説明

電力変換装置

【課題】各単相電力変換器の制御装置からの送信不能や光ファイバケーブルの断線や短絡などによる通信不通といった異常の検出を、低コストで容易に行う電力変換器構成を提供する。
【解決手段】 カスケード接続された複数の単相電力変換器と該複数の単相電力変換器を制御する中央制御装置とを備えた電力変換装置であって、前記複数の単相電力変換器はそれぞれに単相電力変換器制御装置を有し、前記中央制御装置と前記複数の単相電力変換器制御装置はデイジーチェーン構造の通信手段で接続され、前記単相電力変換器制御装置が前記デイジーチェーン構造の通信手段を介して制御信号を送受信するとともに、制御信号フレーム以外に前記制御信号フレームとは区別できる特定パターンの信号を送受信し、前記単相電力変換器制御装置での前記特定パターン信号の未受信あるいは受信信号と前記特定パターン信号との不一致により通信異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換装置、およびこれに用いる制御・通信装置と通信異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電に代表される分散型電源の配電系統への導入が積極的に進められているが、これに伴い、配電系統の電圧変動が大きくなることが問題になりつつある。このような配電系統の安定度向上対策には無効電力補償装置の適用が有効であり、その中でもカスケード接続型の自励式無効電力補償装置を適用することが提案されている。
特許文献1では、1相あたりN台の単相電力変換器がその交流側において直列接続されて多レベル電圧出力が可能な構成のカスケード接続型の自励式無効電力補償装置の技術が開示されている。
この単相電力変換器(以下、セルと適宜、表記する)をPWM(Pulse Width Modulation)制御している場合、各セルに与える三角波キャリアの位相を適切にシフトさせることができれば、自励式無効電力補償装置の出力電力波形をマルチレベルで正弦波に近づけて、高調波成分を抑制することができる。
特許文献2では、複数のセルをPWM制御するために、各セルから離れた位置に設置される中央制御装置と各セル近傍に設置されるセル制御装置からなる分散制御システムを構成し、マスタからスレーブへ送信される信号に電圧指令値やPWMパターン指令とともにPWM同期信号を含めて、この同期信号の出力毎にPWM生成部をリセットする運転方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−280358号公報
【特許文献2】特開2002−345252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カスケード接続型の自励式無効電力補償装置は、各セルの電位がお互いに異なっており、対地電位の高いセルも存在するため、接地電位の中央制御装置と各セル制御装置は、両者の間の電位差に耐え得る絶縁耐力を備えた特殊な光ファイバケーブルで接続する必要がある。
さらに、絶縁劣化によるケーブル短絡といった通信異常が発生する可能性があるため、このような通信異常を検出する機能を備えておくことも必要である。しかし、この通信異常検出機能を制御信号フレームに組み込むと制御信号フレームのビット数が増え、時間的長さも長くなる、という課題がある。
絶縁耐力を備えた光ファイバケーブルは、絶縁性能が高いほど高価である。したがって、中央制御装置と各セル制御装置との間を、光通信手段を介してデイジーチェーン(数珠つなぎ)で接続し、システム全体で、高い絶縁性能が必要な光ファイバケーブル長を短くすることが想定される。
デイジーチェーン接続では、中央制御装置から送信される制御信号フレームには、すべてのセル制御に関する情報が含まれるため、制御信号フレームの時間的長さは、より長くなり、前記の課題もより顕著に現れる。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点を解決するもので、その目的とするところは、各単相電力変換器の制御装置からの送信不能や光ファイバケーブルの断線や短絡などによる通信不通といった異常の検出を、低コストで容易に行う電力変換器構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決して、本発明の目的を達成するために、以下のように構成した。
