説明

電位測定電極及び電位測定方法

【課題】二重管構造などを有する防食対象を含めて、電気防食が施されて埋設された防食対象の防食電位をより正確に測定できる電位測定電極及び電位測定方法を提供すること。
【解決手段】電気防食が施されて埋設された鋼製の防食対象12の電位を測定する電位測定電極23を提供する。この電位測定電極23は、導電性材料を用いて形成され、中心部に穿設された孔と、上記防食対象12及び電圧計17の少なくとも一方に電気的に接続される1又は2以上の端子4A,4Bと、を有し、上記防食対象12が埋設された埋設環境12Aと接触するプローブ3と、上記プローブ3と絶縁し、上記プローブ3の孔を介して上記埋設環境12Aに面するように配置され、上記電圧計17に電気的に接続される端子4Cを有する照合電極5と、を有し、上記電圧計17により、上記埋設環境12Aを介した上記プローブ3と上記照合電極5との間の電位を測定可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気防食が施され埋設される鋼製の防食電位を測定する電位測定電極及び電位測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設される鋼製のパイプラインなどの構造物は、その構造物に腐食などが発生しないように、防食被覆が施されるだけでなく、電気防食が施されることが多い。例えばパイプラインが地中に埋設される場合、パイプラインを陰極として外部から直流電流を通じて、パイプラインの電位を、鋼材が腐食しない不活性域になるように負側(卑側)にシフトさせるようにする。この方法を「電気防食」といい、鋼材が腐食しない電位又は事実上腐食が無視できるときの電位を「防食電位」という。
【0003】
このような電気防食の施されている地下埋設された鋼製のパイプラインなどの維持管理においては、パイプラインの対地電位をモニタすることが重要である。つまり、この対地電位が防食電位に達していない場合、パイプラインに腐食が発生する可能性があるため、対地電位を測定することで、パイプラインの維持管理が行われている。
【0004】
より具体的には、鋼製のパイプラインに所定の間隔で設けられた電位測定用のターミナルケーブルを利用し、そのターミナルケーブルが埋設された地点の土壌中に、例えば、飽和硫酸銅電極などの「照合電極」を設置する。そして、この照合電極を基準とした土壌に対するパイプラインの電位を測定し、測定電位が防食電位より負側(卑側)であることを確認する作業が行われている。この際、「プローブ(模擬疵)」と呼ばれるパイプラインと同じ材質(例えば鋼材)の部材をパイプラインと電気的に接続し、かつ、土壌と接触させ、このプローブをパイプラインに発生した模擬的な損傷とみなし、そこに流入する防食電流や鋼材表面の電位を管理する手法が採られることが多い。この手法によれば、埋設鋼構造物(例えば地中に埋設された鋼材)の電気防食状態判断基準として、プローブ近傍の電位を照合電極で測定し、プローブの接触表面が完全防食領域に到達しているか否かを確認することができる。この手法は、有効性が確認されており、特許文献1又は特許文献2に示されるように、直流だけでなく交流で管理する手法も提案されている。
【0005】
ここで電気防食が十分に作用しているか否かの確認は、防食対象(例えば鋼材)表面の分極度合いを測定することが有効で、例えば、プローブに防食電流を通じているときの対地プローブ電位(以下「オン電位」ともいう。)、防食電流を遮断したときの対地プローブ電位(以下「オフ電位」ともいう。)、及びプローブに流入する電流の密度(以下電流を「プローブ電流」、その密度を「プローブ電流密度」ともいう。)などを測定して、分極状態の評価指標として使用している。
【0006】
【特許文献1】特開平10−332622号公報
【特許文献2】特開2004−80842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、例えば河川や道路などを横断する鋼製のパイプラインの施工では、安全面や社会経済活動への影響を考慮したり、橋梁にパイプラインを添架するか又は開削する作業は難しいことなどの理由により、推進工法を使用した二重管工法が採用されることが多い。河川や道路の両側に設けた立坑の一方の立坑の中から推進工法により、本管より径が大きい「ケーシング(鞘管)」(例えば、鋼管、ヒューム管など)を他方の立坑まで貫通させた後、その中に本管(パイプライン)を引き込み、ケーシングと本管との隙間には例えば砂やモルタルなどを充填する。そして、このケーシング内でも、本管に電気防食が作用するように施工が行われることが多い。
【0008】
このように施工されたケーシング内のパイプライン部分では、竣工以降、メンテナンスが殆ど不可能に近くなる。そこで、防食電位をモニタするために、上述の手法が採用されることが多い。つまり、維持管理の方法として、ケーシングと本管の隙間部分に、照合電極やプローブを単独あるいは組み合わせて配置される。そして、供用時にはこれらを使用し、オン電位、オフ電位及びプローブ電流や電流密度などを測定して、電気防食効果を監視することが一般的である。
【0009】
しかしながら、推進部の防食電流や電位分布は、ケーシングの干渉やケーシングと本管
の隙間部分が極めて狭隘であることから、開削して埋設した一般埋設部とは大いに相違するものと考えられている。また、一般的には、ケーシング(ケーシング22)と本管(パイプライン12)との隙間部分には照合電極(照合電極5)とプローブ(プローブ3)が接近して配置されている(図7参照。)が、物理的に制約されるため、特に、管対地オン電位については正確な情報が得られ難いと考えられている。そこで、パイプラインに沿って、工区中央部を含む複数箇所に照合電極とプローブとの対が配置され、各位置での電位が測定されている。しかしながら、実際には防食電位を測定できているのか否かすら不明であることも多い。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、二重管構造などを有する防食対象を含めて、電気防食が施されて埋設された鋼製の防食対象の防食電位をより正確に測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、電気防食が施されて埋設された鋼製の防食対象の電位を測定する電位測定電極であって、導電性材料を用いて形成され、中心部に穿設された孔と、上記防食対象及び電圧計の少なくとも一方に電気的に接続される1又は2以上の端子と、を有し、上記防食対象が埋設された埋設環境と接触するプローブと、上記プローブと絶縁し、上記プローブの孔を介して上記埋設環境に面するように配置され、上記電圧計に電気的に接続される端子を有する照合電極と、を有し、上記電圧計により、上記埋設環境を介した上記プローブと上記照合電極との間の電位を測定可能であることを特徴とする、電位測定電極が提供される。
