説明

難分解物質の分解処理方法及びその装置

【課題】PFC,SF等の既存の手段では分解が困難な環境汚染物質、及びフロンガスその他の既に有効な分解処理方法が提供されているが、より低温度での分解処理が好ましい環境汚染物質からなる難分解物質を従来より低温で、かつ、短時間に高分解率で分解するようにした分解処理方法とその装置を提供することを目的とする。
【解決手段】過熱蒸気と反応して水素を発生する炭素含有物質を所定温度に加熱し、被分解処理物と接触させることによって、被分解処理物の活性化エネルギーを下げて活性化させるとともに、被分解処理物を過熱蒸気と接触させることによって、活性化された被分解処理物を分解処理する難分解物質の分解処理方法とその装置を提供する。そして、活性化させた被分解処理物を過熱蒸気による加水分解及び/又は発生した水素による還元反応によって分解処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境汚染物質等の難分解物質の分解処理方法及びその装置に関し、特にはPFC(パーフルオロカーボン:過フッ化炭化水素),SF(六フッ化イオウ)等の環境汚染物質であって、既存の手段では分解が困難な超難分解物質や、フロンガス類等の難分解物質を、所定温度に加熱された炭素と接触させることにより、炭素の触媒としての作用によって難分解物質の活性化エネルギーを低下させ、従来より低い温度で、かつ、短時間に高分解率で分解するようにした分解処理方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品の洗浄、エアコンや冷蔵庫などの冷媒、スプレー剤等として多用されていたフロンガス類のCFC(クロロフルオロカーボン)は、オゾン層を破壊する環境汚染物質であることが指摘されており、オゾン層破壊を防止するためのモントリオール議定書によって、その製造が中止された。フロンガス類のHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)については、2020年に製造が中止される。また、消火剤として用いられているハロンガスについては、ハロン破壊処理ガイドラインが制定され、今後破壊が進んでいくと考えられる。また、代替フロンガスとして使用されているPFC類,SF,HFC類(ハイドロフルオロカーボン)は、オゾン層は破壊しないが、二酸化炭素を1とした場合の地球温暖化係数は、PFC類のCF(四フッ化炭素)が6500、SFが23900と極端に高く、地球温暖化に大きな影響を与えている。
【0003】
そのため、PFC類,SF,HFC類は京都議定書においても温暖化ガスに指定されており、2008年から2012年の間に1995年水準から6%削減することが義務付けられている。そのため、地球環境の保護及び京都議定書の遵守の観点から、国が排出企業に対して削減を呼びかけている現状にある。
【0004】
そして、フロン回収・破壊法の規制及びフロン分解技術の確立により、現在市場に流通しているフロンガスについて削減が進んでいる。フロンガスの分解処理方法に関しては、例えば水熱反応法,焼却法,爆発反応分解法,微生物分解法,超音波分解法、液中燃焼法及びプラズマ反応法等が提案されており、更にこれらの分解処理方法よりも効果的な過熱蒸気反応法を本願出願人が提供している(特許文献1)。
【0005】
この特許文献1には、フロンガスと溶媒としての水を混合したものを加熱して過熱蒸気とし、該過熱蒸気を所定の温度に加熱された常圧の反応装置内を所定の反応時間経過させて通過させることにより、フロンガス等を分解処理する難分解物質の分解処理方法及びその装置が記載されている。
【0006】
更に、本願出願人は特許文献2により、フロンガスと溶媒としての水を混合したものを加熱器を用いて所定の温度に加熱して過熱蒸気とし、該過熱蒸気を所定の温度に加熱された常圧の反応器内を所定の反応時間経過させて通過させることにより、被分解処理物を分解処理する方法において、加熱器及び反応器の何れか一方もしくは双方に、鉄,炭素,炭素鋼から選択された1種又は複数の物質を配置して、加熱器もしくは反応器内で生成した水素による還元反応と、過熱蒸気による加水分解反応によって難分解物質を分解する難分解物質の分解処理方法を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3219689号
【特許文献2】特許第3219706号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したようにフロンガスやハロンガスについては特許文献1,2に示す過熱蒸気反応法によって、800℃程度の温度で活性化して99.9%以上の分解率で分解処理することが可能である。また、HFCも過熱蒸気反応法などのフロン分解技術により分解処理が可能であり、徐々に削減,排出抑制が進んでいる。これら分解技術が提供されているフロンガス等の難分解物質においても、より低温度で分解処理できることが好ましい。
【0009】
一方、PFC,SFは未だ削減,排出抑制対策が効果を挙げているとはいえない現状にある。PFC,SFの排出を抑制するためには、再利用を行うことと、分解処理して無害化することである。そのため、PFC,SFの多くは使用後に回収されて、不純物を分離して再生されて再利用に供されている。一方、再生使用することができないPFC,SFについては、焼却処理等によって無害化することが行われている。しかしながら、PFCが活性化して熱分解するためには1400℃〜1500℃の温度が、又SFが活性化して熱分解するためには950℃〜1050℃の温度が必要であるといわれている(NIST/National Institute of Standards and Technologyより)。
【0010】
そして、1400℃を超えると、ステンレス鋼やニッケル合金の使用温度を超えてしまい、これらを反応器の材質として使用することができなくなる。そのため、理論上は1400℃以上の温度で熱分解が可能であっても、実用的には反応器さえ作成することができない。更に、PFCの中でも特に多く用いられているCFは化学的に安定しており分解が難しく、確立した分解技術がないため、前記した各種の分解処理方法では99.9%以上の分解率で分解することが困難であり、その多くが大気に放出されているのが現状である。また、CFほど分解が困難ではないが、SFもHFC類に比べて分解が難しいことが知られている。
【0011】
そこで、発明者らは、特許文献1に示す従来の過熱蒸気反応法がフロンガスの分解手段として有効なことから過熱蒸気に注目し、PFCの中でも最も分解が困難とされているCFが過熱蒸気を使用することによって、反応器の素材としてステンレス鋼やニッケル合金を使用可能な温度である1400℃より低い1050℃〜1150℃の温度での分解が可能かどうかの実験を行った(従来例1,2)。図5に示すように、0.1L/minのCFを1000℃に加熱した加熱器41に供給して加熱するとともに、水を加熱器41に供給して加熱することにより過熱蒸気として、両者をそれぞれ配管42,43によって、ヒータ44で1050℃〜1150℃の温度に加熱した常圧の反応器45に供給して反応させた。なお、過熱蒸気の当量は2.0とした。反応器45内でCFを過熱蒸気と30秒反応させた後、反応器45の上部から反応ガスを配管46で取り出して、バブリングタンク47内の水48にバブリングさせて、配管49によって取り出した。
