説明

難燃性樹脂組成物およびその製造方法

【課題】 高度の難燃性と優れた機械特性を有し、廃棄時の埋立や焼却などの環境問題がなく、リサイクルが可能であり、量産性、耐熱性、耐摩耗性、耐油性および圧接加工性に優れた難燃樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂10〜90質量%並びに(b)パーオキサイド架橋型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂10〜90質量%からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、(c)有機パーオキサイド0.01〜0.6質量部、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤0.03〜1.8質量部、金属水和物(B)50〜300質量部の割合で含有し、前記金属水和物(B)は、シランカップリング剤で前処理された金属水和物であって、前記熱可塑性樹脂成分(A)の溶融温度以上で加熱・混練してなる難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性と耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物と、該組成物を被覆材とする配線材、光ファイバコードその他の成形部品に関するものである。より詳しくは、本発明は、電気・電子機器の内部ないしは外部配線に使用される絶縁電線、圧接性に優れた絶縁電線、電気ケーブル、電気コードや光ファイバ心線、光ファイバコードなどの被覆材として好適な難燃性樹脂組成物および該組成物を用いた配線材その他の成形部品に関し、特に燃焼時に腐食性ガスの発生がなく、耐油性、耐摩耗性、使用後のリサイクル処理に適し、環境問題に対応した難燃性樹脂組成物とそれを用いた配線材その他の成形部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線・ケーブル・コードや光ファイバ心線、光ファイバコードには、難燃性、耐熱性、機械特性(例えば、引張特性、耐摩耗性)など種々の特性が要求されている。このため、これらの配線材に使用される被覆材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドや、分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリオレフィンコンパウンドが主として使用されていた。しかし、これらを燃焼した場合には、被覆材料に含まれるハロゲン化合物から腐食性ガスが発生することがあり、近年、この問題が議論されている。このため、ハロゲン系ガスなどの発生の恐れがないノンハロゲン難燃材料で被覆した配線材の検討が行われている。ノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させており、例えばエチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体などのエチレン系共重合体に、難燃剤として水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水和物を多量に配合した材料が配線材に使用されている。
【0003】
電気・電子機器の配線材に求められる難燃性、耐熱性、機械特性(例えば引張特性、耐摩耗性)などの規格は、UL、JISなどで規定されている。特に、難燃性に関しては、要求水準(その用途)などに応じてその試験方法が変わってくる。したがって実際は、少なくとも要求水準に応じた難燃性を有すればよい。例えば、UL1581(電線、ケーブルおよびフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires,Cables and Flexible Cords))に規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)(VW−1)や、JIS C 3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に規定される水平試験や傾斜試験に合格する難燃性などがそれぞれ挙げられる。この中で、これまで、ノンハロゲン難燃材料に、VW−1や傾斜試験に合格するような高度の難燃性を付与する場合、エチレン系共重合体などの樹脂成分100質量部に対して、難燃剤である金属水和物を120質量部を越える量で配合する必要があり、この結果として、被覆材料の引張特性や耐摩耗性などの機械特性が著しく低下するという問題があった。この問題を解決するために、赤リンを配合することにより金属水和物の配合量を樹脂100質量部に対して120質量部以下に減少させる方法がとられている。ところで、現在、電気・電子機器に使用されているポリ塩化ビニルコンパウンドやハロゲン系難燃剤を配合したポリオレフィンコンパウンドを被覆材料とする配線材は、配線材の種類や接続部を区別することを目的として、電線・電気ケーブル・電気コードの表面に印刷を行ったり、数種類の色に着色して使用されている。ところが、高度の難燃性と機械特性を両立させるために金属水和物と赤リンを配合したノンハロゲン被覆材料は、赤リンの発色のため、その上に印刷することや任意の色に着色することができず、容易に種類や接続部を区別することができる配線材が得られないという問題がある。さらに、リンを含む難燃材料から廃棄後に放出されるリンについても、環境への影響、例えば富栄養化による水資源の汚染などが問題となっている。
【0004】
また、電気・電子機器に使用される配線材については、連続使用の状態で80℃〜105℃の耐熱性が要求される場合がある。このような場合、配線材に高耐熱性を付与することを目的として、被覆材料を電子線架橋法や化学架橋法などによって架橋する方法がとられている。しかしながら、架橋処理された配線材は、被覆材料の耐熱性が向上している反面、その再溶融が不可能であるため、再利用が難しく、リサイクル性が悪いことが指摘されている。例えば、導体に使用されている金属を回収する場合にも、被覆材を燃焼するなどしなければならない場合が多く、従来のハロゲン又はリンを含有する被覆材に伴う前記環境への問題を避けることができない。また一般に、難燃性の高いノンハロゲン電線の場合、耐油性に乏しく、耐油性が求められる部分への使用が困難であった。さらに、自動車などに使用される電線においては、高い摩耗特性が求められるが、従来のノンハロゲン電線は耐摩耗性に乏しく、自動車等への使用は困難であった。
【0005】
また電線の加工方法によって、電線には追加的な種々の特性が要求される。例えば、OA機器、オーディオ、パソコン等に使用する電線では、電線を複数本一度に加工しうる圧接加工性が求められる。圧接加工する際には電線を、プラスチック製のストレインリリーフ部で固定することが行われるが、この場合に金属製の端子と圧接加工する際、金属製の端子が接触した部分の電線の被覆層のみをきれいに破ることが要求され、被覆層が余分に裂けて導体露出しないことが必要とされる。またストレインリリーフ部に固定する際には電線の被覆層がつぶれると、固定が不十分となる。さらに電線を通す際の水平保持性の点から、被覆層には高い硬度や電線の張りが要求される。これらの要求性能をすべて満たす電線としては、従来は、硬質のPVC電線が使用されている。通常のノンハロゲンのポリオレフィン系樹脂組成物で被覆した絶縁電線の場合は、圧接時に被覆が裂けて導体が露出してしまったり、水平保持性が悪いので圧接加工時の通線性が悪かったり、ストレインリリーフ部に固定した場合の被覆層のつぶれが大きく抜けやすかったりするという問題がある。このような場合、圧接加工が不可能であるか、あるいは加工時間がかかって製品の量産性に乏しくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高度の難燃性と優れた機械特性を有し、任意の色に着色でき、かつ、廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や、焼却による多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題がなく、マテリアルリサイクルが可能である難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。とりわけ、本発明は量産性、耐熱性、耐摩耗性及び耐油性とともに圧接加工性にも優れた難燃性樹脂組成物とそれを用いた絶縁電線、光ファイバケーブル、その他の成形部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は以下の発明により解決された。
