説明

陽イオン吸着材及びその製造方法

【課題】圧力損失が少なく、吸着速度が速く、有機高分子基材の劣化が防止された陽イオン吸着材、及び、かかる陽イオン吸着材を簡便且つ安価に製造することができる陽イオン吸着材の製造方法を提供する。
【解決手段】シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩を1段階でグラフト重合することによってイオン交換基を導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン吸着材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、河川や湖沼において、工場排水及び人口増加に伴う生活排水の流入量の増大によりアンモニア等の窒素化合物の含有量が増加し、水道水の原水の水質悪化が問題となっている。また、長年の肥料や地下浸透方式汚物処理の影響により、地下水の汲み上げ水を原水とする上水においてもアンモニア等の窒素酸化物の含有量が増加しかつ時間的に変動することが問題となっている。これら原水を水道水として供給するためにはアンモニア等の窒素化合物の含有量を基準値以下に下げる必要があり、増加する窒素化合物を原水より安全かつ確実に除去する方法が必要である。
【0003】
従来の水処理システムにおいては、アンモニア等の窒素化合物は、生物処理による窒素化合物の一次処理工程と塩素注入法による窒素化合物の二次処理工程とを組合せた方法により除去されている。しかし原水温度が低下すると、生物処理を用いた窒素化合物の一次処理工程における窒素化合物の処理能力が低下するため、下流の二次処理工程における窒素化合物の処理量を増大させる必要がある。しかしながら、二次処理工程において処理量を増大させるために塩素を過剰に投入した場合、塩素臭害が発生したり、トリハロメタン等の発癌性物質が生成したりするという問題がある。
【0004】
これを解決するため、窒素化合物の二次処理工程として吸着・脱窒式の窒素化合物除去手段を用いた窒素化合物の除去を行うことで、原水温度に依存することなく、原水中のアンモニア性窒素等の窒素化合物を安定的に分解する方法が提案されている。中でも、イオン交換吸着法を採用する方法が、処理速度や処理能力の安定性において優れた方法として有望である。
【0005】
吸着材を使用する水処理システムにおいては、システムの小型化の要請から更なる処理速度の向上が求められている。すなわち吸着材として従来のゼオライト系吸着材やイオン交換樹脂に比べて吸着速度や再生速度を改善することが課題となっている。また、アンモニア性窒素等の窒素化合物のみならず、処理水中に含まれるCa、Mg、Na、Mn、Fe等の金属イオンも同時に短時間で規制濃度以下まで吸着除去することが求められている。さらに、特に処理水のアンモニウムイオン濃度の大きな時間的変動があっても漏洩なく対応できる吸着力の高い吸着材が求められている。
【0006】
従来陽イオン交換樹脂としては、ジビニルベンゼンで架橋したポリスチレン等の有機高分子基材に、スルホ基等のイオン交換基を導入したものが広く用いられているが、近年、幹ポリマーからなる有機高分子基材に、スチレン、ポリメタクリル酸グリシジル等の枝ポリマーを放射線を用いてグラフト重合した後、スルホ基を導入する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2等参照)。
【特許文献1】特開平10−174838号公報(1998年6月30日公開)
【特許文献2】特開2001−348439号公報(2001年12月18日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1、2等に記載の放射線グラフト重合による陽イオン交換樹脂の製造方法は、いずれも、有機高分子基材にグラフト重合法によりグラフト鎖を導入する工程と、導入したグラフト鎖にイオン交換基を連結する工程との2段階反応が必要であり、煩雑であることに加えて非常に不経済である。また、グラフト鎖として導入されたスチレンに、イオン交換基としてスルホ基を連結する工程では、濃硫酸やクロロ硫酸を用いて、長時間又は厳しいスルホン化の条件下で反応を行う必要があり、有機高分子基材が劣化するという問題がある。
【0008】
スルホ基を有するモノマーをグラフト重合させる方法も試みられており、スチレンスルホン酸塩は、グラフト重合1段でスルホ基を導入できる利点をもつが、グラフト重合が困難で、未だ、スチレンスルホン酸塩を単独で導入した陽イオン交換樹脂に関しては、グラフト重合で陽イオン交換樹脂として必要な導入率が達成されていない。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、処理水中のアンモニウムイオン及び金属イオン等の陽イオンの吸着速度が速く、且つ、吸着力の高い陽イオン吸着材であって、スルホ基の導入による有機高分子基材の劣化のない陽イオン吸着材を提供することにある。
【0010】
