説明

防汚表面用ペプチド模倣ポリマー

1以上のDOPA部分を含むペプチド模倣ポリマー及び関連する塗装及び組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
医療インプラント及び診断機器が生理学的液体及び組織にさらされることにより、表面へのタンパク質、細胞、細菌の付着は自然発生的に起こる。多くの場合、生物付着は、医療機器の機能を損なったり、さらには突発故障を引き起こしたりする有害な事象である。問題となる生物付着の例として、血栓による心臓血管インプラントの閉塞、バイオセンサ表面へのタンパク質の蓄積、及び留置カテーテルの細菌定着が挙げられる。医療インプラント及び機器への付着から生じる問題は、保険適用の費用を著しく増大させ、インプラントの性能の減退、インプラントの故障、患者への感染に至ることがある。
【0002】
生物付着を防ぐための試みとして、防汚ポリマー又は自己組織化単分子層(self-assembled monolayers、SAMs)の表面へのグラフトがある。このような有機的塗装の寿命及び防汚効果においては、ポリマー/SAMの化学特性だけでなく、表面にこのような塗装を固定するために利用される化学結合の性質も、重要な技術的課題である。一般的な固定反応としては、金属及び金属酸化物上にそれぞれ位置するチオール及びシラン含有分子、高分子電解質と帯電した表面との間の静電相互作用、並びに、表面上に位置する反応性有機官能基及び溶液又は気相中の分子を利用する多くの方法が挙げられる。オリゴエチレングリコール終端SAMsは優れた防汚特性を示すが、その一方で、そのin-vivoの条件下での安定性は、特定の用途に限定されると考えられる。多様なポリマーが、防汚被膜として調査された。このポリマーとしては、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(メトキシエチルアクリレート)(PMEA)、ポリ(フォスフォリコリンメタクリレート)、及び擬糖(glycomimetic)ポリマーが挙げられる。これらのポリマーはそれぞれ、in-vitro 及び in-vivoでの防汚試験において或る程度の成功を収めた。しかし、いずれのポリマーも、表面へのタンパク質、細胞及び細菌の付着を長期間に渡って防ぐのに理想的とは言えなかった。
【発明の開示】
【0003】
<関連出願の相互参照>
本願は、2001年7月20日及び2002年4月29日にそれぞれ出願された米国特許出願60/306,750及び第60/373,919号の優先権を主張して2002年7月19日に出願された、米国特許出願第10/199,960号の優先権を主張するものである。本願は同様に、2004年2月27日に出願された米国特許出願第60/548,314号、2004年3月2日に出願された米国特許出願第60/549,259号の優先権を主張するものである。本願は同様に、2005年2月27日に出願された米国特許出願第11/068,298号、2004年7月9日に出願された米国特許出願第60/586,742号、2005年7月11日に出願された米国特許出願第11/179,218号、及び2004年11月16日に出願された米国特許出願第60/628,359号の一部継続出願でもある。
【0004】
<連邦支援の研究開発について>
米国政府は、ノースウェスタン大学への国立衛生研究所からの助成金第DE14193に準拠して、本発明について一定の権利を有する。
【0005】
<本発明の概要>
概して、第一の側面において、本発明は、ペプトイド部若しくは要素又はポリペプトイド部若しくは要素に連結したペプチドアンカー部若しくは要素又はポリペプチドアンカー部若しくは要素を含んだ、高分子で防汚効果を持つキメラ組成物又は塗装剤を含む。本発明のペプトイド部は通常、上記組成物が塗装又は付着された表面へのタンパク質の吸着又は細胞の付着に対して、耐性を有するか、これを阻害する。一般化すると、本発明の組成物は、ペプチド模倣物の又はキメラポリマーと称され、以下の構造の連結されたアンカー部及びペプトイド部を含み:
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
R1は、少なくとも1のジヒドロキシフェニル誘導体(dihydroxyphenyl derivative, DHPD)を単独で、又は炭素数1〜約10(好ましくは炭素数約1〜7)を有するアミン終端低アルキル鎖と組み合わせて含む。本発明の低アルキル構造は、分岐又は非分岐、飽和又は不飽和のいずれであってもよく、アルキル鎖の特性を著しく変化させないようなマイナーへテロ原子(通常はO,N,又はS)成分を含んでもよい。アルキル構造は全て、炭素数が同一であるか、又は同構造を有する必要はない。DHPDについても同様に同一であってもよいし、異なっていてもよく;
