説明

障害診断方法及び障害診断システム

【課題】未知の障害に対して、障害発生条件の候補を出来る限り絞り込み、障害原因の特定に要する時間と費用を削減することができる障害診断システム等を提供する。
【解決手段】障害診断装置5は、障害発生条件となり得る候補条件を決定し、候補条件をセンタDB8に記憶するとともに(ステップS2)、依頼候補条件情報を複数の端末装置4に送信する(ステップS3)。端末装置4は、依頼候補条件情報に係る候補条件を端末DB7に記憶し(ステップS4)、候補条件のいずれかが成立すると、候補条件が成立した時点における自らの診断対象システム2の障害発生有無を判定し、成立候補条件情報及び障害発生有無情報を障害診断装置5に送信する(ステップS5)。障害診断装置5は、端末装置4から受信する障害発生有無情報及び成立候補条件情報に基づいて、センタDB8を更新する(ステップS6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の診断対象システムそれぞれに搭載される複数の端末装置、及び端末装置とネットワークを介して接続される障害診断装置によって構成される障害診断システム等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複数のモジュールが協調動作するシステムにおいて、システムの大規模化に伴い、障害診断が難しくなってきている。協調動作システムの一例としては、車両に搭載される車載システムがある。車載システムでは、複数のECU(Electronic Control Unit)が、CAN(Controller Area Network)などのネットワークを介して互いにデータの送受信を行い、協調して動作を行っている。その為、あるECUが故障すると他のECUにも異常が伝搬してしまい、障害の診断をすることが難しい。
特に、車載システムについては、ハイブリッド車や電気自動車などの登場、つながる技術(インフラ協調、隊列走行などの技術)の発展に伴い、電子制御の複雑化、大規模化が顕著になっている。
【0003】
そこで、障害診断を支援するシステムの開発が盛んになっている。例えば、特許文献1には、診断対象車両に対して遠隔から故障診断を実行し、故障診断結果を顧客に送信する遠隔故障診断システムが開示されている。特許文献1に記載の遠隔故障診断システムでは、どの実施形態も概ね以下の手順に従って遠隔故障診断処理を実行する。
(1)診断対象の車両又はサービス工場は、故障診断要求又は車両データを遠隔地の故障診断サーバに送信する。
(2)故障診断サーバは、受信した故障診断要求又は車両データに基づき、既知の故障(特許文献1では「所定の故障」と記載)について、故障診断の際に必要なデータの走行条件を決定し、走行条件を診断対象の車両に送信する。
(3)診断対象の車両は、受信した走行条件を満たすまで待機し、走行条件が満たされると、そのときの車両データを故障診断サーバに送信する。
(4)故障診断サーバは、受信した車両データに基づき、故障診断を行い、診断結果を診断対象の車両に送信する。
尚、特許文献1における「走行条件」は、故障か否かの判定に必要なデータを取得するための条件であり、故障の発生の有無には関係ない条件である。また、特許文献1における「故障診断サーバに送信する車両データ」は、故障か否かの判定に必要なデータであり、故障ごとに異なる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の遠隔故障診断システムでは、未知の障害については何ら解決策を提示していない。ここで、「未知の障害」とは、異常の現象(正常ではない現象)の中で、発生条件が特定されていない現象を意味する。
【0005】
未知の障害としては、仕様の不完全性(想定外の使い方や走行環境に対応する仕様の欠如など)や、テスト環境や車両モデルと現実とのずれ(テスト環境や車両モデルに基づくシミュレーションでは発生しない割込みタイミングなど)など、事前に想定していなかった原因によるものなどが挙げられる。このような現象は、特定の稀な条件が揃った場合にのみ発生し、再現することが難しい。
そこで、本発明者らは、未知の障害についての解決策として、事前に想定していなかった原因による未知の障害が発生した場合であっても、障害発生条件を特定できる障害診断装置等を発明している(特許文献2参照)。特許文献2に記載の障害診断装置では、個々の障害原因に関する事前知識や診断対象のモデルに頼らず、正常時の車両動作データを活用し、障害発生条件の候補を絞り込む。すなわち、正常時の車両動作データにはないパターンを抽出することによって、障害発生条件となり得る信号の値の組み合わせを絞り込む。そして、実際の車両において、障害発生条件となり得る信号の値の組み合わせを揃えることによって、現象を再現する。
尚、特許文献2における「障害発生条件」は、特許文献1における「走行条件」と異なり、正常時に発生しない条件である。また、特許文献2における「障害発生条件となり得る信号の値の組み合わせ」は、特許文献1における「故障診断サーバに送信する車両データ」と異なり、障害の種類によらず同一である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−302675号公報
【特許文献2】特開2010−218492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、正常時の車両動作データは、テスト環境などにおいて事前に網羅的に(抜け漏れなく)収集することは困難である。特に、アクセルやブレーキ等の運転者の操作レベルの変数ではなく、ECU同士がやり取りする制御レベルの変数については、正常時の全ての値の組み合わせを事前に揃えておくことは難しい。
そして、正常時の車両動作データが網羅的に収集されていない場合、障害発生条件の候補が数多く残ってしまう為、全ての候補を実際の車両において発生させようとすると、多大な時間と費用がかかってしまう。
【0008】
また、特許文献1に記載の遠隔故障診断システムでは、診断対象の車両が、発生した現象によって動作不能になっている場合には適用できない。また、未知の障害が発生している場合、診断対象の車両をそのまま走行させておくと、更なる故障や障害が発生する可能性があり、望ましくない。
