説明

降雨レーダ合成処理装置

【課題】精度を高めることができる降雨レーダ合成処理装置を提供する。
【解決手段】降雨レーダ合成処理装置1は、Xバンドレーダ51の測定領域53を複数のセクタ方向と複数のレンジ方向とに分割した各メッシュMEs,rの平均受信電力Prを算出する初期設定部2と、平均受信電力Prに基づいて、減衰補正項を算出する減衰補正項算出部4と、各セクタにおいて、減衰補正項KIRが基準値KIRstよりも大きいメッシュMEs,rのうち、Xバンドレーダ51に最も近いメッシュのレンジ番号rを減衰開始レンジ番号rstと決定するとともに、平均受信電力Prが閾値ThPrよりも小さいメッシュのうち、Xバンドレーダ51に最も近いメッシュのレンジ番号rを減衰開始レンジ番号rstと決定する複合減衰判定処理部7と、減衰開始レンジ番号rstに基づいて、降雨データを合成する合成処理部10とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Xバンドレーダ雨量計と他のバンドレーダ雨量計の降雨データを合成する降雨レーダ合成処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、降雨量を測定するための降雨レーダ雨量計が、知られている(例えば、特許文献1参照)。更に、この降雨レーダ雨量計には、Xバンドレーダ雨量計(以下、Xバンドレーダ)やCバンドレーダ雨量計(以下、Cバンドレーダ)等の複数種類のレーダ雨量計が知られている。
【0003】
Xバンドレーダは、降雨状況を細かいメッシュで、且つ、短時間で捉えることができる。このため、Xバンドレーダは、防災等の監視に有効である。しかし、強雨時には、電波が減衰し、十分な降雨観測ができないといった問題がある。
【0004】
一方、Cバンドレーダは、Xバンドレーダに比べてメッシュが粗くなるが降雨減衰が少なく広い範囲を観測することができる。
【0005】
自治体レベルの雨水排水や防災向けに導入される場合、比較的容易に設置でき、降雨状況を細かいメッシュで、且つ、短時間で捉えるXバンドレーダを採用するケースが多い。しかし、強雨時には、減衰により、強雨領域の先の降雨状況が観測できない場合がある。これを補うために、複数のレーダ雨量計を設置し合成処理にて補完する方法や他気象関連組織からCバンドレーダのC降雨データを購入して、XバンドレーダのX降雨データと合成処理する方法が採用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
上述した降雨データの合成処理は、Xバンドレーダの減衰状況が把握できないため単純に合成処理すると、ドーナッツ状の表示になる場合がある。これを回避するために、受信電力の最大値合成や平均値合成等の処理方法が知られているが、Cバンドレーダの観測値が採用されやすく、Xバンドレーダの優位性が生かせない。
【0007】
ここで、Xバンドレーダのデータを採用する領域とCバンドレーダのデータを採用する領域とを判定する材料として減衰補正項を用いる方法が知られている。この判定方法は、Xバンドレーダの減衰補正項を平均受信電力を降雨強度を求めるためのレーダ方程式に代入することにより算出して、その減衰補正項を基準値と比較するものである。そして、減衰補正項が基準値以上の領域は、Xバンドレーダのデータを採用して、それ以外の領域は、Cバンドレーダのデータを採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−230118号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】財団法人下水道新技術推進機構発行、「共通細密レーダ降雨情報システム技術に関する共同研究報告書」、1996年6月発行、p64−p68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来の技術では、降雨強度を算出する際に、雨滴による減衰や大気ガスによる減衰等が考慮された減衰補正項のみによって、いずれのデータを採用するか否かを判定しているので、精度が低いといった課題ある。