説明

難燃性ポリカーボネート組成物、その製造方法、およびその物品

熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて: 15から40wt%未満の強化無機フィラー; および、ポリマー成分の質量に基づいて、68から99.9wt%の芳香族ポリカーボネート、0.1から2wt%のフッ素化ポリマー、任意の、0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤; ならびに、任意の、0.1から5wt%の、抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む、添加剤組成物を含む、60より多く85wt%までのポリマー成分; を含む熱可塑性ポリカーボネート組成物であって、熱可塑性ポリカーボネート組成物の成型されたサンプルは、3.0mmの厚みでNF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年12月8日に出願された米国仮特許出願第61/120647号に対する優先権を主張し、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、ポリカーボネート組成物、特に難燃性ポリカーボネート組成物、その組成物の製造方法、その組成物を含む物品、およびその物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリカーボネートは、自動車の部品から電化製品まで、広い範囲の用途のための物品および部材の製造に有用である。その広い利用のため、非常に優れた難燃性を有するポリカーボネート組成物を提供することが有益である。特に建築および輸送用途において、発火した場合に非常に少ない煙を発生し、低毒性のポリカーボネート組成物を提供することがさらに有益である。
【0004】
数多くの難燃性および/または低発煙性ポリカーボネート組成物が知られている一方、最も厳しい難燃性および低発煙性標準を満たす組成物に対する、当分野における要求が存在する。これらの標準を満たす1つの困難さは、難燃性を改善するためのある成分の使用が、煙濃度などの別の望ましい特性を同時に低下させ得ることである。優れた機械的特性を維持しながらこれらの標準を満たすことが、特に困難である。より厳しい標準の中では、フランスのNF F 16-101(1988年10月)である。より厚い(2mmより厚い)熱可塑性物質にとって、この標準によるM1/F1評価を達成することは、非常に困難である。M1/F1評価を得るために、サンプルは3つの異なる試験に合格しなければならない: NF P 92-505によって定められる「ドリップ試験」; NF P 92-501によって定められる「エピラジアトール(epiradiateur)」試験、ならびにNF X 10-702によって定められる煙濃度試験およびNF X 70-100によって定められる煙毒性試験からなる「F試験」である。様々な厚みの同じ組成物でM1/F1評価を得ることが特に困難であり、これはより薄いシートは可燃性試験を容易に合格することができるが、逆に煙濃度試験に合格できないからである。
【0005】
特にポリカーボネート組成物にとって、ドリッピング(dripping)がM1評価に失敗する主な原因である。Underwriter Laboratories(UL)試験におけるドリッピングを防ぐために使用されるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、NF P 92-505によって行われる試験におけるドリッピングを防がない。ポリカーボネート組成物へのTiO2、滑石、または粘土などの無機フィラーの添加は、UL試験におけるドリップを防ぐために効果的となり得る。しかしながら、その効果は少ない量のフィラー(15質量%(wt%)未満)においてのみ明らかである。さらに、UL試験において、粘土はたいてい滑石よりも効果的であることが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国仮特許出願第61/120647号
【特許文献2】米国特許公報第2005/0250908号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、難燃性の最も厳しい標準、特にNF P 92-505による低減されたドリッピングを満たすポリカーボネート組成物に対する、当分野における要求が存在する。また、難燃性、低下した煙濃度、および有益には低下した毒性のための最も厳しい標準を満たすポリカーボネート組成物に対する、当分野における要求が存在する。ポリカーボネート組成物が機械的特性に不利な効果を有することなく処方された場合、さらに有利である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
当分野の、上記で記載したおよび他の不足点は、熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、(a) 15から40wt%未満の強化無機フィラー、および(b) ポリマー成分の質量に基づいて、68から99.9wt%の芳香族ポリカーボネートと、0.1から2wt%のフッ素化ポリマーと、任意の0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤と、任意の0.1から5wt%の抗酸化剤、離型剤、安定化剤を含む添加組成物とを有する、60より多く85wt%までのポリマー成分を含む熱可塑性ポリカーボネート組成物によって満たされ、ここで、熱可塑性ポリカーボネート組成物の成型されたサンプルは、3.0mmの厚みでNF P 92-505によって測定された場合、ドリップを示さない。
【0009】
一実施形態において、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、10より多く40wt%未満の強化無機フィラー(20wt%未満の粘土が組成物中に存在)、およびポリマー成分の質量に基づいて、68から99.9wt%の芳香族ポリカーボネートと、0.1から2wt%のフッ素化ポリマーと、任意の0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤と、任意の0.1から5wt%の抗酸化剤、離型剤、安定化剤を含む添加組成物とを有する、60より多く90wt%未満のポリマー成分を含み、ここで、熱可塑性ポリカーボネート組成物の成型されたサンプルは、1.5mmの厚みでNF P 92-505によって測定された場合、ドリップを示さず、以下の式:
SDI = (Ds max/100) + (VOF4/30)
によって定められた、10未満の煙濃度指数を有し、ここで、
SDIは煙濃度指数であり;
Ds maxは最大の煙濃度であり;
VOF4は最初の4分間の平均煙濃度であり、以下の式:
【数1】

で計算され、ここで、
Ds0は0分後における煙濃度であり、
Ds1は1分後における煙濃度であり、
Ds2は2分後における煙濃度であり、
Ds3は3分後における煙濃度であり、
Ds4は4分後における煙濃度であり、かつ、
Ds max、Ds0、Ds1、Ds2、Ds3およびDs4は、3mmの厚みでNF X 10-702によって測定される。
【0010】
別の実施形態において、製造方法は、上記の成分をブレンドして、熱可塑性ポリカーボネート組成物を形成する工程を含む。
【0011】
さらに別の実施形態において、物品は、上記の熱可塑性ポリカーボネート組成物を含む。
【0012】
さらに別の実施形態において、物品の製造方法は、上記の熱可塑性ポリカーボネート組成物を物品に、成型、押出し、または形作る工程を含む。
【0013】
別の特定の実施形態において、シートは、熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、(a) 10より多く40wt%未満の強化無機フィラー、および(b) ポリマー成分の質量に基づいて、68から99.7wt%の芳香族ポリカーボネートと、0.3から2wt%の、フッ素化された骨格を有する熱可塑性フッ素化ポリマーを伴うポリテトラフルオロエチレンを含むフッ素化ポリマーと、任意の0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤と、任意の0.1から5wt%の抗酸化剤、離型剤、安定化剤を含む添加組成物とを有する、60より多く90wt%未満のポリマー成分を含み、ここで、シートは、1.5mmの厚みでNF P 92-505によって測定された場合、ドリップを示さず、以下の式:
SDI = (Ds max/100) + (VOF4/30)
によって定められた、10未満の煙濃度指数を有し、ここで、
SDIは煙濃度指数であり;
Ds maxは最大の煙濃度であり;
VOF4は最初の4分間の平均煙濃度であり、以下の式:
【数2】

で計算され、ここで、
Ds0は0分後における煙濃度であり、
Ds1は1分後における煙濃度であり、
Ds2は2分後における煙濃度であり、
Ds3は3分後における煙濃度であり、
Ds4は4分後における煙濃度であり、かつ、
Ds max、Ds0、Ds1、Ds2、Ds3およびDs4は、3mmの厚みでNF X 10-702によって測定され、M1評価およびF1評価は4mmのシート厚みで測定される。
【0014】
上記のおよび他の特徴を、詳細な説明により例示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、例示のみを意図した以下の記載および実施例においてより詳しく記載され、その中の数多くの修正および変更は当業者に明らかだろう。本明細書および請求項において使用される場合、用語「含む」は、「からなる」および「のみからなる」の実施形態を含んでもよい。本明細書において開示される全ての範囲は端点を含み、独立に組み合わせられる。本明細書において開示される範囲の端点および任意の値は、正確な範囲または値を限定しておらず、これらは十分に不明確であり、これらの範囲および/または値に近い値を含む。
【0016】
本明細書において使用される場合、近似する言葉を、関連する基本的な機能における変化をもたらすことなく、任意の定量的な表現に適用してもよい。したがって、「約」および「実質的に」などの用語によって修正される値は、いくつかの場合において、正確に特定された値に限定されなくてもよい。少なくともいくつかの例において、近似する言葉は、値を測定するための装置の正確さに対応してもよい。
【0017】
本発明は、難燃性の、低い(またはドリップのない)熱可塑性ポリカーボネート組成物に関し、これは成分の特定の組合せ、特に15から40wt%未満の強化無機フィラー、およびポリカーボネートとフッ素化ポリマーとを含む60より多く85wt%までのポリマー成分を使用して得られてもよい。代わりの実施形態において、本発明は、難燃性の、低いドリップかつ低い煙濃度の熱可塑性ポリカーボネート組成物に関し、これは成分の特定の組合せ、特に10より多く40wt%未満の強化無機フィラー、およびポリカーボネートとフッ素化ポリマーとを含む60より多く90wt%未満のポリマー成分を使用して得られてもよい。より多い量の強化無機フィラーをポリマー成分と組み合わせて使用することは、予想外に、これらの化合物が、NF P 92-505によって測定される場合にドリップを有さず、かつ、いくつかの処方において、低い煙濃度指数を有することを組み合わせて可能にすることが分かった。PTFEなどの知られている抗ドリップ剤はこの試験において効果的ではないか、またはドリッピングを誘起するため、この結果は特に驚くべきである。さらに、TiO2などの強化されていないフィラーは、ドリッピングを低減しない。いくつかの実施形態において、組成物を処方して、M1/F1評価を達成することができる。他の実施形態において、組成物は、建設および輸送用途において使用されるシートの製造に有益な、改善された物理的特性、特に優れた加工性、耐衝撃強度と剛性との優れたバランス、ならびに/または溶媒、燃料、および洗浄剤への化学的耐性をさらに有することができる。特定の耐衝撃性改良剤の使用は、組成物の有利な難燃性、特に低いドリップに逆の影響を与えることなく、延性を提供することができる。他の実施形態において、特定の耐衝撃性改良剤の使用は、組成物の有利な難燃性、特に組成物の低いドリップ、低い煙濃度、および低毒性に逆の影響を与えることなく、延性を提供することができる。
【0018】
上で述べた通り、望ましい特性を得るために、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、一実施形態において、15から40wt%未満の強化無機フィラー、および60より多く85wt%までのポリマー成分を含み、別の実施形態において、10より多く40wt%未満の強化無機フィラー、および60より多く90wt%未満のポリマー成分を含む。ポリマー成分は、ポリカーボネート、フッ素化ポリマー、および任意の耐衝撃性改良剤を含む。
【0019】
本明細書において使用される場合、用語「ポリカーボネート」は、式(I)の繰り返し構造のカーボネート単位:
【化1】

(ここで、R1基の全数の少なくとも60パーセントは芳香族部分を含み、その残りは脂肪族、脂環式、または芳香族である)
を有する組成物を意味する。一実施形態において、それぞれのR1はC6〜30芳香族基、つまり少なくとも1つの芳香族部分を含む。R1は式HO-R1-OHのジヒドロキシ化合物、特に式(2):
HO-A1-Y1-A2-OH (2)
(ここで、A1およびA2のそれぞれは、単環式の二価の芳香族基であり、Y1は単結合またはA2からA1を離す1つもしくは複数の原子を有する橋かけ基である)
から得られる。例示的な実施形態において、1つの原子がA2からA1を離す。具体的には、それぞれのR1は、式(3)のジヒドロキシ芳香族化合物:
【化2】

(ここで、RaおよびRbは、それぞれ独立に、ハロゲンまたはC1〜12アルキルであり; pおよびqは、それぞれ独立に、0から4の整数であり; Xaは単結合またはヒドロキシ基で置換された2つの芳香族基を結合する橋かけ基であり、ここで、それぞれのC6アリーレン基の単結合または橋かけ基およびヒドロキシ置換基は、C6アリーレン基上で、お互いにオルト位、メタ位、またはパラ位(特にパラ位)で配置される)
から得られる。一実施形態において、Xaは単結合であるか、または橋かけ基-O-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-C(O)-、もしくはC1〜18の有機基である。C1〜18の有機基は、環式または非環式の、芳香族または非芳香族であり得、ハロゲン、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、またはリンなどのヘテロ原子をさらに含むことができる。C1〜18の有機基は、そこに結合するC6アリーレン基が、C1〜18の有機橋かけ基の共通のアルキリデンの炭素または異なる炭素にそれぞれ結合するように配置されることができる。一実施形態において、pおよびqはそれぞれ1であり、RaおよびRbはそれぞれ、それぞれのアリーレン基上のヒドロキシ基に対してメタ位に配置される、C1〜3アルキル基、特にメチルである。別の実施形態において、pおよびqはそれぞれ0である。
【0020】
一実施形態において、Xaは置換されたまたは置換されていないC3〜18シクロアルキリデン、式-C(Rc)(Rd)-のC1〜25アルキリデン(ここで、RcおよびRdは、それぞれ独立に、水素、C1〜12アルキル、C1〜12シクロアルキル、C7〜12アリールアルキル、C1〜12ヘテロアルキル、または環式C7〜12ヘテロアリールアルキルである)、あるいは式-C(=Re)-(ここで、Reは二価のC1〜12炭化水素基)の基である。この種類の例示的な基には、これに限定されないが、メチレン、シクロヘキシルメチレン、エチリデン、ネオペンチリデン、およびイソプロピリデン、同様に2-[2.2.1]-ビシクロへプチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンチリデン、シクロドデシリデン、およびアダマンチリデンが含まれる。Xaが置換されたシクロアルキリデンである特定の例は、式(4):
【化3】

(ここで、Ra’およびRb’は、それぞれ独立に、C1〜12アルキルであり、RgはC1〜12アルキルまたはハロゲンであり、rおよびsは、それぞれ独立に、1から4であり、tは0から10である)
のシクロヘキシリデンで橋かけされた、アルキルで置換されたビスフェノールである。特定の実施形態において、Ra’およびRb’のそれぞれのうちの少なくとも1つは、シクロヘキシリデン橋かけ基に対してメタ位で配置される。置換基Ra’、Rb’およびRgは、適切な数の炭素原子が含まれる場合、直鎖、環式、二環式、分枝状、飽和、または不飽和であり得る。一実施形態において、Ra’およびRb’は、それぞれ独立に、C1〜4アルキルであり、RgはC1〜4アルキルであり、rおよびsはそれぞれ1であり、tは0から5である。別の特定の実施形態において、Ra’、Rb’およびRgはそれぞれメチルであり、rおよびsはそれぞれ1であり、tは0または3である。
【0021】
別の実施形態において、Xaは、C1〜18アルキレン基、C3〜18シクロアルキレン基、結合したC6〜18シクロアルキレン基、または式-B1-W-B2-の基であり、ここで、B1およびB2は同じまたは異なるC1〜6アルキレン基であり、WはC3〜12シクロアルキリデン基またはC6〜16アリーレン基である。
【0022】
Xaは、式(5)の置換されたC3〜18シクロアルキリデン:
【化4】