また、本発明のさらなる目的は、1段階でのグラフト重合により、簡便に陽イオン交換基を導入することができる陽イオン吸着材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機高分子基材に、1段階でスチレンスルホン酸塩を導入して陽イオン吸着材を製造することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明にかかる陽イオン吸着材は、上記課題を解決するために、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩をグラフト重合することによってイオン交換基が導入されてなることを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、スチレンスルホン酸塩をグラフト重合することによって、スルホ基を導入する工程を必要としないため、有機高分子基材の劣化が防止された陽イオン吸着材を提供することができるという効果を奏する。
【0014】
さらに、有機高分子基材として、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材を用いることにより、粒子状の基材を用いる場合と比較して圧力損失が少ない陽イオン吸着材を提供することができるという効果を奏する。
【0015】
本発明にかかる陽イオン吸着材では、上記イオン交換基は、放射線グラフト重合法によって導入されていることが好ましい。
【0016】
上記イオン交換基が放射線グラフト重合法によって導入されていることにより、照射エネルギーを広い範囲の中から選択することができるため、イオン交換基のグラフト率を目的に応じて制御することができる。
【0017】
本発明にかかる陽イオン吸着材では、上記有機高分子基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン−6、ナイロン−6,6、及び、ナイロン−12からなる群より選択される少なくとも1種類の高分子化合物からなることが好ましい。
【0018】
上記有機高分子基材が、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン−6、ナイロン−6,6、及び、ナイロン−12から選択されるものであることにより、1段階でスチレンスルホン酸塩を導入して十分なイオン交換基が導入された陽イオン吸着材を製造することができるという効果を奏する。
【0019】
本発明にかかる陽イオン吸着材では、上記有機高分子基材は、フィルム、短繊維、織布、不織布、メッシュ、又は多孔質膜であることが好ましい。
【0020】
上記有機高分子基材がフィルム、短繊維、織布、不織布、又は多孔質膜であることにより、圧力損失が少ない陽イオン吸着材を提供することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明にかかる陽イオン吸着材の製造方法は、上記課題を解決するために、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩をグラフト重合することによってイオン交換基を導入することを特徴としている。
【0022】
上記の構成によれば、2段階反応の場合のようなスルホ基の導入工程による有機高分子基材の劣化がなく、圧力損失が少ない陽イオン吸着材を、簡便に製造することができ、且つ、製造コストを低減することができるという効果を奏する。
【0023】
本発明にかかる陽イオン吸着材の製造方法では、放射線グラフト重合法によって上記イオン交換基を導入することが好ましい。
【0024】
本発明にかかる陽イオン吸着材の製造方法では、上記有機高分子基材として、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン−6、ナイロン−6,6、及び、ナイロン−12からなる群より選択される少なくとも1種類の高分子化合物を用いることが好ましい。
【0025】
本発明にかかる陽イオン吸着材の製造方法では、上記有機高分子基材は、フィルム、短繊維、織布、不織布、メッシュ、又は多孔質膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる陽イオン吸着材は、以上のように、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩を1段階でグラフト重合することによってイオン交換基が導入されてなるという構成を備えているので、スチレンスルホン酸塩を1段階でグラフト重合することによって、スルホ基を導入する工程を必要としないため、有機高分子基材の劣化が防止された陽イオン吸着材を提供することができるという効果を奏する。
【0027】
さらに、有機高分子基材として、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材を用いることにより、粒子状の基材を用いる場合と比較して圧力損失が少ない陽イオン吸着材を提供することができるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明にかかる陽イオン吸着材の製造方法は、以上のように、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩を1段階でグラフト重合することによってイオン交換基を導入するという構成を備えているので、2段階反応の場合のようなスルホ基の導入工程による有機高分子基材の劣化がなく、圧力損失が少ない陽イオン吸着材を、簡便に製造することができ、且つ、製造コストを低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下本発明について、(I)陽イオン吸着材、(II)陽イオン吸着材の製造方法の順に説明する。
