説明

隅肉溶接方法および装置

【課題】 開口がある隅肉溶接の全自動化。溶接位置精度,信頼性の向上。
【解決手段】 下板Xと、下端面に開口A,Bがある立板Yによって形成されるコーナを溶接する隅肉溶接において、溶接方向yに、前方から第1の開口検知手段S1,溶接トーチ8および第2の開口検知手段S2をこの順に配置し、開口幅をL1、S1/溶接トーチ間距離をL2、S2/溶接トーチ間距離をL3、とすると、L2≧L1かつL3≦L1として、S1,S2および溶接トーチの組体を、S1を先頭に、y方向に駆動し、S2の開口始端検出に基づくタイミングYcで駆動を停止して溶接スタート処理を行い、その後に組体を再駆動しアークを継続して隅肉溶接する第1行程と、S1の開口終端検出に基づくタイミングYdで駆動を停止しクレータ処理を行い、その後にアークを停止する第2行程と、を含む隅肉溶接方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は隅肉溶接方法および装置に関し、特に、立板の、下板に接する下端面にドレインホール等の開口がある場合の隅肉溶接方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下板および立板からなる構造物である船底のロンジ部材には、隅肉溶接線上の立板に開口部があるものがある。この開口部は船底などにおいて船底に溜まった油,水等を排出するために設けてある。
【0003】
隅肉溶接線上の立板に開口部がある場合、作業者が溶接を停止させ走行台車を空走行させ、次の溶接位置まで動かし停止させて溶接を再開していた。また開口部の始端部および終端部の完全な溶接、例えば、廻し溶接を行う場合は、開口部両端を半自動溶接する必要があった。また、溶接を行う時に従来の隅肉溶接機は、アークが出たことを検出する機能を有していない。トーチ先端の溶接チップがつまり溶接ワイヤが出なかったり、溶接箇所にスラグがありアークが出ない異常が発生した場合でも、台車は、溶接をせずに走行してしまう不具合が生じる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−128537号公報
【特許文献2】特開平07−185812号公報。
【0005】
特許文献1には、立板にドレンホール(開口)がある場合、開口を検出するため開口を横断する1個の検知ローラを備えて、直接立板に転動接触して開口部の縁を検出して機械的な機構を用いてリミットスイッチを作動させて開口検知信号を発生し、開口検知信号が表わす開口有無に対応して、溶接,中止を自動的に行う装置が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1のように、1個の検知ローラで溶接進行方向の前方でドレインホールを検出する場合は、ホール始端,終端検出から、検知ローラ/トーチ間距離分の進行の後にトーチがホール始端,終端に達するので、正確な進行距離計測が必要である。特許文献1は、検知ローラ/トーチ間距離分の進行相当の時間を遅延時間として、ホール始端,終端検出から該遅延時間経過後に、溶接停止,開始を開始する。ところが、検知ローラを使用する開口検知の場合、溶接スパッタが検知ローラに付着すると開口検知が不能又は不正確になるので、検知ローラを溶接トーチからかなり離さなければならない。したがって検知ローラ/溶接トーチ間距離が長くなる。これにより前記遅延時間が長くなり、該遅延時間の間の進行速度の変動または動揺により、開口始端,終端に対する溶接停止,開始のタイミングがずれる可能性が高くなる。また、検知ローラを使用する開口検知の場合、検出する時の時間遅れ,機械的伝達部振動による誤動作,溶接のスパッタがローラ,アーム,検知装置内に侵入,付着すること等により可動部が動かなくなる現象を引き起こす可能性がある。また、特許文献1に開示の開口部自動検知装置は、構造が複雑であるため形状が大きくなり、装置重量も重くなる。このため狭隘な場所での小型の隅肉溶接機には不向きである。
【0007】
また、特許文献2には、溶接用台車の走行方向の両端部に突出した立板押付け倣い用の1対の倣いアームを設けた無軌条自走式溶接用台車が開示されているが、立板に設けられた、隅肉溶接線上の開口に関する対応策は何ら開示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、立板に開口がある場合の開口の始端部および終端部の処理を含む隅肉溶接を自動的におこなうことを第1の目的とし、その溶接位置精度および信頼性を向上することを第2の目的とし、立板に複数の開口が分布する場合に開口の始端部および終端部の処理を含む隅肉溶接を自動的かつ連続的に、高い溶接位置精度および信頼性で、行うことを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)下板Xと、該下板に対向する下端面に開口(A,B)がある立板Yによって形成されるコーナを溶接する隅肉溶接において、
前記立板Yが延びる方向の溶接トーチ移動方向yに、前方から第1の開口検知手段(S1),溶接トーチ(8)および第2の開口検知手段(S2)をこの順に配置し、前記開口の前記方向yの幅をL1、第1の開口検知手段(S1)/溶接トーチ(8)間距離をL2、ならびに、第2の開口検知手段(S2)/溶接トーチ(8)間距離をL3、とすると、L2≧L1かつL3≦L1として、
第1,第2の開口検知手段(S1,S2)および前記溶接トーチ(8)の組体を、第1の開口検知手段(S1)を先頭に、前記立板Yに倣って前記方向yに駆動し、第2の開口検知手段(S2)の開口始端検出に基づくタイミング(Yc)で前記駆動を停止して前記溶接トーチ(8)に溶接電流を供給してアークを発生させて溶接スタート処理を行い、その後に前記組体を再駆動し前記アークを継続して隅肉溶接する第1行程と、
第1の開口検知手段(S1)の開口終端検出に基づくタイミング(Yd)で前記駆動を停止し前記アークは継続してクレータ処理を行いその後に、前記アークを停止する第2行程と、を含むことを特徴とする隅肉溶接方法。
