説明

難燃性樹脂組成物及びフレキシブルフラットケーブル

【課題】ハロゲンフリーで高度の難燃性を発揮し、可撓性、機械物性、耐熱老化性、耐加熱変形性、低温特性、電気絶縁性に優れた難燃性樹脂組成物と、該難燃性樹脂組成物により絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルを提供すること。
【解決手段】ポリマー成分が、JIS硬度がA98未満の熱可塑性ポリウレタンエラストマーとエチレン共重合体とを含有し、かつ、難燃剤成分が、水酸化マグネシウム、1,3、5‐トリアジン誘導体、並びに亜鉛、アルミニウム、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含み、ハロゲン原子を含まない金属化合物を含有する難燃性樹脂組成物と、該難燃性樹脂組成物により絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物及び該難燃性樹脂組成物により絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルに関する。さらに詳しくは、本発明は、ハロゲン系難燃剤を含有することなく、高度の難燃性を発揮し、可撓性、機械物性(引張強さ及び引張破断伸び)、耐熱老化性、耐加熱変形性、低温特性(低温での可撓性)、電気絶縁性に優れた難燃性樹脂組成物と、該難燃性樹脂組成物により絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁被覆電線、絶縁被覆シールド電線、絶縁被覆ケーブルなどの絶縁電線は、導体及び/または外被が絶縁材料によって絶縁被覆されている。絶縁電線には、電気絶縁性に加えて、一般に、難燃性と可撓性が要求されている。そのため、電子機器の機内配線に使用する絶縁電線を被覆するための絶縁材料として、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、及び難燃剤を含有するポリオレフィン樹脂組成物が汎用されている。
【0003】
例えば、特開平1‐276514号公報(特許文献1)には、並列配置した複数の平角導体を軟質絶縁体によって一体的に被覆成形したフレキシブルフラットケーブルの製造方法が開示されている。特許文献1には、軟質絶縁体として軟質ポリ塩化ビニル樹脂が示されている。軟質ポリ塩化ビニル樹脂は、難燃性と可撓性を備えているものの、ポリ塩化ビニル樹脂が結合塩素原子を含有するポリマーであるため、該フレキシブルフラットケーブルを焼却処理すると、腐食性の塩素含有ガスやダイオキシン類を発生するおそれが強い。軟質ポリ塩化ビニル樹脂には、多量の可塑剤や重金属安定剤などの添加剤成分が含まれているため、該フレキシブルフラットケーブルを廃棄すると、これらの成分が溶出して環境を汚染する。
【0004】
絶縁電線の絶縁材料として用いられているポリオレフィン樹脂組成物は、一般に、分子中に臭素原子や塩素原子を含むハロゲン系難燃剤を含有している。ハロゲン系難燃剤は、難燃化効果が高い。しかし、ハロゲン系難燃剤を含有するポリオレフィン樹脂組成物により絶縁被覆された絶縁電線を焼却処理すると、絶縁被覆層中に含まれるハロゲン化合物から腐食性ガスやダイオキシン類を発生するおそれがある。
【0005】
近年、環境負荷の低減に対する要求の高まりに応えるために、ポリ塩化ビニル樹脂やハロゲン系難燃剤を含有しない樹脂材料を用いて絶縁被覆したハロゲンフリー絶縁電線が開発されている。他方、電子機器の機内配線に使用する絶縁電線には、一般に、UL(Underwriters Laboratories Inc.)規格に適合する諸特性を有することが求められている。
【0006】
UL規格には、絶縁電線が満たすべき難燃性、耐加熱変形性、低温特性、被覆材料の初期と熱老化後の引張特性などの諸特性について詳細に規定されている。これらの中でも、難燃性については、VW‐1試験と称される垂直燃焼試験に合格する必要があり、UL規格の中で最も厳しい要求項目の1つとなっている。
【0007】
ハロゲンフリー絶縁電線の絶縁材料としては、ポリオレフィン樹脂に水酸化マグネシウムに代表される金属水酸化物(「金属水和物」ともいう)を配合したポリオレフィン樹脂組成物が汎用されている。金属水酸化物の難燃化効果は、ハロゲン系難燃剤に比べて低いため、高度の難燃性を示す絶縁材料を得るには、ポリオレフィン樹脂中に多量の金属水酸化物を配合する必要がある。その結果、絶縁被覆層の機械物性(引張強さ及び引張破断伸び)や耐加熱変形性などが著しく低下する。
【0008】
ポリオレフィン樹脂組成物からなる絶縁被覆層に、加速電子線などの電離放射線を照射して架橋すると、該絶縁被覆層の機械物性や耐加熱変形性を改良することができる。しかし、金属水酸化物を含有するポリオレフィン樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂に比べると高価であることに加えて、電離放射線の照射に高価な照射装置と照射工程を必要とするため、製造コストが嵩むという欠点がある。照射架橋を行わなくても、UL規格を満足するハロゲンフリー絶縁電線の開発が望まれている。
【0009】
従来、特開2004‐10840号公報(特許文献2)には、エチレン共重合体とポリエステルエラストマーを含む樹脂成分に多量の金属水和物を配合した伝送線被覆用樹脂組成物が提案されている。特許文献2の実施例には、該伝送線被覆用樹脂組成物により導体径0.95mmφの錫メッキ軟銅撚線(素線径0.18mm、21本撚り)を被覆成形した絶縁電線が示されている。しかし、該伝送線被覆用樹脂組成物は、難燃性や絶縁抵抗性が必ずしも十分ではない。
【0010】
特開2004‐51903号公報(特許文献3)には、エチレン共重合体とポリエステル型またはポリエーテル型セグメントを有する熱可塑性樹脂とを含む樹脂成分に、有機パーオキサイド、及びシランカップリング剤で処理した金属水和物を溶融混練した難燃性樹脂組成物、並びに該難燃性樹脂組成物を被覆した絶縁電線、絶縁ケーブルまたは光ファイバコードが提案されている。特許文献3の実施例には、該難燃性樹脂組成物により導体径0.95mmφの錫メッキ軟銅撚線(素線径0.18mm、21本撚り)を被覆成形した絶縁電線が示されている。特許文献3の実施例には、該絶縁電線がUL規格の水平燃焼試験に合格したことが示されている。
【0011】
しかし、従来の難燃性樹脂組成物を用いても、難燃性、機械物性、耐熱性、耐熱老化性、耐加熱変形性などが高度にバランスした絶縁被覆層を形成することが困難であり、特に、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格する高度の難燃性を示す絶縁電線を得ることは極めて困難であった。
【0012】
国際公開第2007/058349号パンフレット(特許文献4)には、日本工業規格のJIS K 7311に従って測定したJIS硬度がA98以下の熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、酢酸ビニル単位の含有量が50〜90重量%のエチレン‐酢酸ビニル共重合体(B)を、重量比(A:B)40:60〜90:10の割合で含有する樹脂成分100重量部に対して、金属水酸化物を40〜250重量部の割合で含有する難燃性樹脂組成物、並びに該難燃性樹脂組成物を導体上に被覆成形してなる絶縁電線が提案されている。
【0013】
特許文献4に記載の難燃性樹脂組成物は、高度の難燃性を発揮し、機械物性、耐熱性、耐熱老化性、耐加熱変形性、低温特性、電気絶縁性に優れた絶縁被覆層を形成することができる。特許文献4の実施例には、該難燃性樹脂組成物により素線径0.16mmの軟銅線を7本撚りした導体(外径0.48mm)を絶縁被覆成形してなる絶縁電線が、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格したことが示されている。
【0014】
特許文献4に記載の難燃性樹脂組成物は、フレキシブルフラットケーブルの絶縁材料として用いた場合であっても、優れた諸物性と諸特性を示す。フレキシブルフラットケーブルは、絶縁材料によって、並列に配置した複数本の平角導体を一括で絶縁被覆成形してなる絶縁電線の一種である。
【0015】
しかし、本発明者らが検討を行ったところ、特許文献4に記載の難燃性樹脂組成物により、並列に配置した複数本の平角導体を一括で絶縁被覆成形してなるフレキシブルフラットケーブルは、平角導体の本数を大幅に増大させると、難燃性が低下傾向を示し、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に不合格となる傾向にあることが判明した。この傾向は、各平角導体の幅及び/または厚みが小さくなるほど強くなる。