すなわち、カスケード接続された複数の単相電力変換器と該複数の単相電力変換器を制御する第1制御装置とを備えた電力変換装置であって、前記複数の単相電力変換器はそれぞれに第2制御装置を有し、前記第1制御装置と前記複数の第2制御装置はデイジーチェーン構造の通信手段で接続され、前記第2制御装置が前記デイジーチェーン構造の通信手段を介して制御信号を送受信するとともに、制御信号フレーム以外に前記制御信号フレームとは区別できる特定パターン信号を送受信し、前記第2制御装置での前記特定パターン信号の未受信あるいは受信信号と前記特定パターン信号との不一致により通信異常を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、各単相電力変換器の制御装置からの送信不能や光ファイバケーブルの断線や短絡などによる通信不通といった異常の検出を、低コストで容易に行う電力変換器構成を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態の制御信号と特定パターン信号とを備えた光シリアル信号フレームの構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態におけるカスケード接続型自励式無効電力補償装置の回路構成を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態におけるカスケード接続型自励式無効電力補償装置に備えた単相電力変換器(セル)の回路構成を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態における上流セルでの通信異常有無信号と通信異常セル番号とを含む光シリアル信号フレームの構成を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態における全セル共通制御信号を含む光シリアル信号フレームの構成を示す図である。
【図6】参考比較としての光シリアル信号フレームの構成を示す図である。
【図7】参考としてモジュラー・マルチレベル変換器の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図1〜図3を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態で用いる制御信号と特定パターン信号とを備えた光シリアル信号フレームの構成を示す図である。
図2、図3は本発明の第1実施形態で用いる光シリアル信号フレームを適用する電力変換装置であるカスケード接続型自励式無効電力補償装置の回路構成を示す図である。
本発明の第1実施形態の特徴は、図1における制御信号と特定パターン信号とを備えた光シリアル信号フレームの構成にあるが、何故そのような信号フレームの構成にするかを解りやすくするために、まず、本発明の第1実施形態で用いる光シリアル信号フレームを適用する電力変換装置の回路構成を図2、図3を参照して先に説明し、その後で図1の光シリアル信号フレームの構成を説明する。
【0011】
<電力変換装置の回路構成>
図2において、第1実施形態の電力変換装置(カスケード接続型自励式無効電力補償装置)23は、変圧器22を介して三相電力系統21に連系しており、両者(23、21)の間で交流電力を授受する。電力変換装置23の各変換器アームは複数の単相電力変換器であるセル24をカスケード接続して構成されている。
【0012】
つまり第1の変換器アームはセルC11〜セルC1nをカスケード接続し、第2の変換器アームはセルC21〜セルC2nをカスケード接続し、第3の変換器アームはセルC31〜セルC3nをカスケード接続し、第1〜第3の変換器アームによって3相の変換器アームを構成している。
また、第1〜第3の変換器アームは、それぞれの一端を、交流リアクトル29を介して変圧器22の二次側に接続されている。また、第1〜第3の変換器アームのそれぞれの他端は共通接続されている。
なお、図2の電力変換装置23の回路構成はカスケード・マルチレベル変換器(CMC:Cascade-Multilevel Converter)と呼ばれている。
【0013】
中央制御装置(第1制御装置)26は中央制御部27と光通信マスタ28を備えて構成され、電力変換装置23を制御する。
複数の単相電力変換器であるセル24は、後記するように、セル制御装置(第2制御装置、単相電力変換器制御装置)37(図3)と光通信スレーブ38(図3)とを備えている。
中央制御装置26は、中央制御部27と光通信マスタ28によって、光ファイバケーブル25を介して光シリアル信号(フレーム)を各セル24の光通信スレーブ38(図3)に送信し、また各セル24の光通信スレーブ38(図3)からの信号を受信する。