【0010】
なお、理解を容易にするために括弧内には、図面に示し後述する実施例の対応又は相当要素の記号もしくは対応事項の記号を、例示として参考までに付記した。以下も同様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、開口の始端および終端の溶接処理を含む全工程の隅肉溶接を、連続自動化ができる。さらに、半自動溶接等で行っていた開口両端の廻し溶接、即ち、開口部の終端部のスタート溶接および始端部のクレータ溶接処理が、開口間の隅肉溶接に継続して自動で行えるようになった。よって、良好な溶接結果が得られ、溶接技術者の負担を大幅に削減し、作業時間を短縮し、作業効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(2)前記開口が複数個、前記立板Yに分布し、前記第2行程に続けて前記第1行程および第2行程を繰り返す、請求項1に記載の隅肉溶接方法。これによれば、長尺の、複数の開口が分布する立板と下板との構造物を、連続的に繰り返し全長溶接ができる。
【0013】
(3)前記組体である第1組体と同一構成の第2組体によって、第1組体の溶接トーチ(8-1)すなわち第1溶接トーチ(8-1)により前記隅肉溶接をする第1コーナに前記立板を間において対向する第2コーナの前記第1および第2行程を含む隅肉溶接を、第1組体による隅肉溶接と並行して行う、上記(1)又は(2)に記載の隅肉溶接方法。
【0014】
(4)前記溶接スタート処理は、第1設定時間(アーク検出時間)の間のアーク検知器による正常アーク検知の継続である、上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の隅肉溶接方法。
【0015】
(5)前記クレータ処理は、溶接電流値を低減した第2設定時間(クレータ処理時間)のアーク継続である、上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の隅肉溶接方法。
【0016】
(6)L2=L1=L3として、第1行程においては、第2の開口検知手段(S2)により開口始端を検出したときに、前記駆動を停止して前記溶接トーチ(8)に溶接電流を供給してアークを発生させて溶接スタート処理を行い、第2行程においては、第1の開口検知手段(S1)により開口終端を検出したときに、前記駆動を停止し前記アークは継続してクレータ処理を行う、上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の隅肉溶接方法。
【0017】
(7)L2>L1かつL3<L1として、第1行程においては、第2の開口検知手段(S2)により開口始端を検出してから、L2−L1の距離の駆動の後に、前記駆動を停止して前記溶接トーチ(8)に溶接電流を供給してアークを発生させて溶接スタート処理を行い、第2行程においては、第1の開口検知手段(S1)により開口終端を検出してからL1−L3の距離の駆動の後に、前記駆動を停止し前記アークは継続してクレータ処理を行う、上記(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の隅肉溶接方法。
【0018】
(8)下板Xと立板Yによって形成されるコーナを溶接する隅肉溶接装置において、
前記立板Yが延びる方向の溶接トーチ移動方向yに、前方から第1の開口検知手段(S1),溶接トーチ(8)および第2の開口検知手段(S2)をこの順に配設した溶接基台(1);
該溶接基台(1)を前記立板Yに倣って前記方向yに駆動する駆動手段(22,9,40);および、
第2の開口検知手段(S2)の開口始端検出に基づくタイミング(Yc)で前記駆動を停止して前記溶接トーチ(8)に溶接電流を供給してアークを発生させて溶接スタート処理を行い、その後に前記組体を再駆動し前記アークを継続して隅肉溶接し、第1の開口検知手段(S1)の開口終端検出に基づくタイミング(Yd)で前記駆動を停止し前記アークは継続してクレータ処理を行い、その後に前記アークを停止する、制御手段(40);
を備えることを特徴とする隅肉溶接装置。
【0019】
(9)第1および第2の開口検知手段(S1,S2)の、前記溶接トーチ(8)に対する前記方向yの距離L2,L3を調整する手段(16a,16b)、を更に備える上記(8)に記載の隅肉溶接装置。
【0020】
(10)アーク検知器(36)を、前記溶接トーチ(8)に接続した溶接電力ケーブル(32)に設置した上記(8)又は(9)に記載の隅肉溶接装置。
【0021】
(11)第1および第2の開口検知手段(S1,S2)は、前記立板Yの側面に対向して非接触で対向位置の立板材有無を検出する近接センサである、上記(8)乃至(10)のいずれか1つに記載の隅肉溶接装置。
【0022】
(12)第1および第2の開口検知手段(S1,S2)は、金属体の有無を検出する磁気センサである、上記(11)に記載の隅肉溶接装置。
【実施例1】
【0023】
図1に本発明の1実施例の1実施形態を示す。水平又は略水平に配置された下板Xには、下端に開口がある立板Yが、垂直又は略垂直に立てられている。立板Yの下端が下板Xに接するコーナが、溶接対象の「隅」であり、立板Yが延びる方向yに延びるが、所々に「開口」がある。すなわちy方向に1個又は複数の開口(例えば図6の開口A,B)が分布している。
【0024】
図1に示す実施形態では、第1溶接機WER−1と第2溶接機WER−2を、立板Yを間において、立板Yが延びるy方向に直交する水平x方向に対向配置し、同時に同方向yに自走して立板Yの表,裏の隅部(左右隅)をガスシールドアーク隅肉溶接する。
【0025】
図2の(a)には第1溶接機WER−1の、見下ろした上面を、図2の(b)には、立板Y側から見た正面を示す。図2の(b)の、第1溶接機WER−1の正面図に対して、図1は第1溶接機WER−1の左側面図である。第1溶接機WER−1と第2溶接機WER−2とが同一仕様の製品であるので、第1溶接機WER−1の右側面図は、図1の第2溶接機WER−2の右側面図と実質的に同一である。第1溶接機WER−1と第2溶接機WER−2とが同一仕様および同一使用形態である。以下では、各溶接機の要素符号は、枝番なしで表記し、主に、第1溶接機WER−1の構造を説明する。
