説明

防炎性繊維、防炎性繊維製品及び防炎性膜、並びにその製造方法

【課題】 耐久性に富み、元来の繊維材料の機械的特性を劣化させない防炎性繊維及び防炎性繊維製品、並びにその製造方法を提供すること。
【解決手段】 家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質繊維、羊毛繊維、ケラチン繊維、並びにコラーゲン繊維から選ばれた少なくとも1種の動物タンパク質繊維、又はその繊維製品を、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防炎性繊維、防炎性繊維製品及び防炎性膜、並びにその製造方法に関し、更に詳しくは、リン酸基を持つビニル化合物でグラフト加工した耐久性に富む防炎性繊維、防炎性繊維製品及び防炎性膜、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防炎加工は、繊維に火炎を接触させ、これを遠ざけるときに、繊維が自ら炎を発しながら燃え続けることが無いように、あるいは余燼(glow)が残り続けないようにするための技術手法である。繊維の防炎加工は主としてセルロースを対象に研究が進んできた。従来の防炎加工に用いた試薬はリン酸化合物が中心であり、リン酸化合物を繊維の表面に付着させたり、試料内部に充填させたりすることで繊維に防炎機能を持たせることが有効であるとされていた。こうした目的で使用する防炎加工試薬には、リン酸塩、リン酸基が含まれるため、リン酸基等を効率よく経済的に繊維に導入することができれば、優れた防炎機能を持つ繊維素材が製造できることになる可能性がある。
【0003】
(1)絹糸について:
絹糸の機能特性を向上させる加工手法にグラフト加工があり、ビニル化合物のようなグラフトモノマーによるグラフト加工で、絹の機能特性を改変すること(例えば、塩縮繊維等)が知られている(例えば、特許文献1参照)。化学修飾加工でタンパク質繊維表面に撥水性機能を持たせたり(例えば、非特許文献1参照)、カチオン性染料により染色性を向上させたり(例えば、非特許文献2参照)する研究も知られている。グラフト加工モノマーの特性を効率よく活用すれば絹糸等の種々の機能が改善できる。例えば、界面活性剤、重合開始剤及びグラフトモノマーを含んだグラフト加工溶液に絹繊維を入れ、所定温度で加熱することによりグラフト加工が可能となる。本発明者らによる予備実験の結果、例えば、リン酸基を持つホスマー(Phosmer)と呼ばれるモノマーで絹糸をグラフト加工することにより繊維内でホスマーが重合し、リン酸基が繊維内部に確実に導入できるので、耐久性に優れた防炎素材を製造できるものと期待できることが分かった。
【0004】
防炎機能を持つ繊維を製造する際には、製造された繊維は防炎性の持続的な効果を持つものであることが強く求められる。燐酸とリン酸アンモニウムとを併用してセルロース系織維の防炎性を向上させる技術が知られている。この場合、防炎機能の持続性を高めるには、対象繊維素材とこれらの加工薬剤との間に直接的な結合を発生させる必要があり、そのためには繊維素材を高温処理する必要があった。この反応には高い温度と長い時間をかけるため、繊維素材の劣化は避けられないという問題と共に、反応過程で未反応試薬が試料に残るという問題もあった。そのため、この技術を絹糸に適用するには問題があった。
【0005】
また、セルロース系繊維材料への耐久性防炎加工法として、テトラキスヒドロキシメチルホスホニウム塩1モルと尿素0.2〜3.0モルとの反応物(固形分として)100重量部に、水溶性メチルホスホン酸エステル誘導体5〜100重量部を配合した加工液を用いる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、ハロゲンを含まない、合成樹脂エマルジョン又は合成樹脂溶液100重量部(固形分)に、水に不溶ないし難溶性で、かつ粒径が50μm以下の縮合リン酸アンモニウム、縮合リン酸メラミン、縮合リン酸アミドアンモニウムから選ばれた1種以上の縮合リン酸化合物5〜100重量部を混合して得られる加工液を、繊維製品に対して固形分で3〜100%付着させる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
上記従来の方法で、防炎性素材を製造するには、化学的な技能と手法を熟知する必要があり、経験が必要である。また、防炎性試薬が素材表面に付着させる処理に基づいて実施されるため、素材の特性が失われ易いという問題があった。処理程度が高まると対象繊維の損傷が大きくなることが実用上の問題となっていた。
【0008】
(2)羊毛について:
羊毛はオルソコルテックス、パラコルテックス、スケールなどの成分を有し、絹糸とは全く異なる特徴を有する。毛織物は、羊やアンゴラ・アルパカ・ラクダの毛を連続繊維となるように紡績して製造した繊維を織った布である。羊毛は、短繊維を紡績したものであるため、繊維の体積の約60%もの多量の空気を含むので、冬の衣料材料として尊重されている。羊毛構成分子には、「窒素」含量が多く、それが原因で発火温度が高いため、着火しても羊毛製品の先が炭化するだけで、それ以上は燃え広がらないという優れた特徴を有する。
【0009】
年間の火災件数は約6万件にのぼり、およそ2,000人の尊い命が犠牲者となっている(消防白書)。燃えやすいものを防炎加工することにより、万一出火しても火の回りが抑制できる素材であれば、着火した後、避難する時間が確保され、逃げ遅れによる事故が防止できる。防炎機能を補償するための表示として、インテリアのカーペットには、「防炎マーク」と呼ぶ日本防炎協会の定める防炎性能試験に合格した製品の品質の保証書が添付されており、防炎機能を持つ素材への関心が高いことが理解できる。
【0010】
簡易の防炎加工方法としては、防炎試薬をスプレーする手法もあるが、耐久性の点で完璧ではなく、更に耐久性に優れた防炎性の羊毛を製造するための技術開発が望まれている。
【0011】
(3)柞蚕について:
柞蚕は、ヤママユ蛾に属する野蚕(野生のカイコ)の一種であり、柞蚕は、櫟・樫などの葉を食べて育ち、体色だけでも黄色いものや青いものなど、様々な種類の柞蚕が飼育されている。その繭の生産量は、気象にも左右され、蚕は蚕病にかかり易い。柞蚕は、一粒の繭から採取できる糸の量が家蚕の半分以下である。柞蚕は、中国原産の野蚕であり、明治初年日本に輸入された。柞蚕絹糸は、野蚕絹糸がもつ独特の色艶を有する他に、ヤママユガ科のみに見られる多孔性を有する繭糸(生糸は緻密性繭糸)である。多孔性であるため、繊維の中に空気を取り込むことができ、保温・保湿性に優れている。紫外線やエックス線など波長の長い光線を反射吸収する機能がある。
【0012】
野蚕絹糸も家蚕絹糸と同様にタンパク質から構成され、フィブロインとセリシンの二重構造から成っているが、構成しているアミノ酸組成は、家蚕絹糸はグリシンが多いのに比べ、野蚕絹糸はアラニンが主体となっている。また、野蚕絹糸のセリシンは、石灰分、タンニン分、樹脂分等を多く含んでいるため、アルカリ液に溶解しにくい特徴を有する。
【0013】
野蚕絹糸は、タンパク質から成るとは言っても、家蚕絹糸とは異なる組成と構造とを有するため性質は全く異なる。野蚕絹糸は、家蚕絹糸と比べて、引張り強度や弾性に劣り、しなやかさも劣り、加熱による縮みがあり、節も多く、抱合不良も多く、糸むらも大きい等といった短所がある。綺麗な糸、しなやかな糸としての品質は家蚕絹糸の方が圧倒的に上である。
【0014】
しかし、天然素材がブームの現在では、野蚕絹糸には、家蚕絹糸にない素朴さ、糸の堅さ、軽さ、染色時の斑、独特の光沢等の特徴があることから、また、野生味に富んだナチュラル感を有することから、野蚕絹糸が好まれる場合がある。
【0015】
羊毛、家蚕由来の絹糸や柞蚕、天産、ヒマ蚕等の野蚕由来の絹糸は、熱水処理し、乾燥する過程で試料長が収縮する等の問題を含んでおり、寸法安定性の低いことが実用上の問題であった。こうしたタンパク質繊維に防炎加工をするには、処理温度をいかに低く制御しながら防炎加工をするかが重要な課題であった。従って、繊維素材の特性を劣化させることが無いように、低温度で防炎処理が可能な防炎機能を持つ繊維素材の製造方法の出現が強く求められていた。
【0016】
(4)コラーゲンについて:
コラーゲンは、絹糸と同様に、タンパク質から構成され、ヒトの皮膚、筋肉・内臓・骨・関節・髪等の組織に含まれている。コラーゲンは、タンパク質であるため、多数のアミノ酸が結合したものである。このようなコラーゲンとしては繊維状又は膜状のコラーゲンがあるが、この繊維状又は膜状のコラーゲンに対しても防炎機能を付与することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2003−227064号公報
【特許文献2】特開平6−101176号公報
【特許文献3】特開平6−101176号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】T. Arai, G. Freddi, R. Innocenti, D.L. Kaplan, M. Tsukada, Acylation of silk and wool with acid anhydrides and preparation of water-repellent fibers. Journal of Applied Polymer Science, Vol. 82, 2832-2841 (2001)
【非特許文献2】G. Freddi, M. Tsukada, H. Katoh, H. Shiozaki, Dyeability of silk fabrics modified with dibasic acid anhydrides, Journal of Applied Polymer Science, Vol. 52, 769-773 (1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、上記従来技術の問題を解決するものであり、リン酸基を含むビニル化合物でグラフト加工してなる耐久性に富み、しかも、元来の素材の機械的特性を劣化させることなく、防炎機能を付与した防炎性繊維、防炎性繊維製品及び防炎性膜、並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、天然タンパク質の実用機能を向上させるためには、グラフト加工が有効であることに着目し、多用な側鎖を持つ各種グラフトモノマーを用いて各種繊維素材をグラフト加工することで新しい機能特性を繊維素材に付与するための基礎研究を進めてきた。
【0021】
特に、天然タンパク質繊維に本来備わっていない防炎機能を付与するための基礎研究を鋭意進めてきた中で、リン酸基を含むモノマーとして、リン酸基を含む各種ビニル化合物を用いて天然タンパク質繊維にグラフト加工することにより、このリン酸基を持つビニル化合物を繊維内で重合させ、多くのリン酸基を繊維内に導入することが可能となることに気が付いた。その結果、グラフト化された繊維素材が、耐久性に富むと共に、加工後も加工前と同等の機械的特性を保持し、かつ表面状態も変わらず、しかもその防炎機能が飛躍的に向上することを見出して、上記従来技術の問題を解消し、本発明を完成させるに至った。
【0022】
本発明の防炎性繊維又は繊維製品は、家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質繊維、羊毛繊維、ケラチン繊維、並びにコラーゲン繊維から選ばれた少なくとも1種の動物タンパク質繊維、又はその繊維製品を、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工してなることを特徴とする。
【0023】
上記したように、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工することにより、耐久性に富むと共に、加工後も加工前と同等の機械的特性を保持し、しかもその防炎機能が飛躍的に向上した防炎性動物タンパク質繊維又は繊維製品を提供できる。動物タンパク質繊維及びその繊維製品の表面には、このグラフト加工用モノマーの重合物に基づく付着物や析出物は認められず、その表面は平滑である。グラフト化剤が繊維や繊維製品の内部に入り込んで重合し、内部にグラフト重合物が存在しており、グラフト加工後もその外見上の形態変化は起こらない。
【0024】
本発明の防炎性膜は、家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質膜、並びにコラーゲン膜から選ばれた少なくとも1種の膜を、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工してなることを特徴とする。
【0025】
上記したように、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工することにより、耐久性に富むと共に、加工後も加工前と同等の機械的特性を保持し、しかもその防炎機能が飛躍的に向上した防炎性膜を提供できる。この膜の表面には、このグラフト加工用モノマーの重合物に基づく付着物や析出物は認められず、その表面は平滑である。グラフト化剤が膜内部に入り込んで重合し、内部にグラフト重合物が存在しており、グラフト加工後もその外見上の形態変化は起こらない。
【0026】
本発明の防炎性繊維又は繊維製品の製造方法は、家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質繊維、羊毛繊維、ケラチン繊維、並びにコラーゲン繊維から選ばれた少なくとも1種の動物タンパク質繊維、又はその繊維製品に対して、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤を作用させ、グラフト加工された防炎性を有する防炎性繊維又は繊維製品を製造することを特徴とする。
【0027】
本発明の防炎性膜の製造方法は、家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質膜、並びにコラーゲン膜から選ばれた少なくとも1種の膜に対して、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤を作用させ、グラフト加工された防炎性を有する膜を製造することを特徴とする。
【0028】
防炎性繊維、防炎性繊維製品、及び防炎性膜は、上記したように、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工することにより製造するため、製造物は、耐久性に富むと共に、加工後も加工前と同等の機械的特性を保持し、しかもその防炎機能が飛躍的に向上したものである。この製造物の表面には、グラフト加工用モノマーの重合物に基づく付着物や析出物は認められず、その表面は平滑である。グラフト化剤が製造物の内部に入り込んで重合し、内部にグラフト重合物が存在しており、グラフト加工後もその外見上の形態変化は起こらない。
【0029】
前記メタアクリル酸誘導体が、ホスマーM、M’、CL、及びCL’から選ばれた少なくとも1種であり、また、前記アクリル酸誘導体が、ホスマーMに対応するアシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート及びホスマーCLに対応する3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、繊維素材をグラフト加工するためのグラフトモノマーであるリン酸基を含むグラフト加工用モノマーとしてホスマーを用い、グラフト加工中に、繊維素材中でこのホフマーが重合し、繊維素材内に充填されるので、リン酸基は安定して繊維素材中に存在し、その結果、グラフト加工した繊維素材は優れた防炎機能を発揮し、しかも、グラフト加工した繊維素材の機械的特性は未加工時の特性を維持しており、劣化することはなく、未加工時の特性を大幅に低下させることはないという効果を奏することができる。また、本発明によれば、防炎性膜に関しても同じような効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例2で得られたグラフト加工した家蚕絹糸の機械的特性を未加工家蚕絹糸の場合と比較して示すグラフ。
【図2】実施例3で得られたグラフト加工した家蚕絹糸のDSC曲線を未加工家蚕絹糸の場合と比較して示すグラフ。
【図3】実施例4で得られたグラフト加工した家蚕絹糸の表面のSEM像。
【図4】実施例21で得られたグラフト加工した家蚕絹糸の燃焼後の写真画像。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る防炎性繊維、防炎性繊維製品及びその製造方法、並びに防炎性膜及びその製造方法の実施の形態を説明した後、その構成要件について説明する。
【0033】
本発明に係る防炎性繊維又は繊維製品の実施の形態によれば、その防炎性繊維又は繊維製品は、家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質繊維、羊毛繊維、ケラチン繊維、並びにコラーゲン繊維から選ばれた少なくとも1種の動物タンパク質繊維、又はその繊維製品を、リン酸基を含むメタアクリル酸誘導体であるホスマーM、M’、CL、及びCL’、並びにリン酸基を含むアクリル酸誘導体である、ホスマーMに対応するアシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート及びホスマーCLに対応する3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレートから選ばれた少なくとも1種を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工してなるものである。
【0034】
本発明に係る防炎性繊維又は繊維製品の製造方法の実施の形態によれば、家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質繊維、羊毛繊維、ケラチン繊維、並びにコラーゲン繊維から選ばれた少なくとも1種の動物タンパク質繊維、又はその繊維製品に対して、リン酸基を含むメタアクリル酸誘導体であるホスマーM、M’、CL、及びCL’、並びにリン酸基を含むアクリル酸誘導体である、ホスマーMに対応するアシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート及びホスマーCLに対応する3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレートから選ばれた少なくとも1種を有効成分とするグラフト化剤を作用させ、グラフト加工された防炎性を有する防炎性繊維又は繊維製品を製造するものである。
【0035】
本発明に係る防炎性膜の実施の形態によれば、その防炎性膜は、家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質膜、並びにコラーゲン膜から選ばれた少なくとも1種の膜を、リン酸基を含むメタアクリル酸誘導体であるホスマーM、M’、CL、及びCL’、並びにリン酸基を含むアクリル酸誘導体である、ホスマーMに対応するアシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート及びホスマーCLに対応する3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレートから選ばれた少なくとも1種を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工してなるものである。
【0036】
本発明の防炎性膜の製造方法の実施の形態によれば、家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質膜、並びにコラーゲン膜から選ばれた少なくとも1種の膜に対して、リン酸基を含むメタアクリル酸誘導体であるホスマーM、M’、CL、及びCL’、並びにリン酸基を含むアクリル酸誘導体である、ホスマーMに対応するアシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート及びホスマーCLに対応する3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレートから選ばれた少なくとも1種を有効成分とするグラフト化剤を作用させ、グラフト加工された防炎性を有する膜を製造するものである。
【0037】
本発明で使用可能なグラフト化剤は、例えばホスマーであり、このホスマーはアシッド・ホスホキシ・メタアクリレートの総称である。例えば、下記のホスマーが含まれ、例えばユニケミカル株式会社から入手できる。
(1)アシッド・ホスホキシ・メタアクリレートは以下の構造式を有する。
【0038】
【化1】