【0030】
(I)陽イオン吸着材
本発明にかかる陽イオン吸着材は、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩を1段階でグラフト重合することによってイオン交換基が導入されてなるものである。
【0031】
<有機高分子基材>
本発明で用いられる有機高分子基材は、スチレンスルホン酸塩をグラフト重合することができるものであれば特に限定されるものではなく、熱硬化性樹脂であっても、熱可塑性樹脂であっても良いが、製造時の取扱い性の観点から熱可塑性樹脂であることがより好ましい。
【0032】
かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン不飽和単量体の単独重合体及び共重合体、ポリブタジエンの共重合体、ポリエステルやポリアミドを含む重縮合樹脂を用いることができる。
【0033】
より具体的には、本発明で用いられる有機高分子基材としては、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミドポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリルニトリル−スチレン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、アクリル酸メチル−メタクリル酸メチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ酢酸ビニルポリビニルピリジン、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリエチルアクリレート;各種ナイロン、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等のポリアミド類;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルホン;ABS樹脂(アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体);スチレン−ブタジエン共重合体等の熱可塑性弾性体;変性セルロース;ポリ乳酸等を挙げることができる。中でも、本発明で用いられる有機高分子基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン−6、ナイロン−6,6、又は、ナイロン−12であることがより好ましい。これにより、1段階でスチレンスルホン酸塩を導入して、よりスチレンスルホン酸塩の導入率が高い陽イオン吸着材を製造することができる。なお、有機高分子基材として例示した上記高分子化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0034】
また、本発明で用いられる有機高分子基材は、必要に応じて、磁性材料をはじめ、各種の添加剤を含んでいてもよい。有機高分子基材に磁性材料を添加することにより、磁気応答性を付与すれば、吸着、再生の移行過程で、磁気的に吸着材をモジュール中で移動、回収、及び/又は固定する機能を付与することができる。また、添加剤の選択により添加剤を充填した有機高分子基材の比重を適正化し、モジュール内での流体との相互作用を制御することができる。かかる添加剤としては、例えば、鉄、鉄を含む合金、各種フェライト、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア等を用いることができる。
【0035】
本発明で用いられる有機高分子基材は、シート状、フィルム状、または繊維状の形状を有するものである。陽イオン吸着材が粒子状である場合、例えば処理を行う原水等の処理対象や環境条件によっては、圧力損失が問題となる場合がある。本発明では、かかる圧力損失の問題のない陽イオン吸着材を提供するために、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材を用いる。また、シート状、フィルム状、または繊維状の形状とすることにより、粒子状の場合と比較して陽イオン吸着材の製造コストを低減することができる。
【0036】
また、陽イオン吸着材をシート状、又は、フィルム状とすることにより、原水等の処理対象との接触や、処理後の陽イオン吸着材の取り出しを簡便に行うことができる。また、シート状、又は、フィルム状の陽イオン吸着材を細分化することにより、処理対象との接触面積を大きくして吸着能力を向上させることができるとともに、粒子状の有機高分子基材にイオン交換基をグラフト重合して得られる陽イオン吸着材と比較して圧力損失を少なくすることができる。
【0037】
また、陽イオン吸着材を繊維状とすることにより処理対象との接触面積を大きくして吸着能力を向上させることができる。また、繊維状の陽イオン吸着材は、さらに織布、不織布、メッシュとしたり、かかる織布、不織布、メッシュを必要な形に縫製したりして用いてもよい。
