集塵装置
【課題】複雑な構造を有する荷電部を必要とせず、同時に電極板の間で起こるスパークを防止しながら高い集塵性能を有する集塵装置を得る。
【解決手段】電極板A1と電極板B2とを空間を設けながら交互に積層し、それぞれの電極板に異なる電圧を印加する集塵装置16において、電極板A1および電極板B2の少なくともどちらか一方が、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ、上流側に棘状のパターン5など放電可能なパターンを有する半導電面4を絶縁性基板3の表面に備えた半導電面電極板であることを特徴とする。
【解決手段】電極板A1と電極板B2とを空間を設けながら交互に積層し、それぞれの電極板に異なる電圧を印加する集塵装置16において、電極板A1および電極板B2の少なくともどちらか一方が、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ、上流側に棘状のパターン5など放電可能なパターンを有する半導電面4を絶縁性基板3の表面に備えた半導電面電極板であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄の分野において空気中の粒子状浮遊物質を除去する集塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に存在する粒子状浮遊物質、すなわち粉塵は喘息などの疾病の原因として知られており従来から除去の対象となる物質であったが、近年の研究において粒子径2.5マイクロメートル以下の粉塵(いわゆるPM2.5)が肺ガンなどの疾病を誘起する可能性があるとの報告があり、捕集技術の更なる向上が求められている。その中で電気集塵技術を用いた集塵装置は粒子径がマイクロメートル以下の小粒径の粉塵を捕集することに優れており、また低圧損な特性を持つことから注目を集め、更なる性能向上が求められている。
【0003】
従来、この種の集塵装置として、放電によって粉塵を帯電する荷電部を前段に設け、その後段に、電極板を積層し、交互に異なる電圧を印加して電場を形成して帯電した粉塵を捕集する集塵部を設けたものが知られている。この構成を応用した例として、特許文献には集塵部において一方の電圧が印加される電極を絶縁体である樹脂製のフィルムで被覆した集塵装置が示されている。以下、その集塵装置について図9を参照しながら説明する。図9に示すように、荷電部101は線状の荷電部放電電極102と荷電部対向電極板103とからなり、また、荷電部101の下流側には電圧印加電極板105と集塵電極板106とを一定の間隔を開けて交互に積層した集塵部104を設けている。また、図には示していないが電圧印加電極板105は絶縁体である樹脂フィルムで被覆されている。通常、荷電部101においては荷電部放電電極102と荷電部対向電極板103との間に5〜15kV、また、集塵部104の電圧印加電極板105と集塵電極板106との間に2〜6kVの電位差を与えるように高圧電源107によってそれぞれの電極に所定の電圧が印加されている。
【0004】
上記構成において、荷電部101では荷電部放電電極102と荷電部対向電極板103との間で不平等な電場が作られており、この時線状の形状を有する荷電部放電電極102近傍には非常に強い電場が作られている。そのため空気イオンといった空気中に当初から僅かに含まれる電荷保有物質が加速されて空気分子と衝突を起こし、空気分子から電子が分離する。分離した電子もまた加速されて空気分子と衝突を起こし、空気分子から電子が分離する。電子との衝突によって空気分子から電子が分離する現象を電離と呼ぶ。また、電離を繰り返すことによって多数の電子が空気分子から分離する現象を電子なだれと呼ぶが、この電子なだれによって電子が分離したプラス極性の空気イオンや、分離した電子と結合してマイナス極性の空気イオンが作られる。そして荷電部放電電極102と異なる極性の空気イオンは荷電部放電電極102に電荷を吸収されて空気分子に戻り、逆に同じ極性の空気イオンは電場によって荷電部放電電極102から反発する方向の力を受け、荷電部対向電極板103の方向へと拡散移動する。
【0005】
このように電離や電子なだれを起こすことで荷電部放電電極102近傍の空気を空気イオンにする放電現象をコロナ放電というが、コロナ放電によって作られ、主に荷電部放電電極102と同じ極性の空気イオンが荷電部101を通過する粉塵と結合することで粉塵が帯電する。帯電した粉塵は送風の流れにそって集塵部104に導入され、電圧印加電極板105と集塵電極板106の間で作られる電場の力を受けて主に集塵電極板106に付着して取り除かれ、清浄な空気が集塵部104の後方から吹出される。電圧印加電極板105は絶縁性の樹脂フィルムで覆われているため、集塵電極板106と接触しても短絡を起こさず、同時に集塵電極板106との間で起こりうる火花放電(以下スパーク)を防止する構造となっている。
【特許文献1】特許第3261167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献に記載されるような集塵装置においては粉塵を帯電させるために荷電部が集塵部とは別に必要となる。荷電部は線状や棘状の形状を有する放電電極と対向電極からなり、放電電極ではコロナ放電が発生しているため、棘状の放電電極であれば先端が磨耗して十分なコロナ放電が起こせなくなったり、また線状の放電電極であれば線が切断するといった故障が発生しやすいという課題を有する。また、放電電極と対向電極が空気で絶縁された状態で構成する必要があり、このように複雑な構造を有する荷電部を構成することは困難が伴うという課題を有する。また、集塵部に関しては絶縁性の樹脂フィルムで被覆することで電圧印加電極板の絶縁性を確保しているため、確実な絶縁性を得るためにはしっかりした被覆が必要となり、高度な加工技術を要する。また、電圧を印加することで樹脂フィルムの表面に電荷が発生するが、電極間の距離が十分でないと樹脂フィルムの表面に蓄積した電荷が空間を飛び越えて集塵電極板へ移動することで火花を伴う放電、すなわちスパークが発生するという課題を有する。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決するものであり、複雑な構造を有する荷電部を必要としないため容易に作成が可能で、また電極板の間で起こるスパークを防止するとともに高い集塵性能を得ることが可能な集塵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の集塵装置は上記目的を達成するために、電極板Aと電極板Bとを空間を設けながら交互に積層し、それぞれの電極板に異なる電圧を印加する集塵装置において、電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方が、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ、上流側に放電可能なパターンを有する半導電面を絶縁性基板の表面に備えた半導電面電極板であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容易に作成可能でかつ軽量、また電極板の間で起こるスパークを防止するとともに高い集塵性能を得ることが可能な集塵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の集塵装置は上記目的を達成するために、電極板Aと電極板Bとを空間を設けながら交互に積層し、それぞれの電極板に異なる電圧を印加する集塵装置において、電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方が、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ、上流側に放電可能なパターンを有する半導電面を絶縁性基板の表面に備えた半導電面電極板であることを特徴とするものである。
【0011】
電極板Aと電極板Bの間にはそれぞれの電極板に異なる電圧を印加することで高い電位差が与えられている。そして、電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方に設けられた半導電面の上流側には、請求項2および3に記載するような棘状や線状といった放電可能なパターンが設けられている。この放電可能なパターンは、一定の空間を設けながら異なる電圧が印加された電極板と対向している。
【0012】
この時、本発明者は放電可能なパターンと対向する電極板の少なくともどちらか一方を半導電面とし、電極板どうしの間隔を小さくすることで、放電電極を従来のような空中に浮くような形ではなく面上に設けた場合においてもと対向する電極板との間でコロナ放電が起こることを見出した。この現象は特に電極板どうしの間隔が小さいと起こりやすい。ちなみに各電極板がともに金属のような導電体で構成される場合、高圧電源から供給される電荷の移動が制限を受けないためコロナ放電が起こる前に火花放電すなわちスパークが発生する。スパークは放電可能なパターンの不特定かつ狭い部分で電子やイオンが対向する電極板へ向かって直接向かうことで起こるため、空気を電離して空気イオンを作り出す作用が小さく、また領域が狭いことから粉塵を帯電する作用が小さい。またノイズの発生源およびガスや可燃性物質の着火源となるためスパークは発生しないようにする必要がある。
【0013】
本発明の集塵装置では電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方が10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する半導電面を絶縁性基板の表面に備えた半導電面電極板であるため、高圧電源から供給される電荷の移動は制限される。そのため放電可能なパターンや平らな表面、もしくは粉塵が堆積して棘状に盛り上がった部分などに関わらず、急激な電荷の移動によってあらゆる箇所で発生しうるスパークを防ぐ。
【0014】
また、特に上流側に設けられた放電可能なパターンでは電界強度が高まって放電が起こる。この時半導電面電極板を用いることによって電荷の移動を制限する作用が得られるため、電荷が急激に空気中に飛び出してスパークを起こすのではなく空気を電離し空気イオンを作り出すコロナ放電が発生する。コロナ放電で得られた空気イオンは空気中の粉塵と結合することで粉塵を帯電し、帯電した粉塵は電極板Aおよび電極板Bとの間に設けられた電場によってどちらかの電極板の方へと移動して付着し、捕集される。
【0015】
例として上流側に放電可能なパターンを有する半導電面を備えた電極板Aにプラスの高電圧を、また上流側に放電可能なパターンのない半導電面を備えた電極板Bに0kVを印加した場合は電極板Aの放電可能なパターンで起こるコロナ放電によって粉塵はプラスに帯電し、プラスに帯電した粉塵は風によって下流側に移動した際にプラスの高電圧が印加された電極板Aによって反発力を、また電極板Bから吸引力といったクーロン力を受け、主に電極板Bの表面に捕集される。このような原理によってスパークの発生を防止するとともに従来式の荷電部を別途設けなくとも粉塵を効果的に捕集することが可能となる。
【0016】
また、請求項4記載の集塵装置は、電極板Aおよび電極板Bをともに、表に放電可能なパターンを有する半導電面を設け、裏に放電可能なパターンを有さない半導電面を設けた半導電面電極板とすることを特徴とするものである。
【0017】
すなわち電極板Aの放電可能なパターンを有する面と電極板Bの放電可能なパターンを有さない面とが対向した空間と、電極板Aの放電可能なパターンを有さない面と電極板Bの放電可能なパターンを有する面とが対向した空間が積層方向において交互に設けられた構造となっている。電極板Aおよび電極板Bそれぞれに設けられた放電可能なパターンおよび対向する、異なる電極板との間でコロナ放電が起こり、異なる極性のイオンが各々の放電可能なパターンからそれぞれ発生する。
