説明

難燃性電線・ケーブル

【課題】難燃性および耐熱性に優れ、従来のものに比べ機械的特性に一層優れ、そして低温特性、絶縁性、加工性および柔軟性も良好であり、燃焼した場合でもハロゲン等の有害なガスの発生もなく、OA機器等に好適に使用できる電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】EVA、EEAまたはVLDPE40〜93%と、シングルサイト触媒を使用して製造される特定の物性を有するエチレン−α−オレフィン共重合体50〜5%、および官能基含有化合物変性エチレン系樹脂40〜2%とからなる樹脂成分100重量部に無機難燃剤50〜250重量部、シリコーンオイル0.05〜10重量部を配合し、架橋剤の非存在下に混合混練して製造した組成物を被覆した電線・ケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性電線・ケーブルに関し、より詳しくは、難燃性および耐熱性に優れ、従来のものに比べ機械的特性に一層優れ、そして低温特性、絶縁性、加工性および柔軟性も良好であり、燃焼した場合でもハロゲン等の有害なガスの発生もなく、OA機器等に好適に使用できる電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線・ケーブルの絶縁層やシース層の材料として電気絶縁性の優れたポリオレフィン系樹脂が多く用いられているが、最近高度の難燃性が要求されるようになり、例えば70,000Btu/h試験と称される垂直トレイ難燃試験に合格するという高度の難燃度が要求されている。有機ハロゲン等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤または塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン等をポリオレフィンに配合して難燃化することができるが、燃焼時に火垂れが生じたり、燃焼時の発煙量が多かったり、燃焼時に有毒なガスが発生したり、金属の腐食性がある等の欠点があった。
【0003】
これらの欠点を解決するため、金属水酸化物等の無機難燃剤をポリオレフィン樹脂に配合する方法が提案され、種々の電線・ケーブルの絶縁層やシース層に難燃性樹脂材料として使用されてきた。しかしながら、高度の難燃性の要求をクリヤーするには無機難燃剤を60重量%以上配合するという高充填にしなければならないが、そのようにすると成形加工時において押出し速度が低下し生産性が悪化し、また製造された電線・ケーブルの絶縁層やシース層も機械的特性、耐熱性、柔軟性、低温特性等が悪くなり好ましくない。
電気絶縁性の優れたポリオレフィン系樹脂に無機難燃剤を配合した組成物から製造された成形品は優れた性質を持つが、電線・ケーブルの絶縁層やシース層に対して最近要求されている、70,000Btu/h試験と称される垂直トレイ難燃試験に合格するという高度の難燃性を達成するには、無機難燃剤を高充填にしなければならないが、このような高充填では、加工性が悪く、製造された電線・ケーブルの絶縁層やシース層も機械的特性、耐熱性、柔軟性、低温特性等が劣るという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにある。
【0005】
本発明者は、難燃性電線・ケーブルの樹脂材料として、最近開発された特定のポリエチレン系樹脂を組み合わせ、さらに無機難燃剤とノンハロゲンタイプの難燃剤を配合することにより前記課題が解決されることに想到し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明によれば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体および直鎖状・超低密度エチレン−α−オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも一種のエチレン系樹脂(A)40〜93重量%と、メルトフローレート0.5〜50g/10分、密度0.86〜0.91g/cm、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)3.0以下である、シングルサイト触媒を使用して製造された実質的に直鎖状のエチレン−α−オレフィン共重合体(B)50〜5重量%と、官能基含有化合物変性エチレン系樹脂(C)40〜2重量%とからなる樹脂成分100重量部に、無機難燃剤(D)50〜250重量部、およびシリコーンオイル(E)0.05〜10重量部を配合し、架橋剤の非存在下に混合混練して製造した組成物を被覆してなる難燃性電線・ケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の難燃性電線・ケーブルは、特定のポリエチレン系樹脂を組み合わせ、さらに無機難燃剤とノンハロゲンタイプの難燃剤を配合したので、垂直トレイ難燃性試験に合格するという高度の難燃性を備え、機械的強度、耐熱性、低温特性、柔軟性および加工性等も良好であり、燃焼した場合でも有毒ガスの発生がない、優れた特性を持つものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の難燃性電線・ケーブルについて詳細に説明する。
