説明

電力伝送システム

【課題】電力伝送時の最適な周波数を決定することができ、効率的な電力伝送を行うことが可能な電力伝送システムを提供する。
【解決手段】本発明の電力伝送システムは、直流電圧を所定の周波数の交流電圧に変換して出力するインバータ部130と、前記インバータ部130からの交流電圧が入力される送電アンテナ140と、前記インバータ部130によって出力される交流電圧の周波数を制御する送電制御部150と、を有し、前記送電アンテナ140から対向する受電アンテナに対して、電磁場を介して電気エネルギーを伝送する電力伝送システムであって、前記送電制御部150は、負荷側からみてアンテナ部が定電圧源として見える周波数を選定して電力伝送を行うように制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴方式の磁気共鳴アンテナが用いられるワイヤレス電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電源コードなどを用いることなく、ワイヤレスで電力(電気エネルギー)を伝送する技術の開発が盛んとなっている。ワイヤレスで電力を伝送する方式の中でも、特に注目されている技術として、磁気共鳴方式と呼ばれるものがある。この磁気共鳴方式は2007年にマサチューセッツ工科大学の研究グループが提案したものであり、これに関連する技術は、例えば、特許文献1(特表2009−501510号公報)に開示されている。
【0003】
磁気共鳴方式のワイヤレス電力伝送システムは、送電側アンテナの共振周波数と、受電側アンテナの共振周波数とを同一とすることで、送電側アンテナから受電側アンテナに対し、効率的にエネルギー伝達を行うものであり、電力伝送距離を数十cm〜数mとすることが可能であることが大きな特徴の一つである。
【0004】
上記のような磁気共鳴方式のワイヤレス電力伝送システムにおいて、例えば、一方のアンテナが電気自動車のような移動体に搭載される場合には、電力伝送を行うたびに、アンテナ間の配置が変化するので、最適な電力伝送効率を与える周波数がこれに伴い変化することとなる。そこで、電力伝送を行う前段に、周波数をスイープして、本番の電力伝送時の最適周波数を決定する技術が提案されている。例えば、特許文献1(特開2010−68657号公報)に、所定周波数の交流電力を出力する交流電力出力手段と、第1共鳴コイル、及び該第1共鳴コイルと対向配置された第2共鳴コイルとを有し、前記交流電力出力手段より出力される交流電力を前記第1共鳴コイルに出力し、共鳴現象により非接触で前記交流電力を前記第2共鳴コイルに送信するワイヤレス電力送信装置において、前記第1共鳴コイルの共鳴周波数、及び前記第2共鳴コイルの共鳴周波数をそれぞれ測定し、前記交流電力出力手段より出力する交流電力の周波数を、前記各共鳴周波数の中間周波数に設定する周波数設定手段を備えることを特徴とするワイヤレス電力送信装置が開示されている。
【特許文献1】特表2009−501510号公報
【特許文献2】特開2010−68657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、伝送効率の極値を与える周波数付近において、受信アンテナが定電流源に動作する周波数と定電圧源として動作する周波数が存在している。定電流源として動作する周波数を使用した場合、負荷側の理由により緊急停止が起きた場合に受信アンテナ端部の電圧が高圧になってしまう問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、請求項1に係る発明は、直流電圧を所定の周波数の交流電圧に変換して出力するインバータ部と、前記インバータ部からの交流電圧が入力される送電アンテナと、前記インバータ部によって出力される交流電圧の周波数を制御する制御部と、を有し、前記送電アンテナから対向する受電アンテナ210に対して、電磁場を介して電気エネルギーを伝送する電力伝送システムであって、前記制御部は、負荷側からみてアンテナ部が定電圧源として見える周波数を選定して電力伝送を行うように制御すること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電力伝送システムによれば、負荷が急激に低下した際に電圧が高圧になることがなく、安定して電力伝送を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る電力伝送システムのブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電力伝送システムを車両に搭載した例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電力伝送システムのインバータ部を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る電力伝送システムに用いられる受電アンテナ210の分解斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係る電力伝送におけるアンテナ間の電力伝送の様子を示す断面の模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係る電力伝送システムにおける電力伝送処理のフローチャートを示す図である。
