説明

陰イオン吸着剤成型体およびそれを用いた浄水器

【課題】本発明の目的は、安価で陰イオン吸着能に優れ、しかも陰イオン吸着能の持続性に優れる陰イオン吸着剤成型体、このような成型体からなるカートリッジ、および該カートリッジを用いた浄水器を提供することにある。
【解決手段】粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、既存の陰イオン吸着特性を有する粒状の炭化物よりも、陰イオン吸着能に優れかつ充填密度も高い。このような粉末状の陰イオン吸着炭素材料およびバインダーからなる混合物を成型して成型体とすることにより、安価で陰イオン吸着能に優れ、しかも陰イオン吸着能の持続性に優れるカートリッジが提供される。さらに該カートリッジをハウジングに装填した、浄水器も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状の陰イオン吸着炭素材料、該陰イオン吸着炭素材料を含む陰イオン吸着剤成型体、および該成型体を用いた浄水器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料水、特に水道水の水質に関する安全衛生の関心が高まっている。飲料水中に含まれる遊離残留塩素、トリハロメタン類、黴臭などの有害物質や悪臭は、活性炭により除去することができる。しかし、陰イオンの形態で存在する硝酸性窒素、フッ素などは、活性炭による除去が難しいのが現状である。
【0003】
生活に直結する地下水や河川・湖沼の硝酸性窒素汚染は大きな問題となっている。その汚染の原因としては、施肥、家畜排泄物、生活排水などが挙げられる。硝酸性窒素は、その過剰摂取により血液中の酸素運搬が阻害され、中毒症状を引き起こすことが知られている。また、硝酸塩は、体内で発ガン性物質を生成するなどの健康障害が懸念されている。
【0004】
また、河川や地下水にはフッ素も含まれている場合がある。フッ素は、過剰に摂取すると歯の石灰化不全や骨硬化症などを引き起こすことが知られている。そのため、河川や地下水などを水源として使用する場合には、採取した水から硝酸性窒素やフッ素を除去する必要がある。
【0005】
特許文献1には、陰イオン交換樹脂と炭酸カルシウムとを組み合わせることにより、上水から硝酸性窒素を除去する浄水器が開示されている。しかし、陰イオン交換樹脂は高価な材料であるため、浄水器のコストが高いという問題があった。
【0006】
上水からイオン類を除去するための浄水器として、逆浸透膜を使用する浄水器もある。しかし、逆浸透膜は圧損が高く、高価格であるという問題がある。さらに、逆浸透膜式浄水器は、高い水圧が必要であるため、昇圧ポンプで水圧を上げる必要がある。また、得られる流量が少ないという点も問題である。
【0007】
また、上水から硝酸性窒素やフッ素を除去するために、(1)植物からなる原料と金属塩化物を含む溶液とを接触させた後炭化して得られる陰イオン吸着特性を持たせた炭素材料、(2)植物からなる原料とカルシウムイオンを含む溶液とを接触させた後炭化し、さらに酸溶液を接触させて得られる陰イオン吸着特性を持たせた炭素材料、あるいは(3)植物原料を炭化して得られる炭化物を酸処理することにより得られる陰イオン吸着特性を持たせた炭素材料のいずれかからなる炭素材料を浄水材とする浄水器が開示されている(特許文献2)。しかしながら、これらの炭素材料からなる浄水材は、体積当たりの吸着容量および吸着速度が低いという問題がある。
【0008】
上述のように、硝酸性窒素などの陰イオンを効果的に吸着する安価な浄水材は、現在のところ存在しない。このため、安価に製造可能で、各家庭で飲料水などに用いる上水から容易かつ効果的に陰イオンを除去可能な浄水器が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−80682号公報
【特許文献2】特開2005−296930号公報
【特許文献3】特開平10−5580号公報
【特許文献4】特開2006−182582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、安価で陰イオン吸着能に優れ、しかも陰イオン吸着能の持続性に優れる陰イオン吸着剤成型体、このような成型体からなるカートリッジ、および該カートリッジを用いた浄水器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を重ね、特許文献2に記載されるような従来の陰イオン吸着特性を持たせた炭素材料(陰イオン吸着炭素材料)を粉砕して粉末状にすることにより、該炭素材料の陰イオン吸着能が飛躍的に向上することを見出した。さらに、該炭素材料およびバインダーを含む混合物を成型体とすることにより、上記目的を達成することができることを見出し、本願発明を完成した。