【0009】
本発明に使用するベース材料であるエチレン系樹脂(A)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと記載する)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(以下、EEAと記載する)および直鎖状・超低密度エチレン−α−オレフィン共重合体(以下、VLDPEと記載する)からなる群から選択される一種またはそれ以上のものである。 EVAおよびEEAは、反応温度150〜350℃、反応圧力100〜300MPaの条件下、有機過酸化物などのラジカル発生触媒を用いてエチレンと酢酸ビニルまたはエチレンとアクリル酸エチルとを共重合させたものである。前記EVAおよびEEAとして以下の物性を示すものが好ましい:
・メルトフローレート(JIS K7210に準拠して測定)が0.5〜50g/10分であるもの(0.5g/10分未満では加工性に、50g/10分を越えると機械的特性にそれぞれ比較的劣る);
・酢酸ビニルまたはアクリル酸エチルのコモノマー含有量が5〜40重量%、特に10〜35重量%であるもの(5重量%未満では加工性に比較的劣り、樹脂成分中に難燃剤を均一に分散し保持することが難しく、40重量%を越えると機械的特性に比較的劣る)。
【0010】
VLDPEは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体である。α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1、オクテン−1、デセン−1、ドデセン−1等を挙げることができる。当該VLDPEは、以下の物性を示すものが好ましい:・メルトフローレート(JIS K7210に準拠して測定)が0.5〜50g/10分であるもの(0.5g/10分未満では加工性に、50g/10分を越えると機械的特性にそれぞれ比較的劣る);
・密度(JIS K7112に準拠して測定)が0.86〜0.91g/cmであるもの(0.86g/cm未満のものは製造が困難であり、また0.91g/cmを越えると樹脂成分中に難燃剤を均一に分散し保持することが難しい)。
【0011】
前記VLDPEは、従来一般に用いられている触媒、例えばチーグラー系触媒、フィリップス系触媒またはスタンダード系触媒を使用して重合されるが、チーグラー系触媒と呼ばれるものは、チタン化合物やバナジウム化合物等の遷移金属化合物からなる主触媒、有機アルミニウム等の有機金属化合物からなる助触媒及びケイ素、チタン、マグネシウム等の酸化物からなる触媒担体から構成される触媒である。フィリップス系触媒と呼ばれるものは、酸化クロムからなる主触媒とケイ素、アルミニウム等の酸化物からなる触媒担体から構成される触媒であり、スタンダード系触媒と呼ばれるものは、酸化モリブデンからなる主触媒とアルミニウム等の酸化物からなる触媒担体から構成される触媒である。重合は温度0〜250℃で、圧力は高圧(50MPa以上)、中圧(10〜50MPa)または低圧(常圧〜10MPa)のいずれかの下で行われる。重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、スラリー重合法、気相重合法、その他の重合法を使用することができる。
【0012】
本発明において使用するもう一つのベース材料であるエチレン−α−オレフィン共重合体(B)は、エチレンとα−オレフィン、例えば炭素数3ないし12のα−オレフィンとの共重合体である。α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、4メチル−ペンテン−1、オクテン−1、デセン−1、ドデセン−1等を挙げることができる。これらの中で、難燃性エチレン系樹脂組成物の機械的特性及び加工性の点でオクテン−1が特に好ましい。
【0013】
また、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)は、メルトフローレート0.5〜50g/10分、密度0.86〜0.91g/cmおよび重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)3.0以下を有するものである。
【0014】
ここでメルトフローレートは、JIS K7210に準拠して測定され、0.5g/10分未満であると加工性が悪く、50g/10分を越えると機械的特性が劣り、望ましくない。
【0015】
また、密度はJIS 7112に準拠して測定され、0.86g/cm未満であると製造が困難であり、0.91g/cmを越えるとエチレン−α−オレフィン共重合体に難燃剤を均一に分散し保持することができず、望ましくない。なお、樹脂成分(B)の上記密度範囲は一般に超低密度に分類される。
