説明

防食被覆鋼材およびその製造方法

【課題】耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼材1の少なくとも1面に防食被覆層4を有する防食被覆鋼材において、前記防食被覆層4が、前記鋼材1に接し、pH緩衝作用のある物質、改質硫黄、および、質量比で内層質量の5%以上、40%以下の骨材を含有する、厚さ1mm以上、10mm以下の内層2と、該内層2を覆い、改質硫黄、および、質量比で外層質量の40%以上、80%以下の骨材を含有する外層3とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として土木・建築用の資材に適用される防食被覆鋼材、特に耐アルカリ性に優れる防食被覆鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
防食被覆鋼材において、被覆層の傷等により鋼材が環境に露出した場合、露出した部分の鋼材がアノード、被覆層と鋼材の界面がカソードとなり、例えば、アルカリ環境下では、カソード反応(還元反応)によって水酸化物イオン(OH)が生成しやすく、この生成した水酸化物イオンと防食被覆層が反応することで防食被覆層が剥離しやすくなることが知られている。そのため、海洋鋼構造物や土中埋設物などにおいてカソード防食法を防食被覆鋼材に用いた場合、素地鋼材の腐食が減少するのが通常であるが、上記と同様に生成した水酸化物イオン(OH)と、防食被覆層が反応することで防食被覆層が剥離(カソード剥離)しやすくなるといった問題がある。
【0003】
また、珪素や硫黄を主成分とする無機化合物は、有機被覆に比べて、耐候性や、硬度が高いことによる耐傷つき性などに優れ、防食被覆として注目されており、無機ジンクリッチペイントのバインダーなど、一部は鋼材の防食被覆層として適用されている。
【0004】
また、耐酸性、強度に優れる硫黄を利用した土木・建築用資材が提案されており、例えば特許文献1では改質された硫黄と珪素を含んだ無機資材からなる耐酸性、強度に優れる材料が提案されており、防食被覆材料に適すると考えられる。しかし、これらの材料ついても、耐酸性は有するが、アルカリ(OH)には溶解するという欠点がある。
【0005】
カソード剥離を抑制するための手段としては、例えば特許文献2に示すように、鋼材の下地処理としてクロメート処理を実施する方法や、また特許文献3に示すように、生成する水酸化物イオンを補足する目的でマイナスの固定電荷を持つ樹脂を含有する樹脂を用いた塗料を被覆する方法が提示されている。
【0006】
上記方法は、いずれもカソード剥離を抑制するための方法であるが、特にアルカリ環境下でのカソード剥離を意図したものではなく、アルカリ環境下におけるカソード剥離を十分に抑制できないという問題があった。加えて、特許文献2の方法は、環境上の観点から好ましくない。
【0007】
そのため、上記問題点を解決できるような耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材の発明が望まれている。
【特許文献1】特開2001−163649号公報
【特許文献2】特開2001−288588号公報
【特許文献3】特開2003−147555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決して耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材を得るために検討を重ねた結果、鋼材上に厚さ1〜10mmのpH緩衝作用のある物質、改質硫黄、および、質量比で内層質量の5%以上、40%以下の骨材を含有した内層と、改質硫黄、および、質量比で外層質量の40%以上、80%以下の骨材を含有する外層を形成することで、アルカリ環境下にて腐食などにより被覆下の鋼材面に水酸化物イオンが生成した際に被覆下の鋼材面のpHを常に中性域に保持できる結果、耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0011】
(1)鋼材の少なくとも1面に防食被覆層を有する防食被覆鋼材において、前記防食被覆層が、前記鋼材に接し、pH緩衝作用のある物質、改質硫黄、および、質量比で内層質量の5%以上、40%以下の骨材を含有する、厚さ1mm以上、10mm以下の内層と、該内層を覆い、改質硫黄、および、質量比で外層質量の40%以上、80%以下の骨材を含有する外層とからなることを特徴とする防食被覆鋼材。
【0012】
(2)前記pH緩衝作用のある物質の含有量は、質量比で内層質量の10%以上、50%以下であることを特徴とする(1)記載の防食被覆鋼材。
【0013】
