)、ジクロロ−ジシクロペンタジエニル−白金(II)、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、白金−オレフィン錯体や白金の単体、アルミナやシリカや活性炭に固体白金を担持させたものが挙げられる。パラジウムの化合物としては、例えば塩化パラジウム(II)、塩化テトラアンミンパラジウム(II)酸アンモニウム、酸化パラジウム(II)等が挙げられる。該白金族触媒はSi−H基含有シリコーンと多官能アルケニル化合物の合計量に対し白金族金属の量で好ましくは5〜1000ppmの範囲内で使用されるが、これは反応性、経済性及び所望の硬化速度等に応じて増減させることができる。また、所望により白金族触媒の活性を抑制し、ポットライフを延長させる目的で、各種の有機窒素化合物、有機リン化合物、アセチレン系化合物などの活性抑制剤を添加してもよい。
【0143】
また、本発明の光触媒組成物(C)には、それから形成される光触媒含有表層部の硬度や耐擦傷性、親水性を向上させる目的でシリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、希土類酸化物等の金属酸化物微粒子を粉末あるいはゾルの状態で添加しても良い。ただしこれら金属酸化物微粒子は、本発明におけるバインダー成分(B)の様なバインダーとしての能力はなく、光触媒と同様に表層部の柔軟性(耐屈曲性、耐衝撃性)を低下させる。よって、該金属酸化物の添加量は、光触媒組成物(C)から形成される光触媒含有表層部中において光触媒(A)と金属酸化物の総重量が50質量%以下とすることが好ましい。
【0144】
本発明の光触媒組成物(C)は、無溶媒の状態(液体、固体)であっても溶媒に溶解あるいは分散した状態であっても良く、特に制限はないが、コーティング剤として用いる場合は、溶媒に対し溶解あるいは分散した状態が好ましい。この際、該光触媒組成物(C)中の光触媒(A)とバインダー成分(B)の総量は、好ましくは0.01〜95質量%、より好ましくは0.1〜70質量%である。
【0145】
本発明の光触媒組成物(C)に用いる溶媒としては、例えば水やエチレングリコール、ブチルセロソルブ、イソプロパノール、n−ブタノール、エタノール、メタノール等のアルコール類、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化合物類、ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は組み合わせて用いられる。
【0146】
また、本発明の光触媒組成物(C)には、必要により通常、塗料に添加配合される成分、例えば顔料、充填剤、分散剤、光安定剤、湿潤剤、増粘剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、可塑剤、成膜助剤、防錆剤、染料、防腐剤等がそれぞれの目的に応じて選択、組み合わせて配合することができる。
【0147】
本発明の光触媒組成物(C)において、自己傾斜性が非常に高い場合(即ち、表層部中の光触媒(A)含有量(濃度)100に対し、面発光体でない側である、露出面と接する表面近傍の相対濃度が好ましくは150以上、より好ましくは200以上である場合)、該光触媒組成物(C)において光触媒(A)とバインダー成分(B)の質量比が好ましくは(A)/(B)=0.1/99.9〜40/60、より好ましくは(A)/(B)=0.1/99.9〜30/70という光触媒(A)の含有量が非常に少ない範囲においてさえ、形成される表層部は、光照射による十分な親水化能力(超親水化能力:20℃における水の接触角が10゜以下)や優れた光触媒活性を有する。また、この様に光触媒含有量が少ない表層部はバインダー成分(B)本来の物性を発現するため、強度や柔軟性(耐屈曲性、耐衝撃性)等に優れたものとなる。
【0148】
本発明における光触媒表層部を有する光透過性材料は、光触媒(A)及びバインダー成分(B)を含む表層部を備え、該表層部中における光触媒(A)の濃度が光透過性材料の側から表面に向かって高くなることを特徴とする。ただし、本発明における光触媒表層部を有する光透過性材料は、本発明の効果を妨げない範囲で、表層部以外の部分に光触媒(A)及び/又はバインダー成分(B)を含むことができる。
【0149】
本発明における光触媒表層部を有する光透過性材料は、該表層部を皮膜状とし、基材である光透過性材料上に光触媒(A)及びバインダー成分(B)を含む当該皮膜を備えた形態とすることができる。この様な形態とすることにより、基材と表層部で機能を分担した構造が可能となり好ましい。
