説明

電位依存性カチオンチャネル抑制剤

【課題】優れた電位依存性カチオンチャネル阻害剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)


〔環Aは、飽和、一部不飽和又は完全な不飽和の6員環を示し、Xは、C=CH−R1(ここで、R1は炭素数1〜12のアルキル基を示す)、又はCR23(ここで、R2は炭素数1〜12のアルキル基を示し、R3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す)を示し、R4及びR5はそれぞれ同一又は異なって水素原子又は水酸基を示す。〕で表されるフタリド類縁体を有効成分とする電位依存性カチオンチャネル阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位依存性カチオンチャネル抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変化に起因する化学物質やハウスダスト等の外来刺激物質の増加によるアレルギー等の過敏症の増加や、自己の体臭や家庭における種々の生活臭を初めとする生活環境の臭気を嫌悪する傾向の高まり等、過敏な感覚に起因する日常の不快感が問題となっている。
【0003】
感覚は、皮膚感覚や深部感覚等の体性感覚、内臓痛等の内臓感覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚等の特殊感覚に分類することができる。感覚の情報は、例えば、皮膚の各種受容器、筋紡錘、網膜、嗅粘膜、味蕾、蝸牛の有毛細胞等の末梢の感覚受容器等によって受容され、知覚感覚において神経インパルスに変換された後、電気信号として中枢まで伝達される。
【0004】
例えば、痛覚は、皮膚の自由神経終末で受容される侵害刺激(温度刺激、化学刺激、機械刺激)によって惹起される。自由神経終末には、各々の刺激に感受性のイオンチャネルが存在しており、刺激を受けた場合、これらのイオンチャネルが開口することでカチオンチャネルが細胞内に流入し、結果として電位依存性カチオンチャネルが活性化されて、神経の活動電位(インパルス)が発生する(非特許文献1)。また、かゆみを起こす刺激としては、機械刺激、熱刺激、電気刺激等の物理的刺激と、起痒物質等の化学的刺激とが知られている。これらの刺激は、主として真皮内のマスト細胞からヒスタミンを放出させ、放出されたヒスタミンは自由神経終末上の受容体と結合してカルシウムイオンの流入を引き起こし、最終的に神経の活動電位を発生させると考えられている(非特許文献2)。
【0005】
同様に、他の何れの感覚の発生にも、情報は、最終的には、神経細胞の電位依存性カチオンチャネルの活性化によって発生する活動電位の形態で中枢に伝達される。電位依存性カチオンチャネルは更に、こうした活動電位の発生や伝導だけでなく、シナプス間隙や神経筋終末への神経伝達物質の放出にも関与している。
【0006】
従って、電位依存性カチオンチャネルの活性化を阻害すれば、感覚を刺激することが可能である。実際、電位依存性カチオンチャネル阻害剤を利用して感覚を抑制させる方法は、従来から医療現場等で使用されている。例えば、局所麻酔剤や抗不整脈薬として使用されるリドカイン(例えばキロシカイン(登録商標))は、電位依存性ナトリウムチャネル阻害剤である。電位依存性カルシウムチャネル阻害剤であるガバペンチン(例えば、ガバペン(登録商標)、ニューロンチン(登録商標))、は抗痙攣剤或いは鎮痛補助薬として使用されている。たま、電位依存性カルシウムチャネル又はナトリウムチャネルのインヒビター(例えば、バラパミル)が、外的攻撃に対する皮膚の耐性閾値を増加させ、皮膚の過敏症に適用できることが報告されている(特許文献1)。
【0007】
知覚神経の電位依存性カチオンチャネルを阻害することによって、医療目的での感覚抑制効果が得られるだけでなく、日常感じる過敏な感覚又は不快な感覚を抑制又は調整することにより、生活の質を改善することができる可能性がある。
【0008】
ところで、フタリド類縁体は、広く感熱記録材料用色素に使用されているが、このなかには、抗炎症性障害治療化合物(特許文献2)や腫瘍性薬の感受性増強化合物(特許文献3)等の薬理作用を有するものが知られている。また、斯様なフタリド類縁体の製造方法は、例えば、特許文献4及び5や非特許文献3〜6に開示されている。
【0009】
しかしながら、フタリド類縁体に電位依存性チャネル阻害作用があることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2002−505268号公報
【特許文献2】特表2008−542226号公報
【特許文献3】特表2009−511436号公報
【特許文献4】特開平07−206843号公報
【特許文献5】特開平04−077480号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】富永真琴,(2006), 実験医学, vol.24, No.15: 54-59
【非特許文献2】豊田雅彦,(2004), 綜合臨床、Vo.53, No.5: 1629-1636
【非特許文献3】Li, Shaobaiら, Lanzhou Daxue Xuebao, Ziran Kexueban (1990), 26(1), pp118-19
【非特許文献4】Ogawa, Yら,Heterocycles, (1991), 32(9), pp 1737-1744
【非特許文献5】Kobayashi, Mら,Chem pharm bull,(1987),35(4), pp 1427-1433
【非特許文献6】Cocker, Wら,Chemical Communications,(1965), 20, pp 479-80
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、感覚の抑制又は調整、或いは日常感じる過敏な感覚又は不快な感覚の低減に利用することができる電位依存性カチオンチャネル阻害剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、電位依存性チャネルを効果的に阻害し、感覚の抑制又は調整に利用し得る物質を探索した結果、下記式で表されるフタリド類縁体が、有効な電位依存性チャネル阻害効果が認められることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の1)〜5)に係るものである。
