説明

防汚部材ならびに家電筐体および便座

【課題】防汚膜の基体の主成分がPPである場合であっても、基体と防汚膜との密着性を十分に確保できる防汚部材の提供。
【解決手段】防汚部材1は ポリプロピレン樹脂と、酸変性ポリプロピレン樹脂とを構成成分として含む基体2と、基体2の表面上に配置されており、シリコーン成分を含むアクリル系塗料およびシリコーン成分を含むウレタン系塗料からなる群より選択される少なくとも一種の塗料を構成成分として含む防汚膜3と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚部材ならびにそれを含んで形成される家電筐体および便座に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、自動車用防汚塗料や、船舶、港湾施設、パイプライン、橋梁などの水中構造物の防汚塗料として、シリコーン成分を含むポリウレタン塗料などが知られていた。
【0003】
例えば、特許文献1では、湿気硬化性シリコーンオリゴマーと硬化触媒とを含有するコーティング剤を用いて、鉛筆硬度で4H以上の硬度で形成された硬化塗膜が開示されている。
【0004】
また、ポリプロピレン樹脂製の便座に防汚性を付与する方法としては、ポリプロピレン樹脂に混練によりシリコーン成分を含有させたり、ポリプロピレン樹脂表面にフッ素樹脂のような低表面エネルギーの樹脂フィルムを張り付けたりし、防汚性を付与する方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献2では、ポリオール、ポリイソシアネート、HLBが1〜15のシリコーンオイルおよび水酸基含有シリコーン樹脂を含有する防汚塗料組成物を用いて、水中構造物表面に防汚性の保護塗膜を形成する方法が開示されている。またこの中で、保護塗膜を形成する前にエポキシ系の下塗りプライマー塗膜をあらかじめ設けることが推奨されている。
【0006】
また例えば、特許文献3では、防汚性を高めた便座の提供を意図して、シリコーン系樹脂層やフッ素系樹脂層などの低表面エネルギー層を便座表面へ設けることが開示されている。
【特許文献1】特開2007−70606号公報
【特許文献2】特開2006−45339号公報
【特許文献3】特開2006−141650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の従来技術(特許文献1、2)であっても、防汚膜の基体の主成分がポリプロピレン樹脂(以下、「PP」と記載)である場合には、基体と防汚膜との密着性が十分に確保できておらず、未だ改善の余地があった。例えば、この原因としては、PPが反応点を有していないことが挙げられる。
【0008】
例えば、特許文献1の技術では、防汚膜として鉛筆硬度4H以上の硬化塗膜が挙げられるが、基体をPPとした場合には基体と防汚膜との密着性が十分に確保できておらず、未だ改善の余地があった。
【0009】
例えば、特許文献2の技術では、水中構造物(本発明の基体に相当)にエポキシ系の下塗りプライマー塗膜を設けた後、保護塗膜(本発明の防汚膜に相当)を形成させる方法が挙げられるが、基体をPPとした場合には基体と保護塗膜との密着性が十分に確保できておらず、未だ改善の余地があった。
【0010】
また、特許文献3の技術では、樹脂フィルムを低表面エネルギー層として合成樹脂製便座に設けることが挙げられるが、この場合も密着性が弱く、特に切り傷を付けるとその箇
所から剥がれてしまい、未だ改善の余地があった。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、防汚膜の基体の主成分がPPである場合であっても、基体と防汚膜との密着性を十分に確保できる防汚部材を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、上記本発明の防汚部材を備えており、優れた防汚性を有する家電筐体および便座を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、基体の主成分がPPの場合に、これに酸変性ポリプロピレン樹脂(以下、酸変性PPと記載)を添加することが、上記従来技術の有する課題を解決する上で極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、ポリプロピレン樹脂と、酸変性ポリプロピレン樹脂とを構成成分として含む基体と、基体の表面上に配置されており、シリコーン成分を含むアクリル系塗料およびシリコーン成分を含むウレタン系塗料からなる群より選択される少なくとも一種の塗料を構成成分として含む防汚膜と、を有する防汚部材を提供する。
