説明

難燃性熱可塑性樹脂組成物

【課題】樹脂混練時の作業環境が良好で、機械的特性の低下を招くことなく熱可塑性樹脂の難燃性を非ハロゲン系材料で向上させる難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
下記3成分を配合することを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(A)熱可塑性樹脂:100質量部、
(B)1種以上の非ハロゲン系難燃性化合物:50〜150質量部、
(C)残留フェノール、及び残留アンモニアが1000ppm以下のフェノール樹脂硬化物:10〜40重量部。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、優れた寸法安定性、強靱性、電気絶縁性、耐薬品性等を有するため、フィルム、電気・電子分野の成形品などに広く用いられている。中でも代表的なポリエステルは可燃性のポリマーであるため、製品の小型化、薄肉化の傾向があり信頼性が特に要求される電気・電子分野に用いる場合には難燃性を付与することが要求されている。従来から熱可塑性樹脂の難燃化にはハロゲン系難燃剤が用いられてきた。
【0003】
しかし、ハロゲン系難燃剤は難燃効果は高いが、燃焼時の有害ガスの発生といった環境問題を有しているため、非ハロゲン系難燃剤を用いることが望まれている。代表的な非ハロゲン系難燃剤としてはリン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機系難燃剤があるが、これら非ハロゲン系難燃剤の単独使用時には、リン系難燃剤の場合は特にポリエステル系樹脂の加水分解を促進する、液状又は軟化点が低いため配合時ブリードする、耐熱性が低下する等の欠点がある。窒素系難燃剤の場合は熱可塑性樹脂との親和性に乏しく分散不良がおこる等の欠点がある。ホウ素系難燃剤等の無機系難燃剤の場合は大量に配合しないと十分な難燃効果が得られない等の欠点がある。
【0004】
以上のことから非ハロゲン系難燃剤単独使用による難燃性熱可塑性樹脂で市場の要求を満たすものはまだ見いだされていない。
【0005】
これを解決するため、特許文献1〜4等に開示されているように、現状、熱可塑性樹脂と非ハロゲン系難燃剤の系にさらに熱可塑性樹脂の難燃剤としてフェノール樹脂の適用が検討されている。
【0006】
フェノール樹脂を配合することで、フェノール樹脂の炭化層形成効果により難燃性を向上させることが試みられているが、熱可塑性樹脂との混練時に遊離モノマー及び低分子成分が揮発し、異臭等の作業環境上の問題がある。また、また未硬化のフェノール樹脂を配合すると、融点が低下し熱可塑性樹脂との混練、あるいは成形時に金型に付着するという問題がある。
【0007】
特許文献1、特許文献2、及び特許文献3は、難燃ポリエステル系樹脂を得るために、ノボラック型フェノール樹脂全体に対して、未反応フェノール類の含有量や、2核体成分の含有量を規定することによりポリエステル系樹脂の特性低下や、臭気などによる作業環境の低下を抑えた難燃性ポリエステル系樹脂の配合を例示している(特許文献1の段落0007参照、特許文献2の段落0008参照、特許文献3の段落0008参照)。しかし、未硬化の樹脂を使用するため、融点の低下が起こることは変わりなく、混練、あるいは成形時の金型への付着が発生し作業性の低下を防止できるとは言いがたい。
【0008】
特許文献4は、ポリエステル樹脂40〜80重量%、ポリカーボネート樹脂5〜40重量%、ゴム状重合体5〜30重量%、ポリフェニレンスルフィド樹脂および/またはフェノール樹脂2〜20重量%、およびリン酸エステル化合物および/またはポリアミド樹脂0.1〜25重量%を含む高分子混合物を溶融状態で混合することによって難燃性ポリエステル樹脂組成物を例示している(特許文献4の段落0010参照)。しかし、ポリエステル系樹脂との混練時に遊離モノマー及び低分子成分が揮発し、異臭等の作業環境上の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−47398号公報
【特許文献2】特開2005−75909号公報
【特許文献3】特開2006−83193号公報
【特許文献4】特開2011−52096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、樹脂混練時の作業環境が良好で、機械的特性の低下を招くことなく熱可塑性樹脂の難燃性を非ハロゲン系材料で向上させる難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、以下の(1)に記載の本発明により達成される。
(1)下記3成分を配合することを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(A)熱可塑性樹脂:100質量部、
(B)1種以上の非ハロゲン系難燃性化合物:50〜150質量部、
(C)残留フェノール、及び残留アンモニアが1000ppm以下のフェノール樹脂硬化物:10〜40重量部。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、樹脂混練時の作業環境が良好で、機械的特性の低下を招くことなく熱可塑性樹脂の難燃性を非ハロゲン系材料で向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下の説明中、「部」は全て「質量部」を示すものとする。