【0012】
本発明は、粉末状の陰イオン吸着炭素材料を提供し、該炭素材料は、
(a)植物からなる原料と金属塩化物を含む溶液とを接触させた後炭化して得られる炭化物、
(b)植物からなる原料とカルシウムイオンを含む溶液とを接触させた後炭化し、さらに酸溶液を接触させて得られる炭化物、および
(c)植物からなる原料を炭化した後、酸溶液と接触させて得られる炭化物、
からなる群より選択される炭化物を粉砕することによって得られる。
【0013】
1つの実施態様では、上記炭素材料の充填密度は0.5g/cm以上である。
【0014】
1つの実施態様では、上記炭素材料の中心粒子径は10〜80μmである。
【0015】
本発明はまた、上記のいずれかの炭素材料、およびバインダーを含む混合物からなる、陰イオン吸着剤成型体を提供する。
【0016】
1つの実施態様では、上記バインダーは繊維状である。
【0017】
1つの実施態様では、上記バインダーは熱可塑性樹脂である。
【0018】
ある実施態様では、上記成型体は、さらに、粉末状活性炭を含む。
【0019】
本発明はさらに、上記のいずれかの陰イオン吸着剤成型体からなる、カートリッジを提供する。
【0020】
本発明はまた、上記のカートリッジをハウジングに装填してなる、浄水器を提供する。
【0021】
1つの実施態様では、上記浄水器において、14mg/Lの濃度で硝酸イオンを含む原水を空間速度100hr−1で該浄水器に通水した場合、該浄水器からの透過水中における硝酸イオンの該原水からの除去率が90%以上である通水量は、上記カートリッジの容積1リットルあたり300リットル以上である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、安価で陰イオン吸着能に優れる粉末状の陰イオン吸着炭素材料が提供される。粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、粒状の場合よりも充填密度が高いため、少ない容量で必要な陰イオンの除去能を発揮できる。また、粉末状の陰イオン吸着炭素材料およびバインダー、および必要に応じて粉末状活性炭を含む混合物の成型体は、水中で陰イオンの形態で存在する硝酸性窒素、フッ素、臭素酸などの除去性能に優れているので、カートリッジとしてハウジングに装填することにより、浄水器として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例2の成型体を用いた浄水器における、透過水の通水量と透過水中の硝酸イオンの除去率との関係を示すグラフである。
【図2】実施例3の成型体を用いた浄水器における、透過水の通水量と透過水中の硝酸イオンの除去率との関係を示すグラフである。
【図3】比較例1の成型体を用いた浄水器における、透過水の通水量と透過水中の硝酸イオンの除去率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、
(a)植物からなる原料と金属塩化物を含む溶液とを接触させた後炭化して得られる炭化物、
(b)植物からなる原料とカルシウムイオンを含む溶液とを接触させた後炭化し、さらに酸溶液を接触させて得られる炭化物、および
(c)植物からなる原料を炭化した後、酸溶液と接触させて得られる炭化物、
からなる群より選択される炭化物を粉砕することによって得られる。
【0025】
本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料を製造するための材料である上記(a)〜(c)の炭化物は、例えば、特許文献2に開示される陰イオン吸着特性を有する炭化物である。
【0026】
これらの炭化物の原料としては、炭化処理によって微細孔を有する形態になり得る任意の原料を使用することができ、例えば、天然繊維、木質材料、農産廃棄物、石炭などの植物由来材料が挙げられる。好適には、吸水性の高い檜や杉などをチップ化した木質チップ、ヤシ殻、コーヒー豆粕などが挙げられる。
【0027】
木質材料などの原料植物(植物からなる原料)は、(a)金属塩化物を含む溶液と接触させた後に炭化する、(b)カルシウムイオンを含む溶液と接触させた後炭化し、さらに酸溶液を接触させる、あるいは(c)炭化した後、酸溶液と接触させることによって、陰イオン吸着特性を有する炭化物となる。
【0028】
(a)において、金属塩化物としては、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マンガンなどが挙げられ、中でも塩化カルシウムが好ましい。金属塩化物を含む溶液中には、金属塩化物が灰分として2〜25質量%含まれることが好ましい。
【0029】
(b)において、カルシウムイオンを含む溶液としては、水酸化カルシウムの飽和溶液(石灰水)または懸濁液(石灰乳)、酢酸カルシウム溶液、塩化カルシウム溶液が挙げられる。これらの溶液の濃度は、カルシウムとして0.03〜30質量%が好ましい。
