説明

集電装置の空力騒音抑制構造、集電装置の揚力調整装置及びカルマン渦低減構造

【課題】装着が容易で簡単な構造によりカルマン渦の強度を弱め集電舟からの空力音を低減することができるとともに、集電舟に作用する揚力を簡単に調整することができる集電装置の空力騒音抑制構造、集電装置の揚力調整装置及びカルマン渦低減構造を提供する。
【解決手段】集電舟7がA1方向に走行すると、擾乱付与部9のリボン部9a,9bが気流F1を受けてなびく。このため、カルマン渦F11の発生源である下側の剥離せん断層とリボン部9aとが干渉し、この下側の剥離せん断層から発生する大きなカルマン渦F11の生成が妨げられて、このカルマン渦F11の強度が弱まって空力音が抑制される。また、集電舟7の後流に生ずるカルマン渦F11とリボン部9bとが干渉してこのカルマン渦F11を崩壊させ、この下側の剥離せん断層から発生するカルマン渦F11の強度が弱まって空力音が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、集電装置から発生する空力騒音を抑制する集電装置の空力騒音抑制構造、集電装置に作用する揚力を調整する集電装置の揚力調整装置、及び流れ場に存在する物体によって発生するカルマン渦を低減するカルマン渦低減構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の集電装置は、沿線騒音低減の点から集電舟から発生する空力音が小さいことと、集電性能の点から常に安定した揚力が作用し、風向やすり板の摩耗による形状の変化に対して揚力が敏感に変化しないことの2点が重要視されている。集電舟のような鈍頭な断面形状を有する柱状部材から生じる空力音の主たる原因として、部材背後に生じるカルマン渦からの圧力変動であることが知られている。このカルマン渦は、強い渦が物体後流のスパン方向に位相が揃って放出されることで、大きな圧力変動が生じ、それが遠方へ伝搬して強い空力音となる。このようなカルマン渦が原因で生じる空力音は特にエオルス音と呼ばれ、カルマン渦の放出周期に応じた狭帯域音を生ずる。エオルス音の低減にはカルマン渦自体を発生しないようにしたり、発生したカルマン渦の強度を弱めたり、構造を崩すといった対策が有効である。
【0003】
エオルス音を低減する方法としては、流れの剥離そのものを抑制する方法と、カルマン渦のスパン方向の構造を崩す方法の2つの方法が主として提案されている。流れの剥離そのものを抑制する方法としては、カルマン渦が流れの剥離によって生ずるため、断面形状を流線形化するなどして物体表面からの流れの剥離そのものを抑制することで、カルマン渦の発生自体を低減する方法がある。流線形化は空力音低減には最も基本的な方法であるが、集電舟については揚力特性との兼ね合いで実現が難しい。カルマン渦のスパン方向の構造を崩す方法としては、カルマン渦の生成を許容し、カルマン渦のスパン方向の構造を崩すことで、スパン方向に位相の揃った強い渦を生成させる方法がある。具体的には、集電舟に貫通孔を設けて物体背後の渦を吹き飛ばす方法と、スパン方向に集電舟の断面形状を変化させ、カルマン渦のスパン方向の構造を崩す方法とが提案されている。
【0004】
翼のような流線形物体については、流れが翼表面を沿って流れるときには強い負圧が生じ、物体上下面の圧力の均衡が崩れて揚力が生じる。しかし、翼のような流線形物体の場合、風向や形状の僅かな変化に対して揚力の大きさが敏感に変化してしまう。そのため、集電舟への適用を考えた場合には、様々な条件下での体向流にさらされるうえ、すり板摩耗による形状変化が生じるといった集電舟特有の制約条件により、断面形状の流線形化には適していない。そこで、集電舟の揚力特性の安定化のため、集電舟は矩形に近い鈍頭の形状断面を採用し、流れを物体表面で剥離させて物体表面での強い負圧の生成を回避し、揚力の安定化を図っている。一方、流れの剥離を生じるので、空力音は大きくなってしまう。また、最適化手法を用いて揚力特性と空力音を両立するような断面形状の平滑化が提案されている。
【0005】
従来の集電装置の空力騒音抑制構造(以下、従来技術1という)は、集電舟の前方の空気を取り入れる前側通気孔と、この通気孔から取り入れた空気を集電舟の後方に排出する後側通気孔と、前側通気孔と後側通気孔とを接続する空気管路などを備えている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1では、後側通気孔から集電舟の後方に向かって空気を噴射し、この集電舟の後方に発生するカルマン渦を吹き消して、集電舟の長さ方向におけるカルマン渦の構造を崩壊させ、カルマン渦に起因するエオルス音を低減させている。
【0006】
従来の集電装置の空力騒音抑制構造(以下、従来技術2という)は、所定の曲線で定義された形状を配置した流れ場のシミュレーションを実行し、目的関数が最小になるような形状に集電舟を形成している(例えば、特許文献2参照)。この従来技術2では、例えば、進行方向前端が丸くなり進行方向後端が絞り込んだ全体にずんぐりした形状に集電舟を形成して、この集電舟の後方に発生するカルマン渦のこの集電舟の長さ方向における構造が発達するのを阻害している。
【0007】
従来の集電装置の空力騒音抑制構造(以下、従来技術3という)は、一定の制約条件下における集電舟の断面形状の初期プロファイルを設定するとともに、模型のプロファイルをこの初期プロファイルに対応するように設定し、この模型が流体から受ける物理量を測定している(例えば、特許文献3参照)。この従来技術3では、模型が流体から受ける物理量の測定値から目的関数を算出し、この目的関数が最小又は最大になるまで集電舟の断面形状のプロファイルを変更して、揚力特性と空力音の低減とを両立可能な集電舟の断面形状を最適化している。
【0008】
従来の集電装置の空力騒音抑制構造(以下、従来技術4という)は、集電舟の前縁の上下から突出及び没入可能な可動式ラフネスと、すり板とトロリ線との間の接触力に応じて可動式ラフネスを駆動する駆動源などを備えている(例えば、特許文献4参照)。この従来技術4では、接触力が所定の上限値を超えたときには下側の可動式ラフネスを駆動源が突出させ、この接触力が所定の下限値を下回ったときには上側の可動式ラフネスを駆動源が突出させて、集電舟に作用する揚力を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-137038号公報
【0010】
【特許文献2】特開2005-020834号公報
【0011】
【特許文献3】特開2009-145259号公報
【0012】
【特許文献4】特開2008-245490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術1は、集電舟を貫通する貫通孔をこの集電舟に形成し、前後の貫通孔を配管で接続する必要がある。このため、従来技術1では、集電舟の構造が複雑になって実施が困難であるという問題点がある。従来技術2は、最適三次元形状に集電舟を形成する必要がある。このため、従来技術2では、集電舟の形状が複雑化してこの集電舟の重量が増加するために、トロリ線に対するすり板の追従性能が低下してしまう問題点がある。従来技術3は、揚力特性を安定化しつつ集電舟の形状を平滑化し流れの剥離を抑えている。しかし、従来技術3では、集電舟の断面形状が流線形になるため加工が困難になり製造コストが高くなってしまう問題点がある。従来技術4は、可動式ラフネスによって揚力を調整し境界層の乱流繊維により気流の剥離を抑制している。しかし、従来技術4では、集電舟への駆動源などの組み込みが困難であり、集電舟の構造が複雑になって実施が困難であるという問題点がある。
【0014】
この発明の課題は、装着が容易で簡単な構造によってカルマン渦の強度を弱め集電舟からの空力音を低減することができるとともに、集電舟に作用する揚力を簡単に調整することができる集電装置の空力騒音抑制構造、集電装置の揚力調整装置及びカルマン渦低減構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図2及び図4に示すように、集電装置(3)から発生する空力騒音を抑制する集電装置の空力騒音抑制構造であって、前記集電装置の進行方向後側に発生するカルマン渦(F11)による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦(F11)に擾乱を与えるとともに、このカルマン渦(F11)の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える擾乱付与部(9)を備えることを特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造(8)である。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、図2及び図4〜図6に示すように、前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟(7)の下方に配置されていることを特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造である。
【0017】
請求項3の発明は、請求項2に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、図4及び図5に示すように、前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の進行方向前側及び進行方向後側に、この集電舟の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、気流(F1)を受けることによってなびく柔軟なリボン部(9a,9b)を備えることを特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造である。
【0018】
