説明

隠蔽された絵柄が経時的に顕在化する加飾シート

【課題】加飾シートを用いて製品の表面に形成される加飾層の外観を経時的に変化させ、耐用寿命の間消費者が製品の外観に飽きるのを防止すること。
【解決手段】被加飾物に固定可能な加飾層を基体シートの表面に有してなる加飾シートであって、該加飾層は、隠顕層及び絵柄層を有し、該隠顕層は絵柄層と重複し、絵柄層よりも外側に配置され、該隠顕層は、加飾層が被加飾物に固定された時は絵柄層の絵柄を外側に対して隠蔽しているが、その後経時的に絵柄層の絵柄を顕在化させる隠顕機能を有する、加飾シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加飾物、例えば、射出成形体の表面を加飾するのに適する加飾シートに関し、特に最初は隠蔽されている色又は柄が経時的に顕在化する加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
加飾シートを用いてプラスチック部品又は外装品のような物品の表面を保護又は装飾する方法は従来から知られている。例えば、特許文献1には支持体である基体シートの片面上に加飾層が設けられた加飾シート、及びこの加飾シートを射出成形金型内に挿入し、インモールド射出成形することで、加飾された射出成形体を得ること(射出成形同時加飾)が記載されている。
【0003】
加飾層は、一般に、絵柄、着色剤、接着剤等が層状に積層された積層体である。物品表面に貼着された後は、加飾層は装飾機能又は保護機能を奏する被覆を形成する。絵柄及び着色剤等の層は基体シート上にグラビアインキ等の印刷インキ又は塗料を順次印刷又は塗工して形成される。
【0004】
加飾層によって様々な製品の表面に付与される色及び柄等は美観を向上させ、消費者の購買意欲を刺激し、嗜好を満足させる。特に、機能が成熟した製品では、他社との差別化を図るために外観の装飾が工夫される。消費者の嗜好を満足させるデザインは製品の販売を促進し、社会現象として流行を生むこともある。
【0005】
しかし、一旦購入すると、消費者はその製品を日常的に目にするようになる。それゆえ、消費者は月日が経過するにつれて製品のデザインに慣れ、そして飽きる。つまり、一旦は消費者の嗜好を満足させたデザインであっても、経時的に陳腐化してしまう。その結果、消費者には新規なデザインに対する欲求が発生する。
【0006】
製品の種類によっては、消費者の欲求に対応して、販売後の製品についても随時着色又は加飾が行われて外観が変更される。しかし、販売後の製品の外観を個別に変更するのは工程が煩雑であり、手作業を行う必要があり、経済的にも不利である。
【0007】
あるいは、消費者の新規なデザインに対する欲求を満たすために、数年毎に製品のモデルチェンジが通常行われる。しかし、このようにして工業製品の買い替えサイクルが短縮されると、耐用寿命が残存している工業製品を廃棄すること又は工業製品の過剰生産を促し、環境に対する悪影響及び資源の浪費等の問題が発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO01/92006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、加飾シートを用いて製品の表面に形成される加飾層の外観を経時的に変化させ、耐用寿命の間消費者が製品の外観に飽きるのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、被加飾物に固定可能な加飾層を基体シートの表面に有してなる加飾シートであって、
該加飾層は、隠顕層及び絵柄層を有し、
該隠顕層は絵柄層と重複し、絵柄層よりも外側に配置され、
該隠顕層は、加飾層が被加飾物に固定された時は絵柄層の絵柄を外側に対して隠蔽しているが、その後経時的に絵柄層の絵柄を顕在化させる隠顕機能を有する、
加飾シートを提供する。
【0011】
ある一形態においては、上記隠顕層は、加飾層が被加飾物に固定された時は着色しており、その後経時的に退色して透明化する。
【0012】
ある一形態においては、上記加飾層が被加飾物に固定された時から絵柄層の絵柄が顕在化されるまでの期間が加飾された製品の耐用寿命の約1/3より短い期間である。
【0013】
ある一形態においては、上記隠顕層に含まれる着色剤は光退色性染料である。
【0014】
ある一形態においては、上記光退色性染料はJIS:K 7350−2による曝露試験で50〜150時間の耐光性を有する。
【0015】
ある一形態においては、上記光退色性染料は1:2クロム錯体系染料である。