(ここで、Rr、Rp、Rq、およびRtは、独立に、水素、ハロゲン、酸素、またはC1〜12の有機基であり; Iは直接結合、炭素、または二価の酸素、硫黄、または-N(Z)-であり、ここでZは水素、ハロゲン、ヒドロキシ、C1〜12アルキル、C1〜12アルコキシ、もしくはC1〜12アシルであり; hは0から2であり、jは1または2であり、iは0または1の整数であり、kは0から3の整数であり、ただしRr、Rp、RqおよびRtのうちの少なくとも2つは一緒になって、結合された脂環式、芳香族、または芳香族複素環である)
でもあり得る。結合された環は芳香族であり、式(5)で示された環は、環が結合したところに不飽和の炭素-炭素結合を有することが理解されるだろう。kが1であり、iが0である場合、式(5)で示された環は4個の炭素原子を含み、kが2である場合、式(5)で示された環は5個の炭素原子を含み、kが3である場合、環は6個の炭素原子を含む。一実施形態において、2つの隣接基(例えば一緒になったRqとRt)は芳香族基を形成し、別の実施形態において、RqとRtは一緒になって第一の芳香族基を形成し、RrとRpは一緒になって第二の芳香族基を形成する。RqとRtが一緒になって芳香族基を形成する場合、Rpは二重結合された酸素原子、つまりケトンである。
【0023】
式HO-R1-OHの他の有用な芳香族ジヒドロキシ化合物には、式(6)の化合物:
【化5】

(ここで、それぞれのRhは、独立に、ハロゲン原子、C1〜10アルキル基などのC1〜10ヒドロカルビル基、ハロゲンで置換されたC1〜10アルキル基、C6〜10アリール基、またはハロゲンで置換されたC6〜10アリール基であり、nは0から4である)
が含まれる。ハロゲンはたいてい臭素である。
【0024】
特定の芳香族ジヒドロキシ化合物のいくつかの例示的な例には、これに制限されないが、以下: 4,4'-ジヒドロキシビフェニル、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルメタン、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、1,1-ビス(ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)イソブテン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、トランス-2,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブテン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アダマンタン、アルファ,アルファ'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トルエン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アセトニトリル、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-n-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-sec-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ジクロロ-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1-ジブロモ-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1-ジクロロ-2,2-ビス(5-フェノキシ-4-ヒドロキシフェニル)エチレン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノン、1,6-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,6-ヘキサンジオン、エチレングリコールビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオリン、2,7-ジヒドロキシピレン、6,6'-ジヒドロキシ-3,3,3',3'-テトラメチルスピロ(ビス)インダン(「スピロビインダンビスフェノール」)、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミド、2,6-ジヒドロキシジベンゾ-p-ジオキシン、2,6-ジヒドロキシチアントレン、2,7-ジヒドロキシフェノキサチン、2,7-ジヒドロキシ-9,10-ジメチルフェナジン、3,6-ジヒドロキシジベンゾフラン、3,6-ジヒドロキシジベンゾチオフェン、および2,7-ジヒドロキシカルバゾール、レゾルシノール、置換されたレゾルシノール化合物、例えば5-メチルレゾルシノール、5-エチルレゾルシノール、5-プロピルレゾルシノール、5-ブチルレゾルシノール、5-t-ブチルレゾルシノール、5-フェニルレゾルシノール、5-クミルレゾルシノール、2,4,5,6-テトラフルオロレゾルシノール、2,4,5,6-テトラブロモレゾルシノール、または同様のもの; カテコール; ヒドロキノン; 置換されたヒドロキノン、例えば2-メチルヒドロキノン、2-エチルヒドロキノン、2-プロピルヒドロキノン、2-ブチルヒドロキノン、2-t-ブチルヒドロキノン、2-フェニルヒドロキノン、2-クミルヒドロキノン、2,3,5,6-テトラメチルヒドロキノン、2,3,5,6-テトラ-t-ブチルヒドロキノン、2,3,5,6-テトラフルオロヒドロキノン、2,3,5,6-テトラブロモヒドロキノン、または同様のもの、あるいは前述のジヒドロキシ化合物のうちの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
【0025】
式(3)のビスフェノール化合物の特定の例には、これに限定されないが、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下では「ビスフェノールA」または「BPA」)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2-フェニル-3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン(PPPBP)、および1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン(DMBPC)が含まれる。前述のジヒドロキシ化合物のうちの少なくとも1つを含む組合せを使用することもできる。1つの特定の実施形態において、ポリカーボネートは、ビスフェノールAから得られる直鎖のホモポリマーであり、ここで、A1およびA2のそれぞれはp-フェニレンであり、Y1は式(3)中のイソプロピリデンである。
【0026】
ポリカーボネートは、0.3から1.5デシリットル毎グラム(dl/gm)、特には0.45から1.0dl/gmの25℃におけるクロロホルム中で定められる、固有の粘度を有し得る。ポリカーボネートは、架橋されたスチレン-ジビニルベンゼンのカラムを使用し、ポリカーボネート参照に合わせて較正されたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される、10000から200000ダルトン、特には20000から100000ダルトンの質量平均分子量を有し得る。GPCサンプルを1mg/mlの濃度で調製し、1.5ml/分の流速で溶出する。
【0027】
一実施形態において、ポリカーボネートは、薄い物品の製造に有用な流動特性を有する。メルトボリュームフローレート(melt volume flow rate、たいていMVRと短縮される)は、規定の温度および負荷における、オリフィスを通る熱可塑性物質の押出し速度を測定する。薄い物品の形成に有用なポリカーボネートは、260℃/5kgで測定して、5から20cm3/10分(cc/10分)、特には8から15cc/10分のMVRを有し得る。異なる流動特性のポリカーボネートの組合せを、全体の望ましい流動特性を達成するために使用することができる。
【0028】
本明細書において使用される場合、「ポリカーボネート」は、ホモポリカーボネート(ここで、ポリマー中のそれぞれのR1が同じである)、カーボネート中に異なるR1部分を含むコポリマー(本明細書において「コポリカーボネート」と表す)、カーボネート単位およびエステル単位などの他の種類のポリマー単位を含むコポリマー、ならびにホモポリカーボネートおよび/またはコポリカーボネートのうちの少なくとも1つを含む組合せを含む。本明細書において使用される場合、「組合せ」は、ブレンド、混合物、アロイ、反応生成物、および同様のものを含む。一実施形態において、ポリカーボネート単位のみが存在する。
【0029】
ポリカーボネートは、界面重合および溶融重合などの方法によって製造され得る。界面重合のための反応条件は変化し得るが、例示的な方法は、一般的に、ジヒドロキシ芳香族化合物を水性苛性ソーダまたは水性苛性カリ中に溶解または分散させる工程、得られた混合物を水非混和性溶媒媒体に加える工程、および反応物を、制御されたpH条件、例えば8から12の下で、トリエタノールアミンなどの触媒および/または相間移動触媒の存在下で、カーボネート前駆体に接触させる工程を含む。最も一般的に使用される水混和性溶媒には、これに限定されないが、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、および同様のものが含まれる。例示的なカーボネート前駆体には、これに限定されないが、臭化カルボニルもしくは塩化カルボニルなどのハロゲン化カルボニル、あるいは二価フェノールのビスハロホルメート(例えばビスフェノールA、ヒドロキノン、もしくは同様のもののビスクロロホルメート)またはグリコールのビスハロホルメート(例えばエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、もしくは同様のもののビスハロホルメート)などのハロホルメートが含まれる。前述の種類のうちの少なくとも1つのカーボネート前駆体を含む組合せを使用することもできる。例示的な実施形態において、カーボネート結合を形成するための界面重合反応は、カーボネート前駆体としてホスゲンを使用し、ホスゲン化反応と表される。使用することができる相間移動触媒の中では、式(R3)4Q+Xの触媒であり、ここで、それぞれのR3は同じまたは異なっており、C1〜10アルキル基であり; Qは窒素またはリン原子であり; Xはハロゲン原子またはC1〜8アルコキシ基もしくはC6〜18アリールオキシ基である。例示的な相間移動触媒には、これに限定されないが、例えば、[CH3(CH2)3]4NX、[CH3(CH2)3]4PX、[CH3(CH2)5]4NX、[CH3(CH2)6]4NX、[CH3(CH2)4]4NX、CH3[CH3(CH2)3]3NXおよびCH3[CH3(CH2)2]3NXが含まれ、ここで、XはCl-、Br-、C1〜8アルコキシ基またはC6〜18アリールオキシ基である。相間移動触媒の有効量は、ホスゲン化混合物中のビスフェノールの質量に基づいて、0.1から10wt%であり得る。別の実施形態において、相間移動触媒の有効量は、ホスゲン化混合物中のビスフェノールの質量に基づいて、0.5から2wt%であり得る。
【0030】
代わりに、溶融の方法を使用して、ポリカーボネートを作ることができる。一般的に、溶融重合方法において、ポリカーボネートは、溶融された状態において、ジヒドロキシ反応物とジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネートエステルとを、Banbury(登録商標)ミキサー、二軸押出機、または同様のものの中のエステル交換触媒の存在下で共反応させて、均一な分散体を形成することによって調製され得る。揮発性の一価フェノールは、溶融された反応物から、蒸留によって除去され、ポリマーは溶融された残渣として単離される。ポリカーボネートを作るための特に有用な溶融方法は、アリール上に電子求引性の置換基を有するジアリールカーボネートエステルを使用する。電子求引性の置換基を有する、特に有用なジアリールカーボネートエステルの例には、ビス(4-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2-クロロフェニル)カーボネート、ビス(4-クロロフェニル)カーボネート、ビス(メチルサリチル)カーボネート、ビス(4-メチルカルボキシルフェニル)カーボネート、ビス(2-アセチルフェニル)カルボキシレート、ビス(4-アセチルフェニル)カルボキシレート、または前述のエステルのうちの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。さらに、有用なエステル交換触媒には、式(R3)4Q+Xの相間移動触媒が含まれ得、ここで、それぞれR3、QおよびXは、上で定義した通りである。例示的なエステル交換触媒には、これに限定されないが、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムフェノレート、または前述のうちの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。
【0031】
ポリカーボネート組成物に有用な全ての種類のポリカーボネート末端基が意図されるが、ただし、このような末端基は、組成物の望ましい特性に大きく逆の影響を与えない。
【0032】
分枝したポリカーボネートのブロックは、重合の間に分枝剤を加えることによって調製され得る。これらの分枝剤には、ヒドロキシル、カルボキシル、カルボン酸無水物、ハロホルミル、および前述の官能基の混合物から選択される、少なくとも3つの官能基を含む、多官能性有機化合物が含まれる。特定の例には、これに限定されないが、トリメリト酸、トリメリト酸無水物、三塩化トリメリト酸、トリス-p-ヒドロキシフェニルエタン、イサチン-ビス-フェノール、トリス-フェノールTC(1,3,5-トリス((p-ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン)、トリス-フェノールPA(4(4(1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-エチル)アルファ,アルファ-ジメチルベンジル)フェノール)、4-クロロホルミルフタル酸無水物、トリメシン酸、およびベンゾフェノンテトラカルボン酸が含まれる。分枝剤は、0.05から2.0wt%の量で加えられ得る。直鎖のポリカーボネートおよび分枝状のポリカーボネートを含む混合物を使用することができる。
【0033】
鎖停止剤(chain stopper、キャッピング剤としても表される)を重合の間、含むことができる。鎖停止剤は、分子量の成長速度を制限し、ポリカーボネートの分子量を制御する。例示的な鎖停止剤には、これに限定されないが、特定のモノフェノール性化合物(例えばC1〜C22アルキルで置換されたフェノール類、例えばp-クミル-フェノール、レゾルシノールモノベンゾエート、ならびにp-および三級-ブチルフェノール)、モノカルボン酸クロリド(例えばベンゾイルクロリド、C1〜C22アルキルで置換されたベンゾイルクロリド、トルオイルクロリド、ブロモベンゾイルクロリド、シンナモイルクロリド、および4-ナジミドベンゾイルクロリド)、および/またはモノクロロホルメート(例えばフェニルクロロホルメート、アルキルで置換されたフェニルクロロホルメート、p-クミルフェニルクロロホルメート、トルエンクロロホルメート)が含まれる。異なる鎖停止剤の組合せを使用することができる。
【0034】
ポリマー成分は、フッ素ポリマー組成物をさらに含む。「フッ素ポリマー」は、本明細書において使用される場合、フッ素化アルファ-オレフィンモノマー、つまり少なくとも1つのフッ素原子の置換基を含むアルファ-オレフィンモノマー、および場合によって、フッ素化アルファ-オレフィンモノマーと反応性のフッ素化されていないエチレン性不飽和モノマーモノマーから得られる繰り返し単位を含む、ホモポリマーおよびコポリマーを含む。例示的なアルファ-オレフィンモノマーには、これに限定されないが、CF2=CF2、CHF=CF2、CH2=CF2、CH2=CHF、CClF=CF2、CCl2=CF2、CClF=CClF、CHF=CCl2、CH2=CClF、およびCCl2=CClF、CF3CF=CF2、CF3CF=CHF、CF3CH=CF2、CF3CH=CH2、CF3CF=CHF、CHF2CH=CHF、ならびにCF3CH=CH2が含まれる。特に、フッ素化アルファ-オレフィンモノマーは、テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)、クロロトリフルオロエチレン(CClF=CF2)、フッ化ビニリデン(CH2=CF2)、およびヘキサフルオロプロピレン(CF2=CFCF3)のうちの1つまたは複数である。例示的なフッ素化されていないモノエチレン性不飽和モノマーには、これに限定されないが、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルメタクリレートおよびブチルアクリレートなどの(メタ)アクリレートモノマー、スチレンなどのエチレン性不飽和芳香族モノマー、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、およびn-ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル、ならびに酢酸ビニルおよびベルサチン酸ビニル(vinyl versatate)などのビニルエステルが含まれる。例示的なフッ素ポリマーには、これに限定されないが、ポリ(テトラフルオロエチレン)ホモポリマー(PTFE)、ポリ(ヘキサフルオロエチレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロエチレン)、およびポリ(テトラフルオロエチレン-エチレン-プロピレン)が含まれる。特定の例示的なフッ素ポリマーはPTFEであり、これは繊維形成性または非繊維形成性であり得る。
【0035】
フッ素ポリマーは、別のコポリマー、例えば上記のフッ素化されていないエチレン性不飽和モノマーおよび他のものから得られる単位を含むコポリマーを伴い得、例えばカプセル化され得る。一実施形態において、コポリマーは、スチレン-アクリロニトリルコポリマー(SAN)などの剛直なコポリマーである。SAN中にカプセル化されたPTFEは、TSANとして知られている。例示的なTSANは、カプセル化されたフッ素ポリマーの全質量に基づいて、25から75wt%、特には50wt%のPTFE、および25から75wt%、特には50wt%のSANを含む。SANは、例えば、コポリマーの全質量に基づいて、75wt%のスチレンおよび25wt%のアクリロニトリルを含むことができる。
【0036】
別の例示的なフッ素ポリマーは、40から90wt%の繊維状フッ素ポリマー、特にPTFE、と、フッ素化された骨格を有し、骨格中の炭素原子に対するフッ素原子の比が少なくとも1:1、特には1.5:1である、10から60wt%の熱可塑性フッ素化ポリマーとを含むフッ素ポリマー組成物である。このような組成物は米国特許公報第2005/0250908号に記載されている。繊維状フッ素ポリマーは、テトラフルオロエチレンのホモポリマーまたはそのコポリマー、例えばクロロトリフルオロエチレンなどの別のフッ素化コモノマー、パーフルオロメチルビニルエーテルなどのパーフッ素化ビニルエーテル、もしくはヘキサフルオロプロピレンなどのパーフッ素化オレフィンとのコポリマーであり得る。一般的に、任意のコモノマーの量は1%を超えず、フッ素ポリマーは非溶融加工可能なPTFEを定義するISO 12086標準に従う。繊維状PTFEは、典型的には、10マイクロメートルを超えない、特には50nmから5マイクロメートル、例えば100nmから1マイクロメートルの間の平均粒子サイズ(数平均)を有する。繊維状PTFEは、水性エマルション重合を介して生成され得る。
【0037】
フッ素化された骨格を有する熱可塑性フッ素化ポリマーには、これに限定されないが、フッ素ポリマーが含まれ、フッ素ポリマーには、これに限定されないが、式RgCF=CRg2のフッ素化エチレン性不飽和モノマーから得られる共重合された単位が含まれ、ここで、それぞれのRgは、独立に、H、F、Cl、C1〜8アルキル、C6〜8アリール、C3〜10シクロアルキル、またはC1〜8パーフルオロアルキルである。いくつかの実施形態において、式RgCF=CRg2の2つ以上のモノマーを使用する。一実施形態において、それぞれのRgは、独立に、C1〜3アルキルである。これらのフッ素化エチレン性不飽和モノマーの代表的な例には、これに限定されないが、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、2-クロロペンタフルオロプロペン、ジクロロジフルオロエチレン、1,1-ジクロロフルオロエチレン、および前述のフッ素化モノマーのうちの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。米国特許第4558141号に記載された、パーフルオロ-1,3-ジオキソールを使用することもできる。これらのフッ素化されたエチレン性不飽和モノマーは、式Rh2C=CRh2のフッ素化されていないエチレン性不飽和コモノマーと共重合され得、ここで、それぞれのRhは、独立に、H、Cl、またはC1〜8アルキル、C1〜10シクロアルキル、あるいはC6〜8アリールである。一実施形態において、RhはC1〜3アルキルである。フッ素化されていないエチレン性不飽和コモノマーの代表的な例には、これに限定されないが、エチレン、プロピレン、および同様のものが含まれる。フッ素化された骨格を有する、熱可塑性フッ素化ポリマーの特定の例には、これに限定されないが、フッ化ポリビニリデン; 式RgCF=CRg2の2つ以上の異なるフッ素化モノマーの共重合から得られるフッ素ポリマー; 式RgCF=CRg2の1つまたは複数のフッ素化モノマーおよび式Rh2C=CRh2の1つまたは複数のフッ素化されていないモノマーから得られるフッ素ポリマー、例えば式RgCF=CRg2の1つまたは複数のフッ素化モノマーおよびRh2C=CRh2の1つまたは複数のフッ素化されていないモノマーから得られるターポリマー、特には式RgCF=CRg2の2つのフッ素化モノマーおよびRh2C=CRh2の1つのフッ素化されていないモノマーから得られるターポリマーが含まれる。フッ素化された骨格を有する、特定の例示的な熱可塑性フッ素化ポリマーは、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン; テトラフルオロエチレンと少なくとも5wt%のヘキサフルオロプロピレンまたはヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンの組合せ; あるいはテトラフルオロエチレンと、ヘキサフルオロプロピレンと式Rh2C=CRh2のフッ素化されていないモノマーから得られる。フッ素化された骨格を有する熱可塑性フッ素化ポリマーの量は、フッ素化された骨格を有する熱可塑性フッ素化ポリマーおよび繊維状フッ素ポリマーの全質量に基づいて、10から60wt%、特には12から50wt%、より詳しくは15から30wt%であり得る。
【0038】
本組成物において使用することができる1つのフッ素ポリマー組成物は、3M Dyneon(登録商標) MM 5935EFの商標名で、3Mから商業的に入手可能であり、様々な厚み、例えば1mmから6mmを有するサンプルにおいて、優れた難燃性、低い煙濃度、および低い煙毒性の組合せを得ることができる組成物を処方するために、特に有効である。一実施形態において、この種類のフッ素ポリマーの使用により、本明細書に記載した組成物に、1mmから4mmの厚みにおけるM1/F1評価を得させることができる。
【0039】
場合によって、ポリマー成分は、耐衝撃性改良剤をさらに含むことができる。例示的な耐衝撃性改良剤には、これに限定されないが、天然ゴム、フッ素エラストマー、エチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレン-ブテンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム(EPDM)、アクリレートゴム、水素化ニトリルゴム(HNBR)、シリコーンエラストマー、シリコーン油、およびスチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)などのエラストマーで変性されたグラフトコポリマー、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン(SEBS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、SAN、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン(AES)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン(MBS)、高ゴムグラフト(HRG)ABS、ならびに同様のものが含まれる。
【0040】
特定の耐衝撃性改良剤の使用は、最も厳しい燃焼、煙、および/または毒性の標準の合格に逆の影響を与えることが分かった。それゆえ、適切な耐衝撃性改良剤の選択が、難燃性、低い煙濃度、低い煙毒性、および優れた機械的特性の最適な組合せを達成するために重要である。
【0041】
特定の実施形態において、耐衝撃性改良剤は、MBSまたはABS、特にはバルク重合されたABSである。当分野において知られている通り、ABSは、連続相(マトリクス)を構成するSANコポリマーを有する二相の熱可塑性である。さらなるSAN、または「遊離SAN」を、様々な組成物、例えば流動性改良剤にさらに加えることができる。「遊離SAN」は、ABSの製造から生じる、ABS中に存在するマトリクスSANとは区別される。一実施形態において、組成物は、組成物の全質量に基づいて、6wt%未満、特には3wt%未満の遊離SAN、より詳しくは0wt%の遊離SANを含む。
【0042】
別の実施形態において、耐衝撃性改良剤は、耐衝撃性改良剤の全質量に基づいて、5wt%未満、特には2wt%未満のブタジエンから得られる単位を含む。より多い量のブタジエンの存在は、いくつかの組成物において、煙濃度を増加させる。
【0043】
別の実施形態において、耐衝撃性改良剤は、式(7)のシロキサン単位:
【化6】

