説明

難溶性抗けいれん剤を含む経鼻抗けいれん医薬組成物

難溶性抗けいれん剤を含む、経鼻抗けいれん医薬組成物を提供する。活性成分としての難溶性抗けいれん剤を含む抗けいれん医薬組成物は、経鼻的に噴霧投与され、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び脂肪酸エステルを含み、該脂肪酸エステルは、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20、メチルラウレート、エチルラウレート、及びポリソルベート20からなる群より選ばれる。また、活性成分としての難溶性抗けいれん剤を含む該抗けいれん医薬組成物は、経鼻的に噴霧投与され、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、脂肪酸エステル、メチルピロリドン、水及びアルコールを含む。したがって、該経鼻抗けいれん医薬組成物は、難溶性抗けいれん剤の生物学的利用率を高度に増強するために有用であり得る。また、該経鼻抗けいれん医薬組成物は、治療用量で難溶性抗けいれん剤を効果的に送達するために、難溶性抗けいれん剤が改善された粘度及び/又は増強された溶解性を示すことを可能とするために有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶性抗けいれん剤を含む経鼻抗けいれん医薬組成物に関し、そしてより詳細には、治療用量で効果的に送達される、増強された生物学的利用率を有し、そして改善された粘度及び/又は増強された溶解性を有し、噴射角度及び噴射形態のような望ましい特性を示す、経鼻抗けいれん医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
てんかん重積症は、3乃至35%の死亡率につながる神経学的な緊急事態というべきものである。てんかん重積症の治療の主要な目的は、病理学的発作の迅速な管理にある。しかしながら、迅速な対応なしにてんかん重積症の状態が長期間続いた場合に、てんかん重積症を抑制することは困難であり、そして、後遺症となる脳の損傷のリスクが増す。したがって、効果的な薬剤を含む妥当な医薬製剤を有する医薬組成物の適切な用量を患者に投与することにより、迅速に患者を治療することが重要である。最近では、種々の薬物療法が、てんかん重積症の治療に使用されることが知られている。ジアゼパム及びロラゼパムは、この目的に最も広く使用されているベンゾジアゼピン薬剤である。また、抗てんかん剤の静脈注射は、てんかん発作を鎮静する最も迅速な方法である。しかしながら、静脈注射が容易で無い場合、例えば、静脈注射が滅菌器の不足及び熟練した施術者の不足のような技術的困難性のために遅れた場合、そして、拡大する可能性のある静脈炎がある場合、その他の経路を経て抗けいれん剤を投与することが望ましい。また、静注薬物はしばしば、低血圧、不整脈又は中枢神経系の退縮と関連する。これに関連して、Moolenar等は、筋肉内注射、経口用タブレット及び直腸用溶液のような幾つかの経路を経た人間へのジアゼパムを投与する試を行った(Int.J.Pharm.、5:127−137(1986))が、彼等は、ジアゼパムの直腸投与は、そのかなり急速な吸収をもたらすことを見出した。したがって、直腸投与は、静脈投与の代替手段として使用されると考えられ得る。Keneth L等はその直腸製剤(米国特許第5462740号明細書)を有益な方法として開発した。この直腸経路の投与は、緊急処置及び青年期以上の年齢の患者への薬剤投与に使用されるには非常に不快な経路である。
【0003】
鼻粘膜は、多くの薬剤の治療効果にとって実質的な経路を提供する。経鼻投与は、薬物が容易でそして単純に投与され得、必要な場合には全身又は局所効果を達成するという利点を有する。特に、片頭痛を治療するための中枢神経系の薬物の一つとして開発された、ゾルミトリプタン(米国特許第5,466,699号明細書)が経鼻噴霧製剤(米国特許第6,750,237号明細書)として開発されそして市販され、そして、スマトリプタン(米国特許第5,037,845号明細書)もまた、経鼻噴霧剤として開発されそして市販された。しかし、2つの水溶性薬物とは異なり、殆どの薬物が望ましい治療用量に相当する溶解性を殆ど有さず、そして、薬物の経鼻投与と関連する問題を導くものは、殆どの薬物分子は、鼻粘膜を通して容易に拡がらないか又は緩慢に拡がるために、単純な経鼻投与方法により解決され得ないことである。薬物の経鼻投与のさらなる限界は、小容量に制限されて投与されることである。鼻孔あたり約150μL又はそれ以上の用量において薬物を投与することは一般的に不可能であり、そして、薬物の用量範囲を超える混合物の量は、咽頭に押出されそして飲み込まれる。
