説明

難燃・不燃化EVA樹脂材料及びそれを用いた難燃・不燃性製品

【課題】本発明は製造工程において、ポリホウ酸ナトリウムの発泡化を抑えた難燃・不燃化EVA樹脂材料及びそれを用いた難燃・不燃性製品の提供を目的とする。
【解決手段】融点95℃以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂に、質量比で5〜200%のポリホウ酸ナトリウムの粉末を混合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性又は不燃性を付与した樹脂材料及びそれを用いた難燃・不燃性製品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料に難燃性、不燃性を付与するのにポリホウ酸ナトリウムを混合する技術が特許文献1に開示されている。
しかし、同公報に開示する実施例は、塩化ビニルにポリホウ酸ナトリウムを150〜160℃にて混練するものであり、この温度範囲では、ポリホウ酸ナトリウムが少なくとも部分的に発泡化し、均一に分散しなかったりして製品化が困難であった。
また、塩化ビニルのような水素結合のできる極性基の少ない樹脂ではポリホウ酸ナトリウムとの密着混合性が不充分であった。
一方、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂:ethylene−vinylacetate copolymer)は、高密度ポリエチレンと比較して、弾力性、強靭性、透明性が高く、酢酸ビニルの配合割合が高くなるにつれて、結晶性が低下し、柔軟性が増すと共に、融点が低くなる。
また、樹脂中のアセチル基とポリホウ酸ナトリウムとの水素結合が強く作用する。
そこで、本発明者はこの樹脂を用いて難燃・不燃化することを検討し、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−24281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は製造工程において、ポリホウ酸ナトリウムの発泡化を抑えた難燃・不燃化EVA樹脂材料及びそれを用いた難燃・不燃性製品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る難燃・不燃性樹脂材料は、融点95℃以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(以下、必要に応じてEVA樹脂と称する)に、当該EVA樹脂に対して質量比で5〜200%のポリホウ酸ナトリウムの粉末を混合したことを特徴とする。
ポリホウ酸ナトリウムのEVA樹脂に対する混合比は要求される難燃性、不燃性に応じて設定されるが、質量比で5%未満だと難燃性の効果が十分に現れない。
ポリホウ酸ナトリウムはEVA樹脂との水素結合により親和性が高いものの、ポリホウ酸ナトリウムの嵩比重はEVA樹脂の約半分である。
本発明者の実験によれば、EVA樹脂の質量に対して200%まで多量に混合できた。
ポリホウ酸ナトリウムの混合量が多い程不燃性が向上するが、実用的には5〜100%の範囲であり高い不燃性が要求される場合は20%以上がよい。
従って、より好ましい範囲は20〜80%である。
EVA樹脂は、酢酸ビニル(以下、必要に応じてVAと称する)の配合割合が多いほど融点が低くなる。
例えば、EVA樹脂中にVAを質量で10%になるように混合した場合に融点が94℃であり、VAの割合が33%のときの融点は61℃である。
従って、ポリホウ酸ナトリウムの発泡化を抑えつつ、EVA樹脂とポリホウ酸ナトリウム粉末との混練工程、樹脂製品の生産工程等の生産性を考えるとEVA樹脂の溶融温度は低い方が良く、融点を80℃未満に抑えるとさらに良い。
EVA樹脂中のVAの割合は、3〜45%の範囲で使用できるが、EVA樹脂の融点を95℃以下に設定するには、10〜45%の範囲であり、好ましくは10〜40%であり、さらに好ましくは20〜40%の範囲である。
また、混合方法としてはEVA樹脂を溶融させた状態に粉末状のポリホウ酸ナトリウムを添加混合してもよく、ペレット状又は粉末状のEVA樹脂と粉末状のポリホウ酸ナトリウムを撹拌混合し、定法に従い、押出や延伸により、シート材、フイルム材、あるいは金型を用いて充填、射出成形しても良い。
ここでポリホウ酸ナトリウムの粉末の製造として厚みのあるシート材や成形品の場合には、ポリホウ酸ナトリウム溶液を噴霧乾燥させた平均粒径10〜30μmの粉末を用いることができ、薄い厚み1mm以下のフイルム材を製造するには、ジェットミル等で平均粒径10μm以下、例えば、1〜5μmの微粉末にして用いるのが好ましい。