(1)(a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂10〜90質量%並びに(b)パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴム10〜90質量%からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、(c)有機パーオキサイド0.01〜0.6質量部、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤0.03〜1.8質量部、並びに金属水和物(B)50〜300質量部の割合で含有し、前記金属水和物(B)は、(i)前記金属水和物(B)が50質量部以上100質量部未満の場合は、前記熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対してシランカップリング剤で前処理された金属水和物が50質量部以上;(ii)前記金属水和物(B)が100質量部以上300質量部以下の場合は、金属水和物(B)の少なくとも半量が、シランカップリング剤で前処理された金属水和物である組成の混合物であって、前記熱可塑性樹脂成分(A)の溶融温度以上で加熱・混練してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
(2)前記(b)成分がシングルサイト触媒の存在下で合成されたエチレン・α−オレフィン樹脂を含有し、かつ、エチレン・プロピレン共重合体ゴムを前記熱可塑性樹脂成分(A)に対し0〜30質量%含有していることを特徴とする(1)項記載の難燃性樹脂組成物。
(3)(a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂、(b)パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴム、(c)有機パーオキサイド、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤、並びに金属水和物(B)の全部を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で加熱・混練し、架橋処理することを特徴とする(1)又は(2)項記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【0008】
(4)(a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂並びに(b)パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴムを、加熱・混練して熱可塑性樹脂成分(A)を得た後に、第二工程でこの樹脂成分(A)、(c)有機パーオキサイド、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤、並びに金属水和物(B)の全部を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で加熱・混練し、架橋処理することを特徴とする(1)又は(2)項記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
(5)(a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂、(b)パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴム、(c)有機パーオキサイドの一部、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤の一部を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で加熱・混練し、架橋処理を行った後に、(c)有機パーオキサイドの残分、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤の残分並びに金属水和物(B)の全部を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で再度加熱・混練し、架橋処理することを特徴とする(1)又は(2)項記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
(6)(1)又は(2)項記載の難燃性熱可塑性樹脂を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で加熱・混練し、架橋処理した後に及び/又はしながら得られた難燃性樹脂組成物を導体、または光ファイバ素線および/もしくは光ファイバ心線の外側に被覆層として有することを特徴とする成形物品。
(7)(1)又は(2)項記載の難燃性熱可塑性樹脂を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で加熱・混練し、架橋処理した後に及び/又はしながら得られた難燃性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形部品。
【0009】
本発明においては、樹脂成分と同時に含有される有機パーオキサイドの量、架橋助剤の量および種類を上記の範囲に適切に設定して、架橋密度が非常に低いルーズな架橋構造としうるとともに、シラン処理された金属水和物を選択することにより多量の金属水和物を配合することが可能になる。さらにルーズな架橋構造とシラン処理された金属水和物の選定によって、耐熱性を有するとともに架橋後においても再押し出し可能であり、マテリアルリサイクル可能な難燃樹脂組成物及び成形体が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、難燃性、耐熱性、機械特性に優れ、かつ焼却などの廃棄時においては、腐食性ガスの発生がなく、昨今の環境問題に対応した難燃性樹脂組成物と配線材を提供しうる。さらに本発明によれば、これらの特性を満足しながら、被覆材料の再溶融が可能なために再利用でき、傷つきにくい難燃性樹脂組成物およびそれを使用した配線材、光ファイバ心線、光ファイバコード、その他の成形部品を提供しうる。また、本発明の配線材は、機械特性、難燃性及び耐熱性に優れるとともに、耐油性、耐摩耗性が高く、さらに圧接加工性にも優れている。このように本発明の配線材は、リンを含まないノンハロゲン難燃配線材として柔軟性と機械強度を両立し、さらに耐油性や圧接加工性が要求される部分にも使用することができる優れた特性を有するものである。さらに、本発明の配線材の被覆層は、高い耐熱性を有しながら、被覆材料として再溶融可能な材料を用いて形成することができることから、現行の被覆材料である架橋物で被覆した配線材と比較して、リサイクル性に富む配線材の提供を可能とするものである。以上から、本発明の配線材は、環境問題を考慮した電気・電子機器用配線材、例えば電源ケーブルなどとして非常に有用なものである。また、本発明の難燃性樹脂組成物は、このような配線材や、光ファイバ心線、光ファイバコード等の被覆材料として、また成形部品の材料として、さらにはチューブやテープ材料としても好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ブテン−1成分とポリプロピレン成分からなるアタクチックポリプロピレン重合体のDSCチャートである。
【図2】光ファイバ素線の外周に直接、被覆層を設けた本発明の光ファイバ心線の一実施例の断面図である。
【図3】複数の抗張力繊維を縦添えした1本の光ファイバ心線の外周に被覆層を形成した本発明の光ファイバコードの一実施例の断面図である。
【図4】2本の光ファイバ心線の外周にそれぞれ複数の抗張力繊維を縦添えし、さらにその外周に被覆層を形成した本発明の光ファイバコードの別の実施例の断面図である。
【図5】耐摩耗性の試験装置の正面図である。
【図6】図5に示した耐摩耗性の試験装置中のブレードの正面図である。
【図7】電線を固定したコネクタの説明図であり、(イ)は平面図、(ロ)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明の難燃性樹脂組成物の各成分について説明する。
(A)熱可塑性樹脂成分熱可塑性樹脂成分
(A)は(a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂、(b)パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴムから構成される。
【0013】
(a)成分
パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂本発明において(a)成分は、得られる組成物中のゴム分散を良好にし、成形品の外観を良好にする効果を有する。本発明において(a)成分には、パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィンを共重合成分として含む共重合体も含む。本発明の(a)成分として適したパーオキサイド分解型オレフィン樹脂としては例えば、13C−核磁気共鳴吸収法によるペンタッド分率においてrrrr/l−mmmmが20%以上であり、かつ、示差走査熱量測定法により求められる融点(Tm)が140℃以上、結晶融解熱量(△Hm)100J/g以下のものがあげられる。パーオキサイド分解型のポリオレフィン樹脂としては、ホモポリプロピレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体や、プロピレンと他の少量のα−オレフィン(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)との共重合体、アタクチックポリエチレン等、またこれらの樹脂を不飽和カルボン酸で変性した樹脂等が挙げられる。ここでエチレン・プロピレンランダム共重合体はエチレン成分含量が1〜8質量%程度のものをいい、エチレン・プロピレンブロック共重合体はエチレン成分含量が0.5〜10質量%程度のものをいう。