【0004】
また、ジアゼパム及びロラゼパムのような薬物は、これらが薬物を溶解するために広く用いられる水への低い溶解性を有するため、経鼻噴霧投与に好適な製剤に開発することが困難である。したがって、望ましい薬剤、例えば、ジアゼパム及びロラゼパムを、高濃度で溶解し、そして、鼻粘膜への刺激を与えない、経鼻噴霧投与のための溶媒の開発が、非常に望まれている。
【0005】
薬物の経鼻吸収は、薬物及び化学的助剤又は浸透促進剤を同時に投与することにより増大され得る。例えば、Lau及びSlattery[Lau等、Int.J.Pharm.、54巻171−174頁(1989年)]は、ベンゾジアゼピン(即ち、ジアゼパム)を種々の溶媒(例えば、トリアセチン、ジメチルスルホキシド、PEG400、クレモホルEL、リパール(Lipal)−9−LA、ジイソプロピルアジペート及びアズワン(Azone)中に溶解し、そして溶解された薬物を投与する試みを行った。
【0006】
しかし、ジアゼパムは、望ましい濃度の範囲内で殆どの溶媒に溶解するが、溶媒の望ましい濃度は、経鼻投与に使用されるには刺激性である。クレモホールELは、鼻粘膜組織に最も低い刺激性を有することが知られてきたが、経鼻吸収は、これらの媒体の使用において人間においてはむしろ緩やかである(Tmax:1.4時間)、そして、ピーク濃度は静脈投与後にみられるものよりも低い。最近では、Li等(International
Journal of Pharmaceutics 237巻、77−85頁(2002年))が、ジアゼパムの迅速なオンセット(rapid−onset)経鼻送達のためのマイクロエマルジョンを提案した。
【0007】
また、米国特許第6,627,211号明細書(韓国特許公開第2002−0059583号)は、ジアゼパムを含む経鼻抗けいれん組成物を開示している。ここに、ジアゼパムは、脂肪族アルコール、極性溶媒(即ち、グリコール)、水等のような可溶性の製剤中に溶解される。また、米国特許公開第2005−0002987号(韓国特許公開第2006−0012030号)は、ジアゼパムを含む経鼻ミクロエマルジョンに使用される経鼻投与組成物を開示している。ここで、ジアゼパムは、当量の脂肪酸エステル及び水、および親水性界面活性剤、極性溶媒(即ち、グリコール)等の平衡、を含む、媒体中に溶解される。
【0008】
薬物が患者に経鼻的に投与された場合、その微細で均一な分散液であることが重要である。経鼻スプレー剤の効率を評価するために使用される噴霧形状テストは、生体外で鼻腔投与製剤を評価するために広く用いられてきた。薬物の生体内送達は、薬物がその経鼻噴霧後に均一に分布した場合に可能であるため、この噴霧形状試験は、重要である。例えば、噴霧形状試験における米国試験基準が設けられ、そして、その対応する疾患を治療するために好適な薬物を送達するために、再現可能であり適切でなければならない(米国食品医薬品局(FDA)の報告書、産業界への指導:局所作用用経鼻エアロゾル及び経鼻スプレーのための生物学的利用率及び生物学的同等性試験(1999年6月))。
【0009】
Yang等の報告(Pharmaceutical Research 22巻11号1871−1878頁、2005年)によると、小さな液滴サイズ及び低粘度を有する製剤は、鼻腔の中心および内部領域に送達され、これは、この製剤が大きな液滴サイズおよび高い粘度を有する製剤よりもより望ましく経鼻的に分布することを示す。したがって、鼻腔投与製剤は、薬物送達の目的のために好適な粘度及び液滴サイズを有することが大切である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,462,740号明細書
【特許文献2】米国特許第5,466,699号明細書
【特許文献3】米国特許第6,750,237号明細書
【特許文献4】米国特許第5,037,845号明細書
【特許文献5】米国特許第6,627,211号明細書(韓国特許公開第2002−0059583号)
【特許文献6】米国特許公開第2005−0002987号(韓国特許公開第2006−0012030号)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Moolenar等、Int.J.Pharm.、5巻127−137頁(1986年)
【非特許文献2】Lau及びSlattery、Int.J.Pharm.、54巻171−174頁(1989年)
