電力変換装置
【課題】メインスイッチM1のスイッチング操作によって損失が生じること。
【解決手段】メインスイッチM1には、サブダイオードDs3を介してコンデンサCsが接続され、コンデンサCsには、トランスTの1次側コイルT1およびサブスイッチS1が並列接続されている。一方、メインダイオードDm2には、サブダイオードDs2、トランスTの2次側コイルT2およびサブインダクタLsが並列接続されている。メインスイッチM1がオフ状態に切り替えられる際、その両端の電圧の上昇は、コンデンサCsの充電速度によって制限される。その後、サブスイッチS1をオン操作することで、メインダイオードDm2に流れていた電流をトランスT側に転流させる。これにより、メインスイッチM1のオン操作に際してこれに流れる電流をサブインダクタLsによって制限する。
【解決手段】メインスイッチM1には、サブダイオードDs3を介してコンデンサCsが接続され、コンデンサCsには、トランスTの1次側コイルT1およびサブスイッチS1が並列接続されている。一方、メインダイオードDm2には、サブダイオードDs2、トランスTの2次側コイルT2およびサブインダクタLsが並列接続されている。メインスイッチM1がオフ状態に切り替えられる際、その両端の電圧の上昇は、コンデンサCsの充電速度によって制限される。その後、サブスイッチS1をオン操作することで、メインダイオードDm2に流れていた電流をトランスT側に転流させる。これにより、メインスイッチM1のオン操作に際してこれに流れる電流をサブインダクタLsによって制限する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する第1流通規制要素と、電流の流通方向を規制する機能である整流機能および前記開閉機能の少なくとも一方を有する第2流通規制要素との直列接続体を備えて且つ、前記第1流通規制要素および前記第2流通規制要素の接続点に電力変換用インダクタが接続される電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化の要求に伴って、電子機器のうち電力を供給する装置である磁気部品を備えて構成される電力変換装置についても小型化が求められている。電力変換装置は、磁気部品等の受動部品がその体格の多くを占めるため、電力変換装置を小型化するためには、受動部品の体格を低減することが要求される。これを実現するためには、スイッチング周波数を上昇させる必要がある一方、これによりスイッチング損失が増加し、電力変換効率が低下するという問題が生じる。ここで、スイッチング損失とは、スイッチング素子のスイッチング状態を切り替える際の電流経路の両端の電位差と電流経路を流れる電流との積の時間積分値によって定量化されるものである。
【0003】
上記スイッチング損失を低減すべく、従来、例えば下記特許文献1に見られるように、降圧チョッパ回路において、スイッチング素子に並列にダイオードおよびスナバコンデンサの直列接続体を接続するものも提案されている。これにより、スイッチング素子のオフ状態への切り替えに際し、その両端の電圧をスナバコンデンサの充電電圧の変化によって制限することができ、ひいてはスイッチング損失を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−178116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、上記技術では、スイッチング状態のオフ状態への切り替えに際してのスイッチング損失を低減することができるものの、スイッチング状態のオン状態への切り替えに際してのスイッチング損失を低減することはできない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する流通規制要素の開状態と閉状態との切替に際しての損失を好適に低減することのできる新たな電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する第1流通規制要素と、電流の流通方向を規制する機能である整流機能および前記開閉機能の少なくとも一方を有する第2流通規制要素との直列接続体を備えて且つ、前記第1流通規制要素および前記第2流通規制要素の接続点に電力変換用インダクタが接続される電力変換装置において、前記第1流通規制要素に並列接続されたコンデンサと、前記コンデンサに並列接続されたトランスの1次側コイルおよびサブスイッチと、前記第2流通規制要素に並列接続された前記トランスの2次側コイルと、前記1次側コイルの一対の端子のうち前記電力変換用インダクタ側ではない方の端子と前記2次側コイルの一対の端子のうち前記電力変換用インダクタ側ではない方の端子とを接続する経路内に設けられて且つ低電位側から高電位側への電流の流れを許容して逆方向の電流の流れを禁止する第1サブ規制要素と、前記2次側コイルを備えて前記第2流通規制要素を迂回する経路における電流の流通方向として低電位側から高電位側への方向を許容して逆方向を禁止する第2サブ規制要素と、前記電力変換用インダクタおよび前記コンデンサを接続する経路に流れる電流の流通方向を、前記第1流通規制要素を開状態に切り替える際における電流の流通方向に制限するための第3サブ規制要素とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記発明では、第1流通規制要素を開状態とする際のその両端の電圧の変化をコンデンサの電圧の変化によって制限することができるため、損失を低減することができる。一方、第1流通規制要素を開状態とすることで第2流通規制要素を流れる電流は、サブスイッチをオン操作することで、トランスの1次側コイルや2次側コイルに流れるようになる。このため、第1流通規制要素を閉状態に切り替える際にその電流の流通経路を流れる電流量をトランスによって制限することができる。このため、この際の電力損失をも低減することができる。さらに、コンデンサの充電電荷については、トランスを介して理論的には損失を伴うことなく流出させることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記コンデンサは、容量を可変とするものであることを特徴とする。
【0011】
第1流通規制要素を開状態に切り替えることで第2流通規制要素に電流を流すためには、第1流通規制要素の両端の電圧を上記直列接続体の両端の電圧に上昇させることが必要である。しかし、第1流通規制要素の両端の電圧は、コンデンサの充電電圧によって制限されている。このため、インダクタを流れる電流が小さい場合、コンデンサの充電電圧の変化速度が低下し、第2流通規制要素に電流を流すまでに要する時間が伸長したり、第1流通規制要素の両端の電圧を上記一対の端子間の電圧まで上昇させることができなくなったりするおそれがある。一方、コンデンサの静電容量を小さくすると、インダクタを流れる電流が大きい場合には、コンデンサの充電電圧の変化速度が過度に大きくなる。このため、第1流通規制要素を開状態に切り替える際のその両端の電圧の上昇速度が大きくなり、ひいては損失の低減効果が低下するおそれがある。
【0012】
上記発明では、この点に鑑み、静電容量を可変とすることで、インダクタを流れる電流量にかかわらず、電力損失を適切に低減することが可能となる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記トランスの2次側コイルを備えて前記第2流通規制要素を迂回する経路は、サブインダクタを備えることを特徴とする。
【0014】
上記発明では、トランスを理想に近い変成器とした場合であっても、第1流通規制要素を閉状態に切り替えるに際してその電流の漸増速度を磁気部品(サブインダクタ)によって制限することができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記サブインダクタと前記2次側コイルとは、巻線の少なくとも1部を共有化していることを特徴とする。
【0016】
上記発明では、磁気部品を小型化することが容易となる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記トランスの1次側コイルおよび2次側コイルの双方を鎖交するループ経路を構成する磁心を備え、該磁心は、前記1次側コイルのみを鎖交するループ経路、および前記2次側コイルのみを鎖交するループ経路をさらに構成するものであることを特徴とする。
【0018】
上記発明では、トランスに漏れ磁束を生じさせることで、等価回路がサブインダクタを備えた構成とすることができる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記サブスイッチを、前記第1流通規制要素が開状態である期間においてオン状態に切り替えるサブスイッチ操作手段をさらに備えることを特徴とする。
【0020】
サブスイッチをオン状態に切り替えると、電力変換用インダクタを流れる電流がトランスの1次側コイルを介してサブスイッチを流れ、ひいては2次側コイルに電流が流れる。このため、第1流通規制要素を閉状態に切り替える際にこれに流入する電流をトランスに流れる電流によって制限することができる。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記サブスイッチをオン状態に維持する期間を、前記電力変換用インダクタを流れる電流量を前記直列接続体の両端の電圧で除算した値が大きいほど長くすることを特徴とする。
【0022】
第1流通規制要素を閉状態に切り替える際にこれに急激に流入する電流量は、トランスを介して第2流通規制要素を迂回することのない電流量に比例する。そして、この電流量を小さくするためには、電力変換用インダクタに流れる電流が大きいときには迂回する電流も大きくすることが望ましい。一方、迂回する電流量は、サブスイッチのオン時間と、上記直列接続体の両端の電圧との積に比例する。上記発明では、この点に鑑み、電力変換用インダクタを流れる電流量を上記直列接続体の両端の電圧で除算した値が大きくなるほどサブスイッチをオン状態に維持する期間を長くすることで、電力変換用インダクタを流れる電流量にかかわらず、トランスを介して第2流通規制要素を迂回することのない電流量を制限することができる。
【0023】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記第2サブ規制要素は、ダイオードであり、前記第2流通規制要素を迂回する経路に並列且つ前記第2サブ規制要素に直列に、低電位側から高電位側への電流の流れを許容して且つ逆方向の電流の流れを阻止する整流手段が設けられた還流経路をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
上記ダイオードを流れる順方向電流がゼロとなることで、このダイオードにリカバリ電流が流れる。そして、リカバリ電流が流れることで上記迂回する経路に蓄えられたエネルギは、リカバリ電流が減少する際に、大きなサージ電圧となるおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、サージ電圧による電流の流れを許容する整流手段が設けられた還流経路を備えることで、サージ電圧が過大となる事態を好適に抑制することができる。
【0025】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記還流経路には、高電位側から低電位側へと進む方向を順方向とするツェナーダイオードが備えられることを特徴とする。
【0026】
上記発明では、電力変換用インダクタを流れる電流が一時的にゼロとなる期間において、トランスの1次側コイルに印加される電圧に応じて2次側コイルに誘起される電圧によって、還流経路を電流が流れることを阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる磁気部品の構成を示す図。
【図3】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示す回路図。
【図4】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示す回路図。
【図5】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示すタイムチャート。
【図6】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示す回路図。
【図7】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示すタイムチャート。
