説明

電力伝送システム

【課題】車両充電設備用に好適な電力伝送システムの提供。
【解決手段】矩形波を出力するスイッチング素子SW1、SW2と、前記スイッチング素子SW1、SW2からの出力を伝送する電力伝送線路CAと、前記電力伝送路CAによって伝送された矩形波が入力される送電側磁気共鳴アンテナ部120と、を有する送電側システムと、電磁場を介して共鳴することにより、前記送電側磁気共鳴アンテナ部120から出力される電気エネルギーを受電する受電側磁気共鳴アンテナ部220を有する受電側システムと、からなる電力伝送システムにおいて、前記送電側磁気共鳴アンテナ部120には所定の容量を有するコンデンサC0が含まれるており、送電側磁気共鳴アンテナ部120のインダクタンスが50μH以上500μH以下であり、前記容量が200pF以上3000pF以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴方式の磁気共鳴アンテナが用いられるワイヤレス電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電源コードなどを用いることなく、ワイヤレスで電力(電気エネルギー)を伝送する技術の開発が盛んとなっている。ワイヤレスで電力を伝送する方式の中でも、特に注目されている技術として、磁気共鳴方式と呼ばれるものがある。この磁気共鳴方式は2007年にマサチューセッツ工科大学の研究グループが提案したものであり、これに関連する技術は、例えば、特許文献1(特表2009−501510号公報)に開示されている。
【0003】
磁気共鳴方式のワイヤレス電力伝送システムは、送電側磁気共鳴アンテナの共振周波数と、受電側磁気共鳴アンテナの共振周波数とを同一とすることで、送電側磁気共鳴アンテナから受電側磁気共鳴アンテナに対し、効率的にエネルギー伝達を行うものであり、電力伝送距離を数十cm〜数mとすることが可能であることが大きな特徴の一つである。
【0004】
ここで、従来のワイヤレス電力伝送システムの概略について説明する。図11は従来のワイヤレス電力伝送システムを説明する図であり、図11(A)は従来のワイヤレス電力伝送システムのシステム構成の概略を示す図である。従来のシステムにおいて、正弦波形の電圧が送電側励磁コイルに入力されると、電磁誘導によって送電側磁気共鳴アンテナが励磁される。このとき、送電側磁気共鳴アンテナと受電側磁気共鳴アンテナとが共鳴することによって、受電側磁気共鳴アンテナは送電側磁気共鳴アンテナから電気エネルギーを受け取る。受電側磁気共鳴アンテナの電気エネルギーは、電磁誘導で結合されている受電側励磁コイルを励磁し、受電側励磁コイルから取り出される電力が負荷などに供給されるようになっている。このような従来のシステムにおける正弦波形電圧の周波数は、数MHz〜数十MHzのオーダーである。
【特許文献1】特表2009−501510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した従来の電力伝送システムにおいては、送電側でコイルを励起するために、正弦波形電圧が用いられており、正弦波波形以外の電圧、例えば矩形波波形の電圧が用いられた場合は所定周波数以外の高調波成分が含まれているので、前記高調波成分が反射し、放射損となることでスイッチングロスが発生し、電力伝送効率が低下するという問題があった。図11(B)は、従来のワイヤレス電力伝送システムにおけるスイッチングロスを説明する図である。図11(B)において、実線が送電側回路の電流Iを、また、点線が送電側回路の電圧Vをそれぞれ示しており、図中、斜線部がスイッチングロスに相当するものである。従来のワイヤレス電力伝送システムは、前記正弦波波形を供給するには高周波増幅器を使用するので図11(B)の例に示すように電圧、電流波形がオーバーラップする期間はスイッチングロスとなる。したがって、従来の電力伝送システムでは、送電側のコイルを励起する段階で高周波増幅器での電力損失が生じ、更に電磁誘導結合による伝送損失とが生じるので、送電側から受電側への総合的な電力伝送効率を悪化させていた。
【0006】
高周波増幅器でのスイッチングロスを抑える為に、例えば、D級増幅器、E級増幅器、F
級増幅器などを利用することが考えられるが回路構成が複雑となり、製造コストが高くな
ってしまう欠点がある。
【0007】
更には、送電側励磁コイル、送電側磁気共鳴アンテナ、受電側磁気共鳴アンテナ、受電側励磁コイルと多段構成となるので系が複雑となり、各々のコイル(またはアンテナ)間の伝送特性を相互に考慮した上で総合的な電力伝送効率向上を計る設計を行うことが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、請求項1に係る発明は、直流電圧を交流電圧に変換して出力するスイッチング素子と、前記出力された交流電圧が入力される送電側磁気共鳴アンテナ部と、を有する送電側システムと、電磁場を介して前記送電側磁気共鳴アンテナ部と共鳴することにより、前記送電側磁気共鳴アンテナ部から出力される電気エネルギーを受電する受電側磁気共鳴アンテナ部と、を有する受電側システムと、からなることを特徴とする電力伝送システムにおいて、