【0012】
次に、SFが過熱蒸気を使用して従来の活性化温度である950℃より低い800℃の温度で分解が可能かどうかの実験を行った(従来例3)。図5に示すように、0.8L/minのSFを1000℃に加熱した加熱器41に供給して加熱するとともに、水を加熱器41に供給して加熱することにより過熱蒸気として、両者をそれぞれ配管42,43によって、ヒータ44で800℃の温度に加熱した常圧の反応器45に供給して反応させた。なお、過熱蒸気の当量は1.5とした。反応器45内でSFを過熱蒸気と4.8秒反応させた後、反応器45の上部から反応ガスを配管46で取り出して、バブリングタンク47内の水48にバブリングさせて、配管49によって取り出した。
【0013】
併せて、フロンガスとしてCFC−22R(CHClF)が過熱蒸気を使用して従来の活性化温度である800℃より低い温度の600℃の温度で分解が可能かどうかの実験を行った(従来例4)。図5に示すように、1.2L/minのCHClFを1000℃に加熱した加熱器41に供給して加熱するとともに、水を加熱器41に供給して加熱することにより過熱蒸気として、両者をそれぞれ配管42,43によって、ヒータ44で600℃の温度に加熱した常圧の反応器45に供給して反応させた。なお、過熱蒸気の当量は1.5とした。反応器45内でCFを過熱蒸気と3.6秒反応させた後、反応器45の上部から反応ガスを配管46で取り出して、バブリングタンク47内の水48にバブリングさせて、配管49によって取り出した。これら従来例1〜4の結果を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に示すように、CFは1050℃の反応温度で分解率24.0%、1150℃の反応温度で分解率55%しか分解することができず、これらの温度領域での過熱蒸気ではCFは全体として活性化しておらず、99.9%以上の分解率で分解することができないことが判った。また、実際の分解処理装置として使用するためには、サイズ面の制約から反応時間は10秒以下にする必要があるため、この従来の過熱蒸気を使用した加水分解手段及び原理は、そのままではCFの分解に採用することができない。
【0016】
一方、一部ではあってもCFを分解できていることは、CFと過熱蒸気に次式の反応が生じていることとなり、過熱蒸気によってCFが部分的には活性化していることが判った。
CF+2HO→CO+4HF ………(3)
また、図5に示す過熱蒸気を使用した分解原理によって、フロンガスは800℃程度の反応温度でも数秒間で、99.9%以上の分解率で分解することができる(特許文献1)。フロンガスおよび過熱蒸気がともに活性化されていないと分解は進まない。このことから少なくとも過熱蒸気はこの温度領域で活性化しているといえる。にもかかわらず、同じ温度領域の過熱蒸気によってCFは十分に分解されていない。このことから、1150℃までの温度領域では、CFは充分に活性化していないと判断できる。
【0017】
また、SFは800℃の反応温度で分解率67%、CHClFは600℃の反応温度で59%しか分解することができず、これらの温度領域ではCFやSFは活性化していないことが判った。
【0018】
次に、発明者らは、過熱蒸気による加水分解反応に、水素による還元反応を併用した特許文献2に示す従来の過熱蒸気反応法によるCFの分解可能性を確認するための実験を行った(従来例5)。図6に示すように、0.2L/minのCFを1000℃に加熱した加熱器41に供給して加熱するとともに、水を加熱器41に供給して加熱することにより過熱蒸気として、両者をそれぞれ配管42,43によって、ヒータ44で1150℃の温度に加熱するとともに、内部に縦50mm×横50mm×厚さ10mmの板状黒鉛50を10枚積層して載置した内径65mm×高さ1000mmの反応器45に供給して反応させた。なお、過熱蒸気の当量は1.5とした。反応器45内でCFを過熱蒸気と17秒反応させた後、反応器45の上部から反応ガスを配管46で取り出して、バブリングタンク47内の水48にバブリングさせて、配管49によって取り出した。その結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
この分解処理方法によれば、過熱蒸気と10枚の板状黒鉛50とが反応して水素が生成され、過熱蒸気による加水分解に加えて水素による還元反応が起きるが、CFの分解率は表2に示すように55%に止まり、CFを99.9%以上の分解率で分解することができなかった。よって、過熱蒸気による加水分解に水素による還元反応を併用したとしてもCFは全体として水素による還元反応が進む程度には活性化されていないと判断できる。
【0021】
一方、一部ではあってもCFを分解できていることは、前記した(3)式に示すCFと過熱蒸気の反応とともに、炭素と過熱蒸気が反応して生成される水素とCFに次式の反応が生じていると考えられ、CFは過熱蒸気,炭素又は水素の存在下で部分的には活性化していると考えられる。
CF+2H→C+4HF ………(2)
【0022】
そこで、本発明は上記従来の問題点に鑑みて、PFC,SF等の環境汚染物質であって、既存の手段では分解が困難な超難分解物質や、フロンガス類等の難分解物質の活性化エネルギーを触媒の作用によって低下させ、従来より低い温度で活性化させることにより、短時間で、ほぼ完全に分解できる99.9%以上の分解率で分解するようにした分解処理方法とその装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、地球温暖化を防止するためには、既存の手段では分解が困難なCF等のPFC類やSF等の超難分解物質を分解処理することが喫緊の課題として捉え、99.9%以上の高い分解率で、1400℃以下の従来より低温で、かつ、10秒以下の短時間でCF等の超難分解物質を分解する手段の開発を目指した。併せて、フロンガス類等の難分解物質であっても、従来より低い反応温度で分解する手段の開発を目指した。即ち、基底状態にある被分解処理物を遷移状態とするための活性化を触媒を使用することによって従来より低温度で行うことを目指した。
【0024】
そのためには、先ずCF等の超難分解物質やフロンガス等の難分解物質を何らかの手段で活性化することが必要である。そこで、前記した図5,図6及び表1,表2に示す実験結果から、過熱蒸気,水素,水素発生物質としての炭素に着目し、これらの物質がCF,SF,CHClFの活性化に寄与しているのではないかと考え、多様な基礎実験及び試行錯誤の結果、CF等が所定温度に加熱された炭素と接触することにより、炭素が被分解処理物の活性化エネルギーを低下させる触媒として作用して、従来より低温度でCF等が活性化すること、即ち、炭素の近傍にCF等の反応場が形成されるとの知見を得た。即ち、反応器内において、所定温度に加熱された炭素と接触してCF等が通過することによって従来より低い温度であってもCF等が活性化して、反応場が形成される。ここで、反応場とは、ある反応が進んでいるその反応の近傍のことをいい、発熱反応であればその発熱エネルギーの影響を受ける範囲、吸熱反応の場合も同様である。