(3)前記pH緩衝作用のある物質が、フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム及び五酸化バナジウムの中から選択される1種または2種以上であることを特徴とする(1)または(2)記載の防食被覆鋼材。
【0014】
(4)鋼材の少なくとも一方の面上に、pH緩衝作用のある物質、改質硫黄、および、内層用材料100質量部に対して5質量部以上、40質量部以下の骨材を含有する内層用材料を、固化したときの厚さが1mm以上、10mm以下となるように被覆する内層被覆を行い、次に前記内層被覆の上に、改質硫黄、および、外層用材料100質量部に対して、40質量部以上、80質量部以下の骨材を含有する外層用材料を被覆する外層被覆を行い、その後内層被覆と外層被覆を固化することを特徴とする防食被覆鋼材の製造方法。
【0015】
(5)前記pH緩衝作用のある物質の含有量は、内層用材料100質量部に対して、10質量部以上、50質量部以下であることを特徴とする(4)記載の防食被覆鋼材の製造方法。
【0016】
(6)前記pH緩衝作用のある物質が、フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム及び五酸化バナジウムの中から選択される1種または2種以上であることを特徴とする(4)または(5)記載の防食被覆鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の構成と限定理由を説明する。この発明に従う防食被覆鋼材の例を、図1に模式的に示す。図1の本発明に係る防食被覆鋼材は、鋼材1と、この鋼材1の少なくとも1面を覆うように被覆された防食被覆層4とを備える。防食被覆層4は、鋼材1に接した内層2と、この内層を覆うように被覆された外層3とからなる。以下、各構成について詳細に述べる。
【0019】
(鋼材)
本発明の防食被覆鋼材の母材となる鋼材としては、例えば、炭素鋼、低合金鋼及びステンレス鋼等が挙げられる。用途について特に限定はないが、土木建築資材に適用できるのもの、例えば、鉄筋、鋼管、鋳鉄管、鋼板(厚板など)、形鋼等が好ましい。鋼材に、必要に応じて、ブラスト、ケレン、酸洗等を施してもよい。
【0020】
(防食被覆層)
防食被覆層4は、鋼材1に接した内層2と、この内層を覆うように被覆された外層3とからなる。
【0021】
(内層)
内層2は、鋼材に接し、pH緩衝作用のある物質、改質硫黄、および、質量比で内層質量の5〜40%の骨材を含有する。内層は、防食被覆層に耐アルカリ性を付与するために形成する。
【0022】
鋼材と接触する内層にpH緩衝作用のある物質を含有させることで、鋼材の表面近傍に水酸化物イオンが発生した場合であっても、pH緩衝物質の作用によりOHによるpH変化を最小限にとどめ、被覆下の鋼材面のpHを常に中性域に保持することで、防食被覆層の剥離及び劣化・分解を抑制できる。硫黄はアルカリ環境で溶解するが、pH緩衝作用のある物質が存在することで、アルカリ環境下における硫黄の溶解を抑制する作用もある。
【0023】
pH緩衝作用のある物質には、フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、五酸化バナジウムが有り、これらの1種または2種以上を含有させることができる。
【0024】
上記フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム及び五酸化バナジウムらpH緩衝作用のある物質の含有量は、質量比で内層質量の10%以上、50%以下の範囲が好ましい。10%未満では、緩衝作用の効果が十分ではなく、50%を超えて含有しても防食性向上効果は小さく、また強度を保つための骨材を含有できる量が制限されてしまうためである。
【0025】
内層に含まれる骨材は、内層に強度を付与する目的で用いられ、硅砂、シリカ、製鋼スラグ、砕石、砂利等の公知の骨材を使用できる。その粒径は、5mmを超えると被覆する際の材料の流動性が低くなり、扱いが困難になることや被覆自体に空隙ができ易くなってしまうなどの問題があるため、5mm以下が好ましい。なお、骨材の上記粒径は、その骨材がJIS Z 8801−1(2006年)に規定する公称目開き4.75mmのふるいを全て通ることで確認できる。
【0026】
内層に含有させる骨材は、コンクリートやモルタル用の骨材として利用される市販品を用いることができる。これら市販品を使用する場合は、内容物や粒径をその市販品の仕様から決定しても問題ない。
【0027】
内層の骨材の含有量は、質量比で内層質量の5%以下、40%以上である必要がある。5%未満であると強度不足による剥離等が生じ、40%を超えるとpH緩衝作用のある物質の含有量が制限されてしまい十分な耐アルカリ性が得られない。
【0028】