【0015】
本発明の防汚部材は、防汚膜の基体の主成分がPPである場合であっても、これに添加された酸変性PPの酸変性された官能基の部位がシリコーン成分を含むアクリル系塗料等と反応し化学結合を形成すると考えられるため、基体と防汚膜との密着性を十分に確保できる。また、本発明の防汚部材は、防汚膜がフッ素フィルムのような他の防汚膜とは違い、油性汚れが染みこみ難いという特徴を有している。そのため、長期間放置後も黄ばみ汚れが付き難いという効果も有する。
【0016】
また、本発明の防汚部材においては、特に、酸変性PPは無水カルボン酸変性ポリプロピレン樹脂が好ましい。さらに、本発明の防汚部材においては、防汚膜に抗菌剤が含まれていることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、防汚部材を含んで形成されている家電筐体を提供する。このように、前述した本発明の防汚部材を用いることにより、優れた防汚性を有する家電筐体を構成することができる。
【0018】
さらに、本発明は、防汚部材を含んで形成されている便座を提供する。このように、前述した本発明の防汚部材を用いることにより、優れた防汚性を有する便座を構成することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の防汚部材によれば、防汚膜の基体の主成分がPPである場合であっても、基体と防汚膜との密着性を十分に確保できる。
【0020】
また、本発明の家電筐体は、防汚部材を含んで形成されているので、優れた防汚性を有する。
【0021】
さらに、本発明の便座は、防汚部材を含んで形成されているので、優れた防汚性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の防汚部材ならびに家電筐体および便座の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
(第1実施形態)
<防汚部材の第1実施形態>
以下、図1及び図2を用いて本発明の防汚部材の第1実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の防汚部材の第1実施形態の基本構成を示す模式断面図である。また、図2は、図1のRの部分の拡大図である。
【0024】
図1に示すように、第1実施形態の防汚部材1は、主として、基体2と、この基体2の表面上に配置される防汚膜3とから構成されている。
【0025】
以下、第1実施形態の防汚部材1を構成する基体2と防汚膜3について説明する。
【0026】
まず、基体2について説明する。
【0027】
図1に示す基体2は、後述する防汚膜3を支持する支持体となる部材である。この基体2には、主成分としてのポリプロピレン樹脂(以下、PPと記載)と、酸変性ポリプロピレン樹脂(以下、酸変性PPと記載)とが少なくとも構成成分として含まれている。
【0028】
ここで、酸変性PPとは、PPの一部に例えばマレイン酸やオレイン酸などのカルボン酸基が導入された樹脂である。
【0029】
酸変性PPとしては、本発明の効果をより確実に得るという観点から、無水マレイン酸変性PPおよびオレイン酸変性PPが好ましく挙げられる。特に、上述した中でも、入手の容易性という観点から、無水マレイン酸変性PPが好ましい。
【0030】
ここで、本発明の効果をより確実に得るという観点から、酸変性PPの含有量としては、1〜50質量%であることが好ましい。ここで、酸変性PPの含有量が1質量%以上であると基体2と防汚膜3との密着性をより確実に向上させることができるので好ましい。また、酸変性PPの含有量が50質量%以下であると酸変性PPが含まれることによる基体2の着色化をより十分かつより確実に防止しやすくなる点で好ましい。更に、酸変性PPの含有量が50質量%以下であると酸変性PPが含まれることによる基体2の機械的強度(剛性と耐衝撃性)の低下をより十分かつより確実に防止しやすくなる点で好ましい。
【0031】
次に、防汚膜3について説明する。