【0150】
また、表層部以外の部分例えば基材部に光触媒(A)及び/又はバインダー成分(B)を含むものは、成形を一度にすることが可能であり、また表層部の欠陥部を補うことができ好ましい。このような形態は、例えば薄膜状の部材とする場合に好ましい。
【0151】
本発明における光触媒表層部を有する光透過性材料の製造方法は、基材上に本発明の光触媒組成物から皮膜を形成する場合に限定されない。光透過性材料となる基材と本発明の光触媒組成物を同時に成形、たとえば、一体成形、積層成形してもよい。また、本発明の光触媒組成物と基材としての光透過性材料を個別に成形後、接着、融着等により光触媒表層部を有する光透過性材料としてもよい。
【0152】
本発明における光触媒表層部を有する光透過性材料は、該表層部を皮膜状とする場合は、例えば上記光触媒組成物(C)を光透過性材料に塗布し、乾燥した後、所望により好ましくは20℃〜500℃、より好ましくは40℃〜250℃の熱処理や紫外線照射等を行い、皮膜を形成することにより得ることができる。上記塗布方法としては、例えばスプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、スポンジ塗り法等が挙げられる。
【0153】
この際、本発明の光触媒組成物(C)から形成される皮膜の膜厚は、好ましくは0.1〜200μm、より好ましくは0.5〜20μm、さらに好ましくは1.5〜10μmである。
【0154】
なお、本明細書では、皮膜という表現を使用しているが、必ずしも連続膜である必要はなく、不連続膜、島状分散膜等の態様であっても構わない。
【0155】
また、本発明の光触媒表層部を有する光透過性材料の表面には、Ag、Cu、Znのような金属を添加することができる。前記金属を添加した表層部は、表面に付着した細菌や黴を暗所でも死滅させることができる。
【0156】
本発明の光触媒表層部を有する光透過性材料は、表層部に含まれる光触媒(A)のバンドギャップエネルギーよりも高いエネルギーの光(励起光)を照射することにより光触媒活性及び/又は親水性を示し、優れた防汚性能を発現する。
【0157】
この際、光触媒(A)が、上述した式(1)で表されるトリオルガノシラン単位、式(2)で表されるモノオキシジオルガノシラン単位、式(3)で表されるジオキシオルガノシラン単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を有する化合物類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の変性剤化合物(b)で変性処理された変性光触媒(A1)である場合、励起光照射により光触媒(A)粒子の近傍に存在する該変性剤化合物(b)の珪素原子に結合した有機基(R)の少なくとも一部は、光触媒の分解作用により水酸基に置換される。その結果、本発明の表層部表面の親水性が高まると共に、生成した水酸基同士が脱水縮合反応してシロキサン結合が生成した場合には、該表層部の硬度が非常に高くなる。この様な状態は、本発明の様態において好ましい。
【0158】
また、バインダー成分(B)として上述したシリコーンを用いたときも同様に、励起光照射により光触媒(A)粒子の近傍に存在するシリコーンの珪素原子に結合した有機基の少なくとも一部は、光触媒の分解作用により水酸基に置換され、本発明の表層部表面の親水性が高まると共に、生成した水酸基同士の脱水縮合反応が進行しシロキサン結合が生成した場合には、該表層部の硬度が非常に高くなる。この様な状態は、本発明の様態において好ましい。
【0159】
本発明の構成成分であるLED光源について記す。
【0160】
本発明で光触媒を励起させるには光触媒(A)のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーの光(励起光)が必要であり、光の波長では390nm以下であることが必要である。390nm以下の波長を発する光源として実用化されている波長領域から、本発明で用いられる光源としてはピーク波長350〜390nmの波長を発するLED(1)が使用される。本発明に用いられるLED(1)の例としては、日亜化学工業株式会社製NSHU550A、NSHU590A、NSHU550B、NSHU590B、NCCU001、NCCU033等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0161】
