説明

難燃性熱可塑性樹脂フィルム及び製造方法

フィルムは、フィルムの全重量を基準にして、約95重量%以上の熱可塑性樹脂及び約0.001〜約5.0重量%のスルホン酸塩を含有し、UL−94等級がVTM−0である。熱可塑性樹脂は、ポリイミド、ポリスルホン及びこれらの熱可塑性樹脂の1種以上を含む共重合体、反応生成物及び組合せからなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス転移温度(Tg)の高い(例えばTg約180℃以上)熱可塑性樹脂は、高温で加工されるので、他の樹脂を難燃性にするのに用いる標準的添加剤の多くは不安定になり、粘稠な高Tg非晶質熱可塑性樹脂を溶融加工するのに要する高い加工温度で分解してしまう。溶融加工時における慣用難燃(FR)添加剤の分解は、そうした分解物が樹脂や装置に対して及ぼす悪影響と併せて問題となる。このことは高Tg・高粘度の非晶質ポリエーテルイミド(PEI)及びポリスルホン(PSU)樹脂について当てはまり、そのためこれらの樹脂は結晶質樹脂や低Tg非晶質樹脂よりも溶融加工が困難である。PEIを別の材料、例えば臭素化ポリカーボネート、脂肪族臭素化又は塩素化化合物、アルミニウム三水和物やリン酸アルキルのような水和無機化合物とブレンドすることによってPEIの難燃性を向上させようとしても、難燃添加剤の分解又は揮発のため無駄である。
【0003】
厚さが25〜300μmのPEI及びポリスルホンフィルム(例えば電子用途などの用途に用いるフィルム)では、著しい難燃性不良が認められる。したがって、PEI及びポリスルホンフィルムはその難燃性能の改良が求められている。これらの薄膜は空気にさらされる比較的大きな表面積を有し、このため肉厚断面より燃焼過程が起こりやすい。電子関係の仕様では、フィルムがUL−94(Underwriter’s Laboratory Bulletin 94,“Tests for Flammability of Plastic Materials, UL−94”)に規定される難燃性のような十分な難燃性を有することが要求されることが多い。多くの用途で等級VTM−0が望ましい。しかし、ポリエーテルイミド及びポリスルホン薄膜は、UL−94等級でVTM−1又はVTM−2しか達成できないことが多い。PEI、PSU及びポリエーテルスルホン(PES)フィルムの溶融加工性、良好な機械的及び電気的特性及び透明性を維持しながら、フィルムの難燃性評価及び着火防止性を改良しようとする様々な試みがなされてきたが、成功していない。
【特許文献1】米国特許第3539657号明細書
【特許文献2】米国特許第3634355号明細書
【特許文献3】米国特許第3383092号明細書
【特許文献4】米国特許第3803085号明細書
【特許文献5】米国特許第3723373号明細書
【特許文献6】米国特許第3671487号明細書
【特許文献7】米国特許第3852242号明細書
【特許文献8】米国特許第3850885号明細書
【特許文献9】米国特許第3847867号明細書
【特許文献10】米国特許第3905942号明細書
【特許文献11】米国特許第3972902号明細書
【特許文献12】米国特許第3855178号明細書
【特許文献13】米国特許第4108837号明細書
【特許文献14】米国特許第3983093号明細書
【特許文献15】米国特許第4008203号明細書
【特許文献16】米国特許第4176222号明細書
【特許文献17】米国特許第4175175号明細書
【特許文献18】米国特許第4455410号明細書
【特許文献19】米国特許第4443591号明細書
【特許文献20】米国特許第4690997号明細書
【特許文献21】米国特許第4826916号明細書
【特許文献22】米国特許第4808686号明細書
【特許文献23】米国特許第5028681号明細書
【特許文献24】米国特許第4981894号明細書
【特許文献25】米国特許第5026890号明細書
【特許文献26】米国特許第5104958号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、UL−94等級でVTM−0を実現する、厚さ約25〜300μmのポリエーテルイミド及びポリスルホンフィルムを製造することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、フィルム及びその製造方法について開示する。一実施形態では、フィルムは、フィルムの全重量を基準にして、約95重量%以上の熱可塑性樹脂及び約0.001〜約5.0重量%のスルホン酸塩を含有し、UL−94等級がVTM−0である。ここで熱可塑性樹脂は、ポリイミド、ポリスルホン及びこれらの熱可塑性樹脂の1種以上を含む共重合体、反応生成物及び組合せからなる群から選択される。
【0006】
別の実施形態では、フィルムは、フィルムの全重量を基準にして、約95重量%以上の熱可塑性樹脂と約0.001〜約5.0重量%のスルホン酸塩との反応生成物を含有し、UL−94等級がVTM−0である。ここで熱可塑性樹脂は、ポリイミド、ポリスルホン及びこれらの熱可塑性樹脂の1種以上を含む共重合体、反応生成物及び組合せからなる群から選択される。
【0007】
一実施形態では、溶融加工法によるフィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂及びスルホン酸塩を溶融してメルトを形成し、メルトをダイに通してフィルムを製造する工程を含む。ここで熱可塑性樹脂はポリイミド、ポリスルホン及びこれらの熱可塑性樹脂の1種以上を含む共重合体、反応生成物及び組合せからなる群から選択され、前記熱可塑性樹脂はメルトの合計重量を基準にして約95重量%以上の量存在し、前記スルホン酸塩はメルトの合計重量を基準にして約0.001〜約5.0重量%の量存在する。
【0008】
上記及び他の特徴は以下の詳細な説明により具体的に示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、難燃化熱可塑性非晶質樹脂の組成物及びその製造方法を説明する。単数表現は数を限定するものではなく、その事項が1種以上存在することを示す。また、本明細書で開示する範囲はすべて、上下限を含みまた互いに組合せ可能なものである(例えば、「25重量%以下であり、5〜20重量%が望ましい」という表記の範囲は、「5重量%〜25重量%」の範囲の上下限とそのすべての中間値を含む)。
【0010】
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリイミド(例えばポリエーテルイミド(PEI)など)、ポリエーテルイミドスルホン(PEIS)、ポリイミド共重合体、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)及びこれらの熱可塑性樹脂の1種以上を含む共重合体、反応生成物及び組合せのいずれとすることもできる。具体的には、熱可塑性樹脂は、純度が高く(例えば、組成物の全重量を基準にして約95重量%以上の熱可塑性樹脂)、Tgが高い(即ち、Tg約180℃以上、例えばTg約180℃〜約350℃)ものとすることができる。スルホン酸塩を添加するか、フィルムの形成時に約125mbar(絶対)以下の減圧を付すか、その両方により、所望の難燃性を付与することができる。樹脂の減圧処理は樹脂からフィルムを形成する溶融加工中に行うことができる。このフィルムは、厚さが約25μm〜約350μm、望ましくは約50μm〜約250μmであり、UL−94等級でVTM−0を実現する。
【0011】
ここで用いるUL−94燃焼測定には2つの観点がある。合計消炎時間(TFOT)又は合計残炎時間(TAFT)は、UL−94 VTM試験に記載の通り、2回別々に接炎した後すべてのサンプルが燃焼状態にある時間(秒単位)の和である。通常のVTM試験では5枚のサンプルを用いる。平均合計消炎時間(ATFOT)はTFOTをサンプル数で除した値である。ATFOTは1試験片当たりの値である。TFOT又はTAFTは試験した全サンプルの総合値である。いずれの場合も、時間が短いほど、火炎抵抗が良好なこと、即ち火炎がより速く消失することを意味する。UL−94等級VTM−0となるには、それぞれ2回接炎した5枚のサンプルすべてについての合計火炎燃焼時間(TFOT又はTFAT)が50秒を超えない。また、燃焼時間が10秒を超えるサンプルが存在しない。個々の燃焼時間はATFOTに反映される。
【0012】
スルホン酸塩は、高Tg熱可塑性樹脂に、約25μm〜約200μm、約300μmにも及ぶフィルム厚さすべてについて、等級VTM−0を達成できれば、どのようなスルホン酸塩でもよい。スルホン酸塩の例としては、フルオロアルキルスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩及びこれらのスルホン酸塩の1種以上を含む組合せがある。特定の実施形態では、適当なスルホン酸の塩に、下記式のスルホン酸塩がある。
【0013】
【化1】