【0032】
図1に示す防汚膜3は、基体2の表面を覆い、当該基体2の表面に汚れが付着することを防止するための部材である。
【0033】
この防汚膜3には、シリコーン成分を含むアクリル系塗料およびシリコーン成分を含むウレタン系塗料からなる群より選択される少なくとも一種の塗料が構成成分として含まれている。
【0034】
ここで、シリコーン成分を含むアクリル系塗料としては、本発明の効果をより確実に得るという観点から、主剤と硬化剤とを混合して使用する二液硬化型アクリルシリコーン塗料、一液型アクリルシリコーン塗料および紫外線硬化型アクリルシリコーン塗料が好ましく挙げられる。特に、上述した中でも、入手の容易性という観点から、主剤と硬化剤とを混合して使用する二液硬化型アクリルシリコーン塗料が好ましい。
【0035】
また、シリコーン成分を含むウレタン系塗料としては、本発明の効果をより確実に得るという観点から、主剤と硬化剤とを混合して使用する二液硬化型ウレタンシリコーン塗料、一液型ウレタンシリコーン塗料および紫外線硬化型ウレタンシリコーン塗料が好ましく挙げられる。特に、上述した中でも、入手の容易性という観点から、主剤と硬化剤とを混合して使用する二液硬化型ウレタンシリコーン塗料が好ましい。
【0036】
更に、シリコーン成分を含むアクリル系塗料とシリコーン成分を含むウレタン系塗料との好ましい組合せとしては、本発明の効果をより確実に得るという観点から、主剤と硬化剤とを混合して使用する二液硬化型アクリルシリコーン塗料と主剤と硬化剤とを混合して使用する二液硬化型ウレタンシリコーン塗料との組合せが、入手の容易性および同じ硬化剤を利用できるという観点から、好ましい。なお、主剤と硬化剤とを混合して使用する二液硬化型アクリルシリコーン塗料および主剤と硬化剤とを混合して使用する二液硬化型ウレタンシリコーン塗料は、落書き防止用の塗料として市販されているものを使用することが好ましい。
【0037】
また、一般的にシリコーン成分を含むアクリル系塗料は、価格は安いが耐久性が低く、シリコーン成分を含むウレタン系塗料は、価格は高いが耐久性も高いと言われている。よって、シリコーン成分を含むアクリル系塗料の含有量とシリコーン成分を含むウレタン系塗料の含有量との比率は特に限定されないが、シリコーン成分を含むアクリル系塗料の含有量が多いと安価な防汚部材を構成することが実現でき、シリコーン成分を含むウレタン系塗料の含有量が多いと耐久性の高い防汚部材を構成することが実現できる。そのため、使用環境において価格および耐久性のうちのどちらを選択するかにより、シリコーン成分を含むアクリル系塗料の含有量とシリコーン成分を含むウレタン系塗料の含有量との比率を任意に決定すればよい。
【0038】
また、防汚膜3には抗菌剤を添加してもよい。これにより、防汚膜3に対して優れた防汚性の特性に加えて、優れた抗菌性の特性を付与することができる。
【0039】
この抗菌剤としては、防汚膜3に分散でき、抗菌効果を得ることができるものであれば特に限定されない。特に限定されず公知の抗菌剤を添加してよい。このような抗菌剤としては、例えば、ワサビなどの有機系の抗菌剤と、銀・亜鉛・銅などの無機系の抗菌剤とがある。
【0040】
ここで、有機系の抗菌剤は防汚膜3を基体2の表面上に形成するときに、有機溶剤を使用して形成すると変質してしまう可能性がある。
【0041】
そのため、有機溶剤を使用する製造方法を採用する際には、抗菌剤の変質を十分に防止する観点から、無機系の抗菌剤を使用することが好ましい。
【0042】
無機系の抗菌剤としては、東亞合成社製の銀系無機抗菌剤「商品名:ノバロン」やシナネンゼオミック社製の無機抗菌剤「商品名:ゼオミック」などが好ましく挙げられる。これらの抗菌剤には防カビ効果も期待できるので好ましい。
【0043】
ここで、塗料に対する抗菌剤の添加量は0.1〜5質量%とすることが好ましい。塗料に対する抗菌剤の添加量が0.1質量%以上であると抗菌性をより確実に得ることができ好ましい。塗料に対する抗菌剤の添加量が5質量%以下であると防汚膜3の変色などの外観不良の発生をより確実に防止できるという点で好ましい。
【0044】
本実施形態の防汚部材1は、以上説明したように、基体2の主成分がPPであるが、こ
れに酸変性PPが添加された構成を有するため、防汚膜の基体の主成分がPPである場合であっても、基体2と防汚膜3との密着性を十分に確保できる。