【0014】
アタクチックポリプロピレン樹脂とは、示差走査熱量計により測定された融点(Tm)が163℃以下であり、かつ結晶融解熱量(△Hm)が55J/g以下であるアタクチックポリプロピレン重合体を主成分とする。ここで「主成分とする」とは好ましくは(a)成分の50質量%以上含有することをいう。ここで、図1を参照して、上記融点(Tm)および結晶融解熱量(△Hm)の測定方法について説明する。本発明においてアタクチックポリプロピレン重合体の示差走査熱量計(以下、DSCと略す)測定は、通常の条件に従い、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下で行う。アタクチックポリプロピレン重合体が単独重合体の場合には、温度の上昇とともに、大きな吸熱ピークが1つ観測される。アタクチックポリプロピレン重合体がプロピレン成分とその他のオレフィン成分との共重合体である場合には、吸熱ピークは2つ以上観測される。図1に示すDSCチャートは、ブテン−1成分とプロピレン成分からなるアタクチックポリプロピレン重合体のものであるが、2つの大きな吸熱ピークがみられる。図1において温度の低いほうのピークがブテン−1成分に起因する吸熱ピーク、温度の高いほうのピークがプロピレン成分に起因する吸熱ピークであり、T1、T2はそれぞれの吸熱のピークトップ温度を示す。T2は一般に138〜160℃に現れる。吸熱ピークが観察される前後はほとんど熱量−温度曲線は平準であり、吸熱後の熱量−温度曲線が平準な部分Dから温度が低いほうへ向かって、熱量が一定となるような直線、すなわちベースラインを引く。そのベースラインと温度T2にピークを有する吸熱曲線から延長した曲線が交わる点をBとする。このベースラインと温度T2にピークを有する吸熱曲線(及びその延長線)とで囲まれる面積から、プロピレン成分の結晶融解熱量(△Hm)を求めることができる。(なお、Aはブテン−1成分に起因する吸熱ピークについての熱量−温度曲線の平準部であり、これを基準として引いたブテン−1成分についてのベースラインと温度T1にピークを有する吸熱曲線から延長した曲線が交わる点をCとして示した。)単独重合体の場合は、ピークが1つであるので、吸熱曲線とベースラインとで囲まれる面積が結晶融解熱量(△Hm)となる。
【0015】
本発明で用いることのできるアタクチックポリプロピレン重合体としては、非晶性のポリプロピレンやプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体を挙げることができる。非晶性ポリプロピレンの場合は、結晶性ポリプロピレン樹脂製造時に副生する樹脂を用いてもよいし、原料から生産してもよい。また、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体は、所定のプロピレン成分を含有するように原料から製造することができる。この場合、例えば、塩化マグネシウムに担持したチタン担持型触媒とトリエチルアルミニウムを用いて水素の存在下/または水素の不存在下で原料モノマーを重合して得ることができる。このアタクチックポリプロピレン重合体の市販品としては、ATF−132、ATF−133(いずれも商品名、宇部興産社製)などを用いることもできる。
【0016】
加熱混練前に(A)に配合した(a)成分のパーオキサイド分解型のポリオレフィン樹脂は、その後の加熱混練で、(c)成分のパーオキサイドの存在により熱分解して適度に低分子量化する。例えばポリプロピレン樹脂としては、MFR(ASTM‐D‐1238、L条件、230℃)が好ましくは0.1〜25g/10分、より好ましくは0.1〜10g/10分のものを用いる。ポリプロピレン樹脂の場合、MFRが0.1g/10分未満では、熱処理後でもポリプロピレン樹脂の分子量が低下せず、得られる樹脂組成物(エラストマー)の成形性が悪くなることがあり、一方、MFRが25g/10分を越えると、低分子量となりすぎて、得られる樹脂組成物の耐熱衝撃性が著しく低下することがある。このパーオキサイド分解型のポリオレフィン樹脂(a)は、加熱混練によりパーオキサイド存在下で低分子量化することにより、本発明の難燃性樹脂組成物に対して流動性を付与する。このため、パーオキサイドと架橋助剤の制御により(b)成分が架橋して高分子量化した後においても、本発明の難燃性樹脂組成物の押し出し等による成形加工を問題なく行うことが可能となる。パーオキサイド分解型のポリオレフィン樹脂(a)は熱可塑性樹脂成分(A)100質量%中、10〜90質量%とする。(a)成分が10質量%より少ないと押し出し等の成形加工が著しく困難になり、またこの成分が90質量%を越えると、フィラーのローディング性が著しく低下し、伸びが著しく低下したり、低温性(低温における成形加工性)が低下したり、折り曲げ白化が著しくなるなどの問題を生ずる。
【0017】
(b)成分
パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴム本発明の(b)成分としては、パーオキサイドの存在下で加熱処理することによって主として架橋反応を起こし、その流動性が低下するものを用いることができる。本発明の(b)成分には、パーオキサイド架橋型の熱可塑性ポリオレフィンを共重合成分として含む共重合体の樹脂またはゴムが含まれる。(b)成分としては、エチレン・α−オレフィン共重合体樹脂やエチレン・α−オレフィン共重合体ゴム、エチレン系共重合体、不飽和カルボン酸で変性されたポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体、エチレン系共重合体等が挙げられる。エチレン・α−オレフィン共重合体は、好ましくは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体であり、α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。エチレン・α−オレフィン共重合体において、α−オレフィンがプロピレンの場合、プロピレン成分の含有量は60%未満が好ましい。エチレン・α−オレフィン共重合体樹脂としては、例えばLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体等がある。このなかでも、充填されるフィラー受容性および得られる樹脂組成物の柔軟性を考慮すると、シングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましい。シングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体の密度は耐油性、耐摩耗性を考慮すると、0.895g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.900g/cm3以上である。また、得られる樹脂組成物の柔軟性を考慮すると0.93g/cm3以下が好ましく、さらに好ましくは0.925g/cm3以下である。この密度の下限には特に制限はないが、通常0.850g/cm3を下限とする。また、エチレン・α−オレフィン共重合体としては、メルトフローインデックス(ASTM D−1238)が0.5〜30g/10分のものが好ましい。
【0018】
本発明で用いることのできるシングルサイト触媒の存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体の製法としては、特開平6−306121号公報や特表平7−500622号公報などに記載されている公知の方法を用いることができる。シングルサイト触媒は、重合活性点が単一であり、高い重合活性を有するものであり、メタロセン触媒、カミンスキー触媒とも呼ばれており、この触媒を用いて合成したエチレン・α−オレフィン共重合体は、分子量分布と組成分布が狭いという特徴がある。このようなシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が、高い引張強度、引裂強度、衝撃強度などを有することから、金属水和物を高充填する必要があるノンハロゲン難燃材料(配線材の被覆材料)に使用した場合、高充填された金属水和物による機械特性の低下を小さくすることができるという利点がある。反面、シングルサイト触媒を用いて合成したエチレン・α−オレフィン共重合体を用いる場合、通常のエチレン・α−オレフィン共重合体を用いる場合と比べて、溶融粘度の上昇や溶融張力の低下がおこり、成形加工性に問題が生ずる。この点については、シングルサイト触媒として非対称な触媒を用いて長鎖分岐を導入し(Constrained Geometory CatalysticTechnology)、または合成の際に2つの重合槽を連結することで分子量分布に2つのピークをつくる(Adavnced Performance Terpolymer)ことで、その成形加工性を改良したものもある。
【0019】
