説明

難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物

【課題】
非ハロゲン系難燃剤で難燃化されており、且つリサイクルしても引張強度の低下が少ない、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)10重量%以下の他の樹脂を含有していてもよいポリエステル樹脂から成る熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、(B特定のホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩であるホスフィン酸塩10〜40重量部、(C)アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩であって平均粒径が10μm以下のもの5〜30重量部、(D)燐系安定剤0.1〜3重量部、(E)ホウ酸亜鉛0〜10重量部及び、(F)無機充填材0〜100重量部を含有させたことを特徴とする難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度、特にリサイクルしても引張強度の低下が小さく、且つ金型汚染も少ない、難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂は、その優れた特性から、電気・電子機器や自動車部品などに広く用いられている。これらの用途にポリエステル樹脂を用いる際には、一般的に難燃剤を配合した難燃性ポリエステル樹脂組成物として用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂に配合する難燃剤としては、従来は主としてハロゲン系難燃剤が用いられていた。しかしハロゲン系難燃剤には種々の問題があるので、これに代わる難燃剤を用いることが求められている。また最近の電子・電気機器の小型化と高機能化に伴い、難燃化に対する要求が益々高度化してきており、これを満足させることが困難となってきている。
【0004】
非ハロゲン系難燃剤としては、燐系難燃剤や窒素系難燃剤が知られており、これらを併用することも知られている。具体的には例えば、燐系難燃剤であるホスフィン酸塩に窒素系難燃剤であるトリアジン系化合物と(イソ)シアヌル酸との塩を併用し、更にこの塩に対してホウ酸金属塩を或る比率で用いることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
そしてその実施例においては、トリアジン系化合物と(イソ)シアヌル酸との塩としてメラミンシアヌレートを用い、ホウ酸金属塩としてホウ酸カルシウムを用いて、UL94の難燃性がV−0で金型汚染の少ない樹脂組成物が得られることが示されている。これに対し比較例8では、メラミンシアヌレートの代わりにポリリン酸メラミンを用いると、UL94の難燃性がV−2となり、かつ金型汚染が著しいことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−117722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はハロゲン系難燃剤を用いずに、高度に難燃化されたポリエステル樹脂組成物を提供するものである。また本発明は、金型汚染が少なく、かつ引張強度に優れ、特にリサイクルしても引張強度の低下の小さい、ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ポリエステル樹脂に、ホスフィン酸塩、アミノ基を有するトリアジン系化合物と無機酸との塩であって平均粒径が10μm以下のもの、及び燐系安定剤を含有させ、且つホウ酸塩を含有させる場合にはホウ酸亜鉛を用いるならば、UL94の難燃性がV−0で金型汚染の少ない樹脂組成物が得られることを見出した。しかもこの樹脂組成物は引張り強度に優れ、リサイクルしても強度の低下が小さいという予期せざる特性を有していることをも見出した。
【0009】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、(A)10重量%以下の他の樹脂を含有していてもよい熱可塑性ポリエステル樹脂から成る熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、(B)アニオン部分が下記式(1)又は(2)で表されるホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩であるホスフィン酸塩10〜40重量部、(C)アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩であって平均粒径が10μm以下のもの5〜30重量部、(D)燐系安定剤0.1〜3重量部、(E)ホウ酸亜鉛0〜10重量部、及び(F)無機充填材0〜100重量部を含有させたことを特徴とする難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に存する。
【0010】
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基またはこれらの混合基を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱可塑性ポリエステル樹脂の優れた諸特性を保持し、且つ難燃性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供できる。この樹脂組成物は、リサイクルした場合でも、つまり一旦樹脂成形体とした後やスプルー、ランナー等、樹脂成形体の製造時に発生する不可避的な廃材等を、再溶融する等の手段を経て、再度、樹脂成形体とした様な場合であっても、得られる樹脂成形体の引っ張り強度の低下が(バージン材により成形された樹脂成形体と比較しても)小さいという特徴を有する。
【0012】
この様な特性を生かして、成形に際し不可避的に発生する廃材を有効に活用でき、廃材の発生が多い小型の電子・電気部品の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(A)熱可塑性樹脂成分