【0016】
さらに、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定され、3.0以下であることが必要であり、好ましくは2.5以下である。Mw/Mnが3.0を越えると機械的特性が劣るので望ましくない。このMw/Mnは分子量分布の指標となる値であり、小さいほど、分子量分布が小さい。
【0017】
本発明において、上記エチレン−α−オレフィン共重合体(B)の製造の際に使用されるシングルサイト触媒は、活性点が同種(シングルサイト)であり、エチレンに対して高い重合活性を持つものである。このシングルサイト触媒はメタロセン触媒、また、発明者の名前からカミンスキー触媒とも呼ばれている。本発明に用いられる触媒としてはこれをさらに改良したもの、例えば、適当に拘束された幾何形状を有する触媒(Constrained Geometry Catalysts)で、周期律表第3〜10族またはランタノイド(ランタン系列)の金属原子と、拘束を誘起する原子団で置換された非局在化されたπ(パイ)結合を有する原子団とを含む金属配位錯体を含有するものが好ましい。好ましい触媒錯体は、次式:
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、Mは周期律表第3〜10族又はランタノイドの金属であり、Cp*は、Mにη結合様式で結合しているシクロペンタジエニル基又は置換シクロペンタジエニル基であり、Zはホウ素または周期律表第14族の元素、そして場合に応じて硫黄原子または酸素原子を含有する原子団であり、該原子団は20個までの水素原子以外の原子を有するか、または、Cp*およびZは一緒になって縮合環系を形成し、Xは、互いに独立してアニオン性配位子又は30個までの水素原子以外の原子を有する中性ルイス塩基配位子であり、nは、0、1、2、3または4であり、かつMの原子価より2少ない数であり、そしてYは、ZおよびMと結合するアニオン性または非アニオン性配位子で、窒素原子、リン原子、酸素原子または硫黄原子を含んでおり、そして20個までの水素原子以外の原子を有するか、または必要に応じてYとZとは一緒になって縮合環系を形成する)で表されるものである。
【0020】
上記触媒錯体の具体的な化合物としては、(t−ブチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイルジルコニウムジクロライド、(t−ブチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイルチタンジクロライド、(メチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイルジルコニウムジクロライド、(メチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイルチタンジクロライド、(エチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)メチレンチタンジクロライド、(t−ブチルアミド)ジベンジル(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)シランジルコニウムジベンジル、(ベンジルアミド)ジメチル(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)シランチタンジクロライド、(フェニルホスフィド)ジメチル(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)シランジルコニウムジベンジル、(t−ブチルアミド)ジメチル(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)シランチタンジメチル等が例示される。
【0021】
上記触媒は、さらに活性化共触媒を含有する。該共触媒としては、高重合度または低重合度のアルミノキサン、とくにメチルアルミノキサンが適当である。いわゆる変性メチルアルミノキサンもまた上記共触媒としての使用に適している。
【0022】
本発明におけるエチレン−α−オレフィン共重合体(B)の重合は、好ましくは溶液重合法により行われ、通常の溶液重合法に対する条件がそのまま採用できる。すなわち、重合温度は0〜250℃であり、重合圧力は常圧から100MPaである。必要ならば、懸濁法、スラリー法、気相法またはそれ以外の方法に従って重合は行われ得る。担体を用いることもできるが、好ましくは、触媒は均一(例えば可溶性)な状態で用いられる。もちろん、触媒成分およびその共触媒成分が重合プロセスに直接添加され、適当な溶剤または希釈剤(濃縮モノマーも含む)がその重合プロセスで用いられた場合に、活性触媒系が反応器中で形成されることは好ましいことである。しかしながら、活性触媒は、それを重合混合物に添加する前に、適当な溶剤中、別の工程で形成されてもよく、この方法もまた好ましい。なお、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)の製法の詳細は、特開平6−306121号公報や特表平7−500622号公報に記載されている。
