説明

難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品

【課題】難燃性に優れ、剛性と強度に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)、有機スルホン酸金属塩(B)、包接能を有する化合物(C)及びガラス繊維(E)を含有することを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品に関し、詳しくは、難燃性に優れ、剛性と強度に優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば自動車材料、電気電子機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等に幅広く利用されている。特に、難燃化されたポリカーボネート樹脂組成物は、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部材として好適に使用されている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手段としては、従来、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤をポリカーボネート樹脂に配合することがなされてきた。
しかしながら、塩素や臭素を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、熱安定性の低下を招いたり、成形加工時における成形機のスクリューや成形金型の腐食を招いたりすることがあった。また、リン系難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の特徴である高い透明性を阻害したり、耐衝撃性、耐熱性の低下を招いたりするため、その用途が制限されることがあった。加えて、これらのハロゲン系難燃剤及びリン系難燃剤は、製品の廃棄、回収時に環境汚染を惹起する可能性があるため、近年ではこれらの難燃剤を使用することなく難燃化することが望まれている。
【0004】
かかる状況下、近年、有機アルカリ金属塩化合物および有機アルカリ土類金属塩化合物に代表される金属塩化合物が有用な難燃剤として数多く検討されている。有機金属塩化合物を難燃剤として用いると、比較的少量で効果が得られ、かつ、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐衝撃性等の機械的物性、耐熱性、電気的特性などの性質を損なわずに難燃性を付与できるためである。
【0005】
金属塩化合物によるポリカーボネートの難燃化技術としては、例えば、炭素数4〜8のパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩を利用する方法(特許文献1参照)、炭素数1〜3のパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩を配合する方法(特許文献2参照)等の、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩化合物を用いて芳香族ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手法;非ハロゲン系芳香族スルホン酸ナトリウム塩を含有させる方法(特許文献3参照)、非ハロゲン系芳香族スルホン酸カリウム塩を含有させる方法(特許文献4参照)等の、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩化合物を用いて芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に難燃性を付与する手法が提案されている。
【0006】
これら金属塩系難燃剤化合物は、ポリカーボネート樹脂に対する難燃性が比較的良く、優れた難燃剤である。しかしながら、ポリカーボネート樹脂にガラス繊維を配合したガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂材料に適用して金属塩系難燃剤を添加した場合には、ポリカーネート樹脂の強度や剛性が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭47−40445号公報
【特許文献2】特公昭54−32456号公報
【特許文献3】特開2000−169696号公報
【特許文献4】特開2001−181493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、金属塩化合物による難燃化は、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の場合には充分といえず、本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、難燃性に優れ、剛性と強度に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、ガラス繊維強化されたポリカーボネート樹脂に、金属塩化合物および包接能を有する化合物を含有させると、難燃性に優れ、剛性と強度に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物およびそれを成形してなる成形品を提供する。
【0010】
[1]ポリカーボネート樹脂(A)、有機スルホン酸金属塩(B)、包接能を有する化合物(C)及びガラス繊維(E)を含有することを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
[2]有機スルホン酸金属塩(B)の少なくとも一部と包接能を有する化合物(C)の少なくとも一部が包接して包接錯体(D)を形成していることを特徴とする上記[1]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
[3]有機スルホン酸金属塩(B)および包接能を有する化合物(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、それぞれ0.01〜2質量部であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
[4]ガラス繊維(E)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、3〜80質量部であることを特徴とする上記[1]〜[3]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【0011】
[5]ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、さらにフルオロポリマー(F)を0.001〜1質量部含有することを特徴とする上記[1]〜[4]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
[6]包接能を有する化合物(C)が、クラウンエーテル化合物であることを特徴とする上記[1]〜[5]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