R2は、少なくとも1のエーテル(C-O-C)結合(エーテル結合は複数であってもよい)を有すると共に、エーテル結合を有するアルキル基又はアルキル鎖を含み、アルキル基又はアルキル鎖はそれぞれ炭素数が1(例えばCH3-O-CH2-)〜約10、好ましくは炭素数が1〜約7であり、非荷電、分岐、非分岐、飽和又は不飽和であり;
n1は約1〜約10の範囲内の値、好ましくは1〜約8、最も好ましくは2〜約6の値を有し;
n2は約5〜約100又はそれ以上の範囲内の値、好ましくは約8〜約50、より好ましくは約10〜約30の値を有する。
【0009】
本発明の連結部分(例えば、ペプチド模倣組成物又は被膜)の通常の製造方法は、以下のスキーム1に示す通りである:
【0010】
【化3】

【0011】
スキーム1は、本発明のペプチド模倣被覆面を拡大して図示すると共に、本発明のペプチド模倣組成物の通常の合成経路を示す。
本発明の上記キメラポリマーは通常、タンパク質及び細胞の付着に対する耐性を有するN-置換グリシンペプトイドポリマー化合物と連結又は複合化され、表面に対して強い吸着、堆積、接着性の、吸収性の、又は他の相互作用を起こす機能的なペプチドドメイン要素として構成されることが好ましい。その合成方法は多様であり、実質的には無限に多様な組成物を製造することができる。修飾は、多様な表面に対して簡素な水性溶液を用いた吸着又は堆積方法を実行することで実現される。或る実施形態において、本発明のペプチド模倣ポリマーは、金属酸化物(例えば酸化チタン)表面に吸着又は堆積可能であり、in-vitroの条件下で、数週間、数ヶ月(又はそれ以上)に渡って著しく、血清タンパク質の吸着を抑制し、細胞の付着を阻害した。
【0012】
アンカーペプチドドメイン又はアンカーペプチド部分の好ましい種類は、水中の表面へ付着する海産貽貝が用いる接着性タンパク質を模倣するよう選択される。貽貝は、濡れた多様な表面に強力に付着することができること、及び、貽貝接着タンパク質(mussel adhesive proteins (MAPs))を含むこの液体“糊”(この“糊”は、急速に硬化して固体の接着プラークを形成する)で知られる。
【0013】
或る側面では、本発明の組成物の接着部分又はアンカー部分は、ジヒドロキシフェニル誘導体(DHPD)を含み、DHPDとしてはジ‐(DHPD)が挙げられ、第二のDHPDは、
【0014】
【化4】

【0015】
例えば、ジヒドロキシフェニルのメチレン誘導体である。好ましいDHPDは、後により詳細に述べるL,3,4ジヒドロキシフェニルアラニン(L,3,4 dihydroxyphenyl alanine,DOPA)である。
【0016】
さらに好ましい例においては、接着部分はDHPDを含み、DHPDとしては張り出し部分を有しエチレン不飽和物又はビニル不飽和物を含む鎖、例えばアルキルアクリレートが挙げられる。本発明に包含されるDHPDの詳細は、特に上述の米国特許出願第11/068,298(2005年2月27日出願)に説明されており、参照されることにより本書に組み込まれる。
【0017】
<発明の詳細な説明>
本発明において好ましいアンカータンパク質部分の接着性は、好ましくは、チロシンの翻訳後修飾により形成されたアミノ酸であるDHPD、具体的にはL-3,4- ジヒドロキシフェニルアラニン (DOPA)の存在に起因すると考えられる。いくつかのムラサキガイ(Mytilus edulis)の接着パッドタンパク質は同定されており、そのうちMefp-3及びMefp-5は特に興味深いものである。なぜなら、これらのタンパク質は高DOPA含量を有すると共に、構造的に、接着パッドと基材との間の接触面の非常に近くに位置するからである。以下の文献、Waite, J.H. and X. Qin, Polyphosphoprotein from the Adhesive Pads of Mytilus edulis. Biochemistry, 2001. 40: p. 2887-2893. Papov, V.V., et al., Hydroxyarginine-containing Polyphenols Proteins in the Adhesive Plaques of the Marine Mussel Mytilus edulis. Journal of Biological Chemistry, 1995. 270(34): p. 20183-20192 を参照されたい。Mefp-5は、DOPAの含量が約27%と単離されたMAPのうちで最も高い。さらにMefp-5中のDOPA残基の75%以上が、リジン(Lys)残基に直接隣接している。