【0023】
本発明に使用するさらにもう一つのベース材料である官能基含有化合物変性エチレン系樹脂(C)は、エチレン系樹脂をある種の官能基を含む化合物で変性させることにより得られるものである。官能基含有化合物としては、不飽和カルボン酸、例えばフマル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、ソルビン酸、クロトン酸またはシトラコン酸等、酸無水物、例えば無水マレイン酸、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物または4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等、エポキシ化合物、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルまたはアリルグリシジルエーテル等、ヒドロキシ化合物、例えばアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルまたはポリエチレングリコールモノアクリレート等、金属塩、例えばアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムまたはアクリル酸亜鉛等、シラン化合物、例えばビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランまたはγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を例示することができる。
【0024】
上記の変性されるエチレン系樹脂は、特に制限されるものではなく、あらゆるエチレン系樹脂を使用でき、例えば、EVA、EEA、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、VLDPE、直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)および上記のシングルサイト触媒を使用して製造されたエチレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0025】
上記エチレン系樹脂に付加変性させる前記官能基含有化合物の量は、該樹脂に対して0.05〜10重量%の範囲が好ましい。この付加変性方法としては公知の方法、例えば溶液法、懸濁法、溶融法等を採用できる。
【0026】
上記方法のうち溶液法により前記エチレン系樹脂に官能基含有化合物を付加させる場合は、無極性有機溶媒中に前記エチレン系樹脂と官能基含有化合物を投入し、さらにラジカル開始剤を添加して100〜160℃の高温に加熱することにより行われ得る。この際使用される無極性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、テトラクロルエタン等が挙げられる。またラジカル開始剤としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3およびベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。
【0027】
また懸濁法によって付加変性する場合は、水等の極性溶媒中に前記エチレン系樹脂と官能基含有化合物を投入し、さらに前記のラジカル開始剤を添加し、高圧下で100℃以上の高温に加熱することにより変性されたエチレン系樹脂を得ることができる。
【0028】
さらに溶融法によって付加変性する場合は、合成樹脂の分野において慣用の溶融混練機、例えば押出機、バンバリーミキサー等を用いて、前記エチレン系樹脂、官能基含有化合物およびラジカル開始剤を溶融混練することにより変性されたエチレン系樹脂を得ることができる。
【0029】
本発明の樹脂成分の配合量は、樹脂成分(A)40〜93重量%、樹脂成分(B)50〜5重量%および樹脂成分(C)40〜2重量%である(三者は合計して100重量%に調整される)。
【0030】
樹脂成分(A)、樹脂成分(B)および樹脂成分(C)からなる全樹脂成分100重量%中、樹脂成分(B)の配合量は、5〜50重量%である。これは、樹脂成分(B)の配合量が5重量%未満では、機械的特性の改良が不十分であり、一方、50重量%を超えると、難燃性が劣ったり、コストアップになったりするので好ましくないことによる。
【0031】
また、樹脂成分(A)、樹脂成分(B)および樹脂成分(C)からなる全樹脂成分100重量%中、樹脂成分(C)の配合量は、2〜40重量%である。これは、樹脂成分(C)の配合量が2重量%未満では機械的特性および耐熱性の改良が不十分であり、一方、40重量%を超えると、可撓性、熱老化性および加工性が劣ることによる。
【0032】