【0012】
また、上記プローブは、上記孔が形成されたリング状のプローブ面で上記埋設環境と接触し、上記照合電極は、上記プローブ面よりも埋設して配置されてもよい。
【0013】
また、上記照合電極の中心軸は、上記プローブの孔の中心軸と一致してもよい。
【0014】
また、上記照合電極は、上記プローブの孔の中心軸上の部位が、他の部位よりも、上記埋設環境に面した方向に突出した形状を有してもよい。
【0015】
また、上記プローブは、円形又は正多角形のリング状に形成され、上記照合電極は、上記照合電極の上記埋設環境に面した部位の外周と、上記プローブのプローブ面におけるリング内面との間隔が一定となるような形状を有してもよい。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、電気防食が施されて埋設された鋼製の防食対象の電位を測定する電位測定方法であって、導電性材料を用いて形成され、中心部に形成された孔と、上記防食対象及び電圧計の少なくとも一方に電気的に接続される1又は2以上の端子と、を有し、上記防食対象が埋設された埋設環境と接触するプローブと、上記プローブと絶縁し、上記プローブの孔を介して上記埋設環境に面するように配置され、上記電圧計に電気的に接続される端子を有する照合電極と、を有する電位測定電極を、上記測定対象近傍の上記埋設環境に埋設し、上記電圧計により、上記埋設環境を介した上記プローブと上記照合電極との間の電位を測定することを特徴とする、電位測定方法が提供される。
【0017】
また、上記防食対象の少なくとも一部は、導電性のケーシングに覆われ、かつ、上記防食対象と上記ケーシングとの間には、防食電流が流れる充填材が充填されており、上記電位測定電極を、上記防食対象と上記ケーシングとの間の上記充填材中に配置してもよい。
【0018】
また、上記防食対象を覆うケーシングの端部から、上記防食対象と上記ケーシングとの間の間隔に応じた距離以上、上記防食対象と上記ケーシングとの間に入り込んだ位置に、上記電位測定電極を配置してもよい。
【0019】
また、上記防食対象と上記ケーシングとの間の間隔をDとした場合、上記防食対象を取囲む上記ケーシングの端部からD/tan30°以上、上記防食対象と上記ケーシングとの間に入り込んだ位置に、上記電位測定電極を配置してもよい。
【0020】
また、上記電位測定電極を、上記ケーシングの端部のそれぞれに配置してもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、二重管構造などを有する防食対象を含めて、電気防食が施されて埋設された防食対象の防食電位をより正確に測定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
本発明の各実施形態に係る電位測定電極等について説明する前に、本発明を完成するに当たり、本発明の発明者が電気防食について鋭意研究を行った結果明らかにした問題点などについて説明する。なお、以下では説明の便宜上、本発明の各実施形態に係る電位測定電極が電位を測定する対象(つまり防食対象)が、鋼製のパイプラインである場合について説明する。しかし、この電位を測定可能な防食対象は、パイプラインに限られるものではなく、本発明の各実施形態に係る電位測定電極等は、電気防食が施された防食対象であれば、様々な防食対象に適用可能である。
【0024】
通常のパイプライン運用時における分極状態の調査は、電気防食電源が運用されている状況での調査となり、測定電位はオン電位のみである。しかし、確実に防食状態を確認するには、防食電流を遮断した状態のオフ電位を確認することが有効である。そこで、防食状態を確認するために、定期的にパイプラインの維持管理項目として防食電流のオン・オフ時の電位を測定する作業が行われている。
【0025】
通常、埋設パイプラインの埋設環境は、近傍に何も導電性の大きな異物がない均一な土壌で満たされる。従って、図6に示すように、照合電極とプローブとの間の土壌が有する電気抵抗による電圧降下に起因する誤差(これを「IRドロップ」ともいう。)は、土壌抵抗の大きさにもよるがプローブと照合電極とを接近させれば問題とならないレベルにある(図6参照。)。つまり、防食電流による等電位面は、損傷部d(またはプローブ)を中止とした略球状に形成される。したがって、プローブと照合電極とをパイプライン12の近傍に配置し、両者を近接させることで、ほとんどIRドロップがないオフ電位とあまり変わらないオン電位を測定することができる。このような場合には、オン電位のみの測定でも防食状態の確認はできる。
【0026】
一方、図7に示すように、二重管構造部では、プローブ3及び照合電極5は、導電性のケーシング22とパイプライン12とにより囲まれた狭い空間に敷設される特殊な状況におかれる。すなわち、内外面に何も塗覆装されていない裸であるケーシング22は、良導体であり、その内側に塗覆装(防食被覆12A)で被覆されたパイプライン12が配置される構造となる。ここで、本発明の発明者の知見によれば、図8に示すように、内部のパイプライン12の塗覆装である防食被覆12Aに損傷部dがある場合、外部電源装置又は流電陽極で発生した防食電流の二重管部における伝導経路は、良導体であるケーシング22を優先的に流れ、損傷部dの近傍のケーシング22内壁よりケーシング22内面のモルタル21へ流出し、パイプライン12の塗覆装損傷部dへ流入することとなる。このためケーシング22内での防食電流分布は、図8に示すように、パイプライン12の防食被覆12Aの損傷部d付近のモルタル21でのみ非常に防食電流密度が高いという特徴がある。
【0027】