【0018】
従って、種々の実施形態は、限定するものでないが、ポリマーを固定化するためのアンカーとして、DOPA残基及びLys残基を交互に有するMefp-5の5-merペプチド模倣物(図1)を採用することができる。実施のあらゆる方法又は形態に制限はなく、DOPA残基のカテコール側鎖は金属酸化物の表面への電荷移動複合体を形成すると考えられ、リジンの陽イオンとなりやすい性質は、酸化物表面の陰イオン荷電への静電気引力を生じると考えられる。本発明のポリマーと組み合わせて有益に用いることのできる他のDOPA含有ペプチドアンカー成分は、本発明を知った当業者により理解されるであろう。このような成分としては、それぞれ2002年7月19日及び2004年10月31日に出願された、同時係属出願第10/199,960(米国出願公開公報第2003-0087338号、2003年5月8日公開、特に段落[0089]〜[0092])及び出願番号10/699,584(米国出願公開公報第2004/026595号、2004年12月30日公開)に記載されたものが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの文献はその全体が参照されることにより本書に組み込まれる。
【0019】
ポリマーの防汚部分は、様々な長さのポリ‐N置換グリシンオリゴマー(ぺプトイド)を含んでもよい。ペプトイドは、ペプチドの非天然模倣物であり、タンパク質様骨格を有し、側鎖がα-炭素II型に代えてアミド窒素で誘導体化されている。多様なN-置換、対応するN-置換グリシン残基、及び関連ペプトイド成分は本発明を知った当業者に理解され、このような残基及びペプトイド成分は、後述するように、また先行技術においては米国特許第6,887,845号及び/又は2005年5月2日出願の同時係属出願第11/120,071に記載されているように調整可能である。これらの文献は、どちらも参照されることによって本書に組み込まれる。
【0020】
表面に防汚性を付与する官能基の技術における現在の理解によると、或る実施形態において、ペプトイド成分は、N-置換メトキシエチル側鎖を含んでいてもよい。官能性SAMへのタンパク質吸着の広範な研究において、或る官能基の特徴がタンパク質吸着に対する抵抗性を表面に付与することが特定された。これらの特徴としては、親水性であること、水素結合受容体となること、但し水素結合供与体ではないこと、及び電荷が中性であることが挙げられる。Ostuni, E., et al., A Survey of Structure-Property Relationships of Surfaces that Resist the Absorption of Protein. Langmuir, 2001. 17: p. 5605-5620を参照されたい。この文献は参照されることによって本書に組み込まれる。PEG及びPMEA成分のように、このようなポリペプトイドのメトキシエチル側鎖は、これらの4つの特徴、すなわち親水性を有する、水素結合受容体である、非水素結合供与体である、及び電荷を持たない、を全て呈する。N-置換の構成は、機能的効果、つまり、上述した特徴の1若しくはそれ以上を満たすか、及び/又は、対応するペプトイドポリマー成分への1若しくはそれ以上の防汚部分を組み込むことで他の防汚特性を呈すればよく、他には限定されない。ペプトイド骨格の科学的特性に対して、窒素(α炭素ペプチドに代わって)による側鎖置換は、アミド水素を排除し、水素結合供与能を除去し、プロテアーゼによる分解の発生率を著しく低下させる。
【0021】