【0014】
本発明の(A)成分として用いられる熱可塑性樹脂は、特に限定されるわけではなく市販されているものであれば使用できる。例えばポリエステル系樹脂ではポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられ、その他ポリオレフィン系樹脂としてポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0015】
本発明の(B)成分として用いられる非ハロゲン系難燃性化合物は、特に限定されるわけではなく市販されているものであれば使用できる。例えば、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、ジフェニルオクチルフォスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリアリルホスフェート、ジメチルエチルホスフォスフェート等のリン酸エステル化合物;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル化合物;フェニレンビスフェニルグリシジルホスフェート等の縮合リン酸エステル化合物;ポリリン酸アンモニウム等のポリリン酸塩化合物;赤リン等のリン単体;メラミンシアヌレート、メラミン等のメラミン系誘導体やグアニジン、リン酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素、硫酸グアニル尿素、等のグアニジン系誘導体等の窒素系化合物;ホウ酸亜鉛、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機系化合物などが挙げられる。
【0016】
これら非ハロゲン系難燃性化合物の配合量は、熱可塑性樹脂(A)100部に対して50〜150部である。配合量が50部未満の場合難燃性が十分でなく、150部を越えると成形品の機械的特性が低くなるため好ましくない。難燃性と機械的特性のバランスを考慮すると好ましくは80〜120部である。
【0017】
本発明の(C)成分として用いられるフェノール樹脂硬化物は、フェノール樹脂を150℃以上の温度で1時間以上加熱硬化させたフェノール樹脂硬化物である。例えば、レゾール型フェノール樹脂を150℃で1時間硬化した後、遠心粉砕機で平均粒径20μmとなるよう粉砕して得る。また、レゾール型フェノール樹脂の代わりにノボラック型フェノール樹脂にヘキサミンを添加し同様に加熱、粉砕することによって得たフェノール樹脂硬化物でも良い。
【0018】
フェノール樹脂硬化物は、残留フェノール、及び残留アンモニアが共に1000ppm以下であるフェノール硬化物を用いる。残留フェノール、及び/又は残留アンモニアが1000ppmより多い場合、熱可塑性樹脂との混練時異臭及びガス発生等により作業環境が悪くなる可能性があるため好ましくない。また、金属と接触した場合、金属を腐食する恐れがある為、残留フェノール、及び残留アンモニアが1000ppm以下のフェノール樹脂硬化物が好ましい。
【0019】
フェノール樹脂硬化物は、粉砕し粉末状としたものを使用する。粉砕は、遠心粉砕機、ジェットミル等により行うことができ、平均粒径が30μm以下としたものが好ましい。平均粒径が30μmより大きい場合、熱可塑性樹脂との混練後、成形すると表面にフェノール樹脂硬化物により表面の平滑性が不十分となるため、また熱可塑性樹脂中における分散状態が不十分となり、難燃性の効果が低下するため好ましくない。平均粒径は、さらに好ましくは、10μm以下である。このようなフェノール樹脂硬化物を使用すると、熱可塑性樹脂との混練後、得られる成形品の表面平滑性が良好で、少量のフェノール樹脂硬化物で難燃性の優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0020】
フェノール樹脂硬化物の原料として用いられるフェノール樹脂はフェノール類と、ホルムアルデヒド類を反応して得ることができる。
【0021】
フェノール類としては例えば、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、エチルフェノール、n−ブチルフェノール、パラ−t−ブチルフェノール、n−オクチルフェノール、パラ−t−オクチルフェノール、パラフェニルフェノール、パラ−(1’−フェニル)−エチルフェノール、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、フロログルシノール、α−ナフトール、β−ナフトール、4−4’−ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、等が挙げられ、これらを単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
原料として用いられるアルデヒド類としては例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキサール、グルタルアルデヒド、β−ナフチルアルデヒド、等が挙げられ、これらを単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】