【非特許文献3】Li等、International Journal of Pharmaceutics 237巻、77−85頁(2002年)
【非特許文献4】米国食品医薬品局(FDA)の報告書、産業界への指導:局所作用用経鼻エアロゾル及び経鼻スプレーのための生物学的利用率及び生物学的同等性試験(1999年6月)
【非特許文献5】Yang等、Pharmaceutical Research 22巻11号1871−1878頁、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
技術的問題
本発明の特徴は、高められた難溶性抗けいれん剤の生物学的利用率、粘度及び/又は溶解性等のような、経鼻投与に好適な物理学的特性を有する医薬組成物を提供することにある。
本発明のまた別の特徴は、けいれんを治療する医薬組成物の有効量をけいれんを患う患者に投与することを含む、けいれんを治療する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
技術的解決
本発明の特徴によれば、活性成分としての難溶性抗けいれん剤を含む抗けいれん医薬組成物が提供され、経鼻的に噴霧投与され、該抗けいれん医薬組成物は、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び脂肪酸エステルを含み、該脂肪酸エステルは、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20、メチルラウレート、エチルラウレート、及びポリソルベート20からなる群より選ばれる。
【0014】
本発明のまた別の特徴によれば、活性成分としての難溶性抗けいれん剤を含む抗けいれん医薬組成物が提供され、経鼻的に噴霧投与され、該抗けいれん医薬組成物は、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び脂肪酸エステル、メチルピロリドン、水及びアルコールを含む。
【0015】
本発明のさらにまた別の特徴によれば、けいれんを治療する方法が提供され、該方法は、けいれんを治療する有効量の医薬組成物をけいれんを患う患者に経鼻噴霧投与することを含む。
【0016】
有利な効果
上記のように、本発明の一つの典型的な実施態様による経鼻抗けいれん医薬組成物は、難溶性抗けいれん剤の生物学的利用率を高度に高めるために有用であり得る。
また、本発明の一つの典型的な実施態様による経鼻抗けいれん医薬組成物は、治療用量で難溶性の抗けいれん剤を効果的に送達するために、難溶性抗けいれん剤が改善された粘度及び/又は高められた溶解性を示すことを可能にするために有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一つの典型的な実施態様による抗けいれん剤としてのジアゼパムを含む製剤の静脈内(i.v)及び経鼻投与後の薬物動態プロファイルを示す。
【図2】図2は、本発明の一つの典型的な実施態様による抗けいれん剤としてのロラゼパムを含む製剤の静脈内(i.v)及び経鼻投与後の薬物動態プロファイルを示す。
【図3】図3は、経鼻噴霧を使用した本発明の一つの典型的な実施態様による製剤を噴霧することにより得られる噴霧パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明を実施するための最良の形態
以下に、本発明の典型的な実施態様を詳細に説明する。
【0019】
本発明者等は、活性成分としての難溶性抗けいれん剤を含む経鼻投与に使用される抗けいれん医薬組成物が、水及びエタノールの最小の含有量の使用において、又は水及びエタノールの使用なしに、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び特定の脂肪酸エステルを含み、抗けいれん医薬組成物中のジアゼパムの溶解性が、米国特許第6,627,211号明細書中の2.5%及び米国特許出願第2005−0002987号における4.1%と比較して、15.39%にまで高められ、そして、ジアゼパムの生物学的利用率が、上記特許における65%と比較して、119%まで高められたことを見出した。また、彼等は、臨床用途に広く用いられているロラゼパムもまた、経鼻的に送達され、35%の生物学的利用率を示すことを見出した。したがって、本発明は、上記事実に基づいて完成された。
【0020】