本発明において用いることのできるシングルサイト触媒の存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体としては、前記成形加工性を改良したものが好ましく、このようなものとしては、Dow Chemical社から、「AFFINITY」「ENGAGE」(商品名)が、Exxon Chemical社から、「EXACT」(商品名)、宇部興産(株)からは「ユメリット」(商品名)が上市されている。エチレン・α−オレフィン共重合体ゴムとしてはエチレン・プロピレン共重合体ゴムが挙げられる。エチレン・プロピレン共重合体ゴム(EPM)はエチレンとプロピレンのゴム状共重合体である。ここでエチレン・プロピレン共重合体ゴムとはエチレン成分含量が通常40〜75質量%程度のものをいう。エチレン、プロピレン以外の第三成分として不飽和基を有する繰返し単位を重合体にもたせたエチレン・プロピレンターポリマー(EPDM)もあるが本発明においては二重結合をもたないEPMを用いる必要がある。EPDMを用いた場合は、伸びが低下したり、さらには押し出し加工性が著しく損なわれるためである。EPMは単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
エチレン・プロピレン共重合体ゴム中のエチレン成分含量は85〜40質量%が好ましい。より好ましくは82〜45質量%であり、さらに好ましくは80〜50質量%である。エチレン成分含量が少なすぎると、得られる樹脂組成物の柔軟性が不足し、多すぎる場合には機械的強度が低下する。エチレン・プロピレン共重合体ゴムのムーニー粘度、ML1+4(100℃)は好ましくは10〜120、より好ましくは40〜100である。ムーニー粘度が10未満の場合は、得られるエラストマー組成物のゴム弾性が劣ることがある。また120を越えたものを用いると成形加工性が悪くなることがあり、特に成形品の外観が悪化する。用いられるエチレン・プロピレン共重合体ゴムの重量平均分子量は50,000〜1,000,000が好ましく、さらには70,000〜500,000の範囲が好ましい。重量平均分子量が50,000未満の場合は、得られる組成物はゴム弾性が劣ることがある。また、重量平均分子量が1,000,000を越えるものを用いると成形加工性が悪くなり特に成形品の外観が悪化することがある。エチレン・プロピレン共重合体ゴムの配合量は熱可塑性樹脂成分(A)中、0〜30質量%であり、好ましくは0〜25質量%である。
【0021】
エチレン・プロピレン共重合体ゴム成分を加えることにより、柔軟性が著しく向上し、金属水和物を大量に加えることが可能となり、難燃性をより向上させることが可能となるが、多すぎると押し出し加工性が著しく低下したり、耐油性が著しく低下したりすることがある。エチレン系共重合体としてはエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えばエチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体など)等が挙げられる。エチレン系共重合体を使用することにより、難燃性を向上させることができる。さらに難燃性を向上させるためには、エチレン以外の共重合成分の含有量が23質量%以上であることが好ましく、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは28質量%以上である。エチレン系共重合体の中でも難燃性を向上させる面においてはエチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。難燃性を大幅に向上させるためには、酢酸ビニル(VA)成分含有量が30質量%以上、さらには40質量%以上であるものが好ましい。またMFRは流動性の面から0.3g/10分以上、強度保持の面から30g/10分以下が好ましい。パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴム(b)は熱可塑性樹脂成分(A)100質量%中、10〜90質量%とする。
【0022】
(c)成分
有機パーオキサイド本発明で用いられる有機パーオキサイドとしては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert‐ブチルクミルパーオキサイドなどを挙げることができる。これらのうち、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が最も好ましい。有機パーオキサイド(c)の配合量は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、0.01〜0.6質量部の範囲であり、好ましくは0.05〜0.6質量部である。有機パーオキサイドをこの範囲内とすることにより、架橋が進みすぎることを防止し、ブツも発生させることなく押し出し性に優れた部分架橋組成物を得ることができる。
【0023】
(d)成分
(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤本発明の難燃性樹脂組成物またはそれに用いる熱可塑性樹脂成分(A)の製造においては、有機パーオキサイド(c)の存在下で架橋助剤(d)を介して(b)成分の部分架橋構造を形成する。その際使用される架橋助剤としては、一般式
【0024】
【化1】

【0025】
(ここで、RはH又はCHであり、nは1〜9の整数である。)
で表される(メタ)アクリレート系架橋助剤が挙げられる。ここで(メタ)アクリレート系架橋助剤とはアクリレート系およびメタアクリレート系架橋助剤をさす。具体的には、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートが挙げられる。その他にもジアリルフマレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレートのような末端にアリル基を有するものを使用することができる。以上の中でも特にnが1〜6の(メタ)アクリレート系架橋助剤が好ましく、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、テトラエチレングリコールジメタアクリレートを挙げることができる。
【0026】
特に、本発明においては、トリエチレングリコールジメタクリレートが、取扱いやすく、他の成分との相溶性が良好であり、かつパーオキサイド可溶化作用を有し、パーオキサイドの分散助剤として働くため、加熱混練時の架橋効果が均一かつ効果的で、硬さとゴム弾性のバランスのとれた部分架橋熱可塑性樹脂が得られるため、最も好ましい。このような化合物を使用することにより、架橋不足にも架橋過度にもならず、加熱混練時に均一かつ効率的な部分架橋反応が期待できる。本発明で用いられる架橋助剤の添加量は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、0.03〜1.8質量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.03〜1.2質量部である。架橋助剤をこの範囲内で使用することにより、進みすぎることのないゆるやかな架橋を行わせることができ、ブツも発生させることなく押し出し性に優れた組成物を得ることができる。架橋助剤の配合量は、質量比で有機パーオキサイドの添加量の約1.5〜4.0倍とすることが好ましい。
【0027】
(B)金属水和物
本発明において用いられる金属水和物としては、特に限定はしないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する化合物を単独もしくは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの金属水和物のうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましい。金属水和物は少なくとも一部がシランカップリング剤で処理されていることが必要であるが、表面処理されていない無処理の金属水和物や脂肪酸等他の表面処理剤で処理した金属水和物を適宜併用することができる。
【0028】
また上記金属水和物の表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル基(メタクリル基やアクリル基等の二重結合を含むものも含む)またはエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基を末端に有するシランカップリング剤、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤などの架橋性のシランカップリング剤が好ましい。またこれらのシランカップリング剤は2種以上併用してもよい。このような架橋性のシランカップリング剤の中でも、末端にエポキシ基および/または末端に2重結合を有する上述のようなビニル基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、これらは1種単独でも、2種以上併用して使用してもよい。
【0029】