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、精度を高めることができる降雨レーダ合成処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、Xバンドレーダの降雨データとXバンドレーダよりも波長の長い電波を用いる長波長バンドレーダの降雨データとを合成するための降雨レーダ合成装置において、Xバンドレーダの測定領域を複数のセクタ方向と複数のレンジ方向とに分割した各メッシュの平均受信電力を算出する初期設定手段と、前記平均受信電力に基づいて、減衰補正項を算出する減衰補正項算出手段と、各セクタにおいて、前記減衰補正項が基準値よりも大きいメッシュのうち、前記Xバンドレーダに最も近いメッシュのレンジ番号を減衰開始レンジ番号と決定するとともに、前記平均受信電力が平均受信電力閾値よりも小さいメッシュのうち、前記Xバンドレーダに最も近いメッシュのレンジ番号を減衰開始レンジ番号と決定する複合減衰判定手段と、前記減衰開始レンジ番号に基づいて、降雨データを合成する合成処理手段とを備えていることを特徴とする降雨レーダ合成処理装置である。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る発明は、積算雨量を算出する雨量積算手段を備え、前記複合減衰判定手段は、晴雨を判定するための積算雨量閾値よりも前記積算雨量が大きい場合のみ、前記平均受信電力と前記平均受信電力閾値とを比較することを特徴とする請求項1に記載の降雨レーダ合成処理装置である。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記減衰開始レンジ番号のメッシュの平均受信電力が、セクタ方向に隣接するメッシュの平均受信電力よりも所定範囲以上に大きく、且つ、前記セクタ方向に隣接するメッシュの平均受信電力が互いに所定範囲内である場合、前記減衰開始レンジ番号を補正する減衰判定結果処理手段を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の降雨レーダ合成処理装置である。
【0015】
また、本発明の請求項4に係る発明は、同一セクタ内において、強雨が発生している強雨発生回数をカウントする強雨発生回数カウント手段を備え、前記複合減衰判定手段は、前記強雨発生回数が閾値以上であるメッシュのうち、前記Xバンドレーダに最も近いメッシュのレンジ番号を減衰開始レンジ番号と決定することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の降雨レーダ合成処理装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、減衰開始レンジを決定するための判定材料として、セクタ毎の減衰補正項及び平均受信電力を採用することによって、精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態による全体構成を示すブロック図である。
【図2】Xバンドレーダの測定領域が分割されたメッシュを説明する図である。
【図3】判定対象のセクタの減衰補正項の判定処理を説明する図である。
【図4】判定対象のセクタの平均受信電力の判定処理を説明する図である。
【図5】合成処理の減衰判定処理を説明するフローチャートである。
【図6】減衰判定処理の減衰開始レンジ番号補正処理を説明するフローチャートである。
【図7】減衰補正項のみを判定材料とした減衰判定処理による判定結果を示す図である。
【図8】減衰補正項及び平均受信電力を判定材料とした第1実施形態に係る減衰判定処理による判定結果を示す図である。
【図9】Xバンドレーダによる雨量の測定結果である。
【図10】Cバンドレーダによる雨量の測定結果である。
【図11】従来の減衰補正項のみによる合成処理方法の結果である。
【図12】第1実施形態に係る合成処理方法の結果である。
【図13】判定対象のセクタの平均受信電力の判定処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態による全体構成を示すブロック図である。図2は、Xバンドレーダの測定領域が分割されたメッシュを説明する図である。図3は、判定対象のセクタの減衰補正項の判定処理を説明する図である。図4は、判定対象のセクタの平均受信電力の判定処理を説明する図である。