【図8】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図9】同実施形態にかかる容量の変更処理の手順を示す流れ図。
【図10】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図11】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【図12】第5の実施形態にかかるシステム構成図。
【図13】第6の実施形態にかかるシステム構成図。
【図14】上記各実施形態にかかる変形例の磁気部品の構成を示す図。
【図15】上記各実施形態にかかる変形例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる電力変換装置を車載主機としての電動機10に電力を供給する電力変換装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0030】
図示される電動機10は、車載主機であり、図示しない駆動輪に機械的に連結されている。電動機10は、インバータ12およびコンバータCVを介して高電圧バッテリ14および平滑用のコンデンサ16に接続されている。ここで、コンバータCVは、昇圧チョッパ回路においてスイッチング損失を低減するための補助回路を追加したものである。すなわち、コンバータCVの主回路は、メインスイッチM1およびこれに逆並列接続されたメインダイオードDm1と、メインダイオードDm2との直列接続体を備え、これらの接続点と高電圧バッテリ14の正極との間にメインインダクタLmが接続されるとともに、直列接続体にコンデンサ18が並列接続されて構成される。ここで、メインスイッチM1として、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を例示している。これに対し、コンバータCVの補助回路は、以下の構成となる。
【0031】
すなわち、メインスイッチM1には、サブダイオードDs3およびコンデンサCsの直列接続体が並列接続され、コンデンサCsには、トランスTの1次側コイルT1およびサブスイッチS1の直列接続体が並列接続されている。ここで、サブスイッチS1として、本実施形態では、MOS電界効果トランジスタを例示しており、これには寄生ダイオードとして、ダイオードDbが逆並列接続されている。
【0032】
一方、メインダイオードDm2には、サブダイオードDs2、トランスTの2次側コイルT2およびサブインダクタLsが並列接続されている。さらに、トランスTの1次側コイルT1とサブインダクタLsとの間には、ダイオードDs1が接続されている。
【0033】
上記トランスTの2次側コイルT2とサブインダクタLsとは、図2に示すように、同一の巻線によって構成される。すなわち、トランスTのコア30に巻き付けられる2次側コイルT2は、サブインダクタLsのコア32に巻き付けられる巻線と同一のものである。また、トランスTの1次側コイルT1の巻数は、トランスTの2次側コイルT2の巻数よりも十分に多くなっている。
【0034】
先の図1に示す制御装置20は、高電圧バッテリ14の端子電圧(例えば百V以上)よりも低い端子電圧(例えば数〜十数V)の低電圧バッテリ22を電源とするものであり、コンバータCVの出力電圧を制御すべく、メインスイッチM1やサブスイッチS1に操作信号gm,gwを出力する。以下では、制御装置20によって行なわれるコンバータCVの操作について説明する。
【0035】
図3および図4に、本実施形態にかかるコンバータCVの操作態様について、特にメインインダクタLmを流れる電流が継続してゼロとはならない場合を示す。
【0036】
「状態1:図3(a)」
メインスイッチM1がオン状態とされることで、高電圧バッテリ14側からの電流がメインインダクタLmを介してメインスイッチM1に流れ、メインインダクタLmに磁気エネルギが蓄えられる状態である。
【0037】
「状態2:図3(b)」
メインスイッチM1をオフ状態に切り替えることで、高電圧バッテリ14からの電流がメインインダクタLm、サブダイオードDs3を介してコンデンサCsに流れる状態である。この際、メインスイッチM1の一対の端子(コレクタおよびエミッタ)間の電圧は、コンデンサCsの充電電圧の上昇速度によって制限される。このため、メインスイッチM1のオフ状態への切替に伴う電力損失は低減される。
【0038】
「状態3:図3(c)」
コンデンサCsの充電電圧がコンバータCVの出力電圧(コンデンサ18の電圧)まで上昇することで、メインインダクタLmから出力される電流がメインダイオードDm2を介してコンデンサ18側に出力される状態である。
【0039】
「状態4:図3(d)」
メインスイッチM1をオン状態に切り替えるに先立ち、サブスイッチS1をオン状態に切り替えることで、メインダイオードDm2を流れていた電流をトランスTの2次側コイルT2側に転流させ、メインダイオードDm2に流れていた電流を漸減させるとともに2次側コイルT2側を流れる電流を漸増させる状態である。すなわち、サブスイッチS1をオン状態に切り替えると、メインインダクタLmに流れていた電流の一部がサブダイオードDs3および1次側コイルT1を介してサブスイッチS1に流れる。そして図示されるように、1次側コイルT1にサブダイオードDs3側を正とする電圧が印加される場合に2次側コイルT2にサブインダクタLs側を正とする電圧が誘起されるように接続を設定しているため、トランスTの1次側コイルT1に電流が流れることで、トランスTの2次側コイルT2にも電流が流れる。この際の電流は、1次側コイルT1の巻数の方が2次側コイルT2の巻数よりも多いために、サブスイッチS1を流れる電流と比較して十分に大きくなる。この際、トランスTやサブインダクタLsには、磁気エネルギが蓄えられる。
【0040】
「状態5:図4(a)」
ダイオードDm2を流れる電流がゼロとなった後にメインスイッチM1をオン状態に切り替えた状態である。メインスイッチM1をオン状態に切り替えると、サブインダクタLsの電流の漸減に応じて、メインスイッチM1に流れる電流が漸増するため、この漸増速度は、サブインダクタLsのインダクタンス等によって制限される。これにより、メインスイッチM1のオン状態への切り替えに際しての電力損失が低減される。また、メインスイッチM1をオン状態に切り替えることで、メインスイッチM1およびメインダイオードDm2の接続点の電位が高電圧バッテリ14の負極電位まで低下するため、コンデンサCsの電荷が放電されサブスイッチS1に流れるようになる。
【0041】
上記のように、サブインダクタLsは、メインスイッチM1を流れる電流の漸増速度を制限する機能を有する。これに対し、サブインダクタLsを備えない場合には、トランスTを理想変成器とすることなく、漏れ磁束を有するように構成することが必要となる。なぜなら、理想変成器の場合、1次側コイルT1の電圧と2次側コイルT2の電圧との関係は、巻数比によって定まるため、2次側コイルT2の電圧をコンバータCVの出力電圧まで上昇させることができなくなり、ひいてはメインスイッチM1がオン状態となることで電流を2次側コイルT2に電流を流すことができなくなるからである。
【0042】
「状態6:図4(b)」
サブスイッチS1をオフ状態に切り替えた状態である。この際、トランスTに蓄えられた磁気エネルギがサブダイオードDs1を介して放出されるため、コンデンサCsの放電が継続される。
【0043】
「状態7:図4(c)」
メインインダクタLmを流れる電流が完全にメインスイッチM1を流通する状態である。
【0044】
「状態8:図4(d)」
コンデンサCsの放電が完了されたにもかかわらず、未だトランスTに磁気エネルギが蓄えられているために、メインインダクタLmを流れる電流の一部がトランスTに流入する状態である。なお、トランスTに蓄えられた磁気エネルギがゼロとなることで、メインインダクタLmの電流は全てメインスイッチM1を流れるようになり、状態1に移行する。
【0045】
なお、状態5〜状態7におけるコンデンサCsの放電エネルギは、理論的には無損失で出力端子側に出力され、出力エネルギとして利用されることとなる。
【0046】
図5に、上記コンバータの操作態様に関するタイムチャートを示す。詳しくは、図5(a)に、メインスイッチM1の状態の推移を示し、図5(b)に、サブスイッチS1の状態の推移を示し、図5(c)に、メインインダクタLmを流れる電流の推移を示し、図5(d)に、メインスイッチM1を流れる電流の推移を示し、図5(e)に、メインスイッチM1の流通経路の両端(コレクタエミッタ間)の電圧の推移を示す。また、5(f)に、コンデンサCsの電圧の推移を示し、図5(g)に、サブスイッチS1の両端の電圧の推移を示し、図5(h)に、サブスイッチS1を流れる電流の推移を示し、図5(i)に、メインダイオードDm2の電流の推移を示し、図5(j)に、トランスTの1次側コイルT1の電流の推移を示し、図5(k)に、トランスTの2次側コイルT2の電流の推移を示す。
【0047】
図示されるサブスイッチS1のオン時間Tonは、メインインダクタLmの電流量を出力電圧(コンデンサ18の両端電圧)によって除算した値に比例して長くする。これは、メインスイッチM1がオン状態に切り替えられる際にメインダイオードDm2を流れる電流量を極力低減するための設定である。すなわち、メインインダクタLmを流れる電流のうちメインダイオードDm2を通ることなくトランスTを介して出力される量は、サブスイッチS1のオン時間Tonと出力電圧との積が長くなるほど多くなる。このため、メインインダクタLmを流れる電流量を出力電圧で除算した値が大きくなるほどサブスイッチS1のオン時間Tonを長くすることで、メインスイッチM1のオン状態への切り替えに際してメインダイオードDm2に流れる電流を好適に低減する。ちなみに、図5では、メインスイッチM1がオン状態に切り替えられた後にサブスイッチS1がオフ状態に切り替えられる例が示されているが、この順序は、逆となってもよい。
【0048】
次に、図6を用いて、本実施形態にかかるコンバータCVの操作態様に関し、特にメインインダクタLmを流れる電流が有限時間ゼロとなる場合について説明する。
【0049】
「状態3:図6(a)」
ここでは、メインインダクタLmを流れる電流がゼロとなった状態を示している。
【0050】
「状態4:図6(b)」
サブスイッチS1をオン状態に切り替えた状態である。これにより、コンデンサCsの電荷がトランスTの1次側コイルT1およびサブスイッチS1を介して放電されるが、この際、トランスTの2次側コイルT2には電流が流れない。これは、1次側コイルT1の巻数よりも2次側コイルT2の巻数が小さいために、トランスTの2次側コイルT2に誘起される電圧がコンバータCVの出力電圧と比較して小さくなるためである。このため、トランスTの1次側コイルT1はリアクトルとして機能し、コンデンサCsの放電エネルギを磁気エネルギとして蓄える。
【0051】
「状態5:図6(c)」
メインスイッチM1をオン状態に切り替えた状態である。この場合、メインスイッチM1を流れる電流の漸増速度は、メインインダクタLmのインダクタンスによって制限されるため、オン状態への切り替えをゼロ電流スイッチング(ZCS)として、電力損失を低減できる。
【0052】
「状態6:図6(d)」
サブスイッチS1をオフ状態に切り替えた状態である。これにより、トランスTに磁気エネルギとして蓄えられていたエネルギは、1次側コイルT1およびサブダイオードDs1を介して出力端子へと出力される。これにより、コンデンサCsの充電エネルギは、理論的には無損失で出力エネルギとして利用されることとなる。なお、コンデンサCsの充電電圧がゼロとなることで状態1に戻る。
【0053】
図7に、上記コンバータCVの操作態様にかかるタイムチャートを示す。なお、図7(a)〜図7(k)のそれぞれは、先の図5(a)〜図5(k)のそれぞれに対応している。
【0054】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0055】
(1)メインスイッチM1に並列接続されたコンデンサCsと、コンデンサCsに並列接続されたトランスTの1次側コイルT1およびサブスイッチS1と、メインダイオードDm2に並列接続されたトランスTの2次側コイルT2と、サブインダクタLsとを備えた。これにより、メインスイッチM1をオフ操作する場合には流通経路の両端の電圧の変化をコンデンサCsの電圧の変化によって制限することができるため、損失を低減することができる。また、メインスイッチM1をオン操作するに際しては、これに流入する電流をサブインダクタLsによって制限することができるため、この際の電力損失をも低減することができる。
【0056】