本発明では熱可塑性樹脂成分として、熱可塑性ポリエステル樹脂又はこれを主体とし10重量%以下の他の樹脂を含有する樹脂混合物を用いる。ポリエステル樹脂は1種類でも2種類以上の混合物であってもよい。ポリエステル樹脂としては、通常はポリブチレンテレフタレート樹脂、又はポリブチレンテレフタレート樹脂が60重量%以上、好ましくは80重量%以上を占める混合物を用いる。例えばポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物であって、前者が60重量%以上、更には80重量%以上を占めるものは、本発明で用いるポリエステル樹脂として好ましいものの一つである。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂は、周知のように、テレフタル酸又はそのエステルと、1,4−ブタンジオール又はエチレングリコールとの反応により、大規模に製造され、市場に流通している。本発明では市場で入手し得るこれらの樹脂を用いることができる。市場で入手し得る樹脂には、テレフタル酸成分と1,4−ブタンジオール成分又はエチレングリコール成分以外の共重合成分を含有しているものもあるが、本発明では共重合成分を少量、通常は10重量%以下、好ましくは5重量%以下で含有するものも用いることができる。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、通常、0.5〜1.5dl/gであり、特に0.6〜1.3dl/gであることが好ましい。0.5dl/gより小さいと機械的強度に優れた樹脂組成物を得るのが困難である。また1.5dl/gより大きいと樹脂組成物の流動性が低下し、成形性が低下する場合がある。また、末端カルボキシル基量は30meq/g以下であることが好ましい。さらに1,4−ブタンジオールに由来するテトラヒドロフランの含有量は300ppm以下であることが好ましい。
【0016】
またポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、通常、0.4〜1.0dl/gであり、特に0.5〜1.0dl/gであることが好ましい。固有粘度が0.4未満であると樹脂組成物の機械的特性が低下し易く、1.0を超えると流動性が低下し易い。なお、いずれの固有粘度も、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)混合溶媒中、30℃での測定値である。
【0017】
本発明では熱可塑性樹脂成分として、ポリエステル樹脂と他の樹脂との混合物を用いることもできる。他の樹脂の含有量は、ポリエステル樹脂の特性を損なわないように、熱可塑性樹脂成分中において10重量%以下、特に8.5重量%以下とすることが好ましい。この様な樹脂としてはポリエステル樹脂と相溶性のあるものであればいずれも用いることができるが、中でもスチレン系樹脂が好ましい。
【0018】
ここでスチレン系樹脂とは、スチレン、又はこれと共重合し得るモノマーとの重合体であり、具体的には例えば、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリルースチレン樹脂、アクリロニトリルーブタジエンースチレン樹脂、メチルメタクリレートーブタジエンースチレン樹脂、スチレンーエチレンープロピレンースチレン樹脂など、市場で入手し得るものを用いることができる。またこれらの樹脂を無水マレイン酸やグリシジルメタクリレートなどで変性したスチレン系樹脂を用いることもできる。
【0019】
(B)ホスフィン酸塩
本発明では、難燃剤としてアニオン部分が下記式(1)又は(2)で表されるホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩を用いる。
【0020】
【化2】

【0021】
上記式(1)、(2)において、R及びRは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基など炭素数1〜6のアルキル基;フェニル基、o−,m−又はp−メチルフェニル基、種々のジメチルフェニル基、α―又はβ―ナフチル基等の、置換されていてもよいアリール基を表す。中でも好ましくは、R及びRはメチル基又はエチル基である。
【0022】
はメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、2−エチルヘキシレン基等の炭素数1〜10のアルキレン基;o―、m−又はp−フェニレン基、1,8−又は2,6−ナフチレン基等のアリーレン基;又は、メチレンフェニレン基、エチレンフェニレン基等の、上述した2種以上の基からなるもの(混合基)であることを表す。中でもRは、炭素数1〜4のアルキレン基又はフェニレン基であることが好ましい。
【0023】
ホスフィン酸塩の具体例としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n―プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n―プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、メタンビス(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、メタンビス(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼンー1,4−ビス(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−ビス(ジメチルホスフィン酸)アルミニウムなどが挙げられる。中でも難燃性及び電気特性等の観点から、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが好ましい。
【0024】
更に本発明においては、本発明の樹脂組成物から得られる樹脂成形体の外観や機械的強度の観点から、ホスフィン酸塩を、レーザー回折法による測定で粒径が100μm以下のもの、特に平均粒径が50μm以下のものを用いることが好ましい。
【0025】