【0025】
本発明は上記知見に基づいて、その目的を達成するために、過熱蒸気と反応して水素を発生する炭素含有物質を所定温度に加熱し、被分解処理物と接触させることによって、被分解処理物の活性化エネルギーを下げて活性化させるとともに、被分解処理物を過熱蒸気と接触させることによって、活性化された被分解処理物を分解処理する難分解物質の分解処理方法を基本として提供する。そして、被分解処理物を所定温度に加熱して、炭素含有物質と接触させる方法、及び活性化させた被分解処理物を過熱蒸気による加水分解及び/又は発生した水素による還元反応によって分解処理する方法を提供する。
【0026】
更に、難分解物質の分解処理装置として、過熱蒸気と反応して水素を発生する炭素含有物質を充填した反応器と、該反応器に過熱蒸気を供給する手段と、該反応器における炭素含有物質と接触するように被分解処理物を供給して、所定の反応時間経過するように通過させる手段を有する難分解物質の分解処理装置を基本として提供する。
【0027】
また、水を加熱して過熱蒸気とするとともに被分解処理物を予め所定温度に加熱する加熱器を備えた構成、加熱器内の温度を600℃〜1000℃に保持した構成、反応器内に炭素含有物質を補充する手段を備えた構成を提供する。
【0028】
更に、被分解処理物が活性化するためには、炭素含有物質が所定の温度を保持していることと、被分解処理物の殆ど全てが炭素含有物質の炭素と接触することが必要であり、そのために、炭素含有物質を、被分解処理物の進行方向の反応器の空間部を所定厚さで被覆するように充填してなる構成を提供する。
【0029】
更に、反応器を縦型に配置し、該反応器内に炭素含有物質を、反応器の横断面形状における全ての空間部を所定厚さで被覆するように充填してなる構成、被分解処理物がPFCの場合に、反応器内の温度を1050℃〜1300℃に保持した構成、被分解処理物がSFの場合に、反応器内の温度を800℃〜900℃に保持した構成、被分解処理物がCHFの場合に、反応器内の温度を600℃〜700℃に保持した構成、被分解処理物がCFC,HCFC又はHFCの場合に、反応器内の温度を600℃〜700℃に保持した構成を提供する。
【0030】
そして、反応器内を略常圧とした構成、反応器内に炭素含有物質の充填層を複数形成した構成、反応器内の全領域に炭素含有物質を充填した構成、炭素含有物質として、黒鉛又は活性炭の粒状体を使用する構成を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかる難分解物質の分解処理方法及びその装置によれば、反応器内に充分に広い接触面を有して充填された炭素含有物質の炭素が所定温度に加熱されることにより、被分解処理物がこの炭素と接触して通過することによって、被分解処理物は活性化され、即ち炭素の近傍に被分解処理物の反応場が形成され、この反応場が被分解処理物の結合を切り離すエネルギーを供給する場として作用する。例えば被分解処理物がCF,SF又はCHClFの場合、炭素の近傍にCF,SF又はCHClFの反応場が形成され、この反応場が被分解処理物であるCFのC−F結合や、SFのS−F結合や、CHClFのC−CH結合,C−Cl結合を切り離すエネルギーを供給する場として作用する。
【0032】
その結果、本来、被分解処理物が活性化していない温度領域において、過熱蒸気と水素によって、又は水素によって化学反応が進行し、99.9%以上の高い分解率で、従来より低温で、かつ、10秒以下の短時間でほぼ完全に分解される。即ち、炭素が被分解処理物の活性化エネルギーを低下させる触媒として作用して、従来より低温度で被分解処理物を活性化させて基底状態から遷移状態となるため、従来より低い温度で分解反応を進行させることが可能となる。具体的には、CFは1050℃〜1300℃の本来CFが活性化していない温度領域において、SFは800℃〜900℃の本来SFが活性化していない温度領域において、又CHClFは600℃〜700℃の本来CHClFが活性化していない温度領域において過熱蒸気と水素によって、又は水素によって化学反応が進行し、99.9%以上の高い分解率で、従来より低温で、かつ、10秒以下の短時間でほぼ完全に分解される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態を概略的に示すシステム図。
【図2】反応器の炭素含有物質が充填されている部分の横断面模式図。
【図3】反応器の縦断面模式図。
【図4】本発明の第2実施形態を概略的に示すシステム図。
【図5】従来の分解処理方法を概略的に示すシステム図。
【図6】従来の分解処理方法を概略的に示すシステム図。
【図7】本発明との比較例にかかる分解処理方法を概略的に示すシステム図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下図面に基づいて本発明にかかる難分解物質の分解処理方法及びその装置の最良の実施形態を説明する。本発明が分解処理の対象とする難分解物質とは、PFC、特には化学的に安定しており分解が困難なCFやSF等の環境汚染物質であって、既存の手段では分解が困難なもの、及びフロンガスその他の既に有効な分解処理方法が提供されているが、より低温度での分解処理が好ましい環境汚染物質をいう。即ち、最も分解の困難なCFを頂点として、その他のフッ化化合物等の環境汚染物質、有機ガスには全て適用可能である。
【0035】
なお、本明細書では、これまで1400℃以下の温度で熱分解をすることができず、有効な分解手段が提供されていないCFを始めとするPFCやSF等を超難分解物質として、又既存の分解手段が提供されているがより分解温度を下げることが望まれているフロンガス類を難分解物質として説明する。よって、本発明が対象とする難分解物質はCF,SF,CHClF等の環境汚染物質全般を対象とするものである。そこで、CF,SF,CHClFの分解処理を例とした本発明の実施形態は次のとおりである。なお、他の被分解処理物の場合も同様の分解処理となる。
【0036】
図1は本発明の第1実施形態を概略的に示すシステム図である。図中の1は被分解処理物としてのCF,SF又はCHClFを収納した被分解処理物タンク、2は水タンク、3は加熱器である。加熱器3には周囲に外部ヒータ4が配備されている。ヒータ4を働かせて予め赤熱した状態に過熱してある加熱器3に、配管5を介してポンプ等によって水タンク2から水を供給して600℃〜1000℃に加熱することにより過熱蒸気とし、配管5を介して反応器7の下部に供給する。なお、加熱器3には予めボイラー等で蒸気を生成しておき、該蒸気を供給するようにしてもよい。要すれば反応器7に所定温度の過熱蒸気を供給することができればよい。なお、過熱蒸気は当量以上の量を、CF,SF又はCHClFの反応器7への供給量に併せて、反応器7に供給するとよい。
【0037】