【0016】
フレキシブルフラットケーブルは、その形状が平坦な帯状であり、平角導体の本数が増えるに従って幅が広くなり、各平角導体の周囲や各平角導体間に存在する難燃性樹脂組成物の量も増大する。そのため、フレキシブルフラットケーブルの燃焼挙動は、断面が略円形の単芯または複数芯の絶縁電線とは異なっていると推定される。フレキシブルフラットケーブルは、電子機器の可動部分や狭い箇所での使用に適しており、その難燃化による高性能化が強く要求されている。
【0017】
特許文献4に記載の難燃性樹脂組成物は、酢酸ビニル単位の含有量が多いエチレン‐酢酸ビニル共重合体を用いる必要があるため、絶縁被覆層の物性や特性の選択に関する許容度が小さいという問題もある。
【0018】
【特許文献1】特開平1‐276514号公報
【特許文献2】特開2004‐10840号公報
【特許文献3】特開2004‐51903号公報
【特許文献4】国際公開第2007/058349号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、ハロゲン系難燃剤を含有することなく、高度の難燃性を発揮し、可撓性、機械物性(引張強さ及び引張破断伸び)、耐熱老化性、耐加熱変形性、低温特性(低温での可撓性)、電気絶縁性に優れた難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【0020】
本発明の他の課題は、このような優れた物性と特性を示す難燃性樹脂組成物により絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルであって、平角導体の本数が増大しても、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格する高度の難燃性を示すフレキシブルフラットケーブルを提供することにある。
【0021】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究した結果、ポリマー成分と難燃剤成分を含有する難燃性樹脂組成物において、該ポリマー成分として、JIS K 7311に従って測定したJIS硬度がA98未満の熱可塑性ポリウレタンエラストマーとエチレン共重合体とを特定の重量比で含有し、かつ、該難燃剤成分として、水酸化マグネシウム、1,3,5‐トリアジン誘導体、並びに亜鉛、アルミニウム、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含み、ハロゲン原子を含まない金属化合物の3種類を組み合わせて特定割合で含有する難燃性樹脂組成物に想到した。
【0022】
本発明の難燃性樹脂組成物により絶縁被覆成形したフレキシブルフラットケーブルは、一括して絶縁被覆成形する平角導体の数を20本以上、さらには60本以上に増大させても、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格する高度の難燃性を示す。このような高度の難燃性は、各平角導体の幅や厚みを小さくしても、達成することができる。
【0023】
本発明の難燃性樹脂組成物は、可撓性を示し、かつ、引張強さや引張破断伸びなどの引張特性に優れている。本発明の難燃性樹脂組成物は、耐熱老化性、低温特性、耐加熱変形性などの諸特性に優れている。本発明の難燃性樹脂組成物は、エチレン共重合体が酢酸ビニル単位の含有量が多いエチレン‐酢酸ビニル共重合体に限定されないため、エチレン共重合体の種類や共重合割合を選択することによって、絶縁被覆層の耐吸湿性、絶縁被覆層同士の固着防止性などの諸特性を改善することができる。
【0024】
本発明の難燃性樹脂組成物は、フレキシブルフラットケーブル以外の各種絶縁電線の絶縁被覆層及び/または外被としても使用することができる。本発明の難燃性樹脂組成物は、チューブの形状に押出成形して、絶縁チューブとすることができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明によれば、ポリマー成分と難燃剤成分を含有する難燃性樹脂組成物において、
(1)該ポリマー成分が、日本工業規格のJIS K 7311に従って測定したJIS硬度がA98未満の熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン共重合体(B)とを、重量比(A:B)で25:75〜95:5の範囲内の割合で含有し、かつ、
(2)該難燃剤成分が、該ポリマー成分100重量部に対して、それぞれ、
水酸化マグネシウム(C)を40〜250重量部、
1,3,5‐トリアジン誘導体(D)を1〜30重量部、並びに
亜鉛、アルミニウム、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含み、ハロゲン原子を含まない金属化合物(E)を1〜30重量部
の各割合で含有する
ことを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供される。
【0026】
また、本発明によれば、並列に配置された複数本の平角導体が絶縁材料により一括して絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルにおいて、該絶縁材料が前記難燃性樹脂組成物であることを特徴とするフレキシブルフラットケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の難燃性樹脂組成物は、ハロゲン原子やハロゲン化合物を含有しないハロゲンフリーであるにもかかわらず、高度の難燃性を示す。本発明の難燃性樹脂組成物は、電離放射線による照射架橋を行わなくても、機械物性に優れる上、可撓性、耐熱老化性、耐加熱変形性、低温特性、電気絶縁性に優れた絶縁被覆層を形成することができる。
【0028】
本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃性と可撓性を有するため、フレキシブルフラットケーブルの絶縁被覆層として好適である。本発明の難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆層を有するフレキシブルフラットケーブルは、平角導体の本数を大幅に増大させても、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格する高度の難燃性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
熱可塑性エラストマー(TPE)は、分子中に弾性を持つゴム成分(ソフトセグメント)と、塑性変形を防止する分子拘束成分(ハードセグメント)との両成分を持つポリマーである。
【0030】
本発明で使用する熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、高分子量ジオール(長鎖ジオール)、ジイソシアネート、及び低分子量ジオール(短鎖ジオール)の三成分の分子間反応によって生成する、分子中にウレタン基(‐NH‐COO‐)を持つポリマーである。長鎖ジオールと短鎖ジオールは、ジイソシアネートと付加反応して線状ポリウレタンを生成する。
【0031】
長鎖ジオールは、エラストマーの柔軟な部分(ソフトセグメント)を形成し、ジイソシアネートと短鎖ジオールは、エラストマーの硬い部分(ハードセグメント)を形成する。熱可塑性ポリウレタンエラストマーの基本特性は、主として長鎖ジオールの種類で決定されるが、硬さは、ハードセグメントの割合で調整される。
【0032】
長鎖ジオールとしては、例えば、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリ(ブチレンアジペート)ジオール(PBA)、ポリ‐ε‐カプロラクトンジオール(PCL)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール(PHC)、ポリ(エチレン/1,4‐アジテート)ジオール、ポリ(1,6‐へキシレン/ネオペンチレンアジペート)ジオールなどが挙げられる。熱可塑性ポリウレタンエラストマーの種類は、長鎖ジオールの種類によって、例えば、カプロラクトン型、アジペート型(「エステル型」ともいう)、PTMG型(「エーテル型」ともいう)、ポリカーボネート(PC)型などに分けられる。
【0033】