【0009】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、未知の障害に対して、障害発生条件の候補を出来る限り絞り込み、障害原因の特定に要する時間と費用を削減することができる障害診断システム等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために第1の発明は、複数の診断対象システムそれぞれに搭載される複数の端末装置、及び前記端末装置とネットワークを介して接続される障害診断装置によって構成される障害診断システムにおける障害診断方法であって、前記障害診断装置が、特定の診断対象システムの動作データに基づいて障害発生条件となり得る候補条件を決定し、前記候補条件を第1記憶領域に記憶する第1ステップと、前記障害診断装置が、前記第1記憶領域に記憶している前記候補条件を複数の前記端末装置に送信する第2ステップと、前記端末装置が、前記障害診断装置から受信する前記候補条件を、前記第1記憶領域とは異なる第2記憶領域に記憶し、前記第2記憶領域に記憶している前記候補条件のいずれかが成立すると、前記候補条件が成立した時点における自らの診断対象システムの障害発生有無を判定し、成立した前記候補条件を示す成立候補条件情報、及び前記障害発生有無を示す障害発生有無情報を前記障害診断装置に送信する第3ステップと、前記障害診断装置が、前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報及び前記障害発生有無情報に基づいて、前記第1記憶領域を更新する第4ステップと、を含む障害診断方法である。
第1の発明によって、未知の障害に対して、障害発生条件の候補を出来る限り絞り込み、障害原因の特定に要する時間と費用を削減することができる。
【0011】
第1の発明における前記第4ステップでは、例えば、前記障害診断装置が、前記端末装置から受信する前記障害発生有無情報を確認し、「障害発生無し」の場合には前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報と一致する前記候補条件を前記第1記憶領域から削除し、「障害発生有り」の場合には前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報と一致しない全ての前記候補条件を前記第1記憶領域から削除する。
これによって、効率的に障害発生条件の候補を絞り込むことができる。
【0012】
第1の発明における前記第4ステップでは、例えば、前記障害診断装置が、更に、前記第1記憶領域から削除した前記候補条件を示す削除候補条件情報を複数の前記端末装置に送信し、前記端末装置が、前記障害診断装置から受信する前記削除候補条件情報に基づいて、前記第2記憶領域を更新する第5ステップ、を更に含む。
これによって、障害発生条件か否か判定済の候補条件については、収集対象から外すことができる。
【0013】
第1の発明における前記第1ステップにおける前記動作データは、例えば、前記特定の診断対象システムに搭載されている前記端末装置が、前記特定の診断対象システムの環境を示す環境情報とともに、前記障害診断装置に送信するものであり、前記第2ステップでは、前記障害診断装置が、前記環境情報に合致する環境において動作している診断対象システムに係る前記端末装置のみに対して、前記第1記憶領域に記憶している前記候補条件を送信する。
これによって、情報収集量を減らさずに、車両1台当たりの情報収集の為の処理負荷を軽減することができる。
【0014】
第2の発明は、複数の診断対象システムそれぞれに搭載される複数の端末装置、及び前記端末装置とネットワークを介して接続される障害診断装置によって構成される障害診断システムであって、前記障害診断装置は、特定の診断対象システムの動作データに基づいて障害発生条件となり得る候補条件を決定する候補条件決定手段と、前記候補条件決定手段によって決定される前記候補条件を第1記憶領域に登録する第1記憶領域登録手段と、前記第1記憶領域に記憶している前記候補条件を複数の前記端末装置に送信することによって、情報収集を依頼する依頼手段と、成立した前記候補条件を示す成立候補条件情報、及び前記候補条件が成立した時点における診断対象システムの障害発生有無を示す障害発生有無情報を前記端末装置から受信することによって、情報収集の結果を回収する回収手段と、前記端末装置から受信する前記障害発生有無情報及び前記成立候補条件情報に基づいて、前記第1記憶領域を更新する第1記憶領域更新手段と、を具備し、前記端末装置は、前記障害診断装置から受信する前記候補条件を、前記第1記憶領域とは異なる第2記憶領域に登録する第2記憶領域登録手段と、自らの診断対象システムの障害発生有無を検知する検知手段と、前記第2記憶領域に記憶している前記候補条件のいずれかが成立すると、前記成立候補条件情報とともに、前記障害発生有無情報として前記検知手段によって検知される前記障害発生有無を前記障害診断装置に送信することによって、前記障害診断装置からの情報収集の依頼に応答する応答手段と、を具備する障害診断システムである。
第2の発明によって、未知の障害に対して、障害発生条件の候補を出来る限り絞り込み、障害原因の特定に要する時間と費用を削減することができる。
【0015】
第2の発明における前記第1記憶領域更新手段は、例えば、前記端末装置から受信する前記障害発生有無情報を確認し、「障害発生無し」の場合には前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報と一致する前記候補条件を前記第1記憶領域から削除し、「障害発生有り」の場合には前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報と一致しない全ての前記候補条件を前記第1記憶領域から削除する。
これによって、効率的に障害発生条件の候補を絞り込むことができる。
【0016】
第2の発明における前記障害診断装置は、更に、前記第1記憶領域から削除した前記候補条件を示す削除候補条件情報を複数の前記端末装置に送信することによって、情報収集の結果の反映を指示する反映指示手段、を具備し、前記端末装置は、更に、前記障害診断装置から受信する前記削除候補条件情報に基づいて、前記第2記憶領域を更新する第2記憶領域更新手段、を具備する。
これによって、障害発生条件か否か判定済の候補条件については、収集対象から外すことができる。
【0017】
第2の発明における前記端末装置は、更に、自らの診断対象システムの環境を示す環境情報とともに、自らの診断対象システムの動作データを前記障害診断装置に送信することによって、障害診断を要求する障害診断要求手段、を具備し、前記障害診断装置が具備する前記依頼手段は、前記環境情報に合致する環境において動作している診断対象システムに係る前記端末装置のみに対して、前記第1記憶領域に記憶している前記候補条件を送信する。