前記送電側磁気共鳴アンテナ部には所定の誘導成分を有する第1インダクタと所定の容量
成分を有する第1キャパシタとで構成されており、送電側磁気共鳴アンテナ部の前記誘導成分は50μH以上500μH以下であり、前記容量成分が200pF以上3000pF以下であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電力伝送システムにおいて、送電側磁気共鳴アンテナ部と受電側磁気共鳴アンテナ部との間の結合係数kがk≦0.3を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電力伝送システムによれば、スイッチングロスを低減させることが可能となるので、電力伝送の効率悪化を抑制することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る電力伝送システムによれば、磁気共鳴アンテナ部のインダクタンスと容量が、最適となるようにされているので、車両充電設備用の電力伝送システムとして、適切なものを構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る電力伝送システムを車両充電設備に適用した例を示す図である。
【図2】受電側である車両、送電側である充電設備における制御シーケンス例を示す図である。
【図3】送電側である充電設備における充電ルーチンのフローチャートを示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る電力伝送システムにおける電力伝送部を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に係る電力伝送システムにおけるスイッチング素子のオンオフ制御を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る電力伝送システムにおける電圧・電流の関係を示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る電力伝送システムにおける電力伝送部を説明する図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る電力伝送システムにおけるスイッチング素子のオンオフ制御を示す図である。
【図9】送電側磁気共鳴アンテナ部にコンデンサを設けない場合の回路構成を説明する図である。
【図10】結合係数kと伝送効率との間の関係の測定結果を示す図である。
【図11】従来のワイヤレス電力伝送システムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施形態に係る電力伝送システムを車両充電設備に適用した例を示す図である。本発明の電力伝送システムは、例えば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などの車両への充電のためのシステムに用いるのに好適である。そこで、図1に示すような車両充電設備への適用例を用いて以下説明する。なお、本発明の電力伝送システムは、車両充電設備以外の電力伝送にももちろん用いることが可能である。
【0014】
図1において、一点鎖線の下側に示す構成が送電側システムであり、本例では車両充電設備となっている。一方、一点鎖線の上側に示す構成は受電側システムであり、本例では電気自動車などの車両となっている。上記のような送電側システムは、例えば、地中部に埋設されるような構成となっており、地中埋設された送電側システムの送電側磁気共鳴アンテナ部120に対して、車両を移動させて、車両に搭載される受電側磁気共鳴アンテナ部220を位置合わせした上で、電力の送受を行うようにする。車両の受電側磁気共鳴アンテナ部220は、車両の底面部に配されてなるものである。
【0015】
送電側システムにおいて、送電側主制御部100はCPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなどからなる汎用の情報処理部である。この送電側主制御部100は、図示されている送電側主制御部100と接続される各構成と協働するように動作する。
【0016】