式中のR′はC−C40アルキル又はC−C40フルオロアルキル基、望ましくはC−Cペルフルオロアルキル基である。Rは各置換位置について独立に炭素原子数1〜40のアルキル基又はアルキルエーテル、アリールアルキルエーテルもしくは芳香族エーテル基である。Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属及びこれらの金属の1種以上を含む組合せである。xは金属Mの酸化状態であり、j、k、m及びnは各々0〜5の整数で、但しj+kは1以上、j+mは5以下、k+nは5以下である。特定の実施形態では、jが0で、kが1である。Rは炭素原子数3〜40、具体的には炭素原子数4〜20、特に炭素原子数4〜12のアルキル基とすることができる。連結基Dは代表的には−SO−又は−O−である。金属は周期律表のIA族又はIIA族金属、特にナトリウム及び/又はカリウムとすることができる。
【0014】
特定の実施形態では、適当なスルホン酸塩は、ペルフルオロアルキル(アルカリ金属/アルカリ土類金属)スルホン酸塩、例えばペルフルオロブチルカリウムスルホン酸塩(KPFBS)である。他のスルホン酸塩として、スルホンスルホン酸カリウム(KSS)、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(NaDBS)も使用できる。ペルフルオロアルキル(アルカリ金属/アルカリ土類金属)スルホン酸塩の炭素原子数が8以下であるのが望ましい。上記スルホン酸塩のいずれか1種以上を含有する混合物を使用してもよい。
【0015】
一般に、スルホン酸塩は、組成物中に、組成物の全重量を基準にして、約5.0重量%以下、例えば約0.001重量%〜約5.0重量%の量存在し、具体的には約0.005重量%〜約3.0重量%、より具体的には約0.01重量%〜約2.0重量%、さらに具体的には約0.01重量%〜約1.0重量%、さらに具体的には約0.025重量%〜約0.5重量%、特に約0.025重量%〜約0.08重量%の量存在する。本明細書に記載する重量%はすべて、特記しない限り、フィルムの全重量に基づく。
【0016】
組成物は、所望に応じて、フッ素ポリマーを、樹脂組成物に滴下防止性を付与するのに有効な量、例えば約0.01重量%〜約2.0重量%のフルオロポリマーを含有してもよい。フッ素ポリマーの添加は、フィルムを接炎時に滴下し難くする一方、透明な樹脂のヘイズ(曇り)を増し、透明性を低下するおそれがある。適当なフッ素ポリマーの例及びこのようなフッ素ポリマーの製造法が、例えば米国特許第3671487号、同第3723373号及び同第3383092号に記載されている。フッ素ポリマーには、フッ素化α−オレフィン単量体の1つ以上から誘導された構造単位を含むホモポリマーとコポリマーがある。ここで用語「フッ素化α−オレフィン単量体」は、1以上のフッ素原子置換を含むα−オレフィン単量体を意味する。このようなフッ素化α−オレフィン単量体の例には、フルオロエチレン類、具体的にはCF=CF、CHF=CF、CH=CF及びCH=CHF、及び/又はフルオロプロピレン類、具体的にはCFCF=CF、CFCF=CHF、CFCH=CF、CFCH=CH、CFCF=CHF、CHFCH=CHF及びCFCF=CHがある。
【0017】
フッ素化α−オレフィン共重合体の例には、2種以上のフッ素化α−オレフィン単量体から誘導された構造単位を含む共重合体、例えばポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン)、並びに1種以上のフッ素化単量体及びフッ素化単量体と共重合可能な1種以上の非フッ素化モノエチレン系不飽和単量体から誘導された構造単位を含む共重合体、例えばポリ(テトラフルオロエチレン−エチレン−プロピレン)共重合体がある。非フッ素化モノエチレン系不飽和単量体には、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどのα−オレフィン単量体がある。
【0018】
ポリイミドは一般式(IV)で表される。
【0019】
【化2】