[7]有機スルホン酸金属塩(B)が、有機スルホン酸アルカリ金属塩であることを特徴とする上記[1]〜[6]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
[8]有機スルホン酸アルカリ金属塩のアルカリ金属が、K、Na、CsまたはLiであることを特徴とする上記[1]〜[7]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【0012】
[9]有機スルホン酸金属塩(B)が、パーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩または芳香族スルホン酸アルカリ金属塩であることを特徴とする上記[1]〜[8]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
[10]有機スルホン酸金属塩(B)および包接能を有する化合物(C)は、予め溶媒中で溶解し混合されていることを特徴とする上記[1]〜[9]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
[11]上記[1]〜[10]に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ガラス繊維強化されたポリカーボネート樹脂組成物において、有機スルホン酸金属塩が包接能を有する化合物と包接することにより、有機スルホン酸金属塩が油溶性となって、ポリカーボネート樹脂との相溶性が極めて向上し、また、有機スルホン酸金属塩が錯体構造となることで、有機スルホン酸金属塩のイオン化を促進し、より微量の添加で難燃性の効果を達成でき、剛性や強度の低下が抑制される。
したがって、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性に優れ、剛性と強度に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
なお、本願明細書において、「〜」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
[1.概要]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ガラス繊維(E)を含有するポリカーボネート樹脂(A)に、有機スルホン酸金属塩(B)および包接能を有する化合物(C)を含有することを特徴とする。
【0016】
[2.ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明に使用する樹脂材料のポリカーボネート樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂が挙げられるが、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂であり、具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体が用いられる。
【0017】
該芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン、1、1−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジメチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−6−メチル−3−tert−ブチルフェニル)ブタン、ハイドロキノン、レゾルシノール、などが挙げられ、脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、2,6−ノルボルナンジメタノール、trans−2,6−デカリンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2,4,4、−テトラメチルシクロプロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。また、ジヒドロキシ化合物の一部として、上記のジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、又はシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーもしくはオリゴマー等を併用すると、難燃性の高いポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0018】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の好ましい例としては、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とを併用したポリカーボネート樹脂が挙げられる。本発明では、(A)成分として、2種以上のポリカーボネート樹脂を併用しても良い。
【0019】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、制限はないが、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、好ましくは10,000〜40,000、より好ましくは14,000〜32,000である。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られる。ポリカーボネート樹脂の最も好ましい分子量範囲は16,000〜30,000である。
【0020】
ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂を使用するのも好ましい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)とを組み合わせて用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0022】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートオリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
さらにポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0024】
[3.有機スルホン酸金属塩(B)]
本発明の樹脂組成物には、有機スルホン酸金属塩(B)を使用する。
有機スルホン酸金属塩が有する金属の種類としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属;並びに、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、モリブテン(Mo)等が挙げられるが、なかでもアルカリ金属又はアルカリ土類金属であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の燃焼時の炭化層形成を促進し、難燃性をより高めることができると共に、ポリカーボネート樹脂が有する耐衝撃性等の機械的物性、耐熱性、電気的特性などの性質を良好に維持できるからである。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち、アルカリ金属がさらに好ましく、ナトリウム、カリウム、セシウムまたはリチウムがより好ましく、さらにはナトリウム、カリウム、セシウムが、特にはナトリウム、カリウムが好ましい。