ジイソシアネートとしては、例えば、4,4′‐ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′‐ジシクロへキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。短鎖ジオールとしては、1,4‐ブタンジオール、1,6‐ヘキサンジオール、1,4‐ビス(2‐ヒドロシキエトキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
【0034】
本発明で使用する熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、日本工業規格に定められているJIS K 7311(ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法)に従って、タイプAデュロメータを用いて測定した硬度(単位=JIS;「JIS A硬度」ともいう)がA98未満である。熱可塑性ポリウレタンエラストマーのJIS硬度がA98以上であると、難燃性樹脂組成物の引張破断伸びが低くなりすぎて、絶縁被覆層を形成した場合、その可撓性が損なわれる。
【0035】
本発明で使用する熱可塑性ポリウレタンエラストマーのJIS硬度は、好ましくはA50からA97、より好ましくはA60からA95、特に好ましくはA70からA93の範囲内である。熱可塑性ポリウレタンエラストマーのJIS硬度が上記範囲内にあることによって、難燃性樹脂組成物の可撓性、機械物性、耐熱老化性、耐加熱変形性、低温特性など諸特性を高度にバランスさせることができるので好ましい。
【0036】
本発明で使用する熱可塑性ポリウレタンエラストマーの分子量の指標となるメルトフローレート(「MFR」と略記;JIS K 7210に従って、温度210℃、荷重5,000gで測定)は、押出加工性や機械物性などの観点から、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.5〜50g/10分である。
【0037】
本発明で使用するエチレン共重合体は、エチレンと該エチレンと共重合可能なコモノマーとの共重合体である。コモノマーとしては、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸などのモノビニル単量体が代表的なものである。
【0038】
本発明で使用するエチレン共重合体の具体例としては、エチレン‐酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン‐アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン‐メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン‐アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン‐アクリル酸メチル共重合体 (EMA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、一部金属化したエチレン系アイオノマーが挙げられる。エチレン共重合体は、前記の如きコモノマーに加えて、無水マレイン酸やグリシジル基含有モノマーなどの官能基を有するコモノマーを共重合させた三元共重合体であってもよい。
【0039】
エチレン共重合体の中でも、エチレン‐酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン‐アクリル酸エチル共重合体(EEA)、及びエチレン‐メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)が好ましい。
【0040】
エチレン共重合体中のコモノマーに由来する繰り返し単位の含有量は、通常5〜90重量%、好ましくは10〜80重量%である。コモノマーに由来する繰り返し単位の含有量が少なすぎると、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとの相溶性が悪化したり、難燃性が低下したり、あるいは引張強さなどの機械物性が低下したりする。コモノマーに由来する繰り返し単位の含有量が多すぎると、機械物性が低下する。
【0041】
本発明の難燃性樹脂組成物は、特定の3成分系難燃剤を含有するため、エチレン共重合体として、EVA以外のEEA、EMMAなどの各種エチレン共重合体を広く使用することができる。EVAとしては、酢酸ビニル単位の含有量が少ないものから多いものまで使用することができる。
【0042】
本発明の難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆層は、吸湿による引張強さの低下が抑制されている。したがって、本発明の難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆層を有する絶縁電線は、高温高湿環境下に長時間にわたって曝されても、該絶縁被覆層の機械物性を高度に保持することができる。エチレン共重合体としてEVAを用いる場合、該絶縁被覆層の吸湿後の引張強さを高度に保持する観点からは、酢酸ビニル単位の含有量が10重量%以上、50重量%未満のEVAを用いることが好ましい。EVA以外のEEA、EMMAなどの各種エチレン共重合体を用いることによっても、該絶縁被覆層の吸湿後の引張強さを高度に保持することができる。
【0043】
絶縁電線は、絶縁被覆層の粘着性が高いと、絶縁電線同士の固着が生じることがある。固着した絶縁電線を引き剥がすと、絶縁被覆層に白い線などの痕跡が残ることがある。このような絶縁電線の固着を防ぐ観点からも、エチレン共重合体としてEVAを用いる場合、酢酸ビニル単位の含有量が10重量%以上、50重量%未満のEVAを用いることが好ましい。EVA以外のEEA、EMMAなどの各種エチレン共重合体を用いることによっても、絶縁電線同士の固着を防ぐことができる。
【0044】
酢酸ビニル単位の含有量が少ないEVAを用いると、酢酸臭を緩和することもできる。以上のほか、コモノマーの種類や共重合割合を選択することによって、難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆層に、所望の物性や特性を付与することができる。
【0045】
エチレン共重合体の分子量の指標となるMFR(JIS K 7210に従って、温度190℃、荷重2160gで測定)は、押出加工性や機械物性などの観点から、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.5〜50g/10分である。
【0046】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)とエチレン共重合体(B)との含有比率は、重量比(A:B)で25:75〜95:5、好ましくは30:70〜10:90の範囲内である。熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有比率が低すぎると、難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆層の強度特性、耐熱老化性、耐加熱変形性などが低下する。熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有比率が高すぎると、金属水酸化物などの難燃剤成分を高充填することが困難になる。これらのポリマー成分を前記範囲内の重量比で含有することにより、難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆層の物性及び特性を高度にバランスさせることができる。
【0047】
本発明の難燃性樹脂組成物は、ポリマー成分として、熱可塑性ポリウレタンエラストマー及びエチレン共重合体に加えて、高分子相溶化剤を含有していてもよい。高分子相溶化剤としては、例えば、酸変性高密度ポリエチレン、酸変性低密度ポリエチレン、酸変性直鎖状低密度ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性スチレン系エラストマー、酸変性エチレン‐酢酸ビニル共重合体、酸変性エチレン‐不飽和カルボン酸誘導体共重合体などの酸変性重合体を挙げることができる。酸変性重合体は、各重合体または共重合体を、0.1〜10重量%の無水マレイン酸などの酸無水物、及び/またはアクリル酸やメタクリル酸などの不飽和カルボン酸によって変性する方法によって得ることができる。