【0038】
有機高分子基材がシート状又はフィルム状の場合、その厚さは特に限定されるものではないが、乾燥状態で、5μm〜1mmであることが好ましく、10μm〜100μmであることがより好ましい。また、シート状又はフィルム状の有機高分子基材の厚さが1mm以下であることにより、陽イオン吸着材の表面積が十分大きく吸着能力に優れるため好ましい。
【0039】
有機高分子基材が繊維状の場合、その平均繊維径は特に限定されるものではないが、2.5μm〜0.5mmであることが好ましく、5μm〜50μmであることがより好ましい。また、繊維状の有機高分子基材の平均繊維径が0.5mm以下であることにより、陽イオン吸着材の表面積が十分大きく吸着能力に優れるため好ましい。また、繊維状の有機高分子基材は、長繊維であっても短繊維であってもよい。
【0040】
中でも、本発明で用いられる有機高分子基材は、より具体的には、フィルム、短繊維、織布、不織布、メッシュ、又は多孔質膜であることが好ましく、これらは陽イオン吸着材の用途に応じて適宜選択すればよい。
【0041】
有機高分子基材が多孔質膜である場合には、その平均孔径は1〜100μmであることが好ましい。また、シート状、フィルム状の有機高分子基材に限らず、繊維状の有機高分子基材が多孔性であってもよい。かかる多孔性の有機高分子基材を用いることにより、より吸着能に優れた陽イオン吸着材を得ることができる。
【0042】
<イオン交換基>
本発明にかかる陽イオン吸着材は、上記有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩を1段階でグラフト重合することによってイオン交換基が導入されてなるものである。
【0043】
スチレンスルホン酸塩としては、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩がより好ましい。これにより、得られた陽イオン吸着材をHCl等の強酸で後処理することにより、アンモニアイオンの除去能力を向上することができる。
【0044】
また、上記有機高分子基材に対する、グラフト重合されているスチレンスルホン酸塩の量(重量百分率)、すなわち、グラフト率は、30〜200重量%であることが好ましく、50〜100重量%であることがより好ましい。導入されているスチレンスルホン酸塩の量が30重量%以上であることにより、得られる陽イオン吸着材の吸着能を十分なものとすることができるため好ましい。また、導入されているスチレンスルホン酸塩の量が200重量%以下であることにより、吸着材の膨潤が比較的小さく扱いやすいため好ましい。
【0045】
グラフト鎖として導入されたスチレンスルホン酸塩は、上記有機高分子基材に結合していればよく、有機高分子基材の内部に結合していてもよいし、有機高分子基材の表面に結合していてもよい。
【0046】
なお、本発明においては、上記有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩がグラフト重合されていればよいが、さらに、その他のモノマーがグラフト重合されていてもよい。例えば、エチレン性不飽和基を2つ以上有する多官能性モノマーを共存させることにより、グラフト鎖が架橋した構造を得ることができる。これにより、陽イオン吸着材の表面の膨潤度を調整することができる。かかる多官能性モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール#400〜1000ジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ジビニルベンゼン等を好適に用いることができる。また、ジビニルベンゼン等の非水溶性の多官能性モノマーは、必要に応じて界面活性剤により乳化して用いてもよい。多官能性モノマーを用いる場合、その使用量は、スチレンスルホン酸塩に対して1〜20モル%であることが好ましく、3〜10モル%であることがより好ましい。
【0047】
また、本発明にかかる陽イオン吸着材においては、スチレンスルホン酸ナトリウムは、1段階でグラフト重合されていればよい。すなわち、本発明では、グラフト鎖としてスチレンを導入し、導入したグラフト鎖にイオン交換基であるスルホ基を連結するという2段階反応ではなく、スチレンスルホン酸塩を1段階でグラフト重合することによってイオン交換基が導入されている。これにより、スルホ基を導入する工程を必要としないため、有機高分子基材の劣化が防止された陽イオン吸着材を提供することができる。
【0048】
また、本発明にかかる陽イオン吸着材においては、スチレンスルホン酸ナトリウムは、1段階でグラフト重合されていればよいが、グラフト重合法としては、例えば、重合開始剤を用いたラジカル重合を利用する方法;電子線、γ線、紫外線等の放射線により、グラフト重合を開始することができるラジカルを発生させる放射線グラフト重合法等を好適に用いることができる。中でも、放射線グラフト重合法は、照射エネルギーを広い範囲の中から目的に応じて選択することができるため、本発明にかかる陽イオン吸着材の製造により適している。