スイッチング素子制御部110は、送電側主制御部100からの制御指令に基づいて、直列接続された2つのスイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2のオンオフ制御を行うものである。ここでは、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2として電界効果トランジスタを用いているが、その他の自己消弧型の半導体素子を用いることも可能である。スイッチング素子SW2のドレイン側には定電圧源が接続されており、一定の電圧Vddが印加されるようになっている。
【0017】
上記のようなスイッチング素子制御部110からの制御に基づいて、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2がオンオフを繰り返すことで、所定の周波数の矩形波がこれらスイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2の接続部Tから交流電圧として出力されるようになっている。スイッチング素子制御部110は制御を変更することで、周波数の異なる矩形波を出力させることができるようになっている。すなわち、スイッチング素子制御部110の制御によれば、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2の接続部Tから出力される矩形波は、所定の周波数域をスイープすることができるようになっている。なお、本実施形態においては、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2のスイッチングによって生成される矩形波の周波数の範囲は数100kHz〜数1000kHz程度である。なお、本実施形態では、定電圧源からの直流電圧を交流電圧として矩形波形の交流電圧を出力するように制御しているが、電圧を制御するのではなく、電流を制御するように構成しても良い。
【0018】
接続部Tから出力される矩形波は、電力伝送線路CAを経て、送電側磁気共鳴アンテナ部120に入力される。この送電側磁気共鳴アンテナ部120は、誘導性リアクタンス成分を有するコイル121(第1インダクタ)と容量性リアクタンス成分を有するコンデン
サ122(容量値:C0)(第1キャパシタ)とから構成されており、対向するようにし
て配置される車両搭載の受電側磁気共鳴アンテナ部220と共鳴することで、送電側磁気共鳴アンテナ部120から出力される電気エネルギーを受電側磁気共鳴アンテナ部220
に送ることができるようになっている。
【0019】
共振周波数検出部140は、伝送する電力の効率が最も高くなる周波数を検出し、検出した共振周波数データを、送電側主制御部100に送ることができるようにされている。電力電送効率は例えばVSWR計などを用いて反射電力が最小となる周波数を探索すれば良い。
【0020】
また、電力検出部130は、不図示の電圧検出部・電流検出部からの検出値を乗算することによって、送電側磁気共鳴アンテナ部120に投入されている電力値を検出することができるようになっている。
【0021】
また、通信部150は車両側の通信部270と無線通信を行い、車両との間でデータの送受を可能にする構成である。
【0022】
次に、車両側に設けられている受電側システムについて説明する。受電側システムにおいて、受電側磁気共鳴アンテナ部220は、送電側磁気共鳴アンテナ部120と共鳴することによって、送電側磁気共鳴アンテナ部120から出力される電気エネルギーを受電するものである。受電側磁気共鳴アンテナ部220にも、送電側磁気共鳴アンテナ部120と同様、誘導性リアクタンス成分を有するコイル221(第2インダクタ)と共に、容量性リアクタンスを有するコンデンサ222(容量値:C0)(第2キャパシタ)も含まれる構成となっている。
【0023】
受電側磁気共鳴アンテナ部220で受電された矩形波の交流電力は、整流器230において整流され、整流された電力は充電制御部235を通して蓄電池240に蓄電されるようになっている。充電制御部235は送電側主制御部100からの指令に基づいて蓄電池240に蓄電する電力の制御を実行する。
【0024】
図1に示すような系において、送電側磁気共鳴アンテナ部120の第1インダクタ(コイル121)と受電側磁気共鳴アンテナ部220の第2インダクタ(コイル221)は、同一の誘導成分を有するインダクタであり、送電側磁気共鳴アンテナ部120の第1キャパシタ(コンデンサ122)と受電側磁気共鳴アンテナ部220の第2キャパシタ(コンデンサ222)は、同一の容量成分を有するキャパシタにより構成する。
【0025】
このような系によれば、送電側磁気共鳴アンテナ部120は、第1インダクタ(コイル
121)と第1キャパシタ(コンデンサ122)の共振により発振し、受電側磁気共鳴ア
ンテナ部220は、第2インダクタ(コイル221)第2キャパシタ(コンデンサ222
)の共振により送電側磁気共鳴アンテナ部120から電気エネルギーを受電することとなる。
【0026】