可視光を発するLED(2)は三原色のLEDを単色または混色し、所望の色調を得ることができる。また、白色光を発するLED(3)は三原色のLEDを混色するか、青色LEDと蛍光体からなる白色光等を利用できる。これらの例としては、日亜化学工業株式会社製表面実装型発光ダイオード「PowerLED Series」、「TopView Series」、「Side View Series」、「Full ColorSeries」、「C Series」や砲弾型発光ダイオード「Warm WhiteSeries」、「F3 Series」、「F5 Series」、「F7.5 Series」、「Ovel Series/Super Ovel Series」、「Flat Series」、「Full Colar、Series」等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0162】
ピーク波長350〜390nmの波長を発するLED(1)は光触媒を励起させると共に長時間照射すると光透過性有機材料を劣化させる。このため、LED(1)と可視光を発するLED(2)及び/又は白色光を発するLED(3)において、LED(1)の発光時間がLED(2)及び/又はLED(3)の単位発光時間当たり1/100〜99/100の間、好ましくは10/100〜90/100の間、更に好ましくは20/100〜80/100の間発光するように制御されなければならない。上記範囲内であればLED(1)は光触媒を励起させることができ、かつ断続発光により光透過性有機材料の劣化を防ぐことができる。
【0163】
LED光源と光触媒表層部を有する光透過性材料との間隔は特に規定されるものではないが、500mm以下がピーク波長350〜390nmの波長を発するLED(1)による光触媒の光励起を効果的に発現させるに好ましい。
【0164】
本発明の照明体に意匠性を付与して用いる場合、意匠性の付与方法は特に制限されるものではなく光透過性材料の表面に写真やイラスト、文字等を転写したり、貼付したり、印刷したりして意匠性が付与される。また、彫刻によりイラスト、文字等を表示しても良い。さらに、光透過性材料そのものを着色して使用しても良い。
【0165】
〔実施例、参考例、比較例〕
以下の実施例、参考例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0166】
実施例、参考例及び比較例中において、各種の物性は下記の方法で測定した。
【0167】
1.光拡散性材料
(1)全光線透過率…JIS K−7105に準拠して測定した。
(2)光散乱剤の平均粒径…散乱剤の微粒子を有機溶液中に超音波により分散させ、得られた分散液をマイクロトラック法を用いて測定し、50%累積粒径を平均粒径として採用した。
(3)光拡散率…DIN5035に規定された下式により算出した。
【数2】

L(5)は光源から直角に入光させた光が光拡散材料を通し5°の角度で出光した透過光輝度(cd/m2)である。同様にL(20)は20°、L(70)は70°の角度で出光した透過光輝度である。
(4)視認性
光拡散材料の片面に1cm角の黒色格子模様(線幅1mm)を印刷し、その上に光触媒層を設け、光源を点灯し、格子の見え具合を4段階評価した。
◎…極めてきれいに格子模様が視認される。
○…きれいに格子模様が視認される。
△…格子模様がはっきり視認出来ない。
×…格子模様が視認出来ない。
(5)光源イメージ
表示装置直上から目視で観察し、得られた光源イメージの度合いを4段階で評価した。
◎ 光源が見えない。
○ 光源が殆ど見えない。
△ 光源が確認できる。
× 光源がはっきり見える。
【0168】
2.光触媒
(1)粒径分布及び数平均粒子径
試料中の光触媒含有量が1−20質量%となるよう適宜溶媒を加えて希釈し、湿式粒度分析計(日機装製マイクロトラックUPA−9230)を用いて測定した。
(2)重量平均分子量
ポリスチレン標品を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求めた。
GPCの条件は以下の通りである。
・装置:東ソー製HLC−8020LC−3A型クロマトグラフ
・カラム:TSKgelG1000HXL、TSKgel G2000HXLおよびTSKgel G4000HXL(いずれも東ソー製)を直列に接続して用いた。
・データ処理装置:島津製作所製CR−4A型データ処理装置
・移動相:
テトラヒドロフラン(フェニル基含有シリコーンの分析に使用)
クロロホルム(フェニル基を含有しないシリコーンの分析に使用)
・流速:1.0ml/min.