また、ボンベその他の貯蔵施設である被分解処理物タンク1から配管6を介してCF,SF又はCHClFを加熱器3に供給して、同様に600℃〜1000℃に加熱した後、配管6を介して反応器7の下部に供給する。なお、本実施形態では、水とCF,SF又はCHClFを配管5,6を使用して個別に加熱したが、両者を予め混合した後に加熱し、反応器7に供給してもよい。
【0038】
反応器7は縦型に設置されており、その外部にはヒータ8が配置され、内部は被分解処理物が後述する触媒としての炭素と接触することによって活性化するための所定温度を保持するように加熱されている。具体的には、被分解処理物がCFその他のPFCの場合には1050℃〜1300℃に保持し、被分解処理物がSFの場合には800℃〜900℃に保持し、被分解処理物がCHF,CFC,HCFC又はHFCの場合には600℃〜700℃に保持するようにする。そして、反応器7の内部には炭素含有物質9が充填されている。炭素含有物質9は反応器7に供給された過熱蒸気と反応して水素を発生するとともに、炭素含有物質9の炭素が触媒として作用し、接触したCF,SF又はCHClFが活性化し、炭素の近傍にCF,SF又はCHClFの反応場R(図2参照)が形成される。
【0039】
炭素含有物質9として具体的には、炭素,炭素鋼、黒鉛,活性炭の粒状体又は粉状体或いは球状体,礫状体,塊状体を反応器7の断面形状を被覆するように所定高さで充填する。炭素含有物質であれば特に制限はない。なお、黒鉛の比表面積は0.005〜0.01m/gであり、活性炭の比表面積は500〜1000m/gである。よって、同接触面積であれば比表面積の大きい活性炭の方が黒鉛よりも少量で分解することができるし、同量であれば低温度での分解も可能となる。
【0040】
この炭素含有物質9に、反応器7内に供給されるCF,SF又はCHClFのほとんど全てが接触し、かつ、炭素含有物質9の間をCF,SF又はCHClFと過熱蒸気が通過できるような場所と量の炭素含有物質9を反応器7内に充填しておく必要がある。即ち、炭素含有物質9を、CF,SF又はCHClFと過熱蒸気の進行方向の反応器7の空間部を所定厚さで被覆するように所定厚さのフィルター状に充填する。図示例では反応器7を縦型に配置し、該反応器7内に炭素含有物質9を、反応器7の横断面形状における全ての空間部を所定厚さで被覆するように反応器7の底部から充填している。なお、図示例では、反応器7の底部から所定高さで炭素含有物質9を充填したが、反応器7の中間部や上端部に形成してもよく、又炭素含有物質9の充填層は単数又は複数であってもよい。更には、反応器7の全域に炭素含有物質9を充填してもよい。
【0041】
図2は反応器7の炭素含有物質9が充填されている部分の横断面模式図、図3は反応器7の縦断面模式図である。図2に示すように、反応器7内において、被分解処理物に応じて600℃〜1300℃の所定の温度に加熱された炭素含有物質9の炭素CとCF,SF又はCHClFが接触することによって活性化し、炭素の近傍にCF,SF又はCHClFの反応場Rが形成される。よって、図3に示すように、予め600℃〜1000℃に加熱した矢印Xに示すCF,SF又はCHClF及び矢印Yに示す過熱蒸気は、反応器7の下面方向から、即ち炭素含有物質9の上流から供給されるため、その殆ど全てが炭素含有物質9の炭素Cと接触しながら600℃〜1300℃の温度を保って所定時間で反応器7内を上方に移動することとなる。
【0042】
この炭素Cと接触することにより、CF,SF又はCHClFは活性化エネルギーが低下して、従来より低い温度で活性化するため、分解が容易となる。そのため、本来熱分解のためには1400℃以上の高温を必要とするCFが1050℃〜1300℃に加熱された過熱蒸気と接触することによる加水分解及び炭素含有物質9が過熱蒸気と反応することによって生成される水素と接触することによる還元反応によって分解され、矢印Zに示す分解ガスが反応器7の上部から排出される。同様に、本来熱分解のためには950℃以上の高温を必要とするSFが800℃〜900℃に加熱された過熱蒸気と接触することによる加水分解及び炭素含有物質9が過熱蒸気と反応することによって生成される水素と接触することによる還元反応によって分解され、矢印Zに示す分解ガスが反応器7の上部から排出される。更に本来熱分解のためには800℃以上の高温を必要とするCHClFが600℃〜700℃に加熱された過熱蒸気と接触することによる加水分解及び炭素含有物質9が過熱蒸気と反応することによって生成される水素と接触することによる還元反応によって分解され、矢印Zに示す分解ガスが反応器7の上部から排出される。
【0043】
これは、炭素が被分解処理物であるCF,SF又はCHClFを活性化させる触媒として作用し、これら被分解処理物の活性化エネルギーを減少させているためである。即ち、CF,SF又はCHClFを分解させるための加水分解や還元反応の化学反応は、活性化エネルギーを超えないと進行しないところ、炭素が触媒として活性化エネルギーを下げる作用を果たしているため、従来より低い温度で活性化エネルギーを超えることが可能となる。よって、CFは1050℃〜1300℃の本来CFが活性化していない温度領域で、SFは800℃〜900℃の本来SFが活性化していない温度領域で、又CHClFは600℃〜700℃の本来CHClFが活性化していない温度領域での化学反応が進行して分解できる。
【0044】
炭素含有物質9は、過熱蒸気と反応して水素を発生させて徐々に減少してゆく。そこで、反応器7の上方に炭素含有物質タンク10を配置して、反応器7内の炭素含有物質9が減少したときは、ダンパ11a,11bを操作して、配管12から炭素含有物質9を反応器7に補充する。なお、ダンパ11a,11bによるダブルダンパとしているのは系内の気密性を確保するためである。
【0045】
CF,SF又はCHClFは炭素含有物質9の充填領域に又はその上流から供給することが肝要である。下流側に供給したのでは炭素含有物質9の炭素Cと接触しないため、低い温度ではCF,SF又はCHClFは活性化せず、99.9%以上の分解率で分解することができない。
【0046】
このように、CF等の被分解処理物のほぼ全てが炭素と接触することが肝要であり、図6に示すように過熱蒸気と反応して水素を発生させるために、反応器45内に部分的に炭素含有物質を載置しただけでは、CF等の被分解処理物が十分に活性化しないため分解することができない。そのため、前記したように炭素含有物質9は反応器7内に供給されるCF等のほとんど全てが接触し、かつ、炭素含有物質9の間をCF等と過熱蒸気が通過できるような場所と量の炭素含有物質9を反応器7内に充填しておく必要がある。
【0047】
よって、CF等の被分解処理物が活性化するためには、炭素含有物質が600℃〜1300℃の範囲内で被分解処理物に応じた所定の温度を保持していることと、CF等のの被分解処理物の殆ど全てが炭素含有物質の炭素と接触することが必要である。また、活性化したCF等の被分解処理物を分解するためには、CF等の被分解処理物と反応する活性化した過熱蒸気及び/又は活性化した水素が必要である。
【0048】
