説明

電力用半導体スイッチモジュール

【課題】単一の回路構成により電流形インバータやマトリクスコンバータ等の各種電力変換装置への適用を可能にして汎用性、経済性を高めた電力用半導体スイッチモジュールを提供する。
【解決手段】逆耐圧性電力用半導体スイッチを複数備えた電力用半導体スイッチモジュールにおいて、自己消弧形半導体スイッチ素子11(12)とダイオード21(22)とを直列接続して逆耐圧性電力用半導体スイッチ61〜66を構成し、これらを各2個直列接続してなる直列回路の両端、及び、この直列回路内の逆耐圧性電力用半導体スイッチ同士の直列接続点を、外部接続用の端子A〜F,G〜Iにそれぞれ接続してモジュール100Aを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆耐圧を有する電力用半導体スイッチを複数備えた電力用半導体スイッチモジュールに関し、詳しくは、電流形インバータやマトリクスコンバータ等の電力変換装置を構成する際に使用される電力用半導体スイッチモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は、後述の非特許文献1に記載されている電力用半導体スイッチモジュールの構成図である。
図7に示す電力用半導体スイッチモジュール100において、11,12はIGBT等の自己消弧形半導体スイッチ素子、21,22はダイオードであり、スイッチ素子11とダイオード21、スイッチ素子12とダイオード22をそれぞれ直列に接続することで逆耐圧を有する電力用半導体スイッチ(以下、逆耐圧性電力用半導体スイッチという)が構成されている。また、上記の2個の逆耐圧性電力用半導体スイッチを逆並列に接続して双方向スイッチ31,32,33が構成され、これらの双方向スイッチ31,32,33が端子a,b,cと端子d,e,fとの間に接続されている。なお、gは自己消弧形半導体スイッチ素子の駆動信号入力端子である。
【0003】
上記の電力用半導体スイッチモジュール100は、図8に示すマトリクスコンバータ200等の電力変換装置に適用されるものであり、例えば図7のモジュール100を3個用い、図7における端子a,b,cを図8の三相交流入力端子R,S,Tにそれぞれ接続し、端子d,e,fを一括して三相交流出力端子U,V,Wにそれぞれ接続することにより、マトリクスコンバータ
200を構成することができる。
【0004】
次に、図9は三相電流形インバータの基本的な回路構成図であり、前記同様にIGBTとダイオードとを直列接続することによって逆耐圧性電力用半導体スイッチ41〜46を構成し、これらを各相の上下アームに配置して三相電流形インバータが構成されている。なお、50は電流源である。
【0005】
【非特許文献1】NEDOの成果報告書(平成12年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構共同研究「稼働時電気損失削減最適制御技術の開発 IT型省エネナビシステム及び小型・高効率省エネ装置の開発」)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図7に示した電力用半導体スイッチモジュール100は、図9の電流形インバータと同数(6個)の逆耐圧性電力用半導体スイッチを備えているにもかかわらず、図8のマトリクスコンバータ200等への適用を想定して、モジュール100内に双方向スイッチ31,32,33が作り込まれているため、そのままでは図9のような電流形インバータに適用することができない。
従って、電流形インバータを構成する場合には、マトリクスコンバータ用とは別の電力用半導体スイッチモジュールを用意する必要があり、これがコストの上昇や製造工程の煩雑化を招いていた。
【0007】
そこで、本発明の解決課題は、単一の回路構成により各種電力変換装置への適用を可能にして汎用性、経済性を高めた電力用半導体スイッチモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、逆耐圧性電力用半導体スイッチを複数備えた電力用半導体スイッチモジュールにおいて、
前記逆耐圧性電力用半導体スイッチを2個直列接続してなる直列回路の両端、及び、この直列回路内の前記逆耐圧性電力用半導体スイッチ同士の直列接続点を、外部接続用の端子にそれぞれ接続したものである。
【0009】
請求項2に記載した発明は、逆耐圧性電力用半導体スイッチを複数備えた電力用半導体スイッチモジュールにおいて、
前記逆耐圧性電力用半導体スイッチの両端を外部接続用の端子にそれぞれ接続したものである。
【0010】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2において、