【0045】
より詳しくは、本実施形態の防汚部材1は、防汚膜3の基体の主成分がPPである場合であっても、これに添加された酸変性PPの酸変性された官能基の部位がシリコーン成分を含むアクリル系塗料等と反応し化学結合を形成すると考えられるため、基体2と防汚膜3との密着性を十分に確保できる。また、本実施形態の防汚部材1は、防汚膜3がフッ素フィルムのような他の防汚膜とは違い、油性汚れが染みこみ難いという特徴を有している。そのため、長期間放置後も黄ばみ汚れが付き難いという効果も有する。
【0046】
更に、図2を用いて上述の作用効果について詳しく説明する。
【0047】
図2に示すように、基体2の中ではPP分子(図2に図示せず)と酸変性PP分子12とが分子レベル(分子鎖レベル)で絡み合うように混ざり合わされている状態になっていると本発明者らは推察している。
【0048】
そして、防汚膜3は、シリコーン成分を含むアクリル系塗料、シリコーン成分を含むウレタン系塗料、又は、これら二種類の塗料の混合塗料を乾燥させることで形成される。
【0049】
この乾燥の過程において、防汚膜3の骨格を構成する高分子15が、基体2表面で酸変性PP分子12と化学反応し、強固に密着するようになると本発明者らは推察している。このため、基体2と防汚膜3とは強い密着性を有することができると本発明者らは推察している。また、シリコーン成分16の多くが、塗料の乾燥時に防汚膜3表面近傍に移動して固定されると推察され、そのため防汚効果を発揮すると本発明者らは推察している。
【0050】
なお、防汚膜3の骨格を構成する高分子15としては、例えば、ポリアクリルニトリル、ポリウレタンがあげられる。
【0051】
なお、酸変性PPの代わりに安価な塩素化ポリプロピレン(以下、塩素化PPと記載)を用いても同様の効果が得られる場合がある。しかし、その場合、塩素が脱離して周りの金属などを腐食させる可能性がある。そのため、腐食されやすいものがある環境下で防汚部材1を使用する場合、酸変性PPを基体2に含有させることが適している。
【0052】
ここで、本発明における「防汚部材の防汚性」とは、防汚部材の表面が有する以下の性質(特性)をいう。すなわち、本発明における「防汚部材の防汚性」とは、水、アルコール、油、有機溶剤などに固形物(乾燥汚れのもと)が溶解もしくは分散している流体に防汚部材の表面が接触しても固形物(乾燥汚れのもと)が付着しにくくなる性質をいう。また、本発明における「防汚部材の防汚性」とは、上記の汚れが防汚部材の表面に一度付着しても容易に除去されやすい性質をいう。更に、本発明における「防汚部材の防汚性」とは、上記流体が乾燥することで、防汚部材の表面に析出した上記固形物(乾燥汚れ)を除去しやすくなる性質をいう。
【0053】
このような「汚れ」としては、コーヒー、お茶、味噌汁、油、醤油、ドレッシング、野菜汁、果汁などの食品由来の汚れ、マジック、ペンキなどの汚れ、又は、糞便、尿の汚れなどの汚れが挙げられる。本発明の防汚部材はこれらの汚れに対して高い防汚効果を発揮し、特に乾燥汚れを乾拭きで拭き取る場合に高い防汚効果を発揮する。
【0054】
防汚の原理は、シリコーン成分有する撥水性、撥油性を利用している。シリコーン成分は撥水・撥油性を有しており、水、アルコール、油、有機溶剤などをはじくため、汚れが付着しにくくなり、また、この汚れが付着した場合であっても当該汚れを除去しやすい。
また、汚れを含む流体が乾燥し上記固形分が汚れとして付着したものは、この固形分が無機化合物の場合、撥水性である防汚膜3と固形分(汚れ)との結合力が小さくなり除去しやすくなる。また、この固形分が有機化合物の場合、撥油性である防汚膜3と固形分(汚れ)との結合力が小さくなり除去しやすくなる。
【0055】
ここで、シリコーン成分を含むアクリル系塗料又はシリコーン成分を含むウレタン系塗料の代わりにフッ素成分を含むアクリル系塗料又はフッ素成分を含むウレタン系塗料を用いると、シリコーン成分を含むアクリル系塗料又はシリコーン成分を含むウレタン系塗料より防汚性が向上することは公知である。しかしながら、入手の容易さの観点からは、フッ素成分を含むアクリル系塗料又はフッ素成分を含むウレタン系塗料よりも、シリコーン成分を含むアクリル系塗料又はシリコーン成分を含むウレタン系塗の方が実用的である。そのため、本実施形態の防汚部材1における防汚膜3(本発明の防汚部材における防汚膜)の構成成分としてシリコーン成分を含むアクリル系塗料又はシリコーン成分を含むウレタン系塗料を採用している。