【0015】
1)下記式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
〔環Aは、飽和、一部不飽和又は完全な不飽和の6員環を示し、Xは、C=CH−R1(ここで、R1は炭素数1〜12のアルキル基を示す)、又はCR23(ここで、R2は炭素数1〜12のアルキル基を示し、R3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す)を示し、R4及びR5はそれぞれ同一又は異なって水素原子又は水酸基を示す。〕で表されるフタリド類縁体を有効成分とする電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【0018】
2)上記R1及びR2が炭素数3〜8の直鎖アルキル基である上記記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
3)上記R3が水素原子である上記記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
4)上記R4及びR5がそれぞれ水素原子であるか、もしくはそれぞれ水酸基である上記記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
5)上記フタリド類縁体が、3−ブチルフタリド、3−オクチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、セダノリド、センキュノリドH又はセンキュノリドIである上記記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤は、種々の感覚を効果的に抑制又は調整することで、医薬品の分野のみならず食品、化粧品、家庭用品等の分野においても有用であり、日常感じる過敏な感覚又は不快な感覚を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】試験物質による電位依存性カチオンチャネル活性抑制能の測定実験データを示す。
【図2】各フタリド類縁体の内向き電流抑制率を示す。
【図3】各フタリド類縁体の内向き電流抑制率を示す。
【図4】電位依存性カチオンチャネル阻害活性率とマスキングスコアとの相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
環Aとしては、例えば、ベンゼン環、シクロヘキサジエン環、シクロヘキセン環及びシクロヘキサン環が挙げられ、このうち、ベンゼン環及びシクロヘキセン環が好ましい。
【0022】
1及びR2で示される炭素数1〜12のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが包含されるが、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、更に炭素数2〜9の直鎖アルキル基が好ましい。当該R1及びR2で示されるアルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基及びネオペンチル基等が挙げられる。
このうち、直鎖のアルキル基が好ましく、より炭素数3〜8の直鎖アルキル基が好ましく、更にプロピル基及びブチル基が好ましい。
【0023】
また、R3で示される炭素数1〜5のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが包含される。当該R3で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基、イソペンチル基及びネオペンチル基等が挙げられる。
3が炭素数1〜5のアルキル基、好ましくは炭素数1〜4の直鎖アルキル基、より好ましくはメチル基の場合には、R2は、炭素数1〜8のアルキル基であるのが好ましく、このうち、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基及びイソペンチル基であるのが好ましい。
また、R3が水素原子の場合には、R2は、炭素数1〜8の直鎖アルキル基であるのが好ましく、より3〜8の直鎖アルキル基であるのが好ましく、更にブチル基であるのが好ましい。
3は、水素原子及び炭素数1〜4の直鎖アルキル基であるのが好ましく、より水素原子であるが好ましい。
【0024】
4及びR5は、それぞれ水素原子であるか、或いはそれぞれ水酸基であるのが好ましい。また、水酸基の立体配位はα配置又はβ配置のどちらでもよいが、何れか一方がα配置であり、他方がβ配置であるのが好ましい。
【0025】
尚、上記式(1)で表される化合物は、光学異性体を含むものであるが、いずれの異性体でも、ラセミ体でもよい。
【0026】
上記式(1)のうち、電位依存性チャネル阻害作用の点で、下記の化合物1〜6、8及び9が好ましく、化合物1〜6がより好ましく、化合物1〜3、6が更に好ましく、化合物1、2及び6がより更に好ましい。
【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
上記式(1)で表される化合物は、主に公知の化学合成によって製造できる(特許文献4〜5及び非特許文献3〜6)。例えば、非特許文献3に開示されているように、無水フタル酸、無水脂肪酸、NaOAcから縮合反応によりアルキリデンフタリド(例えば、化合物2)を得ることができ、さらにはアルキリデンフタリドをPd/Cを触媒として還元することによりアルキルフタリド(例えば、化合物1)を得ることができる。
また、上記式(1)で表される化合物は市販品として入手可能なものや植物から抽出・単離できるものもあるので、これを使用しても良い。
【0030】
1)式(1)〔環Aはベンゼン環、XはCR23(ここで、R3が水素原子)かつR4及びR5は水素原子〕の場合、無水フタル酸と無水脂肪酸、NaOAcから縮合反応により、3−アルキリデンフタリドを合成し、3−アルキリデンフタリドからPd/Cを触媒として還元することにより製造することができる(非特許文献3)。