【0048】
高分子相溶化剤としては、酸変性重合体のほか、エチレン‐グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン‐酢酸ビニル‐グリシジルメタクリレート三元共重合体、エチレン‐アクリル酸メチル‐グリシジルメタクリレート三元共重合体などのエポキシ基を有するエチレン‐α‐オレフィン共重合体を使用することができる。
【0049】
高分子相溶化剤としては、酸変性重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体のほか、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸、エチレン−アクリル酸メチル−無水マレイン酸、エチレン−アクリル酸−無水マレイン酸などの変性ではなく共重合した形での、無水マレイン酸を有するエチレン−α−オレフィン共重合体を使用することもできる。
【0050】
高分子相溶化剤を配合することによって、難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆層の機械物性(引張強さと破断伸び)を向上させることができる。その理由は、高分子相溶化剤を用いると、ポリマー成分と難燃剤成分との相溶性が向上するためであると推定される。高分子相溶化剤を使用する場合、その含有量は、ポリマー成分中の通常1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%である。高分子相溶化剤の含有量が多すぎると、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとの相溶性が低下して、絶縁被覆層の機械物性が低下傾向を示す。
【0051】
本発明では、難燃剤成分として、
1)水酸化マグネシウム(C)、
2)1,3,5‐トリアジン誘導体(D)、並びに
3)亜鉛、アルミニウム、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含み、ハロゲン原子を含まない金属化合物(E)
の3種類の化合物を選択的に組み合わせて使用する。
【0052】
水酸化マグネシウム(C)は、難燃性に優れる金属水酸化物の代表的なものである。水酸化マグネシウムとしては、合成品(合成水酸化マグネシウム)を使用することが好ましい。水酸化マグネシウムとしては、合成品のほか、ブルーサイト鉱を原料とする天然産出の水酸化マグネシウム(天然水酸化マグネシウム)を用いても、難燃性、引張物性、耐加熱変形性、低温特性などのUL規格のスペックを満足する難燃性樹脂組成物を得ることができるため、製造コストの低減に有利である。
【0053】
水酸化マグネシウムの平均粒径(レーザー回折/散乱法によるメディアン径)は、ポリマー成分に対する分散性の観点から、好ましくは0.3〜7μm、より好ましくは0.5〜5μm、特に好ましくは0.6〜3μmである。水酸化マグネシウムのBET比表面積は、好ましくは2〜20m/g、より好ましくは3〜15m/gである。
【0054】
水酸化マグネシウムとしては、表面処理を施していないグレードのものを使用することができるが、ポリマー成分に対する分散性の観点から、ステアリン酸やオレイン酸などの脂肪酸、リン酸エステル、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤などの表面処理剤により表面処理したグレードのものを用いることが好ましい。
【0055】
表面処理剤としては、シランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロシキプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0056】
水酸化マグネシウムの含有量は、ポリマー成分100重量部に対して、40〜250重量部、好ましくは50〜240重量部、より好ましくは60〜220重量部である。水酸化マグネシウムの含有量が少なすぎると、高度の難燃性を達成することができない。水酸化マグネシウムの含有量が多すぎると、機械物性や低温特性が低下傾向を示す。
【0057】
1,3,5‐トリアジン誘導体(D)には、例えば、メラミン、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミンシアヌレート、硫酸メラミンが含まれるが、これらに限定されない。これらの1,3,5‐トリアジン誘導体の中でも、難燃性に優れることから、メラミンシアヌレートが好ましい。
【0058】
1,3,5‐トリアジン誘導体は、未処理品を使用することができるが、分散性の観点から、前記の如き脂肪酸、シランカップリング剤などの表面処理剤で表面処理したものを使用することもできる。1,3,5‐トリアジン誘導体の平均粒径(レーザー回折/散乱法によるメディアン径)は、ポリマー成分への分散性の観点から、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.3〜10μmである。
【0059】
1,3,5‐トリアジン誘導体の含有量は、ポリマー成分100重量部に対して、1〜30重量部、好ましくは3〜28重量部、より好ましくは5〜25重量部である。1,3,5‐トリアジン誘導体の含有量が少なすぎると、高度の難燃性を達成することができない。1,3,5‐トリアジン誘導体の含有量が多すぎると、機械物性や低温特性が低下する。
【0060】
亜鉛、アルミニウム、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含み、ハロゲン原子を含まない金属化合物(E)としては、例えば、酸化亜鉛(亜鉛華)、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛などの亜鉛化合物;錫酸亜鉛(ZnSnO)、ヒドロキシ錫酸亜鉛〔ZnSn(OH)〕などの亜鉛と錫を含有する化合物;水酸化アルミニウム、アルミナ、ベーマイトなどのアルミニウム化合物;などが挙げられる。
【0061】
金属化合物(E)は、分散性の観点から、前記の如き脂肪酸、シランカップリング剤などの表面処理剤で表面処理したものを使用することもできる。金属化合物(E)の平均粒径(レーザー回折/散乱法によるメディアン径)は、ポリマー成分に対する分散性の観点から、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.3〜5μmである。
【0062】
金属化合物(E)の含有量は、ポリマー成分100重量部に対して、1〜30重量部、好ましくは3〜28重量部、より好ましくは5〜25重量部である。該金属化合物の含有量が少なすぎると、高度の難燃性を達成することができない。該金属化合物の含有量が多すぎると、機械物性や低温特性が低下する。
【0063】
難燃剤成分として、水酸化マグネシウム(C)、1,3,5‐トリアジン誘導体(D)、及び金属化合物(E)からなる特定の3種類の化合物を選択的に組み合わせて使用することにより、難燃性樹脂組成物の難燃性を大幅に高めることができる。そのため、本発明の難燃性樹脂組成物は、特許文献4に開示されている難燃性樹脂組成物のように、酢酸ビニル単位の含有量が高いEVAの使用を必須とする必要がなく、各種エチレン共重合体を広く使用することができる。EVAについても、酢酸ビニル単位の含有量が低いEVAも使用可能である。
【0064】
これら3成分の組み合わせからなる難燃剤成分を用いることにより、本発明の難燃性樹脂組成物を用いて絶縁被覆成形してなるフレキシブルフラットケーブルは、その平角導体の数(芯数)を大幅に増大させても、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格するだけの高度の難燃性を示すことができる。
【0065】
水酸化マグネシウム(C)、1,3,5‐トリアジン誘導体(D)、及び金属化合物(E)からなる難燃剤成分の合計含有量は、難燃性の観点から、ポリマー成分100重量部に対して、好ましくは75〜310重量部、より好ましくは85〜280重量部、特に好ましくは110〜250重量部である。難燃剤成分の合計含有量が少なすぎると、十分な難燃性を得ることが困難となる。難燃剤成分の含有量が多すぎると、押出成形性、可撓性、柔軟性、引張破断伸びなどが低下傾向を示す。ここで、ポリマー成分100重量部は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、エチレン共重合体、及び高分子相溶化剤(添加する場合)の合計量に基づいて算出される。