【0056】
次に、本実施形態の防汚部材1の製造方法の一例について説明する。
まず、基体2の製造工程について説明する。
【0057】
まず、PPと酸変性PPとを混練する(混練工程)。この混練方法は特に限定されず公知の樹脂材料の混練方法を用いて行うことができる。例えば、二軸の押出し機に酸変性PPペレットとPPペレットを所定量投入し、酸変性PP含有PPペレットを作製することができる。ここで、酸変性PP含有PPペレット中の酸変性PPの濃度が1〜50質量%となるようにPPと酸変性PPとの投入量を調整することが好ましい。この酸変性PPの濃度が1質量%以上であると、得られる防汚部材1における基体2と防汚膜3との密着性をより確実に得ることができるようになるので好ましい。またこの酸変性PPの濃度が50質量%以下であると酸変性PPが含まれることによる基体2の着色化をより十分かつより確実に防止しやすくなる点で好ましい。更に、酸変性PPの含有量が50質量%以下であると酸変性PPが含まれることによる基体2の機械的強度(剛性と耐衝撃性)の低下をより十分かつより確実に防止しやすくなる点で好ましい。
【0058】
また、この混練工程においては、酸変性PPの含有量が50質量%を超えるマスターバッチを調製しても、最終的に得られる基体2の酸変性PPの含有量が50質量%以下であればよい。ただし、マスターバッチでなくコンパウンドを調製してからこのコンパウンドを成形して基体2を製造する場合には、当該コンパウンド中の酸変性PPの含有量は50質量%以下であることが好ましい。
【0059】
またこの工程において、酸変性PPは、その分子量や変性率、PPを変性させるために用いた酸(例えばカルボン酸)の種類、変性前のPPのグレード(種類、純度)などによってその化学的特性及び物理的が変化する。そのため、使用する酸変性PPの種類に応じて、得られる防汚部材1における基体2と防汚膜3との密着性や、基体2の機械的強度(剛性と耐衝撃性)が変化することとなる。ゆえに、使用環境に適した防汚部材1を得る観点から、PPと酸変性PPとの配合比のみならず、使用する酸変性PPの種類も考慮することが重要である。
【0060】
次に、混練工程で得られた酸変性PP含有PPペレット(マスターバッチあるいはコンパウンド)を成形する(成形工程)。成形工程における成形方法は、公知の樹脂の成形方法を採用することができる。例えば、射出成形機を用いて酸変性PP含有PPペレットを成形することができる。
【0061】
次に、基体2に、シリコーン成分を含むアクリル系塗料およびシリコーン成分を含むウ
レタン系塗料からなる群より選択される少なくとも一種の塗料を塗布する(塗料塗布工程)。次に、この塗料に含まれる有機溶剤を蒸発乾燥させる。なお、抗菌剤を添加する場合は、予め塗料に混ぜておけばよい。
【0062】
塗料塗布工程での塗料の塗布方法は特に限定されるものではなく、塗料の樹脂への塗布の公知の方法を採用することができる。例えば、ディップ、スプレー、スピンコーター、スクリーン印刷、ローラー塗り、ハケ塗りなどが可能で、特に限定されるものではない。その後、シリコーン成分を防汚膜3の表面近傍に移動して固定させるために熱処理を行う(熱処理工程)。熱処理条件は、使用する塗料の種類によって異なる。例えば、短時間で熱処理を行う観点から、シリコーン成分を含むアクリル系塗料やシリコーン成分を含むウレタン系塗料および基体2の耐熱温度の上限近傍の100℃程度の温度で1〜2時間程度が好ましい。このとき同時に、防汚膜の骨格を構成する高分子15と酸変性PP分子12との反応も進み、基体2と防汚膜3との密着力が向上すると考えられる。
【0063】
防汚膜3の膜厚は100μm以下になるよう塗料の塗布量を調整することが好ましく、1μm〜30μmになるよう調整することがより好ましい。防汚膜3の膜厚を1〜100μmとすることで、基体2と防汚膜3との高い密着力をより確実に実現できる。
<便座の第1実施形態>
次に、本発明の便座の第1実施形態(本発明の防汚部材の第1実施形態を用いて構成した便座)について説明する。
【0064】
図3は、先に述べた本発明の防汚部材の第1実施形態(防汚部材1)を用いて構成した本発明の便座の第1実施形態を搭載した洋式トイレの斜視図である。
【0065】