請求項4の発明は、図7〜図9に示すように、集電装置(3)から発生する空力騒音を抑制する集電装置の空力騒音抑制構造であって、前記集電装置の進行方向後側に発生するカルマン渦(F11)による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦に擾乱を与える擾乱付与部(9)を備えることを特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造(8)である。
【0019】
請求項5の発明は、請求項4に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟(7)の下方に配置されていることを特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造である。
【0020】
請求項6の発明は、請求項5に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、図7及び図8に示すように、前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の略中央に、この集電舟の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、気流(F1)を受けることによってなびく柔軟なリボン部(9c)を備えることを特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造である。
【0021】
請求項7の発明は、請求項5に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、図9に示すように、前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟(7)の進行方向後側に、この集電舟の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、気流(F1)を受けることによってなびく柔軟なリボン部(9b)を備えることを特徴としている集電装置の空力騒音抑制構造(8)である。
【0022】
請求項8の発明は、図10に示すように、集電装置(3)から発生する空力騒音を抑制する集電装置の空力騒音抑制構造であって、前記集電装置の進行方向後側に発生するカルマン渦(F11)による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える擾乱付与部(9)を備えることを特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造(8)である。
【0023】
請求項9の発明は、請求項8に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟(7)の下方に配置されていることを特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造である。
【0024】
請求項10の発明は、請求項9に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の進行方向前側に、この集電舟の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、気流(F1)を受けることによってなびく柔軟なリボン部(9a)を備えることを特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造である。
【0025】
請求項11の発明は、図11及び図12に示すように、集電装置(3)に作用する揚力(±L)を調整する集電装置の揚力調整装置であって、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の集電装置の空力騒音抑制構造(8)と、前記集電装置の空力騒音抑制構造をこの集電装置の集電舟(7)に着脱自在に装着する装着部(14)とを備える集電装置の揚力調整装置(13)である。
【0026】
請求項12の発明は、図13に示すように、流れ場に存在する物体(15)によって発生するカルマン渦(F21)を低減するカルマン渦低減構造であって、前記物体の後方に発生するカルマン渦を抑制するために、このカルマン渦に擾乱を与えるとともに、このカルマン渦の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える擾乱付与部(17)を備えることを特徴とするカルマン渦低減構造(16)である。
【0027】
請求項13の発明は、請求項12に記載のカルマン渦低減構造において、前記擾乱付与部は、前記物体の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体の前側及び後側に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部(17a,17b)を備えることを特徴とするカルマン渦低減構造である。
【0028】
請求項14の発明は、図14に示すように、流れ場に存在する物体(15)によって発生するカルマン渦(F21)を低減するカルマン渦低減構造であって、前記物体の後方に発生するカルマン渦を抑制するために、このカルマン渦に擾乱を与える擾乱付与部(17)を備えることを特徴とするカルマン渦低減構造である。
【0029】
請求項15の発明は、請求項14に記載のカルマン渦低減構造において、前記擾乱付与部は、前記物体の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体の略中央に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部(17c)を備えることを特徴とするカルマン渦低減構造である。
【0030】
請求項16の発明は、請求項14に記載のカルマン渦低減構造において、図15に示すように、前記擾乱付与部は、前記物体の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体の後側に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部(17)を備えることを特徴とするカルマン渦低減構造である。
【0031】
請求項17の発明は、図16に示すように、流れ場に存在する物体(15)によって発生するカルマン渦(F21)を低減するカルマン渦低減構造であって、前記物体の後方に発生するカルマン渦を抑制するために、このカルマン渦の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える擾乱付与部(17)を備えることを特徴とするカルマン渦低減構造である。
【0032】
請求項18の発明は、請求項17に記載のカルマン渦低減構造において、前記擾乱付与部は、前記物体の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体の前側に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部(17a)を備えることを特徴とするカルマン渦低減構造である。
【発明の効果】
【0033】
この発明によると、装着が容易で簡単な構造によってカルマン渦の強度を弱め集電舟からの空力音を低減することができるとともに、集電舟に作用する揚力を簡単に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力騒音低減構造を備える集電装置を概略的に示す斜視図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力騒音低減構造を備える集電装置を概略的に示す側面図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力騒音低減構造を備える集電装置を概略的に示す平面図である。
【図4】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造の作用を説明するための概念図である。
【図5】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造を概略的に示す斜視図であり、(A)は集電舟の上面側から見た状態を示す斜視図であり、(B)は集電舟の下面側から見た状態を示す斜視図である。
【図6】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造の機能を模式的に示す側面図であり、(A)は集電装置がA1方向に移動している状態を示す側面図であり、(B)は集電装置がA2方向に移動している状態を示す側面図である。
【図7】この発明の第2実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造を概略的に示す斜視図であり、(A)は集電舟の上面側から見た状態を示す斜視図であり、(B)は集電舟の下面側から見た状態を示す斜視図である。
【図8】この発明の第2実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造の機能を模式的に示す側面図であり、(A)は集電装置がA1方向に移動している状態を示す側面図であり、(B)は集電装置がA2方向に移動している状態を示す側面図である。
【図9】この発明の第3実施形態に係る集電装置の空力騒音低減構造を備える集電装置を概略的に示す側面図である。
【図10】この発明の第4実施形態に係る集電装置の空力騒音低減構造を備える集電装置を概略的に示す側面図である。
【図11】この発明の第5実施形態に係る集電装置の揚力調整装置を備える集電装置を風洞試験装置の風洞測定部に設置した状態を概略的に示す外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図である。