【0049】
放射線グラフト重合法では、上記有機高分子基材に放射線を照射した後、スチレンスルホン酸塩をグラフト重合させる。放射線を照射した有機高分子基材へのグラフト重合は、放射線を照射した有機高分子基材と、スチレンスルホン酸塩溶液とを接触させることによって行う。
【0050】
<陽イオン吸着材>
本発明にかかる陽イオン吸着材は、原水等の処理対象と接触させることにより、処理対象中に含まれるアンモニア性窒素等の窒素化合物のみならず、Ca、Mg、Na、Mn、Fe等の金属イオンも同時に吸着することができる。また、本発明にかかる陽イオン吸着材は、液体中に限られず、気体中の窒素化合物や金属イオンを吸着するガスフィルタとして用いることもできる。
【0051】
アンモニアをはじめ種々の金属イオンを吸着させた後の陽イオン吸着材は、塩酸、硫酸、硝酸等の酸又は塩水に接触させることにより再生することができる。陽イオン吸着材を水処理に用いる場合には、アンモニアを完全に除去するという観点から、酸を用いて再生することがより好ましい。
(II)陽イオン吸着材の製造方法
本発明にかかる陽イオン吸着材の製造方法は、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩を1段階でグラフト重合することによってイオン交換基を導入する方法であればよい。
【0052】
ここで、有機高分子基材、イオン交換基、その他のモノマー、添加剤、グラフト重合法、グラフト率については、上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0053】
本発明にかかる陽イオン吸着材においては、スチレンスルホン酸ナトリウムは、1段階でグラフト重合されていればよいが、上述したように、放射線グラフト重合法によって上記イオン交換基が導入されていることが好ましい。
【0054】
放射線グラフト重合法では、上記有機高分子基材に放射線を照射した後、スチレンスルホン酸塩をグラフト重合させる。
【0055】
放射線グラフト重合法において、用いられる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等を挙げることができるが、電子線、γ線、紫外線等をより好適に用いることができる。また、照射線量は、用いる有機高分子基材によって異なるが、5〜500kGyであることが好ましく、100〜300kGyであることがより好ましい。照射線量が5kGy以上であることにより、必要なラジカルの生成量を得ることができる。また、照射線量が500kGy以下であることにより、過剰な照射による不必要な架橋や分解を回避することができる。
【0056】
また、有機高分子基材への放射線の照射は、上述したように、予め有機高分子基材に放射線を照射した後、スチレンスルホン酸塩をグラフト重合させる前照射法を好適に用いることができる。これにより、スチレンスルホン酸塩同士の単独重合体の生成を回避することができる。しかし、もちろん、スチレンスルホン酸塩の共存下で、有機高分子基材に放射線を照射する方法も用いることができる。
【0057】
また、放射線を照射した有機高分子基材へのグラフト共重合は、放射線を照射した有機高分子基材と、スチレンスルホン酸塩溶液とを、接触させることによって行う。
【0058】
ここでスチレンスルホン酸塩溶液は、10〜35%であることが好ましく、20〜30%であることがさらに好ましい。スチレンスルホン酸塩溶液が10%以上であることにより、基材と十分接触するため好ましい。また、35%以下であることによりホモポリマーの生成が抑えられるため好ましい。また、溶媒としては、スチレンスルホン酸塩を溶解することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等を用いることができる。中でも、溶解性の観点から、スチレンスルホン酸塩溶液は水溶液であることがより好ましい。
【0059】
また、放射線を照射した有機高分子基材と、スチレンスルホン酸塩溶液との接触方法は特に限定されるものではないが、例えば、放射線を照射した有機高分子基材を、スチレンスルホン酸塩溶液に浸漬する方法、スチレンスルホン酸塩溶液を放射線照射後の有機高分子基材に吹き付ける方法等を挙げることができる。
【0060】
放射線を照射した有機高分子基材と、スチレンスルホン酸塩溶液との接触時間は、有機高分子基材や放射線量により異なるが、接触方法として浸漬する方法を用いる場合通常30分〜2時間である。
【0061】
また、反応温度、すなわち、放射線を照射した有機高分子基材と、スチレンスルホン酸塩溶液とを接触させる温度は、接触方法として浸漬する方法を用いる場合、50〜90℃であることが好ましい。
【0062】
また、放射線を照射した有機高分子基材と、スチレンスルホン酸塩溶液との接触は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。これにより、放射線により発生したラジカルを効率よく反応させることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明にかかる発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0064】