【図7】周波数と電力伝送効率との関係を示す図である。
【図8】第1極値周波数における電流と電界の様子を模式的に示す図である。
【図9】第2極値周波数における電流と電界の様子を模式的に示す図である。
【図10】2つの極値を与える極値周波数のうち磁気壁が生じる極値周波数(第1周波数)での特性を示す図である。
【図11】2つの極値を与える極値周波数のうち電気壁が生じる極値周波数(第2周波数)での特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施形態に係る電力伝送システムのブロック図であり、図2は本発明の実施形態に係る電力伝送システム100を車両に搭載した例を模式的に示す図である。本発明の電力伝送システム100は、例えば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などの車両搭載電池への充電のためのシステムに用いるのに好適である。このために、車両の底面部においては、受電を行うことを可能にする受電アンテナ210が配されてなる。
【0010】
本実施形態に係る電力伝送システム100では、上記のような車両に対して電力を非接触で伝送するため、当該車両を停車させることが可能な停車スペースに設けられる。車両充電用のスペースである当該停車スペースには、本実施形態に係る電力伝送システム100の送電アンテナ140などが地中部に埋設されるような構成となっている。車両のユーザーは本実施形態に係る電力伝送システムが設けられている停車スペースに車両を停車させて、送電アンテナ140から車両に搭載されている受電アンテナ210に対して、電磁場を介し電気エネルギーを伝送する。
【0011】
本実施形態に係る電力伝送システム100は、上記のような利用形態であることから、送電アンテナ140と受電アンテナ210との間の位置関係が電力伝送を行うたびに変化し、最適な電力伝送効率を与える周波数についてもこれに伴い変化することとなる。そこで、車両停車後、すなわち、送電アンテナ140と受電アンテナ210と間の位置関係がフィックスした後、実際の充電の電力伝送を行う前段に、周波数をスイープして、電力伝送時の最適周波数を決定するようにしている。
【0012】
車両充電設備(送電側)における整流昇圧部120は、商用電源などのAC電源部110からの交流電圧を一定の直流に変換するコンバータと、このコンバータからの出力を所
定の電圧に昇圧するものである。この整流昇圧部120で生成される電圧の設定は送電制御部150から制御可能となっている。
【0013】
インバータ部130は、整流昇圧部120から供給される直流電圧から所定の交流電圧を生成して、送電アンテナ140に入力する。図3は本発明の実施形態に係る電力伝送システムのインバータ部を示す図である。インバータ部130は、例えば図3に示すように、フルブリッジ方式で接続されたQA乃至QDからなる4つの電界効果トランジスタ(FET)によって構成されている。
【0014】
本実施形態においては、直列接続されたスイッチング素子QAとスイッチング素子QBの間の接続部T1と、直列接続されたスイッチング素子QCとスイッチング素子QDとの間の接続部T2との間に送電アンテナ140が接続される構成となっており、スイッチング素子QAとスイッチング素子QDがオンのとき、スイッチング素子QBとスイッチング素子QCがオフとされ、スイッチング素子QBとスイッチング素子QCがオンのとき、スイッチング素子QAとスイッチング素子QDがオフとされることで、接続部T1と接続部T2との間に矩形波の交流電圧を発生させる。
【0015】
上記のようなインバータ部130を構成するスイッチング素子QA乃至QDに対する駆動信号は送電制御部150から入力されるようになっている。また、インバータ部130を駆動させるための周波数は送電制御部150から制御することができるようになっている。
【0016】
上記のようなインバータ部130からの出力は送電アンテナ140に供給される。この送電アンテナ140は、インダクタンス成分を有する後述するようなコイルから構成されており、対向するようにして配置される車両搭載の受電アンテナ210と共鳴することで、送電アンテナ140から出力される電気エネルギーを受電アンテナ210に送ることができるようになっている。
【0017】
なお、インバータ部130からの出力を、送電アンテナ140に入力する際には、いったん、不図示の整合器によってインピーダンスを整合させるようにしてもよい。整合器は所定の回路定数を有する受動素子から構成することができる。