(ここで、それぞれのRは、独立に、C1〜13の一価の有機基である)
を含むオルガノポリシロキサンである。例えば、RはC1〜C13アルキル、C1〜C13アルコキシ、C2〜C13アルケニル基、C2〜C13アルケニルオキシ、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルコキシ、C6〜C14アリール、C6〜C10アリールオキシ、C7〜C13アリールアルキル、C7〜C13アリールアルコキシ、C7〜C13アルキルアリール、またはC7〜C13アルキルアリールオキシであり得る。前述の基は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素、あるいはこれらの組合せで完全にまたは部分的にハロゲン化され得る。前述のR基の組合せを、同じポリマー中に使用することができる。
【0044】
一実施形態において、耐衝撃性改良剤は、シリコーン油、つまり、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ポリジメチルシロキサン、またはポリフェニルメチルシロキサンなどのオルガノポリシロキサンである。シリコーン油は、一般的に、不飽和基、特にエチレン性不飽和基を含まない。シリコーン油は25℃で流体である。例示的なシリコーン油は、25℃において、1から5000センチストークス、特には100から2500センチストークス、より詳しくは500から1500センチストークスの粘度を有する。
【0045】
別の実施形態において、オルガノポリシロキサンは、ポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーであり、ポリカーボネート-ポリシロキサンとしても表される。ポリカーボネート-ポリシロキサンは、式(7)のシロキサン繰り返し単位のブロックと組み合わされて、式(1)のカーボネート繰り返し単位のブロックを含む。
【0046】
ブロック中のシロキサン繰り返し単位の数は、熱可塑性ポリカーボネート組成物におけるそれぞれの成分の種類および相対量、組成物の望ましい特性、ならびに同様の考慮に応じて、広く変化し得る。一般的には、シロキサンブロック中の繰り返し単位の数は、2から1000、特には2から500、より詳しくは5から100の平均値を有する。一実施形態において、シロキサンブロック中の繰り返し単位の数は10から75の平均値を有し、さらに別の実施形態において、シロキサンブロック中の繰り返し単位の数は20から60、より詳しくは25から35または40から50の平均値を有する。シロキサンブロック中の繰り返し単位の数がより低い値、例えば40未満である場合、比較的多い量のポリカーボネート-ポリシロキサンを使用することが有益である。逆に、シロキサンブロック中の繰り返し単位の数がより大きい値、例えば40より大きい場合、比較的少ない量のポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーを使用することができる。
【0047】
一実施形態において、シロキサンブロックは、式(8):
【化7】

(ここで、Eは上で定義したシロキサンブロック中の繰り返し単位の数であり; それぞれのRは同じまたは異なっており、上記で定義したとおりであり; Arは同じまたは異なっており、置換されたまたは置換されていないC6〜C30アリーレン基であり、ここで結合は芳香族部分に直接結合される)
である。式(8)中のAr基は、C6〜C30ジヒドロキシアリーレン化合物、例えば上の式(3)または(6)のジヒドロキシ化合物から得られる。例示的な式(3)のジヒドロキシ化合物は、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-1-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニルスルフィド)、および1,1-ビス(4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)プロパンである。前述のジヒドロキシ化合物のうちの少なくとも1つを含む組合せを使用することもできる。
【0048】
別の実施形態において、シロキサンブロックは、式(9):
【化8】

(ここで、RおよびEは上で記載した通りであり、それぞれのR5は、独立に、二価のC1〜C30の有機基であり、ここで重合されたポリシロキサン単位は、その対応するジヒドロキシ化合物の反応残基である)
である。特定の実施形態において、シロキサンブロックは、式(10):
【化9】