【0025】
このような有機スルホン酸金属塩(B)の例を挙げると、有機スルホン酸リチウム(Li)塩、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩、有機スルホン酸カリウム(K)塩、有機スルホン酸ルビジウム(Rb)塩、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩、有機スルホン酸マグネシウム(Mg)塩、有機スルホン酸カルシウム(Ca)塩、有機スルホン酸ストロンチウム(Sr)塩、有機スルホン酸バリウム(Ba)塩、等が挙げられる。この中でも特に、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩、有機スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物等の有機スルホン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0026】
有機スルホン酸金属塩(B)のうち、好ましいものとしては、含フッ素脂肪族スルホン酸の金属塩、含フッ素脂肪族スルホン酸イミドの金属塩、芳香族スルホン酸の金属塩、芳香族スルホンアミドの金属塩が挙げられる。
【0027】
その中でも好ましいものの具体例を挙げると、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム、ノナフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸セシウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸カリウム、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸カリウム、デカフルオロ−4−(ペンタフルオロエチル)シクロヘキサンスルホン酸カリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩;
【0028】
ノナフルオロブタンスルホン酸マグネシウム、ノナフルオロブタンスルホン酸カルシウム、ノナフルオロブタンスルホン酸バリウム、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、トリフルオロメタンスルホン酸バリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;
【0029】
ジフルオロメタンジスルホン酸ジナトリウム、ジフルオロメタンジスルホン酸ジカリウム、テトラフルオロエタンジスルホン酸ジナトリウム、テトラフルオロエタンジスルホン酸ジカリウム、ヘキサフルオロプロパンジスルホン酸ジカリウム、ヘキサフルオロイソプロパンジスルホン酸ジカリウム、オクタフルオロブタンジスルホン酸ジナトリウム、オクタフルオロブタンジスルホン酸ジカリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族ジスルホン酸のアルカリ金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホン酸の金属塩、
【0030】
ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドカリウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドカリウム、トリフルオロメタン(ペンタフルオロエタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドナトリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族ジスルホン酸イミドのアルカリ金属塩;
【0031】
シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドリチウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドナトリウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドカリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する環状含フッ素脂肪族スルホンイミドのアルカリ金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホン酸イミドの金属塩、
【0032】
ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;
【0033】
パラトルエンスルホン酸マグネシウム、パラトルエンスルホン酸カルシウム、パラトルエンスルホン酸ストロンチウム、パラトルエンスルホン酸バリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;等の、芳香族スルホン酸金属塩等、
【0034】
サッカリンのナトリウム塩、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドのカリウム塩、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドのカリウム塩、N−(フェニルカルボキシル)−スルファニルイミドのカリウム塩等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホンアミドのアルカリ金属塩;等の、芳香族スルホンアミドの金属塩等が挙げられる。
【0035】
上述した例示物の中でも、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩がより好ましく、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩が、特に好ましい。
また、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩としては分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩がより好ましく、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、具体的にはノナフルオロブタンスルホン酸カリウム等が好ましい。
芳香族スルホン酸金属塩としては芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩がより好ましく、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム等のジフェニルスルホン−スルホン酸のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸ナトリウム、及びパラトルエンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸セシウム等のパラトルエンスルホン酸のアルカリ金属塩;が特に好ましく、パラトルエンスルホン酸のアルカリ金属塩がさらに好ましい。
【0036】
