説明

防眩フィルムの製造方法、防眩フィルム、偏光板、透過型液晶表示装置

【課題】適度な防眩性と高いコントラストを備える防眩フィルムにあって、点欠陥が極めて少ない防眩フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】連続的に搬送され、バックアップロールに支持された透明基材の一方の面に、電離放射線硬化型材料を含むバインダマトリックス形成材料と粒子と溶媒を備える塗液をダイヘッドから吐出し、透明基材上に塗液を塗布する工程と、該透明基材上に塗布された塗液を乾燥する工程と、電離放射線を照射する工程を備え、且つ、前記粒子の平均粒径(R)を形成される防眩層の平均膜厚(H)で除した値(R/H)が0.30以上0.80以下の範囲内であって、且つ、前記連続的に搬送される透明基材が前記バックアップロールから離れた直後、該透明基材が水平方向に対し−20°以上+20°以下の範囲内で搬送されることを特徴とする防眩フィルムの製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩フィルムの製造方法に関する。さらに、防眩フィルムは窓やディスプレイなどの表面に設けられる。特に、液晶ディスプレイ(LCD)、CRTディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、プラズマディスプレイ(PDP)、表面電界ディスプレイ(SED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)などのディスプレイの表面に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、ELディスプレイ、および、プラズマディスプレイなどのディスプレイにおいては、視聴時にディスプレイ表面に外光が映りこむことによる視認性の低下を防ぐために、表面に凹凸構造を備える防眩フィルムをディスプレイの表面に設けることが知られている。
【0003】
防眩フィルムとしては、透明基材上にシリカや有機粒子などのフィラーを含む樹脂を塗工して防眩層を形成したものが一般的である(特許文献1〜4)。これらの防眩フィルムは、塗膜の膜厚以上の粒径を有する粒子を樹脂中に添加して防眩層表面に凹凸構造を形成するタイプ、凝集性シリカ等の粒子の凝集によって凹凸構造を形成するタイプなどがあり、このように形成された層表面の凹凸構造によって光が拡散され防眩性が発揮される。
【0004】
防眩フィルムにあっては、例えば、以下のような技術が開示されている。
・内部の散乱と表面の散乱を併用し、防眩層の内部ヘイズ(曇度)を1〜15%とし、表面ヘイズ(曇度)を7〜30%とする技術(特許文献5)
・バインダー樹脂と粒径0.5〜5μmの粒子を用い、樹脂と粒子の屈折率差を0.02〜0.2とし、樹脂100重量部に対し粒子を10より大きく30重量部未満配合する技術(特許文献6)
・バインダー樹脂と粒径1〜5μmの粒子を用い、樹脂と粒子の屈折率差を0.05〜0.15とする技術。さらに、用いる溶媒、表面粗さなどを所定の範囲とした技術(特許文献7)
・バインダー樹脂と複数の粒子を用い、樹脂と粒子の屈折率差を0.03〜0.2とする技術(特許文献8)
【0005】
このように様々な目的で様々な構成の防眩フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−18706号公報
【特許文献2】特開2003−260748号公報
【特許文献3】特開2004−004777号公報
【特許文献4】特開2003−004903号公報
【特許文献5】特開平11−305010号公報
【特許文献6】特開2002−207109号公報
【特許文献7】特開2000−338310号公報
【特許文献8】特開2000−180611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイが家庭用テレビに適用されることにより、高視野角化、高速応答化、高精細化等の表示品位の向上と共に、室内の蛍光灯や窓からの太陽光の入射、視聴者の像等がディスプレイ表面に写りこむことを防止する防眩性の向上と、明所コントラストの更なる向上が要求されている。
【0008】
しかし、防眩フィルムにおいて、防眩性の向上と画像表示装置に適用した場合の明所コントラストの向上は、トレードオフの関係である。このため、明所コントラストを重視する場合には、前記防眩層表面の凹凸を小さくして平滑性を向上させ、防眩性が多少犠牲にされる。逆に、防眩性を重視する場合には、前記防眩層表面を十分な凹凸構造とし、明所コントラストが犠牲にされる。防眩フィルムにあっては、適度な防眩性と高い明所コントラストをバランスよく兼ね備えることが要求される。
【0009】
一方、ディスプレイの表面に配置される防眩フィルムにあっては、フィルム上に存在する点欠陥が、搭載した画像装置の品位を著しく低下させることから、防眩フィルムの点欠陥は極力少ないことが強く望まれる。特に、近年のディスプレイの大型化に伴って、防眩フィルムの製造業者においては点欠陥を極力発生させないことが重要な課題となってきている。また、コントラストが高い防眩フィルムにあっては、防眩フィルム上の点欠陥が視認されやすいという問題がある。
【0010】
本発明にあっては、適度な防眩性と高いコントラストを備える防眩フィルムにあって、点欠陥が極めて少ない防眩フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1にかかる発明としては、透明基材の一方の面にバインダマトリックス中に粒子を含む防眩層を備える防眩フィルムの製造方法であって、連続的に搬送され、バックアップロールに支持された透明基材の一方の面に、電離放射線硬化型材料を含むバインダマトリックス形成材料と粒子と溶媒を備える塗液をダイヘッドから吐出し、透明基材上に塗液を塗布する工程と、該透明基材上に塗布された塗液を乾燥する工程と、電離放射線を照射し前記バインダマトリックス形成材料を硬化させる工程を備え、且つ、前記粒子の平均粒径(R)を形成される防眩層の平均膜厚(H)で除した値(R/H)が0.30以上0.80以下の範囲内であって、且つ、前記連続的に搬送される透明基材が前記バックアップロールから離れた直後、該透明基材が水平方向に対し−40°以上+40°以下の範囲内で搬送されることを特徴とする防眩フィルムの製造方法とした。