(2)サブダイオードDs1を備えた。これにより、サブスイッチS1がオン状態とされる場合であっても、コンバータCVの高電位側の出力端子からサブスイッチS1に電流が流れることを回避することができる。
【0057】
(3)サブダイオードDs2を備えた。これにより、トランスTの2次側コイルT2を介してメインインダクタLmにコンバータCVの高電位側の出力端子の電圧が印加されることを回避することができる。
【0058】
(4)サブダイオードDs3を備えた。これにより、コンデンサCsの電圧がメインスイッチM1へと流出することを回避することができる。
【0059】
(5)トランスTの2次側コイルT2とサブインダクタLsとで、巻線を共有化した。これにより、磁気部品を小型化することが容易となる。
【0060】
(6)メインスイッチM1がオフ状態である期間においてサブスイッチS1をオン状態に切り替えた。これにより、メインインダクタLmを流れる電流をメインダイオードDm2側からサブインダクタLs側に転流させることができ、ひいてはメインスイッチM1のオン状態への切り替えに際してこれに流入する電流を制限することができる。
【0061】
(7)サブスイッチS1をオン状態に維持する期間を、メインインダクタLmを流れる電流量を出力電圧によって除算した値が大きいほど長くした。これにより、メインスイッチM1をオン状態に切り替えるに際してメインダイオードDm2に流れている電流量を小さくする制御を容易に実現することができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0062】
上記メインインダクタLmを流れる電流が大きく変動する場合、先の図1に示した構成によってメインスイッチM1をオフ状態に切り替える際の電力損失を適切に低減することは困難となる。すなわち、コンデンサCsの容量を小さくすると、メインインダクタLmの電流が大きいときに、コンデンサCsの充電電圧の変化速度が大きくなり、ひいてはメインスイッチM1をオフ状態に切り替える際にその一対の端子間の電圧の上昇速度が大きくなる。一方、コンデンサCsの容量を大きくすると、メインインダクタLmの電流が小さいときに、コンデンサCsの充電電圧がコンバータCVの出力電圧に達することができず、電流を出力できなくなる。このように、メインインダクタLmを流れる電流が大きく変化する場合には、とり得る電流の全領域において、コンデンサCsの静電容量として適切な値を設定することは非常に困難または不可能となる。
【0063】
そこで本実施形態では、図8に示すように、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を可変とする。図8は、本実施形態にかかるコンバータCVの回路構成を示す。なお、図8において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0064】
図示されるように、メインスイッチM1には、サブダイオードDs3を介して、サブスイッチScおよびコンデンサCs2の直列接続体と、コンデンサCs1とが並列接続されている。これにより、サブスイッチScがオン状態となる場合と比較してオフ状態となる場合には、メインスイッチM1に並列接続されたコンデンサの容量を減少させることができる。
【0065】
図9に、上記容量の可変制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0066】
この一連の処理では、まずステップS10において、メインインダクタLmを流れる電流量が閾値電流Ith以上であるか否かを判断する。この処理は、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を増加させるか否かを判断するためのものである。ここで、閾値電流Ithは、メインスイッチM1のオフ時間よりも短い時間内に、メインインダクタLmの電流によってコンデンサCs1、Cs2の双方をコンバータCVの出力電圧まで充電することのできる条件によって定めればよい。
【0067】
上記ステップS10において肯定判断される場合、ステップS12においてサブスイッチScをオン操作することで、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を増加させる。一方、ステップS10において否定判断される場合、ステップS14においてサブスイッチScをオフ操作することで、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を減少させる。
【0068】
なお、上記ステップS12、S14の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0069】
以上詳述した本実施形態によれば、上記第1の実施形態の上記(1)〜(7)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0070】
(8)メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を可変とした。これにより、メインインダクタLmを流れる電流が大きく変動する場合であっても、メインスイッチM1のオフ状態への切り替えに際してその一対の端子(コレクタおよびエミッタ)間の電圧の上昇速度を適切に制限することができる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0071】
図10は、本実施形態にかかるコンバータCVの回路構成を示す。なお、図10において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0072】
本実施形態では、降圧チョッパ回路に上記第1の実施形態の補助回路を追加した。すなわち、降圧チョッパ回路では、高電圧バッテリ14およびコンデンサ18に、メインスイッチM2とメインダイオードDm1との直列接続体が並列接続されており、これらメインスイッチM2とメインダイオードDm1との接続点には、メインインダクタLmを介してコンデンサ16が接続されている。ちなみに、メインスイッチM2には、メインダイオードDm2が逆並列接続されている。
【0073】
一方、補助回路においては、サブダイオードDs2,Ds3を、メインスイッチM2およびメインダイオードDm1の接続点側にカソードがくるように接続する。また、サブダイオードDs1を、サブスイッチS1側にカソードがくるように接続する。
【0074】
こうした構成において、メインスイッチM2のオン・オフ操作によって、高電圧バッテリ14の電圧を降圧してコンデンサ16側に出力することができる。この際、メインスイッチM2をオフ状態に切り替える際のメインスイッチM2の両端の電圧の上昇速度は、コンデンサCsの充電電圧の上昇速度によって制限される。また、メインスイッチM2がオフ状態とされてからサブスイッチS1をオン状態に切り替えることで、メインダイオードDm1を流れる電流をサブインダクタLsやトランスT側に転流させることができる。このため、メインスイッチM2をオン状態に切り替える際のメインスイッチM2の電流の漸増速度を、サブインダクタLsのインダクタンスによって制限することができる。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0075】
図11は、本実施形態にかかるコンバータCVの回路構成を示す。なお、図11において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0076】
図示されるように、本実施形態では、双方向の昇圧チョッパ回路に補助回路を追加した。ここで、双方向の昇圧チョッパ回路は、先の図1に示した昇圧チョッパ回路において、メインスイッチM2を追加することで構成される。また、補助回路は、メインスイッチM1、M2のそれぞれに対応して備えられる。
【0077】
ここで、高電圧バッテリ14からコンデンサ18に電流を出力する昇圧動作に際しては、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサCsを備える側の追加回路を動作させればよい。また、コンデンサ18から高電圧バッテリ14に電流を出力する降圧動作に際しては、メインスイッチM2に並列接続されるコンデンサCsを備える側の追加回路を動作させればよい。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0078】
図12は、本実施形態にかかるコンバータCVの回路構成を示す。なお、図12において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0079】
図示されるように、本実施形態にかかるコンバータCVは、反転昇降圧チョッパ回路に、補助回路を追加したものである。
【0080】
すなわち、反転昇降圧チョッパ回路は、高電圧バッテリ14の正極およびコンデンサ18間に接続されるメインスイッチM1およびメインダイオードDm2の直列接続体と、メインスイッチM1およびメインダイオードDm2の接続点と高電圧バッテリ14の負極との間を接続するメインインダクタLmとを備える。なお、メインスイッチM1には、メインダイオードDm1が逆並列接続されている。
【0081】
また、補助回路においては、サブダイオードDs2,Ds3を、メインスイッチM1およびメインダイオードDm2の接続点側がカソードとなるように接続する。また、サブダイオードDs1を、コンデンサ18側からサブスイッチS1側に進む方向を順方向とするように接続する。
【0082】
こうした構成において、メインスイッチM1をオフ状態に切り替える際のその両端の電圧の上昇速度は、コンデンサCsの充電電圧の上昇速度によって制限される。また、メインスイッチM1がオフ状態とされる期間において、サブスイッチS1をオン状態に切り替えることで、メインダイオードDm2を流れていた電流をサブインダクタLs側に転流させることができる。このため、メインスイッチM1をオン状態に切り替える際にメインスイッチM1を流れる電流の増加速度は、サブインダクタLsのインダクタンスによって制限される。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0083】
図13に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図13において、先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0084】
図示されるように、本実施形態では、トランスTの2次側コイルT2およびサブインダクタLsに並列に、ダイオードDsaおよびツェナーダイオードDzが設けられた還流経路を接続する。ここで、ダイオードDsaは、低電位側から高電位側へと進む方向を順方向とするものである。一方、ツェナーダイオードDzは、ダイオードDsaとは逆方向を順方向とするものである。
【0085】
この還流経路は、サブダイオードDs2のリカバリ電流がサブインダクタLsに蓄えられることによって生じるサージ電圧を抑制するためのものである。すなわち、先の図4(b)に示した状態6においてサブインダクタLsを流れていた電流がゼロとなる状態7の初期において、サブダイオードDs2にリカバリ電流が流れる。リカバリ電流は漸増した後漸減するものであり、漸増期間においては、サブインダクタLsにコンデンサ18の正極側を正とする電圧が印加されるため、サブダイオードDs2のカソード側の電位が高くなることはない。これに対し、漸減期間においては、サブインダクタLsにコンデンサ18の正極側を負とする電圧が印加されるため、サブダイオードDs2のカソード側の電位が大きく上昇しうる。
【0086】
この点、上記リカバリ電流の漸減期間においてサブインダクタLsに誘起される電圧によってダイオードDsaに順方向電流が流れることで、サージ電圧を抑制することができる。
【0087】
ここで、ダイオードDsaは、先の図3(d)に示した状態4、先の図4(a)に示した状態5、および先の図4(b)に示した状態6において、サブダイオードDs2、2次側コイルT2、およびサブインダクタLsを流れる電流や、サブダイオードDs1を流れる電流が還流経路を流れることを回避する手段である。これにより、高電圧バッテリ14から出力された電気エネルギや、コンデンサCsに蓄えられた電気エネルギを、還流経路において熱エネルギとして消費することなく、コンデンサ18に出力することができる。
【0088】