そこで、本発明の発明者は、この損傷部dに流入する防食電流密度を測定したところ、損傷部dの表面の法線に対して約60度の角度以内、すなわちπステラジアン内にほとんどの防食電流が集中し、その他の領域からの電流の流入は無視できるレベルであることを発見した。これは防食電流が、一旦ケーシング22に流れ込み、そのケーシング22からの経路が短くなるように損傷部dに流入することに起因するものと考えられる。また、防食電流の流路は、電気防食に使用される通電陽極がケーシング22の内にあるか外にあるかに関係なく同じであることが、本発明の発明者らの研究により明らかとなった。このような防食電流密度は、プローブ3による模擬疵の場合も同様であり、図7に示すように、プローブ3をパイプライン12の長手方向に併設すると、防食電流の伝導経路を大きく外れることになる。よって、二重管構造部内にプローブ3等を配置した場合は、通常の陸上埋設におけるプローブ運用法に比べ、モルタル21を流れる防食電流密度が非常に高くなり、モルタル21のもつ抵抗の影響が大きくなり、電位降下すなわちIRドロップが大きくなり、オン電位測定において大きな誤差要因となる。その結果、図7に示すように、プローブ3近傍でのパイプライン長手方向の電位分布の傾きが大きく、二重管構造における電位測定では問題となる。
【0028】
IRドロップを減少させるためには、プローブ3と照合電極5との間の距離を小さくしたり、照合電極5を防食電流の伝導経路内に配置することも考えられるが、照合電極5が防食電流の妨げてしまう。したがって、二重管内では一般埋設部と異なり、照合電極5とプローブ3を単純に接近させた対構造では、IRドロップが大きく、正確なオン電位を測定することはできない。
【0029】
さらに、二重管は低接地なため、直流や交流の迷走電流の通路になりやすい。そのため、プローブ電位は、この迷走電流の影響を受けることが多い。従って、二重管内のパイプライン12の防食状態は、迷走電流が流入しているときの電位で評価しなければならないが、IRドロップを完全に除去するオフ電位測定では、電流を遮断してしまうので迷走電流の影響を受けているときの電位変動が把握できない。よって、オフ電位測定ではパイプライン12が防食状態であるかどうかの判断は困難である。また、このような迷走電流やIRドロップ等の影響を測定するために、パイプライン12に沿った複数の測定点で電位測定が行われることもあるが、この場合、各測定点での測定値がバラバラで変動しており、防食電位が測定できているか否かすら疑わしい場合も多い。
【0030】
このように電圧の測定が困難であることから、最近ではプローブ電流による防食基準管理が行われている。しかしながら、図7に示すように、二重管内のプローブ3には、ケーシング22に防食電流や迷走電流が多く集まるので、一般土壌埋設箇所より多くの電流が流入しやすくなる。よって、二重管に対応したプローブ電流密度管理基準がなければならないが、今のところは一般土壌中のプローブ電流密度管理基準を適用しているので、正確な評価はできていない。
【0031】
また、プローブ3と照合電極5とからの測定リード線が長くなると、ケーシング22に流れる迷走電流が交流の場合には、電磁誘導の影響を大きく受け電位測定値や電流測定値に対して大きな誤差が加わり、正しい測定は不可能となる。
【0032】
また、二重管構造を施工する場合、引き込み前のパイプライン12にあらかじめ照合電極5とプローブ3とを対にして近接固定した後、照合電極5とプローブ3との位置関係を保ちつつ、かつ照合電極5とプローブ3とから引き出されるケーブルを延伸しながらケーシング22内にパイプライン12の引き込み工事を行うことは難しく煩雑な作業となる。
【0033】
さらに、前述したように河川横断などには二重管工法が適用されることが多く、一旦パイプラインを敷設してしまうとその後のパイプラインのメンテナンスや電位計測手法の追加は不可能か、または膨大な工事費がかかるため、あらかじめ施工複数箇所にプローブおよび照合電極を設置する施工となる。しかし、これは設置数に伴う材料費用の増加や、それぞれの照合電極5、プローブ3から引き出されるケーブルの取り回しが取り付け箇所の増加とともに煩雑になり、施工の手間を増やしひいては施工コストの増加を招くこととなっていた。
【0034】
本発明の発明者は、防食電位測定について鋭意研究を行った結果、上記のような問題点等に想到した。そして、発明者らは、更に研究開発を重ねることにより、パイプライン12とケーシング22とで構成される二重管構造において、良導体で囲まれた狭い空間におけるプローブ電位測定に代表されるIRドロップによる計測誤差を低減し、オン電位測定で迷走電流の影響を受けた状態におけるパイプラインの電位を正確に測定でき、かつ、複数点における計測に関る施工の煩雑性やノイズ重畳の影響を排除することができる本発明を完成させた。以下、この本発明の一実施形態について詳しく説明する。
【0035】
<一実施形態に係る電位測定電極の構成>
図1A及び図1Bは、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23の構成について説明するための説明図である。図1Bは、図1A中のA−A線による断面図である。
【0036】
図1A及び図1Bに示すように、この電位測定電極23は、プローブ3と照合電極5とが一体に形成されたプローブ一体型照合電極である。電位測定電極23は、主に、プローブ3と照合電極5とを有する。そして、この電位測定電極23は、後述するように、防食対象(例えば鋼製のパイプライン12)が埋設される埋設環境中に、その防食対象に近接して配置される。従って、この電位測定電極23も、埋設環境に埋設されることになる。なお、ここでいう「埋設環境」とは、防食対象が埋設された際に、その防食対象の周囲の環境を意味し、より具体的には、防食対象が埋設され、防食対象に接触するモルタル、土壌などのような埋設対象を意味する。
【0037】
プローブ3は、中心部に貫通孔を有するリング状に形成される。図1Aでは、プローブ3が円形のリング状に形成された場合を示したが、プローブ3は、例えば多角形のリング状に形成されてもよい。プローブ3のリング状の面を、ここでは「プローブ面」ともいう。図1Aに示すようにこのプローブ面の中央には照合電極5が配置されるが、プローブ3は、この照合電極5と等間隔で、かつ、プローブ面(xy平面)内で、ある程度等方性を有することが好ましい。何故ならば、防食電流がプローブ3にはプローブ面内で等方的に流入する場合に、照合電極5との間の防食電位等をより正確に測定することが可能となるからである。よって、プローブ3の形状としては、図1Aに示すような円形のリング状か、正多角形のリング状であることが望ましい。
【0038】