(2)ホスマーM(アシッド・ホスホキシ・エチルメタクリレート(Acid phosphoxy ethyl methacrylate))は以下の構造式を有する。なお、本発明では、このホスマーMのアミン塩をホスマーM’とする。
【0039】
【化2】

(3)ホスマーPE(アシッド・ホスホキシ・ポリエチレングリコール・モノメタクリレート(Acid phosphoxy polyethylene glycol mono-methacrylate))は、以下の構造式を有する。
【0040】
【化3】

(4)ホスマーMH(メタクロイル・オキシエチル・アシッド・ホスフェイト・モノエタノールアミン・ハーフ塩(methacroyl oxyethyl acid phosphate mono-ethanol-amine half salt) は、以下の構造式を有する。
【0041】
【化4】

(5)ホスマーCL(3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルメタクリレート(3-chrolo-2-acid phosphoxy propyl-methacrylate))は、以下の構造式を有する。なお、本発明では、このホスマーCLのアミン塩をホスマーCL’とする。
【0042】
【化5】

(6)ホスマーPP(アシッド・ホスホキシ・ポリオキシ・プロピレングリコール・モノメタクリレート(Acid phosphoxy polyoxy propylene glycol mono-methacrylate))は、以下の構造式を有する。
【0043】
【化6】