【0018】
例として電極板Aにプラスの高電圧を印加し、また、電極板Bをアースに接続して0kVとした場合、電極板Aに設けられた放電可能なパターンからプラスのイオンが発生し、電極板Bに設けられた放電可能なパターンからマイナスのイオンが発生する。そして放電可能なパターンを有する電極板Aと放電可能なパターンを有さない電極板Bとの間に設けられた空間に入った粉塵は電極板Aが有する放電可能なパターンから発生したプラスのイオンと結合してプラスに帯電し、そして下流側に移動した際に電極板Aおよび電極板Bの間に設けられた電場からクーロン力を受け、主に電極板Bに付着して捕集される。
【0019】
また、放電可能なパターンを有さない電極板Aと放電可能なパターンを有する電極板Bとの間に設けられた空間に入った粉塵は電極板Bが有する放電可能なパターンから発生したマイナスのイオンと結合してマイナスに帯電し、そして下流側に移動した際に電極板Aおよび電極板Bの間に設けられた電場からクーロン力を受け、主に電極板Aに付着して捕集される。帯電した粉塵が電極板に捕集されずに集塵装置の下流から出た場合、集塵装置の下流以降に存在するダクトや筐体に付着して汚す可能性があるが、プラスに帯電した粉塵とマイナスに帯電した粉塵が混ざり合ってお互いの電荷を中和し打ち消す効果が得られる。そのため捕集しきれずに粉塵が集塵装置の下流に漏れ出た場合も下流側のダクトや筐体を汚すことを防止できる。
【0020】
また、請求項5記載の集塵装置は、放電可能なパターンを残してそれ以外の半導電面の上に絶縁膜を設けることを特徴とするものである。
【0021】
半導電面は絶縁性基板の上に設けられており、基本的には上流側に設けられた放電可能なパターン以外の部分では放電を起こさないことを前提としているが、電圧が高い場合や電極板Aおよび電極板Bの積層間隔が小さい場合においては電界強度が高まって半導電面の中央部分や絶縁性基板の端面よりも内側に設けられた場合の半導電面の端面から漏れるように放電が起こる可能性がある。これをリーク放電と名づけるが、リーク放電が半導電面において分散的に発生し、上流側に設けられた放電可能なパターンで集中的に放電しないことが起こりうる。こうなった場合粉塵の帯電が効率よく行われなくなり、高い集塵効率が得られなくなる。
【0022】
これを防ぐために放電可能なパターンが設けられた部分以外の半導電面を被覆するように絶縁膜を設けることで、放電可能なパターン以外から分散的に発生する放電を防止することが可能となる。この絶縁膜はリーク放電を抑制する目的で設けるのであり半導電面全体の絶縁を目的としていないので半導電面を完全に被覆する必要はなく、微小な穴すなわちピンホールがあってもかまわない。絶縁膜の表面から電荷が何らかの原因でなくなった場合に電荷を補充する必要があるため、むしろピンホールはあったほうが好ましい。
【0023】
また、請求項6記載の集塵装置は、放電可能なパターンのみを10の5乗Ω/□以下の表面抵抗率を有する導電面で形成することを特徴とするものである。
【0024】
放電可能なパターンの表面抵抗率を10の5乗Ω/□以下とすることで大きな導電性を持たせることが可能となり、コロナ放電をより均一かつ効果的に起こし、より高い集塵効率を得ることが可能となる。放電可能なパターンを導電性とすることはスパークが発生する確率を上げることになりかねないが、放電可能なパターン以外は表面抵抗率が10の7〜11乗オーダーの半導電面となっており、高圧電源と放電可能なパターンとの間に存在する半導電面によって電荷の急激な移動は制限されるためスパークが発生しない構造となっている。
【0025】
また、請求項7記載の集塵装置は、半導電性材料、バインダ成分および溶媒からなり、塗布面の表面抵抗率が10の7〜11乗Ω/□オーダーとなる半導電塗料を絶縁性基板の表面に塗布し、乾燥して半導電面を得ることを特徴とするものである。
【0026】
絶縁性基板の上にパターンを有する半導電面を設けるには半導電性材料、バインダ成分および溶媒からなる半導電塗料を所定のパターンが得られるように絶縁性基板に印刷もしくは塗布すればよい。
【0027】
具体的な例としてポリビニルアルコールやポリアクリル酸ナトリウム、アミロースといった吸水性ポリマーを含有する塗料を絶縁性基板の表面に塗布して乾燥することで10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する半導電性膜を得る方法が挙げられる。
【0028】
吸水性ポリマーは空気中の水分を吸収しやすい性質を有しており、空気中の水分を吸収することで電気を僅かに通す性質を有するようになる。吸水性ポリマーを含有する塗料を絶縁性基板の表面に塗布して乾燥することで、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する半導電面が得られる。
【0029】
溶媒を水とする場合はバインダ成分として酢酸ビニルのエマルジョンやエチレン酢酸ビニル共重合体のエマルジョン、またはアクリル樹脂のエマルジョンなどを用いることが可能である。
【0030】
ちなみに吸水性ポリマーからなる半導電面は湿度の高低によって表面抵抗率が変動しやすい。湿度の影響を受けにくい半導電面を設ける方法として、請求項8に記載するようにイオン導電性ポリマーを半導電性材料とした塗料を用いる方法が挙げられる。
【0031】
イオン導電性ポリマーの例として4級アンモニウム塩を分子構造中に有するポリマーが挙げられる。4級アンモニウム塩は中心のアンモニア原子に4つのアルキル基が結合しており、全体としてプラスの電荷を有している。そこに塩素イオンなどの陰イオンがイオン結合した構造となっているためイオン導電性を有することから僅かに電荷を通す性質を有する。また、イオン導電性を有する4級アンモニウム塩をあらかじめその分子中に有しているために湿度の影響を受けにくく、低湿度の時でも電荷を僅かに通す特性を確保することができるという特徴を有する。
【0032】
イオン導電性ポリマーを形成するには分子構造中に4級アンモニウム塩と不飽和炭素結合を有する単量体を重合する方法があるが、分子構造中に4級アンモニウム塩と不飽和炭素結合とを有する単量体としてジメチルアミノメタアクリレートのクロライド塩などが挙げられる。そしてジメチルアミノメタアクリレートのクロライド塩の水溶液をアルコールに溶かし、成膜性を確保するために低分子量であるメチルメタアクリレートを加えた後にアゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を加えて重合反応させることで4級アンモニウム塩を含むポリマー溶液を得ることができる。
【0033】
また、アクリル酸のようなカルボキシル基と不飽和炭素結合とを分子中に有する単量体を重合して得たポリマーの溶液を加えることで塗布面への接着性を確保することが可能となる。また、塗布面に形成される塗布膜は分子量が大きいポリマーからなるため非水溶性を示す。このようにして作成した半導電塗料を塗布乾燥して形成する半導電面は低湿度時でも電荷を僅かに通し、また、塗布面からはがれることがなく耐水性をも有するという特徴を有する。このようなイオン導電性ポリマーを絶縁性基板の表面に塗布して乾燥することで10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、また、湿度の影響を受けにくい半導電面を容易に形成することが可能となる。
【0034】
また、その他の方法で湿度の影響を受けにくい半導電面を得るためには請求項9に記載するように酸化スズ、もしくはアンチモンをドープした酸化スズを半導電材料とした半導電塗料を用いる方法が挙げられる。酸化スズは内部に酸素の格子欠陥を持つ結晶構造を取ることで電荷を伝える性質を有する。
【0035】
また、アンチモンをドープすることでn型半導体と同じような電子が余る構造となり、電荷をより伝えやすい性質を有するようになる。電荷を伝える性質を有する酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズを半導電材料として用いることで10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ湿度の影響を受けにくい半導電面が得られる。酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズは酸やアルカリに溶けにくく化学的に安定であり、また、その導電性が格子欠陥や電子伝導性に起因するものであることから大量の電荷が一気に伝わることがないため、これらによって形成された半導電面は化学的に安定でかつ10kV程度の高い電圧を印加しても急激な電荷移動を起こしてスパークを引き起こすことがないという特長を備えている。
【0036】
また、請求項10に記載するように酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズよりも大きい粒子径を有する担持体粒子に酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズを添着したものを半導電性材料として用いることで酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズの量を減らすことが可能となり、半導電材料のコストを低減することが可能となる。これは電荷を伝えるためには必ずしも粒子の内部に導電性が必要というわけではなく、表面に導電性があり、かつ粒子どうしが接触していれば電荷を伝える性質が得られるためである。大きな粒子径を有する担持体粒子の例としては酸化チタンなどが挙げられる。酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズの粒子径が10〜50nmの場合、担持体粒子である酸化チタンの粒子径は100〜500nm程度が目安となる。
【0037】
また、請求項11記載の集塵装置は、バインダ成分が樹脂である半導電塗料に分子架橋剤を添加することを特徴とするものである。ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂、アクリルポリオール樹脂といった樹脂をバインダ成分とした場合、これらは分子構造中にOH基などの反応基を有する。そして例えばポリイソシアネート樹脂のような分子架橋剤を添加すると前述の樹脂と分子架橋剤が重合反応を起こし高分子化する。樹脂のバインダ成分は油や洗剤もしくは両者が混合した液体などに長い期間浸されると溶解し、半導電性材料を絶縁性基板上に固着するというバインダとしての機能を失う可能性がある。分子架橋剤と反応させて樹脂を高分子化することで油や洗剤に対する溶解を防止し、バインダとしての機能を半永久的に維持することが可能となる。
【0038】
また、請求項12記載の集塵装置は、半導電塗料をスクリーン印刷法で絶縁性基板に塗布して半導電面を設けることを特徴とするものである。前述したポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂、アクリルポリオール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂などを適度な粘度となるようにシクロヘキサノンなどのケトン系有機溶媒に溶解したものはスクリーン印刷法における樹脂系インキとして一般的である。これに前述した酸化スズ粒子やアンチモンをドープした酸化スズ粒子、もしくはこれらを添着した酸化チタン粒子を混合したものをスクリーン印刷用の半導電塗料として用いることができる。所定のパターンを有し、パターンの部分は塗料を通すスクリーンを絶縁性基板に当ててパターンが設けられた部分だけ半導電塗料を押出して絶縁性基板に印刷するスクリーン印刷法を用いることで絶縁性基板の上に半導電面を設けることができる。半導電面の形状はスクリーンに設けられたパターンによるため、任意の形状の半導電面を絶縁性基板の上に簡単に設けることができる。また、スクリーン印刷法は厚みが均一で寸法精度の高い印刷面が得られるため、高精細な半導電面を得ることが可能である。