【0031】
2)式(1)〔環Aはベンゼン環、XはCR23(ここで、R3がアルキル基)かつR4及びR5は水素原子〕の場合、無水フタル酸とグリニャール試薬により、もしくはアシル安息香酸とグリニャール試薬から製造することができる(特許文献4)。
【0032】
3)式(1)〔環Aはベンゼン環、XはC=CH−R1かつR4及びR5は水素原子〕の場合、無水フタル酸、無水脂肪酸、NaOAcから縮合反応により製造することができる(非特許文献3)。
【0033】
4)式(1)〔環Aはベンゼン環、XはCR23(ここで、R3が水素原子)かつR4及びR5は水酸基〕の場合、例えば、3−ブチル−6,7−ジメトキシフタリドから三臭化ホウ素によりメチル基を脱離し、3−ブチル−6,7−ジヒドロキシフタリドが製造できる(特許文献5)ので、これに準じて製造することができる。
【0034】
5)式(1)〔環Aはベンゼン環、XはC=CH−R1かつR4及びR5は水酸基〕の場合、例えば3−ブチリデン−6,7−ジメトキシフタリドから三臭化ホウ素によりメチル基を脱離し、3−ブチリデン−6,7−ジヒドロキシフタリドが製造できる(非特許文献4)ので、これに準じて製造することができる。
【0035】
6)式(1)〔環Aは一部不飽和の6員環、XはC=CH−R1かつR4及びR5は水酸基〕の場合、例えば、リグスチリドからm−クロロ過安息香酸により6,7−エポキシ体を合成し、6,7−エポキシ体から過塩素酸による加水分解により、センキュノリドH(化合物4a)が製造できる(非特許文献5)ので、これに準じて製造することができる。
【0036】
7)式(1)〔環Aは一部不飽和の6員環、XはCR23(ここで、R3が水素原子)かつR4及びR5は水酸基〕の場合、例えば、センキュノリドAからm−クロロ過安息香酸により、6,7−エポキシ体を合成し、6,7−エポキシ体から過塩素酸による加水分解により、センキュノリドJ(化合物5a)が製造できる(非特許文献5)ので、これに準じて製造することができる
【0037】
8)式(1)〔環Aは一部不飽和の6員環、XはCR23(ここで、R3が水素原子)かつR4及びR5は水素原子〕の場合、例えばペンタジオン酸エチルとアクロレインから Ethyl 2-formylcyclohex-5-enoateを合成し、Ethyl 2-formylcyclohex-5-enoateとBuMgBrを反応させクニジリドを、またクニジリドをAl2O3で処理することで、セダノリド(化合物6)が製造できる(非特許文献6)ので、これに準じて製造することができる
【0038】
尚、本発明による電位依存性カチオンチャネル阻害剤は、本発明の化合物のうち1種のみを含有するのでもよく、2種以上含有するのでもよい。
【0039】
後記実施例に示すように、本発明の化合物は、生体由来受容器細胞の電位依存性カチオンチャネルにより生じる電気的活動を抑制すること、言い換えれば、神経の活動電位の発生や伝達を抑制できること、すなわち電位依存性カチオンチャネル阻害作用を有することから、生物の種々の感覚を抑制又は調整するために用いることができる。例えば、皮膚末梢神経系のナトリウム又はカルシウムチャネル阻害は皮膚耐性閾値を増加させることができる(特許文献1)。後記実施例に示すように、電位依存性カチオンチャネル抑制率とマスキングスコア(不快臭)とに相関関係が認められることから、本発明の植物又はその抽出物は、不快臭のマスキングのために用いることもできる。
【0040】
ここに「皮膚耐性閾値」とは、この値を超えると皮膚は外部刺激に対し、知覚不全の兆候、すなわち皮膚領域における多かれ少なかれ痛みのある感覚、例えば刺痛、チクチクする痛み、痒み又は掻痒、火傷感、暖温感、不快感、激痛および/又は赤み又は紅斑等を伴った反応を起こすようになる皮膚の興奮性閾値を意味するものである。
【0041】
また、「外部刺激」とは、例えば界面活性剤や防腐剤、又は香料など刺激性を有する化合物、及び環境、食物、風、摩擦、シェービング、石鹸、カルシウム濃度の高い硬水、温度変化、毛糸などを意味するものである。
【0042】
ここで、本発明における電位依存性カチオンチャネル阻害とは、電位依存性カチオンチャネルからの細胞内へのイオンの流入を阻害することを云う。本発明において阻害される電位依存性カチオンチャネルとしては、電位依存性Na+チャネル、電位依存性K+チャネル、電位依存性Ca2+チャネルが挙げられる。このうち、電位依存性Ca2+チャネルは、更に、電気生理学的、薬理学的性質から、L−,N,P−,Q−,R−,及びT−typeに分類することができ、これらは何れも本発明の化合物の標的である。
【0043】
また、上記抑制又は調整される種々の感覚としては、皮膚や粘膜で受容される触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚、及び筋、腱や関節からの感覚を含む、体性感覚;臓器感覚及び内臓痛を含む内臓感覚;視覚、聴覚、味覚、嗅覚及び平衡感覚を含む特殊感覚;ならびに、その他の感覚(例えば、掻痒感、しびれ、神経痛、疼痛、その他不快感等)が挙げられる。 これらのあらゆる感覚は、電位依存性カチオン阻害物質により抑制、軽減又は改善され得る。又、これらの種々の感覚は、しばしば刺激への感受性が亢進し、嗅覚過敏、又は痛覚過敏(hyperalgesia)、異痛症(alodynia)、痒み過敏などの皮膚知覚過敏といった不快な症状を呈するが、電位依存性カチオンチャネルを阻害すれば、これらの症状のうち末梢知覚神経活動の亢進に起因する症状の予防、改善又は治療に利用できる。
【0044】
なお、皮膚痛覚過敏とは、痛みの感覚が亢進し、痛みとなる刺激をより強く感じる感覚異常のことを、異痛症とは通常では疼痛をもたらさない刺激でも全て疼痛として認識される感覚異常のことを、痒み過敏とは普段であれば痒みを感じない刺激に対しても痒みを感じる感覚異常のことをいう。
【0045】
よって、本発明の化合物は、電位依存性カチオンチャネル阻害剤、知覚過敏改善剤及びマスキング剤(以下、「電位依存性カチオンチャネル阻害剤等」とも云う)として使用することができ、また当該電位依存性カチオンチャネル阻害剤等を製造するために使用することができる。
【0046】
