説明

電力ケーブルを修復し、そのアルミニウム導線コアの腐食を抑制する組成物および方法

アルコキシシラン組成物をケーブルに供給することによって、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルの絶縁耐力を強化し、ケーブルの中心のアルミニウム導線の腐食を防ぐ組成物および方法。一実施形態では、このアルコキシシラン組成物として、ジメチルジ(n−ブトキシ)シランが挙げられる。本発明の別の局面では、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルの絶縁耐力を強化する組成物が提供される。一実施形態では、この組成物は、ケーブル内で加水分解することができ、約100℃以下の温度で中心導線に対して非腐食性を示すアルコールを生成するアルコキシシランを含むアルコキシシラン組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、電力ケーブルならびに送電線の腐食(corrosion)を防ぐための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
一般的に、固体誘電体でシールドされた電気ケーブルには、半導体または絶縁体のストランドシールドで包まれた複数の銅ストランドまたはアルミニウムストランド、絶縁層および絶縁シールドが含まれる。このような設計の固体誘電体でシールドされたケーブルは耐用年数25〜40年を有することが知られている。場合によっては、ケーブルに水が侵入して絶縁層にミクロボイドが形成されてしまい、固体誘電体でシールドされたケーブルの寿命が短くなる。このミクロボイドは、絶縁層のいたるところで樹状に広がり、その腐食(collection)は水トリーと称されることもある。
【0003】
水およびイオンの存在下で高分子誘電体(絶縁体)に中〜高圧交流が印加されると、電気ケーブルの絶縁層内に水トリーが形成されることは知られている。水トリーが成長するにつれ、高分子の誘電特性を損ない、やがては絶縁層が機能しなくなる。大きな水トリーの多くは、欠陥部分または汚染部分で起こるが、汚染は水トリーが広がるための必須条件ではない。
【0004】
水またはイオンを取り除くことまたは最小限にすること、あるいは電圧ストレスを減らすことによって、水トリーの成長を排除または遅滞させることができる。別のアプローチでは、外部の流体供給源からケーブルのストランド間にある間隙へ誘電性強化流体を注入する必要がある。特許文献1では、そのようなアプローチの詳細な記載を提供している。この流体は、ケーブル内部で水と反応し、オリゴマー形成をして誘電性強化特性のある流体を形成する。オリゴマー化流体は、水トリー遅延剤として働き、別の有益な特性も提供する。
【0005】
誘電性強化流体を注入する場合、従来の流体ではケーブル内部で水と反応する過程でアルコールを生じてしまい、これが欠点の1つとなっている。一般に使用されている誘電性強化流体が、特定の条件下で、加水分解することにより生じるアルコールは、特定の条件下で時間が経過すると、ケーブルの中心のアルミニウム導線の腐食の原因を引き起こし得る。
【0006】
誘電性強化流体の使用によって電気ケーブルの改善には前進が見られたが、ケーブルの中心導線の腐食を生じ得ない改良された誘電性強化流体の存在が求められている。本発明はこの要求を満たすための研究であり、関連するさらなる利点を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,907,128号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルを修繕し、中心のアルミニウム芯(core)の腐食を防ぐための組成物および方法を提供する。
【0009】
一局面では、本発明は、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルの絶縁耐力を強化すると同時に、ケーブルの中心導線の腐食を防ぐ方法を提供する。一実施形態では、本方法には、導線の領域にある間隙ボイド空間(interstitial void volume)にアルコキシシラン組成物を供給する工程が含まれる。この組成物としては、ボイド空間内で加水分解することができ、ケーブル最高動作温度である約100℃までの温度、およびそれを超える温度で中心導線に対して非腐食性を示すアルコールを生成するアルコキシシランが挙げられる。
【0010】