式中のaは1より大きく、代表的には約10〜約1000又はそれ以上であり、特に約10〜約500とすることができ、Vは、ポリイミドの合成や使用を妨害しないならば特に限定されない四価の連結基である。適当な連結基としては、(a)炭素原子数約5〜約50の置換もしくは非置換、飽和、不飽和もしくは芳香族単環及び多環基、(b)炭素原子数1〜約30の置換もしくは非置換、直鎖もしくは枝分れ、飽和もしくは不飽和アルキル基及びこれらの連結基の1以上を含む組合せが挙げられるが、これらに限らない。適当な置換基及び/又は連結基には、エーテル、エポキシド、アミド、エステル及びこれらの1種以上を含む組合せがあるが、これらに限らない。連結基の具体例には、式(V)の四価芳香族基があるが、これらに限らない。
【0020】
【化3】

式中のWは二価部分、例えば−O−、−S−、−C(O)−、−SO−、−SO−、−C2y−(yは1〜5の整数)及びこれらのハロゲン化誘導体(ペルフルオロアルキレン基など)、又は式−O−Z−O−の基である。ここで−O−又は−O−Z−O−の二価結合は3,3′位、3,4′位、4,3′位又は4,4′位にある。Zは式(VI)の二価基であるが、これらに限らない。
【0021】
【化4】

式中のQは−O−、−S−、−C(O)−、−SO−、−SO−、−C2y−(yは1〜5の整数)及びこれらのハロゲン化誘導体(ペルフルオロアルキレン基など)を含む二価部分であるが、これらに限らない。
【0022】
式(IV)中のRは置換もしくは非置換の二価有機基、例えば、炭素原子数約6〜約20の芳香族炭化水素基及びそのハロゲン化誘導体、炭素原子数約2〜約20の直鎖もしくは枝分れ鎖アルキレン基、炭素原子数約3〜約20のシクロアルキレン基、又は一般式(VII)の二価の基であるが、これらに限定されない。
【0023】
【化5】

(式中のQは上記定義の通り)
ポリイミド類の例には、ポリアミドイミド類及びポリエーテルイミド類があり、特に溶融加工できるポリエーテルイミド、具体的には米国特許第3803085号及び同第3905942号にその製造法や特性が記載されたものが挙げられるが、これらに限らない。
【0024】
ポリエーテルイミド樹脂は、式(VIII)の構造単位を1以上、代表的には約10〜約1000又はそれ以上、特に約10〜約500含有する。
【0025】
【化6】

式中のTは−O−又は式−O−Z−O−の基である。ここで−O−又は−O−Z−O−の二価結合は3,3′位、3,4′位、4,3′位又は4,4′位にある。Z及びRは上記定義の通り。
【0026】
ポリエーテルイミドは、種々の方法で製造でき、例えば式(IX)の芳香族ビス(エーテル無水物)と式(X)の有機ジアミンとの反応により製造できる。
【0027】
【化7】

ここで、R及びTはそれぞれ式(IV)及び(VIII)で定義した通りである。
【0028】
芳香族ビス(エーテル無水物)及び有機ジアミンの具体例は、例えば米国特許第3972902号及び同第4455410号に開示されている。式(IX)の芳香族ビス(エーテル無水物)の具体例には、
2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、
4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、
4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、
4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、
4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、
2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、
4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、
4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、
4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、
4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、
4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル−2,2−プロパン二無水物、
4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、
4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、
4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、
4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、
並びにこれらのうち少なくとも2つを含む混合物がある。より具体的には、二無水物はビス[(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPA−DA)、ピロメリト酸二無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)並びにこれらの異性体及びこれらの二無水物のうち1種以上を含む組合せとすることができる。具体的には、ベンジル型プロトンを持たないアリール二無水物が溶融安定性が良好なことから好ましい。
【0029】
ビス(エーテル無水物)は、ニトロ置換フェニルジニトリルと二価フェノール化合物の金属塩との反応生成物を双極性非プロトン溶剤の存在下で加水分解し、次いで脱水することにより製造することができる。式(IX)で表される芳香族ビス(エーテル無水物)類の好適なものには、Tが式(XI):
【0030】
【化8】

であり、エーテル連結基が、例えば3,3′位、3,4′位、4,3′位又は4,4′位にあるか、これらの1種以上を含む混合物であり得、Qが上記定義の通りである、化合物があるが、これらに限らない。
【0031】
ジアミノ化合物はどのようなものも使用できる。適当なジアミノ化合物の例には、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、4−メチルノナメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、N−メチル−ビス(3−アミノプロピル)アミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)エタン、ビス(3−アミノプロピル)スルフィド、1,4−シクロヘキサンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2−メチル−4,6−ジエチル−1,3−フェニレンジアミン、5−メチル−4,6−ジエチル−1,3−フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジン、1,5−ジアミノナフタレン、ビス(4−アミノフェニル)メタン、ビス(2−クロロ−4−アミノ−3,5−ジエチルフェニル)メタン、ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−o−アミノフェニル)ベンゼン、ビス(p−β−メチル−o−アミノペンチル)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−イソプロピルベンゼン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルホン及びビス(4−アミノフェニル)エーテルがある。これらの化合物の1種以上を含む混合物が存在してもよい。ジアミノ化合物は、具体的には芳香族ジアミンとすることができる。より具体的には、ジアミノ化合物は、m−及びp−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)及びこれらの化合物の1種以上を含む混合物とすることができる。具体的には、ベンジル型プロトンを持たないアリールジアミンが溶融安定性が良好なことから好ましい。
【0032】
ポリエーテルイミド樹脂は、式(VIII)の構造単位を含むことができる。式中の各Rは、独立に、ジフェニルスルホン、p−フェニレンもしくはm−フェニレン又はこれらの混合物であり、Tは式(XII)の二価の基である。
【0033】
【化9】