(7)ホスマーPEH(上記ホスマーPEのアミン塩)は、以下の構造式を有する。
【0044】
【化7】

(8)ホスマーPPH(上記ホスマーPPのアミン塩)は、以下の構造式を有する。
【0045】
【化8】

上記ホスマーの理化学特性を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
上記したホスマーは、メタアクリル酸誘導体であるが、本発明では、対応するアクリル酸誘導体もグラフト化剤として使用できる。一般的には、アクリル酸誘導体よりメタアクリル酸誘導体の方がグラフト反応性は高いため、実用的な視点からは、メタアクリル酸誘導体を使用した方が好ましい。
【0048】
本発明で使用できるアクリル酸誘導体としては、例えば、アシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート(Acid phosphoxy ethyl acrylate)、アシッド・ホスホキシ・ポリエチレングリコール・モノアクリレート (Acid phosphoxy ethylene glycol mono-acrylate)、3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレート(3-chrolo-2-acid phosphoxy propyl-acrylate)、及びアシッド・ホスホキシ・ポリオキシ・プロピレングリコール・モノアクリレート(acid phosphoxy polyoxy propylene glycol mono-acrylate)等を挙げることができる。このアクリル酸誘導体は、上記メタアクリル酸誘導体を調製する場合のメタアクリル酸をアクリル酸に変えることにより容易に得られる。
【0049】
上記ホスマー等は、リン酸基を含むビニル化合物であり、適切な重合開始剤を用いれば比較的容易に繊維素材をグラフト加工することができる。上記ホスマーの中で繊維素材にグラフト加工させるために最も効率的であり、簡便に利用でき、しかも防炎機能の効果を効率的に与えることが可能なのは、ホスマーM、M’、CL及びCL’である。
【0050】
本発明に係る防炎性繊維又は繊維製品を得るためのグラフト加工対象物として利用できる素材としては、例えば、カイコ由来の絹タンパク質、羊毛繊維、ケラチン繊維、コラーゲン繊維等の天然タンパク質素材を挙げることができる。また、素材の形態は、特に制限はなく、繊維自体、その繊維製品でもよいし、繊維を溶解して製造した膜状素材であってもよい。この繊維製品としては、例えば綿、糸、織物、編み物、不織布等が含まれる。
【0051】
本発明においては、カイコ由来の絹タンパク質として、家蚕由来のものも野蚕由来のものも使用できる。例えば、家蚕由来の絹タンパク質としては、農家が飼育する家蚕(Bombyx mori)、家蚕の近縁種のクワコ幼虫由来の絹タンパク質(家蚕由来の絹繊維として家蚕生糸(繭糸))を利用できる。また、野蚕としては、柞蚕(Antheraea pernyi)、天蚕(Antheraea yamamai)、タサール蚕(Antheraea militta)、ムガ蚕(Antheraea assama)、エリ蚕、シンジュ蚕、ひま蚕の幼虫等由来の絹タンパク質(野蚕由来の絹繊維として野蚕生糸)を利用できる。また、生糸を精練して得られる絹フィブロイン繊維も使用できる。さらに、家蚕及び野蚕に由来する絹繊維、絹繊維製品や、その繊維集合体を利用できる。
【0052】
家蚕繭糸や野蚕繭糸から、家蚕絹糸、野蚕絹糸を製造するには、次の方法で繭糸からセリシンを除去すればよい。繭層を構成する繭糸表面は、膠質のセリシンで覆われており、この繭層から連続的に取り出したものが繭糸であり、複数の繭糸を繰糸工程で繰糸したものが生糸である。絹フィブロイン繊維を得るには、絹セリシンを精練処理により除去すればよい。家蚕繭糸の場合は、例えば、炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液で煮沸処理すると絹セリシンは除去され、絹フィブロイン繊維となる。野蚕繭糸の場合は、例えば、メタケイ酸ナトリウム及び炭酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸のような混合液で加熱処理すると絹セリシンは除去され、絹フィブロイン繊維となる。
【0053】
こうして得た家蚕由来の絹フィブロイン繊維から絹フィブロイン膜を製造する一つの方法は次の通りである。家蚕絹糸から上記したように絹セリシンを除去して調製した絹フィブロイン繊維を、高濃度の塩化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化リチウム等の一般に知られた中性塩水溶液で溶解し、この溶液をセルロース製透析膜を用いて純水と置換することにより絹フィブロイン水溶液を調製できる。絹糸の溶解性を高め、未変性状態に近い絹フィブロインを製造するためには、溶解性の高いリチウムイオンを含む中性塩が望ましく、臭化リチウム等が特に好ましく用いられる。このようにして製造した絹フィブロイン水溶液を、ポリエチレン膜等の基質膜上で、自然状態で穏やかに蒸発させ、乾燥固化せしめることにより、透明度の高い絹フィブロイン膜を得ることができる。こうして製造できる絹フィブロイン膜は水に溶解するので、本発明では、公知の方法に従って水に不溶化させておく必要がある。例えば、絹フィブロイン膜を50%容量のメタノール水溶液等に室温で1分以上浸漬し、試料を取り出し室温で乾燥するという簡単な処理で絹フィブロイン膜を水不溶化することができる。
【0054】
また、野蚕絹糸から野蚕由来の絹フィブロイン膜を製造する一つの方法は次の通りである。柞蚕又は天蚕等から得られる野蚕繭糸を繭糸重量に対して50倍量の0.1%過酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、98℃で1時間処理してセリシンを除去する。セリシンを除去して得た野蚕由来の絹フィブロイン繊維をチオシアン酸リチウム等の溶解性の高い中性塩で溶解し、さらにセルロース製透析膜を用いて純水と置換することにより野蚕絹フィブロイン水溶液を調製できる。このようにして製造した絹フィブロイン水溶液をポリエチレン膜等の基質膜上で乾燥固化させれば、透明度の高い野蚕絹フィブロイン膜を得ることができる。この膜の水不溶化については、家蚕絹フィブロイン膜について上記した通りである。
【0055】
本発明では、家蚕、野蚕等のカイコ由来の絹タンパク質であれば、その種類を問わず利用できる。また、羊毛繊維やケラチン繊維であっても、コラーゲン繊維であっても、さらにはこれらの繊維製品であっても、ホフマー等でグラフト加工することにより同様に利用できる。さらにまた、これらの素材から製造したタンパク質膜やコラーゲン膜でも繊維と同様にホスマー等でグラフト加工することにより所期の目的を達成可能である。
【0056】
リン酸基を含むグラフト化剤であるホスマー等でタンパク質繊維、その繊維製品、及びタンパク質膜等をグラフト加工するためのグラフト加工方法は次のようにして実施できる。
【0057】
グラフト加工溶液は、ホスマー等、界面活性剤、及び重合開始剤からなる。この加工溶液を調製する際に用いられる界面活性剤としては、ホスマー等を溶解できるものであれば特に制限はないが、例えば、(1)ノイゲンHC(第一工業製薬(株)製、商品名)のような非イオン界面活性剤や、(2)ニューカルゲン1515−2H(竹本油脂(株)製、商品名)のような非イオン界面活性剤とアニオン界面活性剤との混合界面活性剤等が挙げられる。ホスマー等は、一般的には、上記ノイゲンHCの界面活性剤水溶液への溶解度が低いため、本発明におけるグラフト加工溶液としては、ノイゲンHCと、ニューカルゲン1515−2Hのような非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤の混合界面活性剤とを併用することが望ましい。界面活性剤の使用量としては、所定量のノイゲンHC水溶液に重量比で5〜10%のニューカルゲン1515−2Hを含むようにグラフト加工溶液を調製するとよい。
【0058】
ホスマー等を素材にグラフト加工するためのグラフト重合に用いられる重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられ、特に、過硫酸アンモニウムが好ましく用いられる。この重合開始剤は、加工溶液に添加される。重合開始剤の使用量は、通常のビニルモノマーの重合における使用量で十分であり、例えば、ホスマーM又はCL等のようなホフマー等を使用する場合には、ホスマー濃度として、50%owf(on weight of fiber)〜250%owf用いるとよい。APS等のような重合開始剤を用いる場合、その使用量は、ホスマーと繊維素材の合計重量に対し0.5〜4%owf、 好ましくは1.5〜2.5%owf使用すればよい。
【0059】
APS等のような重合開始剤は、グラフト加工時において繊維素材に作用してタンパク質分子から水素原子を引き抜き、グラフト反応を開始させる反応の拠点であるラジカルを作る働きがある。APS等のような重合開始剤の濃度が低く、0.5%owf未満であると、グラフト加工反応を引き起こすラジカルの生成量が少なく、グラフト加工反応が起こり難い傾向があり、また、その濃度が高く、4%owfを越えると、繊維素材に作用して素材の機械的特性を劣化させる傾向がある。そのため、繊維素材の機械的特性を劣化させないで、しかも効率的にグラフト加工を実施するには、最適濃度のAPS等の重合開始剤を補償することが重要である。APS等の重合開始剤の濃度は、上記したように、0.5〜4%owf、好ましくは1.5〜2.5%owfである。
【0060】
グラフト加工溶液のpHは、pH2〜4に調整することが好ましく、更に好ましくはpH3前後に調整することが良い。この2〜4のpH範囲を外れるとグラフト重合反応が不安定になり、グラフト加工率が低くなる傾向がある。すなわち、このpH調整によりグラフト重合反応が安定となり、グラフト効果、特にグラフト加工率を向上させることができる。