(ここで、RおよびEは上で定義した通りである)
である。式(10)中のR6は二価のC2〜C8脂肪族基である。式(10)中のそれぞれのMは同じまたは異なっており、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1〜C8アルキルチオ、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、C2〜C8アルケニル、C2〜C8アルケニルオキシ基、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C8シクロアルコキシ、C6〜C10アリール、C6〜C10アリールオキシ、C7〜C12アリールアルキル、C7〜C12アラルコキシ、C7〜C12アルキルアリール、またはC7〜C12アルキルアリールオキシであり得、ここでそれぞれのnは、独立に、0、1、2、3または4である。
【0049】
一実施形態において、Mはブロモまたはクロロ、メチル、エチル、またはプロピルなどのアルキル基、メトキシ、エトキシ、またはプロポキシなどのアルコキシ基、あるいはフェニル、クロロフェニル、またはトリルなどのアリール基であり; R6はジメチレン、トリメチレンまたはテトラメチレン基であり; RはC1〜8アルキル、トリフルオロプロピルなどのハロアルキル、シアノアルキル、またはフェニル、クロロフェニルもしくはトリルなどのアリールである。別の実施形態において、Rはメチル、またはメチルとトリフルオロプロピルの組合せ、あるいはメチルとフェニルの組合せである。さらに別の実施形態において、Mはメトキシであり、nは1であり、R6は二価のC1〜C3脂肪族基であり、Rはメチルである。
【0050】
式(10)のブロックは、対応するジヒドロキシポリシロキサンから得られる。このようなジヒドロキシポリシロキサンは、水素化シロキサンと脂肪族不飽和モノ水素化フェノールとの間の、白金で触媒された付加の影響によって作られる。例示的な脂肪族不飽和モノ水素化フェノールには、これに限定されないが、オイゲノール、2-アルキルフェノール、4-アリル-2-メチルフェノール、4-アリル-2-フェニルフェノール、4-アリル-2-ブロモフェノール、4-アリル-2-t-ブトキシフェノール、4-フェニル-2-フェニルフェノール、2-メチル-4-プロピルフェノール、2-アリル-4,6-ジメチルフェノール、2-アリル-4-ブロモ-6-メチルフェノール、2-アリル-6-メトキシ-4-メチルフェノールおよび2-アリル-4,6-ジメチルフェノールが含まれる。前述のもののうちの少なくとも1つを含む組合せを使用することもできる。
【0051】
ポリカーボネート-ポリシロキサンは、50から99wt%のカーボネート単位と、1から50wt%のシロキサン単位とを含むことができる。この範囲の中で、ポリカーボネート-ポリシロキサンは、70から98wt%、より詳しくは75から97wt%のカーボネート単位と、2から30wt%、より詳しくは3から25wt%のシロキサン単位とを含むことができる。
【0052】
ポリカーボネート-ポリシロキサンは、1mg/mlのサンプル濃度において、ポリカーボネート標準で較正された、架橋スチレン-ジビニルベンゼンカラムを使用したゲル浸透クロマトグラフィーによって測定して、2000から100000ダルトン、特には5000から50000ダルトンの質量平均分子量を有し得る。
【0053】
ポリカーボネート-ポリシロキサンは、300℃/1.2kgで測定して、1から50cm3/10分(cc/10分)、特には2から30cc/10分の溶融体積流速を有し得る。異なる流動特性のポリカーボネート-ポリオルガノシロキサンの混合物を使用して、全体的に望ましい流動特性を達成することができる。
【0054】
1つまたは複数の難燃剤が、場合によって、熱可塑性ポリカーボネート組成物中に存在し得る。このような熱可塑性組成物を含む、成型されたまたは押出された組成物は、1.5mmの厚みでNF P 92-505によって測定された場合、ドリップを示さず、3mmにおいてNF X 10-702によって測定された場合、10未満の煙濃度指数である。有用な難燃剤には、これに限定されないが、リン、臭素および/または塩素が含まれる。臭素化されておらず、塩素化されていない、有機のリンを含む難燃剤、例えば有機のホスフェートおよびリンと窒素の結合を含む有機化合物を、特定の用途において使用することができる。
【0055】
一実施形態において、有機のリンを含む難燃剤は、芳香族ホスフェート、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレシルホスフェート、イソプロピル化トリフェニルホスフェート、フェニルビス(ドデシル)ホスフェート、フェニルビス(ネオペンチル)ホスフェート、フェニルビス(3,5,5'-トリメチルヘキシル)ホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジ(p-トリル)ホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)p-トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスフェート、ビス(ドデシル)p-トリルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2-クロロエチルジフェニルホスフェート、p-トリルビス(2,5,5'-トリメチルヘキシル)ホスフェート、および2-エチルヘキシルジフェニルホスフェートである。二官能性または多官能性の芳香族リンを含む化合物、例えば、それぞれ、レゾルシノールテトラフェニルジホスフェート(RDP)、ヒドロキノンのビス(ジフェニル)ホスフェートおよびビスフェノールAのビス(ジフェニル)ホスフェート(BPADP)、ならびにこれらのオリゴマーおよびポリマーの対応物も有用である。リンと窒素の結合を含む例示的な難燃剤化合物には、これに限定されないが、塩化ホスホニトリル、リンエステルアミド、リン酸アミド、ホスホン酸アミド、ホスフィン酸アミド、およびトリス(アジリジニル)ホスフィンオキシドが含まれる。
【0056】
使用される場合、有機のリンを含む難燃剤、特には二官能性または多官能性の芳香族リンを含む難燃剤は、ポリマー成分の全質量に基づいて、0.1から30wt%、より詳しくは1から20wt%の量で存在する。
【0057】
ハロゲン化物質、例えば以下が代表的であるビスフェノール類を難燃剤として使用することもできる: 2,2-ビス-(3,5-ジクロロフェニル)-プロパン; ビス-(2-クロロフェニル)-メタン; ビス(2,6-ジブロモフェニル)-メタン; 1,1-ビス-(4-ヨードフェニル)-エタン; 1,2-ビス-(2,6-ジクロロフェニル)-エタン; 1,1-ビス-(2-クロロ-4-ヨードフェニル)エタン; 1,1-ビス-(2-クロロ-4-メチルフェニル)-エタン; 1,1-ビス-(3,5-ジクロロフェニル)-エタン; 2,2-ビス-(3-フェニル-4-ブロモフェニル)-エタン; 2,6-ビス-(4,6-ジクロロナフチル)-プロパン; および2,2-ビス-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン2,2ビス-(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン。他の例示的なハロゲン化物質には、これに限定されないが、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジブロモベンゼン、1,3-ジクロロ-4-ヒドロキシベンゼン、ならびにビフェニル類、例えば2,2'-ジクロロビフェニル、ポリ臭化1,4-ジフェノキシベンゼン、2,4'-ジブロモビフェニル、および2,4'-ジクロロビフェニル、同様にデカブロモジフェニルオキシド、同様にオリゴマーおよびポリマーのハロゲン化芳香族化合物、例えばビスフェノールAとテトラブロモビスフェノールAとのコポリカーボネート、ならびにカーボネート前駆体、例えばホスゲンが含まれる。金属相乗剤(metal synergist)、例えば酸化アンチモンを、難燃剤と一緒に使用することもできる。一実施形態において、金属相乗剤は存在しない。
【0058】
使用される場合、ハロゲンを含む難燃剤は、ポリマー成分の全質量に基づいて、0.5から30wt%、より詳しくは1から25wt%の量で存在する。
【0059】
しかしながら、ハロゲン化難燃剤の使用は、高い煙濃度をもたらすことが分かった。したがって、一実施形態において、ハロゲン化難燃剤は、熱可塑性ポリカーボネート組成物中に存在しない。
【0060】
難燃剤および/または熱可塑性ポリカーボネート組成物は、さらに塩素および臭素を本質的に含まない。本明細書において使用される場合、塩素および臭素を本質的に含まないとは、塩素または臭素あるいは塩素または臭素を含む物質を意図的に加えることなしに生成された物質を意味する。しかしながら、複数の製品を加工する設備において、特定の量の二次汚染が発生し、典型的には、質量で100万分の1のスケールの臭素および/または塩素レベルをもたらし得ることが理解される。この理解によって、臭素および塩素を本質的に含まないとは、100質量ppm以下、75ppm以下、または50ppm以下の臭素および/または塩素含有量を有するものとして定義されることがすぐに理解される。この定義が難燃剤に適用される場合、それは難燃剤の全質量に基づく。この定義が熱可塑性ポリカーボネートに適用される場合、それはポリマー成分の全質量に基づく。
【0061】
ポリマー成分に加えて、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、強化無機フィラーをさらに含む。強化無機フィラーの使用は、NF P 92-505のドリップを避けるために不可欠である。強化無機フィラーには、これに限定されないが、雲母、粘土(カオリン)、滑石、珪灰石、炭酸カルシウム(例えば白亜、石灰石、大理石、および合成沈降炭酸カルシウム)、バリウムフェライト、重晶石、および同様のものなどの物質が含まれる。強化無機フィラーの組合せを使用することができる。強化無機フィラーは、例えば20から200のアスペクト比(平均の厚みに対する、板の表面と同じ面積の円の平均直径)を有する板状またはフレーク状の形態; あるいは例えば5から500のアスペクト比(平均直径に対する平均長さ)を有する針状または繊維状であり得る。それぞれの粒子の最も長い寸法(例えば平板状の形態の粒子の直径)は、0.1〜10マイクロメートル、特には0.5から5マイクロメートルであり得る。強化無機フィラーは、0.1から5マイクロメートル、特には0.01から3マイクロメートルの球相当径(体積に基づく)を有し得る。
【0062】
特定の無機フィラー、特に雲母、滑石、および粘土は、予想外の利点を提供することが分かった。しかしながら、強化無機フィラーが粘土以外の雲母または滑石である場合、より低い煙濃度が得られることがさらに分かった。したがって、一実施形態において、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、20wt%未満、特には10wt%未満の無機フィラーとしての粘土を含む。別の実施形態において、熱可塑性ポリカーボネートは、粘土を含まない。
【0063】
ポリカーボネート、フッ素化ポリマー、耐衝撃性改良剤(存在する場合)、難燃剤(存在する場合)、および強化無機フィラーに加えて、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、この種類のポリカーボネート組成物に通常組み込まれる、様々な添加剤を含むことができるが、ただし添加剤は、熱可塑性ポリカーボネート組成物の望ましい特性、特に低いドリップ、より詳しくは低いドリップ、低い煙濃度、および低毒性に逆の影響を大きく与えないように選択される。このような添加剤は、組成物を形成するための成分の混合の間の好適な時間、混合され得る。例示的な添加剤には、これに限定されないが、抗酸化剤、熱安定化剤、光安定化剤、紫外(UV)光安定化剤、可塑剤、潤滑剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(例えば二酸化チタン、カーボンブラック、および有機染料)、表面効果添加剤、および放射安定化剤が含まれる。添加剤の組合せ、例えば熱安定化剤、離型剤、および紫外光安定化剤の組合せを使用することができる。一般的には、個々の添加剤は有効であると一般的に知られている量、例えばポリマー成分の全質量に基づいて0.01から5wt%の量で使用される。一般的には、添加剤の全体の組み合わされた量は、ポリマー成分の全質量に基づいて、0.1から10wt%、特には0.5から5wt%である。別の実施形態において、繊維状の補強剤(例えばガラスファイバー)が、前述の添加剤に加えて存在する。使用される場合、繊維状の補強剤は、ポリマー成分の全質量に基づいて、1から25wt%、特には10から20wt%の量で存在する。
【0064】
一実施形態において、熱安定化剤、光安定化剤、可塑剤、離型剤、および潤滑剤以外の添加剤は、熱可塑性ポリカーボネート組成物中に存在しない。特に、粒子状のフィラーは存在しない。さらに別の実施形態において、粒子状のフィラーまたは繊維状の補強剤は存在しない。
【0065】
一実施形態において、以下で特に指定された添加剤以外の添加剤は、組成物中に存在しない。
【0066】
例示的な抗酸化添加剤には、これに限定されないが、オルガノホスファイト、例えばトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリトリトールジホスファイト; アルキル化モノフェノールまたはポリフェノール; ポリフェノールとジエンのアルキル化反応生成物、例えばテトラキス[メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン; パラ-クレゾールまたはジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物; アルキル化ヒドロキノン; ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル; アルキリデン-ビスフェノール; ベンジル化合物; ベータ-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸と一価または多価アルコールのエステル; ベータ-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロピオン酸と一価または多価アルコールのエステル; チオアルキルまたはチオアリール化合物のエステル、例えばジステアリルチオプロピオネート、ジラウリルチオプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリトリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート; ベータ-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のアミド、あるいは前述の抗酸化剤のうちの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。抗酸化剤は、ポリマー成分の全質量に基づいて、0.01から0.1wt%の量で使用される。
【0067】
例示的な熱安定化添加剤には、これに限定されないが、オルガノホスファイト、例えばトリフェニルホスファイト、トリス-(2,6-ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス-(混合されたモノ-およびジ-ノニルフェニル)ホスファイト; ホスホネート、例えばジメチルベンゼンホスホネート; ホスフェート、例えばトリメチルホスフェート; ならびに前述の熱安定化剤のうちの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。熱安定化剤は、ポリマー成分の全質量に基づいて、0.01から0.1wt%の量で使用される。
【0068】
光安定化剤および/または紫外光(UV)吸収添加剤を使用することもできる。例示的な光安定化添加剤は、これに限定されないが、ベンゾトリアゾール、例えば2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾールおよび2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、または前述の光安定化剤のうちの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。光安定化剤は、ポリマー成分の全質量に基づいて、0.01から5wt%の量で使用される。
【0069】
例示的なUV吸収添加剤には、これに限定されないが、ヒドロキシベンゾフェノン; ヒドロキシベンゾトリアゾール; ヒドロキシベンゾトリアジン; シアノアクリレート; オキサニリド; ベンゾオキサジノン; 2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェノール(CYASORB(登録商標) 5411); 2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン(CYASORB(登録商標) 531); 2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)-フェノール(CYASORB(登録商標) 1164); 2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)(CYASORB(登録商標) UV-3638); 1,3-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパン(UVINUL(登録商標) 3030); 2,2'-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン); 1,3-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパン; ナノサイズの無機物質、例えば酸化チタン、酸化セリウム、および酸化亜鉛であって、全て100ナノメートル以下の粒子サイズである; または前述のUV吸収剤のうちの少なくとも1つを含む組合せが含まれる。UV吸収剤は、ポリマー成分の全質量に基づいて、0.01から5wt%の量で使用される。
【0070】
可塑剤、潤滑剤、および/または離型剤を使用することもできる。これらの種類の物質の間には多くの重複が存在し、これらには、フタル酸エステル、例えばジオクチル-4,5-エポキシ-ヘキサヒドロフタレート; トリス-(オクトキシカルボニルエチル)イソシアヌレート; トリステアリン; ポリ-アルファ-オレフィン; エポキシ化大豆油; エステル、例えばアルキルステアリルエステルなどの脂肪酸エステル、例えばメチルステアレート、ステアリルステアレート、ペンタエリトリトールテトラステアレート、および同様のもの; メチルステアレートとポリエチレングリコールポリマー、ポリプロピレングリコールポリマー、ポリ(エチレングリコール-co-プロピレングリコール)コポリマー、または前述のグリコールポリマーのうちの少なくとも1つを含む組合せを含む親水性および疎水性の非イオン性界面活性剤との組合せ、例えば溶媒中のメチルステアレートとポリエチレン-ポリプロピレングリコールコポリマー; ならびにワックス、例えば蜜ろう、モンタンワックス、およびパラフィンワックスが含まれる。このような物質は、ポリマー成分の全質量に基づいて、0.1から1wt%の量で使用される。
【0071】
熱可塑性ポリカーボネート組成物中のそれぞれの成分の相対量は、望ましい難燃性のレベル、特に低いドリップ、場合によって一緒に低い煙濃度および低毒性、同様に延性などの有利な物理的特性を得る点において、重要な因子である。前に述べた通り、1つの有利な目的のための1つの成分(例えばフッ素ポリマー)の使用は、特に成分の量が本明細書において開示されたよりも低いまたは高い場合には、予想外に別の望ましい特性に逆の影響をもたらし得る。
【0072】
一実施形態において、成型されたまたは押出されたものが非常に低いドリッピングを有する熱可塑性ポリカーボネート組成物は、熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、15から40wt%未満の強化無機フィラー; およびポリマー成分の質量に基づいて、68から99.9wt%の芳香族ポリカーボネート、0.1から2wt%のフッ素化ポリマー、任意の0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤、および任意の抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む、0.1から5wt%の添加剤組成物を含む、60より多く85wt%までのポリマー成分を使用して達成される。熱可塑性ポリカーボネート組成物の成型されたまたは押出されたものは、3.0mmの厚みでNF P 92-505によって測定した場合、ドリップを有しない。特定の実施形態において、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、20wt%未満の強化無機フィラーとしての粘土を含む。別の特定の実施形態において、強化無機フィラーは、滑石、雲母、または滑石と雲母の組合せである。別の特定の実施形態において、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、ポリマー成分の全質量に基づいて、6wt%未満の遊離スチレン-アクリロニトリルを含み、ここで組成物の成型されたまたは押出されたものは、ISO 6603によって測定された、23℃における多軸衝撃試験において、100%の延性を有する。さらに別の特定の実施形態において、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、15から22wt%の強化無機フィラー(フィラーは滑石である); 0wt%の粘土; 78から85wt%のポリマー成分(ポリマー成分は86から95.5wt%のポリカーボネートを含む); 1から5wt%のバルク状アクリロニトリル-ブタジエンスチレン; 0.5から1.0wt%のシリコーン油; および3から8wt%の芳香族ジホスフェートの難燃剤を含み、ハロゲン化された難燃剤を含まない。
