説明

防錆組成物及びこれを用いた防錆処理方法

【課題】塗布時の垂れ防止、加温による浸透性の向上、及び加温後の冷却による大幅な粘度上昇を実現可能な防錆組成物、及びこれを用いた防錆処理方法を提供する。
【解決手段】ワックス類と、流動パラフィンと、硬化油と、を含有する防錆組成物に対して、脂肪酸アミドからなる加温型チクソ性付与剤をさらに含有させる。脂肪酸アミドとしては、脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとを反応させて得られる脂肪酸アミドであることが好ましく、加温型チクソ性付与剤の含有量としては、2質量%から5質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加温型チクソ性付与剤を含有する防錆組成物、及びこれを用いた防錆処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、冬季道路の凍結防止に、塩化カルシウムや塩化ナトリウム等の凍結防止剤が散布されることがある。これらの凍結防止剤は、散布されると粉末状あるいは水溶液となって車体の裏側に付着し、錆の原因となる。このため、予め車体の裏側等に防錆処理を施す等の防錆対策が採られている。
【0003】
ところで、日米欧を中心に自動車の防錆性能に関する基準が近年ますます厳しさを増している。例えば、2000年には、欧州において、5年間外観錆が無いこと及び10年間穴あき錆が無いことが要求されている。加えて、消費者団体からは、これらの基準を超える防錆性能が期待されており、特に欧州市場では防錆保証期間を12年とする自動車も増えてきている。従って、従来の防錆処理のさらなる改善により、自動車防錆性能の向上及び長寿命化が求められている。
【0004】
防錆処理は、車体の部位や構造に応じて様々な手法が採用されている。具体的には、防錆塗装剤の塗布、鋼板素材の高防錆化(例えば合金化亜鉛めっき鋼板)、防錆性能を有するシーラーやワックスの塗布等が挙げられる。
【0005】
これら防錆処理方法のうち、防錆組成物は、必要な任意の部位にスプレー塗装等の方法で塗布しやすく、また厚膜化が可能なために防錆性能が長期に保持され、且つ材料・処理のコスト面でも優れている。
【0006】
一方、自動車車体は、軽量性と安全性とを両立させるために、年々複雑化している。その一つが板合わせ部であるが、複雑な構造のために、粘度の高い防錆組成物では浸透が不十分となり、防錆処理が非常に困難になってきている。凍結防止剤等が原因の塩水が上記板合わせ部に浸入して保持された場合にあっては、錆発生の原因となることから、防錆組成物を充分に浸透させ、高い防錆性能を発現させる必要があった。
【0007】
しかしながら、防錆組成物の浸透性を確保するために、粘度を低くしすぎると垂れが発生しやすくなり、塗膜が保持されにくく、自動車車体や作業場を汚染する原因となる。また、今日では環境への配慮から、低VOC型の処理剤を用いることが求められており、溶剤型の処理剤に比して粘度が上昇しやすい点にも対応する必要がある。
【0008】
例えば、塗布時に、防錆組成物の狭隘部への浸透性を高めるために加温により粘度を下げるとともに、塗布後は冷却により粘度を上げることにより、防錆組成物が垂れ落ちることを抑制できる防錆処理方法が開示されている(特許文献1、2参照)。
【0009】
また、低有機溶剤の防錆組成物でありながら、低粘性材料からなることで粘度上昇を抑え、塗布作業性に優れる防錆組成物が開示されている(特許文献3、4参照)。
【特許文献1】特開昭59−69177号公報
【特許文献2】特開昭60−87880号公報
【特許文献3】特開2006−16632号公報
【特許文献4】特開2006−70295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術によれば、防錆組成物を加温した状態で塗布するため、防錆被膜が形成されにくいうえ垂れやすい。さらに、冷却後の粘度上昇が十分ではないため、輸送や保管時に高温となった場合には、防錆被膜が垂れるおそれがある。
【0011】