分解処理後の分解ガスは、一酸化炭素や水素を含む可燃性の有毒ガスであるため、反応器7の上部から配管13を介して、周囲にヒータ15を配置した酸化炉14に供給する。同時にコンプレッサ16からの空気を、配管19を介して周囲にヒータ18を配置した加熱器17に供給して分解ガスを燃焼し得る温度まで加熱し、酸化炉14に供給することにより、分解ガスを酸化して無害化する。
【0049】
無害化された分解ガスは、配管20を介して冷却器21に供給され、300℃前後に冷却される。22は冷却器21に冷却水を供給する入口、23は冷却水の出口である。冷却された分解ガスは酸性ガスであるため、配管24によってガス洗浄装置25a,25bに供給される。洗浄水タンク26に貯水された洗浄水が配管27によって取り出され、熱交換機28によって冷却され、配管27によってガス洗浄装置25a,25bに供給され、分解ガスをシャワーリングして洗浄・中和し、洗浄水タンク26に戻る。29は熱交換器28の冷却水の入口、30は冷却水の出口である。なお、酸性ガスの中和は、洗浄水によることなく、中和剤を使用してもよい。
【0050】
ガス洗浄装置25a,25bによって洗浄された分解ガスは、配管31を介してブロワ32によって外気に放出される。ブロワ32は系内を負圧に保って、洗浄された分解ガスを外気に放出するためのものであり、省略することもできる。
【0051】
図4は本発明の第2実施形態を概略的に示すシステム図であり、図1〜図3に示す第1実施形態と同一の構成には、同一の符号を付してその説明を省略する。本発明の要旨は、被分解処理物であるCF等を炭素と接触させることにより活性化させて、CFのC−F結合や、SFのS−F結合や、CHClFのC−CH結合,C−Cl結合を切り離すエネルギーを供給することにある。よって、過熱蒸気そのものは本来必須のものではなく、活性化されたCF,SF又はCHClFを分解するための手段、具体的には所定温度に加熱された水素が存在すればよい。
【0052】
そこで、この第2実施形態では過熱蒸気に代えて、水素タンク33から水素を配管5を介して加熱器3に供給し、600℃〜1000℃に加熱してから、再び配管5を介して反応器7の下部に供給している。また、炭素含有物質9は過熱蒸気が供給されないため、過熱蒸気と反応して水素を生成して減少することがなく、第1実施形態における炭素含有物質タンク10及びダンパ11a,11b並びに配管12は不要である。炭素含有物質の炭素Cと接触することによってCF等の被分解処理物が活性化することは第1実施形態と同様であり、活性化したCF,SF又はCHClFは反応器7に供給されてCFは1050℃〜1300℃に、SFは800℃〜900℃に、CHClFは600℃〜700℃に保持されて同様に加熱された水素による還元反応によって分解処理される。なお、図2に示す反応器7の炭素含有物質9が充填されている部分の横断面模式図、図3に示す反応器7の縦断面模式図はそのまま第2実施形態に該当し、図3に示す過熱蒸気に代えて水素が供給される。
【0053】
以下、本発明にかかる難分解物質の分解処理方法及びその装置を実施して、CF,SF又はCHClFを分解処理した具体的な実施例1〜9を説明し、その結果を表3及び表4に示す。
【実施例1】
【0054】
底部に炭素含有物質9として活性炭を、反応器7の横断面形状における全ての空間部を被覆して厚さ10cmに敷設して充填した反応器7をヒータ8で加熱して1050℃に保持した。この反応器7の底部から水を加熱器3で1000℃に加熱して得た過熱蒸気を蒸気当量1.5で供給するとともに、0.2L/minのCFを加熱器3で1000℃に加熱してから、反応器7の底部から供給して活性炭中の炭素と接触させて7.5秒で反応器7を通過させた。その後、図1に示す所定の工程を経て大気に放出した分解ガスの分解率を測定したところ、CFは99.9%分解されていた。
【実施例2】
【0055】
反応器7の温度を1150℃とし、反応時間を7.0秒とした以外は実施例1と同様の処理をした。CFの分解率は99.9%であった。
【実施例3】
【0056】
反応器7の温度を1150℃とし、炭素含有物質9として厚さ30cmに敷設した黒鉛を使用して、反応時間を7.0秒とした以外は実施例1と同様の処理をした。CFの分解率は99.9%であった。
【実施例4】
【0057】
反応器7の温度を1150℃とし、炭素含有物質9として黒鉛を10cmの厚さに敷設し、反応時間を2.3秒とした以外は実施例1と同様の処理をした。CFの分解率は99.9%であった。
【実施例5】
【0058】
底部に炭素含有物質9として黒鉛を、反応器7の横断面形状における全ての空間部を被覆して厚さ20cmに敷設して充填した反応器7をヒータ8で加熱して800℃に保持した。この反応器7の底部から水を加熱器3で600℃に加熱して得た過熱蒸気を蒸気当量1.5で供給するとともに、0.8L/minのSFを加熱器3で600℃に加熱してから、反応器7の底部から供給して黒鉛中の炭素と接触させて1.2秒で反応器7を通過させた。その後、図1に示す所定の工程を経て大気に放出した分解ガスの分解率を測定したところ、SFは99.9%分解されていた。
【実施例6】
【0059】
底部に炭素含有物質9として黒鉛を、反応器7の横断面形状における全ての空間部を被覆して厚さ20cmに敷設して充填した反応器7をヒータ8で加熱して600℃に保持した。この反応器7の底部から水を加熱器3で400℃に加熱して得た過熱蒸気を蒸気当量1.5で供給するとともに、1.2L/minのCHClFを加熱器3で400℃に加熱してから、反応器7の底部から供給して黒鉛中の炭素と接触させて0.9秒で反応器7を通過させた。その後、図1に示す所定の工程を経て大気に放出した分解ガスの分解率を測定したところ、CHClFは99.9%分解されていた。
【0060】
【表3】

【0061】
表3に示すように、実施例1〜4はいずれも1050℃〜1150℃の温度帯において、反応時間(滞留時間)10秒以下で、CFを99.9%の分解率を満足して分解することができた。また、実施例5は800℃の温度で、反応時間(滞留時間)1.2秒でSFを、更に実施例6は600℃の温度で、反応時間(滞留時間)0.9秒でCHClFを99.9%の分解率を満足して分解することができた。
【0062】
上記した実施例1〜6は過熱蒸気を使用した本発明にかかる第1実施形態を実施したものである。次に過熱蒸気に代えて水素を反応器7に供給する第2実施形態を実施例7〜9として実施した。
【実施例7】
【0063】
底部に炭素含有物質9として黒鉛を、反応器7の横断面形状における全ての空間部を被覆して厚さ20cmに敷設して充填した反応器7をヒータ8で加熱して1150℃に保持した。この反応器7の底部から加熱器3で1000℃に加熱して得た水素を水素当量1.5で供給するとともに、0.2L/minのCFを加熱器3で1000℃に加熱してから、反応器7の底部から供給して黒鉛中の炭素と接触させて4.5秒で反応器7を通過させた。その後、図4に示す所定の工程を経て大気に放出した分解ガスの分解率を測定したところ、CFは99.9%分解されていた。
【実施例8】
【0064】