【0061】
上記pH調整には、硫酸、蟻酸、塩酸等の有機酸を用いることが好都合であり、なかでも蟻酸の添加が最も好ましい。
【0062】
グラフト加工溶液の量は、グラフト化率を高めるため、また、経済性の視点からも、絹タンパク質繊維、羊毛繊維、若しくはケラチン繊維、又はその繊維製品、絹フィブロイン膜を含めた絹タンパク質膜、コラーゲン膜等の重量に対する浴比を1:5〜1:50、好ましくは1:10〜1:30に調整することがよい。グラフト加工対象物の重量に対して、グラフト加工溶液の量が重量で5倍未満であるとグラフト化率が低くなる傾向があり、また、50倍を超えると経済性の面から良くない。
【0063】
グラフト重合反応(グラフト化)は、上記タンパク質繊維又はその繊維製品等のようなグラフト化対象物をグラフト加工溶液中に浸漬し、この加工溶液を室温から10〜20分かけて75〜85℃に昇温させ、75〜85℃、好ましくは85℃で30分〜1時間保持して行う。グラフト重合反応後、グラフト化させたタンパク質繊維又はその繊維製品等を洗浄し、乾燥して本発明の防炎性タンパク質繊維又はその繊維製品等を得る。
【0064】
本発明によれば、繊維や繊維製品や膜に防炎機能を持たせるためのグラフト加工率は、5%以上、好ましくは5〜40%であればよい。グラフト加工率が5%未満のように低すぎると防炎効果が十分発揮できず、40%を超えるように余り高すぎると繊維や膜等の機械的特性を低下させるおそれがある。
【0065】
本発明による防炎機能を付与するためのグラフト加工は、通常、次のようにして行われる。
【0066】
グラフト加工用モノマーであるホスマー等を界面活性剤により分散させて得た水分散液中に、天然タンパク質繊維又は繊維製品等のグラフト化対象物を入れ、所望により重合開始剤を添加してグラフト重合を行わせる。重合開始剤としては、タンパク質にグラフト重合の拠点となるラジカルを発生するラジカル触媒であれば、任意のものを適宜用いることができ、例えば、グラフト化対象物の特性を低下させないようにするためには過硫酸アンモニウムが望ましい。グラフト化対象物に導入できるホスマー等の量は、グラフト加工率に依存し、ホスマー等の使用量、すなわち加工率は、ホスマー等の種類、処理温度、処理時間、グラフト加工される対象物の種類等に応じて、所望により適宜調整することができる。
【0067】
具体的なグラフト加工の加工条件の例は、例えば繊維素材の場合、次の通りである。なお、膜素材の場合も同様である。
【0068】
所定量の上記ホスマー等、グラフト重合開始剤(例えば、過硫酸ナトリウム2.5%owf)、ホスマー等の重量に対して所定量(例えば、12wt%)の界面活性剤を加えて混合溶液を製造する。この混合溶液中に、ノイゲンHC(1mL/L: 商品名、第一工業製薬(株)製の非イオン界面活性剤)、又はノイゲンHCとニューカルゲン1515−2H(竹本油脂(株)製、商品名)のような非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤の混合界面活性剤とを添加してグラフト加工溶液を調製する。この溶液に蟻酸水溶液等を添加してグラフト加工溶液のpHをほぼ3に調整する。繊維素材とグラフト加工溶液との量比、すなわち浴比を、例えば1:20とする。恒温装置又はオーバーマイヤー型染色試験器(密閉型)等を用い、繊維素材を入れたグラフト加工用溶液を、例えば、常温から75〜85℃まで所定の時間(例えば、40分間)で昇温せしめた後、90分間、同温度を保持してグラフト化反応を進める。反応終了後、繊維素材を水洗いする。こうして、グラフト加工された繊維素材を作製する。
【0069】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下の実施例では、家蚕絹糸、柞蚕絹糸、羊毛繊維、家蚕絹フィブロイン膜、野蚕絹フィブロイン膜、及びコラーゲン膜をホフマーによるグラフト加工対象物として使用し、グラフト加工した各試料について、その物性を以下記載するようにして評価する。
【0070】
(1)機械的特性:
ホスマーでグラフト加工した繊維状試料(家蚕絹糸、柞蚕絹糸、羊毛繊維)の機械的特性(強度及び伸度)は、テンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製RTC125OA型)を用いて測定し、試料の引っ張り切断時の強度と切断するまでの伸度とを評価した。引っ張り速度を2mm/minとし、測定回数を5とした。また、膜状試料サイズは、試料長と試料幅が、それぞれ、2cm及び2mmであった。
【0071】
(2)SEM観察:
金を蒸着させたグラフト加工した羽二重、柞蚕絹織物の表面を、島津株式会社製のSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した。
【0072】
(3)試料:
機械的特性の測定は、上記したように、グラフト加工した繊維状試料を用いた。燃焼試験及び防炎評価の場合は、グラフト加工対象物として、(a)家蚕繊維素材に関しては、家蚕絹糸の羽二重(財団法人日本規格協会製、JIS L0803準拠)を使用した。この羽二重を構成する経糸及び緯糸の太さは、それぞれ2.3tex×3、2.3tex×4であり、経糸及び緯糸の密度は、264、 190本/cmであった。ここで2.3tex×3とは、2.3texという太さの絹繊維3本に対して撚りをかけた糸を使用した織物であることを意味する。この羽二重の重量は60g/mであった。(b)柞蚕繊維素材に関しては、柞蚕絹糸から製造した柞蚕絹織物を用いた。(c)羊毛に関しては、毛織物(財団法人 日本規格協会、JIS L0803準拠)を試料として用いた。さらに、グラフト加工対象物として、絹フィブロイン膜及びコラーゲン膜を用いた実験も行った。
【0073】
(4)グラフト加工用モノマー:
リン酸基を含むホスマーM、CL、PP、MH、PEH及びPPH(ユニケミカル株式会社製試薬)を用いた。
【0074】
(5)グラフト加工方法及びグラフト加工率(%)
グラフト加工方法は次のようにして行った。 重合開始剤として作用する3%owfの過硫酸アンモニウム(APS)と2g/Lの非イオン界面活性剤(第一工業製薬製・ノイゲンHC)とを含むグラフト系に蟻酸水溶液を加えてpHを3.0に調整した。ホスマーM、CL、PP、MH、PEH及びPPHの濃度は120%owfとした。浴比は1:30に設定した。上記したようにして調整したグラフト系に前記繊維状試料及び織物試料を入れ、温度80℃で90分間、繊維状試料及び織物試料へのグラフト加工を行った。反応終了後、試料を取り出し、水洗いを行い、80℃で2g/Lの非イオン界面活性剤(第一工業製薬製・ノイゲンHC)で処理して、試料表面に付着した未反応試薬を除去し、最後に加工試料を室温で乾燥させた。繊維状試料及び織物試料にホスマーを用いてグラフト加工を行っても、グラフト加工条件が同じであれば、同一のグラフト加工率の試料が得られた。また、絹フィブロイン膜及びコラーゲン膜へのグラフト加工も可能であった。
【0075】
グラフト加工反応前の試料を105℃で2時間乾燥処理して試料中の水分を除去した後、試料絶乾重量(W)を測定すると共に、グラフト反応後の試料についても同様に乾燥処理し、その絶乾重量(W)を測定した。グラフト加工前後の試料絶乾重量の比較から、グラフト加工率(WG)を次式により求めた。
WG=(W−W)/W × 100(%)
【0076】
(6)示差走査熱量計(DSC)による熱特性測定:
グラフト加工した試料について、DSC装置(リガク社製、DSC8230型)を用い、示差走査熱量分析を行った。試料重量、昇温速度、及び測定温度は、それぞれ、2.4mg、15℃/min、及び室温〜360℃であった。窒素気流中で測定した。
【0077】
(7)JIS規格による燃焼試験:
グラフト加工した羽二重(財団法人日本規格協会製、JIS L0803準拠)の燃焼性能について、JIS規格(L1091:1999)のA−1法(45°ミクロバーナー法)により、着炎3秒後の燃焼面積及び残炎時間等を評価した。なお、燃焼試験で使用する評価用語は下記の通りである。
加熱時間(A):バーナーの火が布(試料)に燃え移るまでの時間(sec)
残炎時間(B):布(試料)に燃え移った火が消えるまでの時間 (sec)
炭化距離(C):炭化したところの最大距離(mm)
炭化面積(D):炭化した面積(cm
【0078】
(8)簡易防炎評価法:
グラフト加工した羽二重(財団法人日本規格協会製、JIS L0803準拠)(幅5mm、長さ10cm)の一端をピンセットで固定し、垂直に吊り下げる。吊り下げた下端3cm部分にライターの炎を近づけ試料片を燃やし、着火直後、ライターの炎を消す。試料布に炎が点火した後、自然に炎が消えるまでに燃えた距離を計測した。必要に応じて、燃え残りの試料の写真を撮影することで防炎加工の機能変化を評価した。試料としては、上記家蚕絹糸の羽二重の他に、柞蚕絹織物及び毛織物を用いた。
【0079】
この評価法は、JIS規格(L1091:1999)のA−1法(45°ミクロバーナー法)に準じた簡易防炎評価法である。A−1法は、試料取り付け台に45°の勾配で試料布を取り付け、試料布にバーナーで着火し、着炎3秒後の燃焼面積、残炎時間等を評価する方法であるが、簡易防炎評価法は、試料布を垂直に垂らしライターで直接着火する方式を採るため、JIS規格(L1091:1999)のA−1法と簡易防炎評価法との測定結果には若干の差はあるものの、試料布の防炎機能を簡単に相対評価できる点で意味はある。
【実施例1】
【0080】
グラフト加工した家蚕絹糸のグラフト加工率とホスマー濃度との関係:
各種ホスマーを用い、ホスマー濃度100%owf及び200%owfの場合について、家蚕絹糸、羊毛又は柞蚕絹糸へのグラフト加工を行った。家蚕絹糸、羊毛及び柞蚕絹糸のグラフト加工率とホスマー濃度との関係を表2に示す。このグラフト加工条件は、APS2.5%owf、 浴比1:30、 加工温度85℃、加工時間90分であった。
【0081】
【表2】