スキーム1に描かれたペプチド‐ペプトイドのキメラ分子は、まず、接着性ペプチドアンカーが標準的なFmocの手技により合成され、次いで、周知のサブモノマーのプロトコルを用いて、20-merのN-メトキシエチル グリシン ペプトイドが合成されることにより、固相樹脂上で合成される。Zuckerman, R.N., et al., Efficient Method For the Preparation of peptoids [Oligo(n-Substituted Blycines)] By Submonomer Solid-Phase Synthesis. Journal of the American Chemical Society, 1992. 114(26): p. 10646-10647を参照されたい。アミン末端はアセチル化され、樹脂から切り出され、RP- HPLCによって生成され、質量分析によって分析された。電子ビーム蒸着によりチタンが20nm被覆されたシリコンウェハは、水溶液からのペプチド模倣ポリマーの吸着により修飾される。未修飾及び修飾チタン表面は、飛行時間型二次イオン質量分析(time-of-flight secondary ion mass spectrometry (ToF-SIMS))及びX線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy(XPS))により分析された。未修飾チタンの陽イオンToF-SIMSスペクトル(図示せず)は、炭化水素の夾雑を示す典型的な低強度のピーク(CnH2n-1+) 及び (CnH2n-1+)、m/z = 47.95におけるチタンのピーク、並びにm/z = 63.95におけるTiO1のピークを呈した。ペプトイド修飾されたチタンの陽イオンToF- SIMSスペクトルは、吸着されたペプトイドポリマーの存在を表す多数のフラグメントを示した(図2)。メトキシエチル側鎖の明らかな断片化は、C2NH4+ (m/z = 42.0) 等のリジン由来のフラグメントのみならず、CH31(m/z = 15)、C2H5O+(m/z = 45.06) 及び C3H7O+(m/z=59.07)のフラグメントに応じたピークを生じさせた。陰イオンスペクトルは、ポリマーのペプトイド部分の他の大きなフラグメントのみならず、1-,2-,及び3-merのペプトイドフラグメントを表すピークを含んでいた(図3)。
【0022】
ペプチド模倣ポリマーで修飾された表面のXPS分析は、チタン表面にペプチド模倣ポリマーが吸着していることの更なる証拠を提示する。XPSスペクトルでは、コントロールのチタン表面と比較して、286.0 eVにおけるエーテル(C-O)のピークが増大した(図4)。284.6 eVにおけるピークは、炭化水素の夾雑物のみならず、メトキシエチル側鎖及びDOPAアンカー基における脂肪族及び芳香族炭素によるものである。ペプチド模倣ポリマー骨格のカルボニル基は、287.5 eVにおけるピークによって示される。さらに、ポリペプトイド修飾表面のスペクトルにおいて399.7 eVで見られる強いN(1s)ピークは、未修飾チタン表面では観察されない(図5)。本発明の実施形態は酸化チタン基材を用いて行われているが、当業者は、他の多様な金属(この他の金属は、他の金属酸化物を含むがこれに限定されない)が、本発明のペプチド模倣ポリマーをいずれか1つ又は複数含む複合物及び/又は組成物と併用可能であることを理解するであろう。上記他の金属は、本書で言及される医療的及び非医療的な用途の実行のために当業界で知られるものを含む。
【0023】
光導波管ライトモード分光法(Optical waveguide lightmode spectroscopy (OWLS))による実験は、チタン表面のポリペプトイド修飾がタンパク質吸着の大幅に減少させることを明らかにした(図6)。未修飾のチタン光導波管をヒト血清に20分間暴露し、すすいだ後、密度150〜230 ng/cm2の吸着されたタンパク質の層が生じる。しかし、驚くべきことに、そして予想外に、同一の条件下において、本発明の代表的なペプトイド修飾基材血清蛋白質の吸着は、約4ng/cm2にまで減少した。このタンパク質吸着の量は、DOPAにより固定されたPEGコーティングへの、及びオリゴエチレングリコール終端SAMへの吸着量と同等であり、本発明のペプチド模倣ポリマー組成物の優れたタンパク質抵抗性を示すものである。
【0024】
さらに、長時間に渡って細胞接着を防ぐポリペプトイド修飾表面の能力が、血清の存在下で、3T3線維芽細胞を未修飾及び修飾チタン表面上で培養することにより決定された。新鮮な細胞が、一週間毎に2回、数ヶ月間に渡ってチタン表面にまかれ、様々な時点での細胞接着が蛍光顕微鏡及び画像分析により計測された。未修飾チタン表面には数日後に既に線維芽細胞が接着し、ほぼコンフルエントになった(図7)のに対して、ペプトイド修飾表面は、実験中、低いレベルの細胞接着を示した。表面への細胞接着は通常、吸着されたタンパク質により仲介されるので、この結果から、in vitro実験中、血清タンパク質の吸着量が低いままであったと推測される。
