説明

雨水浸透システム

【課題】従来の雨水浸透システムに比べて、施工コストをあまり大きくかけることなく、しかも、雨水浸透マスの設置個数を増やすことがなくて、雨水浸透マスからの地中への雨水の浸透量を増やすことができる雨水浸透システムを提供することを目的としている。
【解決手段】縦樋2aの縦樋本体部21の下端を雨水浸透マス3aに接続する一方、縦樋本体部21の上端部にじょうご下部流出口21aを設け、降雨時は、雨水浸透マス3a内から縦樋本体部21のじょうご下部流出口21aまでは満水状態にされ、じょうご下部流出口21aからオーバーフローした雨水をじょうご下部流出口21aに接続された分岐縦樋部22から排出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨水の浸透効率が高い雨水浸透システムに関する。
【背景技術】
【0002】
都市部では、舗装化が進み、地表に降った雨は、殆ど地中に浸透することなく、雨水配管経路を介して河川に流れ込む。
したがって、集中豪雨などがあると、すぐに河川が増水して河川の洪水を招くおそれがたかくなっている。
【0003】
特に、昨今は、地球温暖化などの環境変化によって集中豪雨の頻度も増加している。
また、雨水が地中に殆ど浸透しないことから、地下水の枯渇による地盤沈下などの問題も発生する。
【0004】
そこで、図9に示すような雨水浸透マス100を利用した雨水浸透システムが既に提案され(特許文献1参照)、自治体によっては、新築や増改築の場合、このような雨水浸透マスの設置を義務付けたり、設置にあたり助成金を設けていたりする。
すなわち、降雨時、雨水は、建物の屋根から軒下の雨樋300、縦樋400を経由して、地中に埋設された雨水マス・管から下水管渠へ流下するが、雨水浸透マス100は、図9に示すように、マス100の地中に埋設された部分の周壁に小さな孔が多数貫通されていて、縦樋400の下端に接続された配管から流入した雨水をこの小さな孔から地中に浸透させ、余剰の雨水を配管200を介して下水管渠へ流下させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4138994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の雨水浸透システムでは、1つの雨水浸透マス100での浸透量が十分ではなく、同じ敷地内に縦樋毎に複数の雨水浸透マス100を設ける必要がでてくる場合がある。
しかしながら、敷地によっては、多くの雨水浸透マス100を設置できない場合があるとともに、設置する雨水浸透マス100の数が増えると、マス材料費、設置工事費が嵩むという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の発明者は、雨水が地中に浸透する際に、その浸透量を左右する大きな要素としての、雨水浸透マス内の水圧に着目した。
すなわち、雨水が地中に浸透する際に、その浸透量を左右する大きな要素として、以下の3つの要素がある。
(1)浸透していく地中の地盤が透水しやすい土質か否か。
すなわち、雨水浸透マスの周辺の地盤の土粒子もしくは礫粒子が粗いほど透水しやすい。
(2)雨水浸透マスの周辺の地下水位が高いか低いか。
すなわち、雨水浸透マスの周辺の地下水位が高いと、雨水浸透マスから透出する水と地下水位の差が少ないため、水が逃げずに、その場所に貯留させることになり、浸透が困難となる。
(3)雨水浸透マス内の水圧が高いか低いか。
すなわち、雨水浸透マス内の透水壁にかかる水圧を高くすれば、浸透が速くなる。
【0008】
しかしながら、上記(1)の要素の場合、浸透性能を上げるには、大掛かりな地盤改良が必要でコストがかかるとともに、地盤改良が不可能な場合があるために、雨水浸透マスの設置の制約条件となっている。また、(2)の要素の場合、浸透性能を上げるには、地下水位を下げる必要があるが、人為的に地下水位を下げることは困難である。