【0082】
表2における試料の略符号は次のことを意味する。B−M、CL、PP、MH、PE、PEH、及びPPHは、それぞれ、家蚕絹糸(B)をホスマーM、CL、PP、MH、PE、PEH、及びPPHでグラフト加工したものであり、W−CL、PP、MH、PPH、PEH、及びPEは、それぞれ、羊毛(W)をホスマーCL、PP、MH、PPH、PEH、及びPEでグラフト加工したものであり、そしてTsu−M及びCLは、それぞれ、柞蚕絹糸(Tus)をホスマーM及びCLでグラフト加工したものである。
【0083】
表2から明らかなように、ホスマー濃度が100%owfから200%owfに増加すると、家蚕絹糸、羊毛及び柞蚕絹糸のグラフト加工率は増加する傾向にあった。用いたホスマーの中で高いグラフト加工率が得られる傾向があるものは、家蚕絹糸の場合、ホスマーCL、PP、及びMであり、羊毛の場合、ホスマーCL及びPPであり、柞蚕絹糸の場合には、ホスマーM及びCLであった。
【実施例2】
【0084】
グラフト加工した家蚕絹糸の機械的特性:
ホスマー M及びCLをそれぞれ用い、ホスマー濃度を100%owfに設定して家蚕絹糸へのグラフト加工を行った。このグラフト加工条件は、APS2.5%、 浴比1:30、 加工温度85℃、加工時間90分であった。上記のようにして得られたグラフト加工絹糸の機械的特性を調べるため強度及び伸度測定を行い、その結果を図1に示す。比較のために、未加工の家蚕絹糸についても強度及び伸度を測定した。図1中の曲線aは未加工家蚕絹糸の場合、曲線bはホスマーMを用いてグラフト加工した家蚕絹糸の場合、そして曲線cはホスマーCLを用いてグラフト加工した家蚕絹糸の場合を示す。
【0085】
図1から明らかなように、未加工家蚕絹糸の場合、強度及び伸度は、それぞれ、5N及び19%であるのに対して、ホスマーM又はCLでグラフト加工した絹糸の強度及び伸度は、それぞれ、ほぼ同一の7N及び13%となり、未加工家蚕絹糸より強度が僅か増加し、伸度は若干低下した。
【実施例3】
【0086】
グラフト加工した家蚕絹糸のDSC曲線:
実施例2の場合と同様の条件で、ホスマーMを用いてグラフト加工した家蚕絹糸、及びホスマーCLを用いてグラフト加工した家蚕絹糸と共に、未加工家蚕絹糸についてのDSC測定を行った。得られたDSC曲線を図2に示す。図2において、曲線aは未加工家蚕絹糸の場合、曲線bはホスマーMを用いてグラフト加工した家蚕絹糸の場合(加工率14.1%、)、そして曲線cはホスマーCLを用いてグラフト加工した場合(加工率21.1%)のDSC曲線を示す。
【0087】
図2から明らかなように、未加工家蚕絹糸の場合、繊維素材の熱分解による主要な吸熱ピークが315℃に出現したが、ホスマーM又はCLでグラフト加工した家蚕絹糸の場合には、繊維素材の熱分解による主要な吸熱ピークが345℃近傍に出現した。ホスマーM又はCLで加工した繊維素材のDSC曲線は、280℃以下の温度範囲では未加工繊維素材のDSC曲線と差異は見られなかった。しかし、ホスマーM又はCLでグラフト加工した繊維素材の主要な吸熱ピークは345℃となり、未加工試料の吸熱ピークよりも30℃高温側に移行し、ホスマーを用いてグラフト加工した繊維素材の耐熱性が目立って向上していることが確かめられた。このことから、ホスマーでグラフト加工することで繊維素材の熱分解温度が高温側に移行、すなわち熱分解が起こる耐熱性が向上することが確認された。
【実施例4】
【0088】
グラフト加工した家蚕絹糸のSEM観察:
実施例2の場合と同様の条件で、ホスマーM及びCLをそれぞれ用いてグラフト加工した家蚕絹糸の表面をSEMで観察した。図3(a)に未加工家蚕絹糸のSEM像、また、図3(b)にホフマーCLでグラフト加工した家蚕絹糸(グラフト加工率:14.1%)のSEM像を示す。
【0089】
このSEM像から明らかなように、ホスマーM及びCLをそれぞれ用いてグラフト加工した家蚕絹糸表面にはグラフトモノマーの重合物に基づく付着物や析出物は認められず、加工した家蚕絹糸の表面は平滑であった。このように、グラフト加工後も絹糸の外見上の形態変化は起こらなかった。
【実施例5】
【0090】
グラフト加工した家蚕絹糸の強度(N)及び伸度(%):
重合開始剤(APS)濃度を0、1、2、4、及び6%owfに設定し、ホスマーM及びCLをそれぞれ用いて家蚕絹糸にグラフト加工を行った。グラフト加工した家蚕絹糸の強度(N)と伸度(%)とを測定し、得られた結果を表3に示す。このグラフト加工条件は、ホスマー濃度120%owf、APS2.5%、 浴比1:30、 加工温度85℃、加工時間90分であった。
【0091】
【表3】

【0092】
表3から明らかなように、重合開始剤APSの濃度を変え、ホスマーMでグラフト加工した家蚕絹糸の強度は加工前の絹糸と大きな差は見られなかった。なお、ホスマーMでグラフト加工した家蚕絹糸の伸度は、APS濃度が増加すると次第に低下する傾向があるように見受けられるが、その低下割合は軽微であり、実用上は問題がない。一方、ホスマーCLでグラフト加工した家蚕絹糸は、APS濃度が増加すると次第に低下する傾向がみられ、伸度も同様に低下する傾向を示した。従って、絹糸の機械的特性がグラフト加工後も余り変化しないホスマーMが望ましいが、実用上はCLも使用可能である。
【実施例6】
【0093】
グラフト加工した家蚕絹糸のグラフト加工率と重合開始剤濃度との関係:
重合開始剤(APS)濃度を1、2、4、及び6%owfにそれぞれ設定し、ホスマーM及びCLをそれぞれ用いて家蚕絹糸にグラフト加工を行った。家蚕絹糸の加工率と重合開始剤との関係を表4に示す。このグラフト加工条件は、ホスマー濃度 120%owf、浴比1:30、加工温度85℃、加工時間90分であった。
【0094】
【表4】

