説明

離型剤組成物、及びモールド

【課題】新規な離型剤組成物、及びモールドを提供する。
【解決手段】少なくとも1種の式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする離型剤組成物;及び該組成物からなる膜を有するモールドである。式中、Xは置換されていてもよい環状基、Yは単結合又は2価以上の連結基を表し、但しX及びYの少なくとも一方は1つ以上の吸着基を含み;Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型剤組成物、及び当該組成物からなる膜を有するモールドに関し、特にナノプリント加工技術に有用な離型剤組成物及びモールドに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノインプリント加工技術は、種々の技術分野で利用されている。例えば、次世代の磁気記録媒体として注目されている、DTM(ディスクリート・トラック・メディア)及びBPM(ビット・パターンド・メディア)等を作製するためには、磁性層加工用のマスク形成が重要な技術の一つであり、このマスク形成には、ナノインプリントリソグラフィー(NIL)を用いるのが一般的である。その他、半導体素子及び微小光学素子のパターン形成にも利用されている。
NILの一般的な工程は以下の通りである。
まず、基材上にインプリントレジスト組成物を塗布してレジスト層を形成する。次に、所望の凹凸パターンを有するモールド構造体を、前記インプリントレジスト層を有する基材に密着させ、加圧し、その後、モールド構造体を離型する。レジスト層には、モールド構造体の凹凸パターンに対応した凸凹部が形成される。
【0003】
上記NILでは、目的のパターンを安定的に形成するという観点、及び使用されるモールドの耐久性という観点の双方において、モールド/レジスト界面での離型性が重要である。離型性が不十分であると、レジストがモールドに付着するためパターンは破壊され(剥離故障)、モールドは目詰まり使用できなくなる。そのため、モールド/レジスト界面での離型性向上を目的として、モールドには離型処理が施されていることが多い。
例えば、ナノプリント用モールドの離型剤として、所定のパーフルオロポリエーテル鎖を有する化合物が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−178984号公報
【特許文献2】特開2004−306030号公報
【特許文献3】特開2007−326367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の離型剤ではモールド/レジスト界面での離型性は十分ではない。インプリント用モールドをレジスト層から離型する際には、モールド表面に形成された離型層に大きな負荷がかかり、インプリント用モールドの表面に吸着していた離型剤分子が徐々に剥がれてしまう場合がある。そのため、離型効果が徐々に減少し、耐久性を保てないという問題がある。特にパターンが微細化するほど、離型時のモールド/レジスト剥離力は大きくなり、優れた離型性を示す離型剤の提供が望まれる。
【0006】
本発明は、新規な離型剤組成物及びモールドを提供することを課題とする。
また、本発明は、NILに有用な新規な離型剤組成物、及び耐久性が高いNIL用モールドを提供することを課題とする。
また、本発明は、優れた離型性を有する、離型剤組成物及びモールドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、モールドの離型性改善について種々検討した結果、従来の離型剤に利用されているパーフルオロポリエーテル鎖を有する化合物は、分子中及び分子間のフッ素含有鎖同士の反発が大きいために、当該化合物を利用しても、モールド本体の表面に、低密度な膜が形成されるに過ぎないとの知見を得た。離型性を改善するためには、モールド表面をフッ素含有鎖により高密度で被覆することが有効である。これらの知見に基づき、さらに検討した結果、環状基の近傍に、モールド本体に対して吸着性のある基を有するとともに、環状基の側鎖にフッ素含有鎖を有する化合物を用いれば、モールド本体の表面に緻密な自己組織化単分子膜が形成され得るとの知見を得、この知見に基づきさらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]少なくとも1種の式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする離型剤組成物。
【化1】

[式中、Xは置換されていてもよい環状基、Yは単結合又は2価以上の連結基を表し、但しX及びYの少なくとも一方は1つ以上の吸着基を含み;Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表し、但し、sが2以上の時、複数のn、m、s、及びZはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のs及びYは、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0009】
[2]前記少なくとも1種の式(1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物であることを特徴とする[1]の離型剤組成物。
【化2】

[式中、Xは置換されていてもよい環状基を表し、Yは2価以上の連結鎖を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の吸着基を含み;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表し、但し、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−中、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものものとし、qが2以上のとき、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、互いに同一でも異なっていてもよく、また、sが2以上の時、複数のn、m、p1、p2、p3、q及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のs及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0010】
[3]前記少なくとも1種の式(1)で表される化合物が、式(3)で表されることを特徴とする[1]の離型剤組成物。
【化3】

[式中、X3は置換されていてもよい芳香族性環状基を表し;Aは吸着基を表し、複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよく;V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5であり;但し、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−中、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものものとし、qが2以上のとき、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、互いに同一でも異なっていてもよく、また、sが2以上の時、複数のn、m、p1、p2、p3、及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、bが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0011】
[4]前記少なくとも1種の式(1)で表される化合物が、式(4)で表されることを特徴とする[1]の離型剤組成物。
【化4】