ポリイミド、特にポリエーテルイミドを製造する多数の方法の中には、米国特許第3847867号、同第3850885号、同第3852242号、同第3855178号、同第3983093号及び同第4443591号に開示された方法がある。
【0034】
一般に、反応は種々の溶剤、例えばo−ジクロロベンゼン、m−クレゾール/トルエンなどをもちいて行うことができ、式(IX)の無水物と式(X)のジアミンとの反応を約100℃〜約250℃の温度で行う。或いは、ポリエーテルイミドは、溶融重合又は界面重合により製造することができ、例えば芳香族ビス(エーテル無水物)とジアミンとの溶融重合を、原料の混合物を高温に加熱し、同時に撹拌し、かつ水を除去しながら行って、製造することができる。一般に、溶融重合は温度約200℃〜約400℃を用いる。
【0035】
上記反応には、連鎖停止剤(例えばモノ無水物、モノアミンなど)及び枝分れ剤(例えば三もしくは四官能性アミン、三もしくは四官能性無水物、又は三もしくは四官能性カルボン酸)を使用してもよい。具体的には、溶融安定性が良好なことからベンジル型プロトンを持たない末端封止剤を用いることができる。ポリエーテルイミド/ポリイミド共重合体を用いる場合、ピロメリト酸無水物やオキシジフタル酸無水物のような二無水物をBPA−DAと組み合わせて用いる。ポリエーテルイミド樹脂は、所望に応じて、芳香族ビス(エーテル無水物)と有機ジアミンとの反応から製造でき、このときジアミンが反応混合物中に約0.5モル以下過剰に存在するか、特に約0.2モル以下過剰に存在する。
【0036】
一般に、有用なポリエーテルイミドは、メルトインデックスが、ASTM D1238に準じて、340−370℃で、重量6.6kgを用いて測定して、約0.1〜約10g/minである。ポリマーはメルトインデックスの試験前に乾燥する必要がある。ポリエーテルイミド樹脂は重量平均分子量(Mw)が、ポリスチレン標準を用いてゲル透過クロマトグラフィ(GPC)で測定して、約5000〜約100000g/モル、特に約10000〜約60000g/モルとすることができる。このようなポリエーテルイミド樹脂は、固有粘度が、m−クレゾール中25℃で測定して、代表的には約0.2dl/g超え、好ましくは約0.35〜約0.7dl/gである。このようなポリエーテルイミド樹脂には、ULTEM XH6050(ポリエーテルイミドスルホン)、ULTEM1000、ULTEM1010、ULTEM1040(すべて登録商標、General Electric Advanced Materials社から市販)及びこれらの1種以上を含む混合物があるが、これらに限定されない。
【0037】
ポリスルホンは、高い耐熱性、良好な電気特性、良好な加水分解安定性など多数の魅力的な特性を有する熱可塑性重合体である。本発明では種々のポリスルホンを使用でき、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルスルホンなど、並びにこれらのポリスルホンの1種以上を含む共重合体、反応生成物及び組合せを使用できる。種々のポリアリールエーテルスルホンが市販されており、例えば、ジヒドロキシジフェニルスルホンとジクロロジフェニルスルホンとの重縮合物−ポリエーテルスルホン(PES)樹脂として知られる−や、ビスフェノールA(BPA)とジクロロジフェニルスルホンとのポリマー生成物−ポリスルホン(PSF)樹脂と称されることもあるポリエーテルスルホンである−がある。特に耐衝撃性が望ましい場合、ビフェノールとジクロロジフェニルスルホンとから製造したポリフェニレンエーテルスルホン(PPSU)も使用できる。種々のポリエーテルスルホン共重合体、例えばビスフェノールA及び他のビスフェノール部分とジフェニルスルホン部分とを1:1以外のモル比で含有する共重合体も使用できる。
【0038】
他のポリアリールエーテルスルホンには、ポリビフェニルエーテルスルホン樹脂、例えばSolvayS.A.から商標名RADEL R樹脂として市販されている樹脂がある。この樹脂は、ビフェノールと4,4′−ジクロロジフェニルスルホンとの重縮合物と記述することもでき、例えばカナダ国特許第847963号に記載されている。
【0039】
ポリスルホンを製造する方法には、カーボネート法とアルカリ金属水酸化物法とがある。アルカリ金属水酸化物法では、ジヒドロキシ置換芳香族炭化水素のアルカリ金属複塩をジハロベンゼノイド化合物と、双極性非プロトン性溶剤の存在下実質的に無水の条件下で接触させる。カーボネート法では、例えば米国特許第4176222号に開示されているように、1種以上のジヒドロキシ置換芳香族炭化水素と1種以上のジハロベンゼノイド化合物とを、炭酸ナトリウムもしくは重炭酸ナトリウム及び第2のアルカリ金属炭酸塩もしくは重炭酸塩と共に、加熱する。或いは、ポリビフェニルエーテルスルホン、PSF及びPES樹脂成分は、ポリアリールエーテル樹脂の製造に使用される種々の方法のいずれでも製造できる。熱可塑性ポリエーテルスルホン及びその製造方法は、例えば米国特許第3634355号、同第4008203号、同第4108837号及び同第4175175号に記載されている。いずれの方法で製造したポリスルホンも難燃性フィルムの製造に使用できる。
【0040】
ポリスルホンの重量平均分子量は、塩化メチレン、クロロホルム、N−メチルピロリジノンなどの適当な溶剤中での換算粘度データで表示される。ポリスルホンの固有粘度は、約0.3dl/g以上、代表的には約0.3dl/g〜約1.5dl/gとすることができ、約0.4dl/g以上が好ましい。適当なポリスルホンの例が、例えばASTM D6394に記載されている。上記ポリスルホン及びポリスルホン共重合体は単独で用いても、これらの1種以上を含む組合せとして用いてもよい。
【0041】
熱可塑性樹脂(例えばポリイミド、ポリエーテルイミドスルホン、ポリスルホン、共重合体及び混合物)は、組成物中に、約90重量%以上、具体的には約95重量%以上、特に約97重量%以上の量存在することができる。所望に応じて、組成物は、実質的に、約97重量%以上の熱可塑性樹脂と約0.001重量%〜約0.1重量%のスルホン酸塩とからなることが可能である。別の実施形態では、組成物は、約97重量%以上の熱可塑性樹脂、約0.001重量%〜約0.1重量%のスルホン酸塩、約2500ppm以下の臭素及び/又は約2500ppm以下の塩素、及び所望に応じて約0.01重量%〜約2.0重量%のフッ素ポリマーを含有することができる。具体的には、本組成物(及びフィルム)は臭素含量約1000ppm以下及び/又は塩素含量約1000ppm以下とすることができる。
【0042】
本組成物(即ち、樹脂、スルホン酸塩及び所望に応じてフッ素ポリマー)は、フィルムの形成に先立って形成することができる。例えば、組成物を調製し、ペレットに形成することができる。次にペレットを溶融加工して所望のフィルムとすることができる。フィルムの難燃性をさらに高めるために、溶融加工中に減圧を用いることができ、その減圧は約125mbar絶対以下の圧力である。このプロセスで、ペレット(例えば組成物又は単に樹脂ペレット)を押出機などに供給する。樹脂ペレットを使用する場合には、樹脂ペレットの供給時に、スルホン酸塩(及び所望に応じてフッ素ポリマー)も押出機のスロートに供給するのが好ましい。押出機内で、ペレットのガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱することにより、ペレットを溶融加工する。一実施形態では、メルトの加工と流れを容易にするために、ペレットを約250℃〜約325℃に加熱することができる。溶融加工前に、ポリイミド又はポリスルホンを乾燥して、吸収された水その他の揮発分を除去するのが望ましい。乾燥は空気、窒素又は真空下で行うことができる。乾燥温度は、例えば約125℃〜約175℃とすることができる。
【0043】
所望に応じて、例えば少なくともペレットを溶融した後、メルトを減圧に付してメルトからガスを除去することができる。メルトを約125mbar絶対以下の減圧(真空圧)に付すことができる。次にメルトをダイを通して押出すことができる。押出物をダイからローラに送り、所望のフィルム(例えばほぼ均一な厚さのフィルム、具体的には厚さ約25μm〜約750μmのフィルム)を生成し、積極的にもしくは受動的に冷却することができる。得られるフィルムは優れた難燃性を有する。例えば、このフィルムは、スルホン酸塩なしで同様の方法で加工したフィルム及び/又は約125mbar(絶対)以上の圧力で加工した同じ組成(スルホン酸塩なし)のフィルムと比較して、合計消炎時間(TFOT)又は平均合計消炎時間(ATFOT)が短い。減圧加工しなかったか、スルホン酸塩を含有しないか、その両方のフィルムと比較して、本発明の組成及び加工は、平均合計消炎時間を約10秒以下に減らすことができ、さらには約5秒以下に減らすことも可能である。UL−94等級VTM−0を実現するには、1試験片当たりの平均消炎時間10秒以下と、合計消炎時間50秒以下とが必要である。
【0044】
用途によっては、難燃性フィルムの明澄性が重要である。透明性には2つの重要な成分がある。即ち、フィルムを通して透過する光である光透過率(%T)と、フィルムによる光の散乱であるヘイズもしくは曇り度(%H)である。%Tが高く%Hが低いフィルムは良好な明澄性を有する。1例では、難燃性フィルムは透過率約50%以上、ヘイズ約10%以下とすることができる(両方とも、ASTM D1003「透明プラスチックスのヘイズ及び透過率の標準試験法」に準じて測定)。別の例では、約75%以上の透過率と約5%以下のヘイズが望ましい。さらに具体的には、ペルフルオロブチルスルホン酸塩、例えばペルフルオロブチルスルホン酸カリウムを用いると、他の塩より高い明澄性と低いヘイズを得ることができる。
【0045】
