説明

電力変換装置

【課題】力率改善用のインダクタおよび伝導ノイズ対策用のフィルタサイズを小形化するようにした電力変換装置を提供する。
【解決手段】インダクタ9は、共通のコアに巻かれて互いに疎結合された第1、第2の巻線9a,9bを備え、交流電圧の入力線に挿入されている。このインダクタ9は、漏れインダクタンス成分を主変換動作のエネルギー蓄積要素とするとともに、インダクタ9の主インダクタンス成分をスイッチ素子6のオンオフ動作に起因する伝導ノイズの抑制要素としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電圧からスイッチング素子をオンオフ制御して、コイルに蓄積されたエネルギーを直流電圧として出力する電力変換装置に関し、とくに昇圧、あるいは降圧チョッパとして動作する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスイッチ素子を利用した電力変換装置としては、たとえば図5に示すような力率改善回路を整流回路の出力側に設けたものがある。図5の電力変換装置において、交流電源1は、スイッチング電源装置10を介して負荷20に直流電圧を供給する。
【0003】
スイッチング電源装置10は、コンデンサ2a〜2cとコモンモードチョークコイル3からなるノイズフィルタ2、ダイオード4a〜4dからなる整流回路4、この整流回路4の出力ライン側に配置された力率改善用のインダクタ5、PWM制御回路6aによってオンオフ制御されるスイッチ素子6、およびダイオード7とコンデンサ8からなる平滑回路によって構成されている。ここで、ノイズフィルタ2は交流電源1からの伝導ノイズ(コモンモードノイズ)を低減するために配置されている。また、スイッチ素子6には自己消弧形デバイスとしてMOSFETを使用している。
【0004】
つぎに、電力変換装置10の動作を説明する。
最初に、スイッチ素子6がオンのときインダクタ5に電流が流れて、そこにエネルギーが蓄積される。つぎに、スイッチ素子6がオフになると、インダクタ5に発生する逆起電力によって蓄積されたエネルギーが負荷20に伝達される。このとき、入力電流波形が正弦波状になるように、制御回路8によりスイッチ素子6のオンオフのパルス幅を制御して、力率を改善する。
【0005】
こうしたPWMインバータなどの電力変換装置を構成する順変換回路や逆変換回路に用いられるMOSFETなどのスイッチング動作は、キャリア周波数を数KHzから十数KHz程度としたパルス幅変調(PWM)された駆動信号に基づいて行われ、このスイッチング動作により数十KHz以上の周波数成分のコモンモードノイズがこの電力変換装置の主回路導体と接地(アース)との間に発生することが知られている。
【0006】
この種の力率改善回路において発生する伝導ノイズを低減するために、チョークコイルを半数ずつの巻数に分割するとともに、この分割した各コイル部が逆極性となるように同一のコアに巻回して整流回路の出力ライン両端にそれぞれ挿入接続したものがある(たとえば、特許文献1参照)。これによれば、スイッチング素子のオン、オフ動作により力率改善回路から整流回路の電圧供給側ラインおよびマイナス側ラインにそれぞれ発生するリップル電流などの高周波領域におけるノイズは互いに逆位相となって現われ、前記整流回路の電圧供給側ラインとマイナス側ラインとの間に生じるノーマルモードノイズが打ち消されて、そのノイズレベルは小さくなる。
【特許文献1】特開平10−150332号公報(段落番号[0013]〜[0027]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような電力変換装置において、ノーマルモードノイズを抑制するために設けたインダクタ5に流れる電流は、正弦波状の低周波成分とスイッチ素子6のオンオフ動作に起因する高周波成分とが重畳した交流波形となっている。そして、低周波成分のピーク時における瞬時電流値は大きなものとなるが、このピークにおいてもコイルの磁心(コア)が飽和しないためには、平均電流に対するコアの磁束密度をより低くしておく必要があり、コアのサイズを大きめに設計する必要がある。さらに、短時間の過負荷を許容する装置の場合には、コアのサイズをより大きなものとする必要があり、電力変換装置全体が大形化してしまうという問題があった。
【0008】