また、特許文献3、4に記載の防錆組成物は、狭隘部の浸透性は高いが、塗布時、塗布後の粘度が低すぎて、垂れが発生してしまう場合がある。垂れの発生は、作業時において作業場の汚染原因となり、また、塗布後においては、例えば真夏時等の高温多湿環境下に曝された場合に自動車ボディの汚染原因ともなる。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、塗布時の垂れ防止、加温による浸透性の向上、及び加温後の冷却による大幅な粘度上昇を実現可能な防錆組成物、及びこれを用いた防錆処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ワックス類、流動パラフィン、及び硬化油を含有する低VOC型防錆組成物に、脂肪酸アミドからなる加温型チクソ性付与剤をさらに含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0014】
請求項1記載の防錆組成物は、ワックス類と、流動パラフィンと、硬化油と、を含有する防錆組成物であって、脂肪酸アミドからなる加温型チクソ性付与剤をさらに含有することを特徴とする。
【0015】
請求項1記載の発明によれば、脂肪酸アミドからなる加温型チクソ性付与剤を用いることで、添加以外にも加温により粘度をコントロールすることができる。このため、浸透性の確保と流出防止の双方を適宜実現しうる。具体的には、図1に示すように、塗布時の初期粘度を上げ、塗布直後の垂れを抑制できる。また、浸透工程では、加温により防錆被膜の粘度が大きく低下するため、狭隘部へ防錆組成物を浸透させることができる。そして、狭隘部へ浸透させた後、降温すると防錆被膜の粘度が加温前よりも大幅に向上する。防錆組成物を一定温度以上まで加温すると、その熱エネルギーによりワックス類の結晶構造が転移し、防錆組成物は冷却後網目構造を形成するためと推測される。降温後の防錆被膜の粘度が高いので、例えば、船での輸送等において、防錆被膜が高温環境下に曝されても防錆被膜が流出せずに維持される。
【0016】
請求項2記載の防錆組成物は、請求項1記載の防錆組成物において、前記加温型チクソ性付与剤が、脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとを反応させて得られる脂肪酸アミドであることを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、加温型チクソ性付与剤として上記のような材料を用いることにより、少ない添加量で素早い加温反応が得られる。その結果、加温型チクソ性付与剤の添加による防錆被膜の防錆性能の低下を抑制できる上、短時間で粘度調整が可能で垂れも発生しにくくなる。
【0018】
請求項3記載の防錆組成物は、請求項1又は2記載の防錆組成物において、前記防錆組成物中における前記加温型チクソ性付与剤の含有量が、2質量%〜5質量%であることを特徴とする。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、加温型チクソ性付与剤の含有量が上記範囲にあるので、加温時に充分粘度が低下し、より狭隘部へ防錆被膜を浸透させやすくなる。また、加温型チクソ性付与剤の含有量が上記範囲にあれば、粘度が安定し、塗布条件も安定する。さらに、防錆被膜の強度も向上し、防錆性能が向上する。
【0020】
請求項4記載の防錆組成物は、請求項1から3いずれか記載の防錆組成物において、前記硬化油が、乾性油であることを特徴とする。
【0021】
請求項4の発明によれば、防錆被膜に充分な乾燥性を付与でき、防錆組成物の粘度調整が容易で作業性も良い。
【0022】
請求項5記載の防錆処理方法は、車両部品の防錆処理方法であって、請求項1から4いずれか記載の防錆組成物を前記車両部品に塗布して防錆被膜を形成する第1工程と、前記第1工程後の車両部品を加温することにより、前記防錆被膜の粘度を低下させて浸透性を向上させる第2工程と、前記第2工程後の車両部品を冷却することにより、前記防錆被膜の粘度を上昇させて垂れ性を向上させる第3工程と、を有することを特徴とする。
【0023】
