説明

難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板及びその製造方法

【課題】 本発明は、難燃性及び環境衛生に優れた難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板を提供する。
【解決手段】 本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板は、ポリスチレン系樹脂を熱安定剤の存在下にて発泡剤を用いて押出発泡させて得られた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板であって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)1〜8重量部を含有し、且つ、Mg,Al,Si,Ca,Fe,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,P,Na,K及びSからなる群から選ばれた一種以上の金属元素の総量が発泡板1g当たり300μg以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた難燃性を有する難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリスチレン系樹脂発泡板は、ポリスチレン系樹脂を押出機に供給して溶融混練し、この溶融状態のポリスチレン系樹脂に発泡剤を圧入した上で押出機から押出発泡させて製造されている。
【0003】
ポリスチレン系樹脂発泡板は、建材分野に多く用いられ、難燃性が求められており、ポリスチレン系樹脂発泡板の難燃剤としては、耐熱性に優れ且つ少ない添加量で難燃性を発揮することから、ヘキサブロモシクロドデカンが用いられてきた。
【0004】
このヘキサブロモシクロドデカンは、その分解開始温度が約225℃であり、押出発泡条件下において分解しにくいと共に、燃焼時には、容易に分解して難燃効果を発揮しやすいためであると考えられる。
【0005】
ところが、ヘキサブロモシクロドデカンは、難分解性で高蓄積性のある化合物であることから、環境衛生上、好ましいものではなく、これに代わる難燃剤が所望されている。
【0006】
そこで、特許文献1には、難燃剤として、ハロゲン化芳香族アリルエーテル類と、ハロゲン化環状脂肪族化合物を除くハロゲン化脂肪族化合物あるいはその誘導体とを含有するものが提案されている。
【0007】
しかしながら、ハロゲン化芳香族アリルエーテル類は、分解開始温度が200℃以下と低いために、押出発泡条件下では分解してしまい、この分解生成物がポリスチレン系樹脂の分解を誘発しポリスチレン系樹脂を低分子量化するため、発泡性が低下して発泡板の製造が困難となったり、たとえ発泡板が製造できたとしても品質的に満足のいくものではなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−301064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、難燃性及び環境衛生に優れた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板は、ポリスチレン系樹脂を熱安定剤の存在下にて発泡剤を用いて押出発泡させて得られた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板であって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)1〜8重量部を含有し、且つ、Mg,Al,Si,Ca,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,Na,K及びSからなる群から選ばれた一種以上の金属元素の総量が発泡板1g当たり300μg以下であることを特徴とする。
【0011】
上記ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体又はこれらスチレン系単量体を2種以上組み合わせた共重合体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、無水マレイン酸、ブタジエンなどの単量体と上記スチレン系単量体との共重合体などが挙げられる。なお、共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体の何れであってもよい。又、ポリスチレン系樹脂が50重量%以上含有しておれば、ポリスチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂を添加してもよい。
【0012】
又、本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板は、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)を含有している。そして、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)は、少ないと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の難燃性が低下する一方、多いと、ポリスチレン系樹脂の可塑化が大きくなって押出発泡性が低下し、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の高発泡倍率化を図ることができないので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して1〜8重量部に限定され、1.5〜5重量部が好ましい。
【0013】
このテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)は、その分解開始温度が約233℃であって、ヘキサブロモシクロドデカンの分解開始温度(約225℃)に近く、ヘキサブロモシクロドデカンと同様に、押出発泡条件下において分解しにくいと共に、燃焼時には、容易に分解して難燃効果を発揮しやすい。
【0014】
しかしながら、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)を単にポリスチレン系樹脂に添加しただけでは、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の製造工程中に、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)が何らかの作用を受けて分解或いは変質し、その結果、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板が黄変したり或いは難燃効果が発現しないといった問題点や、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の高発泡倍率化を図ることができないといった問題点を生じる。
【0015】