【0019】
第1実施形態による降雨レーダ合成処理装置1は、Xバンドレーダ51から入力されるX降雨データDxと、Cバンドレーダ52から入力されるC降雨データDcとを合成するものである。ここで、Xバンドレーダ51は、3cmの波長の電波を送信している。一方、Cバンドレーダ52は、5cmの波長の電波を送信している。
【0020】
図1に示すように、降雨レーダ合成処理装置1は、初期設定部2と、降雨強度算出部3と、減衰補正項算出部4と、雨量積算部5と、基準値・閾値設定部6と、複合減衰判定処理部7と、減衰判定結果処理部8と、減衰マップ作成部9と、合成処理部10とを備えている。尚、各構成は、CPU等の演算処理部、種々の情報及びプログラムを記憶可能な記憶部、それらを接続する接続部、外部と各情報を入出力するための入出力部等のハードウエアを備えている(図示略)。
【0021】
初期設定部2は、図2に示すように、Xバンドレーダ51の測定領域53をセクタ方向(周方向:方位)とレンジ方向(径方向:距離)とに分割する。そして、初期設定部2は、それぞれにセクタ番号sとレンジ番号rのナンバリングを行い、各メッシュMEs,rとする。尚、図2において、測定領域53の中心が、Xバンドレーダ51が配置されている位置である。
【0022】
初期設定部2は、Xバンドレーダ51から供給されるX降雨データDxを用いて、セクタ番号s及びレンジ番号rで分割された各メッシュMEs,rの平均受信電力Prを算出する。ここで、平均受信電力Prは、Xバンドレーダ51等のレーダ装置が各メッシュMEs,rをn回測定して平均した受信電力である。測定する回数は、観測周期に合わせて物理的にレーダが回転できる回数である。例えば、Xバンドレーダの場合、一般的に3回程度となる。降雨レーダ合成処理装置1に入力されるXバンドレーダの受信電力は、この平均受信電力を使用している。尚、受信電力とは、Xバンドレーダ51から送信した電波が雨に反射されて受信されたものである。初期設定部2は、セクタ番号s及びレンジ番号rに対応付けた平均受信電力Prを降雨強度算出部3、基準値・閾値設定部6、複合減衰判定処理部7、及び、減衰判定結果処理部8へとデータとして出力する。
【0023】
また、初期設定部2は、種々のパラメータの初期設定を行い、出力する。
【0024】
降雨強度算出部3は、入力された各メッシュMEs,rの平均受信電力Pr及び各パラメータを下記のレーダ方程式(1)に代入して、降雨強度Rrを算出する。降雨強度算出部3は、算出した降雨強度Rrを減衰補正項算出部4、雨量積算部5、複合減衰判定処理部7、及び、減衰判定結果処理部8へとデータとして出力する。
【数1】

【0025】
減衰補正項算出部4は、降雨強度Rrと減衰定数Kaとを下記の式(2)に代入して、減衰補正項KIRを算出する。減衰補正項算出部4は、算出した減衰補正項KIRを複合減衰判定処理部7へと出力する。
【数2】

【0026】
雨量積算部5は、入力された降雨強度Rrをレンジ(距離)方向に積算して、積算雨量ZRrを算出する。雨量積算部5は、算出した積算雨量ZRrを複合減衰判定処理部7、及び、減衰判定結果処理部8へとデータとして出力する。
【0027】
基準値・閾値設定部6は、減衰補正項KIRの基準値KIRstを設定する。減衰補正項KIRの基準値KIRstは、受信電力の減衰を判定するためのものである。
【0028】
基準値・閾値設定部6は、積算雨量ZRrの閾値ThZRrを設定する。積算雨量ZRrの閾値ThZRrは、晴天か強雨かの判定に用いるものである。
【0029】
基準値・閾値設定部6は、レンジ番号rに対応付けられた平均受信電力Prの閾値ThPrを設定する。平均受信電力Prは、レンジ番号rが増大とともに低下する。従って、平均受信電力Prの閾値ThPrもレンジ番号rとともに低下するように設定される。平均受信電力Prの閾値ThPrは、受信電力の減衰を判定するためのものである。
【0030】
基準値・閾値設定部6は、基準値KIRst、閾値ThZRr、閾値ThPrを複合減衰判定処理部7へと出力する。