【0026】
図1に示す下板X上の走行台車1(1−1)には、溶接トーチ8、2個の磁気センサ11および2個の倣いローラ9a,9bが搭載され、走行台車1は、台車1に内蔵された走行装置によって走行する。溶接トーチ8の後部に、溶接電源30からの溶接電力ケーブル32がワイヤ送給装置31を経由して接続され、また溶接用ワイヤ37がワイヤ送給装置31を経由して送給される。更に、図示しないシールドガス供給装置のガス供給ホースが接続されている。溶接トーチ8による溶接の制御,図2に示す2個の磁気センサ11a,11bの立板検出信号に基づく開口検出,走行台車1の制御、および、溶接スタート直後の溶接アークの適否検出を、制御用のケーブル33,34および35を介して、制御装置40が行う。制御装置40は、溶接アーク検出用のケーブル35の先端に取り付けたアーク発生検知器36の検出信号にもとづいて、正常なアークが発生したか否かを検出して、溶接スタート時の溶接不具合を防ぐ。
【0027】
図1には示していないが、走行台車1の底面に永久磁石が取り付けて下板への磁着力を付加している。すなわち、走行台車1の見かけ上重量を重くし、走行台車1の牽引力は大きくして、溶接用のケーブル等を引きずることによる立板Yからの倣いずれを起こしにくくしている。また、この構造によって傾斜のある下板X,進行方向に対して上り勾配,下り勾配、また立板Y方向に対して上り勾配、下り勾配のある構造部材(下板と立て板の組合せ)に対しても、溶接線(隅)を倣うことが可能である。
【0028】
図2をも参照すると、走行台車1には、溶接トーチ8がトーチホルダー取り付け部材24により走行面に対して傾斜して支持されている。トーチホルダー取り付け部材24には、(図示せず)垂直方向に長穴が空いている。これによりトーチホルダー取り付け部材24は、トーチホルダー5を取り付けているボルトを緩めることによりトーチホルダー5を動かしトーチ角度を調整することができる。ボルトを締めることによりトーチホルダー5を固定することができる。溶接トーチ8は、トーチホルダー5によって走行台車1に固定されている。トーチホルダーノブ6を緩めることにより下板X,立板Yに対して溶接トーチ8の位置調整ができトーチホルダーノブ6を締めることにより固定できる。トーチホルダー5を支持するトーチホルダー取り付け部材24は、上下スライダー2に取り付けられており、この上下スライダー2は、上下スライダーノブ3の左右の回転により上下動し、溶接トーチ8が上下動して隅肉溶接線への位置調整を行う。また上下スライダー2は、上下スライダー取り付け部材4により水平スライダー17に取り付けられている。水平スライダー17は、水平スライダーノブ18の左右の回転により前後方向に移動し溶接トーチ8が立板Yに対して前後方向に移動して隅肉溶接線への位置調整を行う。
【0029】
走行台車1の下部には、走行車輪22が取り付けられており走行車輪22は、車軸(図示せず)に軸支されている。走行車軸は、操作箱29内に設けれらた駆動装置(図示せず)により回転駆動される。
【0030】
走行台車1の走行方向両端部には、夫々ガイドアーム21a,21bが走行車輪22に垂直の方向に取り付けられており、このガイドアーム21a,21bは、走行台車1から立板Y方向に突出している。このガイドアームの先端には、ローラ軸10が取り付けられておりこのローラ軸10には、前倣いローラ9a、後倣いローラ9bがその回転軸を垂直にして回転可能に取り付けられている。このガイドアーム21a、21bには、図1に示すように夫々ガイドアーム21a,21bの長手方向に伸びる長穴が設けられておりこの長穴にネジを挿入しネジを走行台車本体1にネジ込むことによりガイドアーム21a,21bが走行台車1に固定される。そしてガイドアーム21a,21bの突出長を変更する場合は、ネジを緩めガイドアーム21a,21bを長穴に沿って移動させ、その後ネジを締めつけて固定する。倣いローラ9a,9bは、立板Yの下端部にある開口の上端よりも高い位置となるように、高位置に設置されている。走行方向yで前部の倣いローラ9aを支持するガイドアーム21aを、後部倣いローラ9bを支持するガイドアーム21bよりも短くすることによって、台車1は立板Yに押付け倣い走行する。すなわち、走行台車1は、僅かに立板Yに向かう斜め姿勢で立板Yに沿って走行し、走行台車1に搭載された溶接トーチ8が、下板Xおよび立板Yによって構成される隅肉溶接線に倣って移動する。
【0031】
走行台車1の左右側面には、リミットスイッチ20が取り付けられており、このリミットスイッチ20が走行台車1が立板Xに対して左向きまたは、右向きに走行し溶接線の最終位置まで達したときに邪魔板に当接して作動するようになっている。このリミットスイッチ20が作動することにより走行台車の走行が停止する。リミットスイッチ保護カバー19は、リミットスイッチ20を走行台車に固定し可動部を保護している。
【0032】
立板Yを検出する第1磁気センサ(S1)11a,第2磁気センサ(S2)11bが、磁気センサ上下位置調整取り付け部材13a,13bと磁気センサ前後位置調整取り付け部材14a,14bと磁気センサ左右位置調整取り付け部材16a,16bにより走行台車本体1にネジで取り付けられている。第1磁気センサS1,第2磁気センサS2は、磁気センサ上下位置調整取り付け部材13a,13bに取り付けられており、磁気センサを固定しているナット(図示せず)を緩めることにより上下方向に移動させ上下位置調整ができナットを締めることにより固定できる。位置調整取り付け部材13a,13bは、磁気センサ前後位置調整取り付け部材14a,14bにネジで取り付けられている。この磁気センサ前後位置調整取り付け部材14a,14bには、立板Yに対して垂直方向に長穴が開いている。取り付けネジを緩めることにより前後方向に磁気センサ前後位置調整取り付け部材14a,14bを移動させ立板Yに対しての距離を調整できネジを締めることにより固定できる。磁気センサ前後位置調整取り付け部材14a,14bは、磁気センサ左右位置調整取り付け部材16a,16bがネジで取り付けられている。そして磁気センサ左右位置調整取り付け部材16a,16bは、走行台車本体1にネジで取り付けられている。この磁気センサ左右位置調整取り付け部材16a,16bには、立板Yに対して平行方向に長穴が空いておりネジを緩めることにより左右に第1磁気センサS1,第2磁気センサS2の位置を移動できネジを締めつけることにより固定できる。