【図12】この発明の第5実施形態に係る集電装置の揚力調整装置を概略的に示す縦断面図であり、(A)は集電舟の進行方向前側及び進行方向後側に擾乱付与部を装着した状態を示す縦断面図であり、(B)は集電舟の中央に擾乱付与部を装着した状態を示す縦断面図である。
【図13】この発明の第6実施形態に係るカルマン渦低減構造を概略的に示す外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図であり、(C)は斜視図である。
【図14】この発明の第7実施形態に係るカルマン渦低減構造を概略的に示す外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図であり、(C)は斜視図である。
【図15】この発明の第8実施形態に係るカルマン渦低減構造を概略的に示す外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図であり、(C)は斜視図である。
【図16】この発明の第9実施形態に係るカルマン渦低減構造を概略的に示す外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図であり、(C)は斜視図である。
【図17】実施例1,2及び比較例に係る集電舟の縦断面図である。
【図18】実施例1,2及び比較例に係る集電舟の風洞試験の実施状況を示す写真である。
【図19】実施例1に係る集電舟の外観形状と風洞測定部に設置した状態を示す図であり、(A)は集電舟の側面図であり、(B)は風洞測定部に設置した状態を示す写真である。
【図20】実施例2に係る集電舟の外観形状と風洞測定部に設置した状態を示す図であり、(A)は集電舟の側面図であり、(B)は風洞測定部に設置した状態を示す写真である。
【図21】実施例1,2及び比較例に係る集電舟の空力音の測定結果を示すグラフである。
【図22】実施例1,2及び比較例に係る集電舟のリボン部による揚力変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1〜図3に示す架線1は、線路上空に架設される架空電車線であり、所定の間隔をあけて支持点で支持されている。トロリ線1aは、集電装置3が接触移動する電線であり、集電装置3が摺動することによって、図2に示す車両2に負荷電流を供給する。車両2は、電車又は電気機関車などの電気車であり、例えば高速で走行する新幹線(登録商標)などの鉄道車両である。車体2aは、乗客又は貨物を積載し輸送するための構造物である。
【0036】
集電装置3は、トロリ線1aから電力を車両2に導くための装置である。集電装置3は、図2に示す台枠4と、碍子(がいし)5と、図1及び図2に示す枠組6と、図1〜図3に示す集電舟(舟体)7と、空力騒音抑制構造8などを備えている。図2に示す台枠4は、枠組6を支持して車体2aの屋根上に設置される部材であり碍子5上に設置されている。碍子5は、車体2aと台枠4との間を電気的に絶縁する部材である。図1及び図2に示す枠組6は、集電舟7を支持する部材であり、集電舟7を支持した状態で上下方向に動作可能なリンク機構である。枠組6は、台枠4に取り付けられて上昇力を付与する主ばね(押上げ用ばね)によって上方に押上げられている。枠組6は、舟支え部6aと、上枠6bと、下枠6cと、屈曲部(関節部)6dなどを備えている。舟支え部6aは、集電舟7を支持する部分である。舟支え部6aは、集電舟7を架線1に対して水平に押上げる機構部である。上枠6bは、舟支え部6aに回転自在に連結される部材であり、下枠6cは図示しない主軸に固定される部材であり、屈曲部6dは上枠6bと下枠6cとが回転自在に連結される中間ヒンジとして機能する部分である。集電装置3は、車両2の進行方向(図中A1,A2方向)に対して非対称であり、一方向又は両方向に使用可能なシングルアーム型パンタグラフである。図1及び図2に示す集電装置3は、車両2の進行方向後側に屈曲部6dが位置する反なびき方向ではなく、車両2の進行方向前側に屈曲部6dが位置するなびき方向に移動している。
【0037】
図1〜図3に示す集電舟7は、すり板7aが取り付けられ支持される部材である。集電舟7は、一般にトロリ線1aと直交する方向(まくらぎ方向)に伸びた細長い金属製の柱状部材である。集電舟7は、図1〜図3に示すすり板7aと、図2に示すすり板支持部7bと、図1〜図3に示すホーン7cなどを備えている。集電舟7は、例えば、すり板7aが複数に分割された多分割すり板体であり、すり板7aを多数のすり板片に分割することによって、トロリ線1aと接触して加振されるすり板7aの質量を低減し、トロリ線1aに対する追従性能を向上させた新幹線用(高速用)パンタグラフの集電舟である。集電舟7は、図2に示すように、この集電舟7の中心軸に対して前後対称であり、前後がいずれも同一形状に形成されており、トロリ線1aと間隔をあけて対向する水平な上面7dと、舟支え部6aに支持されてこの上面7dと平行な下面7eと、上面7dの上縁に接続する垂直面とこの垂直面の下縁部で接続し下面7eに向かって後方に傾斜する傾斜面とを有する端面7fなどを備えている。
【0038】
図1〜図3に示すすり板7aは、トロリ線1aと摺動する部材である。すり板7aは、車両2の進行方向と直交する方向に伸びた金属製又は炭素製の板状部材である。すり板7aは、集電舟7とは別個に製造される別部品であり、集電舟7の上面7dに形成された凹部に収容されており、この集電舟7と一体に取り付けられている。図3に示すすり板7aの中央部は、車両2が本線走行時に主にトロリ線1aと摺動する主すり板として機能し、すり板7aの両端部は主すり板に比べて摺動頻度が低い補助すり板として機能する。すり板7aには、トロリ線1aと接触移動(摺動)して大電流が流れるため、一定の機械的強度、導電性及び耐摩耗性などが要求される。
【0039】
図2に示すすり板支持部7bは、すり板7aを弾性支持する部分である。すり板支持部7bは、すり板7aと集電舟7との間に配置されている。すり板支持部7bは、すり板7aと集電舟7とが相対変位可能なように集電舟7にすり板7aを支持するばねなどの弾性体であり、すり板7aとトロリ線1aとの間に作用する接触力Cが予め定められた標準値である時に中立位置になるようにばね定数などが設定されている。すり板支持部7bは、集電舟7に作用する接触力Cが標準値よりも大きくなると縮み、集電舟7に作用する接触力Cが標準値よりも小さくなると伸びる。
【0040】
図1〜図3に示すホーン7cは、車両2が分岐器を通過するときに、この分岐器の上方で交差する2本のトロリ線1aのうち車両2の進行方向とは異なる方向のトロリ線1aへの割込みを防止するための部材である。ホーン7cは、集電舟7の長さ方向の両端部から突出しており、先端部が湾曲して形成された金属製の部材である。
【0041】
図4〜図6に示す空力騒音抑制構造8は、図1〜図3に示す集電装置3から発生する空力騒音を抑制する構造である。空力騒音抑制構造8は、図4に示すように、集電舟7の下面7eの角部近傍に生ずる剥離せん断層に擾乱を与えて、この剥離せん断層からのカルマン渦F11の生成を妨げることによって、カルマン渦F11の強度を弱めてこのカルマン渦F11に起因するエオルス音を低減する。また、空力騒音抑制構造8は、集電舟7の後方に発生するカルマン渦F11に擾乱を与えてこのカルマン渦F11を崩壊させることによって、カルマン渦F11の強度を弱めてこのカルマン渦F11に起因するエオルス音を低減する。ここで、カルマン渦F11とは、物体の表面で剥離した流れが物体の背後に交互に回り込むときに生じる渦(横渦)であり、エオルス音とはこのカルマン渦F11が原因となって生ずる空力音である。空力騒音抑制構造8は、図4及び図5に示すように、気流F1の流れる方向に対して略直交するように集電舟7の下面7eに配置されている。空力騒音抑制構造8は、図1〜図6に示す擾乱付与部9などを備えている。
【0042】
図1〜図6に示す擾乱付与部9は、集電装置3の進行方向後側に発生するカルマン渦F11による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦F11に擾乱を与えるとともに、このカルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える部分である。擾乱付与部9は、集電装置3の集電舟7の下方に配置されており、この集電舟7の進行方向前側及び進行方向後側に、この集電舟7の下面7eの中心線に対して対称に配置されている。擾乱付与部9は、図4〜図6に示すリボン部9a,9bなどを備えている。擾乱付与部9は、図6(A)に示すように、集電装置3がA1方向に移動するときには、進行方向前側のリボン部9aによってカルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与え、進行方向後側のリボン部9bによってカルマン渦F11に擾乱を与える。一方、擾乱付与部9は、図6(B)に示すように、集電装置3がA1方向とは逆方向のA2方向に移動するときには、進行方向前側のリボン部9bによってカルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与え、進行方向後側のリボン部9aによってカルマン渦F11に擾乱を与える。
【0043】