これによって、情報収集量を減らさずに、車両1台当たりの情報収集の為の処理負荷を軽減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、未知の障害に対して、障害発生条件の候補を出来る限り絞り込み、障害原因の特定に要する時間と費用を削減することができる障害診断システム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】障害診断システムの概要を示す図
【図2】端末装置のハードウエア構成図
【図3】障害診断装置のハードウエア構成図
【図4】端末装置のソフトウエア構成図
【図5】障害診断装置のソフトウエア構成図
【図6】正常時の動作データの一例を示す図
【図7】障害発生時の動作データの一例を示す図
【図8】相違信号集合及び候補条件の一例を示す図
【図9】障害診断処理の流れを示すフローチャート
【図10】第1例におけるセンタDB及び端末DBの変化を示す図
【図11】第2例におけるセンタDB及び端末DBの変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、障害診断システムの概要を示す図である。図1に示すように、障害診断システム1は、複数の診断対象システム2a〜2dにそれぞれ搭載される複数の端末装置4a〜4d、及び端末装置4a〜4dとネットワーク6を介して接続される障害診断装置5によって構成される。障害診断装置5は、例えば、障害診断業務を集中管理する診断センタ3などに設置される。ネットワーク6は、例えば、無線通信ネットワークである。
【0021】
診断対象システム2a〜2dは、例えば、車両に搭載される車載システムなどである。また、端末装置4a〜4dは、例えば、障害診断処理に必要な機能を備えるECU(Electric Control Unit:電子制御装置)などである。
診断対象システム2a〜2dには、端末装置4a〜4dや、他のECU、各種センサ等がCAN(Controller Area Network)などの車載ネットワークを介して接続されている。端末装置4a〜4dは、車載ネットワークに流れる複数の信号の値を動作データとして取得する。取得した動作データは、ネットワーク6(無線通信ネットワーク)によって遠隔にある障害診断装置5に送信しても良いし、ケーブル等を介して障害診断装置5に送信しても良い。動作データは、車載ネットワークに流れる各ECUの入出力信号や、各装置の状態値などである。
【0022】
また、端末装置4a〜4dは、車両の外に設置されている装置からの情報を収集しても良い。車両の外に設置されている装置としては、VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)などのビーコンやGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)衛星などが挙げられる。収集される情報は、診断対象システム2a〜2dの環境を示す環境情報(場所情報、天候情報、道路交通状況情報など)である。取得した環境情報は、ネットワーク6(無線通信ネットワーク)によって遠隔にある障害診断装置5に送信しても良いし、ケーブル等を介して障害診断装置5に送信しても良い。
【0023】
障害診断装置5は、予め診断対象システム2a〜2d(車載システム)における正常時の動作データを記憶しておき、診断対象システム2a〜2d(車載システム)における障害発生時の動作データを入力として、診断対象システム2a〜2d(車載システム)において発生した障害を診断する。
【0024】
診断対象システム2a〜2d(車載システム)や端末装置4a〜4dの数は、特に限定されない。障害診断装置5は、例えば、同一のカテゴリ(同一車種)ごとに、診断対象システム2a〜2d(車載システム)の情報を管理する。
以下では、診断対象システム2a〜2dを総称するときは、「診断対象システム2」と表記する。また、端末装置4a〜4dを総称するときは、「端末装置4」と表記する。
また、以下では、診断対象システム2として、車載システムを例に挙げて説明する。
【0025】
図2は、端末装置のハードウエア構成図である。尚、図2のハードウエア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
図2に示すように、端末装置4は、制御部11、記憶部12、インタフェース部13、通信制御部14等がバス15を介して接続されている。
【0026】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等によって構成される。CPUは、記憶部12、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス15を介して接続された各装置を駆動制御し、障害診断装置5が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部12、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部11が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0027】
記憶部12は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部11が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述する処理をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。これらの各プログラムコードは、制御部11により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
また、記憶部12は、端末DB(データベース)7を有している。端末DB7には、障害診断処理に必要なデータが記憶される。尚、端末DB7は、端末装置4の記憶部12に限らず、診断対象システム2に搭載される他の装置の記憶部が有しても良い。
【0028】
インタフェース部13は、診断対象システム2の車載ネットワークとのインタフェースであり、診断対象システム2内に搭載される他の装置とのデータ送受信を行う。
通信制御部14は、通信制御装置やアンテナ等を有し、端末装置4とネットワーク6との通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク6を介して、障害診断装置5との通信制御を行う。