【0012】
また、請求項2にかかる発明としては、前記連続的に搬送される透明基材が前記バックアップロールから離れた直後、該透明基材が水平方向に対し−20°以上+20°以下の範囲内で搬送されることを特徴とする請求項1記載の防眩フィルムの製造方法とした。
【0013】
また、請求項3にかかる発明としては、前記連続的に搬送される透明基材がバックアップロールから離れてから5秒経過するまでの間、水平方向に対し−40°以上+40°以下の範囲内で保持された状態で搬送されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の防眩フィルムの製造方法とした。
【0014】
また、請求項4にかかる発明としては、前記連続的に搬送される透明基材がバックアップロールから離れてから5秒経過するまでの間、水平方向に対し−20°以上+20°以下の範囲内で保持された状態で搬送されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法とした。
【0015】
また、請求項5にかかる発明としては、前記塗液において、粒子はバインダマトリックス形成材料100重量部に対して1重量部以上15重量部以下の範囲内で含まれることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法とした。
【0016】
また、請求項6にかかる発明としては、観請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする防眩フィルムとした。
【0017】
また、請求項7にかかる発明としては観察者側から順に、請求項6に記載の防眩フィルム、偏光板、液晶セル、偏光板、バックライトユニットをこの順に備え、防眩層が観察者側の表面にあることを特徴とする透過型液晶ディスプレイとした。
【0018】
また、請求項8にかかる発明としては、請求項6記載の防眩フィルムと、前記防眩フィルムの透明基材の防眩層形成面と反対側の面に偏光層と、透明基材を順に備えることを特徴とする偏光板とした。
【0019】
また、請求項9に係る発明としては、観察者側から順に、請求項8に記載の偏光板と、液晶セル、偏光板、バックライトユニットをこの順に備え、防眩層が観察者側の表面にあることを特徴とする透過型液晶ディスプレイとした。
【発明の効果】
【0020】
上記構成の防眩フィルムの製造方法により、適度な防眩性と高いコントラストを備える防眩フィルムにおいて点欠陥が極めて少ない防眩フィルムの製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1に本発明の防眩フィルムの断面模式図である。
【図2】図2に本発明の防眩フィルムの製造装置の説明図である。
【図3】図3に本発明の防眩フィルムの製造装置の塗布機構Aの説明図である。
【図4】図4は本発明の透過型液晶ディスプレイの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1に本発明の防眩フィルムの断面模式図を示した。本発明の防眩フィルムにあっては、本発明の防眩フィルム(1)は透明基材(11)の少なくとも一方に防眩層(12)を備える。本発明の防眩フィルム(1)の防眩層(12)はバインダマトリックス(120)と粒子(121)を含む。本発明においてバインダマトリックス(120)は、防眩層に含まれる粒子(121)以外の成分をさす。
【0024】
本発明の防眩フィルムにあっては、防眩層に含まれる粒子の平均粒径(R)を防眩層の平均膜厚で除した値(R/H)が0.30以上0.80以下の範囲内であることを特徴とする。本発明にあっては防眩層が粒子を含むことにより防眩層表面に凹凸形状を形成し、防眩性を発現している。R/Hが0.80を超える場合にあっては、防眩層表面に粒子由来の大きな凸部が形成され表面凹凸が過剰となり、防眩性は向上するものの外光が映りこんだ際の明所コントラストを大きく低下させしまう。
【0025】
表面に凹凸構造を備える防眩フィルムにおいては、表面に形成される凸部を大きくすることにより、外光が映りこんだ際に外光の像が不鮮明とすることができ、防眩性を得ることができる。しかしながら、防眩層表面の凹凸構造が過剰となった場合には、蛍光灯等の照明が映りこんだ際に「白ボケ」と呼ばれるディスプレイ全体が白茶ける現象が発生する。白ボケは、防眩層表面に形成された過剰な凹凸構造により、防眩層表面に入射する蛍光灯等の照明が過剰に散乱することによる。この白ボケによって、明所での黒表示の輝度が上昇し、結果として明所コントラストが低下してしまう。
【0026】
一方、R/Hが0.30に満たない場合にあっては、粒子が小さすぎるために、防眩層表面に凹凸を形成することができず、適度な防眩性を得ることができなくなってしまう。R/Hが0.30に満たない場合にあっては、外光の写り込みを十分に防ぐことができなくなってしまう。
【0027】
なお、本発明において、防眩層の平均膜厚(H)とは表面凹凸のある防眩層の膜厚の平均値のことである。平均膜厚は、電子マイクロメーター、全自動微細形状測定機により求めることができる。また、本発明に用いられる粒子の平均粒径(R)は、光散乱式粒子径分布測定装置により求められる。
【0028】
なお、本発明の防眩フィルムにあっては、粒子はバインダマトリックス形成材料100重量部に対して1重量部以上15重量部以下の範囲内で含まれることが好ましい。粒子の含有量が1重量部に満たない場合にあっては、防眩層表面に十分な凹凸構造を形成することができず、適度な防眩性を得ることができなくなってしまうことがある。一方、粒子の含有量が15重量部を超える場合には、防眩層表面の凹凸構造が過剰となりコントラストが低下することがある。
【0029】
なお、本発明の防眩フィルムにあっては、防眩層の平均膜厚(H)が4μm以上18μm以下の範囲内であることが好ましい。防眩層の平均膜厚が4μmを下回る場合、得られる防眩フィルムはディスプレイ表面に設けられるだけの十分な表面硬度を得ることができなくなってしまうことがある。一方、防眩層の平均膜厚が18μmを超えるような場合、コスト高になり、また、得られる防眩フィルムのカールの度合いが大きくなってしまいディスプレイ表面に設けるための加工工程に適さないことがある。