【0039】
また、請求項13記載の集塵装置は、絶縁性基板が樹脂材料にガラス短繊維およびマイカを充填して押出し成型した後に加熱積層プレスした樹脂板であることを特長とするものである。半導電面電極板は表面が半導電性であるため、電極板Aと電極板Bがスペーサなどで接触しない構造とすることが必要である。接触した場合は電極板Aと電極板Bが接触箇所で同じ電位となってしまい、電場が弱まって集塵効率が低下することになる。そのため半導電面電極板は大きく撓んだりせず、また、初めから大きな反りがないことが必要とされる。すなわち電極板自体が高い強度および平面性を有することが必要となる。樹脂材料にガラス短繊維およびマイカを充填して押出し成型した後に加熱積層プレスして結晶化することで高い強度と高い平面性を有する樹脂板が得られ、このような樹脂板を電極板に用いることで電極板の撓みや反りを抑制することが可能となる。
【0040】
また、請求項14記載の集塵装置は、バインダ成分がアルカリ金属を含まないガラス粒子とし、ガラスが融解する温度で焼成して半導電面を得ることを特徴とするものである。すなわちバインダ成分が珪素、アルミニウム、ニオブ、カルシウムなどの酸化物からなるガラス粒子である。ガラス粒子と各種有機溶剤および高い粘度を得るためのつなぎ剤であるエチルセルロースとを混合したペーストに酸化スズ粒子やアンチモンをドープした酸化スズ粒子、もしくはこれらを添着した酸化チタン粒子などの半導電性材料を配合したものを半導電塗料とし、例えばスクリーン印刷法で絶縁性基板の上に印刷する。そしてガラス粒子が融解する温度、たとえば800℃以上で焼成して半導電面を得る。この時つなぎ剤として入っているエチルセルロースは350℃前後で酸化分解を起こして気化するため半導電面の中には含まれない。したがって全て無機物からなるため、化学的に非常に安定な半導電面が得られる。また、リチウムやナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属は融点の低減が可能となるもののアルカリ性洗剤などのアルカリ性溶液に容易に溶け、また、軽いため放電による電荷移動などの影響を受けて半導電面の中で容易に移動し、半導電面の化学的構造を脆いものに変えてしまうのであえて入れない配合としている。また、ガラス粒子が融解するような高温で焼成するため、請求項15に記載するように酸化アルミニウムや酸化ジルコニウムなど耐熱性と絶縁性を有するセラミックスの板を絶縁性基板として用いる必要がある。酸化アルミニウムからなる絶縁性基板は高い絶縁性および1500℃以上の高い耐熱性を有しているためガラス粒子をバインダ成分とした半導電面を設ける絶縁性基板として適している。また、曲げ強度が高く平面性が高いため、応力を受けても撓まないという特長を有する。
【0041】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。ちなみにこれら実施の形態は一例を示すものであり、本発明はこれら実施の形態に限定されるものではない。
【0042】
(実施の形態1)
電極板A1の表側および裏側の平面図を図1および図2に、電極板B2の表側および裏側の平面図を図3および図4に、また、電極板A1および電極板B2とを空間を設けながら交互に積層した集塵装置16の分解状態および組み立て状態を示す構成図を図5および図6に示す。電極板A1は絶縁性基板3の表側および裏側の面上に10の7〜11乗Ω/□の表面抵抗率を有する半導電面4が設けられた構造となっており、かつ半導電面4は上流側に棘状のパターン5を有する。電極板B2も同様に絶縁性基板3の表側および裏側の面上に10の7〜11乗Ω/□の表面抵抗率を有する半導電面4が設けられた構造となっている。こちらには上流側に棘状のパターン5を設けていない。図に示すように電極板A1および電極板B2ともに左右どちらかの端面にまで半導電面4が設けられており、また、左右両側の端面に予めスリット6を設けている。ちなみに図には示していないが半導電面4が設けられた端面の側に設けられたスリット6の壁面にも半導電塗料を塗布するなどして半導電面4が設けられている。
【0043】
そして図5および図6に示すように予めスリット6が設けられたスペーサー7を挟みながら電極板A1および電極板B2それぞれの半導電面4が設けられた側の端面を左右逆となるように交互に積層することで集塵装置16が得られる。集塵装置16の左右に設けられたスリット群にカーボンブラック粒子と樹脂性のバインダ成分および有機溶剤からなる導電塗料を流し込み、高圧端子8および低圧端子9をそれぞれのスリット群に差し込んでいる。このようにすることで電極板A1と高圧端子8、および電極板B2と低圧端子9とが電気的に接続されている。高圧端子8を通じて高圧電源10からkVオーダーの高電圧が電極板A1の半導電面4に供給され、また、低圧端子9を通じて高圧電源10から0kVの低電圧が電極板B2の半導電面4に供給される。ここで電極板A1と電極板B2とを交互に積層することで棘状のパターン5と電極板B2の半導電面4は対向している。
【0044】
棘状のパターン5には高電圧が、また、電極板B2の半導電面4には0kVが印加されており、両者には電位差が与えられている。そして棘状のパターン5の棘先端11は鋭く尖っているので不平等な強い電場がかかり、この強くて不平等な電場によって空気は電離し、イオンとなる。発生したイオンのうち棘状のパターン5と同じ極性のイオンは棘先端11から反発力を受けて電極板B2の半導電面4に向かって拡散するように移動する。電極板A1と電極板B2の間に設けられた空間を通過する粉塵はこのイオンと結合して帯電する。棘状のパターン5の下流側には電極板A1および電極板B2それぞれの半導電面4が対向して平等な電場が設けられている領域に送り込まれ、電場からクーロン力を受けて電極板B2の半導電面4に付着し、捕集される。
【0045】
従来であれば粉塵の帯電を行うために例えば引用文献に記載の集塵装置16の構成を示す図19に記載するような線状の荷電部放電電極102とそれを挟むように設けられた荷電部対向電極板103を有する荷電部101が別途必要であったが、本発明においては高電圧が印加された電極板A1の半導電面4の上流側に棘状のパターン5を有しており、かつ棘状のパターン5からイオンが発生して電極板B2の半導電面4に向かって拡散移動するように電極板A1と電極板B2との間隔および半導電面4の位置関係が定められているため、放電電極である棘状のパターン5が面状に設けられていながら放電を起こして粉塵を帯電させることが可能となっている。
【0046】
また、絶縁性基板3の上に半導電面4を設けた電極板A1および電極板B2を交互に積層するだけで上流側に位置する荷電部と下流側に位置する集塵部とを一体的に構成することが可能であり、非常に簡単に作成できるという利点を有する。また、半導電面4が10の7〜11乗オーダーの抵抗率を有するため半導電面4において急激な電荷移動が起こらない。そのため電極板A1および電極板B2の半導電面4の間でスパークを発生することがなく、また、電極板A1の棘状のパターン5においてもスパークを起こさずにコロナ放電が発生するため安定してイオンを供給し、粉塵を帯電することが可能である。
【0047】
(実施の形態2)
実施の形態1とは別の形態を有する電極板A1の表側および裏側の平面図を図7および図8に示す。電極板A1は絶縁性基板3の表側および裏側の面上に10の7〜11乗Ω/□の表面抵抗率を有する半導電面4が設けられた構造となっており、かつ半導電面4は上流側に放電可能なパターンとして線状のパターン12を有する。電極板B2および集塵装置16の構造は実施の形態1に示すものと同様とである。この集塵装置16において、電極板A1の上流側に設けた線状のパターン12と電極板B2に設けた半導電面4とは対向する位置関係となるため、高電圧が印加された線状のパターン12から電極板B2の0kVの電圧が印加される半導電面4に向かってコロナ放電が起こり、イオンが発生して拡散移動することによって粉塵は帯電する。帯電した粉塵は図には記載していないが送風機などの送風手段によって下流側に送り込まれ、電極板A1および電極板B2の半導電面4によって設けられた電場からクーロン力を受けて主に電極板B2に付着して捕集される。線状のパターン12を用いることでコロナ放電を均一に起こすことが可能となり、通風方向13に対して垂直となる領域全体にイオンを供給して拡散することが可能となるため高い集塵効率を得ることが可能である。
【0048】
(実施の形態3)
実施の形態1とは別の形態を有する電極板A1の表側および裏側の平面図を図9および図10に示す。図に示すように上流側に導電体からなる棘状のパターン5が設けられており、導電体からなる棘状のパターン5と半導電面4とが一部で重なり合うように接触している。すなわち棘状のパターン5のみが導電体で構成されており、放電が起こりやすい構造となっているため高い集塵効率が得られる。
【0049】
ここで導電体からなる棘状のパターン5はカーボンブラック粒子、もしくは銅やアルミ、銀といった導電性を有する金属粒子と樹脂などのバインダ成分、それを溶かす有機溶剤などの溶媒を混合したものを印刷乾燥することで得られる。導電体からなる棘状のパターン5には10の7〜11乗の表面低効率を有する半導電面4を介してkVオーダーの高電圧が印加される。そのため急激な電荷移動が半導電面4によって抑制され、スパークを発生することなくコロナ放電を起こすことが可能である。
【0050】
(実施の形態4)
上流側に設けた棘状のパターン5以外の領域にあたる半導電面4を被覆するように絶縁膜14を設けた電極板A1の表側および裏側の平面図を図11および図12に示す。電極板A1に設けた半導電面4のパターンは実施の形態1に示したものと同じである。図に記載するように電極板A1の半導電面4は上流側に設けられた棘状のパターン5を残して絶縁膜14で覆われている。このようにすることで棘状のパターン5以外の部分、例えば半導電面4の端面、もしくは半導電面4の面上から漏れるように発生するリーク放電を抑制することができる。棘状のパターン5のみで放電を起こすことで、上流側で粉塵を帯電させ下流側の電場が設けられた空間で捕集することが確実に行われるため、放電に伴って発生する電流を余分に流さずに粉塵を確実に捕集できるようになる。放電に伴う電流が増えると副生成物として発生するオゾンの発生量が増えるが、余分な電流をなくしてオゾンの発生量を抑制するためにも有効な手段となる。ちなみに図には記載していないがリーク放電を更に確実に減らそうとする場合は電極板B2にも半導電面4を被覆するように絶縁膜14を設けてもよい。
【0051】
ここで本実施の形態に沿って集塵装置16を作成し、集塵効率の評価を行った。電極板A1および電極板B2は絶縁性基板3の表裏両面にスクリーン印刷法で半導電塗料を印刷して乾燥することで半導電面4を設けるという方法で作成した。絶縁性基板3はポリエステル樹脂にガラス繊維およびマイカを混合して押出し成型した板を加熱プレスして樹脂の分子構造を結晶化することで高い平面性と強度を得たものを用いた。また、スクリーン印刷法についてであるが250本/インチのポリエステル製メッシュに乳剤を塗布し、図1、2および図3、4に示した半導電面4に相当するパターンの部分だけ乳剤を除去するように露光して得たスクリーン製版を用いた。半導電面4はこのスクリーン製版の上に半導電塗料を垂らし、スクリーン製版の裏面を絶縁性基板3に押し当てて転写し乾燥することでスクリーン製版に設けたパターンと同じ形状のものを得た。
【0052】
ここで電極板Aの上流側に設けた棘状のパターン5は、棘先端11どうしの間隔が広すぎると放電によってイオンが供給されない領域が出来てしまい、また、狭すぎると棘先端11どうしが同じ電圧であるためお互いが放電を阻害しあって放電が起こしにくくなる。本実施例においてはイオンを満遍なく供給し、かつお互いの放電を阻害しない間隔としては4〜8mmが好ましく、本実施の形態では6mmを採用し棘先端11を配列した。