【0025】
血清が上記ポリマーの骨格のペプチド結合を徐々に分解するプロテアーゼ酵素を含むにもかかわらず、抗付着性が血清の存在下で長い期間持続するということは、注目に値する。上記ペプトイドの構造は、アミド窒素上での側鎖の配置がプロテアーゼに対して本質的に抵抗性を有する骨格に通じるという点において、有利である。上記分子の接着ペプチドアンカーがプロテアーゼによる分解の影響を受けやすいと考えられるが、表面におけるポリマーが高密度である状態において、ペプチドはペプトイド鎖の下に埋もれているか、又はペプトイドに保護されており、それゆえに本質的に血清プロテアーゼには接触しないようになっていると考えられる。
【0026】
既に説明したように、本発明の新たに構成されたペプチド模倣ポリマーは、合成され、金属酸化物表面に固定されたときに、優れた、そして長時間持続する防汚特性を有することが明らかとなった。このようなキメラ化合物は、基材への強固な耐水性固定を実現する貽貝接着タンパク質模倣ペプチドを含み、このタンパク質模倣ペプチドは、タンパク質及び細胞の付着に対して抵抗性を有するように構成された側鎖(例えばメトキシエチル)を有するN-置換グリシンペプトイドのオリゴマーと連結される。モジュール、すなわちこれらのペプチド模倣ポリマーを合成するのに用いられる固相法は、天然及び非天然の両方の側鎖の形成において、N-置換側鎖の様々な構成について、分子量を精確に制御可能であり、高収率を得られ、機能的に得られる実質的に無限の多様性を実現することが知られている。Zuckerman, R.N., et al., Efficient Method For the Preparation of ペプトイドs [Oligo (N -Substituted Glycines)] By Submonomer Solid-Phase Synthesis. Journal of the American Chemical Society, 1992. 114(26): p. 10646-10647. Kirshenbaum, K., et al., Sequence- specific polypeptoids: A diverse family of heteropolymers with stable secondary structure. PNAS, 1998. 95(8): p. 4303-4308を参照されたい。このようなペプチド模倣ポリマーを通して得られる合成物の多様性は、ポリマーの化学的組成とタンパク質/細胞への抵抗性との間の基本的な関係をより理解するのに役立つ。これらの関係のより一層の理解は、さらに、医療的及び非医療的適用に用いられる改良された防汚方法に繋がるであろう。
【0027】
<実施例>
〔材料〕
ブロモ酢酸(BAA)及びメトキシエチルアミンは、Aldrich (ウィスコンシン州 ミルウォーキー)から購入した。
【0028】
〔ポリマー合成〕
本発明のペプチド模倣ポリマー組成物は、0.25 mmolのFmoc-結合 アミド樹脂(Nova Biochem、サンディエゴ、カリフォルニア州)上で、ABI 433A(Applied Biosystems、フォスターシティー、カリフォルニア州)自動ペプチド合成機を用いて合成された。Fmoc-Lys-(N-Boc) 及び Fmoc-DOPA(アセトニド) アミノ酸(Nova Biochem, サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いた固相ペプチド合成法による通常のFmoc法によって、C末端DOPA-Lys-DOPA-Lys-DOPA ペプチドアンカーが合成された。その後、ポリペプトイド部分が上述のサブモノマー法により合成された。上述のZuckermanの文献を参照されたい。1.2Mブロモ酢酸のDMF溶液4.15 mL、及びジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(Aldrich、ミルウォーキー、ウィスコンシン州)1mLを上記樹脂と共に60分ボルテックスにかけることで、N末端のアミノはブロモアセチル化された。7mLのDMFで4回すすいだ後、樹脂は、側鎖部分を導入するために、1M メトキシエチルアミン(Aldrich,ミルウォーキー、ウィスコンシン州)のN-メチルピロリドン(NMP) (Applied Biosystems, フォスターシティー、カリフォルニア州) 溶液 4 mLと共に、60分間ボルテックスにかけられた。液体は除去され、樹脂は7mLのDMFで洗浄された。これらの2つの反応サイクルは、ペプトイドモノマーが望ましい数得られるまで繰り返された。