平均粒径の下限は特に制限はないが、通常、0.5μmを下回るまで粉砕等により小粒子化する必要は無く、通常の下限は、粉砕等によって平均粒径が1μmとすれば十分である。このような微細な粉末は、高い難燃性を発現するばかりでなく、成形品の強度が著しく高くなるので、特に好ましい。
【0026】
(A)熱可塑性樹脂成分100重量部に対する(B)ホスフィン酸塩の配合量は、10〜40重量部である。この配合量が10重量部未満では樹脂組成物に所望の難燃性が発現しない。逆に40重量部を超えるような量では、樹脂組成物の成形性が悪化し、かつ機械的強度も低下する。中でもホスフィン酸塩の好適な配合量は、(A)熱可塑性樹脂成分100重量部に対して20〜35重量部、特に25〜35重量部である。
【0027】
(C)アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩
アミノ基含有トリアジン系化合物(アミノ基を有するトリアジン系化合物)としては、通常1,3,5−トリアジン環を有する化合物を用いる。具体的には例えば、メラミン、置換メラミン(2−メチルメラミン、グアニルメラミン等)、メラミン縮合物(メラム、メレム、メロン等)、メラミンの共縮合樹脂(メラミンーホルムアルデヒド樹脂等)、シアヌル酸アミド類(アンメリン、アンメリド等)、グアナミン又はその誘導体(グアナミン、メチルグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、フタログアナミン、CTU―グアナミン等)等が挙げられる。
【0028】
アミノ基含有トリアジン系化合物と塩を形成する無機酸としては、硝酸、塩素酸(塩素酸、次亜塩素酸等)、リン酸(オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等)、硫酸(硫酸、亜硫酸等の非縮合硫酸;ペルオクソニ硫酸、ピロ硫酸等の縮合硫酸等)等が挙げられる。
【0029】
中でもリン酸や硫酸が好ましく、アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩としては、リン酸メラミン類(ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩等)や硫酸メラミン類(硫酸メラミン、硫酸ジメラミン、ピロ硫酸ジメラム等)を用いることが好ましく、特にポリリン酸との塩が好ましい。
【0030】
本発明では、アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩として、レーザー回折法による平均粒径が10μm以下のものを用いることが重要である。この平均粒径が10μmを超える無機酸塩や、平均粒径が10μm以下であっても有機酸塩を用いると、所期の難燃性に富み、引張強度が大きく、リサイクル性に優れた樹脂組成物を得ることはできない。
【0031】
平均粒径が10μm以下の無機酸塩の中でも、金型汚染がより少なく、且つ引張強度やリサイクル性により優れた樹脂組成物を与える点で、平均粒径が6μm以下のものを用いるのが好ましい。尚、本発明に用いるアミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩の粒径の下限については、特に制限はないが、粒径が1μmを下回るようなものは取り扱いが困難であり、且つ溶融・混練に際し均一に分散させるのが困難であるので、通常、下限は平均粒径として1μmである。
【0032】
本発明においては、(C)アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩は、(A)熱可塑性樹脂成分100重量部に対して5〜30重量部含有させる。5重量部未満では所期の難燃効果が発現しない。また30重量部を超えるような大量では、生産性が著しく低下すると共に、金型汚染性が悪化する。
【0033】
熱可塑性樹脂成分100重量部に対するアミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩の好ましい含有量は5〜20重量部、特に5〜15重量部である。尚、アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩と、前述のホスフィン酸塩との併用は相乗効果を奏するので、前者の塩に対する後者の塩の重量配合比(B/C)が1.1以上、特に1.5〜4であることが好ましい。
【0034】
(D)燐系安定剤
燐系安定剤としては樹脂組成物に常用されているものであれば、いずれも用いることができる。中でも亜リン酸エステル系安定剤、特に長鎖アルコールやアルキル置換フェノールで部分的または全面的にエステル化された構造を有する亜リン酸エステル系安定剤が好ましい。
【0035】
長鎖アルコールとしてはオクタデシルアルコールの様な炭素数8以上のもの、アルキル置換フェノールとしては2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールの様な炭素数1〜4のアルキル基を有するもの等が挙げられる。市場で入手し得るものとしては、旭電化社製PEP−8、PEP−24G、PEP−36,2112、2112RG(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0036】
本発明においては、燐系安定剤を(A)熱可塑性樹脂成分100重量部に対して0.1〜3重量部含有させるが、中でも0.1〜2重量部、特に0.2〜1重量部含有させることが好ましい。
【0037】
(E)ホウ酸亜鉛
本発明の樹脂組成物は本質的に上記の(A)〜(D)の各成分より成るが、難燃性やリサイクル後の物性保持率、そして耐熱変色特性等を向上させる目的から、更にホウ酸亜鉛を含有させることが好ましい。
【0038】
ホウ酸亜鉛は、(A)熱可塑性樹脂成分100重量部に対して10重量部以下の量で含有させるが、中でも1〜8重量部、特に1〜6.5重量部含有させることが好ましい。尚、一般に樹脂組成物に含有させるホウ酸金属塩としては、ホウ酸カルシウムなど亜鉛塩以外のものも用いられているが、本発明に係る樹脂組成物においては、ホウ酸カルシウムなどを含有させるとリサイクル後の物性保持率が大きく低下するだけでなく、初期物性も大きく低下するので、亜鉛塩以外は実質的に含有させるべきではない。
【0039】