【0053】
また、通風方向13における棘先端11の出代寸法は他の半導電面4の領域から放電を干渉されないように3mmもしくはそれ以上の値とした。
【0054】
アクリルポリオール、塩化ビニルおよび酢酸ビニル樹脂の樹脂製バインダ成分をケトン系有機溶剤に溶かしたものに半導電性材料としてアンチモンをドープした酸化スズを添着した中心粒子径200〜300nmの酸化チタン粒子を攪拌混合したものである。ちなみにこの半導電性材料を9.8MPaで圧縮成型した圧粉体の抵抗率は約5Ω・cmである。このままでは特に界面活性剤入りの油などに樹脂製バインダ成分が徐々に溶解して酸化チタン粒子が溶出してしまう可能性があるため、これを防ぐためにスクリーン印刷の前にポリイソシアネート樹脂を溶剤で溶かしたものを少量添加している。こうすることで樹脂バインダ成分が架橋されて高分子化するため油などに溶解しなくなる。
【0055】
また、半導電塗料中の有機溶剤の揮発と樹脂バインダ成分の架橋反応を十分行わせるために印刷後の乾燥を100℃15分の条件で行った。このようにして得た半導電面4の膜厚はおよそ6μmであった。その後同様にスクリーン印刷法を用いて図5に示すようなパターンで電極板A1の半導電面4の上に絶縁塗料を印刷し、100℃で15分間乾燥させることで厚さがおよそ6μmの絶縁膜14を設けた。絶縁塗料は半導電塗料と同様にアクリルポリオール、塩化ビニルおよび酢酸ビニル樹脂の樹脂製バインダ成分をケトン系有機溶剤に溶かしたものであるが、半導電塗料と異なり半導電性材料は含まれていない。
【0056】
また、絶縁膜14の化学的安定性を高めるために、半導電塗料の場合と同様に印刷前にポリイソシアネート樹脂を溶剤で溶かしたものを少量添加している。絶縁膜14のみを絶縁性基板3の上に設けて表面抵抗率を測定したところ10の15乗Ω/□以上であった。電極板B2も半導電塗料を図3および図4に示すパターンで表裏両面にスクリーン印刷法で印刷し、100℃15分の条件で乾燥することで半導電面4を得るという方法で作成した。ちなみに電極板B2には絶縁膜14を設けていない。また、半導電面4および絶縁膜14ともにスクリーン印刷法で得ているため寸法精度が高く精細なものが得られた。
【0057】
電極板A1および電極板B2を図5および図6に示すような形で厚さ1mmのスペーサー7を挟みながら左右の向きを逆にして交互に積層し、予め設けてあったスリット6にカーボンブラック粒子と樹脂、有機溶剤からなる導電塗料を流し込んで高圧端子8および低圧端子9を左右それぞれのスリット群に差し込んだ。ちなみにスリット6の壁面にも半導電塗料を塗布することで予め半導電面4が設けてあるため、導電塗料を介して電極板A1の半導電面4と高圧端子8、電極板B2の半導電面4と低圧端子9とが電気的に確実に接続するようになっている。このようにして得た集塵装置16に、図13に示すように送風機15を取り付けて0.5m/sの風速となるように通風させた。そして電極板Aに所定の高電圧を、電極板Bに0kVを印加した状態で集塵装置の上流側および下流側の空気をサンプリングし、レーザーパーティクルカウンター(以下LPC)を用いて粉塵個数濃度を測定することで集塵効率を求めた。ちなみに粒子径0.3μ以上の粉塵を測定対象とした。集塵効率の算出方法は以下のとおりである。
【0058】
集塵効率(%)=(1−下流側の粉塵個数濃度/上流側の粉塵個数濃度)×100
【0059】
また、比較対象として、図19に示したのと同様の、線状の荷電部放電電極102と荷電部対向電極板103からなる従来の荷電部101を上流側に設けた場合の測定も行った。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、従来の荷電部を用いた場合と同等の高い集塵性能が得られることがわかった。放電可能なパターンを絶縁性基板上に有する電極板を積層するだけで高い集塵効率が得られるため、従来と同等の高い集塵効率を有し、かつ構造が簡単で容易に作成可能な集塵装置16が得られることがわかった。
【0062】
(実施の形態5)
実施の形態1とは別の形態を有する電極板A1の表側の平面図を図14に、裏側の平面図を図15に示し、電極板B2の表側の平面図を図16に、裏側の平面図を図17に示す。また、この電極板A1および電極板B2からなる集塵装置16の分解状態を示す構成図を図18に示す。
【0063】
図14および図16に示すように電極板A1および電極板B2ともに表側の面には絶縁性基板3の上流側に棘状のパターン5を有する半導電面4を設け、図15および図17に示すように裏側の面には矩形状の半導電面4を設ける構造となっている。そして図18に示すようにスペーサー7を挟みながら電極板A1と電極板B2とを交互に積層して集塵装置16を得ている。そして実施の形態1に記載したのと同様の方法で電極板A1にはkVオーダーの高電圧が、また、電極板B2には0kVが印加されている。電極板A1の表側面の上流側に設けられた棘状のパターン5は電極板B2の裏側面に設けられた半導電面4と対向する位置関係となり、また、電極板B2の表側面の上流側に設けられた棘状のパターン5は電極板A1の裏側の面に設けられた半導電面4と対向する位置関係となる。
【0064】
ここで仮に電極板A1に5kVの正の電圧が印加された場合、電極板A1の棘状のパターン5と電極板B2の半導電面4との間でプラス極性のコロナ放電が起こってプラスのイオンが発生し、また、電極板B2の棘状のパターン5と電極板A1の半導電面4との間でマイナス極性のコロナ放電が起こってマイナスのイオンが発生する。それぞれのイオンは棘状のパターン5から反発力を受けるように拡散移動し、電極板A1および電極板B2の間を通過する粉塵を帯電する。そして図には記載していないが送風機などの送風手段によって下流側へと送り込まれ、対向する電極板A1および電極板B2それぞれの半導電面4によって形成された電場からクーロン力を受ける。プラスに帯電した粉塵は主に電極板B2に、また、マイナスに帯電した粉塵は主に電極板A1に付着して捕集される。ここで捕集されずに集塵装置16の下流側に漏れた粉塵は帯電しているが、プラスに帯電した粉塵およびマイナスに帯電した粉塵双方が存在するため両者が接触してそれぞれの粉塵が有する電荷を中和し、帯電を解消する。そのため集塵装置16以降の下流側に存在するダクトや筐体内部、もしくは空気の吹出口近傍に存在する壁面などに粉塵が付着して汚すことがない集塵装置16が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の集塵装置は粉塵を帯電させる荷電部を別途設けずに高い集塵性能が得られると同時にスパークを防止することが可能であるため、高い集塵性能と安全性、および簡単な構造であることが同時に求められる集塵装置、例えば工場のオイルミスト集塵機や家庭用空気清浄機、または給気型換気扇などに搭載する集塵デバイスとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態1に記載の電極板Aの表側面を示す平面図
【図2】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図3】同電極板Bの表側面を示す平面図
【図4】同電極板Bの裏側面を示す平面図
【図5】同集塵装置の分解状態を示す構成図
【図6】同集塵装置の組み立て状態を示す構成図
【図7】実施の形態2に記載の電極板Aの表側面を示す平面図
【図8】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図9】実施の形態3に記載の電極板Aの表側面を示す平面図
【図10】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図11】実施の形態4に記載の同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図12】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図13】同集塵装置の集塵効率を測定する方法を示す図
【図14】実施の形態5に記載の同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図15】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図16】同電極板Bの表側面を示す平面図
【図17】同電極板Bの裏側面を示す平面図
【図18】同集塵装置の分解状態を示す構成図
【図19】従来例に記載の集塵装置を示す構成図
【符号の説明】
【0067】
1 電極板A
2 電極板B
3 絶縁性基板
4 半導電面
5 棘状のパターン
6 スリット
7 スペーサー
8 高圧端子
9 低圧端子
10 高圧電源
11 棘先端
12 線状のパターン
13 通風方向
14 絶縁膜
15 送風機
16 集塵装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄の分野において空気中の粒子状浮遊物質を除去する集塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に存在する粒子状浮遊物質、すなわち粉塵は喘息などの疾病の原因として知られており従来から除去の対象となる物質であったが、近年の研究において粒子径2.5マイクロメートル以下の粉塵(いわゆるPM2.5)が肺ガンなどの疾病を誘起する可能性があるとの報告があり、捕集技術の更なる向上が求められている。その中で電気集塵技術を用いた集塵装置は粒子径がマイクロメートル以下の小粒径の粉塵を捕集することに優れており、また低圧損な特性を持つことから注目を集め、更なる性能向上が求められている。
【0003】
従来、この種の集塵装置として、放電によって粉塵を帯電する荷電部を前段に設け、その後段に、電極板を積層し、交互に異なる電圧を印加して電場を形成して帯電した粉塵を捕集する集塵部を設けたものが知られている。この構成を応用した例として、特許文献には集塵部において一方の電圧が印加される電極を絶縁体である樹脂製のフィルムで被覆した集塵装置が示されている。以下、その集塵装置について図9を参照しながら説明する。図9に示すように、荷電部101は線状の荷電部放電電極102と荷電部対向電極板103とからなり、また、荷電部101の下流側には電圧印加電極板105と集塵電極板106とを一定の間隔を開けて交互に積層した集塵部104を設けている。また、図には示していないが電圧印加電極板105は絶縁体である樹脂フィルムで被覆されている。通常、荷電部101においては荷電部放電電極102と荷電部対向電極板103との間に5〜15kV、また、集塵部104の電圧印加電極板105と集塵電極板106との間に2〜6kVの電位差を与えるように高圧電源107によってそれぞれの電極に所定の電圧が印加されている。
【0004】
上記構成において、荷電部101では荷電部放電電極102と荷電部対向電極板103との間で不平等な電場が作られており、この時線状の形状を有する荷電部放電電極102近傍には非常に強い電場が作られている。そのため空気イオンといった空気中に当初から僅かに含まれる電荷保有物質が加速されて空気分子と衝突を起こし、空気分子から電子が分離する。分離した電子もまた加速されて空気分子と衝突を起こし、空気分子から電子が分離する。電子との衝突によって空気分子から電子が分離する現象を電離と呼ぶ。また、電離を繰り返すことによって多数の電子が空気分子から分離する現象を電子なだれと呼ぶが、この電子なだれによって電子が分離したプラス極性の空気イオンや、分離した電子と結合してマイナス極性の空気イオンが作られる。そして荷電部放電電極102と異なる極性の空気イオンは荷電部放電電極102に電荷を吸収されて空気分子に戻り、逆に同じ極性の空気イオンは電場によって荷電部放電電極102から反発する方向の力を受け、荷電部対向電極板103の方向へと拡散移動する。