[式中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;Aは吸着基を表し、複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよく;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5であり;Rは任意の置換基を表し、cは0〜1の実数を表し、但しc+t=3であり;但し、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−中、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものものとし、qが2以上のとき、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、互いに同一でも異なっていてもよく、また、sが2以上の時、複数のn、m、p1、p2、p3、及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、bが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0012】
[5]前記式中の−((CF2p1(CF(CF3))p2(C(CF32p3O)p−が、−CF2O(CF2CF2O)q'−(但し、q’は1〜30の数)であることを特徴とする[2]〜[4]のいずれかの離型剤組成物。
[6]前記少なくとも1種の式(1)で表される化合物が、式(5)で表されることを特徴とする[1]の離型剤組成物。
【化5】

[式中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;Aは吸着基を表し、複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよく;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5であり;Rは任意の置換基を表し、cは0〜1の実数を表し、但しc+t=3であえい;q’は1〜30の実数であり;但し、sが2以上の時、複数のn、m、及びq’はそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、bが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0013】
[7]q’が、3〜20の数であることを特徴とする[5]又は[6]の離型剤組成物。
[8]前記吸着基が、水酸基、カルボキシル基、及びシランカップリング基から選択されることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかの離型剤組成物。
[9]前記吸着基の少なくとも1つが、水酸基であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかの離型剤組成物。
[10]Vが、NH又はNR’(R’は炭素原子数1〜20のアルキレン基を表す)であり、b=1、c=0、及びt=3であることを特徴とする[3]〜[9]のいずれかの離型剤組成物。
[11]Wが、イミノ基(NH又はNR’(R’:は置換基))、炭素原子数1〜20のアルキレン基(但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい)、カルボニル基(C=O)−、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価の連結基であることを特徴とする[3]〜[10]のいずれかの離型剤組成物。
【0014】
[12]式(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれかで表されるパーフルオロアルキルポリエーテルオリゴマーの少なくとも1種をさらに含有する[1]〜[11]のいずれかの離型剤組成物。
A−CF2O(CF2CF2O)r(CF2O)sCF2−B (a)
[A及びBはそれぞれ、OHCH2−又は下式から選ばれる少なくとも1種の基を表し;rは1〜30のいずれかの数であり、sは1〜30のいずれかの数であり;
【化6】

但し、xは1〜5のいずれかの数である。]
X−CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2−Y (b)
[X及びYはそれぞれ、F、HO(CH2CH2O)tCH2−、HOCH2CH(OH)CH2OCH2−、HOOC−及びピペロニル基から選ばれる基を表し;mは1〜60のいずれかの数であり;nは1〜60のいずれかの数であり;tは1〜30のいずれかの数である。]
F[CF(CF3)CF2O]uCF(CF3)−X’ (c)
[X’は、F又は−COOHを表し;uは1〜60のいずれかの数である。]
F[CF2CF2CF2O]vCF2CF2CH2−Z (d)
[Zは、F、HO−及びCOOH−から選ばれる基を表し;vは1〜60のいずれかの数である。]
【0015】
[13]本体と、該本体の表面の少なくとも一部に、[1]〜[12]のいずれかの離型剤組成物からなる膜を有することを特徴とするモールド。
[14]ナノインプリント加工用であることを特徴とする[13]のモールド。
[15]前記本体表面が、石英、ガラス、シリコン、シリコンの酸化物、シリコーン樹脂、金属、金属酸化物、及びTEOSのいずれかからなることを特徴とする[13]又は[14]のモールド。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新規な離型剤組成物及びモールドを提供することができる。また、本発明によれば、NILに有用な新規な離型剤組成物、及び耐久性が高いNIL用モールドを提供することができる。また、本発明によれば、優れた離型性を有する、離型剤組成物及びモールドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
1. 離型剤組成物
式(1)の化合物:
本発明の離型剤組成物は、少なくとも1種の式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする。下記化合物は、式中のX及びYの少なくとも一方に、吸着性基を少なくとも1つ含む。ここで吸着性基とは、離型剤組成物が適用される表面を構成している材料に対して吸着性のある基を意味する。例えば、モールド用離型剤組成物の態様では、該組成物が適用される、モールド本体の表面に対して吸着性のある基を意味する。NIL用モールドの本体としては、石英、ガラス、シリコン、シリコンの酸化物、シリコーン樹脂、金属、金属酸化物及びTEOSからなるものが多い。これらの材料からなる表面に対する吸着性を示す基としては、極性基が吸着性基として機能する。該極性基としては、酸素、や窒素など電気陰性度の大きい原子を含む基を挙げることができ、例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、カルボニル基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、及びシランカップリング基等が好ましい。シランカップリング基とは、加水分解によりシラノール基を生成する基であり、その例には、アルコキシシラン基、及びクロロシラン基等が含まれる。中でも、水酸基、カルボキシル基又はシランカップリング基が好ましく、水酸基又はシランカップリング基がより好ましく、水酸基がさらに好ましい。
【0018】
下記式(1)で表される化合物は、環状基、及び該環状基の近傍に吸着性基を有するので、例えば、鎖状分子のフッ素含有鎖の末端に吸着性基を有する化合物と比較して、フッ素含有鎖のモールド本体表面上での分子自由度が高い。その結果、効率的に表面を被覆し、緻密に自己組織化した単分子膜を形成することができる。環状基を分子の中心として、その近傍に複数の吸着性基、及びその側鎖に複数のフッ素鎖を配すると、この効果がより高くなる。
【0019】
【化7】