ただし、光通信マスタ28と各セル24の光通信スレーブ38(図3)は直接、光ファイバケーブル25によって接続されている訳ではない。どのような構成で接続されているかを次に述べる。
【0014】
図2において、光通信マスタ28から光ファイバケーブル25はセル24であるセルC11に接続され、またセルC11からセルC12に光ファイバケーブル(25)で接続され、同様に第1の変換器アームの末端であるセルC1nまで光ファイバケーブル(25)によって直列に接続されている。
さらに、第2の変換器アームの末端であるセルC2nにセルC1nから光ファイバケーブル(25)が接続され、セルC2nから第2の変換器アームの最初のセルC21まで順に光ファイバケーブル(25)によって直列に接続されている。
さらに、第3の変換器アームの最初のセルC31にセルC21から光ファイバケーブル(25)が接続され、セルC31から第3の変換器アームの末端であるセルC3nまで順に光ファイバケーブル(25)によって直列に接続されている。
そして、セルC3nから光ファイバケーブル(25)が光通信マスタ28に接続されている。
【0015】
このように中央制御装置26の光通信マスタ28によって、複数のセル24の光通信スレーブ38(図3)を制御することによって、中央制御装置26と複数の単相電力変換器であるセル24の関係はデイジーチェーン(数珠つなぎ)を構成している。
なお、中央制御装置26は、変圧器22の二次側の中性点とともに接地電位にするのが一般的であるが、必ずしも接地電位にする必要はない。
【0016】
<セル・単相電力変換器の回路構成>
図3は単相電力変換器であるセル24の回路構成を示した図である。
図3において、単相電力変換器としての主回路34は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)からなるスイッチング素子35A、35B、36A、36Bでフルブリッジ構成された回路である。また、主回路34には直流コンデンサ39が備えられている。
スイッチング素子35A、35B、36A、36Bがオン・オフすることにより、フルブリッジ構成からなる主回路34の第1端子241、第2端子242から、それぞれの単相電力変換器であるセル24が受け持つ交流電圧を出力する。
【0017】
セル制御装置37は主回路34のスイッチング素子35A、35B、36A、36Bをオン・オフする制御信号のパルス(ゲートパルス)を生成する。セル制御装置37においては、正弦波の変調波形を三角波のキャリア信号(三角波キャリア)と比較して、PWMパルスに変換されたデジタル信号を出力する。つまりA−D変換(Analog/Digital Conversion)とPWM変換の機能を備えている。
【0018】
ゲートドライバ33は、セル制御装置37の信号を受けて、主回路34のスイッチング素子35A、35B、36A、36Bを制御している。
また、ドライバ電源31は、ゲートドライバ33とセル制御装置37に電源を供給している。
また、電圧センサ32は、主回路34の直流コンデンサ39の両端の電圧を検出して、セル制御装置37に検出信号を送る。セル制御装置37は、電圧センサ32の情報を、後記する光シリアル信号フレームに含まれる制御信号フレーム8A(図1)の直流コンデンサ電圧6(図1)の項目として、光通信スレーブ38を介して送信する。
【0019】
光通信スレーブ38は、光ファイバケーブル25を介して、中央制御装置26の光通信マスタ28から送信された光シリアル信号(フレーム)を受信する。それとともにセル制御装置37に光シリアル信号(フレーム)に含まれる制御信号を送るとともに、前記したように、セル制御装置37の状態を示す信号を受信する。また、光ファイバケーブル25を介して、他のセル(24)もしくは中央制御装置26に情報を送信する。
【0020】
以上のように、中央制御装置26の制御のもとに、複数の単相電力変換器であるセル24(C11〜C1n、C21〜C2n、C31〜C3n)が連携して動作することにより、電力変換装置23は無効電力補償装置として機能する。
【0021】
<光シリアル信号フレームの構成>
図1は光シリアル信号フレームの構成を示す図である。
中央制御装置26(図2)からセル制御装置37(図2)に送信される信号は、光シリアル信号フレームによって行なわれる。光シリアル信号フレームは、制御信号フレーム8Aと特定パターン1を備えて構成されている。
