説明

集合住宅用インターホンシステム

【課題】伝送信号の衝突を抑制してチャネル推定が実行される確率を上げる。
【解決手段】住戸機Aが幹線分配装置Bへチャネル推定を要求する前にチャネル推定の開始を通知するための伝送信号(チャネル推定開始通知パケット)を送信し、幹線分配装置Bが当該通知に対する応答のための伝送信号(チャネル推定開始応答パケット)を返信する。故に、住戸機Aからチャネル推定開始通知パケットが送信されてから、当該住戸機Aに幹線分配装置Bからリプライパケットが返信されるまでの間、他の住戸機Aから伝送信号が送信される確率が従来よりも低くなる。その結果、伝送信号の衝突を抑制してチャネル推定が実行される確率を上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅用インターホンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の集合住宅用インターホンシステムでは、集合住宅の共用玄関(ロビー)に設置される共用部装置(ロビーインターホン)と各住戸に設置される住戸機との間で音声や映像がアナログ変調された信号が伝送されていた。これに対して、近年は多チャンネル化などのニーズに応えるため、音声や映像をディジタル変調して伝送する集合住宅用インターホンシステムも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図3は、従来のディジタル伝送方式の集合住宅用インターホンシステムを示すシステム構成図である。この従来例は、集合住宅の共用玄関に設置される共用部装置(ロビーインターホン)C1,C2と、各住戸に設置される住戸機Aと、共用部幹線LC1,LC2を介してロビーインターホンC1,C2と接続されるとともに住戸幹線LS1,LS2に接続される幹線分配装置Bとを備える。また、住戸幹線LS1,LS2には多数の分岐器Dが接続され、各分岐器Dで住戸幹線LS1,LS2から分岐された住戸線LAに各住戸の住戸機Aが接続されている。なお、各住戸幹線LS1,LS2の末端が終端器Eで終端されている。
【0004】
ロビーインターホンC1,C2は、マイクロホンで集音される音声及び撮像装置で撮像される映像のディジタルデータをパケットに分割して送信する。ロビーインターホンC1,C2から送信されるパケット(伝送信号)は共用部幹線LC1,LC2を介して幹線分配装置Bで受信される。幹線分配装置Bは、ロビーインターホンC1,C2から受信するパケットを住戸幹線LS1,LS2に分配(中継)する。そして、幹線分配装置Bで中継されるパケットは、その宛先アドレスに一致するアドレスを有する住戸機Aのみで受信される。当該住戸機Aでは、受信したパケットに含まれる音声や映像のディジタルデータからアナログの音声信号を復号化してスピーカから音声を鳴動するとともに液晶ディスプレイなどの表示デバイスに映像を表示する。
【0005】
さらに、住戸機Aは、マイクロホンで集音される音声のディジタルデータをパケットに分割して住戸線LAを介して送信する。住戸機Aから送信されるパケット(伝送信号)は住戸幹線LS1,LS2を介して幹線分配装置Bで受信される。幹線分配装置Bは、住戸機Aから受信するパケットを共用部幹線LC1,LC2に中継する。そして、幹線分配装置Bで中継されるパケットは、その宛先アドレスに一致するアドレスを有するロビーインターホンC1,C2のみで受信される。当該ロビーインターホンC1,C2では、受信したパケットに含まれる音声のディジタルデータを復号化してスピーカから音声を鳴動する。このようにして、来訪者と住人がそれぞれロビーインターホンC1と住戸機Aを用いてインターホン通話することができる。
【0006】
ここで、住戸幹線LS1,LS2を介して伝送されるパケット(伝送信号)がマルチキャリア適応変調される場合を考える。例えば、住戸幹線LS1に分岐接続されている住戸機Aから伝送信号を送信する場合、住戸機Aと幹線分配装置Bとの間で住戸幹線LS1のチャネル推定が実行される。すなわち、幹線分配装置Bに対してチャネル推定の処理を要求する制御コマンド(チャネル推定リクエスト)を含むパケット(リクエストパケット)が、全てのサブキャリアを用いてディジタル変調された伝送信号により、住戸親機Aから幹線分配装置Bに送信される。