本発明で用いることができるシランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウムとしては、ビニル基又はエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤によりすでに表面処理された水酸化マグネシウムの市販品(キスマ5LH、キスマ5PH(いずれも商品名、協和化学社製)など)のほか、表面無処理のもの(市販品としては、キスマ5(商品名、協和化学社製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(キスマ5A(商品名、協和化学社製)など)、リン酸エステル処理されたものなどを上記のビニル基又はエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤により表面処理したものがある。また、上記以外にも、予め脂肪酸やリン酸エステルなどで表面の一部が前処理された水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムに、さらにビニル基やエポキシ基等の官能基を末端に有するシランカップリング剤を用い表面処理を行った金属水和物なども用いることができる。また同時に脂肪酸やリン酸エステルとビニル基やエポキシ基等の官能基を末端に有するシランカップリング剤を用い表面処理を行った金属水和物なども用いることができる。
【0030】
金属水和物をシランカップリング剤で処理する場合には、予めシランカップリング剤を金属水和物に対してブレンドして行うことが必要である。このときシランカップリング剤は、表面処理するに十分な量が適宜加えられるが、具体的には金属水和物に対し0.1〜2質量%が好ましい。シランカップリング剤は原液でもよいし、溶剤で希釈されたものを使用してもよい。
【0031】
金属水和物の配合量は、本発明の樹脂組成物中、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、50〜300質量部であり、特に好ましくは100〜280質量部である。本発明において(i)金属水和物が50質量部以上100質量部未満の場合は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対してその50質量部以上を、また(ii)金属水和物が100質量部以上の場合はその少なくとも半量をシランカップリング剤で前処理した金属水和物とすることにより、多量に金属水和物を加えても強度の低下が生じず、樹脂に大量にフィラーを配合することが可能となる。金属水和物のうち、少なくとも100質量部がシランカップリング剤で処理された水酸化マグネシウムであることが特に好ましい。シラン処理されている金属水和物の量が少なすぎる場合、力学的強度が低下するだけでなく、耐油特性が著しく低下し、また熱老化特性も低下する。また、金属水和物を300質量部より多く加えると、力学的強度や伸びが著しく低下する。また圧接用電線に使用される電線被覆材料の場合、その少なくとも75質量%をシランカップリング剤で前処理した金属水和物とすることにより、ストレインリリーフ部の盛り上がりを最小限に抑えることができ、好ましい。シランカップリング処理されていない金属水和物が多すぎる場合、圧接時のストレインリリーフ部で電線被覆部に大きな盛り上がりが生じ、電線保持力が大幅に低下する。
【0032】
通常のポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂をベース樹脂として使用し、必要とされる難燃性を満足するために金属水和物を多量に加えてゆくと、機械強度の低下が非常に大きい。特にポリプロピレンやエチレン−αオレフィン共重合体から構成される樹脂組成物の場合においては金属水和物を大量に加えて行くと、機械強度や伸びの低下が非常に大きく、ポリプロピレンが多い場合や密度が高いエチレン−αオレフィン共重合体を使用した場合においては機械強度等のさらに顕著な低下がみられる。これに対して、本発明における熱可塑性樹脂成分(A)は、架橋密度が非常に低く樹脂成分同士が(d)成分を介した部分架橋状態になっており、さらに金属水和物上に表面処理されたシランカップリング剤と(b)成分のパーオキサイド架橋型のポリオレフィン樹脂がネットワーク構造を形成しているため、金属水和物を多量に配合しても伸びの低下や強度の低下が生じにくく、組成物成形体を屈曲させた際の白化も生じにくい。さらに本発明においては樹脂組成物に芳香族化合物からなるポリマーを必要とせずに、部分的に架橋されており、さらに金属水和物成分とポリマー成分がネットワーク構造を有していることから、非常に優れた耐油性を保持することができる絶縁樹脂組成物及び絶縁電線、その他成形部品を得ることができるものと考えられる。また通常、芳香族化合物からなるポリマー、例えばスチレン系エラストマーを使用したエラストマー成形体の場合、加工剤、軟化材としてプロセスオイルが使用されるが、オイルを使用することにより耐油特性の低下やエポキシ樹脂との接着性の低下を引き起こす。エポキシ樹脂等の接着性の低下は電線や光コードの端末加工の際問題となる場合がある。さらに本発明の樹脂組成物は(b)成分のパーオキサイド架橋型ポリオレフィン樹脂が(d)成分を介した部分架橋状態になっており、さらに金属水和物上に表面処理されたシランカップリング剤と(b)成分のパーオキサイド架橋型のポリオレフィン樹脂がネットワーク構造を形成しており、流動成分に非常に摩耗性の高い(a)成分を含有しているため、耐摩耗性に非常に優れている。加えて圧接加工される電線においては、優れた圧接加工性、及び優れた自動圧接加工性に優れた電線を得ることができる。本発明においては、組成物全体がネットワーク構造をとっているため、圧接時に被覆部がストレインリリーフ部で盛り上がることなく加工でき、さらに自動機における加工性も優れると考えられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物の加熱・混練時の反応機構の詳細についてはまだ明確ではないが、以下のように考えられる。すなわち本発明における熱可塑性樹脂成分(A)は、加熱混練されると(c)成分の存在下、(d)成分を介して(b)成分が非常にルーズに架橋される。一方、(c)成分の作用で、(a)成分は適度に低分子量化することにより樹脂組成物の溶融粘度は適度に調整され、組成物全体として押出性に優れた架橋物となる。本発明の組成物の架橋は、少量の(c)成分の存在下で行わせることもあり、通常の架橋と比較して架橋点が少ないことから、部分架橋と称することができる。この難燃性樹脂組成物の架橋度は、目安として、熱可塑性樹脂成分(A)のゲル分率と動的弾性率によって表すことができる。ゲル分率は、試料1gを100メッシュ金網に包み、ソックスレー抽出機を用い、沸騰キシレン中で10時間抽出した後、試料1gに対する残留固形分の質量の割合で表すことができる。動的弾性率は、パラレルプレートを用いた溶融粘弾性の貯蔵弾性率で表すことができる。本発明において架橋度は、ゲル分率で好ましくは30〜45質量%、さらに好ましくは40〜45質量%、貯蔵弾性率で好ましくは10〜10Paである。熱可塑性樹脂成分(A)に金属水和物を充填する場合には、(c)成分および(d)成分と同時に、シランカップリング剤で処理された金属水和物を特定量配合した場合に限り、成形時の押し出し加工性を損なうことなく金属水和物を多量に配合することが可能になり、優れた難燃性を確保しながらも耐熱性、および機械特性を併せ持つとともに、使用後の再押し出しができリサイクル可能な難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0034】
シランカップリング剤で処理された金属水和物が作用する機構についても詳細はまだ明確ではないが、以下のように考えられる。すなわちシランカップリング剤で処理することにより金属水和物表面に結合したシランカップリング剤は、一方のアルコキシ基が金属水和物と結合し、もう一方の末端に存在するビニル基やエポキシ基をはじめとする各種の反応性部位は(b)成分のパーオキサイド架橋型の未架橋部分と結合する。詳細については明確でないが、パーオキサイドによって引きおこされる架橋反応により生じる架橋構造は、(d)成分を介しての(b)成分同士の架橋より、シランカップリング剤を介しての金属水和物(B)と(b)成分のネットワークの方が主体となると考えられる。したがって架橋性の比較的低い芳香族エラストマーを加えなくても、パーオキサイドの制御により良好な、再押出可能な部分架橋物を得ることができる。またさらに、これにより、押し出し成形性を損なうことなく金属水和物を大量に配合することが可能になるとともに、樹脂と金属水和物の密着性が強固になり、機械強度および耐摩耗性が良好で、傷つきにくい難燃性樹脂組成物が得られる。通常(a)成分や(b)成分を所定量加えても、加熱・混練時に本発明のように部分架橋と称するような反応を行わなかったり、シランカップリング剤で処理された金属水和物を使用しなかったりすると、力学的強度が低下するのみならず、電線の絶縁層などに用いたときに優れた耐油特性、耐摩耗特性および圧接特性を発現しうる難燃性樹脂組成物を得ることができなくなるだけでなく、シラン処理を行わなかった場合、ポリマー同士の結合が強くなり、全く再押出ができなくなったり、全く架橋を生じず大幅な強度の低下を生じたりする。本発明でこれらの特性が得られた理由についてははっきりしないが、(a)成分であるパーオキサイド分解型のポリオレフィン樹脂がホスト材として分散し、さらにその中に金属水和物が(b)成分のパーオキサイド架橋型のポリオレフィン樹脂とネットワークを形成しているため、組成物全体がリジットになり耐油性や耐摩耗性が飛躍に向上したものと考えられる。さらにこの樹脂と金属水和物の密着性が強固になる為、圧接加工時にストレインリリーフ部の被覆の盛り上がりが抑えられ、さらに圧接部の被覆の割れも大幅に向上する。本発明においては、組成物全体がネットワーク構造をとっているため、圧接刃の部分での割れが大幅に抑えられる。さらに樹脂組成物を硬く設計することができ、表面平滑性も非常に高くすることができることから、圧接自動機における走線性や生産性が非常に良好となる。