・サンプル調製法
移動相に使用する溶媒で希釈(濃度は0.5〜2重量%の範囲で適宜調節した)して分析に供した。
(3)赤外線吸収スペクトル
日本分光製FT/IR−5300型赤外分光計を用いて測定した。
(4)29Si核磁気共鳴の測定
日本電子製JNM−LA400を用いて測定した。
(5)皮膜表面に対する水の接触角
皮膜の表面に脱イオン水の滴を乗せ、20℃で1分間放置した後、協和界面科学製CA−X150型接触角計を用いて測定した。
皮膜に対する水の接触角が小さいほど、皮膜表面は親水性が高い。
(6)皮膜の光触媒活性
皮膜表面にメチレンブルーの5重量%エタノール溶液を塗布した後、LED光源を30日間点灯し、その後、光触媒の作用によるメチレンブルーの分解の程度(皮膜表面の退色の程度に基づき、目視で評価)に基づき、光触媒の活性を以下の4段階で評価した。
◎:メチレンブルーが完全に分解。
○:メチレンブルーの青色が部分的にわずかに残る。
△:メチレンブルーの青色が残る。
×:メチレンブルーの分解はほとんど観測されず、青色がほとんど残る。
【0169】
[参考例1]
単層シート−1の製造
デルペットLP−1(メタクリル樹脂:旭化成ケミカルズ株式会社製)100重量部、テクポリマーSBX−4(ポリスチレン架橋ビーズ、平均粒径4.5μm:積水化成品工業株式会社製)0.8重量部、トスパール2000B(シロキサン架橋ビーズ、平均粒径6μm:東芝シリコン株式会社製)1.5重量部、無機系光散乱剤として、炭酸カルシウム(平均粒径0.7μm)1.5重量部をドライブレンダーで混合し、二軸押出機を用いて樹脂温度250℃で混練、造粒し樹脂組成物を得た。該組成物をスクリュウ径120mmφ、L/D(押し出し長さ/押し出し直径)=32の押出機にフィードし、厚さ2mm、幅1000mmの単層シートを押出し成形し、単層シート−1を得た。
得られたシートから試験片を切出し、全光線透過率、光拡散率を測定した結果、全光線透過率52%、光拡散率 82%であった。
【0170】
[参考例2]
単層シート−2の製造
デルペットLP−1(メタクリル樹脂:旭化成ケミカルズ株式会社製)100重量部、テクポリマーSBX−4(ポリスチレン架橋ビーズ、平均粒径4.5μm:積水化成品工業株式会社製)3.8重量部をドライブレンダーで混合し、二軸押出機を用いて樹脂温度250℃で混練、造粒し樹脂組成物を得た。該組成物をスクリュウ径120mmφ、L/D(押し出し長さ/押し出し直径)=32の押出機にフィードし、厚さ2mm、幅1000mmの単層シートを押出し成形し、単層シート−2を得た。
得られたシートから試験片を切出し、全光線透過率、光拡散率を測定した結果、全光線透過率53%、光拡散率 85%であった。
【0171】
[参考例3]
単層シート−3の製造
デルペットLP−1(メタクリル樹脂:旭化成ケミカルズ株式会社製)100重量部、トスパール2000B(シロキサン架橋ビーズ、平均粒径6μm:東芝シリコン株式会社製)3.8重量部をドライブレンダーで混合し、二軸押出機を用いて樹脂温度250℃で混練、造粒し樹脂組成物を得た。該組成物をスクリュウ径120mmφ、L/D(押し出し長さ/押し出し直径)=32の押出機にフィードし、厚さ2mm、幅1000mmの単層シートを押出し成形し、単層シート−3を得た。
得られたシートから試験片を切出し、全光線透過率、光拡散率を測定した結果、全光線透過率52%、光拡散率 83%であった。
【0172】
[参考例4]
単層シート−4の製造
デルペットLP−1(メタクリル樹脂:旭化成ケミカルズ株式会社製)100重量部、炭酸カルシウム(平均粒径0.7μm)3.8重量部をドライブレンダーで混合し、二軸押出機を用いて樹脂温度250℃で混練、造粒し樹脂組成物を得た。該組成物をスクリュウ径120mmφ、L/D(押し出し長さ/押し出し直径)=32の押出機にフィードし、厚さ2mm、幅1000mmの単層シートを押出し成形し、単層シート−4を得た。