【0030】
(c)において、酸溶液としては、塩酸、硫酸などが挙げられ、好適には0.01mol/L以上、より好適には0.01mol/L〜20mol/L、さらに好適には0.1mol/L〜10mol/Lの濃度の溶液である。
【0031】
上記(a)〜(c)における炭化処理の際の温度は、400〜1000℃、好ましくは500℃以上、より好ましくは600℃以上、さらに好ましくは650〜750℃である。炭化処理温度が400℃を下回ると、細孔が発達せず吸着剤としての性能が劣る。一方、炭化処理温度が1000℃を超えると、炭素化が進行しすぎて吸着特性が得られない場合がある。
【0032】
上記(a)〜(c)のいずれかにより得られる炭化物は、特許文献2に開示されるように、陰イオン吸着特性を有し、従来のイオン交換樹脂とは異なり、一価の陰イオンのみを特異的に吸着する。なお、活性炭や普通の木炭には、硝酸性窒素やフッ素イオンなどの陰イオンの吸着能はない。このような陰イオン吸着特性を有する炭化物としては、例えば、日本植生株式会社製の機能炭(コーヒー豆粕原料または木質原料)が挙げられる。これらは通常、約2mmまたは約20mmの平均粒子径を有する粒状の炭化物である。平均粒子径が2mmの炭化物の場合、充填密度は0.18〜0.24g/cmである。
【0033】
上記(a)〜(c)のいずれかにより得られる炭化物を、任意の手段によって粉砕または細粒化することによって、本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料が得られる。粉砕または細粒化手段は特に限定されず、例えば、ロッドミル、ボールミル、ロールミル、ジェットミルなどの各種ミル、各種クラッシャーなどの公知の粉砕手段によって粉砕した後、所望の平均粒子径になるようにメッシュスクリーンなどで篩って粒度調整する。粉末状の炭素材料の中心粒子径は、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置(MT3300)などで測定することができる。
【0034】
本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、好ましくは中心粒子径が100μm以下であり、より好ましくは10〜80μm、さらに好ましくは15〜50μmである。中心粒子径とは、粒度分布において、ある粒子径より大きい粒子の個数または質量が、全粒子の個数または質量の50%を占めるときの粒子径である。中心粒子径が100μmよりも大きい場合は、以下で述べる好適な充填密度が得られず、あるいは通水した場合に接触効率が悪くなる恐れがある。中心粒子径が10μm未満の場合は、通水抵抗が上昇し、あるいは炭素材料を透過した水に微粉が混入する恐れがある。
【0035】
本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、陰イオン吸着特性を有する粒状の炭化物よりも炭素材料の充填密度が高い。例えば、粉砕前の炭化物の平均粒子径が2mmの場合(粒状)、上述のように充填密度は0.18〜0.24g/cmであるのに対し、平均粒子径を20μmにまで粉砕した場合(粉末状の陰イオン吸着炭素材料)の充填密度は、0.60〜0.70g/cmである。本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、好ましくは0.45g/cm以上、より好ましくは0.5g/cm以上の充填密度を有する。炭素材料の充填密度が上昇することにより、以下で詳述するように成型体当たりの炭素材料の質量が増加するため、陰イオン吸着特性に優れた陰イオン吸着剤成型体を得ることができる。なお、通常の活性炭は、粒状であっても粉末状であっても、充填密度はほぼ同じである(すなわち、充填密度はほとんど変わらない)。
【0036】
本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、一価の陰イオンのみを特異的に吸着する。一価の陰イオンとしては、例えば、硝酸イオン、亜硝酸イオン、フッ素イオン、臭素酸イオン、塩素酸イオン、ヨウ素酸イオンなどが挙げられる。
【0037】
本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料の陰イオン吸着量は、陰イオンの種類および濃度によって異なる。例えば、100ppmの硝酸ナトリウム溶液に炭素材料を添加し、25℃にて平衡吸着させた場合、平衡濃度10ppm時の硝酸イオンの体積あたりの吸着量は、好ましくは9mg/cmであり、より好ましくは11mg/cmである。また、フッ化ナトリウム溶液について、同様の条件下での平衡濃度10ppm時のフッ素イオンの体積あたりの吸着量は、好ましくは4mg/cmであり、より好ましくは5mg/cmである。