そこで、発明者らが、鋭意研究したところ、特定の金属元素の総量が所定量を越えると上述の問題点が生じることを見出し、発泡板1g当たりの特定の金属元素の総量を300μg以下に抑えることによって、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)が発泡板の製造工程中にて分解するのを概ね抑えることができ、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の黄変を防止し、発泡板に優れた難燃性を付与することができると共に、発泡板の高発泡倍率化を図ることができることを見出した。
【0016】
具体的には、Mg,Al,Si,Ca,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,Na,K及びSからなる群から選ばれた一種以上の金属元素の総量が難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板1g当たり300μg以下、好ましくは200μg以下、より好ましくは100μg以下となるように調整される。
【0017】
金属元素のうち、上述の所定の金属元素を所定量以下に抑えることによって、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の黄変及び難燃性の低下を防止することができる理由は明確に解明されていないが、上述した金属元素は、発泡板の製造工程中に、難燃剤であるテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)に何らかの化学的作用を及ぼし難燃剤の分解を誘発するからではないかと考えられる。
【0018】
そして、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板中における上述の所定の金属元素を上述の所定量以下に抑える方法としては、ポリスチレン系樹脂、難燃剤、熱安定剤、発泡剤、気泡核剤などの難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の製造に用いられる各原料中に含有される上述した所定の金属元素の量が各原料1gに対して300μg以下となるように調整する方法が挙げられる。
【0019】
特に、ポリスチレン系樹脂発泡板の製造に従来から用いられているタルクや炭酸カルシウムなどの無機化合物や、ステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩はそれぞれ、上述の所定の金属元素を1g当たり300μgを大きく越えて含有していることから用いないことが好ましい。
【0020】
ここで、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板1g当たりの金属元素の総量の測定方法としては、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板から試験片1.5gを採取し、この試験片をるつぼに入れて450℃にて3時間に亘って電気炉にて加熱して灰化させる。
【0021】
そして、上記るつぼを電気炉から取り出して3分間に亘って常温にて放置した後、るつぼ内に35〜37重量%の精密分析用塩酸2ミリリットルを加えて5分間に亘って常温にて放置、冷却する。
【0022】
しかる後、上記るつぼ内に蒸留水を10ミリリットル加えた後にNo.7の濾紙で濾過して濾液を収集する一方、濾紙上に残った残渣を蒸留水で洗浄し、この残渣を洗浄して得られる汚水を上記濾液に加えて、50ミリリットルの測定液を作製した。
【0023】
しかる後、上記測定液中の金属元素量を金属元素分析装置を用いて測定した。なお、測定条件としては、測光高さ5〜10mm、高周波出力0.60〜1.30kW、キャリア流量1.0〜1.2リットル/分、プラズマ流量16.0リットル/分、補助流量0.5リットル/分とする。なお、上記金属元素分析装置としては、セイコー電子工業社から商品名「ICP SPS−4000」で市販されている分析装置を挙げることができる。
【0024】
又、上記難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板には、難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)に加えて、含燐化合物を併用してもよい。
【0025】
このような含燐化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレンジルホスフェート、縮合燐酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、トリス(ブロモネオペンチル)ホスフェート、トリス(ブロモフェニル)ホスフェートなどが挙げられる。
【0026】
そして、上記難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板中における含燐化合物の含有量としては、多いと、ポリスチレン系樹脂の可塑化が大きくなり、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板に収縮が発生することがあるので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して5重量部以下が好ましい。
【0027】
更に、上記難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板中に気泡核剤を添加してもよく、発泡剤として無機系物理発泡剤や化学発泡剤を用いない場合には添加することが好ましい。このような気泡核剤としては、Mg,Al,Si,Ca,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,Na,K及びSからなる群から選ばれた一種以上の金属元素を含んでいないものがよい。
【0028】
上記気泡核剤としてポリテトラフルオロエチレンを用いることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンのみを用いることがより好ましい。なお、気泡核剤とは、ポリスチレン系樹脂が発泡する際に気泡座を形成して気泡を微細化する作用を有するものをいう。
【0029】
そして、後述する無機系物理発泡剤及び化学発泡剤の中には気泡核剤の作用を奏するものもあり、このような無機系物理発泡剤や化学発泡剤を用いる場合には、これら無機系物理発泡剤や化学発泡剤の添加量も考慮して、気泡核剤の含有量が適宜、調整される。なお、ポリテトラフルオロエチレンは、旭硝子社から商品名「アフロン169J」、三井・デュポンフロロケミカル社から商品名「TLP10F−1」「MP100」で市販されている。
【0030】