【0033】
第1磁気センサS1および第2磁気センサS2は、走行台車1の走行方向yで、溶接トーチ8を中央にしてその前後、かつ立板Yの表面から約0.5〜2mmに取り付けられ、立板Yの開口の始端部および終端部を検知する。第1および第2磁気センサS1,S2は、磁界発生コイルを持ち、該コイルに交流電圧を印加して、前方に該コイルが発生する交番磁界によって渦電流を生ずる導電体、代表的には金属体、があるか無いかによる該コイルまたは別途付加したセンサコイルのインピーダンスの変動を検出信号に変換する近接スイッチであり、鋼材(鉄)に対して最も感度が高い。検出距離3mmのもので検出端面の直径が20mm程度の小型の市販品があり、容易に入手し装備することができる。立板Yの表面から約0.5〜2mmに取り付けた場合、2mm以内の誤差で、開口の始端および終端を検出することができる。
【0034】
第1磁気センサS1および第2磁気センサS2のy方向の位置を、溶接トーチ8からそれぞれL2(S1/8間),L3(S2/8間)の距離とすると、これらを立板Yの開口幅L1(y方向の長さ)に合わせる。即ち、開口の始端から終端までの距離L1に等しく設定する。つまり、L1=L2=L3とする。こうすることにより、溶接進行方向yで溶接トーチ8の前方に位置する第1磁気センサS1が開口の終端を検出したとき、溶接トーチ8は開口の始端(y方向に分布する開口間の、隅肉溶接終点)の位置にある。溶接進行方向yで溶接トーチ8の後方に位置する第2磁気センサS2が開口の始端を検出したとき、溶接トーチ8は開口の終端(y方向に分布する開口間の、隅肉溶接始点)の位置にある。第2磁気センサS2は開口の始端(立板ありからなしへの変化:有/無変化=トーチ8の隅肉溶接始点)を検出し、第1磁気センサS1は開口の終端(立板なしからありへの変化:無/有=トーチ8の隅肉溶接終点)を検出する。すなわち、第2磁気センサS2は、トーチ8の隅肉溶接始点の検出用、第1磁気センサS1は、トーチ8の隅肉溶接終点の検出用、である。
【0035】
走行台車本体1の側面には、取手7が取りつけられている。溶接のスパッタ及び熱から保護するために走行台車本体1の立板側の走行車輪22にスパッタ除け部材15a,15b,スパッタ付着防止カバー23を取り付けている。また、第1磁気センサS1,第2磁気センサS2を溶接のスパッタ及び熱から保護するために磁気センサ保護カバー12を磁気センサ外側に取りつけている。第1磁気センサS1,第2磁気センサS2は、センサコネクタ25,26を介して制御装置40に接続される。走行台車本体は、制御コネクタ27,28を介して制御装置40に接続される。
【0036】
溶接トーチ8は、図1に示すように、ワイヤ送給装置31に接続され、溶接用ワイヤ37が供給される。溶接電源30からの溶接電源ケーブル32は、ワイヤ送給装置31を経由して溶接トーチ8に接続される。アーク発生検知器(溶接電流検知器)36は、溶接電源ケーブル32を外側から挟みアーク発生検知器ケーブルにより制御装置40に接続されている。すなわち本実施例ではアーク発生検知器36を溶接電力ケーブル32に取り付けてアーク検知をする。制御装置40がアーク発生検知器36の検出信号にもとづいて溶接アークの発生を検知して溶接を制御する。溶接用ワイヤ37は、図示しない溶接用ワイヤのペールパック、又はスプールからワイヤ送給装置31を介して溶接トーチに供給される。
【0037】
溶接走行台車1の走行および溶接制御は、図1に示す制御装置40にて行う。該制御装置40は、溶接スタート,アークの発生検知,スタート部溶接処理の時間制御,隅肉溶接と台車走行,第1磁気センサS1の立板検出信号に基づく立板Yの開口終端検知と台車停止,所定の時間の制御クレータ処理,クレータ処理後、走行台車を走行開始、第2磁気センサS2の立板検出信号に基づく立板Yの開口始端検知と走行停止,また溶接スタート、および、アークの発生検知以下、を行う。
【0038】
制御装置40は、台車1−1上の電気モータを駆動するモータドライバ,台車1−1上のセンサおよびスイッチに接続したインターフェイス回路,操作ボード、および、これらが接続したメインマイコン、ならびに、台車1−2上の電気モータを駆動するモータドライバ,台車1−2上のセンサおよびスイッチに接続したインターフェイス回路、および、これらが接続したサブマイコン、さらには、制御系電源回路で構成されている。各マイコンは、RAM,ROM,CPUおよびその他のコンピュータ要素を含むコンピュータシステムである。メインマイコンがオペレータのデータ入力を読み込んでタイマあるいはレジスタに設定しキャラクタディスプレイに表示し、また、オペレータの指示スイッチ操作に応答して、第1溶接機WER−1による第1コーナの隅肉溶接制御WPC−1のみ,第2溶接機WER−2による第2コーナの隅肉溶接制御WPC−2のみ、又は、第1および第2コーナの隅肉溶接制御WPC−1およびWPC−2を開始する。溶接制御を開始した後は、メインマイコンは第1溶接機WER−1による第1コーナの隅肉溶接制御WPC−1を分担し、サブマイコンが第2溶接機WER−2による第2コーナの隅肉溶接制御WPC−2を分担する。
【0039】
操作ボードは、指示スイッチ,データ入力スイッチ,表示灯およびキャラクタディスプレイ、ならびに、各種タイマを備える。
【0040】