【0020】
式中、Xは置換されていてもよい環状基、Yは単結合又は2価以上の連結基を表し、但しX及びYの少なくとも一方は1つ以上の吸着基を含み;Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。但し、sが2以上の時、複数のn、m、s、及びZはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のs及びYは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0021】
式(1)中、Xは置換されていてもよい環状基を表す。該環状基の例には、芳香族環の残基(芳香族性環状基)及び非芳香族環の残基(非芳香族性環状基)の双方が含まれる。中でも、芳香族性環状基が好ましい。また、前記環状基を構成する原子については特に制限はないが、少なくとも炭素原子を環構成原子として含むのが好ましい。前記環状基は、炭素原子のみを環構成原子とする環状基から選択されてもよいし、並びに炭素原子とともに、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子等のヘテロ原子を環構成原子とする環状基から選択されてもよい。基板吸着性の観点では、ヘテロ原子を環構成原子とする環状基から選択されるのが好ましく、特に、トリアジン環の残基等、窒素原子を含む環状基から選択されるのが好ましい。また、複数のヘテロ環の残基を、環状に連結してなる環状基も好ましい。また、環状多座配位子として公知の、フタロシアニン、ポリフィリン、及びコロール等の残基も好ましい。なお、これらの環状基については、中心金属に配位した状態であってもよい。以下に、Xの例として好ましい、ヘテロ環状基の例を示すが、これらに限定されるものではない。なお、以下では、環状基の置換基や中心金属は取り去り、環状基の骨格のみを示すものとする。また、Yの置換位置はいずれであってもよく、下記の環状基中、置換可能な水素原子のいずれもYに置き換わっていてもよい。
【0022】
【化8】

【0023】
また、炭素原子のみを環構成原子とする芳香族性環状基の例には、ベンゼン環の残基が含まれる。また、複数のベンゼン環が縮環してなる環(例えば、トリフェニレン、ペニレン、コロネン等)の残基、又は複数のベンゼン環が環状に連結してなる環状基も好ましい。以下に、炭素原子のみを環構成原子とする芳香族性環状基の例を示すが、以下の例に限定されるものではない。なお、以下では、置換基は取り去り、環状基の骨格のみを示すものとする。また、Yの置換位置はいずれであってもよく、下記の環状基中、置換可能な水素原子のいずれもYに置き換わっていてもよい。
【0024】
【化9】

【0025】
また、非芳香性脂環状基の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない。なお、以下では、置換基は取り去り、環状基の骨格のみを示すものとする。また、Yの置換位置はいずれであってもよく、下記の環状基中、置換可能な水素原子のいずれもYに置き換わっていてもよい。
【0026】
【化10】