バス15は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0029】
図3は、障害診断装置のハードウエア構成図である。尚、図3のハードウエア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
図3に示すように、障害診断装置5は、制御部21、記憶部22、メディア入出力部23、通信制御部24、入力部25、表示部26、周辺機器I/F部27等が、バス28を介して接続される。
【0030】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等によって構成される。
【0031】
CPUは、記憶部22、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス28を介して接続された各装置を駆動制御し、障害診断装置5が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部22、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部21が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0032】
記憶部22は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部21が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述する処理をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部21により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
また、記憶部22は、センタDB(データベース)8を有している。センタDB8には、障害診断処理に必要なデータが記憶される。尚、センタDB8は、障害診断装置5の記憶部22に限らず、他のコンピュータ等の記憶部が有しても良い。
【0033】
メディア入出力部23(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)等のメディア入出力装置を有する。
通信制御部24は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク6間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク6を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。ネットワーク6は、有線、無線を問わない。
【0034】
入力部25は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部25を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
表示部26は、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0035】
周辺機器I/F(インタフェース)部27は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部27を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部27は、USBやIEEE1394やRS−232C等によって構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
バス28は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0036】
図4は、端末装置のソフトウエア構成図である。端末装置4が備える各種の手段は、図4に示す機能を備えるソフトウエアと、図2に示すハードウエアとが協働することによって実現されるものである。
図4に示すように、端末装置4を構成する為のソフトウエアは、障害発生有無検知機能31、障害診断要求機能32、端末DB登録機能33、情報収集応答機能34、端末DB更新機能35等を備える。
【0037】
障害発生有無検知機能31は、他のECUやセンサからDTC(ダイアグノスティック・トラブル・コード)信号が受信されたか否か、又は、運転者がインパネ(インストルメントパネル:運転席に設けられる計器盤)などに設置される障害検出用ボタンが押下されたか否かに応じて、自らの診断対象システム2の障害発生有無を検知する。
【0038】
障害診断要求機能32は、自らの診断対象システム2の動作データを障害診断装置5に送信することによって、障害診断を要求する機能である。また、障害診断要求機能32は、必要に応じて、自らの診断対象システム2の環境を示す環境情報も障害診断装置5に送信する。
【0039】
端末DB登録機能33は、障害診断装置5から受信するデータを、端末DB7に登録する機能である。障害診断装置5から受信するデータは、例えば、障害発生条件となり得る候補条件である。
ここで、「障害発生条件」とは、障害が発生した時のECUの入出力信号や各装置の状態値などの組み合わせである。例えば、発生した正常でない現象に対して、車速を示す信号がAkm/h、ACC(車間距離制御)システムが作動中であることが障害発生条件という具合である。また、「候補条件」とは、障害が発生した時に取り得るECUの入出力信号や各装置の状態値などの組み合わせである。
端末装置4は、障害診断装置5から障害診断に必要な情報の収集を依頼されるときに、候補条件を端末DB7に登録する。
【0040】
情報収集応答機能34は、自らの診断対象システム2において、端末DB7に記憶している候補条件のいずれかが成立すると、成立候補条件情報とともに、障害発生有無情報として障害発生有無検知機能31によって検知される障害発生有無を障害診断装置5に送信することによって、障害診断装置5からの情報収集の依頼に応答する機能である。
ここで、「成立候補条件情報」とは、成立した候補条件を示す情報である。「障害発生有無情報」とは、候補条件が成立した時点に、障害が検知されたか、又は検知されていないかのいずれかを示す情報である。尚、「候補条件が成立した時点」とは、必ずしも時間を特定しているわけではなく、候補条件が成立したことと、障害が検知されたことの因果関係を特定しているに過ぎない。
【0041】
端末DB更新機能35は、障害診断装置5から受信する削除候補条件情報に基づいて、端末DB7を更新する機能である。