なお、有機スルホン酸金属塩(B)は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0037】
[4.包接能を有する化合物(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、包接能を有する化合物(C)を使用する。
包接能を有する化合物(C)とは、有機スルホン酸金属塩(B)の金属カチオンを取り込み、対アニオンの活性化ができる化合物を意味する。
包接能を有する化合物(C)は、環状ポリエーテル、環状ポリエーテルポリエステル、環状ポリケトン、環状ポリアミン、環状ポリアミンポリアミド、環状ポリチアエーテル、アザクラウンエーテル、チアクラウンエーテル、環状アザチアクラウンエーテル、アザチアクラウンエーテル、双環状クリプタンド、三環状クリプタンドおよび球状クリプタンドからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
なかでも、環状ポリエーテルが好ましく、特に、クラウンエーテル化合物が好ましい。
【0038】
本発明において、クラウンエーテル化合物とは、クラウンエーテル、及びクラウンエーテル構造を有するその誘導体を意味する。クラウンエーテル化合物は、[−CH−CH−Y−]の繰り返し単位を有する環を有する化合物であり、環を形成している−CH−CH−は置換されていてもよく、YはO、N、Sのヘテロ原子である。クラウンエーテル化合物としては、クラウンエーテル、酸素を硫黄で置換したチアクラウンエーテル、窒素で置換したアザクラウンエーテル、2環式のクラウンエーテルであるクリプタンド等が挙げられ、これらの中でもクラウンエーテルおよびアザクラウンエーテルが好ましく、特にクラウンエーテルが好ましい。
このようなクラウンエーテル化合物は、環の内側に酸素原子等が負に帯電しているため、この環の中に有機スルホン酸金属塩の金属カチオンを捕まえ、錯体化合物を形成する能力を有する。
【0039】
具体的には、18−クラウン−6−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、12−クラウン−4−エーテル、21−クラウン−7−エーテル、24−クラウン−8−エーテル、30−クラウン−10−エーテルなどのクラウンエーテル、及び、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ジベンゾ−14−クラウン−4−エーテル、ジベンゾ−15−クラウン−5−エーテル、ジベンゾ−12−クラウン−4−エーテル、ジベンゾ−21−クラウン−7−エーテル、ジベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、ジベンゾ−30−クラウン−10−エーテル、ベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ベンゾ−15−クラウン−5−エーテル、ベンゾ−12−クラウン−4−エーテル、トリベンゾ−24−クラウン−8−エーテル、ジシクロヘキシル−12−クラウン−4−エーテル、ジシクロヘキシル−15−クラウン−5−エーテル、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6−エーテル、n−オクチル−12−クラウン−4−エーテル、n−オクチル−15−クラウン−5−エーテル、n−オクチル−18−クラウン−6−エーテル等のクラウンエーテル誘導体、クラウンに長い鎖のついたラリアットや2環式のクラウンであるクリプタンドなどの上記以外のクラウンエーテル類が挙げられる。
【0040】
また、アザクラウンエーテルの例としては、1−アザ−15−クラウン−5、1−アザ−18−クラウン−6、4,10−ジアザ−12−クラウン−4、4,10−ジアザ−15−クラウン−5、4,13−ジアザ−18−クラウン−6、N,N’−ジベンゾイル−4,13−ジアザ−18−クラウン−6、N−フェニルアザ−15−クラウン−5等が挙げられる。
【0041】
本発明においては、これらのクラウンエーテル化合物の中でも、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテル、又はジベンゾ−18−クラウン−6−エーテルを用いることが好ましいが、これらのクラウンエーテルは、有機スルホン酸金属塩として好ましいカリウム塩またはナトリウム塩のカチオンイオンサイズの観点から、これらイオンとの錯体を形成しやすいので好ましい。
【0042】
[4.有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)との包接化合物]
本発明の難燃剤は、上記有機スルホン酸金属塩と上記クラウンエーテル化合物との包接化合物からなる。クラウンエーテル化合物は、有機スルホン酸金属塩の金属カチオンを取り込み、安定な錯体を形成する機能を有する。このクラウンエーテルの極性空孔は、空孔径に適合したイオン径を有するカチオンを空孔内に取り込むので、金属カチオン種により使用するクラウンエーテル化合物を選択することが好ましい。たとえば、有機スルホン酸金属塩としてカリウム塩の場合は、18−クラウン−6−エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテルを用いることが好ましく、ナトリウム塩の場合は、15−クラウン−5−エーテルを用いることが好ましい。
有機スルホン酸金属塩は元来親水性であって、ポリカーボネート樹脂への相溶性が低いが、有機スルホン酸金属塩をクラウンエーテル化合物に包接して包接化合物とすることにより、有機スルホン酸金属塩がクラウンエーテル化合物の影響で油溶性となって、ポリカーボネート樹脂との相溶性が極めて向上する。そのため、有機スルホン酸金属塩がクラウンエーテル化合物と錯体構造となることで、有機スルホン酸金属塩のイオン化を促進し、より微量の添加で難燃性の効果を達成することができる。
【0043】
なお、当然のことながら、有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)は、予め両者を包接させた包接化合物として、ポリカーボネート樹脂(A)に含有させてもよい。
有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)との包接化合物は、それらが1:1のモル比での包接化合物を形成しているものに限定されず、例えば、複数のクラウンエーテル化合物の極性空孔間に、有機スルホン酸金属塩の金属カチオンが何らかの相互作用にて配位するような構造を形成しているもの等、等モル以外の各種形態のものであってよい。
【0044】
有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)との包接化合物の製造法は、公知のいかなる方法によっても可能である。例えば、有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)を、必要に応じて水または温水、有機溶媒を使用して、混合攪拌あるいは、所望の温度に加熱しながら混合攪拌することで製造できる。有機溶媒としては、芳香族炭化水素系化合物、脂肪族炭化水素系化合物、アルコール系化合物、ケトン系化合物、エステル系化合物、テルペン系化合物等の溶媒が単独または混合溶媒として使用される。具体的には、アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、へプタン、ケロシン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