【0027】
Xで表される環状基は、1以上の置換基を有していてもよい。当該置換基の例には、吸着性基を含む種々の置換基が含まれる。環状基の環構成原子に、直接吸着性基が結合していてもよいし、また連結基を介して吸着性基が結合していてもよい。連結基の例には、炭素原子数1〜20のアルキレン基、炭素数2〜20のアルケニレン基、炭素数2〜20のアルキニレン基、炭素数1〜20の芳香族性環状基等が含まれる(但し、連結鎖中の1つの炭素原子、又は隣接していない2以上の炭素原子が、酸素、窒素、硫黄等の原子に置換されていてもよく、水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい)。
また、Xで表される環状基に置換可能な置換基の例には、水素原子の他、以下の置換基群Tが含まれる。
置換基群T:
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換又は無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った1価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル基)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った1価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基)、ビシクロアルケニル基(置換又は無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換又は無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った1価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル基)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5又は6員の置換又は無置換の、芳香族又は非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた1価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5又は6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換又は無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルホニルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換又は無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルフィニル基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキル及びアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルホニル基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイルベンゾイル基)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基)、アリール及びヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換又は無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)を表わす。
【0028】
なお、式(1)中、Xの置換基の例としては、吸着性基を含む置換基(吸着性基そのものも含む意味である)、並びにフッ素原子を含む置換基が好ましい。Xは、吸着性基を含む置換基を有するか、無置換であるのが好ましい。
【0029】
式(1)中、Yは単結合又は2価以上の連結基を表す。Yは、吸着性基を含む連結基であるのが好ましい。Yが表す2価以上の連結基としては、置換もしくは無置換の、イミノ基(NH又はNR’(R’:は置換基))、スルフィド基(S)、炭素原子数1〜20のアルキレン基(但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素、窒素、硫黄等の原子に置換されていてもよく、水素原子がフッ素原子に置換されていても良い)、炭素原子数2〜20のアルケニレン基、炭素原子数2〜20のアルキニレン基、芳香族性環状基、カルボニル基(C=O)−、スルホニル基(S=O)、ホスホリル基(P=O)、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価以上の連結基が好ましい。
中でも、Yは、置換されていてもよい芳香族性環状基、即ち、芳香族環の残基、を含んでいるのが好ましい。該芳香族性環状基には、直接又は連結基を介して、吸着性基が置換しているのが好ましい。なお、本明細書では、「芳香族性環状基」の用語は、炭化水素芳香族環の残基のみならず、ヘテロ原子を環構成原子として含む芳香族ヘテロ環の残基に対しても用いるものとする。当該連結基の例については、Xと吸着性基との間に連結基が存在する態様における、当該連結基の例と同様である。前記芳香族性環状基の好ましい例には、ベンゼン、アセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、ピレン、ピセン、テトラフェン、ペリレン、コロネン、アヌレン、ピロール、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、チオフェン、ベンゾチオフェン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、ピラゾール、インダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、チアゾ−ル、イソチアゾール、ベンゾチアゾ−ル、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノキサリン、アクリジン、キナゾリン、シンノリン、及びトリアジンからなる群から選ばれる芳香環の残基が含まれる。中でも、Yは、ベンゼン環の残基(例えば、二価であればフェニレン基)を含んでいるのが好ましく、吸着性基で直接もしくは連結基を介して置換されたベンゼン環の残基を含んでいるのが特に好ましい。
【0030】
式(1)の化合物の例には、Xのみが吸着性基を含む例、Yのみが吸着性基を含む例、並びにX及びYの双方が吸着性基を含む例のいずれもが含まれる。本発明では、分子の両末端ではなく、分子の中心に位置する環状基であるX及びそれに結合しているY(好ましくは芳香族性環状基を含むY)のいずれか一方に置換基として、モールド本体への吸着性のある吸着性基を位置させることで、より吸着性基の吸着性を強化し、吸着性を損なうことなく、離型性を改善している。
【0031】
式(1)中、Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表す。Z中に含まれるC及びF以外の原子(但し水素原子は考慮しないものとする)の好ましい例には、酸素原子(O)、窒素原子(N)及び硫黄原子(S)が含まれる。中でもOが好ましい。Zの好ましい例には、−[(CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O]q−が含まれる。式中、p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表す。中でも、p1は2〜3であるのが好ましく、p2は0〜2であるのが好ましく、p3は0〜2であるのが好ましい。またqは2〜20であるのが好ましく、3〜10であるのがより好ましい。なお、これらは整数である必要はなく、即ち、式(1)の化合物は、p1、p2、p3及びqのいずれかが異なる基を有する2種以上の化合物の混合物であってもよい。また、qが2以上の場合、複数の基、−[(CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O]−、は同一でも異なっていてもよい。
【0032】
2価以上の連結基Zのフッ素原子含有率は、50質量%以上が好ましく、55〜80質量%がより好ましい。Zのフッ素原子含有率は前記範囲であると、潤滑性の向上などの点で好ましい。また、式(1)で表される化合物全体の、フッ素原子含有率は、35質量%以上であるのが好ましく、45〜65質量%であるのがより好ましく、50〜60質量%であるのがさらに好ましい。分子全体のフッ素原子含有率が前記範囲であると、表面エネルギーの低下などの点で好ましい。
【0033】
式(1)で表される化合物は、側鎖の末端部に基−Cn2n+1-mmを有する。nは1〜10の実数であり、mは0〜1の実数であるである。nは1〜8であるのが好ましく、1〜5であるのがより好ましい。mは0であるのが好ましい。
【0034】
上記式(1)中、s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。sは好ましくは1〜4であり、より好ましくは1〜3である。またtは、2以上であるのが好ましく、2〜6であるのがより好ましい。tが2以上であると、離型性の向上の点で好ましい。
【0035】
モールド用離型剤の態様では、吸着性基は、モールド本体の表面に対する吸着性を示す基である。モールド本体の材料からなる表面、に対して吸着性を示す基としては、極性基が挙げられる。該極性基としては、酸素、や窒素など電気陰性度の大きい原子を含む基を挙げることができ、例えば、水酸基(ヒドロキシ基)、カルボニル基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、及びシランカップリング基等が好ましい。シランカップリング基とは、加水分解によりシラノール基を生成する基であり、その例には、アルコキシシラン基、及びクロロシラン基等が含まれる。中でも、水酸基、カルボキシル基又はシランカップリング基が好ましく、水酸基又はシランカップリング基がより好ましく、水酸基がさらに好ましい。前記アルコキシシラン中のアルキル基は、炭素原子数1〜5程度のアルキル基であるのが好ましい。
【0036】
式(1)で表される化合物の好ましい例には、下記式(2)で表される化合物が含まれる。
【0037】
【化11】

【0038】
式中、Xは置換されていてもよい環状基を表し、Yは2価以上の連結基を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の吸着性基を含み;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10(好ましくは1〜5)の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。式(2)中のそれぞれの記号及の意義、及び好ましい範囲については、上記式(1)中のそれぞれと同様であり、好ましい範囲も同様である。また、p1、p2、p3及びqについても、好ましい範囲は、上記したとおりである。吸着性基の意義についても、式(1)中の吸着性基と同様であり、好ましい範囲も式(1)中の吸着性基の好ましい範囲と同様である。
但し、式(2)の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−中、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとする。式(2)の化合物は、環状基Xに、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した側鎖をs本有する連結鎖Yをt本配する化合物である。また、qが2以上のとき、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、互いに同一でも異なっていてもよく、sが2以上の時、複数のn、m、p1、p2、p3、q及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のs及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0039】
式(1)で表される化合物の好ましい例には、下記式(3)で表される化合物が含まれる。
【0040】
【化12】