【0073】
成型されたまたは押出されたものが、1.5mmの厚みでNF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有さず、3mmの厚みでNF X 10-702によって測定した場合、10未満の煙濃度指数を有する組成物を得るために、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、10より多く40wt%未満の強化無機フィラー; および60より多く90wt%未満のポリマー成分を含み、ここでポリマー成分は、68から99.9wt%の芳香族ポリカーボネート、特にはビスフェノールAホモポリカーボネート; 0.1から2wt%のフッ素化ポリマー; 任意の0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤; および任意の抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む、0.1から5wt%の添加剤組成物を含む。これらの組成物を含む成型されたまたは押出されたものは、2.0mmの厚みで5VBのUL94評価をさらに達成する。2wt%を超えるフッ素ポリマーは、NF P 92-505によって測定される場合、ドリッピングを増加させる傾向がある。これは、フッ素化ポリマーの量の増加はUL94試験におけるドリッピングを防ぐため、UL94およびNF P 92-505試験におけるドリッピング挙動は相関がないことを例示する。
【0074】
特定の実施形態において、この組成物の無機フィラーは、雲母、滑石または雲母と滑石の組合せである。別の特定の実施形態において、組成物は、組成物の全質量に基づいて、20wt%未満の粘土を含む。より少ない粘土が使用される(または使用されない)場合、NF X 10-702によって測定される場合、より少ない煙が発生する。このような組成物の成型されたまたは押出されたものは、1.6mmの厚みでUL94 V0評価をさらに達成する。組成物が、組成物の全質量に基づいて、10wt%未満の粘土を含む場合、組成物の成型されたまたは押出されたものは、3mmの厚みでNF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有しない。さらにより詳しくは、この実施形態において、粘土は存在しない。
【0075】
成型されたまたは押出されたものが、3mmの厚みでNF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有さず、3mmの厚みでNF X 10-702によって測定した場合、10未満の煙濃度指数を有する組成物を得るために、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、12から40wt%未満、特には15から40wt%未満の強化無機フィラー; および60より多く88t%未満、特には60より多く85wt%のポリマー成分を含み、ここでポリマー成分は、68から99.9wt%の芳香族ポリカーボネート、特にはビスフェノールAホモポリカーボネート; 0.1から2wt%のフッ素化ポリマー; 任意の0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤; および任意の抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む、0.1から5wt%の添加剤組成物を含む。前述の組成物が30wt%未満の強化無機フィラーを含む場合、組成物の成型されたまたは押出されたものは、1.6mmの厚みでUL94 V0評価を達成する。特定の実施形態において、この組成物中の無機フィラーは雲母、滑石、または雲母と滑石の組合せである。別の特定の実施形態において、組成物は、組成物の全質量に基づいて、20wt%未満の粘土、特には10wt%未満の粘土を含む。より少ない粘土が使用される(または使用されない)場合、NF X 10-702によって測定される場合、より少ない煙が発生する。また、このような組成物の成型されたまたは押出されたものは、1.6mmの厚みでUL94 V0評価をさらに達成する。さらにより詳しくは、この実施形態において、粘土は存在しない。
【0076】
滑石の使用は、NF X 10-702によって試験された、成型されたまたは押出されたサンプルの煙濃度を予想外に低減する点において、特に有利である。一実施形態において、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、15から22wt%の滑石、および78から85wt%のポリマー成分を含み、ここでポリマー成分は、68から99.9wt%の芳香族ポリカーボネート、特にはビスフェノールAホモポリカーボネート; 0.1から2wt%のフッ素化ポリマー; 任意の0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤; および任意の抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む、0.1から5wt%の添加剤組成物を含む。
【0077】
前述の実施形態のいずれかにおいて、耐衝撃性改良剤は、ポリマー成分の0.1から25wt%の量で存在し得る。特定の量は、使用される耐衝撃性改良剤の種類に依存する。一実施形態において、ABSまたはMBSなどの耐衝撃性改良剤の存在は、組成物の延性を改善する。延性は、延性破壊を示す成型されたまたは押出されたサンプル(例えばサンプルが1部品のままであり、ヒンジ破壊を示さない)の割合として定量化され得る。便宜上、本明細書において使用される場合、組成物の5つの成型されたまたは押出されたサンプル全てが、ISO 6603による23℃における多軸衝撃試験において延性破壊を有する組成物を、100%の延性を有するとして表す。別の実施形態において、組成物は、さらなる遊離SANを含まず、組成物の成型されたまたは押出されたものは、3mmの厚みでNF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有しない。
【0078】
一実施形態において、耐衝撃性改良剤は、ポリマー成分の質量に基づいて、2から8wt%のシロキサン単位を含む組成物を提供するために有効な量で存在する、オルガノポリシロキサンである。このような組成物を含む、成型されたまたは押出されたサンプルは、改善された延性、特にISO 6603によって23℃で測定される多軸衝撃試験において100%の延性を有し得る。
【0079】
特定の実施形態において、オルガノポリシロキサンの耐衝撃性改良剤は、ポリマー成分の質量に基づいて、1から25wt%、特には2から15wt%の量で存在する、ポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーである。このような組成物の成型されたまたは押出されたサンプルは、ISO 6603によって23℃で測定される多軸衝撃試験において100%の延性を有し得る。
【0080】
別の特定の実施形態において、耐衝撃性改良剤は、シリコーン油である。シリコーン油は、ポリマー成分の全質量に基づいて、0.1から5wt%、特には0.25から2wt%の量で存在する。このような組成物の成型されたまたは押出されたサンプルは、ISO 6603によって23℃で測定される多軸衝撃試験において100%の延性を有し得る。滑石の使用が、この実施形態において特に有利である。したがって、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、15から22wt%の滑石、および78から85wt%のポリマー成分を含み、ここでポリマー成分は、93から99.8wt%の芳香族ポリカーボネート、特にはビスフェノールAホモポリカーボネート; 0.1から5wt%、特には0.25から2wt%のシリコーン油; および0.1から2wt%のフッ素化ポリマー、特には別のポリマーを伴うTSANまたはPTFEを含む。このような組成物を含む、成型されたまたは押出されたサンプルは、4mmの厚みでM1またはM2評価を達成することができる。0.5から2wt%のフッ素化ポリマーが存在する場合、組成物の成型されたまたは押出されたものは、ISO 6603によって23℃で測定される多軸衝撃試験において100%の延性を有し得、1mmから4mmの厚み、または1から8mmの厚みの成型されたまたは押出されたサンプルは、M1評価を有し得る。このようなサンプルは、M1およびF1評価の両方を得ることも可能である。フッ素化ポリマーがカプセル化されたPTFE(特にTSAN)である場合、組成物の、4mmの厚みの成型されたまたは押出されたものは、M1/F1評価を得る。
【0081】
前述の実施形態のいずれかにおいて、組成物は、0.5から15wt%、特には1から8wt%、より詳しくは2から8wt%、さらにより詳しくは3から8wt%の有機リンを含む難燃剤をさらに含むことができる。一実施形態において、有機リンを含む難燃剤は、芳香族化合物、より詳しくは芳香族ジホスフェート、さらにより詳しくはビスフェノールAに基づくジホスフェートである。
【0082】
さらに、前述の実施形態のいずれかにおいて、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、臭素化難燃剤、特に臭素化ポリカーボネート難燃剤を含まず、ここで組成物の成型されたまたは押出されたものは、NF X 10-702によって測定される場合、10未満の煙濃度指数を有する。
【0083】
流動性改良剤が、組成物中に存在し得る。例えば、ポリマー成分の質量に基づいて、最大5wt%のゴムベースの耐衝撃性改良剤(例えばSANを含む、バルク重合されたABS)の使用は、改善された流動性を提供することができる。しかしながら、上記の通り、ポリマー成分の全質量に基づいて、6wt%未満の遊離SAN、特には3wt%未満の遊離SAN、より詳しくは0wt%の遊離SANが、組成物中に加えられるか、存在する。
【0084】
難燃性、低い煙濃度(または指数)、および物理的特性の優れた組合せは、熱可塑性ポリカーボネート組成物が、熱可塑性ポリカーボネートの全質量に基づいて、15から22wt%の滑石、雲母、または滑石と雲母を含む組合せ、特には滑石、および熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、20wt%未満、10wt%未満、または特には0wt%の量の粘土; ならびに78から85wt%のポリマー成分を含む場合に得られ、ここでポリマー成分は、ポリマー成分の質量に基づいて、79から98.7wt%のポリカーボネート、特にはビスフェノールAから得られる単位を含むポリカーボネート; 0.1から2wt%のフッ素化ポリマー(特にはTSAN)または0.3から1wt%、特には0.5から1wt%のフッ素化された骨格を有する、熱可塑性フッ素化ポリマーを伴うPTFE; 1から8%のビスフェノールAから得られる単位を含む、リンを含む難燃剤; 0から5wt%、特には1から5wt%のバルク状のABS; 0.1から5wt%、特には0.5から1wt%のシリコーン油; ならびに0.1から1wt%、特には0.5から1wt%の抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む添加剤組成物を含む。この熱可塑性ポリカーボネート組成物の成型されたまたは押出されたものは、NF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有さず; 3.0mmの厚みでNF X 10-702によって測定した場合、10未満の煙濃度指数を有し; ISO 6603によって23℃で測定される多軸衝撃試験において100%の延性を有し; かつ4mmの厚みでM1評価を有する。
【0085】
前述の実施形態の一態様において、熱可塑性ポリカーボネート組成物は、組成物の全質量に基づいて、15から22wt%の強化無機フィラー(フィラーは滑石であり、0wt%の粘土); ならびに78から85wt%のポリマー成分を含み、ここでポリマー成分は、86から95.5wt%のポリカーボネート、特にはビスフェノールAホモポリカーボネート; 1から5wt%のバルク状のアクリロニトリル-ブタジエンスチレン; 0.5から1.0wt%のシリコーン油; 0wt%のハロゲン化難燃剤; および3から8wt%の芳香族ジホスフェート難燃剤を含む。
【0086】
前述の組成物のうちの特定のものは、煙濃度試験NF X 10-702と煙毒性試験NF X 70-100との組合せであるNF F 16-101による「F試験」において、F1評価を達成することができる。
【0087】
熱可塑性ポリカーボネート組成物は、様々な方法によって製造され得る。例えば、パウダー状のポリカーボネート、フッ素ポリマー、および他の成分を、場合によってフィラーと一緒に、HENSCHEL(登録商標) 高速ミキサー中で最初にブレンドする。これに限定されないが、手による混合を含む他の低せん断プロセスも、このブレンドを達成することができる。その後、ブレンドを、ホッパーを介して二軸押出機のスロート(throat)に供給する。代わりに、成分のうちの少なくとも1つを、スロートでおよび/またはサイドスタッファー(sidestuffer)を通して下流で押出機に直接供給することによって、組成物中に組み込むことができる。添加剤を、望ましいポリマー樹脂と一緒にマスターバッチ(masterbatch)に組合せ、押出機に供給することもできる。押出機は、一般的に、組成物の流動を引き起こすために必要な温度より高い温度で操作される。押出されたものを、すぐに水のバッチ中で急冷し、ペレット化する。このように調製されたペレットを、押出されたものを切る場合、望ましくは、4分の1インチ以下の長さとし得る。このようなペレットを、続けて成型(molding)、成形(shaping)または形成(forming)のために使用することができる。
【0088】
ポリカーボネート組成物は、ISO 1133によって、5kgの負荷下、260℃で測定して、5から20、より詳しくは8から15cm3/10分の溶融体積比(MVR)を含む、優れた物理的特性を有する。
【0089】
ポリカーボネート組成物は、ISO 11443によって、500sec-1で、280℃で測定して、200から1000、より詳しくは300から700Pa・secの溶融粘度(MV)を有し得る。
【0090】
ポリカーボネート組成物は、ISO 75によって、1.8MPaで測定して、100から140℃、より詳しくは110から130℃の熱たわみ温度(HDT)をさらに有し得る。
【0091】
ポリカーボネート組成物は、ISO 6603によって、3.2mmのプラークを使用して23℃で測定して、20から130ジュール(J)、または60から120Jの多軸衝撃(MAI)をさらに有し得る。
【0092】
ポリカーボネート組成物を含む、成形された、形成された、または成型された物品も提供される。物品は、様々な方法、例えば射出成型、押出し、回転成型、ブロー成型、および熱成形を使用して製造され得る。例示的な物品には、これに限定されないが、輸送および建設用途のためのものが含まれ、フラットパネル、シートから形成された熱成形された部品、および電車、飛行機、バス、自動車、および同様のもののための他の構造部材; ならびにビル、例えば病院、学校および同様のもののための構造部材が含まれる。さらに、ポリカーボネート組成物は、コンピューターおよび事務機のハウジング(housing)(例えばモニターのハウジング)、携帯電子機器のハウジング(例えば携帯電話のハウジング)、電気コネクタ、ならびに照明器具、装飾品、家庭用電化製品、屋根、グリーンハウス、サンルーム(sun room)、スイミングプールの囲い、および同様のものの部材などの用途のために使用することができる。
【0093】
特定の実施形態において、ポリカーボネート組成物を使用して、シート、特には上記の低いドリッピングおよび低い煙濃度指数を有する、平らなシートを形成することができる。このようなシートはそれ自体、または基材と一緒に組み合わされて有用であり、輸送および建設産業、例えば学校、病院、および同様のもののための物品として使用されることができる。このような物品には、これに限定されないが、自動車、電車、バス、および飛行機における、天井、側壁、容器の扉、パーティション、窓のマスク、座席、背もたれの覆い、背もたれ、肘掛け、トレーテーブル、貯蔵容器、および手荷物棚が含まれる。特定の例には、これに限定されないが、病院の壁、飛行機のインテリア、ならびに列車の用途における座席、壁、天井、被覆材(cladding)、および窓の囲いが含まれる。
【0094】
シートは、シート押出し、射出成型、ガスアシスト射出成型、押出し成型、圧縮成型、ブロー成型、および前述の方法のうちの少なくとも1つを含む組合せなどの方法によって形成され得る。特定のシート押出し方法には、これに限定されないが、メルトキャスティング、ブローされたシート押出し、およびカレンダリング(calendaring)が含まれる。共押出しおよびラミネーションプロセスを使用して、多層シートを形成することができる。代わりに、シートを、好適な溶媒中のポリカーボネート組成物の溶液または懸濁液を、基材、ベルト、またはロールにキャスティングし、続けて溶媒を除去することによって調製することもできる。単層または多層のコーティングを、単層または多層のシートに塗布して、引っかき耐性、紫外光耐性、美的外観、および同様のものなどのさらなる特性を付与することもできる。コーティングは、ローリング、スプレー、浸漬、ブラッシング、フローコーティング、または前述の塗布技術のうちの少なくとも1つを含む組合せなどの標準的な塗布技術を通して塗布され得る。
【0095】
配向したシートを、ブローされたシート押出しによって、または標準的な延伸技術を使用して、熱変形温度近辺でキャストもしくはカレンダーしたシートを延伸することによって調製することができる。例えば、放射延伸パンタグラフ(radial stretching pantograph)を、多軸同時延伸のために使用することができ; x-y方向の延伸パンタグラフを使用して、同時にまたは続けて平面内のx-y方向に延伸することができる。装置方向に延伸するための異なる速度のロールの部分、および横方向に延伸するためのテンターフレーム部分を備えた装置などの、連続一軸延伸する部分を備えた装置を使用して、一軸および二軸延伸を達成することもできる。
【0096】
ポリカーボネート組成物を使用して、第一の面および第二の面を有する第一のシート、ならびに第一の面および第二の面を有する第二のシートを含む、多層シートを形成することもでき、ここで第一のシートの第一の面は、複数のリブの第一の面上に配置され、第二のシートの第一の面は、複数のリブの第二の面上に配置され、ここで複数のリブの第一の面は、複数のリブの第二の面の反対である。第一および/または第二のシートは、ポリカーボネート組成物を含む。
【0097】
シートおよび多層シートは、熱形成、真空形成、圧力形成、射出成型、および圧縮成型などの形成および成型方法を介して成形された物品に、熱可塑性で加工され得る。多層に成形された物品は、熱可塑性樹脂を、単層または多層シートに、場合によって、例えばスクリーン印刷または転写染料を使用して、その表面に1つまたは複数の着色を有する基材を有してもよい、単層または多層基材を最初に準備し; 基材を三次元形状に形成およびトリミングし、かつ基材の三次元形状に合う表面を有する型に基材を適合させることなどによって、型の構造に基材を一致させ; その後熱可塑性樹脂を、基材の後ろの型の空洞に射出して、(i) 1つの部品の取り外せないように結合された三次元の生成物を生成し、または(ii) 印刷された基材から射出された樹脂にパターンまたは美的効果を転写し、かつ印刷された基材を除去し、その後成型された樹脂に美的効果を付与することによって、射出成型することによって形成され得る。基材および熱可塑性樹脂のどちらかまたは両方は、本明細書において記載したポリカーボネート組成物を含むことができる。
【0098】
硬化および表面改質方法、例えば熱硬化、テクスチャリング、エンボス、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、および真空蒸着を、上記の物品にさらに適用して、表面の外観を代替し、さらなる機能性を物品に付与することができる。
【0099】
特定の実施形態において、ポリカーボネート組成物は、0.5mm以上、特には4mm以上、より詳しくは5mm以上の厚みを有するシートに押出しまたは形成される。例えば、シートは、1.0から6.0mmの厚みを有し得る。予想外に、4.0から6.0mmの厚みを有するシートは、NF F 16-101によってM1評価を達成した。このようなシートを、連続して熱形成することができる。熱形成されたシートは、表面の欠陥を有さず、つまり裸眼で見て平坦かつ均一な表面の外観を有し得る。特に、シートは裸眼で見てくぼみまたは波状の線を有しない。
【0100】
熱可塑性ポリカーボネート組成物は、以下の非限定的な実施例によってさらに例示される。
【実施例】
【0101】
以下の実施例において記載される熱可塑性ポリカーボネート組成物を、表1において記載される成分から調製した。
【0102】
【表1】