【0016】
また、本発明は、成形用金型内に、加飾層の隠顕層側が金型キャビティ面を向くような向きに上記いずれか記載の加飾シートを送り込む工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの接着層側(加飾層の絵柄層側)の面に接するように、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を加飾する方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、被加飾物に固定された加飾層を有してなる加飾された物品であって、
該加飾層は絵柄層及び隠顕層を有し、
該隠顕層は絵柄層と重複し、絵柄層よりも外側に配置され、
該隠顕層は、加飾層が被加飾物に固定された時は絵柄層の絵柄を外側に対して隠蔽しているが、その後経時的に絵柄層の絵柄を顕在化させる隠顕機能を有する、
加飾された物品を提供する。
【0018】
本明細書では、文言を次に説明する定義に従って使用する。
「固定」とは、脱離することが実質的に不可能なように取り付けることをいう。加飾層は被加飾物に直接固定させてよく、接着層又は基体シート等を介在させることにより固定させてもよい。
「絵柄層」とは、装飾機能を有する層をいい、文字又は絵柄を有する層、及び/又は絵柄を有しない着色層が含まれる。
「隠顕機能」とは、最初、即ち加飾層が被加飾物に固定された当初は絵柄層の絵柄を隠蔽しているが、その後経時的に絵柄層の絵柄を顕在化させる機能をいう。
「顕在化」とは、絵柄の存在が認識できる程度に見えるようになることをいう。絵柄の全て又は細部までが明確に見える必要はない。
「被加飾物」とは、本発明の加飾シートを用いて加飾する対象となる独立した物品をいう。例えば、射出成形体、射出成形された部品等は被加飾物に該当する。
「加飾された物品」とは、被加飾物の表面に本発明の加飾層を有してなる物品をいう。そして、加飾された物品が部品である場合、その部品を組み立てて得られる完成品を「加飾された製品」という。つまり、「加飾された製品」とは、表面に本発明の加飾層を有してなる完成品をいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明の加飾シートから被加飾物の表面に形成された加飾層は、外観が経時的に変化し、耐用寿命の間消費者が、加飾された物品の外観に飽きるのを防止する。そのことによって、耐用寿命が残存している製品を廃棄することや過剰生産が抑制され、環境に対する悪影響が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態である加飾シートの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の隠顕層が有する隠顕機能を模式的に示す加飾層の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態である加飾された物品の構造を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態である加飾された物品の構造を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態である加飾された物品の構造を示す断面図である。
【図6】図5に示す加飾された物品を製造する過程で形成される中間加飾物品の構造を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態である加飾された製品の外観が変化する状態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
加飾シート
図1は本発明の実施形態である加飾シートの構造を示す断面図である。基体シート1の片面に加飾層2が設けられている。図1(a)に示した実施形態では、加飾層2は、これが固定される被加飾物の側、即ち基体シートの片面に積層された、隠顕層3、絵柄層4及び接着層5を有している。本明細書では、加飾シートの層構成について、被加飾物の側を内側といい、観者の側を外側という。
【0022】
図1(b)に示した実施形態では、加飾層2は基体シートの片面に積層された、絵柄層4及び隠顕層3を有している。基体シートの加飾層2と反対側の面には接着層5が形成されている。
【0023】
加飾層を構成する層のうち各樹脂層の形成は、特に断らない限り、従来と同様の方法によって行うことができる。従来の層形成方法の例には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法などがある。