本発明の別の局面では、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルの絶縁耐力を強化する組成物が提供される。一実施形態では、この組成物は、ケーブル内で加水分解することができ、約100℃以下の温度で中心導線に対して非腐食性を示すアルコールを生成するアルコキシシランを含むアルコキシシラン組成物である。一実施形態では、この組成物としてはジメチルジ(n−ブトキシ)シランが挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
本発明は、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルの絶縁耐力を強化すると同時に、ケーブルの中心導線の腐食を防ぐ組成物および方法を提供する。
【0012】
一局面では、本発明は、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルの絶縁耐力を強化する方法を提供する。固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルには、絶縁ジャケットで覆われた中心導線が含まれ、導線の領域に間隙ボイド空間が含まれる。本方法の一実施形態では、間隙ボイド空間にケーブルの絶縁耐力を強化するためのアルコキシシラン組成物が供給される。当技術分野では、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルに誘電性強化流体を導入するためのデバイスおよび方法が公知である。例えば、米国特許第5,907,128号では、外部の流体供給源からケーブルのストランド間にある間隙に誘電性強化流体を注入することが記載されている。米国特許第6,697,712号では、分散型ケーブル供給システムおよび稼働中のケーブルに誘電性強化流体を導入するための方法が記載されている。これらの特許および出願の各々は、参照によってそれら全体が組み込まれる。
【0013】
本方法では、アルコキシシラン組成物が、導線の領域にあるケーブルの間隙ボイド空間に供給される。アルコキシシラン組成物には、この空間内で加水分解することができ、アルコールを生成するアルコキシシランが含まれ、アルコキシシランとアルコールを含む加水分解生成物との混合物は、使用中に一部の電気ケーブルが達する温度である約100℃以下の温度で中心導線に対して非腐食性を示す。
【0014】
メタノールおよびエタノールは、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルを改善するために従来使用される誘電性強化流体(例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン)によって生成されるアルコールである。メタノールおよびエタノールを生成する誘電性強化流体は、ケーブルの絶縁耐力を強化するのに初めは都合よく有用であるが、これらの流体は、ケーブル系に存在し得る、或る種の環境下でケーブルに対して腐食性を示すアルコールを生成するため、そのような強化流体が使用されると、腐食の問題が生じ得、実際に既に生じている。これらのアルコールにより起こる腐食は、温度が上昇してアルコールの沸点に近づき、アルコールの反応が生じるようになるとさらに大きな問題となる。本発明の方法で有用なアルコキシシラン組成物には、ケーブルの標準作動範囲内の温度である約100℃以下で中心導線に対して腐食性を示すアルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)を生成するアルコキシシランは含まれない。
【0015】
一実施形態では、本発明の方法に有用なアルコキシシラン組成物には、
式:(RO)(RO)SiR
を有するジアルコキシシランが挙げられ、
およびRは、CおよびCアルキル基からなる群から独立して選択され;
およびRは、Cアルキル、Cアルキル、Cアルキル、フェニルおよびトリル基からなる群から独立して選択される。
【0016】
アルキル基には、n−ブチル、s−ブチルおよびi−ブチル基が含まれる。Cアルキル基には、n−ペンチル、s−ペンチルおよびi−ペンチル基が含まれる。
【0017】
一実施形態では、RおよびRは、n−ブチル基である。
【0018】
一実施形態では、RおよびRは、n−ペンチル基である。
【0019】
一実施形態では、RおよびRは、メチル基である。
【0020】
一実施形態では、RおよびRがn−ブチル基であり、RおよびRがメチル基である。
【0021】
一実施形態では、RおよびRがn−ペンチル基であり、RおよびRは、メチル基である。
【0022】