逆耐圧電力用半導体スイッチを、少なくとも1個以上のIGBT等の自己消弧形半導体スイッチ素子と少なくとも1個以上のダイオードとを直列接続して構成したものである。
【0011】
請求項4に記載した発明は、請求項1または2において、
逆耐圧電力用半導体スイッチを、少なくとも1個以上の逆耐圧を有する自己消弧形半導体スイッチ素子により構成したものである。
【0012】
なお、請求項5に記載するように、請求項1〜4の何れか1項においては、逆耐圧性電力用半導体スイッチ(詳しくは自己消弧形半導体スイッチ素子)の駆動信号入力端子を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、逆耐圧性電力用半導体スイッチを最小単位とし、2個の逆耐圧性電力用半導体スイッチの直列回路の両端及び直列接続点、あるいは、1個の逆耐圧性電力用半導体スイッチの両端のみを外部接続用の端子にそれぞれ接続して電力用半導体スイッチモジュールを構成することにより、モジュール内部の接続状態に変更を加えることなく電流形インバータやマトリクスコンバータ等の電力変換装置を構成することができる。
このため、電力用半導体スイッチモジュールの汎用性や回路構成上の自由度が向上し、電力変換装置の低コスト化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は本発明の第1実施形態を示す回路構成図であり、図7と同一の構成要素には同一番号を付してある。
この実施形態の電力用半導体スイッチモジュール100Aにおいて、61〜66は図9における41〜46と同様に構成された逆耐圧性電力用半導体スイッチであり、IGBT等の自己消弧形半導体スイッチ素子とダイオードとを直列に接続して構成されている。なお、前記同様に11,12は自己消弧形半導体スイッチ素子、21,22はダイオードを示す。
【0015】
逆耐圧性電力用半導体スイッチ61を構成するダイオード21のアノードは端子Aに接続され、逆耐圧性電力用半導体スイッチ62を構成する自己消弧形半導体スイッチ素子12のエミッタは端子Bに接続されていると共に、半導体スイッチ61,62同士の直列接続点は端子Gに接続されている。
以下、同様にして、半導体スイッチ63,64の直列回路の両端が端子C,Dにそれぞれ接続され、半導体スイッチ63,64同士の直列接続点は端子Hに接続されている。また、半導体スイッチ65,66の直列回路の両端が端子E,Fにそれぞれ接続され、半導体スイッチ65,66同士の直列接続点は端子Iに接続されている。
なお、端子A〜F,G〜Iは電源や負荷等が接続される外部接続用の端子であり、また、gは6個の自己消弧形半導体スイッチ素子の駆動信号入力端子である。
【0016】
上記の電力用半導体スイッチモジュール100Aを用いて図9に示したような電流形インバータを構成する場合には、図2に示すように、前記端子A,C,Eを電流源50の正極側、端子B,D,Fを電流源50の負極側、端子G,H,Iをそれぞれ三相交流出力端子U,V,Wに接続すればよい。
【0017】
一方、図8に示したマトリクスコンバータ200は、上記電力用半導体スイッチモジュール100Aを3個用いて構成することができる。
すなわち、図3に示す如く、一相分の交流出力端子について1個の電力用半導体スイッチモジュール100Aを使用し、モジュール100Aの端子A,Bを交流入力端子Rに、端子C,Dを交流入力端子Sに、端子E,Fを交流入力端子Tにそれぞれ接続し、また、端子G,H,Iを一括して交流出力端子、例えばUに接続する。他のモジュール100A,100Aについても同様である。
【0018】
以上のように本実施形態によれば、単一の回路構成からなる電力用半導体スイッチモジュール100Aを1個以上使用して、電流形インバータやマトリクスコンバータ等の複数種類の電力変換装置を構成することができる。
【0019】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図4は、第2実施形態の回路構成図であり、図1と異なるのは、逆耐圧性電力用半導体スイッチ61〜66の各一端を端子A〜Fにそれぞれ接続し、各他端を端子J〜Oにそれぞれ接続した点である。他の構成は図1と同様である。
つまり、この実施形態の電力用半導体スイッチモジュール100Bでは、その内部に逆耐圧性電力用半導体スイッチの直列回路が形成されていない構成となっている。
【0020】
上記電力用半導体スイッチモジュール100Bを用いて電流形インバータを構成すると図5のようになる。図2との相違点は、端子J,Kを一括して交流出力端子Uに、端子L,Mを一括して同Vに、端子N,Oを一括して同Wに接続した点のみである。