請求項5記載の発明によれば、防錆組成物は、加温により粘度が下がるため、塗布された防錆組成物の板合わせ部等への浸透性が高い。また、加温を終了させ放置(自然冷却)すると塗布時よりも粘度が大幅に上昇する。
【0024】
請求項6記載の防錆処理方法は、請求項5記載の防錆処理方法において、前記第2工程を、車両のラッピング処理で用いられるラップ乾燥炉を利用して行うことを特徴とする防錆処理方法。
【0025】
請求項6記載の発明によれば、本発明の防錆組成物は60℃の加温で所望の粘度まで低下させることができるため、加温にはラップ乾燥炉を利用することができる。これを利用することで、新たな加熱設備が不要になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、流動パラフィンと、ワックス類と、硬化油と、を含む防錆組成物に、脂肪酸アミドからなる加温型チクソ性付与剤をさらに含有させることにより、塗布時の初期粘度を上げることができるので、塗布時に自動車ボディや作業場が汚染することを抑制できる。また、本発明の防錆組成物は、55℃〜70℃の加温により粘度が低下するので、第2工程時に防錆組成物を浸透させることができ、狭隘部への浸透性も高い。
【0027】
本発明の防錆組成物は、加温により狭隘部等に浸透させ、その後、降温すると加温前よりも粘度が大幅に上昇する。このため、高温環境下での輸送や長期間の使用に耐えうる防錆被膜が形成される。
【0028】
本発明の防錆組成物は、55℃〜70℃程度で、所望の粘度(狭隘部への浸透に必要な粘度)まで低下させることができる。その結果、ラップ乾燥炉を利用して、防錆組成物を狭隘部へ浸透させることができるので、新たに加熱工程や加熱設備を設ける必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0030】
<防錆組成物>
本発明は、流動パラフィンと、ワックス類と、硬化油と、を含む防錆組成物であって、脂肪酸アミドからなる加温型チクソ性付与剤をさらに含むことを特徴とする。そこで、先ず、本発明の防錆組成物について、加温型チクソ性付与剤、流動パラフィン、ワックス類、硬化油の順で説明する。
【0031】
[加温型チクソ性付与剤]
本発明の防錆組成物に含まれる加温型チクソ性付与剤としては、脂肪酸アミドからなり、防錆組成物に対して、加温による粘度低下の後、降温すると加温前よりも粘度が上昇する性質を付与するものであればよい。防錆組成物に上記のような加温型チクソ性付与剤を含有させることによって、防錆組成物を加温して狭隘部に浸透させた後、降温すると加温前よりも大幅に防錆被膜の粘度が上昇する。従来の防錆組成物では、防錆被膜が高温環境下に曝された際の垂れが問題となっていたが、本発明においては、この粘度上昇によって、高温環境下での輸送や長期の使用にも耐え得ることができる。
【0032】
この粘度上昇は、上記のような加温型チクソ性付与剤を防錆組成物に添加し、防錆組成物を一定温度以上まで加温すると、その熱エネルギーによりワックス類の結晶構造が転移し、防錆組成物は冷却後網目構造を形成するためと推測される。
【0033】
また、従来は最終的な防錆被膜の粘度を所望の値にするために、塗布しやすい粘度を持つ防錆組成物を用いることができなかったが、加温型チクソ性付与剤の添加により、最終的な粘度を高くすることができるので、塗布時の防錆組成物の粘度を塗布に適した粘度に設定できる。
【0034】
このような性質を付与することができる加温型チクソ性付与剤は、脂肪酸アミドからなる。脂肪酸アミドの中でも、脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとの反応物であれば、さらに好ましい。少ない添加量で、加温・降温による防錆組成物の粘度変化を素早く生じさせることができるため、素早い粘度調整が可能となり、垂れをさらに抑えることができる。また、少ない添加量で効果が得られるため、加温型チクソ性付与剤を添加することによる防錆被膜の性能低下も抑えることができる。
【0035】