図3に、操作ボードの一部である指示スイッチボードCSBの上面を示す。「開始1」スイッチは、第1溶接機WER−1のみによる第1コーナのみの隅肉溶接を指示する溶接開始指示スイッチ、「開始2」スイッチは、第2溶接機WER−2のみによる第2コーナのみの隅肉溶接を指示する溶接開始指示スイッチ、「並行運転」スイッチは、第1溶接機WER−1による第1コーナの隅肉溶接と、第2溶接機WER−2による第2コーナの隅肉溶接との並行運転を指示する溶接開始指示スイッチ、そして、「停止1」スイッチは、第1溶接機WER−1による第1コーナの隅肉溶接の停止を、また、「停止2」スイッチは、第2溶接機WER−2による第2コーナの隅肉溶接の停止を、指示する溶接停止指示スイッチである。
【0041】
タイマの主要なものに、オペレータによって設定又は調整される、アーク検出タイマ,走行遅延タイマおよびクレータ処理タイマがある。アーク検出タイマは、アーク起動スイッチをオン(接;閉)にして正常アークが発生してから、台車1の方向yの駆動を開始するまでのアーク検出時間(正常アークの継続時間)を規定するものであり、該アーク検出時間は、オペレータが操作ボードのデータ入力スイッチを操作して入力する。メインマイコンは入力があったアーク検出時間をアーク検出タイマに対する設定値(第1設定時間)として保持し、かつ、指示スイッチボードCSB上の「アーク検出タイマ」と印字した1桁のキャラクタデイスプレイに表示する。入力値および表示値は0〜9の数値であるが、その1単位に0.5秒が割り付けられている。たとえば、8が設定されると、これは4秒が設定されたことを意味する。
【0042】
走行遅延タイマは、上述の並行運転が指示された場合の、第1溶接機WER−1による第1コーナの隅肉溶接を開始してから、第2溶接機WER−2による第2コーナの隅肉溶接を開始するまでの遅延時間(走行遅延時間:後走調整間隔)を規定するものであり、該走行遅延時間は、オペレータが操作ボードのデータ入力スイッチを操作して入力する。メインマイコンは入力があった走行遅延時間を走行遅延タイマに対する設定値として保持し、かつ、指示スイッチボードCSB上の「走行遅延」と印字した1桁のキャラクタデイスプレイに表示する。入力値および表示値は0〜9の数値であり、その1単位に1秒が割り付けられている。たとえば、4が設定されると、これは4秒が設定されたことを意味する。
【0043】
クレータ処理タイマは、溶接トーチ8による隅肉溶接が立板Yの終端(開口の始端)に達した後のクレータ処理時間(第2設定時間)を規定するものである。該クレータ処理時間は、オペレータが操作ボードのデータ入力スイッチを操作して入力する。メインマイコンは入力があったクレータ処理時間をクレータ処理タイマに対する設定値として保持し、かつ、指示スイッチボードCSB上の「クレータ時間」と印字した2桁のキャラクタデイスプレイに表示する。入力値および表示値は0〜99の数値であり、その1単位に1秒が割り付けられている。
【0044】
図4には、制御装置40のメインマイコンによる隅肉溶接制御の概要を示し、図5には、制御装置40のサブマイコンによる隅肉溶接制御の概要を示し、図6の(a)には、該隅肉溶接制御の実行中の、立板Yに対する、第1,第2磁気センサS1,S2および溶接トーチ8のy方向相対位置(Ya〜Ye)を、図6の(b)には、第1,第2磁気センサS1,S2の立板検出(on:開口非検出)/非検出(off:開口検出)と隅肉溶接の開始/停止のタイミングを示す。開口を有する立板Yとして、例えば、船体の補強部材であるボトムロンジの場合、そのサイズは立板Yの厚さが9mm、高さ150mm、開口A,B(図6)は幅L1:60mm、高さ90mmで開口A,Bの間隔(ピッチ)L4:300mmである。ロンジの長さは15mにも及ぶ長さがあり、開口間で隅肉溶接行程を繰り返して連続的に全長を溶接する。
【0045】
−実施形態1−
図4を参照して、制御装置40のメインマイコンによる隅肉溶接制御の内容を説明する。メインマイコンは、制御装置40に電源が投入されると、制御装置40の電気回路各部を待機状態に設定し、入出力ポートを待機状態の信号レベルに設定する。すなわち「初期化」(ステップ1)を行い、操作ボードからのオペレータの入力を待つ(ステップ2)。このとき、制御装置40のサブマイコンにも動作電圧が印加され、これに応答してサブマイコンも「初期化」(図5のステップs1)を行い、メインマイコンからのコマンド(指示信号)を待つ(ステップs2)。
【0046】
なお、以下においては、括弧内には、ステップという語を省略して、ステップ番号数字のみを記載する。
【0047】
オペレータは、溶接走行台車1に搭載された第1磁気センサS1および第2磁気センサS2と溶接トーチ8との間隔L2,L3を、立板Yの開口Aの始端部から終端部の間隔寸法L1に合わせる。磁気センサS1,S2の位置調整は、磁気センサ上下位置調整取り付け部材13a、13b,磁気センサ前後位置調整取り付け部材14a,14b、および、磁気センサ左右調製取り付け部材16a,16bで調整する。第1溶接機WER−1のみによる第1コーナの隅肉溶接のみを行う場合には、上記位置調整を第1溶接機WER−1に関して実行する。第2溶接機WER−2のみによる第2コーナの隅肉溶接のみを行う場合には、上記位置調整を第2溶接機WER−2に関して実行する。並行運転を行う場合には、上記位置調整を第1および第2溶接機WER−1およびWER−2に関して実行する。
【0048】
更に、操作ボードから、アーク検出時間を入力してアーク検出タイマに対する設定値(第1設定時間)とし、立板Yの板厚に対応して走行遅延時間(並行運転する場合のみ入力要)およびクレータ処理時間を入力して走行遅延タイマおよびクレータ処理タイマに対する設定値とするとともに、溶接電流値,隅肉溶接速度およびクレータ処理の溶接電流値を、操作ボードからの入力により制御装置40に設定する。制御装置40のメインマイコンは、操作ボードからのこれらの入力を、ステップ2の「入力読込み」で解読して、マイコンの内部メモリ(入力レジスタ)に書き込む。なお、アーク検出タイマに設定されるアーク検出時間は例えば約2秒、走行遅延タイマに設定される走行遅延時間は例えば5乃至6秒、クレータ処理タイマに設定される時間は例えば4秒である。
