説明

雨垂れ音の低減構造

【課題】 本発明は、簡単な構造で多大な効果が発揮され、既存の建物にも容易に適用することが出来る雨垂れ音の低減構造を提供することを可能にすることを目的としている。
【解決手段】 矩形状の金属板を山型に折り曲げ加工して形成した屈折板5を、防振ゴムシート4を介して、該屈折板5の折り曲げ線5aが建物外壁面1に対して平行になるように配置して屋根面3に対して貼着して構成すると共に、防振ゴムシート4は屋根面3と屈折板5との間の離間寸法に応じた厚みを有し、屈折板5の勾配は、屋根面3に対する雨垂れの滴下位置6において屋根面3の勾配よりも急勾配とした構成であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物外壁面からの突出部の薄肉板からなる屋根面に雨垂れが滴下する際に発生する雨垂れ音の低減構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より建物、特に外壁の遮音性が高い住宅において、外壁面からの突出部(例えば窓上に設置されたシャッターボックス、出窓、庇、雨樋、サッシ下部の水切り等の先端部)から滴下した雨水が、これより下方にありかつ開口部に近く音が室内に伝わりやすい突出部(例えばシャッターボックス、出窓、換気扇フード等)の屋根面を振動させることで雨垂れ音が発生し、この雨垂れ音が、例えば他の音があまり聞こえない(暗騒音が小さい)就寝時等に耳障りに聞こえる、という現象ががしばしば生じていた。
【0003】
この現象に対して、例えば特許文献1に記載されたようにゴム製の制振シートを内面に貼着したり、特許文献2に記載されたようにポリエチレン発泡シートを外面に貼着する等の対策が取られてきた。
【0004】
【特許文献1】特開2000−008737号公報
【特許文献2】特開2004−076544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の特許文献1の技術のように既存の建物において内面に貼着することは作業に手間がかかるという問題があり、外面に添付するとシートの劣化(硬化)が進行し易く振動を減衰させる効果が持続しないという問題もあった。また、特許文献2の技術のように軟質のシートを屋根面に沿って貼着することでは、内面であっても外面であっても屋根面の剛性がさほど増加しないため、特に雨水がある程度まとまった状態で滴下する溜まり水の場合は振動が充分に減衰せず、雨垂れ音の低減対策としては不十分であった。
【0006】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、簡単な構造で多大な効果が発揮され、既存の建物にも容易に適用することが出来る雨垂れ音の低減構造を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明に係る雨垂れ音の低減構造の第1の構成は、建物外壁面からの突出部の薄肉板からなる屋根面に雨垂れが滴下する際に発生する雨垂れ音の低減構造であって、矩形状の金属板を山型に折り曲げ加工して形成した屈折板を、防振ゴムシートを介して、該屈折板の折り曲げ線が建物外壁面に対して概ね平行になるように配置して前記屋根面に対して貼着して構成すると共に、前記防振ゴムシートは前記屋根面と前記屈折板との間の離間寸法に応じた厚みを有して構成したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る雨垂れ音の低減構造の第2の構成は、前記第1の構成において、前記屈折板の勾配は、前記屋根面に対する雨垂れの滴下位置において前記屋根面の勾配よりも急勾配としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る雨垂れ音の低減構造の第1の構成によれば、(1)山型に折り曲げることで剛性が増大した屈折板を、防振ゴムシートを介して既存の屋根面に貼着して3者を一体化することで、屋根面の振動が抑制され雨垂れ音の低減効果が得られる。(2)更に、山型に折り曲げることで最も振動しやすい中央部で防振ゴムシートの厚みを大きくすることが出来るので雨垂れ音の低減効果が高まる。(3)屋根面の下方先端部には屈折板の「山の裾野の部分」が配置され防振ゴムシートの厚みも小さいので、正面下方から見上げた場合の見かけの厚みの増加が抑えられて施工後の違和感が少ない。(4)外面からの作業のため手間がかからない。(5)防振ゴムシートは屈折板によって被覆されるので外気や日射の影響を受け難いので、弾性が長期にわたって保たれ防振効果が持続する。