【0066】
本発明の難燃性樹脂組成物には、溶融成形時や使用時における酸化劣化を防ぐために、酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤としては、ペンタエリスリトール‐テトラキス〔3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル‐3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐プロピオネート、1,3,5‐トリメチル‐2,4,6‐トリス(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール‐ビス‐〔3‐(3‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシ‐5‐メチルフェニル)プロピオネート〕などのフェノール系酸化防止剤;4,4′‐ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N′‐ジフェニル‐p‐フェニレンジアミンなどのアミン系酸化防止剤;ビス〔2‐メチル‐4‐(3‐n‐アルキルチオプロピオニルオキシ)‐5‐t‐ブチルフェニル〕スルフィド、2‐メルカプトベンゾイミダゾール、ペンタエリスリトール‐テトラキス(3‐ラウリル‐チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤;などが挙げられる。
【0067】
これらの酸化防止剤の中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤は、ポリマー成分100重量部に対して、好ましくは0.1〜3重量部、より好ましくは0.3〜2重量部の割合で用いられる。
【0068】
本発明の難燃性樹脂組成物には、押出成形性、絶縁電線同士の固着防止性などの観点から、滑剤を含有させることが好ましい。滑剤としては、例えば、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、高級アルコール系滑剤、脂肪酸アマイド系滑剤、金属石けん系滑剤、エステル系滑剤などがある。これらの中でも、脂肪酸アマイド系滑剤が好ましい。
【0069】
脂肪酸アマイド系滑剤としては、例えば、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイドなどが挙げられる。これらの脂肪酸アマイド系滑剤の中でも、絶縁電線の絶縁被覆層に起因する固着を防止する効果が高い点で、ステアリアン酸アマイドが好ましい。滑剤は、ポリマー成分100重量部に対して、好ましくは0.1〜3重量部、より好ましくは0.3〜2重量部の割合で用いられる。
【0070】
本発明の難燃性樹脂組成物には、所望により、加工安定剤、加水分解抑制剤、重金属不活性化剤、着色剤、充填剤、補強材、発泡剤、その他の非ハロゲン系難燃剤または難燃助剤などの各種添加剤を含有させることができる。
【0071】
本発明の難燃性樹脂組成物は、各構成成分を、オープンロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、単軸または多軸混合機などの溶融混合機を用いて混合する方法により調製することができる。該難燃性樹脂組成物は、溶融加工性、取扱性、計量性などの観点から、ペレットの形態に形成することが好ましい。
【0072】
本発明の難燃性樹脂組成物は、絶縁電線の絶縁被覆層の形成に用いることができる。絶縁電線は、導体上に絶縁性の被覆層が形成された構造を有している。導体は、1本の導体からなる単芯、複数の導体からなる複数芯、複数の素線を撚った撚線など任意の形状であってよい。絶縁電線の形状も、特定のものに限定されない。本発明の難燃性樹脂組成物は、溶融押出機を用いて、導体上に押出成形して被覆する方法により、絶縁被覆層を形成することができる。
【0073】
シールド電線は、シールド付きの電線であり、同軸ケーブルがその代表的なものである。シールド電線が単芯の場合、芯線導体の外側を絶縁被覆で覆い、その外側をシールドとなる偏組線で被覆し、さらに外被として絶縁被覆層を被せた構造を有している。本発明の難燃性樹脂組成物は、導体の絶縁被覆層を形成することができるほか、外被の絶縁被覆層を形成することができる。多芯のシールド電線の場合、複数のケーブルを一括して偏組線を被せ、さらに外被として絶縁被覆層を被せた構造のものや、単芯のそれぞれに偏組線を被せてシールドして束にしたものを外被で絶縁被覆したものがある。これらの外被を本発明の難燃性樹脂組成物から形成された絶縁被覆層とすることができる。
【0074】
単芯または複数芯の絶縁電線の外被として、本発明の難燃性樹脂組成物から形成された絶縁被覆層を配置すれば、絶縁ケーブルが得られる。複数芯を有する絶縁ケーブルには、フラットケーブルも含まれる。
【0075】
本発明の難燃性樹脂組成物は、チューブの形状に溶融押出することにより絶縁チューブを作製することができる。該絶縁チューブを加熱条件下に径方向に膨張し、その形状を冷却固定すると、収縮性チューブが得られる。絶縁チューブは、電気的絶縁性が求められる用途に適用することができる。収縮性チューブは、例えば、絶縁電線の端部や接合部などの絶縁保護に用いることができる。
【0076】
フラットケーブルの中でも、並列に配置した複数本の平角導体を絶縁被覆材料により一括して絶縁被覆成形してなるフラットケーブルは、フレキシブルフラットケーブル(FFC)と呼ばれる帯状のケーブルであり、電子機器等における可動部分や狭い箇所での使用に適している。
【0077】
本発明の難燃性樹脂組成物は、フレキシブルフラットケーブルの絶縁被覆材料に用いることができる。本発明の難燃性樹脂組成物を用いて形成した絶縁被覆層は、照射架橋処理を行ってもよいが、照射架橋処理をしなくても、機械物性や難燃性などの諸特性に優れている。
【0078】
本発明の難燃性樹脂組成物をフレキシブルフラットケーブルの絶縁被覆層として用いると、平角導体の本数を大幅に増大させても、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格する高度の難燃性を示すフレキシブルフラットケーブルを得ることができる。
【0079】
本発明のフレキシブルフラットケーブルで使用する平角導体の材質は、平板型の線状導体であればよく、特に限定されないが、平板型の錫めっき銅線が代表的なものである。
【0080】
本発明で使用する平角導体の形状は、その幅Wが通常0.1〜1.6mmであり、その厚みTが通常0.03〜0.15mmである。平角導体の形状は、その厚みTよりもその幅Wが大きく(すなわち、W>T)、その厚みTに対する幅Wの比W/Tが、通常5〜45であり、多くの場合6〜16である。
【0081】
導体サイズの具体例(W×T;単位mm)としては、例えば、0.5×0.05(W/T=10)、0.6×0.1(W/T=6)、0.7×0.032(W/T=22)、0.7×0.1(W/T=7)、0.7×0.05(W/T=12)、0.7×0.035(W/T=20)、0.8×0.1(W/T=10)、0.8×0.05(W/T=13)、1.2×0.15(W/T=8)、1.4×0.032(W/T=44)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
平角導体の断面積は、AWG#20からAWG#35(すなわち、0.15mmから0.52mm)であることが好ましい。
【0083】
1つのフレキシブルフラットケーブルで使用する複数本の平角導体は、その幅や厚みなどを含む断面形状が同じであることが好ましいが、必要に応じて、断面形状が異なる複数の平角導体を組み合わせて使用することができる。導体ピッチについても、等間隔であることが好ましいが、必要に応じて、部分的に他とは異なる導体ピッチで一部の平角導体を配置してもよい。例えば、フレキシブルフラットケーブルの一部の平角導体の断面形状及び/または導体ピッチを他のものと異ならせることにより、許容電流値や導体抵抗が異なる部分を設けてもよい。フレキシブルフラットケーブルを任意の途中幅で切り裂いて分割または分岐させる場合、平角導体の断面形状及び/または導体ピッチが互いに異なる部分を設けると、分割または分岐したフレキシブルフラットケーブルをそれぞれの用途に応じて適用することも可能となる。
【0084】