防錆組成物中の加温型チクソ性付与剤の含有量は、2質量%〜5質量%であることが好ましい。より好ましくは3質量%〜4質量%である。防錆組成物中の加温型チクソ性付与剤の含有量が2質量%未満であれば、加温時の粘度低下が小さくなる傾向にあり、また、充分に加温反応しない場合があるので好ましくない。含有量が5質量%を超えると、防錆組成物の粘度が不安定になり、安定した塗布条件が得られにくく、さらに、加温時に防錆組成物の粘度が低下しにくくなる。また、防錆組成物の強度も低下し、防錆性能も低下する傾向にあるので好ましくない。
【0036】
素早い粘度調整とは、加温型チクソ性付与剤を添加するにもかかわらず、従来剤と同程度に加温により急激に防錆組成物の粘度が低下し、降温により急激に防錆被膜の粘度が上昇することをいう。
【0037】
[流動パラフィン]
本発明の防錆組成物に用いられる流動パラフィンは特に限定されず従来公知のものを用いることができる。流動パラフィンは常温では無色の液体であり、非揮発性である。本発明では流動パラフィンの含有量も特に限定されない。
【0038】
[ワックス類]
本発明の防錆組成物に含まれるワックス類としては、天然ワックス、合成ワックスのいずれも使用することができる。本発明に用いるワックス類は、所望の粘度に応じて適宜変更することができる。
【0039】
ワックス類の種類、配合量により、防錆組成物の粘度は変動する、本発明において、防錆組成物の加温前の粘度(初期粘度)は特に限定されないが、車両等に防錆組成物を塗布する塗布時に防錆組成物が垂れて、車両ボディや作業場を汚染させないようにするために、防錆組成物の塗布時の粘度は一定の水準以上であることが好ましい。しかし、防錆組成物の粘度が高すぎると、防錆組成物を車両部品等に塗布することが困難となるため、一定水準以下の粘度であることが好ましい。本発明では、防錆組成物を加温して冷却することにより粘度を最終的に上昇させることができるため、塗布時に車両部品等に塗布しやすい粘度に設定することができる。
【0040】
また、上記初期粘度を持つ防錆組成物が、加温後の降温により、上述の程度粘度が上昇すれば、塗布時には塗布しやすく、加温により狭隘部へ浸透し、降温により充分に粘度が上昇するので、高温環境下の輸送や長期使用であっても、防錆被膜の垂れが生じないので好ましい。
【0041】
上記の天然ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油等の植物油系ワックスや、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックスや、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物油系ワックスや、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油ワックスが挙げられる。
【0042】
さらに、上記の合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等の水素化ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸アミド等の酸アミド、無水フタル酸イミド等のエステル、また塩素化炭化水素、及びこれらを配合してなる配合ワックス、等が挙げられる。
【0043】
これらのワックス類は単体もしくは混合して配合することができるが、使用するワックスの融点は60℃以上130℃未満が好ましく、80〜100℃がより好ましい。この融点が60℃より低いと、車体内面に塗布した場合、乾燥前に夏期の高温にさらされると溶解して垂れが発生してしまう。一方、この融点が130℃より高いと組成物の製造時に高温が必要となり実用性に劣る。具体的には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、ポリエチレンワックス、各種変性ワックスを単体もしくは混合して配合するのが好ましい。さらに好ましくは、マイクロクリスタリンワックスを単体もしくは混合して配合するのが好ましい。これらワックス類と上述の加温型チクソ性付与剤の組み合わせにより所望の粘度コントロールを実現できる。
【0044】
[硬化油]