(F)無機充填材
本発明の樹脂組成物には、無機充填材を含有させてその機械的特性を向上させることができる。無機充填材としては常用のものをいずれも用いることができる。具体的には例えば、ガラス繊維、炭素繊維、鉱物繊維などの繊維状無機充填材が挙げられるが、中でもガラス繊維を用いることが好ましい。本発明においては、無機充填材は(A)熱可塑性樹脂成分100重量部に対して100重量部以下、中でも20〜80重量部を含有させることが好ましい。
【0040】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて更に、常用の樹脂添加剤や助剤を含有させることができる。具体的には例えば、滴下防止剤としてのフッ素樹脂、ヒンダードフェノール系化合物などの酸化防止剤、着色剤、離型剤などが挙げられる。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂について一般に用いられている溶融・混練装置により、原料の各成分を均一になるように溶融・混練することにより製造することができる。溶融・混練装置としては、一軸ないし多軸押出機、ロールなどが挙げられる。特にニ軸押出機を用いるのが好ましく、全原料を所定の比率でミキサーにいれ、均一に混合した後、ニ軸押出機のホッパーに投入し、溶融・混練し、ペレット化するという一般的な方法で製造することができる。
【0042】
尚、無機充填剤としてガラス繊維などの繊維状のものを用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフイーダーから供給することによって、押出機の損傷防止、充填剤の破砕防止がなされるので好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、使用した各成分の略号、物性を下記に示す。また平均粒径はD50(体積基準の50%の中位粒径)を意味し、堀場製作所製LA―920を用いて、レーザー回折/散乱法で測定した値である。
【0044】
PBT:
ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 5008、固有粘度0.85dl/g)
【0045】
ホスフィン酸塩:
ジエチルホスフィン酸アルミニウム(クラリアント社製 OP1240(商品名)、平均粒径40μm)
【0046】
アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩―1:
ポリリン酸メラミン (チバ・スペシャル社製 melapur200/70(商品名)、平均粒径8μm)
【0047】
アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩―2:
ポリリン酸メラミン・メラム・メレム (日産化学社製品phosmel−200(商品名)、平均粒径7μm)
【0048】
アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩―3:
ポリリン酸メラミン (チバ・スペシャル社製 melapur200(商品名)、平均粒径5μm)
【0049】
アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩―4:
ポリリン酸メラミン (日本カーバイド社製 アピノンMPP−A(商品名)、平均粒径4μm)
【0050】
アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩―5:
ポリリン酸メラミン (日本カーバイド社製 アピノンMPP−B(商品名)、平均粒径12μm)
【0051】
アミノ基含有トリアジン系化合物と有機酸との塩:
メラミンシアヌレート (サンケミカル社製 MCA(商品名)、平均粒径5μm)
【0052】
燐系安定剤:
旭電化社製 PEP−36(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールと亜リン酸とのモノエステル2個をペンタエリスリトールでフルエステル化したもの)
【0053】
ガラス繊維:
オーエンスコーニングジャパン社製 03JA―FT−592(商品名)
【0054】
ホウ酸亜鉛:BORAX社製 Fire brake ZB(商品名)
【0055】
ホウ酸カルシウム:キンセイマテック社製 UBパウダー(商品名)
【0056】
ヒンダードフェノール系安定剤:チバ・スペシャル社製 イルガノックス1010(商品名)
【0057】
ガラス繊維以外の各原料を表―1に示す配合量(重量部)となるように秤量し、タンブラーミキサーで混合した。得られた混合物をニ軸押出機(日本製鋼所製、型式:TEX30HCT、30mm)のホッパーに供給し、ガラス繊維はサイドフイーダーを通じて供給し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量15kg/hの条件で溶融・混練して、難燃性熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。
【0058】
上記のペレットを80℃で10時間真空乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所製、型式:J75ED)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃で試験片を成形した。この試験片を用いて、以下に記す試験を行った。結果を表1に記す。
【0059】
難燃性:
UL94の規格に従って難燃性を評価した。具体的には、厚さ0.8mmの試験片をクランプに垂直に取り付け、20mm炎による10秒間接炎を2回行い、その際の燃焼挙動によりV−0、V−1、V−2、不適合の判定を行った。
【0060】
比較トラッキング指数試験(CTI(絶縁特性)試験):
試験片(厚さ3mmの平板)について、国際規格 IEC60112に定める試験法によりCTIを測定した。CTIは固体電気絶縁材料の表面に電界が加わった状態で湿潤汚染されたとき、100Vから600Vの間の25V刻みの電圧におけるトラッキングに対する対抗性を示すものであり、数値が高いほど良好である(絶縁特性に優れる)ことを示す。
【0061】