【0018】
本発明の実施形態に係る電力伝送システムでは、電力伝送システム100の送電側の送電アンテナ140から、受電側の受電アンテナ210へ効率的に電力を伝送する際、送電アンテナ140の共振周波数と、受電アンテナ210の共振周波数とを同一とすることで、送電側アンテナから受電側アンテナに対し、効率的にエネルギー伝達を行うようにしている。
【0019】
インバータ部130に対する入力される電圧V1及び電流I1、インバータ部130から出力される電圧V2及び電流I2は送電制御部150によって計測されるようになっている。これにより、送電制御部150は、計測される電圧V1及び電流I1からインバータ部130に入力される入力電力(W1=V1×I1)、及び、計測される電圧V2及び電流I2
らインバータ部130から出力される出力電力(W2=V2×I2)を取得することができ
るようになっている。送電制御部150は、CPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなどからなる汎用の情報処理部を有しており、取得された入力電力(W1)と出力電力(W2)とからインバータ部130の効率(W1/W2)を演算する。
【0020】
送電制御部150における記憶部151は、周波数スイープを行うときに、周波数と演算されたインバータ効率とを対応付けて記憶する一時記憶手段である。送電制御部150
は、インバータ部130の出力電力が所定の電力となるように制御し、インバータ部130で出力する交流電圧の周波数を変更しつつ、インバータ部130のインバータ効率を演算していき、この記憶部151に記憶する。
【0021】
送電制御部150は、整流昇圧部120によって出力される直流電圧の電圧と、インバータ部130で出力される交流電圧の周波数を制御して、実際の充電の電力伝送を実行する。
【0022】
次に、車両側に設けられている電力伝送システム100の構成について説明する。車両の受電側のシステムにおいて、受電アンテナ210は、送電アンテナ140と共鳴することによって、送電アンテナ140から出力される電気エネルギーを受電するものである。
【0023】
受電アンテナ210で受電された交流電力は、整流器220において整流され、整流さ
れた電力は充電器230を通して電池240に蓄電されるようになっている。充電器230は充電制御部250からの指令に基づいて電池240の蓄電を制御する。なお、本実施形態においては、受電側システムの負荷として電池240を用い、これに充電を行う例について説明しているが、受電側システムの負荷としては、その他の負荷を用いるようにしてもよい。
【0024】
充電器230から電池240に対して入力される電圧V3及び電流I3は充電制御部25
0によって計測されるようになっている。計測された電圧V3及び電流I3により、充電制御部250は、充電器230を制御して、電池240の適切な充電プロファイルに沿うよ
うに電池240の充電を制御することができるように構成されている。充電器230は、
電池240を定電流、定出力、定電圧のいずれかで充電させるかを選択することができるようになっている。
【0025】
充電制御部250はCPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなどからなる汎用の情報処理部を有しており、図示されている充電制御部250と接続される各構成と協働するように動作する。
【0026】
充電制御部250は 電池240の充電プロファイルを記憶すると共に、充電制御部250をこのプロファイルに沿って動作させるためのアルゴリズムを記憶している。
【0027】
図4は本発明の実施形態に係る電力伝送システムに用いられる受電アンテナ210の分解斜視図であり、図5は本発明の実施形態に係る電力伝送におけるアンテナ間の電力伝送の様子を示す断面の模式図である。なお、以下の実施形態では、コイル体270として矩形平板状のものを例に説明するが、本発明のアンテナはこのような形状のコイルに限定されるものではない。例えば、コイル体270として円形平板状のものなども利用し得る。このようなコイル体270は、受電アンテナ210における磁気共鳴アンテナ部として機能する。この「磁気共鳴アンテナ部」は、コイル体270のインダクタンス成分のみならず、その浮游容量に基づくキャパシタンス成分、或いは意図的に追加したコンデンサに基づくキャパシタンス成分をも含むものである。
【0028】
コイルケース260は、受電アンテナ210のインダクタンス成分を有するコイル体270を収容するために用いられるものである。このコイルケース260は、例えばポリカーボネートなどの樹脂により構成される開口を有する箱体の形状をなしている。コイルケース260の矩形状の底板部261の各辺からは側板部262が、前記底板部261に対して垂直方向に延在するようにして設けられている。そして、コイルケース260の上方においては、側板部262に囲まれるような上方開口部263が構成されている。コイルケース260にパッケージされた受電アンテナ210はこの上方開口部263側で車両本