底部に炭素含有物質9として黒鉛を、反応器7の横断面形状における全ての空間部を被覆して厚さ20cmに敷設して充填した反応器7をヒータ8で加熱して800℃に保持した。この反応器7の底部から加熱器3で600℃に加熱して得た水素を水素当量1.5で供給するとともに、0.8L/minのSFを加熱器3で600℃に加熱してから、反応器7の底部から供給して黒鉛中の炭素と接触させて0.5秒で反応器7を通過させた。その後、図4に示す所定の工程を経て大気に放出した分解ガスの分解率を測定したところ、SFは99.9%分解されていた。
【実施例9】
【0065】
底部に炭素含有物質9として黒鉛を、反応器7の横断面形状における全ての空間部を被覆して厚さ20cmに敷設して充填した反応器7をヒータ8で加熱して600℃に保持した。この反応器7の底部から加熱器3で400℃に加熱して得た水素を水素当量1.5で供給するとともに、1.2L/minのCHClFを加熱器3で400℃に加熱してから、反応器7の底部から供給して黒鉛中の炭素と接触させて0.4秒で反応器7を通過させた。その後、図4に示す所定の工程を経て大気に放出した分解ガスの分解率を測定したところ、CHClFは99.9%分解されていた。
【0066】
【表4】

【0067】
表4に示すように、第2実施形態にかかる実施例7は1150℃の温度帯において、反応時間(滞留時間)10秒以下で、CFを99.9%の分解率を満足して分解することができた。また、実施例8は800℃の温度で、反応時間(滞留時間)0.5秒でSFを、更に実施例9は600℃の温度で、反応時間(滞留時間)0.4秒でCHClFを99.9%の分解率を満足して分解することができた。よって、過熱蒸気を供給しなくても、反応器内で所定温度に加熱された炭素と接触することによって活性化しているCF,SF又はCHClFは水素による還元反応で分解処理することができる。
【0068】
これらの実施例1〜9に示すように、本発明によれば、CF,SF又はCHClF等の被分解処理物を所定温度に加熱された炭素と接触させることにより、炭素の触媒としての作用によって活性化エネルギーを低下させ、従来より低い温度で、かつ、短時間に高分解率で分解することができる。そこで、触媒を使用することなく、従来の過熱蒸気のみを使用する場合の活性化温度と、本発明を実施することにより活性化エネルギーを低下させた活性化温度との比較を表5に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
表5に示すように、CFでは、従来1400℃〜1500℃必要であった活性化温度が、炭素の触媒としての作用により、1050℃〜1150℃まで下がり、本発明によって250℃〜450℃活性化温度を下げることができる。また、SFでは50℃〜250℃活性化温度を下げることができるため、従来950℃〜1050℃必要であった熱分解の温度が、800℃〜900℃で99.9%以上分解することができる。更に、CHClFでは、100℃〜300℃活性化温度を下げることができるため、従来800℃〜900℃必要であった熱分解の温度が、600℃〜700℃で99.9%以上分解することができる。
【0071】
次にCFを例として、CFと炭素含有物質(黒鉛又は活性炭)、過熱蒸気、水素との反応及び炭素と接触することによってCF等の被分解処理物が活性化する理由を説明する。
【0072】
[炭素と過熱蒸気の反応/実施例1〜実施例4]
C+HO→CO+H ………(1)
{ΔH(1000℃)=32.362kcal/mol(吸熱)}
先ず黒鉛又は活性炭からなる炭素は、(1)式の反応をする。この(1)式の反応は、表6の反応熱バランスシートに示すように吸熱反応であり、700℃以上の温度での反応は右方向へ進む。このことは、過剰な過熱蒸気を供給すればするほど、他の方法で熱を供給しない限り、炭素の近傍の温度は下がることを示している。その結果、一定の温度を下回った時点で、(1)式の反応は停止することとなる。よって、このような炭素の近傍において同時に他の反応が進むことは考えられない。
【0073】
【表6】

【0074】
[CFと過熱蒸気と炭素の反応/実施例1〜実施例4]
C+HO→CO+H ………(1)
CF+2H→C+4HF ………(2)
炭素はCFの活性化エネルギーを下げる効果が認められ、通常1150℃程度では十分な分解反応が進まない。それにもかかわらず、実施例1〜4ではCFの分解反応が進行している。このことは、炭素Cが過熱蒸気と反応して水素を発生するとともに、CFを活性化させる触媒として作用することにより、CF自体の活性化に寄与し、活性化されたHO分子の衝突やHやOHイオンを持つ過熱蒸気、還元性ガスである水素の衝突によって、活性化したCFのもつC−F結合を切り離して分解処理反応が進行していることを示している。即ち、炭素が1050℃〜1150℃程度の温度でCFを活性化させる触媒として作用していると考えられる。
【0075】
この炭素の触媒作用について詳細に検討する。特許文献1,2に示すように過熱蒸気や水素によってフロンガスは800℃程度の反応温度でも数秒間で、99.9%以上の分解率で分解することができる。例えばフロン22と過熱蒸気との反応は次の通りである。
CHClF+HO→CO+HCl+2HF ………(5)
CHClF+H→C+HCl+2HF ………(6)
この(5)式,(6)式の2つの反応は800℃〜850℃でほぼ完全に右に進む。このことはCHClF,HO,Hのいずれもがこの温度領域で十分活性化されていると考えられる。
【0076】
一方、CFと水素及び過熱蒸気との反応は次の通りである。
CF+2H→C+4HF ………(2)
CF+2HO→CO+4HF ………(3)
この2つの反応は従来例2に示すように、1150℃においても十分な分解反応は進まず、これらの反応は発熱反応であるにもかかわらず、連鎖反応は進んでいない。一方、前記したようにHO,Hは十分活性化されているにもかかわらず、反応が進まないことはCFはこの1150℃の温度領域では活性化されていないことを示している。即ち、CFは全体として活性化されておらず、僅かに部分的に活性化されたCFが存在しているに過ぎないと考えられる。
【0077】
このように1150℃の温度領域ではCFだけが活性化されていないにもかかわらず、実施例1〜4に示すように、炭素含有物質9を反応器7に充填し、CFとほぼ完全に接触する環境においては、同じ温度領域でCFは99.9%とほぼ完全に分解されている。このことは実施例1〜4では、(2)式,(3)式の反応が連鎖的に起こっていると考えられる。このことから、通常1150℃程度の温度では活性化できなかったCFが炭素の存在雰囲気では十分に活性化エネルギーを得ていることとなり、炭素にはCFの活性化エネルギーを低くする作用効果、即ち触媒としての作用が認められる。なお、前記したように(1)式は吸熱反応であり、この反応と炭素の相互作用によってCFが活性化されているとは考えられない。
【0078】
[活性化したCFと水素の反応]
CF+2H→C+4HF ………(2)
{ΔH(1000℃)=-40.327kcal/mol(発熱)}
[活性化したCFと過熱蒸気の反応]