電位測定電極23が埋設環境に埋設されると、このプローブ3は、一のプローブ面において、防食対象(例えばパイプライン12)が埋設される埋設環境に接触する。この際、プローブ3のプローブ面は、埋設環境に対して空隙がないように面接触されることが望ましい。ここでは、一のプローブ面の方向(貫通孔の貫通方向、z軸正の方向)を「測定方向」という。また、プローブ3は、端子4A及び端子4Bを有し、この端子4A及び端子4Bには、防食対象及び電圧計に電気的に接続可能なケーブルが接続される。なお、ここでは端子4Aが、防食対象に電気的に接続される端子であり、端子4Bが、電圧計に電気的に接続される端子である場合について説明する。しかしながら、もちろん端子4Aを防食対象に接続し、端子4Bを電圧計に接続することも可能である。また、プローブ3が1つの端子のみを有し、その端子に防食対象及び電圧計を接続することも可能であり、プルーブ3が3つ以上の端子を有することも可能である。
【0039】
このプローブ3の材質としては、理想的には防食対象と同一の材質が使用されることが望ましいが、防食対象の材質と自然電位がほぼ同程度とみなせる導電性の材質を使用することも可能である。各材質は、それぞれ固有の値の自然電位を有するため、このような材質を使用することにより、プローブ3は、本来防食管理対象とする防食対象と同じ自然電位を有することができ、真の損傷部dと等しい環境を形成することができ、防食対象に施された防食被覆の模擬疵としてより効果的に作用することができる。
【0040】
照合電極5は、電位測定電極23が埋設環境に埋設された場合に、プローブ3の貫通孔を介して埋設環境に面するような位置(接触してもよい。)に配置される。つまり、照合電極5は、貫通孔を介して測定方向で埋設環境と面することになる。この際、照合電極5の中心軸は、プローブ3の貫通孔の中心軸と一致することが好ましい。照合電極5がプローブ3の貫通孔に対して変心しないように配置することにより、電位測定電極23の測定精度を高めることができる。なお、ここでプローブ3の貫通孔の中心軸とは、貫通方向における貫通孔の中心軸を意味し、換言すれば、プローブ3のプローブ面中心に、そのプローブ面に立てた法線方向(z軸方向,測定方向)の軸を意味する。
【0041】
更にプローブ3側の照合電極5の形状は、プローブ3のリング内面との間の間隔が一定となるように設定される。つまり、図1Aに示すように、照合電極5の埋設環境に面した部位の外周と、プローブ面におけるリング内面との間隔は、一定となる。換言すれば、照合電極5とプローブ3とをz軸方向(貫通孔の穿設方向)に投影した場合、埋設環境に面する照合電極5の部位における外周と、プローブ3のリング内周との間の間隔は、一定となる。より具体的に、この照合電極5の形状について説明する。図1Aの場合、プローブ3には円形の貫通孔が形成されるため、照合電極5は、この貫通孔よりも一回り小さい径の円形状の断面を有する。照合電極5はプローブ3との間の電位が測定されるので、このように照合電極5とプローブ3との間の間隙を一定にすることにより、照合電極5とプローブ3との間の電位測定精度を向上させることができる。
【0042】
同様に精度を向上させるために、照合電極5は、図1Bに示すように、リング状のプローブ3の中心軸上の部位が、他の部位よりも、測定方向に突出した形状(例えば直円錐状)を有することが望ましい。つまり、照合電極5は、例えば、測定方向が尖った形状を有することになる。照合電極5がこのような形状を有することにより、プローブ3に流入した防食電流による等電位面は、プローブ3の外面に対する角度が垂直に近くなり、照合電極5とプローブ3との間の電位測定精度を更に向上させることができる。このようなプローブ3の形状としては、例えば、直円錐形、円柱形、多角錘形又は半球形が望ましく、図1Bでは、直円錐形とした場合を示している。直円錐形にした理由は、できるだけ電極表面積を大きくするためである。
【0043】
また、照合電極5は、プローブ3が埋設環境と接触するプローブ面よりも埋設された位置に配置される。つまり、プローブ面を見た場合、照合電極5は、プローブ面から奥まった位置に配置され、プローブ面と、照合電極5の測定方向の端部との間には段差が形成される。換言すれば、プローブ面と、照合電極5の測定方向の端部とによる凹部が形成される。電位測定電極23が埋設環境に埋設された場合、この凹部には、埋設環境が入り込み充填される。一方、この凹部には、充填材(例えば埋設環境と同じ材質のバックフィル材)が予め充填されてもよい。なお、照合電極5は、凹部に埋設環境が入り込む場合には、埋設環境に接触し、凹部には充填材が充填される場合には、埋設環境に面することになる。いずれにしても、照合電極5は、埋設環境に面し、直接的に、又は、充填材を介した間接的に、埋設環境に接することになる。この際、凹部には、空隙なく埋設対象又は充填材が充填されることが望ましい。
【0044】
後述するように、電位測定電極23は、図2Aに示すように、パイプライン12などの防食対象近傍に固定され、二重管構造内に配置された後、パイプライン12とケーシング22との間には、モルタル21のような充填材が充填される。従って、照合電極5を凹ませることにより、照合電極5が敷設時に損傷することを防止できる。また、照合電極5を凹ませて配置することにより、照合電極5をプローブ3に接近させたとしても、照合電極5が防食電流を妨げずに済む。
【0045】
また、照合電極5は、プローブ3と絶縁されて形成される。一方、照合電極5は、少なくとも1つの端子4Cを有し、この端子4Cには、電圧計に電気的に接続可能なケーブルが接続される。
【0046】
この照合電極5の材質としては、モルタル21中の照合電極としては、例えば、鉛、二酸化マンガンなどが挙げられ、長期にわたって使用可能な材質が使用されることが望ましい。しかし、照合電極5の材質は、これらの例に限定されず、例えば、照合電極5が設置される環境ごとに最適な照合電極を適用すればよい。他にも例えば、二重管の隙間の充填材が砂などの土壌の場合には、照合電極5として、パーマネント型の飽和硫酸銅電極を使用することも可能である。
【0047】
プローブ3及び照合電極5は、ハウジング1の測定方向の面に形成された溝に配置され、ボルトナットなどの固定手段によりハウジング1に固定される。ハウジング1は、絶縁性の材料で形成され、ハウジング1の溝とプローブ3との間には絶縁材6が充填される。その結果、プローブ3と照合電極5とは、互いに絶縁された状態を維持しつつ一体に形成される。そして、プローブ3は、測定方向(z軸正の方向)のプローブ面で埋設環境(充填材も含む。例えばモルタル21)に露出して直接接触し、照合電極5は、同じく測定方向で直接的又は間接的に埋設環境と接触する。
【0048】