【0095】
表4から明らかなように、APS濃度1〜6%owfの間では、家蚕絹糸のグラフト加工率には、ホスマーM、ホスマーCLともに大きな差が見られなかった。
【実施例7】
【0096】
グラフト加工した家蚕絹糸のグラフト加工率とグラフト時間との関係:
グラフト時間を0、30、及び90分にそれぞれ設定し、ホスマーM及びCLをそれぞれ用いて家蚕絹糸にグラフト加工を行った。グラフト加工した家蚕絹糸のグラフト加工率とグラフト時間との関係を表5に示す。このグラフト加工条件は、ホスマー濃度120%owf、APS2.5%owf、浴比1:30、加工温度85℃であった。
【0097】
【表5】

【0098】
表5から明らかなように、ホスマーM及びCLともに、グラフト時間が長くなるにつれて家蚕絹糸のグラフト加工率は増大した。加工率増大に及ぼすホスマーMとCLとの違いは見られなかった。
【実施例8】
【0099】
グラフト加工した家蚕絹糸のグラフト加工率とホスマー濃度との関係:
ホスマーM及びCLをそれぞれ用い、ホスマー濃度を50%owf、100%owf、及び200%にそれぞれ設定し、家蚕絹糸へのグラフト加工を行った。家蚕絹糸のグラフト加工率とホスマー濃度との関係を表6に示す。このグラフト加工条件は、APS3%owf、浴比1:30、 加工温度85℃、加工時間90分であった。
【0100】
【表6】

【0101】
表6から、ホスマーM又はCLで家蚕絹糸にグラフト加工すると、モノマー濃度が増加するとグラフト加工率が増えること、ホスマーCLによるグラフト加工では、家蚕絹糸のグラフト加工率がホスマーMによるグラフト加工率よりも常に高い値を示し、ホスマーCLのグラフト加工性がホスマーMよりも高いこと、すなわちホスマーCLのグラフト加工を行うことで高いグラフト加工率が得られることが分かる。
【実施例9】
【0102】
グラフト加工した柞蚕絹糸のSEM観察:
実施例4と同じグラフト加工条件でホスマーM及びCLのそれぞれでグラフト加工した柞蚕絹糸の表面形態をSEM観察した。実施例4の場合と同様に、これら試料の表面にはグラフトモノマーの重合物に基づく付着物や析出物は認められず、加工絹糸の表面は平滑であった。加工後も絹糸表面の形態には変化が認められなかった。
【実施例10】
【0103】
グラフト加工した柞蚕絹糸のグラフト加工率とホスマー濃度との関係:
柞蚕絹糸にホスマーM及びCLのそれぞれを用いてグラフト加工を行った。ホスマー濃度を50、100、150、200%owfに設定し、柞蚕絹糸へのグラフト加工を行った。柞蚕絹糸のグラフト加工率とホスマー濃度との関係を表7に示す。重合開始剤のAPS濃度は2.5%owf、浴比は1:30の条件下でグラフト加工した。 加工溶液の温度を、室温から85℃まで40分で昇温し、85℃で90分保温加熱することでグラフト加工を実施した。
【0104】
【表7】

【0105】
表7から明らかなように、ホスマー濃度が増加すると柞蚕絹糸へのグラフト加工率が増加した。柞蚕絹糸へのグラフト加工率は、ホスマーCLの方がホスマーMよりも高い値を示したが、実用上はいずれも使用可能である。
【実施例11】
【0106】
グラフト加工した柞蚕絹糸のグラフト加工率と重合開始剤濃度との関係:
ホスマーM及びCLをそれぞれ用い、重合開始剤(APS)濃度を0、1、2、4、及び6%owfにそれぞれ設定し、柞蚕絹糸にグラフト加工を行った。柞蚕絹糸の加工率と重合開始剤との関係を表8に示す。このグラフト加工条件は、ホスマー濃度120%owf、浴比1:30、加工温度85℃、加工時間90分であった。
【0107】
【表8】

【0108】
表8から明らかなように、柞蚕絹糸へのグラフト加工率が高いホスマーはCLであった。APS濃度が変化してもホスマーMを用いた場合、柞蚕絹糸のグラフト加工率の変化は明瞭ではなかったが、実用上はホスマーMも使用可能である。
【実施例12】
【0109】
グラフト加工した柞蚕絹糸の機械的特性:
実施例11記載の方法でホスマーM及びCLのそれぞれを用いて柞蚕絹糸にグラフト加工を行った。このグラフト加工条件は、ホスマー濃度120%owf、浴比1:30、加工温度85℃であった。グラフト加工時間を20及び50分とした。その結果、グラフト時間が20分の場合、ホフマーM及びCLによるグラフト加工率は、それぞれ、14%及び16%となった。また、グラフト時間が50分の場合、ホフマーM及びCLによるグラフト加工率は、それぞれ、17.3%及び19%となった。未加工柞蚕絹糸、ホスマーMでグラフト加工した柞蚕絹糸、及びホスマーCLでグラフト加工した柞蚕絹糸の強度・伸度測定を行った。得られた結果を表9に示す。
【0110】
【表9】

【0111】
表9から明らかなように、柞蚕絹糸に各種ホスマーでグラフト加工しても加工前の柞蚕絹糸とには大きな差が見られなかった。従って、ホスマーでグラフト加工しても柞蚕絹糸の機械的特性は大きく変化しないこと、すなわちグラフト加工を行っても加工前の機械的特性値は劣化しないことが明らかとなった。
【実施例13】
【0112】
グラフト加工した羊毛繊維のグラフト加工率とホスマー濃度との関係:
ホスマーM及びCLをそれぞれ用い、ホスマー濃度を50、100、150、及び200%owfにそれぞれ設定し、羊毛繊維へのグラフト加工を行った。羊毛繊維のグラフト加工率とホスマー濃度との関係を表10に示す。このグラフト加工条件は、APS2.5%owf、浴比1:30、加工温度85℃、加工時間90分であった。
【0113】
【表10】

【0114】
表10から明らかなように、羊毛繊維をグラフト加工すると、ホスマー濃度が高くするにつれて、グラフト加工率が高くなることが分かる。
【実施例14】
【0115】
グラフト加工した羊毛繊維の機械的特性:
ホスマーPP、M、及びCLでそれぞれグラフト加工した羊毛繊維の強度(gf)と伸度(%)の測定を行った。グラフト加工条件は実施例13に準じた。得られた結果を表11に示す。
【0116】
【表11】

【0117】
表11において、Control、並びにPP(16%)、M(19%)、及びCL(18%)等は、それぞれ、加工前の羊毛繊維、並びにホスマーPP、M、及びCLでグラフト加工した羊毛繊維であり、括弧内の数値はグラフト加工率を示す。
【0118】
表11から明らかなように、グラフト加工した羊毛繊維の強度及び伸度は、加工前の羊毛繊維に比べ、若干高くなるか同等程度であるという傾向がある。
【実施例15】
【0119】
グラフト加工した羊毛繊維におけるグラフト加工率に対するグラフト加工時間の影響:
グラフト加工時間を0、30、及び90分にそれぞれ設定し、ホスマーM及びCLをそれぞれ用い羊毛繊維にグラフト加工を行った。羊毛繊維のグラフト加工率とグラフト加工時間との関係を表12に示す。このグラフト加工条件は、ホスマー濃度120%owf、APS2.5%、浴比1:30、加工温度85℃、加工時間90分であった。
【0120】
【表12】

【0121】
表12から明らかなように、ホスマーM及びCLともに、グラフト加工時間が長くなるとグラフト加工率は増大する傾向がある。加工率の増大に及ぼすホスマーMとCLとの違いは殆どなかった。
【実施例16】
【0122】
グラフト加工した羊毛繊維におけるグラフト加工率に対する界面活性剤の種類及びホスマー濃度の影響:
ホスマーM、CL、PP、PE、PEH、PPH、及びMHをそれぞれ使用し、羊毛繊維のグラフト加工率に及ぼす界面活性剤の種類の違いとホスマー濃度の差との影響を調べた。このグラフト加工条件は、APS2.5%owf、浴比1:30、加工温度85℃、加工時間90分であった。得られた結果を表13に示す。
【0123】
【表13】

