説明

離型剤の塗布方法と塗布装置

【課題】静電塗布方法をベースとしつつ、極めて少量の離型剤を広い面積に塗布するのに好適な離型剤塗布装置を提供する。
【解決手段】離型剤塗布装置10は、静電塗装装置と、静電気センサ7と、塗布ノズル2へ印加する電圧を調整するコントローラ6を備える。コントローラ6は、静電気センサ7に向けて離型剤を吐出した後に、静電気センサ7によって計測した離型剤の帯電量が予め定められた規定帯電量以上となるように、塗布ノズル2に印加する電圧を調整する。この離型剤塗布装置10は、常に最適な帯電量を有する離型剤を塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型剤を金型に塗布する方法と塗布装置に関する。特に、静電塗装装置を用いた離型剤塗布方法と塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料を塗布する方法の一つに静電塗装法がある。この方法は、塗装対象を一定の電位(正値、負値、あるいはグランド電位でもよい)に保持しておき、正負逆の電位に帯電させた塗料を吹き付け、電気力によって塗料を対象に吸着させるものである。この静電塗装法は、金型に離型剤を塗布する場合にも利用されることがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−215821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電塗装装置では、予め定められた電圧(あるいは電流)が塗布ノズルに印加されている。ノズルに印加される電圧(電流)によって吐出時の塗料を帯電させる。塗料の帯電量が大きければ塗装対象への吸着力が大きくなる。他方、ノズルと塗装対象の間には電位差があるため、短絡に備えてノズルに印加する電圧(電流)は高くない方が好ましい。このようなトレードオフから、ノズルに印加される電圧(電流)の値は、塗料を塗布するのに必要十分と想定される大きさに設定される。
【0005】
ところで近年、金型に塗布する離型剤の体積を極端に少なくする傾向がある。これは、金型表面に塗布される離型剤の膜厚が薄い方が、鋳造品の品質が良くなるからである。具体的には、離型剤が少量になることによりガスの発生が少なくなり、巣穴の発生が抑制できること、離型剤が加熱されることにより生じるいわゆる「焼け」や「湯じわ」の発生が抑制できること、などの品質向上が見込まれる。すなわち、近年では金型に塗布する離型剤の塗布量が、通常の塗料を塗布する場合と比較して極めて少なくなってきている。例えば、1mの金型面積に対して僅か約2cmの離型剤を薄く均一に塗布したい、という要望がある。そのような極めて少量の離型剤を広い面積に塗布するのに静電塗装装置を利用する場合、離型剤(塗料)の吸着力の大きさは非常に重要となる。十分な吸着力があれば、金型表面に薄く均一に離型剤を分散させることができるからである。しかしながら発明者の検討によると、ノズルには適正と思われる電圧(電流)が印加されているはずである従来の静電塗布装置を用いて離型剤を塗布したところ、予想するほどには金型の表面に十分な離型剤が付着しなかった。その原因を調査したところ、ノズルに印加する電圧(電流)の大きさに比較して離型剤の帯電量が小さいことが判明した。即ち、通常の塗料の場合は問題とならなかったが、極めて少量の離型剤を広い面積へ塗布する場合には、従来では十分と考えられていたノズルへの印加電圧(電流)では不十分であるということが判明した。さりとて、ノズルへの印加電圧(電流)をむやみに上げることは、金型とノズルが短絡した場合に好ましからざる結果を招く虞がある。本明細書は、静電塗布方法をベースとしつつ、極めて少量の離型剤を広い面積に塗布するのに好適な技術を提供する。
【0006】