一方、商用電源など外部の交流電源1に接続される場合は、図5に示すようなノイズフィルタ2としてコモンモードチョークコイル3が必要である。しかし、特許文献1に記載された従来装置では、ノーマルモードノイズを抑制するだけでコモンモードノイズは抑制することができない。したがって、力率改善用のインダクタ5とは別にコモンモードノイズの抑制手段を設けなくてはならないため、電力変換装置を小形化するうえで大きな障害となっていた。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、力率改善用のインダクタおよび伝導ノイズ対策用のフィルタサイズを小形化するようにした電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記問題を解決するために、交流電源を整流する整流回路、その出力を平滑化する平滑用コンデンサ、インバータ回路およびエネルギー蓄積用のコイルからなり、交流電圧からスイッチ素子をオンオフ制御して、前記コイルに蓄積されたエネルギーを直流電圧として出力する電力変換装置が提供される。この電力変換装置のコイルは、共通のコアに巻かれて互いに疎結合された第1、第2の巻線を備え、前記コイルの漏れインダクタンス成分を主変換動作のエネルギー蓄積要素とするとともに、前記コイルの主インダクタンス成分を前記スイッチ素子のオンオフ動作に起因する伝導ノイズの抑制要素としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、漏れ磁束がコイルのコアを飽和させることがないので、コイルの漏れインダクタンスにエネルギーが蓄積されてもコアが飽和するといった事態を避けることができる。そのため、コアを大きくする必要がなく、コイルを小形化して電力変換装置全体を小さくできる。
【0012】
さらに、コイルの主インダクタンスをコモンモードチョークコイルとして利用することによって、従来は別途設けていたコモンモードチョークコイルを省略し、あるいは小形化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の形態に係る電力変換装置の一例を示す回路図である。図5に示す従来装置と同一部分には同一符号を付して、それらの説明は省略する。
【0014】
図1の電力変換装置では、共通のコアに巻かれた第1、第2の巻線9a,9bを有するインダクタ9が整流回路4とスイッチ素子6の間に設けられ、昇圧コイルとして機能している。第1の巻線9aは、整流回路4の電圧供給側ラインにダイオード7と接続するように配置され、第2の巻線9bは、整流回路4のマイナス側ラインを負荷20の接地側に接続するように配置されている。ここでは、第1、第2の巻線9aおよび9bは同一コアに同一巻数だけ巻かれている。
【0015】
スイッチ素子6がオンすると、インダクタ9の巻線9aおよび巻線9bに電流が流れて、そのコアに磁束が発生する。このとき、それぞれ巻線9aと巻線9bが発生する磁束は、互いに逆方向になる。したがって、インダクタ9ではその主磁束が互いに打ち消しあって、漏れインダクタンス成分にエネルギーが蓄積される。
【0016】
図2は、図1のインダクタを示す図であって、(a)は具体的なコイル形状を示す断面図、(b)はコアの形状を示す斜視図である。
図2(a)において、ボビン21の中間部分には絶縁体からなるセパレータ22が配置され、セパレータ22により左右に離間して第1、第2の巻線9aおよび9bが巻かれている。また、コア23は同図(b)に示すように「8」の字形状をなし、コア脚部23aがボビン21を貫通するように配置され、第1、第2の巻線9aおよび9bをコア23内に収納している。コア23は、たとえば同図(b)のようなE字型のコア23eとI字型のコア23iの組み合わせ、あるいは2つのE字型のコアの組み合わせなどで形成することができる。
【0017】
ここで、インダクタ9の巻線9aおよび9bは、図1の巻線に対応するものであって、セパレータ22によって巻線9a,9bの結合度の低い疎結合となっていれば、インダクタ9に必要な漏れインダクタンス値が実現できる。ここで、疎結合とは第1の巻線9aと第2の巻線9bとの磁気的な結合係数の値が1以下であることを言い、たとえば結合係数の値が0.8などである。すなわち、結合係数が1以下であるということは、第1の巻線9aには鎖交しても第2の巻線9bには鎖交しない磁束が存在し、かつ第2の巻線9bには鎖交しても第1の巻線9aには鎖交しない磁束が存在することを意味する。したがって、こうした漏れインダクタンスの大きさについては、巻線9aと9bの巻数を調整し、あるいはセパレータ22の大きさなどによって両者の間の距離を調整することによって、コモンモード電流を抑制するために必要な数百μ〜数mH程度まで漏れインダクタンス値を増加することができる。
【0018】
図3は、図1のインダクタを構成する別のコイル形状を示す断面図である。
図2のコイル形状では、巻線9a,9bを左右に分割することによって漏れインダクタンスを持たせるようにしたが、コア33内で2つの巻線9a,9bを同心円状に疎結合することで漏れインダクタンス値を大きくしても構わない。
【0019】