【0124】
表13において、HC100、HC200、2H100、及び2H200とは、それぞれ、グラフト加工において用いた界面活性剤の種類とホスマー濃度とを意味する表示である。すなわち、HC100とはノイゲンHCを所定量使用し、かつホスマー濃度が100%owfであること、HC200とはノイゲンHCを所定量使用し、かつホスマー濃度が200%owfであること、2H100とはノイゲン1515−2Hを所定量使用し、かつホスマー濃度が100%owfであること、2H200とはノイゲン1515−2Hを所定量使用し、かつホスマー濃度が200%owfであることを意味する。
【0125】
表13から明らかなように、用いたホスマーの中でグラフト加工率の高いものはホスマーCL、M、及びPPであり、グラフト加工率の低いものはホスマーPPH及びPEHであった。表13に示す結果を纏めると、羊毛へのグラフト加工率は次の順で低下する。
CL>PP>M>MH=PE>PPH≒PEH
【0126】
以上の結果から、ホスマーによる試料へのグラフト加工率は、ホスマーのグラフト重合性、ホスマー濃度、重合開始剤濃度、界面活性剤の種類、グラフト加工温度、グラフト加工時間により適宜調整することができることが分かる。
【実施例17】
【0127】
グラフト加工した羊毛繊維のグラフト加工率に及ぼす重合開始剤濃度の影響:
重合開始剤(APS)濃度を1、2、4、及び6%owfにそれぞれ設定し、ホスマーM及びCLをそれぞれ用いて羊毛繊維にグラフト加工を行った。グラフト加工した羊毛繊維のグラフト加工率と重合開始剤濃度との関係を表14に示す。このグラフト加工条件は、ホスマー濃度200%owf、浴比1:30、加工温度85℃、加工時間90分であった。
【0128】
【表14】

【0129】
表14から明らかなように、APS濃度が高くなると、ホスマーMではグラフト加工率が次第に増加し、ホスマーCLではAPS濃度2%で最大のグラフト加工率が得られることがわかった。
【実施例18】
【0130】
グラフト加工した羊毛繊維の機械的特性:
ホスマーPP、M、及びCLをそれぞれ用い、その濃度を10%owfとし、APS3%、浴比1:30、 加工温度85℃、加工時間90分の条件下で羊毛繊維へのグラフト加工を行った。得られたグラフト加工した羊毛繊維の強度と伸度測定を行った。その結果を表15に示す。
【0131】
【表15】

【0132】
表15において、それぞれ、羊毛繊維(W)をホスマーPP、M、及びCLでグラフト加工したものであり、括弧内は加工率である。
【0133】
表15から明らかなように、グラフト加工した羊毛繊維の強度(gf)は、未加工時より増大する傾向を示した。また、伸度(%)は、グラフト加工後も大幅に低下することなく、未加工時の伸度と同程度の値を示した。従って、グラフト加工を行っても羊毛繊維の機械的特性は変化していないことが分かった。
【実施例19】
【0134】
絹フィブロイン膜、及びコラーゲン膜へのグラフト加工:
家蚕絹糸を公知の方法で溶解し、透析して得られた家蚕絹フィブロイン水溶液を乾燥固化させて家蚕絹フィブロイン膜を製造した。この家蚕絹フィブロイン膜に対し、上記実施例と同様の方法でホスマーM及びCLをそれぞれ用いてグラフト加工し、加工率6.5%のグラフト加工した家蚕絹フィブロイン膜を製造した。ホスマーM及びCLによるグラフト加工条件は、ホスマー濃度200%owf、APS2.0%owf、 浴比1:30、加工温度85℃、加工時間90分であった。
【0135】
かくして得られたグラフト加工した家蚕絹フィブロイン膜を水不溶化処理した。この水不溶化処理は、室温の50V/V%のメタノール水溶液で10分浸漬処理し、メタノールから取り出して20℃の室温で乾燥することで実施した。
【0136】
また、家蚕絹糸の代わりに柞蚕絹糸を公知の方法で溶解し、透析して得られた柞蚕絹フィブロイン水溶液を乾燥固化させて柞蚕絹フィブロイン膜を製造した。この柞蚕絹フィブロイン膜に対し、上記した家蚕絹フィブロイン膜の場合と同様にホフマーM及びCLのそれぞれを用いてグラフト加工を行い、グラフト加工率5.3%の柞蚕絹フィブロイン膜を製造した。かくして得られた柞蚕絹フィブロイン膜に対して、上記した家蚕絹フィブロイン膜の場合と同様の方法で水不溶化処理を行った。
【0137】
さらに、0.3%濃度の細胞培養用コラーゲン水溶液(製造元:株式会社高研)を送風乾燥して0.8%のコラーゲン水溶液を調整し、ポリエチレンフィルム上で蒸発乾固させコラーゲン膜を製造した。コラーゲン膜を0.2%グルタルアルデヒド水溶液に3分間浸漬した後引き上げ、水で充分洗浄した後、室温で乾燥して水不溶のコラーゲン膜を製造した。上記家蚕シルク膜と同様の方法で、コラーゲン膜をホスマーM及びCLのそれぞれでグラフト加工することにより、グラフト加工率3.2%のコラーゲン膜を製造した。
【0138】
上記グラフト加工した家蚕絹フィブロイン膜、柞蚕絹フィブロイン膜、及びコラーゲン膜を上記した簡易燃焼評価法により評価したところ、グラフト加工前の各試料膜に比べて、いずれも炎で燃え難くなり、防炎機能が付与されたことが分かった。
【実施例20】
【0139】
JIS規格による燃焼試験:
本実施例では、羽二重(財団法人 日本規格協会製、JISL0803準拠)にホスマーPE、PEH、PP、MH、CL、及びMをそれぞれ用いてグラフト加工した素材に対して、JIS規格に基づいて防炎機能の評価を行った。得られた結果を表16に集約して示す。
【0140】
防炎素材の燃焼性能は、JIS規格(L1091:1999)のA−1法(45°ミクロバーナー法)により、着炎3秒後の燃焼面積、残炎時間等を評価した。なお、評価の尺度を再度記すと、下記の通りである。
【0141】
加熱時間(A):バーナーの火が布に燃え移るまでの時間(sec)
残炎時間(B):布に燃え移った火が消えるまでの時間 (sec)
炭化距離(C):炭化したところの最大距離(mm)
炭化面積(D):炭化した面積(cm
【0142】
【表16】

【0143】
表16における加熱時間、残炎時間、炭化距離及び炭化面積について、以下考察する。
【0144】
(1)加熱時間(燃え移るまでの時間)について:
(a)試料No.1〜10の加熱時間は、何れも試料No.0(対照区)の加熱時間と比較して大きな値を示しており、グラフト加工した場合は、対照区の場合よりも、いったん着火した炎が燃え移り難いことが確かめられた。この意味でいずれのホスマー(PE、PEH、PP、MH、CL、及びM)の場合も、羽二重に加工することで羽二重には防炎機能が付与できたものといえる。
【0145】
(b)加熱時間が長いものから、短いものへの順序は次の通りである。
No.8(CL:21.0%)>No.5(MH:9.1%)>No.7(CL:12.2%)>No.10(M:14.1%)
【0146】
特に注目すべき事は、試料No.8 の加熱時間が120秒であることである。JIS L 1091 A−1法では加熱時間を1分に設定しているが、試料No.8の場合は、120秒加熱しても羽二重に燃え移ることはないため、他の試料に比べて試料No.8は特に顕著な防炎加工効果があるといえる。一方、試料No.1、2、3、及び4のホスマーPE、PEH及びPPでグラフト加工した羽二重の場合には防炎効果は小さいが、実用上は問題がないように思料される。
【0147】
(2)残炎時間(燃え移った火が消えるまでの時間)について:
(a)試料No.8の場合は、残炎時間が0秒であり、着火した炎が羽二重に燃え移ることは無く、防炎の効果が認められた。試料No.10の試料も対照区に比べて僅かであるが防炎効果が確認できた。その他の試料は、燃え移り難い反面、火が消えるまでに時間がかかるため消え難いことが分かった。対照区は3秒程度で消火することから、羽二重は点火すると燃え移り易いが、消火もし易いという性質のあることが確認された。
【0148】
(3)炭化距離、炭化面積について:
炭化距離と炭化面積は、残炎時間と相関を有する傾向がある。試料No.8及び10の炭化距離及び炭化面積は対照区No.0の場合よりも小さい値を示している。燃え残りの試料を観察すると、試料No.8及び10では、炭化した羽二重の形は楕円形を示し、いったん着火した炎が燃え広がる様子がなく、自己消火性が見られた。
【0149】
グラフト加工した羽二重の場合、試料N0.8及び10以外の試料に関して、炭化距離は対照区の約2.4倍の大きな値となり、また、炭化面積は対照区の約4〜6倍の値となった。
【0150】
以上の結果を総合して判断すると、以下のことが明らかである。
【0151】
ホスマーでグラフト加工した羽二重は、多少の差はあるが燃え移る時間は長くなる(燃え移りにくい)ことが確かめられた。しかし、いったん羽二重を着火し、火がついた後には、羽二重の自己消火性が弱まるため消えるまでに時間がかかる。このように消えにくい状況となる試料の中で、試料No.8及びNo.10は、いったん着火した炎は燃え移り難く、燃え広がることも少ない。そのため、結果的には、試料No.8及びNo.10では、炭化した長さや面積も小さい値を示し、この意味で、試料No.8及びNo.10では、極めて難燃性の高い素材になったといえる。
【実施例21】
【0152】
家蚕絹糸の羽二重、柞蚕絹織物、及び毛織物の防炎評価:
ホスマーM及びCLをそれぞれ用いてグラフト加工した羽二重、柞蚕絹織物、及び毛織物に対して上記した簡易防炎評価法による防炎評価を行った。防炎評価は、上記したように、試料に炎が点火した後に自然に炎が消えるまでに燃えた距離を燃焼評価値(cm)として計測して行った。得られた結果を表17に示す。
【0153】
【表17】