本発明は、経鼻的投与の目的で経鼻的に噴霧され、ジアゼパム及びロラゼパムからなる群より選ばれる難溶性抗けいれん剤を活性成分として含み、そして、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び脂肪酸エステルをさらに含み、該脂肪酸エステルは、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20、メチルラウレート、エチルラウレート及びポリソルベート20からなる群より選ばれる、抗けいれん医薬組成物を提供する。
【0021】
本発明によれば、活性成分として使用されるジアゼパム及びロラゼパムは、好ましくは、医薬組成物の全質量に基づき、1乃至20質量%の含有量において存在するが、本発明は、これに特に限定されるものではない。
【0022】
本発明で使用されるジエチレングリコールモノエチルエーテルは、好ましくは、医薬組成物の全質量に基づき45乃至60%の含有量で存在する。例えば、トランスクトールP(Transcutol P)(ガッテフォッセにより入手可能)は、ジエチレングリコールモノエチルエーテルとして使用され得る。
【0023】
本発明に使用される脂肪酸エステルは、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20、メチルラウレート、エチルラウレート及びポリソルベート20を含み、そして、好ましくは単独でまたはこれらの組み合わせで存在する。この場合において、脂肪酸エステルは、好ましくは、医薬組成物の全質量に基づいて少なくとも30質量%又はそれ以上の含有量で存在する。より好ましくは、脂肪酸エステルは、好ましくは、医薬組成物の全質量に基づいて30乃至50質量%の含有量で存在する。
【0024】
本発明の一つの典型的な実施態様によれば、本発明の医薬組成物は、ジアゼパム及びロラゼパムからなる群より選ばれる少なくとも1種の難溶性抗けいれん剤5乃至15質量%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル45乃至60質量%、及び脂肪酸エステル35乃至50質量%を含み、前記脂肪酸エステルが、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20、メチルラウレート、エチルラウレート及びポリソルベート20からなる群より選ばれる。より好ましくは、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20及びポリソルベート20からなる群より選ばれた少なくとも1種が該脂肪酸エステルとして使用され得る。
【0025】
また、本発明のまた別の典型的な実施態様によれば、ジアゼパム及びロラゼパムからなる群より選ばれる少なくとも1種の難溶性抗けいれん剤を活性成分として含んで経鼻的に噴霧投与され、抗けいれん医薬組成物は、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、脂肪酸エステル、メチルピロリドン、水及びアルコールを含む、抗けいれん医薬組成物を提供する。
【0026】
本発明の典型的な実施態様によれば、ジアゼパム又はロラゼパムは、好ましくは、医薬組成物の全質量に基づいて、1乃至20質量%の含有量で存在するが、本発明は、これらに特に限定されるものではない。また、ジエチレングリコールモノエチルエーテルは、好ましくは、医薬組成物の全質量に基づいて、45乃至60質量%の含有量で存在する。例えば、トランスクトールP(ガッテフォッセ社から入手可能)は、ジエチレングリコールモノエチルエーテルとして使用され得る。
【0027】
本発明の典型的な実施態様により使用される脂肪酸エステルは、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20、メチルラウレート、エチルラウレート、ポリソルベート20及びプロピレングリコールモノカプリレートを含むが、これらに特に限定されるものではなく、そしてこれらは単独で又はこれらの組み合わせにおいて使用され得る。それゆえ、脂肪酸エステルは好ましくは、医薬組成物の全質量に基づいて、少なくとも30質量%またはこれ以上の含有量において存在する。より好ましくは、脂肪酸エステルは、医薬組成物の全質量に基づいて、30乃至50質量%の含有量で存在する。
【0028】
より好ましくは、メチルラウレートが脂肪酸エステルとして使用され、そして、医薬組成物の全質量に基づいて、少なくとも30質量%又はこれ以上の含有量で存在する。より好ましくは、脂肪酸エステルは、医薬組成物の全質量に基づいて、30乃至50質量%の含有量で存在する。
【0029】
さらに、プロピレングリコールモノカプリレートが脂肪酸エステルとして好ましく使用される。この場合において、プロピレングリコールモノカプリレートは、好ましくは、医薬組成物の全質量に基づいて、5乃至25質量%の含有量で存在するが、本発明はこれらに特に限定されるものではない。