【0007】
幹線分配装置Bでは、住戸機Aから送信されたリクエストパケットを受信すると、チャネル推定リクエストに従って、リクエストパケットを受信したときの各サブキャリア毎のS/N比を算出し、算出したS/N比に基づいて各サブキャリア毎の使用の可否を判定する。さらに幹線分配装置Bは、使用可と判定した全てのサブキャリアのS/N比に基づいてディジタル変調の方式(多値変調度)を決定するとともに、使用するサブキャリア及び多値変調度の情報を含むパケット(リプライパケット)を、要求元の住戸機Aに宛てて返信する。
【0008】
住戸機Aでは、幹線分配装置Bから送信されたリプライパケットを受信すると、当該リプライパケットに含まれる情報に基づいてサブキャリア及び多値変調度を決定し、当該サブキャリア及び多値変調度でパケットをディジタル変調した伝送信号を住戸幹線LS1を介して送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−178073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来例における幹線分配装置Bは、図4に示すように音声や映像などのディジタルデータをマルチキャリア適応変調して送信するとともに受信した信号を復調する処理を実行する回路が複数の住戸幹線LS1,…で共用されている。すなわち、複数の住戸幹線LS1,LS2が送信アンプTA1,TA2及び受信アンプRA1,RA2を介して前記回路の送信端Txと受信端Rxにそれぞれ並列に接続されている。したがって、一方の住戸幹線LS1に分岐接続されている住戸機Aから送信されるリクエストパケットと、他方の住戸幹線LS2に分岐接続されている住戸機Aから送信されるリクエストパケットが幹線分配装置Bにおいて衝突してしまう虞があった。何故なら、異なる住戸幹線LS1,LS2に分岐接続されている住戸機Aの間は、図4に示す如く、方向性を持った送信アンプTA1,TA2もしくは受信アンプRA1,RA2を介して接続されているため、住戸幹線LS1上に送出されたパケットは受信アンプRA1で増幅されるが送信アンプTA2の入力端や住戸幹線LS2には配信されないし、住戸幹線LS2上に送出されたパケットは受信アンプRA2で増幅されるが送信アンプTA1の入力端や住戸幹線LS1には配信されない。このように、リクエストパケットを送信する前にキャリアセンスを実行しても相手が送信した伝送信号のキャリアが検出できず、幹線分配装置Bにおける衝突を回避することができないためである。そして、このようなリクエストパケットの衝突が頻発した場合、チャネル推定処理が正常に行われずに通信が開始できなくなってしまう。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、伝送信号の衝突を抑制してチャネル推定が実行される確率を上げることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の集合住宅用インターホンシステムは、共用玄関に設置される共用部装置から共用部幹線を介して伝送される伝送信号を複数の住戸幹線に分配する幹線分配装置と、前記複数の住戸幹線にそれぞれ分岐接続される複数の住戸機とを有し、前記住戸機は、前記幹線分配装置へマルチキャリア適応変調のチャネル推定を要求する前に当該チャネル推定の開始を通知するための伝送信号を送信し、前記幹線分配装置は、当該通知に対する応答のための伝送信号を返信することを特徴とする。
【0013】
この集合住宅用インターホンシステムにおいて、前記チャネル推定開始を通知するための伝送信号の時間長及び前記通知に対する応答のための伝送信号の時間長が、前記チャネル推定要求の伝送信号の時間長よりも短いことが好ましい。
【0014】