また、ハウジング1の裏面にはハウジング裏面蓋2が形成されており、このハウジング裏面蓋2の内部において、プローブ3及び照合電極5が、端子4A〜4Cを介して測定ケーブル7内の複数のケーブルに接続される。より具体的には、測定ケーブル7中には、少なくとも3本のケーブル(プローブ電位測定ケーブル9,照合電極電位測定ケーブル10及びプローブ防食対象接続ケーブル11)が配置される。そして、プローブ電位測定ケーブル9がプローブ3の端子4Bに接続され、プローブ防食対象接続ケーブル11がプローブ3の端子4Aに接続され、照合電極電位測定ケーブル10が照合電極5の端子4Cに接続される。このような測定ケーブル7としては多芯のケーブルを使用することが、配線作業の労力軽減及び費用削減などの観点から望ましい。そして、測定ケーブル7は、ケーブルコネクタ8を介してハウジング1に固定され、電位測定電極23が配置された位置から、地上に配置された電位差計等まで配線される。
【0049】
また、電位測定電極23は、後述するように裏面が測定対象に当接して配置されることが望ましいが、この場合、電位測定電極23の裏面は、当接する測定対象の面に沿うような形状で形成されることが望ましい。
【0050】
以上、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23について説明した。
次に、この電位測定電極23が配置された状態について説明する。
【0051】
<一実施形態に係る電位測定電極の配置>
図2A及び図2Bは、本発明の一実施形態に係る電位測定電極の配置について説明するための説明図である。図2Bは、図2AにおけるB−B線での断面図を示している。図3は、本実施形態に係る電位測定電極が配置された場合の概略的な回路について説明するための説明図である。
【0052】
なお、ここでは本実施形態に係る電位測定電極23が電位を測定する防食対象が、例えば、二重管構造を有するパイプライン12は鋼製である場合について説明する。
【0053】
鋼製のパイプライン12には電気防食が施される。つまり、地中には通電陽極14が埋め込まれる。外部電源装置13は、その通電陽極14に接続された正側幹線ケーブル15と、パイプライン12に接続された負側幹線ケーブル16とを介して、パイプライン12の対地電位が負(卑)となるようにパイプライン12に直流電圧を印加する。従って外部電源装置13の稼働時には、防食電流20が通電陽極14からパイプライン12に供給されている。
【0054】
一方、パイプライン12は、例えば鋼管やヒューム管などの推進工法により施工されたケーシング22中に埋設される。ケーシング22は、防食対象を取囲む導電体の一例であり、例えば鋼材などの導電性材料で形成される。ケーシング22とパイプライン12との間には、充填材が充填される。つまり、二重管構造全体としては、地中に埋設されるが、防食対象であるパイプライン12を見た場合、パイプライン12は、この充填材に埋設されることになる。従って、この場合、パイプライン12の埋設環境は、充填材であると言える。また、この充填材としては、例えば、図2A及び図2Bに示すモルタル21や砂などが挙げられる。以下では、充填材としてモルタル21を使用した場合について説明する。
【0055】
電位測定電極23は、このモルタル21中に配置される。この際、電位測定電極23は、図1Bに示すz軸正の方向、つまり測定方向がケーシング22の内面に対向するように配置される。また、電位測定電極23は、パイプライン12の近傍に配置されるが、パイプライン12に当接して配置されることが望ましい。
【0056】
電位測定電極23のプローブ3と照合電極5とに接続された測定ケーブル7は、地上へと配線される。
【0057】
この測定ケーブル7中の複数のケーブル中、プローブ3に接続されたプローブ電位測定ケーブル9は、照合電極5に接続された照合電極電位測定ケーブル10に、電位差計17を介して接続される。従って、電位差計17は、プローブ3の照合電極5に対する電位を示し、この電位は、照合電極5がモルタル21中に配置されることから対モルタル電位を示すこととなる。
【0058】
一方、測定ケーブル7中の複数のケーブル中、プローブ3に接続された他のプローブ防食対象接続ケーブル11は、防食対象であるパイプライン12に接続されたパイプライン立ち上げケーブル24に、スイッチ19及び電流計18を介して接続される。従って、スイッチ19がオンされると、防食電流20の少なくとも一部は、地中を通りケーシング22に流れ込み、ケーシング22から電位測定電極23のプローブ3(模擬疵)に流れ込む。プローブ3に流れ込んだ防食電流20は、電流計18等を介してパイプライン12に流れ込み、その後電源13へと戻る。従って、電流計18は、模擬疵であるプローブ3を介してパイプライン12に流れ込む電流量を示し、この電流は、プローブ3に流入する防食電流20の一部を示すこととなる。
【0059】
従って、この電位測定電極23によれば、スイッチ19をオンにすると防食電流20がプローブ3に流入し、電位差計17でオン電位を測定することができる。また、スイッチ19をオフにした瞬間は、電位差計17でオフ電位を測定することができる。更に、スイッチ19オン時には、電流計18によってプローブ電流を測定することもできる。
【0060】
<一実施形態に係る電位測定電極による電位分布>
ここで図4を参照しつつ、このように配置された電位測定電極23よる二重管内の設置状況と電位分布について説明する。図4は、本発明の一実施形態に係る電位測定電極による電位分布について説明するための説明図である。
【0061】
なお、図4では、パイプライン12の材質としてSM(Structure Marine)材を使用し、プローブ3も同じSM材を使用し、ケーシング22は鋼製の管を使用した。そして、照合電極5としては、鉛を使用し、ハウジング1としては、塩化ビニールを使用し、絶縁材6としては、エポキシ系樹脂を使用した。照合電極5の外形は20mmとし、プローブ3の貫通孔内径は30mm、外径は50mmとして、パイプライン12が埋設される対象であるモルタル21に接するプローブ面の面積は12.6cmとした。このプローブ面がパイプライン12の表面から40mmの位置になるように、電位測定電極23を配置した。また、ケーシング22とパイプライン12との間の間隔Dは150mmとし、防食被覆12Aは薄いため図4では省略した。
【0062】
このようにケーシング22内に電位測定電極23を配置し、ケーシング22とプローブ3との間の電位差が1.0Vとなるように、外部電源装置13により直流電圧を印加した。その結果、電位測定電極23の周囲の電位分布(IRドロップの分布)を、図4に示している。