【0041】
式中、X3は、置換されていてもよい芳香族性環状基を表し;Aは吸着性基を表し、複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよく;V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10(好ましくは1〜5)の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5である。また、qが2以上のとき、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、互いに同一でも異なっていてもよく、sが2以上の時、複数のn、m、p1、p2、p3、及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、bが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
式(3)中のそれぞれの記号の意義、及び好ましい範囲については、上記式(1)中のそれぞれと同様であり、好ましい範囲も同様である。また、p1、p2、p3及びqについても、好ましい範囲は、上記した通りである。また、Aで表される吸着性基の意義については、上記と同様であり、好ましい範囲も式(1)中の吸着性基の好ましい範囲と同様である。
【0042】
式(3)中、X3は、置換されていてもよい芳香族性環状基を表す。X3が表す芳香族性環状基の好ましい例については、式(1)中のXが表す芳香族性環状基の好ましい例と同様である。また置換基の例も、Xが有する置換基の例と同様である。
式(3)中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上(好ましくは2価又は3価)の連結基を表す。V及びWがそれぞれ表す2価以上の連結基は、鎖状であるのが好ましい。その例には、置換もしくは無置換の、イミノ基(NH又はNR’(R’:は置換基)、スルフィド基(S)、炭素原子数1〜20のアルキレン基(より好ましくは炭素原子数1〜10、さらに好ましくは炭素原子数1〜6、よりさらに好ましくは炭素原子数1〜4である。但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい。)、炭素原子数2〜20のアルケニレン基、炭素原子数2〜20のアルキニレン基、カルボニル基(C=O)−、スルホニル基(S=O)、ホスホリル基(P=O)、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価以上の連結基が含まれる。
【0043】
式(3)中、Vとしては、単結合、置換もしくは無置換のイミノ基、オキシ基、又は炭素原子数2〜20のアルキニレン基が好ましい。置換イミノ基の置換基R’は、炭素原子数1〜20のアルキル基(但し、1つの炭素原子又は隣接していない2以上の炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい)が好ましく、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5のアルキレン基である。
式(3)中、Wとしては、イミノ基(NH又はNR’(R’:は置換基であり、好ましくは炭素原子数1〜20(より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5)のアルキレン基)、炭素原子数1〜20のアルキレン基(より好ましくは炭素原子数1〜10、さらに好ましくは炭素原子数1〜6、よりさらに好ましくは炭素原子数1〜4である。但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい)、カルボニル基(C=O)−、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価の連結基が好ましい。前記一つ以上の組み合わせからなる2価の連結基の例には、炭素原子数1〜20のアルキレン基(Alk)を含む、−OAlk−、−C(=O)Alk−、及び−NH−Alk−;並びに−OC(=O)−、−C(=O)O−、及び−NH−C(=O)−等が含まれる。
【0044】
式(3)中、a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5である。
【0045】
前記式(3)中、Vは、NH又はNR’(R’は炭素原子数1〜20のアルキレン基を表す)であり、b=1、c=0、及びt=3であるのが好ましい。
【0046】
式(1)で表される化合物の好ましい例には、下記式(4)で表される化合物が含まれる。
【0047】
【化13】

【0048】
式中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;Aは吸着性を表し、複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよく;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10(好ましくは1〜5)の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bが2〜5であり;Rは任意の置換基を表し、cは0〜1の実数を表し、但しc+t=3である。また、qが2以上のとき、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、互いに同一でも異なっていてもよく、sが2以上の時、複数のn、m、p1、p2、p3、及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、bが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
式(4)中の記号は、式(3)中の記号それぞれと同義であり、好ましい範囲は同様である。また、Aで表される吸着性基の意義については、上記と同様であり、好ましい範囲も式(1)中の吸着性基の好ましい範囲と同様である。
【0049】
式(4)中、置換基Rの例としては、式(1)中の環状基Xが有する置換基の例と同様であり、好ましい範囲も同様である。即ち、Rは、吸着性基を含む置換基(吸着性基そのものも含む意味である)、並びにフッ素原子を含む置換基が好ましい。式(4)中のトリアジン環は、吸着性基を含む置換基を有するか、無置換であるのが好ましい。
【0050】
前記式(2)〜(4)中の−((CF2p1(CF(CF3))p2(C(CF32p3O)p−の例には、−CF2O(CF2CF2O)q'−が含まれる。q’は1〜30であるのが好ましく、3以上であるのがより好ましく、3〜20であるのがさらに好ましい。即ち、前記式(1)で表される化合物の例には、下記式(5)で表される化合物が含まれる。
【0051】
【化14】

【0052】
式(5)中の記号のそれぞれは、式(4)中のそれぞれと同義であり、好ましい範囲は、前記式(4)中のそれぞれと同様である。q’は1〜30であるのが好ましく、3以上であるのがより好ましく、3〜20であるのがさらに好ましく、3〜10であるのがよりさらに好ましい。但し、sが2以上の時、複数のn、m、及びq’はそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、bが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0053】
以下に式(1)で表される化合物の具体例を示すが、これらの具体例に限定されるものではない。なお例示化合物番号に付記されたカッコ内の数値は、フッ素原子含有率を意味する。
【0054】
【化15】