なお、通常の静電塗装装置の中には、ノズルと塗装対象の間の短絡を検知するために電流計が備えられているものがある。その電流計を使えば吹き付けられる塗料の帯電量を推定することはできる。なぜならば、吹き付けられる塗料自体が電荷を運ぶため、この電流計が示す電流は、吹き付けられる塗料の総電荷量を示すことになり、電流計が示す電流の値を吹き付けられる塗料の体積で割れば単位体積当たりの塗料の帯電量を求めることができるからである。しなしながら、発明者の検討によると、塗装対象に届かずに散ってしまう塗料もあるため、従来の静電塗装装置が備える電流計では塗料の帯電量を十分正確に計測することはできないことも判明した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する新規な離型剤塗布方法は、静電塗装装置を用いた方法であり、金型への離型剤の塗布に先だって、静電気センサに向けて離型剤を吐出し、吐出された離型剤の単位体積当たりの帯電量が予め定められた規定帯電量以上となるように(好ましくは規定帯電量に一致するように)塗布ノズルに印加する電圧(又は電流)を調整することを特徴とする。規定帯電量は、実験等により事前に定めておく。また、ノズルからの単位時間当たりの吐出量(cm/sec)は、ノズルに離型剤を供給するポンプにおいて計測すればよい(あるいはポンプの能力から推定すればよい)。この方法によれば、金型に塗布する前に離型剤の帯電量が適正であるか否かをチェックすることによって、極めて少量の離型剤を効果的に金型へ塗布することができる。なお、離型剤へ与える帯電量を変えるにはノズルに印加する電圧と電流のいずれを変えてもよいことは明らかである。
【0008】
上記の方法の技術的思想は、次の離型剤塗布装置に具現化することもできる。その装置は、静電塗装装置と、静電気センサと、塗布ノズルへ印加する電圧(又は電流)を調整するコントローラを備える。コントローラは、静電気センサに向けて離型剤を吐出した後、静電気センサによって計測した離型剤の帯電量が予め定められた規定帯電量以上となるように(好ましくは規定帯電量に一致するように)塗布ノズルに印加する電圧(又は電流)を調整する。この離型剤塗布装置は、常に最適な帯電量を有する離型剤を塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】離型剤塗布装置の概略図を示す。
【図2】塗布量と帯電量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、離型剤塗布装置10の全体図を示す。離型剤塗布装置10は、ノズル2、ポンプ3、タンク4、電源5、コントローラ6、及び、静電気センサ7を備える。離型剤は、タンク4に蓄えられ、ポンプ3でノズル2へと送られる。ノズル2には、電源5から所定の電圧が印加される。ノズル2に達した離型剤は、ノズル2から吐出する際、ノズル2に加えられた電圧によって所定の電位に帯電する。ノズル2、ポンプ3、タンク4、電源5で構成される装置自体は、従来の静電塗布装置と同じである。
【0011】
静電気センサ7は、離型剤の塗布対象である金型MDの脇に設置される。静電気センサ7と金型MDは電気的に接地させ、グランド電位にしておく。即ち、静電気センサ7と金型MDは同じ電位にしておく。静電気センサ7は、対象の電位を計測することができるセンサであり、その仕組みの一例は、そのセンサヘッドに内蔵された表面電位センサに電圧を一定範囲内で階段状に変化させながら印加し、電圧が0Vとなるポイントを内部演算で算出することによって対象の電位を特定する。内部演算により算出された電圧が0Vとなったときに印加していた電圧が、静電気量の測定対象(本実施例の場合は離型剤)の電位に相当する。
【0012】
ユーザは金型MDへの離型剤の塗布に先だって、吐出させる離型剤の単位体積当たりの帯電量の調整を行う。ユーザはまず、静電気センサ7に向けて離型剤を吐出させる(図1の矢印A)。静電気センサ7に向かって離型剤を吐出させている間、静電気センサ7は定期的に表面電位センサに付着した離型剤の電圧を計測し、コントローラ6へ送る。コントローラ6には、また、単位時間当たりの離型剤の吐出量も入力される。単位時間当たりの吐出量は、ポンプ3に備えられた流量計によって計測される。コントローラ6は、単位時間当たりの離型剤の吐出量と、静電気センサ7の計測値から離型剤の単位体積当たりの帯電量を算出する。コントローラ6は、離型剤の単位体積当たりの帯電量が予め定められた規定帯電量に一致するように(あるいは規定帯電量以上となるように)、電源5が印加する電圧を調整する。調整が終了したら、ユーザはノズル2を金型MDへ向け、離型剤を塗布する(図1の矢印B)。金型MDと同電位にした静電気センサ7を金型MDの横に配置することには、帯電量の調整が完了したら直ちに金型MDへの塗布を行える利点がある。