【0038】
本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、液相および気相における陰イオンの吸着および除去に使用することができる。好適には、本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、バインダーとともに、円筒状、円柱状、角柱状、板状などの各種形状に成型して陰イオン吸着剤成型体として使用される。形状は、その用途に応じて適宜決定される。バインダーは、繊維状バインダーまたは熱可塑性樹脂が用いられる。
【0039】
繊維状バインダーは、フィブリル化(小繊維化)させることによって、粉末状の陰イオン吸着炭素材料を絡めて成型できるものであれば、特に限定されず、合成品、天然品を問わず幅広く使用可能である。このような繊維状バインダーとしては、例えば、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維などが挙げられる。繊維長は4mm以下が好ましい。
【0040】
熱可塑性樹脂としては、プラスチック粉末が使用される。プラスチック粉末としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレートなどの各種熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0041】
本発明の陰イオン吸着剤成型体は、さらに粉末状活性炭を含むことが好ましい。粉末状活性炭を含むことにより、例えば、成型体を浄水器に用いる場合には、飲料水中に含まれる遊離残留塩素、トリハロメタン類、黴臭などの有害物質を除去する機能を付与することができる。粉末状活性炭の混合割合は特に限定されず、所望の吸着・除去能を有するように任意に調整すればよい。
【0042】
また、本発明の陰イオン吸着剤成型体には、その効果が阻害されない限り、これら以外の成分が含まれていても何ら問題がない。例えば、残留塩素、トリハロメタンを吸着除去するための粒状活性炭または繊維状活性炭;溶解性鉛を吸着除去するためのゼオライト系粉末:あるいは、抗菌性を付与するための銀イオンおよび/または銀化合物を含む吸着材などが挙げられる。これらも所望の吸着・除去能を付与するように任意の量で含まれ得る。
【0043】
本発明の陰イオン吸着剤成型体は、使用するバインダーの種類に応じて製造方法が異なる。本明細書においては、以下、繊維状バインダーを用いる場合を第1の製造方法といい、そして熱可塑性樹脂を用いる場合を第2の製造方法という。
【0044】
繊維状バインダーを用いる第1の製造方法では、まず、粉末状の陰イオン吸着特性を持たせた炭素材料および繊維状バインダー、および必要に応じて粉末状活性炭をよく混合し、固形物濃度が1〜5質量%となるように水中に分散させ、スラリーを調製する。これらの混合割合は、陰イオンの吸着効果、成型性などの点から、粉末状の陰イオン吸着炭素材料100質量部に対して、好ましくは、繊維状バインダーを3〜8質量部である。
【0045】
次いで、例えば、ステンレス製の金網で予め作製しておいた通水性の円筒形容器中に、同じ長さの金網で作製した小径の円筒形容器を挿入することによって二重管状容器とし、該二重管状容器の内管と外管との間にスラリーを流し込むことによって成型することができる。
【0046】
第1の製造方法では、好適には、スラリー吸引方法により、効率よく成型体を製造することができる。スラリー吸引方法によれば、粉末状の陰イオン吸着炭素材料および繊維状バインダー、および必要に応じて粉末状活性炭をスラリー状に混合し、例えば、特許文献3に記載されているように、多数の吸引用小孔を設けた二重管状の成形型を準備し、中心部からスラリーを吸引することによって、円筒型の陰イオン吸着剤成型体を製造できる。
【0047】
熱可塑性樹脂を用いる第2の製造方法では、粉末状の陰イオン吸着特性を持たせた炭素材料および熱可塑性樹脂、および必要に応じて粉末状活性炭をよく混合し、任意の形状の金型に充填し、熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱することによって、熱可塑性樹脂が溶融し、炭素材料や粉末活性炭に接着して成型される。熱可塑性樹脂の混合割合は、炭素材料とその他の成分(例えば、粉末状活性炭)との合計を100質量部として、5質量部〜50質量部が好ましい。
【0048】
第2の製造方法では、好適には、例えば、特許文献4に記載されているように、任意の量の陰イオン吸着炭素材料、微粉末ポリエチレン、および粉末状活性炭をヘンシェルミキサーに投入して均一に攪拌・混合する。得られた混合物を任意の大きさの円筒形金型に充填し、熱風乾燥機などで微粉末ポリエチレンの融点以上に加熱し、冷却固化した後、離型することによって、円筒型の陰イオン吸着剤成型体を製造できる。