ここで、「削除候補条件情報」とは、センタDB8に記憶されていた候補条件の中で、削除された候補条件を示す情報である。
【0042】
本発明では、例えば、ACC(Auto Cruise Control:車間距離制御)システムが起動中であるにも関わらず、先行車に追従しなかったり、加速が不安定になったりするなど、DTC信号としては未検出ではあるが、運転者が障害を検知するような「未知の障害」に関する障害診断を行う。また、本発明では、「未知の障害」が発生した診断対象システム2とは異なる診断対象システム2に対して、障害診断に必要な情報収集を依頼する。
従って、障害診断要求機能32では、専ら、運転者による障害検出用ボタンが押下されたことが確認されたときに、障害診断を要求する。また、情報収集応答機能34では、DTC信号が受信された場合と、運転者による障害検出用ボタンが押下された場合とを区別せず、両者とも障害があったものとし、障害発生有無情報を「障害発生有り」として障害診断装置5に送信する。
【0043】
図5は、障害診断装置のソフトウエア構成図である。図4に示すように、障害診断装置5を構成する為のソフトウエアは、候補条件決定機能41、センタDB登録機能42、情報収集依頼機能43、情報収集結果回収機能44、センタDB更新機能45、情報週結果反映指示機能46等を備える。障害診断装置5が備える各種の手段は、図5に示す機能を備えるソフトウエアと、図3に示すハードウエアとが協働することによって実現されるものである。
【0044】
候補条件決定機能41は、特定の診断対象システム2の動作データに基づいて障害発生条件となり得る候補条件を決定する機能である。候補条件決定機能41の具体例としては、特開2010−218492号公報に記載の仕組みなどが挙げられるが、本発明では特に限定されるものではない。
【0045】
センタDB登録機能42は、候補条件決定機能41によって決定される候補条件をセンタDB8に登録する機能である。また、センタDB登録機能42は、候補条件と紐付けて、端末4から受信する環境情報を登録しても良い。
【0046】
情報収集依頼機能43は、センタDB8に記憶している候補条件を複数の端末装置4に送信することによって、情報収集を依頼する機能である。候補条件の送信先は、同一車種の全ての端末装置4としても良いし、同一車種の中で一部の端末装置4に限定しても良い。
【0047】
結果回収機能44は、成立候補条件情報及び障害発生有無情報を端末装置4から受信することによって、情報収集の結果を回収する機能である。尚、結果回収機能44は、車両の点検時などに、車両に接続されるコンピュータから成立候補条件情報及び障害発生有無情報を受信しても良い。
【0048】
センタDB更新機能45は、端末装置4から受信する障害発生有無情報及び成立候補条件情報に基づいて、センタDB8を更新する機能である。また、センタDB更新機能45は、削除した候補条件を削除候補条件情報として特定する。
【0049】
結果反映指示機能46は、削除候補条件情報を複数の端末装置4に送信することによって、情報収集の結果の反映を指示する機能である。削除候補条件情報の送信先は、情報収集を依頼する時の候補条件の送信先と同一である。
【0050】
図6は、正常時の動作データの一例を示す図である。正常時の動作データは、予めセンタDB8に記憶されている。
動作データは、各ECUの入出力信号について、各ECUの処理結果が変わらない範囲(例えば、プログラム中の条件分岐やジャンプ部で同じ動きをする範囲)を同値とみなし、同値とみなす範囲ごとにデータを分割して離散的なコード値に変換し、同一時刻ごとに纏めたものである。また、動作データは、各装置の状態値について、各装置の状態が変わらない範囲(例えば、車両の動作が変化しない範囲)を同値とみなし、同値とみなす範囲ごとにデータを分割して離散的なコード値に変換し、同一時刻ごとに纏めたものである。
例えば、車速を示す信号の場合、0km/hであれば0、0km/h〜5km/hであれば1、5km/h〜20km/hであれば2、・・・といった具合に変換される。
図6に示すように、例えば、No.が「X1」の正常時の動作データは、信号1が「0」、信号2が「1」、信号3が「0」、信号4が「1」、信号5が「0」である。
【0051】
図7は、障害発生時の動作データの一例を示す図である。図7に示すデータは、図6に示す正常時の動作データと同じように、同値とみなす範囲にデータの値を分割して変換し、同一時刻ごとに纏めたものである。障害発生時の動作データは、データ容量を圧縮する為、データの組み合わせが変化する時刻のみを抽出するようにしても良い。
【0052】
図8は、相違信号集合及び候補条件の一例を示す図である。
相違信号集合とは、障害発生時の動作データと正常時の動作データとを比較したときに、値が相違する信号群を示す集合である。図8(a)に示す相違信号集合は、図7に示すNo.が「Y2」の障害発生時の動作データと、図6に示す全ての正常時の動作データとを比較した結果を示している。
図7に示すNo.が「Y2」の障害発生時の動作データは、信号1が「0」、信号2が「3」、信号3が「1」、信号4が「0」、信号5が「0」である。一方、図6に示すNo.が「X1」の正常時の動作データは、信号1が「0」、信号2が「1」、信号3が「0」、信号4が「1」、信号5が「0」である。これらを比較すると、信号2、信号3、及び信号4の3つが相違する。従って、図8(a)に示すNo.が「D1」の相違信号集合は、{S2、S3、S4}となる。ここで、「S2」とは、障害発生時の動作データに係る信号2の信号値を意味する。つまり、{S2、S3、S4}とは、{信号2=3、信号3=1、信号4=0}という動作データを意味している。
【0053】
尚、図7に示すNo.が「Y1」の障害発生時の動作データは、信号1が「1」、信号2が「3」、信号3が「1」、信号4が「0」、信号5が「1」である。これは、図6に示すNo.が「X6」の正常時の動作データと同一である。つまり、図7に示すNo.が「Y1」の障害発生時の動作データは、正常とみなすことができる。
図7の例では、診断対象システム2が、No.が「Y1」の時刻までは正常な動作をしており、No.が「Y2」の時刻において正常でない動作をした可能性があることを示している。
【0054】
また、図8(b)に示す候補条件は、図8(a)に示す相違信号集合に対して、特開2010−218492号公報に記載の仕組みを利用して算出した結果を示している。