受電側システムにおける、受電側主制御部200はCPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなどからなる汎用の情報処理部である。この受電側主制御部200は、図示されている受電側主制御部200と接続される各構成と協働するように動作する。
【0027】
例えば、受電側主制御部200には、蓄電池240から蓄電池の蓄電量に関するデータや、温度に関するデータなどが入力されることにより、蓄電池240を安全かつ効率的に運用するように管理することができるようになっている。また、受電側主制御部200からは、異常時などに蓄電池240の充放電を中止する指令を蓄電池240に出力する。
【0028】
インターフェイス部250は、車両の運転席部に設けられ、ユーザー(運転者)に対し
所定の情報などを提供したり、或いは、ユーザーからの操作・入力を受け付けたりするものであり、表示装置、ボタン類、タッチパネル、スピーカーなどで構成されるものである。ユーザーによる所定の操作が実行されると、インターフェイス部250から操作データとして受電側主制御部200に送られ処理される。また、ユーザーに所定の情報を提供する際には、受電側主制御部200からインターフェイス部250に対して、表示指示データが送信される。
【0029】
周辺監視部260は、送電側主制御部100と受電側主制御部200との間の空間Gを監視するための構成である。この空間Gは、本発明に係る電力伝送システムによって、電力が伝送される空間として利用されるので、例えば猫などの小動物が空間Gにいないことを確認する必要がある。周辺監視部260はこのよう目的で利用されるために、周辺監視部260としては撮像装置や赤外線センサなどを利用することができる。周辺監視部260で監視されたデータは、受電側主制御部200に入力され処理されるようになっている。周辺監視部260で、空間G内に何らかのオブジェクトが確認された場合には、電力伝送を中止したり、或いは、電力伝送を開始しないようにしたりすることができる。
【0030】
通信部270は、充電設備側の通信部150と無線通信を行い、充電設備側との間でデータの送受を可能にする構成である。
【0031】
次に、以上のように構成される車両充電設備に適用された電力伝送システムによって、電力伝送を行う際のシーケンスについて説明する。図2は受電側である車両、送電側である充電設備における典型的な制御シーケンス例を示す図である。
【0032】
ステップS11において、車両インターフェイス部250からユーザーが、蓄電池240への充電を行うような操作がなされると、この操作データは受電側主制御部200に送られることとなる。
【0033】
受電側主制御部200はこの操作データを受信すると、ステップS21では蓄電池240
の管理データから、充電設備側に要求する電力量を演算する。このような演算には、従来周知の適当な方法を適宜利用することができる。
【0034】
続く、ステップS22では周辺監視部260による空間Gの監視を開始する。また、ステップS23では、通信部270から充電設備側に充電の開始を要求するデータを送信する。このとき、要求する電力量などのデータを送信するようにしてもよい。
【0035】
充電設備側において、ステップS31で、通信部150から充電開始要求が受信されると、ステップS32で、充電ルーチンに対して充電開始指示を送る。この充電ルーチンについては、後で詳しく述べる。先の充電ルーチンが終了して、充電が完了すると、ステップS33で、充電終了報告を通信部150から車両側に送信する。
【0036】
ステップS24で、通信部270が充電終了報告を受信すると、ステップS25で周辺監視部260による監視を終了し、インターフェイス部250に対して、充電終了の旨を表示するために表示指示データを送信する。これを受けたインターフェイス部250は、充電が完了した旨を表示装置などに表示し、ユーザーに報知する。
【0037】
次に、上記の充電ルーチンについて説明する。図3は送電側システムである充電設備における充電ルーチンのフローチャートを示す図である。充電ルーチンは、前記充電開始指示があると、ステップS101におけるループを抜けてステップS102に進む。
【0038】
ステップS102においては、送電側磁気共鳴アンテナ部120からの出力が、最も低い出力となるように、定電圧源及びスイッチング素子制御部110を制御する。ステップS102では、仮の出力を行うようにする。
【0039】
続く、ステップS103では、電力検出部130によって、送電側磁気共鳴アンテナ部120からの出力の監視を開始する。ステップS104では、スイッチング素子制御部110を制御することで所定の周波数遷移幅で、矩形波出力の周波数スイープを実行し、共振周波数検出部140によって送受電に最適な周波数を選択する。
【0040】