一方、ツェナーダイオードDzは、先の図6(d)に示した状態6において、1次側コイルT1に印加される電圧に応じて2次側コイルT2に誘起される電圧によって、還流経路に電流が流れる事態を回避する手段である。これにより、コンデンサCsに蓄えられた電気エネルギを、還流経路において熱エネルギとして消費することなく、コンデンサ18に出力することができる。
【0089】
上記ツェナーダイオードDzのブレークダウン電圧は、1次側コイルT1のターン数N1と2次側コイルT2のターン数N2と、コンデンサ18の電圧(出力電圧Vout)とを用いて、「N2・Vout/N1」よりも大きくなるように設定されている。これは、先の図6(d)に示した状態6において1次側コイルT1に印加される電圧が出力電圧Vout以下であることから、2次側コイルT2に誘起される電圧が、「N2・Vout/N1」以下となることによる。
【0090】
なお、ツェナーダイオードDzを備えることで、サブダイオードDs2のリカバリ電流の漸減期間におけるサージ電圧は、ツェナーダイオードDzのブレークダウン電圧にクランプされる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0091】
「コンデンサの容量の可変手法について」
コンデンサの並列数を可変とするものに限らず、直列数を可変とするものであってもよい。
【0092】
「第1サブ規制要素について」
1次側コイルT1のうちメインインダクタLm側ではない方の端子と、2次側コイルT2のうちメインインダクタLm側ではない方の端子とを接続する経路内に設けられる第1サブ規制要素としては、サブダイオードDs1に限らない。例えば、サイリスタであってもよい。ただし、この場合、状態6〜8においてオン操作する。
【0093】
「第2サブ規制要素について」
2次側コイルT2を介した電流の流通方向として低電位側から高電位側への方向を許容して逆方向を禁止する第2サブ規制要素の配置箇所としては、上記各実施形態におけるサブダイオードDs2の配置箇所に限らない。例えば、先の図1に示した構成において、サブインダクタLsおよびサブダイオードDs1の接続点とサブインダクタLsとの間や、サブインダクタLsと2次側コイルT2との間に接続してもよい。また例えば、先の図10に示した構成において、サブインダクタLsおよびサブダイオードDs1の接続点とサブインダクタLsとの間や、サブインダクタLsと2次側コイルT2との間に接続してもよい。
【0094】
「第3サブ規制要素について」
メインインダクタLmおよびコンデンサCsを接続する経路に流れる電流の流通方向をメインスイッチM1をオフ状態に切り替える際における流通方向に制限するための第3サブ規制要素としては、ダイオードDs3に限らない。例えばMOS電界効果トランジスタ等のスイッチング素子であってもよい。この場合、逆方向に電流が流れうる期間においてスイッチング素子をオフ状態とすればよい。
【0095】
また、サブダイオードDs3の配置箇所としては、上記各実施形態において例示したものに限らない。例えば先の図1におけるサブダイオードDs3については、コンデンサCsの両端に1次側コイルT1およびサブスイッチS1の直列接続体の両端が接続され、コンデンサ16がサブダイオードDs3を介すことなくメインスイッチM1に接続されて且つ、コンデンサ18がサブダイオードDs3を介すことなくメインスイッチM1およびメインダイオードDm2の直列接続体に接続されるとの条件下、メインスイッチM1およびコンデンサCsによって構成されるループ経路上に任意の配置してよい。図15(a)にサブダイオードDs3の配置の一例を示す。なお、この場合、コンデンサCsの放電終了までサブスイッチS1のオン状態を継続することが望ましい。また、先の図10の配置に代えて、図15(b)のように配置してもよい。さらに、先の図12の配置に代えて、図15(c)の配置としてもよい。
【0096】
「サブスイッチのオン期間について」
サブスイッチのオン期間としては、メインインダクタLmに流れる電流量を出力電圧によって除算した値に比例して設定されるものに限らない。例えば固定値としてもよい。
【0097】
「メインスイッチのオン状態への切り替えタイミングについて」
メインスイッチM1のオン状態への切り替えタイミングとしては、メインダイオードDm2に流れる電流がゼロとなったタイミング以降に限らない。メインダイオードDm2に流れる電流の一部でもトランスT側に転流させた状態なら、転流させることがない場合と比較して、メインスイッチM1のオン状態への切り替えに際しての損失を低減することはできる。
【0098】
「トランスとサブインダクタとについて」
先の図2に示したコア30に対する2次巻線の巻数と、コア32に対する巻数とを相違させてもよい。また、巻線を共有しなくてもよい。
【0099】
また、2次側コイルT2とサブインダクタLsとの接続についても上記各実施形態において例示したものに限らない。例えば先の図1に示した構成において、サブインダクタLsをサブダイオードDs2と2次側コイルT2との間に接続してもよい。
【0100】
トランスを理想変成器とすることなく、例えば、等価回路として、2次側コイルにインダクタが直列接続されるものとすることができるなら、実在する部品としてのサブインダクタを備えなくてもよい。
【0101】
図14に、こうしたトランスを例示する。図14(a)は、トロイダルコア(コア30)が1次側コイルT1および2次側コイルT2を鎖交する構成であって且つ、コア30にギャップGを備える例である。ここで、ギャップGは、たとえばコア30よりも透磁率が低い部材をコア30の間に挟み込むことで形成すればよい。この場合、1次側コイルT1や2次側コイルT2を一対の部材に分割されたコア30に巻いた後に、これらを結合させることが容易となるため、コア30への1次側コイルT1および2次側コイルT2の取りつけ処理が容易となる。なお、この構成の場合、ギャップGによって1次側コイルT1と2次側コイルT2との磁気結合が弱められるため、漏れ磁束が多くなり、2次側コイルT2の漏れ磁束がサブインダクタとして機能する。
【0102】
図14(b)は、EEコア(コア30)の3つの足31のうちの2つのそれぞれが1次側コイルT1および2次側コイルT2のそれぞれを鎖交する例である。この場合、コア30は、1次側コイルT1,T2の双方を鎖交するループ経路以外に、1次側コイルT1のみを鎖交するループ経路と、2次側コイルT2のみを鎖交するループ経路とを備える。なお、コア30は、ギャップを備えるようにしてもよい。なお、この構成の場合、2次側コイルT2のみを鎖交するループ経路がサブインダクタとして機能する。
【0103】
図14(c)も、1次側コイルT1および2次側コイルT2の双方を鎖交するループ経路以外に、1次側コイルT1のみを鎖交するループ経路と、2次側コイルT2のみを鎖交するループ経路とを備える例である。ただし、ここでは、1次側コイルT1のみを鎖交するループ経路と、2次側コイルT2のみを鎖交するループ経路との一部が、1次側コイルT1および2次側コイルT2を挟む位置に配置されている。これにより、コア30のうち1次側コイルT1および2次側コイルT2を挟む部分が磁気シールドとして機能するため、他の部品にトランスTの電磁ノイズが影響を与える事態を好適に抑制することができる。
【0104】
「還流経路について」
2次側コイルT2に並列接続されるものに限らない。たとえば先の図1に示す構成において、サブダイオードDs2が2次側コイルT2とサブインダクタLsとの間に配置される場合、還流経路としては、2次側コイルT2に直列且つサブインダクタLsに並列に接続することが望ましい。
【0105】
また、還流経路を、先の図10〜図12に示す2次側コイルT2およびサブインダクタLsに並列に接続してもよい。
【0106】
「ツェナーダイオードDzについて」
先の図6(d)に示した状態6において、コンデンサCsに蓄えられたエネルギが還流経路を流れることで損失となることを無視するなら、これを備えなくてもよい。
【0107】
「電力変換用インダクタについて」
電力変換用インダクタとしては、電力変換装置に搭載されるものに限らない。例えば電力変換装置がインバータを備えて且つ、インバータのスイッチング素子のスイッチング状態の切り替えに伴う損失を低減すべく補助回路を備える場合、電力変換用インダクタを、インバータに接続されるモータのインダクタとしてもよい。
【0108】
「第1流通規制要素について」
電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する第1流通規制要素としては、IGBTに限らない。例えばMOS電界効果トランジスタであってもよい。
【0109】
「第2流通規制要素について」
整流機能および開閉機能の少なくとも一方を有する第2流通規制要素としては、IGBTに逆並列接続されたダイオードを備えるものに限らない。例えば、パワーMOS型電界効果トランジスタ等、整流機能を寄生ダイオードによって実現するものであってもよい。
【0110】
「サブスイッチについて」
サブスイッチとしては、MOS電界効果トランジスタに限らず、例えばIGBTであってもよい。
【0111】
「電力変換装置について」
電力変換装置としては、DCDCコンバータに限らない。例えば直流交流変換回路(インバータ)であってもよい。
【0112】
また、電力変換装置としては、車載主機と高電圧バッテリ14との間の電力の授受を仲介するものに限らない。例えば、車載パワーステアリングに搭載される電動機とバッテリとの間の電力の授受を仲介するものであってもよい。もっとも、車載機器に限らず、例えば建物に備えられる無停電電源装置(UPS)等であってもよい。
【符号の説明】
【0113】
10…電動機、12…インバータ、14…高電圧バッテリ、M1…メインスイッチ、Dm2…メインダイオード、Cs…コンデンサ、T…トランス、Ls…サブインダクタ、S1…サブスイッチ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する第1流通規制要素と、電流の流通方向を規制する機能である整流機能および前記開閉機能の少なくとも一方を有する第2流通規制要素との直列接続体を備えて且つ、前記第1流通規制要素および前記第2流通規制要素の接続点に電力変換用インダクタが接続される電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化の要求に伴って、電子機器のうち電力を供給する装置である磁気部品を備えて構成される電力変換装置についても小型化が求められている。電力変換装置は、磁気部品等の受動部品がその体格の多くを占めるため、電力変換装置を小型化するためには、受動部品の体格を低減することが要求される。これを実現するためには、スイッチング周波数を上昇させる必要がある一方、これによりスイッチング損失が増加し、電力変換効率が低下するという問題が生じる。ここで、スイッチング損失とは、スイッチング素子のスイッチング状態を切り替える際の電流経路の両端の電位差と電流経路を流れる電流との積の時間積分値によって定量化されるものである。
【0003】
上記スイッチング損失を低減すべく、従来、例えば下記特許文献1に見られるように、降圧チョッパ回路において、スイッチング素子に並列にダイオードおよびスナバコンデンサの直列接続体を接続するものも提案されている。これにより、スイッチング素子のオフ状態への切り替えに際し、その両端の電圧をスナバコンデンサの充電電圧の変化によって制限することができ、ひいてはスイッチング損失を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−178116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、上記技術では、スイッチング状態のオフ状態への切り替えに際してのスイッチング損失を低減することができるものの、スイッチング状態のオン状態への切り替えに際してのスイッチング損失を低減することはできない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する流通規制要素の開状態と閉状態との切替に際しての損失を好適に低減することのできる新たな電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する第1流通規制要素と、電流の流通方向を規制する機能である整流機能および前記開閉機能の少なくとも一方を有する第2流通規制要素との直列接続体を備えて且つ、前記第1流通規制要素および前記第2流通規制要素の接続点に電力変換用インダクタが接続される電力変換装置において、前記第1流通規制要素に並列接続されたコンデンサと、前記コンデンサに並列接続されたトランスの1次側コイルおよびサブスイッチと、前記第2流通規制要素に並列接続された前記トランスの2次側コイルと、前記1次側コイルの一対の端子のうち前記電力変換用インダクタ側ではない方の端子と前記2次側コイルの一対の端子のうち前記電力変換用インダクタ側ではない方の端子とを接続する経路内に設けられて且つ低電位側から高電位側への電流の流れを許容して逆方向の電流の流れを禁止する第1サブ規制要素と、前記2次側コイルを備えて前記第2流通規制要素を迂回する経路における電流の流通方向として低電位側から高電位側への方向を許容して逆方向を禁止する第2サブ規制要素と、前記電力変換用インダクタおよび前記コンデンサを接続する経路に流れる電流の流通方向を、前記第1流通規制要素を開状態に切り替える際における電流の流通方向に制限するための第3サブ規制要素とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記発明では、第1流通規制要素を開状態とする際のその両端の電圧の変化をコンデンサの電圧の変化によって制限することができるため、損失を低減することができる。一方、第1流通規制要素を開状態とすることで第2流通規制要素を流れる電流は、サブスイッチをオン操作することで、トランスの1次側コイルや2次側コイルに流れるようになる。このため、第1流通規制要素を閉状態に切り替える際にその電流の流通経路を流れる電流量をトランスによって制限することができる。このため、この際の電力損失をも低減することができる。さらに、コンデンサの充電電荷については、トランスを介して理論的には損失を伴うことなく流出させることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記コンデンサは、容量を可変とするものであることを特徴とする。