内層のバインダーとして改質硫黄を用いる。硫黄の改質方法については特許文献1に記載されている通りで、例えば135〜155℃で硫黄を溶融させ、硫黄100質量部に対して、ジシクロペンタジエン2〜20重量部を混合し、140℃における粘度が0.05〜1.2Pa・sになるように重合反応させた後に135℃以下に冷却する方法等により得ることができる。
【0029】
また、用いる改質硫黄には、取扱いを容易にするための難燃性の無機資材やその他添加物が、上記pH緩衝作用のある物質の効果を妨げない程度に、含まれていても良い。そのため、この改質硫黄は市販品をそのまま使用することができ、例えば、新日本石油社製のレコサール(登録商標)中間資材を用いることができることが判明している。
【0030】
また内層の厚さは、1mm以上、10mm以下である必要がある。内層の厚さが1mm未満では十分な剥離抑制の効果がみられず、10mmを超えてもその効果は変わらず、経済的でない。層厚さは固化したときの厚さである。
【0031】
(外層)
外層は、上述した内層を覆うように被覆される。そして、外層は、骨材とこの骨材を繋ぐバインダーである改質硫黄とを含む。防食被覆層に強度を付与するために外層には、pH緩衝作用のある物質を含有させない。
【0032】
外層に含まれる骨材は、外層に強度を付与する目的で用いられ、硅砂、シリカ、製鋼スラグ、砕石、砂利等の公知の骨材を使用できる。その粒径は5mm以下が望ましく、5mmを超える場合被覆する際の材料の流動性が低くなり、扱いが困難になることや被覆自体に空隙ができ易くなってしまうなどの問題がある。なお、骨材の上記粒径は、その骨材がJIS Z 8801−1に規定する公称目開き4.75mmのふるいを全て通ることで確認できる。
【0033】
外層に含有させる骨材は、内層と同様に、コンクリートやモルタル用の骨材として利用される市販品を用いることができる。これら市販品を使用する場合は、内容物や粒径をその市販品の仕様から決定しても問題ない。
【0034】
外層は直接外部と接触するのでより高い強度を有する方が有利であり、そのためには、骨材含有量を高めることが有効である。外層の骨材の含有量が、質量比で、外層質量の40%未満では耐衝撃強度が劣り、80%を超えると被覆する際融解した状態での流動性が低くなり被覆することができなくなる。従って、外層の骨材の含有量は、質量比で、外層質量の40%以上、80%以下とする。
【0035】
外層のバインダーには、改質硫黄を用いる。硫黄の改質方法については特許文献1に記載されている通りで、例えば硫黄を溶融させ、ジシクロペンタジエンを加えて混練するときは、硫黄と、ジシクロペンタジエンの混合割合は、硫黄100質量部に対して、ジシクロペンタジエン2〜20重量部が好ましい。
【0036】
また、用いる改質硫黄には、取扱いを容易にするための難燃性の無機資材やその他添加物が、上記pH緩衝作用のある物質の効果を妨げない程度に、含まれていても良い。この改質硫黄は、市販品をそのまま使用することができ、例えば、新日本石油社製のレコサール(登録商標)中間資材を用いることができることが判明している。なお、内層に用いた改質硫黄と同一の物を用いても良いし、異なるものを用いても良い。
【0037】
また外層の厚さは、10mm以上、50mm以下であることがより望ましい。10mm未満では耐衝撃性に劣り、50mmを超えても耐衝撃性向上は望めず経済的でないためである。
【0038】
上記の内層と外層とからなる防食被覆層を有する防食被覆鋼材は、耐アルカリ性に優れ、また、耐衝撃性に優れる。この防食被覆層は、有機樹脂による被覆層に比べ、被覆層の硬度が高いことから、耐傷付き性に優れる。
【0039】
次に、上記の防食被覆鋼材の製造方法の一例について、説明する。
本発明の鋼材は、例えば、炭素鋼、低合金鋼及びステンレス鋼等が挙げられ、これらを厚鋼板、薄鋼板、形鋼および鋼管などの種々の形状にしたものを用いることが出来る。
【0040】
次に防食被覆層の被覆方法を示す。まず防食被覆層との密着性確保のため前記鋼材の清浄化処理を行う。鋼材表面に残る汚れや酸化スケールを取り除き、また表面に適度な凹凸を与えるためブラスト処理を行う。清浄化処理の方法はブラスト処理に限定されず、鋼材表面の汚れや酸化スケールを除去して鋼材表面に適度な凹凸を付与する機能があればブラスト処理以外の方法でもよい。
【0041】
次に防食被覆層の被覆を行う。防食被覆層は内層用および外層用の材料をそれぞれ用意する。改質硫黄は市販品をそのまま使用することができ、例えば、新日本石油社製のレコサール(登録商標)中間資材を用いることができる。この改質硫黄を120〜150℃に加熱融解させ、内層用の材料は、そこに、骨材とpH緩衝作用のある物質を加えて共に混練し、外層用の材料は、そこに骨材を加えて共に混練し、それぞれ、内層用材料、外層用材料を調合する。