【0103】
それぞれの実施例において、サンプルを、約260℃の公称溶融温度、約0.7バールの真空、および約300rpmで、Werner & Pfleiderer(商標)の25mm二軸押出し機での溶融押出しによって調製した。押出されたものをペレット化し、約100℃で約4時間乾燥した。試験片を作るために、乾燥したペレットを、約5から10℃高い溶融温度の、280℃の公称溶融温度で、Engel(商標)110-トン射出成型装置で成型した。煙およびドリップ試験のための試験片を、約5から10℃高い溶融温度の、280℃の公称溶融温度で、Engel(商標)75-トン射出成型装置で射出成型した。M-試験のための試験片を、約5から10℃高い溶融温度の、290℃の公称溶融温度で、Engel(商標)400-トン射出成型装置で射出成型した。
【0104】
表2に示した試験標準を、実施例の評価において使用した。
【0105】
【表2】

【0106】
延性は、延性破壊(例えば一部が一部品として残り、ヒンジ破壊を示さない)を示すバー/プラークの割合として示される。
【0107】
ドリップ試験を、フランスのドリップ試験としても知られている、FR-1 French Ministerial NF P 92-505試験によって行う。関連部分で、試験は、試験される物質の試験片に熱を適用することによって生成された液滴の挙動を記録する。熱を、70x70mmのシートまたはプラークと水平に配置されたラジエーターによって適用する(水平のラジエーターは、3センチメートル(cm)のサンプルまでの距離において、3W/cm2の強度で500ワット(W)の放射を有する)。ドリップ試験の結果を、「ドリップしない(ND)」、「ドリップ(D)」および「バーニングドリップ(BD)」として示す。バーニングドリップの結果のみを失敗と考えるが、バーニングしないドリップは、非ロバスト抗ドリッピング挙動を示す。
【0108】
煙濃度試験を、NF X 10-702によって行い、これは米国材料試験協会(ASTM)標準E662(2006)に記載された、飛行機の区画のインテリアのための煙濃度仕様と類似している。この試験方法は、測光尺度を使用して、物質によって発生した煙の濃度を測定する。最大煙濃度(Ds max)、VOF4は最初の4分間の平均煙濃度(VOF4)および煙濃度指数(SDI)を決定し、ここで:
【数3】

SDI = (Ds max/100) + (VOF4/30)
ここで、
Ds0は0分後における煙濃度であり、
Ds1は1分後における煙濃度であり、
Ds2は2分後における煙濃度であり、
Ds3は3分後における煙濃度であり、かつ、
Ds4は4分後における煙濃度である。
【0109】
F評価を、以下:
IF = SDI + (ITC/2)
の煙濃度指数(SDI)および煙毒性指数(ITC)から順に得られる、「IF」値から決定する。SDIを、3つのサンプルで、上記で記載したVOF4およびDs maxの測定から決定する。ITCを、600℃、120リットル/時間の一定の気流下で、チューブ炉中の1グラムのサンプルを燃焼させることによって、NF X 70-100による1つのサンプルで決定する。生成されるガスを分析し、それぞれのガスYの濃度を決定する([ガスY])。CO、CO2、HCl、HBr、HCN、HF、およびSO2のそれぞれのガスのために、ガスYの濃度を、臨界濃度(CCY)で割り、ここでCCCO = 1750、CCCO2 = 90000、CCHCl = 150、CCHBr = 170、CCHCN = 55、CCHF = 17、およびCCSO2 = 260である。これらの値の合計は、以下の式:
ITC = S [ガスY]/CCY
を使用して、ITCの値を構成する。
【0110】
20未満のIF値は、F1の評価をもたらす。F2、F3およびF4の評価を達成するために、IF値は、それぞれ40、80、または120未満でなければならない。
【0111】
「M試験」は、エピラジアトール(NF P 92-501)とドリップ(NF P 92-505)の組合せである。M試験のために、Q値を、
【数4】

(ここで、
Σh = 30秒間の火炎高さの合計(cm);
ti = 着火時間(秒); および
Δt = 全燃焼時間(秒))
として計算される、NF P 92-501によって決定する。M1の評価を達成するためには、NF P 92-501によって試験した4つのサンプルは、2.5未満のQの値を有し、かつドリッピングを示さない。M2およびM3の評価を達成するためには、許容される最大のQ値は、それぞれ15および50である。4つのサンプルをNF P 92-505によって試験した場合、ドリッピングが発生しなければ、同じ評価を適用することができる。試験の間に火炎ドリップが生成される場合、サンプルをM4と評価する。
【0112】
実施例を、2003年12月12日を通し、かつ含む改訂を組み込んだ、Underwriter’s Laboratory Bulletin 94、「Tests for Flammability of Plastic Materials for Parts in Devices and Appliances」(ISBN 0-7629-0082-2)、第5版、10月29日、1996年の手順で燃焼性を評価した。いくつかの評価を、燃焼速度、消火時間、ドリッピングに耐える能力、およびドリップが燃焼するかどうかに基づいて、適用することができる。この手順によって、物質をUL94 HB、V0、V1、V2、5VA、および/または5VBに分類することができる。UL94によって試験したサンプルは、所定の厚みにおいて、合格(P)または失敗(F)として評価される。
【0113】
UL94においてV0評価(合格)を達成することは、火炎を、バーの12インチ(305mm)下に位置した、乾燥した吸収性の綿パッドの上に、垂直に結びつけた所望の厚みの0.5インチ(12.7mm)ごとに5インチ(127mm)の試験バーに適用することを意味する。キャリパーは、0.1mmの精度で試験バーの厚みを決定する。火炎は、3/4インチ(19mm)の火炎である。火炎を、試験片の低い部分から0.38インチ(9.5mm)の距離で10秒間適用し、その後除去する。この適用後、タイマー(T-0)を開始し、試験片が燃え続ける時間(残炎時間)、同様に残炎が消えた後に試験片が輝き続ける時間(残輝時間)を、残輝が存在しなければ残炎が止まるときにタイマーT-0を止め、その後残輝が止まるときにT-0を止めることによって測定する。サンプルが燃え終わるとすぐに、炎を再びさらに10秒適用する。この時間の適用後、組み合わされた残炎時間および残輝時間を再び決定する。両方の炎の適用の組み合わされた残炎時間および残輝時間は、加えられ、発火した炎を除去した後に10秒以下でなければならず、垂直に置いたサンプルは、吸収性の綿が発火する、燃えている粒子のドリップを生成しない。試験を5つの同一のバー試験片で繰り返す。時間および/またはドリップのない仕様を満たさない、5つのうちの1つの試験片が存在する場合、その後、5つの試験片の第二のセットを同じ方法で試験する。5つの試験片の第二のセットの全ての試験片が、V0評価を達成するために、所定の厚みにおける物質の仕様を満たさなければならない。
【0114】
UL94において5VB評価(合格)を達成することは、火炎を、バーの12インチ(305mm)下に位置した、乾燥した吸収性の綿パッドの上に、垂直に対して20°の角度で結びつけた所望の厚みの0.5インチ(12.7mm)ごとに5インチ(127mm)の試験バーに適用することを意味する。キャリパーは、0.1mmの精度で試験バーの厚みを決定する。火炎は、1.58インチ(40mm)の内部の青色の円錐を有する、5インチ(127mm)の火炎である。火炎を、青色の円錐の先が試験片の低い角に触れるように、試験バーに5秒間適用する。その後、炎を5秒間除去する。炎の適用および除去を、試験片が同じ炎に5回適用されるまで繰り返す。炎の5回目の適用を除去した後、タイマー(T-0)を開始し、試験片が燃え続ける時間(残炎時間)、同様に残炎が消えた後に試験片が輝き続ける時間(残輝時間)を、残輝が存在しなければ残炎が止まるときにタイマーT-0を止め、その後残輝が止まるときにT-0を止めることによって測定する。組み合わされた残炎時間および残輝時間は、試験バーへの炎の5回の適用後に60秒以下でなければならず、吸収性の綿が発火する、ドリップが存在しない。試験を5つの同一のバー試験片で繰り返す。時間および/またはドリップのない仕様を満たさない、5つのうちの1つの試験片が存在する場合、その後、5つの試験片の第二のセットを同じ方法で試験する。5つの試験片の第二のセットの全ての試験片が、5VB評価を達成するために、所定の厚みにおける物質の仕様を満たさなければならない。
【0115】
以下の処方において、ポリマー成分中のそれぞれの成分の量は、ポリマー成分の全質量に基づいた質量パーセントで与えられる。以下の処方のそれぞれにおけるフィラーの量は、ポリマー成分とフィラーとの全質量に基づいている。例えば、以下の表における20wt%のフィラーは、それぞれ1kgのポリマー成分に対して、250gのフィラーを加えたことを意味する(250g/(1000g+250g) = 20wt%)。
【0116】
さらに、以下の処方において、示された添加剤のパッケージ(抗酸化剤、離型剤、および安定化剤)が存在した。
【0117】
(実施例1〜10)
実施例1〜10を、ポリカーボネート、芳香族ジホスフェート難燃剤、および様々な量の無機フィラーを使用し、耐衝撃性改良剤を使用せずに処方した。結果を表3に示す。
【0118】
【表3】

【0119】
実施例1〜8は、23℃におけるIzod切り欠き衝撃試験で延性ではない。18wt%以上の強化無機フィラーを加えることは、実施例6〜8によって分かる通り、多軸衝撃試験においてサンプルの延性に逆の影響を与える。
【0120】
10wt%未満の強化無機フィラーの存在は、UL9 5VB合格の評価(実施例1対実施例2、2mm)を改善することが、表3のデータからさらに分かる。10wt%を超える強化無機フィラーを加えることには、より薄い(1.5mm)サンプル(実施例2対実施例5および実施例7〜8)においてドリッピングを防ぐ。15wt%を超える強化無機フィラーを加えることも、より厚い(3mm)サンプル(実施例5対実施例7〜8)においてドリッピングを防ぐ。15wt%以上の強化無機フィラーの使用は、さらに3mmにおける煙を大きく低減する(実施例2対実施例5および実施例7〜8)。煙の低減は、非可燃性物質によるポリマーの希釈効果のみでは説明することができず、それは20wt%の強化無機フィラー(実施例1)において、10%の強化無機フィラー(実施例2)と比較して、煙濃度指数が3mmで約60%低減されたからである。しかしながら、より多い量の強化無機フィラー(18wt%、実施例6)において、サンプルは1.0mmのUL94 V0に失敗し、さらに多い量の強化無機フィラー(30wt%、実施例8)において、サンプルは1.6mmのUL94 V0に失敗していることが注意される。40wt%以上の強化無機フィラーの使用は、劣った溶融強度を有するサンプルをもたらす(実施例9〜10)。このデータは、より厚いサンプルがドリップ試験に合格することは、より難しいことを示しており、より薄いサンプルがV0のUL94評価を達成することは、より難しいことを示している。これらの組み合わされた結果は、ドリップ試験とUL94試験標準との間に相関がないことを示している。
【0121】
(実施例1、7および11〜15)
以下の実施例を、ポリカーボネート、芳香族ジホスフェート難燃剤、および20wt%の滑石、粘土、二酸化チタン、雲母、硫酸バリウム、および滑石と粘土の組合せを含む様々な無機フィラーを使用し、耐衝撃性改良剤を使用せずに処方した。
【0122】
【表4】