【0030】
なお、本発明の防眩フィルムは、必要に応じて、反射防止性能、帯電防止性能、防汚性能、電磁波シールド性能、赤外線吸収性能、紫外線吸収性能、色補正性能等を有する機能層が設けられる。これらの機能層としては、反射防止層、帯電防止層、防汚層、電磁波遮蔽層、赤外線吸収層、紫外線吸収層、色補正層等が挙げられる。なお、これらの機能層は単層であってもかまわないし、複数の層であってもかまわない。機能層は、防汚性能を有する反射防止層というように、1層で複数の機能を有していても構わない。また、これらの機能層は、透明基材と防眩層の間に設けても良いし、防眩層上に設けても良い。また、本発明にあっては、各種層間の接着性向上のために、各層間にプライマー層や接着層等を設けても良い。
【0031】
図2に本発明の防眩フィルムの製造装置の説明図を示した。本発明の防眩フィルムの製造方法にあっては、防眩フィルムはロール・ツー・ロール方式により連続的に作製される。長尺状の透明基材(11)は、巻き出しロール(21)から巻き取りロール(26)まで連続的に搬送され、塗布機構A、乾燥機構B、電離放射線照射機構Cを順に搬送される。このとき、複数のガイドロール(27)を用いて透明基材(11)は搬送される。
【0032】
透明基材は、塗布機構Aにより電離放射線硬化型材料を含むバインダマトリックス形成材料と粒子と溶媒を備える塗液が透明基材上に塗布される。そして、乾燥機構Bにより透明基材上に塗布された塗液の溶媒が除去され乾燥される。そして、電離放射線照射機構Cにより透明基材上の塗液中のバインダマトリックス形成材料は硬化されバインダマトリックスとなり、透明基材上に防眩層が形成される。
【0033】
塗布機構Aにあっては、バックアップロール(28)に支持された透明基材(11)の一方の面に電離放射線硬化型材料を含むバインダマトリックス形成材料と粒子と溶媒を含む塗液がダイヘッド(22)のリップ先端から吐出され、透明基材(11)上に塗液からなる塗膜が形成される。本発明の防眩フィルムにあっては、ダイヘッドを用いたダイコート方式により透明基材上に塗液が塗布される。
【0034】
ダイコート方式にあっては、ダイヘッドの中に塗液を導入した後一旦マニホールドと呼ばれる場所で幅方向に広げられ、スリットと呼ばれる狭い隙間を通すことにより透明基材の幅方向均一に塗布される。図3に本発明の防眩フィルムの製造装置の塗布機構Aを拡大した説明図を示した。ダイヘッド(22)と塗液タンク(224)が配管(221)によって接続され、送液ポンプ(223)によって、塗液タンク(224)の塗液がダイヘッド(22)のマニホールド内に送液される構造となっている。ダイヘッド30に送液された塗液はスリット間隙から塗液を吐出し、透明基材(11)上に塗液が塗布される。このとき透明基材(11)はバックアップロール(28)に支持されている。
【0035】
マニホールドおよびスリットからなるダイヘッドより所定の塗液を吐出させ、スリットにてビードを形成し透明基材上に塗液を塗布するダイコート方式では、塗液タンクから塗布までの間、塗液を大気に触れさせることなく塗布を行える閉鎖系であり、塗液の成分比の変化や異物の混入といった塗液の劣化を回避することができ、また、点欠陥の発生を防ぐことができる。
【0036】
例えば、塗液が大気に触れることのある開放系のグラビアコート方式で透明基材上に塗液を塗布する場合には、塗液の成分比の変化や異物の混入といった塗液の劣化が生じる。塗液の劣化は、形成される塗膜面に点欠陥をもたらす。本発明にあっては、塗液が閉鎖系であるダイコート方式を用いることにより、塗液の劣化を回避することができ点欠陥の発生を防ぐことができる。
【0037】
本発明の防眩フィルムの製造方法にあっては、連続的に搬送される透明基材(11)がバックアップロール(28)から離れた直後、塗布直後の透明基材(11)の傾斜角度(θ)が±40°の範囲内となるように搬送される。
【0038】
乾燥機構Bにあっては、塗布機構Aにより塗布された透明基材(11)上の塗液に含まれる溶媒を除去することを目的としておこなわれる。乾燥は、塗膜が形成された基材フィルムが乾燥炉(23)を通過することによりおこなわれる。例えば、乾燥炉としては放射型、循環風型などが挙げられ、乾燥風の形成には、熱風器、加熱ロール、遠赤外線ヒータを用いることができる。
【0039】
電離放射線照射機構Cにあっては、搬送される透明基材(11)と対向するようにロール(25)と電離放射線照射装置(24)が配置され、電離放射線が照射され、バインダマトリックス形成材料は硬化されバインダマトリックスとなる。電離放射線照射機構Cにあっては、ガイドロールで透明基材を直状に支持した状態で電離放射線を照射する方式(フリースパン搬送方式)であってもよいし、大径のロールで透明基材を支持、冷却しながら電離放射線を照射する方式(ロールサポート搬送方式)であってもよい。
【0040】
本発明の電離放射線照射機構Cにおいて、電離放射線としては、紫外線、電子線を用いることができる。電離放射線として紫外線を用いる場合は、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク等の光源を電離放射線照射装置として用いることができる。また、電離放射線として電子線を用いる場合は、コックロフトワルト型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を電離放射線照射装置として用いることができる。なお、電離放射線照射は酸素濃度が低い雰囲気下でおこなわれることが好ましい。
【0041】
本発明の防眩フィルムの製造方法にあっては、連続的に搬送される透明基材(11)がバックアップロール(28)から離れた直後、透明基材(11)が水平方向に対し−40°以上+40°以下の範囲内であることが好ましい。塗布直後の透明基材(11)の傾斜角度(θ)を±40°の範囲内とすることにより、点欠陥の極めて少ない防眩フィルムとすることができる。なお、さらには、塗布直後の透明基材(11)の傾斜角度(θ)は±20°の範囲内であることが好ましい。
【0042】