【0049】
オペレータは、溶接機WER−1および/又はWER−2の隅肉溶接方向yの位置を調整して、溶接トーチ8を、図6の(a)に示す、立板Yの隅肉溶接開始位置Yaもしくは開口A又はBの終端位置Yc又はYeを合わせる。なお、隅肉溶接開始位置Yaにトーチ8を合わせる場合は、立板Yの隅肉溶接開始位置Yaよりも左方に、下板Xが存在するか、あるいは下板Xに始端側継板が連続して存在する場合である。該継板が存在しない場合には、立板Yの1つの開口の終端(Yc,Ye)に合わせる。そして制御装置40の操作ボードの溶接開始指示スイッチ(ボタンスイッチ)「開始1」,「開始2」又は「並行運転」を押す。すなわち制御装置40に溶接作業の開始「スタート」を指示する。なお、溶接トーチ8を立板Yの始端又は開口の終端ではなく、何処に合わせても、溶接を開始することができる。
【0050】
制御装置40のメインマイコンは、「開始1」スイッチ操作によるスタート指示であると、図4に示す「WER−1の溶接制御」を実行するが(2,3a,WPC−1)、「開始2」スイッチ操作によるスタート指示であると、サブマイコンに溶接開始を指示する(2,3a,3b,23)。サブマイコンは、この指示を図5のステップs2で解読して、図5に示す「WER−2の溶接制御」を実行する(s2,s3,WPC−2)。
【0051】
「並行運転」スイッチ操作によるスタート指示であったときには、メインマイコンは、走行遅延タイマに時限値として走行遅延時間をセットして該タイマをスタートし(2,3a,3b,3c,24)、そしてタイマ割込を許可してから、図4に示す「WER−1の溶接制御」を実行する(25,WPC−1)。この場合、走行遅延タイマがタイムオーバするとそれに応答してメインマイコンがタイマ割込に進んで、サブマイコンに溶接開始を指示し、そしてメインルーチン(WPC−1)に戻る。サブマイコンは、この指示を図5のステップs2で解読して、図5に示す「WER−2の溶接制御」を実行する(s2,s3,WPC−2)。従って、図4に示す「WER−1の溶接制御」(WPC−1)が開始してから、走行遅延タイマに設定する時限値(走行遅延時間)の時間経過後に、図5に示す「WER−2の溶接制御」(WPC−2)が開始する。
【0052】
ここで、溶接トーチ8を位置Yaに合わせて、スタート指示があった場合の、図4に示す「WER−1の溶接制御」(WPC−1)の内容を説明する。ここでは、立板1の先端Yaよりも左方に、下板Xが存在するかあるいは下板Xに始端側継板が連続し、また、立板1の尾端よりも右方に、下板Xが存在するかあるいは下板Xに尾端側継板が連続ししかも、下板X又は尾端側継板上に、立板1の尾端からL1(開口幅)の距離をおいて鋼材製の終端指標棒が立てられている、とする。制御装置40のメインマイコンは、スタート指示(開始1スイッチオン)に応答して、第1溶接機WER−1の「スタート処理」(4)を実行する。
【0053】
「スタート処理」(4)では、メインマイコンは、溶接起動信号(図6の(b))を溶接電源30に送り、設定された溶接電流,電圧で溶接を開始する。このときメインマイコンは、アーク発生検知器36の電流検出信号を監視し、アーク電流値が設定溶接電流相当値に達したかを判定する。設定溶接電流相当値に達するとアーク検出タイマにアーク検出時間(第1設定時間)を時限値としてセットしてアーク検出タイマをスタートして、そのタイムオーバを待つが(5)、タイムオーバの前にアーク電流値が設定溶接電流相当値より低い閾値以下に下がると、そこで起動停止信号を溶接電源30に送って、溶接電源出力を遮断し、操作ボードに起動エラーを表示する。正常アークが継続してアーク検出タイマがタイムオーバ(時限値の計時を完了)すると、走行台車1の倣い溶接駆動を開始する(6)。これにより、図6の(a)のYa〜Yb区間の、台車1の倣い走行による隅肉溶接(7)が行われる。
【0054】
第1磁気センサS1の検出信号が、立板有り(on)から立板なし(off)に切り替わり、そしてその後立板あり(on)に切換わると(8,9)、すなわちトーチ8が開口Aの始端Ybに達すると、制御装置40は、台車1の駆動を停止し(10)、「クレータ処理」(11)を実行する。
【0055】
「クレータ処理」(11)では、クレータ処理溶接の起動信号(図6の(b))を溶接電源30に出力し、クレータ処理タイマにクレータ処理時間(第2設定時間)を時限値としてセットしてクレータ処理タイマをスタートし、クレータ処理条件に予めセットされたクレータ溶接処理電流,電圧でクレータ処理溶接を行い、クレータ処理タイマのタイムオーバを待つ(12)。クレータ処理溶接の溶接電流は、あらかじめ定常の隅肉溶接電流値よりも低く設定され、クレータ処理ではあるが立板Yの板厚面(開口壁面)の回し溶接(表側面から裏側面への溶融の進行)が完了する。クレータ処理タイマがタイムオーバすると、溶接電源30に溶接出力停止を指示し(13)、台車1の走行を開始する(14)。
【0056】
溶接走行台車1が走行し、第1磁気センサS1が開口Aの始端を検出して立板なし(off)となり、さらに走行台車1が走行し、第2磁気センサS2が開口Aの始端を検出してoffとなって後、磁気センサS2の検出信号が、立板なし(off)から立板あり(on)に切り替わり(15)、そしてその後立板なし(off)に切換わると(16,17)、すなわちトーチ8が開口Aの後端Ycに達すると、制御装置40は、台車1の駆動を停止し(18)、そして「スタート処理」(4)を実行する。このとき溶接トーチ8は、隅肉溶接開始点(Yc)にある。
【0057】
「スタート処理」(4)以下の処理は、上述のステップ4〜18の処理と同様であり、開口Aの終端Yc〜開口Bの始端Ydまでの隅肉溶接が同様に行われる。
【0058】