図4〜図6に示すリボン部9a,9bは、カルマン渦F11及びこのカルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層と干渉する部分である。リボン部9a,9bは、集電舟7の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、この集電舟7の進行方向前側及び進行方向後側に配置されている。リボン部9a,9bは、気流F1を受けることによってなびく柔軟な部材であり、所定の長さ及び幅で帯状に形成されている。リボン部9a,9bの長さは、このリボン部9a,9bの幅程度(幅<長さ)に下限値を設定することが好ましく、このリボン部9a,9bの架線1及びすり板7aへの巻き込みを防止するためにこのリボン部9a,9bの基部からすり板7aの上面までの縁面距離に上限値を設定することが好ましい。このため、リボン部9a,9bの長さは、例えば、集電舟7の厚さ程度の10mm以上40mm以下の範囲内に設定することが好ましい。リボン部9a,9bの幅は、加工可能な幅に下限値を設定することが好ましく、このリボン部9a,9bの長さ程度(幅<長さ)に上限値を設定することが好ましい。このため、リボン部9a,9bの幅は、例えば、1mm以上40mm未満の範囲内に設定することが好ましい。リボン部9a,9bは、例えば、木綿、絹若しくはガラス繊維などの天然繊維、又はポリアミド、ポリウレタン、アセテート若しくはポリエステルなどの合成繊維の糸を使用して製造した織物、和紙若しくは洋紙などの紙類、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリノルボルネンゴム又はアクリルゴムなどの加硫ゴム、スチレン系、オレフィン系又は塩化ビニル系などの熱可塑性エラストマー(TPE)などである。リボン部9a,9bは、例えば、表面に絶縁性塗料などを塗布して絶縁処理がされている。リボン部9a,9bは、図4〜図6に示すように、上端部が集電舟7の端面7fの下方(下面7eの両縁角部)に接着剤などによって貼り付けられている。
【0044】
次に、この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造の作用について説明する。
図1〜図6に示す空力騒音抑制構造8を集電装置3が備えていない場合には、図2に示す車両2がA1方向に走行すると、図4に示すように集電舟7の表面で気流F1が剥離して、この集電舟7の進行方向後側に気流F1が交互に回り込む。このため、上下の剥離せん断層から発生する渦の相互作用によってカルマン渦F11が発生し、このカルマン渦F11によって空力音が発生する。例えば、上側の渦が生成するとこの渦の圧力変動によって下側の剥離せん断層が刺激されて新しい渦が生じ、上側の渦が流下した後に下側の渦が成長して、今度は上下の渦の役割が逆転して同様の事象が生じる。このように渦が互いに影響を与えながら交互に生成することによって、エオルス音に起因する空力音が発生する。
【0045】
一方、図1〜図6に示す空力騒音抑制構造8を集電装置3が備えている場合には、図2に示す車両2がA1方向に走行すると、図4に示すように擾乱付与部9のリボン部9a,9bが気流F1を受けてなびく。このため、進行方向前側のリボン部9aが下流側になびくことによって、カルマン渦F11の発生源である集電舟7の上流側の角部に生ずる下側の剥離せん断層とこのリボン部9aとが干渉し、この下側の剥離せん断層をこのリボン部9aが乱す。その結果、リボン部9aと下側の剥離せん断層との干渉作用によって、この下側の剥離せん断層から発生する大きなカルマン渦F11の生成が妨げられて、このカルマン渦F11の強度が弱められる。また、進行方向後側のリボン部9bが下流側になびくことによって、集電舟7の後流に生ずるカルマン渦F11とこのリボン部9bとが干渉して、このカルマン渦F11をこのリボン部9bが乱しこのカルマン渦F11を崩壊させる。その結果、下側の剥離せん断層から発生するカルマン渦F11とリボン部9bとの干渉作用によって、この下側の剥離せん断層から発生するカルマン渦F11の強度が弱められる。図1〜図6に示すように、集電舟7の下側のみに空力音の低減対策が施されていても、上側の剥離せん断層から発生するカルマン渦F11の成長が妨げられて、上下の渦の相互作用が弱まり、カルマン渦F11の強度が弱まって空力音が抑制される。
【0046】
例えば、図2及び図6(A)に示すように、上り線をA1方向に走行している車両2が始発駅又は終着駅で折り返して、図6(B)に示すようにこの車両2が下り線線をA2方向に走行すると、A1方向にこの車両2が走行していたときの上流側のリボン部9aと下流側のリボン部9bの役割が逆転する。このため、図6(B)に示すように、進行方向前側のリボン部9bが集電舟7の上流側の角部に生ずる下側の剥離せん断層に擾乱を与えるとともに、進行方向後側のリボン部9aが集電舟7の後流に生ずるカルマン渦F11に擾乱を与えて、カルマン渦F11の強度が弱まって空力音が抑制される。
【0047】
この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、集電装置3の進行方向後側に発生するカルマン渦F11による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦F11に擾乱付与部9が擾乱を与えるとともに、このカルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層に擾乱付与部9が擾乱を与える。このため、剥離せん断層からの大きなカルマン渦F11の生成を妨げるとともに、このカルマン渦11自体を崩壊させて、このカルマン渦F11に起因するエオルス音を低減することができる。
【0048】
(2) この第1実施形態では、擾乱付与部9が集電装置3の集電舟7の下方に配置されている。例えば、集電装置3の集電舟7の上側にはトロリ線1aと摺動するすり板7aが存在するため、この集電舟7の上側に擾乱付与部9を設置することができない。また、擾乱付与部9をすり板7aの一部として製作した場合には、すり板7aと擾乱付与部9との間に発生するアークによって擾乱付与部9が損傷してしまう。この第1実施形態では、集電舟7の構造を大規模に変更せずに、この集電舟7の下方に擾乱付与部9を取り付けるだけで、すり板7aの摩耗による形状変化による影響を考慮することなく、空力音を簡単に低減することができる。
【0049】
(3) この第1実施形態では、集電装置3の集電舟7の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの集電舟7の進行方向前側及び進行方向後側に、気流F1を受けることによってなびく柔軟なリボン部9a,9bを擾乱付与部9が備えている。このため、カルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層とリボン部9aとを干渉させるとともに、この集電舟7の後流のカルマン渦F11とリボン部9bとを干渉させて、このカルマン渦F11の生成の抑制及び構造の崩壊を促し、空力音の低減を図ることができる。また、柔軟な帯状部材によってリボン部9a,9bを簡単に製作することができるため、集電舟7の構造が複雑化するのを防ぐことができるとともに、重量やコストの増加も防ぐことができる。その結果、擾乱付与部9を集電舟7に簡単に装着することができるとともに、トロリ線1aに対するすり板7aの追従性に影響を与えず、空力音を容易に低減することができる。また、現状の集電舟7の形状や開発ノウハウをそのまま使用することができるため、集電舟7の開発コストを低減することができる。さらに、車両2がA1方向に走行する場合だけではなく、このA1方向とは反対方向のA2方向にこの車両2が走行する場合であっても、集電舟7から発生する空力音を低減することができる。特に、進行方向が変化する鉄道車両の場合には、上下線のいずれを走行しても空力音を低減することができる。
【0050】
(第2実施形態)
以下では、図1〜図6に示す部分と同一の部分については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図7及び図8に示す空力騒音抑制構造8は、集電舟7の後方に発生するカルマン渦F11に擾乱を与えてこのカルマン渦F11を崩壊させることによって、カルマン渦F11の強度を弱めてこのカルマン渦F11に起因するエオルス音を低減する。空力騒音抑制構造8は、図7に示すように、気流F1の流れる方向に対して略直交するように集電舟7の下面7eに配置されている。
【0051】
図7及び図8に示す擾乱付与部9は、集電装置3の進行方向後側に発生するカルマン渦F11による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦F11に擾乱を与える部分である。擾乱付与部9は、リボン部9cなどを備えている。擾乱付与部9は、図8(A)に示すように、集電装置3がA1方向に移動するときには、リボン部9cをA2方向になびかせて、このA2方向の生成されるカルマン渦F11にこのリボン部9cによって擾乱を与える。一方、擾乱付与部9は、図6(B)に示すように、集電装置3がA2方向に移動するときには、リボン部9cをA1方向になびかせて、このA1方向の生成されるカルマン渦F11に擾乱を与える。
【0052】
リボン部9cは、カルマン渦F11と干渉する部分である。リボン部9cは、集電舟7の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、この集電舟7の略中央(下面7eの中心線上)に配置されている。リボン部9cは、図4〜図6に示すリボン部9a,9bと同様に、気流F1を受けることによってなびく柔軟な部材である。リボン部9cは、図7及び図8に示すように、上端部が集電舟7の下面7eに接着剤などによって貼り付けられている。リボン部9cの長さは、このリボン部9cの幅程度(幅<長さ)に下限値を設定し、このリボン部9cの架線1及びすり板7aへの巻き込みを防止するために集電舟7の厚さに集電舟7の下面7eの幅の半分を加えた程度の値を上限値に設定することが好ましい。リボン部9cの長さは、例えば、10mm以上70mm未満の範囲内に設定することが好ましい。リボン部9cの幅は、加工可能な幅に下限値を設定し、このリボン部9cの長さ程度(幅<長さ)に上限値を設定することが好ましくい。このため、リボン部9cの幅は、例えば、1mm以上70mm未満の範囲内に設定することが好ましい。
【0053】
次に、この発明の第2実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造の作用について説明する。