ここで、本発明における防眩フィルムでの点欠陥とは、防眩層上に通常の目視で見える直径100μm以上の点欠陥を意味する。このような点欠陥は、目視による透過、もしくは反射観察により確認され、正常部と異なって見える。透過もしくは反射観察の方法としては各種画像表示で想定される観察方法であり、蛍光灯、タングステン光、人工太陽光等、各種光源下での観察や、強い光の下透過観察、偏光板クロスニコル下の透過観察、防眩層理面を黒色にした状態での観察等でおこなうことができ、防眩フィルムの使用用途にあわせておこなわれる。
【0043】
本発明の点欠陥と認識される領域とは、目視による透過もしくは反射観察により正常部と異なって見える領域を意味する。点欠陥には種々の形状があり、円形状、楕円形状、棒状、矩形状の場合もあるが、楕円状、アメーバー状等の不定形の場合が多く、本発明で言う点欠陥とは、最も小さくとも直径100μmの円がすっぽりと入る大きさの形状の点欠陥である。
【0044】
本発明の防眩フィルムにおける点欠陥は、1m当たり平均2.0個以下であり、1m当たり平均0.5個以下であることがより好ましく、1m当たり平均0.1個以下であることが特に好ましい。さらに本発明の防眩フィルムは、直径100μm以上の点欠陥の個数が平均1.0個/1m以下である部分を、少なくとも500m以上、好ましくは1000m以上、更に好ましくは3000m以上にわたって有することが好ましい。
【0045】
防眩フィルムに発生する点欠陥としては、目視や光学顕微鏡等の観察により、主に、核となる異物を持つ点欠陥(異物欠点)と、核となる異物を持たない点欠陥に大別できる。ここで、核となる異物とは、工程の塵埃等外部からの混入による異物、塗布する透明基材から発生するクズによる異物、塗液に用いる原材料中の不溶解物、不純物、塗布液中のかわばり、反応物などの成分が固形になった異物等であり、核となる異物を持つ点欠陥とは、周囲の塗膜の成分、組成比と異なる固形物が観察される点欠陥である。このような核となる異物は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡などによる、表面、断面観察により確認できる。
【0046】
これに対し、核となる異物を有しない点欠陥は、防眩フィルムの目視検査で、点欠陥として見えるが、欠陥部を光学顕微鏡、電子顕微鏡等で表面、断面を観察した時に、核となる異物が見えない点欠陥である。本発明の点欠陥は特に核となる異物を有しない点欠陥である。ただし、点欠陥の中に粒子の凝集したものまたは粒子が少ない部分が観察されることがある。
【0047】
防眩フィルムに生じる核となる異物を有しない点欠陥は粒子の不均一な凝集が原因で発生し、目視による透過または反射観察でその部分の光拡散性が低下または上昇して見える。防眩フィルムあっては、粒子の凝集で凹凸構造を形成、粒子が不均一に凝集する場合がある。特に、適度な防眩性と高い明所コントラストを兼ね備えた防眩フィルムにあっては、100μm以上の領域で粒子の疎または密の部分ができるとその部分で、光拡散性が低下または上昇し、非常に認識され易い点欠陥になる。この粒子の不均一な凝集によって発生する点欠陥は核となる異物を有しない点欠陥である。
【0048】
本発明者らは、透明基材上に塗液が塗布された直後において、透明基材を水平方向に対して−40°以上+40°以下の範囲内とすることにより、さらには−20°以上+20°以下の範囲内とすることにより、適度な防眩性と高い明所コントラストを兼ね備えた防眩フィルムにおいて確認されやすい粒子の不均一な凝集による点欠陥の発生を極めて少なくできることを見出し、本発明に至った。
【0049】
透明基材上に防眩層を形成するにあっては、透明基材上に塗液が塗布された直後から透明基材上の塗液に含まれる溶媒は蒸発する。本発明者らは、透明基材上の塗液が溶媒を多く含んでいる塗布直後において、透明基材をできるだけ水平に保つことにより粒子の不均一な凝集による点欠陥の発生を極めて少なくできることを見出し、本発明に至った。本発明の防眩フィルムは、適度な防眩性と高い明所コントラストを兼ね備えながら、点欠陥が極めて少ない防眩フィルムである。
【0050】
透明基材上に塗液が塗布された直後において、透明基材はできるだけ水平に維持されることが好ましい。即ちθはできるだけ0°に近いほうが好ましく、塗布直後の透明基材をできるだけ水平に近づけることにより粒子の不均一な凝集による点欠陥の発生を防ぐことができる。本発明の防眩フィルムにおいてθは−40°以上40°以下の範囲内であることを特徴とするが、さらには−20°以上20°以下の範囲内であることが好ましく、さらには−10°以上10°以下の範囲内であることが好ましい。
【0051】
また、本発明の防眩フィルムの製造方法にあっては、連続的に搬送される透明基材がバックアップロールから離れてから5秒経過するまでの間、水平方向に対し−40°以上+40°以下の範囲内で保持した状態で搬送されることが好ましい。連続的に搬送される透明基材がバックアップロールから離れてから5秒経過するまでの間、透明基材を水平方向に対し−40°以上+40°以下の範囲内で保持することにより、本発明の効果をより大きなものとすることができる。すなわち、適度な防眩性と高い明所コントラストを兼ね備えた防眩フィルムにおいて確認されやすい粒子の不均一な凝集による点欠陥の発生をさらに少なくことができる。さらには、連続的に搬送される透明基材がバックアップロールから離れてから5秒経過するまでの間、水平方向に対し−20°以上+20°以下の範囲内で保持した状態で搬送されることが好ましい。
【0052】
なお、本発明の防眩フィルムの製造方法にあっては、防眩層に含まれる粒子の平均粒径(R)を防眩層の平均膜厚で除した値(R/H)が0.30以上0.80以下の範囲内であることを特徴とする。本発明にあっては防眩層が粒子を含むことにより防眩層表面に凹凸形状を形成し、防眩性を発現している。R/Hが0.80を超える場合にあっては、防眩層表面に粒子由来の大きな凸部が形成され表面凹凸が過剰となり、防眩性は向上するものの外光が映りこんだ際の明所コントラストを大きく低下させしまう。また、R/Hが0.80を超える場合には、防眩層中に粒子の不均一な凝集は発生しにくくなり、点欠陥は視認されにくい。したがってR/Hが0.80を超える場合には、本発明の効果は得られにくくなる。本発明の防眩フィルムの製造方法にあってはR/Hが0.80を下回るような粒子を用いた際に粒子の不均一な凝集による点欠陥を防ぐことができるという大きな効果を得ることができる。
【0053】