【0063】
その結果、本発明の発明者らは、二重管構造の場合、ケーシング22の内部のパイプライン12に接続されたプローブ3(模擬疵)を介して、パイプライン12が充填材であるモルタル21と接触した際に流入する防食電流の流入経路は、ケーシング22がない場合とは大きく異なることを解明した。
【0064】
すなわち、電気防食用の外部電源装置13の通電陽極14より供給される防食電流20は、土壌に広がる。ここでパイプライン12が河川横断部などに差し掛かり二重管構造となった場合、ケーシング22は、被覆のない裸材が適用されることが多いが、このケーシング22は、土壌に比べると非常に電気抵抗の低い良導体である。よって、防食電流は、優先的に鋼製ケーシング22を伝導することになる。この鋼製ケーシング22内部のパイプライン12(本管)にプローブ3が接続される場合、図4に示すように、防食電流20は、ケーシング22の内壁のプローブ3に最も近い部位からモルタル21に流出し、モルタル21を介してプローブ3に流入することとなる。
【0065】
ここでケーシング22とパイプライン12の間隙距離Dは、ここでは150mmと小さいため、ケーシング22からモルタル21を介してプローブ3に至る防食電流20の流域も、非常に狭いものとなる。本発明の発明者の実験及び解析によると、図4又は図8に示すように防食電流は、プローブ3のプローブ面に立てた法線(損傷部dであればその損傷部dに立てた法線)に対して約60度の角度内、即ちπステラジアン内に集中しており、他の領域からの電流入は、無視できるレベルであることが解明された。これにより、本発明の発明者は、二重管構造のような良導体に囲まれた狭い空間が延々とつながる構造における電気防食では、電流流入経路は、二重管施工部の中央部であろうと、端部であろうと、損傷部dの中心からπステラジアンの範囲を考慮すればよいことを解明した。つまり、損傷部dを起点として両側長手方向にはD/tan30°以内の距離(Dはケーシング22とパイプライン12との間隙距離)の電流分布が、プローブ3への流入電流のほとんどである。従って、このπステラジアンの範囲内から流入する防食電流と、その範囲内での対地電位を精度よく測定することができれば、パイプライン12の防食状態をモニタすることが可能となる。
【0066】
そこで、本発明の発明者は、上記のような知見により、二重管構造内部の防食監視において、プローブ3に流入する防食電流20及び対地電位を、プローブ3の中心からD/tan30°以内を対象として、鋭意研究を行った結果、上記の電位測定電極23等を発明した。
【0067】
図4に示すように、本実施形態に係る電位測定電極23では、照合電極5の電位は、プローブ3の電位から僅かなIRドロップしか含まないことがわかる。一方、パイプライン12の長手方向に照合電極を配置する場合には、照合電極をプローブ3に近接させたとしても、IRドロップは、非常に大きな値になることが判る。このことは、電位測定電極23がパイプライン12の対モルタル電位を正確に測定することができることを意味している。
【0068】
なお、このように正確な電位測定を行うために、電位測定電極23は、二重管施工範囲の開始端からD/tan30°以上二重管内部に入り込んだ位置に敷設されことが望ましい。また、このような電位測定電極23は、一個所に配置されれば十分な精度でパイプライン12全域を代表した電位を測定することができるが、更に好ましくはケーシング22の端部近傍に1つずつ配置されることが望ましい。つまり例えば、電位測定電極23は、ケーシング22が鋼管又はヒューム管などの鞘管の場合、その鞘管の両端に1つずつ配置されることが望ましい。
【0069】
<一実施形態に係る電位測定電極による効果の例>
以上、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23について説明した。
これに対して、従来から行われているように、二重管施工範囲の中央部から延々と測定ケーブル(測定ケーブル7等に相当)を引く場合には、施工性が悪いだけでなく、引き回した長いケーブルに誘導電流が生じやすく正確な防食電位が測れなかった。しかしながら、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23によれば、二重管施工範囲の開始端からD/tan30°以上二重管内部に入った位置に敷設されるだけで、そのプローブ電位が二重管施工区間全体を代表する防食状態を表すことができる。
【0070】
従って、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23によれば、従来誤差が大きく正確なオン電位等を測定できなかった環境、特に二重管構造内部のプローブ電位を、IRドロップが最小となるように測定することができる。従って、迷走電流がある状態でのパイプラインの防食状態の把握が可能となり、メンテナンスがほぼ不可能であった二重管部の電気防食管理を従来より確実に行うことができる。また、従来では、照合電極が推進施工部全域に配置されていたが、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23によれば、施工両端部において電位測定電極23を配置する定常部を特定する距離を算出することができる。従って、照合電極の配置個数を減少させて、施工コストを低減することができ、かつ、長尺にケーブルを引き回すことも無いため、ケーブルの費用を削減すると共に、ケーブルへの誘導ノイズを減少させることが可能である。
【0071】
また、本発明者が明らかにした防食電流の流路によれば、プローブ近傍は防食電流が集中して電位勾配が激しくなる。従って、従来のプローブと照合電極のように、それぞれ別体で形成される場合、照合電極がプローブと離れ、防食電流が集中して流れる経路から外れると、プローブと照合電極との間に、充填モルタル21のもつ抵抗率と防食電流密度とにより大きな電圧低下(すなわちIRドロップ)による大きな電位差が発生する。このような大きな電位差は、照合電極で測定できる真のプローブ電位と大きな差異を生じる原因となり、測定精度を低下させてしまう。しかしながら、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23によれば、照合電極5の位置及び形状が、防食電流20の集中する経路の中心であり、かつ、防食電流20の経路に影響を与えないように設定される。従って、電位測定電極23の電極構造によれば、プローブ3と照合電極5とを近接させIRドロップを極力抑えることが可能である。すなわち、図1Aに示した電位測定電極23の電極構造において、リング状のプローブ3のリング穴に、照合電極5を組み込む構造とし、かつ、リング形状のプローブ3と照合電極5とを同心円上に配置することで、プローブ3の表面及び照合電極5を点対称に配置でき、その結果、プローブ3の表面及び照合電極5の形状に起因する離隔アンバランスを極力抑えることが可能である。