次のステップS105において、送電側磁気共鳴アンテナ部120からの定格出力によって電力を送出する。このとき、電力検出部130からの値を参照するフィードバック制御を行うことで、1.5kw程度の出力を行う。
【0041】
ステップS106では、異常が検知されたか否かが判定される。このような異常としては、空間Gに異物が入り、急激なインピーダンス変動を、電力検出部130からの情報を基に検知することなどを挙げることができる。
【0042】
ステップS106で異常がなければ、判定はNOとなり、ステップS107に進み、充電が完了したか、又は、車両側などから充電終了の指示があったか否かが判定される。ステップS107における判定がNOであるときには、ステップS105に戻りループする。
【0043】
一方、ステップS106で異常が検知された場合には、ステップS109に進み、インターフェイス部250などにエラー表示を行い、ステップS110で異常終了処理を行い、ステップS311に進み、全処理を終了する。
【0044】
また、ステップS107で、充電が完了したか、又は、車両側などから充電終了の指示があったと判定された場合には、ステップS108に進み、電力検出部130による出力監視を終了して、ステップS311に進み、全処理を終了する。
【0045】
次に、スイッチング素子SW1、SW2を駆動して、矩形波を送電側磁気共鳴アンテナ部120に入力して、受電側磁気共鳴アンテナ部220と共振させることで、送電側システムから受電側システムに電力を供給することについてより詳しく説明する。図4は本発明の実施形態に係る電力伝送システムにおける電力伝送部を説明する図であり、電力伝送部の要部を抜き出し示したものである。また、図5は本発明の実施形態に係る電力伝送システムにおけるスイッチング素子のオンオフ制御のタイミングを示した図である。
【0046】
スイッチング素子SW2のドレイン側には定電圧源が接続されており、一定の電圧Vddが印加されており、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2に対して、図5に示すようなオンオフ制御が繰り返し行われることによって、接続部Tにおける電圧Vdは図6に示すものとなる。図6は本発明の実施形態に係る電力伝送システムにおける電圧・電流の関係を示す図である。また、スイッチング素子SW2を流れる電流Idも図6に示されている。
【0047】
図6に示す本発明に係る電力伝送システムの電圧・電流特性と、図11(B)に示す従来の電力伝送システムの電圧・電流特性とを比較すると分かるように、前者においては、電圧、電流波形がオーバーラップする期間が無いため、スイッチングロスが存在しないことが分かる。このように本発明に係る電力伝送システムによれば、スイッチングロスを低減させることが可能となるので、電力伝送の効率悪化を抑制することが可能となるのである。
【0048】
上記のように生成された矩形波電圧を、電力伝送路CAを介して、送電側磁気共鳴アンテナ部120に入力することで、対向するようにして配置される受電側磁気共鳴アンテナ部220との間で共振する。このような共振時することで、送電側磁気共鳴アンテナ部120から出力される電気エネルギーを受電側磁気共鳴アンテナ部220に効率的に送ることができるようになっている。また、このときの共振周波数は、送電側磁気共鳴アンテナ部120のインダクタンスをL,送電側磁気共鳴アンテナ部120と受電側磁気共鳴アンテナ部220と間の相互インダクタンスをLmとして、下式(1)のように表すことができる。
【0049】
【数1】

このような共振周波数としては、本実施形態においては数100kHz〜数1000kHz程度となるように各素子を選択し、かつ、送電側磁気共鳴アンテナ部120のQ値(共振回路の共振のピークの鋭さを表す値)が100以上となるように設定される。
【0050】
ここで、図5に示すようなスイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2のオンオフ制御においては、直列に接続されたスイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2が同時に導通して過大電流が流れ、素子が破壊しないように、図5に示すように、あるデッドタイムが設けられるようになっている。なお、このデッドタイムは、スイッチング素子の特性に依存して任意に設定される値である。
【0051】
また、図5に示す信号に基づいて駆動されるスイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2で生成される矩形波の周波数の範囲は、数100kHz〜数1000kHz程度である。また、本実施形態においては、送電側磁気共鳴アンテナ部120にコイル121と共にコンデンサCOを含ませることで、電力伝送路CAの距離Dをある程度長くして