本発明のフレキシブルフラットケーブルは、図1に示すように、複数本の平角導体11を並列に配置し、各平角導体の周囲及び各平角導体間を絶縁被覆材料により一体的に絶縁被覆成形して、絶縁被覆層12を設けた帯状のケーブル10である。図1では、平角導体の本数が4本の場合を示したが、一般に、1つのフレキシブルフラットケーブルにおける平角導体の本数は、全幅の広さ、平角導体の形状、導体ピッチの大きさなどによっても異なるが、小ピッチでの配列では、通常7〜100本であり、大ピッチでの配列では、通常4〜60本であるが、これらに限定されない。平角導体の幅の中心部同士の間隔を導体ピッチという。導体ピッチは、所望に応じて適宜設定することができるが、多くの場合、0.5mmから2.54mm程度である。
【0085】
図1に示すフレキシブルフラットケーブル10の断面形状は、ほぼ矩形(細長い長方形)である。フレキシブルフラットケーブルは、中心点POに関して対称な形状であるとともに、隣接する2本の平角導体11,11の中間位置において、長手方向に沿って絶縁被覆層12の両表面に切れ込み13を設けることが好ましい。同時に、2箇所のマージン部14の合計4隅には、角部切れ込み15を設けることが好ましい。
【0086】
切れ込み13の形状は、V字形状、円弧形状、U字形状などが代表的なものである。この場合、幅または幅及び厚みの等しい平角導体を等間隔(同じ導体ピッチ)で配置することが好ましい。マージン部の幅は、各平角導体間の間隔の1/2とすることが好ましい。マージン部とは、フレキシブルフラットケーブルの長手方向の端部と、それに隣接する平角導体の端部との間を意味することとする。
【0087】
この切れ込み13を利用して、フレキシブルフラットケーブルを任意の途中幅で切り裂いて分割または分岐させることができる。マージン部14の4隅の角部切れ込み15の形状は、絶縁被覆層12に設けた切れ込み13でフレキシブルフラットケーブルを分割または分岐させたときに現れる形状となるようにすることが好ましい。例えば、絶縁被覆層12に設けた切れ込み13がV字形状の場合、フレキシブルフラットケーブルを該V字形状の切れ込み13で切り裂いて分割または分岐させれば、ほぼ斜め直線状の角部切れ込み形状が現れることになる。この場合、マージン部14の4隅の角部切れ込み15の形状も、予め同じ斜め直線状となるようにすることが好ましい。絶縁被覆層12に設けた切れ込み13が円弧形状の場合は、この円弧形状の切れ込み13で切り裂いて分割または分岐させれば、ほぼ半円の1/2の断面形状の角部切れ込み形状が現れることになる。この場合には、マージン部14の4隅の角部切れ込み15の形状も、予め同じ半円の1/2の断面形状となるようにすることが好ましい。切れ込み13が他の形状の場合についても、上記と同様に対処することが好ましい。
【0088】
難燃性樹脂組成物によって絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルは、複数本の平角導体を所定の張力とピッチで押出機のダイスに送り出し、そこにダイスから難燃性樹脂組成物を溶融押出して被覆することにより製造することができる。フレキシブルフラットケーブルは、それを適用する部位によって、平角導体の本数が異なる場合が多い。平角導体の本数に合わせてダイスを取り替えるのは、費用と手間が掛かる。多数の平角導体を有するフラットケーブルを作製し、それぞれの仕様に対応して、所望の本数の平角導体を有するフレキシブルフラットケーブルに分割することができれば、上記問題を緩和することができる。フレキシブルフラットケーブルを途中で分岐させる必要がある場合も同様である。
【0089】
従来のフレキシブルフラットケーブルは、その左右両端部に設けられたマージンの幅が各平角導体間の間隔の半分の幅よりも長いため、フレキシブルフラットケーブルを途中幅で切り裂いて、それぞれ所望の本数の平角導体を有する複数のフレキシブルフラットケーブルに分割すると、分割した各フレキシブルフラットケーブルにおけるマージン幅が異なることになる。このため、端部にコネクタを取り付ける際に、平角導体の位置がずれるので、位置調整を行わなければならないか、取り付けが不能となる場合があった。
【0090】
これに対して、マージン14の幅、切れ込み13の形状、及び切れ込み15の形状を調整すれば、前記問題を解消することができる。すなわち、分割または分岐したフレキシブルフラットケーブルは、常に一定のマージンを有することになる。このため、平角導体の位置が一定しているので、位置調整を行うことなく、コネクタを容易に取り付けることができる。分割または分岐後に複数種の所望の本数の平角導体を有するフレキシブルフラットケーブルを、1回の押出工程により、同じダイスを用いて製造することができる。
【0091】
本発明の好ましいフレキシブルフラットケーブルの形状は、図2に斜視図を示すように、並列に配置した複数本の平角導体を絶縁被覆材料により一体的に絶縁被覆成形してなるフレキシブルフラットケーブル10であって、隣接する2本の平角導体11,11の中間位置において、長手方向に沿って絶縁被覆の両表面に切れ込み13が設けられている。マージン部14,14の幅は、各平角導体間11,11の間隔の1/2とする。各平角導体は、幅または幅及び厚みが等しいものとする。
【0092】
そこで、平角導体の本数をn;フレキシブルフラットケーブルの全幅をW;平角導体の配列ピッチ(導体ピッチ)をP;フレキシブルフラットケーブルのマージン部14,14の幅をM;平角導体の幅をC;各平角導体間の間隔をG;とすると、本発明のフレキシブルフラットケーブルは、以下の関係式1乃至3を満足するものであることがより好ましい。
【0093】
W=P×n ・・・1
P=C+2×M ・・・2
G=2×M ・・・3
【0094】
マージン部14,14の角部切れ込み15は、フレキシブルフラットケーブルを切れ込み13で切り裂いて分割または分岐させたときに現れる形状と一致させることが好ましい。
【0095】
図2に示すフレキシブルフラットケーブルは、任意の箇所の途中幅で切り裂いて分割または分岐させることができる。分割または分岐したフレキシブルフラットケーブルは、マージンの幅及び形状が同じになり、コネクタへの取り付けが容易である。
【0096】
本発明のフレキシブルフラットケーブルは、上流側から下流側に向けて順に、1)平角導体を供給する供給リール群;2)供給された平角導体を所定のピッチで並べる集線機;3)絶縁被覆材料を溶融押出して絶縁被覆を形成し、複数本の平角導体を内部に含むフレキシブルフラットケーブルを形成する押出機;を備えた製造装置を用いて製造することができる。本発明では、絶縁被覆材料として、本発明の難燃性樹脂組成物を使用する。
【0097】
押出機の下流側には、巻取りドラムを配置するが、その前に、押出機を出たフレキシブルフラットケーブルを任意の途中幅で分割するための切り取り機を配置し、2以上に分割したフレキシブルフラットケーブルのそれぞれを巻き取るための巻取り機を配置する。ダイスの中空形状は、前述のマージン部の角部切れ込み15、及び絶縁被覆の切れ込み13に対応する断面形状とすることが好ましい。ダイスの断面形状を調整することが困難な場合などは、ダイスの下流側に、マージン部の角部切れ込み15、及び絶縁被覆の切れ込み13を形成するための治具を配置してもよい。
【0098】
本発明のフレキシブルフラットケーブルは、液晶テレビの配線など狭いスペースでの配線や、可動部のある電子機器の配線などに適している。本発明のフレキシブルフラットケーブルは、絶縁被覆に設けた切れ込みを利用して分割または分岐させることができるほか、きれいに折り畳んだり、束ねたりすることも容易である。
【0099】
本発明の難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆材料により絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルは、UL規格に適合するものであって、特に、垂直燃焼試験VW‐1に合格するだけの高度の難燃性を有している。
【0100】
特許文献4に開示されている難燃性樹脂組成物を用いると、平角導体の本数(芯数)が比較的少ない場合には、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格するフレキシブルフラットケーブルを得ることができるものの、平角導体の本数を増大させた場合には、難燃性が低下傾向を示す。
【0101】
フレキシブルフラットケーブルは、その全体形状、導体の配置状態、導体周りの絶縁被覆層の被覆状態などが、他の絶縁電線とは大きく相違している。そのため、フレキシブルフラットケーブルの燃焼挙動は、断面が略円形の単芯または複数芯の通常の絶縁電線とは異なっていると推定される。