すなわち、共通のボビン31には、図3に示すように、ボビン31の内周側に第1の巻線9aを巻き、その外周側に絶縁体からなるセパレータ32を介して、巻線9aと同軸に第2の巻線9bを巻くようにしている。この場合は、セパレータ32の厚さを大きくすることで、インダクタ9の巻線9a,9bの結合を疎にして、漏れインダクタンス値を大きくすることができる。
【0020】
図4は、別の電力変換装置の要部構成を示す回路図である。ここでは、本発明を降圧型チョッパとして構成している。なお、図1と同一部分には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0021】
入力端子1a,1bは整流回路4に接続され、出力端子20a,20bは負荷20と接続される。ここでは、スイッチ素子6が整流回路4に接続される入力端子1aに接続され、かつインダクタ9の第1の巻線9aがスイッチ素子6の出力側に挿入されている点で、図1の実施の形態とは異なっている。
【0022】
このように構成された電力変換装置は、図1の場合と同様にインダクタ9の漏れインダクタンスをエネルギー蓄積要素として利用することで、インダクタ9を構成するコイルを小形化できるから、電源変換装置の小形化が可能である。
【0023】
なお、いずれの実施の形態においても、スイッチ素子6としてMOSFETを用いた場合を説明したが、それ以外のバイポーラトランジスタやIGBTなどの自己消弧形素子を用いてスイッチ素子6を構成することもできる。
【0024】
また、図1,図4の電力変換装置の場合でも、図5の従来装置と同様に、コモンモードチョークコイル3に相当するコイルを補助的に設けてもよい。そうした補助的なコイルは、従来技術におけるコモンモードチョークコイル3より小規模なものであってもコモンモードノイズを有効に抑制できるから、電源変換装置の大きさを小形化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態に係る電力変換装置の一例を示す回路図である。
【図2】図1のインダクタを示す図であって、(a)は具体的なコイル形状を示す断面図、(b)はコアの形状を示す斜視図である。
【図3】図1のインダクタを構成する別のコイル形状を示す断面図である。
【図4】別の電力変換装置の要部構成を示す回路図である。
【図5】従来の電力変換装置の一例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0026】
1 交流電源
2 ノイズフィルタ
2a〜2c,8 コンデンサ
4a〜4d,7 ダイオード
6 スイッチ素子
6a PWM制御回路
9 インダクタ
9a,9b 巻線
10 スイッチング電源装置
20 負荷
21,31 ボビン
22,32 セパレータ
23,33 コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源を整流する整流回路、その出力を平滑化する平滑用コンデンサ、インバータ回路およびエネルギー蓄積用のコイルからなり、交流電圧からスイッチ素子をオンオフ制御して、前記コイルに蓄積されたエネルギーを直流電圧として出力する電力変換装置において、
前記コイルは、共通のコアに巻かれて互いに疎結合された第1、第2の巻線を備え、
前記コイルの漏れインダクタンス成分を主変換動作のエネルギー蓄積要素とするとともに、前記コイルの主インダクタンス成分を前記スイッチ素子のオンオフ動作に起因する伝導ノイズの抑制要素としたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記第1の巻線に流れる電流によって発生する磁束と、前記第2の巻線に流れる電流によって発生する磁束が互いに打ち消しあう向きで、前記コイルを前記整流回路と前記スイッチ素子との間に挿入したことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第1の巻線に流れる電流によって発生する磁束と、前記第2の巻線に流れる電流によって発生する磁束が互いに打ち消しあう向きで、前記コイルを前記スイッチ素子の出力線側に挿入したことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記コイルは、前記第1、第2の巻線をセパレータによって互いに疎結合としたことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記コイルとは別に、コモンモード電流抑制用のチョークコイルを備えたことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−247121(P2009−247121A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91029(P2008−91029)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】