【0010】
また本発明に係る雨垂れ音の低減構造の第2の構成によれば、屋根面に対する雨垂れの滴下位置において屈折板の勾配が既存の屋根面の勾配よりも急勾配とすることで雨垂れの滴下方向と傾斜した屈折板により形成される滴下面とのなす角度がより鋭角となり雨垂れの滴下による衝撃力が緩和されるので、雨垂れ音の低減効果が更に高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図により本発明に係る雨垂れ音の低減構造の一実施形態を具体的に説明する。図1は本発明に係る雨垂れ音の低減構造を屋根面が丸型のシャッターボックスに適用した場合の第1実施形態の構成を示す断面説明図、図2は第1実施形態の屋根面周辺の部分断面図、図3は第1実施形態の屋根面周辺の平面図である。
【0012】
先ず、図1〜図3を用いて本発明に係る雨垂れ音の低減構造を屋根面が丸型のシャッターボックスに適用した場合の第1実施形態について説明する。図1〜図3において、建物外壁面1から屋根面が丸型のシャッターボックス2が突出されており、その突出部の薄肉板からなる屋根面3上に防振ゴムシート4が貼着され、該防振ゴムシート4上に矩形状の金属板を山型に折り曲げ加工して形成した屈折板5が貼着される。
【0013】
屈折板5はその折り曲げ線5aが建物外壁面2に対して平行になるように配置され、防振ゴムシート4は屋根面3と屈折板5との間の離間寸法に応じた厚みを有して構成される。屈折板5の勾配は屋根面3に対する雨垂れの滴下位置6において該屋根面3の勾配よりも急勾配になるように構成されている。
【0014】
屈折板5の材質や板厚は特に限定されるものではないが、雨垂れ音の減衰効果、耐久性、加工性、施工性の観点から板厚が2mm程度のステンレス鋼板(SUS304等)或いは亜鉛メッキ鋼板等が好ましい。
【0015】
屈折板5の幅や長さも特に限定されるものではないが、少なくとも屋根面3に対する雨垂れの滴下位置6を覆っていれば良い。但し、意匠性の観点からシャッターボックス2の屋根面3のほぼ全長全幅に亘ってカバーされているのが好ましい。尚、屋根面3の端部は通常支持あるいは折り曲げ加工されているため雨垂れの滴下による振動は少ないので、図3に示すように防振ゴムシート4や屈折板5を端部ギリギリまで寄せることは性能上は必要ない。
【0016】
屈折板5の折り曲げる位置や勾配角度、折り曲げ線5aの数は雨垂れの滴下位置6や屋根面3の勾配角度や形状に対応して適宜選択すれば良いが、雨垂れの滴下位置6において水平面に対して20度以上の勾配角度を有する場合には雨垂れ音の減衰効果が大きくなって好ましい。但し、建物外壁面1への雨仕舞から建物外壁面1に向かって下り勾配にならないように構成することが望ましい。例えば、図2において、角度a,bは163度、角度cは35度に設定された一例である。
【0017】
防振ゴムシート4の材質や層厚は特に限定されるものではないがEPDM(Ethylene Propylene Diene Methylene Linkage;エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)ゴムの発泡材で、屋根面3と屈折板5との間に隙間が発生しないように予めその空間形状に対応して成形されたものを使用することが出来る。また防振ゴムシート4は、曲げ頂上部に向って屋根面3屈折板5との離間寸法が増すにつれて階段状に厚みを増したものを使用することも出来る。EPDMゴムは弾性を有するので接着により発生する圧縮力や引張力によって離間寸法に応じた形状に(厚み)にある程度矯正されるからである。
【0018】
屋根面3と防振ゴムシート4、防振ゴムシート4と屈折板5とを貼着する粘着材料としては、合成樹脂系粘着材が設けられた両面テープ等で、外周囲並びに100mm以下程度の間隔で数列接着することが出来る。
【0019】
屈折板5及び防振ゴムシート4の外周端部はシーリング材7により防水処理が施されている。防振ゴムシート4内部への雨水の浸透による接着強度低下を防止すると共に外観性を高めるために屋根面3や屈折板5に近い色調を有する変性シリコーン系シーリング材を使用することが好ましい。尚、シーリング材7は屋根面3に対する屈折板5の接着力の増強にも寄与している。
【0020】