そこで、本発明の発明者は、上記(3)の要件である雨水浸透マス内の水圧を如何にして上げる事ができるか鋭意研究を重ねた結果、雨水浸透マス100への雨水の流入水位を上げることができれば、水圧が高くなり、同じ容量の雨水浸透マスを用いても浸透量を上げることができることに想い到り、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みて、従来の雨水浸透システムに比べて、施工コストをあまり大きくかけることなく、しかも、雨水浸透マスの設置個数を増やすことがなくて、雨水浸透マスからの地中への雨水の浸透量を増やすことができる雨水浸透システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明にかかる雨水浸透システムは、屋根に降った雨水を、縦樋を介して地中に埋設された雨水浸透マスに流入させて、地中に浸透させるようにした雨水浸透システムにおいて、前記縦樋は、下端が前記雨水浸透マスに接続され、上端部にじょうご下部流出口を有する縦樋本体部と、前記じょうご下部流出口からオーバーフローした雨水を排出する分岐縦樋部とを備え、降雨時は、前記雨水浸透マス内から前記縦樋本体部のじょうご下部流出口までは満水状態にされていることを特徴としている。
【0011】
本発明において、雨水浸透マスは、マス内に流入した雨水がその上面からオーバーフロー不可状態にされていれば、特に限定されないが、上面にマス内部を臨む点検口を有するとともに、この点検口を水密に塞ぐ蓋を備えていることが好ましい。
また、雨水浸透マスの材質としては、特に限定されないが、コンクリート、樹脂、これらの複合材料が挙げられる。
【0012】
雨水浸透マスの形状としては、特に限定されないが、例えば、円筒形、角筒形、これらの複合形状などが挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる雨水浸透システムは、屋根に降った雨水を、縦樋を介して地中に埋設された雨水浸透マスに流入させて、地中に浸透させるようにした雨水浸透システムにおいて、
前記縦樋は、下端が前記雨水浸透マスに接続され、上端部にじょうご下部流出口を有する縦樋本体部と、前記じょうご下部流出口からオーバーフローした雨水を排出する分岐縦樋部とを備え、降雨時は、前記雨水浸透マス内から前記縦樋本体部のじょうご下部流出口までは満水状態にされているので、雨水浸透マスの設置個数を増やすことなく、また、施工コストをあまりかけずに、雨水浸透マスからの地中への雨水の浸透量を増やすことができる。
【0014】
すなわち、この雨水浸透システムでは、豪雨などで雨水が縦樋本体部を介して雨水浸透マスに多量に流れ込んだ場合、マス内に流入した雨水がその上面からオーバーフロー不可状態にされているので、雨水浸透マスから溢れる雨水は、縦樋本体部内に溜まっていき、水位がじょうご下部流出口まで達すると、つぎつぎに雨樋から縦樋に流れ込む雨水は、じょうご下部流出口に連結された分岐縦樋部から下水管渠などに繋がる排水路に流れ込む。
また、このとき、縦樋本体部内には、じょうご下部流出口まで雨水が溜まった状態になっているので、雨水浸透マス内に溜まった雨水には、縦樋本体部のじょうご下部流出口までの間に溜まった雨水の重量分の水圧がかかる。したがって、従来の雨水浸透マスに比べ、雨水浸透マス内の水圧が高くなり、浸透速度が速くなる。結果として、雨水浸透マスの占有面積を少なくすることができる。また、分岐縦樋部を設けるだけでよいので、低コストで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の雨水浸透システムの第1の実施の形態であって、その施工状態を説明する斜視図である。
【図2】図1の雨水浸透システムの断面図である。
【図3】図1の雨水浸透システムの雨水浸透マスの上部断面拡大図である。
【図4】本発明の雨水浸透システムに用いる縦樋の第2の例であって、そのじょうご下部流出口部分の断面図である。
【図5】本発明の雨水浸透システムに用いる縦樋の第3の例であって、そのじょうご下部流出口部分の断面図である。