【0024】
基体シート
基体シート1は、絵柄層又は着色層をシート上に支持する用途に従来から使用されるシート材料又はフィルム材料から構成される。フィルム材料は合成樹脂からなるシート材料をいう。合成樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などが使用できる。
【0025】
基体シートは、射出成形同時加飾を行った後に加飾層から剥離する場合、及び射出成形同時加飾を行った後も加飾層と接着して残存する場合がある。
【0026】
射出成形同時加飾を行った後に、加飾層を残して基体シートを射出成形体から剥離する場合は、基体シートは薄く強靭性に優れていることが好ましい。基体シートとしては、例えば延伸ポリエステル樹脂フィルムなどが好ましい。
【0027】
かかる材質の場合、基体シートの厚さは10〜100μmがよく、好ましくは20〜80μm、より好ましくは30〜70μm程度である。基体シートの厚さが10μm未満であると強度が不足して射出成形同時加飾を行う際に破損するおそれがあり、100μmを超えると加飾シートの立体形状に対する追随性が低下することがある。
【0028】
射出成形同時加飾を行った後も、基体シートが加飾層と接着して残存する場合は、基体シートは熱延伸性に優れていることが好ましい。加飾シートの立体形状に対する追随性が向上するからである。基体シートとしては、例えばアクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂/ポリエステル樹脂アロイフィルムなどが好ましい。
【0029】
かかる材質の場合、基体シートの厚さは70〜200μmがよく、好ましくは80〜160μm、より好ましくは90〜140μm程度である。基体シートの厚さが70μm未満であると強度が不足して射出成形同時加飾を行う際に破損するおそれがあり、200μmを超えると射出樹脂の熱が金型に逃げ難くインキ流れが発生し易くなる。
【0030】
加飾層
加飾層2は基体シートの表面に設けられる。加飾層は基体シートの片面に設けられても両面に設けられてもよい。加飾層は、少なくとも絵柄層4及び隠顕層3を有する。絵柄層は複数積層して形成されてよく、シート面の全部に形成されてもよい。隠顕層は複数積層して形成されてよく、シート面の一部に形成されてもよい。また、加飾層2は、要すれば基体シート1と隠顕層3の間に、離型層(非表示)、ハードコート層(非表示)又はアンカー層(非表示)、また絵柄層4の露出表面に隣接して、追加の絵柄層(非表示)、追加のアンカー層(非表示)又は接着層5を有してよい。
【0031】
射出成形同時加飾を行った後に、加飾層2を残して基体シート1が射出成形体から剥離される場合、加飾層2は基体シート1に対して離型性を有する必要がある。かかる場合は、基体シート1と隠顕層3との間に、基体シート1に接するように離型層(非表示)が形成される。
【0032】
離型層は転写時に基体シートと一緒になって加飾層から分離するものであってよく、基体シートから分離して加飾層の最外側表面を形成するものであってもよい。離型層の材質としては、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、セルロース誘導体、尿素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、パラフィン系樹脂およびこれらの複合物などを用いることができる。
【0033】
接着層5は、必要に応じて、加飾シートの被加飾物、例えば射出成形体に最も近い面に設けられる。接着層は、射出成形同時加飾の時に、加飾層と射出成形体とを接着するものである。接着層としては、射出成形体に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、射出成形体の材質がアクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂を用いるとよい。
【0034】
また、射出成形体の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、射出成形体の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。
【0035】
絵柄層