【0035】
本発明の難燃性樹脂組成物には、電線、電気ケーブル、電気コードにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤、酸無水物及びその変性物などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。酸化防止剤としては、4,4'−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などが挙げられる。金属不活性剤としては、N,N'−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1, 2, 4−トリアゾール、2,2'−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などが挙げられる。
【0036】
さらに難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、錫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボンなどが挙げられる。滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。表面平滑材としてシリコーン樹脂を使用することができる。シリコーン樹脂を使用することにより圧接加工性がさらに良好になる。シリコーン化合物としては通常の直鎖のシロキサン構造を有しているシリコーンオイル、ポリジオルガノシロキサンを主原料としたシリコーンゴム、シリコーンゴムの主原料であるシリコーンガム、パウダー状のシリコーンレジン等が挙げられる。この中でもシリコーンゴムの主原料であるでシリコーンガムが好ましい。シリコーンガムの中でも側鎖にビニル基等の架橋基を有しているシリコーンガムが好ましい。シリコーンガムの基本的な分子構造はシロキサンの側鎖にメチル基、ビニル基、フェニル基を有しているものが挙げられるが、その他のアルキル基、アルケニル基等、芳香族基の選択も可能である。側鎖にビニル基等の架橋基を有しているシリコーンガムの使用により、コンパウンド時に行われる際の緩やかな架橋反応において、シリコーンガムと他のポリマーやシラン処理された金属水和物と結合し、ブリードがなく、しかも表面平滑性に優れ、さらに圧接の際のストレインリリーフにおける被覆材の形状変化が生じさせないで圧接加工を行うことを可能とする。しかも電線等の表面平滑性が優れているため、自動機における量産加工性も非常に優れている。
【0037】
このシリコーンガムにその他配合剤として、補強充填剤、可塑剤、増量充填剤、添加剤、架橋剤等を添加しても良い。シリコーンガムとしては重合度5000〜10000程度のものが好ましいが、重合度がこれより低いものも使用しても良い。このシリコーン化合物の含有量は樹脂成分(A)100質量部に対して好ましくは0.5〜12質量部とする。これをあまり多く加えると、電線の量産性が著しく低下し、さらに圧接コネクタの電線保持力も著しく低下することがある。またこのシリコーンガム等の代わりに、シリコーンでグラフトされた例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体等のエチレン系共重合体、或いはシリコーンを予め混合したポリオレフィンやエチレン共重合体を加えてもよい。
【0038】
本発明の難燃性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で前記添加物や他の樹脂を導入することができるが、少なくとも前記熱可塑性樹脂成分(A)を主樹脂成分とする。ここで、主樹脂成分とするとは、本発明の難燃性樹脂組成物の樹脂成分中、通常70質量%以上、好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは樹脂成分の全量を前記熱可塑性樹脂成分(A)が占めることを意味する。ここで、熱可塑性樹脂成分(A)は成分(a)、(b)をそれぞれ前記規定範囲内で含有し、熱可塑性樹脂成分(A)は成分(a)、(b)の合計量で100質量%となる。
【0039】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法を説明する。第1工程において、まず成分(a)および成分(b)の全量、成分(B)の少なくとも一部(好ましくは(B)の使用量中、50〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%)、場合により、更に充填剤、抗酸化剤、光安定剤、着色剤等の各種添加剤を、予め溶融混練する。混練温度は、好ましくは160〜240℃である。混練方法としては、ゴム、プラスチックなどで通常用いられる方法であれば満足に使用でき、装置としては例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダーなどが用いられる。この工程により、各成分が均一に分散された組成物を得ることができる。第2工程は、第1工程で得られた組成物に、成分(c)および成分(d)を加え、更に加熱下に混練して部分架橋を生じさせる。このときの温度は、好ましくは180〜240℃である。このように成分(a)、(b)を予め溶融混練してミクロな分散を生じさせてから、成分(c)を加えて混練を加熱処理下に行い、部分架橋物を生成させることが、特に好ましい物性をもたらす。この工程は、一般に、二軸押出機、バンバリーミキサー等を用いて混練する方法で行うことができる。
【0040】
上記第1および第2工程については、単一工程とし、各成分を混合して溶融混練することも可能である。第3工程は、第2工程で得られた部分架橋した組成物に、各成分の残量を加えて混練する。混練温度は、好ましくは180〜240℃である。混練は、一般に、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダーなどを用いて行うことができる。この工程で、各成分の分散がさらに進むと同時に、反応が完了する。また、前記第1、第2および第3工程を併せて単一工程とし、各成分を一括して溶融混練することも可能である。また、前記第1工程において成分(B)の全量を加え、その後第2工程を経て本発明の難燃性樹脂組成物を得てもよい。
【0041】
あるいは上記第1工程により、各成分が均一に分散された組成物を得、次に第2工程として、この組成物に成分(c)の一部および成分(d)の一部を加え、更に加熱下に混練して部分架橋を生じさせる。このときの好ましい温度や用いることのできる混練方法などは、上記第2工程と同様である。このときの第1および第2工程についても、単一工程とし、各成分を混合して溶融混練することができる。さらに第3工程は、第2工程で得られた部分架橋した組成物に、成分(B)の残量及び他の配合材を加え、成分(c)及び成分(d)の残量を加えて混練する。このときの好ましい温度や用いることのできる混練方法などは、上記第3工程と同様である。この場合においても、成分(a)、成分(b)と成分(B)を均一分散させた後に成分(c)を加えた方が良好な物性をもたらす。この工程で、各成分の分散がさらに進むと同時に、反応が完了する。
【0042】
本発明の難燃性樹脂組成物は電気・電子機器の内部および外部配線に使用される配線材や光ファイバ心線、光ファイバコードなどの成形部品被覆、製造に適する。本発明の樹脂組成物を配線材の被覆材として使用する場合には、好ましくは押出被覆により、導体の外周に形成した少なくとも1層の前記本発明の難燃性樹脂組成物からなる被覆層を有すること以外、特に制限はない。例えば、導体としては軟銅の単線又は撚線などの公知の任意のものを用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いてもよい。
【0043】
本発明の配線材は、本発明の難燃性樹脂組成物を、汎用の押出被覆装置を用いて、導体周囲や絶縁電線周囲に押出被覆することにより製造することができる。このときの押出被覆装置の温度は、シリンダー部で約180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。本発明の配線材においては、導体の周りに形成される絶縁層(本発明の難燃性樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが通常0.15mm〜5mm程度である。
【0044】