以下、図3に示す便座21について説明する。なお、上述の図1に示した防汚部材に関して説明した要素と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。洋式トイレ20は、用便用の開口部を有する便器22、この便器22の開口部の上に配置されており用便時に使用者が座るための環状の便座21、便座21に回動自在に軸支されており不使用時には便座21の上から便器22の開口部を覆い使用時には当該開口部を開放するための便蓋23等から構成されている。
【0066】
なお、便器22上部に設置される便座21は温水洗浄便座であっても良い。その場合、水道から洗浄水の供給を受けるための給水配管(図示せず)および壁面のコンセントから電源供給を受けるための電気ケーブル(図示せず)が備えてある。
【0067】
便座21は、図1及び図2に示した防汚部材1(本発明の防汚部材の第1実施形態)で構成されている。便座21は、座る人の荷重に耐えたり、酸・アルカリ・アルコール等を含むトイレ用洗剤に耐えたりできるよう、PPを主成分とする基体を採用することが多い。そのため、本発明に係る防汚部材1で構成することは非常に好ましい。
【0068】
次に、防汚性の効果について記述する。使用者が便座21に座り、小便あるいは大便を行うと、その跳ね返りが便座21の表面に付着する。また、温水洗浄便座の場合、大便の後、お尻を洗浄することにより、便を含んだ温水が便座21の表面に付着する。しかしながら、本発明に係る防汚部材1から構成される便座21は、これらの汚れが着きにくい。
【0069】
また、本発明に係る防汚部材1から構成される便座21は、これらの汚れが付いた場合であっても汚れが濡れて広がりにくい状態となる。この状態の汚れはトイレットペーパーで容易に拭き取ることが可能となる。
【0070】
また、実使用上、便器22の開口部に面している便座21の表面は使用者が外観しただ
けでは見えにくい。そのため、上述のような便座21の表面に付着した汚れが放置されて乾燥し便座21の表面に固着してしまうことがある。
【0071】
しかし、このような場合であっても、本発明に係る防汚部材1から構成される便座21では、防汚膜3の効果により、トイレットペーパーによる乾拭きや濡れゾウキン等により拭くことで簡単に取り除くことができる。
【0072】
さらには、防汚膜3の効果により、油脂成分の染み込みがなく、便座21が黄ばむのを防ぐことができる。また、一般的な便座表面は、使用者が使用前にトイレットペーパーで拭いたり、ベルトなどが当たったりするため傷が付きやすい。しかし、本発明に係る防汚部材1から構成される便座21では、防汚膜3はシリコーン成分を含んでいるので硬度がPPのみから構成される便座21より硬いので、便座21の傷付きをより十分に防ぐことができる。そのため、本発明に係る防汚部材1から構成される便座21では、便座21表面の傷に汚れが入り込むことが十分に防止されるので、汚れが付きにくくできる。また、本発明に係る防汚部材1から構成される便座21では、仮に汚れが付いた場合であっても除去しやすくできる。
【0073】
なお、防汚膜3に抗菌剤を含有させることにより、優れた抗菌性と優れた防汚性をあわせ持つ便座21を実現することも容易にできる。
また、この第1実施形態の防汚部材1及び第1実施形態の便座21では洋式トイレの便座に採用される場合について説明したが、本発明の防汚部材及び本発明の便座はこれらに限定されるものではない。
【0074】
本発明の防汚部材1は、温水洗浄便座本体(図示なし)、便器22、便蓋23、温水洗浄便座を制御するリモコン(図示なし)、洗浄水を噴射するノズル(図示なし)にもこれらの表面の防汚性を向上させるために採用することができる。
【0075】
特に本発明の防汚部材は、洗浄水を人体の被洗浄面に噴射するノズルを有する便座の当該ノズルに適用してもよい。一般に、このようなノズルは、表面に付着した汚れを除去するような人為的なメンテナンスを行うことが困難とされているが、本発明の防汚部材をその表面に適用したノズルは、使用後に毎回ノズルの表面に付着した汚れを少ない水流により洗浄することが可能となり、優れた清潔性を有することとなる。
<家電筐体の第1実施形態>
次に、本発明の家電筐体の第1実施形態(本発明の防汚部材の第1実施形態を用いて構成した家電筐体)について説明する。
【0076】