従って、本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤等は、電位依存性カチオンチャネル阻害、知覚過敏改善又はマスキングのための医薬品、医薬部外品、化粧品、ハウスケア製品、食品、機能性食品若しくは飼料等として、又はこれら医薬品等に配合するための素材又は製剤として有用である。
【0047】
本発明の化合物を含む医薬品、医薬部外品又はその他の組成物等としては、医学または獣医学分野で使用される麻酔剤、鎮静剤、鎮痛剤、鎮咳剤、抗炎症剤、過敏症やアレルギー反応などの過剰な感覚の抑制剤、痒み止め、ペインクリニック用医薬や介護や旅行で使用される吸引・点鼻による嗅覚抑制剤等の医薬品及び医薬部外品;抗カビ剤、液体タイプの衣料用抗菌仕上げ剤、衣料用洗剤、衣料用柔軟剤、衣料用漂白剤、住居用洗剤、排水口用洗剤、浴室用洗剤、トイレ用洗剤、トイレ用芳香防臭洗浄剤、洗濯機用洗剤、台所用洗浄剤、食器用洗浄剤、消臭剤等のハウスケア製品;皮膚過敏症抑制作用を有する入浴剤や化粧料、知覚過敏抑制作用を有する歯磨き粉やマウスウォッシュ等やウエットティッシュ、制汗剤、ふき取りシート等のボディケア製品等が挙げられる。
【0048】
本発明の化合物を含む医薬品、医薬部外品又はその他の組成物等としては、医学または獣医学分野で使用される麻酔剤、鎮静剤、鎮痛剤、鎮咳剤、抗炎症剤、過敏症やアレルギー反応などの過剰な感覚の抑制剤、痒み止め、ペインクリニック用医薬や介護や旅行で使用される吸引・点鼻による嗅覚抑制剤等の医薬品及び医薬部外品;抗カビ剤、液体タイプの衣料用抗菌仕上げ剤、衣料用洗剤、衣料用柔軟剤、衣料用漂白剤、住居用洗剤、排水口用洗剤、浴室用洗剤、トイレ用洗剤、トイレ用芳香防臭洗浄剤、洗濯機用洗剤、台所用洗浄剤、食器用洗浄剤、消臭剤等のハウスケア製品;皮膚過敏症抑制作用を有する入浴剤や化粧料、知覚過敏抑制作用を有する歯磨き粉やマウスウォッシュ等やウエットティッシュ、制汗剤、ふき取りシート等のボディケア製品等が挙げられる。
【0049】
本発明の化合物を含む医薬品、医薬部外品は、標的とする感覚、又は標的とする対象や身体部位等に応じて、任意の投与形態で投与することができる。標的とする感覚としては上述のとおりであり、標的とする対象や身体部位としては、例えば、生体、ならびに生体由来の組織、器官及び細胞が挙げられる。
【0050】
投与形態としては、経口投与及び非経口投与が挙げられる。経口投与のための剤型としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形投薬形態、あるいはエリキシル、シロップおよび懸濁液のような液体投薬形態が挙げられる。非経口投与のための経路としては、注射、輸液、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス等が挙げられ、剤型としては、錠剤、カプセル、液体、粉末、顆粒、軟膏、スプレー、ミスト、クリーム、乳液、ジェル、ペースト、ローション、パップ、プラスター、スティック、シート等が挙げられる。
【0051】
上記製剤には、本発明の化合物に、必要に応じて、任意の他の成分と組み合わせて使用されてもよい。好ましい他の成分としては、薬学的に許容される担体が挙げられる。薬学的に許容される担体の具体的な例としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤は、さらに、公知の他の薬効成分(例えば、他のイオンチャネル阻害剤、感覚抑制若しくは調整剤、抗炎症剤、殺菌剤等)と組み合わせて使用してもよい。
【0052】
医薬品、医薬部外品、その他の組成物等における本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤の配合量は、その使用形態や目的により異なるが、例えば感覚抑制に使用する場合、通常、0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0053】
また、本願発明を含む食品及び飼料等には、例えば、パン類、麺類、菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、澱粉加工製品、加工肉製品、その他加工食品、飲料、スープ類、調味料及び栄養補助食品等の食品;牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等の飼料等が挙げられる。
【0054】
上記食品や飼料には、本発明の化合物に、必要に応じて、任意の他の成分と組み合わせて使用されてもよい。好ましい他の成分としては、食品や飼料分野で許容される担体が挙げられる。当該許容される担体の具体的な例としては、溶剤、軟化剤、油脂、乳化剤、防腐剤、香料、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、ゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等が挙げられる。
【0055】
食品や飼料の形態としては、特に限定されないが、液状、半固体状、固体状の他、上記の経口投与製剤と同様の、錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、粉末剤、顆粒剤等の形態であってもよい。
【0056】
また、食品又は飼料中の、本発明化合物の含有量は、その使用形態により異なるが、乾燥物換算で、通常0.001〜50質量%であり、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
本発明化合物を医薬品として或いは医薬品に配合して使用する場合の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人1人当たりの1日の投与量は、通常、本発明化合物として、0.001〜100gが好ましい。また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日1回〜数回に分け、数週間〜数カ月間継続して投与するのが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例及び試験例を挙げるが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
〔フタリド類縁体〕