この集合住宅用インターホンシステムにおいて、前記住戸機は、前記チャネル推定開始を通知するための伝送信号をマルチキャスト又はブロードキャストし、前記幹線分配装置は、前記通知に対する応答のための伝送信号をマルチキャスト又はブロードキャストすることが好ましい。
【0015】
この集合住宅用インターホンシステムにおいて、前記住戸機は、前記チャネル推定開始の通知を相対的に多値変調度の低い変調方式で変調された伝送信号で送信し、前記幹線分配装置は、前記通知に対する応答を相対的に多値変調度の低い変調方式で変調された伝送信号で返信することが好ましい。
【0016】
この集合住宅用インターホンシステムにおいて、前記住戸機は、前記チャネル推定開始を通知するための伝送信号を連送し、前記幹線分配装置は、前記通知に対する応答のための伝送信号を連送することが好ましい。
【0017】
この集合住宅用インターホンシステムにおいて、前記住戸機は、前記チャネル推定要求に基づくチャネル推定処理が完了するまでの予定時間を含んだ、前記チャネル推定開始を通知するための伝送信号を送信し、前記幹線分配装置は、前記チャネル推定処理が完了するまでの予定時間を含んだ前記通知に対する応答のための伝送信号を送信することが好ましい。
【0018】
この集合住宅用インターホンシステムにおいて、前記住戸機及び前記幹線分配装置は、前記チャネル推定開始の通知のための伝送信号及び前記通知に対する応答のための伝送信号を送信する際の通信負荷状態に応じて、前記予定時間を調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の集合住宅用インターホンシステムは、伝送信号の衝突を抑制してチャネル推定が実行される確率を上げることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態を示すシステム構成図である。
【図2】同上におけるチャネル推定処理を説明するためのシーケンス図である。
【図3】従来例のシステム構成図である。
【図4】同上における幹線分配装置の要部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態の集合住宅用インターホンシステムは、図1に示すように集合住宅の共用玄関に設置される共用部装置(ロビーインターホン)C1,C2と、各住戸に設置される住戸機Aと、共用部幹線LC1,LC2を介してロビーインターホンC1,C2と接続されるとともに住戸幹線LS1,LS2に接続される幹線分配装置Bとを備える。また、住戸幹線LS1,LS2には多数の分岐器Dが接続され、各分岐器Dで住戸幹線LS1,LS2から分岐された住戸線LAに各住戸の住戸機Aが接続されている。
【0022】
ロビーインターホンC1,C2は、来訪者を撮像する撮像装置、マイクロホン及びスピーカ、来訪者が訪問先の住戸の住戸番号を入力するためのテンキースイッチ又はタッチパネル、音声や映像を共用部幹線LC1,LC2を介してパケット伝送する伝送部などを具備している。ロビーインターホンC1,C2では、テンキースイッチ又はタッチパネルが操作されて何れかの住戸の住戸番号の操作入力を受け付けると、データフィールドに当該住戸番号を格納したパケット、並びに撮像装置で撮像した来訪者の映像(映像情報)をデータフィールドに格納したパケットを伝送部より共用部幹線LC1,LC2を介して幹線分配装置Bのアドレス宛に送信(パケット伝送)する。
【0023】
幹線分配装置Bは、ロビーインターホンC1,C2との間で共用部幹線LC1,LC2を介してパケット伝送を行う第1伝送処理部31と、住戸機Aとの間で住戸幹線LS1,LS2を介してパケット伝送を行う第2伝送処理部32と、第1伝送処理部31並びに第2伝送処理部32を制御する制御部30とを備える。制御部30は、CPUやメモリなどのハードウェアと、CPUで実行される種々のプログラム(ソフトウェア)とで構成され、各住戸の住戸機Aに割り当てられているアドレスと当該住戸の住戸番号との対応関係をメモリに記憶している。そして、幹線分配装置Bの制御部30は、ロビーインターホンC1,C2から受け取ったパケットのデータフィールドに格納されている住戸番号を前記対応関係と照合してアドレスに変換し、当該アドレスを宛先アドレスフィールドに格納し且つロビーインターホンC1,C2からの呼出を通知するための呼出コマンドをデータフィールドに格納した制御パケット並びに前記映像情報をデータフィールドに格納した映像パケットを第2伝送処理部32から住戸幹線LS1,LS2に送出する。