【0029】
合成の完了後、ペプチド模倣ポリマーのN末端は無水酢酸(Applied Biosystems, フォスターシティー、カリフォルニア州)によってアセチル化された。2.5%水及び2.5%トリイソプロピルシラン(Aldrich, ミルウォーキー、ウィスコンシン州)を含む95% (v/v) トリフルオロ酢酸(Acres Organics, ベルギー)による処理によって、アミノ酸側鎖の脱保護された樹脂からペプチド模倣ポリマーが切り出された。切り出されたペプチド模倣ポリマーは、ろ過及びアセトニトリル及び水を用いた数回の洗浄により分離された。粗精製物は、Vydac Cl 8 column及びESI-MSを用いた逆相HPLCにより、純度及び組成が解析された。予備的なHPLCにより精製が行われ、精製された分画は-85℃で凍結乾燥された。
【0030】
〔基材の調製〕
シリコンウェハは、電子ビーム蒸着された20nmのチタンにより被覆され、8mm角に切断された。基材は、清浄な酸化チタン表面を形成するために、2-プロパノール中で10分間超音波洗浄され、N2下で乾燥され、そして50 Torr以下及び100Wの条件で3回、O2プラズマ(Harrick Scientific Ossining,米国)に暴露された。OWLS導波管は、Microvacuum Ltd.(ブダペスト,ハンガリー)から購入され、Si6.25Ti6.75O2で被覆されたSiO2基材及びゾル-ゲル法により作られた10nmの厚さのTiO2の上塗りからなる(Voros, J., et al., Optical grating coupler biosensors. Biomaterials, 2002. 23: p. 3699-3710)。センサは、その後チタン基材と同様の手順で洗浄された。
【0031】
〔基材修飾〕
洗浄後の基材及びセンサは、1mg/mlのペプチド模倣ポリマーを含んだ0.1M N-モルゴリノプロパンスルホン酸(N- morpholinopropanesulfonic acid,MOPS)緩衝液のNaCl飽和溶液に、60℃で24時間浸されることで、均一の単分子層を形成された。この修飾の後、基材は超純水で完全にすすがれて、ろ過されたN2流により乾燥された。
【0032】
〔表面の評価〕
測定及び高分解能XPS スペクトルは、単色Al Kα(1486.8 eV) 300-W X-線源、1.5 nmの円形のスポットサイズ、フラッドガンカウンター帯電効果, 超真空 (<10-8 Torr)が組み込まれたOmicron FSCALAB(Omicron, タウナステン,ドイツ)によって収集された。取り出し角は、標準基材とディテクタとの間の角度と定義されるが、45°に固定された。基材は両面接着テープによって基準試料スタッド上に載せられた。全ての結合力は、C(1s) 炭素ピーク(284.6 eV)を用いて測定された。解析は、C(1s)で270〜300eV、そしてN(1s)でも同等のエネルギーで、広域測定スキャン(電位差(pass energy) 50.0eV)及び10分の高分解能走査(電位差22.0 eV)を含んだ。
【0033】
二次イオンスペクトルはTRIFT III飛行時間型二次イオン質量分析機(Physical Electronics, エデンプレイリー、ミネソタ州)に、質量範囲 0〜2000 m/zで記録された。Ga源はビームエネルギー15 keV、レーザ径100μmで使用された。陽及び陰スペクトルは、PHI software Cadenceを用いて一連の低質量イオンと共に収集及び測定された。
【0034】
〔細胞培養〕
3T3-Swiss アルビノ線維芽細胞(ATCC、マナッサス、バージニア州)は、37℃、5% CO2下で、10%牛胎仔血清 (FBS)、100μm/ml ペニシリン及び100 U/ml ストレプトマイシンを含むDulbecco's modified Eagle's medium (DMEM, Cellgro, Herndon, VA) で培養された。使用直前、12-16パッセージの線維芽細胞は、0.25% トリプシン- EDTAを用いて回収され、10%FBSを含むDMEMに懸濁され、血球計で計測された。
【0035】
〔細胞接着の定量化〕