【0011】
第1流通規制要素を開状態に切り替えることで第2流通規制要素に電流を流すためには、第1流通規制要素の両端の電圧を上記直列接続体の両端の電圧に上昇させることが必要である。しかし、第1流通規制要素の両端の電圧は、コンデンサの充電電圧によって制限されている。このため、インダクタを流れる電流が小さい場合、コンデンサの充電電圧の変化速度が低下し、第2流通規制要素に電流を流すまでに要する時間が伸長したり、第1流通規制要素の両端の電圧を上記一対の端子間の電圧まで上昇させることができなくなったりするおそれがある。一方、コンデンサの静電容量を小さくすると、インダクタを流れる電流が大きい場合には、コンデンサの充電電圧の変化速度が過度に大きくなる。このため、第1流通規制要素を開状態に切り替える際のその両端の電圧の上昇速度が大きくなり、ひいては損失の低減効果が低下するおそれがある。
【0012】
上記発明では、この点に鑑み、静電容量を可変とすることで、インダクタを流れる電流量にかかわらず、電力損失を適切に低減することが可能となる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記トランスの2次側コイルを備えて前記第2流通規制要素を迂回する経路は、サブインダクタを備えることを特徴とする。
【0014】
上記発明では、トランスを理想に近い変成器とした場合であっても、第1流通規制要素を閉状態に切り替えるに際してその電流の漸増速度を磁気部品(サブインダクタ)によって制限することができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記サブインダクタと前記2次側コイルとは、巻線の少なくとも1部を共有化していることを特徴とする。
【0016】
上記発明では、磁気部品を小型化することが容易となる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記トランスの1次側コイルおよび2次側コイルの双方を鎖交するループ経路を構成する磁心を備え、該磁心は、前記1次側コイルのみを鎖交するループ経路、および前記2次側コイルのみを鎖交するループ経路をさらに構成するものであることを特徴とする。
【0018】
上記発明では、トランスに漏れ磁束を生じさせることで、等価回路がサブインダクタを備えた構成とすることができる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記サブスイッチを、前記第1流通規制要素が開状態である期間においてオン状態に切り替えるサブスイッチ操作手段をさらに備えることを特徴とする。
【0020】
サブスイッチをオン状態に切り替えると、電力変換用インダクタを流れる電流がトランスの1次側コイルを介してサブスイッチを流れ、ひいては2次側コイルに電流が流れる。このため、第1流通規制要素を閉状態に切り替える際にこれに流入する電流をトランスに流れる電流によって制限することができる。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記サブスイッチをオン状態に維持する期間を、前記電力変換用インダクタを流れる電流量を前記直列接続体の両端の電圧で除算した値が大きいほど長くすることを特徴とする。
【0022】
第1流通規制要素を閉状態に切り替える際にこれに急激に流入する電流量は、トランスを介して第2流通規制要素を迂回することのない電流量に比例する。そして、この電流量を小さくするためには、電力変換用インダクタに流れる電流が大きいときには迂回する電流も大きくすることが望ましい。一方、迂回する電流量は、サブスイッチのオン時間と、上記直列接続体の両端の電圧との積に比例する。上記発明では、この点に鑑み、電力変換用インダクタを流れる電流量を上記直列接続体の両端の電圧で除算した値が大きくなるほどサブスイッチをオン状態に維持する期間を長くすることで、電力変換用インダクタを流れる電流量にかかわらず、トランスを介して第2流通規制要素を迂回することのない電流量を制限することができる。
【0023】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記第2サブ規制要素は、ダイオードであり、前記第2流通規制要素を迂回する経路に並列且つ前記第2サブ規制要素に直列に、低電位側から高電位側への電流の流れを許容して且つ逆方向の電流の流れを阻止する整流手段が設けられた還流経路をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
上記ダイオードを流れる順方向電流がゼロとなることで、このダイオードにリカバリ電流が流れる。そして、リカバリ電流が流れることで上記迂回する経路に蓄えられたエネルギは、リカバリ電流が減少する際に、大きなサージ電圧となるおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、サージ電圧による電流の流れを許容する整流手段が設けられた還流経路を備えることで、サージ電圧が過大となる事態を好適に抑制することができる。
【0025】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記還流経路には、高電位側から低電位側へと進む方向を順方向とするツェナーダイオードが備えられることを特徴とする。
【0026】
上記発明では、電力変換用インダクタを流れる電流が一時的にゼロとなる期間において、トランスの1次側コイルに印加される電圧に応じて2次側コイルに誘起される電圧によって、還流経路を電流が流れることを阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる磁気部品の構成を示す図。
【図3】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示す回路図。
【図4】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示す回路図。
【図5】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示すタイムチャート。
【図6】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示す回路図。
【図7】同実施形態にかかる電力変換処理の態様を示すタイムチャート。
【図8】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図9】同実施形態にかかる容量の変更処理の手順を示す流れ図。
【図10】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図11】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【図12】第5の実施形態にかかるシステム構成図。
【図13】第6の実施形態にかかるシステム構成図。
【図14】上記各実施形態にかかる変形例の磁気部品の構成を示す図。
【図15】上記各実施形態にかかる変形例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる電力変換装置を車載主機としての電動機10に電力を供給する電力変換装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0030】
図示される電動機10は、車載主機であり、図示しない駆動輪に機械的に連結されている。電動機10は、インバータ12およびコンバータCVを介して高電圧バッテリ14および平滑用のコンデンサ16に接続されている。ここで、コンバータCVは、昇圧チョッパ回路においてスイッチング損失を低減するための補助回路を追加したものである。すなわち、コンバータCVの主回路は、メインスイッチM1およびこれに逆並列接続されたメインダイオードDm1と、メインダイオードDm2との直列接続体を備え、これらの接続点と高電圧バッテリ14の正極との間にメインインダクタLmが接続されるとともに、直列接続体にコンデンサ18が並列接続されて構成される。ここで、メインスイッチM1として、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を例示している。これに対し、コンバータCVの補助回路は、以下の構成となる。
【0031】
すなわち、メインスイッチM1には、サブダイオードDs3およびコンデンサCsの直列接続体が並列接続され、コンデンサCsには、トランスTの1次側コイルT1およびサブスイッチS1の直列接続体が並列接続されている。ここで、サブスイッチS1として、本実施形態では、MOS電界効果トランジスタを例示しており、これには寄生ダイオードとして、ダイオードDbが逆並列接続されている。
【0032】
一方、メインダイオードDm2には、サブダイオードDs2、トランスTの2次側コイルT2およびサブインダクタLsが並列接続されている。さらに、トランスTの1次側コイルT1とサブインダクタLsとの間には、ダイオードDs1が接続されている。
【0033】
上記トランスTの2次側コイルT2とサブインダクタLsとは、図2に示すように、同一の巻線によって構成される。すなわち、トランスTのコア30に巻き付けられる2次側コイルT2は、サブインダクタLsのコア32に巻き付けられる巻線と同一のものである。また、トランスTの1次側コイルT1の巻数は、トランスTの2次側コイルT2の巻数よりも十分に多くなっている。
【0034】
先の図1に示す制御装置20は、高電圧バッテリ14の端子電圧(例えば百V以上)よりも低い端子電圧(例えば数〜十数V)の低電圧バッテリ22を電源とするものであり、コンバータCVの出力電圧を制御すべく、メインスイッチM1やサブスイッチS1に操作信号gm,gwを出力する。以下では、制御装置20によって行なわれるコンバータCVの操作について説明する。
【0035】
図3および図4に、本実施形態にかかるコンバータCVの操作態様について、特にメインインダクタLmを流れる電流が継続してゼロとはならない場合を示す。
【0036】
「状態1:図3(a)」
メインスイッチM1がオン状態とされることで、高電圧バッテリ14側からの電流がメインインダクタLmを介してメインスイッチM1に流れ、メインインダクタLmに磁気エネルギが蓄えられる状態である。
【0037】
「状態2:図3(b)」
メインスイッチM1をオフ状態に切り替えることで、高電圧バッテリ14からの電流がメインインダクタLm、サブダイオードDs3を介してコンデンサCsに流れる状態である。この際、メインスイッチM1の一対の端子(コレクタおよびエミッタ)間の電圧は、コンデンサCsの充電電圧の上昇速度によって制限される。このため、メインスイッチM1のオフ状態への切替に伴う電力損失は低減される。
【0038】
「状態3:図3(c)」
コンデンサCsの充電電圧がコンバータCVの出力電圧(コンデンサ18の電圧)まで上昇することで、メインインダクタLmから出力される電流がメインダイオードDm2を介してコンデンサ18側に出力される状態である。