図1において、制御信号フレーム8Aには、例えば信号開始マーク(START)2、同期対象キャリア番号(同期対象キャリア番号)3、対象セル番号(対象セル番号)4、各セルの変調率(変調率)5、各直流コンデンサの電圧信号あるいは電圧ダミー情報(直流コンデンサ電圧)6、信号終了マーク(END)7が含まれている。
【0022】
なお、上記の制御信号フレーム8Aに含まれる各項目(2〜7)は、図1では前記のように括弧内で示した文言で表記している。また、前記の各項目は(1〜k〜N)個あるので、それぞれの該当する添え字を付記している。
また、前記制御信号フレーム8Aと特定パターン1とが、おおよそ一定周期で中央制御装置26から送信される。
【0023】
≪通信が正常な場合≫
通信が正常な場合においては、図1の制御信号フレーム8Aによって、各セル制御装置(37、図3)あるいは各セル24(図2)は、次のような動作をする。
中央制御装置26(図2)からk番目に制御信号を受信するセル24(図2)を第kセルとすると、第kセルは第k−1セルから受信した制御信号フレーム8Aの対象セル番号4を参照することで自分自身に対する変調率5を読み込む。
さらに自分自身に対する直流コンデンサ電圧のダミー情報(直流コンデンサ電圧6)を実際の直流コンデンサ電圧信号に書き換えて新たな制御信号フレーム8Aを生成し、その新たな制御信号フレーム8Aを第k+1セルに送信する。
なお、読み込んだ変調率5で第kセル(24、図3)の主回路(34、図3)を動作させる。また、前記したように電圧センサ(32、図3)で直流コンデンサ(39、図3)の電圧を検出している。
【0024】
また、もし第k−1セルから受信した同期対象キャリア番号3と自分自身のキャリア番号が一致している場合には、信号終了マーク(END7)を受信してから、各セル毎に異なる調整時間(中央制御装置26から各セルC11〜C1n、C21〜C2n、C31〜C3nまでの信号伝送遅延時間をおおよそ揃えるための時間)経過後、自身から発生させる三角波キャリアを強制的に所定の値にリセットする。
【0025】
以上のように、図1の制御信号フレーム8Aを用いて、中央制御装置(26、図2)の光通信マスタ(28、図2)から各セル(C11〜C1n、C21〜C2n、C31〜C3n、図2)の各光通信スレーブ(38、図3)を介して各セル制御装置(37、図3)に光シリアル信号フレームからなる制御信号を送信する。この制御信号フレーム8Aの制御信号の送受信によって、単相電力変換器である各セル(C11〜C1n、C21〜C2n、C31〜C3n、図2)は連携して統一的な動作をする。これにより電力変換装置(23、図2)が機能する。
【0026】
≪通信異常の検出≫
セル制御装置37に正しく光シリアル信号フレームが送信されない原因として、光ファイバケーブル25の断線や光通信スレーブ38におけるトランシーバ部(不図示)の故障による通信異常が考えられる。
図2の回路構成の場合、各セル24の電位がお互いに異なるため、光ファイバケーブル25は各セル24間の電位差、あるいは各セル24と中央制御装置26間の電位差に耐えうる絶縁耐力を持つ必要があり、断線のみならず絶縁劣化による短絡の可能性も考えなければならない。
【0027】
参考として示した図6の制御信号フレーム8Dでは、同期パターン11を含め、同期パターン11の未受信あるいは不一致によって同期外れ、すなわち前セルからの送信不能や光ファイバケーブル25(図2)の断線などの通信異常が発生したものとしていた。
しかし、同期パターン11は、その送信に要する時間(同期時間)が長く、制御信号フレーム8Dが長くなる原因でもあった。
【0028】
そこで、図1に示すように同期パターン11(図6)に代えて、制御信号フレーム8A以外の時間に特定パターン1の信号を含み、この特定パターン1の未受信あるいは受信信号と特定パターン1との不一致があれば、同期外れに起因する通信異常が発生したと判断するものとした。
なお、特定パターン1とは制御信号フレーム8Aと区別できる所定のパターンである。
【0029】
このように元々、空き時間であった制御信号フレーム8A間に特定パターン1を挿入することで、同期外れを確認することにより、制御信号フレーム8Aの時間的長さを短くすることが可能になる。
図1では1制御周期に対して制御信号フレーム8Aが1つの場合を示しているが、1制御周期に対して制御信号フレーム8Aが複数あってもよく、この場合には、より本発明を適用する効果が現れる。
さらに、制御信号フレーム8Aの無い時間に、特定パターン1の信号を送受信することになるため、常に何らかの信号を通信していることになり、同期外れが起こりにくくなるという利点も生じる。