上述の通り、本発明の方法に有用なアルコキシシラン組成物としては、ジアルコキシシランが挙げられる。代表的なジアルコキシシラン類には、ジブトキシシラン類およびジペントキシシラン類が挙げられる。この組成物のアルコキシシランは、ケーブルのボイド空間内で加水分解性を示す。適切なジブトキシシラン類としては、ジ(n−ブトキシ)シラン類、ジ(s−ブトキシ)シラン類およびジ(i−ブトキシ)シラン類が挙げられる。適切なジペントキシシラン類としては、ジ(n−ペントキシ)シラン類、ジ(s−ブトキシ)シラン類およびジ(i−ブトキシ)シラン類が挙げられる。
【0023】
一実施形態では、本発明の方法に有用なアルコキシシランは、ジアルキルジアルコキシシランである。一実施形態では、ジアルキルジアルコキシシランは、ジアルキルジブトキシシランである。一実施形態では、ジアルキルジアルコキシシランは、ジアルキルジペントキシシランである。
【0024】
本発明の方法で有用な代表的なジアルキルジアルコキシシラン類としては、ジメチルジブトキシシラン類、ジエチルジブトキシシラン類、ジプロピルジブトキシシラン類、ジメチルジペントキシシラン類、ジエチルジペントキシシラン類およびジプロピルジペントキシシラン類が挙げられる。当然のことながら、ブトキシシラン類としては、n−ブトキシシラン類、s−ブトキシシラン類およびi−ブトキシシラン類であり得、ペントキシシラン類としては、n−ペントキシシラン類、s−ペントキシシラン類およびi−ペントキシシラン類であってよい。
【0025】
一実施形態では、アルコキシシランは、アリールジアルコキシシランである。代表的なアリールジアルコキシシラン類としては、フェニルメチルジブトキシシラン類、フェニルメチルジペントキシシラン類、ジフェニルジブトキシシラン類およびジフェニルジペントキシシラン類が挙げられる。当然のことながら、ブトキシシラン類としては、n−ブトキシシラン類、s−ブトキシシラン類およびi−ブトキシシラン類であり得、ペントキシシラン類としては、n−ペントキシシラン類、s−ペントキシシラン類およびi−ペントキシシラン類であってよい。
【0026】
一実施形態では、アルコキシシラン組成物としては、ジメチルジ(n−ブトキシ)シラン(DMDB)が挙げられる。一実施形態では、アルコキシシラン組成物としては、ジメチルジ(n−ペントキシ)シラン(DMDPt)が挙げられる。
【0027】
本発明で有用なアルコキシシラン類は、適切に反応性のあるシラン(例えば、ジメチルジクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン)を過剰なアルコール(例えば、ブタノールまたはペンタノール)で処理することによって作ることができる。蒸留によって過剰なアルコールを除去することにより、ジアルコキシシラン生成物が提供される。ジメチルジ(n−ブトキシ)シランは、市販されている(Geleste,Morristown,PA)。
【0028】
本発明の方法で有用なアルコキシシラン組成物には、ケーブルの間隙ボイド空間でアルコキシシランを水に対して反応性を示すようにする加水分解触媒をさらに含めることができる。これにより、アルコキシシランをさらに容易に加水分解性を示せるようになる。適切な触媒として、以下に限定されないが、テトラ(イソプロピル)チタネート(TiPT)が挙げられる。この触媒は、アルコキシシラン組成物中に組成物総重量に対して約0.1〜約0.3重量パーセントの量で存在する。
【0029】
一実施形態では、アルコキシシラン組成物には、色素がさらに含まれる。この色素は、作用性のない色素であり、余分なアルコキシシラン組成物がケーブルに供給されるのを視覚によって判断できるように組成物中に使用される。適切な色素としては、以下に限定されないが、Sun Belt Chemicals (Rock Hill, NC)から市販されているMorplasブルーが挙げられる。この色素は、アルコキシシラン組成物中に組成物総重量に対して約0.01〜約0.05重量パーセントの量で存在する。
【0030】
上述の通り、本発明の方法で有用なアルコキシシラン組成物としては、加水分解することができ、約100℃以下の温度で中心導線に対して非腐食性を示すアルコールを含む最終混合物を生成するアルコキシシランが挙げられる。本明細書で使用される用語「非腐食性」とは、導線の領域にある間隙ボイド空間に供給されるアルコキシシランの加水分解によって生成されるアルコールが固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルの中心導線に対する腐食作用を示さないことを指す。アルコキシシランと、或るケーブル環境において生じると合理的に予測される得る量でアルコキシシランの加水分解によって生成されるアルコールとの混合物に、研究室での腐食試験で腐食、点食、減少量、ガス発生または溶液の変色が観察されない特定の時間、特定の最大ケーブル作動温度でアルミニウム導線材が曝されるときに、当該アルコールが、特定の温度で「中心導線に対して非腐食性を示す」と判定される。