また、本発明の配線材においては、部分架橋物である本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆してそのまま被覆層を形成することが好ましいが、さらに耐熱性を向上させることを目的として、押出後の被覆層を架橋させることも可能である。但し、この架橋処理を施すと、被覆層の押出材料としての再利用は困難になる。架橋を行う場合の方法として、常法による電子線照射架橋法や化学架橋法が採用できる。電子線架橋法の場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を押出成形して被覆層とした後に常法により電子線を照射することにより架橋を行う。電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋を行うために、被覆層を構成する樹脂組成物に、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。化学架橋法の場合は、難燃性樹脂組成物に有機パーオキサイドを架橋剤として配合し、押出成形して被覆層とした後に常法により加熱処理により架橋を行う。
【0045】
本発明の光ファイバ心線または光コードは、汎用の押出被覆装置を使用して、本発明の難燃性樹脂組成物を被覆層として、光ファイバ素線の周囲に、または抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせた光ファイバ心線の周囲に押出被覆することにより、製造される。このときの押出被覆装置の温度は、シリンダー部で180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。本発明の光ファイバ心線は、用途によってはさらに周囲に被覆層を設けないでそのまま使用される。なお、本発明の光ファイバ心線またはコードは本発明の難燃性樹脂組成物を被覆層として、光ファイバ素線または心線の外周に被覆されたものすべてを包含し、特にその構造を制限するものではない。被覆層の厚さ、光ファイバ心線に縦添えまたは撚り合わせる抗張力繊維の種類、量などは、光ファイバコードの種類、用途などによって異なり、適宜に設定することができる。
【0046】
図2〜4に、本発明の光ファイバ心線およびコードの構造例を示す。図2は、光ファイバ素線1の外周に直接、難燃性樹脂組成物からなる被覆層2を設けた本発明の光ファイバ心線の一実施例の断面図である。図3は、複数の抗張力繊維4を縦添えした1本の光ファイバ心線3の外周に被覆層5を形成した本発明の光ファイバコードの一実施例の断面図である。図4は、2本の光ファイバ心線3および3の外周にそれぞれ複数の抗張力繊維4を縦添えし、さらにその外周に被覆層6を形成した本発明の光ファイバコード(光ファイバ2心コード)の一実施例の断面図である。
【0047】
本発明の成形部品としては、その形状は制限されるものではなく、例えば、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート等を挙げることができる。本発明の成形部品は、通常の射出成形等の成形方法により本発明の難燃性樹脂組成物から成形される。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、数字は特に記載がない場合、質量部を示す。
【0049】
実施例1〜7、比較例1〜6
(a)成分としてランダムポリプロピレン(a−1)、アタクチックポリプロピレン(a−2)、(b)成分としてエチレン・α−オレフィン共重合体(b−1)〜(b−3)、エチレン酢酸ビニル共重合体(b−4)、エチレン−プロピレンゴム(b−5)、マレイン酸変性ポリエチレン(b−6)、(c)成分として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、(d)成分としてトリエチレングリコールジメタクリレート、(B)成分として水酸化マグネシウムを用い、各成分を表1、表2に示すような配合量として組成物を調製した。
【0050】
実施例及び比較例の各組成物は、すべての成分を室温でドライブレンドし、200℃でバンバリーミキサーを用いて加熱混練して、排出し、難燃性樹脂組成物とした。排出温度は200℃で行った。
【0051】
得られた樹脂組成物から、プレスにより、各実施例、比較例に対応する1mmシートを作成した。次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径:1.14mmφ錫メッキ軟銅撚線 構成:30本/0.18mmφ)上に、あらかじめ溶融した絶縁被覆用の樹脂組成物を押出被覆して、外径2.74mmの絶縁電線を製造した。また圧接加工性評価用電線として電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径:0.48mmφ錫メッキ軟銅撚線 構成:7本/0.16mmφ)上に、あらかじめ溶融した絶縁被覆用の樹脂組成物を押出被覆して、外径0.98mmの絶縁電線を製造した。また耐摩耗性評価用電線として電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径:1.14mmφ錫メッキ軟銅撚線 構成:30本/0.18mmφ)上に、あらかじめ溶融した絶縁被覆用の樹脂組成物を押出被覆して、外径2.1mmの絶縁電線を製造した。得られた各シートについて、引張特性(伸び(%)及び抗張力(MPa))、耐油性を測定しその結果を表1、表2に併せて示した。耐油性試験は70℃×4時間で、JIS K6723に基づいて評価を行った。伸び残率は65%以上、抗張力残率は70%以上が必要である。シートの各特性については、伸びは100%以上、抗張力10MPa以上を合格とした。
【0052】
また、外径2.74mmの絶縁電線の被覆層について、引張特性、水平燃焼試験、耐熱老化試験、耐油性試験、押し出し性試験を行い各特性を評価し、その結果を表1、表2に併せて示した。また外径0.98mmの絶縁電線電線を用い圧接加工性試験を、また外径2.1mmの電線を用い耐摩耗性試験を行った。引張特性は、各絶縁電線の絶縁体(被覆層)の抗張力(MPa)と破断伸び(%)を、標線間隔25mm、引張速度500mm/分の条件で測定した。伸びは100%以上、抗張力は10MPa以上必要である。耐熱老化試験としては、136℃168時間の条件で伸び(EL)残率と抗張力(TS)残率の測定を行った。伸び残率は65%以上、抗張力残率は70%以上が必要である。耐油性試験は70℃×4時間で、JIS C 3005に基づいて評価を行った。伸び残率は65%以上、抗張力残率は70%以上が必要である。耐摩耗性は、図5に正面図を示した試験装置を用いて評価した。長さ75cmに切断して両端部の絶縁被覆層(7a)を剥いで導体(7b)を剥き出しにした絶縁電線(7)を水平な台(8)の上にクランプ(9)で固定し、絶縁電線の軸方向に10mm以上の長さにわたり、毎分50〜60回の速さで荷重(10)6.86N(700gf)を掛けながらブレード(11)を(図中の矢印の向きに)往復運動させて、絶縁被覆層が摩耗により除かれてブレードが電線の導体に接触するまでに要したブレードの往復回数を測定した。図6にブレードの正面図を示すが、ブレード(11)は、なす角が90°となるように2つの面(11a、11b)により巾3mmの刃部を形成してなり、刃部の先端部の曲率半径(R)は0.125mmである。前記ブレードが電線の導体に接触するまでのブレードの往復回数が800回以上であったものを○、300回以上800回未満であったものを△、300回未満であったものを不合格として×で示した。△以上が実用上問題のないレベルであり、合格である。なお上記の耐摩耗性試験は、肉厚が薄い電線で行っているため、条件が厳しくなっている。
【0053】
水平燃焼試験は、各絶縁電線について、JIS C 3005に規定される水平燃焼試験を行い、30秒以内で自消したものを合格としてカウントし、合格数/試験数を示した。押し出し性試験は、30mmφの押出機で押し出しを行い、モーター負荷が正常範囲内で押し出しが行えたもので外観良好なものを○、押し出し負荷がやや大きいものや外観がやや悪かったものを△、押し出し負荷が著しく大きく押し出し困難又は不可なものを×として評価した。△以上が実用上問題のないレベルであり合格である。圧接加工性はAMP社のCTコネクタを用い、下記の○、×で評価を行った。これを図7に従って説明すると、同図に示すようにコネクタに絶縁電線を押し込み、固定することが行われる。具体的には図7(イ)は平面図、同(ロ)は図7(イ)図のA−A線断面図であり、図中20は絶縁電線、21は圧接刃22を有するコネクタである。図7(イ)では圧接刃22aにより、被覆材が剥れて導体23が露出してしまっている。下方の圧接刃22bの部分ではこの故障は生じていない。絶縁電線を固定するストレインリリーフ部25では固定の際、絶縁電線はなるべく変形しないことが望まれるが、図7(ロ)の場合は固定片24により、被覆材が盛り上がり、変形が激しく、固定不良となっている。
○:ストレインリリーフ部での被覆部の盛り上がりが無いか小さく、圧接刃の部分で被覆が割れていない。
×:ストレインリリーフ部での被覆部の盛り上がりが激しいか、圧接刃の部分で被覆が割れている。
【0054】
表中に示す各化合物としては下記のものを使用した。
(A)熱可塑性樹脂成分
成分(a):パーオキサイド分解型のポリオレフィン
(a−1)ランダムポリプロピレン
製造会社:グランドポリマー製
商品名:F−233DA
融点:132℃
結晶融解熱量:28J/g
(a−2)ポリプロピレン
製造会社:宇部興産社製
商品名:ATF−133
融点:153℃
結晶融解熱量:34J/g
【0055】
成分(b):パーオキサイド架橋型のポリオレフィン樹脂
(b−1)シングルサイト触媒系エチレン・α−オレフィン共重合体
製造会社:日本ポリケム社製
商品名:KF−360
密度:0.898g/cm3
(b−2)シングルサイト触媒系エチレン・α−オレフィン共重合体