【0024】
ここで、第1伝送処理部31の送信端が送信アンプ33A,33Bを介して共用部幹線LC1,LC2に接続され、第1伝送処理部31の受信端が受信アンプ34A,34Bを介して共用部幹線LC1,LC2に接続されている。また、第2伝送処理部32の送信端が送信アンプ35A,35Bを介して住戸幹線LS1,LS2に接続され、第2伝送処理部32の受信端が受信アンプ36A,36Bを介して住戸幹線LS1,LS2に接続されている。つまり、第1伝送処理部31の送信端から送信される伝送信号が全ての共用部幹線LC1,LC2に流れ、第2伝送処理部32の送信端から送信される伝送信号が全ての住戸幹線LS1,LS2に流れることになる。
【0025】
住戸機Aは、住戸機制御部1、伝送処理部2、通話処理部3、マイクロホン4、スピーカ5、A/D変換器6、D/A変換器7、映像処理部8、表示部9、操作入力受付部10などを備えている。マイクロホン4で集音される音声が電気信号(音声信号)に変換され、マイクロホン4から出力されるアナログの音声信号(送話音声信号)がA/D変換器6でディジタルの音声信号(送話音声データ)に変換されて通話処理部3に入力される。また、通話処理部3から出力されるディジタルの音声信号(受話音声データ)がD/A変換器7でアナログの音声信号(受話音声信号)に変換される。D/A変換器7から出力されるアナログの受話音声信号はスピーカ5に入力され、スピーカ5から音声(受話音声)が鳴動される。
【0026】
通話処理部3は、音声スイッチやエコーキャンセラなどを具備し、伝送処理部2から入力される受話音声信号及びA/D変換器6から入力される送話音声信号を信号処理することでハウリングやエコーを抑制して良好なハンズフリー通話を実現するものである。なお、通話処理部3で処理された送話音声信号が伝送処理部2に出力される。
【0027】
表示部9は液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示デバイスと、表示デバイスを駆動して映像を表示させる駆動回路とを有する(何れも図示せず)。映像処理部8は、伝送処理部2から出力される映像信号(映像データ)から元の映像を再構成し、再構成した映像を表示部9に表示させる。
【0028】
住戸機制御部1は、CPUやメモリなどのハードウェアと、CPUで実行される種々のプログラム(ソフトウェア)とで構成される。操作入力受付部10は、タッチパネルや押釦スイッチなどの入力デバイスを有し、入力デバイスが操作されることで種々の操作入力を受け付けるとともに、それぞれの操作入力に応じた操作信号を住戸機制御部1に出力する。例えば、住戸機Aのハウジング前面に応答釦(図示せず)が設けられており、この応答釦が押操作されると、操作入力受付部10で操作入力が受け付けられて応答の操作信号が出力される。住戸機制御部1では、操作入力受付部10から操作信号が入力されると、それぞれの操作信号に応じた処理を実行する。
【0029】
伝送処理部2は、幹線分配装置Bや他の住戸機Aとの間で住戸幹線LS1,LS2及び住戸線LAを介したパケット伝送を行うものである。伝送処理部2は、住戸機制御部1で作成される制御信号(制御データ)を分割してパケット(制御パケット)を作成し、同じく通話処理部3で作成される送話音声信号(送話音声データ)を分割してパケット(音声パケット)を作成する。さらに伝送処理部2は、制御パケットや音声パケットを符号化するとともに符号化されたビット列を電気信号に変換(変調)して住戸線LAから住戸幹線LS1,LS2に流す。