本発明の防錆組成物に含まれる硬化油は特に限定されないが、その中でも、ヨウ素価130以上の油脂類を熱により重合させた乾性油が好ましい。具体的には、アマニ油、エノ油、桐油、麻実油、サフラワー油、オイチシカ油、イワシ油、ニシン油、ひまし油を脱水反応で共役酸にした脱水ひまし油、合成乾性油等が挙げられる。これらの中でも特に、入手が容易なアマニ油、桐油、脱水ひまし油の加熱重合油を単体もしくは混合で使用することが好ましく、加熱重合脱水ひまし油の配合量が多い方がさらにより好ましい。
【0045】
本発明においては、硬化油の配合量は組成物全体に対して5〜60質量%の範囲であり、好ましくは、10〜20質量%である。配合量が5%未満では防錆組成物の被膜に充分な乾燥性が得られず、不乾性の被膜となり好ましくない。一方、この配合量が60%を超えると防錆組成物の粘度が高くなり過ぎて作業性が悪く、均一塗布が困難である。
【0046】
[その他の添加剤]
また、本発明における防錆組成物においては、スルフォン酸塩類、カルボン酸塩類、脂肪酸エステル類、アミン塩類、酸化パラフィン塩類、酸化ワックス塩類から選ばれた防錆添加剤を上記ワックス類とともに使用してもよい。防錆添加剤の中には予め有機溶剤で希釈した添加剤もあるが、本発明に配合する防錆添加剤は揮発成分ができるだけ少ないものが好ましい。具体的には、オイルカットしたスルフォン酸塩、脂肪酸エステル類、酸化パラフィン塩類が好ましい。さらに好ましくは、オイルカットしたスルフォン酸Ca塩及び脂肪酸エステル類を単体もしくは混合して配合するのが好ましい。
【0047】
本発明における防錆組成物においては、ワックス類や防錆添加剤を配合することにより被膜に撥水性を与えると同時に緻密な連続被膜を形成することにより優れた耐食性能を得ることができる。また、ワックスの結晶化作用を利用して粘度を調整することも可能になる。
【0048】
本発明における防錆組成物への防錆添加剤類の配合量は、組成物全体に対して1〜50質量%であり、好ましくは、10〜30質量%である。なお、結晶性の高い物を配合する場合には比較的少ない配合量が好ましく、逆に結晶性の低い物を配合する場合には多く配合することが好ましい。この配合量が1質量%未満では充分な耐食性能が得られない。一方、この配合量が50質量%を超えると、粘度が高くなり過ぎて作業性が悪く、均一塗布が困難である。
【0049】
本発明においては、上記の硬化油を含有することが必須であるが、これに加えて配合し得るヨウ素価130以上の油脂類から選ばれた乾性油としては、具体的には、アマニ油、エノ油、桐油、麻実油、サフラワー油、オイチシカ油、イワシ油、ニシン油、ひまし油を脱水反応で共役酸にした脱水ひまし油、合成乾性油等が挙げられる。これらの中でも特に、入手が容易なアマニ油、桐油、脱水ひまし油を単体もしくは混合で使用することが好ましく、脱水ひまし油の配合量が多い方がさらにより好ましい。
【0050】
本発明においては、乾性油の配合量は組成物全体に対して60質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。配合量が60%を超えると防錆組成物の乾燥後の被膜が硬過ぎて、防錆組成物の利点である柔軟被膜による優れた耐食性能が得られない。
【0051】
本発明の防錆組成物は加温型チクソ性付与剤を含有するが、さらに、本発明の防錆組成物には、要求品質を満足する範囲内で、被膜硬さを調整したり、チクソトロピー性を持たせて垂れ性を改善したりする目的で、顔料やフィラー類を配合することもできる。配合する顔料としては、弁柄、亜鉛末、リン酸亜鉛等が挙げられるが、その他従来公知の各種顔料を使用することもできる。また、フィラーとしては、炭酸カルシウム類、カオリンクレー類、タルク類、マイカ類、ベントナイト類、その他従来公知の各種体質顔料が挙げられる。さらに、必要に応じて、カーボンブラック、酸化チタン等の着色顔料を適当量添加して任意の色に着色することが可能である。
【0052】