得られたシートから試験片を切出し、全光線透過率、光拡散率を測定した結果、全光線透過率46%、光拡散率 74%であった。
【0173】
[参考例5]
積層シート−1の製造
参考例1で用いた樹脂組成物を基材層とし、その両面に デルペットLP−1(メタクリル樹脂:旭化成ケミカルズ株式会社製)100重量部、タルク(平均粒径0.7μm)10重量部、トスパール120(シロキサン架橋ビーズ、平均粒径2μm:東芝シリコン株式会社製)10重量部からなる樹脂組成物の層を積層した積層シート−1を製造した。積層した樹脂層の厚みは両面とも30μmであった。得られたシートから試験片を切出し、全光線透過率、光拡散率を測定した結果、全光線透過率51%、光拡散率 82%であった。
【0174】
[参考例6]
単層シート−5の製造
参考例3のトスパール2000Bの配合量を0.5重量部とする以外は参考例3と同様にして、単層シートを押出し成形し、単層シート−5を得た。得られたシートから試験片を切出し、全光線透過率、光拡散率を測定した結果、全光線透過率80%、光拡散率 40%であった。
【0175】
[参考例7]
積層シート−2の製造
参考例6で用いた樹脂組成物を基材層とし、その両面に デルペットLP−1(メタクリル樹脂:旭化成ケミカルズ株式会社製)100重量部、タルク(平均粒径0.7μm)15重量部からなる樹脂組成物の層を積層した積層シート−2を製造した。積層した樹脂層の厚みは両面とも30μmであった。得られたシートから試験片を切出し、全光線透過率、光拡散率を測定した結果、全光線透過率80%、光拡散率 36%であった。
【0176】
[参考例8]
フェニル基含有シリコーン(BP1−1)の合成。
還流冷却器、温度計および撹拌装置を有する反応器にいれたジオキサン78gにフェニルトリクロロシラン26.0gを添加した後、室温にて約10分間撹拌した。これに水3.2gとジオキサン12.9gからなる混合液を、反応液を10〜15℃に保ちながら約30分かけて滴下した後、さらに10〜15℃で約30分撹拌し、続いて反応液を60℃に昇温させ3時間撹拌した。得られた反応液を25〜30℃に降温させ、392gのトルエンを約30分かけて滴下した後、再度反応液を60℃に昇温させ2時間撹拌した。
得られた反応液を10〜15℃に降温させ、メタノール19.2gを約30分かけて添加した。その後さらに25〜30℃にて約2時間撹拌を続行し、続いて反応液を60℃に昇温させ2時間撹拌した。得られた反応液から60℃で減圧下に溶媒を溜去することにより重量平均分子量3600のラダ−骨格を有するフェニル基含有シリコーン(BP1−1)を得た(得られたフェニル基含有シリコーン(BP1−1)には、IRスペクトルにおけるラダ−骨格の伸縮振動に由来する吸収(1130cm−1及び1037cm−1)が観測された。)。
また、29Si核磁気共鳴の測定結果より求めた上記フェニル基含有シリコーン(BP1−1)の式は、(Ph)(OCH0.58SiO1.21であった(ここでPhはフェニル基を表す。)。
【0177】
[参考例9]
アルキル基含有シリコーン(BA−1)の合成。
還流冷却器、温度計および撹拌装置を有する反応器に入れたメタノール300gにメチルトリメトキシシラン136g(1モル)、及びジメチルジメトキシシラン120g(1モル)を添加した後、室温にて約10分間撹拌した。これに氷冷下で、0.05Nの塩酸水溶液12.6g(0.7モル)とメタノール63gからなる混合液を、約40分かけて滴下し、加水分解を行った。滴下終了後、さらに10℃以下で約20分、室温で6時間それぞれ撹拌した。
その後、得られた反応液から60℃で減圧下に溶媒を溜去することにより重量平均分子量3600のアルキル基含有シリコーン(BA−1)を得た。得られたアルキル基含有シリコーン(BA−1)の構造を29Si核磁気共鳴によって測定したところ、T構造とD構造を示すシグナルが確認され、その比率はT構造:D構造=1:1であった。