【0013】
図2を参照して、帯電量調整のアルゴリズムを説明する。図2は、ノズル2から吐出され、静電気センサ7の表面へ到達した離型剤の体積(吐出量)と、静電気センサ7によって計測された電圧の関係を示すグラフである。今、時刻t1に塗布を開始し、時刻t2で塗布を終了したと仮定する。離型剤のノズル2からの吐出量は、a1[cm/sec]であるとする。時刻t1からt2まで、時間Tの間に静電気センサ7に吹き付けられる離型剤の体積A1[cm]は、A1=a1×Tで表せられる。時刻t2において静電気センサ7の計測した電圧がV1である場合、離型剤の単位体積当たりの帯電量Qは、Q=V1/A1=V1/(a1×T)[V/cm]で求まる。なお、帯電量の単位は[C](クーロン)で表すこともできるが、ここでは[V](ボルト)の単位で表すことにする。静電気センサ7の出力が[V]で表されるので、その方が便利だからである。コントローラ6は、単位体積当たりの帯電量Qが予め定められた規定帯電量Qdよりも小さい場合、電源5を制御し、ノズル2への印加電圧を上げる。コントローラ6は、ノズル2から吐出する離型剤の単位体積当たりの帯電量Qが規定帯電量Qd以上となるまでノズル2へ印加する電圧を高める。ノズル2から吐出する離型剤の単位体積当たりの帯電量Qが規定帯電量Qdに一致すると(あるいは規定帯電量以上となると)、コントローラ6はその旨を示す信号(ブザー音あるいは表示ランプ)を出力し、離型剤の帯電量Qが規定帯電量Qdまで上昇したことをユーザに知らせる。通知を受けたユーザはノズル2を金型MDに向け、離型剤の金型への塗布を開始する。なお、規定帯電量Qdは予め実験等により定められ、コントローラ6に記憶されている。
【0014】
上記の離型剤塗布装置10によれば、ノズル2から吐出する離型剤の帯電量を常に規定帯電量以上に管理することができる。すなわち、離型剤の金型表面への吸着のし易さを一定に維持することができる。上記の離型剤塗布装置10は、従来の静電塗装方法をベースにしているが、極めて少量の離型剤を広い面積に塗布するのに優れている。
【0015】
上記した離型剤塗布装置10の留意点を述べる。静電気センサ7は、計測するたびに除電する必要がある。即ち、付着した離型剤を払拭するとともに、計測値をゼロにリセットする。また、実施例の離型剤塗布装置10では、吐出する離型剤の単位体積当たりの帯電量が規定帯電量となるように、ノズル2に印加する電圧を調整したが、電圧に代えてノズル2に印加する電流の大きさを調整してもよい。ノズル2に印加する電圧が一定であっても電流の大きさを変えることによって、離型剤に与える帯電量を変えることができるからである。
【0016】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0017】
2:ノズル
3:ポンプ
4:タンク
5:電源
6:コントローラ
7:静電気センサ
10:離型剤塗布装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電塗装装置を用いた金型への離型剤の塗布方法であり、
金型への離型剤の塗布に先だって、静電気センサに向けて離型剤を吐出し、静電気センサによって計測された離型剤の帯電量が予め定められた規定帯電量以上となるように塗布ノズルに印加する電圧又は電流を調整することを特徴とする離型剤塗布方法。
【請求項2】
静電塗装装置と、
静電気センサと、
静電気センサに向けて離型剤を吐出した後、静電気センサによって計測された離型剤の帯電量が予め定められた規定帯電量以上となるように静電塗装装置の塗布ノズルに印加する電圧又は電流を調整するコントローラと、
を備えることを特徴とする離型剤塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−250173(P2012−250173A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124533(P2011−124533)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】