また、同じモジュール100Bを3個用いてマトリクスコンバータを構成すると図6のようになる。図3との相違点は、端子J〜Oを一括して交流出力端子Uに接続し、他の2個のモジュール100B,100Bについても、端子J〜Oを一括して交流出力端子V,Wにそれぞれ接続した点のみである。
【0021】
本実施形態においても、単一の回路構成からなる電力用半導体スイッチモジュール100Bを1個以上使用して、電流形インバータやマトリクスコンバータ等の複数種類の電力変換装置を構成することができる。
【0022】
以上のように各実施形態によれば、最小単位である逆耐圧性電力用半導体スイッチ61〜66を2個ずつ直列接続して端子を引き出すか(第1実施形態)、あるいは、単に6個の逆耐圧性電力用半導体スイッチ61〜66の各両端から端子を引き出す(第2実施形態)ことにより電力用半導体スイッチモジュール100Aまたは100Bを構成することができ、これらのモジュール100Aまたは100Bの内部接続状態に変更を加えることなく電流形インバータやマトリクスコンバータ等を構成することが可能である。
【0023】
なお、各実施形態では、逆耐圧性電力用半導体スイッチ61〜66を自己消弧形半導体スイッチ素子とダイオードとの直列回路により構成したが、自己消弧形半導体スイッチ素子自体に逆耐圧があれば、ダイオードを省略して自己消弧形半導体スイッチ素子のみによって逆耐圧性電力用半導体スイッチを構成することもできる。
また、逆耐圧性電力用半導体スイッチ61〜66を構成する自己消弧形半導体スイッチ素子はIGBTに限定されず、バイポーラトランジスタやFET等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態を示す回路構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態を電流形インバータに適用した場合の回路構成図である。
【図3】本発明の第1実施形態をマトリクスコンバータに適用した場合の回路構成図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示す回路構成図である。
【図5】本発明の第2実施形態を電流形インバータに適用した場合の回路構成図である。
【図6】本発明の第2実施例をマトリクスコンバータに適用した場合の回路構成図である。
【図7】従来技術を示す回路構成図である。
【図8】マトリクスコンバータの回路構成図である。
【図9】電流形インバータの基本的な回路構成図である。
【符号の説明】
【0025】
11,12:自己消弧形半導体スイッチ素子
21,22:ダイオード
50:電流源
61〜66:逆耐圧性電力用半導体スイッチ
100A,100B:電力用半導体スイッチモジュール
A〜O:端子
R,S,T:三相交流入力端子
U,V,W:三相交流出力端子
g:駆動信号入力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆耐圧性電力用半導体スイッチを複数備えた電力用半導体スイッチモジュールにおいて、
前記逆耐圧性電力用半導体スイッチを2個直列接続してなる直列回路の両端、及び、この直列回路内の前記逆耐圧性電力用半導体スイッチ同士の直列接続点を、外部接続用の端子にそれぞれ接続したことを特徴とする電力用半導体スイッチモジュール。
【請求項2】
逆耐圧性電力用半導体スイッチを複数備えた電力用半導体スイッチモジュールにおいて、
前記逆耐圧性電力用半導体スイッチの両端を外部接続用の端子にそれぞれ接続したことを特徴とする電力用半導体スイッチモジュール。
【請求項3】
請求項1または2に記載した電力用半導体スイッチモジュールにおいて、
逆耐圧電力用半導体スイッチを、少なくとも1個以上の自己消弧形半導体スイッチ素子と少なくとも1個以上のダイオードとを直列接続して構成したことを特徴とする電力用半導体スイッチモジュール。
【請求項4】
請求項1または2に記載した電力用半導体スイッチモジュールにおいて、
逆耐圧電力用半導体スイッチを、少なくとも1個以上の逆耐圧を有する自己消弧形半導体スイッチ素子により構成したことを特徴とする電力用半導体スイッチモジュール。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載した電力用半導体スイッチモジュールにおいて、
逆耐圧性電力用半導体スイッチの駆動信号入力端子を備えたことを特徴とする電力用半導体スイッチモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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