なお、本発明の防眩フィルムの製造方法にあっては、塗液において粒子はバインダマトリックス形成材料100重量部に対して1重量部以上15重量部以下の範囲内で含まれることが好ましい。粒子の含有量が1重量部に満たない場合にあっては、防眩層表面に十分な凹凸構造を形成することができず、適度な防眩性を得ることができなくなってしまうことがある。一方、粒子の含有量が15重量部を超える場合には、、防眩層表面の凹凸構造が過剰となりコントラストが低下することがある。粒子の含有量を15重量部以下と少ない含有量で防眩層を形成した際には、防眩層中に粒子の不均一な凝集が発生しやすく、点欠陥が視認されやすくなる。本発明の防眩フィルムの製造方法にあっては、粒子の含有量を1重量部以上15重量部以下とした際に大きな効果を得ることができる。
【0054】
次に、本発明の透過型液晶ディスプレイ及び偏光板について説明する。図4に本発明の防眩フィルムを用いた透過型液晶ディスプレイの模式図を示した。図4(a)の透過型液晶ディスプレイにおいては、防眩フィルム(1)、偏光板(3)、液晶セル(4)、偏光板(5)、バックライトユニット(6)をこの順に備えている。このとき、防眩フィルム(1)側が観察側すなわちディスプレイ表面となる。
【0055】
バックライトユニット(6)は、光源と光拡散板を備える。液晶セル(4)は、一方の透明基材に電極が設けられ、もう一方の透明基材に電極及びカラーフィルターを備えており、両電極間に液晶が封入された構造となっている。液晶セル(4)を挟むように設けられる偏光板にあっては、透明基材(31、32、51、52)間に偏光層(33、53)を挟持した構造となっている。
【0056】
図4(a)にあっては、防眩フィルム(1)の透明基材(11)と偏光板(3)の透明基材を別々に備える透過型液晶ディスプレイとなっている。一方、図4(b)にあっては、
防眩フィルム(1)の透明基材(11)の防眩層の反対側の面に偏光層(33)が設けられており、透明基材(11)が防眩フィルム(2)の透明基材と偏光板(3)の透明基材を兼ねる構造となっている。即ち、本発明の防眩フィルム(1)の防眩層(12)形成面と反対側の面に偏光層(33)と透明基材(32)を順に備え、偏光板を形成している。
【0057】
また、本発明の透過型液晶ディスプレイにあっては、他の機能性部材を備えても良い。他の機能性部材としては、例えば、バックライトから発せられる光を有効に使うための、拡散フィルム、プリズムシート、輝度向上フィルムや、液晶セルの位相差や偏光板の視野角特性を補償するための位相差フィルムが挙げられるが、本発明の透過型液晶ディスプレイはこれらに限定されるものではない。
【0058】
本発明の防眩フィルムについてさらに詳細に説明する。
【0059】
本発明に用いられる透明基材としては、ガラスやプラスチックフィルムなどを用いることができる。プラスチックフィルムとしては適度の透明性、機械強度を有していれば良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等のフィルムを用いることができる。中でも、トリアセチルセルロースフィルムは複屈折が少なく、透明性が良好であることから好適に用いることができ、特に、本発明の防眩フィルムを液晶ディスプレイ表面に設けるにあっては、透明基材としてトリアセチルセルロースを用いることが好ましい。
【0060】
また、図4(b)で示したように、透明基材の防眩層が設けられる面の反対側の面に偏光層を設けることも可能である。このとき、偏光層としては、ヨウ素を加えた延伸ポリビニルアルコール(PVA)からなるものを例示することができる。このとき、偏光層は透明基材に狭持されている。
【0061】
防眩層を形成するための塗液としては、少なくとも電離放射線によって硬化する電離照射線硬化型材料を含むバインダマトリックス形成材料と粒子と溶媒を含む。
【0062】
このとき、バインダマトリックス形成材料に含まれる電離放射線硬化型材料としてはアクリル系材料を用いることができる。アクリル系材料としては、多価アルコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステルのような多官能または多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及びアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。またこれらの他にも、電離放射線型材料として、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができる。
【0063】
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタクリレート」の両方を示している。たとえば、「ウレタン(メタ)アクリレート」は「ウレタンアクリレート」と「ウレタンメタアクリレート」の両方を示している。
【0064】
単官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0065】
前記2官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0066】
前記3官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2−ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0067】
また、ウレタン(メタ)アクリレート化合物としては、多価アルコール、多価イソシアネート及び水酸基含有アクリレートを反応させることによって得られる化合物を用いることができるが、具体的には、共栄社化学社製、UA−306H、UA−306T、UA−306I等、日本合成化学社製、UV−1700B、UV−6300B、UV−7600B、UV−7605B、UV−7640B、UV−7650B等、新中村化学社製、U−4HA、U−6HA、UA−100H、U−6LPA、U−15HA、UA−32P、U−324A等、ダイセルユーシービー社製、Ebecryl−1290、Ebecryl−1290K、Ebecryl−5129等、根上工業社製、UN−3220HA、UN−3220HB、UN−3220HC、UN−3220HS等を用いることができる。
【0068】