CF+2HO→CO+4HF ………(3)
{ΔH(1000℃)=-15.572kcal/mol(発熱)}
(1)式によって生成された水素と活性化されたCFの(2)式の反応及び過熱蒸気と活性化されたCFの(3)式の反応は、それぞれ表7,表8の反応熱バランスシートに示すとおり、発熱反応であり、不足エネルギーを補填している。そのため、CFの分解を継続させるためには、炭素の触媒作用及びそれ以降の反応を維持するエネルギーを供給する必要があり、CFのほぼ全量が炭素と接触して反応することが必要である。また、炭素は過熱蒸気と反応して水素を生成することによって減少するため、適宜これを補充する必要がある。
【0079】
【表7】

【0080】
【表8】

【0081】
なお、(3)式によって、COが生成され、また反応器から取り出した分解ガスからも実際にCOが検出されているため、炭素を触媒とした次の(4)式も想定されるが、表9に示す反応熱バランスシートより、800℃以下で右に進むと考えられ、その可能性は低い。
CO+HO→CO+H ………(4)
【0082】
【表9】

【0083】
SF又はCHClFが炭素を触媒として活性化する反応もCFの場合と同様である。即ち、過熱蒸気は800℃で活性化されていることから、従来例3に示すように800℃で99.9%の分解率で分解できなかったSFが実施例5に示すように、反応管7内に黒鉛を敷設することによって、同じ800℃で99.9%分解できたことは、黒鉛の炭素がSFの活性化エネルギーを下げ、従来より低い温度で活性化させる触媒として作用していることを示している。同様に、従来例4に示すように600℃で99.9%の分解率で分解できなかったCHClFが実施例6に示すように、反応管7内に黒鉛を敷設することによって、同じ600℃で99.9%分解できたことは、黒鉛の炭素がCHClFの活性化エネルギーを下げ、従来より低い温度で活性化させる触媒として作用していることを示している。
【0084】
よって、CFは1050℃〜1150℃に、SFは800℃〜900℃に、CHClFは600℃〜700℃に加熱された炭素と接触することによって活性化する。そのため、必ずしも過熱蒸気を反応器7に供給することは必要ではない。そこで、活性化されたCF,SF又はCHClFを分解するために過熱蒸気に代えて、実施例7に示すように水素を供給してもよく、その際の反応は次の通りとなる。
[活性化したCFと水素の反応]
CF+2H→C+4HF ………(2)
{ΔH(1000℃)=-40.327kcal/mol(発熱)}
【0085】
次に、上記した加熱された炭素によってCF等が活性化してCF等の反応場が形成されていることを確認するため、即ち、単に過熱蒸気や水素のみではCF等の被分解処理物を分解することができず、炭素が触媒的作用を果たす必要があることを確認するため、比較例1として反応器7内の炭素含有物質としての炭素の下流側にCFを供給して、分解実験を行った。図7に示すように、水を加熱器41に供給して加熱することにより過熱蒸気として、配管42によって、ヒータ44で1150℃の温度に加熱した常圧の反応器45の下部から供給した。反応器45の下方部には10cmの厚さで活性炭51を敷設してある。よって、この活性炭51と過熱蒸気が反応して、反応器45内には水素が発生する。一方、0.2L/minのCFを加熱器41に供給して加熱して、配管52によって、反応器45内に敷設された活性炭51の下流側に供給して反応させた。なお、過熱蒸気の当量は3.0とした。反応器45内でCFを過熱蒸気と17秒反応させた後、反応器45の上部から反応ガスを配管46で取り出して、バブリングタンク47内の水48にバブリングさせて、配管49によって取り出した。
【0086】
次に、比較例2として反応器7内の炭素含有物質としての炭素の下流側にSFを供給して、分解実験を行った。図7に示すように、水を加熱器41に供給して加熱することにより過熱蒸気として、配管42によって、ヒータ44で800℃の温度に加熱した常圧の反応器45の下部から供給した。反応器45の下方部には20cmの厚さで黒鉛51を敷設してある。よって、この黒鉛51と過熱蒸気が反応して、反応器45内には水素が発生する。一方、0.8L/minのSFを加熱器41に供給して加熱して、配管52によって、反応器45内に敷設された黒鉛51の下流側に供給して反応させた。なお、過熱蒸気の当量は1.5とした。反応器45内でSFを過熱蒸気と4.3秒反応させた後、反応器45の上部から反応ガスを配管46で取り出して、バブリングタンク47内の水48にバブリングさせて、配管49によって取り出した。
【0087】
また、比較例3として反応器7内の炭素含有物質としての炭素の下流側にCHClFを供給して、分解実験を行った。図7に示すように、水を加熱器41に供給して加熱することにより過熱蒸気として、配管42によって、ヒータ44で600℃の温度に加熱した常圧の反応器45の下部から供給した。反応器45の下方部には20cmの厚さで黒鉛51を敷設してある。よって、この黒鉛51と過熱蒸気が反応して、反応器45内には水素が発生する。一方、1.2L/minのCHClFを加熱器41に供給して加熱して、配管52によって、反応器45内に敷設された黒鉛51の下流側に供給して反応させた。なお、過熱蒸気の当量は1.5とした。反応器45内でCHClFを過熱蒸気と2.8秒反応させた後、反応器45の上部から反応ガスを配管46で取り出して、バブリングタンク47内の水48にバブリングさせて、配管49によって取り出した。これらの比較例1〜3の結果を表10に示す。
【0088】
【表10】

【0089】
活性炭51に過熱蒸気が供給されるため、前記した実施例と同様に下記の(1)式より反応が進行して水素が発生する。
C+HO→CO+H ………(1)
この水素の発生している反応器45内の活性炭(黒鉛)51の下流にCF,SF又はCHClFを供給しても、表10に示すように、分解率は僅か16.5%,78%,58%に過ぎない。よって、比較例1のCFの場合、実施例1〜4,7のような下記(2)式,(3)式のいずれの反応もほとんど起こらず、CFは活性化していないと考えられる。
CF+2H→C+4HF ………(2)
CF+2HO→CO+4HF ………(3)
【0090】
このことから、単に所定温度の反応器内に、過熱蒸気と、過熱蒸気と炭素の反応によって生成された水素が存在してもCF,SF又はCHClFを分解する反応は起きないため、CF,SF又はCHClFを炭素と接触するように供給する必要があることが判る。即ち、CFは1050℃〜1150℃に、SFは800℃〜900℃に、CHClFは600℃〜700℃に加熱された炭素と接触することによってCF,SF又はCHClFが活性化し、炭素の周囲にはCF,SF又はCHClFの反応場が形成されるものであり、炭素はまさにCF,SF又はCHClFを活性化させる触媒として作用しているものである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明にかかる難分解物質の分解処理方法及びその装置によれば、反応器内に充分に広い接触面を有して充填された炭素含有物質の炭素が所定温度に加熱されることにより、被分解処理物のほぼ全てが、この炭素と接触して通過することによって、被分解処理物が活性化する。そのため、炭素の近傍に被分解処理物の反応場が形成され、この反応場が被分解処理物の結合を切り離すエネルギーを供給する場として作用する。例えば被分解処理物がCF,SF又はCHClFの場合、炭素の近傍にCF,SF又はCHClFの反応場が形成され、この反応場が被分解処理物であるCFのC−F結合や、SFのS−F結合や、CHClFのC−CH結合,C−Cl結合を切り離すエネルギーを供給する場として作用する。CF,SF又はCHClFを分解させるための加水分解や還元反応の化学反応は、活性化エネルギーを超えないと進行しないところ、炭素が触媒として活性化エネルギーを下げる作用を果たしているため、従来より低い温度で活性化エネルギーを超えることができる。