【0102】
本発明の難燃性樹脂組成物を絶縁材料として使用することにより、平角導体の本数が20本以上、さらには60本以上の多数芯のフレキシブルフラットケーブルであっても、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格するフレキシブルフラットケーブルを得ることができる。本発明の難燃性樹脂組成物で絶縁被覆成形することにより、各平角導体の幅や厚みを小さくしても、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格するフレキシブルフラットケーブルを得ることができる。
【0103】
本発明の難燃性樹脂組成物を用いて形成された絶縁被覆層は、初期の引張強さ及び引張破断伸びに優れるだけではなく、熱老化後の引張特性も良好である。本発明の難燃性樹脂組成物を用いることにより、引張試験機を用いて、引張速度50mm/分、標線間距離25mm、温度23℃で測定したとき、8.2MPa以上、好ましくは9.0〜20.0MPa、より好ましくは9.5〜18.0MPaの引張強さと、100%以上、好ましくは105〜230%、より好ましくは110〜200%の引張破断伸びを示す絶縁被覆層を得ることができる。
【0104】
該絶縁被覆層は、温度60℃及び相対湿度95%の恒温高湿槽中に3日間放置する条件下での吸湿試験の後、前記と同じ条件で引張強さを測定したとき、引張強さの初期値(吸湿前の値)に対する吸湿後の引張強さの百分率〔「引張強さ残率(%)」という〕が80%以上、好ましくは83〜99%となり、吸湿後の引張強さの保持率に優れている。吸湿後の引張強さの保持率は、EVA以外のエチレン共重合体を用いた場合や、酢酸ビニル単位の含有量が50重量%未満のEVAを用いた場合には、85〜99%、多くの場合90〜98%にまで高めることができる。
【0105】
該絶縁被覆層は、113℃のギアオーブン中に168時間放置する条件下での熱老化試験の後、前記と同じ条件で引張破断伸びを測定したとき、引張破断伸びの初期値(熱老化試験前の値)に対する熱老化試験後の引張判断伸びに百分率〔引張破断伸び残率(%)という〕が75〜95%となり、優れた耐熱老化性を示す。
【0106】
本発明の難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆材料により絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルは、個々に分割した試料(1個の平角導体を含む試料)を100℃のギアオーブンにセットし、60分間予熱した後、該試料上部から荷重250gの外径9.5mmの円盤状治具で60分間押さえ、その変形残率を測定したとき、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上の加熱変形残率を示すことができる。加熱変形残率の上限値は、通常99%、多くの場合98%程度である。
【0107】
本発明の難燃性樹脂組成物からなる絶縁材料により絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルは、個々に分割した試料(1個の平角導体を含む試料)を、−10℃の低温槽に4時間放置した後、該試料の外径の2倍の径の金属棒に−10℃でU字曲げしたとき、絶縁被覆層にクラックが発生しない。すなわち、該絶縁被覆層は、低温特性(低温での可撓性)に優れている。
【0108】
これらの諸特性の測定法の詳細は、実施例で述べるが、その多くは、UL規格に従ったものである。つまり、本発明の難燃性樹脂組成物により絶縁被覆した絶縁電線は、多数芯のフレキシブルフラットケーブルを含めて、UL規格の安全規格を満たす機器内配線用絶縁電線として好適であり、火災防止などの安全性を確保しながら、ハロゲンフリーのため環境にやさしいという特徴を有している。
【実施例】
【0109】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。各種物性及び特性の測定法と評価法は、次のとおりである。
【0110】
(1)難燃性の評価:
UL規格1581に従い、垂直燃焼試験VW‐1に5点の試料を提供し、5点とも合格した場合に「合格」と判定した。その判定基準は、各試料に15秒着火を5回繰り返した場合に、60秒以内に消火し、下部に敷いた脱脂綿が燃焼落下物によって類焼せず、試料の上部に取り付けたクラフト紙が燃えたり、焦げたりしないものを合格とした。
【0111】
試料としては、60本の平角導体を含むフレキシブルフラットケーブルから切り取ったもの(60芯)を用いた。該フレキシブルフラットケーブルから平角導体が5本(5芯)と20本(20芯)を有する試料を切り離して、同じ方法で燃焼試験を行った。
【0112】
(2)引張特性の評価:
絶縁被覆層の引張試験(引張速度50mm/分、標線間距離25mm、温度23℃)を行い、引張強さと引張破断伸びを各3点の試料で測定し、それらの平均値を求めた。UL規格に従うと、引張強さが8.2MPa以上かつ引張破断伸び100%以上のものが「合格」と判定される。
【0113】
(3)吸湿後の引張強さ残率(%)の評価:
絶縁被覆層からの試料を、温度60℃及び相対湿度95%の恒温高湿槽内に3日間放置した後取り出して、前記(2)で示したのと同じ測定条件で引張強さを測定した。試料の引張強さの初期値(吸湿前の値)に対する吸湿後の引張強さの百分率を算出し、その値を吸湿後の引張強さ残率(%)とした。
【0114】
(4)耐熱老化性の評価:
絶縁被覆層からの試料を、温度113℃のギアオーブン中に168時間放置して熱老化させた後、前記(2)で示したのと同じ条件で引張破断伸びの測定を行った。UL規格に従い、引張破断伸び残率〔=100×(熱老化後の伸び/熱老化前の伸び)〕を算出した。引張破断伸び残率が75%以上であれば、UL規格を満足する。
【0115】
(5)低温特性の評価:
フレキシブルフラットケーブルを個々に分割した試料(1個の平角導体を含む試料)を、−10℃の低温槽に4時間放置した後、該試料の外径の2倍の径の金属棒に−10℃でU字曲げを行い、絶縁被覆層のクラックの有無を目視で判定した。クラックの発生がないものは、低温特性が「合格」であると判定される。
【0116】
(6)耐加熱変形性の評価:
フレキシブルフラットケーブルを個々に分割した試料(1個の平角導体を含む試料)を、100℃のギアオーブン中にセットし、60分間予熱後、試料上部から荷重250gで外径9.5mmの円盤状治具で60分間押さえ、絶縁被覆層の変形残率〔=100×(試験後の厚み/試験前の厚み)〕を測定した。加熱変形残率が50%以上のものは、UL規格に「合格」と判定される。
【0117】
[実施例1]
二軸混合機(45mmφ、L/D=42)を用いて、表1に示す実施例1の配合処方で各成分を溶融混合し、ストランド状に溶融押出し、次いで、溶融ストランドを冷却切断してペレットを作製した。表1に記載の難燃性樹脂組成物には、ポリマー成分(高分子相溶化剤を添加した場合には、該高分子相溶化剤を含む)100重量部に対して、滑剤としてステアリン酸アマイド0.5重量部と、酸化防止剤としてペンタエリスリトール‐テトラキス〔3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕1重量部とを共通に配合した。
【0118】
幅0.6mm、厚み0.1mmの平角導体(平板型の錫めっき銅線)60本を供給リール群から集線機に送り、導体ピッチ1.0mmで並列に配置した。次いで、並列配置した60本の平角導体を溶融押出機のダイスに送り、表1の実施例1に示す難燃性樹脂組成物のペレットを溶融押出機から溶融押出して絶縁被覆成形を行った。絶縁被覆層の厚みは、0.2mmであり、絶縁被覆の両面に設けた切れ込みの形状は、V字形状(深さ0.13mm)であり、マージン部の角部切れ込みの形状は、斜めの直線形状であり、マージン部の幅は、各平角導体間の間隔の(1/2)であった。
【0119】
このようにして得られたフレキシブルフラットケーブルから60本の平角導体を含む試料を切り取って、垂直燃焼試験を実施した。5本及び20本の平角導体に該当する部分を60本の平角導体を含む試料から切り離して、垂直燃焼試験を実施した。全ての試料が、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格した。結果を表1に示す。
【0120】
[実施例2]