化合物1a:3−ブチルフタリド〔3-Butylphthalide:3‐ブチルイソベンゾフラン‐1(3H)‐オン〕S体(製造例は後述)
化合物1b:3−ブチルフタリド〔3-Butylphthalide:3‐ブチルイソベンゾフラン‐1(3H)‐オン〕R体(製造例は後述)
化合物2:3-ブチリデンフタリド〔3-Butylidenephthalide:3‐ブチリデンイソベンゾフラン‐1(3H)‐オン〕(購入先:和光純薬工業)
化合物3:3-オクチルフタリド〔3-Octylphthalide:3‐オクチルイソベンゾフラン‐1(3H)‐オン〕S体(購入先:花王)
化合物4a: センキュノリドH〔Senkyunolide H:(3Z,6S)‐3‐ブチリデン4,5,6,7‐テトラヒドロ‐6α,7α‐ジヒドロキシイソベンゾフラン‐1(3H)‐オン〕(製造例は後述)
化合物4b:センキュノリドI〔Senkyunolide I:(3Z,6S)‐3‐ブチリデン‐4,5,6,7‐テトラヒドロ‐6α,7β‐ジヒドロキシイソベンゾフラン‐1(3H)‐オン〕(製造例は後述)
化合物5a:センキュノリドJ〔Senkyunolide J:rel‐3α*‐ブチル‐4,5,6,7‐テトラヒドロ‐6α*,7β*‐ジヒドロキシ‐1(3H)‐イソベンゾフラノン〕(製造例は後述)
化合物5b:センキュノリドN〔Senkyunolide N:(3S)‐4,5,6,7‐テトラヒドロ‐6α,7β‐ジヒドロキシ‐3β‐ブチルイソベンゾフラン‐1(3H)‐オン〕(製造例は後述)
化合物6:セダノリド(ネオクニジリド)(製造例は後述)
化合物7:3,3−ジメチルフタリド(製造例は後述))
化合物8:3−メチル−3−エチルフタリド(製造例は後述)
化合物9:3−メチル−3−ヘキシルフタリド(製造例は後述)
化合物10:3,3−ジブチルフタリド(製造例は後述)
化合物11:3−メチル−3−オクチルフタリド(製造例は後述)
化合物12:3,3−ジイソペンチルフタリド(製造例は後述)
【0059】
製造例1:化合物1a、1bの製造
無水フタル酸60g、無水吉草酸79.3g、および酢酸ナトリウム21gの混合物を170℃で7時間加熱し、後処理後、減圧蒸留によりブチリデンフタリドを得た。このブチリデンフタリドをエタノールに溶解し、5%Pd/C(2g,5wt%)を加えて水素圧40atmで2時間水添を行い、ろ過後、減圧蒸留により3−ブチルフタリド39.6gを得た。得られた3−ブチルフタリドを光学分割カラム(Chiral Cell OB, ヘキサン:イソプロピルアルコール=9:1)で光学分割し、S体(1a)およびR体(1b)を得た。
【0060】
得られた化合物S体(1a)の1H NMRデータ(CDCl3)δ:0.87(t,3H,J=6.8Hz)、1.29-1.49(m,4H)、1.73(m,1H)、2.01(m,1H)、7.42(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)、7.49(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.64(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.85(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)/ [α]D:−71
得られた化合物R体(1b)の1H NMRデータ(CDCl3)δ:0.87(t,3H,J=6.8Hz)、1.29-1.49(m,4H)、1.73(m,1H)、2.01(m,1H)、7.42(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)、7.49(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.64(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.85(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)/ [α]D:+71
【0061】
製造例2:化合物4a、4b、5a、5bの製造
新和物産株式会社より入手した日本センキュウ(Cnidium officinale)200gを50vol%エタノール2Lで2週間室温抽出・ろ過し、抽出液1.8Lを得た。抽出液をロータリーエバポレーターで濃縮し、固形物約10gを得た。固形物10gを、山善ハイフラッシュカラム(インジェクトカラム:Lサイズ、メインカラム3Lサイズ、A:ヘキサン、B:酢酸エチル、0%B→100%B(400min)→100%B(500min)、10mL/min, 100mLずつ分画)にて中圧シリカゲルクロマトに供し、ジヒドロキシフタリドを含む画分(Fr.11以降、ブチルフタリドよりも高極性な画分)約1.5gを得た。ジヒドロキシフタリドを含む画分1.5gをODS−HPLC分画に供した(カラム:GL-Science,Inertsil-ODS, 10x250mm, A:Water, B:MeOH, 15B%→71%B(20min)→100%B(20.1min)→100%B(35min)→15%B(35.1min)→15%B(45min), 10mL/min, 40℃, UV280nm, 14.0〜21.5minまでを、0.5minずつ分画(5mL/Fr.), sample; 1.5g/1.8mL EtOHを100μLずつ、計18回繰り返し分取)。各画分から不純物の脂肪酸を活性アルミナで除去し、NMRスペクトルを測定した。文献値との比較から、センキュノリドJとNの1:1混合物がFr.5に(5mg)、センキュノリドIがFr.8〜9に(10mg)、センキュノリドHがFr.10〜11に(5mg)分離されたことを確認した。
【0062】
Fr.5の化合物(センキュノリドJとN混合物)の13C NMRデータ;(13.8, 13.8, 21.4, 21.8, 22.3, 22.4, 26.5, 26.7, 26.7, 27.0, 31.8, 31.8, 68.0, 68.6, 71.6, 71.9, 82.7, 82.8, 126.2, 126.3, 165.6, 165.8, 172.4, 172.5 ppm)