絵柄層4は被加飾物を装飾するための層である。絵柄層は、例えば、基体シート1又は隠顕層3等の絵柄層と隣接する層の表面に、バインダーである合成樹脂及び着色剤を含む着色インキ又は塗料を展着させて、形成される。インキ又は塗料を展着させる方法としては、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の印刷方式;及びグラビアコーター、グラビアリバースコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、キスタッチリバースコーター、コンマコーター、コンマリバースコーター、マイクログラビアコーター等の塗工方式を用いることが出来る。
【0036】
絵柄層のバインダーとなる合成樹脂としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、熱可塑ウレタン系樹脂、メタアクリル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ポリエチレン系樹脂、及び、塩素化ポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂であることが好ましい。
【0037】
好ましい着色剤の具体例は、(1)インジゴ、アリザリン、カーサミン、アントシアニン、フラボノイド、シコニンなどの植物色素、(2)アゾ、キサンテン、トリフェニルメタンなどの食用色素、(3)黄土、緑土などの天然無機顔料、(4)アクリル系、ウレタン系などの無機顔料、(5)炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミニウムレーキ、マダーレーキ、コチニールレーキなどが挙げられる。
【0038】
絵柄層を形成するために、金属薄膜細片をバインダー樹脂中に分散した、鏡面状金属光沢を有するインキ(以下、高輝性インキと言う。)からなる高輝性インキ層を用いてもよい。金属薄膜細片のインキ中の不揮発分に対する含有量は、3〜60質量%の範囲であることが好ましい。顔料として金属薄膜細片を使用した高輝性インキは、該インキを印刷又は塗布した際に金属薄膜細片が被塗物表面に対して平行方向に配向する結果、高輝度の鏡面状金属光沢が得られる。
【0039】
絵柄層の厚さは、2μm〜10μmとするのが好ましい。絵柄層の厚さが2μm以上であると十分な意匠性をより容易に得やすくなる。10μmを超えると印刷形成上困難となる。
【0040】
隠顕層
隠顕層3は、絵柄層4と重複し、最初、即ち加飾層が被加飾物に固定された当初は絵柄層の絵柄を外側に対して隠蔽する。隠顕層3と絵柄層4の重複は一部であってもよい。しかし、隠顕層3は、その後時間が経過すると絵柄層の絵柄を顕在化させる。隠顕層のかかる機能を隠顕機能と呼ぶ。
【0041】
隠顕機能の実現手段としては、例えば、最初、即ち加飾層が被加飾物に固定された当初は隠顕層を着色しておき、その後経時的に退色及び透明化させることが好ましい。一般に、隠顕層には着色剤を含ませて着色する。そして、この場合、隠顕層に含ませる着色剤は、自動的に退色するか、又は周囲環境の影響によって退色する種類のものを利用する。具体的には、例えば、紫外線又は可視光のような光を吸収して退色する光退色性着色剤、空気中の水分を吸収して退色する湿度退色性着色剤等が挙げられる。隠顕層に着色剤を含有させる量は、隠顕層の厚みを考慮して、絵柄層の絵柄を隠蔽するのに十分な量とする。
【0042】
加飾層が被加飾物に固定された時から絵柄層の絵柄が顕在化されるまでの期間は、加飾された製品の耐用寿命より短い期間でなければならない。加飾された製品自体が使用できなくなってから外観が変化しても、当該製品の使用期間を延長する効果が消費者に対して期待できないからである。絵柄層の絵柄が顕在化されるまでの期間は加飾された製品の種類を考慮して適宜決定すればよいが、例えば、加飾された製品の耐用寿命の約2/3、約1/2、又は約1/3より短い期間である。
【0043】
加飾された製品としては、例えば、携帯電話、ノート型パソコン、メディアプレーヤー、テレビ、冷蔵庫、電卓等が挙げられる。加飾された製品が携帯電話である場合は、耐用寿命としては、例えば、1〜3年程度が想定される。
【0044】
隠顕層は、絵柄層の絵柄を、観者の視線から遮る必要があり、絵柄層よりも外側に配置する。隠顕層は絵柄層に接している必要はない。
【0045】
隠顕層の成分及び形成方法は、着色剤の種類及び量を変更すること以外は絵柄層と同様である。隠顕層は、基体シートの側の隣接している層、例えば、基体シート1又は絵柄層3等の表面に、インキ又は塗料を展着させて形成する。基体シート1と隠顕層3の間に離型層、ハードコート層又はアンカー層等が形成される場合は、インキ又は塗料はこれらの層の表面に展着させる。
