説明

雄型プレス金型、プレス方法、及び当該プレス方法を用いて製造された集光型球状シリコン太陽電池用集光板

【課題】加工対象物に、隣接した複数の凹部を形成する際、凹部間の境界を構成する壁面の先端を鋭利に形成することができる雄型プレス金型、プレス方法、及び当該プレス方法を用いて製造された集光型球状シリコン太陽電池用集光板を提供する。
【解決手段】本発明は、隣接した複数の凹部31を形成する雄型プレス金型であって、多角柱状に形成され、一端部に所定の形状の凸部7が形成された複数のパンチ3と、複数のパンチ3を、側面同士が密着した状態で保持し、凸部7を突出させた状態で固定する基台7とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接した複数の凹部を形成する雄型プレス金型、プレス方法及びこのプレス方法を用いて製造された集光型球状シリコン太陽電池用集光板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池は、種々の形態のものが提案され、例えば特許文献1〜4には、半球状の複数の凹部それぞれに、球状のシリコンからなる小型の太陽電池素子が配置された太陽電池が開示されている。より詳細に説明すると、この形態の太陽電池(以下、集光型球状シリコン太陽電池という)では、凹部の内壁面を反射鏡として利用し、直接入射した太陽光のみならず、内壁面から反射された太陽光を太陽電池素子に入射させることで、発電を行うように構成されている。
【特許文献1】特開平11−31837号公報
【特許文献2】特開2002−50780号公報
【特許文献3】特開2002−164554号公報
【特許文献4】特開2005−317667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のような集光型球状シリコン太陽電池では、凹部内壁面からの集光率をいかに高めるかが課題となる。そのためには、隣接する凹部間の境界を構成する壁面において、その先端部をできるだけ鋭利にすることが必要となる。しかしながら、例えば、特許文献4に記載の太陽電池では、凹部を切削加工によって形成しているため、切削加工における寸法精度の観点からすると、微小な凹部間の境界を鋭利に形成するには限界があり、このことが集光度向上の課題となっていた。
【0004】
なお、上記のような問題は、太陽電池の製作に限られたものではなく、加工対象物に隣接した複数の凹部を形成する際、従来の切削加工などでは、凹部間の境界の先端を鋭利に形成することができず、そのような要請に対応することができなかった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、加工対象物に、隣接した複数の凹部を形成する際、凹部間の境界を構成する壁面の先端を鋭利に形成することができる雄型プレス金型、プレス方法、及び当該プレス方法を用いて製造された集光型球状シリコン太陽電池用集光板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、隣接した複数の凹部を形成する雄型プレス金型であって、多角柱状に形成され、一端部に所定の形状の凸部が形成された複数のパンチと、前記複数のパンチを、側面同士が密着した状態で保持し、前記凸部を突出させた状態で固定する基台とを備えている。
【0007】
この構成によれば、多角形状に形成された複数のパンチを側面同士が密着した状態に保持することで、金型の雄型を形成しているため、隣接するパンチ間に奥端部が鋭利な隙間を簡単に形成することができる。すなわち、従来例のような切削加工では、微小部分を作成するのに限界があり、鋭利な境界を形成するのが難しかった。また、プレス加工の場合にも、雄型プレス金型を作成する際に、パンチ間の微小な隙間を鋭利に形成することは非常に困難であった。これに対して、本発明では、雄型を一体的に形成するのではなく、一端部に凸部が形成された複数のパンチを準備し、これを束ねることで雄型を形成している。そのため、隣接するパンチの凸部間には、奥端部が鋭利な隙間を簡単に形成することができ、これによって、加工対象物には、凹部間の境界に先端が鋭利な壁面を形成することができる。
【0008】