ここで、特開2010−218492号公報に記載の仕組みを適用した障害診断装置5の処理の概要を説明する。障害診断装置5は、全ての相違信号集合を充足することを制約条件とし、各信号の値が障害発生条件の構成要素であることを否定する論理式に同じ重みを設定することで最大充足可能性問題の形に定式化する。次に、障害診断装置5は、最大充足可能性問題のミニマム解を算出し、算出された解を否定する論理式を制約条件として逐次追加して再度解を算出する処理を、解が存在しなくなるまで繰り返すことで、障害発生条件となり得る候補条件を算出する。尚、ミニマム解とは、データを1つでも削るとsatisfiableにならない解である。
【0055】
図8(a)に示す相違信号集合に対しては、ミニマム解として、{S1、S2}と{S2、S5}の2つが得られる。従って、障害診断装置5は、図8(b)に示すように、{S1、S2}(データNo.が「C1」)、{S2、S5}(データNo.が「C2」)の2つを候補条件とする。また、障害診断装置5は、その他の相違信号集合に基づいて、{S1、S4、S5}(データNo.が「C3」)を3つ目の候補条件とする。
【0056】
更に、障害診断装置5は、算出された全てのミニマム解の和集合を障害発生条件として決定することもできる。これは、特開2010−218492号公報にも記載されているように、正常時の時系列データが多くなると、ミニマム解の和集合が真の障害発生条件に近づくと考えられるからである。
しかしながら、本発明では、正常時の時系列データが事前に網羅的に(抜け漏れなく)収集することができない場合を想定していることから、ミニマム解の和集合が真の障害発生条件になるとは言い切れない。そこで、障害診断装置5は、それぞれのミニマム解を候補条件とし、「未知の障害」が発生した診断対象システム2とは異なる診断対象システム2に対して、候補条件が成立したときの動作データの収集を依頼する。
【0057】
図9は、障害診断処理の流れを示すフローチャートである。
図9では、端末装置4aが搭載されている診断対象システム2aにおいて障害が検知され、端末装置4b〜4dが搭載されている診断対象システム2b〜2dに対して、情報収集が依頼されるものとして説明する。
【0058】
図9に示すように、端末装置4aは、障害を検知し、自らの診断対象システム2aの動作データを障害診断装置5に送信する(ステップS1)。また、端末装置4aは、更に、自らの診断対象システム2aの環境を示す環境情報を障害診断装置5に送信しても良い。
【0059】
次に、障害診断装置5は、端末装置4aから受信する動作データに基づき、障害発生条件となり得る候補条件を決定し、候補条件をセンタDB8に記憶する(ステップS2)。また、障害診断装置5は、端末装置4aから受信する環境情報もセンタDB8に記憶するようにしても良い。尚、障害診断装置5は、端末装置4aから直接受信する場合に限らず、修理工場などのコンピュータから、診断対象システム2aの動作データを受信しても良い。
【0060】
次に、障害診断装置5は、センタDB8に記憶している候補条件を「依頼候補条件情報」として複数の端末装置4b〜4dに送信する(ステップS3)。「依頼候補条件情報」とは、依頼する情報収集の対象データを特定する為の候補条件を示す情報である。
【0061】
次に、端末装置4b〜4dは、障害診断装置5から受信する依頼候補条件情報に係る候補条件を、それぞれ端末DB7に記憶する(ステップS4)。そして、端末装置4b〜4dは、端末DB7に記憶している候補条件のいずれかが成立すると、候補条件が成立した時点における自らの診断対象システム2の障害発生有無を判定し、成立した候補条件を示す成立候補条件情報、及び、障害発生有無を示す障害発生有無情報を障害診断装置5に送信する(ステップS5)。
【0062】
次に、障害診断装置5は、端末装置4b〜4dのいずれかから受信する障害発生有無情報及び成立候補条件情報に基づいて、センタDB8を更新する。より詳細には、障害診断装置5は、端末装置4b〜4dのいずれかから受信する障害発生有無情報を確認し、「障害発生無し」の場合には端末装置4b〜4dのいずれかから受信する成立候補条件情報と一致する候補条件をセンタDB8から削除し、「障害発生有り」の場合には端末装置4b〜4dのいずれかから受信する成立候補条件情報と一致しない全ての候補条件をセンタDB8から削除する(ステップS6)。
そして、障害診断装置5は、センタDB8から削除した候補条件を示す「削除候補条件情報」を複数の端末装置4b〜4dに送信する(ステップS7)。「削除候補条件情報」とは、センタDB8から削除した候補条件、すなわち障害発生条件か否か判定済の候補条件を示す情報である。
【0063】
次に、端末装置4b〜4dは、障害診断装置5から受信する削除候補条件情報に基づいて、端末DB7を更新する(ステップS8)。つまり、障害診断装置5は、障害発生条件か否か判定済の候補条件を端末DB7から削除する。これによって、障害発生条件か否か判定済の候補条件については、収集対象から外すことができる。
【0064】
尚、ステップS6において、障害診断装置5は、候補条件ごとに成立候補条件情報の受信数をカウントしていき、十分信頼できる数の成立候補条件情報及び障害有無情報を受信した候補条件だけをセンタDB8から削除するようにしても良い。
【0065】
図10は、第1例におけるセンタDB及び端末DBの変化を示す図である。図10に示す例では、(a)ステップS2において、障害診断装置5は、No.が「C1」〜「C3」の候補条件をセンタDB8に登録する。この時点では、端末DB7に登録されている候補条件はない。
(b)ステップS3では、障害診断装置5は、依頼候補条件情報として「C1={S1f,S2f}、C2={S2f,S5f}、C3={S1f,S4f,S5f}」を端末装置4b〜4dに送信する。
(c)ステップS4において、端末装置4b〜4dは、No.が「C1」〜「C3」の候補条件を端末DB7b〜7dに登録する。
(d)ステップS5において、例えば、端末装置4bを搭載する診断対象システム2bにおいて、No.が「C2」の候補条件が成立し、この候補条件が成立した時に診断対象システム2bの動作は「障害発生無し」だったとする。この場合、端末装置4bは、成立候補条件情報として「C2」、障害発生有無情報として「障害発生無し」を障害診断装置5に送信する。
(e)ステップS6では、障害診断装置5は、No.が「C2」の候補条件をセンタDB8から削除する。
(f)ステップS7では、障害診断装置5は、削除候補条件情報として「C2」を端末装置4b〜4dに送信する。
(e)ステップS8では、端末装置4b〜4dは、No.が「C2」の候補条件を端末DB7b〜7dから削除する。
【0066】