図1を参照すると、スルホン酸塩を含有しないポリエーテルイミドフィルムについて、合計消炎時間(秒単位)と厚さ(μm)の関係及び合計消炎時間(秒単位)と減圧(mbar絶対)の関係をグラフで示す。合計消炎時間対厚さのグラフでは、各厚さ点は、85mbar絶対、125mbar絶対、150mbar絶対及び250mbar絶対の圧力で得た結果の平均である。合計消炎時間対減圧のグラフでは、各圧力点は、50μm、75μm、100μm、125μm、200μm及び250μmの厚さで得た結果の平均である。
【0046】
図1に示したように、予期せざることには、フィルムを形成する熱可塑性樹脂の加工時に用いる圧力がフィルムの難燃性に影響することが見出された。約125mbar絶対以下の圧力を作用させることにより、スルホン酸塩なしのポリエーテルイミドフィルムでUL−94等級VTM−0を達成できた。例えば、約85mbar〜約125mbarの減圧を使用できる。このプロセスでは、樹脂ペレットを押出機などで、例えば乾燥減圧を用いて、溶融加工する。溶融したら、メルトに約125mbar絶対以下の(例えば約110mbar絶対〜約125mbar絶対の)減圧を、代表的には短時間(通常約1分以下)作用させ、次いでメルトを所望のダイを通して押出し、冷却する。適正な形状のダイ、適切な溶融温度、適正な冷却ロール温度を用いることで、その長さに沿って厚さが均一なフィルムが得られ、また低応力で、均一な特性のフィルムが得られる。一実施形態では、得られるフィルムは、フィルムをデバイスに組み込む後続の操作中に、例えば、フィルムの金属化や電気的回路を作成する金属化フィルムの加工中に、過度の形状変化を受けない(即ち、ほぼ生成した状態で使用される)。
【0047】
図2を参照すると、スルホン酸塩を含有しないポリエーテルイミドフィルムについて、最高残炎時間(秒単位)と厚さ(μm)の関係及び最高残炎時間(秒単位)と減圧(mbar絶対)の関係をグラフで示す。このグラフの各点は、種々の厚さで試験した5枚のサンプルに2回接炎した後に見られる最高個別消炎時間である。
【0048】
図3は、圧力(即ち、125mbar絶対以下(≦125mbar)の減圧、250mbar絶対以上(≧250mbar)の減圧)がPEIフィルムに与える影響、ペルフルオロアルキルスルホン酸塩をPEIフィルムに添加する効果を示す。グラフから分かるように、スルホン酸塩含有フィルムは、減圧と無関係に、どのような厚さでもUL−94等級VTM−0(TAFT50秒未満)をいつも満足している(□をつなぐ線参照)。スルホン酸塩なしでは、PEIフィルムのTAFTが厚さの増加とともに増加する(●及び▲をつなぐ2本の線参照)。
【0049】
図3から分かるように、スルホン酸塩なしで、厚さ75μm超えで、約125mbar絶対以下の減圧で加工された熱可塑性樹脂フィルムを使用することにより、同じ厚さで、スルホン酸塩なしで、250〜350mbar絶対の減圧で加工されたPEIフィルムに対して、フィルムの合計消炎時間を約50秒以上、特に約75秒以上減少させることができる。特に100μm超えのフィルム厚さで、そうである。
【0050】
さらに図3から分かるように、スルホン酸塩含有フィルムを使用することにより、同じ厚さで、スルホン酸塩なしPEIフィルムに対して、フィルムの合計消炎時間を約70秒以上、さらに約100秒以上、特に約150秒以上減少させることができる。但し、両フィルムとも約250mbar絶対以上の減圧で加工する。この効果は75μm超えのフィルム厚さで顕著である。厚さ約75μm以下では、スルホン酸塩含有樹脂フィルムを用いることにより、同じ厚さで、スルホン酸塩なしで、250〜350mbar絶対の減圧で加工された樹脂フィルムに対して、フィルムの合計消炎時間を約10秒以上(即ち、約20%以上)、特に約25秒以上(即ち、約50%以上)減少させることができる。
【0051】
したがって、スルホン酸塩を含有するか、フィルム形成プロセス(好ましくは溶融工程)中に約125mbar絶対以下の減圧を用いるか、又はその両方を採用して樹脂(例えば、ポリイミド、ポリスルホン及びこれらの樹脂の1種以上を含む共重合体及び混合物)から形成したフィルムは、スルホン酸塩なしで、(同一寸法で)、250mbar絶対以上の減圧を用いた同一組成のフィルムと比較して、フィルムの合計消炎時間が短くなる。スルホン酸塩の使用により、UL−94等級VTM−0に合格する、厚さが25μm〜約250μm又はそれ以上である(約350μm以下又はそれ以上も可能と考えられる)フィルムの製造が可能になる。溶融加工中に約125mbar絶対以下の減圧を用いるだけで、或いはそれとスルホン酸塩の使用との組合せで、残炎時間のさらなる短縮を達成できる。
【0052】
溶融加工中の圧力制御、即ち約125mbar絶対以下の減圧、特に約100mbar絶対〜約125mbar絶対の減圧の使用で達成される予期せざる効果は、他の熱可塑性樹脂にも適用できると考えられ、したがって、約125mbar絶対以下の減圧、特に約100mbar絶対〜約125mbar絶対の減圧を用いて、これらの樹脂から製造したフィルムは、250〜350mbar絶対の減圧を用いて製造した同じ組成のフィルムに対して、フィルムの残炎時間が減少することになる。言い換えると、フィルムを形成するプロセスの溶融加工中に採用する減圧(真空圧)を、250mbar絶対以上の減圧で加工する同じ熱可塑性樹脂組成物のフィルムと比較して、合計消炎時間を短縮できる圧力レベルに維持することができる。
【0053】
本発明により製造したフィルムは種々の用途に使用できる。このような用途の例としては、絶縁(例えばケーブル絶縁)及びワイヤ被覆、モータの作製、電子回路(特に可撓性回路、トランスフォーマ、キャパシタ、コイル、スイッチ、分離膜、コンピュータ、電子及び通信装置、電話、ヘッドフォン、スピーカ、記録及び/又は再生装置、照明装置、プリンタ、圧縮機、その他の装置)などがある。所望に応じて、フィルムを金属化、又は部分的に金属化することができ、また物理的、機械的及び/又は美的特性を高める、例えば、耐引掻性、表面潤滑、美観、ブランド同定、構造的一体性などを改良するように設計された他のタイプのコーティングで被覆することもできる。例えば、フィルムを印刷インク、導電性インク、その他同様の材料で被覆することもできる。難燃性フィルムの金属化は、例えば、スパッタリング、金属気相堆積、イオンプレーティング、アーク蒸着、無電解メッキ、真空蒸着、電気メッキ、その他の方法により行うことができる。さらに、フィルムを個々のシートに使用することもでき、或いは層形成、折り重ね、ねじりもしくは積層してもっと複雑な構造を形成することもできる。
【0054】
一実施形態では、熱可塑性樹脂フィルムは、ポリイミド、ポリエーテルイミドスルホン、ポリイミド共重合体、ポリスルホン、ポリスルホン共重合体及びこれらの樹脂の1種以上を含む混合物からなる群から選択される樹脂約95重量%以上と、スルホン酸塩約0.001重量%〜約5.0重量%を含有し、好ましくは約50μm〜約350μmの厚さを有し、UL−94等級VTM−0を満たす。所望に応じて、このフィルムは、ASTM D1003で測定した透明度が約50%以上とすることができ、透明度は特定すると約75%以上、さらに特定すると約80%以上、さらに特定すると約85%以上である。ASTM D1003で測定したヘイズ約10%以下も達成でき、ヘイズは特定すると約5%以下である。所望に応じて、フィルムは、Tgが、ASTM D3418により示差走査熱量計(DSC)を用いて測定して、約180℃〜約350℃とすることができる。このフィルムは、臭素含量約2500ppm以下及び/又は塩素含量約2500ppm以下とすることもでき、またフッ素ポリマーを約0.01重量%〜約2.0重量%の量含有することができる。フィルムは、約0.01重量%〜約1.0重量%のスルホン酸塩、特に約0.025重量%〜約0.075重量%のスルホン酸塩を含有することができる。所望に応じて、樹脂は、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルスルホン及びこれらの樹脂の1種以上を含む共重合体及び組合せを含有することができる。
【実施例】
【0055】
ポリエーテルイミド(PEI)樹脂のブレンドを、真空ベント式単軸押出機にて、PEIブレンドの全重量を基準にして0.1%、0.2%、0.3%、0.4%及び0.5%(重量)のペルフルオロブチルスルホン酸カリウム塩(KPFBS)を用いて調製した。押出機を300−360℃に設定し、真空吸引しながら、約80rpmで運転した。得られたブレンドをペレット化し、乾燥し、押出して厚さ50、100、150及び200μmの透明フィルムとした。PEI樹脂は重量平均分子量が約38000g/モルであった。Tgを示差走査熱量計(DSC)により第2走査で測定した。
【0056】
UL−94試験法VTM(UL−94 VTM)の記載に従ってフィルムを燃焼させた。フィルムを流れ方向(MD)及び流れ方向に直交する幅方向(TD)両方について試験した。UL−94 VTMでは、直径12.7mmのマンドレルに巻いた200mmx50mmのフィルムを試験する。UL−94試験法にしたがって、サンプルを23℃、相対湿度50%で48時間以上調湿した。
【0057】
表1に、KPFBS塩を含有する又は含有しないサンプルについて(押出方向に垂直方向に試験したフィルムについて)の合計消炎時間を報告する。厚さ50、100、150及び200μmのフィルムを試験した。ここで論じるUL−94燃焼測定には2つの観点がある。合計消炎時間(TFOT)(合計残炎時間TAFTとも言う)は、UL−94 VTM試験に記載の通りに2回別々に接炎した後5枚のサンプルすべてが燃焼状態にある時間(秒単位)の和である。平均合計消炎時間(ATFOT)はTFOTをサンプル数で除した値である。ATFOTは1試験片当たりの値である。TFOT又はTAFTは試験した全サンプルの総合値である。いずれの場合も、時間が短いほど、火炎抵抗が良好なこと、即ち火炎がより速く消失することを意味する。以下の表に平均合計消炎時間(ATFOT)を示す。図1及び図3に、2回接炎した後の5枚のサンプルのTAFTを報告する。
【0058】
すべてのサンプルで高いTg(180℃以上)が保持された。TgはDSCにより昇温速度20℃/分での第2走査で測定した。
【0059】
【表1】