【0046】
隠顕層の着色剤は、加飾された製品の耐用寿命に応じて、隠顕機能を実現可能な経時退色性を示すものを適宜選択する。例えば、染料は顔料よりも耐光性が低く、紫外線又は可視光を吸収する環境下で実質的に退色性(光退色性)を示すので好ましい。
【0047】
例えば、加飾された製品の耐用寿命が1〜3年である場合は、好ましい着色剤は、屋外曝露4ヶ月〜1年に相当する、JIS:K 7350−2のプラスチック-実験室光源による曝露試験 第2部:キセノンアーク光源による曝露試験において50〜150時間の耐光性を示すものである。かかる着色剤の具体例には、1:2クロム錯体系染料を含有するCiba社製「ORASOL」(商品名)等が挙げられる。
【0048】
隠顕層の厚さは2〜100μmとするのが好ましい。隠蔽層の厚さが2μm未満であると絵柄層の隠蔽が困難になり、100μmを超えると十分な光透過性が得にくくなる。隠顕層は印刷法だけでなく、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法によっても形成できる。
【0049】
図2は本発明の隠顕層が有する隠顕機能を模式的に示す加飾層の断面図である。この加飾層2は被加飾物8に固定されており、隠顕層3、絵柄層4及び接着層5を有している。絵柄層4は、例えば金属色の線から構成される。隠顕層3は絵柄層4と重複しており、絵柄層よりも観者7に近い位置に配置されている。
【0050】
図2(a)は、加飾層が被加飾物に固定された時の状態を示している。この時は、隠顕層3は着色されている。そのために、絵柄層4は隠顕層3に隠蔽され、観者7は絵柄層4の存在を認識することができない。
【0051】
図2(b)は、その後、例えば、加飾された製品の耐用寿命の約1/2のような、所定の時間が経過した時の状態を示している。この時は、隠顕層3は退色している。そのために、絵柄層4の絵柄は顕在化され、観者7は絵柄を認識することができる。隠顕層3は、観者6が絵柄の存在を認識できる程度に退色していれば足り、この時点で完全に無色透明化している必要はない。その場合、隠顕層3はその後更に退色し、好ましくは加飾された製品の耐用寿命までに観者6は絵柄の全て又は細部まで認識できるようになる。
【0052】
物品の加飾方法
本発明の加飾シートを使用して熱ロール転写又はインモールド成形などにより、物品を加飾することができる。例えば、熱ロール転写においては、加飾シートの接着層側(基体シートの反対側)の面を被加飾物の表面に重ね、ロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用いて、加飾シートの基体シート側から熱及び圧力をかける。こうすることにより、加飾シートが被加飾物の表面に接着し、物品の表面が加飾される。
【0053】
また、インモールド射出成形においては、まず、成形用金型内に、加飾シートを送り込む。その際、加飾シートの向きは、加飾層の隠顕層側が金型キャビティ面を向くように合わせる。加飾層の構成は隠顕層と絵柄層との積層体と考えられるため、加飾層の片側は隠顕層側であり、反対側は絵柄層側として特定される。加飾シートとしてみると、隠顕層側には観者に見られる面が存在する。つまり、隠顕層側は外側である。また、絵柄層側には被加飾物に固定される面が存在する。つまり、絵柄層側は内側である。
【0054】
次いで、金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの接着層側(即ち、加飾層の絵柄層側)の面に接するように、即ち、加飾シートが溶融樹脂と金型キャビティ面に挟まれるように、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填させる。その結果、溶融樹脂は成形され、同時に加飾シートは射出成形体の表面に接着される。樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出すと、加飾層が射出成形体の表面に接着されて、射出成形体の表面が加飾される。
【0055】
基体シートと加飾層の間に離型層が形成されている場合は、最後に基体シートが剥離される。
【0056】
加飾された物品
上記物品の加飾方法によって、被加飾物に固定された本発明の加飾層を有してなる加飾された物品が得られる。図3は本発明の一実施形態である加飾された物品の構造を示す断面図である。加飾された物品は被加飾物8に加飾層2が固定されている。