得られた包接化合物は、水あるいは有機溶媒に溶け難い場合は、加熱して均一溶液とし、その後冷却することで分離可能である。
【0045】
包接化合物の簡便で好ましい製造方法として、有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)を水または温水中で混合して得ることができる。生成した包接化合物が水に溶け難い場合は加熱して均一溶液とした後、冷却して2相に分離したものから得ることができる。
また、この際の水を含有する包接化合物を、そのままポリカーボネート樹脂組成物を製造する際の混練機に、他の樹脂添加剤とともに供給することも好ましい。
さらには、少量の水と、有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)、また他の樹脂添加剤を混合し、これを加熱攪拌して得られた水溶液を、ポリカーボネート樹脂(A)に混合して、フレーク状にしたものも好ましく、このものはそのまま混練機等にフィードすることが可能となる。
【0046】
これらの各方法において、あるいはポリカーボネート樹脂組成物中において、有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)の含有量は、モル比((B)/(C))が、10/1〜1/10であることが好ましく、より好ましくは5/1〜1/5、さらに好ましくは3/1〜1/3、特に好ましくは2/1〜1/2、最も好ましくは1.5/1〜1/1.5である。
【0047】
ポリカーボネート樹脂組成物中において、有機スルホン酸金属塩(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、好ましくは0.02質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、さらに好ましくは0.04質量部以上、特に好ましくは0.05質量部以上であり、上限は2質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以下である。含有量が少なすぎると難燃性が不十分となる可能性があり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の熱安定性や耐加水分解性が低下したり、色調の悪化を招きやすい。
【0048】
ポリカーボネート樹脂組成物中において、包接能を有する化合物(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、好ましくは0.02質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、さらに好ましくは0.04質量部以上、特に好ましくは0.05質量部以上であり、上限は2質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以下である。含有量が少なすぎると効果が不十分となる可能性があり、逆に多すぎても成形品に外観不良が発生したり、射出成形時に金型が汚染される可能性がある。
【0049】
また、有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)との包接化合物の好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂に対して、0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.04質量%以上であり、上限は1質量%以下、好ましくは0.7質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。含有量が少なすぎると難燃性が不十分となる可能性があり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の熱安定性の低下、並びに、成形品の外観不良及び機械的強度の低下が生ずる可能性がある。
【0050】
[5.ガラス繊維(E)]
本発明で用いるガラス繊維(E)としては、通常熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できるが、無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラス繊維(E)の数平均繊維長は1mm以上10mm以下であることが好ましく、ガラス繊維の直径は5μm以上20μm以下であることが好ましい。これらは、従来公知の任意の方法に従い、ガラス繊維のストランドを、具体的には例えばハンマーミルやボールミルで粉砕することにより製造できる。
【0051】
数平均繊維長が10mmを超えると成形品表面からのガラス繊維やカーボンブラックの脱落が発生しやすく、生産性が低下しやすい。数平均繊維長が1mm未満では、ガラス繊維のアスペクト比が小さいため、機械的強度の改良が不十分となりやすい。
また、ガラス繊維の直径が5μm未満の場合も同様に機械的強度の改良が不十分で、20μmを越えると外観が低下しやすい。ガラス繊維の直径は、より好ましくは6μm以上15μm以下である。
【0052】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記した有機スルホン酸金属塩(B)及び包接能を有する化合物(C)、さらにガラス繊維(E)と組み合わせて用いることにより、少量の難燃剤で難燃化できるという、顕著な効果を奏する。この理由としては、樹脂組成物中のガラス繊維を伝わって燃焼が伝播するに際して、樹脂に相溶化して微分散した有機スルホン酸金属塩(B)と包接能を有する化合物(C)との包接化合物が、ガラス繊維近傍に集まって強い消炎効果を発揮し、燃焼の伝播を妨げる為に燃焼性が低下すると考える。
【0053】
本発明で使用するガラス繊維(E)は、ポリカーボネート樹脂との密着性を向上させる目的で、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤などにより表面処理を行うことができる。
【0054】
[6.その他の添加剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、滴下防止剤、他の難燃剤、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0055】
・熱安定剤
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第10族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられる。
【0056】
なかでも、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、等の有機ホスファイトが好ましい。
【0057】
熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。熱安定剤が少なすぎると熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤が多すぎると、耐加水分解性が低下したり、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0058】