Fr.8〜9の化合物(センキュノリドI)の13C NMRデータ;(13.8, 19.1, 22.2, 26.6, 28.1, 67.8, 71.8, 114.7, 125.0, 147.9, 153.1, 169.2 ppm)
Fr.10〜11の化合物(センキュノリドH)の13C NMRデータ;(13.8, 18.2, 22.3, 25.7, 28.1, 63.5, 67.1, 114.6, 125.2, 148.2, 153.2, 169.4 ppm)
【0063】
製造例3:化合物6(セダノリド[ネオクニジリド])の製造
参考文献(Agric. biol. Chem., 51(12), pp 3369〜3373, 1987)に従い、(±)-1-hepten-3-olと2,4-pentadienoic acidから(S)−triene エステル体を合成し、触媒として4.4'-thiobis(2-tert-butyl-5-methylphenol)を用いてトルエン中で220℃・24時間加熱し分子内Diels-Alder反応させ、環化物を得た。その後、環化物を24時間、1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-eneとともにテトラヒドロフラン中で還流し、反応液中から主生成物をTLC分取(展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル=7:3)することで、化合物6(セダノリド[ネオクニジリド])を得た。
化合物6の13C NMRデータ;(13.7, 22.3, 26.7, 34.3, 81.3, 121.7, 125.5, 126.0, 128.9, 133.9, 150.0, 170.6 ppm)
【0064】
製造例4:化合物7〜12の製造
化合物7(3,3−ジメチルフタリド)の合成
窒素雰囲気下、500mL容量の4口フラスコ中、乾燥金属マグネシウム3.78g(155mmol)に乾燥ジエチルエーテルを20mL加えた。室温で乾燥ジエチルエーテル20mL中のヨウ化メチル21.1g(148mmol)を30分間で滴下し、室温で30分間攪拌後、乾燥THF80mL中の無水フタル酸10.0g(67.5mmol)を40分間で滴下した。この溶液を60℃で1.5時間攪拌した後、室温で濃塩酸を40mL加え、100℃で2時間攪拌した。この反応溶液を水150mLに注いだ後、有機相を分離後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用い、展開液にヘキサン/酢酸エチル(20/3)を使用し、3,3−ジメチルフタリドを6.3g(収率57.5%)得た。
【0065】
得られた化合物7の1H NMRデータ(CDCl3)δ:1.67(s,6H)、7.41(dd,1H,J=7.5,0.7Hz)、7.51(ddd,1H,J=7.5、7.5、0.7Hz)、7.67(ddd,1H,J=7.5、7.5、0.9Hz)、7.87(dd,1H,J=7.5、0.9Hz)
【0066】
化合物8(3−メチル−3−エチルフタリド)の合成
窒素雰囲気下、100mL容量の4口フラスコ中、乾燥金属マグネシウム0.34g(14.0mmol)に乾燥THFを5mL加えた。室温で乾燥THF10mL中の臭化エチル1.46g(13.4mmol)を10分間で滴下し、室温で10分間攪拌後、乾燥THF10mL中のo−アセチル安息香酸1.0g(6.09mmol)を10分間で滴下した。この溶液を60℃で1.5時間攪拌した後、室温で濃塩酸を10mL加え、100℃で2時間攪拌した。この反応溶液を水150mLに注いだ後、有機相を分離後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、濃縮した。残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、展開液にヘキサン/酢酸エチル(3/1)を使用し、3−メチル−3−エチルフタリドを0.86g(収率80.1%)得た。
【0067】
得られた化合物8の1H NMRデータ(CDCl3)δ:0.77(dt,3H,J=7.4,1.5Hz)、1.65(ds,3H,J=1.5Hz)、1.83-2.19(m,2H)、7.38(dd,1H,J=7.5、0.8Hz)、7.52(ddd,1H,J=7.5、7.4,0.8Hz)、7.68(ddd,1H,J=7.5、7.4,1.1Hz)、7.88(dd,1H,J=7.5、0.8Hz)
【0068】
化合物9(3−メチル−3−ヘキシルフタリド)の合成
窒素雰囲気下、200mL容量の4口フラスコ中、乾燥金属マグネシウム1.70g(69.9mmol)に乾燥THFを20mL加えた。室温で乾燥THF20mL中の臭化ヘキシル11.1g(67.0mmol)を10分間で滴下し、室温で10分間攪拌後、乾燥THF30mL中のo−アセチル安息香酸5.0g(30.5mmol)を10分間で滴下した。この溶液を60℃で2時間攪拌した後、室温で濃塩酸を20mL加え、100℃で1時間攪拌した。この反応溶液を水150mLに注いだ後、有機相を分離後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、濃縮した。副生成物として生じるヘキサノールを減圧蒸留で除き、残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、展開液にヘキサン/酢酸エチル(30/1)を使用し、3−メチル−3−ヘキシルフタリドを5.70g(収率80.4%)得た。
【0069】
得られた化合物9の1H NMRデータ(CDCl3)δ:0.83(t,3H,J=6.9Hz)、1.19-1.33(br,8H)、1.64(s,3H)、1.74-2.11(m,2H)、7.37(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)、7.50(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.67(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.67(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.87(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)