【0005】
このように電離や電子なだれを起こすことで荷電部放電電極102近傍の空気を空気イオンにする放電現象をコロナ放電というが、コロナ放電によって作られ、主に荷電部放電電極102と同じ極性の空気イオンが荷電部101を通過する粉塵と結合することで粉塵が帯電する。帯電した粉塵は送風の流れにそって集塵部104に導入され、電圧印加電極板105と集塵電極板106の間で作られる電場の力を受けて主に集塵電極板106に付着して取り除かれ、清浄な空気が集塵部104の後方から吹出される。電圧印加電極板105は絶縁性の樹脂フィルムで覆われているため、集塵電極板106と接触しても短絡を起こさず、同時に集塵電極板106との間で起こりうる火花放電(以下スパーク)を防止する構造となっている。
【特許文献1】特許第3261167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献に記載されるような集塵装置においては粉塵を帯電させるために荷電部が集塵部とは別に必要となる。荷電部は線状や棘状の形状を有する放電電極と対向電極からなり、放電電極ではコロナ放電が発生しているため、棘状の放電電極であれば先端が磨耗して十分なコロナ放電が起こせなくなったり、また線状の放電電極であれば線が切断するといった故障が発生しやすいという課題を有する。また、放電電極と対向電極が空気で絶縁された状態で構成する必要があり、このように複雑な構造を有する荷電部を構成することは困難が伴うという課題を有する。また、集塵部に関しては絶縁性の樹脂フィルムで被覆することで電圧印加電極板の絶縁性を確保しているため、確実な絶縁性を得るためにはしっかりした被覆が必要となり、高度な加工技術を要する。また、電圧を印加することで樹脂フィルムの表面に電荷が発生するが、電極間の距離が十分でないと樹脂フィルムの表面に蓄積した電荷が空間を飛び越えて集塵電極板へ移動することで火花を伴う放電、すなわちスパークが発生するという課題を有する。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決するものであり、複雑な構造を有する荷電部を必要としないため容易に作成が可能で、また電極板の間で起こるスパークを防止するとともに高い集塵性能を得ることが可能な集塵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の集塵装置は上記目的を達成するために、電極板Aと電極板Bとを空間を設けながら交互に積層し、それぞれの電極板に異なる電圧を印加する集塵装置において、電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方が、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ、上流側に放電可能なパターンを有する半導電面を絶縁性基板の表面に備えた半導電面電極板であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容易に作成可能でかつ軽量、また電極板の間で起こるスパークを防止するとともに高い集塵性能を得ることが可能な集塵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の集塵装置は上記目的を達成するために、電極板Aと電極板Bとを空間を設けながら交互に積層し、それぞれの電極板に異なる電圧を印加する集塵装置において、電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方が、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ、上流側に放電可能なパターンを有する半導電面を絶縁性基板の表面に備えた半導電面電極板であることを特徴とするものである。
【0011】
電極板Aと電極板Bの間にはそれぞれの電極板に異なる電圧を印加することで高い電位差が与えられている。そして、電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方に設けられた半導電面の上流側には、請求項2および3に記載するような棘状や線状といった放電可能なパターンが設けられている。この放電可能なパターンは、一定の空間を設けながら異なる電圧が印加された電極板と対向している。
【0012】
この時、本発明者は放電可能なパターンと対向する電極板の少なくともどちらか一方を半導電面とし、電極板どうしの間隔を小さくすることで、放電電極を従来のような空中に浮くような形ではなく面上に設けた場合においてもと対向する電極板との間でコロナ放電が起こることを見出した。この現象は特に電極板どうしの間隔が小さいと起こりやすい。ちなみに各電極板がともに金属のような導電体で構成される場合、高圧電源から供給される電荷の移動が制限を受けないためコロナ放電が起こる前に火花放電すなわちスパークが発生する。スパークは放電可能なパターンの不特定かつ狭い部分で電子やイオンが対向する電極板へ向かって直接向かうことで起こるため、空気を電離して空気イオンを作り出す作用が小さく、また領域が狭いことから粉塵を帯電する作用が小さい。またノイズの発生源およびガスや可燃性物質の着火源となるためスパークは発生しないようにする必要がある。
【0013】
本発明の集塵装置では電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方が10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する半導電面を絶縁性基板の表面に備えた半導電面電極板であるため、高圧電源から供給される電荷の移動は制限される。そのため放電可能なパターンや平らな表面、もしくは粉塵が堆積して棘状に盛り上がった部分などに関わらず、急激な電荷の移動によってあらゆる箇所で発生しうるスパークを防ぐ。
【0014】
また、特に上流側に設けられた放電可能なパターンでは電界強度が高まって放電が起こる。この時半導電面電極板を用いることによって電荷の移動を制限する作用が得られるため、電荷が急激に空気中に飛び出してスパークを起こすのではなく空気を電離し空気イオンを作り出すコロナ放電が発生する。コロナ放電で得られた空気イオンは空気中の粉塵と結合することで粉塵を帯電し、帯電した粉塵は電極板Aおよび電極板Bとの間に設けられた電場によってどちらかの電極板の方へと移動して付着し、捕集される。
【0015】
例として上流側に放電可能なパターンを有する半導電面を備えた電極板Aにプラスの高電圧を、また上流側に放電可能なパターンのない半導電面を備えた電極板Bに0kVを印加した場合は電極板Aの放電可能なパターンで起こるコロナ放電によって粉塵はプラスに帯電し、プラスに帯電した粉塵は風によって下流側に移動した際にプラスの高電圧が印加された電極板Aによって反発力を、また電極板Bから吸引力といったクーロン力を受け、主に電極板Bの表面に捕集される。このような原理によってスパークの発生を防止するとともに従来式の荷電部を別途設けなくとも粉塵を効果的に捕集することが可能となる。
【0016】
また、請求項4記載の集塵装置は、電極板Aおよび電極板Bをともに、表に放電可能なパターンを有する半導電面を設け、裏に放電可能なパターンを有さない半導電面を設けた半導電面電極板とすることを特徴とするものである。
【0017】
すなわち電極板Aの放電可能なパターンを有する面と電極板Bの放電可能なパターンを有さない面とが対向した空間と、電極板Aの放電可能なパターンを有さない面と電極板Bの放電可能なパターンを有する面とが対向した空間が積層方向において交互に設けられた構造となっている。電極板Aおよび電極板Bそれぞれに設けられた放電可能なパターンおよび対向する、異なる電極板との間でコロナ放電が起こり、異なる極性のイオンが各々の放電可能なパターンからそれぞれ発生する。
【0018】
例として電極板Aにプラスの高電圧を印加し、また、電極板Bをアースに接続して0kVとした場合、電極板Aに設けられた放電可能なパターンからプラスのイオンが発生し、電極板Bに設けられた放電可能なパターンからマイナスのイオンが発生する。そして放電可能なパターンを有する電極板Aと放電可能なパターンを有さない電極板Bとの間に設けられた空間に入った粉塵は電極板Aが有する放電可能なパターンから発生したプラスのイオンと結合してプラスに帯電し、そして下流側に移動した際に電極板Aおよび電極板Bの間に設けられた電場からクーロン力を受け、主に電極板Bに付着して捕集される。
【0019】
また、放電可能なパターンを有さない電極板Aと放電可能なパターンを有する電極板Bとの間に設けられた空間に入った粉塵は電極板Bが有する放電可能なパターンから発生したマイナスのイオンと結合してマイナスに帯電し、そして下流側に移動した際に電極板Aおよび電極板Bの間に設けられた電場からクーロン力を受け、主に電極板Aに付着して捕集される。帯電した粉塵が電極板に捕集されずに集塵装置の下流から出た場合、集塵装置の下流以降に存在するダクトや筐体に付着して汚す可能性があるが、プラスに帯電した粉塵とマイナスに帯電した粉塵が混ざり合ってお互いの電荷を中和し打ち消す効果が得られる。そのため捕集しきれずに粉塵が集塵装置の下流に漏れ出た場合も下流側のダクトや筐体を汚すことを防止できる。
【0020】
また、請求項5記載の集塵装置は、放電可能なパターンを残してそれ以外の半導電面の上に絶縁膜を設けることを特徴とするものである。
【0021】
半導電面は絶縁性基板の上に設けられており、基本的には上流側に設けられた放電可能なパターン以外の部分では放電を起こさないことを前提としているが、電圧が高い場合や電極板Aおよび電極板Bの積層間隔が小さい場合においては電界強度が高まって半導電面の中央部分や絶縁性基板の端面よりも内側に設けられた場合の半導電面の端面から漏れるように放電が起こる可能性がある。これをリーク放電と名づけるが、リーク放電が半導電面において分散的に発生し、上流側に設けられた放電可能なパターンで集中的に放電しないことが起こりうる。こうなった場合粉塵の帯電が効率よく行われなくなり、高い集塵効率が得られなくなる。
【0022】
これを防ぐために放電可能なパターンが設けられた部分以外の半導電面を被覆するように絶縁膜を設けることで、放電可能なパターン以外から分散的に発生する放電を防止することが可能となる。この絶縁膜はリーク放電を抑制する目的で設けるのであり半導電面全体の絶縁を目的としていないので半導電面を完全に被覆する必要はなく、微小な穴すなわちピンホールがあってもかまわない。絶縁膜の表面から電荷が何らかの原因でなくなった場合に電荷を補充する必要があるため、むしろピンホールはあったほうが好ましい。
【0023】
また、請求項6記載の集塵装置は、放電可能なパターンのみを10の5乗Ω/□以下の表面抵抗率を有する導電面で形成することを特徴とするものである。
【0024】
放電可能なパターンの表面抵抗率を10の5乗Ω/□以下とすることで大きな導電性を持たせることが可能となり、コロナ放電をより均一かつ効果的に起こし、より高い集塵効率を得ることが可能となる。放電可能なパターンを導電性とすることはスパークが発生する確率を上げることになりかねないが、放電可能なパターン以外は表面抵抗率が10の7〜11乗オーダーの半導電面となっており、高圧電源と放電可能なパターンとの間に存在する半導電面によって電荷の急激な移動は制限されるためスパークが発生しない構造となっている。
【0025】
また、請求項7記載の集塵装置は、半導電性材料、バインダ成分および溶媒からなり、塗布面の表面抵抗率が10の7〜11乗Ω/□オーダーとなる半導電塗料を絶縁性基板の表面に塗布し、乾燥して半導電面を得ることを特徴とするものである。
【0026】