また、本発明の防錆組成物には、乾燥速度を向上及び調整する目的で硬化促進剤や、表面硬化を防止する目的で皮張り防止剤を添加して使用することもできる。硬化促進剤としては、ナフテン酸コバルトやナフテン酸マンガン、その他従来公知の各種添加剤が挙げられる。また、皮張り防止剤としては、ブチル化ヒドロキシトルエン、その他従来公知の各種添加剤が挙げられる。また、本発明の防錆組成物には、酸化重合による硬化反応時に発生する臭気を低減及び抑制する目的で脱臭剤や吸着剤を添加して使用することもできる。脱臭剤及び吸着剤としては、チモールや酵素化合物、その他従来公知の各種添加剤が挙げられる。
【0053】
<防錆組成物の調製方法>
本発明の防錆組成物は、上記流動パラフィン、加温型チクソ性付与剤、ワックス類、硬化油及び必要ならば任意成分を混合し、分散させることにより調製される。
【0054】
<防錆処理方法>
本発明の防錆処理方法は、本発明の防錆組成物を車両部品に塗布して防錆被膜を形成する第1工程と、第1工程後の車両部品を加温することにより、防錆被膜の粘度を低下させて浸透性を向上させる第2工程と、第2工程後の車両部品を冷却することにより、防錆被膜の粘度を上昇させて垂れ性を向上させる第3工程と、を有することを特徴とする。以下、本発明の防錆処理方法の各工程について説明する。
【0055】
[第1工程]
第1工程は本発明の防錆組成物を車両部品に塗布する工程である。ここで、「車両」とは、自動車、原動機付自転車、軽車両、トロリーバス、鉄道車両、路面電車、軍用車両、建設車両、農業車両、産業車両等のことをいい、「車両部品」とは、上記車両に含まれる部品のことをいう。塗布する範囲についても特に限定されず、車両部品の全体であっても、また、一部であってもよい。
【0056】
本発明の防錆組成物は、特に車両の床裏、車両の足回り部品、車両の袋構造部、板合わせ部等に、好ましく用いることができる。車両の床裏、及び車両の足回り部品は、水溶液となった凍結防止剤等が付着しやすく、錆びやすい部分であり、加えて近年の車両の構造は複雑で狭い隙間にも防錆組成物を行き渡らせる必要がある。本発明の防錆組成物は、塗布時に一定の粘度を持つので、従来の防錆組成物と比較して、複雑な構造の部品であっても所望の位置に防錆組成物を容易に塗布することができ、狭隘部へも後述する第2工程で容易に浸透させることができる。板合わせ部、袋構造部については、一度侵入した塩水を保持しやすい部分であり、従来の防錆組成物では、最終的な防錆被膜に一定の粘度を付与するために、塗布時に防錆組成物を低粘度状態にしておく必要があり、充分にその隙間に防錆組成物を浸透させることはできなかったが、本発明の防錆組成物を用いることで、加温により防錆組成物の粘度を低下させて浸透させることができ、これらの狭隘部へも容易に防錆組成物を浸透させることができる。
【0057】
本発明の防錆組成物は、エアレススプレー、エアースプレー、等の従来公知の塗装機によるスプレー塗布、シャワー状態での流し塗り、刷毛等による直接塗布等により塗布することができる。
【0058】
[第2工程]
第2工程は防錆被膜の粘度を低下させて浸透性を向上させる工程である。加温の際の加熱手段は特に限定されず、加熱手段としては従来公知の方法が採用できる。本発明の防錆組成物では、60℃程度の加温により、浸透性の向上、加温・冷却後の大幅な粘度上昇が得られることから、既存のラップ乾燥炉をそのまま利用できる。ラップ乾燥炉を利用することで新たな加熱装置が不要になり好ましい。また、ラップ乾燥と併せて加温を行えば、新たに加温工程も設ける必要がないので、容易に防錆組成物を狭隘部等へ浸透させることができる。
【0059】
[第3工程]
第3工程は、車両部品を冷却することにより、防錆被膜の粘度を上昇させて垂れ性を向上させる工程である。冷却手段は特に限定されず従来公知の冷却手段を用いることができる。また、冷却は自然冷却であってもよい。冷却により第二工程の加熱前と比較して防錆組成物の粘度は大幅に上昇する。この大幅な粘度上昇によって、高温環境下での輸送や長期使用する場合であっても、防錆被膜は垂れにくい。
【0060】
冷却後に車両部品に粘度の向上した防錆被膜が形成される。防錆被膜の厚さは特に限定されないが、車両の床裏、車両の足回り部品、袋構造部、板合わせ部等において、長期に渡って優れた防錆性能を維持するためには、30μm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<防錆組成物の調製>