<陽イオン吸着材の製造>
厚さ25μmのEVOH(エチレン含有率44モル%)フィルム50cm(150mg)((株)クラレ製、エバール(登録商標)EF−E)に、窒素雰囲気下、電子線を加速電圧750kV、照射線量250kGyで照射した。続いて照射後のEVOHフィルムを、30%のp−スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液に浸漬し、70℃で1時間反応させた。
【0065】
反応後のイオン交換基がグラフト重合されたEVOHフィルムを、水、2N塩酸、水の順で洗浄し、乾燥させて陽イオン吸着材を得た。得られた陽イオン吸着材のグラフト率は53%であった。また、得られた陽イオン吸着材は、スルホ基を1.7meq/g有していた。
【0066】
<得られた陽イオン吸着材の吸着特性評価>
得られた陽イオン吸着材を2mm角程度に細分化し、プラスチックカラムに1.5g充填し、1.0mol/Lの塩酸を通液してスルホン酸とした。その後、20ppmのアンモニア水を、1.5L/hでカラムに通水してアンモニア除去試験を行った。アンモニア濃度はデジタルパックテスト(インドフェノール青法、共立理化学研究所)を用いて測定した。出口濃度の時間変化を測定した結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
なお、0.2ppm以下が検出限界である。表1に示すように、出口濃度、すなわち、出口のアンモニア濃度は45分後までは検出限界以下であり、75分経過後も0.5ppm以下であった。
【0069】
この出口濃度が検出限界以下である時間は、粒子状の有機高分子基材を用いて同様の実験を行った場合と比較して長時間であった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明にかかる陽イオン吸着材及びその製造方法は、以上のように、シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩を1段階でグラフト重合することによってイオン交換基が導入されていることにより、処理水中のアンモニウムイオン及び金属イオン等の陽イオンの吸着速度が速く、且つ、吸着力の高い陽イオン吸着材であって、スルホ基の導入による有機高分子基材の劣化のない陽イオン吸着材を提供することができるとともに、簡便に陽イオン交換基を導入することができる。
【0071】
それゆえ、本発明にかかる陽イオン吸着材及びその製造方法は、水処理用、エアーフィルター用、反応触媒用等として、各種分野への幅広い利用が考えられる。それゆえ、本発明は、水処理産業、さらには、環境検査産業、工業薬品製造業等の各種化学工業に利用可能であり、しかも非常に有用であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩をグラフト重合することによってイオン交換基が導入されてなることを特徴とする陽イオン吸着材。
【請求項2】
放射線グラフト重合法によって上記イオン交換基が導入されていることを特徴とする請求項1に記載の陽イオン吸着材。
【請求項3】
上記有機高分子基材は、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン−6、ナイロン−6,6、及び、ナイロン−12からなる群より選択される少なくとも1種類の高分子化合物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の陽イオン吸着材。
【請求項4】
上記有機高分子基材は、フィルム、短繊維、織布、不織布、メッシュ、又は多孔質膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の陽イオン吸着材。
【請求項5】
シート状、フィルム状、または繊維状の有機高分子基材にスチレンスルホン酸塩をグラフト重合することによってイオン交換基を導入することを特徴とする陽イオン吸着材の製造方法。
【請求項6】
放射線グラフト重合法によって上記イオン交換基を導入することを特徴とする請求項5に記載の陽イオン吸着材の製造方法。
【請求項7】
上記有機高分子基材として、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン−6、ナイロン−6,6、及び、ナイロン−12からなる群より選択される少なくとも1種類の高分子化合物を用いることを特徴とする請求項5又は6に記載の陽イオン吸着材の製造方法。
【請求項8】
上記有機高分子基材は、フィルム、短繊維、織布、不織布、メッシュ、又は多孔質膜であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の陽イオン吸着材の製造方法。

【公開番号】特開2008−296155(P2008−296155A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146165(P2007−146165)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(503237806)株式会社NHVコーポレーション (37)
【Fターム(参考)】