体部に取り付けられる。コイルケース260を車両本体部に取り付けるためには、従来周知の任意の方法を用いることができる。なお、上方開口部263の周囲には、車両本体部への取り付け性を向上するために、フランジ部材などを設けるようにしても良い。
【0029】
コイル体270は、ガラスエポキシ製の矩形平板状の基材271と、この基材271上に形成される渦巻き状の導電部272とから構成されている。渦巻き状をなす導電部272の内周側の第1端部273、及び外周側の第2端部274には導電線路(不図示)が電気接続される。これにより、受電アンテナ210によって受電した電力を整流部202へと導けるようになっている。このようなコイル体270はコイルケース260の矩形状の底板部261上に載置され、適当な固着手段によって底板部261上に固着される。
【0030】
磁性シールド体280は、中抜き部285を有する平板状の磁性部材である。この磁性シールド体280を構成するためには、比抵抗が大きく、透磁率が大きく、磁気ヒステリシスが小さいものが望ましく、例えばフェライトなどの磁性材料を用いることができる。磁性シールド体280は、コイルケース260に対して適当な手段により固着されることで、コイル体270の上方にある程度の空間を空けて配されるようになっている。このようなレイアウトにより、送電アンテナ105側で発生する磁力線は、磁性シールド体280を透過する率が高くなり、送電アンテナ105から受電アンテナ210への電力伝送において、車両本体部を構成する金属物による磁力線への影響が軽微となる。
【0031】
また、コイルケース260の上方開口部263においては、前記上方開口部263を覆うような矩形平板状の金属体蓋部290が、シールド体280の上方に所定距離をおいて配されるようになっている。このような金属体蓋部290に用いる金属材料として任意のものを用いることとができるが、本実施形態においては、例えばアルミニウムを用いている。
【0032】
以上のように、本発明の受電アンテナ210によれば、コイル体270の上方に磁性シールド体280が設けられているので、車両底面に受電アンテナ210を装着した場合でも、車両本体部を構成する金属物などの影響を抑制して、効率的に電力伝送を行うことが可能となる。
【0033】
また、上記のような受電アンテナ210の構造は、電力伝送システム100を構成する送電側のアンテナにも適用されている。この場合、図5に示すように、送電アンテナ105は、受電アンテナ210と水平面に対して面対称(鏡像対称)となるような構造とされている。
【0034】
送電アンテナ140においても、受電側同様に、コイル体370がコイルケース360に配され、これと所定距離離されて磁性シールド体380が設けられると共に、金属体蓋部390によってコイルケース160が封止されてなる構造である。
【0035】
次に、以上のように構成される本実施形態に係る電力伝送システム100による電力伝送について説明する。これまで説明したように、電力伝送システム100による電力伝送では、まず、実際の充電の前段階において、電力伝送で用いられる電力で周波数スイープを行い、インバータ効率の極値を選定して、これに基づいて、本番の電力伝送でインバータ部130を駆動する周波数を決定する。本実施形態に係る電力伝送システム100による電力伝送では、まず、このように最適周波数を選定し、その後、選定された最適周波数によって電力伝送を行う。
【0036】
図6は本発明の実施形態に係る電力伝送システムにおける電力伝送処理のフローチャートを示す図である。このようなフローチャートは送電制御部150によって実行される。
図6において、ステップS100で電力伝送処理が開始されると、続く、ステップS101では、送電制御部150は目標出力値が所定の電力値となるように整流昇圧部120を設定する。
【0037】
また、ステップS102においては、インバータ部130の駆動周波数をスイープする下限の値に設定する。
【0038】
ステップS103では、第1電力で電力伝送を実行し、ステップS104でV1、I1、V2、I2を計測することで、入力電力(W1)、出力電力(W2)を計測する。ステップS105では、入力電力(W1)、出力電力(W2)に基づいて、インバータ部130の効率η(=W1/W2)を演算する。
【0039】
ステップS106では、演算されたインバータ効率と、周波数とを対応させて記憶部151に記憶する。周波数を変更しつつ、インバータ効率を演算することで、この記憶部151には、インバータ効率の周波数特性が蓄積されることとなる。
【0040】
ステップS107では設定された周波数が、スイープする上限の周波数以上であるか否かが判定される。ステップS107の判定がNOであれば、ステップS110に進み、周波数を所定分上昇させ設定した上で、ステップS103に戻りループする。