【0070】
化合物10(3,3−ジブチルフタリド)の合成
無水フタル酸1.48g(10mmol)のTHF溶液に、nBuMgCl試薬を3.22g(20mmol)滴下し、酸性化後、低沸成分を減圧蒸留で除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用い、展開液にヘキサン/酢酸エチル(30/1)を使用し、3,3−ジブチルフタリドを1.48g(収率60.2%)得た。
【0071】
得られた化合物10の1H NMRデータ(CDCl3)δ:0.85(t,6H,J=6.8Hz)、1.20-1.40(br,8H)、1.80-2.20(m,4H)、7.37(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)、7.50(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.67(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.87(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)
【0072】
化合物11(3−メチル−3−オクチルフタリド)の合成
窒素雰囲気下、200mL容量の4口フラスコ中、乾燥金属マグネシウム0.34g(14.0mmol)に乾燥THFを5mL加えた。室温で乾燥THF10mL中の臭化オクチル2.59g(13.4mmol)を10分間で滴下し、室温で10分間攪拌後、乾燥THF10mL中のo−アセチル安息香酸1.0g(6.09mmol)を10分間で滴下した。この溶液を60℃で1.5時間攪拌した後、室温で濃塩酸を10mL加え、100℃で2時間攪拌した。この反応溶液を水150mLに注いだ後、有機相を分離後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、濃縮した。副生成物として生じるオクタノールを減圧蒸留で除き、残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、展開液にヘキサン/酢酸エチル(30/1)を使用し、3−メチル−3−オクチルフタリドを1.32g(収率83.2%)得た。
【0073】
得られた化合物11の1H NMRデータ(CDCl3)δ:0.85(t,3H,J=6.8Hz)、1.20(br,12H)、1.64(s,3H)、1.74-2.09(m,2H)、7.37(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)、7.50(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.67(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.87(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)
【0074】
化合物12(3,3−ジイソペンチルフタリド)の合成
無水フタル酸1.48g(10mmol)のTHF溶液に、iPeMgCl試薬を3.86g(22mmol)滴下し、酸性化後、低沸成分を減圧蒸留で除去し、残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、展開液にヘキサン/酢酸エチル(30/1)を使用し、3,3−ジブチルフタリドを1.86g(収率67.9%)得た。
【0075】
得られた化合物12の1H NMRデータ(CDCl3)δ:0.72(m,2H)、0.78(d,6H,J=6.6Hz)、0.80(d,6H,J=6.6Hz)、1.13(m,2H)、1.43(m,2H)、1.85(m,2H)、2.04(m,2H)、7.31(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)、7.50(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.65(ddd,1H,J=7.5、7.5,1.0Hz)、7.86(dd,1H,J=7.5、1.0Hz)
【0076】
試験例1:電位依存性カチオンチャネル阻害効果確認試験
1.嗅細胞の単離
アカハライモリより公知の方法(Kurahashiら, J. Physiol. (1989), 419: 177-192)に従って嗅細胞を単離し、正常リンガー液に浸した。単離方法を簡単に示すと、氷水中で冬眠状態にしたイモリにダブルピスを施し、頭蓋を切開し嗅粘膜を取り出す。取り出した嗅粘膜を0.1%コラゲナーゼ溶液中で37℃にて5分間インキュベートし、コラゲナーゼを洗い流したあと、ガラスピペットにて組織を粉砕し細胞を単離した。正常リンガー液としては、NaCl 110mM、KCl 3.7 mM、CaCl2 3 mM、MgCl2 1 mM、グルコース 15 mM、ピルビン酸ナトリウム 1 mM、HEPES 10 mM、フェノールレッド 0.001%(w/v)、pH 7.4(NaOHで調整)を用いた。
【0077】
2.電気的活動の測定
〔A.設定〕 単離した嗅細胞を全細胞記録法により膜電位を固定し、膜電流の計測を行った(Kawaiら, J. Gen. Physiol. (1997), vol.109: 265-272)。電極は、ホウケイ酸ガラスキャピラリー(直径1.2mm)を用い、電極作成用プラー(P-97, SUTTER INSTRUMENT CO.)にて作製した(電極抵抗6.0MΩ前後)。電極内には、電極内溶液と銀塩化銀線を挿入し、銀塩化銀線はパッチクランプアンプ(EPC10, HEKA)と接続し、膜電位の固定、脱分極刺激を行った。
電極内溶液としては、CsCl 119 mM、HEPES 10 mM、CaCl2 1mM、EGTA 5mM、フェノールレッド 0.001%(w/v)、pH7.4(CsOHで調整)を用いた。