本発明の家電筐体の第1実施形態(図示せず)は、従来公知の家電製品を構成する家電筐体を図1及び図2に示した防汚部材1を用いて構成するものである。
【0077】
家電製品として上記防汚部材1を用いて構成されていればよく特に限定されない。家電製品としては、例えば、炊飯器、ジャーポットなどが挙げられる。防汚部材1を用いて構成された炊飯器、ジャーポットは、防汚部材1を用いて構成されているので、コーヒー、お茶、味噌汁など食品由来の汚れが付きにくく、また、食品由来の汚れが付いた場合であっても除去しやすい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の防汚部材について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
以下の手順で、基体を製造した。まず、PPと酸変性PPとを混練した(混練工程)。
ここで、酸変性PPとしては三洋化成工業社製の酸変性PP「商品名:ユーメックス(品番:1010)」を用いた。また、PPとしてはプライムポリマー社製のPP「商品名:プライムポリプロ(品番:J−882HV)」を用いた。具体的には、二軸の押出し機に酸変性PPのペレットとPPのペレットを投入し、酸変性PP含有PPペレットを作製した。
【0079】
このとき、酸変性PPの添加量は酸変性PP含有PPペレット中の酸変性PPの割合が10質量%となるように調節した。
【0080】
次に、混練工程で得られた酸変性PP含有PPペレットを射出成形機を用いて成形した(成形工程)。得られた基体は、厚さ3mm、大きさが5cm×10cmであった。
【0081】
このように作製した基体の表面に、2液型のアクリルシリコーン系塗料をスプレーで塗布した(塗料塗布工程)。ここで、2液型のアクリルシリコーン系塗料としては川上塗料社製の落書き防止塗料「商品名:ケシゾー」を用いた。
【0082】
次に、塗料を塗布した基体について、乾燥、熱処理を行った(熱処理工程)。具体的には、100℃の恒温槽の中に当該基体を入れ、60分間保持し、厚さ20μmの防汚膜を形成し、防汚部材を完成させた。
(実施例2)
酸変性PPの添加量を、酸変性PP含有PPペレット中の酸変性PPの割合が1質量%となるように調節したこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚部材を作製した。
(実施例3)
酸変性PPの添加量を、酸変性PP含有PPペレット中の酸変性PPの割合が50質量%となるように調節したこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚部材を作製した。
(実施例4)
酸変性PPの添加量を、酸変性PP含有PPペレット中の酸変性PPの割合が0.5質量%となるように調節したこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚部材を作製した。
(実施例5)
酸変性PPの添加量を、酸変性PP含有PPペレット中の酸変性PPの割合が70質量%となるように調節したこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚部材を作製した。
(比較例1)
酸変性PPを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚部材を作製した。
(比較例2)
プライムポリマー社製のPP「商品名:プライムポリプロ(品番:J−882HV)」を射出成形機を用いて、厚さ3mm、大きさが5cm×10cmの基体を作製した。基体表面には防汚膜を形成させなかった。
[密着性試験1]
以下の手順により密着性試験を行い、実施例1〜5、比較例1の防汚部材における基体と防汚膜との密着性を評価した。また、同時に実施例1〜5、比較例1の防汚部材の外観を目視観察し、着色化の様子を読み取った。
【0083】
密着性試験は、JIS−K5400準拠の100マス碁盤目試験を行った。まず、防汚膜にカッターを用いて基体に達する1×1mm四方の碁盤目の切り傷を入れた。なお、碁盤目の数は100マスとした。
【0084】
次に、碁盤目を入れた箇所に約50mmの長さのセロハンテープを強く圧着させ、テープの端を90°の角度で急速に引き剥がし、碁盤目の状態を目視観察した。そして、剥がれているマス目を数えた。
【0085】