【0031】
アルコールが中心導線に対して非腐食性を示すかを判定する方法を実施例に記載する。実施例には、加水分解によってそれぞれメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールおよびn−ペンタノールを生成する、ジメチルジメトキシシラン(DMDM)、ジメチルジエトキシシラン(DMDE)、ジメチルジ(n−プロポキシ)シラン(DMDPr)、ジメチルジ(n−ブトキシ)シラン(DMDB)およびジメチルジ(n−ペントキシ)シラン(DMDPt)についての腐食試験方法および結果を記載する。
【0032】
この結果は、メタノールおよびエタノールの存在下ではアルミニウム導線に著しい腐食が生じ、n−プロパノールの存在下ではいくらかの腐食が生じ、n−ブタノールまたはn−ペンタノールの存在下では可測の腐食が起こらないということを明確に示している。
【0033】
この結果から、メタノール、エタノールおよびプロパノールが、100℃以下の温度でアルミニウム導線に対して腐食性を示すことがわかる。よって、加水分解して、メタノール、エタノールまたはプロパノールを生成するアルコキシシラン類は、使用条件下の電気ケーブルのアルミニウム導線に対して腐食性を示すことになる。
【0034】
上記結果から、n−ブタノールおよびn−ペンタノールは、100℃以下の温度でアルミニウム導線に対して腐食性を示さないこともわかる。よって、加水分解してn−ブタノールまたはn−ペンタノールを生成するアルコキシシラン類は、使用条件下の電気ケーブルのアルミニウム導線に対して腐食性を示さないことになる。
【0035】
別の局面では、本発明は、固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルの絶縁耐力を強化すると同時に、ケーブルの中心のアルミニウム導線の腐食を防ぐのに有用なアルコキシシラン組成物を提供する。このアルコキシシラン組成物としては、導線の領域にある間隙ボイド空間または高分子絶縁体内で加水分解することができ、約100℃以下の温度で中心導線に対して非腐食性を示すアルコールを生成するアルコキシシランが挙げられる。一実施形態では、アルコキシシランは、ジアルキルジアルコキシシランである。一実施形態では、アルコキシシランは、アリールジアルコキシシランである。
【0036】
適切なジアルキルジアルコキシシラン類としては、ジブトキシシラン類およびジペントキシシラン類が挙げられる。代表的なジブトキシシラン類としては、ジメチルジブトキシシラン類、ジエチルジブトキシシラン類およびジプロピルジブトキシシラン類が挙げられる。代表的なジアルキルジペントキシシラン類としては、ジメチルジペントキシシラン類、ジエチルジペントキシシラン類およびジプロピルジペントキシシラン類が挙げられる。当然のことながら、ブトキシシラン類としては、n−ブトキシシラン類、s−ブトキシシラン類およびi−ブトキシシラン類であってよく、ペントキシシラン類としては、n−ペントキシシラン類、s−ペントキシシラン類およびi−ペントキシシラン類であってよい。
【0037】
適切なアリールジアルコキシシラン類としては、フェニルメチルジブトキシシラン類、フェニルメチルジペントキシシラン類、ジフェニルジブトキシシランおよびジフェニルジペントキシシランが挙げられる。当然のことながら、ブトキシシラン類としては、n−ブトキシシラン類、s−ブトキシシラン類およびi−ブトキシシラン類であってよく、ペントキシシラン類としては、n−ペントキシシラン類、s−ペントキシシラン類およびi−ペントキシシラン類であってよい。
【0038】
本発明の方法で有用なアルコキシシラン組成物には、ケーブルの間隙ボイド空間でアルコキシシランを水に反応性を示すようにする加水分解触媒をさらに含めることができる。これにより、アルコキシシランをさらに容易に加水分解性を示せるようにする。適切な触媒としては、テトラ(イソプロピル)チタネート(TiPT)が挙げられる。
【0039】
一実施形態では、アルコキシシラン組成物には、色素がさらに含まれる。この色素は、作用性のない色素であり、余分なアルコキシシラン組成物がケーブルに供給されるのを視覚によって判定できるように組成物中に使用される。
【0040】
以下の実施例は、限定のためではなく、本発明を説明するために提供される。
【実施例】
【0041】
アルコキシシラン組成物に対する腐食試験方法および結果
本実施例では、アルコキシシラン流体による電気ケーブルの中心のアルミニウム導線の腐食について記載する。
【0042】
腐食の判定方法(導線腐食減少量)は以下の通りであった。
【0043】
ストランドの準備