・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0059】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0060】
酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0061】
・離型剤
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0062】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0063】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族又は脂環式飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。
【0064】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0065】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラオレエート等が挙げられる。
【0066】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
【0067】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0068】
・滴下防止剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、滴下防止剤としてフッ素系樹脂を、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.01〜1質量部含有することが好ましい。このようにフッ素系樹脂を含有することで、樹脂組成物の溶融特性を改良することができ、具体的には燃焼時の滴下防止性を向上させることができる。
【0069】
フッ素系樹脂の含有量は、0.01質量部より少ないと、フッ素系樹脂による難燃性向上効果が不十分になりやすく、1質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じやすい。含有量の下限は、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上、特に好ましくは0.2質量部以上であり、また、含有量の上限は、より好ましくは0.75質量部以下、さらに好ましくは0.6質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以下である。
【0070】
フッ素系樹脂としては、なかでもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。フルオロオレフィン樹脂は、通常フルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体であり、懸濁重合法、あるいは乳化重合法で製造されたものが主として使用される。具体例としては、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられるが、なかでもテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
また、このフッ素系樹脂としては、フィブリル形成能を有するものが好ましく、具体的には、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂が挙げられる。このように、フィブリル形成能を有することで、燃焼時の滴下防止性が著しく向上する傾向にある。
【0071】
フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)6J」、ダイキン化学工業社製「ポリフロン(登録商標)F201L」、「ポリフロン(登録商標)F103」、「ポリフロン(登録商標)FA500」などが挙げられる。さらに、フルオロオレフィン樹脂の水性分散液の市販品として、例えば、三井デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)30J」、「テフロン(登録商標)31−JR」、ダイキン化学工業社製「フルオン(登録商標)D−1」等が挙げられる。
【0072】
さらに、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂も好適に使用することができる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂を用いることで、分散性が向上し、成形品の表面外観が向上し、表面異物を抑制できる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂は、公知の種々の方法により製造でき、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
【0073】
フルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体としては、特に制限されるものではなく、このような有機系重合体を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;
アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;
【0074】
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;
無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;
グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;
エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;
ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。なお、これらの単量体は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0075】
なかでもフルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体を生成するための単量体としては、芳香族ポリカーボネート樹脂に配合する際の分散性の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性が高いものが好ましく、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体がより好ましい。
【0076】