表1において、対照例Aは、実施例1、2及び3のスルホン酸塩含有樹脂より、長い平均消炎時間を示し、特に厚いフィルムでそうである。スルホン酸塩含有量が多いほど合計消炎時間が短くなる傾向がある。対照例について、ATFOTは50μm〜200μmの厚さにわたって8.5秒〜15.8秒の範囲にあり、一方スルホン酸塩含有サンプルは試験全体にわたって約8.1秒以下のATFOTを維持し、多くのサンプルのATFOTが約4.0秒以下であった。
【0060】
表2に、同じ組成で、50μm〜200μmの同じ厚さを有するが、流れ方向(MD)に試験したフィルムの試験結果を示す。ほとんどの場合、KPFBS塩は、スルホン酸塩の添加なしのPEIフィルム(比較例B)と比較して、合計消炎時間を短くするのに有効であった。
【0061】
【表2】

ここでも、消火時間が早いフィルムを生成するのに、高いレベルの塩が低いレベルより有効であった。その上、ビスフェノールA二無水物(BPA−DA)とジアミノジフェニルスルホンとの重合により製造したPEIS樹脂すべてについて、ATFOTが3秒以下に減少した。このポリマーは重量平均分子量(Mw)が(厚さ200μmのフィルム中の塩濃度を試験した)。
【0062】
比較例C及び実施例9〜11では、長さ対直径(L/D)24:1の1.5インチベントなし単軸押出機にて、320−340℃及び約35rpmで乾燥済みポリエーテルイミドスルホン樹脂を用いてフィルム押出しを行った。表3に、ポリエーテルイミドスルホン中のスルホン酸塩の有効性を示す。約34000g/モルであった。サンプルを流れ方向(MD)に試験した。KPFBS塩の使用により、UL−94 VTM法により厚さ50μm及び150μmのフィルムについて測定した平均合計消炎時間が短くなり、一方スルホン酸塩添加フィルムでは低いヘイズと高い透過率が保持された。ヘイズ(%)及び透過率(%)はフィルムについて、ASTM D1003に準じてGardnerXL−835比色計で測定した。
【0063】
【表3】