本発明のフェノール樹脂硬化物の配合量は熱可塑性樹脂(A)100部に対して10〜40部、好ましくは15〜30部である。配合量が10部未満の場合難燃性が十分でなく、40部を越えると成形品の機械的特性の低下を招くため好ましくない。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により説明する。しかし本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0025】
<フェノール樹脂硬化物の作製>
(硬化物例1)
予め150℃に加熱しておいた乾燥機中に、金属製の容器にレゾール型フェノール樹脂を入れ3時間加熱することによってフェノール樹脂硬化物を得た。これを遠心粉砕機にて粉末化することによって平均粒径18μmのフェノール樹脂硬化物粉末品を得た。
【0026】
(硬化物例2)
使用するフェノール樹脂が、ノボラック型フェノール樹脂100部に硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン10部を配合した混合物を使用する以外は(硬化物例1)と同じ条件で処理することによってフェノール樹脂硬化物粉末品を得た。
【0027】
硬化物例1、硬化物例2で得られたフェノール樹脂硬化物は、いずれも残留フェノール量及び残留アンモニア量は、100ppm未満であった。なお、フェノール樹脂硬化物の残留フェノール量は、硬化物をアセトンに浸漬することによってフェノールを抽出し、その抽出液をJISK6910に準拠し、ガスクロマトグラフィー法を用い、2,5−キシレノールを内部標準物質として内部標準法で測定し算出した。また、残留アンモニアの低量は水に浸漬することによってアンモニアを抽出し、これにフェノール,ペンタシアノニトロシル鉄(II)酸ナトリウムを加え、さらにアルカリ条件下で次亜塩素酸ナトリウムを加えることで酸化反応を進行させて青色のインドフェノールを生成させる。このインドフェノールによる630nmの吸光度を測定し、予め測定していた既知濃度で作成した標準物質から作成した検量線を用いることによって、アンモニア濃度を算出した。
【0028】
<実施例1〜4>
実施例1〜4として、次の手順で熱可塑性樹脂組成物を得た。
エチレンエチルアクリレートコポリマーに、非ハロゲン系難燃剤として水酸化マグネシウム、フェノール樹脂硬化物として硬化物例1〜2の樹脂、その他添加剤としてマレイン酸変性低圧法低密度ポリエチレンをそれぞれ表1に示す所定量配合し、二軸混練機で190℃の条件下、混練して熱可塑性樹脂組成物を得た。その評価結果を表1に示す。
【0029】
<比較例1〜3>
また、比較例1、2及び3として、フェノール樹脂を添加せず得られた熱可塑性樹脂組成物(比較例1)、上記フェノール樹脂硬化物の代わりに未硬化のノボラック型フェノール樹脂1(住友ベークライト株式会社製 PR−50235 遊離フェノール2質量%)(比較例2)、及びノボラック型ヘキサミン含有フェノール樹脂2(PR−50235が100部に、ヘキサミンを10部粉砕混合した粉末品)(比較例3)を添加した熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0030】
表1に、上記各実施例及び比較例における熱可塑性樹脂組成物の構成、及び難燃性、作業性、腐食性の評価結果を示す。
【0031】
<試験方法>
難燃性:それぞれの熱可塑性樹脂組成物を180℃で圧縮成形し、厚み1.7mm、長さ127mm、幅12.7mmとしたサンプルを作製し、UL94のHB法に従って測定した。
作業性(付着性):二軸混練機への付着状態で混練機の表面への付着面積が50%未満を「○」とし、50%以上を「×」とした。
作業性(臭気):混練時の刺激臭が無い場合を「○」、ある場合を「×」とした。
【0032】
腐食性: シールドチューブ内にウレタン絶縁被膜を施した銅線と上記で作成したポリエチレン樹脂組成物(厚み1.7mm、長さ127mm、幅12.7mm)のサンプルを同封し、150℃で350時間加熱した。表面の変色が無い場合を「○」、ある場合を「×」とした。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物においては、非ハロゲン系材料のみにより、樹脂混練時の良好な難燃性、及び作業性を有する熱可塑性樹脂組成物を得ることを可能にした。本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物を使用することで、電気・電子部品等の安全性向上と環境への影響の軽減が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、機械的特性の低下を招くことなく、非ハロゲンで高度の難燃性を有し、かつ樹脂混練及び加工性が良好なため、電気・電子部品や、電線用被膜等の幅広い分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記3成分を配合することを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(A)熱可塑性樹脂:100質量部、
(B)1種以上の非ハロゲン系難燃性化合物:50〜150質量部、
(C)残留フェノール、及び残留アンモニアが1000ppm以下のフェノール樹脂硬化物:10〜40重量部。

【公開番号】特開2012−241032(P2012−241032A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109353(P2011−109353)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】