ここで、難燃性とは、材料に火炎を当てると火が付くがこの火炎を遠ざけるとすぐに自己消火するものをいい、規格としては例えば、米国の「Underwriter’s Laboratoies, Inc.」が制定した94V(Vertical testing),94VTM(Vertical testing for Thin Materials)をクリアーする場合をいう。
規格94Vの内容をさらに詳しく説明すると、難燃性の高い順に5VA,5VB,V−0,V−1,V−2,HBの等級に区分されている。
5VAと5VBは垂直に保持した短冊状の試料の下端に5秒間ガスバーナーの炎を接炎させた後に5秒間離す操作を5回繰り返し、最後の接炎の後、60秒以上燃焼を続けることがなく、試料の下方に置かれた脱脂綿を発火させる燃焼粒子の落下がないことをいう。
この試験をクリアーしたもののうち、板状試料を水平にしてガスバーナーの炎を接炎し、試料に穴が開かないものを5VA,穴が開く場合を5VBという。
V−0,V−1,V−2は垂直に保持した短冊状の試料の下端に10秒間ガスバーナーの炎を接炎させ燃焼が30秒以内に止まったならば、さらに接炎させる。
この試験により、接炎の後に燃焼を続ける時間、5個の試料の合計10回の接炎に対する総燃焼時間、試料の下方に置かれた脱脂綿の発火の有無等にて等級が区分されている。
不燃性とは火炎を当てても着火しないことをいい、規格としては例えば、JIS A 1323 A種〜C種の試験をクリアーすることをいう。
本発明に係る難燃・不燃性樹脂材料はそのまま、シート材、フイルム材、成形材等として製品化できるが、メッシュ生地、布生地、紙生地、紐、ロープ材等と組合せて製品化しても良い。
その場合に、融点95℃以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂に、質量比で5〜200%のポリホウ酸ナトリウムの粉末を混合した樹脂組成物を生地材にコーティング又は含浸させても、エチレン−酢酸ビニル共重合エマルジョン溶液に、ポリホウ酸ナトリウムの粉末又は、ポリホウ酸ナトリウムの溶液を混合した混合液を、生地材にコーティング又は含浸させた後に乾燥させても良い。
この場合も要求される難燃性、不燃性に応じてポリホウ酸ナトリウムの配合量を設定することになる。
ポリホウ酸ナトリウムは、ホウ酸、ホウ砂を原料にして、ホウ酸又はホウ砂単独の溶解度(20℃)以上に濃度を高くした水溶液であり、例えば、本出願人は、商品名ファイアレスBリキッドを販売していて、これを用いて噴霧乾燥や凍結乾燥を経て、粉末化できる。
また、特開2005−112700号に記載の製造方法を取り込むことができる。
EVAエマルジョンにポリホウ酸ナトリウム溶液を加えるには、固形分が30%以上になるように予め高濃度にするのが良い。
本発明に係る樹脂材料は、EVA樹脂とポリホウ酸ナトリウムの他に水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムの粉末を混合してもよい。
この場合に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムの混合割合はポリホウ酸ナトリウムに対する質量比で5〜50%の範囲がよい。
また、ねばねば感を取るために炭酸カルシウムの粉末をEVA樹脂に対する質量比で0.1〜30%、好ましくは1.0〜10%混合してもよい。
さらにはEVA樹脂との混練性を向上させるために界面活性剤等の分散剤をEVA樹脂に対する質量比で0.1〜10%、好ましくは1.0〜10%添加してもよい。
本発明に係る樹脂材料は、タングステン、鉛等の放射線を遮蔽する作用を有する金属の粉末を混合すると、難燃・不燃放射線遮蔽材料となる。
この材料をそのままシートやフィルム状にしてもよいが、引張強度を強くするために難燃、不燃化した綿生地やその他の繊維生地を芯材に用いてもよい。
また、不燃性向上を目的にアルミ箔、ガラス繊維シート等を積層してもよい。
本発明に係る樹脂材料は、EVA樹脂をベースとしているので接着剤にも適用できる。
接着剤は溶着タイプでも溶液タイプにしてもよく、ポリホウ酸ナトリウムを混合することで不燃接着剤として使用することができる。
【発明の効果】
【0006】
ポリホウ酸ナトリウムは150℃以上になると一部が発泡化する性質を有しているために一般的な熱可塑性樹脂ではポリホウ酸ナトリウムの粉末を混練する工程にて発泡し、製品化できなかった。
これに対して、本発明に係るEVA樹脂は混練や押出成形温度が120℃以下、さらには、100℃以下なのでポリホウ酸ナトリウムの発泡化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】火災による燃焼試験を実施した結果を示す。