【図6】本発明の雨水浸透システムに用いる縦樋の第4の例であって、そのじょうご下部流出口部分の断面図である。
【図7】本発明の雨水浸透システムに用いる縦樋の第5の例であって、そのじょうご下部流出口部分の断面図である。
【図8】本発明の雨水浸透システムに用いる雨水浸透マスの第2の例を説明する斜視図である。
【図9】従来の雨水浸透システムの雨水浸透マス部分を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1及び図2は、本発明にかかる雨水浸透システムの第1の実施の形態をあらわしている。
【0017】
図1及び図2に示すように、雨水浸透システム1は、縦樋2aと、雨水浸透マス3aとを備えている。
縦樋2aは、縦樋本体部21と、分岐縦樋部22とを備えている。
【0018】
縦樋本体部21は、その下端が、後で詳述する雨水浸透マス3aの周壁31aの上端部に配管P1を介して連結され、雨樋4から縦樋2aに流れ込んだ雨水Wを雨水浸透マス3aに流入させるようになっている。
分岐縦樋部22は、縦樋本体部21に雨樋4近傍に設けられたじょうご下部流出口21aに一端が連結され、縦樋本体部21と平行に建物Bの外壁に沿って垂下されたのち、下水管渠等に繋がる排水路P2に接続されている。
【0019】
雨水浸透マス3aは、塩化ビニル樹脂成形品であって、図2及び図3に示すように、有底の円筒状の本体部31を有し、この本体部31の周壁にφ20mm程度の小孔31aが多数穿設されている。
本体部31の上端32は、点検口32aを有する。この点検口32aには、蓋33がネジ固定されて、点検口32aを水密に閉鎖している。
なお、図3中、33aは、シール用のOリングである。
【0020】
そして、この雨水浸透マス3aは、以下のようにして地中に埋設されている。
すなわち、埋設部分をまず開削し、礫(砕石)5を開削部に敷詰めた後、礫5上に載置し、縦樋本体部21に繋がる配管P1を接続したのち、本体部31周壁の小孔31a形成部の少し上まで礫5で囲まれるようにさらに礫5を敷詰める。そして、礫5の周囲を透水性シート51上に非透水性シート(図示せず)を必要に応じて敷いたのち、その上に土Cを被せる、あるいは、コンクリート舗装する場合もある。なお、図2中、礫5を囲むように設けられた51は透水性シート、52は砂である。
【0021】
この雨水浸透システム1は、以上のようになっているので、降雨時には、雨樋4から縦樋2a内に流入した雨水が、まず、縦樋本体部21をとおり、雨水浸透マス3a内に入る。
そして、雨水浸透マス3aに本体部31周壁に穿設された小孔31aから周囲の礫5側に流れ出てその後地中に吸収される。
【0022】
また、本体部31点検口32aが蓋33をねじ固定して水密に塞がれているので、豪雨などで多量に雨水浸透マス3a内に雨水が流れ込んできても、蓋33が持ち上がって、点検口32aからあふれ出るということがない。
したがって、雨水浸透マス3aから溢れる雨水は、縦樋本体部21内に溜まっていき、水位がじょうご下部流出口21aまで達すると、じょうご下部流出口21aに連結された分岐縦樋部22から下水管渠などに繋がる排水路に流れ込む。
【0023】
また、このとき、縦樋本体部21内には、じょうご下部流出口21aまで雨水が溜まった状態になっているので、雨水浸透マス3a内に溜まった雨水には、縦樋本体部21のじょうご下部流出口21aまでの間に溜まった雨水の重量分の水圧がかかる。したがって、従来の雨水浸透マスに比べ、雨水浸透マス3a内の水圧が高くなり、浸透速度が速くなる。結果として、雨水浸透マス3aの占有面積を少なくすることができる。また、縦樋2aに余分に分岐縦樋部22を設ける簡単な構成でよいので、低コストで実現できる。
【0024】
なお、上記縦樋2aに代えて、例えば、図4〜図7に示すような構造の縦樋2b〜2eを用いてもよい。
すなわち、図4に示すように、縦樋2bは、縦樋本体部21に略Y字の分岐部21bを設けじょうご下部流出口21aを形成した以外は、上記縦樋2aと同様になっている。
【0025】