【0055】
【化16】

【0056】
【化17】

【0057】
【化18】

【0058】
【化19】

【0059】
【化20】

【0060】
【化21】

【0061】
また、前記式(1)で表される化合物の中でも、トリアジン環に結合している2〜3の−NH−中の水素原子が、炭素原子数1〜5のアルキル基(以下、「Ak」と表記する)で置換された化合物は、結晶性が失われる傾向がある。−NH−を有する化合物が常温で固体粉末状態であっても、対応する−N(Ak)−を有する化合物は、常温で、ワックス状等の半固体状態となる。このことは、離型性の観点では、有利に作用すると予測される。
【0062】
添加剤:
本発明の離型剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、1以上の添加剤を含有していてもよい。添加剤の例としては、フッ素界面活性剤が挙げられ、中でもパーフルオロアルキルポリエーテルオリゴマーが好ましい。パーフルオロアルキルポリエーテルオリゴマーを添加すると、離型剤組成物の粘度を低減することができ、それにより摩擦をさらに低減することができる。摩擦低減によりモールド/レジスト剥離時の剥離力を抑制することが可能であり、形成したレジストパターンを損なうことなく剥離できる。パーフルオロアルキルポリエーテルオリゴマーの好ましい例には、下記一般式(a)〜(d)で表されるパーフルオロアルキルポリエーテルオリゴマーが含まれる。
【0063】
A−CF2O(CF2CF2O)r(CF2O)sCF2−B (a)
[A及びBはそれぞれ、OHCH2−又は下式から選ばれる少なくとも1種の基を表し;rは1〜30のいずれかの数であり、sは1〜30のいずれかの数であり;
【化22】

但し、xは1〜5のいずれかの数である。]
【0064】
X−CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2−Y (b)
[X及びYはそれぞれ、F、HO(CH2CH2O)tCH2−、HOCH2CH(OH)CH2OCH2−、HOOC−及びピペロニル基から選ばれる基を表し;mは1〜60のいずれかの数であり;nは1〜60のいずれかの数であり;tは1〜30のいずれかの数である。]
F[CF(CF3)CF2O]uCF(CF3)−X’ (c)
[X’は、F又は−COOHを表し;uは1〜60のいずれかの数である。]
F[CF2CF2CF2O]vCF2CF2CH2−Z (d)
[Zは、F、HO−及びCOOH−から選ばれる基を表し;vは1〜60のいずれかの数である。]
【0065】
前記式(a)の化合物の例としては、“Fomblin Z−dol”(Solvay Solexis社)、及び“MORESCO PHOSFAROL A20H”(松村石油研究所)等がある。前記式(b)の化合物の例としては、“Fomblin Z−03”、“Z−dol TX”、“Z−tetraol”、“Z−DIAC”、“AM2001”、“AM3001”(いずれもSolvay Solexis社)等がある。式(c)の化合物の例としては、“KRYTOX 143”、及び“157FS”(デュポン社)等がある。式(d)の化合物の例としては、“DemnumSA”、及び“DemnumSH”(いずれもダイキン工業社)等がある。
化合物(a)〜(d)含有による効果は、本発明の離型剤組成物の粘度低減による摩擦低減である。摩擦低減によりモールド/レジスト剥離時の剥離力を抑制することが可能であり、形成したレジストパターンを損なうことなく剥離できる。
【0066】
溶剤:
本発明の離型剤組成物は、溶液及び/又は分散液等の液体として調製することができる。該溶液及び分散液の調製に用いられる溶剤としては、“Vertrel XF−UP”(三井・デュポンフロロケミカル社製)、“HFE−7100DL”(住友スリーエム社製)、“HFE−7200”(住友スリーエム社製)、“AK−225”(旭硝子製)、アセトン、及び2−ブタノンなどの市販品を使用することができる。
好ましい溶剤は、塗布法によっても異なり、例えば、ディップコート法の場合は、“Vertrel XF−UP”(三井・デュポンフロロケミカル社製)、“HFE−7100DL”(住友スリーエム社製)、“HFE−7200”(住友スリーエム社製)などのフッ素系溶剤が好ましい。
溶液(又は分散液)中の前記化合物の濃度としては、一般的には0.001〜0.5質量%程度が好ましく、特に0.001〜0.2質量%程度がより好ましい。
【0067】
2.モールド
本発明は、本体と、該本体の表面の少なくとも一部に、本発明の離型剤組成物からなる膜を有することを特徴とするモールドにも関する。本発明のモールドは、優れた離型性を示し、特に、ナノインプリント加工用モールドとして有用である。前記本体を構成する材料については特に制限はないが、微細な凹凸のパターンが形成可能な点で、石英、ガラス、シリコン、シリコンの酸化物、シリコーン樹脂、金属、金属酸化物、及びTEOSのいずれかからなるのが好ましい。金属は合金であってもよい。金属及び金属酸化物の好ましい例には、ニッケル、ニッケルの酸化物、ニッケルを含む合金、タンタル、クロム、及びクロムの酸化物が含まれる。
【0068】
本発明のモールドは、本体の少なくとも一部の表面に、本発明の離型剤組成物からなる膜を形成する工程を含む方法により製造することができる。以下、本発明のモールドの製造方法例について説明する。
モールド本体の表面に離型膜を形成する方法は、通常、洗浄工程、塗布工程、吸着促進工程、及びリンス工程の4工程を含む。但し、この方法に限定されるものではない。以下、各工程について説明する。
洗浄工程:
洗浄工程は、モールド本体の表面を洗浄及び/又は活性化することを目的として実施される。その方法については、特に制限はなく、例えば、UV照射、プラズマ処理などの処理が挙げられる。モールド表面が十分に清浄、活性されているのであれば、この工程は省略することも可能である。
【0069】
塗布工程:
塗布工程は、前記洗浄されたモールド本体の表面を、本発明の離型剤組成物で被覆し、離型層を形成する工程である。塗布方法については特に制限はない、溶液(又は分散液)として調製された本発明の離型剤組成物を利用する態様では、公知の種々の塗布方法、例えば、ディップコート法、及びスピンコート法等を利用することができる。また、塗布方法によらず、例えば、真空蒸着法などを利用して、離型層を形成することもできる。
【0070】
吸着促進工程:
吸着促進工程は、離型剤組成物のインプリントモールド表面への吸着を促進することを目的として実施される。その方法については、特に制限はないが、アニール処理、UV照射などが好ましい。アニール処理は、温度50℃〜150℃程度で行うのが好ましい。また、UV照射の場合は、波長185nm、又は254nmの光を含むUVランプを使用するのが好ましい。
【0071】
リンス工程:
リンス工程は、前記吸着促進処理されたモールドをリンスする工程である。このリンス工程では、モールド本体に適用された余剰の前記離型剤組成物を、除去することができる。前記具体的方法についてはと、特に制限はないが、超音波洗浄、ディップリンス等が実施されるであろう。前記超音波洗浄を実施する時間としては、特に制限はなく、10秒間〜10分間程度実施することができる。また、前記ディップリンスは、溶剤に浸漬させてリンス処理を行なう方法であり、浸漬時間としては10秒間〜30分間程度とすることができる。リンス処理に用いる溶剤としては、特に制限はなく、前記離型剤組成物を溶液として調製する際に用いる溶剤の例と同様である。
【0072】
本発明のモールドは、NIL用モールドとして有用であり、例えば、NIL技術を利用したDTM、及びBPM等の作製に用いられ、また半導体素子及び微小光学素子のパターン形成にも利用されている。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例に制限されるものではない。
1.離型剤組成物の準備
以下に示す化合物(式(1)で表される化合物)のそれぞれを、溶剤“HFE−7100DL”に濃度0.1質量%で溶解し、離型剤溶液をそれぞれ調製した。
【0074】
【化23】