【0039】
「状態4:図3(d)」
メインスイッチM1をオン状態に切り替えるに先立ち、サブスイッチS1をオン状態に切り替えることで、メインダイオードDm2を流れていた電流をトランスTの2次側コイルT2側に転流させ、メインダイオードDm2に流れていた電流を漸減させるとともに2次側コイルT2側を流れる電流を漸増させる状態である。すなわち、サブスイッチS1をオン状態に切り替えると、メインインダクタLmに流れていた電流の一部がサブダイオードDs3および1次側コイルT1を介してサブスイッチS1に流れる。そして図示されるように、1次側コイルT1にサブダイオードDs3側を正とする電圧が印加される場合に2次側コイルT2にサブインダクタLs側を正とする電圧が誘起されるように接続を設定しているため、トランスTの1次側コイルT1に電流が流れることで、トランスTの2次側コイルT2にも電流が流れる。この際の電流は、1次側コイルT1の巻数の方が2次側コイルT2の巻数よりも多いために、サブスイッチS1を流れる電流と比較して十分に大きくなる。この際、トランスTやサブインダクタLsには、磁気エネルギが蓄えられる。
【0040】
「状態5:図4(a)」
ダイオードDm2を流れる電流がゼロとなった後にメインスイッチM1をオン状態に切り替えた状態である。メインスイッチM1をオン状態に切り替えると、サブインダクタLsの電流の漸減に応じて、メインスイッチM1に流れる電流が漸増するため、この漸増速度は、サブインダクタLsのインダクタンス等によって制限される。これにより、メインスイッチM1のオン状態への切り替えに際しての電力損失が低減される。また、メインスイッチM1をオン状態に切り替えることで、メインスイッチM1およびメインダイオードDm2の接続点の電位が高電圧バッテリ14の負極電位まで低下するため、コンデンサCsの電荷が放電されサブスイッチS1に流れるようになる。
【0041】
上記のように、サブインダクタLsは、メインスイッチM1を流れる電流の漸増速度を制限する機能を有する。これに対し、サブインダクタLsを備えない場合には、トランスTを理想変成器とすることなく、漏れ磁束を有するように構成することが必要となる。なぜなら、理想変成器の場合、1次側コイルT1の電圧と2次側コイルT2の電圧との関係は、巻数比によって定まるため、2次側コイルT2の電圧をコンバータCVの出力電圧まで上昇させることができなくなり、ひいてはメインスイッチM1がオン状態となることで電流を2次側コイルT2に電流を流すことができなくなるからである。
【0042】
「状態6:図4(b)」
サブスイッチS1をオフ状態に切り替えた状態である。この際、トランスTに蓄えられた磁気エネルギがサブダイオードDs1を介して放出されるため、コンデンサCsの放電が継続される。
【0043】
「状態7:図4(c)」
メインインダクタLmを流れる電流が完全にメインスイッチM1を流通する状態である。
【0044】
「状態8:図4(d)」
コンデンサCsの放電が完了されたにもかかわらず、未だトランスTに磁気エネルギが蓄えられているために、メインインダクタLmを流れる電流の一部がトランスTに流入する状態である。なお、トランスTに蓄えられた磁気エネルギがゼロとなることで、メインインダクタLmの電流は全てメインスイッチM1を流れるようになり、状態1に移行する。
【0045】
なお、状態5〜状態7におけるコンデンサCsの放電エネルギは、理論的には無損失で出力端子側に出力され、出力エネルギとして利用されることとなる。
【0046】
図5に、上記コンバータの操作態様に関するタイムチャートを示す。詳しくは、図5(a)に、メインスイッチM1の状態の推移を示し、図5(b)に、サブスイッチS1の状態の推移を示し、図5(c)に、メインインダクタLmを流れる電流の推移を示し、図5(d)に、メインスイッチM1を流れる電流の推移を示し、図5(e)に、メインスイッチM1の流通経路の両端(コレクタエミッタ間)の電圧の推移を示す。また、5(f)に、コンデンサCsの電圧の推移を示し、図5(g)に、サブスイッチS1の両端の電圧の推移を示し、図5(h)に、サブスイッチS1を流れる電流の推移を示し、図5(i)に、メインダイオードDm2の電流の推移を示し、図5(j)に、トランスTの1次側コイルT1の電流の推移を示し、図5(k)に、トランスTの2次側コイルT2の電流の推移を示す。
【0047】
図示されるサブスイッチS1のオン時間Tonは、メインインダクタLmの電流量を出力電圧(コンデンサ18の両端電圧)によって除算した値に比例して長くする。これは、メインスイッチM1がオン状態に切り替えられる際にメインダイオードDm2を流れる電流量を極力低減するための設定である。すなわち、メインインダクタLmを流れる電流のうちメインダイオードDm2を通ることなくトランスTを介して出力される量は、サブスイッチS1のオン時間Tonと出力電圧との積が長くなるほど多くなる。このため、メインインダクタLmを流れる電流量を出力電圧で除算した値が大きくなるほどサブスイッチS1のオン時間Tonを長くすることで、メインスイッチM1のオン状態への切り替えに際してメインダイオードDm2に流れる電流を好適に低減する。ちなみに、図5では、メインスイッチM1がオン状態に切り替えられた後にサブスイッチS1がオフ状態に切り替えられる例が示されているが、この順序は、逆となってもよい。
【0048】
次に、図6を用いて、本実施形態にかかるコンバータCVの操作態様に関し、特にメインインダクタLmを流れる電流が有限時間ゼロとなる場合について説明する。
【0049】
「状態3:図6(a)」
ここでは、メインインダクタLmを流れる電流がゼロとなった状態を示している。
【0050】
「状態4:図6(b)」
サブスイッチS1をオン状態に切り替えた状態である。これにより、コンデンサCsの電荷がトランスTの1次側コイルT1およびサブスイッチS1を介して放電されるが、この際、トランスTの2次側コイルT2には電流が流れない。これは、1次側コイルT1の巻数よりも2次側コイルT2の巻数が小さいために、トランスTの2次側コイルT2に誘起される電圧がコンバータCVの出力電圧と比較して小さくなるためである。このため、トランスTの1次側コイルT1はリアクトルとして機能し、コンデンサCsの放電エネルギを磁気エネルギとして蓄える。
【0051】
「状態5:図6(c)」
メインスイッチM1をオン状態に切り替えた状態である。この場合、メインスイッチM1を流れる電流の漸増速度は、メインインダクタLmのインダクタンスによって制限されるため、オン状態への切り替えをゼロ電流スイッチング(ZCS)として、電力損失を低減できる。
【0052】
「状態6:図6(d)」
サブスイッチS1をオフ状態に切り替えた状態である。これにより、トランスTに磁気エネルギとして蓄えられていたエネルギは、1次側コイルT1およびサブダイオードDs1を介して出力端子へと出力される。これにより、コンデンサCsの充電エネルギは、理論的には無損失で出力エネルギとして利用されることとなる。なお、コンデンサCsの充電電圧がゼロとなることで状態1に戻る。
【0053】
図7に、上記コンバータCVの操作態様にかかるタイムチャートを示す。なお、図7(a)〜図7(k)のそれぞれは、先の図5(a)〜図5(k)のそれぞれに対応している。
【0054】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0055】
(1)メインスイッチM1に並列接続されたコンデンサCsと、コンデンサCsに並列接続されたトランスTの1次側コイルT1およびサブスイッチS1と、メインダイオードDm2に並列接続されたトランスTの2次側コイルT2と、サブインダクタLsとを備えた。これにより、メインスイッチM1をオフ操作する場合には流通経路の両端の電圧の変化をコンデンサCsの電圧の変化によって制限することができるため、損失を低減することができる。また、メインスイッチM1をオン操作するに際しては、これに流入する電流をサブインダクタLsによって制限することができるため、この際の電力損失をも低減することができる。
【0056】
(2)サブダイオードDs1を備えた。これにより、サブスイッチS1がオン状態とされる場合であっても、コンバータCVの高電位側の出力端子からサブスイッチS1に電流が流れることを回避することができる。
【0057】
(3)サブダイオードDs2を備えた。これにより、トランスTの2次側コイルT2を介してメインインダクタLmにコンバータCVの高電位側の出力端子の電圧が印加されることを回避することができる。
【0058】
(4)サブダイオードDs3を備えた。これにより、コンデンサCsの電圧がメインスイッチM1へと流出することを回避することができる。
【0059】
(5)トランスTの2次側コイルT2とサブインダクタLsとで、巻線を共有化した。これにより、磁気部品を小型化することが容易となる。
【0060】
(6)メインスイッチM1がオフ状態である期間においてサブスイッチS1をオン状態に切り替えた。これにより、メインインダクタLmを流れる電流をメインダイオードDm2側からサブインダクタLs側に転流させることができ、ひいてはメインスイッチM1のオン状態への切り替えに際してこれに流入する電流を制限することができる。
【0061】
(7)サブスイッチS1をオン状態に維持する期間を、メインインダクタLmを流れる電流量を出力電圧によって除算した値が大きいほど長くした。これにより、メインスイッチM1をオン状態に切り替えるに際してメインダイオードDm2に流れている電流量を小さくする制御を容易に実現することができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0062】
上記メインインダクタLmを流れる電流が大きく変動する場合、先の図1に示した構成によってメインスイッチM1をオフ状態に切り替える際の電力損失を適切に低減することは困難となる。すなわち、コンデンサCsの容量を小さくすると、メインインダクタLmの電流が大きいときに、コンデンサCsの充電電圧の変化速度が大きくなり、ひいてはメインスイッチM1をオフ状態に切り替える際にその一対の端子間の電圧の上昇速度が大きくなる。一方、コンデンサCsの容量を大きくすると、メインインダクタLmの電流が小さいときに、コンデンサCsの充電電圧がコンバータCVの出力電圧に達することができず、電流を出力できなくなる。このように、メインインダクタLmを流れる電流が大きく変化する場合には、とり得る電流の全領域において、コンデンサCsの静電容量として適切な値を設定することは非常に困難または不可能となる。
【0063】
そこで本実施形態では、図8に示すように、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を可変とする。図8は、本実施形態にかかるコンバータCVの回路構成を示す。なお、図8において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0064】
図示されるように、メインスイッチM1には、サブダイオードDs3を介して、サブスイッチScおよびコンデンサCs2の直列接続体と、コンデンサCs1とが並列接続されている。これにより、サブスイッチScがオン状態となる場合と比較してオフ状態となる場合には、メインスイッチM1に並列接続されたコンデンサの容量を減少させることができる。
【0065】
図9に、上記容量の可変制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0066】
この一連の処理では、まずステップS10において、メインインダクタLmを流れる電流量が閾値電流Ith以上であるか否かを判断する。この処理は、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を増加させるか否かを判断するためのものである。ここで、閾値電流Ithは、メインスイッチM1のオフ時間よりも短い時間内に、メインインダクタLmの電流によってコンデンサCs1、Cs2の双方をコンバータCVの出力電圧まで充電することのできる条件によって定めればよい。
【0067】
上記ステップS10において肯定判断される場合、ステップS12においてサブスイッチScをオン操作することで、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を増加させる。一方、ステップS10において否定判断される場合、ステップS14においてサブスイッチScをオフ操作することで、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を減少させる。
【0068】