表1に示す材料を表1に示す配合で、混合し、実施例の防錆組成物及び比較例の防錆組成物を得た。
【0063】
【表1】

(*数値は質量%を表す)
加温型チクソ剤:市販のポリアルキレンポリアミン脂肪酸アミド粉末
流動パラフィン:市販の動粘度が16mm/sである流動パラフィン
ワックス:市販のマイクロクリスタレンワックス(融点80℃、油分2mass%品)
硬化油:市販の加熱重合脱水ひまし油
脱臭剤:大塚化学社製ケムキャッチH6000
防錆添加剤:市販のジアルキルベンゼンスルフォン酸カルシウム塩
【0064】
<温度−粘度特性の評価>
実施例、比較例の防錆組成物を70℃まで加温した後、自然冷却により降温した。その際の防錆組成物の粘度を加温時、冷却時に分けて10℃おきに測定した。測定した粘度の値を縦軸粘度、横軸温度のグラフにプロットし、実施例の温度−粘度特性を図2に、比較例の温度−粘度特性を図3に示した。なお、粘度は、500mlのビーカーに試料油を入れ加温時には湯浴で加温、冷却時には水浴で冷却して測定した。測定には、東京計器製B型又はBH型回転粘度計を使用した。
【0065】
図2、3から分かるように、本発明の防錆組成物は、脂肪酸アミドからなるチクソ性付与剤を含むことにより、加温後、冷却すると防錆組成物の粘度が上昇することが確認された。この特性により、防錆組成物として粘度コントロールが可能で、自動車ボディの加温・冷却による浸透性確保と垂れ防止が両立できるようになった。また、一度加温した防錆組成物は冷却すると粘度が、加温前と比較して上昇するため高温環境下での輸送や長期間の使用にも垂れずに充分耐えられる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の防錆処理の一例を示す図である。
【図2】実施例の防錆組成物の温度−粘度特性を示す図である。
【図3】比較例の防錆組成物の温度−粘度特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックス類と、流動パラフィンと、硬化油と、を含有する防錆組成物であって、
脂肪酸アミドからなる加温型チクソ性付与剤をさらに含有することを特徴とする防錆組成物。
【請求項2】
前記加温型チクソ性付与剤が、脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとを反応させて得られる脂肪酸アミドであることを特徴とする請求項1記載の防錆組成物。
【請求項3】
前記防錆組成物中における前記加温型チクソ性付与剤の含有量が、2質量%〜5質量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の防錆組成物。
【請求項4】
前記硬化油が、乾性油であることを特徴とする請求項1から3いずれか記載の防錆組成物。
【請求項5】
車両部品の防錆処理方法であって、
請求項1から4いずれか記載の防錆組成物を前記車両部品に塗布して防錆被膜を形成する第1工程と、
前記第1工程後の車両部品を加温することにより、前記防錆被膜の粘度を低下させて浸透性を向上させる第2工程と、
前記第2工程後の車両部品を冷却することにより、前記防錆被膜の粘度を上昇させて垂れ性を向上させる第3工程と、を有することを特徴とする防錆処理方法。
【請求項6】
請求項5記載の防錆処理方法において、
前記第2工程を、車両のラッピング処理で用いられるラップ乾燥炉を利用して行うことを特徴とする防錆処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−227744(P2009−227744A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72514(P2008−72514)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(592152679)パーカー興産株式会社 (5)
【Fターム(参考)】