【0057】
図3(a)は最外側が隠顕層3になっており、射出成形同時加飾を行った後に基体シートを剥離する場合に形成される物品である。図3(b)は最外側が基体シート1になっており、射出成形同時加飾を行った後に基体シートを剥離しない場合に形成される物品である。図3(c)は、加飾層2が基体シート1及び接着層5を介して被加飾物8に固定された物品である。
【0058】
図4は本発明の他の実施形態である加飾された物品の構造を示す断面図である。この加飾された物品では、透明な被加飾物8の内側表面に加飾層2が、外側表面に加飾層2’が固定されている。加飾層2は絵柄層4及び接着層5を有し、加飾層2’は隠顕層3及び接着層5’を有している。図4(a)は最内側が基体シート1、最外側が基体シート1’になっており、射出成形同時加飾を行った後に基体シートを剥離しない場合に形成される物品である。図4(b)は最外側が隠顕層3、最内側が絵柄層4になっており、射出成形同時加飾を行った後に基体シートを剥離する場合に形成される物品である。成形樹脂を射出成形すると同時に、加飾シートを用いてその両面を加飾する方法は公知であり、例えば、特開2005−262872に記載されている。
【0059】
図5は本発明の他の実施形態である加飾された物品の構造を示す断面図である。この加飾された物品では、被加飾物8の外側表面に加飾層2、透明な基体シート1、透明な被加飾物8’、加飾層2’及び基体シート1’が固定されている。被加飾物8は不透明でも透明でもよい。加飾層2は絵柄層4及び接着層5を有し、加飾層2’は隠顕層3及び接着層5’を有している。図5(a)は最外側が基体シート1’になっており、射出成形同時加飾を行った後に基体シートを剥離しない場合に形成される物品である。図5(b)は最外側が隠顕層3になっており、射出成形同時加飾を行った後に基体シートを剥離する場合に形成される物品である。
【0060】
図6は図5に示す加飾された物品を製造する過程で形成される中間加飾物品の構造を示す断面図である。被加飾物8の外側表面に加飾層2及び透明な基体シート1が固定されている。色や材質の異なる2種類の溶融した成形樹脂を射出成形すると同時に、加飾シートを用いてそれらの層間または表面を加飾する方法は公知であり、例えば、特開平9−207165号に記載されている。
【0061】
被加飾物は、インモールド射出成形法で製造される物品であれば特に制限されない。例えば、携帯電話の本体カバー、ノート型パソコンの本体カバー、メディアプレーヤーの本体カバー等が挙げられる。
【0062】
また、加飾された物品が部品である場合、その部品を組み立てることにより、完成品の表面に本発明の加飾層を有してなる加飾された製品が得られる。加飾された製品は、部品として本発明の加飾された物品を有する完成品であれば特に制限されない。例えば、携帯電話、ノート型パソコン、メディアプレーヤー等の携帯型情報端末等が挙げられる。
【0063】
図4は本発明の一実施形態である加飾された製品の外観が変化する状態を模式的に示す斜視図である。例示されている加飾された製品は携帯電話7である。
【0064】
図4(a)は、携帯電話が組み立てられた時の外観を示している。この時は、実質的には、加飾層が被加飾物に固定された時と考えてよい。携帯電話7上蓋部の最外側には隠顕層3が存在し、その内側(携帯電話側)には絵柄層4が存在する。この段階では隠顕層3の色は濃く、その内側に存在する絵柄層4は隠顕層3に隠されており、携帯電話の外観には現れていない。図4(a)中、二点鎖線は仮想線を意味し、二点鎖線で示した部分は、実際は不可視である。
【0065】
図4(b)は、その後、例えば、携帯電話の耐用寿命の約1/2のような、所定の月日が経過した時の外観を示している。隠顕層3の色が薄くなり、携帯電話の外観には、絵柄層4の存在が認識できる程度の絵柄が現れている。
【0066】
図4(c)は、その後、更に月日が経過した時の携帯電話の外観を示している。隠顕層3は透明化して、携帯電話の外観には、絵柄層4の形状に対応した絵柄が現れている。
【0067】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、実施例中「部」又は「%」で表される量は特に断りなき限り質量を基準にして表す。
【実施例】
【0068】
実施例1
着色剤として、Ciba社製「ORASOL」(商品名)を準備した。これは、JIS:K 7350−2の曝露試験で耐光性が50〜150時間の染料である。この染料を用いて光退色性インキを調製した。
【0069】