なお、上記ステップS12、S14の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0069】
以上詳述した本実施形態によれば、上記第1の実施形態の上記(1)〜(7)の各効果に加えて、さらに以下の効果が得られるようになる。
【0070】
(8)メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサの容量を可変とした。これにより、メインインダクタLmを流れる電流が大きく変動する場合であっても、メインスイッチM1のオフ状態への切り替えに際してその一対の端子(コレクタおよびエミッタ)間の電圧の上昇速度を適切に制限することができる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0071】
図10は、本実施形態にかかるコンバータCVの回路構成を示す。なお、図10において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0072】
本実施形態では、降圧チョッパ回路に上記第1の実施形態の補助回路を追加した。すなわち、降圧チョッパ回路では、高電圧バッテリ14およびコンデンサ18に、メインスイッチM2とメインダイオードDm1との直列接続体が並列接続されており、これらメインスイッチM2とメインダイオードDm1との接続点には、メインインダクタLmを介してコンデンサ16が接続されている。ちなみに、メインスイッチM2には、メインダイオードDm2が逆並列接続されている。
【0073】
一方、補助回路においては、サブダイオードDs2,Ds3を、メインスイッチM2およびメインダイオードDm1の接続点側にカソードがくるように接続する。また、サブダイオードDs1を、サブスイッチS1側にカソードがくるように接続する。
【0074】
こうした構成において、メインスイッチM2のオン・オフ操作によって、高電圧バッテリ14の電圧を降圧してコンデンサ16側に出力することができる。この際、メインスイッチM2をオフ状態に切り替える際のメインスイッチM2の両端の電圧の上昇速度は、コンデンサCsの充電電圧の上昇速度によって制限される。また、メインスイッチM2がオフ状態とされてからサブスイッチS1をオン状態に切り替えることで、メインダイオードDm1を流れる電流をサブインダクタLsやトランスT側に転流させることができる。このため、メインスイッチM2をオン状態に切り替える際のメインスイッチM2の電流の漸増速度を、サブインダクタLsのインダクタンスによって制限することができる。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0075】
図11は、本実施形態にかかるコンバータCVの回路構成を示す。なお、図11において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0076】
図示されるように、本実施形態では、双方向の昇圧チョッパ回路に補助回路を追加した。ここで、双方向の昇圧チョッパ回路は、先の図1に示した昇圧チョッパ回路において、メインスイッチM2を追加することで構成される。また、補助回路は、メインスイッチM1、M2のそれぞれに対応して備えられる。
【0077】
ここで、高電圧バッテリ14からコンデンサ18に電流を出力する昇圧動作に際しては、メインスイッチM1に並列接続されるコンデンサCsを備える側の追加回路を動作させればよい。また、コンデンサ18から高電圧バッテリ14に電流を出力する降圧動作に際しては、メインスイッチM2に並列接続されるコンデンサCsを備える側の追加回路を動作させればよい。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0078】
図12は、本実施形態にかかるコンバータCVの回路構成を示す。なお、図12において、先の図1に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0079】
図示されるように、本実施形態にかかるコンバータCVは、反転昇降圧チョッパ回路に、補助回路を追加したものである。
【0080】
すなわち、反転昇降圧チョッパ回路は、高電圧バッテリ14の正極およびコンデンサ18間に接続されるメインスイッチM1およびメインダイオードDm2の直列接続体と、メインスイッチM1およびメインダイオードDm2の接続点と高電圧バッテリ14の負極との間を接続するメインインダクタLmとを備える。なお、メインスイッチM1には、メインダイオードDm1が逆並列接続されている。
【0081】
また、補助回路においては、サブダイオードDs2,Ds3を、メインスイッチM1およびメインダイオードDm2の接続点側がカソードとなるように接続する。また、サブダイオードDs1を、コンデンサ18側からサブスイッチS1側に進む方向を順方向とするように接続する。
【0082】
こうした構成において、メインスイッチM1をオフ状態に切り替える際のその両端の電圧の上昇速度は、コンデンサCsの充電電圧の上昇速度によって制限される。また、メインスイッチM1がオフ状態とされる期間において、サブスイッチS1をオン状態に切り替えることで、メインダイオードDm2を流れていた電流をサブインダクタLs側に転流させることができる。このため、メインスイッチM1をオン状態に切り替える際にメインスイッチM1を流れる電流の増加速度は、サブインダクタLsのインダクタンスによって制限される。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0083】
図13に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図13において、先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0084】
図示されるように、本実施形態では、トランスTの2次側コイルT2およびサブインダクタLsに並列に、ダイオードDsaおよびツェナーダイオードDzが設けられた還流経路を接続する。ここで、ダイオードDsaは、低電位側から高電位側へと進む方向を順方向とするものである。一方、ツェナーダイオードDzは、ダイオードDsaとは逆方向を順方向とするものである。
【0085】
この還流経路は、サブダイオードDs2のリカバリ電流がサブインダクタLsに蓄えられることによって生じるサージ電圧を抑制するためのものである。すなわち、先の図4(b)に示した状態6においてサブインダクタLsを流れていた電流がゼロとなる状態7の初期において、サブダイオードDs2にリカバリ電流が流れる。リカバリ電流は漸増した後漸減するものであり、漸増期間においては、サブインダクタLsにコンデンサ18の正極側を正とする電圧が印加されるため、サブダイオードDs2のカソード側の電位が高くなることはない。これに対し、漸減期間においては、サブインダクタLsにコンデンサ18の正極側を負とする電圧が印加されるため、サブダイオードDs2のカソード側の電位が大きく上昇しうる。
【0086】
この点、上記リカバリ電流の漸減期間においてサブインダクタLsに誘起される電圧によってダイオードDsaに順方向電流が流れることで、サージ電圧を抑制することができる。
【0087】
ここで、ダイオードDsaは、先の図3(d)に示した状態4、先の図4(a)に示した状態5、および先の図4(b)に示した状態6において、サブダイオードDs2、2次側コイルT2、およびサブインダクタLsを流れる電流や、サブダイオードDs1を流れる電流が還流経路を流れることを回避する手段である。これにより、高電圧バッテリ14から出力された電気エネルギや、コンデンサCsに蓄えられた電気エネルギを、還流経路において熱エネルギとして消費することなく、コンデンサ18に出力することができる。
【0088】
一方、ツェナーダイオードDzは、先の図6(d)に示した状態6において、1次側コイルT1に印加される電圧に応じて2次側コイルT2に誘起される電圧によって、還流経路に電流が流れる事態を回避する手段である。これにより、コンデンサCsに蓄えられた電気エネルギを、還流経路において熱エネルギとして消費することなく、コンデンサ18に出力することができる。
【0089】
上記ツェナーダイオードDzのブレークダウン電圧は、1次側コイルT1のターン数N1と2次側コイルT2のターン数N2と、コンデンサ18の電圧(出力電圧Vout)とを用いて、「N2・Vout/N1」よりも大きくなるように設定されている。これは、先の図6(d)に示した状態6において1次側コイルT1に印加される電圧が出力電圧Vout以下であることから、2次側コイルT2に誘起される電圧が、「N2・Vout/N1」以下となることによる。
【0090】
なお、ツェナーダイオードDzを備えることで、サブダイオードDs2のリカバリ電流の漸減期間におけるサージ電圧は、ツェナーダイオードDzのブレークダウン電圧にクランプされる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0091】
「コンデンサの容量の可変手法について」
コンデンサの並列数を可変とするものに限らず、直列数を可変とするものであってもよい。
【0092】
「第1サブ規制要素について」
1次側コイルT1のうちメインインダクタLm側ではない方の端子と、2次側コイルT2のうちメインインダクタLm側ではない方の端子とを接続する経路内に設けられる第1サブ規制要素としては、サブダイオードDs1に限らない。例えば、サイリスタであってもよい。ただし、この場合、状態6〜8においてオン操作する。
【0093】
「第2サブ規制要素について」
2次側コイルT2を介した電流の流通方向として低電位側から高電位側への方向を許容して逆方向を禁止する第2サブ規制要素の配置箇所としては、上記各実施形態におけるサブダイオードDs2の配置箇所に限らない。例えば、先の図1に示した構成において、サブインダクタLsおよびサブダイオードDs1の接続点とサブインダクタLsとの間や、サブインダクタLsと2次側コイルT2との間に接続してもよい。また例えば、先の図10に示した構成において、サブインダクタLsおよびサブダイオードDs1の接続点とサブインダクタLsとの間や、サブインダクタLsと2次側コイルT2との間に接続してもよい。
【0094】
「第3サブ規制要素について」
メインインダクタLmおよびコンデンサCsを接続する経路に流れる電流の流通方向をメインスイッチM1をオフ状態に切り替える際における流通方向に制限するための第3サブ規制要素としては、ダイオードDs3に限らない。例えばMOS電界効果トランジスタ等のスイッチング素子であってもよい。この場合、逆方向に電流が流れうる期間においてスイッチング素子をオフ状態とすればよい。
【0095】
また、サブダイオードDs3の配置箇所としては、上記各実施形態において例示したものに限らない。例えば先の図1におけるサブダイオードDs3については、コンデンサCsの両端に1次側コイルT1およびサブスイッチS1の直列接続体の両端が接続され、コンデンサ16がサブダイオードDs3を介すことなくメインスイッチM1に接続されて且つ、コンデンサ18がサブダイオードDs3を介すことなくメインスイッチM1およびメインダイオードDm2の直列接続体に接続されるとの条件下、メインスイッチM1およびコンデンサCsによって構成されるループ経路上に任意の配置してよい。図15(a)にサブダイオードDs3の配置の一例を示す。なお、この場合、コンデンサCsの放電終了までサブスイッチS1のオン状態を継続することが望ましい。また、先の図10の配置に代えて、図15(b)のように配置してもよい。さらに、先の図12の配置に代えて、図15(c)の配置としてもよい。
【0096】
「サブスイッチのオン期間について」
サブスイッチのオン期間としては、メインインダクタLmに流れる電流量を出力電圧によって除算した値に比例して設定されるものに限らない。例えば固定値としてもよい。
【0097】
「メインスイッチのオン状態への切り替えタイミングについて」
メインスイッチM1のオン状態への切り替えタイミングとしては、メインダイオードDm2に流れる電流がゼロとなったタイミング以降に限らない。メインダイオードDm2に流れる電流の一部でもトランスT側に転流させた状態なら、転流させることがない場合と比較して、メインスイッチM1のオン状態への切り替えに際しての損失を低減することはできる。
【0098】
「トランスとサブインダクタとについて」
先の図2に示したコア30に対する2次巻線の巻数と、コア32に対する巻数とを相違させてもよい。また、巻線を共有しなくてもよい。
【0099】
また、2次側コイルT2とサブインダクタLsとの接続についても上記各実施形態において例示したものに限らない。例えば先の図1に示した構成において、サブインダクタLsをサブダイオードDs2と2次側コイルT2との間に接続してもよい。