修飾及び非修飾TiO2基材は、37℃、5% CO2下、12穴 TCPS プレートで、FBSを含む 1.0 mlの DMEM により前処理された。線維芽細胞は、濃度2.9×103cell/cm2で試験基材上にまかれた。短期間試験では、基材は37℃、5% CO2下で4時間、10% FBSを含むDMEMで維持され、その後、接着細胞が3.7%パラフォルムアルデヒドで5分間固定され、蛍光顕微鏡を用いて計測するために、5M l,r-ジオクタデシル-3,3,3',3' テトラメチルインドカーボシアニン パークロレイト(l,r-dioctadecyl-3,3,3',3' tetramethylindocarbocyanine perchlorate (DiI; Molecular Probes, ユージーン, オレゴン州)により染色された。長時間接着実験においては、3T3線維芽細胞は濃度2.9×103 cell/cm2になるよう1週間に2回まき直された。培地が各ウェルから吸引除去されることで非接着細胞が除かれ、PBSにより基材及びウェルがすすがれた。線維芽細胞は、2.5μM カルセイン-AM (Molecular Probes)のコンプリートPBS溶液中で、37℃で1時間、始めは一週間に2回、二週間後には一週間に1回、染色された。
【0036】
細胞接着の定量化データは、Olympus BX- 40 (λEx= 549nm, λEm= 565nm)及び Coolsnap CCDカメラ(Roper Scientific,トレントン,ニュージャージー)を用いて、各機材上の任意の位置から9つの画像を得ることによって取得された。実験は、統計上の目的で3回行われ、結果的に各基材について各時点で計27の画像が得られた。結果の画像は、Metamorph (Universal Imaging, Downington, PA)による閾値化により、定量化された。
【0037】
〔タンパク質吸着〕
In situ 吸着実験のために、TiO2被覆された導波管は、ポリペプトイドによってex situ修飾された。導波管はOWLS流入セルに挿入され、TiO2表面のイオンを完全に交換するように、HEPES-2緩衝液(10 mM HEPES, 150 mM NaCl, pH 7.4)に少なくとも6時間さらされることで平衡化された。
【0038】
液体の屈折率は、屈折計(J 157 Automatic Refractometer, Rudolph Researc)にて、同一の条件下で測定された。屈折値1.33119が、HEPES-2 緩衝液に用いられ、標準値0.182 cm3/g がタンパク質吸着測定に用いられた。OWLSにより測定された基線に対するシグナル強度中の剰余の増加は、吸着されたタンパク質の質量に直接相互関連する可能性がある。
【0039】
当業者は、本開示に照らして、本発明に多くの用途を考え得るであろう。本発明の、化合物、組成物塗装、及び/又は複合材料は、限定することなく、以下:
1) 以下を含むがこれに限定されない医療的診断及び治療
(a) 以下に対して汚れの付着しないような表面の調製;
・バイオセンサ
・心臓血管のインプラント
・カテーテル
・カテーテル、針、及び他の経皮器具の平滑塗装
・医療用チューブ(透析)
・インプラント可能な電子機器(Implantable electronic devices (MEMS))
・医療用グレードの合金上の抗腐食塗装(表面吸収カテコールは金属の腐食抵抗性を増強するとは知られていない)
及び、
(b) 例えば以下のような診断及び治療に用いられる粒子の安定化、
・in-vivo条件下におけるタンパク質、ペプチド、及び他の治療剤の安定化
・ナノ粒子がベースとなった生体外での診断剤(金又は量子ドットがベースとなった技術)
・ナノ粒子がベースとなった生体内診断剤
・・MRI用の常磁性ナノ粒子造影剤
・・光学イメージング用のナノパーティクル
・ナノパーティクルがベースとなった治療法
・・加温療法用の超常磁性 マグネタイト
並びに、
2) 以下を含むがこれに限定されない非医療的用途
・抵腐食塗装 (表面吸着カテコール及びポリフェノールは金属の腐食抵抗性を増強することが知られており、ポリフェノールポリマーは現在、抗腐食塗装として用いられている)
・ 一般消費者が購入する商品 (サングラス等)への防汚塗装
・電子機器(MEMS等)の防汚塗装
・航空機の防汚/氷結防止塗装
・量子ドット懸濁液の安定化
・Magnetorhcological 流体(磁性流体)の安定化
・塗料中の無機粒子の安定化
に適用される。
当業者は、本開示を考慮して、他の多くの用途を見出すであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明において好ましいペプチド模倣ポリマー組成物の分子構造を示す図面である。