【0092】
その結果、本来、被分解処理物が活性化していない温度領域において、過熱蒸気と水素によって、又は水素によって化学反応が進行し、99.9%以上の高い分解率で、従来より低温で、かつ、10秒以下の短時間でほぼ完全に分解される。即ち、炭素が被分解処理物の活性化エネルギーを低下させる触媒として作用して、従来より低温度で被分解処理物を活性化させて基底状態から遷移状態となるため、従来より低い温度で分解反応を進行させることが可能となる。具体的には、CFは1050℃〜1300℃の本来CFが活性化していない温度領域において、SFは800℃〜900℃の本来SFが活性化していない温度領域において、又CHClFは600℃〜700℃の本来CHClFが活性化していない温度領域において過熱蒸気と水素によって、又は水素によって化学反応が進行し、99.9%以上の高い分解率で、従来より低温で、かつ、10秒以下の短時間でほぼ完全に分解される。
【符号の説明】
【0093】
R…(CF,SF又はCHClFの)反応場
C…炭素
1…被分解処理物タンク
2…水タンク
3,17…加熱器
4,8,15,18…ヒータ
7…反応器
9…炭素含有物質
10…炭素含有物質タンク
14…酸化炉
21…冷却器
25a,25b…ガス洗浄装置
28…熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱蒸気と反応して水素を発生する炭素含有物質を所定温度に加熱し、被分解処理物と接触させることによって、被分解処理物の活性化エネルギーを下げて活性化させるとともに、被分解処理物を過熱蒸気と接触させることによって、活性化された被分解処理物を分解処理することを特徴とする難分解物質の分解処理方法。
【請求項2】
被分解処理物を所定温度に加熱して、炭素含有物質と接触させる請求項1記載の難分解物質の分解処理方法。
【請求項3】
活性化させた被分解処理物を過熱蒸気による加水分解及び/又は発生した水素による還元反応によって分解処理する請求項1又は2記載の難分解物質の分解処理方法。
【請求項4】
過熱蒸気と反応して水素を発生する炭素含有物質を充填した反応器と、該反応器に過熱蒸気を供給する手段と、該反応器における炭素含有物質と接触するように被分解処理物を供給して、所定の反応時間経過するように通過させる手段を有することを特徴とする難分解物質の分解処理装置。
【請求項5】
水を加熱して過熱蒸気とするとともに被分解処理物を予め所定温度に加熱する加熱器を備えた請求項4記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項6】
加熱器内の温度を600℃〜1000℃に保持した請求項5記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項7】
反応器内に炭素含有物質を補充する手段を備えた請求項4,5又は6記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項8】
炭素含有物質を、被分解処理物の進行方向の反応器の空間部を所定厚さで被覆するように充填してなる請求項4,5,6又は7記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項9】
反応器を縦型に配置し、該反応器内に炭素含有物質を、反応器の横断面形状における全ての空間部を所定厚さで被覆するように充填してなる請求項4,5,6,7又は8記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項10】
被分解処理物がPFCの場合に、反応器内の温度を1050℃〜1300℃に保持した請求項4,5,6,7,8又は9記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項11】
被分解処理物がSFの場合に、反応器内の温度を800℃〜900℃に保持した請求項4,5,6,7,8又は9記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項12】
被分解処理物がCHFの場合に、反応器内の温度を600℃〜700℃に保持した請求項4,5,6,7,8又は9記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項13】
被分解処理物がCFC,HCFC又はHFCの場合に、反応器内の温度を600℃〜700℃に保持した請求項4,5,6,7,8又は9記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項14】
反応器内を略常圧とした請求項4,5,6,7,8,9,10,11,12又は13記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項15】
反応器内に炭素含有物質の充填層を複数形成した請求項4,5,6,7,8,9,10,11,12,13又は14記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項16】
反応器内の全領域に炭素含有物質を充填した請求項4,5,6,7,8,9,10,11,12,13又は14記載の難分解物質の分解処理装置。
【請求項17】
炭素含有物質として、黒鉛又は活性炭の粒状体を使用する請求項4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15又は16記載の難分解物質の分解処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−115795(P2011−115795A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42033(P2011−42033)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【分割の表示】特願2008−138421(P2008−138421)の分割
【原出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(507270218)大旺新洋株式会社 (14)
【Fターム(参考)】