も、T側においてインピーダンス整合器などの構成を設けることなく、効率よく電力を送電側磁気共鳴アンテナ部120に投入することが可能となる。
【0052】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。先の実施形態においてはスイッチング素子を2つ用いたハーフブリッジ方式のインバーター回路によって矩形波を生成していたが、他の実施形態においては、スイッチング素子を4つ用いたフルブリッジ方式のインバーター回路によって矩形波を生成する。
【0053】
図7は本発明の他の実施形態に係る電力伝送システムにおける電力伝送部を説明する図であり、図8は本発明の他の実施形態に係る電力伝送システムにおけるスイッチング素子のオンオフ制御を示す図である。
【0054】
本実施形態においては、直列接続されたスイッチング素子SW1とスイッチング素子SW4との間の接続部T1と、直列接続されたスイッチング素子SW2とスイッチング素子SW3との間の接続部T2とが、電力伝送路CAを介して、送電側磁気共鳴アンテナ部120に接続される構成となっており、図8に示すように、スイッチング素子SW1とスイッチング素子SW4がオンのとき、スイッチング素子SW2とスイッチング素子SW3がオフとされ、スイッチング素子SW1とスイッチング素子SW4がオフのとき、スイッチング素子SW2とスイッチング素子SW3がオンとされることで、接続部T1と接続部T2との間に矩形波の交流電圧を発生させる。
【0055】
以上のような他の実施形態に係る電力伝送システムを用いた電力伝送システムによっても、これまで説明した実施形態と同様の効果を享受することが可能となる。さらに、他の実施形態のようなフルブリッジ方式のインバーター回路によって送電側磁気共鳴アンテナ部120に対し電力を供給すると、供給電圧(Vdd)が同じである場合ハーフブリッジ方
式のものに比べてより大きな電力を供給することが可能となる。
【0056】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。これまでに説明した実施形態においては、接続部T側において、インピーダンスの調整を行う必要をなくすために、送電側磁気共鳴アンテナ部120にコイル121と共にコンデンサCOを含ませるような構成として
いたが、本発明はこれに限定されず、送電側磁気共鳴アンテナ部120をコイル121のみで構成するように構成することもできる。この場合、接続部T側において、何らかのインピーダンス調整を行うようにして、インバーター回路からの矩形波電圧の出力を、電力伝送路CAを介して送電側磁気共鳴アンテナ部120に入力するように構成する。
【0057】
図9は本発明の他の実施形態に係る電力伝送システムにおける電力伝送部の要部を抜き出し示したものであり、送電側磁気共鳴アンテナ部120にコンデンサを設けない場合の回路構成を説明する図である。
【0058】
図9(A)は、接続部T側において、容量C1のカップリングコンデンサを設けるようにして、送電側磁気共鳴アンテナ部120に入力するインピーダンスの調整を行うようにした例を示している。
【0059】
また、図9(B)は、接続部T側において、可変コンデンサC2と可変インダクタL2を用いたインピーダンス整合器を設けるようにして、送電側磁気共鳴アンテナ部120に入力するインピーダンスの調整を行うようにした例を示している。
【0060】
また、図9(C)は、接続部T側において、直列接続されたコイルL3とコンデンサC3と、並列接続されたコイルL4とコンデンサC4とからなるバンドバスフィルタを用いたインピーダンス整合器を設けるようにして、送電側磁気共鳴アンテナ部120に入力するインピーダンスの調整を行うようにした例を示している。
【0061】
以上のような他の実施形態に係る電力伝送システムを用いた電力伝送システムによっても、これまで説明した実施形態と同様の効果を享受することが可能である。
【0062】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。これまで説明したように、本発明に係る電力伝送システムにおいては、電力伝送効率を一定以上の水準とするために、送電側磁気共鳴アンテナ部120のQ値が100以上となるように設定される。また、利用される矩形波電圧の周波数は、数100kHz〜数1000kHz程度を想定している。
【0063】
また、本発明に係る電力伝送システムを、図1で説明した車両用の充電設備(送電システム)及び車両(受電システム)に適用することを考慮すると、送電側磁気共鳴アンテナ部120のインダクタンスを大きくすることには限界がある。また、同様に、コンデンサC0の容量値にも一定の限度を設ける必要がある。そこで、下式(2)によって求まるQ
値をインダクタンスL、容量C及び抵抗Rの値を変更して計算を行った。