上述の隅肉溶接制御により、開口(A,B,・・・)の終端(Yc,Ye,・・・)で隅肉溶接開始,始端(Yd,・・・)で隅肉溶接停止、を繰り返えす。立板Yの尾端のクレータ処理を終了したとき、第1磁気センサS1は終端指標棒を検出しており、第1磁気センサS1の検出信号はonであるが、台車1の走行駆動を開始すると、第1磁気センサS1が終端指標棒を通過することにより、該センサS1の検出信号がoffに切り替わる。この切り替わりを制御装置40がステップ17で検出すると、制御装置40は、邪魔板検知スイッチがオンになったとき(20)、又は、操作ボードの溶接停止スイッチがオンになったときに(21)、台車1の走行駆動を停止する(22)。なお、開口(A,B,・・・)の始端でクレータ処理を終了し、そして台車1を走行駆動を開始した後、開口(A,B,・・・)の終端に溶接トーチ8が移動するまでの期間に、操作ボードの溶接停止スイッチ(停止1)がオンになると、制御装置40は、台車1の走行駆動を停止する(15,22)。
【0059】
図5に示す、制御装置40のサブマイコンが実行する「WER−2の溶接制御」(WPC−2)の内容は、上述の「WER−1の溶接制御」(WPC−1)の内容と同様であり、それと同一又は対応ステップは、「WER−1の溶接制御」(WPC−1)のステップ番号の先頭にsを付加した符号で示した。ただし、ステップs15およびs21の停止入力は、オペレータの「停止1」スイッチ操作によるものではなく、「停止2」スイッチ操作によるものである。
【0060】
上述の溶接装置によれば、第2磁気センサS2が開口始端(トーチ8は開口終端=隅肉溶接始点)を検知することにより、第2磁気センサS2の検出信号がon(立板あり)からoff(立板なし)になって、これに応答して制御装置40が走行台車1を停止して溶接電流を供給しスタート処理を開始する。これが図6の(a)に示す台車位置Yc,Yeである。スタート処理を終了して溶接を継続しながら台車1を移動させて、第1磁気センサS1が開口終端を検知し、磁気センサS1の検出信号がoffからonになると、これに応答して制御装置40が走行台車1を停止し、クレータ処理を開始する。これが図6の(a)に示す台車位置Ydである。
【0061】
上述の実施形態1では、L2=L1=L3として、隅肉溶接開始点に向けて移動し(図4の14〜18)、隅肉溶接開始点で停止して溶接スタート処理をおこなう(19,4)、との第1行程においては、第2の開口検知手段である第2磁気センサS2により開口始端を検出したときに、台車駆動を停止して溶接トーチ8に溶接電流を供給してアークを発生させて溶接スタート処理を行う。隅肉溶接終了点に向けて移動しつつ隅肉溶接し(6,7)隅肉溶接終了点で停止してクレータ処理を行う(10〜13)、との第2行程においては、第1の開口検知手段である第1磁気センサS1により開口終端を検出したときに、台車駆動を停止しアークは継続してクレータ処理を行う。
【0062】
−実施形態2−
しかし、必ずしもL2=L1=L3としなくても、L2>L1かつL3<L1としても、トーチ8を隅肉溶接開始点,隅肉溶接終了点に合わせて台車1の移動を停止することができる。例えば、台車速度検出器と速度積分器(距離計算器)を用いて、第2磁気センサS2により開口始端を検出したときに速度積分器をリセットして速度積分(距離算出)を開始し、積分出力(算出距離)が「L2−L1」の値になったときに、台車1を停止すれば、溶接トーチ8が隅肉溶接開始点に対向して停止する。第1磁気センサS1により開口終端を検出したときに速度積分器をリセットして速度積分を開始し、積分出力(算出距離)が「L1−L3」の値になったときに、台車1を停止すれば、溶接トーチ8が隅肉溶接終了点に対向して停止する。
【0063】
なお、台車速度検出器に代えて、台車1の所定短距離の移動に付き1パルスの電気信号(移動同期パルス)を台車上で発生して、距離カウンタで該移動同期パルスをカウントしてもよい。例えば、第2磁気センサS2により開口始端を検出したときに距離カウンタをクリアして移動同期パルスのカウントアップを開始し、カウント値が「L2−L1」相当値になったときに、台車1を停止すれば、溶接トーチ8が隅肉溶接開始点に対向して停止する。第1磁気センサS1により開口終端を検出したときに距離カウンタをクリアして移動同期パルスのカウントアップを開始し、カウント値が「L1−L3」相当値になったときに、台車1を停止すれば、溶接トーチ8が隅肉溶接終了点に対向して停止する。
【0064】
以上に説明した実施例によれば、立板に開口部がある船底のロンジ等の隅肉溶接において、開口の始端および終端の処理を含む全工程の隅肉溶接を連続自動化ができ、しかも長尺の立板を連続的に繰り返し全長溶接ができる。さらに、半自動溶接等で行っていた開口両端の廻し溶接、即ち、開口終端のスタート溶接および始端のクレータ溶接処理が、先行開口の終端から後続開口の先端までの隅肉溶接に継続して自動で行える。よって、良好な溶接結果を得、かつ、溶接技術者の負担を大幅に低減し、作業時間を短縮し、作業効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施例の一実施形態を示す側面図である。
【図2】(a)は、図1に示す第1溶接機WER−1の平面図、(b)は第1溶接機WER−1の正面図である。
【図3】図1に示す制御装置40の操作ボードの一部分である指示スイッチボードCSBの上面を示す平面図である。
【図4】図1に示す制御装置40のメインマイコンの隅肉溶接制御の概要を示すフローチャートである。
【図5】図1に示す制御装置40のサブマイコンの隅肉溶接制御の概要を示すフローチャートである。
【図6】(a)は、図1に示す立板Yを縮小して示す正面図であり、立板Yの開口A,Bの位置と、トーチ8の停止位置とを示す。(b)は、(a)に示すy方向に台車1(溶接トーチ8)が移動し隅肉溶接している間の、制御装置40の入出力信号の変化の概要を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0066】
A,B:立板の開口
X:下板
Y:立板
1:隅肉走行台車本体
2:上下スライダー
3:上下スライダーノブ
4:上下スライダー取り付け部材
5:トーチホルダー
6:トーチホルダーノブ