現場劣化ケーブル(30アルミニウムストランド、150mmの導線)からストランドを、2インチ(+/−1 /16インチ)の長さに切った。ASTM G1に従って、ストランドを硝酸ですすぎ、次にストランドを乾かして試験の準備をした。次に、洗浄から2時間以内に、乾かしたストランドの重量を量り、試験用流体に浸した。
【0044】
流体の調製
試験用流体(アルコキシシラン)(150g)を汚れのない乾いた500mLのPYREX(登録商標)エルレンマイアーフラスコに加えた。TiPT触媒を試験用流体に加え、触媒濃度を0.2重量%にした。試験用流体および触媒の混合物を1分間かき混ぜ、しっかりと混合した。試験用流体および触媒の混合物にアルコール(5または10重量%)を加え、1分間かき混ぜ、混合した。
【0045】
試験手順
上記の通り準備したストランドを、試験流体、触媒およびアルコールの混合物を入れたフラスコに加え、ストランドを混合物に浸漬する。還流冷却器を組み込めるように改変された栓でフラスコにふたする。オイルバス内のオイルの液面をフラスコ内の流体の液面と合わせるようにしてオイルバスにフラスコを浸漬する。フラスコの内容物をオイルバスで100℃(または流体混合物の沸点が100℃未満の場合はその沸点)で250時間(1日8時間)加熱する。250時間の加熱後、ストランドをフラスコから取り除き、ASTM Glに従ってストランドを洗浄し、2時間以内に重量を量る。
【0046】
試験結果
上記の通り試験したストランドの量の減少を記録し、その結果を表1に示した。表の減少量の値は、3回(トリプリケート)の平均で表す。ジメチルジメトキシシラン(DMDM)(5%メタノール)およびジメチルジ(n−ペントキシ)シラン(DMDPt)は、繰返し測定(duplicate)で行った。表1において、「DMDM」はジメチルジメトキシシランを指し、「DMDE」はジメチルジエトキシシランを指し、「DMDPr」はジメチルジ(n−プロポキシ)シランを指し、「DMDB」はジメチルジ(n−ブトキシ)シランを指し、「DMDPt」はジメチルジ(n−ペントキシ)シランを指す。減少量/日は、合計の減少量に基づいて計算した。
【0047】
ジメチルジメトキシシラン(DMDM)およびジメチルジエトキシシラン(DMDE)は、商業的供給源(例えば、Dow Corning,Midland,MI;Geleste,Morristown,PA)から入手した。ジメチルジ(n−プロポキシ)シラン(DMDPr)およびジメチルジ(n−ペントキシ)シラン(DMDPt)は、上記の通りジメチルジクロロシランをそれぞれn−プロパノールおよびn−ペンタノールと反応させることによって調製した。ジメチルジ(n−ブトキシ)シラン(DMDB)は、Geleste,Morristown,PAから入手した。
【0048】
表1 アルコキシシラン流体に関する減少量の比較
【0049】
【表1】

*250時間経過前に実験を完了し取り除いた。
**2回の平均。
【0050】
表1で明確に示される通り、メタノールおよびエタノールの存在下ではアルミニウム導線に著しい腐食が生じ、n−プロパノールの存在下ではいくらかの腐食が生じ、n−ブタノールまたはn−ペンタノールの存在下では可測の腐食が起こっていない。
【0051】
この結果から、メタノール、エタノールおよびプロパノールは、100℃以下の温度でアルミニウム導線に対して腐食性を示すことがわかる。よって、加水分解してメタノールまたはエタノールを生成するアルコキシシラン類は、使用条件下の電気ケーブルのアルミニウム導線に対して腐食性を示すことになる。
【0052】
この結果から、n−ブタノールおよびn−ペンタノールは、100℃以下の温度でアルミニウム導線に対して腐食性を示さないこともわかる。よって、加水分解してn−ブタノールおよびn−ペンタノールを生成するアルコキシシラン類は、使用条件下の電気ケーブルのアルミニウム導線に対して腐食性を示さないことになる。
【0053】
例として実施形態を説明し、記載したが、当然のことながら本発明の精神および範囲を逸脱することなく、そのさまざまな変更が可能である。
【0054】
本発明の実施形態で請求する独占的所有権または利益は、以下の通り定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体誘電体でシールドされた稼働中の電気ケーブルの絶縁耐力を強化し、そして、絶縁ジャケットで覆われている中心導線の領域に間隙ボイド空間を有する該導線の腐食を防ぐ方法であって、該方法は:
アルコキシシランを含むアルコキシシラン組成物を該間隙ボイド空間に供給する工程を含み、ここで、該アルコキシシランは該空間で加水分解してアルコールを生成することができ、そして、該アルコールが、約100℃以下の温度で該中心導線に対して非腐食性を示す、方法。