【0041】
一方、ステップS107の判定がYESであれば全てのスイープを行ったことになるので、ステップS108に進み、記憶部151に記憶されている周波数特性からインバータ効率の極値を与える周波数を選定する。
【0042】
ここで、電力伝送効率の周波数特性におけるパターンについて説明する。図7は本実施形態に係る電力伝送システムにおける周波数と電力伝送効率との関係を示す図である。
【0043】
図7(A)は受電アンテナ210と送電アンテナ140とが最も適切に配置されているときの状態に対応する電力伝送効率の周波数特性を示している。図7(A)に示すように、2つの極値を与える周波数が2つある。周波数が低い方の極値周波数を第1極値周波数、周波数が高い方の極値周波数を第2極値周波数として定義する。
【0044】
図7(A)から図7(B)、図7(C)、図7(D)と進むにつれて、受電アンテナ210と送電アンテナ140と間の位置のずれがより大きくなっているときの状態に対応する電力伝送効率の周波数特性を示している。
【0045】
図7(C)、図7(D)に示すように、伝送効率の極値を与える周波数が1つである場
合には、ステップS108においては、この極値の周波数を選定するようにすればよい。一方、図7(A)、図7(B)に示すように極値を与える周波数として、第1極値周波数、第2極値周波数の2つがある場合については、本実施形態においては、送電アンテナ140と受電アンテナ210との間の対称面に電気壁が生じる極値周波数を選定するようにしている。
【0046】
以下、送電アンテナ140と受電アンテナ210との間の対称面に生じる電気壁、及び磁気壁の概念について説明する。
【0047】
図8は第1極値周波数における電流と電界の様子を模式的に示す図である。第1極値周波数においては、送電アンテナ140に流れる電流と、受電アンテナ210に流れる電流とで位相が略等しくなり、磁界ベクトルが揃う位置が送電アンテナ140や受電アンテナ210の中央部付近となる。この状態を、送電アンテナ140と受電アンテナ210との
間の対称面に対して磁界の向きが垂直となる磁気壁が生じているものとして考える。
【0048】
また、図9は第2極値周波数における電流と電界の様子を模式的に示す図である。第2極値周波数においては、送電アンテナ140に流れる電流と、受電アンテナ210に流れる電流とで位相がほぼ逆となり、磁界ベクトルが揃う位置が送電アンテナ140や受電アンテナ210の対称面付近となる。この状態を、送電アンテナ140と受電アンテナ210との間の対称面に対して磁界の向きが水平となる電気壁が生じているものとして考える。
【0049】
なお、以上のような電気壁や磁気壁などの概念に関しては、居村岳広、堀洋一「電磁界共振結合による伝送技術」IEEJ Journal,Vol.129,No.7,2009、或いは、居村岳広、岡部浩之、内田利之、堀洋一「等価回路から見た非接触電力伝送の磁界結合と電界結合に関する研究」IEEJ Trans.IA,Vol.130,No.1,2010などに記載されているものを本明細書においては準用している。
【0050】
次に、本発明において、極値を与える周波数として、第1極値周波数、第2極値周波数の2つがある場合については、送電アンテナ140と受電アンテナ210との間の対称面に電気壁が生じる極値周波数を選定する理由について説明する。
【0051】
図10は2つの極値を与える極値周波数のうち磁気壁が生じる極値周波数(第1周波数)での特性を示す図である。図10(A)は電池240(負荷)の負荷変化変動に伴う送電側の電圧(V1)、電流(I1)の変動の様子を示す図であり、図10(B)は電池240(負荷)の負荷変化変動に伴う受電側の電圧(V3)、電流(I3)の変動の様子を示す図である。図10に示すような特性によれば、受電側で電池240(負荷)の負荷増大と共に、電圧が増大する特性があることがわかる。
【0052】
以上のような磁気壁が生じる周波数においては、電池240側からみて受電アンテナ210が定電流源として見えるものである。このような受電アンテナ210が定電流源のように動作する周波数で、電力伝送を行った場合に、仮に負荷側である電池240などの不具合により緊急停止が起きたとすると、受電アンテナ210の両端部の電圧が上昇してしまうこととなる。
【0053】
一方、図11は2つの極値を与える極値周波数のうち電気壁が生じる極値周波数(第2周波数)での特性を示す図である。図11(A)は電池240(負荷)の負荷変化変動に伴う送電側の電圧(V1)、電流(I1)の変動の様子を示す図であり、図11(B)は電池240(負荷)の負荷変化変動に伴う受電側の電圧(V3)、電流(I3)の変動の様子を示す図である。図11に示すような特性によれば、受電側で電池240(負荷)の負荷増大と共に、電流が減少する特性があることがわかる。
【0054】