また、バインダマトリックス形成材料としては、電離放射線硬化型材料であるアクリル系材料の他に熱可塑性樹脂等を加えることもできる。熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル及びその共重合体、塩化ビニル及びその共重合体、塩化ビニリデン及びその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、アクリル樹脂及びその共重合体、メタクリル樹脂及びその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等を使用できる。熱可塑性樹脂を加えることにより、透明基材と防眩層との密着性を向上させることができる。また、熱可塑性樹脂を加えることにより、製造される防眩フィルムのカールを抑制することができる。
【0069】
また、電離放射線として紫外線を用いる場合、塗液には光重合開始剤が加えられる。光重合開始剤は、公知の光重合開始剤を用いることができるが、用いる電離放射線硬化型材料にあったものを用いることが好ましい。光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾインとそのアルキルエーテル類等が用いられる。光重合開始剤の使用量は、バインダマトリックス形成材料100重量部に対して0.5重量部以上20重量部以下の範囲内である。好ましくは1重量部以上5重量部以下の範囲内である。なお、バインダマトリックス形成材料は塗液から粒子成分と溶媒成分を除いた成分である。
【0070】
本発明に用いられる粒子としては、アクリル粒子、アクリルスチレン粒子、ポリスチレン粒子、ポリカーボネート粒子、メラミン粒子、エポキシ粒子、ポリウレタン粒子、ナイロン粒子、ポリエチレン粒子、ポリプロピレン粒子、シリコーン粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子、ポリフッ化ビニリデン粒子、ポリ塩化ビニル粒子、ポリ塩化ビニリデン粒子、ガラス粒子、シリカ等を用いることができる。なお、本発明にあっては、粒子は複数種の粒子であっても構わない。
【0071】
本発明に用いられる粒子としては、粒子の平均粒径(R)を形成される防眩層の平均膜厚(H)で除した値(R/H)が0.30以上0.80以下となるように選択される。また、粒子はバインダマトリックス形成材料100重量部に対して1重量部以上15重量部以下の範囲内で含まれることが好ましい。粒子の含有量が15重量部を超える場合にあっては、形成される防眩層の表面凹凸が過剰となり、防眩性は向上するものの外光が映りこんだ際の明所コントラストを大きく低下させしまうことがある。一方、粒子の含有量が1重量部に満たない場合にあっては、外光の写り込みを十分に防ぐことができなくなり、適度な防眩性が得られなくなってしまうことがある。さらには、粒子はバインダマトリックス形成材料100重量部に対して3重量部以上10重量部以下の範囲内で含まれることが好ましい。
【0072】
塗液には、溶媒が加えられる。溶媒を加えることにより、粒子やバインダマトリックスを均一に分散させ、また、塗液を透明基材上に塗布するに際し、塗液の粘度を適切な範囲に調整することが可能となる。
【0073】
本発明においては、透明基材としてトリアセチルセルロースを用い、トリアセチルセルロースフィルム上に他の機能層を介さず直接防眩層を設ける場合には、防眩層形成用塗液の溶媒として、トリアセチルセルロースフィルムを溶解または膨潤させる溶媒とトリアセチルセルロースフィルムを溶解または膨潤させない溶媒の混合溶媒を用いることが好ましく、混合溶媒を用いることによりトリアセチルセルロースフィルムと防眩層界面において十分な密着性を有する防眩フィルムとすることができる。
【0074】
このとき、トリアセチルセルロースフィルムを溶解または膨潤させる溶媒としては、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトール等のエーテル類、またアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、およびエチルシクロヘキサノン等の一部のケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n−ペンチル、およびγ−プチロラクトン等のエステル類、さらには、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類が挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
一方、トリアセチルセルロースフィルムを溶解または膨潤させない溶媒としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、n−ヘキサンなどの炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトンなどの一部のケトン類などが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
本発明にあっては、塗布、形成される防眩層においてハジキ、ムラといった欠陥の発生をさらに防止するために、表面調整剤と呼ばれる添加剤を加えても良い。表面調整剤は、その働きに応じて、レベリング剤、消泡剤、界面張力調整剤、表面張力調整剤とも呼ばれるが、いずれも形成される塗液からなる塗膜の表面張力を低下させる働きを備える。
【0077】
表面調整剤として通常用いられる添加剤としては、シリコーン系添加剤、フッ素系添加剤、アクリル系添加剤等が挙げられる。シリコーン系添加剤にあっては、ポリジメチルシロキサンを基本構造とする誘導体であり、ポリジメチルシロキサン構造の側鎖を変性したものが用いられる。例えば、ポリエーテル変性ジメチルシロキサンがシリコーン添加剤として用いられる。また、フッ素系添加剤としては、パーフルオロアルキル基を備える化合物が用いられる。また、アクリル系添加剤としては、アクリルモノマーやメタクリルモノマーやスチレンモノマーを重合させた構造を基本構造とするものが用いられる。また、アクリル系添加剤にあっては、アクリルモノマーやメタクリルモノマーやスチレンモノマーを重合させた構造を基本構造として、側鎖にアルキル基やポリエーテル基、ポリエステル基、水酸基、エポキシ基等の置換基を含有していても構わない。