絶縁性基板の上にパターンを有する半導電面を設けるには半導電性材料、バインダ成分および溶媒からなる半導電塗料を所定のパターンが得られるように絶縁性基板に印刷もしくは塗布すればよい。
【0027】
具体的な例としてポリビニルアルコールやポリアクリル酸ナトリウム、アミロースといった吸水性ポリマーを含有する塗料を絶縁性基板の表面に塗布して乾燥することで10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する半導電性膜を得る方法が挙げられる。
【0028】
吸水性ポリマーは空気中の水分を吸収しやすい性質を有しており、空気中の水分を吸収することで電気を僅かに通す性質を有するようになる。吸水性ポリマーを含有する塗料を絶縁性基板の表面に塗布して乾燥することで、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有する半導電面が得られる。
【0029】
溶媒を水とする場合はバインダ成分として酢酸ビニルのエマルジョンやエチレン酢酸ビニル共重合体のエマルジョン、またはアクリル樹脂のエマルジョンなどを用いることが可能である。
【0030】
ちなみに吸水性ポリマーからなる半導電面は湿度の高低によって表面抵抗率が変動しやすい。湿度の影響を受けにくい半導電面を設ける方法として、請求項8に記載するようにイオン導電性ポリマーを半導電性材料とした塗料を用いる方法が挙げられる。
【0031】
イオン導電性ポリマーの例として4級アンモニウム塩を分子構造中に有するポリマーが挙げられる。4級アンモニウム塩は中心のアンモニア原子に4つのアルキル基が結合しており、全体としてプラスの電荷を有している。そこに塩素イオンなどの陰イオンがイオン結合した構造となっているためイオン導電性を有することから僅かに電荷を通す性質を有する。また、イオン導電性を有する4級アンモニウム塩をあらかじめその分子中に有しているために湿度の影響を受けにくく、低湿度の時でも電荷を僅かに通す特性を確保することができるという特徴を有する。
【0032】
イオン導電性ポリマーを形成するには分子構造中に4級アンモニウム塩と不飽和炭素結合を有する単量体を重合する方法があるが、分子構造中に4級アンモニウム塩と不飽和炭素結合とを有する単量体としてジメチルアミノメタアクリレートのクロライド塩などが挙げられる。そしてジメチルアミノメタアクリレートのクロライド塩の水溶液をアルコールに溶かし、成膜性を確保するために低分子量であるメチルメタアクリレートを加えた後にアゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を加えて重合反応させることで4級アンモニウム塩を含むポリマー溶液を得ることができる。
【0033】
また、アクリル酸のようなカルボキシル基と不飽和炭素結合とを分子中に有する単量体を重合して得たポリマーの溶液を加えることで塗布面への接着性を確保することが可能となる。また、塗布面に形成される塗布膜は分子量が大きいポリマーからなるため非水溶性を示す。このようにして作成した半導電塗料を塗布乾燥して形成する半導電面は低湿度時でも電荷を僅かに通し、また、塗布面からはがれることがなく耐水性をも有するという特徴を有する。このようなイオン導電性ポリマーを絶縁性基板の表面に塗布して乾燥することで10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、また、湿度の影響を受けにくい半導電面を容易に形成することが可能となる。
【0034】
また、その他の方法で湿度の影響を受けにくい半導電面を得るためには請求項9に記載するように酸化スズ、もしくはアンチモンをドープした酸化スズを半導電材料とした半導電塗料を用いる方法が挙げられる。酸化スズは内部に酸素の格子欠陥を持つ結晶構造を取ることで電荷を伝える性質を有する。
【0035】
また、アンチモンをドープすることでn型半導体と同じような電子が余る構造となり、電荷をより伝えやすい性質を有するようになる。電荷を伝える性質を有する酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズを半導電材料として用いることで10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ湿度の影響を受けにくい半導電面が得られる。酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズは酸やアルカリに溶けにくく化学的に安定であり、また、その導電性が格子欠陥や電子伝導性に起因するものであることから大量の電荷が一気に伝わることがないため、これらによって形成された半導電面は化学的に安定でかつ10kV程度の高い電圧を印加しても急激な電荷移動を起こしてスパークを引き起こすことがないという特長を備えている。
【0036】
また、請求項10に記載するように酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズよりも大きい粒子径を有する担持体粒子に酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズを添着したものを半導電性材料として用いることで酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズの量を減らすことが可能となり、半導電材料のコストを低減することが可能となる。これは電荷を伝えるためには必ずしも粒子の内部に導電性が必要というわけではなく、表面に導電性があり、かつ粒子どうしが接触していれば電荷を伝える性質が得られるためである。大きな粒子径を有する担持体粒子の例としては酸化チタンなどが挙げられる。酸化スズやアンチモンをドープした酸化スズの粒子径が10〜50nmの場合、担持体粒子である酸化チタンの粒子径は100〜500nm程度が目安となる。
【0037】
また、請求項11記載の集塵装置は、バインダ成分が樹脂である半導電塗料に分子架橋剤を添加することを特徴とするものである。ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂、アクリルポリオール樹脂といった樹脂をバインダ成分とした場合、これらは分子構造中にOH基などの反応基を有する。そして例えばポリイソシアネート樹脂のような分子架橋剤を添加すると前述の樹脂と分子架橋剤が重合反応を起こし高分子化する。樹脂のバインダ成分は油や洗剤もしくは両者が混合した液体などに長い期間浸されると溶解し、半導電性材料を絶縁性基板上に固着するというバインダとしての機能を失う可能性がある。分子架橋剤と反応させて樹脂を高分子化することで油や洗剤に対する溶解を防止し、バインダとしての機能を半永久的に維持することが可能となる。
【0038】
また、請求項12記載の集塵装置は、半導電塗料をスクリーン印刷法で絶縁性基板に塗布して半導電面を設けることを特徴とするものである。前述したポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂、アクリルポリオール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂などを適度な粘度となるようにシクロヘキサノンなどのケトン系有機溶媒に溶解したものはスクリーン印刷法における樹脂系インキとして一般的である。これに前述した酸化スズ粒子やアンチモンをドープした酸化スズ粒子、もしくはこれらを添着した酸化チタン粒子を混合したものをスクリーン印刷用の半導電塗料として用いることができる。所定のパターンを有し、パターンの部分は塗料を通すスクリーンを絶縁性基板に当ててパターンが設けられた部分だけ半導電塗料を押出して絶縁性基板に印刷するスクリーン印刷法を用いることで絶縁性基板の上に半導電面を設けることができる。半導電面の形状はスクリーンに設けられたパターンによるため、任意の形状の半導電面を絶縁性基板の上に簡単に設けることができる。また、スクリーン印刷法は厚みが均一で寸法精度の高い印刷面が得られるため、高精細な半導電面を得ることが可能である。
【0039】
また、請求項13記載の集塵装置は、絶縁性基板が樹脂材料にガラス短繊維およびマイカを充填して押出し成型した後に加熱積層プレスした樹脂板であることを特長とするものである。半導電面電極板は表面が半導電性であるため、電極板Aと電極板Bがスペーサなどで接触しない構造とすることが必要である。接触した場合は電極板Aと電極板Bが接触箇所で同じ電位となってしまい、電場が弱まって集塵効率が低下することになる。そのため半導電面電極板は大きく撓んだりせず、また、初めから大きな反りがないことが必要とされる。すなわち電極板自体が高い強度および平面性を有することが必要となる。樹脂材料にガラス短繊維およびマイカを充填して押出し成型した後に加熱積層プレスして結晶化することで高い強度と高い平面性を有する樹脂板が得られ、このような樹脂板を電極板に用いることで電極板の撓みや反りを抑制することが可能となる。
【0040】
また、請求項14記載の集塵装置は、バインダ成分がアルカリ金属を含まないガラス粒子とし、ガラスが融解する温度で焼成して半導電面を得ることを特徴とするものである。すなわちバインダ成分が珪素、アルミニウム、ニオブ、カルシウムなどの酸化物からなるガラス粒子である。ガラス粒子と各種有機溶剤および高い粘度を得るためのつなぎ剤であるエチルセルロースとを混合したペーストに酸化スズ粒子やアンチモンをドープした酸化スズ粒子、もしくはこれらを添着した酸化チタン粒子などの半導電性材料を配合したものを半導電塗料とし、例えばスクリーン印刷法で絶縁性基板の上に印刷する。そしてガラス粒子が融解する温度、たとえば800℃以上で焼成して半導電面を得る。この時つなぎ剤として入っているエチルセルロースは350℃前後で酸化分解を起こして気化するため半導電面の中には含まれない。したがって全て無機物からなるため、化学的に非常に安定な半導電面が得られる。また、リチウムやナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属は融点の低減が可能となるもののアルカリ性洗剤などのアルカリ性溶液に容易に溶け、また、軽いため放電による電荷移動などの影響を受けて半導電面の中で容易に移動し、半導電面の化学的構造を脆いものに変えてしまうのであえて入れない配合としている。また、ガラス粒子が融解するような高温で焼成するため、請求項15に記載するように酸化アルミニウムや酸化ジルコニウムなど耐熱性と絶縁性を有するセラミックスの板を絶縁性基板として用いる必要がある。酸化アルミニウムからなる絶縁性基板は高い絶縁性および1500℃以上の高い耐熱性を有しているためガラス粒子をバインダ成分とした半導電面を設ける絶縁性基板として適している。また、曲げ強度が高く平面性が高いため、応力を受けても撓まないという特長を有する。
【0041】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。ちなみにこれら実施の形態は一例を示すものであり、本発明はこれら実施の形態に限定されるものではない。
【0042】
(実施の形態1)
電極板A1の表側および裏側の平面図を図1および図2に、電極板B2の表側および裏側の平面図を図3および図4に、また、電極板A1および電極板B2とを空間を設けながら交互に積層した集塵装置16の分解状態および組み立て状態を示す構成図を図5および図6に示す。電極板A1は絶縁性基板3の表側および裏側の面上に10の7〜11乗Ω/□の表面抵抗率を有する半導電面4が設けられた構造となっており、かつ半導電面4は上流側に棘状のパターン5を有する。電極板B2も同様に絶縁性基板3の表側および裏側の面上に10の7〜11乗Ω/□の表面抵抗率を有する半導電面4が設けられた構造となっている。こちらには上流側に棘状のパターン5を設けていない。図に示すように電極板A1および電極板B2ともに左右どちらかの端面にまで半導電面4が設けられており、また、左右両側の端面に予めスリット6を設けている。ちなみに図には示していないが半導電面4が設けられた端面の側に設けられたスリット6の壁面にも半導電塗料を塗布するなどして半導電面4が設けられている。