【0030】
さらに、本発明の好ましい実施態様により使用されるアルコールは、好ましくは、エタノールを含むが、これに限定されるものではない。
【0031】
また、本発明の典型的な実施態様によれば、本発明の医薬組成物は、ジアゼパム及びロラゼパムからなる群より選ばれる難溶性抗けいれん剤の少なくとも1種5乃至15質量%、そしてまた、ジエチレングリコールモノエチルエーテル40乃至60質量%、メチルラウレート5乃至15質量%、メチルピロリドン5乃至30質量%、水1乃至5質量%及び
エタノール5乃至15質量%を含む。
【0032】
また、本発明の一つの典型的な実施態様による医薬組成物は、さらにジメチルイソソルビドを含む。この場合において、ジメチルイソソルビドは、好ましくは、医薬組成物の全質量に基づいて、5乃至10質量%の含有量で存在するが、本発明はこれに特に限定されるものではない。
【0033】
本発明の一つの典型的な実施態様による医薬組成物は、好ましくは、経鼻的に噴霧投与されるように、10mm2/秒又はそれ以下の液体動粘度を有する。したがって、本発明の一つの典型的な実施態様による医薬組成物は、容易に経鼻的に投与される。経鼻投与は、この方法が、その他の非経口の投与方法と比較して非常にシンプルであり、そして、市販の経鼻スプレーを使用して所望の治療用量において効率的に送達される薬剤を可能とするような低粘度であることを特徴とする。医薬組成物は高い粘度を有するため、そこに溶解される難溶性薬剤を有する医薬組成物は、従来の噴霧スプレーを使用して送達され得ず、したがって、高い粘度の組成物のための経鼻スプレー又は、入手可能な高圧ポンプの使用が必要となる。この点で、本発明の一つの典型的な実施態様による医薬組成物は、単一−用量、二重−用量、及び多重−用量噴霧装置(ファイファー(Pfeiffer)社より入手可能)、及びアキュスプレー(Acuspray)スプレー(BD)のような、従来の経鼻スプレーシステムを用いて一定して吸収され得、そして安定して投与され得る。
【0034】
本発明のまた別の典型的な実施態様によれば、けいれんを治療するための医薬組成物の十分な量をけいれんを患う患者に経鼻的に噴霧投与することを含む、けいれんを治療するための方法が提供される。
【0035】
本発明の一つの典型的な実施形態による医薬組成物は、後に記載される実施例において裏付けられるように、抗けいれん医薬組成物中のジアゼパムの溶解性が、米国特許第6,627,211号明細書における2.5%、及び米国特許出願第2005−0002987号における4.1%と比較して、15.39%まで高められ、そして、ジアゼパムの生物学的利用率が上記特許の両方における65%と比較して、119%まで高められるという利点を有する。また、医薬品組成物は、臨床の試験に広く用いられているロラゼパムもまた35%の生物学的利用率を示す利点を有し、このことは、難溶性抗けいれん剤の生物学的利用率が非常に高められたことを示すものである。したがって、本発明の一つの典型的な実施態様による経鼻抗けいれん医薬組成物は、投与が非常に容易になる。非経口投与と比較した場合、例えば、単純なスプレー、点滴器、または噴霧器は、てんかんの急性けいれん性発作の緊急治療のための薬剤の迅速で簡便な送達に関する要件を満たすために特に使用され得る。臨床上の条件において、経鼻投与はしばしば、抗けいれん活性の持続を高めることを可能とする。経鼻抗けいれん医薬組成物の治療用量は、1回又は数回、本発明の製剤を投与することにより、より有効で正確にコントロールされ得る。抗けいれん剤は本発明のモデル化合物として述べているが、本発明は、人間及び動物の粘膜への投与のために使用され得るその他の生物学的活性剤へもまた適用される。
【0036】
本発明の方法
以下に、本発明の典型的な実施態様を詳細に説明する。しかしながら、ここに提案された記載は、まさに、説明を目的とするためのみのための、好ましい実施例であり、本発明の範囲を限定することを意図するものでないことが理解されるべきである。
【実施例】
【0037】
実施例1:経鼻投与のための溶液の製造
ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び脂肪酸エステルを、パドル型の攪拌器へ入れ、完全に混合した。次に、疎水性溶媒、水及びエタノールを連続して添加し、そして
得られた混合物を必要に応じて混合した。ここで、“完全に混合”の表現は、混合物溶液が透明でそして如何なる層分離及び濁りのない透明である状態を意味する。
【0038】