【0030】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態における光シリアル信号フレームと、それに含まれる制御信号フレーム8Bを図4に示すが、この制御信号フレーム8B(図4)の用い方には様々な方法がある。次に第2実施形態の第1使用方法と第2使用方法について順に述べる。
【0031】
<第2実施形態の第1使用方法>
図4は、第1実施形態で示した同期パターンを含まない制御信号フレーム8A(図1)に、上流セルでの通信異常有無を示す信号(通信異常有無信号)12と通信異常セル番号13を付加したものである。
図4においては、通信異常有無信号12と通信異常セル番号13によって、セル24(C11〜C1n、C21〜C2n、C31〜C3n、図2)に異常が起きた場合には、異常がどのようなものであったとしても、異常の有無(通信異常有無信号12)と異常が起きたセル番号(通信異常セル番号13)とは、共通の情報として表記されるものである。
なお、通信異常有無信号12と通信異常セル番号13とを併せて、適宜、通信異常診断情報信号と表記する。
【0032】
第kセルにおいて、特定パターン1の未受信、あるいは受信信号と特定パターン1との不一致による通信異常を検出した場合、第k−1セルでの送信から第kセルでの受信までの間で通信異常が発生したものと判断し、上流セルでの通信異常有無信号12を通信異常有りとし、さらに通信異常セル番号13をダミー情報から第k−1セルを示す信号に書き換えて、新たな制御信号フレームを生成する。
そして、その新たな制御信号フレームを第k+1セルに送信する。
第k+1セル以降では、特定パターン1での通信異常検出結果によらず、上流セルでの通信異常有無信号12と通信異常セル番号13とを、そのまま次のセルに送信する。
【0033】
これによって、中央制御装置26で「通信異常有り」と「そのセル番号」の信号を受信することになり、この情報を基に、装置保護のために各セル24にスイッチング素子(35A、35B、36A、36B、図3)をオフにする信号を送信したり、何らかの方法でユーザが見える形で出力して、修理すべき箇所を明確にしたりすることができる。
【0034】
<第2実施形態の第2使用方法>
次に、第2実施形態の第2使用方法について説明する。第2実施形態の第2使用方法における制御信号フレーム8Bは、第2実施形態の第1使用方法と同じく、図4に示す構成である。
第2実施形態の第1使用方法では、上流セルでの通信異常有無信号12と通信異常セル番号13は、第k+1セル以降の特定パターン1での通信異常検出結果によらず同じ信号とした。
しかし、第2実施形態の第2使用方法においては、第kセルから送信する新たな制御信号フレームの特定パターン1を、通信異常が無い場合に送信する特定パターンと同一にして、第k+1セル以降での特定パターン1の未受信あるいは不一致によって検出した通信異常を、通信異常セル番号13に含めるものとする。
【0035】
すなわち、第kセルでは、上流セルでの通信異常有無信号12と通信異常セル番号13以外の信号は、仮想的に通信異常が無かったものとして送信する。そして、第k+1セル以降で新たに特定パターン1の未受信あるいは不一致によって通信異常を検出した場合、通信異常セル番号13として送信されてきた情報に、今回の異常セル番号の情報を独立して含めることによって、通信異常が発生したセル番号を、すべて中央制御装置26(図1)に送信することができ、複数のセル24または光ファイバケーブル25で同時に故障した場合に非常に有用である。
【0036】
この方法は、セル(24、図1)数が多くなるほど通信異常セル番号13に割り当てるビット数を増やす必要があり、セル(24、図2)数が多い場合には、制御信号フレーム8A(図1)、8B(図4)の時間的長さが長くなることが課題となるが、通信異常検出を制御信号フレーム8A、8Bに含まれない特定パターン1によって行っているため、後記する比較参考としての図6の方法に比べて制御信号フレーム8A、8Bの時間的長さは短くなり、制御周期時間9が短い場合でも実現できる可能性は高くなる。
【0037】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図5の制御信号フレーム8Cは、第1実施形態で示した同期パターンを含まない制御信号フレーム8Aに、全セル共通制御信号14を含めたものである。また、複数の制御信号フレーム8Cの間に特定パターン1を備えている。