このような金型を用いて作製されるプレス加工材は、種々の用途に用いることができるが、例えば、集光型球状シリコン太陽電池に用いることができる。この場合、各パンチの一端部は、半球状に形成することが好ましい。この雄型プレス金型を用いて成形される金属板には、先端が鋭利な境界を有する複数の凹部を形成することができ、各凹部に太陽電池素子を配置すれば、集光型球状シリコン太陽電池を構成することができる。そして、この太陽電池では、凹部の境界が鋭利なため、集光率を向上することができ、各電池素子の出力を向上することができる。
【0009】
上記パンチの凸部は、鏡面加工されていることが好ましい。このとき、パンチの凸部の表面における中心線平均粗さは、5nm〜10nmであることが好ましい。各パンチの凸部をこのように構成することで、加工対象物に形成される凹部壁面の粗度を小さくすることができる。このような壁面が形成されると、特に、集光型球状シリコン太陽電池を形成する場合、凹部壁面が平滑になるため、集光度をさらに向上することができる。
【0010】
また、上記雄型プレス金型では、上記各パンチの断面形状を正六角形とし、複数のパンチを基台に平面視でハニカム状に配置することが好ましい。こうすることで、加工対象物において限られた面積に多数の凹部を効率的に配置することができる。つまり、形成される凹部の密度を高めることができる。
【0011】
また、本発明に係るプレス方法は、上記問題を解決するためになされたものであり、多角柱状に形成され、一端部に所定の形状の凸部が形成された複数のパンチ、及び前記複数のパンチを、側面同士が密着した状態で保持し、前記凸部を突出させた状態で固定する基台を有する雄型プレス金型を準備するステップと、前記パンチの凸部に対応した複数の凹部を有する雌型プレス金型を準備するステップと、前記雄型及び雌型プレス金型の間に、金属板を配置してプレスするステップとを備えている。
【0012】
また、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、上記プレス方法を用いて製造される集光型球状シリコン太陽電池用集光板であって、前記パンチの凸部が半球状に形成されている。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る雄型プレス金型及びプレス方法によれば、加工対象物に、隣接した複数の凹部を形成する際、凹部間の境界を構成する壁面の先端を鋭利に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る雄型プレス金型を集光型球状シリコン太陽電池の製造に適用した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は雄型プレス金型の斜視図、図2はパンチの斜視図、図3は図1の平面図である。
【0015】
まず、本実施形態に係るプレス金型について説明する。このプレス金型は、雄型プレス金型と雌型プレス金型とから構成され、図1に示すように、雄型プレス金型1は、多角柱状の複数のパンチ3と、これを支持する基台5とから構成されている。図2に示すように、各パンチ3は、断面が正六角形の多角柱状に形成され、一端部に半球状の凸部7が形成されている。このように構成された複数のパンチ3は、側面同士が密着するように束ねられる。すなわち、図3に示すように、平面視がハニカム状になるように配置される。一方、図1に示すように、基台5は、直方体状に形成され、束ねられたパンチ3の形状に対応するような穴が形成されている。そして、この穴に束ねられたパンチ3が圧入されることで、複数のパンチ3が基台5に固定される。このとき、基台5の表面からは、パンチ3の一端部、つまり半球面7を所定の長さだけ突出させておき、雄型として機能するようにする。また、基台表面の各角部近傍には、穴9が形成されており、この穴9に、雌型との位置決めを行うためのアジャストピン21(図5参照)が配置される。つまり、雌型にも同様の穴を形成しておき、アジャストピンを雄型と雌型の両方の穴に挿入することで、両者の位置決めを行うことができる。
【0016】
各パンチ3は、種々の材料で形成することができるが、例えば、平均粒径1μm以下のタングステンカーバイトを硬質層とした超硬合金を用いることができる。そして、後述するように、集光型球状シリコン太陽電池は、集光率を上げるため、集光板の凹部壁面を平滑にする必要があるため、各パンチ3の先端の凸部7には、鏡面加工を施し、例えば中心線平均粗さが5nm〜10nmとなるような粗度にしておくことが好ましい。あるいは、凸部7にラッピングを施すこともできる。ラッピングは、特には限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0017】