製造会社:日本ポリケム社製
商品名:KF−271
密度:0.913g/cm3
(b−3)シングルサイト触媒系エチレン・α−オレフィン共重合体
製造会社:宇部興産社製
商品名:ユメリット2525F
密度:0.926g/cm3
(b−4)エチレン酢酸ビニル共重合体
製造会社:三井デュポンポリケミカル製
商品名:V−421
VA含有量:28質量%
(b−5)エチレン・プロピレン共重合体ゴム
製造会社:JSR
商品名:EP07P
(b−6)マレイン酸変性ポリエチレン
製造会社:三井化学社製
商品名:アドマーXE070
【0056】
成分(c):有機パーオキサイド
製造会社:日本油脂社製
商品名:パーヘキサ25B
種類:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン
成分(d):架橋助剤
製造会社:新中村化学社製
商品名:NKエステル3G
種類:トリエチレングリコールジメタクリレート
成分(B):金属水和物
製造会社:協和化学社製
商品名:キスマ5LH
種類:末端にビニル基を有するシランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウム
【0057】
その他成分
シリコーン樹脂
製造会社:東レシリコーン
商品名:CF−9150
フェノール系酸化防止剤
製造会社:チバガイギー社製
商品名:イルガノックス1010
種類:ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
滑剤
製造会社:Hoechst社製
商品名:ワックスOP
種類:モンタン酸ケン化エステルワックス
SEPS
商品名:SEPS4077
製造会社:クラレ
種類:SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体)エラストマー
OIL
商品名:ダイアナプロセスオイルPW−90
製造会社:出光興産社製
種類:パラフィンオイル
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表の結果から明らかなように、実施例で得られた難燃性樹脂組成物とこれを用いたシート、電線は、必要とされる伸び、抗張力を有し、燃焼試験、耐油性試験、加熱老化試験、耐摩耗性試験、圧接加工性試験のいずれも良好で、さらに押し出し性にも優れていた。また、表1、表2に示された電線の伸び、抗張力、耐摩耗性、押し出し性により、本発明の難燃性樹脂組成物は光ファイバコードや光ファイバ心線の被覆にも好適に用いることができることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
1 光ファイバ素線
2 被覆層
3 光ファイバ心線
4 抗張力繊維
5 被覆層
6 被覆層
7 絶縁電線
7a 絶縁被覆層
7b 導体
8 台
9 クランプ
10 荷重
11 ブレード
11a、11b ブレードの刃部の面
12 電線サンプル
20 絶縁電線
21 コネクタ
22、22a、22b 圧接刃
24 固定片
25 ストレインリリーフ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂10〜90質量%並びに(b)パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴム10〜90質量%(ただし、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体を含まない)からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して(ただし、スチレン系エラストマーを含まない)、
(c)有機パーオキサイド0.01〜0.6質量部、
(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤0.03〜1.8質量部、並びに
金属水和物(B)50〜300質量部の割合で含有し、
前記金属水和物(B)は、(i)前記金属水和物(B)が50質量部以上100質量部未満の場合は、前記熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対してシランカップリング剤で前処理された金属水和物が50質量部以上;(ii)前記金属水和物(B)が100質量部以上300質量部以下の場合は、金属水和物(B)の少なくとも半量が、シランカップリング剤で前処理された金属水和物である組成の混合物であって、前記熱可塑性樹脂成分(A)の溶融温度以上で加熱・混練してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(b)成分がシングルサイト触媒の存在下で合成されたエチレン・α−オレフィン樹脂を含有し、かつ、エチレン・プロピレン共重合体ゴムを前記熱可塑性樹脂成分(A)に対し0〜30質量%含有していることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
(a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂、(b)パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴム、(c)有機パーオキサイド、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤、並びに金属水和物(B)の全部を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で加熱・混練し、架橋処理することを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
(a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂並びに(b)パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴムを、加熱・混練して熱可塑性樹脂成分(A)を得た後に、第二工程でこの樹脂成分(A)、(c)有機パーオキサイド、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤、並びに金属水和物(B)の全部を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で加熱・混練し、架橋処理することを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
(a)パーオキサイド分解型の熱可塑性ポリオレフィン樹脂、(b)パーオキサイド架橋型の、熱可塑性ポリオレフィン樹脂および/または熱可塑性ポリオレフィンゴム、(c)有機パーオキサイドの一部、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤の一部を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で加熱・混練し、架橋処理を行った後に、(c)有機パーオキサイドの残分、(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤の残分並びに金属水和物(B)の全部を(a)成分および(b)成分の溶融温度以上で再度加熱・混練し、架橋処理することを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤が、前記熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して0.03〜0.5質量部の割合で含有されることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
難燃性樹脂組成物の樹脂成分中、前記熱可塑性樹脂成分(A)が85質量%以上を占めることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記(d)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤が、トリエチレングリコールジメタクリレートであることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記金属水和物(B)が、前記熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して120〜250質量部の割合で含有されることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
プロセスオイルを含まないことを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−224873(P2012−224873A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−185105(P2012−185105)
【出願日】平成24年8月24日(2012.8.24)
【分割の表示】特願2000−307920(P2000−307920)の分割
【原出願日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】