【0049】
上記いずれかの方法により得られた陰イオン吸着剤成型体は、カートリッジの形態に作製することが好ましい。例えば、所望の大きさ、形状に切断し、ハウジングに装填して浄水器として使用することができる。陰イオン吸着剤成型体を浄水器用のカートリッジとして使用する場合は、通水抵抗を低下することができ、しかもカートリッジの装填・交換作業が簡単である点で、円筒状の容器とすることが好ましい。
【0050】
本発明の陰イオン吸着剤成型体は、カートリッジとしてそのまま容器に充填して浄水器として利用できる。本発明のカートリッジは、好適には、ハウジングに装填され、通水に供される。通水方式としては、原水を全量濾過する全濾過方式や循環濾過方式が採用される。濁り、微細物などを除去する目的で、さらに中空糸膜分離装置と組み合わせて使用することもできる。また、公知の不織布フィルター、各種吸着材、ミネラル添加材、セラミックフィルター、中空糸膜ろ過材など公知のフィルターと併用することも可能である。
【0051】
原水および透過水中の陰イオンの濃度は、公知の分析方法によって測定することができる。例えば、イオンクロマトグラフで分析するなどの方法によって測定することができる。
【0052】
浄水器への通水条件は特に限定されない。圧力損失が極度に大きくならないように100〜5000hr−1の空間速度(SV)で実施され、透過水中の残留陰イオン濃度と、通水開始から流した水量(L)とカートリッジの容積(L)との比(累積透過水量L/L)との関係をプロットすることにより、浄水器の性能を確認することができる。
【0053】
本発明の浄水器は、好適には、14mg/Lの濃度で硝酸イオンを含む原水を空間速度SV=100hr−1で浄水器に通水した場合、浄水器からの透過水中における硝酸イオンの原水からの除去率が90%以上である通水量が、カートリッジの容積1リットルあたり300リットル以上である。
【0054】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
(実施例1:粉末状の陰イオン吸着炭素材料の製造)
陰イオン吸着特性を有する炭化物として、日本植生株式会社製の機能炭(コーヒー豆粕原料)32/60メッシュ整粒品(中心粒子径350μm)を用いた。この機能炭をロッドミルを用いて粉砕し、任意の粒度(20、70、80および100)に調整した粉末試料を得た。粉末状の炭素材料の中心粒子径は日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置(MT3300)で測定した。これらの粉末試料について、硝酸ナトリウムを使用して硝酸イオン濃度を100ppmに調整した溶液に、粉末試料を添加し、25℃にて硝酸イオンを平衡吸着させ、平衡濃度10ppm時の硝酸イオン吸着量を測定した。
【0056】
また、上記各粉末試料について、フッ化ナトリウムを使用してフッ素イオン濃度を100ppmに調整した溶液に試料を添加し、25℃にてフッ素イオンを平衡吸着させ、平衡濃度10ppm時のフッ素イオン吸着量を測定した。各試料の硝酸イオン吸着量およびフッ素イオン吸着量ならびに充填密度を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
中心粒子径が100μm以下の粉末状の炭素材料、特に中心粒子径が80μm以下の炭素材料は、硝酸イオンおよびフッ素イオンの吸着量が、粉砕前(粒状)の炭化物と比べていずれも高かった。さらに、充填密度についても同様に、粉末状の各炭素材料は、粉砕前(粒状)の炭化物よりも高い充填密度であった。
【0059】
(実施例2:陰イオン吸着剤成型体の製造−1)
陰イオン吸着炭素材料として上記実施例1で得た日本植生株式会社製の機能炭(コーヒー豆粕原料)粉砕品(中心粒子径20μm)を60質量部、繊維状バインダーとして日本エクスラン工業株式会社製アクリル繊維Bi−PUL/Fを6質量部、ならびに、繊維状活性炭としてクラレケミカル株式会社製FR−10(BET比表面積1000m/g)3mmチョップ品を10質量部および粒状活性炭としてクラレケミカル製GW48/100(ヤシ殻原料、BET比表面積1200m/g)を30質量部の割合で混合し、外径35mm、内径10mm、および高さ73mmの二重管状の金型に充填した。この金型は、内径の筒体(芯体)表面に多数の吸引用小孔を有する。金型の芯体内部から50mmHgで吸引し、外径34mm、内径10mm、および高さ72mmの中空型円筒状成型体を作製した。
【0060】
(実施例3:陰イオン吸着剤成型体の製造−2)