【0031】
複合減衰判定処理部7は、減衰補正項KIR、積算雨量ZRr、平均受信電力Prから複合的に減衰判定を行う。
【0032】
複合減衰判定処理部7は、図3に示すように、基本の判定処理として、減衰補正項KIRが基準値KIRst以上か否かを判定する。複合減衰判定処理部7は、減衰補正項KIRが基準値KIRst以上であれば、該当メッシュMEs,r以遠では、受信電力が減衰しているので無効と判定する。そして、複合減衰判定処理部7は、そのメッシュMEs,rのレンジ番号rを減衰開始レンジ番号rstとして保存する。
【0033】
複合減衰判定処理部7は、同一セクタの各メッシュMEs,rの積算雨量ZRrと積算雨量の閾値ThZRrとを比較する。積算雨量ZRrが、閾値ThZRrよりも大きい場合は、一定の降雨があることを意味する。一方、積算雨量ZRrが、閾値ThZRrよりも小さい場合は、晴天であることを意味する。
【0034】
複合減衰判定処理部7は、図4に示すように、同一セクタの平均受信電力Prと平均受信電力の閾値ThPrとを比較する。平均受信電力Prが、閾値ThPr以上の場合は、Xバンドレーダ51のX降雨データDxが有効であると判定する。一方、平均受信電力Prが閾値ThPr以下の場合は、そのメッシュMEs,rよりも以遠のメッシュMEs,rのXバンドレーダ51のデータは無効であると判定する。そして、そのメッシュMEs,rのレンジ番号rを当該セクタの減衰開始レンジ番号rstとして保存する。
【0035】
即ち、複合減衰判定処理部7は、各セクタにおいて、減衰補正項KIRが基準値KIRstよりも大きいメッシュMEs,rのうち、Xバンドレーダ51に最も近いメッシュのレンジ番号rを減衰開始レンジ番号rstと決定する。また、複合減衰判定処理部7は、各セクタにおいて、平均受信電力Prが閾値ThPrよりも小さいメッシュのうち、Xバンドレーダ51に最も近いメッシュのレンジ番号rを減衰開始レンジ番号rstと決定する。
【0036】
減衰判定結果処理部8は、減衰開始レンジ番号rstを補正するためのものである。減衰判定結果処理部8は、レンジ番号rが減衰開始レンジ番号rstである補正対象のメッシュMEs, rstの平均受信電力Prを、セクタ方向に隣接する比較対象のメッシュME(s−1), rst、ME(s+1), rstの平均受信電力Prと比較する。そして、比較対象のメッシュME(s−1), rst、ME(s+1), rstの平均受信電力Prが互いに所定範囲内(例えば、10%以内)であるのに対し、補正対象のメッシュMEs, rstの平均受信電力Prが比較対象のメッシュME(s−1), rst、ME(s+1), rstの平均受信電力Prよりも大幅(例えば、50%)に異なる場合は、補正対象のメッシュMEs, rstの平均受信電力Prが強雨の隙間から反射波が抜けたものと判定する。その結果、減衰判定結果処理部8は、判定対象のメッシュMEs, rstの減衰開始レンジ番号rstを比較対象の2つのセクタ番号(s+1)、(s−1)の減衰開始レンジ番号rstの平均Avを新たな減衰開始レンジ番号rstとして補正する。
【0037】
減衰マップ作成部9は、複合減衰判定処理部7の判定結果に基づいて、減衰マップを作成する。ここで、減衰マップとは、セクタ番号sと、減衰開始レンジ番号rstとを対応付けたものである。
【0038】
合成処理部10は、減衰マップに基づいて、降雨データDx、Dcを合成する。合成処理部10は、減衰開始レンジ番号rstまでのメッシュMEs,rにはXバンドレーダ51によるX降雨データDxを採用する。一方、合成処理部10は、減衰開始レンジ番号rst以遠のメッシュMEs,rにはCバンドレーダ52のC降雨データDcを採用する。
【0039】
次に、上述した第1実施形態による降雨レーダ合成処理装置1の降雨データの合成処理について説明する。図5は、合成処理の減衰判定処理を説明するフローチャートである。図6は、減衰判定処理の減衰開始レンジ番号補正処理を説明するフローチャートである。
【0040】