【請求項2】
前記組成物が、加水分解触媒をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、作用性のない色素をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アルコールが、n−ブタノール、i−ブタノールおよびn−ペンタノールからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アルコキシシラン組成物が、ジアルコキシシランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ジアルコキシシランが、ジアルキルジアルコキシシランである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ジアルコキシシランが、下記式:
(RO)(RO)SiR
を有し、ここで、
およびRが、CおよびCアルキル基からなる群から独立して選択され;
およびRが、Cアルキル、Cアルキル、Cアルキル、フェニルおよびトリル基からなる群から独立して選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記Cアルキル基が、n−ブチル、s−ブチルおよびi−ブチル基からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記Cアルキル基が、n−ペンチル、s−ペンチルおよびi−ペンチル基からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
およびRが、n−ブチル基である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
およびRが、n−ペンチル基である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記ジアルコキシシランが、ジブトキシシランである、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記ジアルコキシシランが、ジアルキルジブトキシシランである、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記ジアルコキシシランが、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジブトキシシランおよびジプロピルジブトキシシランからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
前記ジアルコキシシランが、フェニルメチルジブトキシシランおよびジフェニルジブトキシシランからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
前記ジアルコキシシランが、ジメチルジ(n−ブトキシ)シランである、請求項5に記載の方法。
【請求項17】
前記ジアルコキシシランが、ジペントキシシランである、請求項5に記載の方法。
【請求項18】
前記ジアルコキシシランが、ジアルキルジペントキシシランである、請求項5に記載の方法。
【請求項19】
前記ジアルコキシシランが、ジメチルジペントキシシラン、ジエチルジペントキシシランおよびジプロピルジペントキシシランからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項20】
前記ジアルコキシシランが、フェニルメチルジペントキシシランおよびジフェニルジペントキシシランからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項21】
前記ジアルコキシシランが、ジメチルジ(n−ペントキシ)シランである、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2010−516034(P2010−516034A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545546(P2009−545546)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2007/086415
【国際公開番号】WO2008/088618
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(509195423)ユーティルエックス コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】