【0042】
内層用材料には、内層用材料を100質量部とした場合、骨材が5〜40質量部、pH緩衝作用のある物質が10〜50質量部となるようにする。骨材が5質量部未満であると強度不足による剥離が生じ、骨材が40質量部を超えるとpH緩衝作用のある物質の含有量が制限されてしまい十分な耐アルカリ性が得られない。pH緩衝作用のある物質の含有量が10質量部未満になると、十分な耐アルカリ性が得られず、50質量部を超えても耐アルカリ性の向上効果は得られず経済的でない。
【0043】
外層用材料には、外層用材料を100質量部とした場合、骨材が40〜80質量部となるようにする。骨材が40質量部未満であると耐衝撃性に劣り、80質量部を超えると被覆する際融解した状態での流動性が低くなり被覆することができなくなる。
【0044】
被覆方法は、特に限定されず、型枠流し込みや吹付け塗布などで行うことが出来る。先ず鋼材上に加熱混練した内装用材料を被覆し、次に被覆した内層用材料上に加熱混練した外層用材料を被覆する。
【0045】
内装用材料は、固化後の内層厚さが1mm以上、10mm以下となるように被覆する。1mm未満では十分な剥離抑制の効果がみられず、10mmを超えてもその効果は変わらず経済的でない。外層用材料は、固化後の外層厚さが10mm以上、50mm以下となるように被覆することが好ましい。10mm未満では耐衝撃性に劣り、50mmを超えても耐衝撃性向上は望めず経済的でないためである。
【0046】
内装用材料と外層用材料を被覆後、数時間放冷することで被覆が固化し、本発明の防食被覆鋼材が得られる。
【0047】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、特許請求の範囲内において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0048】
本発明の実施例について説明する。
【0049】
<供試鋼材>
被覆される鋼材として、熱延鋼材(SS400(JIS G3101))を選んだ。この鋼材を100mm×100mm×6mmの寸法に切断後、スチールグリッドブラストによりその表面を十点平均粗さで50μm程度とした。
【0050】
<防食被覆鋼材の作製>
防食被覆鋼材No.1〜No.13
新日本石油社製レコサール(登録商標、以下同じ)中間資材を150℃に加熱融解し、そこに骨材として、粒径が0.6〜2.4mmの硅砂3号と粒径が50〜400μmの硅砂7号を表1の含有量になるように加え、さらにpH緩衝作用のある物質を表1の含有量になるように加え混練した。この混練物を内層用材料とした。
【0051】
なお、珪砂号数には統一規格でないため、同じ号数であって業者間で粒径に多少の差があるが、珪砂3号、珪砂7号と指定することで、上記とぼぼ同等の粒径のものを入手可能である。
【0052】
次に、新日本石油社製レコサール中間資材を150℃に加熱融解し、そこに硅砂3号と硅砂7号とを表1の含有量になるように加えて混練し、この混練物を外層用材料とした。
【0053】
上記供試鋼材を150℃の加熱炉で10分加熱した。これを型枠中に設置し、そこに溶融状態の上述の内層用材料を流し込み、固化時の厚さが所定の厚さとなるように被覆した。さらにその上に、上述の外層用材料を溶融状態のまま流し込み、固化時の厚さが所定の厚さとなるように被覆した。その後、室温まで冷却し、被覆層を固化させた後型枠をはずして、No.1〜No.13の防食被覆鋼材を得た。内層のpH緩衝作用を有する物質の含有量、骨材の含有量、内層膜厚(固化時膜厚、以下同じ)、外層の骨材の含有量、および外層膜厚(固化時膜厚、以下同じ)を、表1に示す。
【0054】
防食被覆鋼材No.14
新日本石油社製レコサール中間資材を150℃に加熱融解し、そこに骨材として硅砂3号と硅砂7号とを加えて混練した混練物を調合し、pH緩衝作用をもつ物質を含有しない内層用材料とした。内層用材料がpH緩衝作用をもつ物質を含有しないこと以外は、No.1〜13の防食被覆鋼材の製造方法と同様に内層被覆と外層被覆を行い、内層にpH緩衝作用をもつ物質を含有しない防食被覆鋼材No.14を得た。内層の骨材の含有量、内層膜厚、外層の骨材の含有量、および外層膜厚を、表1に示す。
【0055】
防食被覆鋼材No.15
新日本石油社製レコサール中間資材を150℃に加熱融解し、そこに硅砂3号と硅砂7号とを表1の含有量になるように加えて混練し、この混練物を外層用材料とした。次に、上記供試鋼材を150℃のホットプレートで4分加熱した。これを型枠中に設置し、そこに溶融状態の上述の外層用材料を溶融状態のまま流し込み、所定の乾燥膜厚となるように被覆した。その後、室温まで冷却した後型枠をはずして、内層を有しない防食被覆鋼材No.15を得た。外層の骨材の含有量、および外層膜厚を、表1に示す。