【0043】
そして図5および図6に示すように予めスリット6が設けられたスペーサー7を挟みながら電極板A1および電極板B2それぞれの半導電面4が設けられた側の端面を左右逆となるように交互に積層することで集塵装置16が得られる。集塵装置16の左右に設けられたスリット群にカーボンブラック粒子と樹脂性のバインダ成分および有機溶剤からなる導電塗料を流し込み、高圧端子8および低圧端子9をそれぞれのスリット群に差し込んでいる。このようにすることで電極板A1と高圧端子8、および電極板B2と低圧端子9とが電気的に接続されている。高圧端子8を通じて高圧電源10からkVオーダーの高電圧が電極板A1の半導電面4に供給され、また、低圧端子9を通じて高圧電源10から0kVの低電圧が電極板B2の半導電面4に供給される。ここで電極板A1と電極板B2とを交互に積層することで棘状のパターン5と電極板B2の半導電面4は対向している。
【0044】
棘状のパターン5には高電圧が、また、電極板B2の半導電面4には0kVが印加されており、両者には電位差が与えられている。そして棘状のパターン5の棘先端11は鋭く尖っているので不平等な強い電場がかかり、この強くて不平等な電場によって空気は電離し、イオンとなる。発生したイオンのうち棘状のパターン5と同じ極性のイオンは棘先端11から反発力を受けて電極板B2の半導電面4に向かって拡散するように移動する。電極板A1と電極板B2の間に設けられた空間を通過する粉塵はこのイオンと結合して帯電する。棘状のパターン5の下流側には電極板A1および電極板B2それぞれの半導電面4が対向して平等な電場が設けられている領域に送り込まれ、電場からクーロン力を受けて電極板B2の半導電面4に付着し、捕集される。
【0045】
従来であれば粉塵の帯電を行うために例えば引用文献に記載の集塵装置16の構成を示す図19に記載するような線状の荷電部放電電極102とそれを挟むように設けられた荷電部対向電極板103を有する荷電部101が別途必要であったが、本発明においては高電圧が印加された電極板A1の半導電面4の上流側に棘状のパターン5を有しており、かつ棘状のパターン5からイオンが発生して電極板B2の半導電面4に向かって拡散移動するように電極板A1と電極板B2との間隔および半導電面4の位置関係が定められているため、放電電極である棘状のパターン5が面状に設けられていながら放電を起こして粉塵を帯電させることが可能となっている。
【0046】
また、絶縁性基板3の上に半導電面4を設けた電極板A1および電極板B2を交互に積層するだけで上流側に位置する荷電部と下流側に位置する集塵部とを一体的に構成することが可能であり、非常に簡単に作成できるという利点を有する。また、半導電面4が10の7〜11乗オーダーの抵抗率を有するため半導電面4において急激な電荷移動が起こらない。そのため電極板A1および電極板B2の半導電面4の間でスパークを発生することがなく、また、電極板A1の棘状のパターン5においてもスパークを起こさずにコロナ放電が発生するため安定してイオンを供給し、粉塵を帯電することが可能である。
【0047】
(実施の形態2)
実施の形態1とは別の形態を有する電極板A1の表側および裏側の平面図を図7および図8に示す。電極板A1は絶縁性基板3の表側および裏側の面上に10の7〜11乗Ω/□の表面抵抗率を有する半導電面4が設けられた構造となっており、かつ半導電面4は上流側に放電可能なパターンとして線状のパターン12を有する。電極板B2および集塵装置16の構造は実施の形態1に示すものと同様とである。この集塵装置16において、電極板A1の上流側に設けた線状のパターン12と電極板B2に設けた半導電面4とは対向する位置関係となるため、高電圧が印加された線状のパターン12から電極板B2の0kVの電圧が印加される半導電面4に向かってコロナ放電が起こり、イオンが発生して拡散移動することによって粉塵は帯電する。帯電した粉塵は図には記載していないが送風機などの送風手段によって下流側に送り込まれ、電極板A1および電極板B2の半導電面4によって設けられた電場からクーロン力を受けて主に電極板B2に付着して捕集される。線状のパターン12を用いることでコロナ放電を均一に起こすことが可能となり、通風方向13に対して垂直となる領域全体にイオンを供給して拡散することが可能となるため高い集塵効率を得ることが可能である。
【0048】
(実施の形態3)
実施の形態1とは別の形態を有する電極板A1の表側および裏側の平面図を図9および図10に示す。図に示すように上流側に導電体からなる棘状のパターン5が設けられており、導電体からなる棘状のパターン5と半導電面4とが一部で重なり合うように接触している。すなわち棘状のパターン5のみが導電体で構成されており、放電が起こりやすい構造となっているため高い集塵効率が得られる。
【0049】
ここで導電体からなる棘状のパターン5はカーボンブラック粒子、もしくは銅やアルミ、銀といった導電性を有する金属粒子と樹脂などのバインダ成分、それを溶かす有機溶剤などの溶媒を混合したものを印刷乾燥することで得られる。導電体からなる棘状のパターン5には10の7〜11乗の表面低効率を有する半導電面4を介してkVオーダーの高電圧が印加される。そのため急激な電荷移動が半導電面4によって抑制され、スパークを発生することなくコロナ放電を起こすことが可能である。
【0050】
(実施の形態4)
上流側に設けた棘状のパターン5以外の領域にあたる半導電面4を被覆するように絶縁膜14を設けた電極板A1の表側および裏側の平面図を図11および図12に示す。電極板A1に設けた半導電面4のパターンは実施の形態1に示したものと同じである。図に記載するように電極板A1の半導電面4は上流側に設けられた棘状のパターン5を残して絶縁膜14で覆われている。このようにすることで棘状のパターン5以外の部分、例えば半導電面4の端面、もしくは半導電面4の面上から漏れるように発生するリーク放電を抑制することができる。棘状のパターン5のみで放電を起こすことで、上流側で粉塵を帯電させ下流側の電場が設けられた空間で捕集することが確実に行われるため、放電に伴って発生する電流を余分に流さずに粉塵を確実に捕集できるようになる。放電に伴う電流が増えると副生成物として発生するオゾンの発生量が増えるが、余分な電流をなくしてオゾンの発生量を抑制するためにも有効な手段となる。ちなみに図には記載していないがリーク放電を更に確実に減らそうとする場合は電極板B2にも半導電面4を被覆するように絶縁膜14を設けてもよい。
【0051】
ここで本実施の形態に沿って集塵装置16を作成し、集塵効率の評価を行った。電極板A1および電極板B2は絶縁性基板3の表裏両面にスクリーン印刷法で半導電塗料を印刷して乾燥することで半導電面4を設けるという方法で作成した。絶縁性基板3はポリエステル樹脂にガラス繊維およびマイカを混合して押出し成型した板を加熱プレスして樹脂の分子構造を結晶化することで高い平面性と強度を得たものを用いた。また、スクリーン印刷法についてであるが250本/インチのポリエステル製メッシュに乳剤を塗布し、図1、2および図3、4に示した半導電面4に相当するパターンの部分だけ乳剤を除去するように露光して得たスクリーン製版を用いた。半導電面4はこのスクリーン製版の上に半導電塗料を垂らし、スクリーン製版の裏面を絶縁性基板3に押し当てて転写し乾燥することでスクリーン製版に設けたパターンと同じ形状のものを得た。
【0052】
ここで電極板Aの上流側に設けた棘状のパターン5は、棘先端11どうしの間隔が広すぎると放電によってイオンが供給されない領域が出来てしまい、また、狭すぎると棘先端11どうしが同じ電圧であるためお互いが放電を阻害しあって放電が起こしにくくなる。本実施例においてはイオンを満遍なく供給し、かつお互いの放電を阻害しない間隔としては4〜8mmが好ましく、本実施の形態では6mmを採用し棘先端11を配列した。
【0053】
また、通風方向13における棘先端11の出代寸法は他の半導電面4の領域から放電を干渉されないように3mmもしくはそれ以上の値とした。
【0054】
アクリルポリオール、塩化ビニルおよび酢酸ビニル樹脂の樹脂製バインダ成分をケトン系有機溶剤に溶かしたものに半導電性材料としてアンチモンをドープした酸化スズを添着した中心粒子径200〜300nmの酸化チタン粒子を攪拌混合したものである。ちなみにこの半導電性材料を9.8MPaで圧縮成型した圧粉体の抵抗率は約5Ω・cmである。このままでは特に界面活性剤入りの油などに樹脂製バインダ成分が徐々に溶解して酸化チタン粒子が溶出してしまう可能性があるため、これを防ぐためにスクリーン印刷の前にポリイソシアネート樹脂を溶剤で溶かしたものを少量添加している。こうすることで樹脂バインダ成分が架橋されて高分子化するため油などに溶解しなくなる。
【0055】
また、半導電塗料中の有機溶剤の揮発と樹脂バインダ成分の架橋反応を十分行わせるために印刷後の乾燥を100℃15分の条件で行った。このようにして得た半導電面4の膜厚はおよそ6μmであった。その後同様にスクリーン印刷法を用いて図5に示すようなパターンで電極板A1の半導電面4の上に絶縁塗料を印刷し、100℃で15分間乾燥させることで厚さがおよそ6μmの絶縁膜14を設けた。絶縁塗料は半導電塗料と同様にアクリルポリオール、塩化ビニルおよび酢酸ビニル樹脂の樹脂製バインダ成分をケトン系有機溶剤に溶かしたものであるが、半導電塗料と異なり半導電性材料は含まれていない。
【0056】
また、絶縁膜14の化学的安定性を高めるために、半導電塗料の場合と同様に印刷前にポリイソシアネート樹脂を溶剤で溶かしたものを少量添加している。絶縁膜14のみを絶縁性基板3の上に設けて表面抵抗率を測定したところ10の15乗Ω/□以上であった。電極板B2も半導電塗料を図3および図4に示すパターンで表裏両面にスクリーン印刷法で印刷し、100℃15分の条件で乾燥することで半導電面4を得るという方法で作成した。ちなみに電極板B2には絶縁膜14を設けていない。また、半導電面4および絶縁膜14ともにスクリーン印刷法で得ているため寸法精度が高く精細なものが得られた。
【0057】
電極板A1および電極板B2を図5および図6に示すような形で厚さ1mmのスペーサー7を挟みながら左右の向きを逆にして交互に積層し、予め設けてあったスリット6にカーボンブラック粒子と樹脂、有機溶剤からなる導電塗料を流し込んで高圧端子8および低圧端子9を左右それぞれのスリット群に差し込んだ。ちなみにスリット6の壁面にも半導電塗料を塗布することで予め半導電面4が設けてあるため、導電塗料を介して電極板A1の半導電面4と高圧端子8、電極板B2の半導電面4と低圧端子9とが電気的に確実に接続するようになっている。このようにして得た集塵装置16に、図13に示すように送風機15を取り付けて0.5m/sの風速となるように通風させた。そして電極板Aに所定の高電圧を、電極板Bに0kVを印加した状態で集塵装置の上流側および下流側の空気をサンプリングし、レーザーパーティクルカウンター(以下LPC)を用いて粉塵個数濃度を測定することで集塵効率を求めた。ちなみに粒子径0.3μ以上の粉塵を測定対象とした。集塵効率の算出方法は以下のとおりである。
【0058】
集塵効率(%)=(1−下流側の粉塵個数濃度/上流側の粉塵個数濃度)×100
【0059】
また、比較対象として、図19に示したのと同様の、線状の荷電部放電電極102と荷電部対向電極板103からなる従来の荷電部101を上流側に設けた場合の測定も行った。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、従来の荷電部を用いた場合と同等の高い集塵性能が得られることがわかった。放電可能なパターンを絶縁性基板上に有する電極板を積層するだけで高い集塵効率が得られるため、従来と同等の高い集塵効率を有し、かつ構造が簡単で容易に作成可能な集塵装置16が得られることがわかった。