まず、降雨データの合成処理では、図5に示す減衰判定処理が開始される。減衰判定処理では、初期設定部2が、各パラメータを初期設定及び算出する(St1)。ここで、初期設定されるパラメータは、メッシュMEs,rのセクタを特定する「セクタ番号s(=0)」と、メッシュMEs,rのレンジを特定する「レンジ番号r(=0)」等である。また、初期設定部2は、パラメータの1つである平均受信電力Prを算出する。そして、初期設定部2は、平均受信電力Prを各メッシュMEs,rと関連付けて出力する。
【0041】
次に、初期設定部2は、セクタ特定処理において、セクタ番号sを「1」繰り上げる(St2)。
【0042】
次に、初期設定部2は、減衰補正項KIR及び積算雨量ZRrを初期化する(St3)。具体的には、「KIR=0」及び「ZRr=0」と設定される。
【0043】
次に、初期設定部2は、レンジ特定処理において、レンジ番号rを「1」繰り上げる(St4)。
【0044】
次に、降雨強度算出部3は、平均受信電力Pr及び各パラメータをレーダ方程式(1)に代入して、メッシュMEs,rの降雨強度Rrを算出する(St5)。その後、降雨強度算出部3は、降雨強度Rrを複合減衰判定処理部7、及び、減衰判定結果処理部8に出力する。
【0045】
次に、減衰補正項算出部4は、降雨強度Rr及び各パラメータを用いて、メッシュMEs,rの減衰補正項KIRを式(2)から算出する(St6)。その後、減衰補正項算出部4は、減衰補正項KIRを複合減衰判定処理部7へと出力する。
【0046】
次に、雨量積算部5では、降雨強度Rrを積算して、メッシュMEs,rの積算雨量ZRrを算出する(St7)。その後、雨量積算部5は、積算雨量ZRrを複合減衰判定処理部7、及び、減衰判定結果処理部8へと出力する。
【0047】
次に、複合減衰判定処理部7は、メッシュMEs,rの減衰補正項KIRと減衰補正項基準値KIRstとを比較する。「KIR>KIRst」の場合(St8:Yes)、複合減衰判定処理部7は、当該メッシュMEs,rの以遠のX降雨データDxは無効であると判定する(図3参照)。そして、複合減衰判定処理部7は、ステップSt12へと進み、そのメッシュMEs,rのレンジ番号rを減衰開始レンジ番号rstとして保存する。一方、「KIR≦KIRst」の場合は(St8:No)、ステップSt9へと進む。
【0048】
次に、複合減衰判定処理部7は、積算雨量ZRrと閾値ThZRrとを比較する(St9)。「ZRr>ThZRr」の場合(St9:Yes)、複合減衰判定処理部7は、ステップSt10へと進む。一方、「ZRr≦ThZRr」の場合(St9:No)は、晴天を意味するので、複合減衰判定処理部7は、ステップSt10を実行せずに、ステップSt11へと進む。これにより、晴天のメッシュMEs,rでは、ステップSt10が実行されない。
【0049】
次に、複合減衰判定処理部7は、平均受信電力Prとそのレンジ番号rの閾値ThPrとを比較する(St10)。「Pr>ThPr」の場合(St10:Yes)、複合減衰判定処理部7は、当該メッシュMEs,rのX降雨データDxは有効と判定して、ステップSt11に進む。
【0050】
一方、「Pr≦ThPr」の場合(St10:No)、複合減衰判定処理部7は、当該メッシュMEs,r以遠のX降雨データDxは無効と判定する(図4参照)。そして、複合減衰判定処理部7は、ステップSt12へと進み、そのメッシュMEs,rのレンジ番号rを減衰開始レンジ番号rstとして保存する。
【0051】
次に、ステップSt11では、レンジ番号rが最大値rmaxか否かが判定される。最大値でない場合は、ステップSt4へと戻り、レンジ番号rが「1」繰り上げられて、ステップSt5以下の処理が実行される。
【0052】
一方、ステップSt12の処理が終了すると、同一セクタにおけるそれ以遠のメッシュMEs,rの減衰判定は不要であるから、ステップSt13に進む。
【0053】
次に、ステップSt13では、セクタ番号sが最大値smaxか否かが判定される。セクタ番号sが最大値smaxでない場合は(St13:No)、ステップSt2に戻る。そして、セクタ番号sが、ステップSt2で「1」繰り上げられて、ステップSt3以下の処理が行われる。
【0054】
セクタ番号sが最大値smaxの場合(St13:Yes)、測定領域53の全域の判定が終了したので、ステップSt14へと進む。