【0056】
以上のようにして得られた各防食被覆鋼板の耐アルカリ性と耐衝撃性を評価した。評価方法を以下に示す。
(1)耐アルカリ性
上記で作製した各防食被覆鋼板を、一つの端部を残して鋼材面が露出しないようにシリコンシーラントによりシールし、3質量%のNaCl水溶液(60℃)中に14日間浸漬した後、被覆を鋼板から剥離して被膜の剥離長さを測定した。
(2)耐衝撃性
ASTM G14に準拠し、先端径15.9mm、重量5kgfの落錘を用いた−20℃での落錘衝撃試験を行った。防食被覆層の破壊は目視、および20kVの通電試験で確認し、破壊の生じない限界高さから衝撃強度を求めた。
【0057】
評価結果を表1に合わせて示す。
【0058】
【表1】

【0059】
No.1〜11は、被膜剥離距離が15mm以下、衝撃強度が40J以上で、耐アルカリ性および耐衝撃性がともに良好であった。
【0060】
No.12は、外層中の骨材量が少ないため耐衝撃性に劣る。No.13は内層の厚さが不足しているため耐アルカリ性に劣る。No.14は内層にpH緩衝作用のある物質を含有していないため耐アルカリ性に劣る。No.15はpH緩衝作用の物質を含む内層を設けなかったため耐アルカリ性に劣る。
【0061】
以上より、本発明の範囲内であれば、強度を確保できると共に耐アルカリ性に優れた防食被覆鋼材が得られることが、明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の防食被覆鋼材は、耐アルカリ性と耐衝撃性に優れるので、アリカリ環境下で使用する防食被覆鋼材として適する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の防食被覆鋼材の被覆層の一構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 鋼材
2 内層
3 外層
4 防食被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の少なくとも1面に防食被覆層を有する防食被覆鋼材において、前記防食被覆層が、前記鋼材に接し、pH緩衝作用のある物質、改質硫黄、および、質量比で内層質量の5%以上、40%以下の骨材を含有する、厚さ1mm以上、10mm以下の内層と、該内層を覆い、改質硫黄、および、質量比で外層質量の40%以上、80%以下の骨材を含有する外層とからなることを特徴とする防食被覆鋼材。
【請求項2】
前記pH緩衝作用のある物質の含有量は、質量比で内層質量の10%以上、50%以下であることを特徴とする請求項1記載の防食被覆鋼材。
【請求項3】
前記pH緩衝作用のある物質が、フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム及び五酸化バナジウムの中から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の防食被覆鋼材。
【請求項4】
鋼材の少なくとも一方の面上に、pH緩衝作用のある物質、改質硫黄、および、内層用材料100質量部に対して5質量部以上、40質量部以下の骨材を含有する内層用材料を、固化したときの厚さが1mm以上、10mm以下となるように被覆する内層被覆を行い、次に前記内層被覆の上に、改質硫黄、および、外層用材料100質量部に対して、40質量部以上、80質量部以下の骨材を含有する外層用材料を被覆する外層被覆を行い、その後内層被覆と外層被覆を固化することを特徴とする防食被覆鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記pH緩衝作用のある物質の含有量は、内層用材料100質量部に対して、10質量部以上、50質量部以下であることを特徴とする請求項4記載の防食被覆鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記pH緩衝作用のある物質が、フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム及び五酸化バナジウムの中から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の防食被覆鋼材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−70774(P2010−70774A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235907(P2008−235907)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】