具体的には、気泡核剤の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板中における含有量は、少ないと、気泡核剤を添加した効果が発現せず、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の気泡が粗くなり、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の外観や断熱性が低下することがある一方、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の連続気泡率が高くなったり或いは難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の高発泡倍率化を図ることができないことがあるので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.1〜7.0重量部が好ましく、0.3〜5.0重量部がより好ましい。
【0031】
又、本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板を製造する際に用いられる発泡剤としては、従来からポリスチレン系樹脂の押出発泡に用いられていたものであれば、特に限定されず、例えば、有機系物理発泡剤、無機系物理発泡剤、化学発泡剤が挙げられ、ポリスチレン系樹脂との相溶性に優れており発泡性を向上させることができ、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の断熱性が優れているので、有機系物理発泡剤を含有することが好ましい。なお、発泡剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0032】
ここで、上記有機系物理発泡剤とは、有機系化合物であって、押出機内において或いは押出機から押出される際に気体となってポリスチレン系樹脂を発泡させるものをいう。又、上記無機系物理発泡剤とは、無機系化合物であって、押出機内において或いは押出機から押出される際に気体となってポリスチレン系樹脂を発泡させるものをいう。更に、上記化学発泡剤とは、熱分解によって気体を発生して押出機から押出されるポリスチレン系樹脂を発泡させるものをいう。
【0033】
発泡剤を具体的に説明すると、上記有機系物理発泡剤としては、例えば、飽和炭化水素、その他の有機系非フロン発泡剤が挙げられ、炭素数が3〜5の飽和炭化水素と、その他の有機系非フロン発泡剤とを併用することが好ましい。
【0034】
上記飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンなどが挙げられ、押出発泡時の発泡性及び難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の断熱性が優れていることから、ノルマルブタン、イソブタン及びノルマルペンタンからなる群から選ばれた一種以上の飽和炭化水素が好ましい。
【0035】
更に、上記有機系非フロン発泡剤としては、ジメエチルエーテル、塩化メチル及び塩化エチルからなる群から選ばれた一種以上の化合物が好ましい。なお、有機系非フロン発泡剤は、Mg,Al,Si,Ca,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,Na,K及びSからなる群から選ばれた金属元素を含有しないことが好ましい。
【0036】
そして、有機系物理発泡剤として、上記炭素数が3〜5の飽和炭化水素と、その他の有機系非フロン発泡剤とを併用する場合、発泡剤中における炭素数が3〜5である飽和炭化水素の含有量は、少ないと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の断熱性が低下することがある一方、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の難燃性が低下することがあるので、15〜50重量%が好ましく、20〜45重量%がより好ましい。同様の理由で、有機系非フロン発泡剤の発泡剤中における含有量は、50〜85重量%が好ましく、55〜80重量%がより好ましい。
【0037】
又、上記無機系物理発泡剤としては、例えば、二酸化炭素、水、窒素などが挙げられ、そして、上記化学発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどが挙げられ、この化学発泡剤には、Mg,Al,Si,Ca,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,Na,K及びSからなる群から選ばれた金属元素を含有しないことが好ましい。
【0038】
上記発泡剤の添加量は、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の発泡倍率に応じて適宜調整されるが、少ないと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の発泡倍率が低すぎて発泡板の軽量性や断熱性などの特性を発揮させることができないことがある一方、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板中に大きな空隙が発生して品質が低下することがあるので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して1〜15重量部が好ましい。
【0039】
更に、発泡剤として有機系物理発泡剤を含有する場合、有機系物理発泡剤の添加量は、少ないと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の断熱性が低下することがある一方、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の難燃性が低下することがあるので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して4.0〜12.0重量部が好ましい。
【0040】
又、発泡剤として無機系発泡剤又は化学発泡剤の一方或いは双方を用い、これらの発泡剤が気泡核剤の作用を有する場合、これらの発泡剤の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板中における含有量は、少ないと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の気泡が大きくなり断熱性や機械的強度が低下することがある一方、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の連続気泡率が高くなることがあるので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.1〜3重量部が好ましい。
【0041】
又、発泡剤として、炭素数が3〜5の飽和炭化水素と、その他の有機系非フロン発泡剤とを含有する場合、上記難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板における押出発泡後30日を経過した発泡板に含まれる炭素数が3〜5である飽和炭化水素の量は、少ないと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の断熱性が低下する一方、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の難燃性が低下したり或いは回収再利用のためリペレット化する際の粉砕工程で発火する危険性が大きくなるので、1〜4重量%が好ましく、2〜3重量%がより好ましい。