【0123】
表4は、耐衝撃性改良剤を有しない組成物が、23℃におけるIzod切り欠き衝撃試験で低い延性を有することを示す。20wt%以上の滑石または粘土を加えることは、多軸衝撃試験においてサンプルの延性に逆の影響を与える。
【0124】
表4は、BaSO4(TiO2と同様に非強化フィラー)がドリップを低減するために有効ではないことを示す(実施例14)。強化フィラーである雲母は、1.5mmにおけるドリップを低減するが、滑石(例えば実施例7)のように煙を低減するために有効ではない(実施例13)。
【0125】
表4は、強化無機フィラー(滑石および粘土、実施例7、実施例11、および実施例15)を使用する場合、組成物のドリップ特性における改善が起き、一方、非強化無機フィラー(TiO2、実施例9)はほとんど係数を増加させず、ドリッピングを防がないことをさらに示す。20wt%の強化無機フィラーとしての粘土の使用は、増加した煙の形成を導く(実施例12)。20wt%の粘土の存在(実施例12)は、UL94 V0または5VB評価を達成しないサンプルをもたらす。組み合わされた10wt%の粘土と10wt%の滑石の存在は、UL94 V0試験の失敗を導く。
【0126】
(実施例16〜20)
実施例16〜20を、様々な量の強化無機フィラーとしての粘土を使用して処方した。結果を表5に示す。
【0127】
【表5】

【0128】
表5におけるデータは、粘土を強化無機フィラーとして使用する場合、3mmの厚みにおけるドリッピングを防ぐために、少なくとも15wt%が必要であることを示す。
【0129】
(実施例21〜27)
実施例21〜27を処方して、シロキサンを含む耐衝撃性改良剤、同様に遊離スチレン-アクリロニトリル(SAN)の、組成物への影響を示した。処方および結果を表6に示す。
【0130】
【表6】

【0131】
表6における結果は、シロキサンを含む耐衝撃性改良剤、特にポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーの存在が、多軸衝撃試験における組成物の延性を改善することを示す(表4の実施例1および実施例7と、表6の実施例21との比較)。
【0132】
表6における結果は、非常に少ない量のSAN(ポリマー成分の3wt%未満)を加えることは、ドリッピングに逆の影響を与えず(実施例21)、組成物の粘度を増加させることを示す。しかしながら、より多い量(ポリマー成分の3〜6wt%)を加えることは、ドリッピングをもたらす(実施例22〜23)。したがって、これらの特定の処方において、遊離SANの量は、3mmのサンプルにおけるドリッピングを防ぐために、6wt%未満、特には3wt%未満にするべきである。ABS(実施例27)またはバルク状のABS(BABS、実施例25〜26)の存在は、ドリッピングを増加させない。3.5%のBABSおよび6%のABSを有する実施例は、それぞれ約3wt%のマトリクスSANを含む。
【0133】
(実施例28〜40)
様々な耐衝撃性改良剤および異なる難燃剤の影響を、実施例28〜40において決定した。処方および特性を表7に示す。
【0134】
【表7】

【0135】
実施例37(強化無機フィラーを有しない)から、このようなフィラーが、望ましいM1/F1評価を達成するために不可欠であることが明らかであり、それはこの実施例が高い煙濃度、ドリップ、およびM4評価を有するからである。実際、13wt%(実施例38)への強化無機フィラーの量の少しの低下でさえ、M1評価を得るが、高い煙の排出を有するサンプルをもたらす。
【0136】
表7におけるデータは、0.5から2.5%または5wt%へのフッ素化ポリマー(TSAN)の相対量の増加は、ドリップ試験におけるドリップを防ぐのではなく、増加させることを示す(例えば実施例30(2、4、および6mmでドリップなし)と実施例35〜37(様々な厚みでドリップまたはバーニングドリップ)とを比較)。それでも、PTFEの量の増加は、M1評価を達成することを助ける(実施例38と実施例35および36とを比較)。過剰量のTSANなどのフッ素化ポリマーの使用は、悪い熱形成性を導くことが、さらに知られている。理論に制限されないが、PTFEは分散することが困難であるという事実はシートの不均一さを導き得、これは熱形成後により見えやすくなる。PTFEによって形成される繊維状のネットワークは、シートを加熱するときに収縮し、シート内の不均一なポリマーの分布、またはホールの形成を生じさせる。
【0137】
表7における実施例は、優れた延性、ドリップなし、および低い煙のバランスを得ることの困難さをさらに例示する。実施例29は優れた難燃性、および最大6mmの厚みにおける低い煙毒性と組み合わされたM1評価を有する。しかしながら、組成物は壊れやすく、Izod切り欠き衝撃試験および多軸衝撃試験の両方において、0%の延性を有する。実施例28の、耐衝撃性改良剤としてポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマーを加えることは、多軸衝撃試験における延性を改善するが、M1評価を失い、煙濃度を増加させる。同様に、実施例28のバルク状のABSをMBSで交換することは、多軸衝撃試験における延性を改善するが、M1評価を失い、煙濃度を増加させる。M1評価は、芳香族ジホスフェート難燃剤が増加した場合(実施例31)に回復するが、多軸衝撃試験における延性が再び失われる。また、実施例35、36および38は、MBSを含む組成物中のTSANの量を増加させることにより、組成物を多軸衝撃試験において100%の延性とし、M1評価を達成することができるが、組成物はドリップ試験に失敗することを例示する。
【0138】
一般的に臭素化有機化合物は難燃性を改善するものとして知られている一方、本組成物における臭素化ポリカーボネートの使用は、煙の排出およびQ値を下げるのではなく、むしろ上げる(実施例30〜31と実施例39〜40とを比較)。臭素化PCは、UL94標準によって測定される場合、難燃性を改善するために効果的に使用されることが知られているため、Q値が上がることは驚くべきことである。
【0139】
RDPもBPADPほど効果的な難燃剤ではなく、より高い煙濃度、より高いQ値、およびより多いドリッピングの機会を与える。この結果は予想外であり、それは、RDPは高いリン含有量を有し、それゆえより効果的であると予想されていたからである。RDPは、難燃性がUL94によって決定される場合、難燃剤としてより効果的であることが示されていた。非常に効果的なFR添加剤である、臭素化ポリカーボネートおよびRDPの両方が、M試験においてBPAPDよりあまり効果的ではないという事実は、この試験方法とより一般的に使用されているUL94標準との間に相関がないことを示している。
【0140】
(実施例28および41〜47)
これらの実施例を、組成物への様々な耐衝撃性改良剤(バルク状のABS(BABS)、シリコーン油、およびポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマー(PC-Si))の影響を示すために処方した。結果を表8に示す。
【0141】
【表8】

【0142】
表8は、耐衝撃性はフィラーの量を減らすことによって改善されるが、煙濃度を上げることを示す(実施例41対実施例42〜43)。BABSの量を増加することは、わずかにのみ耐衝撃性を向上させるが、煙濃度の増加を導く(実施例41対実施例44〜45)。延性を改善するための最も効果的な方法は、シリコーン油を使用することによってであり、これは耐衝撃性を改善し、煙濃度を下げる(実施例41対実施例46〜47)。シロキサンがポリカーボネートの骨格に組み込まれる場合(例えばポリカーボネート-ポリシロキサンコポリマー)、約2wt%のシロキサンでさえ、シリコーン油ほどの延性における優れた改善は得られず(実施例28)、M1評価も得られない(表8参照)。
【0143】
例えばBABSからの、マトリクスSANの量は、遊離SANの量より高くなり得る(実施例45、7wt% BABS = 6wt% マトリクスSAN)。
【0144】
(実施例28〜29および48〜52)
これらの実施例を、組成物の特性への様々なシリコーン油、フィラーの量および種類、ならびにPTFEの量の影響を示すために処方した。結果を表9に示す。
【0145】
【表9】

【0146】
表9は、耐衝撃性改良剤としてのシリコーン油および18wt%の滑石(実施例28〜29対実施例48〜52)ならびに最小量のPTFEを使用することによって、1から4mmの厚みの範囲全体にわたって、延性のあるサンプルの低い煙濃度と組み合わされたM1評価を得ることが可能であることを示す。実施例29との比較において、シリコーン油を有する実施例は、より薄い厚みにおけるより高いロバスト性の低い煙性能を有し、これはポリカーボネート-ポリシロキサン(PC-Si)(実施例28)の場合と同様である。実施例28は、低い煙濃度と低い煙毒性に基づくF1評価をさらに有する。しかしながら、ポリカーボネート-ポリシロキサンを使用する場合、延性を得るためにより多くのシロキサン(2wt%)が必要であり、これはより多い煙の排出およびより高いQ値をもたらす。このような高いシロキサンの量でさえ、Izod切り欠き衝撃および多軸衝撃は、0.75%のシリコーン油を使用する場合よりも低い。
【0147】
より多い量のTSANの使用(実施例49〜50)により、シリコーン油を使用する場合、サンプルがM1評価を達成することができる。さらに、70wt%のPTFEおよび30wt%のターポリマーを含む、PTFE-ターポリマー添加剤の使用は、最も優れた耐衝撃性能、および、重要なことには、表面の美観を提供する。TSANよりもM1評価を得る点において効果的であり、これは0.375wt%のPTFE(実施例51)が発火を防ぐ一方、等量のPTFE(実施例49)を含む、0.75wt%のTSANは防がないからである。これらの実施例は、4mmにおけるM1評価を得るための最小量のPTFEは、約0.35wt%であることも示す(実施例51)。
【0148】
(実施例7および53〜68)
これらの実施例を、組成物の特性への様々な量のポリカーボネート-ポリシロキサン、シリコーン油、および芳香族ジホスフェート難燃剤の影響を示すために処方した。結果を表10に示す。
【0149】
【表10】

【0150】
実施例53〜54、58、および62は、全てドリップを示さず、臭素化ポリカーボネート樹脂(例えばPC-BR)を有しない。これらの実施例は、臭素化ポリカーボネート樹脂を有しない(例えばPC-BRを有しない)組成物を処方して、ドリップを有しないことを示す。
【0151】
表10におけるデータは、全ての実施例がドリッピングを示さず、低い煙の排出を示すことを示す。ポリカーボネート-ポリシロキサンの量の増加は、煙濃度の増加をもたらし(実施例55対実施例56〜57)、一方、シリコーン油の使用は、煙濃度を低下させる傾向がある(表9)。
【0152】
MBSの量の増加は、より多い煙(実施例58対実施例65〜66)をもたらし、これはMBS中のブタジエンの多い量の存在による。様々な量のBPADPは、既に存在する耐衝撃性改良剤/BPADPの比に応じて、煙濃度を増加させるか、低下させ得る。
【0153】
(実施例48〜51および69)
これらの実施例は、組成物の特性、特に組成物の加工性および組成物から加工される物品の表面特性へのフッ素ポリマーの影響を示す。実施例48〜51のための処方を表12に示す。実施例69は、比較の商業的に入手可能な難燃性の、耐衝撃性を改良したポリカーボネート組成物である(処方は示さない)。
【0154】
サンプルをシートに押出して形成した。それぞれの組成物の物質を、最初に100℃で4時間乾燥した。その後、組成物を表11に示すパラメータによって、押出し機を通して加工した。押出し機の温度が指定の点に達した場合、物質をホッパーに載せ、押出し機およびダイがパージされるまで押出し機を通して供給した(つまり目に見える欠陥が押出し品で目立たなくなるまで)。その後、物質を押出し機を通して供給し、シートに形成した(1.0、2.0、3.0および4.0mmの厚みにおける、39x100cm)。
【0155】
【表11】

【0156】
実施例48〜51の組成物および試験の結果を表12に示す。表12において、「押出し」は特性を押出し方向に試験したことを意味し、「ウェブ」は特性を押出し方向と垂直に試験したことを意味する。
【0157】
【表12】

【0158】
表12に示す通り、組成物は耐衝撃強度と剛性との優れたバランスを有する。実施例51は、商業的に入手可能な難燃性の、耐衝撃性を改良したポリカーボネート組成物(実施例69、3660MPaの弾性係数を有する)と比較して、改善された剛性(弾性係数(押出し) = 4261MPa)を有する。実施例51から作られたシートは、実施例48〜50から作られたシートのIzod切り欠き耐衝撃強度と比較して、両方の方向において23℃で測定された、改善されたIzod切り欠き耐衝撃強度をさらに有する。実施例48〜51は、標準的なポリカーボネートおよびいくつかの商業的に入手可能なポリカーボネート/ABSブレンド(データは示さない)と比較して、改善された化学的耐性を有することがさらに分かった。
【0159】
実施例48から製造されたシートは、非常にロバスト性のある難燃特性を有する。しかしながら、PTFE-ターポリマー組成物(co-PTFE)を含む実施例51から製造されたシートは、最も優れた全体の性能を有し、機械的特性(TSANを有する実施例48〜50と比較して、改善された耐衝撃性および延性を含む)およびM1/F1評価の優れたバランスを達成する。特定の有利な特徴において、M1/F1評価を、1.0mmから4.0mmの厚みの広い範囲にわたって達成する。実施例69と実施例51との間のM試験の結果の比較を表13に示す。F試験の結果は、1.0、2.0、3.0、および4.0mmの厚みにおける実施例1のF1であると予想される。
【0160】
【表13】