【図2】JIS A 1323に基づく難燃性試験結果を示す。
【図3】メッシュ生地材を難燃・不燃化する例を示す。
【図4】ロープ材を難燃・不燃化する例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る難燃樹脂材料の製造例について説明する。
酢酸ビニルの含有量が33%のEVA樹脂(融点61℃)に対して質量比で20%の量のポリホウ酸ナトリウム粉末を溶融樹脂に混練し、シート状に押出成形したサンプルに1300℃のバーナー火炎を図1のA部に当てた。
その結果、周囲に白色化した発泡部分が認められ、図1(b)に示した裏面には影響が無く不燃化されていた。
これにより、上記94V、94VTM規格を十分にクリアーしていることが推定される。
また、3×3mmの大きさの角に細切りした試料3.3gをJIS K 2541−3に基づいて燃焼管空気法による試験をした結果、塩素もケイ素も検出されなかった。
現在、原子力発電所で使用されている不燃性シートはガラス繊維をシリコンコーティングした厚み約2.5mmのシート材である。
しかし、現在の上記不燃性シート材は焼却できず、そのままドラム缶に詰めて、六ヶ所村施設に搬送されていて、かさ高であり、処理費用が高額になるが、本発明に係る不燃樹脂材料を用いれば、焼却に有害なガス発生が無く、焼却減量化して搬送することで、処理費の低コスト化を図ることができる。
次に酢酸ビニルの含有量が33%のEVA樹脂に対して質量比で50%のポリホウ酸ナトリウムの粉末を混練し、シート状に押出成形したサンプルを用いて94V試験を実施したところ、5VA,5VBの等級をクリアーした。
【0009】
例えば、シート材の強度アップを図るべく、ポリホウ酸ナトリウム水溶液を固形分の付着量が20〜50g/mになるようにスプレー又は浸漬及び乾燥した不燃性紙糸繊維を心材にし本発明に係る不燃性樹脂材料を用いてシート材を製造することができる。
図2に試作したシート材も用いて、JIS A 1323に基づく難燃性A種の試験をした結果を示し、(a)に試験表面側、(b)に裏面側を示すように、発炎は認められなかった。
【0010】
本発明に係る樹脂は、図3に示すようにメッシュ生地材1に樹脂シート2を重ね、加熱溶融し心材入りの不燃シート10を製造したり、図4に示すようにロープ材1aに不燃EVA樹脂1bを溶融含浸被覆することで難燃・不燃化することもできる。
用途に応じて、安定化剤、着色剤、滑剤との各種添加剤を配合してもよく、難燃性、不燃性が必要とされる全ての分野に適用できる。
例えば、不燃性テント、不燃性壁紙、不燃性建築内装材、不燃性車両内装材、配電工事に使用する防護シート(トラッキング防止)等、例を挙げると切りがない。
また、タングステンや鉛の粉末を混合すると放射線の遮蔽機能を付加することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点95℃以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂に、当該エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂に対して質量比で5〜200%のポリホウ酸ナトリウムの粉末を混合したことを特徴とする難燃・不燃性樹脂材料。
【請求項2】
融点95℃以下のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂に、当該エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂に対して質量比で5〜200%のポリホウ酸ナトリウムの粉末を混合した樹脂組成物を生地材にコーティング又は含浸してあることを特徴とする難燃・不燃製品。
【請求項3】
エチレン−酢酸ビニル共重合エマルジョン溶液に、ポリホウ酸ナトリウムの粉末又は、ポリホウ酸ナトリウムの溶液を混合した混合液を、生地材にコーティング又は含浸させた後に乾燥させることを特徴とする難燃・不燃性製品の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−236962(P2012−236962A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153250(P2011−153250)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(302001952)株式会社 トラストライフ (6)
【Fターム(参考)】