【0055】
次に、ステップSt14では、図6に示す減衰開始レンジ番号rstの補正処理が減衰判定結果処理部8により実行される。
【0056】
まず、減衰判定結果処理部8は、セクタ番号sを「0」に設定する(St21)。その後、セクタ番号sを「1」繰り上げる(St22)。
【0057】
次に、減衰判定結果処理部8は、補正対象のメッシュMEs,rstとセクタ方向に隣接する比較対象のメッシュME(s+1),rstの平均受信電力Pr及びメッシュME(s−1),rstの平均受信電力Prとを比較する。メッシュME(s+1),rstの平均受信電力PrとメッシュME(s−1),rstの平均受信電力Prとが、互いに所定範囲内(例えば、10%以内)であれば、ステップSt24に進む(St23:Yes)。一方、メッシュME(s+1),rstの平均受信電力PrとメッシュME(s−1),rstの平均受信電力Prとが、互いに所定範囲内でなければ、ステップSt27に進む(St23:No)。
【0058】
次に、減衰判定結果処理部8は、メッシュME(s+1),rstの平均受信電力PrとメッシュME(s−1),rstの平均受信電力Prの平均Avを算出する(St24)。
【0059】
次に、減衰判定結果処理部8は、補正対象のメッシュMEs,rstの平均受信電力Prと平均Avとを比較する。補正対象のメッシュMEs,rstの平均受信電力Prが、平均Avよりも極めて大きい場合(例えば、50%以上大きい場合)は、ステップSt26に進む(St25:Yes)。これは、前述の極めて大きい補正対象メッシュMEs,rstの平均受信電力Prは、強降雨の隙間から反射波が抜けて観測された受信電力によるものであり、補正が必要と判断されるからである。一方、補正対象のメッシュMEs,rstの平均受信電力Prが、平均Avに対して所定の範囲内であれば、ステップSt27に進む(St25:No)。
【0060】
次に、減衰判定結果処理部8は、この場合、減衰判定結果処理部8は、隣接するセクタ番号(s+1)及びセクタ番号(s−1)の減衰開始レンジ番号rstの平均を補正対象のセクタ番号sの減衰開始レンジ番号rstと補正する(St26)。
【0061】
次に、減衰判定結果処理部8は、セクタ番号sが最大値smaxでない場合はステップSt22に戻り(St27:No)、上述のステップSt22以下の処理が繰り返される。一方、
【0062】
この後、この補正処理が全セクタの減衰開始レンジ番号rstに行われて、セクタ番号sが最大値smaxになると(St27:Yes)、減衰開始レンジ番号補正処理が終了する。次に、減衰判定結果処理部8は、補正された減衰開始レンジ番号rstを複合減衰判定処理部7へと出力する。
【0063】
次に、複合減衰判定処理部7が、減衰開始レンジ番号rstを減衰マップ作成部9へと出力する。その後、減衰マップ作成部9は、各セクタと減衰開始レンジ番号rstとを関連付けた減衰マップを作成して合成処理部10へと出力する(St15)。これにより、減衰判定処理が終了する。
【0064】
次に、合成処理部10では、減衰開始レンジ番号rst未満のレンジ番号rのメッシュMEs,rにはXバンドレーダ51のX降雨データDxを適用して、減衰開始レンジ番号rstよりもレンジ番号rの大きいメッシュMEs,rにはCバンドレーダ52のC降雨データDcを適用して、降雨データを合成する。
【0065】
これにより、合成処理が終了する。
【0066】
上述した合成処理方法による結果について図面を参照して説明する。図7は、減衰補正項のみを判定材料とした減衰判定処理による判定結果を示す図である。図8は、減衰補正項及び平均受信電力を判定材料とした第1実施形態に係る減衰判定処理による判定結果を示す図である。図9は、Xバンドレーダによる雨量の測定結果である。図10は、Cバンドレーダによる雨量の測定結果である。図11は、従来の減衰補正項のみによる合成処理方法の結果である。図12は、第1実施形態に係る合成処理方法の結果である。
【0067】
図7に示すように、減衰補正項KIRのみを判定材料として減衰開始レンジ番号rstを決定した場合、Xバンドレーダ51のX降雨データDxが採用される領域(メッシュ)が、図8に示す第1実施形態により減衰開始レンジ番号rstを決定した場合のXバンドレーダ51のX降雨データDxが採用される領域に比べて大きい。