【0100】
トランスを理想変成器とすることなく、例えば、等価回路として、2次側コイルにインダクタが直列接続されるものとすることができるなら、実在する部品としてのサブインダクタを備えなくてもよい。
【0101】
図14に、こうしたトランスを例示する。図14(a)は、トロイダルコア(コア30)が1次側コイルT1および2次側コイルT2を鎖交する構成であって且つ、コア30にギャップGを備える例である。ここで、ギャップGは、たとえばコア30よりも透磁率が低い部材をコア30の間に挟み込むことで形成すればよい。この場合、1次側コイルT1や2次側コイルT2を一対の部材に分割されたコア30に巻いた後に、これらを結合させることが容易となるため、コア30への1次側コイルT1および2次側コイルT2の取りつけ処理が容易となる。なお、この構成の場合、ギャップGによって1次側コイルT1と2次側コイルT2との磁気結合が弱められるため、漏れ磁束が多くなり、2次側コイルT2の漏れ磁束がサブインダクタとして機能する。
【0102】
図14(b)は、EEコア(コア30)の3つの足31のうちの2つのそれぞれが1次側コイルT1および2次側コイルT2のそれぞれを鎖交する例である。この場合、コア30は、1次側コイルT1,T2の双方を鎖交するループ経路以外に、1次側コイルT1のみを鎖交するループ経路と、2次側コイルT2のみを鎖交するループ経路とを備える。なお、コア30は、ギャップを備えるようにしてもよい。なお、この構成の場合、2次側コイルT2のみを鎖交するループ経路がサブインダクタとして機能する。
【0103】
図14(c)も、1次側コイルT1および2次側コイルT2の双方を鎖交するループ経路以外に、1次側コイルT1のみを鎖交するループ経路と、2次側コイルT2のみを鎖交するループ経路とを備える例である。ただし、ここでは、1次側コイルT1のみを鎖交するループ経路と、2次側コイルT2のみを鎖交するループ経路との一部が、1次側コイルT1および2次側コイルT2を挟む位置に配置されている。これにより、コア30のうち1次側コイルT1および2次側コイルT2を挟む部分が磁気シールドとして機能するため、他の部品にトランスTの電磁ノイズが影響を与える事態を好適に抑制することができる。
【0104】
「還流経路について」
2次側コイルT2に並列接続されるものに限らない。たとえば先の図1に示す構成において、サブダイオードDs2が2次側コイルT2とサブインダクタLsとの間に配置される場合、還流経路としては、2次側コイルT2に直列且つサブインダクタLsに並列に接続することが望ましい。
【0105】
また、還流経路を、先の図10〜図12に示す2次側コイルT2およびサブインダクタLsに並列に接続してもよい。
【0106】
「ツェナーダイオードDzについて」
先の図6(d)に示した状態6において、コンデンサCsに蓄えられたエネルギが還流経路を流れることで損失となることを無視するなら、これを備えなくてもよい。
【0107】
「電力変換用インダクタについて」
電力変換用インダクタとしては、電力変換装置に搭載されるものに限らない。例えば電力変換装置がインバータを備えて且つ、インバータのスイッチング素子のスイッチング状態の切り替えに伴う損失を低減すべく補助回路を備える場合、電力変換用インダクタを、インバータに接続されるモータのインダクタとしてもよい。
【0108】
「第1流通規制要素について」
電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する第1流通規制要素としては、IGBTに限らない。例えばMOS電界効果トランジスタであってもよい。
【0109】
「第2流通規制要素について」
整流機能および開閉機能の少なくとも一方を有する第2流通規制要素としては、IGBTに逆並列接続されたダイオードを備えるものに限らない。例えば、パワーMOS型電界効果トランジスタ等、整流機能を寄生ダイオードによって実現するものであってもよい。
【0110】
「サブスイッチについて」
サブスイッチとしては、MOS電界効果トランジスタに限らず、例えばIGBTであってもよい。
【0111】
「電力変換装置について」
電力変換装置としては、DCDCコンバータに限らない。例えば直流交流変換回路(インバータ)であってもよい。
【0112】
また、電力変換装置としては、車載主機と高電圧バッテリ14との間の電力の授受を仲介するものに限らない。例えば、車載パワーステアリングに搭載される電動機とバッテリとの間の電力の授受を仲介するものであってもよい。もっとも、車載機器に限らず、例えば建物に備えられる無停電電源装置(UPS)等であってもよい。
【符号の説明】
【0113】
10…電動機、12…インバータ、14…高電圧バッテリ、M1…メインスイッチ、Dm2…メインダイオード、Cs…コンデンサ、T…トランス、Ls…サブインダクタ、S1…サブスイッチ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する第1流通規制要素と、電流の流通方向を規制する機能である整流機能および前記開閉機能の少なくとも一方を有する第2流通規制要素との直列接続体を備えて且つ、前記第1流通規制要素および前記第2流通規制要素の接続点に電力変換用インダクタが接続される電力変換装置において、
前記第1流通規制要素に並列接続されたコンデンサと、
前記コンデンサに並列接続されたトランスの1次側コイルおよびサブスイッチと、
前記第2流通規制要素に並列接続された前記トランスの2次側コイルと、
前記1次側コイルの一対の端子のうち前記電力変換用インダクタ側ではない方の端子と前記2次側コイルの一対の端子のうち前記電力変換用インダクタ側ではない方の端子とを接続する経路内に設けられて且つ低電位側から高電位側への電流の流れを許容して逆方向の電流の流れを禁止する第1サブ規制要素と、
前記2次側コイルを備えて前記第2流通規制要素を迂回する経路における電流の流通方向として低電位側から高電位側への方向を許容して逆方向を禁止する第2サブ規制要素と、
前記電力変換用インダクタおよび前記コンデンサを接続する経路に流れる電流の流通方向を、前記第1流通規制要素を開状態に切り替える際における電流の流通方向に制限するための第3サブ規制要素とを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記コンデンサは、容量を可変とするものであることを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記トランスの2次側コイルを備えて前記第2流通規制要素を迂回する経路は、サブインダクタを備えることを特徴とする請求項1または2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記サブインダクタと前記2次側コイルとは、巻線の少なくとも1部を共有化していることを特徴とする請求項3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記トランスの1次側コイルおよび2次側コイルの双方を鎖交するループ経路を構成する磁心を備え、
該磁心は、前記1次側コイルのみを鎖交するループ経路、および前記2次側コイルのみを鎖交するループ経路をさらに構成するものであることを特徴とする請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記サブスイッチを、前記第1流通規制要素が開状態である期間においてオン状態に切り替えるサブスイッチ操作手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記サブスイッチをオン状態に維持する期間を、前記電力変換用インダクタを流れる電流量を前記直列接続体の両端の電圧で除算した値が大きいほど長くすることを特徴とする請求項6記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第2サブ規制要素は、ダイオードであり、
前記第2流通規制要素を迂回する経路に並列且つ前記第2サブ規制要素に直列に、低電位側から高電位側への電流の流れを許容して且つ逆方向の電流の流れを阻止する整流手段が設けられた還流経路をさらに備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記還流経路には、高電位側から低電位側へと進む方向を順方向とするツェナーダイオードが備えられることを特徴とする請求項8記載の電力変換装置。
【請求項1】
電流の流通経路を開閉する機能である開閉機能を有する第1流通規制要素と、電流の流通方向を規制する機能である整流機能および前記開閉機能の少なくとも一方を有する第2流通規制要素との直列接続体を備えて且つ、前記第1流通規制要素および前記第2流通規制要素の接続点に電力変換用インダクタが接続される電力変換装置において、
前記第1流通規制要素に並列接続されたコンデンサと、
前記コンデンサに並列接続されたトランスの1次側コイルおよびサブスイッチと、
前記第2流通規制要素に並列接続された前記トランスの2次側コイルと、
前記1次側コイルの一対の端子のうち前記電力変換用インダクタ側ではない方の端子と前記2次側コイルの一対の端子のうち前記電力変換用インダクタ側ではない方の端子とを接続する経路内に設けられて且つ低電位側から高電位側への電流の流れを許容して逆方向の電流の流れを禁止する第1サブ規制要素と、
前記2次側コイルを備えて前記第2流通規制要素を迂回する経路における電流の流通方向として低電位側から高電位側への方向を許容して逆方向を禁止する第2サブ規制要素と、
前記電力変換用インダクタおよび前記コンデンサを接続する経路に流れる電流の流通方向を、前記第1流通規制要素を開状態に切り替える際における電流の流通方向に制限するための第3サブ規制要素とを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記コンデンサは、容量を可変とするものであることを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記トランスの2次側コイルを備えて前記第2流通規制要素を迂回する経路は、サブインダクタを備えることを特徴とする請求項1または2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記サブインダクタと前記2次側コイルとは、巻線の少なくとも1部を共有化していることを特徴とする請求項3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記トランスの1次側コイルおよび2次側コイルの双方を鎖交するループ経路を構成する磁心を備え、
該磁心は、前記1次側コイルのみを鎖交するループ経路、および前記2次側コイルのみを鎖交するループ経路をさらに構成するものであることを特徴とする請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記サブスイッチを、前記第1流通規制要素が開状態である期間においてオン状態に切り替えるサブスイッチ操作手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記サブスイッチをオン状態に維持する期間を、前記電力変換用インダクタを流れる電流量を前記直列接続体の両端の電圧で除算した値が大きいほど長くすることを特徴とする請求項6記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第2サブ規制要素は、ダイオードであり、
前記第2流通規制要素を迂回する経路に並列且つ前記第2サブ規制要素に直列に、低電位側から高電位側への電流の流れを許容して且つ逆方向の電流の流れを阻止する整流手段が設けられた還流経路をさらに備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記還流経路には、高電位側から低電位側へと進む方向を順方向とするツェナーダイオードが備えられることを特徴とする請求項8記載の電力変換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−110208(P2012−110208A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153479(P2011−153479)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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