本発明において使用される無機難燃剤(D)は、ハンタイト、ハイドロマグネサイト、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、燐酸カルシウム、酸化ジルコン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硼酸バリウム、メタ硼酸バリウム、硼酸亜鉛、メタ硼酸亜鉛、無水アルミナ、二硫化モリブデン、粘土、赤燐、珪藻土、カオリナイト、モンモリナイト、ハイドロタルサイト、タルク、シリカ、ホワイトカーボン、セライト、アスベスト、リトポンなどが例示される。
【0033】
これらの無機難燃剤の表面は、樹脂成分への分散性、機械的強度の向上、耐摩耗性、耐炭酸ガス白化性、耐湿性、耐油性、耐化学薬品性、加工性等を付与するため脂肪酸またはその金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤およびアルミニウムカップリング剤から選択される少なくとも一種の表面処理剤で処理することが好ましい。
【0034】
無機難燃剤(D)の配合量は、樹脂成分(成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計量)100重量部に対して50〜250重量部である。これは、無機難燃剤の配合量が50重量部未満では難燃性が不足し、一方、250重量部を越えると成形加工性が悪化するばかりでなく、成形品の機械的特性、低温特性、柔軟性等を悪化させることによる。
【0035】
本発明において使用されるシリコーンオイル(E)は、次に示す一般式で表されるものである。
【0036】
【化2】

【0037】
上記式中のRはアルキル基、アリール基および水素原子から選ばれる基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、水素原子が代表的なものである。分子中のすべてのRが同一であっても、一部のRが別の基であってもよく、Rの一部がビニル基、水酸基であってもよい。
【0038】
また、シリコーンオイルとして、上記シリコーンオイルのRの一部が様々な有機基で変性されているいわゆる変性シリコーンオイルでもよい。それらの変性シリコーンオイルとしては、グリシジル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイルおよび高級脂肪酸変性シリコーンオイル等を挙げることができる。
【0039】
シリコーンオイルとしては、25℃における粘度が0.65〜1,000,000センチストークスのものが使用し得るが、難燃性の向上や加工性の点から5,000〜100,000センチストークスのものが好ましく、10,000〜100,000センチストークスのものがさらに好ましい。
【0040】
シリコーンオイル(E)の配合量は、樹脂成分(成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計量)100重量部に対して0.05〜10重量部である。これは、シリコーンオイルの配合量が0.05重量部未満では難燃性が不足し、一方、10重量部を越えると成形加工性を極端に悪化させることによる。
【0041】
本発明の難燃性電線・ケーブルに使用する樹脂組成物には、本発明の特性を損なわない範囲で、その使用目的に応じて、各種添加剤や補助資材を配合することができる。それら各種添加剤や補助資材としては、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、加工性改良剤、充填剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、発泡剤、気泡防止剤、着色剤、カーボンブラック等を挙げることができる。
【0042】
本発明の難燃性電線・ケーブルに用いる樹脂組成物は、所定量の上記成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)に、必要に応じて上記各種添加剤や補助資材等を適当量配合し、一般的な方法、例えばニーダー、バンバリーミキサー、コンティニュアスミキサーまたは押出機等を用いて均一に混合混練することにより製造され得る。
【0043】
また、本発明の電線・ケーブルは、押出機を用いて導体上に、または、複数の絶縁線芯をより合わせた外周上に上記樹脂組成物を溶融押出被覆する慣用の技術を用いることにより製造され得る。
本発明において使用されるエチレン−α−オレフィン共重合体(B)には、米国ザダウケミカル社からアフィニティー(登録商標)として販売されているものがある。当該樹脂は、シングルサイト触媒の一種である幾何拘束触媒を使用して製造されたもので、エチレン−α−オレフィン共重合体の主鎖に、該主鎖の炭素原子1000個当たり0.01〜3個の割合で長鎖分岐を含有している。この長鎖分岐を含有しているが故に、Mw/Mnが小さい、すなわち、分子量分布が小さいにもかかわらず加工性が良好である。分子量分布が小さいということは、機械的特性が優れているということである。従来、エチレン−α−オレフィン共重合体において、小さな分子量分布すなわち優れた機械的特性と良好な加工性とは両立しなかったが、本発明における上記樹脂成分(B)は機械的特性と加工性の両方に優れており、しかも超低密度のものを選択することにより、無機難燃剤(D)が多量であっても、それをエチレン−α−オレフィン共重合体に均一に分散させ保持することを可能にしたものである。