第kセルにおいて、特定パターン1の未受信、あるいは受信信号と特定パターン1との不一致による通信異常を検出した場合に、全セル共通制御信号14に各セル(24、図2)のスイッチング素子(35A、35B、36A、36B、図3)をオフにする制御信号を設定し、新たな制御信号フレームを生成し、その新たな制御信号フレームを第k+1セルに送信する。
【0038】
さらに、自分自身(第kセル)のスイッチング素子(35A、35B、36A、36B、図3)をすべてオフにする。第k+1セル以降では、スイッチング素子(35A、35B、36A、36B、図3)をオフにする制御信号を含んだ全セル共通制御信号14を受信することで、自分自身のスイッチング素子(35A、35B、36A、36B、図3)をすべてオフにする制御を実施し、制御信号フレーム8Cを、そのまま次のセルに送信する。
これにより、第kセルから第Nセルまでのセルは、スイッチング素子(35A、35B、36A、36B、図3)がすべてオフになる。
【0039】
また、スイッチング素子(35A、35B、36A、36B、図3)をオフにする制御信号を含んだ全セル共通制御信号14を第Nセルから受信した中央制御装置26(図2)もまた、全セル共通制御信号14の部分をそのまま第1セルに送信する。
第1セルから第k−1セルも、第kセルから第Nセルと同じく、スイッチング素子をオフにする制御信号を含んだ全セル共通制御信号14を受信することで、自分自身のスイッチング素子をすべてオフにする制御を実施し、制御信号フレーム8Cをそのまま次のセルに送信する。
【0040】
以上により、第k−1セルまで制御信号フレーム8Cが伝送されれば、すべてのスイッチング素子(35A、35B、36A、36B、図3)がオフになり、装置(電力変換装置23、図2)を保護することができる。
本実施形態では、特定パターン1を用いて、すべてのスイッチング素子をオフにするため、同期パターン11(図6)が不要である。したがって、制御信号フレーム8Cに同期パターン11(図6)が含まれていないため、後記する参考比較としての図6の方法に比べて、短い時間で全セル24(C11〜C1n、C21〜C2n、C31〜C3n、図2)に対して、すべてのスイッチング素子(35A、35B、36A、36B、図3)をオフにする信号を送信できる。つまり、通信異常検出から短時間で装置(電力変換装置23)の保護ができるようになる効果がある。
【0041】
(その他の実施形態)
なお、本発明の第1実施形態では、自励式無効電力補償装置を想定した回路構成で示しているが、本発明の適用範囲は自励式無効電力補償装置に限られたものではなく、カスケード接続された電力変換装置全般に適用できる。すなわち、電力変換装置23の回路構成は、図2で示したカスケード・マルチレベル変換器(CMC)のみでなく、図7に示すモジュラー・マルチレベル変換器(MMC:Modular Multilevel Converters)などの回路構成でもよい。
【0042】
図7はモジュラー・マルチレベル変換器73の概略の構成を示している。図7(a)において、モジュラー・マルチレベル変換器73は、変圧器72を介して三相電力系統71に連系している。モジュラー・マルチレベル変換器73は、図7(a)における上下2組のマルチレベル変換器で構成されている。それぞれのマルチレベル変換器においては、複数の単相電力変換器であるセル74を、3相を構成する第1〜第3アーム毎に直列に接続(カスケード接続)して、第1〜第3アームの各一端を、変圧器72の二次側に接続している。また、第1〜第3アームの各他端を、それぞれ交流リアクトル79介して共通線70Aもしくは共通線70Bに接続している。また、共通線70Aと共通線70Bは直流リンクしている。
なお、図7(b)は、図7(a)に用いられるセル74の回路構成を示したもので、IGBT75、76と直流コンデンサ78で構成されている。
【0043】
また、第1実施形態として示した図2、図3におけるセル24において、用いられる直流コンデンサ39(図3)の代わりに蓄電池を備えたものでもよい。また図7(b)における直流コンデンサ78の代わりに蓄電池を備えたものでもよい。
【0044】
また、第1実施形態では単相電力変換器であるセル24において、主回路34(図3)の変換器部分をIGBTによるフルブリッジ回路構成で説明したが、このフルブリッジ回路(主回路34)の代わりに双方向チョッパ回路を用いてもよい。ただし、ゲートドライバ33の制御回路(図3)は双方向チョッパ回路に対応するものに変える。
【0045】
また、第1実施形態では単相電力変換器であるセル24において、主回路34の変換器部分をIGBTからなるスイッチング素子を用いる説明をしたが、他のスイッチング素子でもよい。