【0078】
また、本発明の塗液においては、塗液中に先に述べた表面調整剤のほかにも、他の添加剤を加えても良い。ただし、これらの添加剤は形成される防眩層の透明性、光の拡散性などに影響を与えないほうが好ましい。機能性添加剤としては、帯電防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、防汚剤、撥水剤、屈折率調整剤、密着性向上剤などを使用できる。これらの添加剤を加えることにより、形成される防眩層に帯電防止機能、紫外線吸収機能、赤外線吸収機能、防汚機能、撥水機能といった、防眩機能以外の機能を持たせることができる。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を示す。
【0080】
(実施例1)
図2に示すような、ダイコート法による塗液を塗布しバックアップロールから離れた直後に透明基材を水平に搬送できるような設備を兼ね備えている製造装置を用い、防眩フィルムの作製を実施した。このときダイコート法により透明基材上に塗液を塗布しバックアップロールから離れた直後、透明基材は水平方向に対し0°(θ=0°)となるように搬送した。
【0081】
透明基材としてはトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製TD−80U)を用いた。塗液としては(表1)に示すように、共栄社化学社製PE3A(ペンタエリスリトールトリアクリレート)100重量部、チバジャパン社製イルガキュア184(光重合開始剤)5重量部、ビックケミー社製BYK350(アクリル系添加剤)0.5重量部、粒子(アクリルスチレン球形フィラー)5重量部、ジオキソラン30重量部、トルエン70重量部からなるものを用いた。形成される防眩層の膜厚が8μmになるように塗布量、搬送スピードを調整して、バックアップロールを離れてからθ=0°となるように水平に透明基材を搬送する時間を15秒とし、塗液を塗布した。その後、乾燥炉により溶媒を蒸発させ、さらに高圧水銀灯を用い酸素濃度が0.03%以下の雰囲気下で400mJの紫外線照射をおこない、透明基材上に防眩層を形成した。作製した防眩フィルムの塗液の塗布幅は1320mmで、巻き取り後の長さは1800mだった。
【0082】
【表1】

【0083】
(実施例2)
(実施例1)と同様の製造装置であって、ダイコート法により塗液を塗布し、バックアップロールから離れた直後に透明基材が水平方向に対し20°の角度(θ=20°)で搬送される装置を用い、防眩フィルムの作製を実施した。透明基材としてはトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製TD−80U)を用い、塗液としては(実施例1)と同じ(表1)に示す塗液を用いた。形成される防眩層の膜厚が8μmになるように塗布量を調整して、バックアップロールを離れてからθ=20°として搬送する時間を15秒とし、塗液を塗布した。その後、乾燥炉により溶媒を蒸発させ、さらに高圧水銀灯を用い酸素濃度が0.03%以下の雰囲気下で400mJの紫外線照射をおこない、透明基材上に防眩層を形成した。作製した防眩フィルムの塗液の塗布幅は1320mmで、巻き取り後の長さは1800mだった。
【0084】
(実施例3)
(実施例1)と同様の製造装置であって、ダイコート法により塗液を塗布し、バックアップロールから離れた直後に透明基材が水平方向に対し40°の角度(θ=40°)で搬送される装置を用い、防眩フィルムの作製を実施した。透明基材としてはトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製TD−80U)を用い、塗液としては(実施例1)と同じ(表1)に示す塗液を用いた。形成される防眩層の膜厚が8μmになるように塗布量を調整して、バックアップロールを離れてからθ=40°として搬送する時間を15秒とし、塗液を塗布した。その後、乾燥炉により溶媒を蒸発させ、さらに高圧水銀灯を用い酸素濃度が0.03%以下の雰囲気下で400mJの紫外線照射をおこない、透明基材上に防眩層を形成した。作製した防眩フィルムの塗液の塗布幅は1320mmで、巻き取り後の長さは1800mだった。
【0085】
(比較例1)
(実施例1)と同様の製造装置であって、ダイコート法により塗液を塗布し、バックアップロールから離れた直後に透明基材が水平方向に対し45°の角度(θ=45°)で搬送される装置を用い、防眩フィルムの作製を実施した。透明基材としてはトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製TD−80U)を用い、塗液としては(実施例1)と同じ(表1)に示す塗液を用いた。形成される防眩層の膜厚が8μmになるように塗布量を調整して、バックアップロールを離れてからθ=45°として搬送する時間を15秒とし、塗液を塗布した。その後、乾燥炉により溶媒を蒸発させ、さらに高圧水銀灯を用い酸素濃度が0.03%以下の雰囲気下で400mJの紫外線照射をおこない、透明基材上に防眩層を形成した。作製した防眩フィルムの塗液の塗布幅は1320mmで、巻き取り後の長さは1800mだった。
【0086】
(比較例2)
(実施例1)と同様の製造装置、透明基材、塗液を用い、防眩層を作製した。このとき、形成後の防眩層の膜厚が20μmになるように塗布量を調整して、バックアップロールを離れてからθ=0°となるように水平に透明基材を搬送する時間を15秒とし、塗液を塗布した。その後、乾燥炉により溶媒を蒸発させ、さらに高圧水銀灯を用い酸素濃度が0.03%以下の雰囲気下で400mJの紫外線照射をおこない、透明基材上に防眩層を形成した。作製した防眩フィルムの塗液の塗布幅は1320mmで、巻き取り後の長さは1800mだった。
【0087】
(比較例3)
(実施例1)と同様の製造装置、透明基材、塗液を用い、防眩層を作製した。このとき、形成後の防眩層の膜厚が4μmになるように塗布量を調整して、バックアップロールを離れてからθ=0°となるように水平に透明基材を搬送する時間を15秒とし、塗液を塗布した。その後、乾燥炉により溶媒を蒸発させ、さらに高圧水銀灯を用い酸素濃度が0.03%以下の雰囲気下で400mJの紫外線照射をおこない、透明基材上に防眩層を形成した。作製した防眩フィルムの塗液の塗布幅は1320mmで、巻き取り後の長さは1800mだった。