これらの結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係る実施例1〜5の防汚部材は、比較例1の防汚部材よりも優れた基体と防汚膜との密着性を有していることが確認された。特に、酸変性PP含有PPペレット中の酸変性PPの割合が1〜50質量%の範囲にある実施例1〜3の防汚部材は基体と防汚膜との密着性が更に高いことが確認された。また、実施例4の防汚部材の結果から、酸変性PPを僅かにでも基体に含有させることが極めて有効であることが確認された。
【0088】
なお、実施例3及び実施例4の防汚部材には、基体にやや着色が見られたが、これについては、調色処理を行うことにより希望する色に着色可能である。
[防汚性試験1]
以下の手順により防汚性試験を行い、実施例1の防汚部材、比較例2の防汚膜のない基体の防汚性を評価した。
【0089】
まず、各種防汚部材表面に、寺西化学工業社製の黒色の油性マジック「商品名:マジックインキ(品番:No.500)」で線を描き、そのはじき具合を目視観察した。次に、室温雰囲気下に1分間放置することで乾燥させ、ティッシュペーパーを用いて拭き取りを行い、拭き取り具合を目視観察した。なお、拭き取る際にかける荷重は1kgとした。
そして、防汚性結果は、油性マジックをはじかず、拭き取りも不可能な場合は「0」、油性マジックをはじき、拭き取りも可能な場合は「1」とした。
【0090】
これらの結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
表2に示した結果から明らかなように、PPが主成分の基体にシリコーン成分を含むアクリル系塗料を用いて形成した防汚膜を有する本発明に係る実施例1の防汚部材は、優れた防汚性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように、本発明の防汚部材は、防汚膜の基体の主成分がPPである場合であっても、基体と防汚膜との密着性を十分に確保でき、優れた防汚性を有する家電製品(例えば、便座、炊飯器、電気湯沸かし器)の筐体として利用することができる。また、本発明の防汚部材は、家電製品以外にも、優れた防汚性を必要とする製品に利用することができ、バンパーなどの自動車用部品、船舶、港湾施設、パイプライン、橋梁などの水中構造物の表面に防汚性を付与するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の防汚部材の第1実施形態の基本構成を示す模式断面図
【図2】図1のRの部分の拡大図
【図3】本発明の防汚部材の第1実施形態(防汚部材1)を用いて構成した本発明の便座の第1実施形態を搭載した洋式トイレの斜視図
【符号の説明】
【0095】
1 防汚部材
2 基体
3 防汚膜
12 酸変性ポリプロピレン樹脂
15 防汚膜3の骨格を構成する高分子15
16 シリコーン成分
20 洋式トイレ
21 便座
22 便器
23 便蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂と、酸変性ポリプロピレン樹脂とを構成成分として含む基体と、
前記基体の表面上に配置されており、シリコーン成分を含むアクリル系塗料およびシリコーン成分を含むウレタン系塗料からなる群より選択される少なくとも一種の塗料を構成成分として含む防汚膜と、
を有する防汚部材。
【請求項2】
前記酸変性ポリプロピレン樹脂は無水カルボン酸変性ポリプロピレン樹脂である請求項1に記載の防汚部材。
【請求項3】
前記防汚膜に抗菌剤がさらに含まれている請求項1または2に記載の防汚部材。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の防汚部材を含んで形成されている家電筐体。
【請求項5】
請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の防汚部材を含んで形成されている便座。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−121022(P2010−121022A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295236(P2008−295236)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】