また、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂中のフルオロオレフィン樹脂の含有比率は、通常30質量%以上、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、特に好ましくは45質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下である。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂中のフルオロオレフィン樹脂の含有比率を、上述の範囲とすることで、難燃性と成形品外観のバランスに優れる傾向にあるため好ましい。
【0077】
このような有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂としては、具体的には、三菱レイヨン社製「メタブレン(登録商標)A−3800」、GEスペシャリティケミカル社製「ブレンデックス(登録商標)449」、PIC社製「Poly TS AD001」等が挙げられる。
なお、フッ素系樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0078】
[7.ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリカーボネート樹脂(A)に、ガラス繊維(E)と、有機スルホン酸金属塩(B)および包接能を有する化合物(C)をそのまま、あるいは予め包接化合物とした上で、さらに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。またポリカーボネート樹脂(A)、有機スルホン酸金属塩(B)および包接能を有する化合物(C)および必要に応じて配合される添加成分を予め溶融混合後、ガラス繊維(E)を混合する方法が、ガラス繊維の粉砕を生じさせないという観点から、より好ましい混合方法である。
なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常220〜360℃の範囲である。
また、前述したように、少量の水と、有機スルホン酸金属塩とクラウンエーテル化合物、また他の樹脂添加剤を混合し、これを加熱攪拌して得られた水溶液を、ポリカーボネート樹脂に混合して、フレーク状物を得、これを混練機等にフィードすることも好ましい。
【0079】
[8.成形品]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、シートやフィルム、異型押出成形品、ブロー成形品あるいは射出成形品等にすることもできる。
成形方法の例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
【0080】
本発明の組成物を成形した好ましい成形品の例としては、照明機器、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、等の部品が挙げられる。これらの中でも、特に電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品等の部品に用いて好適である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
[ポリカーボネート樹脂]
実施例および比較例において、ポリカーボネート樹脂(A)として、下記のポリカーボネート樹脂を使用した。表中では「PC」と表記する。
三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製
商品名「ユーピロン(登録商標)S−3000」
粘度平均分子量21,000
【0082】
また、ガラス繊維(E)として、以下のガラス繊維を使用した。表中では「GF」と表記する。
オーエンスコーニングジャパン社製、商品名「CS03MAFT737」
数平均繊維長3mm、平均直径13μm
また、ポリテトラフロオロエチレン樹脂として、三井デュポンフルオロケミカル社製、商品名「テフロン(登録商標)6J」を使用した。表中では「PTFE」と表記する。
【0083】
(実施例1)
[樹脂組成物ペレットの製造]
上記ポリカーボネート樹脂70質量部、離型剤であるペンタエリスリトールテトラステアレート0.1質量部、ステアリルステアレート0.1質量部および上記ポリテトラフロオロエチレン樹脂0.1質量部、ガラス繊維30質量部の各原料と、また、水1質量部にノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(CSOK)0.075質量部と18−クラウン−6−エーテル0.0586質量部(ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムと18−クラウン−6−エーテルとは等モル量である。)を95℃にて加熱溶解し20分攪拌したのち25℃に放冷し、更に攪拌して得られた均一水溶液とを準備し、ガラス繊維以外をタンブラーで均一に混ぜ合わせてフレーク状原料とした。該フレーク状原料とガラス繊維とを以下のようにして溶融混練した。
すなわち、根元の原料投入口とサイドフィード口とダイを有する、1ベントを備えた東芝機械社製二軸押出機(TEM37BS)に、上記フレーク状原料を根元に21.1kg/hrの速度、ガラス繊維は9.0kg/hrの速度でサイドフィードして、スクリュー回転数300rpm、吐出量30.1kg/hr、バレル温度280℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0084】
[(1)難燃性評価(UL)]
得られたペレットを120℃で6時間乾燥した後、日本製鋼所社製射出成形機J50を用い、金型温度80℃、シリンダー設定温度290℃の条件下で射出成形を行い、長さ125mm、幅13mm、厚さ2.5mmの燃焼試験用試験片を得た。
得られた燃焼試験用試験片について、UL94Vに準拠した垂直燃焼試験を行い、燃焼性結果は良好な順からV−0、V−1、V−2とし、規格外のものをNGと分類した。
【0085】
[(2)引張最大強度、引張弾性率]
上記の方法で得られた樹脂組成物ペレットを用い、射出成形機(住友重機械工業製、「SG75サイキャップM−2」、型締め力75t)にて、シリンダー温度290℃、金型温度110℃の条件で、ISO多目的試験片(厚さ4mm)を製造した。得られたISO試験片を用い、ISO規格527−1及びISO527−2に準拠して23℃の温度で引張最大強度(単位:MPa)、引張弾性率(単位:MPa)を測定した。
【0086】
[(3)曲げ強度、曲げ弾性率]
上記(2)と同様にして製造した曲げ試験片(厚さ4mm)を用いて、ISO178に準拠して、23℃の温度で曲げ強度(単位:MPa)及び、曲げ弾性率(単位:MPa)を測定した。
以上の評価結果を表1に示す。
【0087】
(実施例2)
実施例1において、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(CSOK)及び18−クラウン−6−エーテルの量を表1に記載の量(ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムと18−クラウン−6−エーテルとは等モル量である。)とした以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0088】
(実施例3)
実施例1において、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(CSOK)及び18−クラウン−6−エーテルの量を表1に記載の量(ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムに対し、50モル%に相当)とした以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0089】