【0068】
しかしながら、減衰補正項KIRのみを判定材料とした従来の合成方法によって、図9に示すXバンドレーダ51のX降雨データDxと、図10に示すCバンドレーダ52のC降雨データDcとを合成すると、図11に示すようになる。従来の方法により降雨データDx、Dcを合成すると、降雨があるにも関わらず、雨量が「0」となる空白部分54が表示される(ドーナッツ化)。これは、減衰補正項KIRが、基準値KIRst以上になる前に平均受信電力Prが小さくなり、降雨強度Rrが「0」と算出される。このように、降雨強度Rrが「0」と算出されると、雨滴による減衰項が有効とならないために減衰なしと判定されて、降雨強度Rrが「0」となっていることが正しいと判定されて、上述したドーナッツ化が生じるためである。一方、第1実施形態では、減衰補正項KIR及び平均受信電力Prを判定材料としているので、図12に示す第1実施形態による合成結果では、降雨の空白部分54がなくなっており、ドーナッツ化を抑制して精度が向上していることがわかる。
【0069】
また、図7では、点線の丸55で囲まれた内側にスリット状の有効領域が形成されている。一方、図8に示す第1実施形態による判定結果では、スリット部分が無効領域となっている。ここで、図7に示すスリット領域は、強雨の隙間から反射波が抜けて観測された平均受信電力による誤判定と考えられる。第1実施形態では、減衰判定結果処理部による減衰開始レンジ番号rstの補正が行われているので、当該スリット領域も無効領域と判定されている。この結果、Xバンドレーダ51のX降雨データDxが放射状になることを抑制できることがわかる。
【0070】
上述したように第1実施形態による降雨レーダ合成処理装置1では、測定領域53をセクタ方向に分割して、各セクタ番号s毎に減衰開始レンジ番号rstを算出している。また、降雨レーダ合成処理装置1は、減衰補正項KIR及び平均受信電力Prに基づいて、減衰開始レンジ番号rstを決定している。このため、降雨があるにも関わらず、降雨が「0」と表示されるドーナッツ化等を抑制して精度を向上させることができる。
【0071】
また、降雨レーダ合成処理装置1は、減衰開始レンジ番号rstを補正するための減衰判定結果処理部8を備えている。これにより、強雨による誤判定を抑制することができるので、Xバンドレーダ51のX降雨データDxが採用される領域が放射線になることを抑制することができる。
【0072】
また、降雨レーダ合成処理装置1は、レンジ番号rの増大とともに、平均受信電力Prの閾値ThPrを小さくしている。これにより、Xバンドレーダ51の直上で強雨が降った場合のように、近距離で受信電力が減衰する場合でも、X降雨データDxを採用する領域を増加させることができる。
【0073】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。以下、上記実施形態を一部変更した変更形態について説明する。
【0074】
上述した実施形態の数値等は適宜変更可能である。
【0075】
また、閾値を越える強雨の発生回数をセクタ毎に算出する強雨発生回数カウント手段を備え、同一セクタ内でカウントされた発生回数と閾値とを比較することによって複合減衰判定処理部が減衰判定を行ってもよい。一例として、図13に示すように、降雨強度が、100mm/h以上の強雨であるメッシュが3個以上発生したら、そのメッシュのレンジ番号を減衰開始レンジ番号とし、それ以遠のメッシュのXバンドレーダの降雨データは無効であると判定してもよい。
【0076】
また、判定対象のメッシュの降雨強度と、そのメッシュと径方向で隣接するメッシュの降雨強度との移動平均降雨強度を算出し、その移動平均降雨強度によって減衰判定を行ってもよい。一例として、判定対象のメッシュとレンジ方向におけるその前後のメッシュの降雨強度の平均を算出したものを移動平均降雨強度とし、この移動平均降雨強度と閾値とを比較して減衰を判定してもよい。
【0077】