【0072】
また、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23によれば、照合電極5は、先端を直円錐形を有して、リング状プローブ3の内空円筒空間に埋め込まれる。そして、照合電極5及びリング状プローブ3で構成される空間に埋設環境又は充填材などの防食電流媒体が充填される。従って、この電位測定電極23によれば、照合電極5の表面と埋設環境(モルタル21)とを密着させることができ、かつ、照合電極5形状の表面形状を、プローブ3に集まる防食電流20がつくる電位面分布形状に沿わせることができ、その結果、電位測定精度を更に向上させることができる。
【0073】
また、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23によれば、二重管施工区間の端部に配置することが可能であるため、最悪のケースでも開削により電極の設置部までの最小限の開削により修理、補修を行うことが可能となる。
【0074】
<一実施形態に係る電位測定電極による実施例>
次に、本発明の一実施形態に係る電位測定電極23の実施例について説明する。
この実施例では、上記<一実施形態に係る電位測定電極による電位分布>において説明した構成及び配置の電位測定電極23を用意した。そして、プローブ3の直近に微小な他の照合電極を配置し、この微少照合電極に対するプローブ3の電位V0を−1.0Vの一定電位になるように外部電源装置13を設定し、時間t=3秒程度の時点で、スイッチ19をオン状態にし、電流計18により電位測定電極23のプローブ3に流入する電流I(防食電流20の一部)を測定した。更に、スイッチ19をオン状態にしたまま、電位差計17により、照合電極5に対するパイプライン12(つまりプローブ3)の電位V1(オン電位)を測定した。更に、時間t=23秒程度の時点で、スイッチ19をオフ状態にし、その瞬間における照合電極5に対するパイプライン12(つまりプローブ3)の電位V1(オフ電位)も測定した。
【0075】
また、従来の電位測定と比較するために、プローブ3から、パイプライン12の長手方向に10mm離隔した位置に他の照合電極を配置し、この照合電極に対するプローブ3の電位V2をも測定した。この測定結果を図5に示す。
【0076】
図5に示すように、スイッチ19のONによってプローブ3に電流Iが流入するとともに、照合電極5に対するプローブ3の電位V1(実施例)は、自然電位(プローブに防食電流20の一部が流入しないときのプローブ電位)−0.75Vから徐々に負側に移行し、設定電位V0に近づいていく。それとともに、プローブ3に流入する電流Iは、徐々に減少していく。
【0077】
そして、最終的には、V1はV0とほぼ同じ電位となり、プローブ3に流入する電流Iはほぼ一定電流(「維持電流」ともいう。)となる。このV1とIが一定値になったとき、プローブ3、即ち、パイプライン12は、安定した電気防食状態になったと判断できる(図5ではプローブが安定した電気防食状態になる以前に、プローブ3に流入する電流IをOFFしている。)。
【0078】
一方、従来の照合電極によるプローブ電位V2(比較例)は、スイッチ19がONすると同時に−1.2Vの電位を示した。その後、プローブに流入する電流Iが減少するとともにV2も減少したが、常に、V2には大きなIRドロップが含まれており、スイッチ19をOFFした瞬間の電位からV2には100mV以上のIRドロップがあることが確認できる。
【0079】
他方、照合電極5に対するプローブ3の電位V1には、スイッチ19をOFFした瞬間の電位からV1にはIRドロップが極僅かな値でしかないことが確認できる。従って、電位測定電極23によってプローブ電位を測定すれば、IRドロップが非常に小さく、真のプローブ電位(IRドロップがない電位)に近似した電位を測定できる。
【0080】
このように、比較例として照合電極をプローブ端から10mmの極僅か離隔したところに配置して測定されたプローブ3の電位V2(従来電位測定法)では、大きなIRドロップを含む。従って、比較例のような電極では、本実施形態に係る照合電極5に対するプローブ電位V1のように「本来、プローブ電位は徐々に設定電位V0に近づく」といった「電気防食状態が安定に向かう様子」を把握できなかった。しかし、本実施形態に係る電位測定電極23では、照合電極5に対するプローブ電位V1とプローブに流入する電流Iを測定することができるので、明確に電気防食が安定状態に達したかどうかを確認することができる。
【0081】
以上、この電位測定電極23は、正確なオン電位の他、オフ電位、プローブ電流も正確に測定可能であり、更に、これまで確認できなかった電気防食が達成される様子(「陰分極」という。)も把握できるといった特長を有する。また、電位測定電極23は、従来の照合電極とプローブの組み合わせよりコンパクトで経済的なツールであることも判る。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
例えば、上記実施形態では、防食電位を測定する防食対象として、二重管工法により敷設された鋼製のパイプライン12を例に挙げて説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。本発明は、もちろん一般埋設のパイプライン12の防食電位を測定することも可能であり、防食対象もパイプライン12に限られない。本発明は、電気防食が施され、導電体(例えばケーシング22)に囲まれて敷設され、防食電流がその導電体から流入するような鋼製の防食対象に対して特に効果的かつ正確に電位を測定することができる。なお、ここでいう鋼には、例えば、普通鋼、ステンレス鋼・高張力鋼などの合成鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガン鋼など、様々な鋼が含まれる。
【0084】