図3(a)は屈折板5がシャッターボックス2の長手方向において2分割された場合の一例であり、図3(b)は屈折板5がシャッターボックス2の長手方向において連続的に一枚で構成された一例である。
【0021】
次に図4及び図5を用いて本発明に係る雨垂れ音の低減構造を屋根面が角型のシャッターボックスに適用した場合の第2実施形態について説明する。図4は本発明に係る雨垂れ音の低減構造を屋根面が角型のシャッターボックスに適用した場合の第2実施形態の屋根面周辺の部分断面図、図5は第2実施形態の屋根面周辺の平面図である。尚、前記第1実施形態と同様に構成したものは同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
前記第1実施形態では屋根面3が丸型のシャッターボックス2に対応して屈折板5の折り曲げ線5aを2箇所設けて構成したが、本実施形態では屋根面3が角型のシャッターボックス2に対応して屈折板5の折り曲げ線5aを1箇所設けて構成したものである。例えば、図4において、角度dは158度、角度eは23度に設定された一例である。また、図5(a)は屈折板5がシャッターボックス2の長手方向において2分割された場合の一例であり、図5(b)は屈折板5がシャッターボックス2の長手方向において連続的に1枚で構成された一例である。他の構成は前記第1実施形態と同様に構成され、同様の効果を得ることが出来る。
【0023】
本発明に係る雨垂れ音の低減構造における上記第1実施形態及び第2実施形態の雨垂れ音低減効果を検証する為に行なった騒音試験について以下に説明する。
【0024】
騒音試験の方法としては、実験棟において凡そ1.8m巾のアルミサッシ上部の鋼板下地面にシャッターボックス2を取り付けておき、シャッターボックス上面に下記の夫々の実施例の条件に応じた防振ゴムシートや屈折板を貼着した上で、シャッターボックスの上部凡そ4.8mの高さ(住宅の3階のサッシ上部のシャッターボックス先端から1階のサッシのシャッターボックス屋根面に滴下することを想定した高さ)より蛇口付きポリタンクの蛇口から水を放水落下させ、室内のサッシ面より凡そ1m、室内床面より凡そ1mの位置における騒音レベルをリオン株式会社製精密騒音計NA−27により測定した。
【0025】
放水量は、多雨或いはある程度の雨水がまとまって滴下したことを想定した場合の放水量を毎分2000ccとし、少雨或いは雨水があまりまとまらずに滴下したことを想定した場合の放水量を毎分600ccとして、上記2通りの放水量で測定した。
【0026】
また比較例として、防振ゴムシートや屈折板を全く付加しないシャッターボックスと、防振ゴムシートの上面に屈折板にかえて平板を付加したシャッターボックスについて同様の騒音試験を行なった。
【0027】
〔実施例1〕
屈折板5として板厚2mmのステンレス鋼板の2箇所でそれぞれ山型に折り曲げてそれぞれの山中央で10mm高さとし、丸型シャッターボックス2の屋根面3と屈折板5との間に防振ゴムシート4として中央部では厚さ10mmの日東電工株式会社製「エプトシーラー(商品名)」を介在させ、端部では厚さ2mmのエプトシーラー(商品名)を介在させて、屈折板5と防振ゴムシート4、防振ゴムシート4と屋根面3とをそれぞれ貼着し、主に屈折板5の中間部(勾配約18度)の面に雨水が滴下するようにした。
【0028】
〔実施例2〕
屈折板5として板厚2mmのステンレス鋼板の中央部分を山型に折り曲げて山の頂部で10mmの高さとし、角型シャッターボックス2の屋根面3(勾配約25度)と屈折板5との間に防振ゴムシート4として厚さ2mmの日東電工株式会社製「エプトシーラー(商品名)」を介在させて、屈折板5と防振ゴムシート4、防振ゴムシート4と屋根面3とをそれぞれ貼着し、屈折板5の外側の面の勾配が屋根面3の勾配よりも急勾配(約30度)となるように構成した。
【0029】
〔実施例3〕
屈折板5として板厚2mmのステンレス鋼板の中央部分を山型に折り曲げて山の頂部で18mmの高さとし、角型シャッターボックス2の屋根面3(勾配約25度)と屈折板5との間に防振ゴムシート4として厚さ2mmの日東電工株式会社製「エプトシーラー(商品名)」を介在させて、屈折板5と防振ゴムシート4、防振ゴムシート4と屋根面3とをそれぞれ貼着し、屈折板5の外側の面勾配が屋根面3の勾配よりも実験例2よりも更に急勾配(約35度)となるように構成した。
【0030】
〔比較例1〕
丸型シャッターボックスに対して屈折板5と防振ゴムシート4等は全く付加しない状態で、主に屋根面3の中間部(勾配約25度)の面に雨水が滴下するようにした。