実施例2:ジアゼパムの溶解性試験
100mgのジアゼパムを、それぞれの製剤が以下の表に一覧された組成物比を有するように、実施例1の方法で製造された混合物の500μLへ添加した。次に、得られた混合物を室温において24時間攪拌し、そして0.45マイクロメートルのメンブランフィルターを通して濾過した。次に、得られた濾液を、ジアゼパムの濃度を分析するために高速液体クロマトグラフィーにかけた。この実験で使用したカラムは、30cm×3.9mmの10mmのC18カラムであり、そして移動相は、(容量比で)65%のメタノール及び35%の蒸留水からなる混合物であった。流速を1.4mL/分に設定し、そして検出を、波長254nmにおいて行った。p−ヒドロキシアニソールを分析の内部標準物質として使用した。結果を以下の表1乃至8に一覧する。ジアゼパムが溶解している最終溶液において、それぞれの成分は最終組成物比(質量%によって表される。
【0039】
表1
【表1】

【0040】
表2
【表2】

【0041】
表3
【表3】

【0042】
表4
【表4】

【0043】
表5
【表5】

【0044】
表6
【表6】

【0045】
表7
【表7】

【0046】
表8
【表8】

【0047】
実施例3:粘度測定
キャピラリー粘度計(キャノン−フェンスク−ルーチン粘度計)を粘度計として使用し、そして固定装置へその粘度計を装着して、水浴中で40℃の一定温度において粘度を測定した。粘度計の出発ラインへ実施例1の方法による実施例2で製造した混合物を移すために、吸引管を使用した。次に、この混合物が、キャピラリー管に沿って落下するように約10分間保持し、そして混合物が落下するのに必要な時間を測定した。動粘度を、以下の方程式1で表わしたように計算した。ここに、粘度の単位はmm2/秒により表した。
【0048】
方程式1
動粘度( )=粘度計定数(K=0.01547mm2/s2)溶出時間(t)
【0049】
表9
【表9】

【0050】
実施例4:噴霧パターンの評価
微量の食用青色色素を、製造された製剤2の混合物と混合し、そして得られた混合物を経鼻スプレー(二重−用量系、ファイファー(Pfeiffer製))に装着し、そして
次に経鼻スプレーから3センチメートルに位置する白い充填物の上に2回噴霧し、そして噴霧パターンを分析した。結果を図3に示す(左−1回目の噴霧、右−2回目の噴霧)。
噴霧パターンは円形に近い楕円形であり、楕円度の比率は、楕円噴霧パターンの最大直径(Dmax)対最小直径(Dmin)の比率により表されるように、1回目の噴霧において1.25(図3の左の写真)そして2回目の噴霧において1.0(図3の右の写真)であった。米国食品医薬品局の吸引及び経鼻薬物に対する規則(製造業、経鼻噴霧及び吸入溶液、懸濁液及び噴霧薬物製品、化学、製造、及び規制文書の手引き、2002)は、1.0乃至1.3の楕円度比率を推奨している。したがって、本発明の一つの典型的な実施態様による経鼻抗けいれん医薬品組成物は、治療用量で効果的に送達され得るような噴射角度及び噴霧形状を示すことが確認された。
【0051】
実施例5:ウサギにおけるジアゼパム含有経鼻製剤の薬物動態試験(生物学的利用率試験)
試験の直前に、ウサギ(n=3)を計量し、そして、ケタミン25mg及びキシラジン4mを含む混合溶液を、ウサギを麻酔するために、ウサギへキログラム(Kg)当たりを筋肉内投与し、そして、ウサギの耳動脈からの血液を収集するために、カテーテルをそれぞれのウサギに留めた。ウサギへ混合溶液を、1mg/kgの容量で約20秒かけてウサギの耳動脈を経て投与することによって、静脈注射した。Melode注射液(ジアゼパム、10mg/2mL、ドン ファ(Dong Wha)ファーマシューティカル インダストリアル カンパニー リミテッド製)を静脈注射剤として用いた。実施例2で製造した製剤1,2,3及び7のそれぞれをそれぞれのウサギの鼻孔への経鼻投与のために、製剤1,2及び3中のジアゼパム濃度を8%に設定し、そしてその用量を1.4mg/kgに設定した。また、製剤4中のジアゼパムの濃度を10%に設定し、そしてその用量を2.3mg/kgに設定した。次に、それぞれの製剤をファイファー(Pfeiffer)経鼻噴霧システムを用いてウサギに噴霧した。実施例2で製造した製剤のために、8%のジアゼパムを製剤2及び3の場合に溶解し、そして、10%のジアゼパムを製剤4の場合に溶解した。