7:取手
8:溶接トーチ
9a:前倣いローラ、9b:後倣いローラ
10:ローラ軸
11a:第1磁気センサS1、
11b:第2磁気センサS2
12:磁気センサ保護カバー
13a,13b:磁気センサ上下位置調整取り付け部材
14a,14b:磁気センサ前後置調整取り付け部材
15a,15b:スパッタ避け部材
16a,16b:磁気センサ左右調製取り付け部材
17:水平スライダー
18:水平スライダーノブ
19:リミットスイッチ保護カバー
20:リミットスイッチ
21a,21b:ガイドアーム
22:走行車輪
23:スパッタ付着防止カバー
24:溶接トーチホルダー取り付け部材
25、26:センサコネクタ
27、28:制御コネクタ
29:操作箱
30−1、30−2:溶接電源
31−1、31−2:ワイヤ送給装置
32−1、32−2:溶接電源ケーブル
33−1、33−2:走行台車制御ケーブル
34−1、34−2:溶接制御
35−1、35−2:アーク発生検知器ケーブル
36−1、36−2:アーク発生検知器
37−1、37−2:溶接用ワイヤ
40:制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下板Xと、該下板に対向する下端面に開口がある立板Yによって形成されるコーナを溶接する隅肉溶接において、
前記立板Yが延びる方向の溶接トーチ移動方向yに、前方から第1の開口検知手段,溶接トーチおよび第2の開口検知手段をこの順に配置し、前記開口の前記方向yの幅をL1、第1の開口検知手段/溶接トーチ間距離をL2、ならびに、第2の開口検知手段/溶接トーチ間距離をL3、とすると、L2≧L1かつL3≦L1として、
第1,第2の開口検知手段および前記溶接トーチの組体を、第1の開口検知手段を先頭に、前記立板Yに倣って前記方向yに駆動し、第2の開口検知手段の開口始端検出に基づくタイミングで前記駆動を停止して前記溶接トーチに溶接電流を供給してアークを発生させて溶接スタート処理を行い、その後に前記組体を再駆動し前記アークを継続して隅肉溶接する第1行程と、
第1の開口検知手段の開口終端検出に基づくタイミングで前記駆動を停止し前記アークは継続してクレータ処理を行い、その後に前記アークを停止する第2行程と、を含むことを特徴とする隅肉溶接方法。
【請求項2】
前記開口が複数個、前記立板Yに分布し、前記第2行程に続けて前記第1行程および第2行程を繰り返す、請求項1に記載の隅肉溶接方法。
【請求項3】
前記組体である第1組体と同一構成の第2組体によって、第1組体の溶接トーチすなわち第1溶接トーチにより前記隅肉溶接をする第1コーナに前記立板を間において対向する第2コーナの前記第1および第2行程を含む隅肉溶接を、第1組体による隅肉溶接と並行して行う、請求項1又は2に記載の隅肉溶接方法。
【請求項4】
前記溶接スタート処理は、第1設定時間の間のアーク検知器による正常アーク検知の継続である、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の隅肉溶接方法。
【請求項5】
前記クレータ処理は、溶接電流値を低減した第2設定時間のアーク継続である、請求項1乃至4のいずれか1つに記載の隅肉溶接方法。
【請求項6】
L2=L1=L3として、第1行程においては、第2の開口検知手段により開口始端を検出したときに、前記駆動を停止して前記溶接トーチに溶接電流を供給してアークを発生させて溶接スタート処理を行い、第2行程においては、第1の開口検知手段により開口終端を検出したときに、前記駆動を停止し前記アークは継続してクレータ処理を行う、請求項1乃至5のいずれか1つに記載の隅肉溶接方法。
【請求項7】
L2>L1かつL3<L1として、第1行程においては、第2の開口検知手段により開口始端を検出してから、L2−L1の距離の駆動の後に、前記駆動を停止して前記溶接トーチに溶接電流を供給してアークを発生させて溶接スタート処理を行い、第2行程においては、第1の開口検知手段により開口終端を検出してからL1−L3の距離の駆動の後に、前記駆動を停止し前記アークは継続してクレータ処理を行う、請求項1乃至5のいずれか1つに記載の隅肉溶接方法。
【請求項8】
下板Xと立板Yによって形成されるコーナを溶接する隅肉溶接装置において、
前記立板Yが延びる方向の溶接トーチ移動方向yに、前方から第1の開口検知手段,溶接トーチおよび第2の開口検知手段をこの順に配設した溶接基台;
該溶接基台を前記立板Yに倣って前記方向yに駆動する駆動手段;および、
第2の開口検知手段の開口始端検出に基づくタイミングで前記駆動を停止して前記溶接トーチに溶接電流を供給してアークを発生させて溶接スタート処理を行い、その後に前記組体を再駆動し前記アークを継続して隅肉溶接し、第1の開口検知手段の開口終端検出に基づくタイミングで前記駆動を停止し前記アークは継続してクレータ処理を行い、その後に前記アークを停止する、制御手段;
を備えることを特徴とする隅肉溶接装置。
【請求項9】
第1および第2の開口検知手段の、前記溶接トーチに対する前記方向yの距離L2,L3を調整する手段、を更に備える請求項8に記載の隅肉溶接装置。
【請求項10】
アーク検知器を、前記溶接トーチに接続した溶接電力ケーブルに設置した請求項8又は9に記載の隅肉溶接装置。
【請求項11】
第1および第2の開口検知手段は、前記立板Yの側面に対向して非接触で対向位置の立板材有無を検出する近接センサである、請求項8乃至10のいずれか1つに記載の隅肉溶接装置。
【請求項12】
第1および第2の開口検知手段は、金属体の有無を検出する磁気センサである、請求項11に記載の隅肉溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−190589(P2007−190589A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10788(P2006−10788)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】