図2に示す車両2がA1方向に走行すると、図8(A)に示すように擾乱付与部9のリボン部9cが気流F1を受けて進行方向後側のA2方向になびく。このため、リボン部9cが下流側になびくことによって、集電舟7の後流に生ずるカルマン渦F11とこのリボン部9cとが干渉して、このカルマン渦F11をこのリボン部9cが乱しこのカルマン渦F11を崩壊させる。その結果、下側の剥離せん断層から発生するカルマン渦F11とリボン部9cとの干渉作用によって、この下側の剥離せん断層から発生するカルマン渦F11の強度が弱められ空力音が抑制される。例えば、図2及び図8(A)に示すように、上り線をA1方向に走行している車両2が始発駅又は終着駅で折り返して、図8(B)に示すようにこの車両2が下り線線をA2方向に走行すると、リボン部9cが気流F1を受けて進行方向後側のA1方向に反転してなびく。このため、リボン部9cが下流側になびくことにより、集電舟7の後流に生ずるカルマン渦F11に擾乱を与えて、カルマン渦F11の強度が弱まって空力音が抑制される。
【0054】
この発明の第2実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第2実施形態では、集電装置3の進行方向後側に発生するカルマン渦F11による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦F11に擾乱付与部9が擾乱を与える。このため、カルマン渦11を崩壊させることによって、このカルマン渦F11に起因するエオルス音を低減することができる。
【0055】
(2) この第2実施形態では、擾乱付与部9が集電装置3の集電舟7の下方に配置されている。このため、集電舟7の構造を大規模に変更せずに、この集電舟7の下方に擾乱付与部9を取り付けるだけで、すり板7aの摩耗による形状変化による影響を考慮することなく、空力音を簡単に低減することができる。
【0056】
(3) この第2実施形態では、集電装置3の集電舟7の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの集電舟7の略中央に、気流F1を受けることによってなびく柔軟なリボン部9cを擾乱付与部9が備えている。このため、集電舟7の後流のカルマン渦F11とリボン部9cとを干渉させて、このカルマン渦F11の構造の崩壊を促し、空力音の低減を図ることができる。また、集電舟7の下面7eの中心部のみにリボン部9cを配置しているため、車両2の走行方向が変化してもリボン部9cのなびき方向を反転させるだけで空力音を低減することができる。その結果、第1実施形態に比べて構造が簡単になり、重量やコストの増加をより一層防ぐことができる。
【0057】
(第3実施形態)
図9に示す集電装置3は、図2に示す集電装置3とは異なり、一方向にのみ使用可能なシングルアーム型パンタグラフである。図9に示す擾乱付与部9は、図2に示す擾乱付与部9とは異なり、リボン部9aが省略されており、リボン部9bのみを備えている。リボン部9bは、集電舟7の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、この集電舟7の進行方向後側に配置されている。擾乱付与部9は、図9に示すように、集電装置3がA1方向に移動したときに、リボン部9bをA2方向になびかせて、このA2方向の生成されるカルマン渦F11にこのリボン部9bによって擾乱を与える。この第3実施形態には、第2実施形態と同様の効果がある。
【0058】
(第4実施形態)
図10に示す集電装置3は、図9に示す集電装置3と同様に、一方向にのみ使用可能なシングルアーム型パンタグラフである。図10に示す空力騒音抑制構造8は、集電舟7の下面7eの角部近傍に生ずる剥離せん断層に擾乱を与えて、この剥離せん断層からのカルマン渦F11の生成を妨げることによって、カルマン渦F11の強度を弱めてこのカルマン渦F11に起因するエオルス音を低減する。擾乱付与部9は、集電装置3の進行方向後側に発生するカルマン渦F11による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える部分である。擾乱付与部9は、図2に示す擾乱付与部9とは異なり、リボン部9bが省略されており、リボン部9aのみを備えている。リボン部9aは、集電舟7の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、この集電舟7の進行方向前側に配置されている。擾乱付与部9は、集電装置3がA1方向に移動したときに、リボン部9aをA2方向になびかせて、このリボン部9aによってカルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える。
【0059】
この第4実施形態に係る集電装置の空力騒音抑制構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第4実施形態では、集電装置3の進行方向後側に発生するカルマン渦F11による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層に擾乱付与部9が擾乱を与える。このため、剥離せん断層からの大きなカルマン渦F11の生成を妨げることによって、このカルマン渦F11に起因するエオルス音を低減することができる。
【0060】
(2)この第4実施形態では、擾乱付与部9が集電装置3の集電舟7の下方に配置されている。このため、集電舟7の構造を大規模に変更せずに、この集電舟7の下方に擾乱付与部9を取り付けるだけで、すり板7aの摩耗による形状変化による影響を考慮することなく、空力音を簡単に低減することができる。
【0061】
(3)この第4実施形態では、集電装置3の集電舟7の進行方向前側にこの集電舟7の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、気流F1を受けることによってなびく柔軟なリボン部9aを擾乱付与部9が備えている。このため、カルマン渦F11の発生源となる剥離せん断層とリボン部9aとを干渉させて、このカルマン渦F11の生成を抑制し、空力音の低減を図ることができる。
【0062】
(第5実施形態)
図11及び図12に示す集電装置3は、風洞試験装置10によって種々の試験が実施される試験対象物(供試体)である。集電装置3は、例えば、図1〜図3に示すような実際の鉄道車両の集電装置又はこの集電装置を模擬(縮小)した模型集電装置である。風洞試験装置10は、集電装置3が気流F1を受けるときに、この気流F1によって生ずるこの集電装置3の挙動を測定する装置である。風洞試験装置10は、例えば、図11及び図12に示すように、風洞測定部11内の集電装置3に空気を流し、この空気の流れによってこの集電装置3から発生する揚力又は空力騒音などを測定する開放胴型風洞試験装置である。風洞試験装置10は、風洞測定部11と風洞12などを備えている。
【0063】
風洞測定部11は、集電装置3を設置する部分である。風洞測定部11は、風洞12のノズル12aと吸込口12bとの間に配置されており、集電装置3を支持する支持台11aを備えている。風洞12は、空気力学的な諸問題を実験的に調査するために人工的な空気の流れを作る装置である。風洞12は、一定の性状の風を人工的に送風する図示しない送風機、ダクト及び整流装置などを備えているとともに、ノズル12aと、吸込口12bなどを備えている。ノズル12aは、空気を噴出して風洞測定部11に一様な流れを作りこの風洞測定部11に空気を吹き出す部分である。吸込口12bは、風洞測定部11から空気を回収する部分である。
【0064】
揚力調整装置13は、集電装置3に作用する揚力±Lを調整する装置である。揚力調整装置13は、例えば、集電装置3の集電舟7の開発の最終段階においてこの集電舟7に作用する揚力±Lを調整するために使用される。揚力調整装置13は、図1〜図10に示す空力騒音抑制構造8と、図12に示す装着部14などを備えている。揚力調整装置13は、図5〜図9に示す空力騒音抑制構造8の擾乱付与部9を集電舟7に装着することによって、この集電舟7に作用する揚力を調整する。揚力調整装置13は、集電舟7を上昇させる方向の揚力+Lを増加させたいときには集電舟7から装着部14が取り外され、集電舟7を下降させる方向の揚力−Lを増加させたいときには集電舟7に装着部14が取り付けられる。
【0065】
図12に示す装着部14は、集電装置3の空力騒音抑制構造8をこの集電装置3の集電舟7に着脱自在に装着する部分である。装着部14は、集電舟7に作用する揚力±Lを調整するときに作業者によってこの集電舟7に装着される。装着部14は、挟持部14a,14bと、固定部14cと、雌ねじ部14dなどを備えている。
【0066】
挟持部14a,14bは、擾乱付与部9のリボン部9a〜9cを挟み込み保持する部分である。挟持部14a,14bは、外観が略長方形状の一対の薄板状部材であり、長さ方向に所定の間隔をあけてリボン部9a〜9cを支持する。挟持部14aは、溝部14eと、凹部14fと、貫通孔14gと、湾曲部14hなどを備えている。挟持部14bは、溝部14iと、貫通孔14jと、湾曲部14kなどを備えている。溝部14e,14iは、リボン部9a〜9cの一端部を位置決めし保持する部分である。溝部14e,14iは、リボン部9a〜9cの幅よりも僅かに幅が広く形成されており、所定の長さで形成されている。溝部14e,14iは、この溝部14e,14iの深さの合計がリボン部9a〜9cの厚みよりも僅かに浅くなるように形成されている。凹部14fは、固定部14cの頭部を収容する部分である。凹部14fは、固定部14cのボルト頭部の外径よりも内径が僅かに大きく形成されている。貫通孔14g,14jは、固定部14cの雄ねじ部が貫通する部分である。貫通孔14gは、凹部14fの中心に挟持部14aを貫通して形成されており、貫通孔14jは挟持部14bを貫通して形成されている。湾曲部14h,14kは、気流F1の流れが乱れるのを防ぐ部分である。湾曲部14h,14kは、挟持部14a,14bの上縁部及び両端部に形成されている。湾曲部14hは、滑らかな凸状の湾曲面に形成されている。湾曲部14kは、集電舟7の下面7e及び端面7fと連続するとともにこの湾曲部14hと連続するように、滑らかな凹状の湾曲面に形成されている。固定部14cは、挟持部14a,14bを集電舟7に固定する部分である。固定部14cは、例えば、貫通孔14g,14jに挿入されて集電舟7の下面7e及び端面7fの雌ねじ部14dと噛み合う雄ねじ部を有する六角穴付きボルトなどである。固定部14cは、ボルト頭部の座面を凹部14fの底面に密着させることによって、挟持部14aと挟持部14bとの間にリボン部9a〜9cを挟み込みこのリボン部9a〜9cを集電舟7に固定する。固定部14cは、集電舟7の下面7e及び端面7fから突出して空力騒音の発生源となるのを防ぐために、リボン部9a〜9cを完全に固定したときにボルト頭部の上面がこの集電舟7の下面7e及び端面7fと同一高さ(面一)となる。雌ねじ部14dは、固定部14cの雄ねじ部と噛み合う部分である。雌ねじ部14dは、集電舟7を貫通して形成されており、装着部14を取り外したときには空力音の発生を防ぐためにプラグ状の塞ぎ部材が装着される。