血液試料(1mL)を、それぞれの製剤の静脈注射及び経鼻噴霧後0、2、5、10、20、30、45、60及び120分後にウサギ動脈から収集した。血液試料のそれぞれを遠心分離しウサギ血漿を分離し、これを−20℃において分析に使用するまで保存した。血漿試料を分析するために、それぞれの血漿試料(0.5mL)を、1.5mLのポリプロピレン遠心分離管に正確に移した。この混合物を、30秒間ボルテックスで攪拌し、そして回転速度400rpmで10分間遠心分離した。血漿試料中のジアゼパムの濃度をLC−MS/MSを用いて分析した。0.1%の蟻酸−アセトニトリル/脱イオン水(60/40、v/v)混合溶液を、移動相として用い、流速を0.25mL/分に設定し、そしてXterra(登録商標)S C18(3.0×50mm、2.5マイクロメートル、米国ウォーターズ社製)をカラムとして用いた。ピーク検出を、三連四重極マススペクトル法を用いた多チャンネル反応モニタリング(MRM)方法により行った。イオン化を、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いてポジティブモードで分析し、そしてイオンスプレー温度を500℃に設定した。MRM法を用いてジアゼパムのプロトン化した分子イオン及び内部標準物質をm/z284.9及び268.0でそれぞれモニターし、そしてそれらの生成物イオンをm/z154.1及び155.0でそれぞれモニターした。0乃至4時間のプラズマ濃度−時間曲線(AUC)を、線形台形法により計算した。結果を以下の表10で一覧し、そして図1に示す。
【0052】
表10
【表10】

【0053】
実施例6:ウサギにおけるジアゼパム含有経鼻製剤の薬物動態試験(生物学的利用率試験)
ロラゼパムを、ジアゼパムの代わりに、ロラゼパムが9%の含有量で存在するように製剤1の溶液中に溶解した。次に、この実験を実施例5におけるものと同様の方法で行った。この場合において、ロラゼパムを9%の濃度に設定し、そして、1.6mg/kgの用量で投与した。アチバン(登録商標)注射液(4mg/mL、Il Dong製薬株式会社製)を、静脈注射用製剤におけるロラゼパムとして使用し、そして、0.8mg/kgの用量において投与した。アセトニトリルで前処理したそれぞれの血漿試料を、以下のLC/MS/MS条件で定量した。0.1%の蟻酸−アセトニトリル/脱イオン水(60/40、v/v)混合溶液を、移動相として用い、流速を0.25mL/分に設定し、そしてXterra(登録商標)MS C18(3.0×50mm、2.5マイクロメートル、米国ウォーターズ社製)をカラムとして用いた。ピーク検出を、三連四重極マススペクトル法を用いた多チャンネル反応モニタリング(MRM)方法により行った。イオン化をエレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いてポジティブモードで分析し、そしてイオンスプレー温度を500℃に設定した。MRM法を用いてジアゼパムのプロトン化した分子イオン及び内部標準物質をm/z320.9及び268.0でそれぞれモニターし、そしてそれらの生成物イオンをm/z275.0及び155.0でそれぞれモニターした。結果を以下の表11で一覧し、そして図2に示す。
【0054】
表11
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としての難溶性抗けいれん剤を含む抗けいれん医薬組成物であって、
経鼻的に噴霧投与され、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及び脂肪酸エステルを含み、
前記脂肪酸エステルが、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20、メチルラウレート、エチルラウレート及びポリソルベート20からなる群より選ばれる、
抗けいれん医薬組成物。
【請求項2】
前記難溶性抗けいれん剤が、ジアゼパム及びロラゼパムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項3】
前記難溶性抗けいれん剤が、医薬組成物の全質量に基づき1乃至20質量%の含有量で存在する、請求項2に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸エステルが、医薬組成物の全質量に基づき少なくとも30質量%の含有量で存在する、請求項1に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項5】
ジアゼパム及びロラゼパムからなる群より選ばれる少なくとも1種の難溶性抗けいれん剤5乃至20質量%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル40乃至60質量%及び脂肪酸エステル35乃至50質量%を含み、