また、29Si核磁気共鳴の測定結果より求めた上記アルキル基含有シリコーン(BA−1)の平均組成式は、(CH1.5(OCH0.27SiO1.12であった。
【0178】
[参考例10]
シリコーン組成物(B−1)の調整。
参考例8で合成したフェニル基含有シリコーン(BP1−1)6gと参考例9で合成したアルキル基含有シリコーン(BA−1)3gを混合したものに、トルエン14.7g、イソプロパノール29.8g、ブチルセロソルブ15.1gを添加し、室温で撹拌する事によりバインダー成分(B−1)の溶液を得た。
また、各々の組成物の平均組成式より、上記バインダー成分(B−1)の平均組成式は、(Ph)0.67(CH0.5(OCH0.47SiO1.18と計算できる(ここでPhはフェニル基を表す。)。
【0179】
[参考例11]
還流冷却器、温度計および撹拌装置を有する反応器にいれたTKS−251{酸化チタンオルガノゾルの商品名(テイカ製)、分散媒:トルエンとイソプロパノールの混合溶媒、TiO2濃度20重量%、平均結晶子径6nm(カタログ値)}40gにビス(トリメチルシロキシ)メチルシランの20重量%トルエン溶液40gを50℃にて約5分かけて添加し、さらに50℃で12時間撹拌を続けることにより、非常に分散性の良好な変性光触媒オルガノゾル(A−1)を得た。この時、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシランの反応に伴い生成した水素ガス量は23℃において718mlであった。また、得られた変性酸化チタンオルガノゾルをKBr板上にコーティングしIRスペクトルを測定したところ、Ti−OH基の吸収(3630〜3640cm−1)の消失が観測された。
得られた変性光触媒オルガノゾル(A−1)の粒径分布は単一分散(数平均粒子径は25nm)であり、さらに変性処理前のTKS−251の単一分散(数平均粒子径は12nm)の粒径分布が完全に消失した。
続いて、参考例10で調整したシリコーン成分(B−1)の溶液68gに上記変性光触媒オルガノゾル(A−1)20gを室温にて撹拌下において添加し、さらに硬化触媒(ジラウリル酸ジブチル錫)0.5gを攪拌下に添加して光触媒組成物(C−1)を得た。
【0180】
[実施例1〜5、比較例1〜2]
参考例1〜7で成形した光拡散性材料シート上に1cm角の黒色格子模様(線幅1mm)を印刷後、参考例11で調整した光触媒組成物(C−1)を表面上に膜厚が約3μmとなるようにスプレー塗布した後、室温で2日間乾燥し、続いて50℃にて3日間加熱することにより平滑な光触媒含有皮膜を有する光拡散性材料シート(D−1〜7)を得た。
図1、2は実施例1〜6及び比較例1〜4の照明体の模式図である。D1〜7を暗室内に設置された図1、2に示す表示装置(光源と光拡散性材料シートとの間隙は10cm)に組み込んだ。照明装置のLED光源のLED(1)として日亜化学工業株式会社製NSHU590B(ピーク波長365nm)、LED(3)として日亜化学工業株式会社製NSPW500BS(白色)を交互に配設して使用した。
LED(1)の発光時間はLED(3)の単位発光時間当たり、50/100となるように発光時間を制御し(一時間当りLED(3)は常時発光、LED(1)は30分間発光し、残り30分間は発光させない)、30日間点灯した後、光触媒活性、水の接触角、視認性、光源イメージの評価を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0181】
[比較例3]
実施例1のD−1を用い、LED(1)を発光させず、LED(3)のみを発光させる以外、実施例1と同様にして30日間点灯し、実施例1と同様の評価を行った。光触媒活性は×、水の接触角105°であり、防汚性に劣り、実用に供し得るものではなかった。