比較例D及び実施例13〜15では、L/D24:1の1.5インチベントなし単軸押出機にて、340−370℃及び約35rpmで乾燥済みPEIS樹脂を用いてフィルム押出しを行った。表4に、表3と同じポリエーテルイミドスルホンサンプルを幅方向(TD)に試験した結果を示す。KPFBS塩の添加により消炎時間が短くなった。対照例(スルホン酸塩なし)と比較して、50μmのスルホン酸塩含有サンプルは、幅方向に試験したとき、ヘイズが5%以下、透過率が85%以上(透過率変化は約1%以下、特に約0.5%以下)、ATFOTが5秒以下であった。
【0064】
【表4】

表5に、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂ブレンド中でKPFBS塩がUL−94 VTM性能を改良する効果を示す。ULTRASON Eポリマー(BASF社製)を(PESブレンドの全重量を基準にして)0.5重量%のKPFBS塩と共に押出した。サンプルを流れ方向(MD)に試験した。得られたペレットを乾燥し、押出して厚さ50μm及び150μmのフィルムとした。対照例E及び実施例16から明らかなように、スルホン酸塩含有ブレンドは、高いTg、低いヘイズ及び高い透過率を維持しながら、平均合計消炎時間が短かった。
【0065】
言い換えると、スルホン酸塩の使用によって、流れ方向(MD)に試験した場合の厚さ約50μm〜約200μmのフィルムについての合計消炎時間ATFOTは5.5秒以下、特に5.0秒以下である。その上、透過率は約80%以上、特に約85%以上に維持され(即ち、塩を含まない樹脂から塩を含む樹脂への透過率の変化が約0.1%以下であった)、またヘイズは約5%以下、具体的には約2%以下、特に約1%以下に維持された。
【0066】
【表5】