【0067】
次に、この発明の第5実施形態に係る集電装置の揚力調整装置の使用方法について説明する。
図11(B)に示す集電舟7を上昇させる方向に作用する揚力+Lを低下させて、この集電舟7を下降させる方向に作用する揚力−Lを増加させるときには、図12に示すように擾乱付与部9を集電舟7に装着部14によって作業者が装着する。挟持部14aと挟持部14bとの間にリボン部9a〜9cを挟み込んだ状態で、これらの挟持部14a,14bを集電舟7の下面7e又は端面7fに位置決めする。次に、固定部14cの雄ねじ部を貫通孔14g,14jに挿入して、この固定部14cの雄ねじ部を雌ねじ部14dにねじ込む。擾乱付与部9を集電舟7から取り外したときには、雌ねじ部14dに塞ぎ部材を挿入して、集電舟7の下面7e又は端面7fとこの塞ぎ部材とを同一高さ(面一)にする。
【0068】
次に、この発明の第5実施形態に係る集電装置の揚力調整装置の作用を説明する。
図11に示すように、風洞試験装置10の風洞測定部11内に集電装置3を設置して図中矢印方向に気流F1を流すと、集電舟7を上昇させる方向の揚力+Lや集電舟7を下降させる方向の揚力−Lが集電装置3に作用する。例えば、集電装置3全体として組み上げた状態で風洞試験を実施する場合には、集電舟7単体で風洞試験を実施する場合に比べて、枠組6などの他の部品と干渉して流れ場が変化する。その結果、集電装置3に作用する揚力±Lを適正値に調整する必要がある。例えば、図11(B)に示す集電舟7を下降させる方向の揚力−Lを増加させる必要があるときには、図12に示すように集電舟7の下面7e又は端面7fに擾乱付与部9のリボン部9a〜9cを装着部14によって装着する。その結果、集電舟7を上昇させる方向の揚力+Lが低下して、集電装置3に作用する揚力±Lが適正値に設定される。
【0069】
この発明の第5実施形態に係る集電装置の揚力調整装置には、第1実施形態〜第4実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第5実施形態では、集電装置3の空力騒音抑制構造8をこの集電装置3の集電舟7に装着部14が着脱自在に装着する。このため、例えば、集電舟7の開発の最終段階において擾乱付与部9を装着するだけでこの集電舟7に作用する揚力±Lを短時間で簡単に調整することができる。また、従来の揚力調整装置ではこの装置自体から空力騒音が発生していたが、この実施形態では擾乱付与部9が空力音の低減効果を発揮するため、空力音を増加させずに揚力を調整することができる。
【0070】
(第6実施形態)
図13に示す物体15は、流れ場に存在する部材である。物体15は、気体又は液体などの流体F2が流れる箇所にこの流体F2の流れを遮るように、水平方向、垂直方向又は斜め方向に配置されている。物体15は、中心軸に対して垂直な平面で切断したときの断面形状が略四角形の中実又は中空の角柱部材である。物体15は、上流側に位置して流体F2を受ける前面15aと、下流側に位置しこの前面15aとは反対側の後面15bと、流体F2の流れる方向に対して平行な側面15c,15dなどを備えている。物体15は、例えば、流体F2の速度を測定するピトー管、流体F2の温度又は圧力などの物性を測定するセンサ類を被覆する被覆管、鉄道の架線などの電車線、この電車線を支持する架線金具、住宅又は公園などの屋外に設置される手すり、電線、ケーブル、信号機、街灯、標識又は看板などを支持する支柱、鉄道の電車線を支持する電車線構造物、鉄塔、電柱、煙突、配管、整流フィン、橋桁、橋脚などである。
【0071】
カルマン渦低減構造16は、流れ場に存在する物体15によって発生するカルマン渦F21を低減する構造である。カルマン渦低減構造16は、物体15の側面15cの角部近傍に生ずる剥離せん断層に擾乱を与えて、この剥離せん断層からのカルマン渦F21の生成を妨げることによって、カルマン渦F21の強度を弱める。また、カルマン渦低減構造16は、物体15の後方に発生するカルマン渦F21に擾乱を与えてこのカルマン渦F21を崩壊させることによって、カルマン渦F21の強度を弱める。カルマン渦低減構造16は、図1〜図10に示す空力騒音抑制構造8と同一構造であり、流体F2の流れる方向に対して交差するようにボルトなどの固定部材によってこの物体15の側面15cに着脱自在に装着されている。カルマン渦低減構造16は、擾乱付与部17などを備えている。
【0072】
擾乱付与部17は、物体15の後方に発生するカルマン渦F21を抑制するために、このカルマン渦F21に擾乱を与えるとともに、このカルマン渦F21の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える部分である。擾乱付与部17は、図5及び図6に示す擾乱付与部9と同一構造であり、図13に示すように物体15の前面15a及び後面15bに配置されており、この物体15の前後に対称に配置されている。擾乱付与部17は、リボン部17a,17bなどを備えている。リボン部17a,17bは、図5及び図6に示すリボン部9a,9bと同一構造であり、図13に示すように物体15の長さ方向に所定の間隔をあけてこの物体15の前側及び後側に、物体15の側面15cの中心線に対して対称に配置されている。リボン部17a,17bは、上端部が物体15の前面15aと後面15bとに接着剤などによって貼り付けられている。
【0073】
次に、この発明の第6実施形態に係るカルマン渦低減構造の作用を説明する。
図13に示すカルマン渦低減構造16を物体15が備えていない場合には、流体F2が矢印方向に流れると物体15の表面で流体F2が剥離して、この物体15の下流側に流体F2が交互に回り込む。このため、側面15c,15d側の剥離せん断層から発生する渦の相互作用によってカルマン渦F21が発生し、このカルマン渦F21に起因する空力騒音や振動が発生する。一方、図13に示すカルマン渦低減構造16を物体15が備えている場合には、擾乱付与部17のリボン部17a,17bが気流F2を受けてなびく。このため、前側のリボン部17aが下流側になびくことによって、カルマン渦F21の発生源である物体15の上流側の角部に生ずる側面15c側の剥離せん断層とこのリボン部17aとが干渉し、この側面15c側の剥離せん断層から発生する大きなカルマン渦F21の生成がこの干渉作用によって妨げられて、このカルマン渦F21の強度が弱められる。また、後側のリボン部17bが下流側になびくことによって、物体15の後流に生ずるカルマン渦F21とこのリボン部17bとが干渉して、このカルマン渦F21をこのリボン部17bが乱しこのカルマン渦F21を崩壊させる。
【0074】
この発明の第6実施形態に係るカルマン渦低減構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第6実施形態では、物体15の後方に発生するカルマン渦F21を抑制するために、このカルマン渦F21に擾乱付与部17が擾乱を与えるとともに、このカルマン渦F21の発生源となる剥離せん断層にこの擾乱付与部17が擾乱を与える。このため、剥離せん断層からの大きなカルマン渦F21の生成を妨げるとともに、このカルマン渦21自体を崩壊させて、このカルマン渦F21に起因する騒音や振動を低減することができる。
【0075】
(2) この第6実施形態では、物体15の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体15の前側及び後側に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部17a,17bを擾乱付与部17が備えている。このため、柔軟な帯状部材によってリボン部17a,17bを簡単に製作することができ、物体15の構造が複雑化するのを防ぐことができるとともに、重量やコストの増加も防ぐことができる。その結果、擾乱付与部17を物体15に簡単に装着することができるとともに、騒音や振動を容易に低減することができる。
【0076】
(第7実施形態)
図14に示す擾乱付与部17は、物体15の後方に発生するカルマン渦F21を抑制するために、このカルマン渦F21に擾乱を与える部分である。擾乱付与部17は、リボン部17cを備えており、このリボン部17cは図7及び図8に示すリボン部9cと同一構造である。リボン部17cは、物体15の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、この物体15の略中央(側面15cの中心線上)に配置されている。リボン部17cは、図7及び図8に示すリボン部9cと同様に、流れを受けることによってなびく柔軟な部材である。リボン部17cは、上端部が物体15の側面15cに接着剤などによって貼り付けられている。
【0077】