【0042】
なお、押出発泡後30日を経過した難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板に含まれる飽和炭化水素量は下記の要領で測定されたものをいう。即ち、押出発泡後30日経過した難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板から、該難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の両面と、この両面のそれぞれから厚み方向に内側に2mmだけ入った部分との間にある表層部分を除外し、この表層部分が除外された難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板から、押出方向に35mm、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の表面に沿い且つ押出方向に直交する方向に5mm、厚み方向に5mmの大きさを有する直方体形状の試験片を切り出し、この試験片の重量を測定する。
【0043】
そして、上記試験片を150℃の熱分解炉に供給してガスクロマトグラフィーからチャートを得、予め測定しておいた飽和炭化水素の各成分毎の検量線に基づいて上記チャートから試験片中の飽和炭化水素の各成分量を算出し、各成分量の合計を総飽和炭化水素量とし、以下の式に基づいて求める。なお、上記ガスクロマトグラフィーとしては、例えば、島津製作所社から商品名「GC−14B」で市販されている。
(押出発泡後30日を経過した難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板に含まれる飽和炭化水素量)=100×試験片中の総飽和炭化水素量/試験片の重量
【0044】
更に、本発明では、ポリスチレン系樹脂を熱安定剤の存在下、上記発泡剤を用いて発泡させている。熱安定剤を添加することによって製造工程中にテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)が分解するのを防止して、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板が茶色に変色(茶変)するのを防止すると共に、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板に優れた難燃性を付与することができる。
【0045】
このような熱安定剤としては、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン系酸化防止剤、テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンなどのヒンダーフェノール系酸化劣化防止剤、ヒンダードアミン系酸化劣化防止剤などが挙げられ、単独で用いられても併用されてもよい。
【0046】
そして、上記熱安定剤の添加量としては、少ないと、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の茶変を防止することができないことがある一方、多くても、熱安定剤を添加した効果に変化はなくコストが上昇するだけであるので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.05〜1.0重量部が好ましい。
【0047】
なお、上記難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板には、ステアリン酸モノグリセライド等の帯電防止剤;顔料等の着色剤;ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸金属塩等の添加剤が含有されてもよい。これら添加剤も、Mg,Al,Si,Ca,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,Na,K及びSからなる群から選ばれた金属元素を含有しないことが好ましい。
【0048】
そして、本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法としては、汎用の押出発泡方法が用いられ、(1) ポリスチレン系樹脂、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、熱安定剤及び化学発泡剤、必要に応じて気泡核剤を押出機に供給して溶融、混練し、溶融状態のポリスチレン系樹脂中に物理発泡剤を圧入した上で押出機から押出発泡することによって難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板を製造する方法、(2) ポリスチレン系樹脂、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、熱安定剤、必要に応じて気泡核剤を押出機に供給して溶融、混練し、この溶融状態のポリスチレン系樹脂中に物理発泡剤を圧入した後に押出発泡することによって難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板を製造する方法が好ましい。
【0049】
ここで、難燃剤であるテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)を押出機に供給するにあたっては、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)を溶媒に溶解させることなく押出機に供給することが好ましい。なお、上記溶媒とは、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の溶解度が10重量%以上であるものをいう。
【0050】
これは、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)を溶媒に溶解させた上で押出機に供給すると、この溶媒が、押出機中にて溶融状態のポリスチレン系樹脂を可塑化し、その結果、ポリスチレン系樹脂を押出発泡する際に、ポリスチレン系樹脂の溶融粘度の不足を招いて破泡を生じてしまい、高発泡倍率の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板を得ることができないことがあるからである。
【0051】