【0182】
[比較例4]
実施例1のD−1を用い、LED(1)とLED(3)を常時発光させる以外、実施例1と同様にして30日間点灯し、実施例1と同様の評価を行った。光触媒活性は◎、水の接触角0°と防汚性は優れたものであったが、面発光体自体が劣化し、濁りにより外観不良が発生し、実用に供し得るものではなかった。
【0183】
[実施例6]
実施例1のLED(3)の代わりにLED(2)として日亜化学工業株式会社製NSPR510AS(赤色)を用いる以外、実施例1と同様にして30日間点灯し、実施例1と同様の評価を行った。光触媒活性は◎、水の接触角0°、視認性◎、光源イメージ◎であり、実用に供し得るものであった。
【0184】
[実施例7〜8]
図3は実施例7〜8の照明体の上方からの模式図である。実施例1で用いた照明装置のLED光源と同種のLED(1)、LED(3)を用い、LED(1)とLED(3)の設置数をLED(1)1個に対しLED(3)3個の割合となるようにする以外、実施例1のD−1を用い、実施例1と同様にして30日間点灯し、実施例1と同様の評価を行った。光触媒活性は◎、水の接触角0°、視認性◎、光源イメージ◎であり、実用に供し得るものであった。また、実施例4のD−4を用い、同様の評価を行った結果、光触媒活性は○、水の接触角5°、視認性◎、光源イメージ◎であり、実用に供し得るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明は、光触媒層を有する防汚表示体に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】実施例1〜6及び比較例1〜4の照明体の上方からの模式図。
【図2】実施例1〜6及び比較例1〜4の照明体の側方からの模式図。
【図3】実施例7〜8の照明体の上方からの模式図
【符号の説明】
【0187】
1…LED光源:LED(1)、
2…LED光源:LED(2)又はLED(3)、
3…表示体ハウジング、
4…光拡散性材料シート、
5…光触媒層、
6…印刷格子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光拡散性材料と該光拡散性材料の直下に複数のLEDが配設される照明体と、
前記光拡散材料に積層される光触媒層と、を有し、
前記複数のLEDは、少なくとも、
ピーク波長350〜390nmの波長を発するLEDと、
可視光を発するLED及び/又は白色光を発するLEDとからなるLED光源と、
を有することを特徴とする防汚表示体。
【請求項2】
前記ピーク波長350〜390nmの波長を発するLEDの発光時間が、
前記可視光を発するLED及び/又は前記白色光を発するLEDの単位発光時間当たりにおける、1/100〜99/100となるように発光するように制御されたことを特徴とする請求項1に記載の防汚表示体。
【請求項3】
前記光触媒層は、光触媒及びバインダー成分を含む、光触媒組成物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の防汚表示体。
【請求項4】
前記光拡散性材料は、熱可塑性樹脂と光拡散剤とから形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防汚表示体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−264360(P2007−264360A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90304(P2006−90304)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】