また、上記実施形態では、プローブ3が中心部に貫通孔を有するリング状に形成された場合について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、プローブの中心部には、孔が穿設されてもよく、この孔は、貫通孔である必要はない。この場合、照合電極5は、穿設された孔の中に配置される。また、孔が穿設されるプローブの面は、孔が形成されることにより、リング状になる。従って、この場合、孔が穿設された面がリング面に相当し、孔の穿設方向が、上述の貫通方向(測定方向、z軸)に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1A】本発明の一実施形態に係る電位測定電極の構成について説明するための説明図である。
【図1B】同実施形態に係る電位測定電極の構成について説明するための説明図である。
【図2A】同実施形態に係る電位測定電極の配置について説明するための説明図である。
【図2B】同実施形態に係る電位測定電極の配置について説明するための説明図である。
【図3】同実施形態に係る電位測定電極が配置された場合の概略的な回路について説明するための説明図である。
【図4】同実施形態に係る電位測定電極による電位分布について説明するための説明図である。
【図5】同実施形態に係る電位測定電極の実施例について説明するための説明図である。
【図6】一重管構造のパイプラインに施された防食被覆に損傷が生じた場合の電位分布について説明するための説明図である。
【図7】二重管構造のパイプラインに配置されるプローブと照合電極について説明するための説明図である。
【図8】二重管構造のパイプラインに施された防食被覆に損傷が生じた場合の電位分布について説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0086】
1 ハウジング
2 ハウジング裏面蓋
3 プローブ
4A,4B,4C 端子
5 照合電極
6 絶縁材
7 測定ケーブル
8 ケーブルコネクタ
9 プローブ電位測定ケーブル
10 照合電極電位測定ケーブル
11 プローブ防食対象接続ケーブル
12 パイプライン
12A 防食被覆
13 外部電源装置
14 通電陽極
15 正側幹線ケーブル
16 負側幹線ケーブル
17 電位差計
18 電流計
19 スイッチ
20 防食電流
21 モルタル
22 ケーシング
23 電位測定電極
24 パイプライン立ち上げケーブル
I 防食電流の一部
V0 設定プローブ電位
V1 実施例によるプローブ電位
V2 比較例によるプローブ電位
d 損傷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気防食が施されて埋設された鋼製の防食対象の電位を測定する電位測定電極であって、
導電性材料を用いて形成され、中心部に穿設された孔と、前記防食対象及び電圧計の少なくとも一方に電気的に接続される1又は2以上の端子と、を有し、前記防食対象が埋設された埋設環境と接触するプローブと、
前記プローブと絶縁し、前記プローブの孔を介して前記埋設環境に面するように配置され、前記電圧計に電気的に接続される端子を有する照合電極と、
を有し、
前記電圧計により、前記埋設環境を介した前記プローブと前記照合電極との間の電位を測定可能であることを特徴とする、電位測定電極。
【請求項2】
前記プローブは、前記孔が形成されたリング状のプローブ面で前記埋設環境と接触し、
前記照合電極は、前記プローブ面よりも埋設して配置されることを特徴とする、請求項1に記載の電位測定電極。
【請求項3】
前記照合電極の中心軸は、前記プローブの孔の中心軸と一致することを特徴とする、請求項1又は2に記載の電位測定電極。
【請求項4】
前記照合電極は、前記プローブの孔の中心軸上の部位が、他の部位よりも、前記埋設環境に面した方向に突出した形状を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電位測定電極。
【請求項5】
前記プローブは、円形又は正多角形のリング状に形成され、
前記照合電極は、前記照合電極の前記埋設環境に面した部位の外周と、前記プローブのプローブ面におけるリング内面との間隔が一定となるような形状を有することを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の電位測定電極。
【請求項6】
電気防食が施されて埋設された鋼製の防食対象の電位を測定する電位測定方法であって、
導電性材料を用いて形成され、中心部に形成された孔と、前記防食対象及び電圧計の少なくとも一方に電気的に接続される1又は2以上の端子と、を有し、前記防食対象が埋設された埋設環境と接触するプローブと、前記プローブと絶縁し、前記プローブの孔を介して前記埋設環境に面するように配置され、前記電圧計に電気的に接続される端子を有する照合電極と、を有する電位測定電極を、前記測定対象近傍の前記埋設環境に埋設し、
前記電圧計により、前記埋設環境を介した前記プローブと前記照合電極との間の電位を測定することを特徴とする、電位測定方法。
【請求項7】
前記防食対象の少なくとも一部は、導電性のケーシングに覆われ、かつ、前記防食対象と前記ケーシングとの間には、防食電流が流れる充填材が充填されており、
前記電位測定電極を、前記防食対象と前記ケーシングとの間の前記充填材中に配置することを特徴とする、請求項6に記載の電位測定方法。
【請求項8】
前記防食対象を覆うケーシングの端部から、前記防食対象と前記ケーシングとの間の間隔に応じた距離以上、前記防食対象と前記ケーシングとの間に入り込んだ位置に、前記電位測定電極を配置することを特徴とする、請求項7に記載の電位測定方法。
【請求項9】
前記防食対象と前記ケーシングとの間の間隔をDとした場合、前記防食対象を取囲む前記ケーシングの端部からD/tan30°以上、前記防食対象と前記ケーシングとの間に入り込んだ位置に、前記電位測定電極を配置することを特徴とする、請求項8に記載の電位測定方法。
【請求項10】
前記電位測定電極を、前記ケーシングの端部のそれぞれに配置することを特徴とする、請求項8又は9に記載の電位測定方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−271036(P2009−271036A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124443(P2008−124443)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(500171811)日鉄パイプライン株式会社 (34)
【Fターム(参考)】