【図2】ペプチド模倣ポリマー塗装で修飾されたチタンの陽イオンToF- SIMSスペクトルの低質量域を示す図面である。
【図3】ペプチド模倣ポリマー塗装で修飾されたチタンの陰イオンToF- SIMSスペクトルの中質量域を示す図面である。
【図4】未修飾の、及びポリペプトイド修飾されたTiO2基材の高分解能C(1s) XPS スペクトルである。
【図5】ポリペプトイド修飾されたTiO2基材の高分解能N(1s) XPSスペクトルである。
【図6】OWLSにより測定された、ペプトイド修飾チタン導波管上おけるスクラムタンパク質の吸着の質量プロットである。
【図7】TiO2及びペプトイド修飾TiO2上における3T3線維芽細胞の総推定細胞領域である。細胞は、実験の継続期間を通して1週間に2回まき直された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結されたペプチド部分とポリペプトイド部分とを含み、
上記ペプチド部分は以下の構造
【化1】

を有し、
上記ポリペプトイド部分は以下の構造
【化2】

を有し、
R1は、少なくとも1のジヒドロキシフェニル誘導体(DHPD)を含むか、又はDHPDを単独で若しくは炭素数が1〜約10であるアミン終端低アルキル鎖と組み合わせて含み;
R2は、少なくとも1のエーテル結合を含み、上記エーテル結合はアルキル基又はアルキル鎖と結合し、アルキル基又はアルキル鎖は炭素数が1〜約10であり;
n1は約1〜約10の範囲の値を有し;
n2は約5〜約100の範囲の値を有する、ペプチド模倣ポリマー。
【請求項2】
R1が、
【化3】

を含む請求項1に記載のペプチド模倣ポリマー。
【請求項3】
R2が-CH2-CH2-O-CH3であるクレーム1に記載のペプチド模倣ポリマー。
【請求項4】
n1が3であるクレーム1に記載のペプチド模倣ポリマー。
【請求項5】
n2が20であるクレーム1に記載のペプチド模倣ポリマー。
【請求項6】
連結されたポリペプチド及びポリペプトイド部分を含むペプチド模倣ポリマーを含み、
上記ポリペプチドが以下の構造:
【化4】

を有し、
上記ポリペプトイドは以下の構造:
【化5】

を有し、
R1は少なくとも1のジヒドロキシフェニル誘導体(DHPD)を含むか、又はDHPDを単独で若しくは炭素数が1〜約10であるアミン終端低アルキル鎖と組み合わせて含み;
R2は、少なくとも1のエーテル結合を含み、上記エーテル結合はアルキル基又はアルキル鎖と結合し、アルキル基又はアルキル鎖は炭素数が1〜約10であり;
n1は約1〜約10の範囲の値を有し;
n2は約5〜約100の範囲の値を有する、塗装剤。
【請求項7】
請求項6に記載のペプチド模倣物塗装剤が付着した金属の基材を有する塗装された金属加工物。
【請求項8】
金属基材は金属機器の作業面である請求項7に記載の金属加工物。
【請求項9】
金属基材が酸化チタンを含む請求項7に記載の金属加工物。
【請求項10】
連結されたアンカーポリペプチド部分及び防汚ポリペプトイド部分を含むポリペプチド模倣ポリマーを含み、
アンカー部分は以下の構造:
【化6】

を有し、
防汚部分は以下の構造:
【化7】

を有し、
R1は、少なくとも1のジヒドロキシフェニル誘導体(DHPD)を含むか、又はDHPDを単独で若しくは炭素数が1〜約10であるアミン終端低アルキル鎖と組み合わされせて含み;
R2は、少なくとも1のエーテル結合を含み、エーテル結合はエーテル結合を有するアルキル基又はアルキル鎖と結合し、アルキル基又はアルキル鎖は炭素数が1〜約10であり;
n1は約1〜約10の範囲の値を有し;
n2は約5〜約100の範囲の値を有する、耐久性防汚塗装。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−520764(P2008−520764A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541426(P2007−541426)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/041280
【国際公開番号】WO2006/055531
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(596057893)ノースウエスタン ユニバーシティ (35)
【Fターム(参考)】