また伝送処理部2は、住戸幹線LS1,LS2から住戸線LAを流れる電気信号をビット列に変換(復調)するとともに復調されたビット列からパケット(音声パケット、制御パケット、映像パケット)を復号化する。なお、伝送処理部2では、復号化したパケットのアドレスが自己のアドレス(住戸機Aのアドレス)に一致しない場合は当該パケットを破棄し、アドレスが一致する場合は当該パケットのデータフィールドに含まれるデータが映像データ(映像信号)であれば映像処理部8に、制御データ(制御信号)であれば住戸機制御部1に、音声データ(音声信号)であれば通話処理部3に、それぞれ出力する。但し、パケットのアドレスがマルチキャストアドレス又はブロードキャストアドレスであれば、伝送処理部2は、自己のアドレスに一致しない場合でも当該パケットを破棄せずに処理する。
【0030】
ところで、住戸機Aの伝送処理部2と幹線分配装置Bの第2伝送処理部32との間のパケット伝送においては、従来例と同様にマルチキャリア適応変調方式のパケット伝送が行われる。したがって、従来技術で説明したように、住戸機Aが伝送信号を送信する前に、幹線分配装置Bに対してチャネル推定を要求するパケット(リクエストパケット)を送信した後にチャネル推定処理の結果を知らせるパケット(リプライパケット)を受信する必要がある。しかしながら、複数の住戸幹線LS1,LS2は、方向性を持った送信アンプTA1,TA2もしくは受信アンプRA1,RAを介して同一の幹線分配装置Bの第2伝送処理部32に接続されているため、異なる住戸幹線LS1,LS2に分岐接続されている住戸機Aの間では、キャリアセンスを実行しても相手が送信した伝送信号のキャリアが検出できない。故に、従来技術で説明したように、幹線分配装置Bでリクエストパケットの衝突が頻発した場合、チャネル推定処理が正常に行われずに通信が開始できなくなってしまう虞がある。
【0031】
そこで、本実施形態では、住戸機Aが幹線分配装置Bへチャネル推定を要求する前にチャネル推定の開始を通知するための伝送信号(チャネル推定開始通知パケット)を送信し、幹線分配装置Bが当該通知に対する応答のための伝送信号(チャネル推定開始応答パケット)を返信するようにしている。
【0032】
以下、図2のシーケンス図を参照して、住戸幹線LS1に分岐接続されている住戸機Aから伝送信号を送信する際の動作を説明する。なお、図2において時間軸よりも上側は住戸機Aから幹線分配装置Bへの送信、時間軸よりも下側は幹線分配装置Bから住戸機Aへの返信を表している。
【0033】
まず、住戸機Aでは、住戸機制御部1からチャネル推定開始通知パケットを受け取った伝送処理部2がキャリアセンスを行った後に、チャネル推定開始通知パケットを住戸線LAを介して送信する。このとき、伝送処理部2は、幹線分配装置B以外の端末(他の住戸機A)でも受信できるようにマルチキャスト又はブロードキャストで送信する。さらに、確実に受信できるように、伝送処理部2はチャネル推定開始通知パケットを相対的に多値変調度の低い変調方式(例えば、BPSK<バイナリ位相シフトキーイング>方式)で変調するとともに、変調した伝送信号をn回連送する(n≧2)。これにより、幹線分配装置B及び他の住戸機Aにチャネル推定開始通知パケットを確実に受信させることができる。
【0034】
住戸機Aから送信される伝送信号は幹線分配装置Bの第2伝送処理部32で受信される。幹線分配装置Bの制御部30は、第2伝送処理部32で受信する伝送信号からチャネル推定開始通知パケットを受け取ると、直ちにチャネル推定開始通知に対する応答のパケット(チャネル推定開始応答パケット)を作成して第2伝送処理部32に出力する。第2伝送処理部32は、チャネル推定開始応答パケットを相対的に多値変調度の低い変調方式(例えば、BPSK<バイナリ位相シフトキーイング>方式)で変調するとともに、変調した伝送信号をマルチキャスト又はブロードキャストでn回連送して送信する。
【0035】