【0161】
実施例69および実施例48〜51の加工結果を表14に示す。
【0162】
【表14】

【0163】
表14における結果は、実施例51が優れた押出し性を有することを示す。
【0164】
さらに、実施例51の組成物から製造された、熱形成されたシートは、滑らかな表面を有する。実施例49および51のシートを、石英ランプを備えるMEAF真空形成装置で熱形成した。実施例49(TSANを含む)の熱形成したシートの表面は滑らかではなく、目に見える波型および凹凸を有する。実施例51(PTFE-ターポリマーを含む)の熱形成したシートの表面は、対照的に滑らかであり、目に見える凹凸は有さなかった。
【0165】
(実施例70〜73)
これらの実施例を、組成物の特性への、様々な量のPTFEの影響を示すために処方し、これは高分子量のポリカーボネートを使用し、着色剤を含む。結果を表15に示す。
【0166】
【表15】

【0167】
表15は、より多い量のPTFEが、ロバスト性のある低い煙性能をもたらすことを示す(実施例70対実施例72)。実施例73は、より高い分子量のPCが、さらに優れた低い煙性能をもたらすことを示す。さらに、より多い量のPTFE(実施例49〜50)により、シリコーン油を使用する場合、サンプルにM1評価を達成させることができる。最終的に、着色剤の使用は、これらの結果に逆の影響を与えない。
【0168】
化合物は、標準的な命名法を使用して記載される。例えば、任意の示された基によって置換されない任意の位置は、示された通り、または水素原子によって満たされた価数を有するものと理解される。2つの文字または記号の間にないダッシュ(「-」)は、置換基のための結合の点を示すために使用される。例えば、-CHOは、カルボニル基の炭素を通して結合される。本明細書において使用される場合、用語「置換された」は指定された原子または基上の少なくとも1つの任意の水素が別の基と交換されることを意味するが、ただし指定された原子の通常の価数を超えない。置換基がオキソ(つまり=O)である場合、原子上の2つの水素を交換する。本明細書において使用される場合、用語「組合せ」は、ブレンド、混合物、アロイ、反応生成物、または同様のものを含む。
【0169】
本明細書において使用される場合、「有機基」は、示された数の炭素原子の合計を有する、飽和または不飽和(芳香族を含む)の炭化水素を意味し、これは置換されていないか、1つまたは複数のハロゲン、窒素、硫黄、もしくは酸素で置換されていてもよいが、ただしこのような置換基は、熱可塑性ポリカーボネート組成物の望ましい特性、例えば透明性、耐熱性、または同様のものに逆の影響をあまり与えない。例示的な置換基には、これに限定されないが、C1〜12アルキル、C2〜12アルケニル、C2〜12アルキニル、C1〜12シクロアルキル、C6〜12アリール、C7〜12アルキルアリール、C7〜12アリールアルキル、-NO2、-SH、-CN、-OH、ハロゲン、C1〜12アルコキシ、C6〜12アリールオキシ、C1〜12アシル、C1〜12アルコキシカルボニル、C1〜12アルキル基を有して置換された第一級、第二級、および第三級アミン、アミド基が含まれる。
【0170】
本明細書において使用される場合、用語「ヒドロカルビル」は、炭素と水素、場合によって少なくとも1つのヘテロ原子、例えば酸素、窒素、ハロゲン、または硫黄を含む置換基を広く表し; 「アルキル」は、直鎖または分枝鎖の一価の炭化水素基を表し; 「アルキレン」は、直鎖または分枝鎖の二価の炭化水素基を表し; 「アルキリデン」は、1つの共通の炭素原子上に両方の価数を有する、直鎖または分枝鎖の二価の炭化水素基を表し; 「アルケニル」は、炭素-炭素二重結合によって結合された少なくとも2つの炭素原子を有する、直鎖または分枝鎖の一価の炭化水素基を表し; シクロアルキルは、少なくとも3つの炭素原子を有する、非芳香族の一価の単環式または多環式炭化水素基を表し; 「シクロアルケニル」は、少なくとも1の不飽和度を有し、少なくとも3つの炭素原子を有する、非芳香族の環式の二価の炭化水素基を表し; 「アリール」は、芳香族環の中に炭素のみを含む芳香族の一価の基を表し; 「アリーレン」は、芳香族環の中に炭素のみを含む芳香族の二価の基を表し; 「アルキルアリール」は、上で定義したアルキル基で置換されたアリール基を表し、4-メチルフェニルが例示的なアルキルアリール基であり; 「アリールアルキル」は、上で定義したアリール基で置換されたアルキル基を表し、ベンジルが例示的なアリールアルキル基であり; 「アシル」は、カルボニルの炭素の橋かけ(-C(=O)-)を通して結合した、示された炭素原子の数を有する上で定義したアルキル基を表し; 「アルコキシ」は、酸素の橋かけ(-O-)を通して結合した、示された炭素原子の数を有する上で定義したアルキル基を表し; 「アリールオキシ」は、酸素の橋かけ(-O-)を通して結合した、示された炭素原子の数を有する上で定義したアリール基を表す。
【0171】
開示された実施形態は、例示的な実施形態を参照して記載され、当業者は様々な変更を行うことができ、等価物は開示された範囲から離れることなくその要素を置換され得ることが理解されよう。さらに、多くの修正を、その本質的な範囲から離れることなく、特定の状況または物質を開示に適用することができる。それゆえ、開示は、最も優れたモードを考えて開示された特定の実施形態に限定されないが、開示された実施形態は、添付の請求の範囲中に入る全ての実施形態を含むだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、
(a) 15から40wt%未満の強化無機フィラー; および
(b) ポリマー成分の質量に基づいて、
68から99.9wt%の芳香族ポリカーボネート、
0.1から2wt%のフッ素化ポリマー、
任意の、0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤; ならびに
任意の、0.1から5wt%の、抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む、添加剤組成物
を含む、60より多く85wt%までのポリマー成分;
を含む熱可塑性ポリカーボネート組成物であって、前記熱可塑性ポリカーボネート組成物の成型されたサンプルが、3.0mmの厚みでNF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有しない、組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、20wt%未満の強化無機フィラーとしての粘土を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フィラーが滑石、雲母、または滑石と雲母の組合せである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、
(a) 10より多く40wt%未満の強化無機フィラーであって、20wt%未満の粘土が組成物中に存在し; および
(b) ポリマー成分の質量に基づいて、
68から99.9wt%の芳香族ポリカーボネート、
0.1から2wt%のフッ素化ポリマー、
任意の、0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤; ならびに
任意の、0.1から5wt%の、抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む、添加剤組成物
を含む、60より多く90wt%未満のポリマー成分;
を含む熱可塑性ポリカーボネート組成物であって、前記熱可塑性ポリカーボネート組成物の成型されたサンプルが、
1.5mmの厚みでNF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有さず、かつ、
以下の式:
SDI = (Ds max/100) + (VOF4/30)
によって定められた、10未満の煙濃度指数を有し、ここで、
SDIは煙濃度指数であり;
Ds maxは最大の煙濃度であり;
VOF4は最初の4分間の平均煙濃度であり、以下の式:
【数1】

で計算され、ここで、
Ds0は0分後における煙濃度であり、
Ds1は1分後における煙濃度であり、
Ds2は2分後における煙濃度であり、
Ds3は3分後における煙濃度であり、
Ds4は4分後における煙濃度であり、かつ、
Ds max、Ds0、Ds1、Ds2、Ds3およびDs4は、3mmの厚みでNF X 10-702によって測定される、組成物。
【請求項5】
15から30wt%未満の強化無機フィラーを含み、前記組成物が、NF P 92-505によって測定される場合、3mmの厚みでドリップを有しない、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の全質量に基づいて、10wt%未満の強化無機フィラーとしての粘土を含み、NF P 92-505によって測定される場合、3mmの厚みでドリップを有しない、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記フィラーが滑石である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
1から8wt%の有機リンを含む難燃剤をさらに含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
前記ポリマー成分の全質量に基づいて、1から25wt%のポリカーボネート-ポリシロキサンの耐衝撃性改良剤を含み、前記組成物の成型されたサンプルが、ISO 6603によって測定される、23℃における多軸衝撃試験において、100%の延性を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項10】
前記ポリマー成分の全質量に基づいて、6wt%未満の遊離スチレン-アクリロニトリルを含み、前記組成物の成型されたサンプルが、ISO 6603によって測定される、23℃における多軸衝撃試験において、100%の延性を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリマー成分の全質量に基づいて、0.1から5wt%のシリコーン油の耐衝撃性改良剤を含み、前記組成物の成型された3.2mmの厚みのサンプルが、ISO 6603によって測定される、23℃における多軸衝撃試験において、100%の延性を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物の全質量に基づいて、15から22wt%の強化無機フィラーとしての滑石を含み、前記組成物の成型された4mmの厚みのサンプルが、M2またはM1評価を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリマー成分の全質量に基づいて、0.2から2wt%のフッ素化ポリマーをさらに含み、前記組成物の成型されたサンプルが、23℃かつ3.2mmの厚みにおける多軸衝撃試験において100%の延性を有し、1mmの厚みでM1評価を有し、4mmの厚みでF1評価を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
15から22wt%の前記強化無機フィラーを含み、前記フィラーは滑石であり; 0wt%の粘土を含み; 88から95wt%の前記ポリカーボネートを含み; 0.1から5wt%のバルク状のアクリロニトリル-ブタジエンスチレンを含み; 0.5から1.0wt%のシリコーン油を含み; ハロゲン化難燃剤を含まず; 3から8wt%の芳香族ジホスフェート難燃剤を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項15】
前記フッ素化ポリマーが、フッ素化された骨格を有する熱可塑性のフッ素化ポリマーを伴うポリテトラフルオロエチレンである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、
(a) 15から22wt%の滑石;
(b) 5wt%未満の粘土; および
(c) ポリマー成分の質量に基づいて、
79から98.7wt%の、ビスフェノールAから得られる単位を含む芳香族ポリカーボネート;
0.1から2wt%のフッ素化ポリマー;
1から8wt%の、ビスフェノールAから得られる単位を含む、リンを含む難燃剤;
0から5wt%のバルク状のアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン;
0.1から5wt%のシリコーン油;
0.1から1wt%の、抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む、添加剤組成物;
を含む、78から85wt%のポリマー成分;
を含む熱可塑性ポリカーボネート組成物であって、前記熱可塑性ポリカーボネート組成物の成型されたサンプルが、
NF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有さず;
以下の式:
SDI = (Ds max/100) + (VOF4/30)
によって定められた、10未満の煙濃度指数を有し、ここで、
SDIは煙濃度指数であり;
Ds maxは最大の煙濃度であり;
VOF4は最初の4分間の平均煙濃度であり、以下の式:
【数2】

で計算され、ここで、
Ds0は0分後における煙濃度であり、
Ds1は1分後における煙濃度であり、
Ds2は2分後における煙濃度であり、
Ds3は3分後における煙濃度であり、
Ds4は4分後における煙濃度であり、かつ、
Ds max、Ds0、Ds1、Ds2、Ds3およびDs4は、3mmの厚みでNF X 10-702によって測定され;
ISO 6603によって測定される、23℃における多軸衝撃試験において、100%の延性を有し; かつ4mmの厚みでM1評価を有する、組成物。
【請求項17】
前記組成物の成分を組み合わせることを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の組成物を形成する方法。
【請求項18】
請求項1から16のいずれか一項に記載の組成物を含む物品。
【請求項19】
請求項1から16のいずれか一項に記載の組成物を成型すること、または押出すことを含む、物品を製造するための方法。
【請求項20】
熱可塑性ポリカーボネート組成物の全質量に基づいて、
(a) 10より多く40wt%未満の強化無機フィラー;
(b) ポリマー成分の質量に基づいて、
68から99.7wt%の芳香族ポリカーボネート、
0.3から2wt%の、フッ素化された骨格を有する熱可塑性のフッ素化ポリマーを伴うポリテトラフルオロエチレンを含む、フッ素化ポリマー、
任意の、0.1から25wt%の耐衝撃性改良剤; ならびに
任意の、0.1から5wt%の、抗酸化剤、離型剤、および安定化剤を含む、添加剤組成物
を含む、60より多く90wt%未満のポリマー成分;
を含む熱可塑性ポリカーボネート組成物を含むシートであって、前記シートが、
1.5mmの厚みでNF P 92-505によって測定される場合、ドリップを有さず、
以下の式:
SDI = (Ds max/100) + (VOF4/30)
によって定められた、10未満の煙濃度指数を有し、ここで、
SDIは煙濃度指数であり;
Ds maxは最大の煙濃度であり;
VOF4は最初の4分間の平均煙濃度であり、以下の式:
【数3】

で計算され、ここで、
Ds0は0分後における煙濃度であり、
Ds1は1分後における煙濃度であり、
Ds2は2分後における煙濃度であり、
Ds3は3分後における煙濃度であり、
Ds4は4分後における煙濃度であり、かつ、
Ds max、Ds0、Ds1、Ds2、Ds3およびDs4は、3mmの厚みでNF X 10-702によって測定され、かつ、
4mmの厚みのシートでM1評価およびF1評価を有する、シート。
【請求項21】
前記シートが、1mmから6mmの厚みを有する、請求項20に記載のシート。
【請求項22】
前記ポリマー成分の全質量に基づいて、0.1から5wt%のシリコーン油の耐衝撃性改良剤を含み、4mmの厚みのシートが、ISO 6603によって測定される、23℃における多軸衝撃試験において、100%の延性を有する、請求項20または21に記載のシート。
【請求項23】
前記強化無機フィラーが滑石であり、粘土が存在しない、請求項20から22のいずれか一項に記載のシート。
【請求項24】
前記フッ素ポリマーが、前記フッ素化ポリマーの全質量に基づいて、70から90wt%のポリテトラフルオロエチレンと、10から30wt%の、フッ素化された骨格を有する熱可塑性のフッ素化ポリマーとを含む、請求項20に記載のシート。
【請求項25】
病院、学校、電車、または飛行機のためのインテリアの部品の形態であって、前記インテリアの部品が、天井、壁、座席、座席のトレー、背もたれ、被覆材、および窓の囲いからなる群から選択される、請求項20から24のいずれか一項に記載のシート。
【請求項26】
請求項20から25のいずれか一項に記載のシートを熱形成して物品を形成することを含む、物品を形成するための方法。
【請求項27】
前記物品が、裸眼によって眺められる表面の凹凸が存在しない表面を有する、請求項26に記載の方法。

【公表番号】特表2012−511088(P2012−511088A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539792(P2011−539792)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/067122
【国際公開番号】WO2010/077644
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(508171804)サビック・イノベーティブ・プラスチックス・アイピー・ベスローテン・フェンノートシャップ (86)
【Fターム(参考)】