比較例F及び実施例17では、L/D24:1の1.5インチベントなし単軸押出機にて、320−340℃及び約35rpmで乾燥済みポリエーテルスルホン樹脂を用いてフィルム押出しを行った。表6に、表5と同じポリエーテルスルホンサンプルを幅方向(TD)に試験した結果を示す。KPFBS塩の添加により消炎時間が短くなった。塩含有フィルムは、厚さ約200μmまでのフィルムについて、ATFOTが5.0秒以下であった。
【0067】
【表6】

スルホン酸塩を熱可塑性樹脂、即ちPEI、PEIS及びPESに導入することにより、予期せざることには、透過性及びヘイズを維持しながら、またTgを180℃以上、特にTgを約200℃以上に維持しながら、スルホン酸塩なしの熱可塑性樹脂と比較して、樹脂の平均合計消炎時間を短縮することができた。
【0068】
明澄性、高透過率(%T)、低ヘイズ(%H)及び高耐熱性(Tg)明澄性を維持しながら、溶融安定性及び溶融加工性を損なうことなく、難燃性が達成された。
【0069】
以上、本発明を例示の実施形態について説明したが、本発明の要旨から逸脱することなく、実施形態に種々の変更を加えたり、本発明の構成要素を均等物に置き換えたりできることが当業者に明らかである。さらに、本発明の要旨から逸脱することなく、特定の状況や材料を本発明の教示に適合させるよう種々の変更を加えることができる。したがって、本発明は、発明を実施するための最良の形態として開示した特定の実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内に入るすべての実施形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】UL−94試験規格に準じて測定した、PEIフィルムについての、試験サンプルすべての合計消炎時間と厚さ及び減圧との関係を示すグラフである。
【図2】UL−94試験規格に準じて測定した、PEIフィルムについての、最高残炎時間(試験した10枚のフィルムのうち個々のサンプルの最高消炎時間である)と厚さ及び減圧との関係を示すグラフである。
【図3】UL−94試験規格に準じて測定した、試験サンプルすべての合計消炎時間と厚さ及び減圧との関係を示すグラフであり、減圧及びPEIフィルムへのペルフルオロアルキルスルホン酸塩の添加の効果を具体的に示す。なお、スルホン酸塩の使用により、合計残炎時間を減圧と無関係に達成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの全重量を基準にして、約95重量%以上の熱可塑性樹脂及び約0.001〜約5.0重量%のスルホン酸塩を含有するフィルムであって、
上記熱可塑性樹脂がポリイミド、ポリスルホン及びこれらの熱可塑性樹脂の1種以上を含む共重合体、反応生成物及び組合せからなる群から選択され、
UL−94等級がVTM−0であるフィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂とスルホン酸塩との反応生成物を含有し、フィルムのUL−94等級がフィルム厚さ50〜200μmでVTM−0である、請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
透過率が、ASTM D1003で測定して約50%以上である、請求項1又は2記載のフィルム。
【請求項4】
ヘイズが、ASTM D1003で測定して約10%以下である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項5】
臭素含量が約1000ppm以下である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項6】
塩素含量が約1000ppm以下である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項7】
さらに、フィルムの全重量を基準にして約0.01〜約2.0重量%のフッ素ポリマーを含有する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項8】
スルホン酸塩が、以下の式(I)、(II)及び(III)のスルホン酸塩及び以下の式(I)、(II)及び(III)のスルホン酸塩の1種以上を含む混合物からなる群から選択される、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載のフィルム。
【化1】

式中、R′はC−C40アルキル又はC−C40フルオロアルキル基であり、Rは各置換位置について独立に炭素原子数1〜40のアルキル基又はアルキルエーテル、アリールアルキルエーテルもしくは芳香族エーテル基であり、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属及びこれらの金属の1種以上を含む組合せからなる群から選択される金属であり、xはMの酸化状態であり、j、k、m及びnは各々0〜5の整数で、j+kは1以上、j+mは5以下、k+nは5以下であり、Dは−SO−又は−O−である。
【請求項9】
前記スルホン酸塩がペルフルオロアルキル(アルカリ金属/アルカリ土類金属)スルホン酸塩を含有する、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項10】
前記スルホン酸塩がペルフルオロブチルカリウムスルホン酸塩を含有する、請求項1乃至請求項7及び9のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項11】
約0.025〜約3.0重量%のスルホン酸塩を含有する、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項12】
約0.05〜約1.0重量%のスルホン酸塩を含有する、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項13】
前記フィルムが、ポリエーテルイミド、ポリエーテルイミドスルホン及びこれらのポリイミドの1種以上を含む反応生成物、共重合体及び組合せからなる群から選択されるポリイミドを含有する、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルスルホン、ポリエーテルイミドスルホン及びこれらのポリスルホンの1種以上を含む反応生成物、共重合体及び組合せからなる群から選択されるポリスルホンを含有する、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項15】
フィルムが金属化されている、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載のフィルム。
【請求項16】
熱可塑性樹脂及びスルホン酸塩を溶融してメルトを形成し、ここで前記熱可塑性樹脂はポリイミド、ポリスルホン及びこれらの熱可塑性樹脂の1種以上を含む共重合体、反応生成物及び組合せからなる群から選択され、前記熱可塑性樹脂はメルトの全重量を基準にして約95重量%以上の量存在し、前記スルホン酸塩はメルトの全重量を基準にして約0.001〜約5.0重量%の量存在し、
メルトをダイに通してフィルムを製造する
工程を含む、フィルムの製造方法。
【請求項17】
熱可塑性樹脂を溶融してメルトを形成し、
UL−94に準じて測定した、フィルムの合計消炎時間を、同じ組成のフィルムを250mbar以上の減圧に付した場合に達成される元の合計消炎時間に比較して、約10秒以上短くするのに十分な減圧を前記メルトに作用させ、
前記メルトをダイに通してフィルムを製造する
工程を含む、溶融加工法による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項18】
前記減圧が約110〜約125mbar(絶対)である、請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−504299(P2007−504299A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524700(P2006−524700)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/026180
【国際公開番号】WO2005/023928
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】