前記脂肪酸エステルが、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20、メチルラウレート、エチルラウレート及びポリソルベート20からなる群より選ばれる、
医薬組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸エステルが、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20及びポリソルベート20からなる群より選ばれる、請求項5に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項7】
ジエチレングリコールモノエチルエーテル、脂肪酸エステル、メチルピロリドン、水及びアルコールを含み、経鼻的に噴霧投与される、活性成分として難溶性抗けいれん剤を含む、抗けいれん医薬組成物。
【請求項8】
前記難溶性の抗けいれん剤が、ジアゼパム及びロラゼパムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項9】
前記脂肪酸エステルが、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、イソプロピルパルミテート、オレオイルポリオキシルグリセリド、ソルビタンモノラウレート20、メチルラウレート、エチルラウレート、ポリソルベート20及びプロピレングリコール モノカプリレートからなる群より選ばれる、請求項7に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項10】
前記脂肪酸エステルがメチルラウレートを含む、請求項9に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項11】
前記アルコールがエタノールである、請求項7に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項12】
前記難溶性抗けいれん剤が、医薬組成物の全質量に基づき1乃至20質量%の含有量で存在する、請求項7に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物が、経鼻噴霧投与のため、10mm2/秒以下の動粘度を有する、請求項7に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項14】
前記脂肪酸エステルが、医薬組成物の全質量に基づき少なくとも30質量%の含有量で存在する、請求項7に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項15】
ジアゼパム及びロラゼパムからなる群より選ばれる少なくとも1種の難溶性抗けいれん剤5乃至20質量%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル40乃至60質量%、メチルラウレート5乃至15質量%、メチルピロリドン5乃至30質量%、水1乃至5質量%、及びエタノール5乃至10質量%を含む、請求項7に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項16】
さらにジメチルイソソルビドを含む、請求項7に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項17】
前記ジメチルイソソルビドが、医薬組成物の全質量に基づき5乃至10質量%の含有量で存在する、請求項16に記載の抗けいれん医薬組成物。
【請求項18】
けいれんを患う患者へ、けいれんの治療のために請求項1乃至17のいずれか1項に定義された医薬組成物の有効量を経鼻的に噴霧投与することを含む、けいれんを治療する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−520875(P2011−520875A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509416(P2011−509416)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/KR2009/002567
【国際公開番号】WO2009/139589
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(303024622)エスケー ホルディングス カンパニー リミテッド (28)
【Fターム(参考)】