以上のような電気壁が生じる周波数においては、電池240側からみて受電アンテナ210が定電圧源として見えるものである。このような受電アンテナ210が定電圧源のように動作する周波数で、電力伝送を行った場合に、仮に負荷側である電池240などの不具合により緊急停止が起きたとしても、受電アンテナ210の両端部の電圧が上昇することはない。したがって、本発明に係る電力伝送システムによれば、負荷が急激に低下した際に電圧が高圧になることがなく、安定して電力伝送を行うことが可能となるのである。
【0055】
図10の特性においては、受電側の電池240(負荷)にとっては、充電回路が電流源として見えることとなり、図11の特性においては、受電側の電池240(負荷)にとっては、充電回路が電圧源として見えることとなる。負荷が増大することに伴い、電流が減少する図11に示す特性の方が、電池240(負荷)にとっては好ましいので、本実施形
態においては、第1極値周波数、第2極値周波数の2つがある場合については、送電アンテナ140と受電アンテナ210との間の対称面に電気壁が生じる極値周波数を選定するようにしている。
【0056】
このような本発明に係る電力伝送システムによれば、伝送効率の極値を与える周波数が2つ存在することがある場合でも、電力伝送時の最適な周波数を決定することができ、効率的な電力伝送を行うことが可能となる。
【0057】
また、2つの極値を与える周波数が2つある場合には、送電アンテナ140と受電アンテナ210との間の対称面に電気壁が生じる極値周波数を選定すると、電池240(負荷)にとって、充電回路が電圧源として見えるので、充電制御により電池240への出力が変動した際にインバータ部130の出力も伴って増減するために扱いやすい、というメリットがある。また、充電器230が緊急停止した際にも供給電力も自動的に最小化するため無駄な装置も必要ない。
【0058】
また、2つの極値を与える周波数が2つある場合には、送電アンテナ140と受電アンテナ210との間の対称面に電気壁が生じる極値周波数を選定すると、充電器230からみて整流器220が電圧源として見えるので、充電制御により電池240への出力が変動した際に整流昇圧部120の出力も伴って増減するために扱いやすい、というメリットがある。また、充電器230が緊急停止した際にも供給電力も自動的に最小化するため無駄な装置も必要ない。
【0059】
これに対して、2つの極値を与える周波数が2つある場合には、送電アンテナ140と受電アンテナ210との間の対称面に磁気壁が生じる極値周波数を選定すると、充電器230が出力を小さくした際に伴って供給電圧を制御する必要がありそのための通信手段や検知手段が必要となり、コストがかかることとなる。
【0060】
さて再び図6に戻り、ステップS109では、ステップS108で選定された最適周波数によって、電力伝送を実行する。
【0061】
以上、本発明に係る電力伝送システムによれば、伝送効率の極値を与える周波数が2つ存在することがある場合でも、電力伝送時の最適な周波数を決定することができ、効率的な電力伝送を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
100・・・電力伝送システム
110・・・AC電源部
120・・・整流昇圧部
130・・・インバータ部
140・・・送電アンテナ
150・・・送電制御部
151・・・記憶部
210・・・受電アンテナ
220・・・整流器
230・・・充電器
240・・・電池
250・・・充電制御部
260・・・コイルケース
261・・・底板部
262・・・側板部
263・・・(上方)開口部
270・・・コイル体
271・・・基材
272・・・導電部
273・・・第1端部
274・・・第2端部
280・・・磁性シールド体
285・・・中抜き部
290・・・金属体蓋部
360・・・コイルケース
370・・・コイル体
380・・・磁性シールド体
390・・・金属体蓋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を所定の周波数の交流電圧に変換して出力するインバータ部と、
前記インバータ部からの交流電圧が入力される送電アンテナと、
前記インバータ部によって出力される交流電圧の周波数を制御する制御部と、
を有し、前記送電アンテナから対向する受電アンテナに対して、電磁場を介して電気エネルギーを伝送する電力伝送システムであって、
前記制御部は、負荷側からみてアンテナ部が定電圧源として見える周波数を選定して電力伝送を行うように制御することを特徴とする電力伝送システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−217228(P2012−217228A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79035(P2011−79035)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】