膜電流の記録は、パッチクランプアンプに接続したコンピュータ(IBM互換機)にて行い(Sampling frequency, 1kHz)、測定、解析にはPatch Masterソフトウェア(HEKA)を用いた。試験物質の添加(吹きかけ)には、圧力制御装置を用いた。
圧力制御装置とは、エアーコンプレッサーより送り込まれた圧縮空気を、コンピューター制御にて任意の圧力まで減圧し、設定した時間、その圧縮空気を、試験物質を充填したガラスピペット尾部へ送り込む装置である(Itoら、日本生理学雑誌, 1995,vol.57,127-133)。
【0078】
〔B.手順〕 試験物質(ブチルフタリド)による電位依存性カチオンチャネル活性への影響を調べるため、単離した嗅細胞の膜電位を−90mVに固定し、200ミリ秒間隔で20ミリ秒間、膜電位を−20mVへ脱分極させ、脱分極直後に生じる内向き電流のピーク強度(図1、|a|=〔脱分極直後に生じる内向き電流値〕−〔ベースライン値〕)を測定した。脱分極刺激を繰り返し続けながら、試験物質(2%溶液/溶媒:エタノール)を、正常リンガー液1mLあたり20または5μLの量で混合し、嗅細胞近傍(10μm)に先端が来るようにセットしたガラスピペット(先端口径1μm)を通じて吹きかけることにより(650ミリ秒間、圧力100kPa及び50kPa)嗅細胞に添加し、それに伴う内向き電流の変化(図1、|b|=〔ピーク強度が最も抑制されたときの内向き電流値〕−〔ベースライン値〕)を調べた。この吹きかけを5回連続して行った。さらに、エキス添加直前の脱分極によって生じた内向き電流のピーク強度(a)の平均値Aを、エキス添加直後の脱分極によって生じた内向き電流のピーク強度(b)の平均値Bを算出した。
【0079】
尚、試験中、稀に試験物質添加に伴い、嗅覚受容体が応答し、CNGチャネルに由来する内向き電流が観察される場合が起きるが、このようなケースは除外した。このケースは、試験物質が試験に用いた嗅細胞上の嗅覚受容体のアゴニストとして作用することにより生じたと考えられる。CNGチャネル電流は、その強度、ピーク形状、持続時間などから電位依存性チャネル電流と容易に区別することができる。
【0080】
ブチルフタリドを他のフタリド類縁体に代え、新たな嗅細胞を用いて、この測定を同様にして行った。
【0081】
〔D.結果〕 以下の式で、「B:ピーク強度が最も抑制されたときの内向き電流値(b)の平均値」及び「A:試験物質添加直前の脱分極直後に生じる内向き電流値(a)の平均値」から「内向き電流抑制率(%)」を算出し、この結果をもとに、各試験物質添加による電位依存性カチオンチャネルの電気的活動に対する抑制能を評価した。なお、内向き電流抑制率が高い成分ほど、電位依存性カチオンチャネル阻害効果が高いものとなる。
【0082】
内向き電流抑制率(%)=〔1−(A/B)〕×100
【0083】
各フタリド類縁体の内向き電流抑制率を図2及び3に示す。
【0084】
参考例:電位依存性チャネル阻害作用とマスキング効果との相関関係
図4及び表2に示すように、内向き電流抑制率(%)とマスキングスコアとに相関関係が認められたので、電位依存性カチオンチャネル阻害作用の強い成分は不快臭のマスキング素材として有用である。
【0085】
〔官能評価試験〕
官能評価の嗅覚マスキング試験をパネラー20名に対して実施した。悪臭物質として1%イソ吉草酸を、対照として悪臭に対する嗅覚感度低下効果が知られている1,8−シネオールを用いた。
悪臭2μLと、表2に示す0.1%濃度の評価化合物の試験溶液 4μLを別々の綿球(直径1cm)にしみこませ、別々の50mL注射筒内で12時間、室温で揮発させた。注射筒内で気化したイソ吉草酸と評価化合物をフタ付きのPP容器(容積500mL)内へ注入し、混和させた。
評価は、パネラー自身がPP容器のフタをわずかに開け、容器内の匂いを嗅ぎ、イソ吉草酸の匂いに対するマスキング強度を判定した。
マスキング強度の評価は、気化したイソ吉草酸のみを注入したPP容器内の臭気強度と比較し、以下の6段階のマスキングスコアにより行った。この結果を表2に示した。
【0086】
0:マスキングされていない
1:マスキング効果がごくわずかに認められる
2:マスキング効果がやや認められる
3:マスキング効果が十分認められる
4:ほとんどマスキングされている
5:完全にマスキングされている
【0087】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

〔環Aは、飽和、一部不飽和又は完全な不飽和の6員環を示し、Xは、C=CH−R1(ここで、R1は炭素数1〜12のアルキル基を示す)、又はCR23(ここで、R2は炭素数1〜12のアルキル基を示し、R3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す)を示し、R4及びR5はそれぞれ同一又は異なって水素原子又は水酸基を示す。〕で表されるフタリド類縁体を有効成分とする電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項2】
前記R1及びR2が炭素数3〜8の直鎖アルキル基である請求項1記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項3】
前記R3が水素原子である請求項1又は2記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項4】
前記R4及びR5がそれぞれ水素原子であるか、もしくはそれぞれ水酸基である請求項1〜3の何れか1項記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項5】
前記フタリド類縁体が、3−ブチルフタリド、3−オクチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、セダノリド、センキュノリドH又はセンキュノリドIである請求項1〜4の何れか1項記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−201818(P2011−201818A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71645(P2010−71645)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】