そして、得られた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の発泡倍率は、小さいと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の軽量化を図ることができないことがある一方、大きいと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の機械的強度が低下することがあるので、25〜40倍が好ましい。ここで、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の発泡倍率は、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板を構成しているポリスチレン系樹脂の密度を、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の密度で除したものをいう。なお、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の密度は、JIS K7222に準拠して測定されたものをいう。
【発明の効果】
【0052】
本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板は、ポリスチレン系樹脂を熱安定剤の存在下にて発泡剤を用いて押出発泡させて得られた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板であって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)1〜8重量部を含有し、且つ、Mg,Al,Si,Ca,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,Na,K及びSからなる群から選ばれた一種以上の金属元素の総量が発泡板1g当たり300μg以下であることを特徴とするので、発泡板の製造工程中におけるテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の分解を概ね防止しており、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板は茶色に着色しておらず美麗な外観を呈し且つ優れた難燃性を有している。
【0053】
しかも、難燃剤であるテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)は、その分解開始温度が約233℃であり、特定の金属元素の総量を抑えていることも相俟って、発泡板の製造工程中におけるテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の分解を概ね阻止してポリスチレン系樹脂の低分子量化を防止している一方、燃焼時にはテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)が速やかに分解して難燃性を発揮することができ、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板は、優れた難燃性を有すると共に高発泡倍率化を容易に図ることができ、種々の用途に好適に用いることができる。
【0054】
そして、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板が、発泡核剤としてポリテトラフルオロエチレンを含有する場合には、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板中に含有される所定の金属元素の総量を抑えて、発泡板の製造工程中におけるテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の分解を概ね防止して難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の茶変を効果的に抑え、外観及び難燃性が更に優れた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板とすることができる。
【0055】
しかも、ポリテトラフルオロエチレンは、ポリスチレン系樹脂との間の摩擦抵抗が低く、ポリスチレン系樹脂との馴染み性に優れており、発泡板の製造中における溶融状態のポリスチレン系樹脂中に円滑に且つ均一に分散し、その結果、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の気泡を略均一且つ微細なものとすることができ、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板をより均質にして断熱性に優れたものとすることができる。
【0056】
そして、上記難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板において、発泡剤が、炭素数が3〜5の飽和炭化水素と、その他の有機系非フロン発泡剤とを含有し、押出発泡後30日を経過した発泡板中に、上記飽和炭化水素を1〜4重量%含有する場合には、さらに優れた断熱性を有する。
【0057】
又、上記難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板において、炭素数が3〜5の飽和炭化水素が、ノルマルブタン、イソブタン及びノルマルペンタンからなる群から選ばれた一種以上の飽和炭化水素である場合や、有機系非フロン発泡剤が、ジメチルエーテル、塩化メチル及び塩化エチルからなる群から選ばれた一種以上の化合物である場合には、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の断熱性をより優れたものとすることができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1〜7、比較例1〜4)
押出機として、口径が50mmの第一押出機の先端に口径が65mmの第二押出機が接続されてなるタンデム型押出機を用い、上記第一押出機に、ポリスチレン(東洋スチレン社製 商品名「HRM−18」、密度:1.05g/cm3 )100重量部に対して、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、トリフェニルホスフェート及びトリス(ブロモネオペンチル)ホスフェート、熱安定剤としてテトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(チバスペシャルティケミカルズ社製商品名「イルガノックス1010」)及びサイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(旭電化社製 商品名「アデカスタブPEP−36)、気泡核剤としてポリテトラフルオロエチレン(旭硝子社社製 商品名「アクロン 169J」)及びタルク、並びに、発泡剤としてブタン(ノルマルブタン:イソブタン(重量比)=7:3)、ジメチルエーテル、塩化メチル、二酸化炭素、アゾジカルボンアミドを表1に示した所定量づつ供給して溶融混練した後、連続的に第二押出機に供給して発泡に適した温度となるようにポリスチレンを冷却した上で第二押出機の先端に取り付けたTダイ(リップ幅:70mm、リップ厚み:1.2mm)から35kg/時間の吐出量で押出発泡することによって、断面が横長長方形状の厚みが30mmの難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板を連続的に製造した。なお、比較例3,4は、ポリスチレンの溶融粘度が低下して押出発泡することができず、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板を得ることができなかった。なお、表1において、テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンを熱安定剤Aと、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを熱安定剤Bと表記した。