【0064】
【数2】

以下、本発明に係る電力伝送システムで利用され得る周波数として、f=300[kHZ]、f=400[kHZ]、f=500[kHZ]の3つの周波数について計算を行っている。表1はf=300[kHZ]について、インダクタンスL、容量C及び抵抗Rを組み合わせてQ値を求めたものであり、表2はf=400[kHZ]について、インダクタンスL、容量C及び抵抗Rを組み合わせてQ値を求めたものであり、表3はf=500[kHZ]について、インダクタンスL、容量C及び抵抗Rを組み合わせてQ値を求めたものである。
【0065】
表1乃至表3において、点線で囲まれた部分におけるインダクタンスL、容量C及び抵抗Rが組み合わせによれば、車両充電設備用の電力伝送システムで用いる磁気共鳴アンテナ部として適当なものである。
【0066】
点線で囲まれた部分は以下を充足する。
・Q値が100以上であること。
・インダクタンスが50μH以上500μH以下であること。
・コンデンサC0の容量が200pF以上3000pF以下であること。
【0067】
このように本発明の他の実施形態に係る電力伝送システムでは、以上のように、送電側磁気共鳴アンテナ部120、受電側磁気共鳴アンテナ部220のインダクタンスが50μH以上500μH以下であり、コンデンサC0の容量が200pF以上3000pF以下
であるように設定されているので、車両充電設備用の電力伝送システムとして、適切なものを構築することが可能となる。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

次に、本発明に係る電力伝送システムにおいて、送電側の送電側磁気共鳴アンテナ部120と、車両に搭載される受電側磁気共鳴アンテナ部220との間の結合係数kが満たす
べき値の範囲について説明する。送電側磁気共鳴アンテナ部120と、受電側磁気共鳴アンテナ部220との位置関係をずらして、結合係数kを変化させたときの伝送効率の変化を測定した結果を図10に示す。これによれば、本発明に係る電力伝送システムにおいては、送電側磁気共鳴アンテナ部120と受電側磁気共鳴アンテナ部220との間の結合係数kは、k≦0.3の範囲でも十分な伝送効率を得られることがわかる。先にも説明したとおり、本発明に係る電力伝送システムにおいては、Q値が100以上であることが条件となっているので、結合係数kの値の範囲がk≦0.3であったとしても、磁気共鳴方式のワイヤレス電力伝送システムで要求されるkQ積の条件を十分にクリアすることが可能
である。
【符号の説明】
【0071】
100・・・送電側主制御部
110・・・スイッチング素子制御部
120・・・送電側磁気共鳴アンテナ部
121・・・コイル
122・・・コンデンサ
130・・・電力検出部
140・・・共振周波数検出部
150・・・通信部
200・・・受電側主制御部
220・・・受電側磁気共鳴アンテナ部
221・・・コイル
222・・・コンデンサ
230・・・整流器
235・・・充電制御部
240・・・蓄電池
250・・・インターフェイス部
260・・・周辺監視部
270・・・通信部
SW1、SW2、SW3、SW4・・・スイッチング素子
C0、C1、C2、C3、C4・・・コンデンサ
L2、L4・・・コイル
CA・・・電力伝送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を交流電圧に変換して出力するスイッチング素子と、
前記出力された交流電圧が入力される送電側磁気共鳴アンテナ部と、を有する送電側システムと、
電磁場を介して前記送電側磁気共鳴アンテナ部と共鳴することにより、前記送電側磁気共鳴アンテナ部から出力される電気エネルギーを受電する受電側磁気共鳴アンテナ部と、を有する受電側システムと、からなることを特徴とする電力伝送システムにおいて、
前記送電側磁気共鳴アンテナ部には所定の誘導成分を有する第1インダクタと所定の容量
成分を有する第1キャパシタとで構成されており、
送電側磁気共鳴アンテナ部の前記誘導成分は50μH以上500μH以下であり、
前記容量成分が200pF以上3000pF以下であることを特徴とする電力伝送システム。
【請求項2】
送電側磁気共鳴アンテナ部と受電側磁気共鳴アンテナ部との間の結合係数kがk≦0.3を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電力伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−110199(P2012−110199A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15877(P2011−15877)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】