図4は、雌型プレス金型の断面図である。同図に示すように、雌型プレス金型11は、直方体状に形成され、雄型プレス金型1の半球状の凸部7と対応する複数の凹部13が形成されている。雄型プレス金型1と同様に、各凹部13は、ハニカム状に配置されている。また、上述したように、雌型11の表面の各角部には、アジャストピン用の穴15が形成されている。
【0018】
次に、上記プレス金型を用いた集光型球状シリコン太陽電池の製造方法について図5及び図6を参照しつつ説明する。図5は集光板の製造過程を示す図、図6は集光型球状シリコン太陽電池の拡大断面図である。
【0019】
まず、集光板を製造する。図5(a)に示すように、雄型及び雌型プレス金型の間に、アルミニウム製の金属板Bを配置し、両プレス金型1,11を近接させて金属板Bをプレスする。これにより、図5(b)に示すように、金属板Bには、ハニカム状に配置された複数の半球状の凹部31が形成される。次に、図5(c)及び図5(d)に示すように、ドリル41によって各凹部31の底面に貫通孔32を形成する。このとき、各凹部31の間隔は非常に狭いので、隣接する凹部31に同時に貫通孔32を形成しようとすると、隣接するドリル41が干渉する恐れがある。そこで、ドリル41は、凹部31に対して一つおきに配置し、二工程で全ての凹部31に貫通孔32を形成する。こうして貫通孔31が形成されると、集光板Bが完成する。
【0020】
続いて、図6に示すように、集光板Bに対し、公知の方法で、太陽電池素子51及び正電極52を配置する。すなわち、各凹部31の底部の貫通孔32を塞ぐように、シリコンからなる太陽電池素子51を配置するとともに、集光板Bの下面に絶縁シート53,54で挟まれたシート状の正電極52を配置し、正電極52が太陽電池素子51と接触するようにする。以上の工程により、集光型球状シリコン太陽電池が完成する。
【0021】
以上のように、本実施形態によれば、雄型を一体的に形成するのではなく、一端部に凸部7が形成された多角形状の複数のパンチ3を準備し、これを束ねて基台5に固定することで雄型プレス金型を形成している。そのため、図5(a)に示すように、隣接するパンチ3の凸部7間には、従来の切削加工では困難であった奥端部が鋭利な隙間Sを簡単に形成することができ、これによって、金属板Bには、図5(b)に示すように、凹部31間の境界に先端が鋭利な壁面39を形成することができる。特に、本実施形態では、上記金型を集光型球状シリコン太陽電池の作製に用いているため、集光板Bには、先端が鋭利な境界55を有する複数の凹部31を形成することができる。その結果、集光率が高く、各電池素子の出力を向上することが可能な太陽電池を作製することができる。
【0022】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、各パンチは、断面六角形状に形成されているが、各パンチを密に束ねて配置できるのであれば、その他の多角形、例えば、三角形、四角形などに形成することができる。
【0023】
また、上記実施形態では、本発明のプレス金型を集光型球状シリコン太陽電池の製造に適用したが、これ以外でも、凹部間の境界に先端が鋭利な壁面を形成するような加工対象物の全てに適用することができる。この場合、各パンチの端部の形状は上記のように半球状以外に、所望の凸形状に形成することができ、そのようにしても、凹部間の境界には先端が鋭利な壁面を形成することができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
以下では、アルミニウム板に、平面視において一辺が1.28mmの正六角形からなる凹部を複数個形成するためのプレス金型について検討した。本発明の実施例として、上記のような複数のパンチを束ねた雄型プレス金型を形成した。また、比較例として、凸部と基台とを一体成形した雄型プレス金型を準備した。ここでは、放電加工(比較例1)、レーザー加工(比較例2)、及びマシニングセンターによる切削加工(比較例3)で、雄型プレス金型を一体成形した。また、雌型プレス金型も同様の加工方法で形成した。但し、実施例における雌型プレス金型は、切削加工で作製した。表1は、雄型の凸部間の隙間の奥端部の曲率半径R1、雌型の凹部間の境界を構成する壁面先端の曲率半径R2を示している(図7(a)(b)参照)。表1には、各金型の複数箇所をコントレーサー(東京精密社製、コンタレコード1600D)で測定した結果を示している。