陰イオン吸着炭素材料として上記実施例1で得た日本植生株式会社製の機能炭(コーヒー豆粕原料)粉砕品(中心粒子径20μm)を60質量部、バインダーとしてメルトインデックスが20g/10分の微粉末ポリエチレン(住友精化株式会社製フローセンUF−20)を10質量部、および粒状活性炭としてクラレケミカル製GW48/100(ヤシ殻原料、BET比表面積1200m/g)を30質量部の割合で混合し、外径35mm、内径10mm、および高さ73mmの金型に充填し、加熱成型し、外径34mm、内径10mm、および高さ72mmの中空型円筒状成型体を作製した。
【0061】
(比較例1:粒状炭化物を用いた陰イオン吸着剤成型体の製造)
陰イオン吸着特性を有する粒状炭化物として、日本植生株式会社製機能炭(コーヒー豆粕原料)32/60メッシュ整粒品(中心粒子径350μm)を使用したこと以外は、上記実施例2と同様にして中空型円筒状成型体を作製した。
【0062】
(実施例4:陰イオン吸着成型体の硝酸イオン除去性能の確認)
上記実施例2および3ならびに比較例1で得られた成型体を、プラスチック製のハウジングにそれぞれ装填して浄水器とした。各浄水器に、水温を20℃、硝酸イオン濃度を14mg/Lに調整した原水を、外側から内側へSV=100hr−1で通水した。実施例2および3ならびに比較例1で得られた成型体を用いた浄水器についての硝酸イオン除去性能を、それぞれ図1、2および3に示す。
【0063】
実施例2および実施例3で得られた成型体を用いた浄水器は、それぞれ通水量が500Lおよび300Lの時点まで90%以上の除去率を保持した。また、それぞれ通水量が300Lおよび200Lの時点までは99%以上の除去率であった。これに対し、比較例1の成型体を用いた浄水器では、実施例の各浄水器と比べて、硝酸イオンを十分に除去できなかったことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、陰イオン吸着能に優れ、しかも陰イオン吸着能の持続性に優れる陰イオン吸着炭素材料が提供される。本発明の粉末状の陰イオン吸着炭素材料は、既存の陰イオン吸着特性を有する粒状の炭化物よりも、陰イオン吸着能に優れかつ充填密度も高いため、安価でかつコンパクトな陰イオン吸着剤成型体、該成型体からなるカートリッジ、および該カートリッジを用いた浄水器の製造に好適である。したがって、これまで除去が困難であった陰イオンを、各家庭で飲料水などに用いる上水から容易かつ効果的に除去できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の陰イオン吸着炭素材料であって、
(a)植物からなる原料と金属塩化物を含む溶液とを接触させた後炭化して得られる炭化物、
(b)植物からなる原料とカルシウムイオンを含む溶液とを接触させた後炭化し、さらに酸溶液を接触させて得られる炭化物、および
(c)植物からなる原料を炭化した後、酸溶液と接触させて得られる炭化物、
からなる群より選択される炭化物を粉砕することによって得られる、
炭素材料。
【請求項2】
充填密度が0.5g/cm以上である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
中心粒子径が10〜80μmである、請求項1または2に記載の炭素材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの項に記載の炭素材料、およびバインダーを含む混合物からなる、陰イオン吸着剤成型体。
【請求項5】
前記バインダーが繊維状である、請求項4に記載の陰イオン吸着剤成型体。
【請求項6】
前記バインダーが熱可塑性樹脂である、請求項4に記載の陰イオン吸着剤成型体。
【請求項7】
さらに、粉末状活性炭を含む、請求項4から6のいずれかの項に記載の陰イオン吸着剤成型体。
【請求項8】
請求項4から7のいずれかの項に記載の陰イオン吸着剤成型体からなる、カートリッジ。
【請求項9】
請求項8に記載のカートリッジをハウジングに装填してなる、浄水器。
【請求項10】
請求項9に記載の浄水器であって、14mg/Lの濃度で硝酸イオンを含む原水を空間速度100hr−1で該浄水器に通水した場合、該浄水器からの透過水中における硝酸イオンの該原水からの除去率が90%以上である通水量が、前記カートリッジの容積1リットルあたり300リットル以上である、浄水器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−269225(P2010−269225A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121637(P2009−121637)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(390001177)クラレケミカル株式会社 (30)
【出願人】(000231431)日本植生株式会社 (88)
【Fターム(参考)】