幹線分配装置Bから返信される伝送信号が、チャネル推定開始通知パケットの送信元の住戸機Aで受信されると、当該住戸機Aの住戸機制御部1がチャネル推定の処理を要求するチャネル推定要求パケット(リクエストパケット)を作成して伝送処理部2に出力する。伝送処理部2は、全てのサブキャリアを用いてディジタル変調された伝送信号によってリクエストパケットを幹線分配装置Bに送信する。
【0036】
幹線分配装置Bでは、住戸機Aから送信されたリクエストパケットを受信すると、チャネル推定要求に従って、制御部30がリクエストパケットを受信したときの各サブキャリア毎のS/N比を算出し、算出したS/N比に基づいて各サブキャリア毎の使用の可否を判定する。さらに幹線分配装置Bの制御部30は、使用可と判定した全てのサブキャリアのS/N比に基づいてディジタル変調の方式(多値変調度)を決定するとともに、使用するサブキャリア及び多値変調度の情報を含むパケット(リプライパケット)を作成して第2伝送処理部32に出力する。第2伝送処理部32は、リプライパケットをディジタル変調した伝送信号を要求元の住戸機Aに宛てて返信する。
【0037】
住戸機Aでは、幹線分配装置Bから送信されたリプライパケットを伝送処理部2で受信すると、住戸機制御部1がリプライパケットに含まれる情報に基づいてサブキャリア及び多値変調度を決定する。そして、住戸機Aの伝送処理部2は、住戸機制御部1で決定したサブキャリア及び多値変調度でパケットをディジタル変調した伝送信号を送信する。
【0038】
ここで、チャネル推定開始通知パケットには、チャネル推定開始の通知先である幹線分配装置Bのアドレスが含まれ、チャネル推定開始応答パケットには、チャネル推定開始の通知元である住戸機Aのアドレスが含まれている。したがって、チャネル推定開始の通知元である住戸機A以外の住戸機Aでは、チャネル推定開始通知パケット及びチャネル推定開始応答パケットを伝送処理部2で受信すると、予め決められた予定時間が経過するまで伝送処理部2から伝送信号を送信しない。なお、前記予定時間は、チャネル推定要求に基づくチャネル推定処理が完了するまでの時間である。
【0039】
而して、チャネル推定開始通知パケット及びチャネル推定開始応答パケットのパケット長(それぞれのパケットが変調された伝送信号の時間長)が、リクエストパケット及びリプライパケットのパケット長よりも短いほど、チャネル推定の成功確率が上がることになる。なぜなら、一方の住戸幹線LS1に分岐接続されている住戸機Aと他方の住戸幹線LS2に分岐接続されている住戸機Aの間ではお互いのキャリアを検出することができないため、一方の住戸幹線LS1に分岐接続されている住戸機Aから送信される伝送信号のパケット長が長くなるほど、他方の住戸幹線LS2に分岐接続されている住戸機Aから送信される伝送信号が幹線分配装置Bで衝突する確率が上がるからである。
【0040】
上述のように本実施形態によれば、住戸機Aからチャネル推定開始通知パケットが送信されてから、当該住戸機Aに幹線分配装置Bからリプライパケットが返信されるまでの間、他の住戸機Aから伝送信号が送信される確率が従来よりも低くなる。その結果、伝送信号の衝突を抑制してチャネル推定が実行される確率を上げることができる。
【0041】
ところで、チャネル推定開始の通知元である住戸機A以外の住戸機Aが伝送信号の送信を行わずに待機する時間(待機時間)を固定しないことが好ましい。なぜなら、チャネル推定開始が通知されてからチャネル推定要求に基づくチャネル推定処理が完了するまでの時間(以下、「チャネル推定処理時間」と呼ぶ。)は、その時点における伝送路(住戸幹線LS1,LS2)の通信負荷によって変動する可能性が高いからである。
【0042】
そこで、住戸機Aがチャネル推定開始通知パケットにチャネル推定処理時間の情報T(前記予定時間)を含めて送信し、幹線分配装置Bがチャネル推定開始応答パケットにチャネル推定処理時間の情報Tからある所定の経過予測時間を差し引いた時間の情報T’を含めて送信するようにしても構わない。さらに、住戸機Aの住戸機制御部1及び幹線分配装置Bの制御部30が、単位時間当たりに住戸幹線LS1,LS2を流れるパケットの量(数)をカウントし、カウントしたパケット量(通信負荷)に応じて予定時間を調整することが好ましい。例えば、単位時間当たりのパケット量が多い(通信負荷が高い)場合には、複数の住戸機Aが同時にチャネル推定要求を行う確率が高いと判断できるので、前記予定時間を通常よりも長くすればよい。反対に、単位時間当たりのパケット量が少ない(通信負荷が低い)場合には、複数の住戸機Aが同時にチャネル推定要求を行う確率が低いと判断できるので、前記予定時間を通常よりも短くすればよい。