難燃性樹脂組成物として、表1の実施例2に示す配合処方のものを用いた。幅0.6mm、厚み0.1mmの平角導体(平板型の錫めっき銅線)60本を供給リール群から集線機に送り、導体ピッチ1.0mmで並列に配置した。次いで、並列配置した60本の平角導体を溶融押出機のダイスに送り、表1の実施例2に示す難燃性樹脂組成物のペレットを溶融押出機から溶融押出して絶縁被覆成形を行った。絶縁被覆層の厚みは、0.2mmであり、絶縁被覆の両面に設けた切れ込みの形状は、V字形状(深さ0.13mm)であり、マージン部の角部切れ込みの形状は、斜めの直線形状であり、マージン部の幅は、各平角導体間の間隔の(1/2)であった。
【0121】
このようにして得られたフレキシブルフラットケーブルから60本の平角導体を含む試料を切り取って、垂直燃焼試験を実施した。5本及び20本の平角導体に該当する部分を60本の平角導体を含む試料から切り離して、垂直燃焼試験を実施した。全ての試料が、UL規格の垂直燃焼試験VW‐1に合格した。結果を表1に示す。
【0122】
[実施例3〜13]
実施例1において、難燃性樹脂組成物の配合処方を表1及び表2の実施例3〜13に示す配合処方に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各フレキシブルフラットケーブルを作製した。結果を表1及び表2に示す。
【0123】
[比較例1〜7]
実施例1において、難燃性樹脂組成物の配合処方を表3の比較例1〜7に示す配合処方に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各フレキシブルフラットケーブルを作製した。結果を表3に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
【表3】

【0127】
(脚注)
(1)アジペート型TPU(JIS硬度=A90):ソフトセグメントがアジペート型で、JIS硬度がA90の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
(2)PTMG型TPU(JIS硬度=A90):ソフトセグメントがポリテトラメチレングリコール型で、JIS硬度がA90の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
(3)EVA‐1:酢酸ビニル単位の含有量が80重量%のエチレン‐酢酸ビニル共重合体。
(4)EVA‐2:酢酸ビニル単位の含有量が46重量%のエチレン‐酢酸ビニル共重合体。
(5)EVA‐3:酢酸ビニル単位の含有量が15重量%のエチレン‐酢酸ビニル共重合体。
(6)アクリル酸エチル単位の含有量が23重量%のエチレン‐アクリル酸エチル共重合体。
(7)合成水酸化マグネシウム:平均粒径が0.8μmで、BET比表面積が6m2/gで、アミノシラン処理された合成水酸化マグネシウム。
(8)メラミンシアヌレート:粒径が1〜5μmの範囲内にあるメラミンシアヌレート(未表面処理品)。
(9)錫酸亜鉛:平均粒径が2.5μm、分解温度が400℃以上、錫含有量が51重量%、亜鉛含有量が28重量%の錫酸亜鉛。
(10)ヒドロキシ錫酸亜鉛:平均粒径が2.5μm、分解温度が約200℃、錫含有量が41重量%、亜鉛含有量が23重量%のヒドロキシ錫酸亜鉛。
(11)酸化亜鉛:純度が99.0%以上、JIS K 1410合格品。
(12)水酸化アルミニウム:粒径が1〜3μmの範囲内にあり、強熱原料が35%で、1重量%脱水温度が240〜260℃の水酸化アルミニウム。
(13)滑剤:ステアリン酸アマイド。
(14)酸化防止剤:ペンタエリスリトール‐テトラキス〔3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕。
(15)高分子相溶化剤:水添スチレン系熱可塑性エラストマーの無水マレイン酸変性物。
【0128】
<考察>
実施例1〜11に示すように、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、エチレン共重合体、及び特定の3成分系の難燃剤を用いて難燃性樹脂組成物を構成することにより、高度の難燃性を発揮し、可撓性、機械物性(引張強さ及び引張破断伸び)、耐熱老化性、耐加熱変形性、低温特性(低温での可撓性)、電気絶縁性に優れた難燃性樹脂組成物と、該難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆層を有するフレキシブルフラットケーブルを得ることができる。
【0129】
ポリマー成分として高分子相溶化剤を含有させることにより、前記諸特性をさらに改善することができる(実施例12及び13)。
【0130】
本発明の難燃性樹脂組成物を用いて形成した絶縁被覆層は、引張特性に優れており、吸湿後の引張強さ残率が高い。エチレン共重合体として、EVA以外のエチレン共重合体(実施例11)や、酢酸ビニル単位の含有量が少ないEVA(実施例1〜8、10、12、及び13)を用いると、吸湿後の引張強さ残率をさらに高めることができる。
【0131】
比較例1〜5に示すように、特定の3成分系難燃剤を使用しない場合は、多芯での難燃性が低下するだけでなく、機械特性や低温性などとトレードオフの関係となり、UL規格を満足するフレキシブルフラットケーブルを得ることができない。比較例6及び7に示すように、ポリマー成分として熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いずに、エチレン共重合体の単独使用の場合は、UL規格を満足することができない。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の難燃性樹脂組成物は、絶縁電線の絶縁被覆層を形成する絶縁材料として利用することができる。本発明の難燃性樹脂組成物を絶縁被覆したフレキシブルフラットケーブルは、電子機器等における可動部分や狭い箇所での絶縁電線として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明のフレキシブルフラットケーブルの一例の断面略図である。
【図2】本発明のフレキシブルフラットケーブルの好ましい構造の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0134】
10 フレキシブルフラットケーブル
11 平角導体
12 絶縁被覆層
13 切れ込み
14 マージン部
15 マージン部の角部切れ込み
PO 中心点
M マージン部の幅
P 導体ピッチ
C 平角導体の幅
G 各平角導体間の間隔
W フレキシブルフラットケーブルの全幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー成分と難燃剤成分を含有する難燃性樹脂組成物において、
(1)該ポリマー成分が、日本工業規格のJIS K 7311に従って測定したJIS硬度がA98未満の熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)と、エチレン共重合体(B)とを、重量比(A:B)で25:75〜95:5の範囲内の割合で含有し、かつ、
(2)該難燃剤成分が、該ポリマー成分100重量部に対して、それぞれ、
水酸化マグネシウム(C)を40〜250重量部、
1,3,5‐トリアジン誘導体(D)を1〜30重量部、並びに
亜鉛、アルミニウム、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含み、ハロゲン原子を含まない金属化合物(E)を1〜30重量部
の各割合で含有する
ことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
並列に配置された複数本の平角導体が絶縁材料により一括して絶縁被覆されたフレキシブルフラットケーブルにおいて、該絶縁材料が、請求項1記載の難燃性樹脂組成物であることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項3】
隣接する各平角導体の中間位置において、長手方向に沿って絶縁被覆層の両表面に切れ込みが設けられている請求項2記載のフレキシブルフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−263597(P2009−263597A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118141(P2008−118141)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】