【0059】
以上の如くして得られた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の燃焼性及び厚み方向の平均気泡径を下記の要領で測定し、更に、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板1g当たりに含有されるMg,Al,Si,Ca,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,Na,K及びSの各量、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板における押出発泡後30日経過した難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板に含まれる飽和炭化水素の総量、並びに、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の発泡倍率を上述の要領で測定し、その結果を表1,2に示した。
【0060】
(燃焼性)
難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板から5個の試験片を切り出した。そして、この5個の試験片についてJIS A9511-1995 に規定された測定方法Aの燃焼性試験に準拠して測定し、下記の基準にて判断した。
○・・・上記測定方法Aの燃焼性を満足する。即ち、5個の試験片の全てについて炎が 3秒以内に消えると共に残じんがなく、燃焼限界支持線を越えて燃焼しなかっ た。
△・・・自消性は有するものの、○の基準を満足しなかった。
×・・・自消性は認められなかった。
【0061】
(平均気泡径)
難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板における厚み方向の平均気泡径は、ASTM D2842−69の試験方法に準拠して測定された平均弦長に基づいて算出されたものをいう。
【0062】
具体的には、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板をその押出方向に平行で且つ厚み方向に平行な面で切断し、切断面における中央部を走査型電子顕微鏡を用いて20倍に拡大して撮影した。なお、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の厚み方向とは、該発泡板の表面に対して直交する方向をいう。
【0063】
次に、撮影した写真上に、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の厚み方向に平行で且つ写真上長さが60mmの直線を描き、この直線上にある気泡数から、各気泡の平均弦長(t)を下記式aに基づいて算出した。
平均弦長(t)=60/(気泡数×写真の倍率)・・・式a
【0064】
そして、下記式bに基づいて、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板における厚み方向の平均気泡径を算出した。
平均気泡径=t/0.616・・・式b
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂を熱安定剤の存在下にて発泡剤を用いて押出発泡させて得られた難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板であって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)1〜8重量部を含有し、且つ、Mg,Al,Si,Ca,Fe,Zn,Ba,Cu,Mn,Sr,Cr,Na,K及びSからなる群から選ばれた一種以上の金属元素の総量が発泡板1g当たり300μg以下であることを特徴とする難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板。
【請求項2】
発泡核剤としてポリテトラフルオロエチレンを含有することを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板。
【請求項3】
発泡剤が、炭素数が3〜5の飽和炭化水素と、その他の有機系非フロン発泡剤とを含有し、押出発泡後30日を経過した発泡板中に、上記飽和炭化水素を1〜4重量%含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板。
【請求項4】
炭素数が3〜5の飽和炭化水素が、ノルマルブタン、イソブタン及びノルマルペンタンからなる群から選ばれた一種以上の飽和炭化水素であることを特徴とする請求項3に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板。
【請求項5】
有機系非フロン発泡剤が、ジメチルエーテル、塩化メチル及び塩化エチルからなる群から選ばれた一種以上の化合物であることを特徴とする請求項3に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板。
【請求項6】
ポリスチレン系樹脂100重量部、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)1〜8重量部及び熱安定剤、並びに、ポリテトラフルオロエチレンのみを気泡核剤として押出機に供給して溶融混練し、溶融状態のポリスチレン系樹脂中に物理発泡剤を圧入した後に押出発泡することを特徴とする難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。
【請求項7】
押出機に化学発泡剤を供給すると共に、物理発泡剤として有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤を併用することを特徴とする請求項6に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。

【公開番号】特開2006−45375(P2006−45375A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229157(P2004−229157)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】