(実施例4)
実施例1において、18−クラウン−6−エーテルの量を表1に記載の量(ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムに対し、50モル%に相当)とした以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0090】
(実施例5)
実施例1において、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムの代わりにトリフルオロメタンスルホン酸カリウムを表1に記載の量、18−クラウン−6−エーテルの量を表1に記載の量(ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムに対し、50モル%に相当)(ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムに対し、等モル量)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
(比較例1〜4)
実施例1において、18−クラウン−6−エーテルを使用せずに、スルホン酸金属塩を表2に記載した量とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
評価結果を表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
(実施例6〜8、比較例5〜7)
実施例1において、ポリカーボネート樹脂の使用量を80質量部、ガラス繊維の使用量を20質量部とし、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、18−クラウン−6−エーテルを表3に記載の量とし、フレーク状原料を根元に24.1kg/hrの速度、ガラス繊維は6.0kg/hrの速度でサイドフィードした以外は、実施例1と同様に行った。
評価結果を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
(実施例9〜11、比較例8〜10)
実施例1において、ポリカーボネート樹脂の使用量を90質量部、ガラス繊維の使用量を10質量部とし、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、18−クラウン−6−エーテルを表4に記載の量とし、フレーク状原料を根元に27.1kg/hrの速度、ガラス繊維は3.0kg/hrの速度でサイドフィードした以外は、実施例1と同様に行った。
評価結果を表4に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
(実施例12〜16、比較例11)
実施例1において、ポリテトラフロオロエチレン樹脂を使用せずに、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、18−クラウン−6−エーテルを表5に記載の量とした以外は、実施例1と同様に行った。
評価結果を表5に示す。
【0099】
【表5】

【0100】
上記各表から明らかなように、有機スルホン酸金属塩(B)および包接能を有する化合物(C)を含有するガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性に優れ、引張最大強度、引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率に優れることが分かる。
一方、包接能を有する化合物(C)を含有しない比較例では、難燃性は同レベルであるものの、引張最大強度、引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率が実施例のものに較べて、劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性に優れ、剛性と強度に優れる。従って高い難燃性と強度が要求される各種のポリカーボネート樹脂成形品に極めて好適に利用でき、産業上の利用性は非常に高いものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)、有機スルホン酸金属塩(B)、包接能を有する化合物(C)及びガラス繊維(E)を含有することを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
有機スルホン酸金属塩(B)の少なくとも一部と包接能を有する化合物(C)の少なくとも一部が包接して包接錯体(D)を形成していることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
有機スルホン酸金属塩(B)および包接能を有する化合物(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、それぞれ0.01〜2質量部であることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
ガラス繊維(E)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、3〜80質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、さらにフルオロポリマー(F)を0.001〜1質量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
包接能を有する化合物(C)が、クラウンエーテル化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
有機スルホン酸金属塩(B)が、有機スルホン酸アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
有機スルホン酸アルカリ金属塩のアルカリ金属が、K、Na、CsまたはLiであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
有機スルホン酸金属塩(B)が、パーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩または芳香族スルホン酸アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
有機スルホン酸金属塩(B)および包接能を有する化合物(C)は、予め溶媒中で溶解し混合されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2013−67763(P2013−67763A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209319(P2011−209319)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【特許番号】特許第5039848号(P5039848)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】