図10に示す例では、端末装置4bを搭載する診断対象システム2bにおいて、“No.が「C2」の候補条件の成立時の動作は正常である。”という情報が収集され、この情報収集の結果に基づいて、障害診断装置5は、候補条件を3つから2つに絞り込むことが示されている。
更に、診断対象システム2b〜2dのいずれかにおいて、“No.が「C1」の候補条件の成立時の動作は正常である。”、“No.が「C1」の候補条件の成立時の動作は正常でない。”、“No.が「C3」の候補条件の成立時の動作は正常である。”、又は、“No.が「C3」の候補条件の成立時の動作は正常でない。”のいずれか1つの情報が収集されれば、障害診断装置5は、障害発生条件を特定できる。
【0067】
図11は、第2例におけるセンタDB及び端末DBの変化を示す図である。
図11に示す例では、(a)ステップS2において、障害診断装置5は、No.が「C1」〜「C3」の候補条件をセンタDB8に登録する。この時点では、端末DB7に登録されている候補条件はない。
(b)ステップS3では、障害診断装置5は、依頼候補条件情報として「C1={S1f,S2f}、C2={S2f,S5f}、C3={S1f,S4f,S5f}」を端末装置4b〜4dに送信する。
(c)ステップS4において、端末装置4b〜4dは、No.が「C1」〜「C3」の候補条件を端末DB7b〜7dに登録する。
(d)ステップS5において、例えば、端末装置4bを搭載する診断対象システム2bにおいて、No.が「C1」の候補条件が成立し、この候補条件が成立した時に診断対象システム2bの動作は「障害発生有り」だったとする。この場合、端末装置4bは、成立候補条件情報として「C1」、障害発生有無情報として「障害発生有り」を障害診断装置5に送信する。
(e)ステップS6では、障害診断装置5は、No.が「C1」の候補条件と一致しない全ての候補条件、すなわちNo.が「C2」及び「C3」の候補条件をセンタDB8から削除する。
(f)ステップS7では、障害診断装置5は、削除候補条件情報として「全て」を端末装置4b〜4dに送信する。
(e)ステップS8では、端末装置4b〜4dは、全ての候補条件を端末DB7b〜7dから削除する。
【0068】
図11に示す例では、端末装置4bを搭載する診断対象システム2bにおいて、“No.が「C1」の候補条件の成立時の動作は正常でない。”という情報が収集され、この情報収集の結果に基づいて、障害診断装置5は、候補条件を3つから1つに絞り込むことが示されている。従って、図11に示す例では、障害診断装置5は、障害発生条件を特定できている。
【0069】
以上、本発明の実施の形態における障害診断システム1では、前述した通り、未知の障害が発生した診断対象システム2とは異なる診断対象システム2に対して、障害診断に必要な情報収集を依頼し、情報収集の結果を回収する。依頼する情報収集の内容は、障害発生条件となり得る候補条件が成立したこと、及び、成立時の診断対象システム2の動作が「正常」又は「正常でない」のいずれであるかである。従って、本発明の実施の形態では、未知の障害に対して、障害発生条件の候補を出来る限り絞り込み、障害原因の特定に要する時間と費用を削減することができる。
【0070】
<変形例>
前述の説明では、ステップS3において、障害診断装置5は、候補条件の送信先を、同一車種の全ての端末装置4とした。変形例では、障害診断装置5は、候補条件の送信先を、同一車種の中で一部の端末装置4に限定する。
【0071】
変形例では、ステップS1において、端末装置4aは、自らの診断対象システム2aの動作データとともに、自らの診断対象システム2aの環境を示す環境情報を障害診断装置5に送信する。環境情報としては、前述したように、例えば、場所情報、天候情報、道路交通状況情報などが考えられる。
そして、ステップS3において、障害診断装置5は、端末装置4aから受信する環境情報と合致する環境において動作している診断対象システム2に対してのみ、依頼候補条件情報を送信する。例えば、障害診断装置5は、端末装置4aから受信する場所情報に基づいて、積雪・寒冷地か否か、起伏が多い山間部か否か、高速道路と一般道路のいずれか、市街地と郊外のいずれか、などを判定し、環境情報と合致する環境において動作している診断対象システム2を特定する。ここで、環境が合致するか否かを判定する為の情報は、予め診断対象システム2ごとにセンタDB8に登録しておいても良いし、障害診断が依頼された時に、それぞれの診断対象システム2に問合せをして収集しても良い。
【0072】
正常時に取り得る信号値の組み合わせは、診断対象システム2が搭載されている車両の走行場所によって、現れやすさが異なることが考えられる。また、削除したい候補条件は、障害が発生した車両と同じような場所を走っている車両の方が揃いやすいと考えられる。従って、候補条件の送信先を同一車種の中で一部の端末装置4に限定しても、限定しない場合と比較して、成立候補条件情報及び障害発生有無情報の収集量はほとんど変わらない。
そして、候補条件の送信先を同一車種の中で一部の端末装置4に限定することによって、「車両1台当たりの情報収集の為の処理負荷」を軽減することができる。
【0073】
尚、前述の説明では、障害が発生した診断対象システム2に係る端末装置4は、診断センタ3に設置されている障害診断装置5を介して、他の診断対象システム2に係る端末装置4に情報収集を依頼していたが、例えば、車車間通信や路車間通信などによって、直接的に情報収集を依頼しても良い。更に、各端末装置4が、障害診断装置5の各機能(センタDB8、候補条件決定機能41、センタDB登録機能42、情報収集依頼機能43、結果回収機能44、センタDB更新機能45、結果反映指示機能46)を備える場合、障害診断装置5は不要となる。
【0074】
また、前述の説明では、端末装置4b〜4dは、無条件に情報収集の依頼に応答していたが、当然ながら、診断対象システム2が搭載されている車両の運転者には、事前に情報収集の同意を得ることになる。また、端末装置4b〜4dは、車両の起動時に、情報収集をして良いか否か、運転者に問合せを行い、運転者が承諾する旨の指示をしたときのみ、情報収集の依頼に応答するようにしても良い。
本発明による情報収集は、各運転者が所有している車両と同一の車種について更なる安全運用に繋がるものである為、障害診断の依頼者ではない運転者にとっても多大なメリットがある。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る障害診断システム等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0076】
1………障害診断システム
2………診断対象システム
3………診断センタ
4………端末装置
5………障害診断装置
6………ネットワーク
7………端末DB
8………センタDB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の診断対象システムそれぞれに搭載される複数の端末装置、及び前記端末装置とネットワークを介して接続される障害診断装置によって構成される障害診断システムにおける障害診断方法であって、
前記障害診断装置が、特定の診断対象システムの動作データに基づいて障害発生条件となり得る候補条件を決定し、前記候補条件を第1記憶領域に記憶する第1ステップと、
前記障害診断装置が、前記第1記憶領域に記憶している前記候補条件を複数の前記端末装置に送信する第2ステップと、
前記端末装置が、前記障害診断装置から受信する前記候補条件を、前記第1記憶領域とは異なる第2記憶領域に記憶し、前記第2記憶領域に記憶している前記候補条件のいずれかが成立すると、前記候補条件が成立した時点における自らの診断対象システムの障害発生有無を判定し、成立した前記候補条件を示す成立候補条件情報、及び前記障害発生有無を示す障害発生有無情報を前記障害診断装置に送信する第3ステップと、
前記障害診断装置が、前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報及び前記障害発生有無情報に基づいて、前記第1記憶領域を更新する第4ステップと、
を含む障害診断方法。
【請求項2】
前記第4ステップでは、前記障害診断装置が、前記端末装置から受信する前記障害発生有無情報を確認し、「障害発生無し」の場合には前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報と一致する前記候補条件を前記第1記憶領域から削除し、「障害発生有り」の場合には前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報と一致しない全ての前記候補条件を前記第1記憶領域から削除する
請求項1に記載の障害診断方法。
【請求項3】
前記第4ステップでは、前記障害診断装置が、更に、前記第1記憶領域から削除した前記候補条件を示す削除候補条件情報を複数の前記端末装置に送信し、
前記端末装置が、前記障害診断装置から受信する前記削除候補条件情報に基づいて、前記第2記憶領域を更新する第5ステップ、
を更に含む請求項1又は請求項2に記載の障害診断方法。
【請求項4】
前記第1ステップにおける前記動作データは、前記特定の診断対象システムに搭載されている前記端末装置が、前記特定の診断対象システムの環境を示す環境情報とともに、前記障害診断装置に送信するものであり、
前記第2ステップでは、前記障害診断装置が、前記環境情報に合致する環境において動作している診断対象システムに係る前記端末装置のみに対して、前記第1記憶領域に記憶している前記候補条件を送信する
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の障害診断方法。
【請求項5】
複数の診断対象システムそれぞれに搭載される複数の端末装置、及び前記端末装置とネットワークを介して接続される障害診断装置によって構成される障害診断システムであって、
前記障害診断装置は、
特定の診断対象システムの動作データに基づいて障害発生条件となり得る候補条件を決定する候補条件決定手段と、
前記候補条件決定手段によって決定される前記候補条件を第1記憶領域に登録する第1記憶領域登録手段と、
前記第1記憶領域に記憶している前記候補条件を複数の前記端末装置に送信することによって、情報収集を依頼する依頼手段と、
成立した前記候補条件を示す成立候補条件情報、及び前記候補条件が成立した時点における診断対象システムの障害発生有無を示す障害発生有無情報を前記端末装置から受信することによって、情報収集の結果を回収する回収手段と、
前記端末装置から受信する前記障害発生有無情報及び前記成立候補条件情報に基づいて、前記第1記憶領域を更新する第1記憶領域更新手段と、
を具備し、
前記端末装置は、
前記障害診断装置から受信する前記候補条件を、前記第1記憶領域とは異なる第2記憶領域に登録する第2記憶領域登録手段と、
自らの診断対象システムの障害発生有無を検知する検知手段と、
前記第2記憶領域に記憶している前記候補条件のいずれかが成立すると、前記成立候補条件情報とともに、前記障害発生有無情報として前記検知手段によって検知される前記障害発生有無を前記障害診断装置に送信することによって、前記障害診断装置からの情報収集の依頼に応答する応答手段と、
を具備する障害診断システム。
【請求項6】
前記第1記憶領域更新手段は、前記端末装置から受信する前記障害発生有無情報を確認し、「障害発生無し」の場合には前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報と一致する前記候補条件を前記第1記憶領域から削除し、「障害発生有り」の場合には前記端末装置から受信する前記成立候補条件情報と一致しない全ての前記候補条件を前記第1記憶領域から削除する
請求項5に記載の障害診断システム。
【請求項7】
前記障害診断装置は、更に、
前記第1記憶領域から削除した前記候補条件を示す削除候補条件情報を複数の前記端末装置に送信することによって、情報収集の結果の反映を指示する反映指示手段、
を具備し、
前記端末装置は、更に、
前記障害診断装置から受信する前記削除候補条件情報に基づいて、前記第2記憶領域を更新する第2記憶領域更新手段、
を具備する請求項5又は請求項6に記載の障害診断システム。
【請求項8】
前記端末装置は、更に、
自らの診断対象システムの環境を示す環境情報とともに、自らの診断対象システムの動作データを前記障害診断装置に送信することによって、障害診断を要求する障害診断要求手段、
を具備し、
前記障害診断装置が具備する前記依頼手段は、前記環境情報に合致する環境において動作している診断対象システムに係る前記端末装置のみに対して、前記第1記憶領域に記憶している前記候補条件を送信する
請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の障害診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−194724(P2012−194724A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57458(P2011−57458)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】