【0026】
【表1】

表1に示すように、雄型プレス金型を一体成形した場合には、いずれの加工法であっても、曲率半径R1の微小化に限界があることが分かる。実施例については、雄型の凸部間の隙間が小さすぎ、コントレーサーの針(測定部)が挿入できなかったため、測定が不可能であった。但し、コントレーサーの針の先端部の曲率半径は、0.025mmであるので、実施例におけるR1は、それよりも小さいと考えられる。そして、上記のようなプレス金型を用い、160トン油圧プレスによって、厚み0.2mmのアルミニウム板(A1050PH24(JIS規格))をプレス加工した。プレス速度は10mm/s、下死点停止時間は3秒とした。続いて、加工後のアルミニウム板における凹部間の境界先端の曲率半径R3(図7(c)参照)を上記と同様に測定した。結果は、以下の通りである。
【0027】
【表2】

表2に示すように、実施例によって作成された凹部間の境界先端の曲率半径が最も小さく、鋭くなっていることが分かる。また、上記結果から、曲率半径R3は、雄型に依存することが分かる。すなわち、実施例では、比較例3と同じ雌型を用いているにもかかわらず、曲率半径R3は、比較例3よりも遙かに小さく仕上がっており、凹部を形成する際には、雄型の精度が加工品の精度に大きく影響することが分かる。したがって、本実施例のような雄型プレス金型を形成しておけば、加工品における凹部間の境界先端を鋭く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】雄型プレス金型の斜視図である。
【図2】パンチの斜視図である。
【図3】図1の平面図である。
【図4】雌型プレス金型の断面図である。
【図5】集光板の製造過程を示す図である。
【図6】集光型球状シリコン太陽電池の拡大断面図である。
【図7】実施例及び比較例の説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 雄型プレス金型
3 パンチ
5 基台
7 凸部
11 雌型プレス金型
31 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接した複数の凹部を形成する雄型プレス金型であって、
多角柱状に形成され、一端部に所定の形状の凸部が形成された複数のパンチと、
前記複数のパンチを、側面同士が密着した状態で保持し、前記凸部を突出させた状態で固定する基台と
を備えている、雄型プレス金型。
【請求項2】
前記パンチの凸部は、半球状に形成されている、請求項1に記載の雄型プレス金型。
【請求項3】
前記パンチの凸部は、鏡面加工されている、請求項2に記載の雄型プレス金型。
【請求項4】
前記パンチの凸部の表面における中心線平均粗さは、5nm〜10nmである、請求項3に記載の雄型プレス金型。
【請求項5】
前記パンチの断面形状は正六角形であり、前記複数のパンチは前記基台に平面視でハニカム状に配置される、請求項1から4のいずれかに記載の雄型プレス金型。
【請求項6】
多角柱状に形成され、一端部に所定の形状の凸部が形成された複数のパンチ、及び前記複数のパンチを、側面同士が密着した状態で保持し、前記凸部を突出させた状態で固定する基台を有する雄型プレス金型を準備するステップと、
前記パンチの凸部に対応した複数の凹部を有する雌型プレス金型を準備するステップと、
前記雄型及び雌型プレス金型の間に、金属板を配置してプレスするステップと
を備えている、プレス方法。
【請求項7】
請求項6のプレス方法を用いて製造される集光型球状シリコン太陽電池用集光板であって、
前記パンチの凸部が半球状に形成されている、集光型球状シリコン太陽電池用集光板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−149332(P2008−149332A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337473(P2006−337473)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(300019445)株式会社カサタニ (19)
【Fターム(参考)】