また、過去の平均受信電力とレンジと関連付けた減衰判定の結果を記憶して判定に利用してもよい。具体的には、判定時の平均受信電力とレンジに近い過去の減衰判定の結果を検索し、その検索結果に基づいて判定してもよい。尚、統計的な手法やデータマイニング等を用いて、過去の減衰判定の結果と平均受信電力及びレンジとの相関関連をデータベース化しておき、そのデータベースを用いて、判定時の平均受信電力及びレンジから減衰判定を行ってもよい。
【0078】
また、閾値設定部において、観測範囲の面的な降雨状況や時系列の降雨状況から降雨のパターン(ゲリラ降雨、台風、前線に伴う雨等)を推定し、適切な閾値をリアルタイムで設定するように構成してもよい。
【0079】
また、閾値設定部において、統計的な手法やデータマイニング等により、平均受信電力及びレンジと閾値との相関関連をデータベース化しておき、そのデータベースを用いて、判定時の平均受信電力及びレンジから適切な閾値をリアルタイムで設定してもよい。
【0080】
尚、上述した実施形態及び変更形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 降雨レーダ合成処理装置
2 初期設定部
3 降雨強度算出部
4 減衰補正項算出部
5 雨量積算部
6 基準値・閾値設定部
7 複合減衰判定処理部
8 減衰判定結果処理部
9 減衰マップ作成部
10 合成処理部
51 Xバンドレーダ
52 Cバンドレーダ
53 測定領域
54 空白部分
55 補正領域
Dx X降雨データ
Dc C降雨データ
KIR 減衰補正項
KIRst 減衰補正項の基準値
Pr 平均受信電力
ThPr 平均受信電力の閾値
ZRr 積算雨量
ThZRr 積算雨量の閾値
Rr 降雨強度
MEs,r メッシュ
s セクタ番号
r レンジ番号
st 減衰開始レンジ番号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Xバンドレーダの降雨データとXバンドレーダよりも波長の長い電波を用いる長波長バンドレーダの降雨データとを合成するための降雨レーダ合成装置において、
Xバンドレーダの測定領域を複数のセクタ方向と複数のレンジ方向とに分割した各メッシュの平均受信電力を算出する初期設定手段と、
前記平均受信電力に基づいて、減衰補正項を算出する減衰補正項算出手段と、
各セクタにおいて、前記減衰補正項が基準値よりも大きいメッシュのうち、前記Xバンドレーダに最も近いメッシュのレンジ番号を減衰開始レンジ番号と決定するとともに、前記平均受信電力が平均受信電力閾値よりも小さいメッシュのうち、前記Xバンドレーダに最も近いメッシュのレンジ番号を減衰開始レンジ番号と決定する複合減衰判定手段と、
前記減衰開始レンジ番号に基づいて、降雨データを合成する合成処理手段とを備えていることを特徴とする降雨レーダ合成処理装置。
【請求項2】
積算雨量を算出する雨量積算手段を、備え、
前記複合減衰判定手段は、晴雨を判定するための積算雨量閾値よりも前記積算雨量が大きい場合のみ、前記平均受信電力と前記平均受信電力閾値とを比較することを特徴とする請求項1に記載の降雨レーダ合成処理装置。
【請求項3】
前記減衰開始レンジ番号のメッシュの平均受信電力が、セクタ方向に隣接するメッシュの平均受信電力よりも所定範囲以上に大きく、且つ、前記セクタ方向に隣接するメッシュの平均受信電力が互いに所定範囲内である場合、前記減衰開始レンジ番号を補正する減衰判定結果処理手段を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の降雨レーダ合成処理装置。
【請求項4】
同一セクタ内において、強雨が発生している強雨発生回数をカウントする強雨発生回数カウント手段を備え、
前記複合減衰判定手段は、前記強雨発生回数が閾値以上であるメッシュのうち、前記Xバンドレーダに最も近いメッシュのレンジ番号を減衰開始レンジ番号と決定することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の降雨レーダ合成処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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