【0031】
〔比較例2〕
防振ゴムシート4として厚さ2mmの日東電工株式会社製「エプトシーラー(商品名)」と、板厚2mmの折り曲げ加工のない平らなステンレス鋼板とを貼り合わせたものを角型シャッターボックス2の屋根面3(勾配約25度)の勾配なりに貼着して構成した。
【0032】
上記実施例1〜3及び比較例1、2について騒音レベルを測定し、両者の差異を求めたものが以下の表1である。
【0033】
【表1】


【0034】
上記比較例1と実施例1とを比較すれば屈折板5及び防振ゴムシートを付加することによる雨垂れ音の低減効果が明らかである。
【0035】
また、上記比較例2と実施例2とを比較すれば平板を屈折板5に置きかえ防振ゴムシートを離間寸法に対応したものとすることにより雨垂れ音の低減効果が向上することが明らかである。
【0036】
更に、上記実施例2と実施例3とを比較すれば屈折板5の勾配が屋根面3の勾配よりも急勾配に構成したことにより雨垂れ音の低減効果が向上することが明らかである。
【0037】
次に図6及び図7を用いて本発明に係る雨垂れ音の低減構造を出窓の屋根面に適用した場合の第3実施形態について説明する。図6は本発明に係る雨垂れ音の低減構造を出窓の屋根面に適用した場合の第3実施形態の屋根面周辺の部分断面図、図7は第3実施形態の屋根面周辺の平面図である。尚、前記各実施形態と同様に構成したものは同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
本実施形態では屋根面3が出窓の屋根面である以外は前記各実施形態と同様に構成され、同様の効果を得ることが出来る。例えば、図6において、角度fは169度、角度gは13度に設定された一例である。また、図7(a)は屈折板5が出窓の屋根面3の長手方向において2分割された場合の一例であり、図7(b)は屈折板5が出窓の屋根面3の長手方向において連続的に一枚で構成された一例である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の活用例として、建物外壁面からの突出部の薄肉板からなる屋根面に雨垂れが滴下する際に発生する雨垂れ音の低減構造に適用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る雨垂れ音の低減構造を屋根面が丸型のシャッターボックスに適用した場合の第1実施形態の構成を示す断面説明図である。
【図2】第1実施形態の屋根面周辺の部分断面図である。
【図3】第1実施形態の屋根面周辺の平面図である。
【図4】本発明に係る雨垂れ音の低減構造を屋根面が角型のシャッターボックスに適用した場合の第2実施形態の屋根面周辺の部分断面図である。
【図5】第2実施形態の屋根面周辺の平面図である。
【図6】本発明に係る雨垂れ音の低減構造を出窓の屋根面に適用した場合の第3実施形態の屋根面周辺の部分断面図である。
【図7】第3実施形態の屋根面周辺の平面図である。
【符号の説明】
【0041】
1…建物外壁面
2…シャッターボックス
3…屋根面
4…防振ゴムシート
5…屈折板
5a…折り曲げ線
6…滴下位置
7…シーリング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物外壁面からの突出部の薄肉板からなる屋根面に雨垂れが滴下する際に発生する雨垂れ音の低減構造であって、
矩形状の金属板を山型に折り曲げ加工して形成した屈折板を、防振ゴムシートを介して、該屈折板の折り曲げ線が建物外壁面に対して概ね平行になるように配置して前記屋根面に対して貼着して構成すると共に、
前記防振ゴムシートは前記屋根面と前記屈折板との間の離間寸法に応じた厚みを有して構成したことを特徴とする雨垂れ音の低減構造。
【請求項2】
前記屈折板の勾配は、前記屋根面に対する雨垂れの滴下位置において前記屋根面の勾配よりも急勾配としたことを特徴とする請求項1に記載の雨垂れ音の低減構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−205070(P2007−205070A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26473(P2006−26473)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】