厚さ38×10−3mm(38μm)の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを基体シートとして用い、基体シートの一方の面全面に、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を、厚み1×10−3mm(1μm)となるようにグラビア印刷法で印刷して、離型層を形成した。
【0070】
このようにして形成した離型層の上全面に、上記光退色性インキをグラビア印刷法で印刷し乾燥させて、隠顕層を形成した。隠顕層の厚みは2μmであった。
【0071】
隠顕層の上に、ポリビニル系樹脂をグラビア印刷法で印刷して、約0.5mm幅の黄色の線が約2mm間隔で配置された縞模様を有する絵柄層を形成した。絵柄層の厚みは2μmであった。
【0072】
絵柄層の表面全体に、アクリル樹脂を、厚み1×10−3mm(1μm)となるようにグラビア印刷法で印刷し、接着層を形成した。
【0073】
このようにして、本発明の加飾シート(転写材)を得た。
【0074】
得られた加飾シートを金型に入れて、アクリル樹脂のインモールド射出成形を行い、携帯電話の本体カバーを作成した。得られた携帯電話の本体カバーは、加飾面の外観が均一な濃緑色であり、絵柄層として形成した黄色の縞模様は隠蔽されていた。
【0075】
上記携帯電話の本体カバーに対し、以下の条件で150時間照射すると、隠顕層は退色しており、絵柄層として形成した黄色の縞絵柄が顕在化した。
【0076】
[表1]

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、射出成形品、及び部品が射出成形品である工業製品の外観を装飾するのに利用される。
【符号の説明】
【0078】
1…基体シート、
2…加飾層、
3…隠顕層、
4…絵柄層、
5…接着層、
6…観者、
7…携帯電話、
8…被加飾物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加飾物に固定可能な加飾層を基体シートの表面に有してなる加飾シートであって、
該加飾層は、隠顕層及び絵柄層を有し、
該隠顕層は絵柄層と重複し、絵柄層よりも外側に配置され、
該隠顕層は、加飾層が被加飾物に固定された時は絵柄層の絵柄を外側に対して隠蔽しているが、その後経時的に絵柄層の絵柄を顕在化させる隠顕機能を有する、
加飾シート。
【請求項2】
前記隠顕層は、加飾層が被加飾物に固定された時は着色しており、その後経時的に退色して透明化する請求項1記載の加飾シート。
【請求項3】
前記加飾層が被加飾物に固定された時から絵柄層の絵柄が顕在化されるまでの期間が加飾された製品の耐用寿命の約1/3より短い期間である請求項1又は2記載の加飾シート。
【請求項4】
前記隠顕層に含まれる着色剤は光退色性染料である請求項2〜3のいずれか記載の加飾シート。
【請求項5】
前記光退色性染料はJIS:K 7350−2による曝露試験で50〜150時間の耐光性を有する請求項4記載の加飾シート。
【請求項6】
前記光退色性染料は1:2クロム錯体系染料である請求項4又は5記載の加飾シート。
【請求項7】
成形用金型内に、加飾層の隠顕層側が金型キャビティ面を向くような向きに請求項1〜6のいずれか記載の加飾シートを送り込む工程;
金型を閉じ、溶融樹脂が加飾シートの接着層側(加飾層の絵柄層側)の面に接するように、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填させる工程;及び
樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出す工程;
を包含する射出成形体の表面を加飾する方法。
【請求項8】
被加飾物に固定された加飾層を有してなる加飾された物品であって、
該加飾層は絵柄層及び隠顕層を有し、
該隠顕層は絵柄層と重複し、絵柄層よりも外側に配置され、
該隠顕層は、加飾層が被加飾物に固定された時は絵柄層の絵柄を外側に対して隠蔽しているが、その後経時的に絵柄層の絵柄を顕在化させる隠顕機能を有する、
加飾された物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−126085(P2011−126085A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285329(P2009−285329)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】