【0075】
【化24】

【0076】
また、比較例1及び3用離型剤として、市販の離型剤、"Fomblin Z-tetraol"(Solvay Solexis社製);及び“S10"(Solvay Solexis社製):をそれぞれ用い、溶剤のみVertrel XF−UPに変更して、同様にして比較例用離型剤溶液をそれぞれ調製した。一方、比較例2用離型剤としては、“デュラサーフ”(ダイキン工業製);を使用し、本離型剤は既に溶剤中に溶解した状態で市販されているため、そのまま使用した。比較例4及び5用離型剤としては、下記化合物4及び5をそれぞれ用いて同様に溶剤HFE−7100DLを使用して離型剤溶液を調液した。
なお、これらの構造を以下に示す。
【0077】
【化25】

【0078】
【化26】

【0079】
2.モールドの作製
モールド本体として、石英からなり直方体(縦20mm、横30mm、高さ0.5mm)の基板を用いた。上記で調製した各離型剤溶液を、UVを5分間照射することにより洗浄したモールドにディップコート法で塗布し、120℃ 1時間のアニール処理を行なうことにより吸着促進し、最後に溶剤HFE−7100DLにてディップリンスして、本体の表面に離型層を形成し、モールドを作製した。
【0080】
3.モールドの評価
作製した各モールドについて、以下の評価を行った。
アクリル系レジスト(PAK−01−60、東洋合成工業(株)製)を100nmの厚みになるようにスピンコート法(1,500rpm)によりレジスト層を準備した。その試験基板上のレジスト層に、作製した各モールドの離型処理面を押し当て、波長365nmのUV光(UV−LED照射器UV−400シリーズ、(株)キーエンス製)にてレジストを硬化し、その後離型して、その際の剥離力を測定した(表中の「剥離力@初期」)。この操作を30回繰り返し、30回目のインプリント後の離型する際の剥離力についても測定した(表中の「剥離力@NIL×30」)。なお、剥離力は、LMA−A型 小型圧縮型ロードセル((株)共和電業製)を用いて測定した。
結果を下記表に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
吸着基を有する化合物を離型剤として使用した実施例(1)〜(8)、比較例(1)〜(3)は、いずれの試料についても、初期においては剥離力に違いはなかったが、上記操作を30回繰り返すと、実施例と比較例とに剥離力について明らかな違いが生じた。実施例では剥離力は初期と比較してほとんど変動しなかったのにもかかわらず、比較例では剥離力が初期と比較して顕著に増加した。
吸着基の無い化合物を離型剤として使用した比較例(4)〜(5)では、離型剤のモールドへの吸着が不十分であるため、初期から剥離力は大きくなった。
【0083】
実施例(1)〜(3)について、それぞれに、
“Fomblin Z−dol”(Solvay Solexis社;式(a)のパーフルオロアルキルポリエーテルの例)、
“Fomblin Z−03”(Solvay Solexis社;式(b)のパーフルオロアルキルポリエーテルの例)、
“KRYTOX 143”(デュポン社;式(c)のパーフルオロアルキルポリエーテルの例)、又は
“DemnumSA”(ダイキン工業社;式(d)のパーフルオロアルキルポリエーテルの例)、
を添加して同様の評価を行ったところ、いずれの試料についても、初期及び30回目の操作後のいずれにおいても、剥離力が0.2kgf以下となることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする離型剤組成物。
【化1】