【0062】
(実施の形態5)
実施の形態1とは別の形態を有する電極板A1の表側の平面図を図14に、裏側の平面図を図15に示し、電極板B2の表側の平面図を図16に、裏側の平面図を図17に示す。また、この電極板A1および電極板B2からなる集塵装置16の分解状態を示す構成図を図18に示す。
【0063】
図14および図16に示すように電極板A1および電極板B2ともに表側の面には絶縁性基板3の上流側に棘状のパターン5を有する半導電面4を設け、図15および図17に示すように裏側の面には矩形状の半導電面4を設ける構造となっている。そして図18に示すようにスペーサー7を挟みながら電極板A1と電極板B2とを交互に積層して集塵装置16を得ている。そして実施の形態1に記載したのと同様の方法で電極板A1にはkVオーダーの高電圧が、また、電極板B2には0kVが印加されている。電極板A1の表側面の上流側に設けられた棘状のパターン5は電極板B2の裏側面に設けられた半導電面4と対向する位置関係となり、また、電極板B2の表側面の上流側に設けられた棘状のパターン5は電極板A1の裏側の面に設けられた半導電面4と対向する位置関係となる。
【0064】
ここで仮に電極板A1に5kVの正の電圧が印加された場合、電極板A1の棘状のパターン5と電極板B2の半導電面4との間でプラス極性のコロナ放電が起こってプラスのイオンが発生し、また、電極板B2の棘状のパターン5と電極板A1の半導電面4との間でマイナス極性のコロナ放電が起こってマイナスのイオンが発生する。それぞれのイオンは棘状のパターン5から反発力を受けるように拡散移動し、電極板A1および電極板B2の間を通過する粉塵を帯電する。そして図には記載していないが送風機などの送風手段によって下流側へと送り込まれ、対向する電極板A1および電極板B2それぞれの半導電面4によって形成された電場からクーロン力を受ける。プラスに帯電した粉塵は主に電極板B2に、また、マイナスに帯電した粉塵は主に電極板A1に付着して捕集される。ここで捕集されずに集塵装置16の下流側に漏れた粉塵は帯電しているが、プラスに帯電した粉塵およびマイナスに帯電した粉塵双方が存在するため両者が接触してそれぞれの粉塵が有する電荷を中和し、帯電を解消する。そのため集塵装置16以降の下流側に存在するダクトや筐体内部、もしくは空気の吹出口近傍に存在する壁面などに粉塵が付着して汚すことがない集塵装置16が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の集塵装置は粉塵を帯電させる荷電部を別途設けずに高い集塵性能が得られると同時にスパークを防止することが可能であるため、高い集塵性能と安全性、および簡単な構造であることが同時に求められる集塵装置、例えば工場のオイルミスト集塵機や家庭用空気清浄機、または給気型換気扇などに搭載する集塵デバイスとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態1に記載の電極板Aの表側面を示す平面図
【図2】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図3】同電極板Bの表側面を示す平面図
【図4】同電極板Bの裏側面を示す平面図
【図5】同集塵装置の分解状態を示す構成図
【図6】同集塵装置の組み立て状態を示す構成図
【図7】実施の形態2に記載の電極板Aの表側面を示す平面図
【図8】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図9】実施の形態3に記載の電極板Aの表側面を示す平面図
【図10】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図11】実施の形態4に記載の同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図12】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図13】同集塵装置の集塵効率を測定する方法を示す図
【図14】実施の形態5に記載の同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図15】同電極板Aの裏側面を示す平面図
【図16】同電極板Bの表側面を示す平面図
【図17】同電極板Bの裏側面を示す平面図
【図18】同集塵装置の分解状態を示す構成図
【図19】従来例に記載の集塵装置を示す構成図
【符号の説明】
【0067】
1 電極板A
2 電極板B
3 絶縁性基板
4 半導電面
5 棘状のパターン
6 スリット
7 スペーサー
8 高圧端子
9 低圧端子
10 高圧電源
11 棘先端
12 線状のパターン
13 通風方向
14 絶縁膜
15 送風機
16 集塵装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極板Aと電極板Bとを空間を設けながら交互に積層し、それぞれの電極板に異なる電圧を印加して形成される電場に通風して集塵する集塵装置において、電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方が、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ、上流側に放電可能なパターンを有する半導電面を絶縁性基板の表面に備えた半導電面電極板であることを特徴とする集塵装置。
【請求項2】
放電可能なパターンが棘状であることを特徴とする請求項1記載の集塵装置。
【請求項3】
放電可能なパターンが開口に対して横に伸びた線状であることを特徴とする請求項1記載の集塵装置。
【請求項4】
電極板Aおよび電極板Bをともに、表に放電可能なパターンを有する半導電面を設け、裏に放電可能なパターンを有さない半導電面を設けた半導電面電極板とすることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の集塵装置。
【請求項5】
放電可能なパターンを残してそれ以外の半導電面の上に絶縁膜を設けることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の集塵装置。
【請求項6】
放電可能なパターンのみを10の5乗Ω/□以下の表面抵抗率を有する導電面で形成することを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の集塵装置。
【請求項7】
半導電性材料、バインダ成分および溶媒からなり、塗布面の表面抵抗率が10の7〜11乗Ω/□オーダーとなる半導電塗料を絶縁性基板の表面に塗布し、乾燥して半導電面を得ることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の集塵装置。
【請求項8】
半導電性材料がイオン導電性ポリマーからなることを特徴とする請求項7記載の集塵装置。
【請求項9】
半導電性材料が酸化スズ、もしくはアンチモンをドープした酸化スズであることを特徴とする請求項7記載の集塵装置。
【請求項10】
半導電性材料が酸化スズもしくはアンチモンをドープした酸化スズをそれよりも大きい粒子径を有する担持体粒子に添着したものであることを特徴とする請求項7記載の集塵装置。
【請求項11】
バインダ成分が樹脂である半導電塗料に分子架橋剤を添加することを特徴とする請求項7乃至10いずれかに記載の集塵装置。
【請求項12】
半導電塗料をスクリーン印刷法で絶縁性基板に塗布して半導電面を設けることを特徴とする請求項7乃至11いずれかに記載の集塵装置。
【請求項13】
絶縁性基板が樹脂材料にガラス短繊維およびマイカを充填して押出し成型した後に加熱積層プレスした樹脂板であることを特徴とする請求項7乃至12いずれかに記載の集塵装置。
【請求項14】
バインダ成分がアルカリ金属を含まないガラス粒子とし、ガラスが融解する温度で焼成して半導電面を得ることを特徴とする請求項7、9または10いずれかに記載の集塵装置。
【請求項15】
絶縁性基板がセラミックスからなる板であることを特徴とする請求項14記載の集塵装置。
【請求項1】
電極板Aと電極板Bとを空間を設けながら交互に積層し、それぞれの電極板に異なる電圧を印加して形成される電場に通風して集塵する集塵装置において、電極板Aおよび電極板Bの少なくともどちらか一方が、10の7〜11乗Ω/□オーダーの表面抵抗率を有し、かつ、上流側に放電可能なパターンを有する半導電面を絶縁性基板の表面に備えた半導電面電極板であることを特徴とする集塵装置。
【請求項2】
放電可能なパターンが棘状であることを特徴とする請求項1記載の集塵装置。
【請求項3】
放電可能なパターンが開口に対して横に伸びた線状であることを特徴とする請求項1記載の集塵装置。
【請求項4】
電極板Aおよび電極板Bをともに、表に放電可能なパターンを有する半導電面を設け、裏に放電可能なパターンを有さない半導電面を設けた半導電面電極板とすることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の集塵装置。
【請求項5】
放電可能なパターンを残してそれ以外の半導電面の上に絶縁膜を設けることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の集塵装置。
【請求項6】
放電可能なパターンのみを10の5乗Ω/□以下の表面抵抗率を有する導電面で形成することを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の集塵装置。
【請求項7】
半導電性材料、バインダ成分および溶媒からなり、塗布面の表面抵抗率が10の7〜11乗Ω/□オーダーとなる半導電塗料を絶縁性基板の表面に塗布し、乾燥して半導電面を得ることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の集塵装置。
【請求項8】
半導電性材料がイオン導電性ポリマーからなることを特徴とする請求項7記載の集塵装置。
【請求項9】
半導電性材料が酸化スズ、もしくはアンチモンをドープした酸化スズであることを特徴とする請求項7記載の集塵装置。
【請求項10】
半導電性材料が酸化スズもしくはアンチモンをドープした酸化スズをそれよりも大きい粒子径を有する担持体粒子に添着したものであることを特徴とする請求項7記載の集塵装置。
【請求項11】
バインダ成分が樹脂である半導電塗料に分子架橋剤を添加することを特徴とする請求項7乃至10いずれかに記載の集塵装置。
【請求項12】
半導電塗料をスクリーン印刷法で絶縁性基板に塗布して半導電面を設けることを特徴とする請求項7乃至11いずれかに記載の集塵装置。
【請求項13】
絶縁性基板が樹脂材料にガラス短繊維およびマイカを充填して押出し成型した後に加熱積層プレスした樹脂板であることを特徴とする請求項7乃至12いずれかに記載の集塵装置。
【請求項14】
バインダ成分がアルカリ金属を含まないガラス粒子とし、ガラスが融解する温度で焼成して半導電面を得ることを特徴とする請求項7、9または10いずれかに記載の集塵装置。
【請求項15】
絶縁性基板がセラミックスからなる板であることを特徴とする請求項14記載の集塵装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−227832(P2010−227832A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78433(P2009−78433)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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