【0044】
また、本発明におけるEVA、EEAまたはVLDPEのエチレン系樹脂(A)は、加工性をより一層良好にしている。
【0045】
さらに、本発明に用いる樹脂組成物は官能基含有化合物変性エチレン系樹脂(C)の配合により、上記の機械的特性および加工性等がなお一層高められる。
【0046】
本発明に用いる樹脂組成物に配合する難燃剤は、無機難燃剤に加えてシリコーンオイルを配合することにより、高度の難燃性が得られたものである。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
表1,2に示す組成物にさらに酸化防止剤を樹脂成分100重量部に対して1重量部添加した組成物をバンバリーミキサーで160℃、10分間混練したのち造粒して得たペレットを40m/m押出機に投入し、押出加工温度200℃で押出し、直径60mm、厚さ0.8mmのチューブを作成し、これを試料として、各評価を次の通り行った。
【0049】
・JIS K6760による引張強度および伸び試験。
【0050】
・上記引張強度、伸びと同じ試片を使用して、100℃のギヤオーブン中に10日間熱老化させ、引張強度と伸びの残率を求める熱老化試験。残率が65%以上を合格とし、65%未満を不合格とする。
【0051】
・長さ25mm、幅6mmの試片を120℃のオーブン中に1時間放置後、2000gのおもりをのせる加熱変形試験。変形率が50%未満のものを合格とし、50%以上のものを不合格とする。
【0052】
・長さ2.3mの試料を垂直に11本並べ、下から70,000Btu/hのバーナーの炎を20分間当てる難燃性試験。試料の下端からの焦げの長さが1.5m未満のものを合格とし、1.5m以上のものを不合格とする。
【0053】
・押出機での押出加工時の押出加工性の評価。なんらトラブルなく良好に押出加工できるものを合格とし、良好に押出加工できないものを不合格とする。
【0054】
(実施例2〜8、比較例1〜8)
表1,2の組成物を実施例1と同様の方法で行い、評価結果を同じく表1,2に示した。
【0055】
これらの評価結果から、実施例は機械的特性、耐熱性、難燃性および押出加工性の全てが優れている。それに比べて、比較例1〜4は、本発明で使用するエチレン系樹脂の範囲を外れるものを使用したために引張強度が劣る。そのうえ、比較例1および2は熱老化性および押出加工性が劣り、比較例3は熱老化性および加熱変形性が劣り、比較例4は熱老化性、加熱変形性および難燃性が劣る。比較例5〜8は、本発明の難燃剤の配合量範囲を外れたものである。すなわち、比較例5は無機難燃剤である水酸化マグネシウムの配合量が少なすぎるために難燃性が劣り、そのうえ、加熱変形性が劣る。比較例6は水酸化マグネシウムの配合量が多すぎるために押出加工性が劣り、そのうえ、引張強度および熱老化性が劣る。比較例7はシリコーンオイルの配合量が少なすぎるために難燃性が劣り、そのうえ、押出加工性が劣る。比較例8はシリコーンオイルの配合量が多すぎるために押出加工性が劣り、そのうえ、引張強度、熱老化性および加熱変形性が劣る。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体および直鎖状・超低密度エチレン−α−オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも一種のエチレン系樹脂(A)40〜93重量%と、メルトフローレート0.5〜50g/10分、密度0.86〜0.91g/cm、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)3.0以下である、シングルサイト触媒を使用して製造された実質的に直鎖状のエチレン−α−オレフィン共重合体(B)50〜5重量%と、官能基含有化合物変性エチレン系樹脂(C)40〜2重量%とからなる樹脂成分100重量部に、無機難燃剤(D)50〜250重量部、およびシリコーンオイル(E)0.05〜10重量部を配合し、架橋剤の非存在下に混合混練して製造した組成物を被覆してなる難燃性電線・ケーブル。

【公開番号】特開2007−128899(P2007−128899A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345920(P2006−345920)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【分割の表示】特願平8−110980の分割
【原出願日】平成8年5月1日(1996.5.1)
【出願人】(000230331)日本ユニカー株式会社 (20)
【Fターム(参考)】