[式中、Xは置換されていてもよい環状基、Yは単結合又は2価以上の連結基を表し、但しX及びYの少なくとも一方は1つ以上の吸着基を含み;Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表し、但し、sが2以上の時、複数のn、m、s、及びZはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のs及びYは、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記少なくとも1種の式(1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の離型剤組成物。
【化2】

[式中、Xは置換されていてもよい環状基を表し、Yは2価以上の連結鎖を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の吸着基を含み;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表し、但し、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−中、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものものとし、qが2以上のとき、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、互いに同一でも異なっていてもよく、また、sが2以上の時、複数のn、m、p1、p2、p3、q及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のs及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項3】
前記少なくとも1種の式(1)で表される化合物が、式(3)で表されることを特徴とする請求項1に記載の離型剤組成物。
【化3】

[式中、X3は置換されていてもよい芳香族性環状基を表し;Aは吸着基を表し、複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよく;V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5であり;但し、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−中、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものものとし、qが2以上のとき、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、互いに同一でも異なっていてもよく、また、sが2以上の時、複数のn、m、p1、p2、p3、及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、bが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項4】
前記少なくとも1種の式(1)で表される化合物が、式(4)で表されることを特徴とする請求項1に記載の離型剤組成物。
【化4】

[式中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;Aは吸着基を表し、複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよく;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5であり;Rは任意の置換基を表し、cは0〜1の実数を表し、但しc+t=3であり;但し、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−中、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものものとし、qが2以上のとき、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、互いに同一でも異なっていてもよく、また、sが2以上の時、複数のn、m、p1、p2、p3、及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、bが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項5】
前記式中の−((CF2p1(CF(CF3))p2(C(CF32p3O)p−が、−CF2O(CF2CF2O)q'−(但し、q’は1〜30の数)であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の離型剤組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種の式(1)で表される化合物が、式(5)で表されることを特徴とする請求項1に記載の離型剤組成物。
【化5】

[式中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;Aは吸着基を表し、複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよく;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5であり;Rは任意の置換基を表し、cは0〜1の実数を表し、但しc+t=3であえい;q’は1〜30の実数であり;但し、sが2以上の時、複数のn、m、及びq’はそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、bが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、並びにtが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項7】
q’が、3〜20の数であることを特徴とする請求項5又は6に記載の離型剤組成物。
【請求項8】
前記吸着基が、水酸基、カルボキシル基、及びシランカップリング基から選択されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の離型剤組成物。
【請求項9】
前記吸着基の少なくとも1つが、水酸基であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の離型剤組成物。
【請求項10】
Vが、NH又はNR’(R’は炭素原子数1〜20のアルキレン基を表す)であり、b=1、c=0、及びt=3であることを特徴とする請求項3〜9のいずれか1項に記載の離型剤組成物。
【請求項11】
Wが、イミノ基(NH又はNR’(R’:は置換基))、炭素原子数1〜20のアルキレン基(但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい)、カルボニル基(C=O)−、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価の連結基であることを特徴とする請求項3〜10のいずれか1項に記載の離型剤組成物。
【請求項12】
式(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれかで表されるパーフルオロアルキルポリエーテルオリゴマーの少なくとも1種をさらに含有する請求項1〜11のいずれか1項に記載の離型剤組成物。
A−CF2O(CF2CF2O)r(CF2O)sCF2−B (a)
[A及びBはそれぞれ、OHCH2−又は下式から選ばれる少なくとも1種の基を表し;rは1〜30のいずれかの数であり、sは1〜30のいずれかの数であり;
【化6】

但し、xは1〜5のいずれかの数である。]
X−CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2−Y (b)
[X及びYはそれぞれ、F、HO(CH2CH2O)tCH2−、HOCH2CH(OH)CH2OCH2−、HOOC−及びピペロニル基から選ばれる基を表し;mは1〜60のいずれかの数であり;nは1〜60のいずれかの数であり;tは1〜30のいずれかの数である。]
F[CF(CF3)CF2O]uCF(CF3)−X’ (c)
[X’は、F又は−COOHを表し;uは1〜60のいずれかの数である。]
F[CF2CF2CF2O]vCF2CF2CH2−Z (d)
[Zは、F、HO−及びCOOH−から選ばれる基を表し;vは1〜60のいずれかの数である。]
【請求項13】
本体と、該本体の表面の少なくとも一部に、請求項1〜12のいずれか1項に記載の離型剤組成物からなる膜を有することを特徴とするモールド。
【請求項14】
ナノインプリント加工用であることを特徴とする請求項13に記載のモールド。
【請求項15】
前記本体表面が、石英、ガラス、シリコン、シリコンの酸化物、シリコーン樹脂、金属、金属酸化物、及びTEOSのいずれかからなることを特徴とする請求項13又は14に記載のモールド。

【公開番号】特開2011−62984(P2011−62984A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217492(P2009−217492)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】