【0154】
表17から明らかなように、未加工試料(対照区)では、毛織物が最も炎による燃焼度合が少なくて燃え難く、羽二重と柞蚕絹織物とは、毛織物に比べると燃え易いことが分かった。ホスマーM及びCLでそれぞれグラフト加工すると、羽二重も柞蚕絹織物も毛織物も同じように燃焼し難くなった。ホスマーCLとホスマーMとを比べると、ホスマーMを用いる場合の方が羽二重、柞蚕絹織物、及び毛織物には有効な防炎機能を付与できた。しかし、ホフマーCLでも、実用上は問題がない。なお、ホスマーCLを用いて上記と同様にしてグラフト加工した羽二重(グラフト加工率14.0%)に対して簡易防炎評価法を実施した後の燃え残り試料の写真映像を図4に示す。図4中、(a−1)及び(a−2)は未加工試料であり、(b)はホスマーCLでグラフト加工した試料である。
【実施例22】
【0155】
グラフト加工した家蚕絹フィブロイン膜に対する防炎評価:
家蚕絹フィブロイン繊維を55℃の9M LiBr水溶液で完全に溶解した後、セルロース透析膜に入れて水道水で4日間透析し、絹フィブロイン水溶液を製造した。この絹フィブロイン水溶液を送風乾燥して濃度1.3%の絹フィブロイン水溶液とし、この水溶液をポリエチレン膜の上に拡げて蒸発乾固させ、厚さ70μmの絹フィブロイン膜を製造した。続いて、この絹フィブロイン膜を不溶化させるため、50v/v%のメタノール水溶液に1時間浸漬処理し、メタノール水溶液から取り出した後、絹フィブロイン膜を室温で軽く乾燥させた。
【0156】
上記実施例16で述べた方法に従って、ホスマーM及びCLをそれぞれ用いて絹フィブロイン膜にグラフト加工を行った。但し、モノマー濃度は120%owfであり、APS2.5%owf、浴比1:30、加工温度85℃、加工時間90分であった。グラフト加工率は、上記したように、グラフト加工前後の試料重量を105℃で2時間乾燥させて測定し、計算により求めた。かくしてホスマーM及びCLでそれぞれグラフト加工し、加工率がそれぞれ12%及び8.5%の絹フィブロイン膜を製造した。
【0157】
巾5mm、 長さ10cmの未加工絹フィブロイン膜、並びにホスマーM及びCLのそれぞれを用いてグラフト加工した絹フィブロイン膜を、上記簡易燃焼評価法に準じて、ライターで点火させ、燃えた長さ(燃焼距離)を測定すると共に、炎の燃え広がり方を検討した。測定した燃焼距離を表18に示す。
【0158】
【表18】

【0159】
表18から明らかなように、未加工絹フィブロイン膜は着火した後1.5cm燃えながら、膜の周囲に添って炎が伝搬し、一定長燃えた後、自然に炎が消えた。グラフト加工した絹フィブロイン膜は、燃える距離が短く、グラフト加工で防炎機能が絹フィブロイン膜に付与されたことが確認できた。
【0160】
また、本発明でグラフト加工した家蚕由来の絹フィブロイン膜と未加工の羽二重とを着火した際の炎の伝わり方に大きな差が認められた。すなわち、絹フィブロイン膜を燃焼した際の目視観察によれば、ライターで着火すると、炎は絹フィブロイン膜の下端に先ず着火し、その後、絹フィブロイン膜の周囲・端に添って上部に燃え上がる。炎の伝搬速度は羽二重よりは遙かに緩慢であった。絹フィブロイン膜の中央部は炎が着火することなく、膜の周縁部だけが燃え、一定時間燃えると自然に炎が消えた。一方、未加工の羽二重に対して着火・燃焼させると、ちょうどセルロース製の紙が燃えるように、下方から上方に炎がいっきに移動するように燃え広がる。この点で羽二重と絹フィブロイン膜との延焼状態は大きく異なる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明によれば、防炎性素材を得るためのグラフトモノマーであるホスマー等は、リン酸基を含んでおり、このホフマー等は素材中で重合し、その重合物は素材内に充填されるので、リン酸基は安定して素材中に存在する。その結果、グラフト加工した素材は優れた防炎機能を発揮すると共に、グラフト加工した素材の機械的特性は未加工時の特性を維持しており、劣化することはなく、未加工時の特性を大幅に低下させることはない。
【0162】
本発明によれば、グラフト加工される素材としては、家蚕繊維、野蚕繊維、羊毛繊維、コラーゲン繊維、及びこれらの繊維製品に加えて、家蚕及び野蚕由来の絹フィブロイン膜やコラーゲン膜等が挙げられる。これらの素材の内、未加工の羽二重、柞蚕絹織物、及び毛織物に炎をつけて燃やそうとすると、毛織物は他の織物に比べて燃え難く、羽二重と柞蚕絹織物とは同じ程度に燃えやすい。しかし、本発明によれば、燃え難い毛織物を更に燃え難くすることができるし、燃え易い羽二重や野蚕絹織物をリン酸基を含むホスマー等でグラフト加工することで、優れた防炎機能を付与することができる。
【0163】
従って、本発明の防炎機能を持つ素材は、防炎機能の耐久性に優れたものであるので、例えば、衣料用素材の他、車内インテリア等の産業分野で利用できる。また、劇場、ホール、集会場、学校、病院、各種施設等々の人が集まる場所において使用する幕類、カーテン、カーペット等の産業分野でも利用できる。さらに、衣料用材料として、セーターやスーツ、ストール等の編物のほか、敷物等、また、肌着、シャツ、ブラウス、パジャマ等の衣料品、装身具、タオル、ハンカチ、包帯等の各種素材の産業分野でも利用できる。
【0164】
毛織物は比較的燃え難い素材ではあるが、本発明によれば、燃焼時に有毒ガスを発生することなく、耐久性に優れた防炎性毛織物を提供するための防炎加工が確立できるので、インテリア、車内のインテリア材料等の産業分野で広範に防炎性毛織物を利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質繊維、羊毛繊維、ケラチン繊維、並びにコラーゲン繊維から選ばれた少なくとも1種の動物タンパク質繊維、又はその繊維製品を、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工してなることを特徴とする防炎性繊維又は繊維製品。
【請求項2】
前記メタアクリル酸誘導体が、ホスマーM、M’、CL、及びCL’から選ばれた少なくとも1種であり、また、前記アクリル酸誘導体が、ホスマーMに対応するアシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート及びホスマーCLに対応する3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の防炎性繊維又は繊維製品。
【請求項3】
家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質膜、並びにコラーゲン膜から選ばれた少なくとも1種の膜を、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤でグラフト加工してなることを特徴とする防炎性膜。
【請求項4】
前記メタアクリル酸誘導体が、ホスマーM、M’、CL、及びCL’から選ばれた少なくとも1種であり、また、前記アクリル酸誘導体が、ホスマーMに対応するアシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート及びホスマーCLに対応する3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項3記載の防炎性膜。
【請求項5】
家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質繊維、羊毛繊維、ケラチン繊維、並びにコラーゲン繊維から選ばれた少なくとも1種の動物タンパク質繊維、又はその繊維製品に対して、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤を作用させ、グラフト加工された防炎性を有する防炎性繊維又は繊維製品を製造することを特徴とする防炎性繊維又は繊維製品の製造方法。
【請求項6】
前記メタアクリル酸誘導体が、ホスマーM、M’、CL、及びCL’から選ばれた少なくとも1種であり、また、前記アクリル酸誘導体が、ホスマーMに対応するアシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート及びホスマーCLに対応する3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項5記載の防炎性繊維又は繊維製品の製造方法。
【請求項7】
家蚕及び野蚕由来の絹タンパク質膜、並びにコラーゲン膜から選ばれた少なくとも1種の膜に対して、リン酸基を含むアクリル酸誘導体又はメタアクリル酸誘導体を有効成分とするグラフト化剤を作用させ、グラフト加工された防炎性を有する膜を製造することを特徴とする防炎性膜の製造方法。
【請求項8】
前記メタアクリル酸誘導体が、ホスマーM、M’、CL、及びCL’から選ばれた少なくとも1種であり、また、前記アクリル酸誘導体が、ホスマーMに対応するアシッド・ホスホキシ・エチルアクリレート及びホスマーCLに対応する3−クロロ−2−アシッド・ホスホキシ・プロピルアクリレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項7記載の防炎性膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144482(P2011−144482A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7382(P2010−7382)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省科学技術総合研究委託事業、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】