この発明の第7実施形態に係るカルマン渦低減構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第2実施形態では、物体15の後方に発生するカルマン渦F21を抑制するために、このカルマン渦F21に擾乱付与部17が擾乱を与える。このため、カルマン渦21を崩壊させることによってこのカルマン渦F21に起因する騒音や振動を低減することができる。
【0078】
(2) この第7実施形態では、物体15の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体15の略中央に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部17cを擾乱付与部17が備えている。このため、物体15の後流のカルマン渦F21とリボン部17cとを干渉させて、このカルマン渦F21の構造の崩壊を促し、騒音や振動の低減を図ることができる。また、物体15の側面15cの中心部のみにリボン部17cを配置しているため、第6実施形態に比べて構造が簡単になり、重量やコストの増加をより一層防ぐことができる。
【0079】
(第8実施形態)
図15に示す擾乱付与部17は、図13に示す擾乱付与部17とは異なり、リボン部17aが省略されており、リボン部17bのみを備えている。リボン部17bは、物体15の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、この物体15の後側に配置されている。リボン部17bは、上端部が物体15の後面15bに接着剤などによって貼り付けられている。この第8実施形態には、第7実施形態と同様の効果がある。
【0080】
(第9実施形態)
図16に示す擾乱付与部17は、物体15の後方に発生するカルマン渦F21を抑制するために、このカルマン渦F21の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える部分である。擾乱付与部17は、図13に示す擾乱付与部17とは異なり、リボン部9bが省略されており、リボン部9aのみを備えている。リボン部17aは、物体15の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、この物体15の前側に配置されている。
【0081】
この発明の第9実施形態に係るカルマン渦低減構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第9実施形態では、物体15の後方に発生するカルマン渦F21を抑制するために、このカルマン渦F21の発生源となる剥離せん断層に擾乱付与部17が擾乱を与える。このため、剥離せん断層からの大きなカルマン渦F21の生成を妨げることによって、このカルマン渦F21に起因する騒音や振動を低減することができる。
【0082】
(2) この第9実施形態では、物体15の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体15の前側に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部17aを擾乱付与部17が備えている。このため、カルマン渦F21の発生源となる剥離せん断層とリボン部17aとを干渉させて、このカルマン渦F21の生成を抑制し、騒音や振動の低減を図ることができる。
【実施例】
【0083】
次に、この発明の実施例について説明する。
(空力音の測定結果)
図17に示す比較例は、図5〜図10に示すリボン部9a〜9cを備えていない集電舟である。比較例は、断面形状が中心線に対して前後で非対称であり、下面の幅が60mmであり、スパン長さが600mmである。比較例は、実際の鉄道車両の集電装置の集電舟を模擬した形状であり、実際の集電舟よりも長さが短く形成されている。
【0084】
図19に示す実施例1は、図5及び図6に示す第1実施形態と同一構造のリボン部9a,9bを備える集電舟である。実施例1は、長さ30mm及び幅15mmで材質がサテンのリボンを、比較例の集電舟の下面の両縁角部に30mmピッチで並べて取り付けて製作した。
【0085】
図20に示す実施例2は、図7及び図8に示す第2実施形態と同一構造のリボン部9cを備える集電舟である。実施例2は、長さ60mm及び幅15mmで材質が付箋紙のリボンを、比較例の集電舟の下面の中心部に30mmピッチで並べて取り付けて製作した。
【0086】
図17、図19(A)及び図30(A)に示す実施例1〜3及び比較例に係る集電舟を、図19(B)及び図20(B)に示すようにこれらの集電舟の長さ方向が上下方向と一致するように、図18に示すようにこれらの集電舟を風洞試験装置の風洞測定部に垂直に設置した。次に、図18に示す風洞試験装置の風洞測定部に気流を流し、実施例1,2及び比較例に係る集電舟から2m離して設置したマイクロホンによってこれらの集電舟から発生する空力音を測定した。風洞試験装置は、風洞測定部が開放型である公益財団法人鉄道総合技術研究所の小型低騒音風洞(開放型)を使用した。
【0087】
図21に示す縦軸は、A特性による騒音レベル(dB(A))であり、横軸は1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)である。ここで、A特性とは、人間の聴覚の周波数特性を反映させた形で音圧レベルを測定し評価するために用いられる聴感補正特性である。図21に示すように実施例1,2は比較例に比べて100Hz付近のエオルス音を中心に騒音レベルが低減していることが確認された。
【0088】
実施例1,2は、図21に示すように、比較例に比べて100Hz付近のエオルス音が顕著に低下しており、空力音の低減効果が確認された。実施例1,2は、集電舟の下面の両縁角部又は底面中央部に柔軟なリボン部を取り付けるだけで簡単に実施できる対策であり、実現性が高く空力音の低減効果が得られることが確認された。実施例1は、リボン部がなびくことによってこのリボン自体から騒音が発生しており、上流側のリボン部が集電舟の下面を叩いたときに打撃音も発生しており、100Hz付近以外の周波数帯において騒音レベルが増加している。また、実施例2は、リボン部がなびくことによってこのリボン自体から騒音が発生しており、実施例1と同様に100Hz付近以外の周波数帯において騒音レベルが増加している。しかし、リボン部の材質、長さ及び設置位置を検討することによって、エオルス音のみを効果的に低減可能であると考えられる。
【0089】
(揚力の比較結果)
図22に示す縦軸は、揚力平均値(N)であり、横軸は実施例1,2及び比較例である。図22に示すように、実施例1,2は比較例に比べてリボン部を付与することによって揚力が減少することが確認された。このため、例えば、集電舟の開発の最終段階においてリボン部を取り付けることによって、集電舟に作用する揚力を調整可能であることが確認された。以上より、図5〜図10に示すリボン部によって揚力を調整する場合には、エオルス音のみを効果的に低減可能な材質を選定することによって、空力音の低減効果を図りながら揚力を調整可能であることが確認された。
【0090】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、空力騒音抑制構造8を集電装置3に適用し、カルマン渦低減構造16を流れ場に適用した場合を例に挙げて説明したが、集電装置に限定するものではない。例えば、カルマン渦F11,F21に起因する空力音、作用力変動又は圧力変動などが問題となる鉄道車両、自動車、航空機、船舶又はプラントなどについてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、集電舟7及び物体25の断面形状が四角形である場合を例に挙げて説明したが、断面形状が円形、楕円形、多角形又は前後非対称な形状である場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、リボン部9a〜9c,27a〜27cのそれぞれの寸法及び設置間隔が同一である場合を例に挙げて説明したが、寸法、設置個数及び設置間隔を限定するものではない。例えば、リボン部9a〜9c,27a〜27cのそれぞれについて寸法が異なるものを不等間隔で並べて配置したり、種々の寸法、設置個数及び設置間隔に設定したりすることもできる。
【0091】
(2) この第1実施形態では、リボン部9a〜9cを集電舟7の前後に配置した場合を例に挙げて説明したが、前後いずれか一方のみに配置することもできる。また、この第1実施形態、第3実施形態及び第4実施形態では、リボン部9a,9bを集電舟7の端面7fに取り付けた場合を例に挙げて説明したが、リボン部9a,9bを集電舟7の下面7eに取り付けることもできる。また、この第1実施形態〜第4実施形態では、リボン部9a〜9cを集電舟7に接着剤によって固定する場合を例に挙げて説明したが、ねじなどの固定部材によって固定することもできる。さらに、この第1実施形態〜第5実施形態では、集電舟7の端面7fの一部が傾斜面である場合を例に挙げて説明したが、この端面7fの全部を垂直面である場合についても、この発明を適用することができる。
【0092】
(3) この第1実施形態〜第5実施形態では、集電装置3としてシングルアーム型パンタグラフを例に挙げて説明したが、翼型パンタグラフや菱型パンタグラフなどの他の形式のパンタグラフについてもこの発明を適用することができる。また、この第3実施形態では、車両2がA1方向に移動する場合を例に挙げて説明したが、車両2がA2方向に移動する場合についてもこの発明を適用することができる。この場合には、車両2がA2方向に移動するときに、カルマン渦F21の発生源となる剥離せん断層にリボン部9bによって擾乱を与えることができる。同様に、この第4実施形態では、車両2がA1方向に移動する場合を例に挙げて説明したが、車両2がA2方向に移動する場合についてもこの発明を適用することができる。この場合には、車両2がA2方向に移動するときに、集電舟7の後方に発生するカルマン渦F21にリボン部9aによって擾乱を与えることができる。