すなわち、GTO(Gate-Turn-Off thyristor)、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などのオン・オフ制御のスイッチング素子の場合でも適用可能である。
【0046】
また、図1には示していないが、チェックサム(Check Sum、誤り検出符号の一種)やCRC(Cyclic Redundancy Check、巡回冗長検査)などを、制御信号フレーム8A(8B、8C)に含んでも構わない。
【0047】
また、第2実施形態の制御信号フレーム8Bにおいて、通信異常診断情報信号としては、通信異常有無信号12と通信異常セル番号13とを用いていることを述べたが、通信異常診断情報信号として別の要素を加えてもよい。例えば、異常原因や重大度や日時などをデジタル信号で付加してもよい。
【0048】
また、図1の制御信号フレーム8A(8B、8C)と特定パターン1によって制御される図2の本実施形態の電力変換装置は無効電力補償装置として用いられると説明したが、用途はそれに限らない。信号の制御方法を変えれば電力用のインバータやコンバータにも適用が可能であり、その際に、図1の制御信号フレーム8A(8B、8C)と特定パターン1とを用いる方法は有効である。
【0049】
(比較参考としての光シリアル信号フレーム)
図6に比較参考として、制御信号フレーム8Dを備える光シリアル信号フレームの構成を示す。
図6の制御信号フレーム8Dにおいては、同期パターン11を含んでいる。また、信号を送らない「信号なし」の区間101が光シリアル信号フレームにある。この制御信号フレーム8Dは、同期パターン11の未受信あるいは不一致によって同期外れ、すなわち前セルからの送信不能や光ファイバケーブル25(図2)の断線などの通信異常が発生したものとして構成している。
しかし、前記したように、このように同期パターン11を制御信号フレーム8Dに含めると、制御信号フレーム8Dが長くなり、その送信に要する時間(同期時間)が長くなるという問題がある。
【0050】
(本発明、実施形態の補足)
本実施形態の概略は、無効電力補償装置の機能を果たす電力変換装置を、カスケード接続された複数の単相電力変換器(セル)と、それを制御する中央制御装置とを備えて構成する。さらに前記中央制御装置と複数の単相電力変換器(制御装置)をデイジーチェーン構造で構成する。そして、前記複数の単相電力変換器を制御する光シリアル信号フレームを、制御信号フレームと、この前記制御信号フレームとは区別できる特定パターンの信号とで構成して、送受信することにより、通信異常を判定するものである。
以上の構成と方法により、各単相電力変換器の制御装置からの送信不能や光ファイバケーブルの断線や短絡などによる通信不通といった異常の検出を、制御信号フレームを長くすることなく、容易にかつ低コストで行うことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 特定パターン、(通信異常を判定する特定パターン)
2 START、信号開始マーク
3 同期対象キャリア番号
4 対象セル番号、(対象となるセル番号)
5 変調率、(変調率信号)
6 直流コンデンサ電圧、(直流コンデンサ電圧信号あるいは直流コンデンサ電圧ダミー情報)、(直流コンデンサ電圧信号または直流コンデンサ電圧のダミー信号からなる信号の列)
7 END、信号終了マーク
8A、8B、8C、8D 制御信号フレーム(1フレーム分)
9 制御周期時間
10 制御信号フレームの無い時間
11 同期パターン
12 通信異常有無信号、上流セルでの通信異常有無を示す信号、(通信異常診断情報信号)
13 通信異常セル番号、通信異常セルダミー情報、(通信異常診断情報信号)
14 全セル共通制御信号
101 信号なし
21、71 三相電力系統
22、72 変圧器
23 電力変換装置、カスケード・マルチレベル変換器、無効電力補償装置、自励式無効電力補償装置、カスケード接続型自励式無効電力補償装置
24、74 単相電力変換器、セル
25 光ファイバケーブル
26 中央制御装置、第1制御装置
27 中央制御部
28 光通信マスタ
29、79 交流リアクトル
31 ドライバ電源
32 電圧センサ
33 ゲートドライバ
34 主回路、ブリッジ構成の主回路
35A、35B、36A、36B、75、76 スイッチング素子、IGBT
37 セル制御装置、単相電力変換器制御装置、第2制御装置
38 光通信スレーブ
39、78 直流コンデンサ
70A、70B 共通線