【0043】
そして、チャネル推定開始の通知元である住戸機A以外の住戸機Aの住戸機制御部1は、チャネル推定開始通知パケット又はチャネル推定開始応答パケットからチャネル推定処理時間の情報(前記予定時間)を取得し、当該予定時間が経過するまで伝送信号を送信しない。したがって、予定時間(待機時間)が住戸幹線LS1,LS2の通信負荷に応じた適切な長さに調整されるので、チャネル推定の処理を効率よく行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
A 住戸機
B 幹線分配装置
C1,C2 ロビーインターホン(共用部装置)
LC1,LC2 共用部幹線
LS1,LS2 住戸幹線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共用玄関に設置される共用部装置から共用部幹線を介して伝送される伝送信号を複数の住戸幹線に分配する幹線分配装置と、前記複数の住戸幹線にそれぞれ分岐接続される複数の住戸機とを有し、前記住戸機は、前記幹線分配装置へマルチキャリア適応変調のチャネル推定を要求する前に当該チャネル推定の開始を通知するための伝送信号を送信し、前記幹線分配装置は、当該通知に対する応答のための伝送信号を返信することを特徴とする集合住宅用インターホンシステム。
【請求項2】
前記チャネル推定開始を通知するための伝送信号の時間長及び前記通知に対する応答のための伝送信号の時間長が、前記チャネル推定要求の伝送信号の時間長よりも短いことを特徴とする請求項1記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項3】
前記住戸機は、前記チャネル推定開始を通知するための伝送信号をマルチキャスト又はブロードキャストし、前記幹線分配装置は、前記通知に対する応答のための伝送信号をマルチキャスト又はブロードキャストすることを特徴とする請求項1又は2記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項4】
前記住戸機は、前記チャネル推定開始の通知を相対的に多値変調度の低い変調方式で変調された伝送信号で送信し、前記幹線分配装置は、前記通知に対する応答を相対的に多値変調度の低い変調方式で変調された伝送信号で返信することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項5】
前記住戸機は、前記チャネル推定開始を通知するための伝送信号を連送し、前記幹線分配装置は、前記通知に対する応答のための伝送信号を連送することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項6】
前記住戸機は、前記チャネル推定要求に基づくチャネル推定処理が完了するまでの予定時間を含んだ、前記チャネル推定開始を通知するための伝送信号を送信し、前記幹線分配装置は、前記チャネル推定処理が完了するまでの予定時間を含んだ前記通知に対する応答のための伝送信号を送信することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項7】
前記住戸機及び前記幹線分配装置は、前記チャネル推定開始の通知のための伝送信号及び前記通知に対する応答のための伝送信号を送信する際の通信負荷状態に応じて、前記予定時間を調整することを特徴とする請求項6記載の集合住宅用インターホンシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate