説明

隠し絵

【課題】意匠性に富み、偽造防止等のセキュリティ性も高い隠し絵。
【解決手段】少なくとも特定の波長域の光を吸収するかあるいは透過する台紙2上にその波長域の光を反射散乱する着色材3’によって形成された微細な繰り返しパターン3であって、表示パターン内の領域Aとその外の領域Bとで繰り返し周期の位相がずれてなる表示体4と、その上に一体にあるいは分離可能に重畳される微細パターンシート7とからなり、微細パターンシート7には、着色材3’の繰り返し周期と同じ周期で透明部5と体積型回折格子部6との繰り返しパターンが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隠し絵に関し、特に、意匠の目的、偽造防止等のセキュリティの目的等に使用可能で特定の光学的条件下でのみ観察可能な隠し絵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モアレ縞を用いた以下のような技術が知られている。すなわち、これは、万線、網点等の1次元的又は2次元的な微細な繰り返しパターンからなる印刷物等の上に同様な万線、網点等の繰り返しパターンであって一様なものを重ねたときに発生するモアレ縞を利用して、そのモアレ縞の発生の有無、モアレ縞の形から上記印刷物等が真正なものか否かあるいは偽造されたものであるか否かを判定する目的等に用いられるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の上記のような技術は、一様な万線、網点等を印刷物等に重ねたとき、モアレ縞はどの方向からも見えるものであり、意匠性については必ずしも優れたものではない。また、セキュリティの面からも隠しパターンが記録されていることが簡単に見出され、セキュリティー性は必ずしも高いものではなかった。
【0004】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、意匠性に富み、偽造防止等のセキュリティ性も高い隠し絵を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明の隠し絵は、少なくとも特定の波長域の光を吸収するかあるいは透過する部分を間においてその波長域の光を反射散乱する着色材によって形成された微細な繰り返しパターンであって、その繰り返しパターン内の特定のパターン領域とその外の領域とで繰り返し周期の位相がずれてなる表示体と、その上に一体にあるいは分離可能に重畳される微細パターンシートとからなり、前記微細パターンシートには、前記繰り返しパターンの着色材の繰り返し周期と同じ周期で透明部と体積型回折格子部との繰り返しパターンが設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
上記の本発明の隠し絵によると、特定のパターン領域とその外の領域とで繰り返し周期の位相がずれてなる表示体と、その上に一体にあるいは分離可能に重畳される微細パターンシートとからなり、微細パターンシートには表示体の繰り返し周期と同じ周期で透明部と体積型回折格子部との繰り返しパターンが設けられているので、微細パターンシートを重畳しない通常の観察方法では表示体の表示パターンが観察できず、微細パターンシートを表示体に重畳するか表示体に予め一体に重畳してある場合には、照明光が特定の波長の光を含み、その照明光を特定の入射角で入射させ、かつ、特定の方向から観察する場合にのみ表示体の表示パターンが観察でき、それ以外の条件では観察できないものとなる。したがって、意匠性に富み、偽造防止等のセキュリティ性も高い隠し絵を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の隠し絵の原理と実施例について説明する。
【0008】
まず、本発明の原理を説明する。本発明の隠し絵は、図1(a)に断面を示すように、表面全体に黒層2を設けてある台紙1の黒層2の上に例えばR(赤色)インキで印刷された万線、網点等の1次元的又は2次元的な微細な繰り返しパターンからなる印刷層3が設けられている。印刷層3における万線、網点等の形状をした印刷部を3’とする。ただし、領域Aと領域Bでは印刷部3’の繰り返し周期の位相が相互に例えば半周期ずれている。このような印刷物4の印刷層3の上に、透明部分5と体積型回折格子部分6とからなる万線、網点等の1次元的又は2次元的な微細な繰り返しパターンを持った微細パターンシート7が印刷物4と一体にあるいは後から重畳される。ただし、微細パターンシート7の繰り返しパターンの周期は印刷部3’の繰り返し周期と同一に設定されているが、全領域の位相は一定で部分的な位相ずれはなく一様なものである。
【0009】
ここで、微細パターンシート7の体積型回折格子部分6について説明する。体積型回折格子部分6には、図2に模式的に示すように、屈折率n(n>1)の媒体中に一定の間隔dをおいて例えば平面状で高屈折率の干渉縞22が平行に並んでなる体積型回折格子が配置されている。このような体積型回折格子は、フォトポリマー等の体積ホログラム感光材料中で2つの平面波を干渉させることにより容易に作製できる。このような体積型回折格子は、平面状干渉縞22の法線に対して入射角θで光を入射させると、λB =2dcosθのブラッグ条件を満たす波長λB の光のみが干渉縞22で正反射(ブラグ反射)され、それ以外の波長の光は干渉縞22を透過する。また、上記入射角θと異なる入射角θ’で入射させると、上記ブラッグ条件から、ブラグ反射する波長は上記λB とは異なる別の波長λB ’の光となる性質を持っている。
【0010】
したがって、体積型回折格子部分6に例えば表面に平行に干渉縞22が形成されているとして、図1(a)に示すように、赤波長領域の波長λR の光がブラグ反射する入射角θ1 で、白色光等の波長λR を含む照明光8を微細パターンシート7側から入射させると、印刷物4の印刷部3’と微細パターンシート7の体積型回折格子部分6が重なっている領域Aにおいては、体積型回折格子部分6に入射した光の赤波長領域の波長λR の光はその中の体積型回折格子によりブラグ反射され、また、透明部分5に入射した光の赤波長領域の波長λR の光は印刷部3’間の黒層2で吸収され散乱反射されない。したがって、領域Aにおいては、照明光8中の赤波長領域の波長λR の光は、体積型回折格子部分6と透明部分5の面積割合に応じた割合、例えば50%程度、体積型回折格子部分6中の体積型回折格子のブラグ反射方向へ回折され観測される。これに対して、印刷物4の印刷部3’と微細パターンシート7の体積型回折格子部分6がずれて重なっていない領域Bにおいては、体積型回折格子部分6に入射した光の赤波長領域の波長λR の光はその中の体積型回折格子によりブラグ反射され、また、透明部分5に入射した光の赤波長領域の波長λR の光は印刷部3’に達しそのRインキによって散乱反射される。したがって、領域Bにおいては、照明光8中の赤波長領域の波長λR の光は、体積型回折格子部分6中の体積型回折格子のブラグ反射方向へほとんど回折されるか散乱反射され観測される。
【0011】
以上のように、体積型回折格子部分6に赤波長領域の波長λR の光がブラグ反射する入射角θ1 で照明光8を入射させ、そのブラグ反射方向から観測する図1(a)の場合には、印刷物4の印刷部3’と微細パターンシート7の体積型回折格子部分6が重なっている領域Aと重なっていない領域Bとでは観察光量が異なるため、区別して観察できる。したがって、相互に印刷部3’の繰り返し周期の位相がずれている領域Aあるいは領域Bの輪郭を所望のパターンに設定することにより、微細パターンシート7を重畳しない通常の観察方法では観察できない隠し絵を作成することができる。
【0012】
これに対して、図1(b)に示すように、赤波長領域の波長λR の光がブラグ反射する条件を満たさない入射角θ2 で照明光8’を入射させると、領域Aにおいては、体積型回折格子部分6に入射した光の赤波長領域の波長λR の光はその中の体積型回折格子を透過して背後の印刷部3’によって散乱反射されるが、透明部分5に入射した光の赤波長領域の波長λR の光は印刷部3’間の黒層2で吸収され散乱反射されない。また、領域Bにおいては、体積型回折格子部分6に入射した光の赤波長領域の波長λR の光はその中の体積型回折格子を透過して背後の黒層2で吸収され散乱反射されないが、透明部分5に入射した光の赤波長領域の波長λR の光は印刷部3’によって散乱反射される。したがって、赤波長領域の波長λR の光については、領域A、領域B何れにおいても印刷部3’のみからしか散乱反射されず、両領域A、Bで観察光量が同じになるため、区別できない。なお、この入射角θ2 においては、その入射角に応じて体積型回折格子部分6により赤波長領域の波長λR 以外の例えば緑波長領域あるいは青波長波長領域の光が回折されるが、両領域A、Bで回折光量は同じであるため、やはり区別できない。
【0013】
以上のように、図1の構成においては、微細パターンシート7を重畳しない通常の観察方法では観察できず、微細パターンシート7を印刷物4に重畳するか予め印刷物4と一体に重畳してある場合には、照明光8が特定の波長の光(赤波長領域の波長λR の光)を含み、その照明光8を特定の入射角θ1 で入射させ、かつ、特定の方向(赤波長領域の波長λR のブラグ反射方向)から観察する場合にのみ印刷層3に表示された隠し絵が観察でき、それ以外の条件では観察できないものとなる。
【0014】
以上の実施例において、印刷層3の背後に黒層2を設けるものとしたが、台紙1が透明である場合には黒層2を設ける必要は必ずしも必要はない。
【0015】
以上は、隠し絵を表示するためにインキ等の着色材を用いる場合であったが、図3に示すように、隠し絵を記録する表示体9も、微細パターンシート7と同様に、透明部分5と体積型回折格子部分6とからなる万線、網点等の1次元的又は2次元的な微細な繰り返しパターンを持つものとすることができる。ただし、表示体9の場合は、領域Aと領域Bでは透明部分5と体積型回折格子部分6の繰り返し周期の位相が相互に例えば半周期ずれており、領域Aあるいは領域Bの輪郭が所望の隠し絵のパターンに設定されている。また、表示体9の体積型回折格子部分6の体積型回折格子と微細パターンシート7の体積型回折格子部分6の体積型回折格子は同じ格子定数で同じ傾きを有するものとする。この場合も、図1の実施例と同様に隠し絵を表示観察できる。
【0016】
図4の場合は、隠し絵を記録する表示体12は、透明部分10と体積型回折格子部分11とからなる万線、網点等の1次元的又は2次元的な微細な繰り返しパターンを持つが、図3の場合と異なり、体積型回折格子部分11の格子定数、格子の傾きは微細パターンシート7の体積型回折格子部分6のものと異なるものである。この場合は、特定の観察方向から特定の波長の光(赤波長領域の波長λR の光)で隠し絵が観察できるためには、微細パターンシート7の体積型回折格子部分6に対してブラグ条件を満たす方向からの照明光81 と、表示体12の体積型回折格子部分11に対してブラグ条件を満たす方向からの照明光82 とが必要であり、その場合の領域Aと領域Bにおける両照明光81 、82 の光路が図4に示してある。図から隠し絵が観察できる理由は明らかであるが、図1、図3の場合と異なる点は、体積型回折格子部分6と体積型回折格子部分11が重なる領域Aにおいては、照明光82 が体積型回折格子部分6を経て体積型回折格子部分11に入射し、体積型回折格子部分6による照明光81 のブラグ反射方向へブラグ反射されるが、その光は上に重ねられている体積型回折格子部分6の裏面側で再度ブラグ反射され観察側に達しないため、領域Aでの観察光量は領域Bでの観察光量より少なくなり、隠し絵が見えるようになることである。
【0017】
なお、以上のような透明部分5と体積型回折格子部分6とからなる微細パターンシート7、表示体9、透明部分10と体積型回折格子部分11とからなる表示体12の作成には、例えば1枚のフォトポリマー等の体積型ホログラム感光材料を用意し、その上に透明部分5、10に対応する微細部分が開口された繰り返しパターン板を載置して、微細パターン板側から紫外線等の露光光を照射して、開口部を不活性にし、その後この体積型ホログラム感光材料に2つの平行光を所定の角度で入射させて残った活性領域中で干渉するようにすればよい。
【0018】
次に、具体例を2例示す。図5(a)の場合は、微細パターンシート14として、体積型ホログラム感光材料の表裏から垂直に波長633nmの光を入射させて網点状に体積型回折格子部分を形成したものを用い、隠し絵を記録した印刷物13として、真紅のインキと黒インキを用いて黒の背景中に微細パターンシート14と同じ網点サイズで、隠し絵部分が他の部分と位相の異なる真紅の網点パターンを印刷したものを用いる。この印刷物13に微細パターンシート14を重ね合わせる。この場合、観察者16が受光する受光角と微細パターンシート14の体積型回折格子部分のブラグ回折波長の関係は図5(b)の破線のようになっており、このようなブラグ回折を起こす受光角と投光角の関係は実線のようになっている。したがって、例えば+10°方向から観察できる波長は、図5(b)の破線の関係から約630nmであり、そのときの光源15の投光角は、図5(b)の実線の関係から−10°である。
【0019】
また、図6(a)の場合は、微細パターンシート18として、体積型ホログラム感光材料の表から入射角0°、裏から入射角0°で波長600nmの光を入射させて網点状に体積型回折格子部分を形成したものを用い、隠し絵を記録した表示体17として、体積型ホログラム感光材料の表から入射角0°、裏から入射角30°で波長600nmの光を入射させて微細パターンシート18と同じ網点サイズで、隠し絵部分が他の部分と位相の異なる網点状に体積型回折格子部分を形成したものを用いる。この表示体17に微細パターンシート18を重ね合わせる。この場合、観察者19が受光する受光角と微細パターンシート18の体積型回折格子部分のブラグ回折波長の関係は図6(b)の破線のようになっており、このようなブラグ回折を起こす受光角と投光角の関係は一点鎖線のようになっている。また、観察者19が受光する受光角と表示体17の体積型回折格子部分のブラグ回折波長の関係は図6(b)の点線のようになっており、このようなブラグ回折を起こす受光角と投光角の関係は実線のようになっている。したがって、図6(b)から、微細パターンシート18の体積型回折格子部分、表示体17の体積型回折格子部分の両方から観察者19が同じ受光角で同じ波長の回折光が観察できるには、破線と点線が交差する波長600nmの光であり、そのときの微細パターンシート18用の光源20は投光角0°の位置になければならず、表示体17用の光源21は投光角−30°の位置になければならない。
【0020】
以上、本発明の隠し絵を実施例に基づいて説明してきたが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。例えば、微細パターンシート、表示体の体積型回折格子部分に記録されている体積型回折格子としては、図2のように平面状の干渉縞からなるものだけでなく、スリガラス等の拡散板を透過した波面と平面波との干渉縞からなり、回折光が多少散乱性となる体積型回折格子(干渉縞)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の隠し絵の第1の形態のものの原理を説明するための図である。
【図2】体積型回折格子の構成と作用を説明するための図である。
【図3】本発明の隠し絵の第2の形態のものの原理を説明するための図である。
【図4】図3の隠し絵の変形例を説明するための図である。
【図5】本発明の具体例の構成と作用を説明するための図である。
【図6】本発明のもう1つの具体例の構成と作用を説明するための図である。
【符号の説明】
【0022】
A、B…領域
1…台紙
2…黒層
3…印刷層
3’…印刷部
4…印刷物
5…透明部分
6…体積型回折格子部分
7…微細パターンシート
8、8’、81 、82 …照明光
9、12…表示体
10…透明部分
11…体積型回折格子部分
13…印刷物
14…微細パターンシート
15…光源
16…観察者
17…表示体
18…微細パターンシート
19…観察者
20…光源
21…光源
22…干渉縞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも特定の波長域の光を吸収するかあるいは透過する部分を間においてその波長域の光を反射散乱する着色材によって形成された微細な繰り返しパターンであって、その繰り返しパターン内の特定のパターン領域とその外の領域とで繰り返し周期の位相がずれてなる表示体と、その上に一体にあるいは分離可能に重畳される微細パターンシートとからなり、前記微細パターンシートには、前記繰り返しパターンの着色材の繰り返し周期と同じ周期で透明部と体積型回折格子部との繰り返しパターンが設けられていることを特徴とする隠し絵。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−137071(P2007−137071A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37580(P2007−37580)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【分割の表示】特願平9−172111の分割
【原出願日】平成9年6月27日(1997.6.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】