73 電力変換装置、モジュラー・マルチレベル変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カスケード接続された複数の単相電力変換器と該複数の単相電力変換器を制御する第1制御装置とを備えた電力変換装置であって、
前記複数の単相電力変換器はそれぞれに第2制御装置を有し、
前記第1制御装置と前記複数の第2制御装置はデイジーチェーン構造の通信手段で接続され、
前記第2制御装置が前記デイジーチェーン構造の通信手段を介して制御信号を送受信するとともに、制御信号フレーム以外に前記制御信号フレームとは区別できる特定パターン信号を送受信し、前記第2制御装置での前記特定パターン信号の未受信あるいは受信信号と前記特定パターン信号との不一致により通信異常を判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御信号に通信異常に係る通信異常診断情報信号を含み、前記第2制御装置での前記特定パターン信号の未受信あるいは受信信号と前記特定パターン信号との不一致により通信異常と判定した際に、該通信異常の情報を前記通信異常診断情報信号に含めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記通信異常診断情報信号が通信異常の要因の異なる他の異常診断情報信号と共通の情報を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電力変換装置において、
前記第2制御装置での前記特定パターン信号の未受信あるいは受信信号と前記特定パターン信号との不一致により通信異常と判定した際に、通信異常と判定した第2制御装置あるいは前記通信異常と判定した第2制御装置とデイジーチェーン接続された直前の第2制御装置を特定する情報を前記通信異常診断情報信号に含めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電力変換装置において、
前記第2制御装置での前記特定パターン信号の未受信あるいは受信信号と前記特定パターン信号との不一致により通信異常と判定した際に、通信異常と判定した前記第2制御装置とデイジーチェーン接続されたすべての第2制御装置が制御する単相電力変換器のスイッチング素子をオフにすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電力変換装置において、
前記第2制御装置での前記特定パターン信号の未受信あるいは受信信号と前記特定パターン信号との不一致により通信異常と判定した際に、通信異常と判定した前記第2制御装置とデイジーチェーン接続された直前の第2制御装置が制御する単相電力変換器のスイッチング素子をオフにすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の電力変換装置において、
前記各単相電力変換器は、
オン・オフ制御スイッチング素子と、
直流コンデンサで構成された主回路と、
前記直流コンデンサの電圧を検出する電圧センサと、
を備えて構成され、
前記第2制御装置は、前記第1制御装置からの信号受信と、前記オン・オフ制御スイッチング素子のゲートパルスの生成と、前記電圧センサから前記第1制御装置への信号送信と、を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電力変換装置において、
前記第2制御装置が前記第1制御装置から受信する信号は、
信号開始マークと、同期対象キャリア番号と、対象となるセル番号と、前記対象となるセル番号を付した変調率信号と、直流コンデンサ電圧信号または直流コンデンサ電圧のダミー信号からなる信号の列と、信号終了マークと、を有する制御信号フレームと、
前記制御信号フレームと区別されるパターンからなる前記特定パターン信号と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電力変換装置において、
前記制御信号フレームがおおよそ一定周期で前記第1制御装置から送信されることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−100398(P2012−100398A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244884(P2010−244884)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】