図5に示すように、縦樋2cは、縦樋本体部21より小径の略L字形をした配管23をその立管部23aが、縦樋本体部21の中心に配置され、横管部23bが縦樋本体部21の壁面を貫通して外部に突出し、この横管部23bに分岐縦樋部22が接続されている。したがって、立管部23aの上端開口がじょうご下部流出口となっている。
【0026】
図6に示すように、縦樋2dは、縦樋となる配管の中央部に雨樋近傍から下端まで隔壁25を設けることによって、縦樋本体部26と、分岐縦樋部27が形成されている。そして、隔壁25の上端がじょうご下部流出口になっている。
【0027】
図7に示すように、縦樋2eは、分岐縦樋部27の上方に雨樋4から流下してきた雨水を縦樋本体部26側にガイドするガイド板28を設けた以外は、上記縦樋2dと同様になっている。
【0028】
図8は、雨水浸透マスの第2の例をあらわしている。
図8に示すように、この雨水浸透マス3bは、下部マス部34と、上部マス部35とを備えている。
【0029】
下部マス部34、本体部36と透水性シート37とから構成されている。
本体部36は、塩化ビニル樹脂成形品であって、周壁36aに小孔36bが設けられた四角筒状をしている。透水性シート37は、小孔36bの目詰りを防止する目的で、本体部36の周壁36aを外側から覆うようになっていて、例えば、天然繊維,化学繊維,合成繊維などの不織布が使用される。
【0030】
上部マス部35は、塩化ビニル樹脂成形品であって、天板部35aと、点検筒部35bと、蓋35cとを備えている。
天板部35aは、その周縁部が本体部36の上端面に溶接固定されている。
【0031】
点検筒部35bは、天板部35aの中央部で上方に突出するように設けられ、その周壁に縦樋本体部21の下端と繋がる配管P1が接続されるようになっている。
蓋35cは、図示していないが、上記蓋33と同様に、点検筒部35bに水密にネジ固定できるようになっている。
【0032】
そして、この雨水浸透マス3bは、上記のように、本体部36の周囲が透水性s−トで覆われているので、下部マス部34の周囲に礫5の層を設けなくても小孔36bが目詰りすることがない。
なお、筒状をした塩化ビニル樹脂成形品である本体部36に代えて、積水化学工業株式会社の商品名レインステーション500等のプレハブ式のものを組み立てて本体部を形成するようにしても構わない。
【0033】
本発明は、上記の実施の形態に限定されない。例えば、上記の実施の形態では、底が合ったが、無くても構わない。また、底にも透水用の小孔を穿設してもよい。
また、雨水浸透マスを複数埋設する場合、雨水浸透マス同士は、切り離されていても構わないし、有孔管で連結し、有孔管を介しても雨水が地中に浸透する構造にしても構わない。
また、小孔は、マスの上側が小径で、マスの下側になるにつれて大径としても構わない。
【符号の説明】
【0034】
1 雨水浸透システム
2a,2b,2c,2d,2e 縦樋
21 縦樋本体部
21a じょうご下部流出口
22 分岐縦樋部
3a,3b 雨水浸透マス
31a,36a 周壁
32a 点検口
33,35c 蓋
W 雨水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根に降った雨水を、縦樋を介して地中に埋設された雨水浸透マスに流入させて、地中に浸透させるようにした雨水浸透システムにおいて、
前記縦樋は、下端が前記雨水浸透マスに接続され、上端部にじょうご下部流出口を有する縦樋本体部と、
前記じょうご下部流出口からオーバーフローした雨水を排出する分岐縦樋部とを備え、
降雨時は、前記雨水浸透マス内から前記縦樋本体部のじょうご下部流出口までは満水状態にされていることを特徴とする雨水浸透システム。
【請求項2】
雨水浸透マスが、上面にマス内部を臨む点検口を有するとともに、この点検口を水密に塞ぐ蓋を備えている請求項1に記載の雨水浸透システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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