引張試験:
ISO引張試験片(ISO3167)を成形し、ISO527に準拠して引張試験を行った。リサイクル後の引張試験は、上記のISO引張試験片を成形直後に粉砕機(松井製作所製 SMGL)に投入して粉砕し、この粉砕品だけを用いて再びISO試験片を成形し、ISO527に準拠して引張試験を行った。
【0062】
耐熱変色特性:
熱処理(150℃熱風オーブンに500時間静置)する前後の試験片(厚さ3mmの平板)につき、JIS Z8722規格の方法に準じて、反射法により色相差(△E)を測定した。測定はスガ試験機社製の多光源分光測色計(MSC−5N−GV5)を用いて行った。光源系はd/8条件、光束はΦ15mmの条件で行った。△Eの値が小さいほど耐熱変色特性に優れていることを意味する。
【0063】
金型汚染性:
射出成形機として住友重機械社製SE50を用い、射出成形条件を、射出圧力50MPa、射出速度80mm/秒、シリンダー温度260℃、射出時間3秒、冷却時間8秒、冷却温度80℃、とし、長さ35mm、幅14mm、厚さ2mmの樹脂成形体を500ショット連続して射出成形して樹脂成形体を得た。そして500ショット実施後に金型に付着しているモールドデポジットの状態(金型汚染性)を肉眼で観察し、下記の基準に従って評価した。
【0064】
O:モールドデポジットが殆ど認められない。
△:モールドデポジットがうっすらと認められる。
X:モールドデポジットがはっきりと認められる。
XX:モールドデポジットが金型全面に厚く付着している。
【0065】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)10重量%以下の他の樹脂を含有していてもよい熱可塑性ポリエステル樹脂から成る熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、(B)アニオン部分が下記式(1)又は(2)で表されるホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩であるホスフィン酸塩10〜40重量部、(C)アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩であって平均粒径が10μm以下のもの5〜30重量部、(D)燐系安定剤0.1〜3重量部、(E)ホウ酸亜鉛0〜10重量部、及び(F)無機充填材0〜100重量部を含有することを特徴とする難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基又はこれらの混合基を表す。)
【請求項2】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂又は60重量%以上がポリブチレンテレフタレート樹脂であるポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物であることを特徴とする請求項1記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
(B)ホスフィン酸塩の含有量が20〜35重量部であることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
(C)アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩の含有量が5〜20重量部であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
燐系安定剤が亜リン酸エステル系安定剤であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
(D)燐系安定剤の含有量が0.2〜2重量部であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
ホウ酸亜鉛の含有量が1〜8重量部であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
アミノ基含有トリアジン系化合物と無機酸との塩に対するホスフィン酸塩の重量比(B/C)が1.1以上であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂ないしはポリブチレンテレフタレート樹脂が80重量%以上を占めるポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物が90重量%以上を占める熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、(B)アニオン部分が下記式(1)又は(2)で表されるホスフィン酸のカルシウム又はアルミニウム塩であるホスフィン酸塩20〜35重量部(C)アミノ基含有トリアジン系化合物とポリリン酸との塩であって平均粒径が10μm以下のもの5〜20重量部、(D)亜リン酸エステル系安定剤0.1〜2重量部、(E)ホウ酸亜鉛0〜10重量部、及び(E)ガラス繊維、0〜100重量部を配合したことを特徴とする難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【化2】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基又はこれらの混合基を表す。)
【請求項10】
ホウ酸亜鉛の含有量が1〜8重量部、ガラス繊維の含有量が20〜80重量部であることを特徴とする請求項9記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
アミノ基含有トリアジン系化合物とポリリン酸との塩に対するホスフィン酸塩の重量比(B/C)が1.1以上であることを特徴とする請求項9又は10に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−174223(P2010−174223A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21753(P2009−21753)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】