【0093】
(4) この第5実施形態では、風洞試験装置10の風洞測定部11内において揚力調整装置13によって集電舟7に作用する揚力±Lを調整する場合を例に挙げて説明したが、実際の車両2を使用して試験する現車試験で揚力調整装置13によって集電舟7に作用する揚力±Lを調整することもできる。また、この第6実施形態〜第9実施形態では、物体15の長さ方向を垂直方向に一致させて配置した場合を例に挙げて説明したが、この物体15の長さ方向を水平方向又は斜め方向に配置した場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この第6実施形態〜第9実施形態では、物体15の一方の側面15cにカルマン渦低減構造16を配置した場合を例に挙げて説明したが、この物体15の他方の側面15dにもカルマン渦低減構造16を配置することもできる。
【符号の説明】
【0094】
1 架線
1a トロリ線(電車線)
2 車両
2a 車体
3 集電装置
6 枠組
6a 舟支え部
7 集電舟
7a すり板
7b すり板支持部
7e 下面
7f 端面
8 空力騒音抑制構造
9 擾乱付与部
9a〜9c リボン部
10 風洞試験装置
11 風洞測定部
13 揚力調整装置
14 装着部
15 物体
15a 前面
15b 後面
15c,15d 側面
16 カルマン渦低減構造
17 擾乱付与部
27a〜27c リボン部
1 気流
11,F21 カルマン渦
2 流体
±L 揚力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電装置から発生する空力騒音を抑制する集電装置の空力騒音抑制構造であって、
前記集電装置の進行方向後側に発生するカルマン渦による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦に擾乱を与えるとともに、このカルマン渦の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える擾乱付与部を備えること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項2】
請求項1に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、
前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の下方に配置されていること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項3】
請求項2に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、
前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の進行方向前側及び進行方向後側に、この集電舟の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、気流を受けることによってなびく柔軟なリボン部を備えること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項4】
集電装置から発生する空力騒音を抑制する集電装置の空力騒音抑制構造であって、
前記集電装置の進行方向後側に発生するカルマン渦による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦に擾乱を与える擾乱付与部を備えること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項5】
請求項4に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、
前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の下方に配置されていること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項6】
請求項5に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、
前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の略中央に、この集電舟の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、気流を受けることによってなびく柔軟なリボン部を備えること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項7】
請求項5に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、
前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の進行方向後側に、この集電舟の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、気流を受けることによってなびく柔軟なリボン部を備えること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項8】
集電装置から発生する空力騒音を抑制する集電装置の空力騒音抑制構造であって、
前記集電装置の進行方向後側に発生するカルマン渦による空力騒音を抑制するために、このカルマン渦の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える擾乱付与部を備えること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項9】
請求項8に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、
前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の下方に配置されていること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項10】
請求項9に記載の集電装置の空力騒音抑制構造において、
前記擾乱付与部は、前記集電装置の集電舟の進行方向前側に、この集電舟の長さ方向に沿って所定の間隔をあけて、気流を受けることによってなびく柔軟なリボン部を備えること、
を特徴とする集電装置の空力騒音抑制構造。
【請求項11】
集電装置に作用する揚力を調整する集電装置の揚力調整装置であって、
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の集電装置の空力騒音抑制構造と、
前記集電装置の空力騒音抑制構造をこの集電装置の集電舟に着脱自在に装着する装着部と、
を備える集電装置の揚力調整装置。
【請求項12】
流れ場に存在する物体によって発生するカルマン渦を低減するカルマン渦低減構造であって、
前記物体の後方に発生するカルマン渦を抑制するために、このカルマン渦に擾乱を与えるとともに、このカルマン渦の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える擾乱付与部を備えること、
を特徴とするカルマン渦低減構造。
【請求項13】
請求項12に記載のカルマン渦低減構造において、
前記擾乱付与部は、前記物体の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体の前側及び後側に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部を備えること、
を特徴とするカルマン渦低減構造。
【請求項14】
流れ場に存在する物体によって発生するカルマン渦を低減するカルマン渦低減構造であって、
前記物体の後方に発生するカルマン渦を抑制するために、このカルマン渦に擾乱を与える擾乱付与部を備えること、
を特徴とするカルマン渦低減構造。
【請求項15】
請求項14に記載のカルマン渦低減構造において、
前記擾乱付与部は、前記物体の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体の略中央に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部を備えること、
を特徴とするカルマン渦低減構造。
【請求項16】
請求項14に記載のカルマン渦低減構造において、
前記擾乱付与部は、前記物体の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体の後側に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部を備えること、
を特徴とするカルマン渦低減構造。
【請求項17】
流れ場に存在する物体によって発生するカルマン渦を低減するカルマン渦低減構造であって、
前記物体の後方に発生するカルマン渦を抑制するために、このカルマン渦の発生源となる剥離せん断層に擾乱を与える擾乱付与部を備えること、
を特徴とするカルマン渦低減構造。
【請求項18】
請求項17に記載のカルマン渦低減構造において、
前記擾乱付与部は、前記物体の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこの物体の前側に、流れを受けることによってなびく柔軟なリボン部を備えること、
を特徴とするカルマン渦低減構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−115897(P2013−115897A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259072(P2011−259072)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】