【0088】
(実施例1)、(比較例1)〜(比較例3)で得られた防眩フィルムについて、以下の方法で「防眩性」、「明所コントラスト」、「点欠陥個数」の評価をおこなった。
【0089】
以下に、防眩フィルムの評価方法の詳細を示す。
【0090】
・「防眩性」
実施例及び比較例において得られた防眩フィルムを黒色のプラスティック板に粘着剤を介して貼り付けた状態で、1m離れた地点から観察し目視評価した。目視評価の結果、自らの顔が全く気にならない場合を「二重丸印」、自らの顔が確認されるものの許容される場合を「丸印」、自らの顔が鮮明に写りこむ場合を「バツ印」とした。
【0091】
・「明所コントラスト」
実施例及び比較例において得られた防眩フィルムを粘着剤を介して液晶モニター(BUFFALO社製FTD−W2023ADSR)に貼り付け、輝度計(コニカミノルタ社製LS−100)を用いて液晶モニターの白表示時の輝度(白輝度)、黒表示時の輝度(黒輝度)を測定し、白輝度を黒輝度で除した値をコントラストとした。測定環境は測定部が200luxとなるように調光した明室条件それぞれで測定した。このとき、実施例及び比較例において得られた防眩フィルムが無い状態で測定した値からの低下率が、明室条件下で45%以下の場合を「丸印」、45%を越えた場合を「バツ印」として、評価した。
【0092】
・「点欠陥個数」
実施例及び比較例において得られた防眩フィルムを目視にて点欠陥検査を行った。具体的には、防眩フィルムの1m上方に蛍光灯を設置し、蛍光灯の光を反射させて反射光観察にて確認した。なお、点欠陥数は検査面積1mあたりの点欠陥の平均数を示した。
【0093】
(表2)に、(実施例1)、(比較例1)〜(比較例3)で得られた防眩フィルムの「防眩性」、「明所コントラスト」、「点欠陥個数」の評価結果を示す。
【0094】
【表2】

【0095】
以上の結果、(実施例1)〜(実施例3)の防眩フィルムにあっては、(比較例1)〜(比較例3)の防眩フィルムと比較して、防眩性有しながら、ディスプレイに使用した際の明所コントラスト低下の少なく、且つ、視認性を低下させる要因の点欠陥個数の少ない防眩フィルムとすることができた。なお、(実施例1)〜(実施例3)及び(比較例1)〜(比較例3)の防眩フィルムで確認された点欠陥について光学顕微鏡により観察をおこなったところ、いずれも核となる異物を有さない点欠陥であった。
【符号の説明】
【0096】
1 防眩フィルム
11 透明基材
120 バインダマトリックス
121 粒子
21 巻き出しロール
22 ダイヘッド
221 配管
223 送液ポンプ
224 塗液タンク
23 乾燥炉
24 電離放射線照射装置
25 ロール
26 巻き取りロール
27 ガイドロール
28 バックアップロール
3 偏光板
31 透明基材
32 透明基材
33 偏光層
4 液晶セル
5 偏光板
51 透明基材
52 透明基材
53 偏光層
6 バックライトユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の一方の面にバインダマトリックス中に粒子を含む防眩層を備える防眩フィルムの製造方法であって、
連続的に搬送され、バックアップロールに支持された透明基材の一方の面に、電離放射線硬化型材料を含むバインダマトリックス形成材料と粒子と溶媒を備える塗液をダイヘッドから吐出し、透明基材上に塗液を塗布する工程と、
該透明基材上に塗布された塗液を乾燥する工程と、
電離放射線を照射し前記バインダマトリックス形成材料を硬化させる工程を備え、且つ、
前記粒子の平均粒径(R)を形成される防眩層の平均膜厚(H)で除した値(R/H)が0.30以上0.80以下の範囲内であって、且つ、
前記連続的に搬送される透明基材が前記バックアップロールから離れた直後、該透明基材が水平方向に対し−40°以上+40°以下の範囲内で搬送される
ことを特徴とする防眩フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記連続的に搬送される透明基材が前記バックアップロールから離れた直後、該透明基材が水平方向に対し−20°以上+20°以下の範囲内で搬送されることを特徴とする請求項1記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記連続的に搬送される透明基材がバックアップロールから離れてから5秒経過するまでの間、水平方向に対し−40°以上+40°以下の範囲内で保持された状態で搬送されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記連続的に搬送される透明基材がバックアップロールから離れてから5秒経過するまでの間、水平方向に対し−20°以上+20°以下の範囲内で保持された状態で搬送されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記塗液において、粒子はバインダマトリックス形成材料100重量部に対して1重量部以上15重量部以下の範囲内で含まれることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項7】
観察者側から順に、請求項6に記載の防眩フィルム、偏光板、液晶セル、偏光板、バックライトユニットをこの順に備え、防眩層が観察者側の表面にあることを特徴とする透過型液晶ディスプレイ。
【請求項8】
請求項6記載の防眩フィルムと、前記防眩フィルムの透明基材の防眩層形成面と反対側の面に偏光層と、透明基材を順に備えることを特徴とする偏光板。
【請求項9】
観察者側から順に、請求項8に記載の偏光板と、液晶セル、偏光板、バックライトユニットをこの順に備え、防眩層が観察者側の表面にあることを特徴とする透過型液晶ディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−102291(P2010−102291A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51979(P2009−51979)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】